リチウム二次電池の充電電圧を高めることに伴う充放電サイクル特性や負荷特性の低下の原因としては、例えば、正極が高電圧になることによって正極活物質から金属イオンが非水電解質中に溶出するために生じる正極の劣化や、高電圧の正極との反応による非水電解質(その成分)の分解が挙げられる。
そこで、本発明のリチウム二次電池では、高電圧下においても安定性が高く金属イオンの溶出が生じ難い正極活物質を使用すると共に、充電状態の正極表面に吸着して、正極活物質からの金属イオンの溶出や正極と非水電解質成分との反応を抑制し得る添加剤を含有する非水電解質を使用することとし、これにより、充電電圧を4.3V以上に設定しても、良好な充放電サイクル特性および負荷特性を発揮し得るようにしている。
本発明のリチウム二次電池に係る正極には、集電体の片面または両面に、正極活物質、バインダおよび導電助剤などを含有する正極合剤層を有する構造のものを使用する。
そして、正極活物質には、組成式Li1+xCo1−y−zMgyM1 zO2(ただし、M1はAl、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Sn、W、B、PおよびBiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、−0.3≦x≦0.3、0.001≦y≦0.1、および0<z≦0.1)で表されるリチウムコバルト複合酸化物(a)を使用する。リチウムコバルト複合酸化物(a)は、Mgを比較的多く含有しており、その作用によって、例えば、リチウム二次電池の正極活物質として汎用されているLiCoO2に比べて、高電圧領域での安定性が高く電池内において非水電解質中への金属(主にCo)イオンの溶出が生じ難く、また、熱安定性も高い。よって、リチウムコバルト複合酸化物(a)を正極活物質に使用することで、高電圧で充電しても安定性が高く、良好な充放電サイクル特性や負荷特性を発揮でき、また、高温貯蔵特性や安全性にも優れたリチウム二次電池とすることができる。
リチウムコバルト複合酸化物(a)において、Coは、リチウムコバルト複合酸化物(a)の容量向上に寄与する成分である。リチウムコバルト複合酸化物(a)は、前記組成式で示すように、Li、OおよびCo以外に、Mgおよび元素M1を含有しており、Coの量は、Mgの量yおよび元素M1の量zを用いて「1−y−z」で表される。リチウムコバルト複合酸化物(a)におけるCoの量「1−y−z」は、具体的には、その容量を高める観点から、0.6以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、また、Mgなどの添加による効果を良好に確保する観点から、0.999以下であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましい。
前記リチウムコバルト複合酸化物(a)において、Mgは、リチウムコバルト複合酸化物(a)の高電圧領域での安定性を高め、金属イオンの溶出を抑制する作用を有しており、また、リチウムコバルト複合酸化物(a)の熱安定性を高める作用も有している。よって、Mgによる前記の作用を良好に発揮させる観点から、リチウムコバルト複合酸化物(a)を表す前記組成式において、Mgの量を表すyは、0.001以上、好ましくは0.01以上とする。
ただし、Mgは、リチウムコバルト複合酸化物(a)の容量向上に寄与し得ないため、リチウムコバルト複合酸化物(a)中のMg量が多すぎると、例えばCoの量が減ることになって、容量が低下する虞がある。よって、リチウムコバルト複合酸化物(a)を表す前記組成式において、Mgの量を表すyは、1.0以下、好ましくは0.1以下とする。
リチウムコバルト複合酸化物(a)は、Li、O、CoおよびMg以外に、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Sn、W、B、PおよびBiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素M1を含有していてもよい。ただし、リチウムコバルト複合酸化物(a)中の元素M1の量が多すぎると、CoやMgの量が少なくなって、これらによる作用が十分に発揮されない虞がある。よって、リチウムコバルト複合酸化物(a)を表す前記組成式において、元素M1の量を表すzは、0.1以下であり、0.05以下であることが好ましい。また、リチウムコバルト複合酸化物(a)は、前記の通り、元素M1を含有していなくてもよく、前記組成式において、元素M1の量を表すzは、0以上である。
リチウムコバルト複合酸化物(a)は、特に化学量論比に近い組成にときに、その真密度が大きくなり、より高いエネルギー体積密度を有する材料となるが、具体的には、前記組成式において、−0.3≦x≦0.3とすることが好ましく、xの値をこのように調節することで、真密度および充放電時の可逆性を高めることができる。
リチウムコバルト複合酸化物(a)は、Li含有化合物(水酸化リチウムなど)、Co含有化合物(硫酸コバルトなど)、Mg含有化合物(硫酸マグネシウムなど)、および必要に応じて元素M1を含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして合成することができる。なお、より高い純度でリチウムコバルト複合酸化物(a)を合成するには、CoおよびMg、更には必要に応じて元素M1を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)とLi含有化合物などとを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
リチウムコバルト複合酸化物(a)を合成するための原料混合物の焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
正極活物質には、リチウムコバルト複合酸化物(a)のみを使用してもよいが、リチウムコバルト複合酸化物(a)と共に、他の活物質も併用してもよい。このような他の活物質としては、例えば、Li1+aNi1−b−c−dCobMncM2 dO2(ただし、MはMg、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Sn、W、B、PおよびBiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、−0.15≦a≦0.15、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.3、0≦d≦0.03、およびb+c+d≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(b)が挙げられる。
リチウムニッケル複合酸化物(b)は、高容量であることに加えて、リチウムコバルト複合酸化物(a)と同様に電池内において非水電解質中への金属イオンの溶出が生じ難く、また、熱安定性も高い。よって、リチウムニッケル複合酸化物(b)をリチウムコバルト複合酸化物(a)と併用した場合にも、高容量であり、かつ充放電サイクル特性や負荷特性、更には高温貯蔵特性や安全性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
リチウムニッケル複合酸化物(b)において、Niは、リチウムニッケル複合酸化物(b)の容量向上に寄与する成分である。
リチウムニッケル複合酸化物(b)において、Coは、リチウムニッケル複合酸化物(b)の容量向上に寄与すると共に、正極合剤層におけるリチウムニッケル複合酸化物(b)の充填密度向上に寄与する。また、Coは、電池の充放電でのLiのドープおよび脱ドープに伴うMnの価数変動を抑制し、Mnの平均価数を4価近傍の値に安定させ、充放電の可逆性をより高める作用も有している。よって、Coによる前記の作用を良好に発揮させる観点から、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Coの量を表すbは、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
ただし、リチウムニッケル複合酸化物(b)中のCoの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これら他の元素による作用が十分に発揮されない虞がある。よって、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Coの量を表すbは、0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。
リチウムニッケル複合酸化物(b)において、Mnは、リチウムニッケル複合酸化物(b)の熱安定性を高める作用を有している。よって、Mnによる前記の作用を良好に発揮させる観点から、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Mnの量を表すcは、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
ただし、リチウムニッケル複合酸化物(b)中のMnの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これら他の元素による作用が十分に発揮されない虞がある。よって、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Mnの量を表すcは、0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。
リチウムニッケル複合酸化物(b)は、Li、O、Ni、CoおよびMn以外に、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Sn、W、B、PおよびBiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有していてもよい。ただし、リチウムニッケル複合酸化物(b)中の元素M2の量が多すぎると、NiやCo、Mnの量が少なくなって、これらによる作用が十分に発揮されない虞がある。よって、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、元素M2の量を表すdは、0.03以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物(b)は、元素M2を含有していなくてもよく、前記組成式において、元素M2の量を表すdは、0以上である。
また、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Coの量を表すbと、Mnの量を表すcと、元素M2の量を表すdとの合計量「b+c+d」は、多すぎるとNiの量が少なくなって、リチウムニッケル複合酸化物(b)の容量が小さくなる虞がある。よって、前記「b+c+d」は、0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。
すなわち、リチウムニッケル複合酸化物(b)を表す前記組成式において、Niの量を表す「1−b−c−d」は、0.5より大きいことが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、また、Co、Mnなどの添加による効果を良好に確保する観点から、1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。
リチウムニッケル複合酸化物(b)は、特に化学量論比に近い組成にときに、その真密度が大きくなり、より高いエネルギー体積密度を有する材料となるが、具体的には、前記組成式において、−0.15≦a≦0.15とすることが好ましく、aの値をこのように調節することで、真密度および充放電時の可逆性を高めることができる。
リチウムニッケル複合酸化物(b)は、Li含有化合物(水酸化リチウムなど)、Ni含有化合物(硫酸ニッケルなど)、Co含有化合物(硫酸コバルトなど)、Mn含有化合物(硫酸マンガンなど)、および必要に応じて元素M2を含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして製造することができる。なお、より高い純度でリチウムニッケル複合酸化物(b)を合成するには、Ni、Co、Mnおよび必要に応じて含有させる元素M2のうちの複数の元素を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)と、他の原料化合物(Li含有化合物など)とを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
リチウムニッケル複合酸化物(b)を合成するための原料混合物の焼成条件も、リチウムコバルト複合酸化物(a)の場合と同様に、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
また、正極活物質には、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、Li2MnO3などのリチウムマンガン酸化物;LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物;LiCo1−xNiO2などの層状構造のリチウム含有複合酸化物;LiMn2O4、Li4/3Ti5/3O4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物〔ただし、リチウムコバルト複合酸化物(a)およびリチウムニッケル複合酸化物(b)以外のもの〕;などを、リチウムコバルト複合酸化物(a)と共に使用したり、リチウムコバルト複合酸化物(a)およびリチウムニッケル複合酸化物(b)と共に使用したりすることもできる。
正極活物質には、リチウムコバルト複合酸化物(a)とリチウムニッケル複合酸化物(b)とを使用することが特に好ましい。
正極活物質に、リチウムコバルト複合酸化物(a)と他の活物質とを併用する場合、リチウムコバルト複合酸化物(a)の使用による効果をより良好に確保する観点から、正極活物質全量中のリチウムコバルト複合酸化物(a)の含有量を50質量%以上とすることが好ましい。
また、正極活物質に、リチウムコバルト複合酸化物(a)とリチウムニッケル複合酸化物(b)と併用する場合には、リチウムニッケル複合酸化物(b)の使用による効果をより良好に確保する観点から、正極活物質全量中のリチウムコバルト複合酸化物(a)の含有量を90質量%以下〔すなわち、正極活物質全量中のリチウムニッケル複合酸化物(b)の含有量を10質量%以上〕とすることが好ましい。
正極合剤層に係るバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが好適に用いられる。また、正極合剤層に係る導電助剤としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛(黒鉛質炭素材料);アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック;炭素繊維;などの炭素材料などが挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質、バインダおよび導電助剤などを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
また、正極には、必要に応じて、リチウム二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。
また、正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。
正極の集電体は、従来から知られているリチウム二次電池の正極に使用されているものと同様のものが使用でき、例えば、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好ましい。
本発明のリチウム二次電池に係る非水電解質としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液(非水電解液)が挙げられるが、前記非水電解質には、前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物を含有するものを使用する。
前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物は、反応性が低く、電池内において、充電状態の正極における正極活物質の表面に吸着して、それを保護し、正極活物質と非水電解質成分との反応を抑えたり、正極活物質からの金属イオンの溶出を抑制したりする作用を有している。よって、本発明のリチウム二次電池は、正極活物質にリチウムコバルト複合酸化物(a)を使用することによる正極の劣化抑制作用と、前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の前記作用とが相乗的に機能して、電池を4.3V以上の高電圧で充電しても、良好な充放電サイクル特性や負荷特性を発揮し得るものとなる。
前記一般式(1)中、R1、R2およびR3は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基であるが、より具体的には、アルキル基、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基および前記の基の有する水素の一部または全部が、ハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。前記の基における水素を置換するハロゲン原子は、フッ素が好ましい。R1、R2およびR3は、それぞれが異なっていてもよく、2つ以上が同一であってもよい。R1、R2およびR3は、重合活性点を有さないため電池の充放電サイクル時などで電池特性を悪化させないという観点から、嵩高いアルキル基で置換されたフェニル基であることが特に好ましい。
前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の具体例としては、例えば、トリス(2−n−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3−n−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−n−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3,5−ジ−n−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2−i−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3−i−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−i−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−i−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3,5−ジ−i−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2−sec−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3−sec−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−sec−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−sec−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3,5−ジ−sec−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。これらのなかでも、正極活物質の保護作用がより良好であることから、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスフェート(T4P)が特に好ましい。
リチウム二次電池に使用する非水電解質における前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、0.5質量%以上であり、1.0質量%以上であることが好ましい。ただし、非水電解質中の前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の含有量が多すぎると、電池の充放電サイクル特性の向上効果や、負荷特性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質における前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の含有量は、3質量%以下であり、2.0質量%以下であることが好ましい。
また、非水電解質には、下記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物も含有するものを使用することが好ましい。
前記一般式(2)中、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)であり、nは0〜6の整数である。すなわち、前記R4、R5およびR6は、それぞれが異なっていてもよく、2つ以上が同一であってもよい。
リチウム二次電池内では種々の反応に伴ってガスが発生しやすく、このガスが電池の膨れの原因となるが、高電圧充電した場合には、こうした問題がより生じやすくなる。前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物は、リチウム二次電池の有する負極に作用して、電池内でのガス発生に起因する膨れを抑制する作用が非常に優れている。よって、前記ホスホノアセテート類化合物も含有する非水電解質を使用することで、電池膨れの生じ難いリチウム二次電池とすることができる。
なお、前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物は、前記の通り、負極に作用して電池膨れの抑制に寄与する一方で、電池の充放電サイクル特性を損なう作用も有している。これは、主に、前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物が、正極と反応して分解してしまうことによるものと考えられる。前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物による前記の問題は、リチウム二次電池の充電電圧が高い場合に、より生じやすい。
しかし、本発明のリチウム二次電池では、充電状態の正極において、正極活物質の表面に吸着して非水電解質成分との反応を抑制する作用を有する前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物を含有する非水電解質を使用しており、前記リン酸エステル類化合物の作用によって、前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物の正極での分解も抑制することができる。よって、本発明のリチウム二次電池において、非水電解質に前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物も含有させた場合には、前記ホスホノアセテート類化合物の分解を抑制して充放電サイクル特性の低下を抑えることができ、また、非水電解質に添加した前記ホスホノアセテート類化合物のうち、分解せずに負極に良好に作用し得る量を多く維持することができるため、前記ホスホノアセテート類化合物による作用をより有効に引き出すことができる。
前記一般式(2)で表わされるホスホノアセテート類化合物の具体例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
<前記一般式(2)においてn=0である化合物>
トリメチルホスホノフォルメート、メチルジエチルホスホノフォルメート、メチルジプロピルホスホノフォルメート、メチルジブチルホスホノフォルメート、トリエチルホスホノフォルメート、エチルジメチルホスホノフォルメート、エチルジプロピルホスホノフォルメート、エチルジブチルホスホノフォルメート、トリプロピルホスホノフォルメート、プロピルジメチルホスホノフォルメート、プロピルジエチルホスホノフォルメート、プロピルジブチルホスホノフォルメート、トリブチルホスホノフォルメート、ブチルジメチルホスホノフォルメート、ブチルジエチルホスホノフォルメート、ブチルジプロピルホスホノフォルメート、メチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、プロピルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、ブチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノフォルメートなど。
<前記一般式(2)においてn=1である化合物>
トリメチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテート、メチルジプロピルホスホノアセテート、メチルジブチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、エチルジメチルホスホノアセテート、エチルジプロピルホスホノアセテート、エチルジブチルホスホノアセテート、トリプロピルホスホノアセテート、プロピルジメチルホスホノアセテート、プロピルジエチルホスホノアセテート、プロピルジブチルホスホノアセテート、トリブチルホスホノアセテート、ブチルジメチルホスホノアセテート、ブチルジエチルホスホノアセテート、ブチルジプロピルホスホノアセテート、メチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、プロピルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、ブチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、アリルジメチルホスホノアセテート、アリルジエチルホスホノアセテート、2−プロピニルジメチルホスホノアセテートなど。
<前記一般式(2)においてn=2である化合物>
トリメチル−3−ホスホノプロピオネート、メチルジエチル−3−ホスホノプロピオネート、メチルジプロピル−3−ホスホノプロピオネート、メチルジブチル3−ホスホノプロピオネート、トリエチル−3−ホスホノプロピオネート、エチルジメチル−3−ホスホノプロピオネート、エチルジプロピル−3−ホスホノプロピオネート、エチルジブチル3−ホスホノプロピオネート、トリプロピル−3−ホスホノプロピオネート、プロピルジメチル−3−ホスホノプロピオネート、プロピルジエチル−3−ホスホノプロピオネート、プロピルジブチル3−ホスホノプロピオネート、トリブチル−3−ホスホノプロピオネート、ブチルジメチル−3−ホスホノプロピオネート、ブチルジエチル−3−ホスホノプロピオネート、ブチルジプロピル−3−ホスホノプロピオネート、メチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−3−ホスホノプロピオネート、エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−3−ホスホノプロピオネート、プロピルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−3−ホスホノプロピオネート、ブチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−3−ホスホノプロピオネートなど。
<前記一般式(2)においてn=3である化合物>
トリメチル−4−ホスホノブチレート、メチルジエチル−4−ホスホノブチレート、メチルジプロピル−4−ホスホノブチレート、メチルジブチル4−ホスホノブチレート、トリエチル−4−ホスホノブチレート、エチルジメチル−4−ホスホノブチレート、エチルジプロピル−4−ホスホノブチレート、エチルジブチル4−ホスホノブチレート、トリプロピル−4−ホスホノブチレート、プロピルジメチル−4−ホスホノブチレート、プロピルジエチル−4−ホスホノブチレート、プロピルジブチル4−ホスホノブチレート、トリブチル−4−ホスホノブチレート、ブチルジメチル−4−ホスホノブチレート、ブチルジエチル−4−ホスホノブチレート、ブチルジプロピル−4−ホスホノブチレートなど。
前記例示のホスホノアセテート類化合物の中でも、エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA)が特に好ましい。
リチウム二次電池に使用する非水電解質における前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物の含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中の前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物の含有量が多すぎると、電池の充放電サイクル特性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質における前記一般式(2)で表されるホスホノアセテート類化合物の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
また、非水電解質には、ハロゲン置換された環状カーボネートも含有するものを使用することが好ましい。ハロゲン置換された環状カーボネートは、負極に作用して、負極と非水電解質成分との反応を抑制する作用を有しており、また、高電圧下でも分解され難いことから、非水電解質成分自体の分解に対する耐性を高める作用も有している。よって、ハロゲン置換された環状カーボネートも含有する非水電解質を使用することで、より充放電サイクル特性や負荷特性の良好なリチウム二次電池とすることができる。
ハロゲン置換された環状カーボネートとしては、下記の一般式(3)で表される化合物を用いることができる。
前記一般式(3)中、R7、R8、R9およびR10は、水素、ハロゲン元素または炭素数1〜10のアルキル基を表しており、アルキル基の水素の一部または全部がハロゲン元素で置換されていてもよく、R7、R8、R9およびR10のうちの少なくとも1つはハロゲン元素であり、R7、R8、R9およびR10は、それぞれが異なっていてもよく、2つ以上が同一であってもよい。R7、R8、R9およびR10がアルキル基である場合、その炭素数は少ないほど好ましい。前記ハロゲン元素としては、フッ素が特に好ましい。
このようなハロゲン元素で置換された環状カーボネートの中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)が特に好ましい。
リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるハロゲン置換された環状カーボネートの含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中のハロゲン置換された環状カーボネートの含有量が多すぎると、電池の膨れが生じやすくなる虞がある。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるハロゲン置換された環状カーボネートの含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
更に、非水電解質には、ビニレンカーボネート(VC)も含有するものを使用することが好ましい。VCは、負極(特に負極活物質として炭素材料を使用した負極)に作用して、負極と非水電解質成分との反応を抑制する作用を有している。よって、VCも含有する非水電解質を使用することで、より充放電サイクル特性や負荷特性の良好なリチウム二次電池とすることができる。
リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるVCの含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中のVCの含有量が多すぎると、電池の膨れが生じやすくなる虞がある。よって、リチウム二次電池に使用する非水電解質におけるVCの含有量は、10質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。
非水電解質に用いるリチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限はない。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6などの無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩などを用いることができる。
このリチウム塩の非水電解質中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
非水電解質に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
また、リチウム二次電池に使用する非水電解質には、充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
更に、リチウム二次電池の非水電解質には、前記の非水電解質(非水電解液)に、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
本発明のリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質およびセパレータを備えており、正極が前記の正極であり、かつ非水電解質に前記の非水電解質を使用していればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られているリチウム二次電池で採用されている各種構成および構造を適用することができる。
負極には、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤を含有する負極合剤からなる負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものが使用できる。
負極活物質としては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、リチウムと合金化可能な金属(Si、Snなど)またはその合金、酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
前記の負極活物質の中でも、特に電池の高容量化を図るには、SiとOとを構成元素に含む材料(ただし、Siに対するOの原子比pは、0.5≦p≦1.5である。以下、当該材料を「SiOp」という)を用いることが好ましい。
SiOpは、Siの微結晶または非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶または非晶質相のSiを含めた比率となる。すなわち、SiOpには、非晶質のSiO2マトリックス中にSi(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO2と、その中に分散しているSiを合わせて、前記の原子比pが0.5≦p≦1.5を満足していればよい。例えば、非晶質のSiO2マトリックス中にSiが分散した構造で、SiO2とSiのモル比が1:1の材料の場合、p=1であるので、構造式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
なお、SiOpは導電性が低いことから、例えば、SiOpの表面を炭素で被覆して用いてもよく、これにより負極における導電ネットワークを、より良好に形成することができる。
SiOpの表面を被覆するための炭素には、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などを使用することができる。
なお、炭化水素系ガスを気相中で加熱し、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、SiOp粒子の表面上に堆積する方法[気相成長(CVD)法]で、SiOpの表面を炭素で被覆すると、炭化水素系ガスがSiOp粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面や表面の空孔内に、導電性を有する炭素を含む薄くて均一な皮膜(炭素被覆層)を形成できることから、少量の炭素によってSiOp粒子に均一性よく導電性を付与できる。
CVD法で使用する炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどを用いることができるが、取り扱いやすいトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。また、メタンガスやエチレンガス、アセチレンガスなどを用いることもできる。
CVD法の処理温度としては、例えば、600〜1200℃であることが好ましい。また、CVD法に供するSiOpは、公知の手法で造粒した造粒体(複合粒子)であることが好ましい。
SiOpの表面を炭素で被覆する場合、炭素の量は、SiOp:100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、また、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。
なお、SiOpは、他の高容量負極材料と同様に電池の充放電に伴う体積変化が大きいため、負極活物質には、SiOpと黒鉛とを併用することが好ましい。これにより、SiOpの使用による高容量化を図りつつ、電池の充放電に伴う負極の膨張収縮を抑えて、充放電サイクル特性をより高く維持することが可能となる。
負極活物質にSiOpと黒鉛とを併用する場合、負極活物質全量中におけるSiOpの割合は、SiOpの使用による高容量化効果を良好に確保する観点から0.5質量%以上とすることが好ましく、また、SiOpによる負極の膨張収縮を抑制する観点から10質量%以下とすることが好ましい。
また、負極のバインダおよび導電助剤には、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じものが使用できる。
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて使用される導電助剤を、NMPや水などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
また、負極には、必要に応じて、リチウム二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質を80.0〜99.8質量%とし、バインダを0.1〜10質量%とすることが好ましい。更に、負極合剤層に導電助剤を含有させる場合には、負極合剤層における導電助剤の量を0.1〜10質量%とすることが好ましい。
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は5μmであることが望ましい。
本発明のリチウム二次電池に係るセパレータには、80℃以上(より好ましくは100℃以上)170℃以下(より好ましくは150℃以下)において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましく、通常のリチウム二次電池などで使用されているセパレータ、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の微多孔膜を用いることができる。セパレータを構成する微多孔膜は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体であってもよい。
なお、本発明のリチウム二次電池に係るセパレータには、融点が140℃以下の樹脂を主体とした多孔質層(I)と、150℃以下の温度で溶融しない樹脂または耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用することが好ましい。ここで、「融点」とはJIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度を意味している。また、「150℃以下の温度で溶融しない」とは、JIS K 7121の規定に準じて、DSCを用いて測定される融解温度が150℃を超えているなど、前記融解温度測定時に150℃以下の温度で融解挙動を示さないことを意味している。更に、「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化などの変形が見られないことを意味している。
前記積層型のセパレータに係る多孔質層(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものであり、リチウム二次電池が多孔質層(I)の主体となる成分である樹脂の融点以上に達したときには、多孔質層(I)に係る樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
多孔質層(I)の主体となる融点が140℃以下の樹脂としては、例えばPEが挙げられ、その形態としては、前述のリチウム二次電池に用いられる微多孔膜や、不織布などの基材にPEの粒子を含む分散液を塗布し、乾燥するなどして得られるものが挙げられる。ここで、多孔質層(I)の全構成成分中において、主体となる融点が140℃以下の樹脂の体積は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましい。なお、例えば多孔質層(I)を前記PEの微多孔膜で形成する場合は、融点が140℃以下の樹脂の体積が100体積%となる。
前記積層型のセパレータに係る多孔質層(II)は、リチウム二次電池の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、150℃以下の温度で溶融しない樹脂または耐熱温度が150℃以上の無機フィラーによって、その機能を確保している。すなわち、電池が高温となった場合には、喩え多孔質層(I)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(II)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止することがでる。また、この耐熱性の多孔質層(II)がセパレータの骨格として作用するため、多孔質層(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮自体も抑制できる。
多孔質層(II)を融点が150℃以上の樹脂を主体として形成する場合、例えば、150℃以下の温度で溶融しない樹脂で形成された微多孔膜(例えば前述のPP製の電池用微多孔膜)を多孔質層(I)に積層させる形態、150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子などを含む分散液を多孔質層(I)に塗布し、乾燥して多孔質層(I)の表面に多孔質層(II)を形成する塗布積層型の形態が挙げられる。
150℃以下の温度で溶融しない樹脂としては、PP;架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子微粒子;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンスルフィド;ポリテトラフルオロエチレン;ポリアクリロニトリル;アラミド;ポリアセタールなどが挙げられる。
150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子を使用する場合、その粒径は、平均粒子径で、例えば、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書でいう各種粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA−920」)を用い、樹脂を溶解しない媒体に、これら微粒子を分散させて測定した平均粒子径D50%である。
多孔質層(II)を耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として形成する場合、例えば、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーなどを含む分散液を、多孔質層(I)に塗布し、乾燥して多孔質層(II)を形成する塗布積層型の形態が挙げられる。
多孔質層(II)に係る無機フィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電池の有する非水電解質に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであればよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、また、アルミナ、シリカ、ベーマイトが好ましい。アルミナ、シリカ、ベーマイトは、耐酸化性が高く、粒径や形状を所望の数値などに調整することが可能であるため、多孔質層(II)の空孔率を精度よく制御することが容易となる。なお、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーは、例えば前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、耐熱温度が150℃の無機フィラーを、前述の150℃以下の温度で溶融しない樹脂と併用しても差し支えない。
多孔質層(II)に係る耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの形状については特に制限はなく、略球状(真球状を含む)、略楕円体状(楕円体状を含む)、板状などの各種形状のものを使用できる。
また、多孔質層(II)に係る耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの平均粒子径は、小さすぎるとイオンの透過性が低下することから、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーが大きすぎると、電気特性が劣化しやすくなることから、その平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
多孔質層(II)において、150℃以下の温度で溶融しない樹脂および耐熱温度が150℃以上の無機フィラーは、多孔質層(II)に主体として含まれるものであるため、これらの多孔質層(II)における量[多孔質層(II)が150℃以下の温度で溶融しない樹脂および耐熱温度が150℃以上の無機フィラーのうちのいずれか一方のみを含有する場合は、その量であり、両者を含有する場合は、それらの合計量。150℃以下の温度で溶融しない樹脂および耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの多孔質層(II)における量について、以下同じ。]は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましい。多孔質層(II)中の無機フィラーを前記のように高含有量とすることで、リチウム二次電池が高温となった際にも、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制することができ、正極と負極との直接の接触による短絡の発生をより良好に抑制することができる。
なお、後述するように、多孔質層(II)には有機バインダも含有させることが好ましいため、150℃以下の温度で溶融しない樹脂および耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの多孔質層(II)における量は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99.5体積%以下であることが好ましい。
多孔質層(II)には、150℃以下の温度で溶融しない樹脂または耐熱温度が150℃以上の無機フィラー同士を結着したり、多孔質層(II)と多孔質層(I)との一体化などのために、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBR、CMC、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。有機バインダは、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記例示の有機バインダの中でも、EVA、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス−EEAシリーズ(エチレン−アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD−2001(SBR)」、日本ゼオン社の「BM−400B(SBR)」などがある。
なお、前記の有機バインダを多孔質層(II)に使用する場合には、後述する多孔質層(II)形成用の組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
前記塗布積層型のセパレータは、例えば、150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子や耐熱温度が150℃以上の無機フィラーなどを含有する多孔質層(II)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を、多孔質層(I)を構成するための微多孔膜の表面に塗布し、所定の温度に乾燥して多孔質層(II)を形成することにより製造することができる。
多孔質層(II)形成用組成物は、150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子および/または耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの他、必要に応じて有機バインダなどを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む。以下同じ。)に分散させたものである。なお、有機バインダについては溶媒に溶解させることもできる。多孔質層(II)形成用組成物に用いられる溶媒は、150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子や無機フィラーなどを均一に分散でき、また、有機バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、有機バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
多孔質層(II)形成用組成物は、150℃以下の温度で溶融しない樹脂の粒子および/または耐熱温度が150℃以上の無機フィラー、更には有機バインダなどを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
なお、前記積層型のセパレータにおいて、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは、それぞれ1層ずつである必要はなく、複数の層がセパレータ中にあってもよい。例えば、多孔質層(II)の両面に多孔質層(I)を配置した構成としたり、多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を配置した構成としてもよい。ただし、層数を増やすことで、セパレータの厚みを増やして電池の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので、層数を多くしすぎるのは好ましくなく、前記積層型のセパレータ中の多孔質層(I)と多孔質層(II)との合計層数は5層以下であることが好ましい。
本発明のリチウム二次電池に係るセパレータ(ポリオレフィン製の微多孔膜からなるセパレータや、前記積層型のセパレータ)の厚みは、例えば、10〜30μmであることが好ましい。
また、前記積層型のセパレータにおいては、多孔質層(II)の厚み[セパレータが多孔質層(II)を複数有する場合は、その総厚み]は、多孔質層(II)による前記の各作用をより有効に発揮させる観点から、3μm以上であることが好ましい。ただし、多孔質層(II)が厚すぎると、電池のエネルギー密度の低下を引き起こすなどの虞があることから、多孔質層(II)の厚みは、8μm以下であることが好ましい。
更に、前記積層型のセパレータにおいては、多孔質層(I)の厚み[セパレータが多孔
質層(I)を複数有する場合は、その総厚み。以下同じ。]は、多孔質層(I)の使用による前記作用(特にシャットダウン作用)をより有効に発揮させる観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。ただし、多孔質層(I)が厚すぎると、電池のエネルギー密度の低下を引き起こす虞があることに加えて、多孔質層(I)が熱収縮しようとする力が大きくなり、セパレータ全体の熱収縮を抑える作用が小さくなる虞がある。そのため、多孔質層(I)の厚みは、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、14μm以下であることが更に好ましい。
セパレータ全体の空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(4)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P ={1−(m/t)/(Σai・ρi)}×100 (4)
ここで、前記式中、ai:全体の質量を1としたときの成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
また、前記積層型のセパレータの場合、前記(4)式において、mを多孔質層(I)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(I)の厚み(cm)とすることで、前記(4)式を用いて多孔質層(I)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(I)の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
更に、前記積層型のセパレータの場合、前記(4)式において、mを多孔質層(II)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(II)の厚み(cm)とすることで、前記(4)式を用いて多孔質層(II)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(II)の空孔率は、20〜60%であることが好ましい。
前記セパレータとしては、機械的な強度の高いものが好ましく、例えば突き刺し強度が3N以上であることが好ましい。例えば、SiやSnの合金や酸化物などは、容量の大きな負極活物質として電池の高容量化に寄与する一方で、充放電に伴う体積変化が大きい。よって、このような負極活物質を使用した場合、充放電を繰り返すことで、負極全体の伸縮によって、対面させたセパレータにも機械的なダメージが加わることになる。セパレータの突き刺し強度が3N以上であれば、良好な機械的強度が確保され、セパレータの受ける機械的ダメージを緩和することができる。
突き刺し強度が3N以上のセパレータとしては、前述した積層型のセパレータが挙げられ、特に、融点が140℃以下の樹脂を主体とした多孔質層(I)に、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(II)を積層したセパレータが好適である。それは、前記無機フィラーの機械的強度が高いため、多孔質層(I)の機械的強度を補って、セパレータ全体の機械的強度を高めることができるからであると考えられる。
前記突き刺し強度は以下の方法で測定できる。直径2インチの穴があいた板上にセパレータをしわやたわみのないように固定し、先端の直径が1.0mmの半円球状の金属ピンを、120mm/minの速度で測定試料に降下させて、セパレータに穴があく時の力を5回測定する。そして、前記5回の測定値のうち最大値と最小値とを除く3回の測定について平均値を求め、これをセパレータの突き刺し強度とする。
前記の正極と前記の負極と前記のセパレータとは、正極と負極との間にセパレータを介在させて重ねた積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形態で本発明のリチウム電池に使用することができる。
前記の積層電極体や巻回電極体においては、前記積層型のセパレータ、特に融点が140℃以下の樹脂を主体とした多孔質層(I)に、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(II)を積層したセパレータを使用する場合、多孔質層(II)が少なくとも正極と面するように配置することが好ましい。なお、この場合、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含み、より耐酸化性に優れる多孔質層(II)が正極と面することで、正極によるセパレータの酸化をより良好に抑制できるため、電池の高温時の保存特性や充放電サイクル特性を高めることもできる。また、VCやシクロヘキシルベンゼンなどの添加剤を非水電解質中に加えた場合、正極側で皮膜形成してセパレータの細孔を詰まらせ、電池特性の低下を引き起こす虞もある。そこで比較的ポーラスな多孔質層(II)を正極に対面させることで、細孔の目詰まりを抑制する効果も期待できる。
他方、前記積層型セパレータの一方の表面が多孔質層(I)である場合には、多孔質層(I)が負極に面するようにすることが好ましく、これにより、例えば、シャットダウン時に多孔質層(I)から溶融した熱可塑性樹脂が電極の合剤層に吸収されることを抑制して、効率よくセパレータの空孔の閉塞に利用することができるようになる。
本発明のリチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
本発明のリチウム二次電池は、従来から知られているリチウム二次電池が適用されている各種用途と同じ用途に用いることができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
実施例1
<リチウムコバルト複合酸化物(a)の合成>
Co(OH)2とMg(OH)2とLi2CO3とをモル比で1.90:0.10:1.02になるように混合し、この混合物を大気中(酸素濃度が約20vol%)、950℃で12時間熱処理し、その後乳鉢で粉砕して粉体とした。粉砕後のリチウムコバルト複合酸化物(a)は、デシケーター中で保存した。
前記リチウムコバルト複合酸化物(a)について、その組成分析を、ICP法を用いて行ったところLi1.0Co0.95Mg0.05O2で表される組成であることが判明した。
<正極の作製>
前記リチウムコバルト複合酸化物(a)とLi1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3O2〔リチウムニッケル複合酸化物(b)〕とを7:3の割合(質量比)で混合した正極活物質100質量部と、結着剤であるPVDFを10質量%の濃度で含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液20質量部と、導電助剤である人造黒鉛1質量部およびケッチェンブラック1質量部とを、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製した。
前記正極合剤含有ペーストを、厚みが15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した後、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、正極合剤層の厚さおよび密度を調節し、アルミニウム箔の露出部にニッケル製のリード体を溶接して、長さ375mm、幅43mmの帯状の正極を作製した。得られた正極における正極合剤層は、片面あたりの厚みが55μmであった。
<負極の作製>
負極活物質である平均粒子径D50%が8μmであるSiO表面を炭素材料で被覆した複合体(複合体における炭素材料の量が10質量%)と、平均粒子径D50%が16μmである黒鉛とを、SiO表面を炭素材料で被覆した複合体の量が3.75質量%となる量で混合した混合物:97.5質量部と、結着剤であるSBR:1.5質量部と、増粘剤であるCMC:1質量部とに、水を加えて混合し、負極合剤含有ペーストを調製した。
前記負極合剤含有ペーストを、厚みが8μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布した後、120℃で12時間の真空乾燥を行って、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、負極合剤層の厚さおよび密度を調節し、銅箔の露出部にニッケル製のリード体を溶接して、長さ380mm、幅44mmの帯状の負極を作製した。得られた負極における負極合剤層は、片面あたりの厚みが65μmであった。
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジエチルカーボネート(DEC)との容積比2:3:1の混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させ、更にT4Pを1.25質量%となる量、EDPAを1.25質量%となる量、FECを2.0質量%となる量、およびVCを2.0質量%となる量で、それぞれ添加して、非水電解質を調製した。
<電池の組み立て>
前記帯状の正極を、厚みが16μmの微孔性ポリエチレンセパレータ(空孔率:41%)を介して前記帯状の負極に重ね、渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の電極巻回体とし、この電極巻回体をポリプロピレン製の絶縁テープで固定した。次に、外寸が厚さ4.0mm、幅34mm、高さ50mmのアルミニウム合金製の角形の電池ケースに前記電極巻回体を挿入し、リード体の溶接を行うとともに、アルミニウム合金製の蓋板を電池ケースの開口端部に溶接した。その後、蓋板に設けた注入口から前記非水電解質を注入し、1時間静置した後注入口を封止して、図1に示す構造で、図2に示す外観のリチウム二次電池を得た。
ここで図1および図2に示す電池について説明すると、図1の(a)は平面図、(b)はその部分断面図であって、図1(b)に示すように、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の電極巻回体6として、角形(角筒形)の電池ケース4に非水電解質と共に収容されている。ただし、図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や非水電解質などは図示していない。
電池ケース4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部にはPEシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状電極巻回体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
そして、この蓋板9は電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1の電池では、蓋板9に非水電解質注入口14が設けられており、この非水電解質注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、図1および図2の電池では、実際には、非水電解質注入口14は、非水電解質注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、非水電解質注入口14として示している)。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶5と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
図2は前記図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、図1においても、電極体の内周側の部分は断面にしていない。
実施例2
EDPAを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成した。
実施例3
正極活物質を、リチウムコバルト複合酸化物(a)とリチウムニッケル複合酸化物(b)との混合物から、実施例1で作製したものと同じリチウムコバルト複合酸化物(a)(Li1.0Co0.95Mg0.05O2)100質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例4
Co(OH)2とMg(OH)2とLi2CO3とをモル比で1.998:0.002:1.02になるように混合し、この混合物を大気中(酸素濃度が約20vol%)、950℃で12時間熱処理し、その後乳鉢で粉砕して粉体とした。粉砕後のリチウムコバルト複合酸化物(a)は、デシケーター中で保存した。
前記リチウムコバルト複合酸化物(a)について、その組成分析を、ICP法を用いて行ったところLi1.0Co0.999Mg0.001O2で表される組成であることが判明した。
リチウムコバルト複合酸化物(a)を、前記のもの(Li1.0Co0.999Mg0.001O2)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例5
T4Pの添加量を0.50質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例6
T4Pの添加量を2.00質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
比較例1
T4PおよびEDPAを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
比較例2
T4Pの添加量を5.00質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
比較例3
T4Pの添加量を0.10質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
比較例4
Co(OH)2とMg(OH)2とLi2CO3とをモル比で1.9992:0.0008:1.02になるように混合し、この混合物を大気中(酸素濃度が約20vol%)、950℃で12時間熱処理し、その後乳鉢で粉砕して粉体とした。粉砕後のリチウムコバルト複合酸化物は、デシケーター中で保存した。
前記リチウムコバルト複合酸化物について、その組成分析を、ICP法を用いて行ったところLi1.0Co0.9996Mg0.0004O2で表される組成であることが判明した。
リチウムコバルト複合酸化物(a)に代えて、前記のリチウムコバルト複合酸化物(Li1.0Co0.9996Mg0.0004O2)を用いた以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例1〜6および比較例1〜4のリチウム二次電池について、以下の評価を行った。
<充放電サイクル特性>
<充放電サイクル特性評価試験1>
実施例および比較例の電池について、1.0Cの電流値で4.35Vまで定電流充電を行い、続いて4.35Vの電圧で定電圧充電を行った。なお、定電流充電と定電圧充電の総充電時間は2.5時間とした。その後、0.2Cの電流値で3.0Vまで放電を行い、初期容量を測定した。
次に、初期容量測定後の各電池について、1Cの電流値で4.35Vまで定電流充電を行い、続いて4.35Vの電圧で定電圧充電を行う充電(定電流充電と定電圧充電の総充電時間は2.5時間)と、その後に1Cの電流値で3.0Vまでの放電とを行う一連の操作を1サイクルとして、500サイクルの充放電を繰り返した。その後の各電池について、初期容量測定時と同じ条件で充電および放電を行って、500サイクル経過後の各電池の放電容量を測定し、これを初期容量で除した値を百分率で表して、容量維持率を求めた。この容量維持率が高いほど、電池の充放電サイクル特性が優れているといえる。
<充放電サイクル特性評価試験2(50℃・DOD5%試験)>
実施例および比較例の各電池(充放電サイクル特性評価試験1を行ったものとは別の電池)について、充放電サイクル特性評価の初期容量測定と同じ条件で充放電を行って、初期容量を測定した。続いて、初期容量測定後の各電池を、初期容量測定と同じ条件で充電して満充電状態とした。そして、満充電状態の各電池について、50℃で、1.0Cの電流値で定格容量の5%(DOD5%)だけ放電を行い、再度1.0Cの電流値で満充電状態にまで充電する一連の操作を1サイクルとして、400サイクルの充放電を繰り返した。その後の各電池について、初期容量測定と同じ条件で充放電を行って、400サイクル経過後の各電池の容量を測定し、これを初期容量で除した値を百分率で表して、容量維持率を求めた。この50℃・DOD5%試験も、電池の充放電サイクル特性を評価するものであり、この試験における容量維持率が高いほど、電池の充放電サイクル特性が優れているといえる。
<負荷特性>
実施例および比較例の電池(充放電サイクル特性評価を行ったものとは別の電池)について、充放電サイクル特性評価の初期容量測定と同じ条件で充放電を行って放電容量(0.2C放電容量)を測定した。また、0.2C放電容量測定後の各電池について、0.2C放電容量測定時と同じ条件で充電を行い、1.5Cの電流値で3.0Vまで放電を行って、放電容量(1.5C放電容量)を測定した。そして、各電池について、1.5C放電容量を0.2C放電容量で除した値を百分率で表して、容量維持率を求めた。この容量維持率が高いほど、電池の負荷特性が優れているといえる。
<連続充電後の短絡試験>
実施例および比較例の各電池(前記の各評価を行ったものとは別の電池)について、45℃で、1.0Cの電流値で4.4Vまで充電する定電流充電と、続いて4.4Vの電圧で定電圧充電を行う定電流−定電圧充電を継続し、245時間後の各電池の短絡の有無を調べた。
実施例および比較例のリチウム二次電池に使用したリチウムコバルト複合酸化物のMgの量〔一般式(1)における「y」の値〕および非水電解質中の各添加剤の含有量を表1に示し、前記の各評価結果を表2に示す。
表1および表2に示す通り、組成の適正なリチウムコバルト複合酸化物(a)を正極活物質に使用し、かつ前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物を適正な量で含有する非水電解質を使用した実施例1〜6のリチウム二次電池は、充放電サイクル特性評価試験1における容量維持率、および充放電サイクル特性評価試験2(50℃・DOD5%試験)における容量維持率が高く、優れた充放電サイクル特性を有しており、また、負荷特性評価時の容量維持率も高く優れた負荷特性を有している。更に、実施例1〜6のリチウム二次電池は、連続充電後に短絡が認められず、安全性も良好である。
これに対し、前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物を含有していない非水電解質を用いた比較例1の電池は、充放電サイクル特性評価試験1における容量維持率、充放電サイクル特性評価試験2(50℃・DOD5%試験)における容量維持率のいずれもが低く、充放電サイクル特性が劣っており、また、連続充電後に短絡が認められ、安全性も劣っている。更に、前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の含有量が多すぎる非水電解質を用いた比較例2の電池は、充放電サイクル特性試験1における容量維持率、および負荷特性評価時の容量維持率が低く、充放電サイクル特性、負荷特性の両者が劣っている。
また、前記一般式(1)で表されるリン酸エステル類化合物の含有量が少なすぎる非水電解質を用いた比較例3の電池、およびMg量の少なすぎるリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に使用した比較例4の電池は、充放電サイクル特性評価試験2(50℃・DOD5%試験)における容量維持率が低く充放電サイクル特性が劣っており、連続充電後に短絡が認められ、安全性も劣っている。