JP2013075385A - インクジェット記録物 - Google Patents

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Abstract

【課題】インク非吸収性あるいは低吸収性の繊維で形成された不織布などが用いられ、滲みが少なく優れた耐擦性を有する画像を含むインクジェット記録物を提供する。
【解決手段】非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材13と、インクジェット法で付与されて前記繊維材料に付着した水系インク15により形成され、前記繊維材料の繊維軸方向に付着する前記水系インク15の平均長Aが150μm以上200μm以下であるインク画像とを有している。
【選択図】図1

Description

本発明は、インクジェット法で記録されたインクジェット記録物に関する。
インクジェト法による画像記録法としては、インクジェットヘッドに設けられた多数のノズルからインクを液滴状に吐出することによって記録を行なう方法が知られている。この方法は、高速での画像形成が可能であり、多種多様な記録媒体に対して高品位の画像を記録し得ること等から広く利用されている。
インク材料の含有成分の1つである着色剤には、顔料が広く用いられており、顔料は水などの媒体中に分散されて用いられる。顔料を分散させて用いる場合、分散させたときの分散粒径や分散後の安定性、サイズ均一性、吐出ヘッドからの吐出性、及び画像濃度などが重要であり、これらを向上させる技術の検討が種々行なわれている。
一方で、インクジェット法により画像を記録する場合、記録された画像の耐久性は、品質の観点で重要な性質の1つである。
画像の耐久性を示す性質のうち、耐擦性を向上させることが試みられている。例えば、インクの膜を固める目的で、インク中に水性樹脂エマルジョンを含有するインクジェット記録用インクが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、画像の滑り性を高めて見かけ上の耐擦性を向上させる狙いで、ワックス粒子を用いることが知られている。例えば、樹脂粒子とワックス粒子とを含有するインクを用い、インク非吸収性あるいは低吸収性の記録媒体にインクジェット記録を行なう印刷方法が試みられている(例えば、特許文献2参照)。
一方、インクとの密着性を向上させるため、基材に前処理を行なうことは周知であり、例えば、不織布繊維ウェブに対してコロナ処理等の表面処理を行なう例は広く知られている(例えば、特許文献3参照)。
殊に、記録媒体として、ポリプロピレン等の非吸収性ないし低吸収性の合成繊維を絡み合わせた不織布などを用いた場合には、繊維自体がインク吸収しないため、インクが固定化され難く、擦過耐性に劣るほか、画像濃度も得られ難く、また画像が滲む等の支障を来たしやすい。
特開2006−249203号公報 特開2010−105187号公報 特表2011−513049号公報
上記従来の技術のうち、水性樹脂エマルジョンを用いたインクジェット記録用インクでは、画像中にポリマー粒子が含まれることになるが、耐擦性としては、未だ充分とはいえず、不織布など非吸収性ないし低吸収性の繊維が用いられている基材に記録する場合には更なる改善が求められる。
また、非吸収性あるいは低吸収性の記録媒体に印刷する上記印刷方法では、このような記録媒体は一般にインクとの密着性が悪いことが知られ、インクに樹脂粒子とワックス粒子を含ませるのみでは、必ずしも画像の耐擦性は充分に得られない。
上記特許文献3のように、基材にコロナ処理等の表面処理を施すことは、インクの密着改善に有効なものの、表面処理は行なっても印刷したインクの乾燥、定着がされないと、依然として画像の耐擦性は充分でない。また、基材が非吸収性あるいは低吸収性であると、インクの乾燥も充分でなくなり、また吐出滴量が適性に制御されているともいえず、画像が滲む問題を有している。
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、インク非吸収性あるいは低吸収性の繊維で形成された不織布などが用いられ、滲みが少なく優れた耐擦過性を有する画像を含むインクジェット記録物を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
本発明は、ポリプロピレン等の非吸収性又は低吸収性の繊維を用いた不織布等に画像を記録する場合、不織布等に付与されるインク滴の滴量が、画像の耐擦過性、滲みやボケ等の画質の点で重要であるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材と、インクジェット法で付与されて前記繊維材料に付着した水系インクにより形成され、前記繊維材料の繊維軸方向に付着する前記水系インクの平均長が150μm以上200μm以下であるインク画像と、を有するインクジェット記録物である。
<2> 前記繊維材料の繊維軸方向と直交する断面の直径(繊維径)が1μm以上200μm以下である前記<1>に記載のインクジェット記録物である。
<3> 前記記録基材の繊維面密度が、1g/m以上300g/m以下である前記<1>又は前記<2>に記載のインクジェット記録物である。
<4> 前記水系インクは、着色剤とワックス粒子と水とを含有する前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録物である。
<5> 前記水系インクは、ポリマー粒子を含有する前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録物である。
<6> 前記ポリマー粒子は、ポリウレタンの粒子である前記<5>に記載のインクジェット記録物である。
<7> 前記記録基材は、親水化処理が施されている前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のインクジェット記録物である。
<8> 前記記録基材が、不織布である前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインクジェット記録物である。
本発明によれば、インク非吸収性あるいは低吸収性の繊維で形成された不織布などが用いられ、滲みが少なく優れた耐擦性を有する画像を含むインクジェット記録物が提供される。
(A)は、不織布にインクが打滴された際のインクの拡がり及び繊維への付着を概念的に示す概念図であり、(B)は、記録紙にインクが打滴された際のインクの拡がりを概念的に示す概念図である。
以下、本発明のインクジェット記録物について詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録物は、インクをインクジェット法で吐出することによりインク画像が形成されたものである。具体的には、
本発明のインクジェット記録物は、非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材と、インクジェット法で付与されて前記繊維材料に付着した水系インクにより形成され、前記繊維材料の繊維軸方向に付着する前記水系インクの平均長が150μm以上200μm以下であるインク画像と、を設けて構成されている。
本発明においては、インクジェット記録に一般に用いられる普通紙やインクジェット専用紙、塗工紙など、主としてパルプで構成された記録用紙ではなく、例えばポリプロピレンなどのインク非吸収性あるいは低吸収性の繊維で形成された不織布等を記録媒体として画像記録する場合に、付与するインクの液滴量を適正な量とし、繊維材料の繊維が伸びている方向、すなわち繊維軸方向に長さをもってインクが付着し、繊維上に付着するインクの繊維軸方向における前記長さ(平均長)が所定長範囲にあると、画像の耐擦過性が飛躍的に向上し、しかも画像の滲みやボケ等も抑えられ、品質の高い画像が提供される。
<記録基材>
本発明のインクジェット記録物は、非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材を設けて構成されている。記録基材は、インクジェット法で画像が記録される被記録材料のことをさす。
非吸収性又は低吸収性は、記録基材の水系インクの吸収度合を示すものであるが、インクが水系であるため、下記のように水の吸収性にて評価することができる。即ち、
本発明において、「非吸収性の繊維」とは、ASTM試験法のASTM D570で吸水率(質量%、24hr.)が0.2未満の組成のものからなる繊維を意味し、「低吸収性の繊維」とは、ASTM試験法のASTM D570で吸水率(質量%、24hr.)が0.2以上0.5未満の組成のものからなる繊維をいう。
インク非吸収性又は低吸収性の繊維材料としては、例えば、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の繊維)、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の繊維)、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維などの合成繊維や、ステンレス、鉄、金、銀、アルミニウム等の金属繊維、ガラス繊維(グラスウール等)などが挙げられる。
インク非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体としては、例えば、不織布、織物、グラスウールなどを挙げることができる。
前記不織布とは、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいい、水流交絡不織布が含まれる。不織布は、一方向に又は不規則に配向され、摩擦、粘着、接着等により固着された繊維の加工シート、ウェブ、又はバットである。不織布には、織られ又は編まれたもの、あるいは房状の、糸もしくはフィラメントの結合を組み込んでステッチボンドされ、又は湿式ミリングによるフェルト加工されたものは含まれない。
本発明においては、上記の中でも、低コスト、加工性が良好である点や比較的画像の耐擦過性が弱く滲みが生じやすい点から、不織布が好ましく、より好ましくはポリオレフィン繊維の不織布である。
本発明における記録基材は、該記録基材を構成する繊維の繊維軸方向と直交する断面の直径(繊維径)が1〜200μmであることが好ましく、1〜100μmがより好ましく、特に好ましくは5〜60μmである。繊維径が1μm以上であることで、画像耐擦性や記録基材自体のコシの点で有利であり、200μm以下であることで、画像滲みや記録基材の風合いの点で有利である。
また、記録基材の厚みとしては、1〜1000μmが好ましく、1〜800μmがより好ましく、5〜500μmが更に好ましく、5〜300μmが特に好ましい。厚みが1μm以上であることで、記録基材自体のコシの点で有利であり、1000μm以下であることで、記録基材の風合いの点で有利である。
記録基材の密度(繊維面密度)としては、1〜300g/mが好ましく、1〜200g/mがより好ましく、5〜100g/mが特に好ましい。繊維面密度が1g/m以上であることで、画像濃度が得られやすい点で有利であり、300g/m以下であることで、画像耐擦性、画像滲みの点で有利である。
なお、繊維面密度とは、繊維が2次元に分布している面の面積に対する、該面に存在する繊維の量の比率[g/m]をさし、前記記録基材を単位面積で切り出して重量を測ることにより求められる値である。
記録基材(例えば不織布)は、メルトブローイング、スパンボンディング、溶剤紡糸、電界紡糸、カーディングなど、いずれの方法で形成されたものでもよい。
本発明における記録基材は、親水化処理が施されていることが好ましい。親水化処理が施されていることにより、水系に調整されたインクのハジキを防ぎ、インクの繊維上への付着、具体的には後述するように繊維軸方向に付着するインクの平均長を所定の範囲とすることができる。
このとき、記録基材の表面張力は、3.4×10−6〜4.5×10−6J(約34〜45ダイン/cm)であることが好ましく、3.5×10−6〜4.0×10−6J(約35〜40ダイン/cm)がより好ましい。基材の表面張力が小さすぎると、画像の密着性が低下する場合があり、基材の表面張力が大きすぎると、記録基材自体の風合いが低下する場合がある。
なお、記録基材の表面張力は、濡れ張力試験用混合液(和光純薬工業社製)を用い、記録基材が濡れ始める混合液番号を基材の表面張力として測定することができる。
この場合、インクの表面張力としては、20〜40mN/mの範囲にあることが好ましく、後述の繊維軸方向に付着するインクの平均長を調整するために、前記範囲の中から適宜選ぶことができる。インクの表面張力は、静的表面張力測定装置(例えば池田理化社製のTD3)を用いたウィルヘルミ法によって測定される。
前記親水化処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、及び火炎処理などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、例えば、水系インクを付与して画像を記録する前に予め、記録基材の表面にコロナ処理を施してもよい。コロナ処理は、基材の表面エネルギーを増大させ、基材表面の湿潤及び基材への接着を促進することができる。コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS−10S)などを用いて行なえる。コロナ処理の条件は、記録基材の種類やインク組成など、場合に応じて適宜選択すればよい。例えば、下記の処理条件としてもよい。
・処理電圧:10〜15.6kV
・処理速度:30〜100mm/s
本発明における親水化処理としては、コストや作業性の点で、コロナ処理を施す態様が好ましい。
<インク画像>
本発明のインクジェット記録物は、インク画像が設けられており、インク画像は、繊維材料に付着した水系インクにより形成され、繊維材料の繊維軸方向に付着する水系インクの平均長が150μm以上200μm以下となるように構成したものである。
本発明においては、地球環境や画像記録時の作業環境を損なわない点で、水系のインクが用いられる。水系のインクが、非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材に付与されると、インクは記録基材(例えば不織布)中に吸収されるが、記録基材を形成する繊維自体はインク吸収性が乏しいため、図1(A)に示されるように、付与されたインク滴11の一部は繊維に付着して繊維上に残って着色部を形成するものの、付着保持しきれない滴量分は分離して材料深部にさらに染み込んでいく。この点について、一般に画像記録に広く用いられているシート紙等では、シートをなすパルプ等の材料自体がインクを吸収するため、図1(B)に示されるように、付与されたインクがシート表面に着滴後、シートの厚み方向だけでなく面方向に拡がりつつ、紙中の空間部分に入り込んで固定化される。このような違いから、本発明における繊維材料の繊維軸方向に付着する水系インクの平均長は、150μm以上200μm以下の範囲とする。つまり、図1(A)のように、インク滴はその全てが繊維表面に保持され難い状況下、画像の擦過耐性を保持するが滲み(「ぼやけ」ともいう)の発生も抑制される範囲を選択する。具体的には、
繊維軸方向に付着する水系インクの平均長が150μm未満で小さ過ぎると、定着後のインク領域が小さく剥がれやすく、耐擦過性が悪くなる。また、液滴が基材の深部まで到達して、画像がぼやけ、結果的に滲んだ画像が形成される。一方、平均長が200μmを超えて大き過ぎると、耐擦過性は良化するものの、基材表面上で液滴の乾燥が遅れ、画像の滲みが発生する。
本発明においては、画像の耐擦過性を高め、画像の滲みを招来しない観点から、適切なインク滴量(すなわちインクの平均長)を選択することが重要である。
ここで、繊維材料の繊維軸方向に付着する水系インクの前記「平均長」は、図1(A)に示すように、繊維13にインク滴11が接触して繊維13に沿って付着、保持されているインクの、繊維の繊維軸方向における長さAを複数とり、これらを平均した値である。
具体的には、前記平均長は、画像の複数箇所を顕微鏡で観察し、繊維上に付着しているインクの繊維軸方向における最大長さを20点測定し、その測定値の平均値として求められる値である。
繊維材料の繊維軸方向に付着する水系インクの前記平均長としては、上記と同様の理由から、160μm以上180μm以下の範囲が好ましく、160μm以上175μm以下の範囲がより好ましい。
繊維軸方向に付着する水系インクの前記「平均長」の調節は、付与される水系インクの液滴量の調節、記録基材の種類の選択や、記録基材に施される親水化処理の種類又は程度、親水化処理の条件の選択などにより、所望とする平均長とすることが可能である。
水系インクの記録基材への付与は、インクジェット法により行なう。インクジェット法によることで、インクは所望の領域に選択的に付与される。インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
記録基材にインクを付与する場合、付与方式としては、マルチパスでも1パスでもよいが、高速記録の観点からは1パス又は2パスが好ましい。ここで、1パスとは、主走査方向について1回の走査でその走査領域に形成すべきドット全てを記録する記録方法をいい、記録時の副走査方向と交差する基材幅方向に該幅長に対応した長さの吐出ヘッド(記録素子が配列されているラインヘッド)が設けられ、該吐出ヘッドに設けられた複数の吐出孔から主走査方向に同時にインクを吐出するものである。これは、いわゆるライン方式と呼ばれ、記録素子の配列方向と交差する方向(副走査方向)に記録媒体を走査することで記録基材の全面に画像の記録が行なえる。短尺のシリアルヘッドを記録基材の幅方向(主走査方向)に走査しながら記録するシャトル方式のようなキャリッジ等の搬送系が不要である。また、2パスとは、走査領域に吐出するドットを2回の走査により記録する方法である。
例えば、各色あたりの解像度は、100dpi(dot per inch)以上が好ましく、インク粘度が4〜20mPa・s(30℃)であることが好ましい。解像度は、高画質の観点から、200dpi以上が望ましい。
水系インクの粘度(30℃)としては、インクタンクから記録ヘッドに安定的にインク供給する観点から、4〜20mPa・sが好ましく、より好ましくは6mPa・s〜16mPa・sである。
吐出するインク滴量は、求められる耐擦過性、画像滲みの抑制、画像部の風合いを満足し得る範囲であれば、特に制限はないが、本発明においては、1〜150pLの範囲が好ましく、2〜120pLの範囲がより好ましく、更に好ましくは60〜120pLの範囲である。
本発明においては、インクジェット法によるインクの付与中及び/又は付与後に、記録基材に付与されたインクを乾燥させる乾燥工程が設けられることが好ましい。すなわち、本発明のインクジェット記録物は、記録基材上への画像の記録中及び/又は記録後に乾燥処理を経たインク画像を有するものが好ましい。乾燥工程を加えることで、インク中の液媒体(具体的には、水、水溶性有機溶剤)の蒸発が促され、画像のムラ、滲みの少ない高画質な画像や耐擦過性に優れた記録物が短時間に得られる。また、記録基材のシワの発生も防ぎ、さらに記録基材のカールをも防止することができる。また、乾燥時には、その加熱によりインクに含まれるポリマー粒子の融着を促し、良好な皮膜が形成されて、記録物の耐擦過性がより一層向上する。
乾燥時の乾燥温度は、インク中に存在する液媒体が蒸発し、かつポリマー粒子による皮膜が形成される範囲であれば、特に制限はなく、かかる観点から40℃以上が好ましい。中でも、乾燥温度は、40℃以上150℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上80℃以下である。温度が80以下であることで、記録基材の変形等を防ぐことができる。
なお、乾燥時の加熱時間については、インク中の液媒体が蒸発し、かつポリマー粒子による皮膜形成が可能であれば特に制限はなく、液媒体種、ポリマー種、記録速度等を考慮して適宜選択することができる。
乾燥方式としては、インクに含まれる液媒体の揮発を促進させる方法であれば、特に制限はない。乾燥方式には、例えば、記録前後の記録基材に熱を加える方法、記録後の記録基材に風を吹き付ける方法、又はこれらを組み合わせた方法、等が挙げられる。具体的には、強制空気加熱、輻射加熱、伝導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥、乾燥空気送風などが挙げられる。
次に、本発明のインクジェット記録物を形成する水系インクについて詳述する。
本発明における水系インクは、少なくとも着色剤及び水を含有し、好ましくは少なくとも着色剤、ワックス粒子、及び水を含有する組成に構成される。本発明における水系インクは、更に、好ましくはポリマー粒子を含有し、また必要に応じて、更に、顔料の分散剤や水溶性有機溶剤、界面活性剤、その他の添加剤等の成分を用いて構成することができる。
(着色剤)
本発明における水系インクは、好ましくは着色剤の少なくとも一種を含有する。着色剤としては、顔料、染料等が好適であり、中でも画像の耐光性等の観点から、顔料が好ましい。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等が挙げられる。カラーインデックスに記載されていない顔料であっても、水相に分散可能であればいずれも使用可能である。
また、前記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も使用可能である。
上記の中でも、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料が好ましい。
〜分散剤〜
本発明における水系インクは、分散剤の少なくとも1種を含有することができる。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
なお、「非水溶性」とは、分散剤を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることをいう。
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させることができる。低分子の界面活性剤型分散剤は、分子量2,000以下の低分子分散剤である。また、低分子の界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2,000が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基とは、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基とを連結するための連結基も適宜有することができる。
前記親水性基は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。前記アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。前記カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。前記ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
前記親水性基は、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
前記疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有しており、特に炭化水素系であることが好ましい。また、疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また、疎水性基は、1本鎖状構造又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
これらの中でも、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
ポリマー分散剤は、自己分散性の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が100mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、酸価は25〜100mgKOH/gのポリマーがより好ましい。
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
顔料に代えて染料を用いてもよい。染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを用いることができる。染料としては、公知の染料を制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料が好適に用いられる。担体としては、水に不溶又は難溶であれば、特に制限はなく、無機材料、有機材料、及びこれらの複合材料から選択して用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体が好適に用いられる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
本発明においては、画像の耐擦過性や品質などの観点から、顔料と分散剤とを含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含み、顔料表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料として含有されることがより好ましい。更には、水系インクは、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含み、顔料表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料を含むことが特に好ましい。
分散状態での顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径が200nm以下であると、色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になる。平均粒子径が10nm以上であると、耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
ここで、分散状態での顔料の平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
なお、分散状態での顔料の平均粒子径、及び後述するポリマー粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料の水系インク中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク全量に対して、1〜25質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましい。
(ポリマー粒子)
本発明における水系インクは、ポリマー粒子の少なくとも1種を含有することができる。ポリマー粒子を含有することで、画像の記録基材との密着性及び耐擦過性をより向上させることができる。
ポリマー粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性、もしくは変性の、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニル系樹脂(例:塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等)、アルキド樹脂、ポリエステル系樹脂(例:フタル酸樹脂等)、アミノ系材料(例:メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等)、あるいはそれらの共重合体又は混合物などの樹脂の粒子が挙げられる。
ポリマー粒子としては、2種以上を併用してもよく、また、2種以上を混合あるいは結合したポリマーで構成された粒子を使用してもよい。
上記のうち、ポリマー粒子としては、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の粒子が好ましく、下記の観点から、ポリウレタン系樹脂の粒子が特に好ましい。
ポリウレタン系樹脂が好ましい理由としては、下記のように推定される。すなわち、
ポリウレタン系樹脂は、ポリマー間で水素結合のような強固な相互作用が可能なウレタン部位と、ポリマー間での相互作用が比較的弱い非ウレタン部位とから形成されており、インクの膜が形成される際に、ミクロな構造として、相互作用が比較的強い部位と比較的弱い部位がそれぞれが寄り集まって海−島構造を構築しているものと推定され、これによりポリウレタンが柔軟性を有するものと推定される。ポリウレタンは、このように本質的に柔軟性を持つため、従来知られているような低Tgのポリマー粒子を使用した例に比べて、高いTgのものの使用が可能であり、柔軟性と強度を有し、耐擦過性に優れたインク膜(インク画像)を形成できるものと推察される。
したがって、特に耐擦過性が得られ難い「非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材」を用いた場合も有利である。
また、前記アクリル系樹脂としては、アニオン性基を有するものが好ましい。このようなアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)と必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーとを溶媒中で重合して得られる。アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基から選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
ポリマー粒子としては、自己分散性を有する自己分散性ポリマーの粒子が好適である。以下、自己分散性ポリマーの粒子について説明する。
自己分散性ポリマーの粒子は、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
自己分散性ポリマーの粒子は、吐出安定性及び前記顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点で好ましく、中でもカルボキシル基を有する自己分散性ポリマーの粒子がより好ましい。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
自己分散性ポリマーの乳化又は分散状態、すなわち自己分散性ポリマーの水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性ポリマーを溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性ポリマーが有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
自己分散性ポリマーの粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマー、ポリウレタンが好ましい。
縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例は、特開2001−247787号公報に記載されている。前記ポリウレタンは、ジオール化合物とジイソシアネート化合物とを原料として重付加反応により合成される。ジオール化合物及びジイソシアネート化合物の詳細については、特開2001−247787号公報の段落番号[0031]〜[0036]の記載を参照することができる。
また、ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例は、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものが挙げられる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤あるいは停止剤のいずれかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
ポリマー粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば、特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であっても、ノニオン性親水性基であってもよい。
前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、水系インクを構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
親水性基含有モノマーは、自己分散性の観点から、解離性基含有モノマーが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーが好ましい。解離性基含有モノマーの例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
本発明における自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性の観点から、カルボキシル基を有し、酸価が25〜100mgKOH/gであるポリマーを含むことが好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性の観点から、25〜80mgKOH/gがより好ましく、更には30〜65mgKOH/gが好ましい。酸価が25mgKOH/g以上であると、自己分散性が安定化し、酸価が100mgKOH/g以下であると、耐水性の点で有利である。
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば、特に制限はない。前記芳香族基は、芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。重合性基は、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基が好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記芳香族基含有モノマーの例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
自己分散性ポリマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15〜90質量%がより好ましく、15〜80質量%がさらに好ましく、25〜70質量%が特に好ましい。
自己分散性ポリマーは、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル);
N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマー、等が挙げられる。
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで、水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL Super HZM−H、TSKgeL Super HZ4000、TSKgeL Super HZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)が用いられる。GPCの詳細については、特開2010−155359号公報の段落番号[0076]に記載がある。
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
以下、ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例(例示化合物B−01〜B−19)を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
本発明におけるポリマー粒子として、水系インクの連続吐出性及び吐出安定性をより高める観点から、ポリウレタン系樹脂の粒子が好ましい。ポリウレタン系樹脂は、アクリル系ポリマーに比べ、光分解による劣化が起こり難いため、ポリウレタン系樹脂を含むインクを用いた画像は耐光性に優れる。
ポリウレタン系樹脂の粒子としては、下記UP−1〜UP−4で表される樹脂の少なくとも1種を含む粒子が好適である。
前記UP−1〜UP−4において、Rは脂肪族基又は芳香族基である。Rは−(CH)−COOH又は−(CHCHO)−CHであり、mは1〜10の整数であり、pは1〜100の整数である。XはNH又はOである。nは任意の整数である。
UP−1〜UP−4で表されるポリウレタン系樹脂は、樹脂中に架橋結合が存在する態様が好ましい。このことにより、ポリウレタン系樹脂の粒子の剪断安定性が向上する。また、UP−1〜UP−4で表されるポリウレタン系樹脂は、ポリウレタン粒子の安定性が向上する観点から、酸性基を含む態様が好ましい。
UP−1〜UP−4で表されるポリウレタン系樹脂及びその好ましい態様を製造する方法としては、特に制限されないが、例えば、特開2006−241457号公報に記載の製造方法が好適である。すなわち、イソシアネート化合物とアニオン界面活性剤とを含むエマルションを調製し、そこに二官能性、三官能性又は多官能性の反応剤を添加して撹拌し、ウレタン樹脂を生成させる製造方法である。
ポリウレタン系樹脂の粒子としては、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例として、大成ファインケミカル社製のアクリットWBR−016U(Tg:20℃)、同WEM−321U(Tg:20℃)、同WBR−2018(Tg:20℃)、同WBR−2000U(Tg:45℃)、同WBR−601U(Tg:−30℃)などを挙げることができる。
ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては、特に制限はない。例えば、重合性界面活性剤の存在下に乳化重合を行ない、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法で共重合させる方法が挙げられる。前記重合法の中でも、インクとしたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
ポリマー粒子は、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が25〜50であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明におけるポリマー粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。混合物の攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。これらの有機溶媒の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0109]の記載を適用することができる。中でも、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましく、油系から水系への転相時の極性変化を穏和にする観点から、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの併用が好ましい。該溶剤の併用により、凝集沈降や粒子同士の融着がなく、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えばカルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。これら中和剤の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0110]の記載を適用することができる。中でも、自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましい。ここでの比率の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0111]に記載されている。
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することでポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
ポリマー粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、特に好ましくは10〜50nmの範囲である。平均粒子径が10nm以上であることで、製造適性が向上する。また、平均粒子径が400nm以下であることで、保存安定性が向上する。また、ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合してもよい。
なお、ポリマー粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)は、水系インクの保存安定性の観点から、20〜200℃が好ましく、20〜180℃がより好ましく、20〜170℃がさらに好ましい。
ポリマー粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ポリマー粒子の水系インク中における含有量としては、画像の耐擦過性の観点から、インク全量に対して、1〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
(滑剤)
本発明における水系インクは、滑剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。滑剤を含有することで、画像表面の摩擦係数が低下し、耐擦過性がより向上する。
滑剤としては、画像表面の摩擦係数を低下させる機能を有するものであれば制限はなく、例えば、ワックス粒子、エステル化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物、高級脂肪族酸又はその塩、脂肪酸アミド化合物(好ましくはカルボン酸アミド化合物)、及び有機又は無機のマット剤などが挙げられる。
前記ワックス粒子としては、天然ワックス及び合成ワックスの粒子を挙げることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックス、植物系ワックス、動植物系ワックスが挙げられる。このうち、石油系ワックスの例として、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等が、植物系ワックスの例として、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ等が、動物植物系ワックスの例として、ラノリン、蜜蝋等を挙げることができる。
合成ワックスとしては、合成炭化水素系ワックス、変性ワックス系が挙げられる。このうち、合成炭化水素系ワックスの例として、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロブシュワックス等が、変性ワックス系の例として、パラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等が挙げられる。
前記ワックスの中でも、カルナバワックスは、画像の耐擦過性を向上させる観点から好ましく、画像サンプルの後加工(冊子への加工等)における画像強度を向上させる点で好ましい。また、画像の光沢感や、ノズル先端からの水分蒸発の防止、水分保持効果に優れる点で、炭素数20〜40の炭化水素を主成分とするパラフィンワックスが好ましい。また、樹脂との相溶性に優れ、均質で良好な画像を得やすい点から、ポリエチレンワックスが好ましい。湿潤性の付与の観点からは、ポリエチレンワックスが好ましい。ポリエチレンワックスは、変性し易く、例えばグリコール変性されたグリコール変性ポリエチレンワックスはグリコールに起因して湿潤効果が得られ、ノズル先端での水系インクの湿潤性を保つのに有効である。ポリエチレンワックスを含有することで、吐出安定性をより一層高く維持することができる点で好ましい。
ワックスは、粒子状に分散された分散物の形で添加されることが好ましく、例えば、粒子状のワックスが水分散された水分散物(具体的には、エマルジョン(乳化分散物)又はサスペンジョン(固体粒子分散物)のいずれでもよい)の形態で用いられるのが好適である。
前記エステル化合物としては、特開昭58−86540号、同51−37217号、同54−159221号、同58−90633号、同51−141623号の各公報等に記載の化合物等、並びに脂肪酸エステルなどが挙げられる。前記脂肪酸エステルとしては、直鎖の高級脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。
前記シリコーン化合物としては、特開昭50−117414号、同60−140341号、同60−140342号、同60−191240号、同59−4649号の各公報、並びに米国特許第4404276号、独国特許第2509534号、同1938959号等の各明細書に記載の化合物が挙げられる。
また、前記カルボン酸アミド化合物としては、特開昭55−79435号公報等に記載の化合物が、前記フッ素化合物としては、特開昭63−19647号公報等に記載の化合物が、また、前記高級脂肪族酸又はその塩としては、英国特許第1263722号明細書等に記載の高級脂肪族酸又はその塩等が挙げられる。
前記マット剤としては、無機材料、有機材料のいずれであってもよい。有機材料を用いたマット剤としては、ポリマーが挙げられ、ビニル重合体が好ましい。ビニル重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどを主成分とするポリマーが挙げられる。これらポリマーは、例えばラテックス等の分散物(ディスパージョン)として使用可能である。架橋されたポリマー粒子(例:架橋ポリエチレン、架橋シリコーン)のラテックスも好ましい。例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリ(エチレングリコールジメタクリレートコ−メチルメタクリレート)の分散物が好適である。
前記ポリスチレンの例としては、スチレン単独重合体、ポリ(St/MAA=97/3[質量比])共重合体粒子(比重1.05)、ポリ(St/MAA=90/10[質量比])共重合体粒子(比重1.06)、ポリ(St/MMA/MAA=50/40/10[質量比])共重合体粒子(比重1.09)、ポリ(St/MMA/MAA/DVB=40/40/10/10[質量比])共重合体粒子(比重1.10)等が挙げられる。
なお、Stは「スチレン」を、MAAは「メタクリル酸」を、DVBは「ジビニルベンゼン」を、MMAは「メチルメタクリレート」をそれぞれ表す。
前記マット剤としては、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例として、ポリエチレン粒子(比重0.90;フロービーズLE−1080、住友精化(株)製)、ポリエチレン粒子(比重0.93;フロービーズEAー209、住友精化(株)製)、ポリエチレン粒子(比重0.96;フロービーズHE−3040、住友精化(株)製)、シリコーン粒子(比重1.00;E701、東レダウシリコーン(株)製)、ポリスチレン粒子(比重1.05;SB−6、積水化成品工業(株)製)、ポリ(St/DVB=90/10[質量比])粒子(比重1.06;SX−713、綜研化学(株)製)、ポリ(St/DVB=80/20[質量比])粒子(比重1.06;SX−713、綜研化学(株)製)、ポリ(St/DVB=70/30[質量比])粒子(比重1.07;SX−713、綜研化学(株)製)、ポリ(St/MAA/DVB=87/3/10[質量比])共重合体粒子(比重1.06;SX−713α 綜研化学(株)製)、ポリ(St/MAA/DVB=80/10/10[質量比])共重合体粒子(比重1.07;SX−713α、綜研化学(株)製)、等が挙げられる。
また、無機材料を用いたマット剤としては、例えば、二酸化珪素、二酸化チタン、二酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、公知の方法で減感した塩化銀及び臭化銀、ガラス、珪藻土などが好適に挙げられる。
滑剤の中でも、耐擦過性の向上の点で、直鎖の高級脂肪酸エステルのワックスの粒子、炭化水素系のワックスの粒子、−(−Si(CH−の構造を有するシリコーンオイル、1−ペンタデシル−2−ヘキサデシル−フタル酸ジエステル、パルミチン酸アミドが好ましく、更にはワックス粒子が好ましい。
滑剤は、適当な溶剤に溶解した溶液形態、乳化分散物もしくは固体粒子分散物の形態など、いずれの形態でインク中に含有されてもよい。
滑剤は、例えば、乳化分散剤を用いて、乳化分散物の形態で好適に用いられる。この場合に用いられる乳化分散剤としては、従来より知られている多くの乳化分散剤の中から適宜選択して用いることができる。中でも、好ましい乳化分散剤は、下記一般式(1)で表される分散剤である。
(R−G−(D) ・・・一般式(1)
前記一般式(1)において、Rは、炭素数10〜60の直鎖、分岐、環状を含むアルキル基、炭素数10〜60の直鎖、分岐、環状を含むアルケニル基、炭素数10〜60の直鎖、分岐、環状を含むアラルキル基、又は炭素数10〜60のアリール基を表し、これらは置換基を有してもよいし無置換であってもよい。
好ましいRの例としては、C2g+1(gは10〜60の整数を表す。)で表されるアルキルが挙げられ、具体的には、ドデシル、ミリスチル、セチル、ステアリル、オレイル、エイコシル、ドコサニル、トリアコンタシル、テトラコンタシル、ヘプタコンタシル、ジノニルフェニル、ジドデシルフェニル、テトラデシルフェニル、トリペンチルフェニル、ドデシルナフチルなどが挙げられる。
Gは、2〜7価、好ましくは2〜5価、より好ましくは2価〜4価、さらに好ましくは2価又は3価の連結基又は単結合を示す。Gとしては、アルキレン基、アリーレン基、又はそれらの複合基が好ましい。Gは、酸素原子、エステル基、硫黄、アミド基、スルホニル基、硫黄等の、異種原子で中断された2価の置換もしくは無置換の連結基であってもよい。Gとして特に好ましくは、酸素原子、エステル基、アミド基である。
Dは、(B)−Eで表されるポリオキシアルキレン基を表す。Bは、−CHCHO−、−CHCHCHO−、−CH(CH)CHO−、又は−CHCH(OH)CHO−を表し、好ましくは−CHCHO−である。
nは、1〜50の整数を表し、好ましくは5〜30の整数である。
また、Eは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、炭素数2〜8のアルキルカルボニル基、又はアリールカルボニル基を表し、これらは置換基を有してもよいし無置換であってもよい。
前記炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシルが好ましく、特に好ましくは、メチル、エチル、プロピルである。
前記アリール基としては、フェニル基が好ましい。
前記炭素数2〜8のアルキルカルボニル基としては、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、シクロヘキサンカルボニルが好ましく、特に好ましくはアセチルである。
前記アリールカルボニル基としては、ベンゾイル基が好ましい。
前記Eのうち、特に好ましくは、水素原子、メチル、メチル、プロピル、アセチル、プロピオニル、ベンゾイルである。
a及びdは、各々独立に、1〜6の整数を表す。
、D、及びEが複数存在するときには、複数のR、D、及びEは、それぞれ互いに同一でも異なるものでもよい。
なお、一般式(1)で表される分散剤は、水系での溶解性が小さいことが望ましく、例えば水への溶解性が0.5質量%以下(25℃)であるものが好ましく、更に好ましいのは0.1質量%以下である。
以下、一般式(1)の具体的化合物例を挙げる。但し、これらに限定されるものではない。
乳化分散する方法としては、ジブチルフタレート、トリクレジルホスフェート、ジオクチルセバケート、又はトリ(2−エチルヘキシル)ホスフェートなどのオイル、酢酸エチルやシクロヘキサノンなどの補助溶媒を用いて溶解し、乳化分散剤を添加して機械的に乳化分散物とする方法が挙げられる。このとき、油滴の粘度や屈折率の調製の目的でα−メチルスチレンオリゴマーやポリ(t−ブチルアクリルアミド)等のポリマーを添加することも好ましい。
また、前記滑剤は、固体粒子分散物の形態でも好適に用いることができる。
固体粒子を分散する方法としては、滑剤の粉末を水等の適当な溶媒中にボールミル、コロイドミル、振動ボールミル、サンドミル、ジェットミル、ローラーミル、又は超音波によって分散し、固体分散物とする方法が挙げられる。なお、その際に保護コロイド(例えばポリビニルアルコール)、界面活性剤(例えばトリイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム(3つのイソプロピル基の置換位置が異なるものの混合物)などのアニオン性界面活性剤)を用いてもよい。前記ミルでは、一般に分散媒体としてジルコニア等のビーズが用いられる。水分散物には、防腐剤(例えばベンゾイソチアゾリノンナトリウム塩)を含有させてもよい。
滑剤が分散物の形で添加されるときの溶媒としては、水が好ましい。但し、溶媒は水に限定されるものではなく、例えば通常用いられる有機溶媒を適宜選択して分散時に使用してもよい。有機溶媒については、特開2006−91780号公報の段落番号[0027]の記載を参照することができる。有機溶媒の使用により、滑剤の分散物の安定性により優れる。なお、有機溶媒は、同一もしくは異なる種類の溶媒と2種以上を混合して用いてもよい。
滑剤と前記一般式(1)の分散剤とを用いた滑剤分散粒子における両成分の構成比としては、特に制限はなく、滑剤が25〜99質量%、分散剤が1〜75質量%である場合が好ましい。滑剤の比率を上記範囲とすることにより、滑剤分散粒子の特性がより発揮される。したがって、滑剤分散粒子における前記一般式(1)の分散剤の含有比率は小さい方が好ましい。
滑剤分散粒子は、分散される前に予め、化合物のうち融点の高い方よりも更に高い温度で混合され、いわゆる溶融混合して作製されるのが好ましい。分散媒となる有機溶媒を同様に高温に加温しておき、この中に溶融混合物を添加し、各種の分散方法にて微細分散化すればよい。なお、溶融混合物中に加温した有機溶媒を添加し、分散、粒子化することも好ましい。また、滑剤又は分散剤を溶解する非水系有機溶剤にこれらを溶解した後、水の中で他の水溶解性の界面活性剤を利用して微細分散し、そのまま滑剤の分散粒子として添加してもよく、例えば非水系有機溶媒としては酢酸エチルなどが好ましい。
さらに、分散後に有機溶剤を除去し、滑剤粒子分散物として利用してもよい。この場合には、滑剤及び前記一般式(1)で表される化合物の融点が100℃以上でも、低温度にて有機溶媒中で溶解混合することが可能であり、水系での高融点滑剤分散粒子を調製することができる。ここで、滑剤及び前記一般式(1)の融点は特に大きな制約を受けないが、好ましい融点は50℃以上200℃以下であり、さらに60℃以上200℃以下がより好ましく、更に好ましくは80℃以上150℃以下である。
上記のうち、水系インクの調製にあたっては、環境負荷が小さい点で水が最も好ましく、水と共に融点80℃の滑剤を用すいときには、水の温度を80℃以上として分散することが好ましい。
滑剤は、好ましくは乳化分散法により乳化分散物として用いられるのが好ましい。このとき、乳化分散物中の分散粒子の平均粒子サイズは、0.01μm〜10μmが好ましく、より好ましくは0.05μm〜5μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜2μmである。
滑剤の水系インク中における含有量としては、インク全量に対して、滑剤固形分濃度で0.001〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%であり、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。滑剤の含有量が前記範囲内であることで、耐擦過性がより向上する。
(水溶性有機溶剤)
本発明における水系インクは、水を溶媒として含むと共に、水溶性有機溶剤を含有することができる。水溶性有機溶剤をポリマー粒子と共に含有することにより、インク中ではポリマー粒子の最低像膜温度を低めに維持することができ、吐出性などを良好に保つことができる。
ここで、水溶性とは、20℃の水に1質量%以上溶解することをいう。
水系インクを構成する水溶性有機溶剤としては、アルキレンオキシアルコール、アルキレンオキシアルキルエーテルが好ましい。これらの有機溶剤を含むと、高湿環境における記録物のカールを抑えることができる。
前記アルキレンオキシアルコールとしては、好ましくは、プロピレンオキシアルコールである。プロピレンオキシアルコールとしては、例えば、サンニックスGP250、サンニッススGP400(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
前記アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、好ましくは、アルキル部位の炭素数が1〜4のエチレンオキシアルキルエーテル、又はアルキル部位の炭素数が1〜4のプロピレンオキシアルキルエーテルである。
アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどが挙げられる。
上記の水溶性有機溶剤に加え、必要に応じて、乾燥防止、浸透促進、粘度調整などを図る観点から、他の有機溶媒を含有してもよい。
有機溶媒を乾燥防止剤として用いる場合、水系インクをインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。乾燥防止に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
また、浸透促進のためには、水系インクを記録媒体により良く浸透させる目的で有機溶媒を用いてもよい。浸透促進に好適な有機溶媒の具体例として、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類や、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、アセトニトリル、アセトンなど)が挙げられる。
(水)
本発明における水系インクは、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の量は、安定性及び吐出信頼性確保の点から、水系インクの全質量に対して、好ましくは5質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上70質量%以下である。
(界面活性剤)
本発明における水系インクは、種々の界面活性剤を用いることができ、中でもアセチレングリコール系界面活性剤を含有する態様が好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤は、他の界面活性剤に比べ、表面張力及びインクと接触するインクジェットヘッド部材(ヘッドノズルなど)との間の界面張力を適正に保ちやすく、起泡し難い。そのため、水系インクを吐出する際の吐出安定性が高められる。また、アセチレングリコール系界面活性剤を含むことで、記録媒体に対する濡れ性や浸透性が良好になり、インクの濃淡ムラや滲みが抑えられ、精細な画像形成に有利である。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール104、同104E、同104H、同104A、同104BC、同104DPM、同104PA、同104PG−50、同104S、同420、同440、同465、同485、同SE、同SE−F、同504、同61、同DF37、同CT111、同CT121、同CT131、同CT136、同TG、同GA(以上、いずれもAir Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、同Y、同P、同A、同STG、同SPC、同E1004、同E1010、同PD−001、同PD−002W、同PD−003、同PD−004、同EXP.4001、同EXP.4036、同EXP.4051、同AF−103、同AF−104、同AK−02、同SK−14、同AE−3(以上、いずれも日信化学工業(株)製)、アセチレノールE00、同E00P、同E40、同E100(以上、いずれも川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
界面活性剤の水系インク中における含有量は、インク全量に対して、0.1〜1.5質量%が好ましく、0.5〜1.0質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量%以上であると、記録基材の繊維にインクが均一に濡れ広がり易く、画像の耐擦過性が良好になり、画像の滲みを抑えてより均質な画像が得られる。該含有量が1.5質量%以下であると、水インクの保存安定性、吐出安定性により優れる。
(2−ピロリドン)
本発明の水系インクは、2−ピロリドンを含有することが好ましい。
2−ピロリドンは、湿潤剤として機能し、2−ピロリドンを含有することで浸透性が向上して、記録基材の繊維に付着するインク滴の平均長を拡げる作用がある。
2−ピロリドンの水系インク中における含有量としては、インクに浸透性を与え、インクの液滴径(ここでは平均長)を所望程度拡げる作用を付与する点で、インク全量に対して、0.5質量%以上50質量%以下が好ましく、0.5質量%以上30質量%以下がより好ましい。また、ドット径を拡げる作用と画像耐擦性の両立の観点から、1質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
(その他)
本発明における水系インクは、上記の成分に加え、必要に応じて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水系インクを調製後に直接添加してもよく、水系インクの調製時に添加してもよい。
その他の添加剤の詳細については、特開2010−155359号公報の段落番号[0098]〜[0105]に記載されている。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<マゼンタインクの調製>
(ポリマー分散剤P−1の合成)
下記スキームにしたがって、以下に示すようにしてポリマー分散剤P−1を合成した。

攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。
得られたポリマー分散剤P−1の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
(マゼンタ顔料分散液の調製)
ピグメント・レッド122(CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製;マゼンタ顔料)10部と、前記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1規定 NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用い、50mL遠心管を使用して8000rpmで30分間遠心処理を行なった。このとき、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が15質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(マゼンタ顔料分散液)を得た。
(マゼンタインクの調製)
以下の組成中の成分を混合し、インク組成物Aを調液した。調液後、このインク組成物Aをプラスチック製のディスポーザルシリンジに詰め、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の孔径5μmフィルタ(ミリポア社製のMillex−SV、直径25mm)にてろ過し、マゼンタインクとした。
<インク組成物Aの組成>
・マゼンタ顔料分散液(顔料濃度:15質量%) ・・・26.7質量部
・2−ピロリドン(東京化成社製) ・・・26質量部
・オルフィンE1010(日信化学工業社製) ・・・1質量部
・アクリットWBR−016U ・・・16.7質量部
(大成ファインケミカル社製、ポリウレタン樹脂粒子(Tg:20℃、体積平均粒子径:約30nm)の30質量%分散液)
・セロゾール524 ・・・6.7質量部
(中京油脂社製、カルナバワックス粒子(Tm:83℃、体積平均粒子径:約80μm)の30質量%分散液)
・イオン交換水 ・・・インク総量を100質量部とした場合の残分(質量部)
<画像記録及び評価>
1.画像記録
ポリプロピレン不織布(繊維面密度:30g/m、厚み:13μm、繊維径:20μm)に対して、コロナマスター(信光電気計社製、PS−10S)を用いて、処理電圧:14kV、処理速度:50mm/sの条件で2回コロナ処理を行なった。コロナ処理を施した不織布に対して、Qクラスヘッド(富士フイルムDimatix社製、Q−Classヘッド)を用い、上記のように調製したマゼンタインクを60pLにて付与し100%ベタ画像を記録した。このベタ画像を60℃に加熱したホットプレート上に密着させ、不織布の画像非形成面側からドライヤで風速14m/s、温度50℃の温風を60秒間あて、乾燥、定着操作を行なった。このようにして、画像サンプルを得た。
2.測定・評価
上記のようにして得た画像サンプルについて、以下の測定、評価を行なった。測定、評価の結果を下記表1に示す。
−A.画像中のインクサイズ−
得られた画像サンプルの画像部を、顕微鏡(キーエンス社、VK−9700)で20視野観察し、繊維上に形成されているドットの繊維軸方向における最大距離(図1(A)の長さA)を20点測定した。得られた測定値を平均し、その平均値をインクサイズ(平均長[μm])とした。
−B.耐擦過性−
得られた画像サンプルの画像部について、学振式摩擦試験機(安田精機社製、No.428)を用い、画像部を白綿で約2Nの力をかけて規定の往復回数だけ擦り、白綿に移った色について目視により下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:10回往復で擦っても白綿への色移りはほぼみられず、実用上支障を来さない。
B:10回往復で擦ると、白綿に僅かな色移りがみられたが、実用上支障を来さない。
C:10回往復で擦ると、白綿に色移りがみられたが、5回往復で擦ったときには色移りはほぼみられず、実用上は支障を来さない。
D:5回往復で擦ると、白綿に色移りがみられ、実用上支障を来たす。
E:5回往復で擦ると、白綿に明らかな色移りがみられる。
−C.画像滲み−
得られた画像サンプルの画像部について、目視により下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:画像の滲み、あるいはぼやけがほとんど感じられない。
B:画像の滲み、あるいはぼやけがみられたが、実用上支障を来さない。
C:明らかに画像の滲み、あるいはぼやけがみられ、実用上支障を来たす。
(実施例2)
実施例1において、インク滴の量を60pLから85pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。ここで、不織布(記録基材)の表面張力は3.7×10−6(37ダイン/cm)であり、インクの表面張力は37mN/mである。測定、評価の結果は下記表1に示す。
なお、不織布の表面張力は、濡れ張力試験用混合液(和光純薬工業社製)で不織布が濡れ始める混合液番号を該不織布の表面張力として測定した。また、インクの表面張力は、静的表面張力測定装置(池田理化社製のTD3)を用いたウィルヘルミ法により測定した。
(実施例3)
実施例1において、不織布のコロナ処理を行なわず、インク滴の量を60pLから85pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、インク滴の量を60pLから85pLに変更して実施例1と同様のインク量を打滴した後、乾燥、定着操作を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(実施例5)
実施例1において、インク滴の量を60pLから120pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(実施例6)
実施例1において、インク滴の量を60pLから85pLに変更し、ポリプロピレン不織布を繊維面密度:77g/m、厚み:246μm、繊維径:57μmのものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(実施例7)
実施例1において、インク滴の量を60pLから85pLに変更し、ポリプロピレン不織布を繊維面密度:90g/m、厚み:900μm、繊維径:210μmのものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(実施例8)
実施例1において、インク滴の量を60pLから85pLに変更し、ポリプロピレン不織布を繊維面密度:310g/m、厚み:300μm、繊維径:20μmのものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、QクラスヘッドをGELJET GX−5000プリンタヘッドに代え、インク滴の量を60pLから2.4pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、QクラスヘッドをDMPヘッド(富士フイルムDimatix社製、DMP−2800)に代え、インク滴の量を60pLから35pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、インク滴の量を60pLから150pLに変更して実施例1と同様のインク量が打滴されるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ベタ画像を記録し、画像サンプルを作成し、評価した。測定、評価の結果は下記表1に示す。

前記表1に示すように、実施例では、画像滲みが抑えられていると共に、画像は擦過耐性に特に優れていた。これに対し、比較用に形成した画像サンプルでは、画像に滲みが生じ、画像の擦過耐性に劣っていた。
本発明は、おむつ(使い捨てパンツを含む)、トレーニングパンツ、成人用失禁下着等の衛生物品など、非吸収性又は低吸収性の繊維を用いた不織布等に好適に適用することができる。
なお、上記おむつとは、幼児及び失禁症状のある人により、着用者の腰部及び脚部を取り巻くように胴体下部周りに一般に着用され、尿や排便等を受容し得る吸収性物品をいう。
11・・・インク滴
13・・・繊維(不織布)
15,25・・・インク付着領域
23・・・記録紙(シート)

Claims (8)

  1. 非吸収性又は低吸収性の繊維材料の集合体である記録基材と、
    インクジェット法で付与されて前記繊維材料に付着した水系インクにより形成され、前記繊維材料の繊維軸方向に付着する前記水系インクの平均長が150μm以上200μm以下であるインク画像と、
    を有するインクジェット記録物。
  2. 前記繊維材料の繊維軸方向と直交する断面の直径(繊維径)が1μm以上200μm以下である請求項1に記載のインクジェット記録物。
  3. 前記記録基材の繊維面密度が、1g/m以上300g/m以下である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録物。
  4. 前記水系インクは、着色剤とワックス粒子と水とを含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録物。
  5. 前記水系インクは、ポリマー粒子を含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録物。
  6. 前記ポリマー粒子は、ポリウレタンの粒子である請求項5に記載のインクジェット記録物。
  7. 前記記録基材は、親水化処理が施されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録物。
  8. 前記記録基材が、不織布である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録物。
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