以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
図1は、本発明にかかる自動車のジャッキ収納部構造(以下「ジャッキ収納部構造100」と称する)の実施形態である自動車102を示す図である。図1(a)が自動車102の外観図であり、図1(b)が図1(a)の自動車102のシート構成を示す図である。なお図中、矢印Fwdで「車両前方」、矢印Rhで「車両右方」、矢印Upで「上方」を表す。
図1(a)に示すように、自動車102は5ドアハッチバック車である。図1(b)に示すように、自動車102は3列シートの構成であり、運転席または助手席である1列目シート110、2列目シート112、3列目シート114を備える。かかるシートには、各席ごとにシートベルト装置が設置される。
図2は、図1の自動車102の車両右側面104(図1では自動車102の裏側にあたり見えていない)を車内側から見た図であり、バックドア(図1では同じく見えていない)付近を示す図である。図2ではバックドアは図の右手に位置するが、図示省略している。図2に示すように、ジャッキ収納部構造100では、車両右側面104に、2列目シート112のシートベルト装置のシートベルトリトラクタが取り付けられる2NDシートベルトリトラクタパネル(以下「2NDリトラクタパネル122」と称する)、3列目シート114のシートベルト装置のシートベルトリトラクタが取り付けられる3RDシートベルトリトラクタパネル(以下「3RDリトラクタパネル124」と称する)が備えられる。
3RDリトラクタパネル124は、リヤホイールの回転空間を形成するリヤホイールハウス126の後側に配置されている。クォータパネル128は、3RDリトラクタパネル124の車外側に位置し少なくともリヤホイールハウス126から3RDリトラクタパネル124までの間に広がっている。リヤホイールハウス126の後側から3RDリトラクタパネル124の前側にかけては、車載ジャッキ160が挿通される環状のジャッキブラケット134が車内側に備えられる。3RDリトラクタパネル124の後側は、バックドアの側部に接するリヤリンフォース130およびリヤインナーコンプ132と接合される。
図3は、図2のジャッキブラケット134を2通りの方向から見た図である。図3(a)は車内側から車両右側面104に向かって見た図であり、図3(b)は図3(a)のジャッキブラケット134を斜め下方向から見た図である。図4は、図3(a)のA−A断面図である。
図4に示すように、ジャッキブラケット134は接合部材134aとジャッキ収納部材134bとを接合して構成される。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、例えばこれらを一体に形成してもよい。接合部材134aは、クォータパネル128の車内側に配置され、スポット溶接等で接合される。
図3(a)に示すように、ジャッキブラケット134の後側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの後側は、スポット溶接位置140、142にて、3RDリトラクタパネル124、クォータパネル128とスポット溶接される。また、ジャッキブラケット134の後側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの後側は、スポット溶接位置144にて、クォータパネル128とスポット溶接される。
図3(b)に示すように、ジャッキブラケット134の前側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの前側は、スポット溶接位置146にて、水平断面「L」字状の押さえ部材136の一端と接合される。押さえ部材136の他端は、スポット溶接位置149にてクォータパネル128と接合される。さらに、押さえ部材136の他端は、スポット溶接位置148にて、リヤホイールハウス126(リヤホイールハウス126のフランジ)と接合される。すなわち、ジャッキブラケット134の前側は、押さえ部材136を介して、リヤホイールハウス126、クォータパネル128と接合される。
図5は、ジャッキブラケット134、押さえ部材136の接合の働きについて説明する図である。図5(a)に示すように、3RDリトラクタパネル124は、ウェビングを装着した乗員が投げ出されるのを防ぐ場合などに大きな引張力150が上方向にかかることを想定して強度が高く設計される。具体的には、3RDリトラクタパネル124の板厚が厚く形成されたり、ハイテン材(高張力鋼)で形成されたりする。2NDリトラクタパネル122等、他のリトラクタパネルも同様である。
ジャッキ収納部構造100では、スポット溶接位置140、142にて、強度が高く設計される3RDリトラクタパネル124にジャッキブラケット134を接合する。これにより、ジャッキブラケット134の充分な強度を確保することができる。そればかりか、これらを接合することは、大きな引張力150に対する3RDリトラクタパネル124の補強にもなり、高い相乗効果を得ることができる。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、少なくともジャッキブラケット134の一部がリヤホイールハウス126の後側のリトラクタパネルに接合されていればよい。
また図5(b)に示すように、ジャッキ収納部構造100では、水平断面「L」字状の押さえ部材136が、車両前後方向への首振り運動152を規制するようにジャッキブラケット134の前側を押さえる。これにより、ジャッキブラケット134の接合部(スポット溶接位置140、142、144、146、148、149等)にかかる応力を緩和することができる。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、例えば押さえ部材136をジャッキブラケット134と一体に形成してリヤホイールハウス126、クォータパネル128と接合してもよい。
上記より、ジャッキ収納部構造100によれば、新たな補強材を接合したり、既存部品を延長したり、クォータパネル128の板厚を上げたりといった補強を行うことなく、ジャッキブラケット134をバックピラー付近以外へ接合することが可能である。したがって、ジャッキブラケット134をバックピラー付近へ接合しなければならなかった従来技術に比較して、レイアウトの自由度の改善を図ることができる。
図6は、ジャッキブラケット134の使用態様図である。図6に示すように、ジャッキブラケット134のジャッキ収納部材134bは、長手方向を垂直(縦)にした姿勢の車載ジャッキ160を収納する。詳細には車載ジャッキ160は、わずかにジャッキアップして車両前後方向(水平方向)に寸法を増大させジャッキ収納部材134bの対向する2つの面154、156間で突っ張らせることで固定される。なお、本実施形態ではジャッキブラケット134に車載ジャッキ160を収納するが、これにとらわれず、ジャッキブラケット134にホイールナットレンチ162やジャッキハンドル164等の工具を収納できるようにしてもよい。
図8は、本発明の実施形態と比較される比較例としての自動車のジャッキ収納部構造(以下「ジャッキ収納部構造200」と称する)を適用した自動車202を示す図である。図8(a)が自動車202後部の斜視図であり、図8(b)が図8(a)のX矢視図である。
図8(a)(b)に示すように、比較例にかかるジャッキ収納部構造200では、強度を得るためにジャッキブラケット234を強度の高いバックピラー付近に接合していて、ジャッキブラケット234が車両側面と車両後面とのコーナー部266に配置されている。これより、内装材としてのトリム268に嵌合し、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド270をコーナー部266に合わせた複雑な形状に作成しなければならず、その合わせが難しくなってしまう。
図7は、本実施形態のジャッキ収納部構造100において、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド170を示す図である。これに対し、ジャッキ収納部構造100によれば、ジャッキブラケット134を3RDリトラクタパネル124に接合することで充分な強度を確保することができるので、バックピラー付近へのジャッキブラケット134の接合を回避できる。したがって、車両側面と車両後面とのコーナー部166にジャッキブラケット134を配置しなければならない事態を回避でき、内装材としてのトリム168に嵌合し、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド170が複雑な形状にならなくて済む。すなわち、車載ジャッキ160の蓋であるリッド170を簡素化できる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記では3RDリトラクタパネル124にジャッキブラケット134を接合する構成について説明したが、2列目のシート用の2NDリトラクタパネルにジャッキブラケットを接合してもよい。この場合3列シート構成の自動車に限られず、2列シート構成の自動車であってもよい。すなわち、後席用(最後席用)のシートベルトリトラクタが取り付けられるリトラクタパネルにジャッキブラケットを接合するとよい。