以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を備えた車両の概略ブロック構成図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両10は、動力源としての内燃機関であるエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達する出力軸としてのクランクシャフト15と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態に応じて変速比を連続的に変化させるベルト式無段変速機(以下、単に「CVT:Continuously Variable Transmission」という)70を備えた変速機20と、変速機20を油圧により制御するための油圧制御装置30と、変速機20によって伝達された動力を伝達するプロペラシャフト25と、プロペラシャフト25によって伝達された動力を伝達するデファレンシャル機構40と、デファレンシャル機構40によって伝達された動力を伝達する駆動軸としてのドライブシャフト43L、43Rと、ドライブシャフト43L、43Rによって伝達された動力を用いて回転することにより車両10を駆動させる駆動輪45L、45Rと、を備えている。
さらに、車両10は、車両10全体を制御するための車両用電子制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100を備えている。また、車両10には、クランクセンサ81と、シフトセンサ82と、駆動軸回転数センサ83と、アクセル開度センサ84と、その他図示しない各種センサが設けられている。これらセンサは、検出した検出信号を、ECU100に入力するように、ECU100と接続されている。
エンジン11は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しないシリンダの燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の動力装置により構成されている。エンジン11は、燃焼室内で混合気の吸気、燃焼および排気を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復移動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト15を回転させることにより、変速機20に動力を伝達するようになっている。なお、エンジン11に用いられる燃料は、エタノール等のアルコールを含むアルコール燃料であってもよい。
油圧制御装置30は、オイルポンプ29によってオイルパン28から汲み上げられたオイルを、ECU100によって制御される複数のソレノイド弁等により回路の切り替えおよび油圧を制御し、変速機20に出力して、変速機20を制御するようになっている。
デファレンシャル機構40は、カーブ等を走行する場合に、駆動輪45Lと駆動輪45Rとの回転数の差を許容するものである。デファレンシャル機構40は、プロペラシャフト25の回転により伝達された動力を、ドライブシャフト43L、43Rを回転させることによって駆動輪45L、45Rに伝達するようになっている。
駆動輪45L、45Rは、ドライブシャフト43L、43Rに取り付けられた金属製などのホイールと、このホイールの外周を覆うように取り付けられた樹脂製などのタイヤとを備えている。また、駆動輪45L、45Rは、ドライブシャフト43L、43Rによって伝達された動力により回転し、タイヤと路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。
ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)と、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)と、入力インターフェース回路と、出力インターフェース回路(いずれも図示しない)と、を有している。ECU100は、さらに、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)や、通信手段などを備えていてもよい。このECU100は、車両10の制御を統括するようになっている。
例えば、ROMには、後述する本実施の形態に係る制御用プログラムなどが記憶されて、記憶装置として機能するようになっている。CPUは、このROMに記憶された制御プログラムなどに基づいて演算処理を実行するようになっている。また、RAMは、CPUによる演算結果や、後述する各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するようになっている。また、不揮発性のメモリにより構成されたEEPROMやバックアップメモリなどによって、例えば、エンジン11の停止時に保存すべきデータ等を記憶するようになっている。
上記CPU、RAM及びROMなどは、バスを介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース及び出力インターフェースと接続されている。入力インターフェースには、各種センサが接続されていて、これらセンサが検出した信号が入力されるようになっている。出力インターフェースには、例えば、油圧制御回路27を構成するソレノイド弁などが接続されており、ECU100が各種センサからの検出信号に基づいて、本実施の形態に係る各種制御を実行するようになっている。
さらに、ECU100は、クランクセンサ81と、シフトセンサ82と、駆動軸回転数センサ83と、アクセル開度センサ84とに接続されている。
クランクセンサ81は、クランクシャフト15の回転数を検出して、検出した検出信号をECU100に入力するようになっている。クランクセンサ81は、クランクシャフト15のクランク位置やクランク角度を検知して、エンジン回転速度の信号を検出できるクランクポジションセンサである。ECU100は、クランクセンサ81によって入力された検出信号が表すクランクシャフト15の回転数を、エンジン回転数Neとして取得する。
シフトセンサ82は、シフトレバー21が複数の切り替え位置のうちいずれの切り替え位置にあるのかを検出し、シフトレバー21の切り替え位置を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。このシフトセンサ82は、シフトレバー21が、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、ロー(L)などの各種操作ポジションに選択されたことを検知するシフトポジションセンサである。
駆動軸回転数センサ83は、ドライブシャフト43Lまたは43Rのいずれかの回転数を検出し、ドライブシャフト43Lまたは43Rのいずれかの回転数を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。なお、ECU100は、駆動軸回転数センサ83によって入力された上記検出信号に基づいて、車両10の走行速度を算出するようになっている。
アクセル開度センサ84は、運転者の踏み込みにより操作されるアクセルペダル88の近傍に配置され、アクセルペダル88の開度(以下、アクセル開度Accともいう)を検出するようになっている。このアクセル開度センサ84は、アクセルペダル88の踏込み量に対して直線的に出力電圧が得られるリニアタイプのアクセルポジションセンサにより構成されている。アクセル開度センサ84は、エンジン11の出力を決定するようになっており、アクセル開度Accは、運転者の加速要求を表している。
次に、変速機20の構成について、図2に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る変速機20の構成を表す概略ブロック構成図である。
まず、エンジン11において発生した回転動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ(流体伝動装置)50に伝達されるようになっている。トルクコンバータ50に伝達された動力は、さらに、前後進切り替え機60、CVT70、減速歯車機構80を介してデファレンシャル機構40に伝達され、左右の駆動輪45L、45Rに分配されるようになっている。すなわち、CVT70は、エンジン11から左右の駆動輪(例えば、後輪)45L、45Rに至る動力伝達経路に設けられている。
トルクコンバータ50は、クランクシャフト15に連結された、入力回転部材としてのポンプインペラ51pと、タービンシャフト55を介して前後進切り替え機60に連結された、出力回転部材としてのタービンランナ51tとを有している。また、トルクコンバータ50は、一方向クラッチを介して非回転部材に回転可能に支持されたステータ51sを有している。
ポンプインペラ51pと、タービンランナ51tとは対向して設けられており、それぞれ、多数のブレードが備えられていて、ポンプインペラ51pとタービンランナ51tとの間で、流体の運動エネルギーにより動力伝達が行われるようになっている。
ポンプインペラ51pとタービンランナ51tとの間には、燃費向上のため、ポンプインペラ51pおよびタービンランナ51tを一体的に連結して相互に一体回転させることができるようにするロックアップクラッチ(直結クラッチ)52が設けられている。ロックアップクラッチ52は、タービンシャフト55と一体回転するように取り付けられているとともに、タービンシャフト55の軸線方向に移動可能なように構成されている。
前後進切り替え機60は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置によって構成されている。サンギヤ61sは、トルクコンバータ50のタービンシャフト55に連結され、キャリヤ62cは、CVT70の入力軸であるプライマリシャフト71に連結されている。
ここで、前後進切り替え機60は、キャリヤ62cとサンギヤ61sとの間に配設された前進クラッチ64が油圧により係合させられると、サンギヤ61sと、キャリヤ62cと、リングギヤ63rとが一体回転させられてタービンシャフト55がプライマリシャフト71に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪45L、45Rに伝達されるようになっている。
また、前後進切り替え機60は、リングギヤ63rとハウジング65との間に配設された後進ブレーキ66が油圧により係合させられるとともに前進クラッチ64が解放されると、タービンシャフト55と一体的に回転するサンギヤ61sの回転方向に対してサンギヤ61sが相対回転しながら公転することによって、キャリヤ62cはタービンシャフト55の回転方向とは反対の方向に回転するようになっている。したがって、キャリヤ62cと連結したプライマリシャフト71はタービンシャフト55に対して逆回転させられるため、後進方向の駆動力が駆動輪45L、45Rに伝達される。
一方、CVT70は、プライマリシャフト71に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ72と、CVT70の出力軸であるセカンダリシャフト79に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ77と、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のそれぞれに形成されたV溝に巻き掛けられた伝動ベルト75と、を有している。この構成により、CVT70は、動力伝達要素として機能する伝動ベルト75とプライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝の内壁面との間の摩擦力を利用して動力を伝達するようになっている。
具体的には、プライマリプーリ72は、互いに対向して対向面によってV溝を形成する可動シーブ72aと、固定シーブ72bとを有しており、可動シーブ72aと固定シーブ72bにより形成されるV溝に伝動ベルト75が巻き掛けられている。
また、セカンダリプーリ77は、互いに対向して対向面によってV溝を形成する可動シーブ77aと固定シーブ77bとを備えており、可動シーブ77aと固定シーブ77bにより形成されるV溝に伝動ベルト75が巻き掛けられている。
プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77には、それぞれのV溝幅、すなわち伝動ベルト75の掛かり径を変更するために可動シーブ72aに形成された入力側油圧シリンダ73および可動シーブ77aに形成された出力側油圧シリンダ78が備えられている。
そして、可動シーブ72aの入力側油圧シリンダ73に供給、あるいは、排出されるオイルの流量が油圧制御装置30によって制御されることにより、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝幅が変化して伝動ベルト75の掛かり径(有効径)が変更されるようになっている。これにより、変速比γ(=プライマリプーリ72のプライマリシャフト71の実際の回転数Nin/セカンダリプーリ77のセカンダリシャフト79の実際の回転数Nout)を連続的、すなわち無段階に変化させることができる。
また、可動シーブ77aの出力側油圧シリンダ78内の油圧は、セカンダリプーリ77の伝動ベルト75に対する挟圧力および伝動ベルト75の張力にそれぞれ対応するものであって、伝動ベルト75が滑りを生じないように、油圧制御装置30により調圧されるようになっている。
ECU100には、タービンシャフト回転数センサ87と、入力軸回転数センサ85と、出力軸回転数センサ86と、が接続されている。
タービンシャフト回転数センサ87は、トルクコンバータ50のタービンランナ51tに連結されたタービンシャフト55の回転数を検出するようになっている。また、タービンシャフト回転数センサ87は、タービンシャフト55の回転数を表す検出信号を、ECU100に入力するようになっている。
入力軸回転数センサ85は、キャリヤ62cに連結されたプライマリプーリ72のプライマリシャフト71の回転数を検出するようになっている。また、入力軸回転数センサ85は、プライマリシャフト71の回転数を表す検出信号を、ECU100に入力するようになっている。
出力軸回転数センサ86は、減速歯車機構80に連結されたセカンダリプーリ77のセカンダリシャフト79の回転数を検出するようになっている。また、出力軸回転数センサ86は、セカンダリシャフト79の回転数を表す検出信号を、ECU100に入力するようになっている。
ここで、ECU100は、入力軸回転数センサ85によって入力された検出信号が示すプライマリシャフト71の回転数Ninと、出力軸回転数センサ86によって入力された検出信号が示すセカンダリシャフト79の回転数Noutと、に基づいて、変速比γを算出するようになっている。
次に、油圧制御装置30が有する油圧制御回路27の構成について、図3に基づいて説明する。
図3は、本発明の本実施の形態に係る油圧制御回路の要部を示す概略構成図である。なお、図3に示す油圧制御回路27は、説明の便宜上、ロックアップクラッチ52を作動させる作動油圧や、潤滑用の油圧を制御するものが開示されているもので、その他の変速機を構成するプライマリプーリ72やセカンダリプーリ77を含む構成部品を制御するソレノイド弁等は省略されている。
図3に示すように、油圧制御回路27は、作動流体(オイル)が貯留されたオイルパン28と、エンジン11によって駆動されるオイルポンプ29と、調圧弁31と、減圧弁32と、電磁弁を構成するリニアソレノイド弁33と、第1調圧弁36と、第2調圧弁37と、ソレノイド弁34と、ロックアップ圧切り替え弁38と、を含んで構成されている。
調圧弁31は、オイルポンプ29から汲み上げられた油圧を所定のライン圧に調圧するようになっている。このライン圧は、油路L1および油路L3を介して第1調圧弁36に供給されるとともに、油路L1および油路L4を介して第2調圧弁37に供給されるようになっている。さらに、このライン圧は、油路L1および油路L2を介して減圧弁32に供給され、一定の油圧に減圧されて油路L5を介してリニアソレノイド弁33に供給されるようになっている。
第1調圧弁36は、調圧弁31から供給されたライン圧を前後進切り替え機60とトルクコンバータ50とを含む変速機20に供給するために、調圧するようになっている。第2調圧弁37は、調圧弁31から供給されたライン圧をロックアップ切り替え弁38を介してロックアップクラッチ52に供給するために、調圧するようになっている。
リニアソレノイド弁33は、減圧弁32を介して供給された油圧を第1調圧弁36および第2調圧弁37に信号圧P1および信号圧P2として供給するようになっており、ECU100からの制御信号に応じて信号圧P1および信号圧P2が調整されるようになっている。これにより、第1調圧弁36および第2調圧弁37は、リニアソレノイド弁33から供給された信号圧P1および信号圧P2に応じた出力圧になるようになっている。
具体的には、リニアソレノイド弁33から出力される信号圧P1およびP2を制御することにより、前後進切り替え機60とトルクコンバータ50とを含む変速機20に供給される潤滑用の油圧P4と、ロックアップクラッチ52に供給されるロックアップクラッチ制御用の油圧P5と、を制御するようになっている。また、潤滑用の油圧P4が上昇するとロックアップクラッチ制御用の油圧P5が上昇するようになっている。
第1調圧弁36および第2調圧弁37は、ノーマリクローズ式のパイロット作動弁によって構成されており、信号圧P1および信号圧P2を受ける前の状態では、その出力圧が零に保持される。また、第1調圧弁36および第2調圧弁37は、リニアソレノイド弁33から出力された信号圧P1および信号圧P2が高い程、油路L8および油路L7に供給される出力圧が高くなるよう構成されている。
ソレノイド弁34は、ノーマリクローズ式のオン/オフソレノイド弁で構成されており、オン状態でロックアップ圧切り替え弁38に油圧P3が供給されるようになっている。また、ソレノイド弁34は、減圧弁32から油路L6を介して供給された油圧をロックアップ圧切り替え弁38に供給するようになっており、ECU100からの制御信号に応じてロックアップ圧切り替え弁38に油圧P3を供給するか否かを切り替えるようになっている。
ロックアップ圧切り替え弁38は、ノーマリクローズ式の切り替え弁で構成されており、ソレノイド弁34から供給された油圧P3によって油路L7および油路L9を連通させるか否かを切り替えるようになっている。また、ロックアップ圧切り替え弁38は、ソレノイド弁34がオンの状態では油路L7および油路L9が連通状態となり、ソレノイド弁34がオフの状態では油路L7および油路L9が遮断状態となる。このため、ソレノイド弁34から油圧P3が供給されると、第2調圧弁37から供給された元圧がロックアップクラッチ52の作動室に供給されるようになっている。
このように、油圧制御回路27は、一つのリニアソレノイド弁33によってロックアップクラッチ52に供給される油圧P5と、トルクコンバータ50および前後進切り替え機60を含む変速機20に供給される油圧P4が制御される。したがって、それぞれ独立してリニアソレノイド弁33を設ける必要がないので、コストを低減することができる。
再び図1に戻り、ECU100は、リニアソレノイド弁33(図3参照)を制御することにより、潤滑用の油圧を制御するようになっており、少なくとも開状態を表すアクセルオン状態で潤滑用の油圧を上昇させるよう制御するようになっている。このため、前後進切り替え機60やトルクコンバータ50に供給されるので、損傷することが防止することができる。
一方、ECU100は、リニアソレノイド弁33(図3参照)を制御することにより、ロックアップクラッチ52(図2参照)の係合圧を制御するようになっており、上述したように油圧制御回路27(図3参照)により行われる。すなわち、ECU100は、入力回転部材としてのポンプインペラ51p(図2参照)と、出力回転部材としてのタービンランナ51t(図2参照)と、を係合状態、半係合状態および非係合状態の間で切り替えるようになっている。
ECU100は、スロットル開度と車速とをパラメータとして、ロックアップ作動領域、非ロックアップ作動領域が定められたマップをROMに予め記憶しており、この作動領域マップに基づいて、走行状態に適したロックアップクラッチ52の係合または解放などをECU100が決定するようになっている。
ECU100は、例えば、トルクコンバータ50のトルク増大作用や変速動作中におけるショック吸収作用などが要求されるときには、ロックアップクラッチ52を完全に解放させるよう制御する。一方、前述のようなトルクコンバータ50のトルク増大作用や変速動作中におけるショック吸収作用などがそれほど要求されないときには、トルクコンバータ50の動力伝達効率を高めてエンジン11の燃費性能を向上させることを目的として、ロックアップクラッチ52(図2参照)を完全に係合させるよう制御する。
また、上記領域マップにおいて、ロックアップクラッチ52(図2参照)を非係合状態とするコンバータ作動領域や、ロックアップクラッチ52(図2参照)を係合状態とするロックアップ作動領域に加えて、ロックアップクラッチ52(図2参照)をスリップ状態で半係合させるフレックスロックアップ作動領域が設けられている。このフレックスロックアップ作動領域では、良好な燃費性能を確保しながら振動を吸収する等のために、ロックアップクラッチ52(図2参照)のスリップ量を所定の目標スリップ量に維持するスリップ制御が行われている。このフレックスロックアップ作動領域は、スロットル開度と車速とをパラメータとする既存のもので予めROMに記憶されている。
さらに、ECU100は、前述したフレックスロックアップ作動領域の他に、車両発進時にフレックスロックアップを開始するよう、極低車速まで拡大するようになっている。このため、ECU100は、車両発進時のフレックスロックアップの開始可能条件を予めROMに記憶しており、車両発進時にフレックススタートを実行することにより、エンジン11の吹け上がりを抑えて燃費の向上を図っている。車両発進時のフレックスロックアップの開始可能条件は、例えば、車速が1キロ以上4キロ未満でアクセル開度Accが20%未満で定義されている。
また、車両発進時は、フレックスロックアップを行う際に、ロックアップクラッチ52に供給される油圧を少なくとも最小にした状態が好ましく、この最小の状態から徐々に上昇させてロックアップクラッチ52が急に係合しないようになっている。このため、ECU100は、車両発進時のフレックスロックアップの開始可能条件が成立しており、これに加えリニアソレノイド弁33(図3参照)の信号圧が0kPaの場合に、車両発進時のフレックスロックアップの開始条件が成立したとしてフレックスロックアップが開始される。なお、リニアソレノイド弁33(図3参照)の信号圧が0kPaであることは、ECU100が保持している情報に基づいて判定される。また、当該信号圧は、油圧センサを設けて実際の油圧を検出するようにしてもよい。
また、発進時のフレックスロックアップ制御は、以下に説明する潤滑流量制御用油圧の制御とは独立して実行されるので、潤滑流量制御用油圧を最小とする指示中に車両発進時のフレックスロックアップの開始条件が成立した場合には、フレックスロックアップ制御が開始される。
また、ECU100は、車両発進時のフレックスロックアップ制御においてエンジン回転速度(入力回転部材の回転速度)が所定の目標スリップ量になるように、リニアソレノイド弁33(図3参照)から出力される油圧に対してフィードバック制御を実行するようになっている。
ECU100は、車両発進時にフレックスロックアップが開始する可能性がある場合には、フレックスロックアップが開始する可能性がない場合よりも、潤滑用の油圧を上昇させるタイミングを遅らせるようリニアソレノイド弁33(図3参照)を制御するようになっている。具体的には、ECU100は、フレックスロックアップを開始する可能性がある場合には、潤滑用の油圧を制御する信号圧が最小、例えば0kPaとなるようリニアソレノイド弁33(図3参照)を制御するようになっている。一方、ECU100は、フレックスロックアップを開始する可能性がない場合には、潤滑用の油圧を制御する信号圧が最小となる制御は行わない。
ここで、フレックスロックアップが開始する可能性がある場合の条件は、例えば、車速が4キロ未満でアクセル開度Accが20%未満で定義されている。このように当該条件は、フレックスロックアップ開始可能条件より車両10が走り始める極低車速を含んでいる。
また、ECU100は、潤滑用の油圧を制御する信号圧が最小となるようリニアソレノイド弁33(図3参照)を制御中に、フレックスロックアップの緊急性がなくなった場合には、潤滑用の油圧を制御する信号圧が最小となる制御を終了するようになっている。また、ECU100は、上述したフレックスロックアップの開始条件が成立した場合には、信号圧が最小となる制御を終了して、ロックアップクラッチ制御用の油圧が0kPaから徐々に上昇するように前述フィードバック制御を実行するようになっている。
ここで、フレックスロックアップの緊急性がなくなった場合の条件は、例えばアクセル開度が20%以上又は車速が4キロ以上であり、ECU100は、いずれかの条件が成立するとリニアソレノイド弁33(図3参照)への信号圧を最小にする指示を終了するようになっている。このように、ECU100は、前後進切り替え機60等の潤滑性が確保されるよう制御する。
これに加えて、フレックスロックアップの緊急性がなくなった場合の条件は、上記条件の他に、潤滑流量制御圧を上昇させない期間が所定以上継続していることである。これは、例えばアクセル開度Accが少なくとも開状態であるにもかかわらず、発進時のフレックスロックアップ制御可能条件が成立せずに、潤滑用の油圧を制御する信号圧を上昇させない時間が予め定められた設定時間以上経過した場合等である。ECU100は、この条件が成立するとリニアソレノイド弁33(図3参照)への信号圧を最小にする指示を終了するようになっている。
次に、作用について説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る油圧制御における潤滑流量制御用油圧を制御する処理を示すフローチャートである。なお、以下の処理は、ECU100を構成するCPUによって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。また、以下の処理は、例えばイグニッションスイッチがオンであることを条件に実行される。
図4に示すように、ECU100は、潤滑流量用油圧を最小指示中か否かを判定する(ステップS1)。具体的には、第1調圧弁36から前後進切り替え機60およびトルクコンバータ50へ出力される油圧P4(図3参照)が最も小さくなる、すなわち0kPaに指示しているか否かを判定する。
次に、ECU100は、潤滑流量用油圧を最小指示中でないと判定した場合(ステップS1でNO)には、潤滑流量制御を開始したか否かを判定し(ステップS2)、潤滑流量制御を開始しない場合には、(ステップS2でNO)には、リターンに移行する。具体的には、ECU100は、アクセル開度センサ84からアクセル開度Accが零で無くなった場合に、潤滑流量制御を開始するので、アクセル開度センサ84からの情報に基づいて判定する。
次に、ECU100は、潤滑流量制御を開始した場合(ステップS2でYES)には、発進時のフレックスロックアップ制御開始可能性ありか否かを判定し(ステップS3)、可能性がない場合(ステップS3でNO)には、リターンに移行する。具体的には、ECU100は、発進時のフレックスロックアップ制御開始可能性ありの条件を予めROMに記憶しており、例えばa)アクセル開度が20%未満、b)車速が4キロ未満、のうち全ての条件を満たす場合には、発進時のフレックスロックアップ制御開始可能性ありとして、判定する。
次に、ECU100は、発進時のフレックスロックアップ制御開始可能性ありの場合(ステップS3でYES)には、潤滑流量用油圧を最小となるよう指示することを開始する(ステップS4)。具体的には、ECU100は、リニアソレノイド弁33から出力される信号圧が最小となるよう信号を出力する。
次に、ECU100は、潤滑流量制御用油圧を最小指示中であると判定した場合(ステップS1でYES)には、発進時のフレックスロックアップ制御開始の緊急性がないか否かを判定する(ステップS5)。具体的には、ECU100は、発進時のフレックスロックアップ制御開始の緊急性がない条件を予めROMに記憶しており、例えば、a)潤滑流量制御圧を上昇させない期間が所定以上継続、b)アクセル開度が20%以上、c)車速が4キロ以上、のうち少なくとも何れか一つの条件を満たす場合には、発進時のフレックスロックアップ制御開始の緊急性がないものとして、判定する。
次に、ECU100は、発進時のフレックスロックアップ制御開始の緊急性がないと判定(ステップS5でYES)した場合には、潤滑流量制御用油圧を最小にする指示を終了する。一方、ECU100は、発進時のフレックスロックアップ制御開始の緊急性があると判定(ステップ5でYES)した場合には、リターンに移行する。
図5は、従来の油圧制御を図3の油圧制御回路に適用した場合のタイミングチャートである。
図5に示すように、実線101で示すようにT0の時点でアクセルペダルが操作されてアクセル開度Accが少なくともオンの状態になると、同時に潤滑流量制御が開始される。このため、潤滑用の油圧を上昇させるために、リニアソレノイド弁33を制御して、その信号圧(実線102)を上昇させる。したがって、実線103で示す潤滑用の油圧がアクセルオンと略同時に上昇する。
その後T1の時点でフレックスロックアップの制御開始可能条件が成立するとリニアソレノイド弁33の信号圧を低下させるよう制御して潤滑用の油圧を低下させる。そして、リニアソレノイド弁33の信号圧が最小、すなわち零になったT2の時点でフレックスロックアップの制御開始条件が成立したものと判定し、ECU100は、実線104で示すようにソレノイド弁34の状態をオフからオンに切り替えるよう制御する。このように、ソレノイド弁34によりロックアップ圧切り替え弁38が切り替えられて油路L7と油路L9が連通する。これと同時に、リニアソレノイド弁33の出力圧を上昇させて実線105で示すようにロックアップクラッチ52に供給される油圧が徐々に上昇させる。したがって、第2調圧弁37から出力された油圧がロックアップ圧切り替え弁38を介してロックアップクラッチ52に供給されることとなり、非係合状態から半係合状態に徐々に移行する。
このように、フレックスロックアップの制御開始可能条件が成立してから、リニアソレノイド弁33の出力圧が低下するまで、待つ必要があるので時間Tの分だけ実際にフレックスロックアップが開始されるまで遅れる結果となってしまう。
このため、本実施の形態における車両の制御装置は、以下で説明するように潤滑流量を制御する制御圧を上昇させないように制御するので時間Tの遅れを解消できるようになる。
本発明の実施の形態に係る油圧制御を図3の油圧制御回路に適用した場合のグラフを実線で示し、図5で示したグラフを破線で表し、これらを重ね合わせたタイミングチャートである。
図6に示すように、実線111で示すようにアクセルペダル88が運転者によって踏み込まれると、ECU100は少なくともアクセルペダル88の操作がされたと判定し、一時的に潤滑用の油圧を上昇するようにリニアソレノイド弁33の信号圧を上昇するように制御を開始するが、このとき例えば車速が4キロ未満でかつアクセル開度が20%未満であるので、ECU100は、発進時のフレックスロックアップの開始可能性があると判定し、アクセルオンと略同じ時点T0で示すリニアソレノイド弁33の信号圧(実線112)を最小、すなわち零となるよう指示する。このため、実線113で示す潤滑用の油圧が最小値、すなわち零となる。
その後、車両10が発進し始めて、ECU100は、T1の時点でフレックスロックアップ制御の開始可能条件が成立したと判定すると、既にリニアソレノイド弁33の信号圧が零であるので、T1の時点でフレックスロックアップの制御開始条件が成立したと判定する。このため、ECU100は、実線114で示すようにオフからオンに切り替えるようソレノイド弁34に指示するとともに、潤滑流量制御用油圧が最小指示中であってもリニアソレノイド弁33の信号圧を実線112に示すように最小、すなわち零の状態から徐々に立ち上げ始める。したがって、ECU100は、トルクコンバータ50の入力回転部材とその出力回転部材の回転差が目標スリップ量となるようにフレックスロックアップ制御を実行する。したがって、実線113で示す潤滑用の油圧は、リニアソレノイド弁33からの信号圧(実線112)が上昇すると同様に上昇することとなる。
このように、図5で示したように、リニアソレノイド弁33の信号圧が最小になるまで待つ場合と比較して、発進時のフレックスロックアップの開始可能条件が成立すると即座にフレックスロックアップの制御を開始することが理解できる。なお、車両発進時のフレックスロックアップ制御が開始されるとリニアソレノイド弁33から徐々に第2調圧弁37に信号圧が導入されるとともに、ロックアップクラッチ52にも元圧が供給されるので、徐々にロックアップクラッチ52の係合状態が半係合状態に移行するので実線115で示すエンジン回転数の上昇が抑えられているのが分かる。また、潤滑用の油圧を上昇させるタイミングを遅らせるよう制御しているが、エンジン11の出力が小さい車両発進時なので特段問題は生じない。
以上のように、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、フレックスロックアップを開始する可能性がある場合には、開始する可能性がない場合よりも、潤滑用の油圧を上昇させるタイミングを遅らせるようリニアソレノイド弁33を制御しているので、例えば車両発進時にフレックスロックアップを実行するようにしたフレックススタートの際に、潤滑用の油圧を低くするように制御することができる。この結果、フレックスロックアップの開始可能条件が成立した場合に、即座にフレックスロックアップ制御を開始することができ、不必要なエンジン11の吹け上がりを防止して、燃費向上を図ることができる。加えて、車両発進時にフレックスロックアップ制御を開始した場合でも、既に潤滑用の油圧を低くしているので、ロックアップクラッチ52に供給されるロックアップクラッチ制御用の油圧を徐々に上昇させて、ロックアップクラッチ52が急係合することを抑制することができる。しかも、フレックスロックアップの開始可能条件が成立してから潤滑用の油圧を下げるようリニアソレノイド弁33を制御する必要がないので、車両10のスムーズな発進を実現することができ、ヘジテーションによる違和感を与えることを防止することができる。このように、変速機20の潤滑用の油圧を十分に確保しつつ、車両発進時にフレックスロックアップを最適なタイミングで実現できる車両の制御装置を提供することができる。
以上の説明においては、ベルト式無段変速機を用いて説明したが、これに限定されず、変速機に供給される潤滑用の油圧とロックアップクラッチに供給されるロックアップクラッチ制御用の油圧とを一つのリニアソレノイド弁の信号圧によって制御する油圧制御回路を有するものであれば、例えばクラッチ・トゥ・クラッチにより変速を行う自動変速機にも適用することができる。
なお、以上の説明においては、各制御条件を定める車速およびアクセル開度について具体的な値を示したが、全て例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の特許請求の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
以上、本発明に係るロックアップクラッチの油圧制御装置は、変速機の潤滑用の油圧を十分に確保しつつ、車両発進時にフレックスロックアップを最適なタイミングで実現できるという効果を有し、ロックアップクラッチが搭載された車両の制御装置として有用である。