本発明は、モータ駆動装置に関する。
ヒートポンプ式空気調和装置の室内機には、室内ファン、及び室内ファンからの送風によって冷媒と空気との間で熱交換を行わせる室内熱交換器が搭載されており、その室内ファンの駆動源として、高効率に駆動できるブラシレスDCモータが広く採用されている。
また近年ではその駆動方式として、ホールICなどの位置センサをモータから削除する代わりに駆動回路においてロータ位置を推定することで、より低コストにモータ駆動装置を構成できる、いわゆるロータ位置センサレス方式が適用されることも多い。
上記のような室内機では、室内ファンはモータが運転停止した後も慣性によって回転していることがあり、そのような状態から再起動する場合には、インバータへの過電圧や過電流などの異常を発生させる恐れがある。
上記のような懸念を解消するために、例えば特許文献1(特開2005−137106号公報)に開示されている制御装置は、モータ端子電圧からファンの回転数や位相を検出して、それらに応じた起動を行っている。
しかしながら、特許文献1に開示されているような方法は、新たに検出回路が必要となるので回路コストが高くなる上に、回路素子やモータの電気的特性ばらつきによって、正確なロータ位置検出ができない可能性もある。
本発明の課題は、モータが運転停止後も慣性によって回転している状態から再起動する場合に、インバータへの過電圧や過電流などの異常を発生させずにモータを起動させることができるモータ駆動装置を提供することにある。
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置は、モータへの供給電力を制御してモータの駆動および停止を行うモータ駆動装置であって、電源供給部と、インバータと、制御部とを備えている。インバータは、電源供給部より供給された電力を、モータを駆動するための駆動電力に変換する。制御部は、インバータを制御する。さらに、制御部は、モータを停止させる際、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止する。
インバータを停止した直後にモータを再起動させるような状態を想定したとき、モータの回転数を低減せずにインバータを停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、モータ再起動時に回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる可能性が高い。
しかし、このモータ駆動装置では、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置は、第1観点に係るモータ駆動装置であって、モータがブラシレスDCモータである。
ブラシレスDCモータは、ブラシモータに比べて被回転体の慣性で回転し続ける時間が長いので、慣性で回転している途中で再起動される機会も多い。それゆえ、モータ再起動時に昇圧動作が行なわれてインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。また、誘導モータと比較すると、ロータ位置を検出してそれに応じた波形出力を行なう必要があるため、インバータ停止中のロータ位置を検出するための回路が必要となり、回路コストが高くなると共に、磁石による誘起電圧が存在するためにインバータ停止状態で回転している時の誘起電圧が高く、モータ再起動時にインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。しかし、本発明の第1観点に係るモータ駆動装置がブラシレスDCモータに適用されることによって、上記のような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第3観点に係るモータ駆動装置は、第2観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、モータを起動後、ロータ位置センサレス制御によって駆動する。
モータはロータ位置センサレス制御で駆動するので、インバータ停止後のロータ位置の推定はできない。それゆえ、特にインバータを停止した直後に高回転状態からモータを再起動させるような状態を想定したとき、モータ再起動時にロータ位置や回転数に合わせた適切な駆動が行なわれないと、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高いため、安定した再起動を行なうためには、インバータ停止中のロータ位置を検出あるいは推定するための回路や制御が必要となり、回路コストが高くなったり制御が複雑になってしまう。しかし、本発明の第1観点に係るモータ駆動装置がブラシレスDCモータに適用されることによって、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくても、上記のような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第4観点に係るモータ駆動装置は、第3観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、モータの回転数を所定回転数まで低下させている途中で運転指令を受けたとき、ロータ位置センサレス制御を継続する。
このモータ駆動装置では、インバータが停止するまではロータ位置推定が継続されているので、運転指令を受けた時点からロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
本発明の第5観点に係るモータ駆動装置は、第2観点から第4観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータを停止させた後に運転指令を受けたとき、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なう。
このモータ駆動装置では、起動時の回転数が所定回転数まで低下しているため、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置は、第5観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータを停止させた後に運転指令を受けたとき、モータのロータ位置を固定する動作を行なってから、所定電圧および所定周波数を出力する。高回転状態でロータ位置固定動作を行なった場合には、大きな制動トルクがかかることにより、インバータの過電圧や過電流が発生する恐れがあるが、このモータ制御装置では、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、そのような不具合が発生する恐れがない。
また、このモータ駆動装置では、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の再起動動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
本発明の第7観点に係るモータ駆動装置は、第3観点から第6観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、所定回転数が、モータがロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータへの過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数である。
慣性で回転しているモータを再起動するとき、ロータ位置センサレス制御では起動前の回転数を推定できないので、インバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数になったときに再起動することが好ましい。
このモータ駆動装置では、インバータを停止する際に、モータの回転数を、ロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数まで低減しておくことによって、再起動時の回転数がそれ以上になることはないので、上述のような不具合を発生させることがない。
本発明の第8観点に係るモータ駆動装置は、第1観点から第7観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータ、モータ、もしくはモータの負荷の少なくともいずれかに異常が生じたとき、モータの回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
このモータ駆動装置では、インバータおよびモータが異常のときは、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータおよびモータが損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第9観点に係るモータ駆動装置は、第8観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、モータの巻き線に逆起電力が発生したときに生じる電流を巻き線へ還流させる還流動作を行なわせる。
このモータ駆動装置では、モータ駆動動作を停止したとき、モータの巻き線に逆起電力が発生するが、還流動作を行なわせることによって、逆起電力によって生じる電流が還流回路内を流れて消費されるので、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れるような事態が回避されると共に、モータを迅速に停止することが可能となる。この動作は、モータあるいはモータの負荷に異常が生じた場合や、インバータに過電圧が発生した場合に、更なる過電圧状態を発生させずにモータを迅速に停止することができるため、特に有用である。
本発明の第10観点に係るモータ駆動装置は、第8観点に係るモータ駆動装置であって、モータ駆動動作の停止時に、モータを制動する力が生じるように電流をモータの巻き線に流す制動回路をさらに備えている。
このモータ駆動装置では、モータ駆動動作の停止時、モータの巻き線にはモータを制動する電流が流れ、モータは速やかに停止する。このような動作を行なえば、モータ停止時の回生動作がないので、インバータに過電圧が印加されるような事態は回避される。そのため、この動作は、モータあるいはモータの負荷に異常が生じた場合や、インバータに過電圧や過電流が発生した場合に有用である。
本発明の第11観点に係るモータ駆動装置は、第8観点に係るモータ駆動装置であって、モータ駆動動作の停止時に、インバータを停止させる。具体的には、インバータを構成するスイッチング素子を全てオフにすることになるが、この動作は、インバータが異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性があるため、有用である。
本発明の第12観点に係るファン制御装置は、ファンを回転させるモータを、第1観点から第11観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置によって制御する。
ファンは、運転停止後もその慣性によってモータを回転させるので、モータが完全に停止する前に再起動した場合、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。
しかし、このファン制御装置では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
一般にファンは慣性モーメントが大きく、高回転状態でインバータを停止させてから減速していくのにかかる時間が大きいが、このファン制御装置では、インバータ停止状態での減速レートと同等あるいは若干遅い減速レートで制御状態を継続しながら減速することにより、実際の動きをほとんど変えずに、インバータの電圧定格を越えるような昇圧動作を行なわずにファンモータを停止させることができると共に、停止までの間に再度運転指令が入力された場合における安定した再起動動作を実現することが可能となる。
本発明の第13観点に係る空気調和機は、ヒートポンプ式の空気調和機であって、室内ファンを有する室内ユニットと、室内ファンを回転させるモータを制御する、第1観点から第11観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置とを備えている。
室内ファンは、運転停止後もその慣性によってモータを回転させるので、モータが完全に停止する前に再起動した場合、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。
しかし、この空気調和機では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
また、特に空気調和機の室内機においては、例えばユーザのリモコン操作に対してすぐに応答することが求められるが、本発明の空気調和機では減速中の再起動を速やかに行なうことができるので、ユーザの要求に応じた動作を実現することができる。更に、誤操作により間違って停止操作を行なってしまい、すぐに再度運転操作を行なうような事態が発生した場合においても、速やかに安定して再起動/運転継続できるため、ユーザの本来の要求に応じた動作とすることができる。
本発明の第14観点に係る空気調和機は、第13観点に係る空気調和機であって、モータ駆動装置が、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、モータの回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
この空気調和機では、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、冷媒制御系の動作が継続されて冷媒系部品が損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置では、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているモータを再起動する場合と比較して、過電圧、過電流、および脱調のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置では、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調するというような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第3観点に係るモータ駆動装置では、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくても、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調するというような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第4観点に係るモータ駆動装置では、インバータが停止するまではロータ位置推定が継続されているので、ロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
本発明の第5観点に係るモータ駆動装置では、起動時の回転数が所定回転数まで低下しているため、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置では、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、ロータ固定時にインバータの過電圧や過電流などの不具合が発生する恐れがない。また、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の再起動動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
本発明の第7観点に係るモータ駆動装置では、インバータを停止する際に、モータの回転数を、ロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数まで低減しておくことによって、再起動時の回転数がそれ以上になることはないので、上述のような不具合を発生させることがない。
本発明の第8観点に係るモータ駆動装置では、インバータおよびモータが異常のときは、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータおよびモータが損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第9観点に係るモータ駆動装置では、モータ駆動動作を停止したとき、モータの巻き線に逆起電力が発生するが、還流動作を行なわせることによって、逆起電力によって生じる電流が還流回路内を流れて消費されるので、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れるような事態が回避されると共に、モータを迅速に停止することが可能となる。
本発明の第10観点に係るモータ駆動装置では、モータ駆動動作の停止時、モータの巻き線にはモータを制動する電流が流れ、モータは速やかに停止する。
本発明の第11観点に係るモータ駆動装置では、インバータが異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性がある。
本発明の第12観点に係るファン制御装置では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、慣性モーメントの大きなファンを負荷とする場合においても、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第13観点に係る空気調和機では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第14観点に係る空気調和機では、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、冷媒系部品の損傷を防止することができる。
本発明の一実施形態に係るモータ駆動装置が採用されるシステムの全体構成と、モータ駆動装置の内部構成とを示すブロック図。
空気調和装置の室内機の構成図。
一例としてのセンサレス制御回路の構成図。
マイクロコンピュータがファンモータの停止指令を受けてからインバータを停止させるまでのファンモータの回転数の変化を示すグラフ。
マイクロコンピュータがファンモータの停止指令を受けてからインバータを停止させる前に再度運転指令を受けたときのファンモータの回転数の変化を示すグラフ。
モータ駆動装置が行う動作を示すフロー図。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の具体例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(1)概要
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ駆動装置20が採用されるシステム100の全体構成と、モータ駆動装置20の内部構成とを示すブロック図である。図1において、ファンモータ51は、空気調和機1の室内機10(図2参照)に搭載される室内ファン15駆動用のブラシレスDCモータである。モータ駆動装置20も、室内機10内に搭載される。
(1−1)室内機10
図2は、空気調和機1の室内機10の構成図である。図2において、室内機10は、ヒートポンプ式空気調和機の室内機であって、室内熱交換器14と室内ファン15とを有している。室内熱交換器14は、冷媒配管5によって室外機3と接続され、冷凍サイクルが構成されている。この冷凍サイクルとそれらの動作を制御する制御装置により、冷媒制御系が構成される。
室内ファン15は、クロスフローファンであって、回転により室内機10の吸込口からの室内空気を吸い込み、室内熱交換器14に送風することで熱交換を行なう。
(1−2)ファンモータ51
ファンモータ51は、3相のブラシレスDCモータであって、ステータ52と、ロータ53とを備えている。ステータ52は、スター結線されたU相、V相及びW相の駆動コイルLu,Lv,Lwを含む。各駆動コイルLu,Lv,Lwの一方端は、それぞれインバータ25から延びるU相、V相及びW相の各配線の駆動コイル端子TU,TV,TWに接続されている。各駆動コイルLu,Lv,Lwの他方端は、互いに端子TNとして接続されている。これら3相の駆動コイルLu,Lv,Lwは、ロータ53が回転することによりその回転速度とロータ53の位置に応じた誘起電圧を発生させる。
ロータ53は、N極及びS極からなる複数極の永久磁石を含み、ステータ52に対し回転軸を中心として回転する。ロータ53の回転は、この回転軸と同一軸心上にある出力軸(図示せず)を介して室内ファン15に出力される。
(2)モータ駆動装置20の構成
モータ駆動装置20は、図1に示すように、商用電源91、整流部21及び平滑コンデンサ22により直流電源として構成された電源供給部と、電圧検出部23と、電流検出部24と、インバータ25と、ゲート駆動回路26と、センサレス制御回路29と、マイクロコンピュータ30とを備えている。これらは、例えば1枚のプリント基板上に実装される。
(2−1)整流部21
整流部21は、4つのダイオードD1a,D1b,D2a,D2bによってブリッジ状に構成されている。具体的には、ダイオードD1aとD1b、D2aとD2bは、それぞれ互いに直列に接続されている。ダイオードD1a,D2aの各カソード端子は、共に平滑コンデンサ22のプラス側端子に接続されており、整流部21の正側出力端子として機能する。ダイオードD1b,D2bの各アノード端子は、共に平滑コンデンサ22のマイナス側端子に接続されており、整流部21の負側出力端子として機能する。
ダイオードD1a及びダイオードD1bの接続点は、商用電源91の一方の極に接続されている。ダイオードD2a及びダイオードD2bの接続点は、商用電源91の他方の極に接続されている。整流部21は、商用電源91から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し、これを平滑コンデンサ22へ供給する。
(2−2)平滑コンデンサ22
平滑コンデンサ22は、一端が整流部21の正側出力端子に接続され、他端が整流部21の負側出力端子に接続されている。平滑コンデンサ22は、整流部21によって整流された電圧を平滑する。以下、説明の便宜上、平滑コンデンサ22による平滑後の電圧を“平滑後電圧Vfl”という。
平滑後電圧Vflは、平滑コンデンサ22の出力側に接続されるインバータ25へ印加される。言い換えれば、商用電源91、整流部21、及び平滑コンデンサ22は、インバータ25に対する電源供給部を構成している。
なお、コンデンサの種類としては、電解コンデンサやセラミックコンデンサ、タンタルコンデンサ等が挙げられるが、本実施形態においては、平滑コンデンサ22として電解コンデンサが採用される。
(2−3)電圧検出部23
電圧検出部23は、平滑コンデンサ22の出力側に接続されており、平滑コンデンサ22の両端電圧、即ち平滑後電圧Vflの値を検出するためのものである。電圧検出部23は、例えば、互いに直列に接続された2つの抵抗が平滑コンデンサ22に並列接続され、平滑後電圧Vflが分圧されるように構成される。それら2つの抵抗同士の接続点の電圧値は、センサレス制御回路29に入力される。
(2−4)電流検出部24
電流検出部24は、平滑コンデンサ22及びインバータ25の間であって、かつ平滑コンデンサ22の負側出力端子側に接続されている。電流検出部24は、ファンモータ51の起動後、ファンモータ51に流れるモータ電流Imを三相分の電流の合計値として検出する。
電流検出部24は、例えば、シャント抵抗及び該抵抗の両端の電圧を増幅させるオペアンプを用いた増幅回路で構成されてもよい。電流検出部24によって検出されたモータ電流は、センサレス制御回路29に入力される。
(2−5)インバータ25
インバータ25は、平滑コンデンサ22の出力側に接続される。図1において、インバータ25は、複数のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、以下、単にトランジスタという)Q3a,Q3b,Q4a,Q4b,Q5a,Q5b及び複数の還流用ダイオードD3a,D3b,D4a,D4b,D5a,D5bを含む。
トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bは、それぞれ互いに直列に接続されており、各ダイオードD3a〜D5bは、各トランジスタQ3a〜Q5bに、トランジスタのコレクタ端子とダイオードのカソード端子が、また、トランジスタのエミッタ端子とダイオードのアノード端子が接続されるよう、並列接続されている。
インバータ25は、平滑コンデンサ22からの平滑後電圧Vflが印加され、かつゲート駆動回路26により指示されたタイミングで各トランジスタQ3a〜Q5bがオン及びオフを行うことによって、ファンモータ51を駆動する駆動電圧SU,SV,SWを生成する。この駆動電圧SU,SV,SWは、各トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bの各接続点NU,NV,NWからファンモータ51に出力される。
(2−6)ゲート駆動回路26
ゲート駆動回路26は、センサレス制御回路29からの指令Vpwmに基づき、インバータ25の各トランジスタQ3a〜Q5bのオン及びオフの状態を変化させる。具体的には、ゲート駆動回路26は、センサレス制御回路29によって決定されたデューティを有するパルス状の駆動電圧SU,SV,SWがインバータ25からファンモータ51に出力されるように、各トランジスタQ3a〜Q5bのゲートに印加するゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzを生成する。生成されたゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzは、それぞれのトランジスタQ3a〜Q5bのゲート端子に印加される。
なお、本実施形態のインバータ25は、電圧形インバータであるが、それに限定されるものではなく、マトリックスコンバータや電流形インバータでもよい。
(2−7)センサレス制御回路29
センサレス制御回路29は、電圧検出部23、電流検出部24、ゲート駆動回路26及びマイクロコンピュータ30と接続されている。センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30から送られてきた回転数指令Vfgを含む運転指令に基づいて、ファンモータ51をロータ位置センサレス方式にて駆動させる回路である。
ロータ位置センサレス方式とは、ファンモータ51の特性を示す各種パラメータ、ファンモータ51起動後の電圧検出部23の検出結果、電流検出部24の検出結果、及びファンモータ51の制御に関する所定の数式モデル等を用いて、ロータ位置及び回転数の推定、回転数に対するPI制御、モータ電流に対するPI制御等を行いモータを駆動する方式である。ファンモータ51の特性を示す各種パラメータとしては、使用されるファンモータ51の巻線抵抗、インダクタンス成分、誘起電圧、極数などが挙げられる。
図3は、一例としてのセンサレス制御回路の構成図である。図3において、センサレス制御回路29は、主として、モータモデル演算部29a、ロータ位置推定部29b、運転時回転数推定部29c、LPF29d、回転数制御部29e及び電流制御部29fによって構成されている。
モータモデル演算部29aは、ファンモータ51の特性を示す各種パラメータをモータモデルとして用いて、ファンモータ51への指令電圧Vpwm、推定したロータ位置、推定した回転数から、モータ電流の理想値を演算する。
ロータ位置推定部29bは、この理想値と、電流検出部24によって実際に検出されたモータ電流Imとの間で減算処理された結果を入力として、現時点でのロータ位置を推定する。
運転時回転数推定部29cは、推定されたロータ位置を用いて、現時点でのファンモータ51の回転数を推定する。各推定部29b,29cにおける推定結果は、モータ電流の理想値と実際のモータ電流Imとの差分を“0”にするべく補正処理が行われ、モータモデルの補正がなされる。LPF29dは、推定された回転数からノイズ成分及び高調波成分を除去する。LPF29dから出力されたファンモータ51の回転数は、波形成形部29gによって所望の回転数信号FGとなり、マイクロコンピュータ30に出力される。
また、LPF29dから出力されたファンモータ51の回転数は、マイクロコンピュータ30から送られてきた運転指令に含まれる回転数指令Vfgとの間で減算処理が行われる。回転数制御部29eは、減算処理の結果が入力されると、回転数に対してPI制御を行う。電流制御部29fは、回転数制御部29eによる制御結果であるq軸トルク電流指令Iq*と、例えばd軸電流指令Idが“0”となるような指令“Id*=0”と、電圧検出部23により検出された電圧とに基づいて電流制御を行い、これらの指令に基づいた電流となるような指令電圧Vpwmを生成する。このような電流制御部29fの制御により、駆動電圧SU,SV,SWのデューティを含む指令電圧Vpwmが生成され、ゲート駆動回路26に入力される。
このような構成を有するセンサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30及びゲート駆動回路26等によってインバータ25の制御が行われているときのみ、ロータ位置の推定を行うと言うことができる。インバータ25の制御が行われているときとは、ファンモータ51が起動指令によって起動し、駆動中であることに相当する。
言い換えれば、センサレス制御回路29は、ファンモータ51の起動前においては、ファンモータ51の回転数やロータ位置を推定することができない。何故ならば、上述したように、ロータ位置センサレス方式では、モータ電流や指令電圧を回転数やロータ位置の推定に利用するため、起動前のファンモータ51においてはロータ位置を推定することができないからである。
(2−8)マイクロコンピュータ30
マイクロコンピュータ30は、センサレス制御回路29と接続されている。また、マイクロコンピュータ30は、空気調和機1の各機器を統括して制御する図示しないシステム制御部とも接続されており、室内機10を各機器における異常の有無に応じて、ファンモータ51の駆動を制御する。それゆえ、マイクロコンピュータ30は、制御部として機能する。
なお、このマイクロコンピュータ30には、インバータ25とは別の電源が、ファンモータ51の駆動状態に関係なく常に供給される。
また、室内ファン15は、運転停止後もその慣性によってファンモータ51を回転させるので、ファンモータ51が完全に停止する前に再起動する機会が多々あるうえに、先に説明した通り、ロータ位置センサレス方式では起動前のファンモータ51のロータ位置を推定することができないので、例えば、インバータ25を停止した直後にファンモータ51を再起動させたとき、インバータ25が昇圧動作を行なって過電圧が印加されたり、或いは、インバータに過電流が流れたり、若しくは、ファンモータ51が脱調する可能性が高い。それゆえ、マイクロコンピュータ30は、ファンモータ51の運転を停止させる際に、その回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止させるように制御している。
なお、マイクロコンピュータ30は、インバータ25を停止させた後に運転指令を受けたときは、ファンモータ51のロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してファンモータ51を駆動する起動動作を行なっている。
起動時の回転数は、ファンモータ51を起動したときにインバータ25への過電圧および/または過電流および/またはファンモータ51の脱調が引き起こされないような所定回転数まで低下しているため、上記のような起動を行なっても安定して起動動作を行なうことができる。
また、空気調和機1の室内機10においては、ユーザのリモコン操作に対してすぐに応答することが求められるが、本発明によれば、減速中の再起動を速やかに行なうことができるので、ユーザの要求に応じた動作を実現することができる。
更に、誤操作により間違って停止操作を行なってしまい、すぐに再度運転操作を行なうような事態が発生した場合においても、速やかに安定して再起動/運転継続できるため、ユーザの本来の要求に応じた動作とすることができる。
但し、モータ駆動装置20では、インバータ25およびファンモータ51もしくはファンモータ51の負荷の少なくともいずれかに異常が生じたときは、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。なぜなら、ファンモータ51を速やかに停止することによって損傷、若しくは損傷の拡大を防止することができるからである。
なお、モータ駆動動作の停止時に、インバータ25を構成するスイッチング素子を全てオフにすることにより、インバータ25を停止する。この動作により、インバータ25が異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性がある。具体的には、例えば1相短絡故障の場合には、スイッチング素子の駆動信号を全てオフとすることにより、短絡状態が回避される。
図4は、マイクロコンピュータ30がファンモータ51の停止指令を受けてからインバータ25を停止させるまでのファンモータ51の回転数の変化を示すグラフである。図1及び図4において、マイクロコンピュータ30が運転停止の指令を受けたとき、センサレス制御回路29に対して、停止指令を受ける前の指令である目標回転数1から回転数が所定回転数まで徐々に低減するための回転数指令を出す。その回転数指令に基づいて、センサレス制御回路29はファンモータ51の回転数が所定回転数に到達するまで、ゲート駆動回路26への波形出力のオンを維持したままモータ駆動動作を行ない、所定回転数に到達したときにゲート駆動回路26への波形出力をオフにする。
図5は、マイクロコンピュータ30がファンモータ51の停止指令を受けてからインバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときのファンモータ51の回転数の変化を示すグラフである。図1、図4及び図5において、マイクロコンピュータ30はファンモータ51の停止指令を受けた後も、ファンモータ51の回転数が所定回転数に到達するまで、ゲート駆動回路26への波形出力のオンを維持しインバータ25を停止していないので、インバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときは、ロータ位置センサレス方式によってファンモータ51のロータ位置を推定できる状態であり、例えば所定の加速度で回転数指令を新たな指令である目標回転数2に近づけていき、目標回転数2到達後は回転数指令を一定に保つ。
ファンモータ51に採用されるブラシレスDCモータは、ブラシモータに比べて被回転体の慣性で回転し続ける時間が長いので、慣性で回転している途中で再起動される機会も多い。また、誘導モータと比較すると、ロータ位置を検出してそれに応じた波形出力を行なう必要があるため、インバータ停止中のロータ位置を検出するための回路が必要となり、磁石による誘起電圧が存在するためにインバータ停止状態で回転している時の誘起電圧が高い。また、ファンモータ51はロータ位置センサレス制御で駆動するので、インバータ25停止後のロータ位置の推定はできない。
それゆえ、インバータ25を停止した直後に高回転状態からファンモータ51を再起動させるような状態を想定したとき、特にファンモータ51の回転数を低減せずにインバータ25を停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、ファンモータ51の再起動時にロータ位置や回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れる可能性が高い。
しかし、図4に示すように、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止することによって、ファンモータ51を再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているファンモータ51を再起動する場合と比較して、インバータ25への過電圧、過電流、若しくは、ファンモータ51の脱調などの不具合が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。したがって、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくてもよい。
また、図5に示すように、インバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときは、ロータ位置センサレス方式によってファンモータ51のロータ位置を推定できる状態であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
(3)動作
図6は、モータ駆動装置20が行う動作の一例を示す制御フロー図である。以下、モータ駆動装置20の動作について、図1及び図6を用いて説明する。
ステップS1,S4,S6:マイクロコンピュータ30は、室内ファン15の運転指令を取得しているとき(ステップS1のYes)、回転数指令を出す(ステップS4)。センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30からの回転数指令に基づいてゲート駆動回路への波形出力を行なうと共に、その波形出力状態を制御する(ステップS6)。
ステップS1〜S3:マイクロコンピュータ30は、室内ファン15の運転指令を取得していない、若しくは、取得しなくなったとき(ステップS1のNo)、ファンモータ51の回転数が所定回転数以下か否かを判定する(ステップS2)。ファンモータ51の回転数が所定回転数以下であれば(ステップS2のYes)、マイクロコンピュータ30は、センサレス制御回路29を介して、ゲート駆動回路26への波形出力をオフする(ステップS3)、この場合、インバータ25からは、駆動電圧SU,SV,SWがファンモータ51に出力されない。
ステップS2,S5,S6:上記ステップS2において、ファンモータ51の回転数が所定回転数より大きい場合(ステップS2のNo)、具体的には、運転指令がなくなった後の所定回転数までの減速途中において、マイクロコンピュータ30は回転数低減指令(ステップS5)を出し、センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30からの回転数低減指令に基づいてゲート駆動回路への波形出力を継続すると共に、その波形出力状態を制御する(ステップS6)。
(4)特徴
(4−1)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30は、室内ファン15を駆動するファンモータ51を停止させる際、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止する。ファンモータ51はブラシレスDCモータであって、起動後はロータ位置センサレス制御によって駆動される。
インバータ25を停止した直後にファンモータ51を再起動させるような状態を想定したとき、ファンモータ51の回転数を低減せずにインバータ25を停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、ファンモータ51再起動時に回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れる、あるいは脱調する可能性が高い。
しかし、このモータ駆動装置20では、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止することによって、ファンモータ51を再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているファンモータ51を再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
(4−2)
モータ駆動装置20では、インバータ25が停止するまではロータ位置推定が継続されているので、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させている途中で運転指令をうけたとき、ロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
(4−3)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30がインバータ25を停止させた後に運転指令を受けた場合、ファンモータ51の回転数は所定回転数まで低下しているので、ファンモータ51のロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してファンモータ51を駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
(4−4)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30は、インバータ25、ファンモータ51、もしくはファンモータ51の負荷の少なくともいずれかに異常が生じたとき、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
なぜなら、ファンモータ51を所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータ25およびファンモータ51、ファンモータ51の負荷が損傷する可能性があるからである。それゆえ、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
(5)変形例
(5−1)第1変形例
上記実施形態では、インバータ25停止後のファンモータ51の回転数が所定回転数以下になっているので、再起動は安全に行なわれるが、理想としては、ファンモータ51のロータが停止している状態から再起動することが好ましい。
そこで、第1変形例に係るモータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30が、インバータ25を停止させた後に運転指令を受けたとき、ファンモータ51のロータ位置を固定する動作を行なってから、所定電圧および所定周波数を出力する。高回転状態でロータ位置固定動作を行なった場合には、大きな制動トルクがかかることにより、インバータ25の過電圧や過電流が発生する恐れがあるが、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、そのような不具合が発生する恐れがない。
また、ファンモータ51は、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
(5−2)第2変形例
所定回転数まで減速しない状態でインバータ25を停止したとき、ファンモータ51の巻き線に逆起電力が発生し、インバータ25に過電圧が印加される、或いは、過電流が流れる可能性がある。
第2変形例に係るモータ駆動装置20では、上記のような事態を回避するために、マイクロコンピュータ30が、ファンモータ51の巻き線に逆起電力が発生したときに生じる電流を巻き線へ還流させる還流動作を行なわせる。
具体的には、図1において、下アームIGBTであるQ3b、Q4b、Q5bをオンすることによって、逆起電力によって生じる電流が下アームIGBTもしくは還流用ダイオードD3b、D4b、D5bのいずれかを流れてモータとの間で還流されることで、回転エネルギーが消費される。
その結果、インバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れるような事態が回避されると共に、ファンモータ51を迅速に停止することが可能となる。この動作は、ファンモータ51あるいはファンモータ51の負荷に異常が生じた場合や、インバータ25に過電圧が発生した場合に、更なる過電圧状態を発生させずにファンモータ51を迅速に停止することができるため、特に有用である。
(6)その他の実施形態
(6−1)
モータ駆動装置20は、ファンモータ51の制動回路をさらに備えることが好ましい。制動回路は、インバータ25の停止時に、ファンモータ51を制動する力が生じるように電流をモータの巻き線に流す回路である。
具体的には、直流部にブレーキ回路を設ける、或いは、巻き線を短絡するようなブレーキ回路を設けることによって、ファンモータ51を制動する電流が流れ、ファンモータ51は速やかに停止する。その結果、モータ停止時の回生動作がなく、インバータ25に過電圧が印加されるような事態は回避される。この動作は、ファンモータ51あるいはファンモータ51の負荷に異常が生じた場合や、インバータ25に過電圧や過電流が発生した場合に有用である。
(6−2)
マイクロコンピュータ30は、空気調和機1内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
なぜなら、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたときに、ファンモータ51を所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、冷媒制御系の動作が継続されて冷媒系部品が損傷する可能性があるからである。それゆえ、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷若しくは損傷の拡大を防止することができる。
以上のように本発明によれば、起動前のロータ位置が推定されないモータであっても、インバータへの過電圧や過電流、脱調などの異常を発生させずに起動することができるので、起動後にロータ位置センサレス制御で駆動されるモータに有用である。
外力の影響を比較的受けにくいモータにおいては、起動前の回転状態検出回路等を設けなくても、安全に安定した再起動を行なうことができる範囲が広がるため、特に有用である。
1 空気調和機
20 モータ駆動装置
25 インバータ
30 マイクロコンピュータ
51 ファンモータ
本発明は、モータ駆動装置に関する。
ヒートポンプ式空気調和装置の室内機には、室内ファン、及び室内ファンからの送風によって冷媒と空気との間で熱交換を行わせる室内熱交換器が搭載されており、その室内ファンの駆動源として、高効率に駆動できるブラシレスDCモータが広く採用されている。
また近年ではその駆動方式として、ホールICなどの位置センサをモータから削除する代わりに駆動回路においてロータ位置を推定することで、より低コストにモータ駆動装置を構成できる、いわゆるロータ位置センサレス方式が適用されることも多い。
上記のような室内機では、室内ファンはモータが運転停止した後も慣性によって回転していることがあり、そのような状態から再起動する場合には、インバータへの過電圧や過電流などの異常を発生させる恐れがある。
上記のような懸念を解消するために、例えば特許文献1(特開2005−137106号公報)に開示されている制御装置は、モータ端子電圧からファンの回転数や位相を検出して、それらに応じた起動を行っている。
しかしながら、特許文献1に開示されているような方法は、新たに検出回路が必要となるので回路コストが高くなる上に、回路素子やモータの電気的特性ばらつきによって、正確なロータ位置検出ができない可能性もある。
本発明の課題は、モータが運転停止後も慣性によって回転している状態から再起動する場合に、インバータへの過電圧や過電流などの異常を発生させずにモータを起動させることができるモータ駆動装置を提供することにある。
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置は、モータへの供給電力を制御してモータの駆動および停止を行うモータ駆動装置であって、電源供給部と、インバータと、制御部とを備えている。インバータは、電源供給部より供給された電力を、モータを駆動するための駆動電力に変換する。モータは、ブラシレスDCモータである。制御部は、インバータを制御する。また、制御部は、モータを起動後、ロータ位置センサレス制御によって駆動する。さらに、制御部は、モータを停止させる際、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止する。
インバータを停止した直後にモータを再起動させるような状態を想定したとき、モータの回転数を低減せずにインバータを停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、モータ再起動時に回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる可能性が高い。
しかし、このモータ駆動装置では、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
また、ブラシレスDCモータは、ブラシモータに比べて被回転体の慣性で回転し続ける時間が長いので、慣性で回転している途中で再起動される機会も多い。それゆえ、モータ再起動時に昇圧動作が行なわれてインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。また、誘導モータと比較すると、ロータ位置を検出してそれに応じた波形出力を行なう必要があるため、インバータ停止中のロータ位置を検出するための回路が必要となり、回路コストが高くなると共に、磁石による誘起電圧が存在するためにインバータ停止状態で回転している時の誘起電圧が高く、モータ再起動時にインバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。しかし、本発明の第1観点に係るモータ駆動装置がブラシレスDCモータに適用されることによって、上記のような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
モータはロータ位置センサレス制御で駆動するので、インバータ停止後のロータ位置の推定はできない。それゆえ、特にインバータを停止した直後に高回転状態からモータを再起動させるような状態を想定したとき、モータ再起動時にロータ位置や回転数に合わせた適切な駆動が行なわれないと、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高いため、安定した再起動を行なうためには、インバータ停止中のロータ位置を検出あるいは推定するための回路や制御が必要となり、回路コストが高くなったり制御が複雑になってしまう。しかし、本発明の第1観点に係るモータ駆動装置がブラシレスDCモータに適用されることによって、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくても、上記のような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置は、第1観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、モータの回転数を所定回転数まで低下させている途中で運転指令を受けたとき、ロータ位置センサレス制御を継続する。
このモータ駆動装置では、インバータが停止するまではロータ位置推定が継続されているので、運転指令を受けた時点からロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
本発明の第3観点に係るモータ駆動装置は、第1観点または第2観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータを停止させた後に運転指令を受けたとき、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なう。
このモータ駆動装置では、起動時の回転数が所定回転数まで低下しているため、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
本発明の第4観点に係るモータ駆動装置は、第3観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータを停止させた後に運転指令を受けたとき、モータのロータ位置を固定する動作を行なってから、所定電圧および所定周波数を出力する。高回転状態でロータ位置固定動作を行なった場合には、大きな制動トルクがかかることにより、インバータの過電圧や過電流が発生する恐れがあるが、このモータ制御装置では、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、そのような不具合が発生する恐れがない。
また、このモータ駆動装置では、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の再起動動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
本発明の第5観点に係るモータ駆動装置は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、所定回転数が、モータがロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータへの過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数である。
慣性で回転しているモータを再起動するとき、ロータ位置センサレス制御では起動前の回転数を推定できないので、インバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数になったときに再起動することが好ましい。
このモータ駆動装置では、インバータを停止する際に、モータの回転数を、ロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数まで低減しておくことによって、再起動時の回転数がそれ以上になることはないので、上述のような不具合を発生させることがない。
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、制御部が、インバータ、モータ、もしくはモータの負荷の少なくともいずれかに異常が生じたとき、モータの回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
このモータ駆動装置では、インバータおよびモータが異常のときは、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータおよびモータが損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第7観点に係るモータ駆動装置は、第6観点に係るモータ駆動装置であって、制御部が、モータの巻き線に逆起電力が発生したときに生じる電流を巻き線へ還流させる還流動作を行なわせる。
このモータ駆動装置では、モータ駆動動作を停止したとき、モータの巻き線に逆起電力が発生するが、還流動作を行なわせることによって、逆起電力によって生じる電流が還流回路内を流れて消費されるので、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れるような事態が回避されると共に、モータを迅速に停止することが可能となる。この動作は、モータあるいはモータの負荷に異常が生じた場合や、インバータに過電圧が発生した場合に、更なる過電圧状態を発生させずにモータを迅速に停止することができるため、特に有用である。
本発明の第8観点に係るモータ駆動装置は、第6観点に係るモータ駆動装置であって、モータ駆動動作の停止時に、モータを制動する力が生じるように電流をモータの巻き線に流す制動回路をさらに備えている。
このモータ駆動装置では、モータ駆動動作の停止時、モータの巻き線にはモータを制動する電流が流れ、モータは速やかに停止する。このような動作を行なえば、モータ停止時の回生動作がないので、インバータに過電圧が印加されるような事態は回避される。そのため、この動作は、モータあるいはモータの負荷に異常が生じた場合や、インバータに過電圧や過電流が発生した場合に有用である。
本発明の第9観点に係るモータ駆動装置は、第6観点に係るモータ駆動装置であって、モータ駆動動作の停止時に、インバータを停止させる。具体的には、インバータを構成するスイッチング素子を全てオフにすることになるが、この動作は、インバータが異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性があるため、有用である。
本発明の第10観点に係るファン制御装置は、ファンを回転させるモータを、第1観点から第9観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置によって制御する。
ファンは、運転停止後もその慣性によってモータを回転させるので、モータが完全に停止する前に再起動した場合、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。
しかし、このファン制御装置では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
一般にファンは慣性モーメントが大きく、高回転状態でインバータを停止させてから減速していくのにかかる時間が大きいが、このファン制御装置では、インバータ停止状態での減速レートと同等あるいは若干遅い減速レートで制御状態を継続しながら減速することにより、実際の動きをほとんど変えずに、インバータの電圧定格を越えるような昇圧動作を行なわずにファンモータを停止させることができると共に、停止までの間に再度運転指令が入力された場合における安定した再起動動作を実現することが可能となる。
本発明の第11観点に係る空気調和機は、ヒートポンプ式の空気調和機であって、室内ファンを有する室内ユニットと、室内ファンを回転させるモータを制御する、第1観点から第9観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置とを備えている。
室内ファンは、運転停止後もその慣性によってモータを回転させるので、モータが完全に停止する前に再起動した場合、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調する可能性が高い。
しかし、この空気調和機では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
また、特に空気調和機の室内機においては、例えばユーザのリモコン操作に対してすぐに応答することが求められるが、本発明の空気調和機では減速中の再起動を速やかに行なうことができるので、ユーザの要求に応じた動作を実現することができる。更に、誤操作により間違って停止操作を行なってしまい、すぐに再度運転操作を行なうような事態が発生した場合においても、速やかに安定して再起動/運転継続できるため、ユーザの本来の要求に応じた動作とすることができる。
本発明の第12観点に係る空気調和機は、第11観点に係る空気調和機であって、モータ駆動装置が、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、モータの回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
この空気調和機では、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、冷媒制御系の動作が継続されて冷媒系部品が損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置では、モータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているモータを再起動する場合と比較して、過電圧、過電流、および脱調のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
また、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調するというような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
さらに、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくても、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れる、若しくは、モータが脱調するというような問題が発生する可能性は低くなり、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置では、インバータが停止するまではロータ位置推定が継続されているので、ロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
本発明の第3観点に係るモータ駆動装置では、起動時の回転数が所定回転数まで低下しているため、モータのロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してモータを駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
本発明の第4観点に係るモータ駆動装置では、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、ロータ固定時にインバータの過電圧や過電流などの不具合が発生する恐れがない。また、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の再起動動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
本発明の第5観点に係るモータ駆動装置では、インバータを停止する際に、モータの回転数を、ロータ位置センサレス制御によって起動したときにインバータに過電圧および/または過電流および/またはモータの脱調を引き起こさせない回転数まで低減しておくことによって、再起動時の回転数がそれ以上になることはないので、上述のような不具合を発生させることがない。
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置では、インバータおよびモータが異常のときは、モータを所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータおよびモータが損傷する可能性があるので、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
本発明の第7観点に係るモータ駆動装置では、モータ駆動動作を停止したとき、モータの巻き線に逆起電力が発生するが、還流動作を行なわせることによって、逆起電力によって生じる電流が還流回路内を流れて消費されるので、インバータに過電圧が印加される、或いは、インバータに過電流が流れるような事態が回避されると共に、モータを迅速に停止することが可能となる。
本発明の第8観点に係るモータ駆動装置では、モータ駆動動作の停止時、モータの巻き線にはモータを制動する電流が流れ、モータは速やかに停止する。
本発明の第9観点に係るモータ駆動装置では、インバータが異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性がある。
本発明の第10観点に係るファン制御装置では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、慣性モーメントの大きなファンを負荷とする場合においても、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第11観点に係る空気調和機では、モータ駆動装置がモータの回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータを停止することによって、モータを再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数もしくはさほど回転数が低下しない状態と同じ回転数で回転しているモータを再起動する場合と比較して、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
本発明の第12観点に係る空気調和機では、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、冷媒系部品の損傷を防止することができる。
本発明の一実施形態に係るモータ駆動装置が採用されるシステムの全体構成と、モータ駆動装置の内部構成とを示すブロック図。
空気調和装置の室内機の構成図。
一例としてのセンサレス制御回路の構成図。
マイクロコンピュータがファンモータの停止指令を受けてからインバータを停止させるまでのファンモータの回転数の変化を示すグラフ。
マイクロコンピュータがファンモータの停止指令を受けてからインバータを停止させる前に再度運転指令を受けたときのファンモータの回転数の変化を示すグラフ。
モータ駆動装置が行う動作を示すフロー図。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の具体例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(1)概要
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ駆動装置20が採用されるシステム100の全体構成と、モータ駆動装置20の内部構成とを示すブロック図である。図1において、ファンモータ51は、空気調和機1の室内機10(図2参照)に搭載される室内ファン15駆動用のブラシレスDCモータである。モータ駆動装置20も、室内機10内に搭載される。
(1−1)室内機10
図2は、空気調和機1の室内機10の構成図である。図2において、室内機10は、ヒートポンプ式空気調和機の室内機であって、室内熱交換器14と室内ファン15とを有している。室内熱交換器14は、冷媒配管5によって室外機3と接続され、冷凍サイクルが構成されている。この冷凍サイクルとそれらの動作を制御する制御装置により、冷媒制御系が構成される。
室内ファン15は、クロスフローファンであって、回転により室内機10の吸込口からの室内空気を吸い込み、室内熱交換器14に送風することで熱交換を行なう。
(1−2)ファンモータ51
ファンモータ51は、3相のブラシレスDCモータであって、ステータ52と、ロータ53とを備えている。ステータ52は、スター結線されたU相、V相及びW相の駆動コイルLu,Lv,Lwを含む。各駆動コイルLu,Lv,Lwの一方端は、それぞれインバータ25から延びるU相、V相及びW相の各配線の駆動コイル端子TU,TV,TWに接続されている。各駆動コイルLu,Lv,Lwの他方端は、互いに端子TNとして接続されている。これら3相の駆動コイルLu,Lv,Lwは、ロータ53が回転することによりその回転速度とロータ53の位置に応じた誘起電圧を発生させる。
ロータ53は、N極及びS極からなる複数極の永久磁石を含み、ステータ52に対し回転軸を中心として回転する。ロータ53の回転は、この回転軸と同一軸心上にある出力軸(図示せず)を介して室内ファン15に出力される。
(2)モータ駆動装置20の構成
モータ駆動装置20は、図1に示すように、商用電源91、整流部21及び平滑コンデンサ22により直流電源として構成された電源供給部と、電圧検出部23と、電流検出部24と、インバータ25と、ゲート駆動回路26と、センサレス制御回路29と、マイクロコンピュータ30とを備えている。これらは、例えば1枚のプリント基板上に実装される。
(2−1)整流部21
整流部21は、4つのダイオードD1a,D1b,D2a,D2bによってブリッジ状に構成されている。具体的には、ダイオードD1aとD1b、D2aとD2bは、それぞれ互いに直列に接続されている。ダイオードD1a,D2aの各カソード端子は、共に平滑コンデンサ22のプラス側端子に接続されており、整流部21の正側出力端子として機能する。ダイオードD1b,D2bの各アノード端子は、共に平滑コンデンサ22のマイナス側端子に接続されており、整流部21の負側出力端子として機能する。
ダイオードD1a及びダイオードD1bの接続点は、商用電源91の一方の極に接続されている。ダイオードD2a及びダイオードD2bの接続点は、商用電源91の他方の極に接続されている。整流部21は、商用電源91から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し、これを平滑コンデンサ22へ供給する。
(2−2)平滑コンデンサ22
平滑コンデンサ22は、一端が整流部21の正側出力端子に接続され、他端が整流部21の負側出力端子に接続されている。平滑コンデンサ22は、整流部21によって整流された電圧を平滑する。以下、説明の便宜上、平滑コンデンサ22による平滑後の電圧を“平滑後電圧Vfl”という。
平滑後電圧Vflは、平滑コンデンサ22の出力側に接続されるインバータ25へ印加される。言い換えれば、商用電源91、整流部21、及び平滑コンデンサ22は、インバータ25に対する電源供給部を構成している。
なお、コンデンサの種類としては、電解コンデンサやセラミックコンデンサ、タンタルコンデンサ等が挙げられるが、本実施形態においては、平滑コンデンサ22として電解コンデンサが採用される。
(2−3)電圧検出部23
電圧検出部23は、平滑コンデンサ22の出力側に接続されており、平滑コンデンサ22の両端電圧、即ち平滑後電圧Vflの値を検出するためのものである。電圧検出部23は、例えば、互いに直列に接続された2つの抵抗が平滑コンデンサ22に並列接続され、平滑後電圧Vflが分圧されるように構成される。それら2つの抵抗同士の接続点の電圧値は、センサレス制御回路29に入力される。
(2−4)電流検出部24
電流検出部24は、平滑コンデンサ22及びインバータ25の間であって、かつ平滑コンデンサ22の負側出力端子側に接続されている。電流検出部24は、ファンモータ51の起動後、ファンモータ51に流れるモータ電流Imを三相分の電流の合計値として検出する。
電流検出部24は、例えば、シャント抵抗及び該抵抗の両端の電圧を増幅させるオペアンプを用いた増幅回路で構成されてもよい。電流検出部24によって検出されたモータ電流は、センサレス制御回路29に入力される。
(2−5)インバータ25
インバータ25は、平滑コンデンサ22の出力側に接続される。図1において、インバータ25は、複数のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、以下、単にトランジスタという)Q3a,Q3b,Q4a,Q4b,Q5a,Q5b及び複数の還流用ダイオードD3a,D3b,D4a,D4b,D5a,D5bを含む。
トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bは、それぞれ互いに直列に接続されており、各ダイオードD3a〜D5bは、各トランジスタQ3a〜Q5bに、トランジスタのコレクタ端子とダイオードのカソード端子が、また、トランジスタのエミッタ端子とダイオードのアノード端子が接続されるよう、並列接続されている。
インバータ25は、平滑コンデンサ22からの平滑後電圧Vflが印加され、かつゲート駆動回路26により指示されたタイミングで各トランジスタQ3a〜Q5bがオン及びオフを行うことによって、ファンモータ51を駆動する駆動電圧SU,SV,SWを生成する。この駆動電圧SU,SV,SWは、各トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bの各接続点NU,NV,NWからファンモータ51に出力される。
(2−6)ゲート駆動回路26
ゲート駆動回路26は、センサレス制御回路29からの指令Vpwmに基づき、インバータ25の各トランジスタQ3a〜Q5bのオン及びオフの状態を変化させる。具体的には、ゲート駆動回路26は、センサレス制御回路29によって決定されたデューティを有するパルス状の駆動電圧SU,SV,SWがインバータ25からファンモータ51に出力されるように、各トランジスタQ3a〜Q5bのゲートに印加するゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzを生成する。生成されたゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzは、それぞれのトランジスタQ3a〜Q5bのゲート端子に印加される。
なお、本実施形態のインバータ25は、電圧形インバータであるが、それに限定されるものではなく、マトリックスコンバータや電流形インバータでもよい。
(2−7)センサレス制御回路29
センサレス制御回路29は、電圧検出部23、電流検出部24、ゲート駆動回路26及びマイクロコンピュータ30と接続されている。センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30から送られてきた回転数指令Vfgを含む運転指令に基づいて、ファンモータ51をロータ位置センサレス方式にて駆動させる回路である。
ロータ位置センサレス方式とは、ファンモータ51の特性を示す各種パラメータ、ファンモータ51起動後の電圧検出部23の検出結果、電流検出部24の検出結果、及びファンモータ51の制御に関する所定の数式モデル等を用いて、ロータ位置及び回転数の推定、回転数に対するPI制御、モータ電流に対するPI制御等を行いモータを駆動する方式である。ファンモータ51の特性を示す各種パラメータとしては、使用されるファンモータ51の巻線抵抗、インダクタンス成分、誘起電圧、極数などが挙げられる。
図3は、一例としてのセンサレス制御回路の構成図である。図3において、センサレス制御回路29は、主として、モータモデル演算部29a、ロータ位置推定部29b、運転時回転数推定部29c、LPF29d、回転数制御部29e及び電流制御部29fによって構成されている。
モータモデル演算部29aは、ファンモータ51の特性を示す各種パラメータをモータモデルとして用いて、ファンモータ51への指令電圧Vpwm、推定したロータ位置、推定した回転数から、モータ電流の理想値を演算する。
ロータ位置推定部29bは、この理想値と、電流検出部24によって実際に検出されたモータ電流Imとの間で減算処理された結果を入力として、現時点でのロータ位置を推定する。
運転時回転数推定部29cは、推定されたロータ位置を用いて、現時点でのファンモータ51の回転数を推定する。各推定部29b,29cにおける推定結果は、モータ電流の理想値と実際のモータ電流Imとの差分を“0”にするべく補正処理が行われ、モータモデルの補正がなされる。LPF29dは、推定された回転数からノイズ成分及び高調波成分を除去する。LPF29dから出力されたファンモータ51の回転数は、波形成形部29gによって所望の回転数信号FGとなり、マイクロコンピュータ30に出力される。
また、LPF29dから出力されたファンモータ51の回転数は、マイクロコンピュータ30から送られてきた運転指令に含まれる回転数指令Vfgとの間で減算処理が行われる。回転数制御部29eは、減算処理の結果が入力されると、回転数に対してPI制御を行う。電流制御部29fは、回転数制御部29eによる制御結果であるq軸トルク電流指令Iq*と、例えばd軸電流指令Idが“0”となるような指令“Id*=0”と、電圧検出部23により検出された電圧とに基づいて電流制御を行い、これらの指令に基づいた電流となるような指令電圧Vpwmを生成する。このような電流制御部29fの制御により、駆動電圧SU,SV,SWのデューティを含む指令電圧Vpwmが生成され、ゲート駆動回路26に入力される。
このような構成を有するセンサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30及びゲート駆動回路26等によってインバータ25の制御が行われているときのみ、ロータ位置の推定を行うと言うことができる。インバータ25の制御が行われているときとは、ファンモータ51が起動指令によって起動し、駆動中であることに相当する。
言い換えれば、センサレス制御回路29は、ファンモータ51の起動前においては、ファンモータ51の回転数やロータ位置を推定することができない。何故ならば、上述したように、ロータ位置センサレス方式では、モータ電流や指令電圧を回転数やロータ位置の推定に利用するため、起動前のファンモータ51においてはロータ位置を推定することができないからである。
(2−8)マイクロコンピュータ30
マイクロコンピュータ30は、センサレス制御回路29と接続されている。また、マイクロコンピュータ30は、空気調和機1の各機器を統括して制御する図示しないシステム制御部とも接続されており、室内機10を各機器における異常の有無に応じて、ファンモータ51の駆動を制御する。それゆえ、マイクロコンピュータ30は、制御部として機能する。
なお、このマイクロコンピュータ30には、インバータ25とは別の電源が、ファンモータ51の駆動状態に関係なく常に供給される。
また、室内ファン15は、運転停止後もその慣性によってファンモータ51を回転させるので、ファンモータ51が完全に停止する前に再起動する機会が多々あるうえに、先に説明した通り、ロータ位置センサレス方式では起動前のファンモータ51のロータ位置を推定することができないので、例えば、インバータ25を停止した直後にファンモータ51を再起動させたとき、インバータ25が昇圧動作を行なって過電圧が印加されたり、或いは、インバータに過電流が流れたり、若しくは、ファンモータ51が脱調する可能性が高い。それゆえ、マイクロコンピュータ30は、ファンモータ51の運転を停止させる際に、その回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止させるように制御している。
なお、マイクロコンピュータ30は、インバータ25を停止させた後に運転指令を受けたときは、ファンモータ51のロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してファンモータ51を駆動する起動動作を行なっている。
起動時の回転数は、ファンモータ51を起動したときにインバータ25への過電圧および/または過電流および/またはファンモータ51の脱調が引き起こされないような所定回転数まで低下しているため、上記のような起動を行なっても安定して起動動作を行なうことができる。
また、空気調和機1の室内機10においては、ユーザのリモコン操作に対してすぐに応答することが求められるが、本発明によれば、減速中の再起動を速やかに行なうことができるので、ユーザの要求に応じた動作を実現することができる。
更に、誤操作により間違って停止操作を行なってしまい、すぐに再度運転操作を行なうような事態が発生した場合においても、速やかに安定して再起動/運転継続できるため、ユーザの本来の要求に応じた動作とすることができる。
但し、モータ駆動装置20では、インバータ25およびファンモータ51もしくはファンモータ51の負荷の少なくともいずれかに異常が生じたときは、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。なぜなら、ファンモータ51を速やかに停止することによって損傷、若しくは損傷の拡大を防止することができるからである。
なお、モータ駆動動作の停止時に、インバータ25を構成するスイッチング素子を全てオフにすることにより、インバータ25を停止する。この動作により、インバータ25が異常状態にある場合(例えば短絡故障している場合)に、異常状態(例えば短絡状態)を回避できる可能性がある。具体的には、例えば1相短絡故障の場合には、スイッチング素子の駆動信号を全てオフとすることにより、短絡状態が回避される。
図4は、マイクロコンピュータ30がファンモータ51の停止指令を受けてからインバータ25を停止させるまでのファンモータ51の回転数の変化を示すグラフである。図1及び図4において、マイクロコンピュータ30が運転停止の指令を受けたとき、センサレス制御回路29に対して、停止指令を受ける前の指令である目標回転数1から回転数が所定回転数まで徐々に低減するための回転数指令を出す。その回転数指令に基づいて、センサレス制御回路29はファンモータ51の回転数が所定回転数に到達するまで、ゲート駆動回路26への波形出力のオンを維持したままモータ駆動動作を行ない、所定回転数に到達したときにゲート駆動回路26への波形出力をオフにする。
図5は、マイクロコンピュータ30がファンモータ51の停止指令を受けてからインバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときのファンモータ51の回転数の変化を示すグラフである。図1、図4及び図5において、マイクロコンピュータ30はファンモータ51の停止指令を受けた後も、ファンモータ51の回転数が所定回転数に到達するまで、ゲート駆動回路26への波形出力のオンを維持しインバータ25を停止していないので、インバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときは、ロータ位置センサレス方式によってファンモータ51のロータ位置を推定できる状態であり、例えば所定の加速度で回転数指令を新たな指令である目標回転数2に近づけていき、目標回転数2到達後は回転数指令を一定に保つ。
ファンモータ51に採用されるブラシレスDCモータは、ブラシモータに比べて被回転体の慣性で回転し続ける時間が長いので、慣性で回転している途中で再起動される機会も多い。また、誘導モータと比較すると、ロータ位置を検出してそれに応じた波形出力を行なう必要があるため、インバータ停止中のロータ位置を検出するための回路が必要となり、磁石による誘起電圧が存在するためにインバータ停止状態で回転している時の誘起電圧が高い。また、ファンモータ51はロータ位置センサレス制御で駆動するので、インバータ25停止後のロータ位置の推定はできない。
それゆえ、インバータ25を停止した直後に高回転状態からファンモータ51を再起動させるような状態を想定したとき、特にファンモータ51の回転数を低減せずにインバータ25を停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、ファンモータ51の再起動時にロータ位置や回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れる可能性が高い。
しかし、図4に示すように、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止することによって、ファンモータ51を再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているファンモータ51を再起動する場合と比較して、インバータ25への過電圧、過電流、若しくは、ファンモータ51の脱調などの不具合が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。したがって、インバータ停止中のロータ位置検出回路やロータ位置推定制御を付加しなくてもよい。
また、図5に示すように、インバータ25を停止させる前に再度運転指令を受けたときは、ロータ位置センサレス方式によってファンモータ51のロータ位置を推定できる状態であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
(3)動作
図6は、モータ駆動装置20が行う動作の一例を示す制御フロー図である。以下、モータ駆動装置20の動作について、図1及び図6を用いて説明する。
ステップS1,S4,S6:マイクロコンピュータ30は、室内ファン15の運転指令を取得しているとき(ステップS1のYes)、回転数指令を出す(ステップS4)。センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30からの回転数指令に基づいてゲート駆動回路への波形出力を行なうと共に、その波形出力状態を制御する(ステップS6)。
ステップS1〜S3:マイクロコンピュータ30は、室内ファン15の運転指令を取得していない、若しくは、取得しなくなったとき(ステップS1のNo)、ファンモータ51の回転数が所定回転数以下か否かを判定する(ステップS2)。ファンモータ51の回転数が所定回転数以下であれば(ステップS2のYes)、マイクロコンピュータ30は、センサレス制御回路29を介して、ゲート駆動回路26への波形出力をオフする(ステップS3)、この場合、インバータ25からは、駆動電圧SU,SV,SWがファンモータ51に出力されない。
ステップS2,S5,S6:上記ステップS2において、ファンモータ51の回転数が所定回転数より大きい場合(ステップS2のNo)、具体的には、運転指令がなくなった後の所定回転数までの減速途中において、マイクロコンピュータ30は回転数低減指令(ステップS5)を出し、センサレス制御回路29は、マイクロコンピュータ30からの回転数低減指令に基づいてゲート駆動回路への波形出力を継続すると共に、その波形出力状態を制御する(ステップS6)。
(4)特徴
(4−1)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30は、室内ファン15を駆動するファンモータ51を停止させる際、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止する。ファンモータ51はブラシレスDCモータであって、起動後はロータ位置センサレス制御によって駆動される。
インバータ25を停止した直後にファンモータ51を再起動させるような状態を想定したとき、ファンモータ51の回転数を低減せずにインバータ25を停止した場合には、回転数が高いために巻線に誘起される電圧が高く、回転エネルギーも大きいため、ファンモータ51再起動時に回転状態に合わせた適切な駆動が行なわれないと、昇圧動作が行なわれてインバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れる、あるいは脱調する可能性が高い。
しかし、このモータ駆動装置20では、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させた後にインバータ25を停止することによって、ファンモータ51を再起動させるときの回転数は所定回転数以下となっているので、停止前の回転数と同じ回転数もしくは回転数がさほど低下していない状態で回転しているファンモータ51を再起動する場合と比較して、上記のような問題が発生する可能性は低く、安全かつ安定した再起動を行なうことができる。
(4−2)
モータ駆動装置20では、インバータ25が停止するまではロータ位置推定が継続されているので、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させている途中で運転指令をうけたとき、ロータ位置センサレス制御の継続が可能であり、先に示した問題点を発生させないのはもちろんのこと、再起動時の不連続動作や異音などを発生させることもなく、安定した駆動を続けることができる。
(4−3)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30がインバータ25を停止させた後に運転指令を受けた場合、ファンモータ51の回転数は所定回転数まで低下しているので、ファンモータ51のロータ位置によらずに所定電圧および所定周波数を出力してファンモータ51を駆動する起動動作を行なったとしても、再起動時に過電圧、過電流、および脱調を発生させずに同期引き込みを行なうことができ、安定した起動動作を行なうことができる。
(4−4)
モータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30は、インバータ25、ファンモータ51、もしくはファンモータ51の負荷の少なくともいずれかに異常が生じたとき、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
なぜなら、ファンモータ51を所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、インバータ25およびファンモータ51、ファンモータ51の負荷が損傷する可能性があるからである。それゆえ、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷を防止する。
(5)変形例
(5−1)第1変形例
上記実施形態では、インバータ25停止後のファンモータ51の回転数が所定回転数以下になっているので、再起動は安全に行なわれるが、理想としては、ファンモータ51のロータが停止している状態から再起動することが好ましい。
そこで、第1変形例に係るモータ駆動装置20では、マイクロコンピュータ30が、インバータ25を停止させた後に運転指令を受けたとき、ファンモータ51のロータ位置を固定する動作を行なってから、所定電圧および所定周波数を出力する。高回転状態でロータ位置固定動作を行なった場合には、大きな制動トルクがかかることにより、インバータ25の過電圧や過電流が発生する恐れがあるが、低回転状態からロータ固定動作を行なうため、そのような不具合が発生する恐れがない。
また、ファンモータ51は、ロータの回転が停止し、既知の固定位置から再起動されることになるので、ロータ位置固定後の動作においても、適切に同期引き込みが行なわれ、過電圧、過電流、および脱調が発生する可能性が低く確実な起動を行なうことができる。
(5−2)第2変形例
所定回転数まで減速しない状態でインバータ25を停止したとき、ファンモータ51の巻き線に逆起電力が発生し、インバータ25に過電圧が印加される、或いは、過電流が流れる可能性がある。
第2変形例に係るモータ駆動装置20では、上記のような事態を回避するために、マイクロコンピュータ30が、ファンモータ51の巻き線に逆起電力が発生したときに生じる電流を巻き線へ還流させる還流動作を行なわせる。
具体的には、図1において、下アームIGBTであるQ3b、Q4b、Q5bをオンすることによって、逆起電力によって生じる電流が下アームIGBTもしくは還流用ダイオードD3b、D4b、D5bのいずれかを流れてモータとの間で還流されることで、回転エネルギーが消費される。
その結果、インバータ25に過電圧が印加される、或いは、インバータ25に過電流が流れるような事態が回避されると共に、ファンモータ51を迅速に停止することが可能となる。この動作は、ファンモータ51あるいはファンモータ51の負荷に異常が生じた場合や、インバータ25に過電圧が発生した場合に、更なる過電圧状態を発生させずにファンモータ51を迅速に停止することができるため、特に有用である。
(6)その他の実施形態
(6−1)
モータ駆動装置20は、ファンモータ51の制動回路をさらに備えることが好ましい。制動回路は、インバータ25の停止時に、ファンモータ51を制動する力が生じるように電流をモータの巻き線に流す回路である。
具体的には、直流部にブレーキ回路を設ける、或いは、巻き線を短絡するようなブレーキ回路を設けることによって、ファンモータ51を制動する電流が流れ、ファンモータ51は速やかに停止する。その結果、モータ停止時の回生動作がなく、インバータ25に過電圧が印加されるような事態は回避される。この動作は、ファンモータ51あるいはファンモータ51の負荷に異常が生じた場合や、インバータ25に過電圧や過電流が発生した場合に有用である。
(6−2)
マイクロコンピュータ30は、空気調和機1内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたとき、ファンモータ51の回転数を所定回転数まで低下させることなくモータ駆動動作を停止する。
なぜなら、空気調和機内の冷媒制御系のいずれかに異常が生じたときに、ファンモータ51を所定回転数まで低減するまでの間駆動し続けると、冷媒制御系の動作が継続されて冷媒系部品が損傷する可能性があるからである。それゆえ、速やかにモータ駆動動作を停止することによって損傷若しくは損傷の拡大を防止することができる。
以上のように本発明によれば、起動前のロータ位置が推定されないモータであっても、インバータへの過電圧や過電流、脱調などの異常を発生させずに起動することができるので、起動後にロータ位置センサレス制御で駆動されるモータに有用である。
外力の影響を比較的受けにくいモータにおいては、起動前の回転状態検出回路等を設けなくても、安全に安定した再起動を行なうことができる範囲が広がるため、特に有用である。
1 空気調和機
20 モータ駆動装置
25 インバータ
30 マイクロコンピュータ
51 ファンモータ