JP2013159757A - 難燃樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

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Abstract

【課題】極力少ないハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物の配合量にて十分な難燃性及び優れた耐衝撃性を有し、例えば電子・電気機器及びOA機器に好適なスチレン系難燃樹脂組成物を簡便に提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層状無機化合物を含む粘土鉱物(D)0.1〜30質量部、及び有機修飾剤(E)を含有し、該有機修飾剤(E)の配合量が、該粘土鉱物(D)100質量部に対して5〜50質量部であり、該粘土鉱物(D)が、該スチレン系樹脂(A)樹脂100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する、難燃樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、難燃性に優れたハロゲン系の難燃樹脂組成物、該難燃樹脂組成物の混練物、及びこれらを射出成形してなる成形品に関する。
従来、スチレン系樹脂は耐衝撃性、成形加工性、剛性等の良好なバランスを有する安価な汎用樹脂として、電気・電子機器、OA機器や食品包装材料に広く使用されている。これらの製品のうち、電気・電子機器、OA機器等に関しては難燃化が要求されることが多く、スチレン系樹脂と難燃剤を混合したスチレン系難燃樹脂が多く使用されている。スチレン系樹脂の難燃化の手段としては、安価なハロゲン系難燃剤が多く使用されており、環境問題等からハロゲン系の中でも非デカブロ系(すなわちデカブロモジフェニルエーテル類を含まない系)の難燃剤を使用したスチレン系樹脂が多く使用されている。
一方で、縮合リン酸エステル系の難燃剤を使用したポリフェニレンエーテル、ポリカーボネートを利用した難燃樹脂も開発されている。ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネートは燃焼時比較的多くのチャー(炭化物)を形成し、樹脂表面を被覆するため樹脂内部で発生する分解ガスの燃焼場への供給を遅延させることにより、難燃性を付与できる。しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂はスチレン系樹脂と比較して耐光変色性や流動性に劣り、難燃樹脂組成物に用いた場合、成形性に劣るという欠点をもつ。また、ポリカーボネートも流動性に劣るとともに、加水分解性があるため、リサイクル性に劣るという欠点を有する。
一方、層状珪酸塩を用いた難燃樹脂組成物が知られている。特許文献1〜3では、チャー形成能の高いポリフェニレンエーテルを含有する芳香族ビニル系樹脂を配合した難燃性に優れた樹脂組成物が提案されているが、ポリフェニレンエーテルを有する芳香族ビニル系樹脂は流動性が低く、成形加工が困難であり、また耐光変色性の劣化が著しい。したがって、従来の技術において、スチレン系樹脂のようなチャー形成能の低い易燃焼性樹脂に対して、ポリフェニレンエーテル又はポリカーボネートを用いずに十分な難燃性を付与するためには、従来のハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物が必要となる。しかし、近年における更なる環境意識の高揚、希少金属資源の枯渇等の問題から、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物の使用量が極力少ないスチレン系難燃樹脂の開発が依然として望まれている。
特許文献4では層状無機化合物を有機修飾する製造方法が提案されており、特許文献5及び7では有機修飾された層状無機化合物を樹脂中に分散させる製造方法が提案されており、特許文献6及び7では分散媒を用いて層状無機化合物を樹脂中に分散させる手法が提案されている。
特開平10−60160号公報 特開2003−26915号公報 特開2006−89683号公報 米国特許第005616286号明細書 特開2000−281841号公報 特許第4060131号 特開2005−320488号公報
しかしながら、上記いずれの製造方法も、層状無機化合物を分散させた樹脂組成物を得るためにはマスターバッチ製造等による多段階の工程を必要とするものである。このような多段階の工程は、熱履歴の増大に伴う材料の劣化、主に分散媒(例えば水)回収に伴う乾燥工程での生産エネルギーの浪費という問題を有する。
本発明はかかる現状に対し、実質的にポリフェニレンエーテル又はポリカーボネートを含有しない場合にも、極力少ないハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物の配合量にて十分な難燃性及び優れた耐衝撃性を有し、例えば電子・電気機器及びOA機器に好適なスチレン系難燃樹脂組成物を簡便に提供することを課題とする。
かかる課題に対し、本発明者らは鋭意研究の結果、スチレン系樹脂と、未精製粘土鉱物及び有機修飾剤とが配合された樹脂組成物が上記課題を達成することを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は以下の通りである。
[1] スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層状無機化合物を含む粘土鉱物(D)0.1〜30質量部、及び有機修飾剤(E)を含有し、該有機修飾剤(E)の配合量が、該粘土鉱物(D)100質量部に対して5〜50質量部であり、該粘土鉱物(D)が、該スチレン系樹脂(A)樹脂100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する、難燃樹脂組成物。
[2] 該粘土鉱物(D)が、精製工程を経ていない天然粘土鉱物である、上記[1]に記載の難燃樹脂組成物。
[3] 該粘土鉱物(D)が、界面活性剤を含む水分散媒中で測定したときに、体積平均粒子径4〜7μm、及び95%体積累積粒子径20μm以下を有する、上記[1]又は[2]に記載の難燃樹脂組成物。
[4] 該スチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の難燃樹脂組成物。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載の難燃樹脂組成物を混練してなる、混練物。
[6] 混練物をX線回折で測定したときの上記粘土鉱物(D)に含まれる層状無機化合物の層間距離が3nm以上である、上記[5]に記載の混練物。
[7] 上記[5]又は[6]に記載の混練物を射出成形してなる、成形品。
本発明の難燃樹脂組成物は、実質的にポリフェニレンエーテル又はポリカーボネートを含有しなくとも、少ないアンチモン化合物配合量にて十分な難燃性を有する。また該難燃樹脂組成物は、従来技術のような精製工程を得た層状珪酸塩を用いた場合よりも優れた耐衝撃性を有するとともに、このような工程を必要としない配合成分が使用されていることによって、簡便に提供できる。従って、本発明の難燃樹脂組成物を成形してなる成形品は、例えば電子・電気機器及びOA機器に好適である。
以下、本発明の典型的な態様について詳細に説明する。
<難燃樹脂組成物>
本発明の一態様は、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層状無機化合物を含む粘土鉱物(D)0.1〜30質量部、及び有機修飾剤(E)を含有し、該有機修飾剤(E)の配合量が、該粘土鉱物(D)100質量部に対して5〜50質量部であり、該粘土鉱物(D)が、該スチレン系樹脂(A)樹脂100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する、難燃樹脂組成物を提供する。
従来、粘土鉱物に含まれる層状無機化合物は、樹脂中への分散性改良の目的で一般的に有機化処理(すなわち有機修飾)が施されている。有機化処理の製造方法の一例としては、まず層状結晶構造を持つ粘土を水中で十分に剥離及び分散させる工程、得られた粘土水分散液に有機カチオンを添加して混合し、粘土の結晶表面に有機カチオンを吸着させることにより結晶表面を疎水化させて有機粘土を生成する工程、有機粘土の残存カチオン及び水分を除去するための洗浄及び脱水の工程、残存水分を蒸発させる乾燥工程、並びに塊状の有機粘土を粉体状とする粉砕工程からなる方法が挙げられる。このような方法は、特に脱水及び乾燥の工程に多くの手間及びエネルギーを必要とする。
また、従来、粘土鉱物は精製してから用いるのが一般的である。精製方法としては、粘土鉱物と水との懸濁液を作製し、デカンテーション及び遠心分離により沈積物を取り除き、必要に応じて有機化剤を添加し、フィルタープレスを通して乾燥させ、粉砕するプロセス等が挙げられる。
これに対し、本発明が提供する難燃樹脂組成物によれば、上記の有機化処理及び精製のような、粘土鉱物の前処理を必要としない。典型的には、天然粘土鉱物をそのまま用いて難燃樹脂組成物を調製できる。そして該難燃樹脂組成物を例えば一段押出加工によって混練及び押出しすることにより、直接混練物を得ることができる。具体的には、粘土鉱物(D)及び有機修飾剤(E)が共存する樹脂組成物を混練することにより、層状無機化合物が良好に分散した混練物を得ることができる。層状無機化合物のこのような良好な分散は、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物の配合量を極力少なくしながら十分な難燃性を得るという効果に寄与する。従って本発明によれば、このような効果を与える成形品を簡便な方法で製造することが可能になる。
スチレン系樹脂(A)
本発明におけるスチレン系樹脂(A)とは特に限定されるものではなく、一般スチレン系樹脂の他、ゴム変性スチレン系樹脂も使用できる。ゴム変性スチレン系樹脂は、最終的に成形された製品に耐衝撃性を付与する観点から好ましい。スチレン系樹脂(A)は、典型的には高衝撃ポリスチレン(HIPS)であることができる。一般スチレン系樹脂はスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。本明細書において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、ゴム状重合体が共存しているスチレン系樹脂を意味し、より典型的にはスチレン系樹脂マトリクス中にゴム状重合体粒子が分散したものを意味する。ゴム変性スチレン系樹脂は、例えば、ゴム状重合体の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
スチレン系単量体としては、スチレンの他、α−メチルスチレン、α−メチルp−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、インデン等が例示できるが、入手性の点でスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は1種若しくは2種以上使用することができる。
また、必要に応じ、スチレン系単量体及び該スチレン系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体を組み合わせて使用して、スチレン系樹脂(A)を製造してもよい。スチレン系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸のアルキルエステル、更にメタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これら、スチレン系単量体と共重合可能な不飽和単量体の量は、耐衝撃性、成形加工性、剛性等が良好に維持される点で、スチレン系単量体及び該スチレン系単量体と重合可能な不飽和単量体の合計の50質量%以下であることが好ましい。
ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等を使用することができるが、汎用性の観点からポリブタジエン及びスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンは、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン、シス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン−ブタジエン共重合体は、ランダム構造、ブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種又は2種以上で使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体の含有量は2〜15質量%が好ましく、更に好ましくは4〜13質量%である。ゴム状重合体の上記含有量が2質量%より少ないと耐衝撃性が低下する傾向にあり、また15質量%を超えると剛性及び光沢が低下する傾向にある。
ゴム状重合体は、典型的にはスチレン系樹脂マトリクス中に粒子状に分散している。この場合のゴム状重合体粒子の平均粒子径は0.15〜4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.5〜3.0μmの範囲にあることが更に好ましい。該平均粒子径が0.15μmより小さいと耐衝撃性が低下する傾向にあり、4.0μmを超えると光沢が低下する傾向にある。
ゴム状重合体は、溶融ブレンドによってスチレン系樹脂(A)中で分散させてもよい。この場合、スチレン系樹脂(A)中のゴム状重合体粒子の含有量は0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。ゴム状重合体粒子の含有量が0.1質量%より少ないと耐衝撃性が低下する傾向にあり、また20質量%を超えると光沢が低下する傾向にある。
スチレン系樹脂(A)の分子量は、還元粘度で0.4〜1.0dl/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲である。還元粘度が0.4dl/gより小さいと耐衝撃性が低下する傾向にあり、1.0dl/gを超えると流動性が低下する傾向にある。なお還元粘度の測定条件としては、例えば、ポリスチレンの場合、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dlの条件、また不飽和ニトリル−スチレン系共重合体の場合、メチルエチルケトン溶液中で30℃、濃度0.5g/dlの条件を採用できる。
スチレン系樹脂(A)の製造方法は特に制限されるものではない。例えばスチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂である場合、ゴム状重合体の存在下で、スチレン系単量体を重合する塊状重合若しくは溶媒を更に用いて行う溶液重合、又は塊状重合の反応途中で懸濁重合に移行する塊状−懸濁重合、又はゴム状重合体ラテックスの存在下でスチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。中でも塊状重合及び塊状−懸濁重合が好ましい。塊状重合においては、共役ジエン系ゴム、スチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結して構成される重合装置に連続的に供給することにより、スチレン系樹脂(A)を製造することができる。
ハロゲン系難燃剤(B)
本発明において用いるハロゲン系難燃剤(B)としては、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリブロモフェノール付加物等のテトラブロモビスフェノールA誘導体、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテル、1,2−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、ペンタブロモベンジルアクリレート(モノマー)等の臭素系芳香族化合物、塩素化パラフィン、塩素化ナフタレン、パークロロシクロペンタデカン、塩素化芳香族化合物、塩素化脂環状化合物、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。この中で、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリブロモフェノール付加物、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン等が好ましく用いられる。これらの化合物は、目的に応じて単独又は2種以上で用いることができる。
アンチモン化合物(C)
本発明において用いるアンチモン化合物(C)としては、例えば三酸化アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン等の酸化物、及び、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン酸塩等が挙げられる。またアンチモン化合物としては、例えば、シラン系カップリング剤等で表面処理されたものも使用できる。好ましいアンチモン化合物は、難燃性効果の面から三酸化アンチモンである。これらのアンチモン化合物は、1種単独で、又は2種以上混合して使用できる。
粘土鉱物(D)
粘土鉱物(D)は、層状無機化合物を主成分とし、より典型的には実質的に層状無機化合物からなる。粘土鉱物(D)としては、天然粘土、合成粘土、及びこれらの混合物、から選択される、1種又は2種以上の層状珪酸塩が挙げられる。天然粘土としては、例えばサポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロライト等のスメクタイト系粘土、及び、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられる。中でも、汎用性及び膨潤性の観点から、ベントナイト、モンモリロナイト、及び膨潤性マイカが好ましい。
粘土鉱物(D)は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する。このことは、粘土鉱物(D)が精製工程を経ていない天然粘土鉱物であることを示唆する指標となる。該長径10μm以上の鉱物の含有量は原料粘土鉱物により異なるが、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して、例えば0.02〜6質量部、又は0.1〜2質量部の量であることができる。
長径10μm以上の鉱物としては、例えば、石英、長石等の水に膨潤しない性質を有する鉱物が挙げられる。その他、粘土鉱物の産地によっては、方解石、クリストバライト、アナルシム等の鉱物も挙げられる。長径10μm以上の鉱物が上記の量で含有されることは、粘土鉱物(D)が精製工程を経ていないこと、すなわち未精製であることを意味する。このような粘土鉱物(D)は、精製のための多くの手間及びエネルギーを消費していない点で有利である。好ましい態様において、粘土鉱物(D)は、精製工程を経ていない天然粘土鉱物である。天然粘土鉱物を未精製のまま用いることは、難燃樹脂組成物の簡便な調製という観点から有利である。本発明によれば、このような天然粘土鉱物を用いる場合にも、層状無機化合物を樹脂中に良好に分散させることができる。粘土鉱物(D)としては、天然の粘土原石を粉砕及び分級したものが好ましく用いられる。しかし分級後にも、長径10μm以上の鉱物が上記の量残存していることになる。
粘土鉱物(D)の粒子径としては、界面活性剤を含む水分散媒中に原料粘土鉱物を分散させた状態で測定したときに、体積平均粒子径が4〜7μmであり、95%体積累積粒子径が20μm以下であることが好ましい。より典型的には、分級後の粘土鉱物(D)の粒子径が上記範囲であることができる。体積平均粒子径が4μm以上である場合、分級による収量という観点から有利であり、7μm以下である場合、粒子径100μm以上の巨大粒子が概略除去されているという観点から有利である。また95%体積累積粒子径が20μm以下である場合、同様に、粒子径100μm以上の巨大粒子が概略除去されているという観点から有利である。なお、95%体積累積粒子径が例えば10μm以上であれば、同様に分級による収量増という利点が得られる。上記の体積平均粒子径及び95%体積累積粒子径は、例えば粘土鉱物を分級することにより実現できる。粘土鉱物(D)の分級方法としては、例えばサイクロン原理による風力分級機を用いる方法が挙げられる。上記の粒子径は、それぞれ、粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社 マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300(LOW−WET))を用い、界面活性剤(当業者に一般的に使用される種類及び量のもの)入り水分散媒中で測定される値である。
また、難燃性及び剛性の発現の観点から、日本ベントナイト工業会標準試験方法に定められているベントナイト(粉状)の膨潤試験方法(JBAS―104―77)における膨潤力(容積法)(以下、単に膨張力ということもある)のなるべく大きな層状珪酸塩が好ましく使用される。
粘土鉱物(D)に含まれる層状無機化合物の膨潤力は、好ましくは10〜50ml/2g、より好ましくは15〜40ml/2gであることができる。膨潤力が10ml/2gより小さいと、良好な層の劈開が得られ難い傾向があり、膨潤力が50ml/2gより大きいと、最終組成における衝撃強さが得られ難い傾向がある。
粘土鉱物(D)に含まれる層状無機化合物の層間距離は、層間に存在する陽イオンの種類及び量に依存するが、一般的には1nm程度である。本発明によれば、後述の有機修飾剤(E)の作用により、難燃樹脂組成物中の層状無機化合物が上記のような小さい層間距離を有する場合であっても加工時に該層間距離を広げることができるため、層状無機化合物が樹脂中に良好に分散している成形品を形成できる。層間距離は、Cu−Kα線を用いたX線回折測定により確認される。
有機修飾剤(E)
本発明において用いる有機修飾剤(E)とは、上述した層状無機化合物を有機修飾する能力を持つ化合物である。有機修飾剤(E)の作用により、層状無機化合物の層間に有機物を介在させて層間距離を広げることができる。これにより層状無機化合物をスチレン系樹脂(A)中に良好に分散させることができる。有機修飾剤(E)としては、層間距離を広げる効果が高いという観点から、アニオンと有機カチオンとの塩が好ましく、より好ましくは、第4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、及びそれらの混合物である。
第4級アンモニウム塩としては、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、ベンザルコニウム等のベンジルトリアルキルアンモニウム塩、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、トリメチルステアリルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、さらにジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム等のジメチルジアルキルアンモニウム塩、さらにトリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム等のトリアルキルメチルアンモニウム塩、ベンゼン環を2個有するベンゼトニウム塩等が挙げられる。好ましくは、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、及びジメチルジオクタデシルアンモニウムである。これらの第4級アンモニウム塩は、1種単独で、又は2種以上混合して使用できる。
ホスホニウム塩としては、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらのホスホニウム塩は、1種単独で、又は2種以上混合して使用できる。
各成分の配合量
ハロゲン系難燃剤(B)の配合量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、3〜30質量部であり、好ましくは5〜25質量部である。ハロゲン系難燃剤(B)の配合量が3質量部未満であると難燃性が悪化し、30質量部より多いと機械的物性が低下する。
アンチモン化合物(C)の配合量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜4.5質量部であり、好ましくは0.5〜2.5質量部である。アンチモン化合物(C)の配合量が0.1質量部未満であると難燃性が悪化し、4.5質量部より多いと粘土鉱物(D)を組合せてアンチモン化合物の配合量を低減する本発明の目的から外れた難燃樹脂組成物となる。
粘土鉱物(D)の配合量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜30質量部であり、好ましくは0.5〜10質量部である。粘土鉱物(D)の配合量が0.1質量部未満であるとアンチモン化合物の配合量を低減しながら十分な難燃性を得ることが困難であり、30質量部を超えると十分な耐衝撃性を得ることが困難である。
有機修飾剤(E)の配合量は、粘土鉱物(D)100質量部に対し、5〜50質量部であり、好ましくは10〜30質量部である。有機修飾剤(E)の配合量が5質量部未満であると粘土鉱物(D)を樹脂中に良好に分散させることが困難であり、50質量部を超えるとイオン交換反応に余剰である。
難燃樹脂組成物は、必要に応じ、シリコーンオイル、ミネラルオイル、可塑剤、充填剤、潤滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、衝撃補強剤等の添加剤を含有してもよい。
難燃樹脂組成物は、典型的には、ポリフェニレンエーテル及びポリカーボネートを実質的に含まない。これにより、難燃性及び剛性が良好でかつ優れた耐衝撃性を与える難燃樹脂組成物が得られる。より典型的には、難燃樹脂組成物の樹脂成分は実質的にスチレン系樹脂(A)のみからなることができる。
本発明の別の態様は、上述した本発明の一態様に係る難燃樹脂組成物を混練してなる、混練物を提供する。本発明に係る混練物は、本発明の一態様に係る難燃樹脂組成物の配合成分を一括ブレンドして押出すことにより得られる。押出加工は、例えば、2軸押出機で160℃〜300℃の範囲で溶融混練する方法により実施できる。
混練物をX線回折で測定したときの、粘土鉱物(D)に含まれる層状無機化合物の層間距離は、好ましくは3nm以上である。層間距離が3nm以上である場合、層状無機化合物が良好に分散した成形品を製造でき、結果として優れた難燃性を発現する。該層間距離は、一般的には大きい方が好ましいが、最終組成における耐衝撃性等の観点から、層間距離の上限は、所望に応じて当業者によって適宜選択できる。
混練物においては、原料層状無機化合物の膨潤力が、好ましくは10〜50ml/2g、より好ましくは15〜40ml/2gである。膨潤力が10ml/2g以上、更に15ml/2g以上である場合、層状無機化合物が良好に分散した成形品を製造でき、結果として優れた難燃性を発現する。該膨潤力は大きい程好ましいが、例えば50ml/2g以下、更に40ml/2g以下であることは、最終組成における耐衝撃性の観点から有利である。
本発明の別の態様は、上述した本発明の一態様に係る混練物を射出成形してなる、成形品を提供する。射出成形は、従来公知の射出成形方法により実施できる。好適な射出条件としては、成形機シリンダー設定温度として160〜250℃、金型設定温度として40〜60℃、ペレット乾燥条件として80℃×3時間以上を例示できる。
本発明の一態様に係る成形品は、例えば電子・電気機器又はOA機器の、筐体部分、高電圧となる内部部品等に好適に使用できる。
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明では、下記の測定方法及び評価方法を用いた。
(1)難燃性
米国アンダーライターズ・ラボラトリー・インコーポレーションより出版された「UL94安全規格:機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験」の7〜10項目に記載の94V−2、94V−1、及び94V−0(以下、それぞれ「V−2」、「V−1」、及び「V−0」と略す)の基準に従い、1/10インチ短冊試験片にて測定した。
(2)曲げ弾性率
ISO 178に準拠して測定した。
(3)シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)
ISO179の試験規格に基づき測定した。
(4)層間距離
X線回折測定:Cu−Kα線(50kV、200mA)、スキャンスピード2°/分、走査範囲2θ=1.5°〜80°により測定した。
(5)粘土鉱物の特性
長径10μm以上の鉱物の含有率、界面活性剤を含む水分散媒中での体積平均粒子径及び95%体積累積粒子径は、日機装株式会社 マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300(LOW−WET)を用い、界面活性剤入り水分散媒中にて測定した。
実施例及び比較例において原材料は以下のものを用いた。
スチレン系樹脂(A−1):高衝撃ポリスチレン(HIPS)であるゴム変性スチレン系樹脂を用いた。HIPSは、ゴム状重合体としてポリブタジエンを使用しており、また該HIPSの分析値は、ゴム状重合体含有量8.6質量%、ゴム状重合体粒子の平均粒子径1.9μm、還元粘度0.64dl/gであった。
スチレン系樹脂(A−2):高衝撃ポリスチレン(HIPS)であるゴム変性スチレン系樹脂を用いた。該HIPSは、ゴム状重合体としてポリブタジエンを使用しており、また該HIPSの分析値は、ゴム状重合体含有量12.0質量%、ゴム状重合体粒子の平均粒子径1.2μm、還元粘度0.79dl/gであった。
ハロゲン系難燃剤(B):第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−245(2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン)を使用した。
アンチモン化合物(C):(株)鈴裕化学製、(商品名)ファイヤーカットAT−3(三酸化アンチモン)を用いた。
粘土鉱物(D−1):(株)ホージュン製、(商品名)スーパークレイ(未精製、未変性ベントナイト、X線回折による層間距離:0.965〜1.009nm、長径10μm以上の鉱物の含有率:約20%以上、体積平均粒子径:16.1μm、及び95%体積累積粒子径:76.9μm)を用いた。
粘土鉱物(D−2):クニミネ工業(株)製、(商品名)クニゲルU(未精製、未変性ベントナイト)を用いた。
粘土鉱物(D−3):クニミネ工業(株)製、(商品名)クニゲルV1(未精製、未変性ベントナイト)を用いた。
層状無機化合物1:(株)ホージュン製、(商品名)ベンゲルA(精製、未変性ベントナイト)を用いた。
層状無機化合物2:(株)ホージュン製、(商品名)エスベンNZ(精製、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム変性ベントナイト、X線回折による層間距離:1.698〜35.88nm)を用いた。
有機修飾剤(E):ライオン・アクゾ(株)製、(商品名)アーカード 2HTフレーク(塩化ジアルキルジメチルアンモニウム)を用いた。
滑剤:ステアリン酸亜鉛を用いた。
衝撃補強剤:エラストマー(SBブロック)を用いた。
[実施例1〜10]
表1に示す組成比で各成分を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM−35B)を用い、180℃〜220の範囲で溶融押出を行い、混練物としてペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は15kg/hrであった。混練物中に分散された層状無機化合物の層間距離を測定した。また、このようにして得られたペレットを日本製鋼所社製の射出成形機を用い、成形温度180℃〜220℃の範囲で成形して試験片を作製し、物性及び難燃性の評価を実施した。結果を表1に示す。
いずれの実施例においても、後述の表2における比較例1よりも少ないアンチモン化合物配合量にて、V−0〜V−1の難燃性が達成でき、なおかつ高い剛性を示している。実施例2における粘土鉱物と有機修飾剤との合計使用量は、比較例5の層状無機化合物2の使用量と同じであり、実施例2では、V−0の難燃性を達成しつつ、シャルピー衝撃強さが比較例5よりも高いという結果を示した。
[比較例1〜11]
表2に示す組成比の各成分を一括混合し、実施例1と同様の方法で押出、成形、及び試験を実施した。結果を表2に示す。比較例1〜3は粘土鉱物(D)及び有機修飾剤(E)をいずれも用いていない。比較例1はアンチモン化合物の配合量が多い。一方比較例2、更に比較例3で、比較例1と比較してアンチモン化合物(C)を減らしていくと、いずれも難燃性がV−2となってしまう。比較例4〜5は、有機修飾された層状無機化合物2を使用しており、有機修飾剤(E)は使用していない。更に比較例4ではアンチモン化合物(C)を用いていないため難燃性が適合していない。比較例6〜7は、粘土鉱物(D)を用いているが有機修飾剤(E)を用いていないため、難燃性が適合していない。比較例8は粘土鉱物(D)を用いず有機修飾剤(E)のみを用いたため、難燃性がV−2となってしまう。比較例9〜10は粘土鉱物(D)と比較して有機修飾剤(E)の配合量が少ないため、難燃性が適合していない。比較例11は、未変性の精製された粘土鉱物を使用しており、長径10μm以上の水に膨潤しない鉱物が除去されているため、粘土鉱物精製時の脱水・乾燥工程に多くの手間やエネルギーを必要としている。
Figure 2013159757
Figure 2013159757
本発明の難燃樹脂組成物は、実質的にポリフェニレンエーテル又はポリカーボネートを含有しなくとも、極力少ないアンチモン化合物配合量にて十分な難燃性と優れた耐衝撃性とを有する材料を簡便な製法で提供できる。よって本発明によれば、例えば電子・電気機器及びOA機器に好適なスチレン系難燃樹脂成形品を容易に得ることができる。

Claims (7)

  1. スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層状無機化合物を含む粘土鉱物(D)0.1〜30質量部、及び有機修飾剤(E)を含有し、
    該有機修飾剤(E)の配合量が、該粘土鉱物(D)100質量部に対して5〜50質量部であり、
    該粘土鉱物(D)が、該スチレン系樹脂(A)樹脂100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する、難燃樹脂組成物。
  2. 前記粘土鉱物(D)が、精製工程を経ていない天然粘土鉱物である、請求項1に記載の難燃樹脂組成物。
  3. 前記粘土鉱物(D)が、界面活性剤を含む水分散媒中で測定したときに、体積平均粒子径4〜7μm、及び95%体積累積粒子径20μm以下を有する、請求項1又は2に記載の難燃樹脂組成物。
  4. 前記スチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃樹脂組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃樹脂組成物を混練してなる、混練物。
  6. 混練物をX線回折で測定したときの前記粘土鉱物(D)に含まれる層状無機化合物の層間距離が3nm以上である、請求項5に記載の混練物。
  7. 請求項5又は6に記載の混練物を射出成形してなる、成形品。
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