JP2012523463A - 軟骨再生のための新規なペプチドベースの足場およびその使用方法 - Google Patents
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Abstract
増殖因子TGF-β1と非共有結合するペプチド配列から構成される新規な両親媒性ペプチド分子および組成物を、本明細書に開示する。これらの両親媒性ペプチドを用いて、微小骨折術と併用した場合に関節軟骨再生を増強するゲル足場をインサイチューで作製する方法もまた開示する。TGF結合両親媒性ペプチドで処置した全層関節軟骨欠損を有するウサギにおいて、組織の質および全体的なO'Driscoll組織学的スコアの有意な改善が認められた。ゲルはさらに、組換えTGF-β1タンパク質増殖因子の送達媒体としても使える。軟骨形成増殖因子を局在化および保持する足場は、骨髄間葉系幹細胞を軟骨形成分化に誘導することにより、微小骨折術と併用した場合に軟骨修復を相乗的に増強し得る。本発明は、臨床現場における関節軟骨再生の現行技法を強化するための有望な新規生体模倣アプローチを示す。
Description
関連出願
本出願は、2009年4月13日に出願された米国仮特許出願第61/168,894号からの優先権を主張し、この仮特許出願は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
本出願は、2009年4月13日に出願された米国仮特許出願第61/168,894号からの優先権を主張し、この仮特許出願は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
発明の分野
本発明は一般に、新規なペプチドベースのゲル、および関節軟骨の再生を増強するためのその治療的使用に関する。より具体的には、本発明は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β1)に非共有結合し得るペプチドエピトープ配列を有する自己組織化(self-assembling)両親媒性ペプチド(PA)の混合物に関する。この両親媒性ペプチドおよび自己細胞から構成されるヒドロゲル足場は、インビボのウサギモデルにおいて関節軟骨の再生を増強することが示される。これは、単独で、または微小骨折術もしくは自己軟骨細胞移植の状況のような、軟骨欠損の修復のために臨床的に用いられている現在の整形外科的戦略を強化するための治療法として、使用することができる自己組織化両親媒性ペプチドゲルの最初の例である。
本発明は一般に、新規なペプチドベースのゲル、および関節軟骨の再生を増強するためのその治療的使用に関する。より具体的には、本発明は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β1)に非共有結合し得るペプチドエピトープ配列を有する自己組織化(self-assembling)両親媒性ペプチド(PA)の混合物に関する。この両親媒性ペプチドおよび自己細胞から構成されるヒドロゲル足場は、インビボのウサギモデルにおいて関節軟骨の再生を増強することが示される。これは、単独で、または微小骨折術もしくは自己軟骨細胞移植の状況のような、軟骨欠損の修復のために臨床的に用いられている現在の整形外科的戦略を強化するための治療法として、使用することができる自己組織化両親媒性ペプチドゲルの最初の例である。
発明の背景
生体適合性の足場を使用する組織工学の技法は、人工器官再建手術において現在用いられている材料に取って代わる実現性のある代用物を提供する。これらの材料はまた、罹患した、欠損した、または損傷した組織を交換するための組織または器官同等物の形成においても有望である。加えて、生体適合性の足場を用いて、所定の領域への治療材料(例えば、遺伝子材料、細胞、ホルモン、薬物、またはプロドラッグ)の制御放出に用いられ得る生分解性材料を形成することができる。しかしながら、ポリ乳酸、ポリオルトエステル、およびポリ酸無水物などの、これらの足場を作製するために今日用いられている大部分のポリマーは、制御することが難しく、とりわけ、組織工学材料が利用される部位において細胞接着不良および組込み不良を生じる。したがって、焦点は、合成生体分子から形成された足場、より詳細にはインサイチューで自己組織化し得る生体模倣足場へと移行している。
生体適合性の足場を使用する組織工学の技法は、人工器官再建手術において現在用いられている材料に取って代わる実現性のある代用物を提供する。これらの材料はまた、罹患した、欠損した、または損傷した組織を交換するための組織または器官同等物の形成においても有望である。加えて、生体適合性の足場を用いて、所定の領域への治療材料(例えば、遺伝子材料、細胞、ホルモン、薬物、またはプロドラッグ)の制御放出に用いられ得る生分解性材料を形成することができる。しかしながら、ポリ乳酸、ポリオルトエステル、およびポリ酸無水物などの、これらの足場を作製するために今日用いられている大部分のポリマーは、制御することが難しく、とりわけ、組織工学材料が利用される部位において細胞接着不良および組込み不良を生じる。したがって、焦点は、合成生体分子から形成された足場、より詳細にはインサイチューで自己組織化し得る生体模倣足場へと移行している。
天然の組織を模倣するナノスケールでの構造を有する任意の合成材料を調製することは、困難な課題である。1つのアプローチは、天然の細胞外基質を構成するタンパク質およびプロテオグリカンに形態が類似している原線維へと自発的に組織化(assemble)する分子を調製することである。大部分の合成生体ポリマーとは対照的に、自己組織化小分子の使用により、これらの高分子組織化の化学的および構造的特性の制御が容易になる。1-12 そのために、両親媒性ペプチドは、適切な条件下で自己組織化して原線維様ミセル(当技術分野において「ナノファイバー」と称される)を形成することが示されており、そのようなナノファイバーは、生体適合性足場として、より詳細には組織工学の分野において特に有用性を有する。13-26 以前に開示された両親媒性ペプチドは、増殖因子と非共有結合し得る、ファージディスプレイ法を通して同定されたペプチド配列を有すると記載されている。27 [米国特許出願第11/005,552号、「Self-assembling peptide amphiphiles and related methods for growth factor delivery」、その全体が参照により本明細書に組み入れられる] 以前に同定された、軟骨形成増殖因子TGF-β1と結合する能力を保持しつつ、より低い細胞傷害性、および軟骨形成細胞型とのより高い生体適合性、生理的条件下でのより均一なペプチドの混合およびゲル化を誘発する改変を含む、以前に報告された化合物よりも優れた新規な両親媒性ペプチドを提供することは、本発明の1つの目的である。27 インビボで関節軟骨における欠損を修復または再生するために該改変TGF-β1結合両親媒性ペプチドを使用する方法を提供することは、本発明のさらなる目的である。49 本方法は、急性損傷または慢性変性から生じた関節面における軟骨病変(欠損)を有する患者に対する新規でかつ潜在的に有益な治療的処置を示す。
未治療の関節軟骨損傷は、疼痛、機能障害、および変形性関節症の加速を引き起こす。全層局所軟骨病変は変形性関節症に進行する可能性があり、変形性関節症は、医療費、賃金の減少、および社会的影響の費用を考慮した場合、米国において650億ドルにも迫る、推定される経済的影響を有する障害である。28 軟骨病変は、運動選手コホートおよび高齢の活動的な患者の両方を含む広範な集団において認められる。31,516例の膝関節鏡検査の後向き検討において、Curlらは、関節鏡検査を受けた患者19,827名において53,569例の軟骨病変を見出した(膝1例につき病変2.7例、有病率=63%)。29 993例の継続的な膝関節鏡検査の前向き研究において、Aroenらは、局所軟骨損傷の発生率11%を見出した。30 任意の関節軟骨病変を有した膝のうち、20%が全層局所軟骨病変であった。
局所関節軟骨病変は、再生能が限られている。いくつかの治療様式が、現在のところ臨床に用いられている。未治療の関節軟骨の再生能は、線維軟骨の瘢痕の形成に限られている。ヒアリンまたはヒアリン様軟骨関節を再生するための外科的戦略には、研磨関節形成術;微小骨折術;細胞、組織、合成物質の移植;および骨軟骨柱が含まれる。これらの技法の臨床的および組織学的な成績調査から、様々な、そして多くの場合には混乱する臨床結果が示された。長期の組織学的研究から、これらの技法のすべてにおいて再生された組織の大部分は、ヒアリン軟骨がせいぜい部分的に生成された、多くの場合には生成されていない線維性であることが示された。31
関節軟骨の限定された自己治癒能力は、主に該組織の性質に起因する。第一に、関節軟骨が無血管であることで、フィブリン塊の形成を支持することができない。血管新生した組織では、皮膚および骨などの組織で見られるように、この塊が、一次的な基質、および自然治癒を促進するための増殖因子の供給源として役立つ。第二に、関節軟骨の細胞外基質(ECM)が高密度であることで、欠損空間への軟骨細胞の遊走が限定される。第三に、軟骨細胞は低い有糸分裂活性を有し、それが完全な再生にとって不十分な細胞増殖および基質合成を招く。この限定された天然治癒能力を考えると、さらなる関節軟骨の分解および変性変形性関節症の早期進行を妨げるために、臨床的介入が必要である。
微小骨折術は、軟骨欠損の修復に用いられる一般的な臨床的手技である。微小骨折術の提案される利点は、それが単一の外科手技であり、患者の病的状態を低くしたまま比較的簡単でかつ費用効果が高く、また軟骨再生を促進するための細胞供給源として患者自身の間葉系幹細胞(MSC)が関わるという点である。その現在の臨床的適応は、小さな全層含有局所欠損を有する非肥満患者におけるものである。微小骨折術の別の提案される利点は、それがその後の他の軟骨回復技法の使用を妨げないという点である。微小骨折術における再生過程は、軟骨下骨に接着する多能性MSCの塊を伴う。動物モデルおよび臨床試験における微小骨折術の組織学的評価から、時間と共に、大部分の病変が、主たるI型コラーゲンおよび限定されたII型コラーゲンを有する線維軟骨に実体化することが示された。加えて、臨床的には、術後18ヵ月で、および40歳を超える患者において、機能転帰の有意な低下が認められる。32 このことから、欠損内の軟骨細胞表現型の生物活性、量、質、および保持が欠乏していることが示唆される。さらに、細胞外基質の量、および軟骨細胞の分化を誘導するための内因性増殖因子の利用能が不足している可能性がある。
骨軟骨移植(同種移植および自家移植)は、軟骨表面を再形成するために骨軟骨移植片柱を使用する別の方法である。いくつかの報告ではヒアリン様軟骨が認められたが、移植片と周囲の軟骨との統合が失敗する率は高い。33 自家移植片用のドナー部位の病的状態、および同種移植に固有の他の問題(免疫原性、軟骨下骨の強度、軟骨細胞の生存度、治癒能力、骨の統合、費用)は、臨床的および組織学的結果に影響を及ぼした。34-36
軟骨再生のための他の技法には、組織工学によって作製された構築物を伴う細胞移植または伴わない細胞移植が含まれる。臨床研究は、細胞の回収、単層への拡大、および基質または足場との組み合わせ、ならびにその後の移植を含んだ。これらの技法は2段階の手術を必要とし、費用は著しく高く、また回収部位による病的状態も高い。最近、臨床試験により、これらのより進歩した技法と微小骨折術が後向きおよび前向きに評価され、疑わしい結果が示された。長期の前向き無作為化対照試験において、Knutsenらは、5年時の各群における23%の失敗率、および2年時のACI群における微小骨折術よりも高い失敗を見出した。37 5年時の患者の33%は、関節炎の証拠となるX線像を有した。局所膝関節軟骨欠損の治療の最近の系統的総説において、Magnussenらは、臨床的または組織学的評価において、他よりも優れている技法は存在しないと結論づけている。38 長期経過観察時に優れた結果を有する多くの割合の患者を提供し得る臨床的解決法は明らかには見出されていない。
上記の課題に対する提案される解決法は、三次元足場および高度の生物活性を有する適切な軟骨形成増殖因子の両方を提供することによる、病的状態が抑えられ、技術的簡便性を有し、かつ関節欠損における軟骨細胞表現型の保持を促進する1段階の手技である。足場は理想的には、軟骨細胞および増殖因子の組込み、生存度、および機能を最大限にする。
したがって、ヒアリン軟骨の組織学的、生化学的、および構造的特性により酷似している組織の再生を促進するための足場または基質として自己組織化両親媒性ペプチド(PA)を使用する組成物および方法を提供することが、本発明の1つの目的である。トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β1に強力に特異的に結合する傾向があるペプチド配列を有するPAを微小骨折術と併用して、ウサギモデルにおいて関節軟骨欠損の修復について調べた。可能なすべての7マーペプチド配列の中で、ペプチドHSNGLPL(SEQ ID NO:1)は、ファージディスプレイ法を用いて、組換えTGF-β1に対する強力で特異的な結合配列として同定された。27,39,40 ファージディスプレイ技法において、このペプチドは遊離のN末端にHisを伴ってバクテリオファージ上に提示され、C末端のLeuはGGGS(SEQ ID NO:2)スペーサーペプチドを介してファージのタンパク質コートに結合している。本発明の好ましい態様では、「TGF結合」ペプチドおよびスペーサーペプチドはβシート形成ペプチドにさらに付着しており、このペプチドは該ペプチドの凝集およびβシート自己組織化を促進する脂肪酸に結合しており、それによって原線維ナノ構造基質が生じる。理論によって縛られることを意図しないが、この構造は、完全に合成のペプチド構造を使用しながらも、バクテリオファージ上へのTGF結合ペプチドの提示を模倣するのに役立つと考えられる。この合成の自己組織化足場を外因性の組換えヒトTGF-β1(rhTGF-β1)の送達媒体として用いて、それを局在化し、その生物学的利用能を持続させることができ;または微小骨折術またはACI手技中に、これをインビボゲル基質として用いて、細胞によって放出される内因性TGF-β1を軟骨欠損中に濃縮し、保護することができる。両親媒性ペプチドナノファイバーはそれ自体、間葉系幹細胞(MSC)または自己軟骨細胞である細胞の塊形成、保持、生存、および分化を促進するための足場としても使える。
TGF-β1は、分化表現型の関節軟骨を維持する増殖因子の調節ネットワークにおいて重要な役割を有する。41 加えて、TGF-β1は、骨髄由来MSCにおいて軟骨形成を誘導するのに必要かつ重要な因子である。42 関節軟骨組織工学において、TGF-β1は、コラーゲンおよびプロテオグリカンの産生を増加させ、かつ基質の分解を阻害することが示されている。43 理論によって縛られることを意図しないが、両親媒性ペプチドナノファイバー足場にTGF結合ペプチドを付加することで、インビボにおける足場の軟骨形成作用が増強され得る。本明細書において実証されるように、MSCを含有する骨髄が欠損に浸潤するのを可能にする微小骨折術後に、自己組織化したペプチド足場を関節軟骨欠損に適用すると、足場は軟骨基質の産生およびヒアリン様軟骨の再生をうまく促進する。
したがって、「TGF結合」両親媒性ペプチド(PA)分子およびその他の非特異的両親媒性ペプチド分子(本明細書では「フィラー」PAと称する)の水性混合物から構成されるナノファイバー基質またはゲルの形態をとる、軟骨再生のための自己組織化足場を提供することは、本発明の1つの目的である。本発明のTGF-β1結合両親媒性ペプチドは、最低でも以下のセグメントを含む:(1) ファージディスプレイ法を介して同定された1つまたは複数の関連ペプチドより選択される増殖因子結合ペプチドセグメント;(2) ペプチドに溶解性および可動性の双方を付与するスペーサーセグメント;(3) 分子にβシート二次構造を形成する能力を付与する構造ペプチドセグメント、ならびに(4) 一般的に単一アルキル鎖から構成される親油性セグメント。
本発明の1つまたは複数の局面は特定の目的を満たすことができる一方、1つまたは複数の他の局面は特定の他の目的を満たすことができることが、当業者によって理解されよう。各目的は、本発明のすべての局面に、あらゆる点で等しく当てはまらない場合がある。したがって、以下の目的は、本発明の任意の1つの局面に関して択一的に考慮することができる。
増殖因子TGF-β1と結合する両親媒性ペプチド組成物を提供することは本発明の1つの目的であるが、TGFスーパーファミリー内の細胞外シグナル伝達タンパク質における配列相同性は様々であるため、TGF-β1と結合する両親媒性ペプチドは、骨形成タンパク質(BMP)、増殖分化因子(GDF)、アクチビン、インヒビン、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、Nodal、およびLeftyを含む他のTGF-βアイソフォームおよび種々の他のタンパク質とも、より強くまたはより弱く結合し得ることが、当業者によって理解されよう。44その生物活性が両親媒性ペプチドの存在によって影響を受けるかまたは変更される、外因的に送達される組換えタンパク質または内因性因子であるこれらのタンパク質の1つまたは複数は、記載の系において使用され得ると予測される。したがって、本明細書における「TGF結合」への言及は、記載される本発明の範囲を単一のタンパク質または増殖因子に限定すると解釈されるべきではない。
さらに、スペーサーセグメントがアミノ酸配列「(Gly)mXaa(Xbb)n」を含み、式中、mおよびnは独立して0〜5、より好ましくは1〜3の範囲の整数であり、Xaaは任意のアミノ酸(好ましい態様ではセリン)であり、かつXbbは、例えばグルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)を含む酸性側鎖を有するアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基である、上記の両親媒性ペプチド(PA)分子を提供することは、本発明の1つの目的である。このスペーサーペプチドセグメントを使用することにより、酸性側鎖を有するアミノ酸残基を含む他の両親媒性ペプチドとの均一な混合が容易となり、生理的条件下で適切なゲル化強度が提供される。
代替的な態様において、スペーサーセグメントは、アルキルセグメント(例えば、6-アミノヘキサン酸)またはポリエチレングリコールセグメント(PEG)のような、非ペプチド成分を含んでもよい。そのような非ペプチドスペーサーは、インビボにおける化合物の溶解性または分解速度を変更し得る。
構造ペプチドセグメントがアミノ酸配列「(Ala)p(Val)q」を含み、式中、pおよびqは独立して0〜6、より好ましくは2〜4の範囲の整数である、上記の両親媒性ペプチドを提供することは、本発明のさらなる目的である。親油性セグメントが6〜22炭素長の範囲の飽和アルカンであり、より好ましくは12または16炭素長である、上記の両親媒性ペプチドを提供することは、本発明のさらに別の目的である。
好ましい親油性成分に結合させた場合、この配列を含有する両親媒性ペプチドは以下の構造を有する:
この態様において、TGF結合ペプチド(HSNGLPL)(SEQ ID NO:1)は、遊離アミンとしてヒスチジン残基を伴ってペプチド配列のN末端に提示され;スペーサーセグメントはGGGSEEE(SEQ ID NO:5)であり;βシート形成セグメントはAAAVVVK(SEQ ID NO:6)であり、かつ親油性セグメントは、C末端リジン(K)の側鎖上のεアミンに結合しているドデシル(12炭素)飽和脂肪酸である。この構造を図1aに図示する。
この態様において、TGF結合ペプチド(HSNGLPL)(SEQ ID NO:1)は、遊離アミンとしてヒスチジン残基を伴ってペプチド配列のN末端に提示され;スペーサーセグメントはGGGSEEE(SEQ ID NO:5)であり;βシート形成セグメントはAAAVVVK(SEQ ID NO:6)であり、かつ親油性セグメントは、C末端リジン(K)の側鎖上のεアミンに結合しているドデシル(12炭素)飽和脂肪酸である。この構造を図1aに図示する。
TGF結合両親媒性ペプチドと非特異的「フィラー」両親媒性ペプチドの混合物を提供することもまた、本発明の1つの目的である。このような様式で混合することにより、TGF結合ペプチドの濃度を、全体的な濃度の両親媒性ペプチドナノファイバーから、独立してかつ制御された様式で変更することが可能となる。理論によって縛られることを意図しないが、TGF結合ペプチドをフィラーPAと混合すること、またはフィラーPAで「希釈」することにより、自己組織化した構造へのナノファイバーの組織化および増殖因子の結合が促進され得る。さらに、「フィラー」PAを適切に選択することで、軟骨形成細胞型との生体適合性が向上し、TGF結合PAとの混合がより均一になり、また生理的条件下でのゲル化が向上する可能性がある;しかしながら、最適な組み合わせの決定は日常的な実験を含むにすぎず、したがって十分に通常の技術の範囲内である。好ましい態様において、フィラーPAは以下の構造を有する:
H3C(CH2)nCO-(Xxx)x-(Xyy)y-(Xzz)z
式中、XxxおよびXyyは非極性側鎖を有するアミノ酸であり、Xzzは酸性側鎖を有するアミノ酸であり、nは4〜20の範囲の整数であり、かつx、y、およびzは独立して2〜6の範囲であり得る整数である。より好ましい態様において、Xxxはバリンであり、Xyyはアラニンであり、Xzzはグルタミン酸であり、かつn=14である。フィラーPAのさらにより好ましい態様は、ペプチド配列VVVAAAEEE(SEQ ID NO:7)を有する。好ましい親油性セグメントに結合させた場合、この両親媒性ペプチドは以下の構造を有する:
H3C(CH2)14CO-VVVAAAEEE(SEQ ID NO:8)
この態様において、親油性セグメントは、ペプチドのN末端に結合しているパルミチン酸である。ペプチドのC末端は遊離酸である。この化合物の構造を図1bに図示する。
H3C(CH2)nCO-(Xxx)x-(Xyy)y-(Xzz)z
式中、XxxおよびXyyは非極性側鎖を有するアミノ酸であり、Xzzは酸性側鎖を有するアミノ酸であり、nは4〜20の範囲の整数であり、かつx、y、およびzは独立して2〜6の範囲であり得る整数である。より好ましい態様において、Xxxはバリンであり、Xyyはアラニンであり、Xzzはグルタミン酸であり、かつn=14である。フィラーPAのさらにより好ましい態様は、ペプチド配列VVVAAAEEE(SEQ ID NO:7)を有する。好ましい親油性セグメントに結合させた場合、この両親媒性ペプチドは以下の構造を有する:
H3C(CH2)14CO-VVVAAAEEE(SEQ ID NO:8)
この態様において、親油性セグメントは、ペプチドのN末端に結合しているパルミチン酸である。ペプチドのC末端は遊離酸である。この化合物の構造を図1bに図示する。
1つまたは複数の非球状ミセル、例えばその例にナノファイバーが含まれるがこれに限定されない円筒状ミセルを形成するように自己組織化した1つまたは複数の両親媒性ペプチドから構成される組成物を提供することは、本発明のさらなる目的である。本組成物は、上記のように、TGF結合両親媒性ペプチドと「フィラー」両親媒性ペプチドの混合物を含み得る。これらの両親媒性物質は、原則として任意の比率で混合することができるが、好ましい態様では、それらを1:9のモル比(すなわち、9個のフィラー分子につき1個のTGF結合PA分子)で混合する。本組成物はまた、基材の少なくとも一部において、例えばその上に配置されたナノファイバーのコーティングとして、自己組織化した非球形ミセルを備えた基材の形態をとってもよい。この基材は、筋骨格組織の修復または置換における使用が意図された整形外科用のインプラント、足場、またはその他の装置からなり得る。
両親媒性ペプチドおよび/または両親媒性ペプチド組成物から構成される生体適合性で生分解性のゲルを提供することは、本発明のさらなる目的であり、そのようなゲルは、組織同等物を形成するか、または形成するように身体を誘導するために、単離された細胞を含んでもよくまたは含まなくてもよい足場または基質をヒト患者において作製するのに有用である。そのようなゲルは、細胞の生着を促進し、軟骨再生のための三次元鋳型を提供することができる。得られる組織は、全層関節軟骨欠損が生じた後の身体の天然の治癒過程において介入を行わない場合に一般的に生じる線維軟骨または瘢痕組織とは対照的に、組成および組織像が天然の軟骨組織と類似していると予測される。
そのために、本発明は1つの態様において、自己組織化した両親媒性ペプチドゲルが原線維足場または基質を構築する、ヒト患者内の標的部位に直接注射することができる自己組織化両親媒性ペプチド溶液を提供する。1つの態様では、自己組織化ペプチド溶液を骨髄由来MSCとインサイチューで混合して、ゲル塊を形成してもよい。別の態様では、体外で基質に予め形成された自己組織化した両親媒性ペプチドゲルに、自己軟骨細胞などの細胞を懸濁してもよく、次にこれをヒト患者に移植することができる。最終的に、自己組織化した両親媒性ペプチドゲルは分解して、得られた組織のみが残る。本発明のさらに別の態様では、本発明の両親媒性ペプチドを、ゲル、固体、または液体のいずれかとして他の組織工学材料と併用し、ヒト患者における関節の関節面の1つまたは複数において軟骨組織成長の鋳型となるよう使用する。
当業者は、pH、温度、および等張性の生理的条件下でこれらのナノファイバーから構成されるゲルまたは固体が、広範囲の目的のために、ならびに可能性のあるいくつかの異なる生物医学および組織工学適用において、この材料を利用する機会を提供することを容易に認識するであろう。
したがって1つの態様において、本発明は、組織工学材料を必要とする患者の標的部位に両親媒性ペプチド組成物を投与する段階を含む、組織工学材料によって患者を治療する方法を提供する。
細胞(例えば、間葉系幹細胞および軟骨細胞)の分化および成長を変更する(例えば、増強または刺激する)ための方法および組成物を提供することは、本発明のさらなる目的である。特に本発明は、細胞を封入することができ、かつ軟骨形成およびその後の軟骨基質発現(例えば、軟骨再生)を促進することができるナノファイバーを生成する(例えば、自己組織化する)1つまたは複数の自己組織化両親媒性ペプチド(例えば、溶液中)から構成される組成物、ならびにその使用方法に関する。本発明の組成物および方法は、研究および臨床(例えば、治療)設定において使用される。図1に記載するような、1つまたは複数の両親媒性ペプチドから構成される薬学的組成物を提供することは、本発明のさらなる目的である。
本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読んだ場合に、より十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。特に、本発明をいくつかの特定の態様に関して本明細書において説明するが、その説明は本発明を例証するものであり、本発明を限定するものとして構成されていないことが理解されよう。添付の特許請求の範囲によって記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者は様々な変更および適用に思い至ることができる。同様に、本発明のその他の目的、特徴、利益、および利点は、本概要および以下に記載する特定の態様から明らかになると考えられ、様々な両親媒性化合物、自己組織化技法、およびペプチド合成の知識を有する当業者には容易に明白になるであろう。そのような目的、特徴、利益、および利点は、添付の実施例、データ、図面、およびそれらから引き出されるすべての妥当な推論と併せて上記から、単独で、または本明細書に組み入れられる参考文献を考慮して、明らかになるであろう。
本発明の様々な局面および適用は、以下の図面の簡単な説明ならびに本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
本明細書において「TGF結合PA」(SEQ ID NO:4)および「フィラーPA」(SEQ ID NO:8)と称される両親媒性ペプチド(PA)の化学構造を示す。
TGF結合PA(SEQ ID NO:4)およびフィラーPA(SEQ ID NO:8)のMALDI-TOF質量分析の結果を示す。実施例3に記載されるように、各化合物について予測される質量が観察される。
TGF結合PA(SEQ ID NO:4)およびフィラーPA(SEQ ID NO:8)のペプチド純度を実証し、実施例3において考察される、2つの化合物の分析HPLCクロマトグラフを示す。
(a) ウサギの膝における関節軟骨欠損の外科的作製;(b) 微小骨折手技、およびその結果生じた骨軟骨から欠損部位への骨髄血の放出;(c) ならびにTGF結合PAおよびフィラーPAから構成される自己組織化両親媒性ペプチドによる2つの欠損のうちの1つ(矢印で表示)の充填を記録する写真を示す。
(a)〜(d)は、試験の12週終点における屠殺後のウサギの滑車の関節面を示す、処置群1〜4(左から右)の動物の代表的な写真である。外科的に作製された円形の軟骨欠損を小さい矢印で示す。画像(c)および(d)は、TGF結合PAで処置した動物における、欠損を充填している顕著により多くのヒアリン様組織を示す。
(a)〜(d)は、処置群1(左上)、処置群2(右上)、処置群3(左下)、および処置群4(右下)の動物による組織切片のサフラニン-O組織学的染色を示す代表的な顕微鏡写真である。各切片は、12週時に回収した1つの軟骨欠損の中心を通っている。小さな矢印は、各画像における元の欠損のおよその端を示す。赤色染色は、ヒアリン様軟骨を示すグリコサミノグリカン(GAG)、主にヒアルロナンの存在を示す。
(a)〜(d)は、処置群1(左上)、処置群2(右上)、処置群3(左下)、および処置群4(右下)の動物による組織切片のII型コラーゲン免疫組織化学的染色を示す代表的な顕微鏡写真である。各切片は、12週時に回収した1つの軟骨欠損の中心を通っている。小さな矢印は、各画像における元の欠損のおよその端を示す。褐色染色は、主にI型コラーゲンを発現する線維軟骨とは異なり、成熟ヒアリン様軟骨のマーカーであるII型コラーゲンの存在を示す。
調べた4つの処置群のO'Driscoll組織学的スコアのプロットを示す。各データ点(丸印)は、特定の軟骨欠損に関する3名の処置盲検評価者の平均スコアを示す。可能なスコアは、0(ヒアリン様修復組織がなく、かつ広範な変性)〜24(完全に正常なヒアリン様軟骨)の範囲である。エラーバーは、各群における平均スコアの95%信頼区間を示す。
好ましい態様の詳細な説明
本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の態様の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をこれより記載する。しかしながら、本発明の材料および方法を記載する前に、本明細書において記載される特定の分子、組成物、手法、またはプロトコールは慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載において用いられる専門用語は特定の見解または態様を記載する目的に限られ、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、また理解されるべきである。
本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の態様の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をこれより記載する。しかしながら、本発明の材料および方法を記載する前に、本明細書において記載される特定の分子、組成物、手法、またはプロトコールは慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載において用いられる専門用語は特定の見解または態様を記載する目的に限られ、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、また理解されるべきである。
特記しない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されている意味と同じ意味を有する。しかしながら、矛盾する場合は、定義を含めて本発明が優先する。したがって、本発明との関連において、以下の定義を適用する。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる単数形「1つの(a)」、「1つの(and)」、および「その」は、特に文脈によって明白に指示されていない限り、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「細胞」への言及は、1つまたは複数の細胞および当業者に公知であるその同等物への言及であり、以下同様である。
本明細書で用いられる「ナノファイバー」という用語は、100ナノメートル未満の直径を有する伸長したまたは糸状の線維を指す。
本明細書で用いられる「円筒状ミセル」という用語は、両親媒性分子から構成される、非球状で高縦横比の形状(長さ/直径>10)を有するコロイド状凝集体を指し、ミセルを形成する両親媒性物質の疎水性(または親油性)部分は、極性相(例えば、水)から離れて位置する傾向があり、分子の極性部分(頭部基)はミセル-溶媒界面に位置する傾向がある。
本明細書で用いられる「生理的条件」という用語は、生存しているヒトの体内の組織において通常生じる温度、pH、および等張性(または浸透圧)の条件の範囲を指す。
本明細書で用いられる「自己組織化する」および「自己組織化」という用語は、成分部分からの、分離した非ランダムな凝集体構造の形成を指し、該組織化は、それらの成分の固有の化学的または構造的特性のみに起因する成分(例えば、分子)のランダムな運動を通して自発的に起こる。
本明細書で用いられる「足場」および「基質」という用語は、空間において伸長し、体内またはインビトロのいずれかで、生存している組織の成長のための機械的または他の支持を提供する、開放多孔を有する天然または合成の構造または網目構造を互換的に指す。
本明細書で用いられる「ゲル」という用語は、線維性基質および液体で満たされた間隙から構成される、コロイド状液体の凝固によって形成される半固体の粘弾性材料(何らかの機械的応力に変形せずに耐え得る)を指す。
本明細書で用いられる「両親媒性ペプチド」という用語は、最低でも、非ペプチド親油性セグメント、および少なくとも6アミノ酸残基を有するペプチドセグメントを含む分子を指す。両親媒性ペプチドは、生理的pHで正味の正電荷もしくは正味の負電荷のいずれかである正味の電荷を示してよく、または両性イオン(すなわち、正電荷および負電荷の双方を有する)であってもよい。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる「親油性セグメント」という用語は、両親媒性ペプチドの末端またはその周囲に配置される炭化水素部分を指す。この親油性セグメントは、本明細書および他所において、疎水性成分または疎水性セグメントと称され得る。親油性セグメントは、水または別の極性溶媒系において両親媒性挙動およびミセル形成を提供するために十分な長さのセグメントであるべきである。
したがって本発明との関連において、親油性セグメントは好ましくは、式:CnH2n-1O-の単一の飽和直鎖状アルキル鎖から構成され、式中、n=6〜22である。好ましい態様において、この親油性セグメントは、ペプチドのN末端アミンに、またはC末端リジン残基のεアミンに、ペプチド結合を介して共有結合され得る。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる「スペーサーセグメント」という用語は、ペプチドに溶解性および可動性の双方を付与する、両親媒性ペプチド分子の中間アミノ酸配列を指す。好ましい態様において、スペーサーセグメントはアミノ酸配列「(Gly)mXaa(Xbb)n」含み、式中、mおよびnは0〜5、より好ましくは1〜3の範囲の整数であり、Xaaは任意のアミノ酸(より好ましい態様ではセリン)であり、かつXbbは、例えばグルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)を含む酸性側鎖を有するアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基である。本発明との関連において、1つの特に好ましいスペーサーセグメントは、アミノ酸配列GGGSEEE(SEQ ID NO:5)を有する。このスペーサーセグメントは、以下の構造を有する例示的な両親媒性ペプチドSEQ ID NO:4において利用される:
酸性アミノ酸残基の側鎖の長さを増加または減少させることにより、該残基を含む両親媒性ペプチドの溶解性を変更することができ、側鎖上のカルボン酸基の数を変更することによっても、同様にその溶解性を変更することができる。したがって本発明は、(上記の)Xbbが、α炭素と1つまたは複数のカルボン酸残基との間に1〜5個、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有するα置換アミノ酸である両親媒性ペプチド分子を意図する。好ましい態様において、Xは、アミノマロン酸(Ama)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アミノアジピン酸(Aib)、アミノヘプタン二酸(Apm)、またはγカルボキシグルタミン酸(Gla)より選択される。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる「構造ペプチドセグメント」という用語は、一般的に、そのβシート二次構造の形成傾向に関して選択される、非極性非荷電側鎖を有する3〜10個のアミノ酸残基から構成される、両親媒性ペプチド分子の中間アミノ酸配列を指す。20種の天然アミノ酸より選択される適切なアミノ酸残基の例には、Met(M)、Val(V)、Ile(I)、Cys(C)、Tyr(Y)、Phe(F)、Gln(Q)、Leu(L)、Thr(T)、Ala(A)、Gly(G)が含まれる(βシートの形成傾向順に記載)。しかしながら、類似のβシート形成傾向を有する非天然アミノ酸も使用され得る。より好ましい態様では、例えば形式(XA)Na(XB)Nb(XC)Ncをとる強いおよび弱いβシート形成体を併用し、式中、XAおよびXBはA、L、V、およびGより選択され、XCは任意のアミノ酸であり、NaおよびNbは2、3、または4であり、かつNcは0〜3の範囲である。実例には、(SEQ ID NO:9〜20)
が含まれる。
が含まれる。
好ましい態様において、XCは、リジンまたはオルニチンを含むがこれらに限定されない、アミン終結側鎖を有するアミノ酸残基であり、該側鎖のアミン官能性により、ペプチドへの親油性セグメントの付着が容易になる。本発明との関連において、1つの特に好ましい構造ペプチドはアミノ酸配列AAAVVVK(SEQ ID NO:6)を有する。この構造セグメントは、以下の構造を有する例示的な両親媒性ペプチドSEQ ID NO:4において利用される:
本明細書で用いられる「増殖因子」という用語は、細胞周期進行、細胞分化、生殖機能、発生、運動性、接着、ニューロン成長、骨形成、創傷治癒、免疫監視、および細胞アポトーシスなどの様々な内因性の生物学的過程および細胞過程を制御または調節する広範囲のクラスの生理活性ポリペプチドを指す。増殖因子は、典型的には、標的細胞の表面上の特定の受容体部位に結合することによって機能する。増殖因子には、サイトカイン、ケモカイン、ポリペプチドホルモン、およびその受容体結合アンタゴニストが含まれるが、これに限定されない。周知の増殖因子の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
・トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β);
・骨形成タンパク質(BMP);
・インターロイキン-17;
・トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α);
・軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP);
・細胞密度シグナル伝達因子(CDS);
・結合組織増殖因子(CTGF);
・上皮増殖因子(EGF);
・エリスロポエチン(EPO);
・線維芽細胞増殖因子(FGF);
・グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF);
・顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);
・顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);
・増殖分化因子(GDF);
・ミオスタチン(GDF-8);
・肝細胞増殖因子(HGF];
・インシュリン様増殖因子(IGF);
・マクロファージ阻害サイトカイン-1(MIC-1);
・胎盤増殖因子(PIGF);
・血小板由来増殖因子(PDGF);
・血小板濃縮物(PRP);
・トロンボポエチン(TPO);
・血管内皮増殖因子(VEGF);
・アクチビンおよびインヒビン;
・コアギュロゲン;
・フォリトロピン;
・ゴナドトロピンおよびルトロピン;
・抗ミュラー管ホルモン(AMH)、ミュラー管阻害因子(MIF)、およびミュラー管阻害ホルモン(MIH)とも称されるミュラー管阻害物質(MIS);
・NodalおよびLefty;ならびに
・ノギン
・トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β);
・骨形成タンパク質(BMP);
・インターロイキン-17;
・トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α);
・軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP);
・細胞密度シグナル伝達因子(CDS);
・結合組織増殖因子(CTGF);
・上皮増殖因子(EGF);
・エリスロポエチン(EPO);
・線維芽細胞増殖因子(FGF);
・グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF);
・顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);
・顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);
・増殖分化因子(GDF);
・ミオスタチン(GDF-8);
・肝細胞増殖因子(HGF];
・インシュリン様増殖因子(IGF);
・マクロファージ阻害サイトカイン-1(MIC-1);
・胎盤増殖因子(PIGF);
・血小板由来増殖因子(PDGF);
・血小板濃縮物(PRP);
・トロンボポエチン(TPO);
・血管内皮増殖因子(VEGF);
・アクチビンおよびインヒビン;
・コアギュロゲン;
・フォリトロピン;
・ゴナドトロピンおよびルトロピン;
・抗ミュラー管ホルモン(AMH)、ミュラー管阻害因子(MIF)、およびミュラー管阻害ホルモン(MIH)とも称されるミュラー管阻害物質(MIS);
・NodalおよびLefty;ならびに
・ノギン
上記のものを含む、体内の有用な生物学的過程を調節する、誘導する、またはこれに関与する治療用分子は、その特定の構造または機能に従って類別または分類される場合が多い。例えば、インターロイキンおよびインターフェロンなどの、免疫系の細胞によって分泌される免疫調節性タンパク質は、サイトカインと称される場合が多い。調節性分子の他のカテゴリーには、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
‐モルフォゲン(例えば、組織および器官の形成および分化を調節または制御する分子);
‐ケモカイン(例えば、好中球およびT細胞などの白血球において走化性を刺激する、炎症部位におけるような様々な細胞によって産生される任意のサイトカイン群);
‐ホルモン(例えば、血液などの体液中を循環し、通常、産生された場所から離れて、細胞の活性に対して特異的で、多くの場合に刺激的な作用を生じる生細胞の産物);
‐受容体(例えば、ホルモンおよびリガンドなどの内因性物質、ならびにウイルス粒子などの外来物質の両方を含む特定の化学的実体に対して親和性を有する、細胞表面上または細胞内部に存在する分子であり、刺激剤と、これに対する下流の生理学的または薬理学的応答との仲介物として役立つ分子);
‐受容体結合アゴニスト(例えば、細胞上の特異的受容体と結合し、典型的には内因性結合物質(ホルモンなど)によって生じるのと同じ反応または活性を開始することができる化学物質);ならびに
‐受容体結合アンタゴニスト(例えば、別の化学物質(ホルモンなど)の生理学的活性を、これに関連する1つまたは複数の受容体と結合し、これを遮断することによって低下させる化学物質)。
本発明は増殖因子TGF-β1と関連して特に使用されるが、当業者は、本発明の原理が他の増殖因子の結合に容易に適用できることを理解するであろう。
‐モルフォゲン(例えば、組織および器官の形成および分化を調節または制御する分子);
‐ケモカイン(例えば、好中球およびT細胞などの白血球において走化性を刺激する、炎症部位におけるような様々な細胞によって産生される任意のサイトカイン群);
‐ホルモン(例えば、血液などの体液中を循環し、通常、産生された場所から離れて、細胞の活性に対して特異的で、多くの場合に刺激的な作用を生じる生細胞の産物);
‐受容体(例えば、ホルモンおよびリガンドなどの内因性物質、ならびにウイルス粒子などの外来物質の両方を含む特定の化学的実体に対して親和性を有する、細胞表面上または細胞内部に存在する分子であり、刺激剤と、これに対する下流の生理学的または薬理学的応答との仲介物として役立つ分子);
‐受容体結合アゴニスト(例えば、細胞上の特異的受容体と結合し、典型的には内因性結合物質(ホルモンなど)によって生じるのと同じ反応または活性を開始することができる化学物質);ならびに
‐受容体結合アンタゴニスト(例えば、別の化学物質(ホルモンなど)の生理学的活性を、これに関連する1つまたは複数の受容体と結合し、これを遮断することによって低下させる化学物質)。
本発明は増殖因子TGF-β1と関連して特に使用されるが、当業者は、本発明の原理が他の増殖因子の結合に容易に適用できることを理解するであろう。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる「増殖因子結合ペプチド」という用語は、7個のアミノ酸残基から構成されるN末端に配置されるペプチド配列を指し、該ペプチドは、ファージディスプレイ法を用いて特定の増殖因子に対する強力かつ特異的結合配列として同定される。自己組織化の際に、増殖因子結合ペプチドはナノファイバーの表面に露出され、それによって環境に提示される生理活性シグナルとして役立つ。
本発明の両親媒性ペプチドとの関連において使用するのに適した増殖因子結合ペプチド配列の例には、ファージディスプレイを用いて導出されたTGF-β1の結合配列(SEQ ID NO:21〜29)として、米国特許出願第2005-0209145号、「Self-assembling peptide amphiphiles and related methods for growth factor delivery」に記載されているものが含まれるが、これらに限定されない:
原理的には、ファージディスプレイに由来する配列は、C末端またはN末端方向のいずれかで増殖因子と結合することができると考えられる。上記配列の方向性を逆転させることにより、増殖因子結合ペプチドの第2セット(SEQ ID NO:30〜38)が作製される:
ペプチド化学の技術分野の当業者によって理解される通り、増殖因子結合配列の他の変化形も可能であり、これによって、増殖因子TGF-β1に対する結合の強度および選択性が増加または減少した両親媒性ペプチドが生じ得る。これらには、非極性アミノ酸残基(L、I、V、G、またはA)の1つもしくは複数を別の類似の比極性残基で置換すること、または正荷電R残基をK残基で置換すること(またはその逆)が含まれる。
加えて、上記のペプチド中の2つまたはそれ以上のアミノ酸残基の架橋を介して形成された環状ペプチドも、上記の適用に有用であり得る。好ましい態様において、HSNGLPLペプチド(SEQ ID NO: 1)のアミン官能基、例えばN末端アミン、ヒスタジン(histadine)側鎖、またはアスパラギンを、ペプチド中のどこか別のヒドロキシル官能基と、例えばSEQ ID NO: 4中のセリンまたはグルタミン酸残基のいずれか1つと架橋させることができる。理論によって縛られることを意図しないが、そのような架橋はTGF-β1結合ドメインの環状提示をもたらし、これは次にアミノペプチダーゼによる酵素分解からN末端残基を保護することができ、ひいてはペプチドによる生物学的シグナル伝達またはタンパク質結合の増強をもたらす。
本発明のペプチド配列は、合成後の修飾に供され得るアミノ酸残基を含む。例えば、スクシンイミド中間体を介したアスパラギン、Asn(N)の脱アミドは、Asn側鎖のアスパラギン酸、Asp(D)、またはイソアスパラギン酸、isoAsp(D*)の側鎖への変換を引き起こす一般的な翻訳後タンパク質修飾である。この修飾は、場合によっては、基質タンパク質の生物活性に及ぼす影響の変化(増強または減少)と関連している。さらに、Asn残基を含む合成ペプチドは、特にアルカリ性pHおよび温度上昇に曝露された場合に、製造過程において脱アミドを起こし得る。治療用ペプチドの場合、この過程は有効性の変化(増強または減少)を招き得る。したがって、本発明の1つの態様は、HSDGLPL(SEQ ID NO. 39)またはHSD*GLPL(SEQ ID NO.40)のように、Asn残基がAspまたはisoAspで置換されるように上記のTGF-β1結合配列を修飾することであり、式中、D*はイソアスパラギン酸である。好ましい態様において、これらの修飾配列は、
のように、先に記載された両親媒性ペプチド中に組み込まれる。
のように、先に記載された両親媒性ペプチド中に組み込まれる。
本発明の両親媒性ペプチドにおいて有用なアミノ酸には、天然アミノ酸および人工アミノ酸が含まれるが、これらに限定されない。βもしくはγアミノ酸および非天然側鎖を含むアミノ酸などの人工アミノ酸、ならびに/またはヒドロキシ酸のような他の類似のモノマーの組込みもまた意図され、これは、対応する成分がこの点においてペプチド様であるという効果を有する。
本発明の両親媒性ペプチド分子および組成物は、当業者に周知の調製技法を用いて、好ましくは標準的な固相ペプチド合成により、当業者に公知の通りに直交保護基を利用して、ペプチドのN末端またはリジン側鎖のεアミンにおいて標準的なアミノ酸の代わりに脂肪酸を付加して、合成することができる。脂肪酸は典型的に、ペプチジル結合を通してアミンに共有結合される。Rinkアミド樹脂(樹脂からの切断後にペプチドのC末端で-NH2基が生じる)またはWang樹脂(C末端で-OH基が生じる)のいずれかを用いて、合成は典型的にC末端から始まり、それに対してアミノ酸が連続的に付加される。したがって本発明は、-H、-OH、-COOH、-CONH2、および-NH2からなる群より選択され得るC末端部分を有する両親媒性ペプチドを包含する。
水溶液中で、PA分子は、そのコアに親油性セグメントを埋没させ、表面上に増殖因子結合ペプチドを提示する円筒状ミセルへと自己組織化する。構造ペプチドは分子間水素結合を受けて、ミセルの長軸に対して平行になるβシートを形成する。円筒状ミセル(ナノファイバーとも称される)は、典型的に0.5〜4重量%の範囲の濃度の生理的条件下で、水または様々な水性媒質中でゲルを形成することができる。
両親媒性ペプチドの水溶液の自己組織化を誘導するために、溶液のpHを変化(上昇または下降)させてもよく、または多価イオン、もしくは荷電ポリマー、もしくは他の高分子を溶液中に添加してもよい。理論によって縛られることを意図しないが、自己組織化は、この場合、機能性ペプチドセグメントにおけるイオン化側鎖間の静電気的反発の中和または遮蔽(低減)によって促進される。自己組織化によって形成されたこれらの円筒状ミセルは、機能性ペプチドセグメントがミセルの表面上に繰り返し提示される原線維または高縦横比のナノ構造物として見ることができる。
1つの態様において、本発明は、標的部位、特に関節の1つまたは複数の関節面の軟骨成分における全層欠損の症状の治療を受けるヒト患者におけるそのような軟骨病変に、両親媒性ペプチド組成物を投与する段階を含む、組織工学材料によって患者を治療する方法を提供する。細胞(例えば、間葉系幹細胞および軟骨細胞)の分化および成長を変更する(例えば、増強または刺激する)ための方法および組成物を提供することは、本発明のさらなる目的である。特に本発明は、細胞を封入することができ、かつ軟骨形成およびその後の軟骨基質発現(例えば、軟骨再生)を促進することができるナノファイバーを生成する(例えば、自己組織化する)1つまたは複数の自己組織化両親媒性ペプチド(例えば、溶液中)から構成される組成物、ならびにその使用方法に関する。本発明の組成物および方法は、研究および臨床(例えば、治療)設定において使用される。1つまたは複数の両親媒性ペプチドから構成される薬学的組成物を提供することは、本発明のさらなる目的である。
代替的な態様において、両親媒性ペプチド組成物は、非ヒト動物における軟骨の欠損または欠乏を治療するために投与することもできる。例えば、本方法は、ウマの膝関節における軟骨欠損を治療する上での獣医学使用を想定するが、他の大型哺乳動物(イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ)もこの治療から恩恵を受け得る。
本組成物は、開放性関節切開術中または関節鏡下手技中に、予め形成されたゲルを直接配置すること、両親媒性ペプチドを含む水溶液を注射することを含む、軟骨の欠損または欠乏の部位へと両親媒性ペプチド組成物を方向付けるのに適した任意の様式で投与することができる。そのような軟骨の欠損または欠乏は、関節の関節面の急性損傷、変形性関節症などの変性状態、またはその双方の組み合わせに起因し得る。そのようなゲルは、ヒト患者もしくは非ヒト動物においてインサイチューで形成されてもよいし、または1つもしくは複数の液体成分を組み合わせることにより体外で予め形成されてもよい。これらの液体成分は、両親媒性ペプチドを溶解するため、および自己組織化を誘導するために用いられ、溶液のpHを変化させるための成分を含み得るか、または多価イオン(塩化カルシウムを含むが、これに限定されない)、荷電ポリマー、もしくは他の荷電高分子を含み得る。液体成分はまた、体外で(インビトロで)細胞と組み合わせてもよい。これらの細胞は、対象とする患者に由来する血液、骨髄穿刺液、または他の自己組織から採取することができる。ひとたび形成されたならば、該ゲルを軟骨欠損に配置するか、またはさもなくば該患者の関節表面に適用することができる。1つの好ましい態様では、組成物を直接注射により、または関節鏡下で投与する。
両親媒性ペプチド組成物は、単独で、または損傷もしくは欠損した軟骨を修復、回復、もしくは再生することを目的としたような別の整形外科的外科手技と併用して、投与することができる。例えば、特に患者において関節の関節面の病変を創傷清拭した後に、該組成物を用いて、軟骨欠損修復のための別の臨床的戦略を強化することができる。
1つの好ましい態様では、両親媒性ペプチド組成物を、軟骨下骨からの血液および骨髄由来細胞を軟骨欠損部位に放出させる微小骨折手技に対する補助剤として適切に投与する。この状況において、該組成物は、微小骨折手技中に骨軟骨または骨髄から放出された自己の血液および細胞と混ざり、軟骨再生に適したゲル塊を形成する。
代替的な態様では、両親媒性ペプチド組成物を軟骨細胞移植(ACI)に対する補助剤として適切に投与する。この状況において、該組成物は自己軟骨細胞と組み合わされて、病変部位に有益な細胞を保持するゲル足場を形成し得る。
なおさらなる態様では、両親媒性ペプチド組成物を開放性骨軟骨同種移植(OATS)に対する補助剤として適切に投与する。この状況において、該組成物は、病変部位においてゲルを形成するために用いられ得る。
別の態様において、本発明は、本発明の両親媒性ペプチドを含むキットに関する。キットにより、自己組織化したミセルのインビボでの形成、または患者に挿入するための両親媒性ペプチドから形成されるミセルのインビトロでの自己組織化のいずれかが可能になり得る。ミセルのインビボでの形成を対象としたキットは、実践者が成分を患者に投与するための注射製剤へと構築できるように、適切に作製される。本キットは、シリンジ、両親媒性ペプチドの容器、および任意にTGF-β1などの増殖因子の容器、または塩化カルシウムなどのゲル化を誘導するための他の試薬を含み得る。任意に、両親媒性ペプチドは予め充填されたシリンジ中に含まれ、それに対してTGF-β1がその後添加される。加えて、インビボキットは、患者から細胞を抽出するためのシリンジをさらに含んでよく、その細胞は両親媒性ペプチド、増殖因子、または他の成分と組み合わされて、注射製剤を形成し得る。両親媒性ペプチドのインビトロ投与を対象としたキットは、両親媒性ペプチド、両親媒性ペプチドを溶解し、その後その自己組織化を誘導する(例えば、溶液のpHを変化させることによるか、または多価イオン、荷電ポリマー、もしくは他の荷電高分子の存在による)ために用いられる1つまたは複数の水性成分、および任意に増殖因子、TGF-β1を含み得る。任意に、キットは、患者に挿入する前に自己組織化したミセルでコーティングするための基材を含み得る。任意に、インビトロキットは、患者から細胞を抽出するためのシリンジをさらに含んでよく、その細胞は両親媒性ペプチド、水性成分、およびTGF-β1と組み合わされ得る。キット中の成分はそれぞれ、実践者が患者に投与するための製剤を調製する準備ができるまで、個別の容器中に適切に保存され得る。
したがって本発明は、単独で、または微小骨折術もしくは自己軟骨細胞移植の状況において用いることのできる自己組織化両親媒性ペプチドゲルの最初の例を提供する。
以降、実施例を参照することにより、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、および実施例は本発明の局面を説明するに過ぎず、決して本発明の範囲を限定することを意図していない。したがって、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験において用いることができる。
実施例1:
SEQ ID NO:4を含む、TGF結合セグメントHSNGLPL(SEQ ID NO:1)を含有する両親媒性ペプチドの自動合成および精製
1.1 試薬:
以下の試薬または同等物は受領したまま使用した:HBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-l-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、ピペリジン、DIEA(n,n,-ジイソプロピルエチルアミン)、DMF(n,n-ジメチルホルムアミド)、DCM(ジクロロメタン)、TFA(トリフルオロ酢酸)、TIS(トリイソプロピルシラン)。水はすべて逆浸透により精製して、Millipore(商標)システムを用いて比抵抗18.2 Mオーム-cmまで濾過した。9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)保護アミノ酸、および直交的に保護されたFmoc-Lys(Mtt)-OHは、EMD Biosciences(La Jolla, CA)から購入した。ペプチドは、Rinkアミド樹脂(0.6〜0.75 mモル/gを負荷)において合成した。
SEQ ID NO:4を含む、TGF結合セグメントHSNGLPL(SEQ ID NO:1)を含有する両親媒性ペプチドの自動合成および精製
1.1 試薬:
以下の試薬または同等物は受領したまま使用した:HBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-l-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、ピペリジン、DIEA(n,n,-ジイソプロピルエチルアミン)、DMF(n,n-ジメチルホルムアミド)、DCM(ジクロロメタン)、TFA(トリフルオロ酢酸)、TIS(トリイソプロピルシラン)。水はすべて逆浸透により精製して、Millipore(商標)システムを用いて比抵抗18.2 Mオーム-cmまで濾過した。9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)保護アミノ酸、および直交的に保護されたFmoc-Lys(Mtt)-OHは、EMD Biosciences(La Jolla, CA)から購入した。ペプチドは、Rinkアミド樹脂(0.6〜0.75 mモル/gを負荷)において合成した。
1.2 ペプチド合成:
ペプチドは、自動ペプチド合成機(CS Bio Co. モデル136XT)において、250 mLガラス反応容器を用いて、樹脂を各試薬に十分に曝露するためにこれを各反応段階の間に2秒毎に180°反転させて、固相合成法により合成した。樹脂を最初にDCMおよびDMF中で膨潤させた後、30容積%ピペリジンのDMF溶液によってFmoc脱保護を10分間行い、これを2回繰り返した。アミノ酸の結合は、Fmoc保護アミノ酸4.0当量(DMF中0.5 M)、HBTU 3.8当量(DMF中0.475 M)、およびDIEA 6.0当量(DMF中0.75 M)を用いて、結合当たり1時間行った。各溶液を混合し、高純度の窒素ガスを3分間通気することによって予め活性化した後、樹脂含有反応容器に添加した。各結合を1回実施した。1 mモルの反応規模の場合には、溶液30 mLをそれぞれの脱保護および洗浄段階に使用した。試薬はすべて保存し、高純度窒素ガス下で反応を行った。複数回のDCMおよびDMF洗浄段階を各反応段階の間に行った。Rinkアミド樹脂に結合させた最初のアミノ酸は、直交的に保護されたFmoc-Lys(Mtt)-OHであった。結合後、Mtt保護基をDCM中の1% TFAで選択的に除去した。ドデカン酸2.0当量をDMF/DCMの50/50混合物中に溶解し、DMF中のHBTU 1.9当量およびDIEA 3.0当量と混合することを除いて、上記の通りに、両親媒性ペプチドの脂肪酸親油性成分をLysのεアミンに結合させた。この結合を3回繰り返した後、産物をニンヒドリン反応(「カイザー試験」としても知られる)によって遊離のアミンに関して調べ、必要であれば遊離のアミンに関する陰性結果を得るためにこの反応を繰り返した。脂肪酸を付着させた後、残りのペプチド配列をC末端からN末端へ進行させながら記載通りに合成した。分子のペプチド部分を記載通りに合成した後、ペプチドのN末端を脱保護し、遊離アミンとした。
ペプチドは、自動ペプチド合成機(CS Bio Co. モデル136XT)において、250 mLガラス反応容器を用いて、樹脂を各試薬に十分に曝露するためにこれを各反応段階の間に2秒毎に180°反転させて、固相合成法により合成した。樹脂を最初にDCMおよびDMF中で膨潤させた後、30容積%ピペリジンのDMF溶液によってFmoc脱保護を10分間行い、これを2回繰り返した。アミノ酸の結合は、Fmoc保護アミノ酸4.0当量(DMF中0.5 M)、HBTU 3.8当量(DMF中0.475 M)、およびDIEA 6.0当量(DMF中0.75 M)を用いて、結合当たり1時間行った。各溶液を混合し、高純度の窒素ガスを3分間通気することによって予め活性化した後、樹脂含有反応容器に添加した。各結合を1回実施した。1 mモルの反応規模の場合には、溶液30 mLをそれぞれの脱保護および洗浄段階に使用した。試薬はすべて保存し、高純度窒素ガス下で反応を行った。複数回のDCMおよびDMF洗浄段階を各反応段階の間に行った。Rinkアミド樹脂に結合させた最初のアミノ酸は、直交的に保護されたFmoc-Lys(Mtt)-OHであった。結合後、Mtt保護基をDCM中の1% TFAで選択的に除去した。ドデカン酸2.0当量をDMF/DCMの50/50混合物中に溶解し、DMF中のHBTU 1.9当量およびDIEA 3.0当量と混合することを除いて、上記の通りに、両親媒性ペプチドの脂肪酸親油性成分をLysのεアミンに結合させた。この結合を3回繰り返した後、産物をニンヒドリン反応(「カイザー試験」としても知られる)によって遊離のアミンに関して調べ、必要であれば遊離のアミンに関する陰性結果を得るためにこの反応を繰り返した。脂肪酸を付着させた後、残りのペプチド配列をC末端からN末端へ進行させながら記載通りに合成した。分子のペプチド部分を記載通りに合成した後、ペプチドのN末端を脱保護し、遊離アミンとした。
1.3 樹脂の切断:
ペプチドが負荷された樹脂を200 mLガラスシェーカー容器に移し、樹脂からの切断および脱保護を、95.0:2.5:2.5比のTFA:TIS:水の混合物約50 mLを用いて3時間行った。次に両親媒性ペプチド溶液を丸底フラスコにデカントし、-78℃(ドライアイス/イソプロパノール)の収集装置および最終圧力約20 mトールを用いて、溶液を40℃に加熱しながらTFAをロータリーエバポレーションによって除去した。完全に乾固する前にロータリーエバポレーションを停止し、残っている粘性のペプチド溶液(典型的に<1 mL)を冷(-20℃)ジエチルエーテル約200 mLで倍散した。溶液を確実によく混合するように撹拌した後、-20℃まで一晩再度冷却して、完全に沈殿させた。得られた沈殿した両親媒性ペプチドを中間のフリットガラス漏斗に収集し、冷エーテル(約200 mL)で3回洗浄し、真空下(<20 in.Hg)で乾燥させた。
ペプチドが負荷された樹脂を200 mLガラスシェーカー容器に移し、樹脂からの切断および脱保護を、95.0:2.5:2.5比のTFA:TIS:水の混合物約50 mLを用いて3時間行った。次に両親媒性ペプチド溶液を丸底フラスコにデカントし、-78℃(ドライアイス/イソプロパノール)の収集装置および最終圧力約20 mトールを用いて、溶液を40℃に加熱しながらTFAをロータリーエバポレーションによって除去した。完全に乾固する前にロータリーエバポレーションを停止し、残っている粘性のペプチド溶液(典型的に<1 mL)を冷(-20℃)ジエチルエーテル約200 mLで倍散した。溶液を確実によく混合するように撹拌した後、-20℃まで一晩再度冷却して、完全に沈殿させた。得られた沈殿した両親媒性ペプチドを中間のフリットガラス漏斗に収集し、冷エーテル(約200 mL)で3回洗浄し、真空下(<20 in.Hg)で乾燥させた。
1.4 精製:
両親媒性ペプチドを十分な水酸化アンモニウムと共に水溶液中に20 mg/mLで溶解して、pH 9を得た。この溶液を、Phenomenex, Inc. Gemini(登録商標) 5μm C18カラム(100×30 mm)を備えたAgilent, Inc.モデル1100分取HPLCを用いて、5 mL分割量で精製した。水とアセトニトリル(それぞれ、0.1容積%水酸化アンモニウム緩衝液を含む)の溶出勾配を使用した。流速は15 mL/分であり、移動相は、Timberline Instruments TL-105カラムヒーターを用いて約45℃まで予め加熱した。UV吸収を波長220 nmでモニターして、一次ピークの溶出液を収集した。
両親媒性ペプチドを十分な水酸化アンモニウムと共に水溶液中に20 mg/mLで溶解して、pH 9を得た。この溶液を、Phenomenex, Inc. Gemini(登録商標) 5μm C18カラム(100×30 mm)を備えたAgilent, Inc.モデル1100分取HPLCを用いて、5 mL分割量で精製した。水とアセトニトリル(それぞれ、0.1容積%水酸化アンモニウム緩衝液を含む)の溶出勾配を使用した。流速は15 mL/分であり、移動相は、Timberline Instruments TL-105カラムヒーターを用いて約45℃まで予め加熱した。UV吸収を波長220 nmでモニターして、一次ピークの溶出液を収集した。
1.5 凍結乾燥:
分取HPLC後の水およびアセトニトリルを除去するため、両親媒性ペプチド溶液をガラス凍結乾燥フラスコに移し、-78℃のドライアイス/イソプロパノール浴においてシェルを凍結させ、収集装置の温度-80℃および圧力<0.100 mバールで作動する凍結乾燥器において少なくとも48時間凍結乾燥した。精製された両親媒性ペプチドの典型的な収率は理論的収率の60〜75%であり、典型的には1 mモル反応規模で約1.0〜1.5 gの材料が得られ、ペプチド純度はおよそ90%であった。
分取HPLC後の水およびアセトニトリルを除去するため、両親媒性ペプチド溶液をガラス凍結乾燥フラスコに移し、-78℃のドライアイス/イソプロパノール浴においてシェルを凍結させ、収集装置の温度-80℃および圧力<0.100 mバールで作動する凍結乾燥器において少なくとも48時間凍結乾燥した。精製された両親媒性ペプチドの典型的な収率は理論的収率の60〜75%であり、典型的には1 mモル反応規模で約1.0〜1.5 gの材料が得られ、ペプチド純度はおよそ90%であった。
1.6 pHの調節
凍結乾燥した両親媒性ペプチド粉末を秤量し、USP薬学等級の水に10 mg/mLの濃度で再度溶解した。USP薬学等級のNaOHおよび水から調製された1 M水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を、滅菌0.2ミクロンPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。少量のNaOH溶液を添加することにより、懸濁液のpHをpH 7.0〜8.0の範囲になるように調節して、ペプチドを溶液に容易に溶解させた。
凍結乾燥した両親媒性ペプチド粉末を秤量し、USP薬学等級の水に10 mg/mLの濃度で再度溶解した。USP薬学等級のNaOHおよび水から調製された1 M水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を、滅菌0.2ミクロンPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。少量のNaOH溶液を添加することにより、懸濁液のpHをpH 7.0〜8.0の範囲になるように調節して、ペプチドを溶液に容易に溶解させた。
実施例2:
フィラー両親媒性ペプチドC16H31O-VVVAAAEEE(SEQ. ID NO:8)の合成
フィラーPAは、予め負荷されたグルタミン酸Wang樹脂を使用したことを除いて、上記の通りに自動固相ペプチド合成により合成した。さらなるアミノ酸を、C末端からN末端へ進行させながら記載通りに結合させた。N末端のバリンの結合後、ペプチドをパルミトイル部分でキャップしたが、これはドデカン酸をパルミチン酸で置換することにより、実施例1.2に記載した通りに達成された。樹脂からのペプチドの切断、HPLC精製、無菌濾過、および凍結乾燥を、実施例1.3〜1.6に記載した通りに実施した。
フィラー両親媒性ペプチドC16H31O-VVVAAAEEE(SEQ. ID NO:8)の合成
フィラーPAは、予め負荷されたグルタミン酸Wang樹脂を使用したことを除いて、上記の通りに自動固相ペプチド合成により合成した。さらなるアミノ酸を、C末端からN末端へ進行させながら記載通りに結合させた。N末端のバリンの結合後、ペプチドをパルミトイル部分でキャップしたが、これはドデカン酸をパルミチン酸で置換することにより、実施例1.2に記載した通りに達成された。樹脂からのペプチドの切断、HPLC精製、無菌濾過、および凍結乾燥を、実施例1.3〜1.6に記載した通りに実施した。
実施例3:
両親媒性ペプチドの化学的特徴づけ
以下に記載するように、質量分析(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、およびアミノ酸解析(AAA)を用いて、両親媒性ペプチドを同一性および純度に関して特徴づけた。
両親媒性ペプチドの化学的特徴づけ
以下に記載するように、質量分析(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、およびアミノ酸解析(AAA)を用いて、両親媒性ペプチドを同一性および純度に関して特徴づけた。
3.1 質量分析
SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:8の同一性を、CHCAマトリックスを備えた、陽イオンモードで作動するVoyager DE-Pro装置を用いて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)により確認した。1 μLの1 mg/mL溶液をMALDIプレート上にスポットした。質量スペクトルを図2に示す。
SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:8の同一性を、CHCAマトリックスを備えた、陽イオンモードで作動するVoyager DE-Pro装置を用いて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)により確認した。1 μLの1 mg/mL溶液をMALDIプレート上にスポットした。質量スペクトルを図2に示す。
3.2 分析HPLC
分析逆相HPLCを実施して、合成された分子のペプチド純度を測定した。60℃まで加熱したPhenomenex Inc. Gemini 5um 110A逆相C18カラム(150×4.6 mm)を備えたAgilent 1100分取HPLCシステムを用いて、HPLCを行った。(A) 2% v/v CH3CN;0.10% v/v NH4OH;20 mM NH4HCO2を含むH2O、および(B) 2% v/v H2O;0.07% v/v NH4OHを含むCH3CNの二成分の移動相を用いて、勾配溶出を実施した。勾配は、流速1.25 mL/分で30分間に10〜100% Bで実行した。両親媒性ペプチドPAの1 mg/mL水溶液50 μLを注入した後、UV吸収を波長220 nmでモニターした。このような溶出条件下で、SEQ ID NO:4は保持時間11.34分を示し、SEQ ID NO:8は保持時間16.88分を示した。両化合物のペプチド純度は、主要溶出ピークの曲線下の積分面積に基づいて判定して、およそ90%であった。双方の両親媒性ペプチドのクロマトグラフを図3に示す。
分析逆相HPLCを実施して、合成された分子のペプチド純度を測定した。60℃まで加熱したPhenomenex Inc. Gemini 5um 110A逆相C18カラム(150×4.6 mm)を備えたAgilent 1100分取HPLCシステムを用いて、HPLCを行った。(A) 2% v/v CH3CN;0.10% v/v NH4OH;20 mM NH4HCO2を含むH2O、および(B) 2% v/v H2O;0.07% v/v NH4OHを含むCH3CNの二成分の移動相を用いて、勾配溶出を実施した。勾配は、流速1.25 mL/分で30分間に10〜100% Bで実行した。両親媒性ペプチドPAの1 mg/mL水溶液50 μLを注入した後、UV吸収を波長220 nmでモニターした。このような溶出条件下で、SEQ ID NO:4は保持時間11.34分を示し、SEQ ID NO:8は保持時間16.88分を示した。両化合物のペプチド純度は、主要溶出ピークの曲線下の積分面積に基づいて判定して、およそ90%であった。双方の両親媒性ペプチドのクロマトグラフを図3に示す。
3.3 アミノ酸解析
アミノ酸解析により、ペプチド含量およびアミノ酸組成を測定した。各両親媒性ペプチドの分割量を、110℃の気相6 N HCl中で65時間加水分解した。加水分解後、該分割量を乾燥させ、ホウ酸ローディング緩衝液中に再度溶解し、クロマトグラフィー解析に供して、比較のためにウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質標準物質を用いて、存在する各アミノ酸のピコモルを測定した。
アミノ酸解析により、ペプチド含量およびアミノ酸組成を測定した。各両親媒性ペプチドの分割量を、110℃の気相6 N HCl中で65時間加水分解した。加水分解後、該分割量を乾燥させ、ホウ酸ローディング緩衝液中に再度溶解し、クロマトグラフィー解析に供して、比較のためにウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質標準物質を用いて、存在する各アミノ酸のピコモルを測定した。
SEQ ID NO:4のペプチド含量は重量で77%であると判明し、そのアミノ酸組成を表1に示す。結果は、使用した装置の分解能の範囲内で、予測される配列と一致した。
SEQ ID NO:8のペプチド含量は重量で73%であると判明し、そのアミノ酸組成を表2に記載する。結果は、使用した装置の分解能の範囲内で、予測される配列と一致した。
実施例4.
軟骨再生を増強するための微小骨折術に対する補助剤としての両親媒性ペプチドのインビボでの特徴づけ
4.1 ウサギモデルにおける関節軟骨欠損の作製
動物試験は、ノースウェスタン大学(Chicago, IL)において、大学の動物実験委員会(ACUC)によって承認されたプロトコールに従って実施した。雄のニュージーランドホワイトウサギ(体重3〜3.5 kg) 10匹を、30〜40 mg/kgのケタミンおよび5〜7 mg/kgのキシラジンの筋肉注射によって麻酔した。動物が処置の間中の鎮静および全身麻酔へと誘導されるまで、イソフルラン(1〜3%)および酸素をフェイスマスクにより供給した。ノースウェスタン大学の比較医学センター(CCM、Chicago, IL)の獣医により、生命維持モニタリングを管理した。滅菌の無菌的技法下で、20度屈曲した膝の正中線を2-cm切開し、続いて内側傍膝蓋骨関節包切開術を行い、膝蓋骨を側方に移動させて滑車の関節面を露出させた。鋭匙を用いて、滑車内に直径2-mmの2つの全層軟骨欠損を作製した(近位-内側および遠位-外側)。図4aに示すように、微小鋭匙を用いて、石灰化軟骨層を含む関節軟骨を完全に除去し、軟骨下骨を露出させた。軟骨下骨を破壊しないように注意を払い、周囲の無傷の軟骨との移行帯において鋭端を作製した。微細な目打ちを用いて、等間隔で離れており、かつ軟骨下骨の2-mmの深さの孔を3個作製することにより、欠損内で微小骨折術を実施した。骨髄血が各微小骨折孔から出てくるのが認められ、軟骨欠損への浸潤が可能となり(図4bを参照されたい)、次にこの軟骨欠損を、外因性組換えTGF-β1を添加するかまたは添加しないTGF結合両親媒性ペプチドゲルまたは対照ゲルの適用により、実施例4.2に記載するように処置した。
軟骨再生を増強するための微小骨折術に対する補助剤としての両親媒性ペプチドのインビボでの特徴づけ
4.1 ウサギモデルにおける関節軟骨欠損の作製
動物試験は、ノースウェスタン大学(Chicago, IL)において、大学の動物実験委員会(ACUC)によって承認されたプロトコールに従って実施した。雄のニュージーランドホワイトウサギ(体重3〜3.5 kg) 10匹を、30〜40 mg/kgのケタミンおよび5〜7 mg/kgのキシラジンの筋肉注射によって麻酔した。動物が処置の間中の鎮静および全身麻酔へと誘導されるまで、イソフルラン(1〜3%)および酸素をフェイスマスクにより供給した。ノースウェスタン大学の比較医学センター(CCM、Chicago, IL)の獣医により、生命維持モニタリングを管理した。滅菌の無菌的技法下で、20度屈曲した膝の正中線を2-cm切開し、続いて内側傍膝蓋骨関節包切開術を行い、膝蓋骨を側方に移動させて滑車の関節面を露出させた。鋭匙を用いて、滑車内に直径2-mmの2つの全層軟骨欠損を作製した(近位-内側および遠位-外側)。図4aに示すように、微小鋭匙を用いて、石灰化軟骨層を含む関節軟骨を完全に除去し、軟骨下骨を露出させた。軟骨下骨を破壊しないように注意を払い、周囲の無傷の軟骨との移行帯において鋭端を作製した。微細な目打ちを用いて、等間隔で離れており、かつ軟骨下骨の2-mmの深さの孔を3個作製することにより、欠損内で微小骨折術を実施した。骨髄血が各微小骨折孔から出てくるのが認められ、軟骨欠損への浸潤が可能となり(図4bを参照されたい)、次にこの軟骨欠損を、外因性組換えTGF-β1を添加するかまたは添加しないTGF結合両親媒性ペプチドゲルまたは対照ゲルの適用により、実施例4.2に記載するように処置した。
手術後に、各ウサギに筋肉内(IM)抗生物質(Baytril 72時間持続)およびIM鎮痛剤(Buprenex 24時間持続)を投与した。ウサギの全体的な健康状態および回復に加えて、局所的または全身的な感染の徴候を記録した。体重を支える能力およびケージ内での運動性についてもウサギを評価した。手術後12週間の時点で、両側開胸術の二次手段と共にペントバルビタールの静脈内注射により、ウサギを安楽死させた。その後、遠位大腿骨を回収し、組織学的解析のために処理した。
4.2 軟骨欠損への両親媒性ペプチドの適用
各膝において2つの全層欠損を作製し、ウサギ1匹につき4つの欠損をもたらした(すなわち、試験したウサギ10匹について合計40の欠損)。ウサギの膝を4群に分割し、各膝における両方の欠損には同じ処置を施し、反対側の膝を任意の全身的作用を説明するための対照とした。全量10マイクロリットル(μL)の試験溶液を、滅菌の使い捨てプラスチックチップを用いてマイクロピペットにより、各軟骨欠損に直接投与した。各群に施した処置を以下に要約する:
1群:1 ngのrhTGF-β1を含むPBS 10 μL
2群:1 ngのrhTGF-β1および0.10 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL
+0.5 M CaCl2 2 μL
3群:1 ngのrhTGF-β1、0.0175 mgのTGF結合PA、および0.0825 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL
+0.5 M CaCl2 2 μL
4群:0.0175 mgのTGF結合PAおよび0.0825 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL(rhTGF-β1なし)
+0.5 M CaCl2 2 μL
各膝において2つの全層欠損を作製し、ウサギ1匹につき4つの欠損をもたらした(すなわち、試験したウサギ10匹について合計40の欠損)。ウサギの膝を4群に分割し、各膝における両方の欠損には同じ処置を施し、反対側の膝を任意の全身的作用を説明するための対照とした。全量10マイクロリットル(μL)の試験溶液を、滅菌の使い捨てプラスチックチップを用いてマイクロピペットにより、各軟骨欠損に直接投与した。各群に施した処置を以下に要約する:
1群:1 ngのrhTGF-β1を含むPBS 10 μL
2群:1 ngのrhTGF-β1および0.10 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL
+0.5 M CaCl2 2 μL
3群:1 ngのrhTGF-β1、0.0175 mgのTGF結合PA、および0.0825 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL
+0.5 M CaCl2 2 μL
4群:0.0175 mgのTGF結合PAおよび0.0825 mgのフィラーPAを含むPBS 8 μL(rhTGF-β1なし)
+0.5 M CaCl2 2 μL
欠損部位においてインサイチューで両親媒性ペプチド溶液のゲル化を誘導するために、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の12.5 mg/mL PA溶液 8 μLを投与した後、0.5 M CaCl2(水中) 2 μLを直ちに投与し、最終濃度10 mg/mLの両親媒性ペプチドおよび100 mM CaCl2をもたらした。1群、2群、および3群に関しては、100 nm/mLの濃度で組換えヒトTGF-β1(rhTGF-β1、Peprotech Inc.)をPA溶液中に含め、処置用量10 μLにおいて欠損当たり全用量1 ngをもたらした。TGF結合両親媒性ペプチド(SEQ ID NO:4)を投与する動物に関しては、この分子を10 mol%でフィラー両親媒性ペプチド(SEQ ID NO:8)と混合した(1:9モル比)。各欠損に、フィラーPA単独(2群)またはフィラーPA+TGF結合PA(3群および4群)のいずれかで、両親媒性ペプチド合計0.1 mg(10 μL用量中10 mg/mL)を投与した。
4.3 ウサギの関節の組織学的解析
12週目に動物を屠殺し、組織を回収した後、抽出された大腿骨標本を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、24時間かけて脱灰し、組織をパラフィン包埋用に処理した。欠損の中心横断面(欠損端から1 mm)から4-μm厚の切片を採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、サフラニン-O/ファストグリーンで組織化学的に染色し、またII型コラーゲンを免疫組織化学的に染色した。軟骨修復の組織学的等級づけを、O'Driscollらによる24点尺度を用いて、3名の独立した盲検観察者によって行った。45
12週目に動物を屠殺し、組織を回収した後、抽出された大腿骨標本を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、24時間かけて脱灰し、組織をパラフィン包埋用に処理した。欠損の中心横断面(欠損端から1 mm)から4-μm厚の切片を採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、サフラニン-O/ファストグリーンで組織化学的に染色し、またII型コラーゲンを免疫組織化学的に染色した。軟骨修復の組織学的等級づけを、O'Driscollらによる24点尺度を用いて、3名の独立した盲検観察者によって行った。45
4.4 統計解析および標本サイズの決定
標本サイズの決定は、類似の組織学的および視覚的等級づけ基準を伴う、類似の対照および実験群を利用する関連のあるインビボ軟骨再生研究の事前の検定力分析に基づいた。実験群当たりの最小標本サイズは、以下のパラメーターを用いて決定した:α<0.05(CI≧95%);1-β≧0.8。規定された最小限許容される第2種の過誤のために、群につき最小標本サイズ5(欠損)が必要であった。
標本サイズの決定は、類似の組織学的および視覚的等級づけ基準を伴う、類似の対照および実験群を利用する関連のあるインビボ軟骨再生研究の事前の検定力分析に基づいた。実験群当たりの最小標本サイズは、以下のパラメーターを用いて決定した:α<0.05(CI≧95%);1-β≧0.8。規定された最小限許容される第2種の過誤のために、群につき最小標本サイズ5(欠損)が必要であった。
最小有意差(LSD)ポストホック検定(p<0.05)を伴う一元配置分散分析(ANOVA、F<0.05)検定を用いて、処置群間の差の有意性を評価した。群間の2つまたはそれ以上の変量(増殖因子、PA型)を検定する多変量ANOVA検定も実施した(p<0.05)。欠損はそれぞれ独立した標本と見なした。この標本抽出方法は、関節内の位置に基づいた各欠損内の組織型の相関性に関する以前の研究によって支持される。46
4.5 動物の観察および肉眼所見
肉眼で検査したところ、屠殺前の鎮静状態において、各ウサギは膝の全可動域を有した。1匹のウサギの一方の膝の膝蓋骨が脱臼していることが確認されたが、これは屠殺日まで認識されなかった。この膝は解析に含めなかった。どのウサギも試験の終了点まで生存した。いずれの群のウサギも、肉眼で見て明らかな関節の変性も滑膜肥大も発症しなかった。
肉眼で検査したところ、屠殺前の鎮静状態において、各ウサギは膝の全可動域を有した。1匹のウサギの一方の膝の膝蓋骨が脱臼していることが確認されたが、これは屠殺日まで認識されなかった。この膝は解析に含めなかった。どのウサギも試験の終了点まで生存した。いずれの群のウサギも、肉眼で見て明らかな関節の変性も滑膜肥大も発症しなかった。
修復組織の組織充填または外観に関して、1群と2群(単独であるかまたはフィラーPAを伴うrhTGF-β1)との間では、12週の時点で明白な肉眼での差は認められなかった。しかしながら、外因性rhTGF-β1と共にまたはこれなしでTGF結合PAを投与した動物(3群および4群)では、観察可能な改善が認められた。図5に示すように、これらの群は、ヒアリン様組織を有するより優れた欠損充填、および周囲の組織とのより優れた統合を示す欠損境界の出現の軽減を示した。
4.6 軟骨再生の組織学的評価
組織切片の定性的評価により、対照(1群および2群)と比較して、TGF結合PAで処置した動物(3群および4群)における組織形態の明らかな改善が示された。外因性増殖因子(rhTGF-β1)を添加するかまたは添加しない、フィラーPAとTGF結合PAの9:1混合物で処置した欠損において、より多くの組織充填、サフラニン-O染色、およびII型コラーゲン染色が認められた(図6および7を参照されたい)。3群および4群における欠損の大部分は、欠損領域がほぼ完全に充填され、ヒアリン様軟骨の組織と酷似している組織を含んでいた。いくつかの例は、欠損の境界は、周囲の軟骨と形態が極めて類似しているため、同定することさえできなかった。1群および2群における欠損の大部分は、欠損内の組織形成の痕跡を示し、欠損領域が完全に充填されたものはほとんどなく、またサフラニン-O染色およびII型コラーゲン染色は、修復組織全体を通して典型的に均一ではないか、または存在しなかった。
組織切片の定性的評価により、対照(1群および2群)と比較して、TGF結合PAで処置した動物(3群および4群)における組織形態の明らかな改善が示された。外因性増殖因子(rhTGF-β1)を添加するかまたは添加しない、フィラーPAとTGF結合PAの9:1混合物で処置した欠損において、より多くの組織充填、サフラニン-O染色、およびII型コラーゲン染色が認められた(図6および7を参照されたい)。3群および4群における欠損の大部分は、欠損領域がほぼ完全に充填され、ヒアリン様軟骨の組織と酷似している組織を含んでいた。いくつかの例は、欠損の境界は、周囲の軟骨と形態が極めて類似しているため、同定することさえできなかった。1群および2群における欠損の大部分は、欠損内の組織形成の痕跡を示し、欠損領域が完全に充填されたものはほとんどなく、またサフラニン-O染色およびII型コラーゲン染色は、修復組織全体を通して典型的に均一ではないか、または存在しなかった。
処置盲検観察者によって、十分に確立されたO'Driscollスコア化法45に基づく半定量的組織学的評価を実施した。表3に、各処置群について結果を要約する。この方法では、組織の性質、構造、細胞密度、および隣接組織の状態を評価し、各スコアの割り当てを決定する規定の基準で等級づけした。各カテゴリー内のスコアは一般的に0(重度に障害された組織)〜3(正常組織)の範囲であるが、いくつかのカテゴリーは0〜2または0〜4にスコア化される(表3を参照されたい)。評価により、1群と2群の間では有意差は明らかにされず、O'Driscollスコアはそれぞれ15.5±4.7および15.1±3.7であった。これらの値は、ウサギモデルにおいて微小骨折処置のみを調べた文献の結果と一致する。47 このデータから、本発明者らは、それ単独、またはフィラーPAと併用した1ナノグラム用量のrhTGF-β1は、この動物モデルにおいて軟骨再生に有益な(または有害な)効果を及ぼさないようであると結合づける。
対照的に、TGF結合両親媒性ペプチド(PA)を投与した両群は、増殖因子のみ(1群)またはフィラーPA+増殖因子(2群)を投与した群よりも有意に高いO'Driscoll組織学的スコアを有した。最大可能スコア24(正常で、健常で、かつ十分に統合されたヒアリン様軟骨を示す)のうち、TGF結合PA+フィラーPAを投与した4群は組織学的スコア21.9±1.2を有し、PAの同様の混合物+rhTGF-β1を投与した3群は組織学的スコア20.8±2.1を有した。データの単変量解析から、組織学的スコア化に及ぼす処置の有意な効果が示された(p<0.0001)。ポストホック検定により、1群対3群(p<0.0001)または4群(p<0.001)、および2群対3群(p<0.0001)または4群(p<0.0006)の有意差が明らかになった。3群と4群の間に有意差は認められなかった(図8を参照されたい)。
4.6.1 厚さ
1群(rhTGF-β1)における欠損9例のうち1例は、周囲の軟骨と比較して<50%の厚さを有した。残りの欠損8例は、周囲の正常軟骨と比較して>50%であるが<100%の充填を有した。2群(フィラーPA+rhTGF-β1)においても同様に、欠損8例のうち1例は周囲の軟骨と比較して<50%の厚さを有し、残りの欠損7例は50%〜100%の厚さを有した。対照的に、3群(TGF結合PA+フィラーPA+rhTGF-β1)における欠損はすべて、正常な隣接軟骨に対して100%の厚さで充填された組織を含み、4群(TGF結合PA+フィラーPA)における欠損10例のうち7例も同様に、完全に充填されていた。
1群(rhTGF-β1)における欠損9例のうち1例は、周囲の軟骨と比較して<50%の厚さを有した。残りの欠損8例は、周囲の正常軟骨と比較して>50%であるが<100%の充填を有した。2群(フィラーPA+rhTGF-β1)においても同様に、欠損8例のうち1例は周囲の軟骨と比較して<50%の厚さを有し、残りの欠損7例は50%〜100%の厚さを有した。対照的に、3群(TGF結合PA+フィラーPA+rhTGF-β1)における欠損はすべて、正常な隣接軟骨に対して100%の厚さで充填された組織を含み、4群(TGF結合PA+フィラーPA)における欠損10例のうち7例も同様に、完全に充填されていた。
4.6.2 隣接軟骨に対する結合性
1群では、欠損9例のうち3例のみが隣接軟骨に完全に結合した再生組織を示し、2群においても同様に、8例のうち2例のみが完全に結合しており、残りの欠損は部分的に結合しているか、または全く結合していなかった。対照的に、3群では欠損のすべて、および4群では欠損10例のうち9例が、隣接軟骨に完全に結合していた。
1群では、欠損9例のうち3例のみが隣接軟骨に完全に結合した再生組織を示し、2群においても同様に、8例のうち2例のみが完全に結合しており、残りの欠損は部分的に結合しているか、または全く結合していなかった。対照的に、3群では欠損のすべて、および4群では欠損10例のうち9例が、隣接軟骨に完全に結合していた。
4.6.3 低細胞性
1群では欠損9例のうち2例のみ(および2群では8例のうち2例)が、再生組織において正常な細胞充実性を有し、残りは軽微から重度の低細胞性を示した。対照的に、3群では欠損のすべて(および4群では10例のうち8例)が、正常な細胞充実性を示した。
1群では欠損9例のうち2例のみ(および2群では8例のうち2例)が、再生組織において正常な細胞充実性を有し、残りは軽微から重度の低細胞性を示した。対照的に、3群では欠損のすべて(および4群では10例のうち8例)が、正常な細胞充実性を示した。
4.6.4 軟骨細胞のクラスター化
1群では、欠損9例のうち7例が軽度の軟骨細胞クラスター化を有した。2群では、欠損8例のうち1例が中等度のクラスター化を有したが、大部分は軟骨細胞のクラスター化は最小〜なしであった。3群では軟骨細胞のクラスター化は観察されず、4群では欠損10例のうち3例のみが最小のクラスター化を有した。
1群では、欠損9例のうち7例が軽度の軟骨細胞クラスター化を有した。2群では、欠損8例のうち1例が中等度のクラスター化を有したが、大部分は軟骨細胞のクラスター化は最小〜なしであった。3群では軟骨細胞のクラスター化は観察されず、4群では欠損10例のうち3例のみが最小のクラスター化を有した。
4.6.5 隣接軟骨における変性変化の非存在
すべての処置群において、隣接軟骨における変性変化はほとんど〜全く観察されず、群当たり欠損1または2例においてのみ軽微な変化が観察された。
すべての処置群において、隣接軟骨における変性変化はほとんど〜全く観察されず、群当たり欠損1または2例においてのみ軽微な変化が観察された。
産業上の利用可能性
関節の関節面(膝、腰、肩、肘、および足首を含む)における全層軟骨病変は、ヒト患者において疼痛、機能障害、機械的症状、腫脹、隣接軟骨の変性、および変形性関節症を引き起こす。軟骨損傷は、職場復帰する能力、運動競技活動、および日常生活の活動に影響を及ぼす。現在の治療選択肢には、関節鏡下での微小骨折術、開放性骨軟骨同種移植(OATS)、および開放性2段階自己軟骨細胞移植(ACI)が含まれる。最近のメタ解析から、以前の機能および活動への回復の点で、いずれの治療選択肢も一貫して優れた結果を有さないことが示された。38 加えて、組織学的解析から、これらの治療選択肢には、インサイチューでの自己治癒の促進、関節弾性の維持、および軟骨の集団的保持にとって重要な過程である、顕著な軟骨細胞生存度またはII型コラーゲン産生を保持する顕著な長期的能力がないことが示された。37
関節の関節面(膝、腰、肩、肘、および足首を含む)における全層軟骨病変は、ヒト患者において疼痛、機能障害、機械的症状、腫脹、隣接軟骨の変性、および変形性関節症を引き起こす。軟骨損傷は、職場復帰する能力、運動競技活動、および日常生活の活動に影響を及ぼす。現在の治療選択肢には、関節鏡下での微小骨折術、開放性骨軟骨同種移植(OATS)、および開放性2段階自己軟骨細胞移植(ACI)が含まれる。最近のメタ解析から、以前の機能および活動への回復の点で、いずれの治療選択肢も一貫して優れた結果を有さないことが示された。38 加えて、組織学的解析から、これらの治療選択肢には、インサイチューでの自己治癒の促進、関節弾性の維持、および軟骨の集団的保持にとって重要な過程である、顕著な軟骨細胞生存度またはII型コラーゲン産生を保持する顕著な長期的能力がないことが示された。37
本明細書に記載する新規組成物は、複数の臨床状況において用いることができる。軟骨損傷は、膝において最も頻繁に診断され得るが、脱臼、直接的な衝撃、靭帯の不安定性、剪断応力、スポーツ外傷、および仕事関連の機構を含むがこれらに限定されない外傷に起因して、人体のほとんどすべての関節で見られる。微小骨折術は、臨床成績スコアに基づいて、小さな(<4 mm)病変において短期的に良好に働くことが示されているが、一般的には線維軟骨が形成され、関節軟骨は形成されない。48 より大きな病変は典型的に、微小骨折術後に十分に機能しない。38
軟骨病変に対する現行治療法の前述の限界を考慮して、微小骨折術の補助剤として用いることができるTGF結合ゲル足場を開発した。この足場は、関節軟骨を産生および維持する生存軟骨細胞への間葉系幹細胞の分化(主にII型コラーゲン発現を含む)を促進することによって、より小さな軟骨病変の転帰を改善し得る。加えて、より大きな病変は、ゲル足場を任意の関節において微小骨折術の補助剤として使用した場合に、よりよく機能し得る。
この新規療法は、軟骨欠損の急性または慢性設定のいずれかにおいて、微小骨折術による軟骨回復/再生のための一次手技として用いることができる。加えて、これは、研磨関節形成術、微小骨折術、自己軟骨細胞移植、またはOATSが臨床的、関節鏡下、または組織学的改善を示すことができなかった場合に、これらの方法が失敗に終わった場合に修正手技として用いることもできる。
本明細書において言及した特許および出版物はすべて、全体として参照により組み入れられる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないと承認するものとして解釈されるべきではない。
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、前述の説明は本質的に例示的かつ説明的であり、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。日常的な実験を通して、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がその中でなされ得ることを容易に認識するであろう。例えば、様々な両親媒性ペプチドが特定のアミノ酸残基と併せて記載されているが、本明細書と共に他の残基を使用して、そこから調製されたナノ構造において特定の組織の成長および再生を促進することもできる。同様に、本発明は、生物医学または組織工学用途に適用可能であると記載されているが、他の利点および特徴が添付の特許請求の範囲から明らかになると考えられ、そのような特許請求の範囲の範囲は、当業者によって理解されるように、その妥当な同等物によって規定される。したがって、本発明は、上記の説明によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定されることが意図される。
Claims (42)
- 配列HSNGLPL(SEQ ID NO:1)、HSDGLPL(SEQ ID NO: 39)、またはHSD*GLPL(SEQ ID NO: 40)を含み、式中、D*がイソアスパラギン酸残基である、合成ペプチド。
- 以下のセグメントからなる両親媒性ペプチド:
(1) SEQ ID NO:21〜40の中より選択される増殖因子結合ペプチドセグメント、
(2) スペーサーセグメント、
(3) βシート形成構造ペプチドセグメント、および
(4) 非ペプチド親油性セグメント。 - スペーサーセグメントが形式(Gly)mXaa(Xbb)nのペプチドより選択され、式中、mおよびnは独立して0〜5の範囲の整数であり、Xaaは任意のアミノ酸であり、かつXbbは酸性側鎖を有するアミノ酸残基より選択されるアミノ酸残基である、請求項3記載の両親媒性ペプチド。
- Xaaがセリンであり、Xbbがグルタミン酸であり、mおよびn=3であり、したがってスペーサーペプチドセグメントがGGGSEEE(SEQ ID NO:5)である、請求項4記載の両親媒性ペプチド。
- 構造ペプチドセグメントが形式(XA)Na(XB)Nb(XC)Ncのペプチドより選択され、式中、XAおよびXBはA、L、V、およびGより選択され、XCは任意のアミノ酸であり、NaおよびNbは2、3、または4であり、かつNcは0〜3の範囲の整数である、請求項3記載の両親媒性ペプチド。
- 構造ペプチドセグメントがAAAVVVK(SEQ ID NO:10)である、請求項6記載の両親媒性ペプチド。
- 親油性セグメントが式:CnH2n-1O-の単一の飽和直鎖状アルキル鎖から構成され、式中、n=6〜22である、請求項3記載の両親媒性ペプチド。
- 親油性セグメントがC末端リジン残基のεアミンに共有結合している、請求項8記載の両親媒性ペプチド。
- 請求項3記載の化合物より選択される1つまたは複数の両親媒性ペプチドを含む組成物。
- 1つまたは複数のフィラー両親媒性ペプチドと混合され、水性媒質中に分散された、請求項11記載の組成物。
- フィラー両親媒性ペプチドが形式CnH2n-1O-(Xxx)x-(Xyy)y-(Xzz)zの合成化合物であり、式中、XxxおよびXyyは非極性側鎖を有するアミノ酸であり、Xzzは酸性側鎖を有するアミノ酸であり、nは4〜20の範囲の整数であり、かつx、y、およびzは独立して2〜6の範囲の整数である、請求項12記載の組成物。
- Xxxがバリンであり、Xyyがアラニンであり、Xzzがグルタミン酸であり、かつn=16である、請求項13記載の組成物。
- 1 mol %〜20 mol %のペプチドが配列HSNGLPL(SEQ ID NO:1)を含むように選択されるモル比で、フィラー両親媒性ペプチドが請求項10記載の両親媒性ペプチドと混合されている、請求項15記載の組成物。
- 10 mol %のペプチドが配列HSNGLPL(SEQ ID NO.1)を含むようにモル比9:1で、フィラー両親媒性ペプチドが請求項10記載の両親媒性ペプチドと混合されている、請求項15記載の組成物。
- 両親媒性ペプチド組成物が、1つまたは複数のトランスフォーミング増殖因子(TGF)スーパーファミリーの組換えヒトタンパク質をさらに含む、請求項11記載の組成物。
- 組換えタンパク質がrhTGF-β1である、請求項11記載の組成物。
- 請求項11記載の組成物を該患者に投与する段階を含む、関節軟骨の欠損または病変の治療を必要とする患者においてそのように治療する方法。
- 患者において関節の関節面の病変を創傷清拭した後に、損傷または欠損した軟骨を修復、回復、または再生することを目的とした整形外科的外科手技に対する補助剤として組成物を投与する、請求項19記載の方法。
- 外科手技が微小骨折術であり、組成物が、微小骨折手技中に骨軟骨または骨髄から放出された自己の血液および細胞とゲル塊を形成する、請求項20記載の方法。
- 外科手技が開放性2段階自己軟骨細胞移植(ACI)であり、組成物が自己軟骨細胞と組み合わされて、病変部位において細胞を含むゲル足場を形成する、請求項20記載の方法。
- 外科手技が開放性骨軟骨同種移植(OATS)であり、組成物が病変部位においてゲルを形成する、請求項20記載の方法。
- 組成物を関節鏡下で投与する、請求項20記載の方法。
- 患者がヒトである、請求項20記載の方法。
- 患者が動物である、請求項20記載の方法。
- 患者がウマ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、またはウシである、請求項20記載の方法。
- 請求項11記載の組成物を、それを必要とする患者に投与する段階を含む、変形性関節症などの変性状態に起因して形成された関節軟骨欠乏の領域において軟骨を再生する方法。
- 請求項11記載の両親媒性ペプチドを含む組成物を、それを必要とする患者に投与する段階を含む、関節軟骨欠乏の領域に外因性組換えヒトTGF-β1(rhTGF-β1)を送達する方法。
- 請求項11記載の組成物を、それを必要とする患者に投与する段階を含む、関節軟骨欠乏の領域において、細胞によって放出された内因性TGF-β1を濃縮および保護する方法。
- 投与段階が微小骨折手技中に行われる、請求項31記載の方法。
- 投与段階がACI手技中に行われる、請求項31記載の方法。
- 関節軟骨の欠損または病変の治療を必要とする患者におけるそのような治療のための請求項3記載の組成物の使用であって、患者において関節の関節面の病変を創傷清拭した後に、損傷または欠損した軟骨を修復、回復、もしくは再生することを目的とした整形外科的外科手技に対する補助剤として該組成物を投与する、前記使用。
- 請求項3記載の両親媒性ペプチド組成物と、該両親媒性ペプチドを溶解し、その後その自己組織化を誘導するために用いられる1つまたは複数の水性成分を混合することにより、インビトロでゲルを作製する方法であって、溶液のpH、または該水性成分中の多価イオン、荷電ポリマー、もしくは他の荷電高分子の濃度を変更する成分の使用を含む、前記方法。
- 水性成分が細胞を含む、請求項35記載の方法。
- 細胞がヒト患者に由来する血液、骨髄穿刺液、または他の自己組織から採取され、ゲルを軟骨欠損に挿入するか、あるいは該患者の関節面に適用する、請求項36記載の方法。
- 請求項3記載の両親媒性ペプチド組成物によって形成された自己組織化したミセルでコーティングされた基材。
- 請求項3記載の両親媒性ペプチド組成物、自己組織化またはゲル形成を誘導するのに十分な該両親媒性ペプチドを溶解するために用いられる1つまたは複数の水性成分を含む、患者に投与するための自己組織化したミセルのインビトロ形成のためのキットであって、該自己組織化が溶液のpHの変化、または該成分中の多価イオン、荷電ポリマー、もしくは他の荷電高分子の存在によって生じる、前記キット。
- 患者において、該患者に投与するための製剤に組み込むための細胞を取り出すのに適した成分を任意に含む、請求項39記載のキット。
- 請求項3記載の両親媒性ペプチド組成物を含む、それを必要とする患者において円筒状ミセルがインビボ形成されるための注射製剤を作製するためのキット。
- 患者において、該患者に投与するための製剤に組み込むための細胞を取り出すのに適した成分を任意に含む、請求項41記載のキット。
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