以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に、屈折率の異なる低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体を少なくとも1つ以上有する赤外遮蔽フィルムにおいて、前記低屈折率層および前記高屈折率層の少なくとも一方の層が、金属酸化物粒子と、重合度が5000を超えて6500未満である第1のポリビニルアルコール系樹脂と、を含むことにより、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性および折り曲げ耐性に優れ、可視光透過率が高く、赤外遮蔽性に優れた赤外遮蔽フィルムを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
上述した本発明の構成による作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は、下記推論によって何ら制限されるものではない。
本発明では、低屈折率層および高屈折率層のうち少なくとも一方の層において、重合度が5000を超えて6500未満のポリビニルアルコール系樹脂(本明細書中、「第1のポリビニルアルコール系樹脂」と称する。)を用いることにより、第1のポリビニルアルコール系樹脂が金属酸化物粒子に吸着して粒子を覆うため、折れ曲げ耐性が良化すると考えられる。
また、重合度が5000を超えて6500未満の第1のポリビニルアルコール系樹脂の吸着により、金属酸化物粒子の反応性(例えば、二酸化ケイ素粒子の有する−OH基の反応性)が抑えられる。そのため、当該金属酸化物粒子と他方の屈折率層(例えば、高屈折率層)に含まれる金属酸化物粒子(例えば、酸化チタン粒子)との相互作用が阻害されると推測され、その結果、低屈折率層と高屈折率層とにそれぞれ含まれる金属酸化物粒子が混合しにくくなり、赤外反射率(赤外遮蔽率)が高くなることがわかった。さらに、低屈折率層に重合度が5000を超えて6500未満の第1のポリビニルアルコールを用いることで、ひび割れが抑制されることがわかった。これは、低屈折率層の膜が強くなるためと推測される。
また、本発明において、高屈折率層と低屈折率層との両層にポリビニルアルコール系樹脂を用いる(低屈折率層が、第1のポリビニルアルコール系樹脂または第2のポリビニルアルコールのいずれか一方を含み、高屈折率層が、他方のポリビニルアルコール系樹脂を含む)場合、その重合度の差(第1のポリビニルアルコールと第2のポリビニルアルコールとの重合度の差)が1000以上、好ましくは2000以上のポリビニルアルコール系樹脂を各々用いることが好ましい。その理由については以下のように推測している。
重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂(例えば、第1のポリビニルアルコール系樹脂)を含む層(以下、「高重合度樹脂層」とも称する。)は、その重合度よりも重合度が低いポリビニルアルコール系樹脂を含む層(以下、「低重合度樹脂層」とも称する。)に比べて、より複雑な(強固な)網目状構造を形成する。そのため、高重合度樹脂層Aは、隣接する他の層(以下、「隣接層」と称する。)と混合しにくくなる。しかし、その隣接層も長い網目構造を形成する高重合度樹脂層Bとなると、高重合度樹脂層Aと高重合度樹脂層B(高重合度樹脂層Aの隣接層)との界面に乱れ(凹凸)が生じるおそれがあり、その結果、赤外反射率が低くなることが懸念される。そこで、第1のポリビニルアルコール系樹脂を含む層の隣接層に含まれる第2のポリビニルアルコール系樹脂の重合度が、第1のポリビニルアルコール系樹脂の重合度と1000以上の差がある(例えば、重合度を1000以上低くする)と界面の乱れ(凹凸)が抑制され、赤外反射率(赤外遮蔽率)が高くなることがわかった。さらに本発明では、低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂よりも重合度が1000以上小さい(低い)ポリビニルアルコール系樹脂を高屈折率層に用いると、低屈折率層と高屈折率層とが互いに相互作用しにくくなり、より赤外反射率(赤外遮蔽率)が高くなり、折れ曲げ耐性もさらに良好となることがわかった。
さらに、本発明において、高屈折率層と低屈折率層とにぞれぞれ含まれるポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度が異なる場合、赤外反射率(赤外遮蔽率)がより良好となり、ヘイズが低くなるため好ましい。
また、高屈折率層にシラノール変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いるとで、高屈折率層を形成するための塗布液が安定化し、塗布性も良好となることがわかった。
以下、本発明の赤外遮蔽フィルムの構成要素、および本発明を実施するための形態等について詳細な説明をする。
[赤外遮蔽フィルム]
本形態の赤外遮蔽フィルムは、基材と、少なくとも1つの低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体と、を含む。また、本発明の赤外遮蔽フィルムは、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された交互積層体の形態を有するのが好ましい。なお、本明細書中、他方に対して屈折率の高い屈折率層を高屈折率層と、他方に対して屈折率の低い屈折率層を低屈折率層と称する。本明細書において、「高屈折率層」および「低屈折率層」なる用語は、隣接した2層の屈折率差を比較した場合に、屈折率が高い方の屈折率層を高屈折率層とし、低い方の屈折率層を低屈折率層とすることを意味する。したがって、「高屈折率層」および「低屈折率層」なる用語は、光学反射フィルムを構成する各屈折率層において、隣接する2つの屈折率層に着目した場合に、各屈折率層が同じ屈折率を有する形態以外のあらゆる形態を含むものである。
本発明において、赤外遮蔽フィルムは、屈折率の異なるふたつの層、すなわち、高屈折率層と、低屈折率層と、から構成される積層体(ユニット)を少なくとも1つ含むが、高屈折率層と低屈折率層とは、以下のように考える。
例えば、高屈折率層を構成する成分(以下、高屈折率層成分)と低屈折率層を構成する成分(以下、低屈折率層成分)とが、がふたつの層の界面で混合され、高屈折率層成分と低屈折率層成分とを含む層(混合層)が形成される場合がある。この場合、混合層において、高屈折率層成分が50質量%以上である部位の集合を高屈折率層とし、低屈折率層成分が50質量%を超える部位の集合を低屈折率層とする。具体的には、低屈折率層が、例えば、低屈折率成分として第1の金属酸化物を、また、高屈折率層は高屈折率成分として第2の金属酸化物を含有している場合、これらの積層膜における膜厚方向での金属酸化物濃度プロファイルを測定し、その組成によって、高屈折率層または低屈折率層とみなすことができる。積層膜の金属酸化物濃度プロファイルは、スパッタ法を用いて表面から深さ方向へエッチングを行い、XPS表面分析装置を用いて、最表面を0nmとして、0.5nm/minの速度でスパッタし、原子組成比を測定することで観測することが出来る。また、低屈折率成分または高屈折率成分に金属酸化物が含有されておらず、有機バインダーのみから形成されている積層体においても、同様にして、有機バインダー濃度プロファイルにて、例えば、膜厚方向での炭素濃度を測定することにより混合領域が存在していることを確認し、さらにその組成をEDXにより測定することで、スパッタでエッチングされた各層が、高屈折率層または低屈折率層とみなすことができる。
XPS表面分析装置としては、特に限定なく、いかなる機種も使用することができるが、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定する。
一般に、赤外遮蔽フィルムにおいては、低屈折率層と高屈折率層との屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で赤外反射率を高くすることができるという観点から好ましい。本形態では、低屈折率層および高屈折率層から構成される積層体(ユニット)の少なくとも1つにおいて、隣接する低屈折率層と高屈折率層との屈折率差が0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.3以上であり、さらに好ましくは0.35以上であり、特に好ましくは0.4超である。赤外遮蔽フィルムが高屈折率層および低屈折率層の積層体(ユニット)を複数有する場合には、全ての積層体(ユニット)における高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が上記好適な範囲内にあることが好ましい。ただし、最表層や最下層に関しては、上記好適な範囲外の構成であってもよい。また、本形態の赤外遮蔽フィルムにおいては、低屈折率層の好ましい屈折率は、1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。また、高屈折率層の好ましい屈折率は1.80〜2.50であり、より好ましくは1.90〜2.20である。
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、赤外反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと、200層以上の積層が必要になり、生産性が低下するだけでなく、積層界面での散乱が大きくなり、透明性が低下し、また故障なく製造することも非常に困難になる。反射率の向上と層数を少なくするという観点からは、屈折率差に上限はないが、実質的には1.4程度が限界である。
さらには、本形態の赤外遮蔽フィルムの光学特性として、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上であることが好ましく、また、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
本形態の赤外遮蔽フィルムは、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成される積層体(ユニット)を少なくとも1つ含む構成を有するものであればよい。好ましい高屈折率層および低屈折率層の層数としては、上記の観点から、総層数の範囲としては、100層以下、すなわち50ユニット以下であり、より好ましくは40層(20ユニット)以下であり、さらに好ましくは20層(10ユニット)以下である。また、本発明の赤外遮蔽フィルムは、上記ユニットを少なくとも1つ積層した構成であればよく、例えば、積層膜の最表層や最下層のどちらも高屈折率層または低屈折率層となる積層膜であってもよい。本発明の赤外遮蔽フィルムとしては、基材に隣接する最下層が、低屈折率層で、最表層も低屈折率層である層構成が好ましい。
本形態の赤外遮蔽フィルムの全体の厚みは、好ましくは12μm〜315μm、より好ましくは15μm〜200μm、さらに好ましくは20μm〜100μmである。また、低屈折率層の1層あたりの厚みは、20〜800nmであることが好ましく、50〜350nmであることがより好ましい。一方、高屈折率層の1層あたりの厚みは、20〜800nmであることが好ましく、50〜350nmであることがより好ましい。
赤外遮蔽フィルムは、基材の下または基材と反対側の最表面層の上に、さらなる機能の付加を目的として、導電性層、帯電防止層、ガスバリア層、易接着層(接着層)、防汚層、消臭層、流滴層、易滑層、ハードコート層、耐摩耗性層、反射防止層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、印刷層、蛍光発光層、ホログラム層、剥離層、粘着層、接着層、本発明の高屈折率層および低屈折率層以外の赤外線カット層(金属層、液晶層)、着色層(可視光線吸収層)、合わせガラスに利用される中間膜層などの機能層の1つ以上を有していてもよい。
次いで、本発明の赤外遮蔽フィルムにおける低屈折率層および高屈折率層の基本的な構成概要について説明する。
〔低屈折率層と高屈折率層〕
本発明の低屈折率層および/または高屈折率層は、バインダー樹脂および/または金属酸化物粒子を含む。低屈折率層および高屈折率層は、バインダー樹脂として、ポリビニルアルコール系樹脂を含むのが好ましい。また、低屈折率層および/または高屈折率層は、バインダー樹脂として、重合度が5000を超え、6500未満の第1のポリビニルアルコール系樹脂を含む。また、本発明において、低屈折率層および/または高屈折率層は、保護剤、硬化剤、エマルジョン樹脂、種々のその他添加剤をさらに含んでもよい。
なお、本明細書中、バインダー樹脂とは、質量平均分子量が1,000〜200,000(好ましくは3,000〜60,000)の高分子化合物を意味する。
〔ポリビニルアルコール系樹脂〕
本発明の低屈折率層および/または高屈折率層において、重合度が5000を超え、6500未満の第1のポリビニルアルコール系樹脂を含むことで、折れ曲げ耐性が良好となる。なお、本形態の赤外遮蔽フィルムは、第1のポリビニルアルコール系樹脂を、高屈折率層のいずれか1層または低屈折率層のいずれか1層に含む構成であればよい。
また、本発明において、低屈折率層が、第1のポリビニルアルコール系樹脂、または第1のポリビニルアルコールとの重合度の差が1000以上である第2のポリビニルアルコールのいずれか一方を含み、高屈折率層が、他方のポリビニルアルコール系樹脂を含むのが好ましい。すなわち、低屈折率層と高屈折率層とにそれぞれ含まれるポリビニルアルコール系樹脂は、重合度の差が1000以上であることが好ましい。また、重合度の差が2000以上であることがより好ましく、2500以上であることがさらに好ましく、3000以上であることが特に好ましい。なお、第1のポリビニルアルコールに対して、重合度が1000以上の差を有するポリビニルアルコールを、「第2のポリビニルアルコール系樹脂」と称する。第2のポリビニルアルコールは、重合度が、第1のポリビニルアルコールに対して1000以上の差を有していればよく、重合度が第1のポリビニルアルコールに対して1000以上低くても、高くてもよい。第1のポリビニルアルコールを含有する層に隣接する層との界面の乱れを考慮すると、第2のポリビニアルアルコールは、重合度が第1のポリビニルアルコールに対して1000以上(好ましくは2000以上)低いことが好ましい。屈折率層中でポリビニルアルコールが2種以上存在した場合には、重合度を平均して求めた数値が、上記範囲内となればよい。なお、本形態の赤外遮蔽フィルムは、第1のポリビニルアルコール系樹脂と、第2のポリビニルアルコール系樹脂とが、高屈折率層または低屈折率層のいずれか1層に、それぞれ含まれる構成であればよく、それらの高屈折率層および低屈折率層が隣接していない形態も含むが、第1のポリビニルアルコール系樹脂を含む層と第2のポリビニルアルコール系樹脂を含む層とが隣接するのが本発明の効果がより発揮されるため好ましい。
本発明で用いられる第1のポリビニルアルコール系樹脂は、重合度(平均重合度)が5000を超えて6500未満であるが、より好ましくは5500〜6400であり、さらに好ましくは5600〜6300である。重合度が5000を超えると塗布膜の折り曲げ耐性が良く、赤外反射率も高くなり、6500未満であると塗布液が安定するからである。さらに、第1のポリビニルアルコール系樹脂が低屈折率層に含まれる場合、塗布膜のひび割れが良好となり好ましい。
本発明で用いられる第2のポリビニルアルコール系樹脂および第1のポリビニルアルコール系樹脂以外のポリビニアルアルコール系樹脂は、重合度(平均重合度)が1500〜7000であるのが好ましく、より好ましくは2000〜6000であり、さらに好ましくは2300〜4500である。1500以上であると塗布膜のひび割れ耐性が良くなり、7000以下であると塗布液が安定するからである。
ここで、重合度とは粘度平均重合度を指し、JIS−K6726(1994)に準じて測定され、PVAを完全に再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
各屈折率層中で重合度の相違を比較する方法としては、各屈折率層が重合度の異なる複数のポリビニルアルコール系樹脂を含む場合には、屈折率層中に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の重合度を平均した値を、「重合度」として採用する。例えば、屈折率層に、重合度6000のポリビニルアルコール系樹脂85%および重合度3500のポリビニルアルコール系樹脂15%が含有されている場合、当該屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の重合度としては、「(6000×0.85)+(3500×0.15)=5625」となる。なお、重合度が1000未満の低重合度ポリビニルアルコール系樹脂は、当該重合度の計算から除外する。また、変性ポリビニルアルコール系樹脂は、当該重合度の計算に含まれる。
本発明の赤外遮蔽フィルムは、高屈折率層と低屈折率層とに鹸化度の異なるポリビニルアルコール系樹脂をそれぞれ含有することが好ましい。高屈折率層と低屈折率層とに鹸化度の異なるポリビニルアルコール系樹脂をそれぞれ含有することにより、界面の混合が抑制され、赤外反射率(赤外遮蔽率)がより良好となり、ヘイズが低くなるため好ましい。また、高屈折率層と低屈折率層とのどちらの鹸化度が高くてもよいが、高屈折率層に含まれるポリビニルアルコールが、低屈折率層に含まれるポリビニルアルコールよりも鹸化度が高いのがより好ましい。高屈折率層に含まれる金属酸化物粒子を、鹸化度の高いポリビニルアルコールが保護することができるためである。好ましい形態としては、低屈折率層が、第1のポリビニルアルコール系樹脂または第2のポリビニルアルコール系樹脂のいずれか一方を含み、高屈折率層が他方のポリビニルアルコールを含み、第1のポリビニルアルコール系樹脂と第2のポリビニルアルコール系樹脂とが異なる鹸化度を有する。より好ましい形態としては、低屈折率層が第1のポリビニルアルコール系樹脂を含み、高屈折率層が第2のポリビニルアルコール系樹脂を含み、第2のポリビニルアルコール系樹脂が、第1のポリビニルアルコール系樹脂より鹸化度が高い。
さらに、低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂(好ましくは、第1のポリビニルアルコール系樹脂)と高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂(好ましくは、第2のポリビニルアルコール系樹脂)との鹸化度の絶対値の差は、3mol%以上であることが好ましい。より好ましくは5mol%以上である。かような範囲であれば、高屈折率層と低屈折率層との層間混合状態を好ましいレベルにするために好ましい。低屈折率層に含まれるポリビニルアルコールと高屈折率層に含まれるポリビニルアルコールとの鹸化度の差は離れていれば離れているほど好ましいが、ポリビニルアルコールの水への溶解性の点からは20mol%以下であることが好ましい。
ここで、鹸化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂中のアセチルオキシ基(原料の酢酸ビニル由来のもの)と水酸基の合計数に対する水酸基の割合のことである。
各屈折率層中で鹸化度の相違を比較するポリビニルアルコール系樹脂は、各屈折率層が(鹸化度が異なる)複数のポリビニルアルコール系樹脂を含む場合には、屈折率層中で最も含有量の高いポリビニルアルコール系樹脂である。ここで、「屈折率層中で最も含有量が高いポリビニルアルコール系樹脂」という際には、鹸化度の差が3mol%以内のポリビニルアルコール系樹脂は同一のポリビニルアルコール系樹脂であるとし、鹸化度を算出する。ただし、重合度1000以下の低重合度ポリビニルアルコール系樹脂は異なるポリビニルアルコール系樹脂とする(仮に鹸化度の差が3mol%以内のポリビニルアルコール系樹脂があったとしても同一のポリビニルアルコール系樹脂とはしない)。具体的には、鹸化度が90mol%、鹸化度が91mol%、鹸化度が93mol%のポリビニルアルコール系樹脂が同一層内にそれぞれ10質量%、40質量%、50質量%含まれる場合には、これら3つのポリビニルアルコール系樹脂は同一のポリビニルアルコール系樹脂とし、これら3つの混合物を、低屈折率層または高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂とする。また、上記「鹸化度の差が3mol%以内のポリビニルアルコール系樹脂」とは、いずれかのポリビニルアルコール系樹脂に着目した場合に3mol%以内であれば足り、例えば、90、91、92、94mol%のビニルアルコール系樹脂を含む場合には、91mol%のビニルアルコール系樹脂に着目した場合にいずれのポリビニルアルコール系樹脂も3mol%以内なので、同一のポリビニルアルコール系樹脂となる。
同一層内に鹸化度が3mol%以上異なるポリビニルアルコール系樹脂が含まれる場合、異なるポリビニルアルコール系樹脂の混合物とみなし、それぞれに鹸化度を算出する。
例えば、PVA203:5質量%、PVA117:25質量%、PVA217:10質量%、PVA220:10質量%、PVA224:10質量%、PVA235:20質量%、PVA245:20質量%が含まれる場合、最も含有量の多いPVAはPVA217〜245の混合物であり(PVA217〜245の鹸化度の差は3mol%以内なので同一のポリビニルアルコール系樹脂である)、この混合物が低屈折率層または高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂となる。そして、PVA217〜245の混合物(低屈折率層または高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂)においては、鹸化度は、88%となる。また、変性ポリビニルアルコール系樹脂は、当該鹸化度の計算に含まれる。
低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂および高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度は水への溶解性の点で75mol%以上が好ましい。さらに低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂および低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂のうち一方が鹸化度90mol%以上であり、他方が90mol%以下であることが高屈折率層と低屈折率層との層間混合状態を好ましいレベルにするために好ましい。低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂および高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂のうち一方が鹸化度95mol%以上であり、他方が90mol%以下であることがより好ましい。また、低屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度が90mol%以下であり、高屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度が95mol%以上であることがさらに好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度の上限は特に限定されるものではないが、通常100mol%未満であり、99.9mol%以下程度である。
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコール系樹脂(第1、第2、並びに第1および第2以外のポリビニルアルコール系樹脂)としては、水溶性であることが好ましく、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコール(未変性ポリビニルアルコール)の他に、末端をカチオン変性したカチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、アクリル等で変性した変性ポリビニルアルコール、酢酸ビニル系樹脂(例えば、クラレ製「エクセバール」)も含まれる。また、ポリビニルアルコールにアルデヒドを反応させて得られるポリビニルアセタール樹脂(例えば、積水化学製「エスレック」)、シラノール基を有するシラノール変性ポリビニルアルコール(例えば、クラレ製「R−1130」)等も含まれる。これらのポリビニルアルコール系樹脂は、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
本明細書中、ポリビニルアルコール系樹脂の「水溶性」とは、水媒体に対し1質量%以上溶解する化合物であり、好ましくは3質量%以上である。
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号公報に記載されているような、第一〜三級アミノ基や第四級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
アニオン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特開平1−206088号公報に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号公報および同63−307979号公報に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体および特開平7−285265号公報に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号公報に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号公報に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
また、ビニルアルコール系ポリマーとして、エクセバール(商品名:(株)クラレ製)やニチゴーGポリマー(商品名:日本合成化学工業(株)製)などが挙げられる。
シラノール変性ポリビニルアルコールとしては、特に制限はなく、公知の方法で合成したものであってもよく、市販品であってもよい。シラノール変性ポリビニルアルコールの変性率としては、通常0.01〜5mol%であり、好ましくは0.1〜1mol%である。変性率が0.01mol%未満であると、耐水性が劣化することがあり、5mol%を越えると、水との溶解性が悪くなることがある。また、シラノール変性ポリビニルアルコールは、耐傷性、光沢跡の観点から、鹸化度が95mol%以上であるのが好ましく、95.0〜99.5mol%であるのがより好ましい。また、シラノール変性ポリビニルアルコールは、重合度が、通常300〜2,500であり、好ましくは500〜1,700である。重合度が300以上であると塗工層の強度が高く、2,500以下であると塗布液の粘度が高くなりすぎず工程適性があるため好ましい。
本発明において、シラノール変性ポリビニルアルコールが屈折率層を形成するための塗布液に含有されると、塗布液が安定し、結果として、得られる塗膜の塗布性が良好になるため好ましい。なお、塗布液が安定するとは塗布液が経時的に安定することを意味する。
また、本発明では、高屈折率層に、シラノール変性ポリビニルアルコールを含有することが好ましい。シラノール変性ポリビニルアルコールを用いるとヘイズが良くなり、膜の透明性が上がるためである。高屈折率層にシラノール変性ポリビニルアルコールが含まれる場合、その含有量は、高屈折率層の全固形分100質量%に対して、1〜40質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜25質量%であることが特に好ましい。1質量%以上であるとセット性が良くなるため膜が乱れにくくなりヘイズが良好となり、40質量%以下であると液の安定性が良く好ましい。
本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂(全ポリビニルアルコール系樹脂)は、各屈折率層の全質量(固形分)100質量%に対し、5〜50質量%の範囲で含有させることが好ましく、10〜40質量%がより好ましく、14〜30質量%がさらに好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂が5.0質量%以上であれば、屈折率層を塗工した後の乾燥時に、膜面が均一になり、透明性が向上する傾向が大きくなる。一方、含有量が50質量%以下であれば、相対的な金属酸化物の含有量が適切となり、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を大きくすることが容易になる。なお、本明細書中、「膜面」とは塗膜の表面を意味し、「表面」とも称する場合がある。
本発明においては、第1のポリビニルアルコール系樹脂は、屈折率層の全ポリビニルアルコール系樹脂の全質量(固形分)100質量%に対し、50〜100質量%の範囲で含有させることが好ましく、60〜98質量%がより好ましく、65〜97質量%がさらに好ましくい。第1のポリビニルアルコール系樹脂の含有量が上記範囲内であれば、本発明の効果である膜柔軟性および折り曲げ耐性が良好となるという効果が顕著に表れる。
また、第2のポリビニルアルコール系樹脂としても、屈折率層の全ポリビニルアルコール系樹脂の全質量(固形分)100質量%に対し、50〜100質量%の範囲で含有させることが好ましく、60〜98質量%がより好ましく、65〜97質量%がさらに好ましい。第2のポリビニルアルコール系樹脂の含有量が上記範囲内であれば、界面の乱れが小さくなるという効果が顕著に表れる。
なお、全ポリビニルアルコール系樹脂とは、各屈折率層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の合計量を意味する。例えば、重合度が1000未満の低重合度ポリビニルアルコール系樹脂等も、全ポリビニルアルコール系樹脂の含量に含まれる。
〔樹脂バインダー(その他の水溶性高分子)〕
本発明においては、各屈折率層は樹脂バインダーとしてポリビニルアルコール系樹脂以外に、その他の樹脂バインダーを含んでいてもよい。
ポリビニルアルコール系樹脂以外の樹脂バインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、各屈折率層の全質量(固形分)に対し、好ましくは5〜50質量%である。
本発明においては、バインダー樹脂は水溶性バインダー樹脂から構成されることが好ましい。水溶性バインダー樹脂を用いることで、有機溶媒を用いることなく、屈折率層を形成することができ、環境上好ましいためである。本発明では、上記ポリビニルアルコール系樹脂に加えて、ポリビニルアルコール系樹脂以外の水溶性高分子をバインダー樹脂として用いてもよい。ここで、ポリビニルアルコール系樹脂以外の水溶性高分子とは、該水溶性高分子が最も溶解する温度で、0.5質量%の濃度に水に溶解させた際、G2グラスフィルタ(最大細孔40〜50μm)で濾過した場合に濾別される不溶物の質量が、加えた該水溶性高分子の50質量%以内であるものをいう。そのような水溶性高分子の中でも特にゼラチン、セルロース類、増粘多糖類、反応性官能基を有するポリマーが好ましい。これらの水溶性高分子は単独で用いても構わないし、2種類以上を混合して用いても構わない。
以下にこれらの水溶性高分子について説明する。
(ゼラチン)
本発明に適用可能なゼラチンとしては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料分野で広く用いられてきた各種ゼラチンを適用することができ、例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチンおよびゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を持ち、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関しては良く知られており、例えばT.H.James:The Theory of Photographic Process 4th. ed. 1977(Macmillan)55項、科学写真便覧(上)72〜75項(丸善)、写真工学の基礎−銀塩写真編119〜124(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。また、リサーチ・ディスクロージャー誌第176巻、No.17643(1978年12月)のIX項に記載されているゼラチンを挙げることができる。
(ゼラチンの硬膜剤)
ゼラチンを用いる場合、必要に応じてゼラチンの硬膜剤を添加することもできる。
用いることのできる硬膜剤としては、通常の写真乳剤層の硬膜剤として使用されている公知の化合物を使用でき、例えば、ビニルスルホン化合物、尿素−ホルマリン縮合物、メラニン−ホルマリン縮合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、活性オレフィン類、イソシアネート系化合物などの有機硬膜剤、クロム、アルミニウム、ジルコニウムなどの無機多価金属塩類などを挙げることができる。
(セルロース類)
本発明で用いることのできるセルロース類としては、水溶性のセルロース誘導体が好ましく用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体や、カルボン酸基含有セルロース類であるカルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、カルボキシエチルセルロース等を挙げることができる。
(増粘多糖類)
本発明で用いることのできる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類および合成複合多糖類を挙げることができ、これら多糖類の詳細については、「生化学事典(第2版),東京化学同人出版」、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
本発明でいう増粘多糖類とは、糖類の重合体であり分子内に水素結合基を多数有するもので、温度により分子間の水素結合力の違いにより、低温時の粘度と高温時の粘度差が大きな特性を備えた多糖類である。さらに好適には金属酸化物微粒子を添加すると、低温時にその金属酸化物微粒子との水素結合によると思われる粘度上昇を起こすものであり、その粘度上昇幅は、添加することにより好ましくは15℃における粘度が1.0mPa・s以上の上昇を生じる多糖類であり、より好ましくは5.0mPa・s以上であり、更に好ましくは10.0mPa・s以上の粘度上昇能を備えた多糖類である。
本発明に適用可能な増粘多糖類としては、例えば、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸およびアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類等が挙げられ、塗布液中に共存する金属酸化微粒子の分散安定性を低下させない観点から、好ましくは、その構成単位がカルボン酸基やスルホン酸基を有しないものが好ましい。その様な多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタンを好ましく使用することができる。本発明においては、特には、タマリンド、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガムが好ましい。
本発明においては、更には、二種類以上の増粘多糖類を併用することが好ましい。
(反応性官能基を有するポリマー類)
本発明に適用可能な水溶性高分子としては、反応性官能基を有するポリマー類が挙げられ、例えば、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体およびそれらの塩が挙げられる。
〔保護剤〕
本発明の一実施形態では、低屈折率層および/または高屈折率層は、金属酸化物粒子を被覆(保護)する水溶性樹脂を含有することが好ましい。以下に、金属酸化物粒子を被覆(保護)する水溶性樹脂について説明する。なお、当該水溶性樹脂は、金属酸化物粒子を溶媒に分散させやすくするための役割を有し、以下、「保護剤」と称する。
保護剤としては、重合度が、好ましくは100〜700、より好ましくは200〜500の水溶性樹脂であることが、金属酸化物微粒子を安定化するという観点で好ましい。また、吸着性の観点からポリビニルアルコール系樹脂が好ましいが、透明性および安定化の観点から変性ポリビニルアルコールであることがさらに好ましい。さらに、ポリビニルアルコールの鹸化度が、好ましくは95%mol以上、より好ましくは98〜99.5mol%であると粒子への吸着性が強く好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂については、上記ポリビニルアルコール系樹脂の欄で述べたため省略する。
本発明において、保護剤は、金属酸化物粒子100質量%に対して、0.1〜30質量%の範囲で含有させることが好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。上記範囲で保護剤を含むことで、低屈折率層および/または高屈折率用塗布液の液安定性が優れ、塗布性が安定するため好ましい。
〔硬化剤〕
本発明の低屈折率層および/または高屈折率層は、は、硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と反応して、水素結合のネットワークを形成することができるためである。また、バインダー樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を用いた場合、その効果は特に発揮されうる。
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂と共に用いることのできる硬化剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂と硬化反応を起こすものであれば特に制限はないが、ホウ酸、ホウ酸塩、およびホウ砂からなる群から選択されるのが好ましい。ホウ酸、ホウ酸塩、およびホウ砂以外にも公知のものが使用でき、一般的にはポリビニルアルコール系樹脂と反応し得る基を有する化合物あるいはポリビニルアルコール系樹脂が有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、適宜選択して用いられる。硬化剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬化剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬化剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬化剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5,−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、アルミニウム明礬等が挙げられる。
ホウ酸またはホウ酸塩とは、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことをいい、具体的には、オルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸および八ホウ酸およびそれらの塩が挙げられる。
ホウ砂とは、Na2B4O5(OH)4・8H2O(四ホウ酸ナトリウム Na2B4O7 の十水和物)で表される鉱物である。
硬化剤としてのホウ素原子を有するホウ酸、ホウ酸塩、およびホウ砂は、単独の水溶液でも、また、2種以上を混合して使用しても良い。特に好ましいのはホウ酸とホウ砂の混合水溶液である。
ホウ酸とホウ砂の水溶液は、それぞれ比較的希薄水溶液でしか添加することが出来ないが両者を混合することで濃厚な水溶液にすることが出来、塗布液を濃縮化する事が出来る。また、添加する水溶液のpHを比較的自由にコントロールすることが出来る利点がある。
本発明では、ホウ酸およびその塩並びに/またはホウ砂を用いることが本発明の効果を得るためには好ましい。ホウ酸およびその塩並びに/またはホウ砂を用いた場合には、金属酸化物粒子とポリビニルアルコール系樹脂のOH基と水素結合ネットワークを形成し、その結果として高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制され、好ましい赤外遮蔽特性が達成されると考えられる。特に、高屈折率層と低屈折率層の多層重層をコーターで塗布後、一旦塗膜の膜面温度を15℃程度に冷やした後、膜面を乾燥させるセット系塗布プロセスを用いた場合には、より好ましく効果を発現することができる。
上記硬化剤の総使用量は、バインダー樹脂(ポリビニアルアルコール系樹脂)1g当たり1〜600mgが好ましく、100〜600mgがより好ましい。
〔金属酸化物粒子〕
本発明において、高屈折率層および/または低屈折率層は、金属酸化物粒子を含有することが好ましい。
〔低屈折率層中の金属酸化物粒子(第1の金属酸化物粒子)〕
本発明の低屈折率層に用いられる第1の金属酸化物粒子としては、例えば、酸化亜鉛、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカなどの二酸化ケイ素、アルミナ、コロイダルアルミナを挙げることができる。本発明において、屈折率を調整するために、第1の金属酸化物は1種であっても2種以上を併用してもよい。
本発明に係る低屈折率層においては、第1の金属酸化物粒子として二酸化ケイ素を用いることが好ましく、コロイダルシリカを用いることが特に好ましい。
本発明の低屈折率層に含まれる第1の金属酸化物粒子(好ましくは二酸化ケイ素)は、その平均粒径(個数平均)が3〜100nmであることが好ましく、3〜50nmであることがより好ましい。なお、本明細書中、金属酸化物微粒子の平均粒径(個数平均)は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。本発明で用いられるコロイダルシリカは、珪酸ナトリウムの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通過させて得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるものであり、例えば、特開昭57−14091号公報、特開昭60−219083号公報、特開昭60−219084号公報、特開昭61−20792号公報、特開昭61−188183号公報、特開昭63−17807号公報、特開平4−93284号公報、特開平5−278324号公報、特開平6−92011号公報、特開平6−183134号公報、特開平6−297830号公報、特開平7−81214号公報、特開平7−101142号公報、特開平7−179029号公報、特開平7−137431号公報、および国際公開第94/26530号パンフレットなどに記載されているものである。
この様なコロイダルシリカは合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、日産化学工業(株)から販売されているスノーテックスシリーズ(スノーテックスOS、OXS、S、OS、20、30、40、O、N、C等)が挙げられる。
コロイダルシリカは、その表面をカチオン変性されたものであってもよく、また、Al、Ca、MgまたはBa等で処理された物であってもよい。
低屈折率層における第1の金属酸化物粒子の含有量は、低屈折率層の全固形分100質量%に対して、20〜75質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましく、35〜69質量%であることがさらに好ましく、40〜68質量%であることが特に好ましい。20質量%以上であると、所望の屈折率が得られ75質量%以下であると塗布性が良好となり好ましい。
〔高屈折率層中の金属酸化物粒子(第2の金属酸化物粒子)〕
本発明の高屈折率層は、第2の金属酸化物粒子を含むのが好ましい。高屈折率層に含まれうる第2の金属酸化物粒子は、低屈折率層とは異なる金属酸化物粒子であることが好ましい。
本発明に係る高屈折率層に用いられる金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、アルミナ、コロイダルアルミナ、酸化ニオブ、酸化ユーロピウム、ジルコン、を挙げることができる。本発明において、屈折率を調整するために、第2の金属酸化物は1種であっても2種以上を併用してもよい。
本発明では、透明でより屈折率の高い高屈折率層を形成するために、高屈折率層は、チタン、ジルコニア等の高屈折率を有する金属酸化物粒子、すなわち、酸化チタン粒子、酸化ジルコニア粒子を含有することが好ましい。また、体積平均粒径が100nm以下のルチル型(正方晶形)酸化チタン粒子を含有することがより好ましい。また、複数種の酸化チタン粒子を混合してもよい。
また、低屈折率層に含まれる第1の金属酸化物粒子と高屈折率層に含まれる第2の金属酸化物粒子とは、イオン性をそろえた状態(すなわち、電荷が同符号)にすることが好ましい。例えば、同時重層塗布する場合にはイオン性が異なると、界面で反応し凝集物ができヘイズが悪くなるためである。イオン性をそろえる手段としては、例えば、低屈折率層に二酸化ケイ素(アニオン)、高屈折率層に酸化チタン(カチオン)を用いた場合に、二酸化ケイ素をアルミニウム等で処理してカチオン化したり、あるいは、後述するように、酸化チタンを含ケイ素の水和酸化物で処理してアニオン化したりすることが可能である。
本発明の高屈折率層に含まれる第2の金属酸化物粒子は、その平均粒径(個数平均)が3〜100nmであることが好ましく、3〜50nmであることがより好ましい。
また、高屈折率層に含まれる第2の金属酸化物粒子は、体積平均粒径が50nm以下であることが好ましく、1〜45nmであることがより好ましく、5〜40nmであるのがさらに好ましい。体積平均粒径が50nm以下であれば、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
ここでいう体積平均粒径とは、媒体中に分散された一次粒子または二次粒子の体積平均粒径であり、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法等により測定できる。
具体的には、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd1、d2・・・di・・・dkの粒径を持つ粒子がそれぞれn1、n2・・・ni・・・nk個存在する金属酸化物粒子の集団において、粒子1個当りの体積をviとした場合に、体積平均粒径mv={Σ(vi・di)}/{Σ(vi)}で表される体積で重み付けされた平均粒径を算出する。
さらに、本発明で用いられる金属酸化物粒子は、単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下であることをいう。この単分散度は、さらに好ましくは30%以下であり、特に好ましくは0.1〜20%である。
高屈折率層における金属酸化物粒子の含有量としては、高屈折率層の全固形分100質量%に対して、15〜85質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜75質量%であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、赤外遮蔽性の良好なものとできる。
本発明の第2の金属酸化物粒子として好ましく用いられる酸化チタン粒子は、酸化チタンゾルの表面を変性して水または有機溶剤等に分散可能な状態にしたものを用いることが好ましい。
水系の酸化チタンゾルの調製方法としては、例えば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報、特開昭63−17221号公報等に記載された事項を参照にすることができる。
第2の金属酸化物粒子として酸化チタン粒子を用いる場合、酸化チタン粒子のその他の製造方法については、例えば、「酸化チタン−物性と応用技術」清野学 p255〜258(2000年)技報堂出版株式会社、またはWO2007/039953号明細書の段落番号0011〜0023に記載の工程(2)の方法を参考にすることができる。
上記工程(2)による製造方法とは、二酸化チタン水和物をアルカリ金属の水酸物またはアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される、少なくとも1種の塩基性化合物で処理する工程(1)の後に、得られた二酸化チタン分散物を、カルボン酸基含有化合物および無機酸で処理する工程(2)からなる。
また、本発明の第2の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆されたコアシェル粒子の形態が好ましい。コアシェル粒子としては、コアの部分である酸化チタン粒子の体積平均粒径が、好ましくは1nm超30nm未満、より好ましくは4nm以上30nm未満であり、当該酸化チタン粒子の表面を、コアとなる酸化チタン100質量%に対して、含ケイ素の水和酸化物の被覆量がSiO2として3〜30質量%となるように含ケイ素の水和酸化物からなるシェルが被覆してなる構造である。本発明において、第2の金属酸化物粒子としてコアシェル粒子を含有させることで、シェル層の含ケイ素の水和酸化物とバインダー樹脂との相互作用により、高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制される効果を奏する。
本明細書における含ケイ素の水和酸化物とは、無機ケイ素化合物の水和物、有機ケイ素化合物の加水分解物および/または縮合物のいずれでもよく本願の発明効果を得るためにはシラノール基を有することがより好ましい。よって、本発明において、第2の金属酸化物粒子としては、酸化チタン粒子がシリカ変性されたシリカ変性(シラノール変性)酸化チタン粒子であることが好ましい。
酸化チタンの含ケイ素の水和化合物の被覆量は、酸化チタン100質量%に対して、3〜30質量%、好ましくは3〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%である。被覆量が30質量%以下であると、高屈折率層の所望の屈折率化が得られ、被覆量が3%以上であると粒子を安定に形成することができるからである。
また、本発明の第2の金属酸化物粒子としては、公知の方法で製造されたコアシェル粒子を用いることもできる。例えば、以下の(i)〜(iv);(i)酸化チタン粒子を含有する水溶液を加熱加水分解し、または酸化チタン粒子を含有する水溶液にアルカリを添加し中和して、平均粒径が1〜30nmの酸化チタンを得た後、モル比で表して酸化チタン粒子/鉱酸が1/0.5〜1/2の範囲になるように、前記酸化チタン粒子と鉱酸とを混合したスラリーを、50℃以上該スラリーの沸点以下の温度で加熱処理し、その後得られた酸化チタン粒子を含むスラリーに、ケイ素の化合物(例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液)を添加し、酸化チタン粒子の表面にケイ素の含水酸化物を析出させて表面処理し、次いで、得られた表面処理された酸化チタン粒子のスラリーから不純物を除去する方法(特開平10−158015号);(ii)含水酸化チタンなどの酸化チタンを一塩基酸またはその塩で解膠処理して得られる酸性域のpHで安定した酸化チタンゾルと、分散安定化剤としてのアルキルシリケートを常法により混合し、中性化する方法(特開2000−053421号);(iii)過酸化水素および金属スズを、2〜3のH2O2/Snモル比に保持しつつ同時にまたは交互にチタン塩(例えば、四塩化チタン)等の混合物水溶液に添加し、チタンを含む塩基性塩水溶液を生成し、該塩基性塩水溶液を0.1〜100時間かけて50〜100℃の温度で保持して酸化チタンを含む複合体コロイドの凝集体を生成させ、次いで、該凝集体スラリー中の電解質を除去し、酸化チタンを含む複合体コロイド粒子の安定な水性ゾルが製造される。一方、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液)等を含有する水溶液を調製し、水溶液中に存在する陽イオンを除去することで、二酸化ケイ素を含む複合体コロイド粒子の安定な水性ゾルが製造される。得られた酸化チタンを含む複合体水性ゾルを金属酸化物TiO2に換算して100質量部と、得られた二酸化ケイ素を含む複合体水性ゾルを金属酸化物SiO2に換算して2〜100質量部と混合し、陰イオンを除去後、80℃で1時間加熱熟成する方法(特開2000−063119号);(iv)含水チタン酸のゲルまたはゾルに過酸化水素を加えて含水チタン酸を溶解し、得られたペルオキソチタン酸水溶液に、ケイ素化合物等を添加し加熱し、ルチル型構造をとる複合固溶体酸化物からなるコア粒子の分散液が得られ、次いで、該コア粒子の分散液にケイ素化合物等を添加した後、加熱しコア粒子表面に被覆層を形成し、複合酸化物粒子が分散されたゾルが得られ、さらに、加熱する方法(特開2000−204301号);(v)含水酸化チタンを解膠して得られた酸化チタンのヒドロゾルに、安定剤としてのオルガノアルコキシシラン(R1 nSiX4−n)または過酸化水素および脂肪族もしくは芳香族ヒドロキシカルボン酸から選ばれた化合物を添加し、溶液のpHを3以上9未満へ調節し熟成させた後に脱塩処理を行う方法(特開4550753号);で製造されたコアシェル粒子が挙げられる。
〔エマルジョン樹脂〕
本発明の低屈折率および/または高屈折率層は、エマルジョン樹脂をさらに含有していてもよい。エマルジョン樹脂を含むことにより、膜の柔軟性が高くなりガラスへの貼りつけ等の加工性がよくなる。
エマルジョン樹脂とは、水系媒体中に微細な、例えば、平均粒径が0.01〜2.0μm程度の樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂で、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られない。エマルジョンの重合時に使用される分散剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョンの化学的、物理的性質が異なる。
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリエーテル、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好ましい。
高分子分散剤として使用されるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度は高い方がインク吸収層を形成する際のクラックの発生を抑制する効果が大きいが、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は70〜100mol%のものが好ましく、80〜99.5mol%のものがより好ましい。
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
〔屈折率層のその他の添加剤〕
本発明に係る高屈折率層と低屈折率層には、必要に応じて各種の添加剤を含有させることができる。
例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報および同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号公報、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報および同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
〔基材〕
本発明の赤外遮蔽フィルムに用いられる基材としては、透明な有機材料で形成されたものであれば特に限定されるものではない。
かような基材としては、例えば、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスチレン(PS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の樹脂からなるフィルム、さらには前記樹脂を二層以上積層してなる樹脂フィルム等が挙げられる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などが好ましく用いられる。
基材の厚さは、5〜200μm程度が好ましく、さらに好ましくは15〜150μmである。基材は、2枚以上を重ねたものであってもよく、この際、基材の種類は同じでもよいし異なっていてもよい。
また、基材は、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率としては85%以上であることが好ましく、特に90%以上であることが好ましい。基材が上記透過率以上であることにより、赤外遮蔽フィルムとしたときのJIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率を50%以上にするという点で有利であり、好ましい。
また、上記樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。
基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
また、基材は、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は前記ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、またはテンターを出た後の巻き取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80〜200℃で行われることが好ましく、より好ましくは処理温度が100〜180℃である。また長手方向、幅手方向ともに、弛緩率が0.1〜10%の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは弛緩率が2〜6%で処理されることである。弛緩処理された基材は、下記のオフライン熱処理を施すことにより耐熱性が向上し、さらに、寸法安定性が良好になる。
基材は、製膜過程で片面または両面にインラインで下引層塗布液を塗布することが好ましい。本発明においては、製膜工程中での下引塗布をインライン下引という。本発明に有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂およびゼラチン等が挙げられ、いずれも好ましく用いることができる。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01〜2g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
[赤外遮蔽フィルムの製造方法]
本発明の赤外遮蔽フィルムの製造方法について特に制限はなく、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ形成することができるのであれば、いかなる方法でも用いられうる。
本発明の赤外遮蔽フィルムの製造方法では、基材上に高屈折率層と低屈折率層とから構成される積層体(ユニット)を積層して形成され、例えば、高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液とを交互に塗布、乾燥して積層体を形成する。例えば、金属酸化物粒子と、第1のポリビニルアルコール系樹脂と、水系溶媒と、を含む低屈折率層用塗布液と、バインダー樹脂(好ましくは、第2のポリビニルアルコール系樹脂)と、水系溶媒と、を含む高屈折率層用塗布液と、を基材に塗布する工程と、塗布液が塗布された前記基材を乾燥する工程と、を含む赤外遮蔽フィルムの製造方法により得られる。
具体的には高屈折率層と低屈折率層とを交互に塗布、乾燥して積層体を形成することが好ましい。具体的には以下の形態が挙げられる;(1)基材上に、高屈折率層用塗布液を塗布し乾燥して高屈折率層を形成した後、低屈折率層用塗布液を塗布し乾燥して低屈折率層を形成し、赤外遮蔽フィルムを形成する方法;(2)基材上に、低屈折率層用塗布液を塗布し乾燥して低屈折率層を形成した後、高屈折率層用塗布液を塗布し乾燥して高屈折率層を形成し、赤外遮蔽フィルムを形成する方法;(3)基材上に、高屈折率層用塗布液と、低屈折率層用塗布液とを交互に逐次重層塗布した後乾燥して、高屈折率層、および低屈折率層を含む赤外遮蔽フィルムを形成する方法;(4)基材上に、高屈折率層用塗布液と、低屈折率層用塗布液とを同時重層塗布し、乾燥して、高屈折率層、および低屈折率層を含む赤外遮蔽フィルムを形成する方法;などが挙げられる。なかでも、より簡便な製造プロセスとなる上記(4)の方法が好ましい。また、同時重層塗布の場合には、界面の混合がより生じやすいため、本発明は同時重層塗布により製造する場合に、より効果が発揮されやすい。
(塗布液の調製方法)
まず、高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の調製方法について述べる。
高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の調製方法は、特に制限されず、例えば、金属酸化物粒子、ポリビニルアルコール系樹脂、その他のバインダー樹脂、および必要に応じて添加されるその他の添加剤を添加し、攪拌混合する方法が挙げられる。この際、各成分の添加順も特に制限されず、攪拌しながら各成分を順次添加し混合してもよいし、攪拌しながら一度に添加し混合してもよい。必要に応じて、さらに溶媒を用いて、適当な粘度に調製される。
なお、高屈折率層用塗布液に含まれる第2の金属酸化物粒子は、塗布液を調製する前に、別途、分散液の状態に調製したものを用いるのが好ましい。すなわち、体積平均粒径が100nm以下のルチル型の酸化チタンを添加、分散して調製した水系の高屈折率層用塗布液を用いて、高屈折率層を形成することが好ましい。さらに、本発明では、上述した方法で、含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子を添加、分散して調製した水系の高屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層を形成することがより好ましい。分散液を用いる場合は、各層において任意の濃度となるように分散液を適宜添加すればよい。
高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液を調製するための溶媒は、特に制限されないが、水、有機溶媒、またはその混合溶媒が好ましい。本発明においては、樹脂バインダーとして、ポリビニルアルコール系樹脂を主に用いるために、水系溶媒を用いることができる。水系溶媒は、有機溶媒を用いる場合と比較して、大規模な生産設備を必要とすることがないため、生産性の点で好ましく、また環境保全の点でも好ましい。
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類、ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。環境面、操作の簡便性などから、塗布液の溶媒としては、特に水、または水とメタノール、エタノール、もしくは酢酸エチルとの混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
また、低屈折率層用塗布液および高屈折率層用塗布液としては、塗布後に塗膜をセットさせて層間の混合を抑制できるという点から、ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂と、水あるいはこれに水溶性有機溶剤を含む水系溶媒を主成分とする水系塗布液を用いることが好ましい。
高屈折率層用塗布液中のバインダー樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂も含む)の濃度は、0.5〜10質量%であることが好ましい。また、高屈折率層用塗布液中の金属酸化物粒子の濃度は、1〜50質量%であることが好ましい。
低屈折率層用塗布液中のバインダー樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂も含む)の濃度は、0.5〜10質量%であることが好ましい。また、低屈折率層用塗布液中の金属酸化物粒子の濃度は、1〜50質量%であることが好ましい。
同時重層塗布を行う際の高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、45℃における粘度が、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、45℃における粘度が、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
塗布および乾燥方法としては、高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液を30℃以上に加温して、塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましく、より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
(塗布および乾燥方法)
塗布および乾燥方法の条件は、特に制限されないが、例えば、逐次塗布法の場合は、まず、30〜60℃に加温した高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液のいずれか一方を基材上に塗布、乾燥して層を形成した後、もう一方の塗布液をこの層上に塗布、乾燥して積層膜前駆体(ユニット)を形成する。次に、所望の赤外遮蔽性能を発現するために必要なユニット数を、前記方法にて逐次塗布、乾燥して積層させて積層膜前駆体を得る。乾燥する際は、形成した塗膜を、30℃以上で乾燥することが好ましい。例えば、湿球温度5〜50℃、膜面温度30〜100℃(好ましくは10〜50℃)の範囲で乾燥するのが好ましく、例えば、40〜60℃の温風を1〜5秒吹き付けて乾燥する。乾燥方法としては、温風乾燥、赤外乾燥、マイクロ波乾燥が用いられる。また単一プロセスでの乾燥よりも多段プロセスの乾燥が好ましく、恒率乾燥部の温度<減率乾燥部の温度にするのがより好ましい。この場合の恒率乾燥部の温度範囲は30〜60℃、減率乾燥部の温度範囲は50〜100℃にするのが好ましい。
また、同時重層塗布を行う場合の塗布および乾燥方法の条件は、高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液を30〜60℃に加温して、基材上に高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の同時重層塗布を行った後、形成した塗膜の温度を好ましくは1〜15℃にいったん冷却し(セット)、その後10℃以上で乾燥することが好ましい。より好ましい乾燥条件は、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件である。例えば、80℃の温風を1〜5秒吹き付けて乾燥する。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜の均一性向上の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
ここで、前記セットとは、冷風等を塗膜に当てて温度を下げるなどの手段により、塗膜組成物の粘度を高め、各層間および各層内の物質の流動性を低下させたり、またゲル化する工程のことを意味する。冷風を塗布膜に表面から当てて、塗布膜の表面に指を押し付けたときに指に何もつかなくなった状態を、セット完了の状態と定義する。
塗布した時点から、冷風を当ててセットが完了するまでの時間(セット時間)は、5分以内であることが好ましく、2分以内であることがより好ましい。また、下限の時間は特に制限されないが、45秒以上の時間をとることが好ましい。セット時間が短すぎると、層中の成分の混合が不十分となる虞がある。一方、セット時間が長すぎると、金属酸化物微粒子の層間拡散が進み、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が不十分となるおそれがある。なお、高屈折率層と低屈折率層との間の中間層の高弾性化が素早く起こるのであれば、セットさせる工程は設けなくてもよい。
セット時間の調整は、水溶性高分子(バインダー樹脂)の濃度や金属酸化物粒子の濃度を調整したり、ゼラチン、ペクチン、寒天、カラギ−ナン、ゲランガム等の各種公知のゲル化剤など、他の成分を添加することにより調整することができる。
冷風の温度は、0〜25℃であることが好ましく、5〜10℃であることがより好ましい。また、塗膜が冷風に晒される時間は、塗膜の搬送速度にもよるが、好ましくは10〜360秒、より好ましくは10〜300秒、さらに好ましくは10〜120秒である。
高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の塗布厚は、上記で示したような好ましい乾燥時の厚みとなるように塗布すればよい。
[赤外遮蔽体]
本発明により提供される赤外遮蔽フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、赤外遮蔽効果を付与する赤外遮蔽フィルム等の窓貼用フィルム、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる。
特に、本発明に係る赤外遮蔽フィルムが直接または接着剤を介してガラスまたはガラス代替の樹脂などの基体に貼合されている部材に好適である。
すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、本発明に係る赤外遮蔽フィルムを、基体の少なくとも一方の面に設けた、赤外遮蔽体をも提供する。
前記基体の具体的な例としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルフィド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、金属板、セラミック等が挙げられる。樹脂の種類は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂のいずれでも良く、これらを2種以上組み合わせて用いても良い。本発明で使用されうる基体は、押出成形、カレンダー成形、射出成形、中空成形、圧縮成形等、公知の方法で製造することができる。基体の厚みは特に制限されないが、通常0.1mm〜5cmである。
赤外遮蔽フィルムと基体とを貼り合わせる接着層または粘着層は、赤外遮蔽フィルムを日光(熱線)入射面側に設置することが好ましい。また、本発明に係る赤外遮蔽フィルムを、窓ガラスと基体との間に挟持すると、水分等の周囲のガスから封止でき耐久性に優れるため好ましい。本発明に係る赤外遮蔽フィルムを屋外や車の外側(外貼り用)に設置しても環境耐久性があって好ましい。
本発明に適用可能な接着剤としては、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする接着剤を用いることができる。
接着剤は紫外線に対して耐久性を有するものが好ましく、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。さらに粘着特性やコストの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。特に剥離強さの制御が容易なことから、アクリル系粘着剤において、溶剤系が好ましい。アクリル溶剤系粘着剤として溶液重合ポリマーを使用する場合、そのモノマーとしては公知のものを使用できる。
また、合わせガラスの中間層として用いられるポリビニルブチラール系樹脂、あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂を用いてもよい。具体的には可塑性ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、三菱モンサント社製等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(デュポン社製、武田薬品工業社製、デュラミン)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、メルセンG)等である。なお、接着層には紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。
赤外遮蔽フィルムまたは赤外遮蔽体の断熱性能、日射熱遮へい性能は、一般的にJIS R 3209(複層ガラス)、JIS R 3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)、JIS R 3107(板ガラス類の熱抵抗および建築における熱貫流率の算定方法)に準拠した方法により求めることができる。
日射透過率、日射反射率、放射率、可視光透過率の測定は、(1)波長(300〜2500nm)の分光測光器を用い、各種単板ガラスの分光透過率、分光反射率を測定する。また、波長5.5〜50μmの分光測定器を用いて放射率を測定する。なお、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、熱線吸収板ガラスの放射率は既定値を用いる。(2)日射透過率、日射反射率、日射吸収率、修正放射率の算出は、JIS R 3106に従い、日射透過率、日射反射率、日射吸収率、垂直放射率を算出する。修正放射率に関しては、JIS R 3107に示されている係数を、垂直放射率に乗ずることにより求める。断熱性、日射熱遮へい性の算出は、(1)厚さの測定値、修正放射率を用いJIS R 3209に従って複層ガラスの熱抵抗を算出する。ただし中空層が2mmを超える場合はJIS R 3107に従って中空層の気体熱コンダクタンスを求める。(2)断熱性は、複層ガラスの熱抵抗に熱伝達抵抗を加えて熱貫流抵抗で求める。(3)日射熱遮蔽性はJIS R 3106により日射熱取得率を求め、1から差し引いて算出する。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
《赤外遮蔽フィルムの作製》
[実施例1]
(低屈折率層用塗布液L1の調製)
・酸化チタンゾル水系分散液の調製
コロイダルシリカ(日産化学社製;スノーテックスOXS)の10質量%水溶液650部に、ポリビニルアルコール(PVA103、重合度300、鹸化度99mol%、クラレ社製)の4.0質量%水溶液30部、ホウ酸の3.0質量%水溶液150部をそれぞれ混合した後、純水で1000部に仕上げて、酸化ケイ素分散液L1を調製した。
次いで、上記分散液L1を45℃に加熱し、撹拌しながら、ポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)の4.0質量%水溶液760部を順次添加した後、アニオン性界面活性剤(日油製ラピゾールA30)の1質量%水溶液を40部添加し、低屈折率層用塗布液L1を調製した。
(高屈折率層用塗布液H1の調製)
二酸化チタン水和物を水に懸濁させた水性懸濁液(TiO2濃度100g/L)10L(リットル)に、水酸化ナトリウム水溶液(濃度10モル/L)30Lを撹拌下で添加し、90℃に昇温し、5時間熟成した後、塩酸で中和、濾過、水洗した。なお、上記反応(処理)において、二酸化チタン水和物は公知の手法に従い、硫酸チタン水溶液を熱加水分解して得られたものを用いた。
塩基処理チタン化合物をTiO2濃度20g/Lになるよう純水に懸濁させ、撹拌下クエン酸をTiO2量に対し0.4モル%加え昇温した。液温が95℃になったところで、濃塩酸を塩酸濃度30g/Lになるように加え、液温を維持しつつ3時間撹拌した。
得られた酸化チタンゾル水系分散液のpHおよびゼータ電位を測定したところ、pHは1.4、ゼータ電位は+40mVであった。さらに、マルバーン社製ゼータサイザーナノにより粒径測定を行ったところ、体積平均粒径は35nm、単分散度は16%であった。
体積平均粒径35nmのルチル型酸化チタン粒子を含む20.0質量%酸化チタンゾル水系分散液1kgに純水1kgを添加した。
・ケイ酸水溶液の調製
SiO2濃度が2.0質量%のケイ酸水溶液を調製した。
・シリカ変性酸化チタン粒子の調製
上記の10.0質量%酸化チタンゾル水系分散液0.5kgに、純水2kgを加えた後、90℃に加熱した。その後、2.0質量%のケイ酸水溶液1.3kgを徐々に添加し、次いで、得られた分散液をオートクレーブ中、175℃で18時間加熱処理を行い、さらに濃縮して、ルチル型構造を有する酸化チタンで、被覆層がSiO2である、20質量%のシリカ変性酸化チタン粒子のゾル水分散液を得た。
上記で得られた20.0質量%のシリカ変性酸化チタン粒子のゾル水系分散液28.9部と、1.92質量%のクエン酸水溶液10.5部と、10質量%のポリビニルアルコール(PVA103、重合度300、鹸化度99mol%、クラレ社製)水溶液2.0部と、3質量%のホウ酸水溶液9.0部を混合して、シリカ変性酸化チタン粒子分散液H1を調製した。
次いで、酸化チタン分散液H1を撹拌しながら、純水16.3部に、4.0質量%のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)水溶液41.9部を添加した。さらに、アニオン性界面活性剤(日油製ラピゾールA30)の1質量%水溶液を0.5部添加し、最後に純水で150部に仕上げて、高屈折率層用塗布液H1を調製した。
[実施例1](試料1の作製)
9層重層塗布可能なスライドホッパー塗布装置を用い、上記で得られた低屈折率層用塗布液L1および高屈折率層用塗布液H1を45℃に保温しながら、45℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300:両面易接着層、長さ200m×幅210mm)上に、最下層と最上層は低屈折率層とし、それ以外はそれぞれ交互に、乾燥時の膜厚が低屈折率層は各層150nm、高屈折率層は各層130nmになるように計9層の同時重層塗布を行った。
塗布直後、5℃の冷風を吹き付けてセットさせた。このとき、表面を指で触れても指に何もつかなくなるまでの時間(セット時間)は5分であった。
セット完了後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、9層からなる重層塗布品を作製した。
上記9層重層塗布品の上に、さらに9層重層塗布を行い、計18層からなる試料1を作製した。なお、18層の屈折率層は、全て、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されるよう形成した。
[実施例2](試料2の作製)
実施例1の高屈折率層用塗布液H1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)の4.0質量%水溶液をポリビニルアルコール(JP−45、重合度4500、鹸化度88mol%、日本酢ビ・ポバール社製)の4.0質量%水溶液に変更した以外は同様にして、試料2を作製した。
[実施例3](試料3の作製)
実施例1の高屈折率層用塗布液H1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)の4.0質量%水溶液をポリビニルアルコール(PVA224、重合度2400、鹸化度88mol%、クラレ社製)の4.0質量%水溶液に変更した以外は同様にして、試料3を作製した。
[実施例4](試料4の作製)
実施例1の高屈折率層用塗布液H1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)の4.0質量%水溶液をポリビニルアルコール(PVA124、重合度2400、鹸化度99mol%、クラレ社製)の4.0質量%水溶液に変更した以外は同様にして、試料4を作製した。
[実施例5](試料5の作製)
実施例1の高屈折率層用塗布液H1の4.0質量%のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)水溶液41.9部を、ポリビニルアルコール(PVA124、重合度2400、鹸化度99mol%、クラレ社製)4.0質量%の水溶液31.9部、シラノール変性ポリビニルアルコール(R1130、重合度1700、鹸化度99mol%、クラレ社製)4.0質量%の水溶液10部にした以外は同様にして、試料5を作製した。
[実施例6](試料6の作製)
実施例1の低屈折率層用塗布液L1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)4.0質量%の水溶液をポリビニルアルコール(PVA235、重合度3500、鹸化度88mol%、クラレ社製)4.0質量%の水溶液に変更した以外は同様にして、試料6を作製した。
[実施例7](試料7の作製)
実施例1の低屈折率層用塗布液L1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)4.0質量%の水溶液をポリビニルアルコール(JP−45、重合度4500、鹸化度88mol%、日本酢ビ・ポバール社製)4.0質量%の水溶液に変更した以外は同様にして、試料7を作製した。
[比較例1](試料8の作製)
実施例1の高屈折率層用塗布液H1および低屈折率層用塗布液L1のポリビニルアルコール(重合度6000、鹸化度88mol%)4.0質量%の水溶液をポリビニルアルコール(JP−45、重合度4500、鹸化度88mol%、日本酢ビ・ポバール社製)4.0質量%の水溶液に変更した以外は同様にして、試料8を作製した。
[比較例2](試料9の作製)
比較例1の高屈折率層用塗布液のポリビニルアルコール(JP−45、重合度4500、鹸化度88mol%、日本酢ビ・ポバール社製)4.0質量%の水溶液をポリビニルアルコール(PVA124、重合度2400、鹸化度88mol%、クラレ社製)4.0質量%の水溶液に変更した以外は同様にして、試料9を作製した。
[比較例3](試料10の作製)
比較例1の高屈折率層用塗布液のポリビニルアルコール(JP−45、重合度4500、鹸化度88mol%、日本酢ビ・ポバール社製)4.0質量%の水溶液をポリビニルアルコール(PVA124、重合度2400、鹸化度99mol%、クラレ社製)4.0質量%の水溶液に変更した以外は同様にして、試料10を作製した。
《赤外遮蔽フィルムの評価》
上記で用いたそれぞれの低屈折率層用塗布液と、上記で作製した各赤外遮蔽フィルムとについて、下記の性能評価を行った。
(各層の単膜屈折率の測定)
基材上に屈折率を測定する対象層(高屈折率層、低屈折率層)をそれぞれ単層で塗設したサンプルを作製し、下記の方法に従って、各高屈折率層および低屈折率層の屈折率を求めた。
分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率の測定結果より、屈折率を求めた。
上記方法に従って各層の屈折率を測定した結果、試料1〜10の高屈折率層、低屈折率層の屈折率差は、いずれも0.3以上であることを確認した。
(可視光透過率および赤外透過率の測定)
上記分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、赤外遮蔽フィルム試料1〜9の300nm〜2000nmの領域における透過率を測定した。可視光透過率は550nmにおける透過率の値を、赤外透過率は1200nmにおける透過率の値を用いた。
(膜面均一性(ヘイズ値)の測定)
ヘイズ値は、赤外遮蔽フィルム試料1〜10をヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)により測定し、下記のように評価した。
○:1.5%以下
△:1.5%超〜2%以下
×:2%超
(折り曲げ耐性の測定)
赤外遮蔽フィルム試料1〜10を50mm×150mmの大きさに切り、50mm×150mmのフィルム試料を、長さ100mmの筒(直径:15mm)に巻きつけた後、膜面の状態を目視評価した。
◎:ひび割れがまったく見られない
○:若干のひび割れが見られるが、ひび割れかどうかわからない程度である
△:一部にひび割れが見られる
×:全面にひび割れが見られる
(ひび割れ)
赤外遮蔽フィルム試料1〜10を、210mm×300mmに裁断し、210mm×300mmのフィルム試料の膜面の状態を目視で観察し、ひび割れについて評価した。
○:ひび割れなし
○△:ひび割れが1点見られる
△:ひび割れが2〜5点見られる
(塗布性)
赤外遮蔽フィルム試料1〜10は、温風を吹き付けて塗布面(膜面)を乾燥させているため、吹き付けた温風の圧力により塗布面に凹凸を伴った吹かれムラを生じることある。塗布性では、この吹かれムラについて、赤外遮蔽フィルム試料1〜10の塗布面(膜面)を目視評価した。
○:膜面に吹かれムラなし
△:膜面にうっすら吹かれムラがある
評価結果を表1に示す。
表1の結果より、本発明の赤外遮蔽フィルムは、比較例の赤外遮蔽フィルムに比べ、折り曲げ耐性および膜柔軟性が良好であり、赤外遮蔽性および可視光透過性に優れることが分かる。
〔赤外遮蔽体の作製〕
実施例1〜7で作製した試料1〜7の赤外遮蔽フィルムを、厚さ5mm、20cm×20cmの透明アクリル樹脂板上に、それぞれアクリル接着剤で接着して、赤外遮蔽体101〜107を作製した。
〔評価〕
上記作製した赤外遮蔽体101〜107は、サイズが大きいにもかかわらず、容易に利用可能であり、また、本発明の赤外遮蔽フィルムを利用することで、優れた赤外遮蔽性を確認することができた。