以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造における縮尺や数等が異なっている。
図1は、本発明の光源装置が適用された照明装置を含むプロジェクターの光学系を示す模式図である。図1に示すように、プロジェクター100は、光源装置10Aと、色分離導光光学系20と、光変調装置としての液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bと、クロスダイクロイックプリズム50及び投写光学系60と、を備えている。光源装置10Aは、励起光源10、第1集光レンズ55、回転蛍光板30、コリメート光学系85、第2集光レンズ90、ロッドインテグレーター80、及び平行化レンズ70を備えている。すなわち、励起光源10から射出される励起光ELの光路上には、第1集光レンズ55、回転蛍光板30、コリメート光学系85、第2集光レンズ90、ロッドインテグレーター80、平行化レンズ70がこの順に配置されている。
励起光源10は、複数のレーザー光源12が行方向及び列方向に沿って2次元配列されたレーザー光源アレイから構成されるものである。なお、レーザー光源アレイは、本発明における固体発光素子を構成するものである。
レーザー光源12は、後述する回転蛍光板30が備える蛍光物質を励起させる励起光ELとして、青色(発光強度のピーク:450nm付近)のレーザー光を射出するレーザーダイオードから構成されるものである。このようにレーザーダイオードからなるレーザー光源12を用いることで励起光源10の消費電力を抑えることができる。なお、レーザー光源12は、後述する蛍光物質を励起させることができる波長の光であれば、450nm以外のピーク波長を有する色光を射出する励起光源であっても構わない。
色分離導光光学系20は、ダイクロイックミラー21、ダイクロイックミラー22、反射ミラー23、反射ミラー24、反射ミラー25及びリレーレンズ26を備えている。色分離導光光学系20は、光源装置10Aからの光を赤色光、緑色光及び青色光に分離し、赤色光、緑色光及び青色光のそれぞれの色光を照明対象となる液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bに導光する機能を有する。
ダイクロイックミラー21、ダイクロイックミラー22は、基板上に、所定の波長領域の光を反射して、他の波長領域の光を透過させる波長選択透過膜が形成されたミラーである。具体的には、ダイクロイックミラー21は、青色光成分を透過させ、赤色光成分及び緑色光成分を反射する。ダイクロイックミラー22は、緑色光成分を反射して、赤色光成分を透過させる。
反射ミラー23、反射ミラー24、反射ミラー25は、入射した光を反射するミラーである。具体的には、反射ミラー23は、ダイクロイックミラー21を透過した青色光成分を反射する。反射ミラー24、反射ミラー25は、ダイクロイックミラー22を透過した赤色光成分を反射する。
ダイクロイックミラー21を透過した青色光は、反射ミラー23で反射され、青色光用の液晶光変調装置40Bの画像形成領域に入射する。ダイクロイックミラー21で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー22でさらに反射され、緑色光用の液晶光変調装置40Gの画像形成領域に入射する。ダイクロイックミラー22を透過した赤色光は、入射側の反射ミラー24、リレーレンズ26、射出側の反射ミラー25を経て赤色光用の液晶光変調装置40Rの画像形成領域に入射する。
液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bは、通常知られたものを用いることができ、例えば、液晶素子41と液晶素子41を挟持する偏光素子42、偏光素子43とを有した、透過型の液晶ライトバルブ等の光変調装置により構成される。偏光素子42、偏光素子43は、例えば透過軸が互いに直交する構成(クロスニコル配置)となっている。
液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bは、入射された色光を画像情報に応じて変調してカラー画像を形成するものであり、光源装置10Aの照明対象となる。これら液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G及び液晶光変調装置40Bによって、入射された各色光の光変調が行われる。
例えば、液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bは、一対の透明基板に液晶を密閉封入した透過型の液晶光変調装置であり、ポリシリコンTFTをスイッチング素子として、与えられた画像情報に応じて、偏光素子42から射出された1種類の直線偏光の偏光方向を変調する。
クロスダイクロイックプリズム50は、偏光素子43から射出された色光毎に変調された光学像を合成してカラー画像を形成する光学素子である。このクロスダイクロイックプリズム50は、4つの直角プリズムを貼り合せた平面視略正方形状をなしている。直角プリズムを貼り合せた略X字状の界面には、誘電体多層膜が形成されている。略X字状の一方の界面に形成された誘電体多層膜は、赤色光を反射するものであり、他方の界面に形成された誘電体多層膜は、青色光を反射するものである。これらの誘電体多層膜によって赤色光及び青色光は曲折され、緑色光の進行方向が揃えられることにより、3つの色光が合成される。
クロスダイクロイックプリズム50から射出されたカラー画像は、投写光学系60によって拡大投写され、スクリーンSCR上で画像を形成する。
第1集光レンズ55は、例えば凸レンズからなる。第1集光レンズ55は、励起光源10から射出されるレーザー光の光線軸上に配置され、励起光源10から射出された励起光EL(複数のレーザー光)を、集光スポット径が1mm以下となるように集光する。
回転蛍光板30はいわゆる透過型の回転蛍光板である。回転蛍光板30は、図2に示すように、モーター33により回転駆動される円板状の基板31の回転方向に沿って、蛍光体層32が形成されてなる。蛍光体層32が形成されている領域は、励起光ELが入射する領域S(以下、励起光入射領域Sと称す場合もある)を含む。後述するように、蛍光体層32は蛍光体粒子とバインダーとを含み、本発明における波長変換素子に相当する。基板31がモーター33によって回転軸の周りに回転駆動されることにより、励起光入射領域Sは、回転軸の周りを基板31に対して相対的に移動する。
基板31は、励起光ELを透過する材料よりなる。基板31の材料としては、例えば、石英ガラス、水晶、サファイア、光学ガラス、透明樹脂等を用いることができる。図示していないが、基板31と蛍光体層32との間には、誘電体多層膜が設けられている。誘電体多層膜はダイクロイックミラーとして機能するものであり、励起光ELである450nm付近の光は透過し、蛍光体層32から射出される蛍光の波長範囲(490nm〜750nm)を含む490nm以上の光は反射するようになっている。なお、基板31の形状は、円板状に限るものではない。
蛍光体層32は基板31とともに、例えば使用時において7500rpmで回転する。詳しい説明は省略するが、回転蛍光板30の直径は50mmであり、基板31に入射する励起光ELの光軸が基板31の回転中心から約22.5mm離れた場所に位置するように構成されている。つまり、基板31は、励起光ELの集光スポットが約18m/秒で蛍光体層32上を移動するような回転速度で回転する。
このような基板31では、蛍光体層32に励起光ELが入射されると、蛍光体層32の励起光入射領域Sに対応する部分が発熱する。そして、この発熱した部分(発熱部分)は、基板31が回転することにより、回転軸の周りを円を描いて移動し、再び、励起光入射領域Sに戻るというサイクルを繰り返す。すなわち、蛍光体層32に対する励起光ELの照射位置を逐次変化させることができる。これにより、発熱部分が移動の過程で冷却されるようにしている。
励起光源10から射出されたレーザー光(青色光)は、励起光ELとして前記誘電体多層膜を介して蛍光体層32に入射し、蛍光体層32は励起光ELが入射する側とは反対側に向けて蛍光(赤色光及び緑色光)を射出する。
蛍光体層32は、基板上に形成されたバインダーと複数の蛍光体粒子とを含む。蛍光体粒子は、励起光EL(青色光)を吸収することで概ね490〜750nm(550〜570nmにピークを持つ)の蛍光に変換する。なお、この蛍光には、緑色光(波長530nm付近)及び赤色光(波長630nm付近)が含まれる。
例えば、蛍光体粒子には波長が約450nmの青色光によって励起されて蛍光を発する物質が含まれており、励起光ELの一部を、赤色の波長帯域から緑色の波長帯域まで含む光(黄色光)に変換して射出する。なお、励起光ELの一部は、上記黄色光に変換されない。すなわち、光源装置10Aからは赤色、緑色、青色を含む白色光が射出されるようになっている。
本実施形態においては、蛍光体粒子として通常知られたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体を用いることができる。例えば、平均粒径が10μmの(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceで示される組成のYAG系蛍光体を用いることができる。なお、蛍光体粒子32aの形成材料は、1種であっても良く、2種以上の形成材料を用いて形成されている粒子を混合したものを蛍光体粒子として用いることとしても良い。
また、上記バインダーとしては、光透過性を有する樹脂材料を用いることができ、中でも高い耐熱性を有するシリコーン樹脂を好適に用いることができる。
コリメート光学系85は、回転蛍光板30と第2集光レンズ90との間の光(励起光EL及び蛍光)の光路上に配置されている。コリメート光学系85は、回転蛍光板30からの光の広がり抑える第1レンズ81と、第1レンズ81から入射される光を平行化する第2レンズ82と、各レンズ同士を固定するベース部83を含んで構成されている。第1レンズ81は、例えば凸のメニスカスレンズからなり、第2レンズ82は、例えば凸レンズからなる。コリメート光学系85は、回転蛍光板30からの光を略平行化した状態で第2集光レンズ90に入射させる。蛍光体層32から射出される光(蛍光光)はランバート発光することからコリメート光学系85は回転蛍光板30に対して近接した状態に配置されている。具体的には、例えばコリメート光学系85と回転蛍光板30との隙間は1mm程度に設定されている。
第2集光レンズ90は、例えば凸レンズからなる。第2集光レンズ90は、コリメート光学系85(第2レンズ82)を透過する光の光線軸上に配置され、コリメート光学系85を透過した光を集光する。
第2集光レンズ90を透過した光は、ロッドインテグレーター80の一端側に入射する。ロッドインテグレーター80は、光路方向に延在する角柱状の光学部材であり、内部を透過する光に多重反射を生じさせることにより、第2集光レンズ90を透過した光を混合し、輝度分布を均一化するものである。ロッドインテグレーター80の光路方向に直交する断面形状は、液晶光変調装置40R、液晶光変調装置40G、液晶光変調装置40Bの画像形成領域の外形形状と略相似形となっている。
ロッドインテグレーター80の他端側から射出された光は、平行化レンズ70により平行化され、光源装置10Aから射出される。
図3は、蛍光体層32の厚さ(単位;μm)と蛍光体層32の規格化した発光効率との関係を示すグラフである。ここで、発光効率とは、励起光源10から蛍光体層32に照射された励起光ELの光量に対する、蛍光体層32から射出された蛍光光の光量の割合によって規定されるものである。すなわち、発光効率が100%の場合とは、励起光源10から照射された励起光ELの光量と、蛍光体層32で変換されて射出される蛍光光の光量とが同じ場合を意味する。また、蛍光体層32における複数の蛍光体粒子32aの体積濃度が蛍光体層32における蛍光体の体積濃度に相当する。図3においては、蛍光体の体積濃度を15vol%、17vol%、20vol%、33vol%、40vol%、50vol%に設定した際の上述の関係を示している。なお、図3に示した規格化した発光効率は、体積濃度が40vol%の場合の発光効率の最大値が1になるように規格化してある。体積濃度が40vol%の場合、実用上十分高い発光効率が得られる。
図3のグラフからは、蛍光体の体積濃度が15vol%以上であれば、0.85以上の概ね良好な規格化した発光効率を得ることができることが確認できる。さらに、蛍光体の体積濃度が17vol%以上であれば、蛍光体層32の広い膜厚範囲にわたって、0.85以上の概ね良好な規格化した発光効率を得ることができることが確認できる。
また、蛍光体層32の膜厚が150μm以下になると、0.85以上の概ね良好な規格化した発光効率を得ることができることが確認できる。また、蛍光体層32の膜厚が100μm以下になると、0.90より大きいより良好な規格化した発光効率を得ることができることが確認できる。
一方、蛍光体層32の膜厚が150μmよりも厚くなると、規格化した発光効率が低下することが確認できる。この原因は次のように考えられる。
本発明者らは、蛍光体層32が厚くなると蛍光体層32の発光効率が低下することを見出した。図4は、蛍光体層32の膜厚と蛍光体層32の規格化した発光効率との関係を示すグラフである。なお、図4に示した規格化した発光効率は、発光効率の最大値が1になるように規格化してある。図4のグラフから、蛍光体層32の厚みが増加すると蛍光体層32の発光効率が低下することが確認できる。それは、蛍光体層32が厚くなると蛍光体層32の排熱性が悪くなり、蛍光体層32の内部に熱が蓄積され、蛍光体層32の温度が高くなるためである。その結果、既に説明した温度消光と呼ばれる現象が生じ、発光効率が低下する。図4のグラフの横軸は、蛍光体層32の膜厚或いは温度に対応しているとも言える。
また、図3のグラフからは、蛍光体の体積濃度が増加するに従って、発光効率の最大値が得られる蛍光体層32の膜厚が小さくなることが確認できる。また、蛍光体の体積濃度が増加するに従って、規格化した発光効率の最大値が増大している。すなわち、図3のグラフにおいて、蛍光体の体積濃度が高くなるに従って、発光効率のピークがグラフの左上に向かってシフトしていくことが確認できる。このシフトには2つの要因がある。1つ目の要因は、体積濃度が増加すると蛍光体粒子の数が増加することである。蛍光体粒子の数が増加すれば励起光のうち蛍光光に変換される成分が増加するため、膜厚が薄くても膜厚が厚いときと同様の発光効率を得られる。2つめの要因は、膜厚が薄くなると上述した温度消光の影響が小さくなることである。
また、図3のグラフからは、蛍光体の体積濃度が50vol%において、膜厚が50μm以下まで薄くなると発光効率が低下する傾向がある。これは、蛍光体層32の膜厚が薄く体積濃度が高い場合には、蛍光体層32の膜質が低下し、発光効率が低下するためであると考えられる。これは、後述する蛍光体の体積濃度の上限が規定される理由と同様である。蛍光体の体積濃度が50vol%においては、膜厚が50μm以下まで薄くなると発光効率が低下する傾向があるけれども、蛍光体層32の比較的広い膜厚範囲にわたって、0.85以上の概ね良好な規格化した発光効率を得ることができる。
図5は蛍光体の体積濃度の上限を説明するための表である。図5は、蛍光体の体積濃度が50vol%よりも高く、具体的に60vol%、70vol%となると膜質が低下することを示している。ここで、膜質が低下するとは、製造した膜の表面がポーラスになることを意味する。これは、体積濃度が高くなり過ぎると、蛍光体層32を良好に成膜することが難しくなるからである。このような膜質が低下した蛍光体層32は、蛍光光を良好に生じさせることができないので、0.85の規格化した発光効率を得ることができず、十分な発光効率が得られるとは言い難い。従って、体積濃度は50vol%以下が好ましい。
また、図3からわかるように、体積濃度が50vol%の場合の発光効率の蛍光体層32の膜厚への依存性は、体積濃度が50vol%未満の場合の発光効率の蛍光体層32の膜厚への依存性よりも大きい。これは、体積濃度が50vol%の場合、均一な発光強度を得るためには、蛍光体層32の膜厚の均一性を高めなければならないことを意味する。体積濃度が50vol%未満であれば、蛍光体層32の膜厚にばらつきがあっても、蛍光体層32の回転に伴う発光強度の変動を小さくすることができる。従って、体積濃度は50vol%未満であることがさらに好ましい。
図6は蛍光体層32の膜厚の下限を説明するための図である。図6に模式的に示した蛍光体層32においては、蛍光体粒子32aの直径と蛍光体層32を構成するバインダー32bの厚みとが一致している。このように、蛍光体層32の膜厚の下限は蛍光体粒子32aの直径とされる。蛍光体層32の膜厚の下限は複数の蛍光体粒子32aの平均粒径であるとも言える。蛍光体層32の膜厚を複数の蛍光体粒子32aの平均粒径とする場合、蛍光体層32がポーラスにならないように形成することが望ましい。蛍光体層32がポーラスであると、励起光のうち蛍光体に入射せずに蛍光体層32を通過する成分が多くなり、発光効率が低下するためである。したがって、蛍光体層32の膜厚の下限を複数の蛍光体粒子32aの平均粒径としてもよいが、蛍光体層32の膜厚を複数の蛍光体粒子32aの平均粒径よりも大きい膜厚に設定するのがさらに望ましい。この構成によれば、蛍光体層32がポーラスになりにくく、発光効率の低下を低減することができる。このような知見から本実施形態においては、蛍光体層32の膜厚を、蛍光体粒子32aの平均粒径よりも大きく、且つ150μm以下、より好ましくは100μm以下に設定している。このような厚みの蛍光体層32を有した回転蛍光板30によれば、励起光ELが照射されることで高い効率で蛍光光を発生させることができる。
以上の知見に基づいて本実施形態に係る回転蛍光板30は、体積濃度を15vol%以上、膜厚を150μm以下に設定した蛍光体層32を有した構成を採用している。このような条件を満たす蛍光体層32を有する回転蛍光板30を用いた光源装置10Aは、温度消光の影響を押さえつつ、蛍光光を高い効率で発生させることができる。
以上に述べたように本実施形態に係るプロジェクター100によれば、上述のように高い発光効率で蛍光光を生じさせる光源装置10Aを備えるので、プロジェクター100自体も発光効率が高く信頼性の高いものとなる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることは無く、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。