JP2013072042A - 炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート - Google Patents

炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、力学特性と耐高速衝撃性を両立させた炭素繊維強化ポリプロピレンシートを提供することにある。具体的には、高い接着力で力学特性を発現しながら、より延性的に破壊し、衝撃を吸収するシートである。
【解決手段】マトリックス樹脂としての(A)ポリプロピレン、(B)フェノール樹脂および(C)ラジカル開始剤を配合してなる樹脂組成物と(D)炭素繊維基材とを含み、シート中の炭素繊維の長さが調整された炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート、その製造方法、成形品、ならびに成形品の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートに関する。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量で優れた機械特性を有するため、ゴルフシャフト、釣竿、ラケット等のスポーツ材料や、航空機用途で高い実績を上げており、近年では、風車ブレード、圧力容器、建築補強材料などの産業分野でも適用が進んでいる。また、電気自動車の開発が活発化し、軽量化の要求が高まっている自動車用途では、特に注目を集めている。
従来CFRPは、高い機械特性への要求からエポキシ樹脂等の熱硬化樹脂が主流であった。しかし、近年では加工サイクルが早く生産性に優れる熱可塑性樹脂を用いたCFRPも活発に研究されている。特に軽量かつ安価で耐溶剤性にも優れるポリプロピレンをマトリックス樹脂に用いたCFRPは、自動車用途への幅広い適用が期待されている。
しかし、ポリプロピレンと炭素繊維は接着性が不足することから、コンポジットとした時に満足できる補強効果が得られない点が課題であった。これに対し、特許文献1では、酸変性ポリプロピレンに末端アミノ基を有するポリアミドを添加することで、炭素繊維との親和性を改善し、コンポジット強度を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2では、特定の結晶化度を有するシンジオタクチックポリプロピレンを用い、炭素繊維への濡れ性と結晶化速度制御により、コンポジット強度を向上させる技術が開示されている。
CFRPを自動車に適用する場合、一般的な力学特性に加え、高速衝撃に対する耐性(耐高速衝撃性)が付与されることが望ましい。耐高速衝撃性とは、高速衝撃が加えられたとき(高速変形時)に、強度と伸びが大きく向上する性質を意味する。一般に熱可塑性樹脂は粘弾性を示すために、高速変形により弾性率が高くなるため、脆性的な挙動を示す。高速の衝撃に対して脆性になる性質を抑える、すなわちより延性的な挙動を示せば、衝撃を吸収することで衝突安全性を高めることができる。
これに対し特許文献3では、ポリプロピレンとアルキルフェノール樹脂の反応生成物を含む変性ポリプロピレンが、高速変形時の脆性破壊の傾向を抑え、従来材料よりも延性に優れることが開示されている。特許文献4では、ポリプロピレン、アルキルフェノール樹脂、フェノールと反応可能な熱可塑性樹脂およびラジカル開始剤からなる樹脂組成物が、同様に高速変形時の延性に優れることが開示されている。特許文献5では、耐熱性および延性に優れるガラス繊維強化ポリプロピレンが開示されている。非特許文献1では、ポリプロピレン、フェノール樹脂およびラジカル開始剤からなるマトリックス樹脂を用いて作成した炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートが、短繊維射出材料と比較して優れた機械強度と耐衝撃性を示すことが示されている。非特許文献2では、ポリプロピレン、フェノール樹脂およびラジカル開始剤からなるマトリックス樹脂を用いて作成した炭素繊維強化熱可塑性樹脂材料が、高い剛性と耐熱を示すことが示されている。
特開2010−168526号公報 特開2010−235774号公報 特開2010−43235号公報 特開2009−96820号公報 特開2009−280781号公報
第27回成形加工学会年会(2011年5月10−14日)プロシーディング A New Thermoforming CFRP:CF Mat/High−flow PP Composite プラスチック成形加工学会誌 第23号 p.511−515(2011)
しかしながら、力学特性に優れ、より高い軽量化効果が見込めるCFRPにおいて、破壊は依然として脆性的であり、耐高速衝撃性と力学特性を両立させる技術は充分ではない。すなわち、高速変形時により延性的に破壊するCFRP材料が求められている。一般にシート形状のCFRPは、含まれる繊維長が長いため、射出材等と比べて炭素繊維による補強効果が大きい。すなわち、材料の初期破壊の段階で、より多くの炭素繊維の破壊を伴う。炭素繊維の機械特性は優れており、破壊には多くのエネルギーを必要とするため、初期破壊が起こった段階で開放されるエネルギーが大きい。開放されたエネルギーは通常マトリックス樹脂の延性で支えきれず、材料は脆性的に破壊する。この傾向は弾性率の高くなる高速変形時で特に大きくなると考えられ、高速変形時に延性破壊可能なCFRPシートの製造は困難であった。
本発明の課題は、力学特性と耐高速衝撃性を両立させた炭素繊維強化ポリプロピレンシートを提供することにある。具体的には、本発明の課題は、高い接着力で力学特性を発現しながら、より延性的に破壊し、衝撃を吸収する炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを提供することである。
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕を提供する。
〔1〕マトリックス樹脂としての下記(A)〜(C)を配合してなる樹脂組成物、および(D)炭素繊維基材を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートであり、
(A)ポリプロピレン
(B)フェノール樹脂
(C)ラジカル開始剤
前記(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維の総数を100質量%としたときの炭素繊維の繊維長分布が、下記(E)および(F)である炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
(E)繊維長0.5mm未満の炭素繊維が10%以下
(F)繊維長5mm以上の炭素繊維が50%以下
〔2〕前記(B)フェノール樹脂の割合が、(A)ポリプロピレン100質量%に対して、3質量%以下である、上記〔1〕に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
〔3〕高速引張時の引張伸びの、通常引張時の引張伸びに対する比が、1.1以上である、上記〔1〕または〔2〕に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
〔4〕前記炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート全体に対する前記(D)炭素繊維基材の割合が5質量%以上50質量%未満である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
〔5〕下記(A)〜(C)を配合してなる樹脂組成物を(D)炭素繊維基材に含浸させ、上記〔1〕の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法。
(A)ポリプロピレン
(B)フェノール樹脂
(C)ラジカル開始剤
〔6〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形品。
〔7〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートをプレス成形する、成形品の製造方法。
本発明による炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、力学特性に優れるだけでなく、高速変形を与えた時に強度と伸びが飛躍的に向上するという、従来全く知られていなかった特徴を有する。これにより、高い力学特性と耐高速衝撃性を両立した炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることができる。
本発明は、マトリックス樹脂として、以下の(A)〜(C)を配合してなる樹脂組成物、および(D)炭素繊維基材を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートである。まず、樹脂組成物の構成要素について説明した後、(D)炭素繊維基材について説明する。
(A)ポリプロピレンとしては、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック等いずれのポリプロピレンも使用できる。また、(A)ポリプロピレンには、ホモポリプロピレン、および、プロピレンとプロピレン以外のαオレフィンとの共重合体が含まれる。該共重合体(以下、ポリプロピレン共重合体という。)には、プロピレンとプロピレン以外の他のモノマー(例えば、エチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィン)から選ばれる1または2以上のモノマーとのブロック共重合体(「ブロックポリプロピレン」ともいう)、プロピレンとプロピレン以外の他のモノマー(例えば、エチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィン)から選ばれる1または2以上のモノマーとのランダム共重合体(「ランダムポリプロピレン」ともいう)が含まれる。
本発明においては、(A)ポリプロピレンとして上記のホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種あるいは2種以上のポリプロピレンを使用できる。中でも本発明における(A)ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンまたはブロックポリプロピレンが好ましい。
ポリプロピレン共重合体に用いられる炭素数4〜10のαオレフィンの例には、1−ブテン、1−ペンテン、イソブチレン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、および3−メチル−1−ヘキセンが含まれる。
ポリプロピレン共重合体中のエチレン単位の含有量は、全モノマー中、5質量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン共重合体中の炭素数4〜10のαオレフィン単位の含有量は、全モノマー中20質量%以下であることが好ましい。
ポリプロピレン共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはプロピレンと1−ブテンとの共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとの共重合体であることがより好ましい。
本発明における(A)ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR:230℃、10分間)は、1g/min〜200g/minであることが好ましく、2g/min〜150g/minであることがより好ましい。MFRが1g/min未満であると、マトリックス樹脂の炭素繊維基材への含浸性が不足し、コンポジット物性が低下するおそれがある。また、200g/minを超えると、(A)ポリプロピレンの強度および伸度が不足し、望む耐高速衝撃性が得られなくなるおそれがある。本発明におけるメルトフローレートは、実施例で示した方法により求めてもよい。
本発明における(B)フェノール樹脂とは、フェノール化合物(P)とアルデヒド化合物(F)を縮合させて得られる樹脂である。(B)フェノール樹脂には、ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂が含まれる。
(B)フェノール樹脂は、(A)ポリプロピレンと反応し、該ポリプロピレンを変性する役割を担うと考えられる。この反応については後で詳しく述べる。
本発明におけるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール化合物(P)とアルデヒド化合物(F)を、酸触媒下で縮合させて得られる樹脂である。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、蓚酸、マレイン酸、蟻酸、酢酸などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、1)フェノール化合物(P)とアルデヒド化合物(F)を(例えば配合モル比(F/P)が0.5〜1.0となるような配合比率で)反応容器に仕込み、2)酸触媒を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水し、5)さらに残っている水と未反応のフェノール類を除去する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
本発明におけるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール化合物(P)とアルデヒド化合物(F)を、アルカリ触媒下で縮合して得られる樹脂をいう。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ類、アンモニア、トリエチルアミン等のアミン類などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、また2種以上を用いてもよい。レゾール型フェノール樹脂は、例えば、1)フェノール化合物(P)とアルデヒド化合物(F)を(例えば配合モル比(F/P)が1.0〜2.0となるような配合比率で)反応容器に仕込み、2)さらにアルカリ触媒を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
(B)フェノール樹脂の原料となるフェノール化合物の例には、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、およびノニルフェノールが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてもよい。
(B)フェノール樹脂の原料となるアルデヒド化合物の例には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、およびアセトアルデヒドが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてもよい。
変性剤としては、例えば、アルキルベンゼン(キシレン系樹脂)、カシューオイル、ロジンなどのテルペン類、およびホウ酸を用いてもよい。これらは、1種または2種以上を用い得る。
本発明における(B)フェノール樹脂として、ノボラック型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のノボラック型フェノール樹脂を2種以上用いてもよい。あるいは、(B)フェノール樹脂として、レゾール型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のレゾール型フェノール樹脂を2種以上用いてもよい。
さらに、(B)フェノール樹脂として、1種または2種以上のノボラック型フェノール樹脂と1種または2種以上のレゾール型フェノール樹脂えとを併用してもよい。
本発明においては、(B)フェノール樹脂に、1種または2種以上のレゾール型フェノール樹脂が含まれることが好ましい。
本発明における(B)フェノール樹脂は、融点または軟化点が30〜180℃であることが好ましく、40〜170℃であることがさらに好ましい。融点はDSC等の方法により、軟化点は環球法等の周知の方法で、それぞれ求めてもよい。本発明における(B)アルキルフェノール樹脂が、結晶性である場合には融点が上記の範囲であることが好ましい。一方、非晶性である場合には軟化点が上記の範囲であることが好ましい。(B)フェノール樹脂は、結晶性であってもよく、非晶性であってもよい。
本発明において、(C)ラジカル開始剤は、公知のものが用いられ得るが、成分(A)と成分(B)間の反応を起こさせるものが好ましい。(C)ラジカル開始剤としては、半減期が1分となるための温度が、130〜270℃であるラジカル開始剤が好ましい。これにより、成分(A)〜(B)を溶融混練させる際の温度において成分(C)を共存させることにより、成分(A)および(B)を効率よく反応させラジカルを発生させることができる。
本発明で使用する(C)ラジカル開始剤は、公知のものでよいが、成分(A)と成分(B)間の反応を起こさせるものが好ましい。成分(A)と成分(B)を反応させる方法は特に限定されず、成分(A)〜(B)を成分(C)と共に溶媒中で加熱して反応させてもよいし、成分(A)〜(B)を成分(C)と共に溶融混練して反応させてもよい。本発明においては、成分(A)〜(B)を溶融混練させることが好ましい。溶融混練の際の温度は、130〜270℃であることが好ましい。
(C)ラジカル開始剤が成分(A)と成分(B)を反応させるメカニズムは明らかではないが、(C)ラジカル開始剤が分解されて生じたラジカルが、(A)ポリプロピレンの側鎖のメチル基、あるいは主鎖のメチレン基またはメチン基の水素原子を引き抜き、ポリプロピレン上に炭素ラジカルを発生させ、この炭素ラジカルが、(B)フェノール樹脂のベンゼン環を攻撃すると推察される。その結果、主鎖の成分(A)に成分(B)が側鎖として結合したポリマーが生成される、グラフト共重合が起きるものと考えられる。ただし、メカニズムはこれに限定されない。
本発明における(C)ラジカル開始剤の例には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−i−プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパ−オキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−i−プロピルカーボネート等のパーオキシエステル類が含まれる。この中でも、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
樹脂組成物中の成分(A)、成分(B)および成分(C)の割合は特には限定されないが、成分(B)の割合は、成分(A)100重量%に対し3質量%以下であることが好ましい。成分(B)の下限は、0.05質量%以上であることが好ましい。成分(C)の割合は、成分(A)100重量%に対し3質量%以下であることが好ましい。成分(C)の下限は、0.01質量%以上であることが好ましい。
本発明における樹脂組成物は、上記の(A)ポリプロピレン、(B)フェノール樹脂および(C)ラジカル開始剤を配合して得られ、上述のように成分(A)と成分(B)との間で反応が起こる結果、配合時とは組成が変化することがある。この反応は、(B)フェノール樹脂が(C)ラジカル開始剤と反応してラジカルを発生し、連鎖反応により(A)ポリプロピレンと反応することで進行すると考えられる。すなわち、本発明における樹脂組成物は、(A)ポリプロピレンと(B)フェノール樹脂との反応生成物((A)ポリプロピレンを主鎖とし、(B)フェノール樹脂の残基が側鎖として結合したポリマー(グラフト変性ポリプロピレン))を主成分として含み、さらに(A)ポリプロピレンを含む組成に変化することがある。
本発明においては、樹脂組成物としては、単独の樹脂組成物であってもよいし、2種類以上の樹脂組成物を使用してもよい。また、樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、防腐剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離形剤、着色剤、難燃剤、充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける樹脂組成物の質量割合は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート全体(100質量%)に対して、40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上90質量%以下である。
(D)炭素繊維基材における、炭素繊維としては、例えばPAN系、ピッチ系、レーヨン系など各種の炭素繊維が使用できるが、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。これらの炭素繊維は、市販品として入手可能である。また、サイジング剤への付着性を高め均一な皮膜を形成させるために、炭素繊維には表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、液相中での薬液酸化、電解酸化、気相酸化等の処理が挙げられるが、電解酸化が、簡便かつ強度低下が抑えられるために好ましい。電界酸化においては、電解処理液中で炭素繊維を陽極として酸化処理を行う。電解処理液は特に限定されないが、硫酸、硝酸等の無機酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を有する化合物の溶液(例えば水溶液)、および、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩の溶液(例えば水溶液)が挙げられる。
炭素繊維は、通常炭素繊維の単繊維(フィラメント)が集束された形態で使用される。通常フィラメント数は、1,000〜60,000本程度である。炭素繊維の取り扱い性および開繊性の観点から、3,000〜40,000本が好ましい。より好ましくは6,000〜24,000である。炭素繊維(フィラメント)の直径は、3μm〜15μmが好ましく、より好ましくは5μm〜10μmである。炭素繊維はサイジング剤で処理されていてもよい。
また、本発明の炭素繊維束には、発明の目的を損なわない範囲で少量の他の繊維種が含まれていても良い。他の繊維種としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度高弾性率繊維が挙げられ、これらを1種以上含有してもよい。
本発明における炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートとは、繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて製造されるシート状の材料である。本発明においては炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの基材として炭素繊維基材を用いる。(D)炭素繊維基材は不連続炭素繊維を用いて製造される。不連続炭素繊維としては、連続した炭素繊維をカットしたチョップド炭素繊維が好ましい。
(D)炭素繊維基材は、チョップド炭素繊維束を分散させて繊維の配向をランダム化させた、ウェブ状炭素繊維基材の形態であることが好ましい。ウェブ状炭素繊維基材としては例えば、乾式法および湿式法で得られるものが挙げられ、いずれを用いてもよい。
(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維の繊維長は、1mm〜10mmであることが好ましく、2mm〜8mmであることがより好ましい。この範囲であると、繊維基材の結束性を維持できるため加工しやすく、かつ繊維が一定範囲流動できるため、プレス成形等で複雑形状の成形が可能である。また、炭素繊維強化シートとしたときにシート中の繊維長が好ましい範囲となりやすい。炭素繊維の繊維長は、カッター等でカットすることにより調整可能である。
(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維は、繊維長が1mm〜10mmである不連続炭素繊維であることが好ましい。
本発明における炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、シートの製造にあたり(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維が一部切断されるため、シートに含まれる繊維長は、炭素繊維基材を構成する繊維長よりも短くなる。
(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維の総数を100質量%としたときの炭素繊維の繊維長分布は、下記(E)および(F)である。
(E)繊維長0.5mm未満の炭素繊維が10%以下
(F)繊維長5mm以上の炭素繊維が50%以下
繊維長0.5mm未満の炭素繊維が10%以下、好ましくは8%以下であることにより、炭素繊維の補強効果の低下が防止され、充分な強度が得られる。繊維長0.5mm未満の炭素繊維の下限には特に制限はないが、通常は1%以上である。また、繊維長5mm以上の炭素繊維が50%以下、好ましくは40%以下であることにより、高速変形時の顕著な延性を発現することができ、耐高速衝撃性が十分に発揮される。繊維長5mm以上の炭素繊維の下限は1%以上であることが好ましく、2%以上であることが好ましい。(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維の繊維長分布は、(E)繊維長0.5mm未満の炭素繊維が8%以下、かつ、(F)繊維長5mm以上の炭素繊維が2〜40%であることが好ましい。なお、上記繊維長分布の%は、炭素繊維基材を構成する炭素繊維を100%としたときの割合を示す。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる炭素繊維基材の炭素繊維の繊維長の測定方法は、例えばまず、炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを構成する炭素繊維を分離する。分離する方法としては、例えば炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの一部を切り出し、溶媒などを用いて結着している樹脂組成物を溶解させ、その後濾過等により炭素繊維を分離して測定する方法;炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの一部を切り出して加熱し(例えば500℃、2時間)、熱可塑性樹脂を焼き飛ばして炭素繊維を分離して測定する方法、が挙げられる。次に分離された炭素繊維の繊維長を測定する。測定する方法としては、例えば、分離された炭素繊維の一部(例えば400本)を無作為に抽出し、顕微鏡(光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡)で長さを10μm単位まで測定し、その平均値を繊維長とする方法が挙げられる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける(D)炭素繊維基材の質量割合は、力学特性と成形性を両立する観点から、炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート全体(100質量%)に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上50質量%以下である。この範囲であると、樹脂の含浸性が良好でボイドが少なく力学特性に優れ、かつ炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートが適度な流動性を持つため、形状賦形性にも優れた炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることができる。
また、(D)炭素繊維基材には、発明の目的を損なわない範囲で他の繊維種が含まれていてもよい。他の繊維種としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度高弾性率繊維が挙げられ、これらを1種以上含有してもよい。
(D)炭素繊維基材は、炭素繊維束(炭素繊維により構成される繊維束)を、例えば湿式法あるいは乾式法で分散させることで製造できる。湿式法は、炭素繊維束の分散を水中で行い、得られるスラリーを抄造して炭素繊維基材を得る方法である。水中での分散の際、必要に応じて界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤など)を使用してもよい。乾式法は、炭素繊維束の分散を気相中で行い、分散後の炭素繊維を堆積させて炭素繊維基材を得る方法である。炭素繊維基材の製造方法の具体例の詳細については、国際公開第2010/13645号明細書に記載されている。
(D)炭素繊維基材の目付けは、5g/m2〜400g/m2であることが好ましく、30g/m2〜300g/m2であることがより好ましい。これらの範囲にあると、基材の取り扱い性に優れる。
繊維を結束させ、基材の取り扱い性を向上させるために、(D)炭素繊維基材にはバインダーを付与してもよい。バインダーは(D)炭素繊維基材と樹脂組成物との間に介在し、両者を連結する役割を担う。バインダーの種類に特に制限はないが、通常例えば、アクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミドあるいはポリエステルなどの熱可塑樹脂が挙げられる。バインダーの付着量は、(D)炭素繊維基材の炭素繊維の結束性維持と、樹脂組成物と炭素繊維との接着性への干渉の観点から、(D)炭素繊維基材100質量%に対し、1〜10質量%であることが好ましい。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、(D)炭素繊維基材にマトリックス樹脂である上記組成物を含浸させる(複合化)ことにより得られる。含浸は、通常加圧および/または加熱条件下行う。含浸のための加圧の条件は、0.1MPa以上40MPa以下であることが好ましく、0.2以上15MPa以下がより好ましい。加熱温度は170〜240℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180〜230℃の範囲である。加圧および加熱は、通常、マトリックス樹脂を(D)炭素繊維基材に接触させた状態で行う。例えば、マトリックス樹脂(例えば、布帛、不織布、フィルム等の形態のマトリックス樹脂)と(D)炭素繊維基材を積層し、両面から加圧および/または加熱を行う方法が挙げられる。加熱および加圧の方法としては、例えば、裁断されたシート状原料を用いて、通常のプレス装置を用いてバッチ式に行う方法、ロール状の原料を用いてダブルベルトプレスにより連続的に行う方法が挙げられる。加圧および/または加熱処理により(D)炭素繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させた後、圧力を加えた状態で冷却し、樹脂を固化させることで、炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることができる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート中における(D)炭素繊維機材を構成する炭素繊維の繊維長は、含浸工程での加圧条件により調節できる。より高い圧力を加えると、炭素繊維基材同士が接触した状態で圧縮されるために繊維の破断が起こり、含まれる炭素繊維の繊維長が短くなる。逆に、加圧を落として含浸時間をのばすことで、シート中の炭素繊維の繊維長を長くする事ができる。また、マトリックス樹脂を共存させず、炭素繊維基材のみをプレスすると、基材の流動に伴う圧力損失が抑えられるため、炭素繊維の繊維長がより短くなる。繊維長を望むコンポジット特性が発現するような分布となるように調節するには、標準的なPAN系炭素繊維の場合、マトリックス樹脂含浸時の加圧は0.2〜15MPaの範囲が好ましい。より好ましくは、0.3〜8MPaである。
炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは、原料シートの目付けや、積層枚数により自由に調節できる。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの取り扱い性および含浸・冷却工程のプロセス性の観点から、0.1mm〜5mmであることが好ましい。より好ましくは、0.2mm〜4mmである。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高速引張時の引張伸びの、通常引張時の引張伸びに対する比が、1.1以上であることが好ましく、1.15以上であることがより好ましい。この範囲であることにより、高速変形時の顕著な延性を発現することができる。なお、本発明において高速引張時の引張伸びとは、ひずみ速度1000%/minで測定された引張伸びを意味し、通常引張時の引張伸びとは、ひずみ速度1%/minで測定された引張伸びを意味する。引張伸びは、試験機を用いて測定することができ、測定条件の例としては、実施例の条件が挙げられる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高速引張時の引張強度の、通常引張時の引張強度に対する比が、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。この範囲であることにより、高速変形時の顕著な延性を発現することができる。なお、本発明において高速引張時の引張伸びとは、ひずみ速度1000%/minで測定された引張伸びを意味し、通常引張時の引張伸びとは、ひずみ速度1%/minで測定された引張伸びを意味する。引張伸びは、試験機を用いて測定することができ、測定条件の例としては、実施例の条件が挙げられる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高速引張時の通常引張時の引張伸びに対する比が1.1以上であり、かつ、高速引張時の引張強度の通常引張時の引張強度に対する比が1.1以上であることが好ましい。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高速引張時の引張伸びが、1.6%以上であることが好ましく、1.8%以上であることがより好ましい。また、通常引張時の引張伸びが、1.2%以上であることが好ましく、1.4%以上であることがより好ましい。一方、高速引張時の引張強度が、240MPa以上であることが好ましく、270MPa以上であることがより好ましい。また、通常引張時の引張強度が、160MPa以上であることが好ましく、220MPa以上であることがより好ましい。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、すぐれた力学特性(引張強度および引張伸び)を示すと同時に、高速変形時に強度と伸びが大きく向上するという特殊な性質(耐高速衝撃性)を示す。高速変形時に強度が向上する現象は、通常は、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が不足し、複合材料としての性能を発揮できていないケースで観測される。そのようなケースで、炭素繊維の強度を活かしきれていない場合には、材料破壊がマトリックス支配となるため、マトリックスの粘弾性が強度に影響し、これによって上記のような現象が生じる。ただし、破壊がマトリックス支配である以上、材料の強度の絶対値は十分とは言えない。炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を向上させた場合、材料の強度の絶対値は上昇するが、材料の伸び、すなわち延性は小さくなり、さらに破壊が繊維支配となるため、高速変形時の強度も通常の強度からあまり変化しない。本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高接着マトリックスを用いた場合と同等の強度を持ちながら、高速変形時にはさらに延性を発現するとともに強度が向上する。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートがこのような特性を示す理由は明らかではないが、樹脂組成物において、(A)ポリプロピレンにグラフトされた(B)フェノール樹脂により、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が最適な範囲にコントロールされ、界面に塑性変形能力が発生し、かつ、シート中の繊維長が適切に制御される事で、繊維の補強効果とマトリックスの塑性変形能力との適切なバランスが発現した結果、引張強度の極大値を示していると考えている。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、プレス成形等により様々な成形品に加工することができる。得られる成形品の用途としては、例えば、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車用構造部品、二輪車用構造部品、航空機用部品、スポーツ用品が挙げられる。特に、衝撃吸収性の観点より、自動車用部品に好ましく用いることができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
[マトリックス樹脂および炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの評価]
(1)メルトフローレート(MFR)の測定
ISO1133に準じ、230℃、21.2Nの条件下、10分間に押し出された樹脂量を測定した。
(2)引張強度および伸びの測定
厚さ1.6mmの炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製し、長さ110mm、幅15mmの試験片を切り出し、ひずみゲージを取り付けて測定した。測定装置としては、インストロン(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株))を使用した。通常の引張試験はひずみ速度1%/minで行い、高速変形試験では、1000%/minで行った。
(3)炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート中の炭素繊維の繊維質量含有率(Wf)
炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの質量W1を測定した後、該炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを空気中、500℃で1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量W2を測定し、次式により算出した。
Wf(%)=100×W2/W1
[連続炭素繊維の炭素繊維の引張強度、引張弾性率の測定条件]
日本工業規格(JIS)−R−7601「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により求めた。測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、“BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成した。また、ストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
(4)炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート中の繊維長の測定
炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの一部を切り出し、電気炉で500℃、2時間加熱して樹脂成分を焼き飛ばした。分離された炭素繊維から無作為に400本を抽出し、光学顕微鏡で長さを10μm単位まで測定した。
参考例1 : 樹脂フィルム(R1〜R3)
ポリプロピレン(住友化学(株)製ノーブレンAH−561(ブロックポリプロピレン)、メルトフローレート:3g/min)、フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製タマノル1010R、レゾール型、軟化点85〜110℃)およびラジカル開始剤(日本油脂(株)製ジクミルパーオキサイド(DCP))を、表1の実施例1〜3に示す質量比でドライブレンドした。これらを、東芝機械(株)製TEM−35BS型二軸押出機(スクリュー径35mm)に供給し、シリンダー設定温度200℃、スクリュー回転数120rpmで、真空脱気装置により系内を真空にしながら混練を行い、各組成物を得た。各組成物をストランド状に押出し、ペレタイザにより切断しペレット状の樹脂組成物を得た。これをプレス成形し、樹脂フィルム(R1)〜(R3)(厚み220μm)を作製した。なお、樹脂フィルム(R1)〜(R3)は、それぞれ表1の実施例1〜3の配合により作製された樹脂フィルムである。
参考例2 : 樹脂フィルム(R4)
ポリプロピレン(住友化学(株)製ノーブレンAH−561)をプレス成形し、樹脂フィルム(R4)(厚み220μm)を作製した。
参考例3 : 樹脂フィルム(R5)
ポリプロピレン(住友化学(株)製ノーブレンAH−561)およびラジカル開始剤(日本油脂(株)製ジクミルパーオキサイド)を、表2の比較例2に示す質量比で、参考例1と同様の方法で混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、樹脂フィルム(R5)(厚み220μm)を作製した。
参考例4 : 樹脂フィルム(R6)
特許文献1を参考に、(株)プライムポリマー製ポリプロピレンJ709QGを70質量%、三井化学(株)製酸変性ポリプロピレンアドマーQB510を30質量%、東レ(株)製ナイロンCM1021を3質量%、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数120rpmで混練し、樹脂ペレットを作製した。得られたペレットをプレス成形し、樹脂フィルム(R6)(厚み220μm)を作製した。
参考例5 : 炭素繊維基材(C1)
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は、次に示すとおりであった。
〔連続炭素繊維の特性〕
・単繊維径 : 7μm
・単位長さ当たりの質量 : 1.6g/m
・比重 : 1.8
・引張強度 : 4600MPa
・引張弾性率 : 220GPa
得られた炭素繊維をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維とした。これを、界面活性剤(ナカライテスク(株)製ポリオキシエチレンラウリルエーテル)0.1質量%水溶液に加え、撹拌して炭素繊維を分散した。得られた炭素繊維分散液を、直径40cmのメッシュ上でろ過し、メッシュ上に残った炭素繊維を200℃で30分間乾燥し、目付け100g/m2の炭素繊維基材(C1)を作製した。
参考例6 : 炭素繊維基材(C2)
炭素繊維をカートリッジカッターで12mmにカットした以外は、参考例5と同様にして炭素繊維基材(C2)を作製した。
実施例1
参考例1で作製した樹脂フィルム(R1)6枚と参考例5で作製した炭素繊維基材(C1)8枚を積層し、プレス成形機で温度220℃、面圧4MPaで2分間プレスした後、冷却して樹脂含浸炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表1に示した。
実施例2
樹脂フィルム(R2)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表1に示した。
実施例3
樹脂フィルム(R3)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表1に示した。
比較例1
樹脂フィルム(R4)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表2に示した。
比較例2
樹脂フィルム(R5)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表2に示した。
比較例3
樹脂フィルム(R6)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表2に示した。
比較例4
参考例5で作成した炭素繊維基材(C1)8枚を積層し、樹脂フィルムを挟まずにプレス成形機で室温、面圧20MPaでプレスし、繊維を破断させた。その後、参考例1で作製した樹脂フィルム(R1)6枚を挟み込み、プレス成形機で温度220℃、面圧4MPaで2分間プレスした後、冷却して樹脂含浸炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表3に示した。
比較例5
炭素繊維基材(C2)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを作製した。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは1.7mmであった。炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの特性評価は、まとめて表3に示した。
Figure 2013072042
Figure 2013072042
Figure 2013072042
表1〜表3において、引張強度は、以下の基準で判定した。
A:280MPa以上
B:240MPa以上、280MPa未満
C:200MPa以上、240MPa未満
D:160MPa以上、200MPa未満
E:160MPa未満
引張伸びは、以下の基準で判定した。
A:2%以上
B:1.7%以上、2.0%未満
C:1.4%以上、1.7%未満
D:1.1%以上、1.4%未満
E:1.1%未満
表1〜表3における高速引張強度/引張強度および高速引張伸び/引張伸びは、高速引張時(1000%/min)と通常引張時(1%/min)の、引張強度および引張伸びの比である。この値が大きいほど、より高速引張時に強度もしくは伸び(延性)が大きくなっていることを表している。
比較例1は、フェノール樹脂およびラジカル開始剤を加えずに、ポリプロピレンのみをマトリックス樹脂として作製した炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの力学特性である。引張強度が低く、複合材料としての力学特性が不足している。なお、比較例1の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの引張伸びは測定できなかった。
比較例2は、ポリプロピレンにラジカル開始剤のみを加えて作製した炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの力学特性である。おそらくポリプロピレンの分子量低下により、引張強度が比較例1よりもさらに低下している。なお、比較例2の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの引張伸びは測定できなかった。
比較例3は、特許文献1の請求項1に基づき作製した炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートである。高い引張強度を示すが、高速変形時の強度および延性の向上は見られない。
比較例4は、繊維長0.5mm以下の炭素繊維が10%を超える繊維長分布の炭素繊維から構成される炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの力学特性である。高速変形時の延性は向上するが、充分な引張強度が得られないため高速変形時の強度が不十分である。
比較例5は、繊維長5mm以上の炭素繊維が50%を超える繊維長分布の炭素繊維から構成される炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの力学特性である。高い引張強度が得られるが、高速変形時の延性が向上しない。
表1〜表3より明らかなように、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートは、優れた力学特性を有すると同時に、高速変形時の強度および延性が向上しており、耐高速衝撃性にも優れている。

Claims (7)

  1. マトリックス樹脂としての下記(A)〜(C)を配合してなる樹脂組成物、および(D)炭素繊維基材を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートであり、
    (A)ポリプロピレン
    (B)フェノール樹脂
    (C)ラジカル開始剤
    前記(D)炭素繊維基材を構成する炭素繊維の総数を100質量%としたときの炭素繊維の繊維長分布が、下記(E)および(F)である炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
    (E)繊維長0.5mm未満の炭素繊維が10%以下
    (F)繊維長5mm以上の炭素繊維が50%以下
  2. 前記(B)フェノール樹脂の割合が、(A)ポリプロピレン100質量%に対して、3質量%以下である、請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
  3. 高速引張時の引張伸びの、通常引張時の引張伸びに対する比が、1.1以上である、請求項1または2に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
  4. 前記炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート全体に対する前記(D)炭素繊維基材の割合が5質量%以上50質量%未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シート。
  5. 下記(A)〜(C)を配合してなる樹脂組成物を(D)炭素繊維基材に含浸させ、請求項1の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法。
    (A)ポリプロピレン
    (B)フェノール樹脂
    (C)ラジカル開始剤
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形品。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートをプレス成形する、成形品の製造方法。
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