以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
まず図1を参照して、本発明の実施の形態に係る硬貨処理装置1の主要部分である一時保留部まわりの構成を説明する。図1は、硬貨処理装置1を構成する一時保留部まわりの概略構成図である。本実施の形態における硬貨処理装置1は、典型的には駅に設置される循環式の硬貨処理装置である。図1には、利用者から投入された硬貨Cを一時的に保留する入金一時保留部10と、係員によって硬貨処理装置1に補給された硬貨Cを一時的に保留する補給一時保留部30とが示されているが、まず、入金一時保留部10の構成を説明する。
入金一時保留部10は、投入された硬貨Cを収容する保留筒11と、保留筒11を回動可能に支持する支持部材13と、保留筒11内の硬貨Cを支持するシャッタ15と、シャッタ15を移動させるシャッタ移動機構としての移動機構20とを備えている。入金一時保留部10は、以下に説明する構成により、保留筒11内に収容されている硬貨Cを、第1の空間としての出金空間S1か、第2の空間としての収納空間S2かに、選択的に放出することができるように構成されている。出金空間S1及び収納空間S2は、入金一時保留部10の下方に形成されており、保留筒11から放出された硬貨Cは重力で出金空間S1又は収納空間S2に導かれるように構成されている。
保留筒11は、基本形状が円筒状に形成された部材である。保留筒11は、両端が開口しており、標準状態の位置(定位置)において、両端の開口が鉛直上下に位置するように配置されている。保留筒11は、複数の硬貨Cを保留筒11の軸線11aが延びる方向に1列に積み重ねられた状態で収容することができるように、収容する硬貨Cの外径よりも一回り大きい内径を有するように構成されている。ここでいう一回り大きいとは、保留筒11に入った硬貨Cが、硬貨Cの面の垂線が軸線11aに対して平行な状態で落下するのを妨げることなく、かつ、保留筒11内に収容された複数の硬貨Cを許容範囲で整列させることができる大きさである。保留筒11は、硬貨Cの流入を円滑にするため、上部(本実施の形態では上部1/3程度)の内径が、上方に進むにつれて大きくなるように構成されている。保留筒11は、内部の状態を視認しやすくする観点から、透明の材料で形成されていることが好ましい。保留筒11が透明の材料で形成されていると、保留筒11を回動させて復旧すべき硬貨Cの集積の不具合等が発生しているかを容易に確認することができる。保留筒11の下部には、ガイド12が取り付けられている。ガイド12の詳細は後述する。
支持部材13は、板状の部材で形成されている。支持部材13は、上部が保留筒11の側面に固定されており、下部が筐体(不図示)に支持された軸19に枢支されている。支持部材13が軸19に支えられる位置は、保留筒11よりも下方となっている。支持部材13は、軸19に枢支されていることにより、軸19の芯上の点である回動中心13cまわりに回動することができるように構成されている。保留筒11は、保留筒11から離れた適切な位置にストッパ(不図示)が設けられることにより、定位置と、出金空間S1側に概ね30°傾いた位置との間で回動できるように構成されている。支持部材13の、保留筒11よりも下方で軸19よりも上方の部分には、付勢部材としてのスプリング14の一端が接続されている。スプリング14の他端は、定位置における保留筒11よりも収納空間S2側で、硬貨処理装置1の構造体(動かない部分)を構成する部分(不図示)に接続されている。スプリング14はコイルばねが用いられている。スプリング14が設けられることにより、保留筒11は、手動で出金空間S1側に倒された後、倒された力が取り除かれると、スプリング14の収縮力により定位置に戻るように構成されている。
シャッタ15は、本体15bと、ホルダ15hとを含んで構成されている。本体15bは、概ね角柱状の、別の表現をすると幅のあるコネクティングロッドのような形状をした部材であり、保留筒11の下端から下方に延びるように配設されている。本体15bの上面は、概ね平坦に形成されており、保留筒11の硬貨Cが載置される硬貨載置面15p(以下、単に「載置面15p」という。)となっている。載置面15pは、保留筒11と協働して保留筒11の底面を形成し、保留筒11に収容されている硬貨Cの重量を受けるようになっている。本体15bは、下部が軸19に枢支されている。本体15bは、軸19に枢支されていることにより、軸19の芯上の点である円弧中心15cまわりに回動することができるように構成されている。載置面15pの重心は、載置面15pの重心と円弧中心15cとを結ぶ直線15rを半径とし、円弧中心15cを中心とする円弧上を移動するように構成されている。保留筒11が定位置にあるときに保留筒11内に収容されている硬貨Cを載置面15pが受けることができる状態に本体15bがあるときのシャッタ15の位置を、シャッタ15の定位置(標準状態の位置)とする。
シャッタ15のホルダ15hは、移動機構20と協働して本体15bの回動を案内するための部材である。ホルダ15hの詳細は、後述する移動機構20と共に説明する。入金一時保留部10は、保留筒11が定位置にあるときに、載置面15pが図1中D1の方向(収納空間S2に近づく方向)に移動すると保留筒11内に収容されていた硬貨Cが出金空間S1に向けて落下し、載置面15pが図1中D2の方向(出金空間S1に近づく方向)に移動すると保留筒11内に収容されていた硬貨Cが収納空間S2に向けて落下するように構成されている。以下、図1中の符号D1が示す方向を「出金方向D1」といい、図1中の符号D2が示す方向を「収納方向D2」ということとする。出金方向D1は第1の方向に相当し、収納方向D2は第2の方向に相当する。
移動機構20は、カム21と、カム21に固定されたカムギヤ22と、カムギヤ22と噛み合うモータギヤ23と、モータギヤ23を回転させるモータ24とを含んで構成されている。モータ24は、外部から入力された電力により軸を正逆いずれかの方向に選択的に回転させるように構成されており、入金一時保留部10と補給一時保留部30との間に配設されている。モータギヤ23は、モータ24の軸に取り付けられている。カムギヤ22は、カム21に固定されたうえでモータギヤ23と噛み合う位置に配設されている。
ここで図2を参照して、カム21まわりの詳細を説明する。図2は、カム21の正面図である。図2では、カム21とシャッタ15との位置関係を明らかにするため、シャッタ15のホルダ15hを破線で示している。ホルダ15hの上部両端に示されている左ローラ15e及び右ローラ15fは、シャッタ15の構成部材であるが、カム21との関係の説明の都合上、実線で示している。左ローラ15e及び右ローラ15fは、それぞれ、第1の嵌合部材及び第2の嵌合部材に相当し、ホルダ15hの上部両端に回動可能に取り付けられている。左ローラ15e及び右ローラ15fは、本実施の形態では、大きさが同じ円柱状に形成されている。
カム21は、固定ピン21pにより、カムギヤ22(図1参照)の中心に固定されている。カム21は、固定ピン21pに固定されていることにより、固定ピン21pの軸線上の点である回動中心21cまわりに回動することができるように構成されている。カム21は、シャッタ15が定位置にあるときに、外縁が、軸19側の約半分が円弧状に形成され、軸19の反対側の約半分が円弧状の内側に輪郭が形成される概ね楕円状に形成されている。カム21は、左右のローラ15e、15fの概ね直径分、外縁から内側に入った部分に、左右のローラ15e、15fの側面に接する摺動レール21aが全周にわたって形成されている。摺動レール21aは、楕円状の部分の中央で外周に到達しており、そこから外縁に沿って円弧状の部分との境界まで両側に広がっている。これにより、内側と外側とが摺動レール21aで挟まれた部分は、左側の左通路21weと右側の右通路21wfとの2箇所が形成されることとなる。左通路21weと右通路21wfとは、楕円状の部分の中央で連通していない。左通路21weは左ローラ15eが通る通路となり、右通路21wfは右ローラ15fが通る通路となる。
シャッタ15が定位置にあるとき、摺動レール21aが左ローラ15e及び右ローラ15fの両方に接触するように、カム21を含む移動機構20が配設されている。このとき、左ローラ15e及び右ローラ15fの双方の中心を結んだ仮想線である連結仮想線15jは、円弧中心15cと回動中心21cとの間を通るようになっている。さらに、このとき、左ローラ15eは、左ローラ15eの中心と回動中心21cとを結ぶ仮想線である第1の仮想線としての左仮想線15ve上で摺動レール21aと接触し、右ローラ15fは、右ローラ15fの中心と回動中心21cとを結ぶ仮想線である第2の仮想線としての右仮想線15vf上で摺動レール21aと接触するようになっている。このとき、左ローラ15eと右ローラ15fとの間の摺動レール21aの部分に、連結仮想線15jよりも円弧中心15c側に隆起した部分が存在することになる。このような態様で左右のローラ15e、15fと摺動レール21aとが接触することにより、ホルダ15h(ひいてはシャッタ15)を円弧中心15cまわりに出金方向D1又は収納方向D2に直接動かそうとしても、左右のローラ15e、15fと摺動レール21aとの間に作用する力の関係によりカム21を動かすことができないので、ホルダ15h(シャッタ15)は動かないようになっている。
他方、モータ24からモータギヤ23及びカムギヤ22を介してカム21を回動させると、左右のローラ15e、15fと摺動レール21aとの接触位置に応じて、ホルダ15h(シャッタ15)が移動することとなる。カム21を、回動中心21cまわりに、図2(A)中の時計回りに回動させると、図2(B)に示すように右ローラ15fが右通路21wfに入って行くことに伴ってシャッタ15は出金方向D1に移動する。このとき、載置面15pの重心位置の軌跡は、円弧中心15cと結ぶ直線15rを半径とする円弧15aとなる。他方、カム21を、回動中心21cまわりに、図2(A)中の反時計回りに回動させると、図2(C)に示すように左ローラ15eが左通路21weに入って行くことに伴ってシャッタ15は収納方向D2に移動する。このとき、載置面15pの重心位置の軌跡は、円弧中心15cと結ぶ直線15rを半径とする円弧15aとなる。このように、移動機構20は、カム21を回動させることにより、シャッタ15を、定位置から出金方向D1又は収納方向D2に選択的に移動させることができるように構成されている。
図1では、入金一時保留部10まわりの基本的な構成を説明するために、保留筒11やシャッタ15等を1つずつ示している。しかし、本実施の形態において、硬貨処理装置1が取り扱う硬貨Cは、日本国内で流通している貨幣のうち、10円硬貨、50円硬貨、100円硬貨、500円硬貨の4種類の硬貨である。したがって、硬貨処理装置1は、金種別に硬貨Cを保留できるように、保留筒11を、少なくとも4つ有している。
図3は、保留筒11の全体を示す斜視図である。本実施の形態では、10円硬貨用の保留筒11A、100円硬貨用の保留筒11B、500円硬貨用の保留筒11C、50円硬貨用の保留筒11Dを有している。このように、本実施の形態では、取り扱う硬貨Cの種類に応じて4つの保留筒11を有している。以下の説明において、各保留筒11A〜11Dの共通の性質について言及するときは、「保留筒11」と総称する。また、本実施の形態では、保留筒11Dの横にさらに1つのバイパス筒16を有している。バイパス筒16は、種類を判別できなかった硬貨Cであるリジェクト硬貨を通過させる筒であり、リジェクト硬貨を保留せずに通過させるものであるため、保留筒11ではない。バイパス筒16は、保留筒11と同様の大きさ及び形状に構成されているが、リジェクト硬貨を保留しないため、下方にシャッタ15(図1参照)が設けられておらず、代わりにバイパス筒16を通過したリジェクト硬貨を出金空間S1へ導くガイド板(不図示)が設けられている。
各保留筒11A〜11D及びバイパス筒16は、軸線が平行で1列に並ぶように配列されている。配列された各保留筒11A〜11D及びバイパス筒16は、枠11fで連結されている。枠11fは、各保留筒11A〜11D及びバイパス筒16の上端及び下端、並びに最外端に配列された保留筒11A及びバイパス筒16の各外側に設けられ、これらが環状に接続されて構成されている。保留筒11Aの外側の枠及びバイパス筒16の外側の枠には、それぞれ支持部材13が固定されており、各保留筒11A〜11D及びバイパス筒16が一体で回動中心13cまわりに回動できるように構成されている。下側の枠11fには、長手方向に延びる辺の一方の幅全体から斜め下外側に側面視で弧を描くように延びるガイド12が設けられている。ガイド12は、図1に示すように、出金空間S1側に延びている。ガイド12は、シャッタ15に対して干渉せずに極力近くなる程度の円弧15a(図2(B)、(C)参照)の外側で、円弧15aに沿って斜め下方に延びている。配列された保留筒11のうちの真ん中の保留筒11Cのガイド12側の外側には、各保留筒11A〜11D及びバイパス筒16を回動中心13cまわりに手動で回動させる際に摘むためのレバー11hが設けられている。
再び図1に戻って補給一時保留部30を説明する。補給一時保留部30は、入金一時保留部10と同様の構成を備えている。補給一時保留部30は、入金一時保留部10における保留筒11、ガイド12、支持部材13、スプリング14、シャッタ15、バイパス筒16(図3参照)、移動機構20に相当する構成として、追加保留筒としての補給側保留筒31と、追加ガイドとしての補給側ガイド32と、追加支持部材としての補給側支持部材33と、追加付勢部材としての補給側スプリング34と、追加シャッタとしての補給側シャッタ35と、追加バイパス筒としての補給側バイパス筒(不図示)と、追加シャッタ移動機構としての補給側移動機構(不図示)とを備えている。補給側移動機構は、他の部材と重ねて記載することに伴う乱雑化を回避する観点から図1では示していないが、移動機構20のカム21、カムギヤ22、モータギヤ23、及びモータ24と同様の構成の、カム、カムギヤ、モータギヤ、及びモータを収納空間S2の上方に有している。また、補給側シャッタ35には、補給側保留筒31に対向する面に、追加硬貨載置面としての補給側載置面35pが形成されている。補給一時保留部30は、移動機構20を挟んで入金一時保留部10と面対称になるように配設されている。本実施の形態では、補給一時保留部30が、入金一時保留部10に対し、モータ24の軸を通り軸19に平行な仮想平面を基準平面とする面対称に配設されている。これにより、補給一時保留部30では、補給側保留筒31(及び補給側シャッタ35)の回動中心33cとなる補給側軸39が、軸19に対して同じ高さで平行に配置されることとなる。
補給一時保留部30は、補給側保留筒31内に収容されている硬貨Cを、第3の空間としてのリジェクト空間S3か、収納空間S2かに、選択的に放出することができるように構成されている。補給一時保留部30からの硬貨Cの放出先の一方である収納空間S2を、入金一時保留部10と兼ねることで、硬貨処理装置1の小型化を図ることができる。補給一時保留部30は、補給側保留筒31が定位置にあるときに、補給側載置面35pが図1中D3の方向(収納空間S2に近づく方向)に移動すると補給側保留筒31内に収容されていた硬貨Cがリジェクト空間S3に向けて落下し、補給側載置面35pが図1中D4の方向(リジェクト空間S3に近づく方向)に移動すると補給側保留筒31内に収容されていた硬貨Cが収納空間S2に向けて落下するように構成されている。以下、図1中の符号D3が示す方向を「リジェクト方向D3」といい、図1中の符号D4が示す方向を「収納方向D4」ということとする。リジェクト方向D3は第3の方向に相当し、収納方向D4は第4の方向に相当する。
次に図4を参照して入金一時保留部10及び補給一時保留部30を含む硬貨処理装置1の全体構成を説明する。図4は、硬貨処理装置1の系統図であり、各部の接続関係を表しているが、各部の配置は実際の装置とは異なる部分がある。硬貨処理装置1は、硬貨Cの投入を受け付ける投入口51と、投入口51から投入された硬貨Cの種類を識別する識別部52Aと、硬貨Cを種類に応じて振り分けると共に計数する振分計数部53A、53Bと、振分計数部53A、53Bで振り分け及び計数が行われた硬貨Cを一時的に保留する上述の入金一時保留部10及び補給一時保留部30と、決められた枚数の硬貨Cを放出する放出部54と、硬貨処理装置1から取り出される硬貨Cを差し出す出金口56と、補給された硬貨C等の計数が行われる硬貨Cの種類を識別する識別部53Bと、補給された硬貨C等を貯留する硬貨貯留部58と、硬貨貯留部58に収納された硬貨Cのうち取り扱いに適した硬貨Cと認識されなかった硬貨を保留する補給リジェクト庫59と、制御装置60とを備えている。
投入口51は、複数枚の硬貨Cを受けることができる大きさに形成されており、複数の種類が混在した状態で複数枚の硬貨Cを受け付けることができるように構成されている。識別部52Aは、投入口51から投入された硬貨Cを振分計数部53Aに向けて搬送する入金搬送路41に設けられている。識別部52Aは、入金搬送路41によって内部を通過する硬貨Cの種類を識別し、識別結果を信号として制御装置60に送信することができるように構成されている。制御装置60は、識別部52Aから受信した信号を基に、投入口51から投入された硬貨Cの合計金額を算出することができるように構成されている。識別部52Aは、硬貨処理装置1が取り扱いを予定している種類の硬貨C(本実施の形態では、10円、50円、100円、500円の各硬貨)以外の硬貨(リジェクト硬貨)を検出した場合も異常硬貨である旨の信号を制御装置60に送信するように構成されている。制御装置60は、リジェクト硬貨である旨の信号を識別部52Aから受信したときは、リジェクト硬貨が振分計数部53Aを介して入金一時保留部10のリジェクト硬貨用のバイパス筒16(図3参照)に導かれるように、振分計数部53Aに設けられたフラップ(不図示)を作動させるように構成されている。
振分計数部53A、53Bは、硬貨Cを種類別(本実施の形態では、10円、50円、100円、500円の別)に振り分けることができるように構成されており、投入口51から投入されて識別部52Aを通過してきた硬貨Cを扱う入金硬貨用の振分計数部53Aと、係員等によって硬貨処理装置1の内部に補給された硬貨C等を扱う補給硬貨用の振分計数部53Bとの2系統が、同じ構成でそれぞれ別に設けられている。入金硬貨用の振分計数部53Aの下方には、前述の入金一時保留部10が配設されている。補給硬貨用の振分計数部53Bの下方には、前述の補給一時保留部30が配設されている。なお、図4では、入金一時保留部10及び補給一時保留部30が、長手方向に隣接して示されているが、実際は、長手方向の両端及び高さが揃うように配設されている(図1参照)。前述の、出金空間S1(図1参照)は横搬送部46に連通しており、収納空間S2(図1参照)は放出部54に連通しており、リジェクト空間S3(図1参照)は補給リジェクト庫59に連通している。
放出部54は、硬貨Cの種類に対応する数が設けられており、入金一時保留部10から落下してきた硬貨Cと、補給一時保留部30から落下してきた硬貨Cとを区別なく貯留するホッパ(不図示)が硬貨Cの種類ごとに設けられている。放出部54は、制御装置60からの指令に基づいて、種類別に所定の枚数の硬貨Cを水平搬送部44に放出することができるように構成されている。水平搬送部44は、放出部54から放出された硬貨Cを水平方向に搬送する部材である。水平搬送部44の下流端は、硬貨Cを上方に搬送する上昇搬送部45に接続されている。上昇搬送部45は、典型的には搬送ベルトに張力保持特性を有するものが用いられており、水平搬送部44から複数枚重なって搬送されてきた硬貨Cをそのまま複数枚重ねて搬送することができるように構成されている。上昇搬送部45の下流端は、横搬送部46に接続されている。横搬送部46は、一方の端部に出金口56が接続されており、他方の端部に硬貨貯留部58が接続されている。
硬貨貯留部58は、補給搬送部48を介して補給硬貨用の振分計数部53Bに接続されており、硬貨貯留部58内の硬貨Cを補給硬貨用の振分計数部53Bに搬送することができるように構成されている。補給搬送部48には、補給用の硬貨Cを識別する識別部52Bが設けられている。識別部52Bの構成及び機能は、識別部52Aと同様である。制御装置60は、リジェクト硬貨である旨の信号を識別部52Bから受信したときは、リジェクト硬貨が振分計数部53Bを介して補給一時保留部30のリジェクト硬貨用の補給側バイパス筒(バイパス筒16(図3参照)に対応)に導かれるように、振分計数部53Bに設けられたフラップ(不図示)を作動させるように構成されている。補給側バイパス筒を通過したリジェクト硬貨は、補給リジェクト庫59に導かれる。制御装置60は、硬貨処理装置1の動作を制御することができるように構成されている。
引き続き図1乃至図4を参照して、硬貨処理装置1の作用を説明する。図4に示す投入口51に利用者によって一括投入された複数枚の硬貨Cは、入金搬送路41によって1枚ずつ振分計数部53Aに向けて流れて行く。入金搬送路41を通る硬貨Cは、識別部52Aを通過する際に金種等が識別され、リジェクト硬貨が検出された場合は制御装置60を介してフラップ(不図示)の作動により入金一時保留部10のバイパス筒16(図3参照)を通過した後、横搬送部46に導かれて、出金口56に戻される。識別部52Aを通過した、硬貨処理装置1で取り扱い可能な硬貨Cは、振分計数部53Aの入金硬貨用の方に導入され、種類ごとに振り分けられた後、入金一時保留部10の適切な場所に保留される。この状態で、利用者による入金確定操作が行われると、制御装置60は、入金金額と取引金額との比較を行う。
入金金額と取引金額との比較により釣銭(出金)が不要の場合は、次の利用者による入金を待機する。また、硬貨Cを入金した利用者の継続操作において返却操作がなされたときは、入金一時保留部10に保留されている硬貨Cが、出金空間S1(図1参照)を介して横搬送部46に導出された後に出金口56に返却される。他方、硬貨Cを入金した利用者の操作が終了して次の利用者による投入口51への硬貨Cの投入が行われると、この新たに投入口51に硬貨Cを投入した利用者の直前の利用者によって投入されて入金一時保留部10に保留されていた硬貨Cが、収納空間S2(図1参照)を介して放出部54に放出される。
ここで主に図1及び図2並びに図5を参照して入金一時保留部10の作用を説明する。図5は、入金一時保留部10の状態を示す部分側面断面図である。入金硬貨用の振分計数部53Aで振り分けられた硬貨Cが入金一時保留部10に収納されるとき、保留筒11及びシャッタ15は、共に定位置にある(図5(A)参照)。硬貨Cを投入口51に投入した利用者の継続操作において返却操作がなされたとき、制御装置60は、モータ24を動かしてカム21を図2(A)における時計回りに回動させる。すると、右ローラ15fが右通路21wfに入り、右通路21wfの概ね先端に右ローラ15fが至ったところでモータ24が停止される(図2(B)参照)。このカム21及び右ローラ15fの動きにより、シャッタ15は出金方向D1に回動し、出金状態となる(図5(B)参照)。このとき、左ローラ15eは、カム21の外縁よりも外側に出ている。シャッタ15が出金状態となると、保留筒11に収納されていた硬貨Cは出金空間S1に落下し、横搬送部46に至る。
他方、入金一時保留部10に硬貨Cが保留されている状態で、新たな利用者により投入口51に硬貨Cが投入されると、制御装置60は、モータ24を動かしてカム21を図2(A)における反時計回りに回動させる。すると、左ローラ15eが左通路21weに入り、左通路21weの概ね先端に左ローラ15eが至ったところでモータ24が停止される(図2(C)参照)。この、カム21及び左ローラ15eの動きにより、シャッタ15は収納方向D2に回動し、収納状態となる(図5(C)参照)。このとき、右ローラ15fは、カム21の外縁よりも外側に出ている。また、保留筒11を支持する支持部材13が、スプリング14によって定位置側に付勢されているので、保留筒11がシャッタ15の動きにつられて移動することが回避される。シャッタ15が収納状態となると、保留筒11に収納されていた硬貨Cは収納空間S2に落下し、収納部54に至る。
ところで、保留筒11に硬貨Cが収納される際、硬貨Cの面が上下方向に向かない立ち状態になったり、噛み込み状態になったりして、硬貨Cが保留筒11に詰まってしまうような異常が発生する場合がある。異常が発生すると、硬貨処理装置1が停止し、硬貨Cの詰まりを取り除く等のメンテナンスを行うこととなる。あるいは、保留筒11まわりは、定期的な清掃等のメンテナンスが行われる場合もある。入金一時保留部10まわりのメンテナンスを行う際は、係員等がレバー11h(図3参照)を手動で出金空間S1側に倒す。すると、保留筒11が枠11fごと回動中心13cまわりに出金空間S1側に回動し、メンテナンス状態となる(図5(D)参照)。保留筒11が出金空間S1側に回動すると、保留筒11内の硬貨Cは、載置面15pから外れて出金空間S1に落下する。このように、メンテナンスの際に保留筒11に残留していた硬貨Cを出金空間S1に導くので、硬貨処理装置1に侵入してしまって硬貨処理装置1内に保留している硬貨Cの総額が分からなくなってしまうことを防ぐことができると共に、硬貨処理装置1の外に落下してしまって紛失してしまうことを防ぐことができる。
また、入金一時保留部10はガイド12を備えているので、保留筒11が出金空間S1側に回動したときに、保留筒11から落下する硬貨Cをより確実に出金空間S1に導くことができ、硬貨Cの散乱を防ぐことができる。なお、メンテナンスが行われるとき、制御装置60の指令により、シャッタ15は、定位置になるようにカム21の位置が制御される。シャッタ15が定位置のとき、左ローラ15eが左仮想線15ve状で、及び右ローラ15fが右仮想線15vf上で、それぞれ摺動レール21aと接しているため、保留筒11を出金空間S1側に回動させても、シャッタ15がつられて回動してしまうことを抑制される。したがって、メンテナンスの際に保留筒11から落下する硬貨Cを確実に出金空間S1に導くことができる。なお、制御装置60によりモータ24をソレノイド等で電気的にロックしてシャッタ15を移動させないようにする構成を、カム21の機構に重畳して、あるいはカム21の機構に代えて、適用してもよい。
再び主に図4を参照し、適宜図1乃至図3を参照して、硬貨処理装置1の全体の作用の説明を続ける。利用者による入金確定操作が行われ、入金金額と取引金額との比較を行った制御装置60は、入金金額と取引金額との比較により釣銭(出金)が必要な場合、出金に関する信号を放出部54に送信する。出金信号を受信した放出部54は、制御装置60が指定した合計金額の硬貨Cを水平搬送部44に放出する。水平搬送部44で搬送されてきた硬貨Cは、上昇搬送部45から横搬送部46を経由して、出金口56に出金される。他方、硬貨Cを入金した利用者の操作が終了して次の利用者による投入口51への硬貨Cの投入が行われると、この新たに投入口51に硬貨Cを投入した利用者の直前の利用者によって投入されて入金一時保留部10に保留されていた硬貨Cが、放出部54のホッパー(不図示)に収納される。
硬貨処理装置1では、上述した入出金動作以外に、補給動作として、係員等によって硬貨貯留部58に補給された硬貨Cを、硬貨Cの容量が所定以下となった放出部54へ適宜補給する動作(以下「通常補給動作」という)や、硬貨処理装置1内に存在する硬貨Cを回収する際に、硬貨処理装置1内に存在する硬貨Cを精査する装置内計数動作が行われる。通常補給動作は、典型的には硬貨処理装置1の利用者等に対する稼働時間中であっても、放出部54内の硬貨Cが不足しないように適宜行われる。他方、装置内計数動作は、典型的には硬貨処理装置1の利用者に対する稼働時間外に行われる。まず、通常補給動作を説明する。前述した入出金動作において出金動作が連続して行われることで、放出部54内の硬貨Cの容量が所定以下となる場合がある。このような場合に、制御装置60は、硬貨貯留部58に硬貨放出信号を送信して硬貨貯留部58の硬貨Cを放出させる。硬貨貯留部58から放出された硬貨Cは、補給搬送部48によって補給硬貨用の振分計数部53Bに向けて搬送され、途中の識別部52Bで硬貨Cの可否が識別される。識別部52Bは、制御装置60に金種情報を出力すると共に、リジェクト硬貨を振分計数部53Bを介して補給一時保留部30のリジェクト硬貨用の補給側バイパス筒(バイパス筒16(図3参照)に対応)に導く。識別部52Bを通過した硬貨Cは、振分計数部53Bで硬貨Cの種類ごとに計数されると共に振り分けられた後、補給一時保留部30に導入されて所定の補給側保留筒31に収容される。補給一時保留部30では、金種ごとの最大保留枚数があらかじめ決められており、いずれかの金種が最大保留枚数に達する度に補給側シャッタ35が収納方向D4に移動することにより収納空間S2を経由して放出部54へ移送され、放出部54に収納される。この動作は、硬貨Cの容量が所定以下となった放出部54があらかじめ決められた容量となったところで停止する。なお、補給一時保留部30に硬貨Cが収容されているときに通常補給動作にエラーが生じた場合、制御装置60は、補給側シャッタ35をリジェクト方向D3へ移動させて補給一時保留部30内の硬貨Cを補給リジェクト庫59に落下させる。
次に、硬貨処理装置1内に存在する硬貨Cを回収する場合の装置内計数動作を説明する。硬貨Cの回収時に装置内計数動作が行われる旨の指令が与えられると、制御装置60は、まず、上述した通常補給動作と同様の処理を行うように、硬貨処理装置1を制御する。ただし、ここでの処理は、放出部54内の硬貨Cの容量があらかじめ決められた容量になっても停止されず、硬貨貯留部58内に硬貨Cが存在しなくなるまで行われる。次に、制御装置60は、放出部54に硬貨放出信号を送信して放出部54の硬貨Cを放出させる。ここでは、硬貨処理装置1の運用に必要な枚数(あらかじめ決められている)に、余裕分(例えばリジェクト硬貨とされる可能性を見越した分)を加えた枚数の硬貨Cを、金種ごとに放出させる。放出部54から放出された硬貨Cは、水平搬送部44及び上昇搬送部45を介して硬貨貯留部58に導かれる。他方、放出部54から所定枚数(必要枚数+余裕分)の硬貨Cが放出された後に放出部54に残った硬貨Cは、放出部54に設けられた振り分け手段(不図示)により、別途設けられた回収庫(不図示)に導かれる。これにより、放出部54は空になる。硬貨貯留部58に収容された所定枚数の硬貨Cは、上述の通常補給動作の要領で、識別部52B、振分計数部53Bを介して補給一時保留部30に一旦収容された後、放出部54に収容される。上述の、各補給動作においては、補給一時保留部30における処理動作が連続的に行われるため、メンテナンスが必要となる場合が増えることも考えられるが、入金一時保留部10と同様に構成された補給一時保留部30においても、メンテナンスの際は補給側保留筒31を回動中心33cまわりにリジェクト空間S3側に回動させることで、補給側保留筒31に残留していた硬貨Cを確実に補給リジェクト庫59に導くことができ、意図しない場所に落下したり散乱することを回避することができる。
以上の説明では、保留筒11(補給側保留筒31)が円筒状に形成されているとしたが、軸直角断面における形状が多角形の筒状に形成されていてもよい。しかしながら、保留筒11(補給側保留筒31)が円筒状に形成されていると、硬貨Cを1列で整列させやすく、保留筒11(補給側保留筒31)内での硬貨Cの立ちや噛み込み等を抑制することができるため、好ましい。
以上の説明では、第1の空間が出金空間S1であり、第2の空間が収納空間S2であるとしたが、相互に入れ替えて、第1の空間が収納空間S2であり、第2の空間が出金空間S1であることとしてもよい。つまり、メンテナンスの際に保留筒11内の硬貨Cを導く先は、硬貨処理装置1の事情を考慮して適宜決定することとしてもよい。
以上の説明では、回動中心13cと円弧中心15cとが一致しているとした。このように構成すると、保留筒11の回動軸線とシャッタ15の回動軸線とを共通にすることができ、構造をシンプルにすることができる。しかしながら、回動中心13cと円弧中心15cとは一致していなくてもよい。特に、回動中心13cを、円弧中心15cよりも直線15rの延長線上で保留筒11とは反対側(図1において円弧中心15cよりも下方)に置けば、保留筒11を回動させたときのシャッタ15との干渉を回避しやすくなる。また、回動中心13c及び/又は円弧中心15cは、保留筒11の真下から偏芯した位置(左右にずれた位置)に置かれることとしてもよい。このようにすると、シャッタ15が回動して保留筒11から硬貨Cが落下する際に、硬貨Cとシャッタ15との干渉を避けやすくなり、また、構成部材の配置の自由度を高めることができる。