以下、本発明に係わるセラミックス複合体について、それを用い軸受の摺動部材を構成した第1〜8実施形態に基づき図面を参照しつつ説明する。なお、本発明に係わるセラミックス複合体は、軸受の摺動部材に限らず、軸受の摺動部材と摺動するロールの軸部に組み込まれる摺動部材、上記したストークス・ヒータチューブ・溶湯攪拌ロータ・ダイキャストスリーブその他溶融金属に接触する一面を有する製品に適用することができる。また、各実施態様の構成要素は、単独にまたは各々組み合わせて利用することもできる。
[溶融金属めっき装置]
まず、本発明に係わる各実施形態の摺動部材が組み込まれた軸受を含む溶融金属めっき装置について、図1を参照しつつ説明する。図1に示すように、溶融金属めっき装置20は、アルミニウムおよび亜鉛の少なくとも1種を含む溶融金属であるめっき浴21が貯留されるめっき槽22と、めっき浴21の表層部分に浸漬されて、めっき浴21の内に導入される鋼板Wの酸化を防止するためのスナウト23と、めっき浴21の中に配置されたシンクロール27と、めっき浴21の内でシンクロール27の上方に位置する一対のサポートロール28と、めっき浴21の表面より僅か上方に位置するワイピングノズル26とを有している。シンクロール27自体には外部駆動力が付与されず、走行する鋼板Wとの接触による摩擦力で矢印Eに示すように反時計回りに駆動される。またサポートロール28は、通例、外部のモーター( 図示せず) に連結された駆動ロールである。なお、サポートロール28には外部駆動力が付与されない無駆動タイプもある。溶融金属めっき浴用ロールであるシンクロール27及び一対のサポートロール28は、フレーム24・25に取り付けられたすべり軸受である軸受1・1により各々回転自在に支持されており、常に一体としてめっき浴21の内に浸漬される。
鋼板Wは、スナウト23を経てめっき浴21の内に斜方から進入し、シンクロール27を経由して上方に進行方向を変えられる。めっき浴21の中を上昇する鋼板Wは一対のサポートロール28に挟まれ、パスラインが保たれるとともに、反りや振動が防止される。ワイピングノズル26は、めっき浴21から出てきた鋼板Wに高速ガスを吹き付け、高速ガスのガス圧により、鋼板Wに付着した溶融金属めっきの厚さを均一に調整する。このようにして、溶融金属めっきが施された鋼板Wを得ることができる。ここで、シンクロール27には、めっき浴21における浮力および鋼板Wに付与されるテンションにより矢印Gで示すように左上方に向かう力が作用しており、シンクロール27を支持する軸受装置は、その左上方に向かう力を受けることとなる。
以下、セラミックス複合体の一例として、シンクロールを支持する軸受に組み込まれた摺動部材の具体的な構成を説明する。ここで、上述したように、摺動部材は、(1)第1のセラミックスからなる基体と、第2のセラミックスからなる部材とを各々別体として形成しておき、両者を組み合わせて構成した態様、(2)第1のセラミックスからなる基体中に粒子状の第2のセラミックスを一体的に分散して配置した態様、この2つの態様により実現される。以下の説明では、まず第1〜第7態様において前者の例の説明を行い、次いで、第8態様において後者の例の説明を行う。
[第1実施形態]
第1態様の摺動部材を含む図1の軸受1の構成について、図2〜4(a)・(b)を参照しつつ説明する。ここで、図2は、図1のシンクロール27および軸受1の一部が断面図である正面図である。図3(a)は、図2の軸受1および軸部27bを拡大した正面断面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。図4(a)は図3(a)のC部の拡大断面図、図4(b)は図3(b)において矢視B方向から見たD部の摺動面1kの展開図である。なお、以下、シンクロールを支持する軸受に組み込まれた摺動部材を例として本発明に係わるセラミックス複合体を説明するが、当該軸受に組み込まれる摺動部材は、サポートロールを支持する軸受にも適用することができ、さらに軸受と摺動する軸部にも適用することができる。また、図2に示す右側の軸受1と左側の軸受1とは同一であるので、右側の軸受1の構成について説明する。
[シンクロール]
まず、シンクロール27について、図2および図3(a)を参照し説明する。図2に示すように、シンクロール27は、めっき浴中を走行する鋼板が方向転換のために接触する外周面を有する外観が略円柱形状の胴部27aと、胴部27aと同軸に配置された軸部27bとを有し、軸部27bは、胴部27aの両端から、回転中心となる胴部27aの軸心Iに沿う方向(以下、軸心方向と言う。)に延びている。そして、軸部27bは、軸心方向において胴部27aと反対側に、軸心Iを中心とし、その周りに所定の半径で形成された外周面を有する略円柱形状の摺動部27cを備え、その外周面が軸受1の摺動面1kと摺動する摺動面27kとなる。なお、図3(a)において符号27dは、軸心方向にシンクロール27を支持するスラスト受け部である。シンクロール27の円滑な回転のためには、スラスト受け部27dの端は、図示するように凸に湾曲したR面であることが望ましい。
シンクロール27の胴部27aおよび軸部27bを構成する材料は、めっき浴に対する化学反応性が低く耐蝕性の高い材料であれば特に限定されないが、下記で詳述するようにめっき浴に対し特に耐蝕性に優れたセラミックスでシンクロール27を構成することが望ましい。一方で、セラミックスは金属と比較し熱伝導率および破壊靭性が低い。そのため、シンクロール27をセラミックスで構成した場合には、高温に加熱されためっき浴への浸漬時および引上時における急熱・急冷のために胴部27aおよび軸部27bが割損する可能性がある。そこで、急熱・急冷による過大な温度勾配の発生を抑制するため、胴部27aおよび軸部27bは図示するように中空部を有する円筒体とし、胴部27aの軸心Iに交差する方向(以下、半径方向と言う。)において一定の厚みを有する形態とすることが好ましく、さらに角部は緩やかなR形状とすることが望ましい。なお、胴部27aは、鋼板に接触する部分の外観が略円柱形状であればよく、他の部分は、めっき浴中のスラグの付着防止や回転バランスの調整などを考慮し適当な形状に設定すればよい。
[軸受]
次に、上記シンクロール27の軸部27bと摺動する軸受1について、図2〜図4(a)・(b)を参照して説明する。本態様の軸受1は、めっき浴が潤滑媒体として機能する軸受であり、主要な構成として、めっき浴21の中に延びる一対のアーム24(図1参照)の先端に取り付けられた保持部1dと、保持部1dに取り付けられたセラミックス複合体である摺動部材1aを有している。めっき浴21に対する耐蝕性が比較的高いステンレス等の金属で形成された保持部1dは、図3(b)に示すように、半径方向における断面視が下方開口の逆U字形状であり、底面から中央部に向かい延設された軸挿入部1qを有している。この軸挿入部1qは、略半円形状の上面1rと、その上面1rの両端から下方に延びた左側面1Gおよび右側面1sを有しており、軸部27bの摺動部27cは、軸挿入部1qに挿入される。
半径方向の断面形状が円環の四半部(一部)である略扇形状でセグメント状の摺動部材1aは、その内周面が、軸部27bの摺動面27kと摺動する摺動面1kとなっている。そして、摺動部材1aの摺動面1kは、軸心Iを中心としその周りに、摺動部27cの摺動面27kよりも幾分大きな半径となるよう形成されており、めっき浴21は、摺動面1kおよび27kの摺動界面に介在することにより潤滑媒体として機能することとなる。なお、軸部27bの摺動面27kと摺動部材1aの摺動面1kとの相互の摩擦により、使用につれ両者は徐々に磨耗する。したがって、摺動面1kには、新品の摺動部材1aの内周面のみならず、磨耗により形成された内周面も含まれる。
ここで、軸挿入部1qには、図3(b)に示すように、略半円形状をなす上面1rの左半球側に開口するよう、摺動部材1aの断面形状に対応した軸心方向に伸びる略扇形状の凹溝1pが形成されている。この凹溝1pに挿着された摺動部材1aは、軸心方向から固定部材1fで固定されるが、固定された状態において、摺動部材1aの摺動面1kは、軸挿入部1qの上面1rよりも内方に位置している。
このように、摺動部材1aの摺動面1kと軸挿入部1qの上面1rとの間に段差が設けられていることにより、摺動部材1aの摺動面1kと摺動しつつ回転する摺動部27cの摺動面(外周面)27kと、軸挿入部1qの上面1rおよび両側面1G・1sとの間には一定の間隙が形成される。そして、摺動部27cの回転に伴い、摺動面1kと27kとの摺動界面に存在するめっき浴21は上記間隙に排出され、また上記間隙に存在するめっき浴21は、摺動面1kおよび27kの摺動界面に供給されることとなる。これにより、摺動面1kと27kとの摺動界面に存在するめっき浴21が次々と入れ替わるため、例えばめっき浴21の反応物である所謂ドロスなどの高硬度な微小異物が当該摺動界面に滞留することが抑制され、摺動部材1aおよび軸部27bの磨耗を低減せしめることができる。
なお、本態様の軸受1では、上記のように保持部1dに設けた凹溝1pに軸受部1aを挿着し固定しているが、凹溝1pと軸受部1aとの挿着隙間に浸入しためっき浴21は溶融金属であるため、めっき浴21から軸受1を取出した後に凝固し、軸受部1aを破損させる可能性がある。そのため、軸受部1aおよび凹溝1pの挿着隙間にめっき浴が侵入しないようシール部を設けるか、浸入したとしても軸受1の取出時に容易にめっき浴が排出される隙間または溝部を設けておくことが好ましい。
図3(a)において符号1eは、摺動部27cが軸挿入部1qに配置された状態において、軸部27bの端に対向する位置に配置されたスラスト受けである。このスラスト受け1eは、操業中に軸心方向に移動するシンクロール27の軸部27bのスラスト受け部27dとの当接することにより、シンクロール27の軸心方向の位置決めを行う。
次いで、セラミックス複合体で構成された摺動部材1aについて詳細に説明する。第1態様の摺動部材1aは、図4(a)・(b)に示すように、MgまたはY、La、Nd、Eu、Ho、Er、Yb,Luその他周期律表第3族元素酸化物を焼結助剤とし周知の製造方法で形成された、第1のセラミックスである窒化珪素セラミックス(Si3N4)を焼結してなる基体1bと、摺動面1kとなる基体16の一面に開口するよう形成された略円柱形状の有底孔(孔部)1gに配置された、元素としてアルミニウム(Al)を含む第2のセラミックスであるアルミナ(Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)1cを有している。ここで、窒化珪素セラミックス(Si3N4)を焼結してなる基体1bの700℃における曲げ強度は400MPa以上であり、窒化珪素セラミックスに替えサイアロンセラミックス(Sialon)を使用してもよい。
個片状の焼結体である略円柱形状のアルミナまたは窒化アルミニウム1c(以下、本態様の説明において、当該形状のアルミナまたは窒化アルミニウム1cを円柱体1cと言う。)は、その露出した一方端面が摺動面1kを形成するように有底孔1gに挿着され固定されている。なお、有底孔1gおよび円柱体1cの形状は上記に限定されず、有底孔1gに挿着する円柱体1cの形態に合わせ適宜設定すればよい。しかしながら、めっき浴への浸漬時・引上時における急熱・急冷で生じる熱応力による摺動部材の破損を防止する点から、切り欠き部や形状の肉厚の急変部の少ない上記形態とすることが好ましい。
上記有底孔1gへの円柱体1cの固定方法は、例えば螺子などで機械的に固定してもよいが、部品点数を減ずるとともに摺動部材に形成される切り欠き部に起因する破損を防止するためには、摺動部材1aをハンドリングする際に生じる振動などで円柱体1cが有底孔1gから離脱しない程度の外径に円柱体1cを形成しておき、当該円柱体1cを有底孔1gへ挿入し固定することが望ましい。
さらに、円柱体1cは、アルミニウムや亜鉛の溶解温度域である100〜800℃の範囲における、基体1bを構成する窒化珪素セラミックスの熱膨張率(概ね2〜3×10−6/℃)と、近似した熱膨張率を有することが望ましい。具体的には、円柱体1cを形成する場合には、例えば商品名:アルシーマL(アスザック株式会社製、熱膨張率:2.1×10−6/℃)のように低熱膨張率の円柱体1cを使用すればよい。また、円柱体1cを窒化珪素セラミックスに近似した熱膨張率を有する窒化アルミニウム(熱膨張率:4〜5×10−6/℃)・ムライト(同:4.5〜5.5×10−6/℃)・コージェライト(同:1.4〜2.1×10−6/℃)で形成してもよい。このように基体1bに近似した熱膨張率を有する円柱体1cを使用することにより、両者の熱膨張差による円柱体1cの破損を抑制できる。なお、基体1bと円柱体1cとの熱膨張差の少ない場合には、有底孔1gの内径に対する比(以下、焼嵌率と言う場合がある。)で0.05/1000〜0.1/1000程度の締め代を有するよう円柱体1cの外径を形成しておき、円柱体1cを焼き嵌めまたは冷し嵌めにより有底孔1gに挿着し固定してもよい。
一方で、一般的なアルミナ(熱膨張率:7〜9×10−6/℃)で円柱体1cを形成する場合には、基体1bとの熱膨張差による円柱体1cの破損を防止するため、基体1bおよび円柱体1cの各々の熱膨張量を考慮し、有底孔1gとの嵌め合いを決定する必要がある。具体的には、溶融金属が溶融アルミニウムまたは溶融亜鉛である場合を想定すると、700℃における拡径した有底孔1gの内径を基準とし、当該内径と拡径した円柱体1cの外径との径差が、内径に対する比で0.05/1000〜0.1/1000の焼嵌率となるよう円柱体1cの外径を定めればよい。なお、このように高温域で定めた有底孔1gと円柱体1cとの嵌め合いが常温において緩み嵌めとなる場合には、有底孔1gからの円柱体1cの離脱を防止するため、例えば有底孔1gに耐熱性接着剤を塗布しておき、有底孔1gに挿着された円柱体1cを固定してもよい。
そして、上記のように有底孔1gに挿着され固定された円柱体1cは、図4(b)に示すように、摺動面1kとなるその一方端面が、摺動面1kの面積に対し1.0〜60.0%の面積比となるよう複数個配置されている。なお、円柱体1cの配置態様は、千鳥状に配置された図示の態様に限定されず、摺動面1kへ作用する負荷の状態に応じ、例えばその分布に疎密があるように配置してもよい。
[実施例1]
以下、上記第1態様の摺動部材について、具体的な実施例に基づき表1を参照しつつ説明する。
第1態様の摺動部材の耐摩耗性および耐熱衝撃性を評価するため、表1に示す試料1〜12を、次のようにして準備した。
まず、各試料を構成する基体について説明する。試料1〜10の基体は、窒化珪素セラミックスを使用して形成した。具体的には、原料粉末として、平均粒径が0.6μm、α化率が95%の窒化珪素質粉末95質量%と、平均粒径1μmのY2O3粉末3質量%、平均粒径0.1μmのMgO粉末2質量%とを、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合した。得られたスラリーにバインダーとしてポリビニルブチラールを1%添加した後、スプレードライヤーで乾燥して、造粒粉を作製した。得られた造粒粉を平均粒径60μmになるように篩いわけした後、100MPaの圧力で冷間静水圧プレス(CIP)により造粒粉を成形し、扇形状の成形体を得た。CIP法により得られた成形体を大気雰囲気中、500℃、20時間の条件で脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1750℃、5時間の条件で焼結し、その後、加工を施すことにより、一部に断面を示す平面図である図10(b)に示すように、内径(d1)152mm、外径(d2)162mm、紙面に垂直な方向の厚さ5mmの円環の4半部である扇形状の試料1〜10の基体1bを得た。
窒化珪素セラミックスで形成した試料1〜10の基体の700℃における曲げ強度は、JISR1604に基づき、上記と同一条件で製作した3mm×4mm×36mmの角柱形状の試験片を10個準備し、各々、700℃の大気雰囲気の炉内で、荷重速度0.5mm/minの条件で4点曲げ試験を行い求めた。10個の試験片の曲げ強さの平均値は920MPaであった。また、試料1〜10の熱膨張率は、JISR1618に基づき、上記と同一条件で製作した5×5×10mmの試験片を10個準備し、各々、熱機械分析装置(TMA)により、35℃と600℃間の平均線熱膨張率を測定した。10個の試験片の平均線熱膨張率の平均値は、3.0×10−6/℃であった。
試料11および12の基体は、サイアロンセラミックスを使用し形成した。具体的には、原料粉末として、BET比表面積が7m2/g、α化率が90%のSi3N4粉末84.0質量%と、平均粒径が2.5μmのAlN固溶体粉末(組成6AlN・SiO2)を3.0質量%と、平均粒経が1.2μmのY2O3粉末を7.0質量%と、平均粒経が0.6μmのAl2O3粉末を5.0質量%と、平均粒経が1.0μmのSiO2粉末を1.0質量%を、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合した。得られたスラリーにバインダーとしてポリビニルブチラールを1%添加した後、スプレードライヤーで乾燥して、造粒粉を作製した。得られた造粒粉を平均粒径60μmになるように篩いわけした後、100MPaの圧力で冷間静水圧プレス(CIP)により成形し、扇形状の成形体を得た。CIP法により得られた成形体を大気雰囲気中、500℃、20時間の条件で脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1750℃、5時間の条件で焼結し、その後、加工を施すことにより、図10(b)に示すように、内径(d1)152mm、外径(d2)162mm、紙面に垂直な方向の厚さ5mmの円環の4半部である扇形状の試料11・12の基体1bを得た。その試料11・12について上記と同様に求めた700℃の曲げ強さおよび熱膨張率は、各々900MPa、3.0×10−6/℃であった。
そして、図10(b)に示すように、上記基体1bには、表1の面積比となるよう、下記説明する評価試験で摺動面となる面積が90683mm2の内周面1kに、内径(d3)3mmで深さ(L)が5mmの有底孔1gを、当該面積比に合わせた個数形成した。
次に、円柱体について説明する。試料1〜8および11・12の円柱体は、アルミナで形成した。具体的には、熱膨張率が7.4×10−6/℃のアルミナ焼結体を入手し、円柱体を形成した。なお、円柱体の外径は、700℃における円柱体と基体の熱膨張量を考慮し、700℃における拡径した有底孔の内径(d3)3.0063mmを基準とし、当該内径と拡径した円柱体の外径との径差が、内径に対する比で0.08/1000となるよう形成した。室温における円柱体の外径は、2.991mmであり、常温において挿着した場合、ハンドリングの際に有底孔から抜け出ることはなかった。
試料9・10の円柱体は、窒化アルミニウムで形成した。具体的には、熱膨張率が5.0×10−6/℃の窒化アルミニウム焼結体を入手し、円柱体を形成した。窒化アルミニウムで形成された円柱体は、熱膨張率が、基体を形成した窒化珪素と近似しているので、有底孔の内径に対し焼嵌率が0.06/1000となるようその外径を形成した。
図10(b)に示すように、上記のように形成した円柱体1cを、表1の基体と円柱体の組合せおよび面積比となるよう基体1bの内周面1kに形成された有底孔1gに挿着し固定し、符号Tで示すように、セラミックス複合体である試料1〜12を得た。
摺動部材としての耐摩耗性と耐熱衝撃性を確認するため、各試料Tについて、それらのめっき浴中における摩擦磨耗試験を行った。具体的には、めっき浴中摩擦磨耗試験機80の概略構成図である図10(a)に示すように、黒鉛製の坩堝82に貯留され加熱コイル81で加熱されるめっき浴21に円柱形状の被摩擦物83を浸漬し、矢印Mの方向に回転させる。そして、回転する被摩擦物83の外周面に、所定の荷重で試料Tの摺動面1kを押し付け、所定時間おきに摺動面1kの磨耗量をマイクロメータで測定した。なお、不図示のモーターに回転される回転軸84の先端に固定された被摩擦物83は、試料1〜10と同様な製造方法で形成した窒化珪素セラミックス焼結体であり、直径d4が150mmとなるよう加工したものを使用し、その回転数は、50rpmとした。また、試料Tへ負荷する荷重は490Nとし、カンチレバー86の支点85を介し右側に配置されたウエイト87の重量を適宜設定し、調整した。さらに、表1に示すように、めっき浴21として、溶融アルミニウムめっき浴と、溶融亜鉛めっき浴の2種のめっき浴21を使用した。前者の保持温度は700℃であり、後者の保持温度は480℃であった。
上記の条件で、試料1〜12の摩擦磨耗試験を行った結果を表1に示す。なお、耐摩耗性の評価は、試験開始後24時間における試料1の磨耗量を1とし「×」とし、試料1に対し1/2以下の磨耗量となった場合を「△」、1/5以下の磨耗量となった場合を「○」、1/10以下の磨耗量となった場合を「◎」とした。なお、「−」は、その時間内に試料の破損のため評価ができなかった試料である。また、耐熱衝撃性の評価は、試験開始直後に破損した場合を「×」、24時間までに破損した場合を「△」、24時間を越えた場合を「○」とした。
試料1〜12を用いた本実施例1により下記の知見が得られた。基体を構成するセラミックスが窒化珪素またはサイアロン、円柱体を構成するセラミックスがアルミナまたは窒化アルミニウム、めっき浴が溶融アルミニウムまたは溶融亜鉛、いずれの場合でも、試料1〜12の摺動面(内面)に1.0〜60.0%の面積比で円柱体の端面が配置されている場合には、当該摺動面の磨耗量が少なく、かつ耐熱衝撃性も高いことが確認された。一方で、当該面積比が下限外の場合には磨耗が多く、上限外の場合には、試料が破損してしまうことが確認された。
[第2実施形態]
本発明に係わる第2態様の摺動部材2aについて、図4(c)を参照しつつ説明する。ここで、図4(c)は、図3(b)において矢視B方向から見たD部の摺動面1kの展開図である。なお、上記第1態様の摺動部材1aと同一の外形である第2態様の摺動部材2aは、当該摺動部材1aと同様に、図3に示す軸受1に組み込まれて使用されるものである。したがって、第2態様の摺動部材2aの軸受1への配置態様などの説明は省略し、また、図4(c)において第1態様の摺動部材1aと同一の構成要素には同一符号を付しており、その詳細な説明も省略する(以下説明する第3〜第8態様の摺動部材3a〜8aについて同様)。
本態様の摺動部材2aは、元素としてアルミニウム(Al)を含む第2のセラミックスの形態および基体1bの摺動面1kへの配置態様が、第1態様の摺動部材1aと相違している。すなわち、本態様の第2のセラミックスであるアルミナ2cは棒形状または帯形状に形成された焼結体(以下、本態様の説明において、当該形状のアルミナ2cを棒状体12と言う)であり、軸芯方向に沿い摺動面1kに開口するよう当該摺動面1kに延設された複数の溝部2gに挿着され固定されている。なお、各々が平行に形成された複数の溝部2gへの棒状体2cの固定は上記円柱体1cと同様に行ってよく、また軸芯方向において摺動面1kの両端まで形成された溝部2gに棒状体2cを挿着し、棒状体2cの両端部を機械的に固定するようにしてもよい。
[第3実施形態]
本発明に係わる第3態様の摺動部材3aについて、図4(d)を参照しつつ説明する。ここで、図4(d)は、図3(a)においてC部の拡大断面図である。第3態様の摺動部材3aは、所望の面積比となるよう基体1bの摺動面1kに形成された有底孔1gに配置された第2のセラミックスであるアルミナ3cが、溶射により成膜されている点で、第1態様の摺動部材1aと相違する(以下、本態様の説明において、当該形態のアルミナ3cを成膜部3cと言う。)。なお、プラズマ溶射・ガス溶射・アーク溶射など溶射方法は特に問わないが、互いにセラミックスからなる成膜部3cと基材1bとの密着性を高めるためにはプラズマ溶射を行うことが好ましい。また、成膜部3cは、溶射の他に、例えば物理蒸着法(PVD)・化学蒸着法(CVD)その他の成膜法で形成してもよい。さらに、アルミナ原料粉末を含むスラリーを基体1bの摺動面1kに塗布するか、基体1bを酸化物中に浸漬するか、スプレーにより基体1bの摺動面1kに酸化物層を形成させ焼成し焼付けるなどして、成膜部3cを形成してもよい。そして、プラズマ溶射により有底孔1gに充填されるように成膜部3cが形成された基体1bを、その摺動面1kが露出するように当該摺動面1kよりも下方にある成膜部3hを機械加工等で除去することで、めっき浴に接触される摺動面(一面)1kに、アルミナで構成された成膜部3cが1.0〜60.0%の面積比で配置されている摺動部材3aを得ることができる。
有底孔1gと成膜部3cとの密着性を高めるために、有底孔1gの表面は、粗面化あるいは反応性を上げる処理を施すことが望ましく、具体的には、サンドブラストなどによる研磨加工、空気中における加熱による酸化あるいはフッ化水素酸等によるエッチングなどを施すことが好ましい。そして、これらの処理を施した後の有底孔1gの表面粗さは、JIS−0601で、十点平均粗さ(記号Rz)が1.5μm以上、中心線平均粗さ(記号Ra)が0.2μm以上であることが、有底孔1gと成膜部3cとの密着性の観点から望ましい。さらに、基体1bと成膜部3cとの熱膨張差による摺動部材3aの破損を防止するため、両者の熱膨張率の中間の熱膨張率をもつ下地層を有底孔1gの表面に形成しておき、その下地層の表面に成膜部3cを形成してもよい。具体的には、基体1bを熱膨張率が2〜3×10−6/℃程度の窒化珪素セラミックスで、成膜部3cを熱膨張率:7〜9×10−6/℃程度のアルミナで構成した場合には、窒化アルミニウム(熱膨張率:4〜5×10−6/℃)やムライト(同:4.5〜5.5×10−6/℃)からなる下地層を溶射で形成しておけばよい。
[第4実施形態]
本発明に係わる第4態様の摺動部材4aについて、図5を参照しつつ説明する。ここで、図5(a)は、図3(a)においてC部の拡大断面図であり、図5(b)は、図3(b)において矢視B方向から見たD部の摺動面1kの展開図である。第4態様の摺動部材4aは、(1)第1のセラミックスである窒化珪素セラミックスを焼結してなる基体4bの表層部4rが多孔質である点、(2)基体4bの摺動面1kに開口する気孔4gに第2のセラミックスであるアルミナ4cが充填され配置されている点で、第1態様の摺動部材1aと相違する(以下、本態様の説明において、当該形態のアルミナ4cを充填部4cと言う)。
ここで、摺動部材4aにおいて、めっき浴に接触される摺動面(一面)1kに、アルミナで構成された充填部3cを1.0〜60.0%の面積比で配置するためには、基体4bの摺動面1kに開口する開気孔の気孔率が当該面積比に対応していればよい。一方で、700℃における基体4bの曲げ強度を400MPa以上とするためには、当該気孔率で気孔が存在する表層部4rの厚みNは5mm以内であることが好ましく、これよりも深い範囲Oである本体部4sの相対密度は90%以上であることが好ましい。また、気孔4gの開口径は、0.5〜10.0μmであることが好ましい。0.5μm未満の場合には摺動部材としての耐摩耗性が低下し、10.0μmを超える場合には、充填部3cを構成するアルミナがより剥離しやすくなり同様に耐摩耗性が低下する。
上記摺動部材4aの製造方法について説明する。基体4bにおいて本体部4sとなる略扇形状の窒化珪素セラミックス焼結体は、下記説明する表層部4rの厚みを考慮し、上記第1態様の基体1bと同一の製造方法で形成すればよい。
上記のようにして得られた本体部4sの内周面に多孔質の表層部4rを形成する。表層部4rを形成する具体的な方法としては、直接窒化法を用いることができる。すなわち、金属珪素粉末および窒化珪素粉末を準備し、これにメタノールなどを添加してスラリーを調製する。次いで、このスラリーを本体部4sの内周面に、はけ塗り、浸漬塗布などで塗布する。スラリーを塗布して十分に乾燥したものを窒素中で1000〜1400℃で加熱処理する。この加熱処理によって、金属珪素と雰囲気の窒素が反応し窒化珪素が生成する。この窒化反応によれば、焼結助剤を何ら含まないことから、緻密化することなく、金属珪素粉末の粒度、金属窒化粉末と窒化珪素粉末の混合比、焼結条件などを調整することにより、摺動面(一面)1kに開口する気孔の気孔率が1.0〜60.0%である表層部4rを形成することができる。また表層部4rの厚みは本体部4sの表面へのスラリーの塗布に際し、乾燥および塗布を繰り返すことにより任意の厚みに制御できる。
本体部4sの内周面に表層部4rが形成された基体4bの当該表層部4rの気孔4gに、溶融アルミニウムを含浸させ、気孔4gにアルミニウムを充填する。溶融アルミニウムを含浸する方法としては、高圧鋳造(スクイズキャスティング)法により1トン程度の圧力において行うことが好ましく、具体的には、基体4bを金型に入れ、800℃で溶融させたアルミニウムを100MPaに加圧して気孔4gに充填すればよい。なお、溶融アルミニウムの含浸にあたり、カプセルHIP法を使用することも可能である。この場合には、カプセルはアルミニウムよりも高い融点を有する金属を使用する。
上記のように気孔4gに充填されたアルミニウムを加熱することにより酸化し、アルミナで構成された充填部4cを形成する。具体的には、アルミニウムが含浸された基体4bを、酸素雰囲気、好ましくは富酸素雰囲気において加熱処理すればよい。なお、摺動面1kを走査しながらレーザを照射し、加熱処理を行ってもよい。以上説明した製造方法により、めっき浴に接触される摺動面(一面)1kに、アルミナで構成された充填部4cが1.0〜60.0%の面積比で配置されている摺動部材4aを得ることができる。
[第5実施形態]
本発明に係わる第5態様の摺動部材5aについて、その正面図である図6(a)を参照しつつ説明する。第5態様の摺動部材5aは、摺動面1kにおいて、焼結体である基体5bを構成する第1のセラミックスである窒化珪素セラミックスと、第2のセラミックスであるアルミナ5cとが交互に層状に配置されている点で、第1態様の摺動部材1aと相違する。
具体的には、第5態様の摺動部材5aは、軸芯Iの方向から見た場合に略扇形板状の窒化珪素セラミックスを焼結してなる基体5bと、軸芯Iの方向から見た形状が基体5bと同一形状の焼結体であるアルミナ5c(以下、本態様の説明において、当該形態のアルミナ5cを板状部5cと言う。)を有し、基体5cと板状部5cは、その内周面が一致するよう軸芯方向において交互に配置され、当該内周面が摺動面1kとなっている。そして、この構成において、軸芯方向における板状部5cの厚みを適宜調整することにより、めっき浴に接触する摺動面1kには、第2のセラミックスであるアルミナで構成された板状部5cの内周面が1.0〜60.0%の面積比で配置される。
なお、基体5bと板状部5cとの熱膨張差による摺動部材5aの破損を防止するため、両者の熱膨張率の中間の熱膨張率をもつ中間部5mを両者の間に配置してもよい。具体的には、基体5bを熱膨張率が2〜3×10−6/℃程度の窒化珪素セラミックスで、板状体5cを熱膨張率:7〜9×10−6/℃程度のアルミナで構成した場合には、窒化アルミニウム(熱膨張率:4〜5×10−6/℃)やムライト(同:4.5〜5.5×10−6/℃)からなる中間部5mを設けておけばよい。
上記摺動部材4aの製造方法について説明する。まず、周知の製造方法で、略扇形状の窒化珪素セラミックスからなる基体5bの成形体と、基体5bと同一形状のアルミナからなる板状部5cの成形体を準備する。なお、必要な場合には、基体5bおよび板状部5cと同一形状に形成された中間部5mの成形体も準備しておくとよい。
次いで、基体5b、板状部5cおよび必要な場合には中間部5mの成形体を、その内周面が一致する状態で、軸芯方向に沿い密着するように積層し、常圧の窒素雰囲気中で1500〜1700℃、5〜10時間の条件で焼結し、一体化する。その後、加工等を施すことにより、図6(a)に示す第5態様の摺動部材5aを得ることができる。
[第6実施形態]
本発明に係わる第6態様の摺動部材6aについて、その側面図である図6(b)を参照しつつ説明する。第6態様の摺動部材6aは、上記第5態様の摺動部材5aと同様に、摺動面1kにおいて、焼結体である基体6bを構成する第1のセラミックスである窒化珪素セラミックスと、第2のセラミックスであるアルミナ6cとが交互に層状に配置されているが、第2のセラミックスの具体的な配置の態様が第5態様の摺動部材5aと相違する。
すなわち、図6(b)に示すように、第6態様の摺動部材6aは、半径方向の断面形状が略扇形状で同一の外径および内径を有し、軸芯方向に棒形状に伸びる、第1のセラミックスである窒化珪素セラミックスを焼結してなる複数の基体6bと、半径方向の断面形状が基体6bと同一であり、基体6bと同一寸法で軸芯方向に伸びる棒形状の焼結体であるアルミナ6c(以下、本態様の説明において、当該形態のアルミナ6cを棒状部5cと言う。)を有し、基体5cと板状部5cは、その内周面が一致するよう円周方向において交互に配置され、当該内周面が摺動面1kとなっている。そして、この構成において、円周方向における棒状部6cの厚みを適宜調整することにより、めっき浴に接触する摺動面1kには、第2のセラミックスであるアルミナで構成された棒状部6cの内周面が1.0〜60.0%の面積比で配置される。
上記摺動部材6aの製造方法は、第5態様の摺動部材5aの製造方法と同様であるので省略するが、第5態様の摺動部材5aと同様に、基体6bと板状部6cとの熱膨張差による摺動部材6aの破損を防止するため、両者の熱膨張率の中間の熱膨張率をもつ中間部5mを両者の間に配置してもよい。
[第7実施形態]
本発明に係わる第7態様の摺動部材7aについて、その正面断面図である図7(a)および図7(a)のF−F断面図である図7(b)を参照しつつ説明する。第7態様の摺動部材7aは、セラミックスで構成された摺動部材7aそのものが軸受7であり、金属製の保持部を有していない点で第1態様の軸受1と相違しているが、摺動部材としての構成は基本的に同様である。
図7(a)に示すように、軸心Iに沿う断面視が略コの字状である第7態様の摺動部材7a(軸受7)は、軸心Iの方向から眺めた場合に中央部に形成された小径孔部7nと、軸芯方向において、軸部の摺動部27cが挿入される開口から所定範囲に、小径孔部7nと同軸に形成された大径孔部7gとを備える、第1のセラミックスである窒化珪素セラミックスを焼結してなる基体7bを有している。そして、基体7bの大径孔部7gには、第2のセラミックスであるアルミナ7cが、略円筒形状の焼結体として挿着され固定されている(以下、本態様の説明において、当該形態のアルミナ7cを円筒体7cと言う。)。ここで、円筒体7cの内径は小径孔部7nの内径と同一径であり、大径孔部7gに挿着された円筒体7cの内面は、小径孔部7nの内面とともに軸部の摺動部27cと摺動する摺動面1kとなる。かかる構成の摺動部材7aによれば、軸芯方向における円筒体7cの長さを適宜調整することにより、めっき浴に接触する摺動面1kには、第2のセラミックスであるアルミナで構成された円筒体7cの内周面が1.0〜60.0%の面積比で配置され、摺動部材7aの左側の開口から挿入された軸部の摺動部27cは、その外径よりも大きな内径を有する摺動面1kで支承されつつ回転することとなる。
第7態様の摺動部材7aを構成する基体7bおよび円筒体7cの製造方法は、基本的に第1態様の摺動部材1aと同様であり、詳細な説明を省略する。また、基体7bの大径孔部7gへの円筒体7cの固定方法は、第1態様の円柱体1cと同様に、基体7bおよび円筒体7cの各々を構成するセラミックスの熱伝導率を勘案し、決定すればよい。
なお、図7(a)に示すように、本態様の軸受7(摺動部材7a)には、稼動中に水平方向へ移動するシンクロールの軸部の端面を受け水平方向の位置を保持するために、右端に軸受端部7dが配置されているが、軸受端部7dを設けず、小径孔部7nを右端まで延設してもよい。また、上記のように軸受7に軸受端部7dを設ける場合には、ドロスなどの異物が軸受7の内部に滞留することを抑制するため、小径孔部7nの左端から軸受端部7dに至るまでの領域に配置された、小径孔部7bと比べて内径の大きな液溜部7eと、軸心Iに沿い軸受端部7dを貫通するように形成された開口部7fとを設けておくことが好ましい。この構成により、軸受7に軸部が挿入された場合であっても、めっき浴は液溜部7eに自由に出入りでき、軸受と軸部との摺動界面を循環する。
[第8実施形態]
本発明に係わる第8態様の摺動部材8aについて、図8を参照しつつ説明する。ここで、図8(a)は、図3(a)においてC部の拡大断面図であり、図8(b)は、図3(b)において矢視B方向から見たD部の摺動面1kの詳細な展開図である。なお、図8(b)は、基体8bの表面である摺動面1kの詳細図であるが、理解のためハッチングを付している。
上記第1〜第7態様の摺動部材1a〜7aは、第1のセラミックスからなる基体と、第2のセラミックスからなる部材とを各々別体として形成しておき、両者を組み合わせて構成した態様であった。一方で、第8態様の摺動部材8aは、第1のセラミックスからなる基体中に粒子状の第2のセラミックスを一体的に分散して配置した態様である。すなわち、本態様の摺動部材8aは、図8(b)に示すように、第1のセラミックスを焼結してなる700℃における曲げ強度が400MPa以上の基体8bと、基体8b中に配置された、元素としてアルミニウム(Al)を含む第2のセラミックス8cとで構成された摺動部材(セラミックス複合体)であって、めっき浴(溶融金属)に接触される摺動面(一面)1kを有し、当該摺動面1kには、第2のセラミックス8cが、1.0〜60.0%の面積比で配置されており、第2のセラミックス8cは粒子状をなし(以下、本態様の説明において、当該形態の第2のセラミックス8cを粒状部8cと言う。)、基体8bを構成する第1のセラミックスと一体的に焼結されているとともに、基体8bの中に分散した状態で配置されており、摺動面1kの任意の複数箇所に設定された500μmの矩形領域における、粒状部8cの面積比の変動係数が5以下である。
かかる摺動部材8aによれば、上記第1〜第7態様の摺動部材1a〜7aと同様に、第1のセラミックスを焼結してなる基体8bの700℃における曲げ強度が400MPa以上と、高温のめっき浴への浸漬または引上げ時における熱衝撃に対し充分な高温強度を有し、摺動部材8aの耐熱衝撃性を高めその破損を防止でき、元素としてアルミニウム(Al)を含む粒状部8cが、めっき浴に接触する摺動面1kに1.0〜60.0%の面積比で配置されているので、当該摺動面1kの耐摩耗性を高めることができる。さらに、本態様の摺動部材8aは、粒子部8cは分散した状態で、基体8bを構成する第1のセラミックスと一体的に焼結されており、加えて、摺動面1kの任意の複数箇所に設定された500μmの矩形領域における粒状部8cの面積比の変動係数、すなわち複数箇所の粒状部8cの面積比の標準偏差を平均値で除した値が5以下であり、ミクロな領域においても粒子部8cが均一に配置されているので、摺動部材としての耐熱衝撃性および耐磨耗性をより高めることができる。
なお、基体8bを構成する第1のセラミックスは、第1〜第7態様の摺動部材1a〜7aと同様に、所定の曲げ強度を満足すれば酸化物・窒化物・炭化物・硼化物その他各種のセラミックスを使用することができるが、優れた高温強度を有する窒化珪素質セラミックス(窒化珪素セラミックスまたはサイアロンセラミックス)を使用することが好ましい。窒化珪素質セラミックスで基体8bを形成した場合には、図8(b)に示すように、基体8bのミクロ組織は、主相である柱状をなす窒化珪素粒子8iと窒化珪素粒子8iの相互間に存在する焼結助剤からなる粒界相8jで構成されている。
また、粒状部8cを構成する第2のセラミックスは、ムライト(3Al2O3・2SiO2)・スピネル(MgO・Al2O3)・コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)・アルチック(Al2O3−TiC)・アルミナチタニア(Al2O3−TiO2)・アルミナジルコニア(Al2O3−ZrO2)その他元素としてアルミニウム(Al)を含むセラミックスであればよいが、容易に入手可能で熱伝導率および高温強度が比較的高いアルミナ(Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を使用することが、工業生産上、コスト面から好ましい。そして、図8(b)に示すように、粒状部8cは、基体8bを構成する窒化珪素粒子8iのマトリックスの中に、分散した状態で一体的に配置されている。
なお、個々の粒状部8cの最大径は10μm以下であることが望ましい。粒状部8cの最大径が10μmを超える場合には、粗大な粒状部8cが切り欠きとなり、粒状部8cを起点とした摺動部材8aの破損が生じる可能性がある。一方で、粒状部8cの最大径の下限には特段の制限はないが、1μm未満の粒状部8cを形成するためには非常に細粒化された第2のセラミックスの原料粉を用いる必要があり、工業生産上コスト高となり好ましくない。
また、図8(b)において符号8Lで示すように、粒状部8cが凝集した凝集部8Lが存在する場合には、その最大径(凝集した粒状部8cを含むように設定した最小円の径)は、50μm以下であることが望ましい。凝集部8Lの最大径が50μmを超えると、粒状部8cの分布に粗密ができ、粒状部8cの分布が疎の部分の摺動面1kが選択的に磨耗し、その結果、摺動面1kが粗面化して摺動抵抗が高まり、シンクロールの回転の安定性が損なわれるからである。
さらに、図8(a)に示すように、摺動部材8aは、摺動面1kからの深さがFの範囲に配置され上記面積比で粒状部8cが配置された摺動面1kを含む表層8tと、摺動面1kからの深さが表層8tよりも深い範囲Gに配置され粒状部8cをほぼ含まない内層8vと、摺動面1kからの深さが表層8tと内層8vとの間であるGの範囲に配置され、表層8tから内層8vに向かう方向に序々に粒状部8cの面積比が減少する傾斜層8uを有することが望ましい。
かかる好ましい態様の摺動部材8aによれば、表層8tの摺動面1kには1.0〜60.0%の面積比で粒状部8cが配置されているので所望の耐摩耗性を確保できる一方で、粒状部8cをほぼ含まない内層8vは高温強度が高い第1のセラミックスで構成されているので、摺動部材8aの耐熱衝撃性を高めることができる。そして、窒化珪素質セラミックスとアルミナとの組合せのように第1のセラミックスと第2のセラミックスの熱膨張率の差異が大きい場合であっても、表層8tと内層8vとの間に粒状部8cの面積比が傾斜する傾斜層8uを設け、当該傾斜層8uの熱膨張率を表層8vから内層8vに向け傾斜させることにより、表層8tと内層8vとの熱膨張差による摺動部材8aの破損を抑制することができる。
[実施例2]
以下、上記第1態様の摺動部材について、具体的な実施例に基づき表2および図9を参照しつつ説明する。
第8態様の摺動部材の耐摩耗性および耐熱衝撃性を評価するため、表2に示す試料13・14を、次のようにして準備した。なお、表2には、参考のため、上記実施例1の試料2の結果を併せて示している。
窒化珪素セラミックスからなる基体中にアルミナからなる粒状部を分散させた試料13は、次のようにして作製した。
図9(a)で符号S11で示す窒化珪素造粒工程において、原料粉末として、平均粒径が0.6μm、α化率が95%の窒化珪素質粉末95質量%と、平均粒径1μmのY2O3粉末3質量%、平均粒径0.1μmのMgO粉末2質量%とを、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合した(窒化珪素原料調整工程)。次いで、符号S12で示すように、得られたスラリーにバインダーとしてポリビニルブチラールを1%添加した後、スプレードライヤーで乾燥して造粒粉を作成した。得られた造粒粉を平均粒径60μmになるように篩い分けし、篩い分けして得られた造粒粉の全量を2部に分割した。
摺動部材の摺動面に粒状部が面積比で2%を目処に配置されるよう、符号S13で示す混合工程において、上記2部に分割した造粒粉の1部100重量部に対し、平均粒径が2.0μmで純度が99.7%のアルミナ粉を3重量部、バインダーとしてポリビニルブチラールを0.5重量部添加し、窒化珪素質のボールを用いたアトライタ中で乾式混合して、混合粉を得た。なお、アルミナ粉を3重量部添加するのは、焼成工程においてアルミナ粉中のアルミニウムの一部が窒化珪素に取り込まれ固溶し、減少するからである。
その後、符号S14で示す成形工程において、100MPaの圧力で冷間静水圧プレス(CIP)により混合粉を成形し、扇形状の成形体を得た。具体的には、図9(b)に示すように、まず、上記2部に分割した造粒粉のうちアルミナ粉を混合しない1部の造粒粉を円筒形状のゴム形と芯金の間に充填してCIPを行い、成形体93を形成した。その後、CIPの静水圧を常圧に戻し、スプリングバックにより拡径した成形体93の内周面と芯金92の外周面の間に形成された隙間94に、上記のように調整した混合粉95を充填し、再度CIPを行った。なお、スプリングバックによる拡径量が少なく隙間94の大きさが不足する場合には、直径のより小さな芯金92に交換し、混合粉95を充填すればよい。このように2回のCIPを行うことにより、アルミナ粉を含む混合粉が成形体93と一体的に成形され、内周部においてアルミナ粉が富の領域を持つ成形体を得た。
符号S15で示す焼成工程において、CIP法により得られた成形体を大気雰囲気中、500℃、20時間の条件で脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1750℃、5時間の条件で焼結した。その結果、図8(a)に示すように、粒状部8cが富である表層8t、粒状部8cをほぼ含まない内層8vおよび表層8tから内層8vに向かう方向に序々に粒状部8cの面積比が減少する傾斜層8uを有する摺動部材8aが形成された。
その後、加工を施すことにより、一部に断面を示す平面図である図10(b)に示すように、内径(d1)153mm、外径(d2)162mm、紙面に垂直な方向の厚さ5mmの円環の4半部である、内周面が摺動面1kとなる扇形状の試料13を得た。
作成した試料13の摺動面1kにおける粒状部8c(図8(b)参照)の面積比は、当該摺動面1kの任意の10箇所に設定された500μmの矩形領域において、電子線マイクロアナライザー(EPMA)でアルミニウムの分布の面分析を行い、各箇所の面積比の平均値とした。また、摺動面1kにおける粒状部8cの変動係数は、上記のように測定して得られた各箇所の面積比の標準偏差を平均値で除して求めた。試料13の粒状部8cの面積比は1.9%であり、その変動係数は2.8であった。また、粒状部8cの最大径および粒状部8cの凝集部の最大径も、当該面分析の結果から求め、各箇所で測定された粒状部8cおよび凝集部の最大径の平均値は、各々1.8μm、13.2μmであった。
試料14は、上記と同一の窒化珪素原料調整工程S11と窒化珪素造粒工程S12とを行い、得られた造粒粉にアルミナ粉を混合する混合工程S13を経ることなく、基本的に上記と同一の成形工程S14(但し、CIPは2回行わず、1回のみである。)および焼成工程S15を行うことにより、形成した。これにより、窒化珪素セラミックスで構成された基体のみからなり粒状部を含まない試料14を得た。
試料13の基体および試料14の700℃における曲げ強度は、上記アルミナ粉を混合しない造粒粉を使用し、実施例1と同様に試験片を作製して求めた。試料13・14の700℃における曲げ強度は、920MPaであった。また、試料13・14のめっき浴中における摩擦磨耗試験も、実施例1と同様に行った。その結果を表2に示す。なお、摩擦磨耗試験における耐摩耗性の評価および耐熱衝撃性の評価は、実施例1と同様である。
実施例2により以下の知見が得られた。窒化珪素セラミックスで構成された基体を有するとともにめっき浴に接触される摺動面にアルミナ(第2のセラミックス)である粒状部が1.9%の面積比で配置された試料13は、2.2%の面積比で円柱体が配置された実施例1の試料2に対して耐摩耗性がより向上し、第8態様の摺動部材が、耐摩耗性の点でより優れていることが確認された。一方で、アルミナ(第2のセラミックス)を含まず窒化珪素セラミックスのみで形成された試料14は、耐摩耗性が低かった。