本発明では、導体および誘電体界面上の見かけの電荷密度を直接の解として求める計算を用いている。具体的には、既知である電極電位を、解析対象となる空間に導体および誘電体の構造体モデルによる幾何学的配置と試料上の未知なる電荷密度を境界条件として、見かけの電荷密度に変換させる処理を行い、変換された見かけの電荷密度を用いて直接空間電界を決定している。そして、算出された電子軌道シミュレーション計算データを、計測された検出信号データと照合しながら、試料上の電荷密度を決定している。
表面電荷及び電位分布を決定するフローの例を図1に示す。図1において、ステップS1は構造体モデル設定、ステップS2は電極電位設定、ステップS3は表面電荷設定、ステップS4はみかけの電荷密度変換、ステップS5は空間電界計算、ステップS6は時間間隔設定、ステップS7はシミュレーション計算、ステップS8は実測データとの照合である。この照合が一致すればステップS9の表面電荷決定、ステップS10の表面電荷分布または表面電位算出と進んで終了する。ステップS7で不一致と判定されたら、ステップS11で表面電荷モデル修正に進み、再度ステップS4のみかけの電荷密度変換に戻る。各ステップは後で詳細に説明する。
また、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の幾何学的配置から決定される係数マトリクスを求め、電界電位係数マトリクスと導体の電位および誘電体界面上の電荷密度を境界条件として、n元連立1次方程式を解いてもよい。具体的には、以下の方法による。
まず、構造体モデルを設定する(図3、図4参照)。図2は信号を検出する計測装置の構成を示す。図2において、接地された板状の導体基板101の上面に絶縁体からなる板状の絶縁体102が、その上に導電板103が積層されて、試料の載置台が形成されている。導電板103には電圧Vsubが印加されるとともに資料である感光体110が載せられる。この感光体110に向かって上方から電子ビーム104が照射される。電子ビーム4の経路には対物レンズ105が配置され、感光体110に適切な横断面形状の電子ビームが照射されるように調整される。感光体110の上方近傍にはグリッドメッシュ106が配置されている。グリッドメッシュ106の斜め上方には、感光体110に向かって照射される電子ビーム4が感光体110で反発されて戻る電子を検知する検出器107が配置されている。
試料(感光体)の形状、膜厚、試料裏面の電極形状、また、試料近傍の導体および誘電体は、電子軌道への影響が特に大きい要因となる。そこで、これらを幾何学的に配置する(前記ステップS1)。また、必要に応じて、検出器の位置、電子ビーム光学系の構成や電子ビーム光学系を構成する各光学部品の特性などを考慮してもよい。誘電体は誘電率を設定し、導体への印加電圧を設定する。試料から離れた位置での構造物は電子軌道への影響が小さくなるので、簡略化あるいは省略してもよい。次のステップでは、実測で用いた試料背面の電極電位を設定する(前記ステップS2)。
次のステップでは、試料表面に電荷密度分布を設定する(前記ステップS3)。この初期に設定した表面電荷分布は、計測データと照合して変更するため、どのような値でもよい。なるべく予想される値に近い方が望ましい。実測値に近い方が、収束時間が短くなる。
次のステップでは、導体に与えた電極電位を試料境界面でのみかけの電荷密度に変換する(前記ステップS4)。ここでいう、「みかけの電荷密度」とは、導体に与えた電極電位と「同等の電磁場環境となる」構造体境界面に与えた電荷密度を指す。図5(a)のように、xyz空間での座標Rに電位が与えられた導体が存在するとき、空間の点R0での静電ポテンシャルφ(R0)は、式(1)で表すことができる。
式(1)
ここで、σ(R)は、導体面S上に分布する電荷密度である。
計算では、境界の領域を微小面積ΔSiに分割する(図5(b)参照)。微小面積内での電荷密度を近似的にσiとしてこれを一定とする。空間の点Rjでの静電ポテンシャルφ(Rj)は、式(2)で表すことができる。
式(2)
そうすることで、既知の電極電位とみかけの電荷密度の関係を、図6(a)で示す行列式で表すことができる。ここで、上記行列式の左辺のうちφ1〜φmが導体面上の既知電位であり、σrは最終的に計測すべき表面電荷密度である。σrは、照合前の電荷密度が入力されているため、左辺は既知である。右辺のσは、見かけ電荷密度であり、そのうちσ1〜σmが導体面上の見かけ電荷になる。
係数行列の要素である係数マトリックスFjiは、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の幾何学的配置から決定され、図6(b)、(c)に示す式を演算することで実現できる。ここで、
Rj:座標(xj,yj,zj)にある導体面または誘電体面上のサンプル点
δji:クロネッカーのデルタ
nj:要素jの法線ベクトル
ε0:真空誘電率
ε1:誘電体界面外側の誘電率
ε2:誘電体界面内側の誘電率
である。
従って、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の幾何学的配置からなる係数マトリクスFjiを決定し、係数マトリクスと導体の電位および誘電体界面上の電荷密度を境界条件として、行列式を連立1次方程式や逆行列演算を用いて解くことで、見かけの電荷密度を求めることが可能となる。このようにして、既知の電極電位φ1−φmをみかけの電荷σ1〜σmに変換することができる(図7参照)。この変換動作は、図1に示すステップS4に該当する。
次に、得られた見かけの電荷密度より空間電界を計算する(図1のステップS5)。空間の任意の点の電界は、電子軌道を計算する際に使用されるため、電子軌道の計算精度は、電界の計算精度に依存する。したがって、電界の計算精度が重要で、電界の計算精度が高いことが求められる。
本発明では、導体および誘電体界面上の見かけの電荷密度が決定されているので、空間の任意の点の電界は、それらの見かけの電荷密度を用いて導体および誘電体界面を面積分することで、電子の運動方程式を直接求めることができる。次の式(3)は、みかけの電荷σ1〜σnにより計算される空間の任意の点の電界を示す式である。
式(3)
得られた微小面積毎の見かけの電荷を面積分することで、空間電界Eを計算することができる。このようにして、高精度に電子軌道を計算する。
ところで、電界計算は時間を要する工程であり、表面電荷分布の計算時間の短縮や計算精度の向上のためには、電界計算に要する時間を短縮することが重要となる。
従来、電子軌道計算プログラムでは電子軌道の時間刻み幅を一定にして計算することが一般的であった。この場合、空間電界の変化の激しい場所に合わせて時間刻み幅を設定するため、時間間隔を短く設定することになり、計算に無駄が生じていた。計算時間を短縮するために、時間刻み幅を長くすると、計算精度が大幅に低下する。すなわち、計算時間と計算精度の両立が容易でなかった。時間間隔は、電場環境に応じて、適切に設定することが望ましい。
図8に示すように、特許文献11に記載されている方法では、見かけの電荷密度から荷電粒子の運動方程式を解く電子軌道計算として、起点をP0としたときに、時間間隔をΔtに設定して電子軌道を計算したときの起点P0からΔt後の座標P1と、時間間隔を1/2×Δtに設定して電子軌道を計算したときの座標P2を新たな起点としてもう一度時間間隔1/2×Δtで電子軌道を計算したときの起点P0からΔt後の座標P3との値の相対誤差を算出し、その判定結果をもとに時間間隔を空間電界変化の大きさに応じて適切に決定して、電子軌道を計算していた。
この方法は、確かに時間短縮に有効な手段であったが、電子軌道を1ステップ計算するにあたり、1回の時間間隔を設定するのに最低でも3回、時間間隔を変更する場合には、さらにその何倍も電子軌道を計算する必要があり、計算時間短縮に向けた改善の余地があった。
そこで、本実施例においては、電子の加速度の微分値が大きいところでは、時間間隔を小さくして計算することが望ましいという法則性を見出し、電子位置
における電子の加速度の微分値から時間間隔Δtを算出する算定式を考案した。なお、この動作は図1に示すステップS6に該当する。
式(4)
但し、
式(5)
なお、
電子の速度は、電子の加速度の微分値が電子の速度ε倍以下になるようにするとよい。εは重み係数であり、εが小さいと時間間隔が短くなり計算精度は向上するが、その分計算時間は長くなる。計算時間と計算精度の要求にもよるが、通常ε=5e−9以上5e−5以下が好ましい。
分子を電子速度に加速することにより、右辺の物理量の単位系を「時間」の単位とすることができる。
図9(a)に本発明の時間間隔設定フロー、図9(b)に従来の時間間隔設定フローを示す。
従来方法では、図9(b)に示すように、最低3回の電界計算を演算する工程と、誤差を判定する工程があった。具体的には、まず、時間間隔をΔtに設定し、1ステップだけで電子軌道を計算する。次に、同じ条件のもとで、時間間隔Δtを半分にして、2ステップで同様な計算を行う。そして、これら2つの結果より時間間隔Δtを動的に可変して計算する方法である。
この方法を詳しく説明すると、起点P0(Xi,Yi,Zi)の位置から次のステップ位置である(Xi+1,Yi+1,Zi+1)を計算するとき、時間間隔Δtで1ステップ目の計算で得られる座標P1(Xa,Ya,Za)(これを(a)計算と定義する)と、その時間間隔を半分にしたΔt/2で電子軌道を計算した時の座標P2を新たな起点とし、もう一度時間間隔1/2×Δtで、電子軌道を計算する2ステップ目の計算で得られる座標P3(Xb,Yb,Zb)((b)計算と定義する)とを比較し、その両者をそれぞれの座標の値を相対誤差P3−P1により評価する。もし、それらの誤差が設定された精度より小さいようなら、(Xb,Yb,Zb)を解(Xi+1,Yi+1,Zi+1)として採用する。そして、次のステップの計算からΔtの値を倍にして再び(a)計算および(b)計算を実行する。逆に、精度以下であれば、もう一度同じ計算を、時間間隔Δtを半分にして、(a)、(b)両方の計算とも実行する。さらに、それでも精度に達しない場合は、もう一度時間間隔を半分にして(a)、(b)両方の計算をともに実行する。
このようにして、設定された精度に達するまで時間間隔Δtを半分にしていき、設定された精度に達したところで、(Xb,Yb,Zb)の値を解(Xi+1,Yi+1,Zi+1)として採用する。また、時間間隔Δtを倍にした場合でも、計算精度の判定は実行され、もし、設定された精度に達していなければ、直ちに、時間間隔Δtを半分に戻して計算をやり直す。こうすることにより、ステップ幅を倍にしたために所定の精度が得られなくなってしまった場合にも対応することが可能となっている。
また、位置ではなくベクトルの絶対値を相対誤差判別に用いても良い。こうすることによって、たとえ解がゼロクロスしたとしても、正しく誤差判定を行うことができ、軌道計算は一定の精度を保ちながら効率良く実行することが可能となる。このような方法で、適正な刻み時間(Δt)を設定することで、高精度かつ高速に電子軌道を計算することが可能となる。
一方、本発明の実施例に係る方法は、電界計算は1回のみであり、また誤差を判定する分岐を必要としない。具体的には、ステップS41において初期位置(起点)における電界を計算し、ステップS42において起点における電子の速度を計算し、ステップS43において起点における加速度の微分値を算出し、ステップS44において次点までの刻み時間(時間間隔)を算出する。このような方式を用いることにより、時間間隔の演算工程を従来の1/3以下に減らすことが可能となった。
なお、荷電粒子の運動方程式は、
式(6)
F=qE
であり、電子の加速度は
式(7)
F=mα
で表される。
式(6)および式(7)より、α=q/mEの関係が成立するので、電子の加速度は上述の空間電界Eが分かれば容易に算出することができる。
ところで、確率的に頻度は非常に稀であるが、式4の分母の加速度の微分値がゼロになってしまうことがある。加速度の微分値が0に近づくと分母が0となるため、時間間隔が発散してしまうことに起因している可能性がある。
この不都合を解決するために、起点前後での平均加速度微分値を計算しても良い。式10に示すように、一つ前の座標P
i-1の電子の加速度の微分値をつかって平均をとることでその発生確率を大きく減らすことが可能になる。
式(8)
それでもΔtが異常に大きな値をとる場合には、さらに前の値も含めて3点以上で平均化をとる方法を用いることで、発散的になる要因をさらに小さくすることができる。但しこの場合、少しずつ反応が鈍い時間間隔となってしまうため、条件に応じて最適化することが望ましい。(8)式を用いて計算を行った結果を図10に示す。試料面から35mm上方のx=100μmの位置から電子軌道解析を行った結果について、本実施例に係る方法と、従来法との比較をしたものである。なお、電荷密度分布の計算においては、以下に示す関数式を用いた。
式(9)
ここで、 Qmax=7.355e
−4(C/m
2) QD=3.0e
−4(C/m
2) σx=4.0e
−5(m) σy=5.66e
−5(m) α=1.4 Vsub=1100V Vacc=1.8kV ε=5e
−7である。
横軸がz座標で試料(z=35)に近づくに従い、電場変化が大きく時間間隔が短くなっている点では共通であるが、本発明に係る表面電荷分布測定方法の方が電界変化に合わせて細かく設定されていることがわかる。
また、図10(b)は、z座標と設定された誤差量の関係を示している。誤差量は、運動エネルギー(1/2mV2)とポテンシャルエネルギー(eV)の和を全エネルギー(En)としたとき、エネルギー保存則が成立することを前提に、1ステップ前の全エネルギーとの差(ΔEn)で表現されている。図10(b)に示すように、従来方法に比べて、本発明に係る表面電荷分布測定方法では、誤差量が大幅に低減されている。これは、時間ステップが適切に設定されていることを示す。本発明が、演算ステップの短縮だけでなく、計算精度の向上にもつながっていることがわかる。
このように、従来の表面電荷分布測定方法と比較して、計算時間、計算精度の両面について改善が確認された。なお、上記条件では計算時間は30秒、誤差は約1Vであった。なお、電荷密度分布関数式は式11に限るものではなく、測定対象物に近い関数式で表現できるものであれば好適に用いることができる。
次に、表面電荷分布を有する試料に対して荷電粒子ビームを走査し、信号を検出する手段について説明する。
図11に信号を検出する計測装置の構成を示す。図11において、計測装置は、荷電粒子ビームを照射する荷電粒子照射部と、露光部、試料設置部、1次反転荷電粒子や2次電子、反射電子などの検出部を主たる構成部分として備えている。ここでいう荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど、電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。
以下に説明する実施例は、電子ビームを照射する例である。図11において、計測装置は荷電粒子ビーム照射装置108を備えている。荷電粒子ビーム照射装置108は、真空チャンバー140内に以下のように構成部分が組み込まれることによって構成されている。真空チャンバー140の上端近くに荷電粒子ビームを照射する電子銃141が取り付けられ、その下方に、エキストラクタすなわち引き出し電極143、加速電極144、コンデンサレンズ145、ビームブランキング電極146、仕切り弁147、可動絞り148、スティグメータすなわち補正用電極149、偏向電極(走査レンズに相当する)150、静電対物レンズ151、ビーム射出開口部152がこの順に配置されている。
上記引き出し電極143は電子ビームを制御し、加速電極144は電子ビームのエネルギーを制御し、コンデンサレンズ145は電子銃から発生された電子ビームを集束させる。ビームブランキング電極146は電子ビームをON/OFFさせ、仕切り弁147および可動絞り148は電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャとして機能する。偏向電極150はビームブランキング電極146を通過した電子ビームを走査させるための走査レンズとして機能する。偏向電極150を通過した電子ビームは対物レンズ151で再び感光体試料110の面に収束させられる。各レンズ等には図示しない駆動用電源が接続されている。
荷電粒子ビーム照射装置108の下方には、試料としての感光体110を載置する載置台が配置されている。載置台は、図2において説明したものと同様に構成することができる。真空チャンバー140内には、感光体110の上方近傍に感光体で反発される電子を検出する検出器107が配置されている。検出器107から出力される検出信号は、検出回路、検出信号処理手段などを経ることによって、感光体110の表面電荷分布の測定に供される。
なお、荷電粒子としてイオンビームを用いる場合には、電子銃141の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。また、1次反転電子を検出する検出器107として、シンチレータや光電子増倍管などを用いることができる。
図12は、信号検出における入射電子と試料との関係を示す。入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが、試料到達前に反転するような状態が存在する領域があり、その1次入射荷電粒子を検出する構成となっている。電子の加速電位ポテンシャルをVacc、試料表面の電位ポテンシャルをVpとすると、VaccとVpとの大小関係によって、入射電子が試料に到達して電子が戻らない場合と、入射電子が試料によって反発されて戻る場合がある。なお、加速電圧は、正で表現することが一般的であるが、加速電圧の印加電圧Vaccは負であり、電位ポテンシャルとして物理的意味を持たせ、説明をしやすくするため、ここでは加速電圧は負(Vacc<0)として表現する。電子ビームの加速電位ポテンシャルをVacc(<0)、試料の電位ポテンシャルをVp(<0)とする。
電位とは、単位電荷が持つ電気的な位置エネルギーである。従って、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動するが、試料面に接近するに従い電位が高くなり、試料の電荷のクーロン反発の影響を受けて速度が変化する。従って、一般的に以下のような現象が起こる。
|Vacc|>|Vp|の場合、電子は、その速度は減速されるものの、試料に到達する(図12(a)参照)。
|Vacc|<|Vp|場合には、入射電子の速度は試料の電位ポテンシャルの影響を受けて徐々に減速し、試料に到達する前に速度が0となり、移動方向が反転して反対方向に進む(図12(b)参照)。
空気抵抗の無い真空中では、エネルギー保存則がほぼ完全に成立する。従って、入射電子のエネルギーを変えたときの試料面上でのエネルギー、すなわちランディングエネルギーがほぼ0となる条件を計測することで、感光体試料の表面の電位を計測することができる。ここでは、1次反転荷電粒子、特に電子の場合を1次反転電子と呼ぶことにする。試料に到達したとき発生する2次電子と1次反転荷電粒子では、検出器に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界より識別することができる(図13参照)。
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子検出器があるが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料の表面から飛び出す電子のことを指す。反射電子のエネルギーは入射電子のエネルギーに匹敵する。反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きいといわれ、試料の組成の違いや、凹凸を観察するための検出方法である。これに対して、1次反転電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて、試料表面に到達する前に反転する電子のことであり、走査電子顕微鏡などの反射電子検出器で利用されている現象とは全く異なる現象である。
従って、加速電圧Vaccあるいは、試料背面の電極電位Vsubを変えながら試料表面を電子で走査させ、入射電子を検出器で検出する構成とすることにより、試料の表面電位Vpを計測することが可能となる。
また、試料の電位ポテンシャルVpが正(Vp>0)の場合には、ガリウムなどプラスのイオンや陽子を荷電粒子として入射すればよい。
このように、試料の電位分布をVp(x)としたとき、加速電圧Vaccを、
Min|Vp|≦|Vacc|≦Max|Vp|
の範囲で、荷電粒子の加速電圧Vaccを試料に走査させることにより、入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが反転する状態が存在し、その反転した1次反転荷電粒子を検出することにより、試料の表面電荷分布の情報を取得することができる。
荷電粒子ビームを走査して得られた検出信号と、表面電荷を与えたときの電子軌道シミュレーションの結果を照合し(図1のステップS8)、2つの結果が一致あるいは許容範囲内であれば、電子軌道シミュレーションで用いた表面電荷の値が実際の値であることが確定される(図1のステップS9)。許容範囲から外れていれば、表面電荷を修正して(図1のステップS11)、再度、見かけの電荷密度の変換(図1のステップS4)から電子軌道シミュレーションを許容範囲内に収まるまで繰り返し実行する。
このように、電子軌道を計算し、実測結果と照合することにより、表面電荷を決定することが可能となる。表面電位を測定する場合には、電荷分布がわかれば静電場が確定するので、ポアソン方程式など静電場を解くことにより、電位分布V(x,y)や電界強度分布などの物理量分布を測定することができる。
ところで、計測された検出信号データは離散的であるため、シミュレーション結果と照合するためには、離散データ間を補間する必要がある。また、計測された検出信号データには、通常誤差が含まれる。これらの誤差の程度にもよるが、通常の直線補間やスプライン関数を用いて、これらのデータを補間しようとすると、その誤差までをも含んだデータを忠実に再現しようとして、曲線が各区間で振動的になってしまい、真の結果から遠ざかる結果となってしまう。以上のことを考慮した自然な平滑化曲線を描くことが出来れば、より正確なシミュレーションを期待できる。
ここで、従来の方法として最小二乗近似があるが、最小二乗近似は、全区間に亘りある次数の1つの関数で曲線を再現する。すなわち、計測された検出信号データがひとつの関数で表現できるような法則性が求められる。しかしながら、実測データにはひとつの関数で表現できるような理論的に法則性を導き出すことができない。例えば、比較的近い形状だからといって、ガウシアン分布のように既存の関数で無理やり表現すると実測環境とマッチしていないので誤差が膨大となる。
そこで、離散的に得られた計測された検出信号データの隣り合う区間が、連続的に接続するように各区間毎に多項式関数で表現することで、実測データ全体が連続的な曲線関数となるように平滑化処理演算を行うと良い。
そのような多項式関数の例として、平滑化スプライン関数がある。具体的には、計測された検出信号データ点を(x
0,y
0)、(x
1,y
1)…(x
i,y
i)…(x
n−1,y
n−1)のN点としたとき、例えばx
i−1からx
iの範囲[x
i−1,x
i]では
式(10)
の多項式関数で近似し、x
iからx
i+1の範囲[x
i,x
i+1]では
式(11)
という別の多項式関数で近似する。そして、その微分値が等しくなるようにする。
式(12)
式(13)
ただし、x=xi+0はx>xi側の極限値を、x=xi−0はx<xi側の極限値を示している。
実際の演算としては、式16のσの値を最小にする平滑化曲線の関数f(x)で表現すれば良い。
式(14)
なお、f
(M)(x)は、f(x)のM回微分である。gは平滑化係数であり、gが大きいと、元のデータに対する忠実度が低く、gが小さいと元データに対する忠実度が上がるが、振動する可能性が出てくる。
このような条件を満たす計算式を用いることにより、平滑化スプライン関数を演算することができる。計算結果の一例を図15に示す。
このように、離散的でかつ誤差を含む計測された検出信号データをもっとも相応しい曲線でその形状を再現し、平滑化された連続曲線の関数として表現することが可能となる。平滑化スプライン関数は計測された検出信号データの様々な形状の曲線データに、柔軟かつ正確に対応することが可能である。
ところで、計測された検出信号データは離散的であり、誤差を含んでいるのに加え、離散データの間隔も一定であるとは限らないという問題がある。離散間隔が広い所では異常な値を示すことが懸念される。
具体的に説明すると、計測された検出信号データは、本来であれば、図16(b)のような曲線の関数で表現されるべきであるが、図16(a)のように上述の平滑化スプラインで補間すると、図17に示すように、実測データが欠落して離散間隔が広い領域で不自然な振動が生じてしまう場合もある。この結果、両端でなく、データ途中に最大値が存在することになり、実測と大きな誤差を生じることがある。
しかし、離散間隔の広い領域では異常な値を取ることがあるのは、スプライン関数の性質上仕方のないことであるため、平滑化係数を変えるだけでは限界であり、別の方法を考える必要がある。
また、特に計測された検出信号データでは、Vth分布の立ち上がりから、漸近に至る部分のデータが欠落しがちである。
これらの課題を解決するためには、図18に示すように、離散間隔が広い領域にダミー点を付加する方法を取ると良い。この場合、計測された検出信号データの規則性を利用するとよい。すなわち、計測された検出信号データは、電荷分布試料中心から離れるに従って単調増加し、両端で最大値をとる規則性があることがわかっている。従って、その離散間隔が広い部分に最もフィットした法則性のある関数を用いて、ダミー点を付加することが望ましい。例えば、ガウス関数などの指数関数や、対数関数、また三角関数の一部を用いても良い。ここでは、楕円方程式でダミー点を付加する方法を説明する。
このときの楕円方程式を式15に示す。
式(15)
両辺をxで微分して整理すると、式(16)となる。
式(16)
図19に示すように、(x1,y1)、(x1,y1)での接線が(x0,y0)、(x1,y1)を通る直線になり、(x2,y2)での接線の傾きが0となるような楕円を当てはめて、係数a、b、c、dを決定し、楕円に沿ってダミー点を付加する。楕円方程式に沿ってダミー点を付加したものは、傾きの指定が出来るため急峻な変化がなく、自然な曲線を求めることが出来るのが特徴といえる。
計測された検出信号データを楕円方程式に沿ってダミー点を付加したあと、平滑化スプライン処理を行った結果を図16(b)に示す。
上述した条件を満たす楕円方程式に沿ってダミー点を置くことで、図16(a)のような振動を抑え、データに忠実な平滑化スプラインの結果が得ることができる。そして、シミュレーションデータとの照合がしやすくなり、精度向上ならびに時間短縮を実現することが可能となる。
入射電子が誘電体表面に到達するか否かで検出器に到達する電子量が異なるため、その境界値を検出することで、表面電荷状態を見積もることができる。一次荷電粒子が試料に到達せずに反転する領域と、試料に到達する領域の境界を検出することにより、電子軌道計算から、試料反転領域と試料到達領域の境界値を算出する。
これまでの計算では、試料裏面の印加電圧を固定して、入射荷電粒子軌道の座標を変更して空間的な境界値を算出しているが、空間位置を特定するには計算本数を多く必要とし、また解析の結果全て、試料に到達していたり、全て試料反転していたりする場合もありうる。このような条件では、最後まで計算を行わないと結果が得られず、最終結果においても境界位置を算出することができないため、無駄な計算となり、計算時間が長くなる要因となっていた。
そこで、1次荷電粒子が試料に到達することなく反転する領域と、試料に到達する領域の境界を検出することにより、電子軌道計算から、試料反転領域と試料到達領域の境界値を算出する。すなわち、荷電粒子ビームが試料に到達する印加電圧と、荷電粒子ビームが試料に到達せずに反転する印加電圧との間の印加電圧を新たな印加電圧と設定して荷電粒子軌道を計算することにより試料到達領域と試料反転領域の境界値を算出する。
具体的には、1次荷電粒子の入射開始座標を固定し、1次荷電粒子が試料に到達する条件での試料裏面の印加電圧をVsub1、1次荷電粒子が試料に到達せずに反転する非到達条件での試料裏面の印加電圧をVsub2としたときに、境界値は、図20(a)と(b)に示すように、Vsub1とVsub2の間であることが確定される。
さらに、以下の方法を用いて、境界値を絞り込んでいく。図20(c)に示すように、Vsub1とVsub2の中間点(Vsub1+Vsub2)/2を新たな試料裏面の印加電圧Vsub3として電子軌道を計算する。
そして、図20(d)に示すように、Vsub3条件で1次荷電粒子軌道が試料に到達した場合は、新たな試料裏面の印加電圧Vsub4として、以下の値を与える。
Vsub4=(Vsub2+Vsub3)/2
図20(e)に示すように、Vsub3条件で1次荷電粒子軌道が試料に到達せずに反転した場合は、新たな試料裏面の印加電圧Vsub4として、以下の値を与える。
Vsub4=(Vsub1+Vsub3)/2
上記操作を繰り返し実行することにより、1回の軌道計算で射出位置の間隔を1/2ずつ狭めることができる。そして、解析の結果が全て試料に到達してる領域や、全て試料反転する領域であるという不具合を解消し、少ない軌道計算数で境界値を絞込むことができ、計算時間を大幅に短縮できる。この方法は、中心付近の電荷密度が小さく、周辺の電荷密度が大きい電荷モデルを計測対象と想定したときの電荷分布周辺のように、電荷密度の空間的変化が小さい領域や、電荷中心部のように、水平方向電界が小さい領域において軌道計算本数が少なくなるため特に有効である。すなわち、印加電圧Vsubの最大値と最小値を算出する際に、特に有効であるといえる。
なお、印加電圧Vsubの最大値と最小値との間については、試料裏面の印加電圧を固定して、入射荷電粒子軌道の座標を変更して、空間的な境界値を算出してもよい。すなわち、一次荷電粒子が試料に到達せずに反転する条件での試料面に平行な入射開始座標をxi、一次荷電粒子が試料に到達する条件での試料面に平行な入射開始座標をxjとしたときに、xiとxjとの中間点(xi+xj)/2を入射開始座標として、電子軌道計算を繰り返すことで境界値を決定する。
試料に到達した射出位置の電子軌道と試料到達前に反転して射出位置の電子軌道の間に反射領域が存在するものとして、その間の射出位置から電子を打ち込み、さらに反射領域を絞り込む。上記操作を繰り返し実行することにより、1回の軌道計算で射出位置の間隔を1/2ずつ狭めることができる。
図21(a)に示すように、xjの電子軌道は試料に到達し、xiの電子軌道は反転しているので、xiとxjとの間に境界値が存在する。そこで、図21(b)に示すように、xiとxjの電子軌道の間の射出位置から新たな電子を打ち込み、電子が試料に到達するか否かにより、境界値の位置を絞り込む。
このように、試料裏面の印加電圧を固定して、入射荷電粒子軌道の座標を変更して、空間的な境界値を算出する方法と組み合わせて使用すると、計算時間の短縮に効果的である。
本実施例に係る表面電荷分布の測定方法では、上述した各実施例に係る表面電荷分布の測定方法により算出された試料の表面電荷分布を、試料の電荷分布状態を示すスレッショルド電位Vth(x,y)を用いて修正するため、より高い精度で表面電荷分布を求めることができる。以下、スレッショルド電位Vth(x,y)を用いた表面電荷分布の修正についてのみ説明を行い、この修正に先立つ表面電荷分布の算出については前述の各実施例と同様であるため、ここではその説明を省略する。
スレッショルド電位Vthは、電子ビームの加速電圧をVacc、導体に印加される電圧をVsubとしたとき、
Vth=Vacc−Vsub
という式で表される値である。Vth(x,y)は、試料表面の座標(x,y)におけるVthの値を示している。
まず、計測にてVth(x,y)を得る方法について説明する。図23は、信号検出によってVth(x,y)を計測した結果を示す。2次元的に走査する電子銃の加速電圧は−1800Vとしている。図23(a)の曲線は試料表面の電荷分布によって生じるVth分布の検出結果を示している。中心(x=y=0)のVth値が約−600Vである。これは、Vsub=−1200Vのときにちょうど中心のランディングエネルギがほぼ0となっていることを示す。
また、中心から外側に向かうに従って、Vth値がマイナス方向に大きくなり、中心から半径75μmを超える周辺領域のVth値は約−850V程度になっている。図13(b)に示す楕円形は、試料の裏面をVsub=−1150Vに設定したときの検出器出力を画像化したものである。このとき、Vth=Vacc−Vsub=−650Vとなっている。図13(c)に示す楕円形は、Vsub=−1100Vとしたほかは上記条件と同じ条件で得られた検出器出力を画像化したものである。このときのVthは−700Vになっている。
図13(b)、(c)の明部と暗部は、検出信号強度の違いを表しており、明部の方が、検出信号量が大きいことを示す。すなわち、明部は入射電子が試料に到達せずに反転している領域であり、暗部は、入射電子が試料に到達している領域である。明部と暗部の境界は、ランディングエネルギがほぼ0となっていることを示す。
この明部と暗部の境界値をVth値と定義し、加速電圧Vaccまたは印加電圧Vsubを変えながら、繰り返し試料表面を電子で走査させる方法を用いて計測することにより、Vth(x,y)をミクロンスケールでデータ取得することが可能となる。
信号検出によるVth(x,y)計測のフローを図22に示す。すなわち、スレッショルド電位Vthの設定(S51)、コントラスト像取り込み(S52)、2値化処理(S53)、潜像径算出(S54)と進み、ここまでの処理を所定回数になるまで行い(S55、S57)、Vth(x,y)を算出する(S56)。
次に、シミュレーションによりVth(x,y)を得る方法について説明する。1次荷電粒子を、加速電圧Vacc(<0)で、試料面からz0離れた初期座標から試料に向かって入射させる。そのときのシミュレーション条件を、試料裏面の印加電圧をVsubとしたとき、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定し、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
としている。
図3、図4に示すシミュレーションモデルと、未知なる表面電荷をセットして1次荷電粒子の軌道を計算する。試料裏面の印加電圧をVsubする。
ここでは、1次荷電粒子として、電子を用いている。試料面からz0離れた距離から、試料に垂直に入射する条件であってよい。z0は、上部グリッドから試料までの距離よりも遠くなるように配置することが望ましい。入射電子に初期座標と加速電圧をVacc(<0)あるいは、Vaccと等価な初速を与えて、試料に入射させる。
なお、入射電子の軌道が最終的に検出器に到達するか否かを解析してもよいが、この場合、計算に要する時間が増加する。一方、入射電子が試料に到達せずに反転するか、試料に到達かを判定する方法でも十分な精度が得られる。
従って、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定し、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
として、境界領域を決定することができる。このようにして、検出信号によって得られるVth(x,y)と同等のVth(x,y)を計算にて算出することができる。
以下は、便宜上、計算によるVth(x,y)をVth_s(x,y)、計測によるVth(x,y)をVth_m(x,y)と区別する。一例として、図24(a)には、X軸方向において算出された表面電位と走査位置との関係が示されている。Vth_s(x,y)がVth_m(x,y)と等しいかどうかを照合する。照合する方法としては、Vth_s(x,y)とVth_m(x,y)の差分(Δ(x,y)とする)を求める方法を用いてもよい。一例として図24(b)には、X軸方向における、計測された表面電位と算出された表面電位とが重ねて示されている。
次のステップでは、Δ(x,y)が、予め設定されている評価値M以下であるか否かを判断する。例えば、全てのVth_m(x,y)群について差分を実行し、値が最小となるVth_m(x,y)を選び出してもよい。また、以下の式に示すような、差の自乗和を評価値として用いても良い。
M=Σ(Vth_s(x,y)−Vth_m(x,y))^2
Δ(x,y)がMを超えている場合は、ここでの判断は否定される。この場合は、判定結果Δ(x,y)に応じて電荷分布モデルを修正する。例えば、Δ(x,y)がバイアス成分をもつような場合には、平均電位が異なっていると判断し、電荷分布モデルにおける各電位に上記バイアス成分を付加する。また、Δ(x,y)が凹凸形状である場合には、表面電荷の分布形状、例えば深さ及び幅などが異なっていると判断し、電荷分布モデルにおける形状を上記凹凸形状に近づける。これにより、より適切な電荷分布モデルとなる。
照合の結果の判断が肯定されるまで、上記ステップの処理を繰り返し行う。これにより、未知電荷を決定することができる。
上述したように、実際に電子ビームを照射したときに検出器24で得られる検出信号の実測値と、電子軌道計算により得られる検出信号の算出値とを比較し、実測値と算出値が一致あるいは許容範囲内であれば、表面電荷分布モデルを実際の電荷分布であると推測する。また、実測値と算出値が許容範囲外であれば、表面電荷分布の修正を行うため、再度みかけの電荷密度の算出を行う。この一連の工程を、実測値と算出値が許容範囲内に収まるまで繰り返し実行する。この一連の工程のフローチャートを図25に示す。
まず、ステップS61において、図6に示す係数マトリックスの各値として代入する、電荷分布形状パラメータである試料(感光体)の形状、膜厚、試料裏面の電極形状等を仮決定する。
次に、ステップS62において、構造体モデルが設定される。
次に、ステップS63において、試料23が載置される導体60への印加電圧Vsubが設定され、導体60に電圧が印加される。
次に、ステップS64において、既知である電極電位を、解析対象となる空間に導体および誘電体の構造体モデルの代数式上の幾何学的配置と、試料上の未知なる電荷密度を境界条件として、見かけの電荷密度に変換させる処理を行う。
次に、ステップS65において、変換された見かけの電荷密度を用いて空間電界が計算される。
次に、ステップS66において、表面電荷分布モデルに基づき起点での荷電粒子ビームの加速度の微分値が算出され、算出結果に基づいて次点を決定するための起点の時点から次点の時点までの時間間隔が設定される。
次に、ステップS67において、みかけの電荷密度に基づいて試料に入射する電子の軌道解析が行われる。
次に、ステップS68において、電子の軌道解析結果を用いて、入射電子が試料に到達するか否かに分かれる境界値を求める。具体的には、1次荷電粒子を、加速電圧Vacc(<0)で、試料面からz0離れた初期座標から試料に向かって入射させるときのシミュレーション条件を、試料裏面の印加電圧をVsubとしたとき、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定する。
次に、ステップS69において、ステップS63〜S69の繰り返し回数iが所定の回数Nに到達したか否かの判断がされる。VsubやVaccは、後述する実測条件と同等の値が使用して、VsubやVaccを逐次変更して必要な回数シミュレーションが実行される。iがNに到達していない場合には、ステップS75に進み、導体60への印加電圧Vsubが変更され、再度ステップS63からの工程が行われる。一方、iがNに到達している場合には、次のステップS70に進む。
ステップS70においては、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
の式に基づいて、Vth(x,y)が算出される。
ところで、図25のフローチャートに示していないが、Vth(x,y)は、上記ステップS70で算出された値Vth_s(x,y)とは別に、実測によっても求められている。実測によるVth(x,y)をVth_m(x,y)とする。ステップS71では、この算出値Vth_s(x,y)が実測値Vth_m(x,y)と一致するかどうかの照合が行われる。照合の結果、算出値Vth_s(x,y)と実測値Vth_m(x,y)とが不一致である場合には、ステップS76において表面電荷分布モデルが修正され、再びステップS63からの一連の工程が行われる。一方、算出値Vth_s(x,y)と実測値Vth_m(x,y)とが一致する場合には、ステップS72に進む。
ステップS72では、ステップS62で仮決定された電荷分布形状パラメータが正しいと判断され、このパラメータをもとに表面電荷の形状が決定される。
次に、ステップS73において、決定された表面電荷の形状をもとに表面電荷分布が算出される。また、電荷分布が分かれば静電場が確定するので、ポアソン方程式などを用いて静電場を解析することで、電位分布や電界強度分布などの物理量分布も測定することができる。
次に、ステップS74において、算出結果が表面電荷分布測定装置の図示せぬディスプレイ等に表示され、全工程が終了する。
このように、電子軌道を計算して、実測結果と照合することにより、表面電荷を決定することが可能となる。表面電位を測定する場合には、電荷分布がわかれば、静電場が確定するので、ポアソン方程式など静電場を解くことにより、電位分布V(x,y)や電界強度分布などの物理量分布を測定することができる。
図26に、潜像を形成する機能を有する表面電位分布測定装置の例を示す。図26において、試料は、電子写真用感光体を用いる。有機感光体(OPC)は、導電性支持体の上に電荷発生層(CGL)、電荷輸送層(CTL)を有してなり、表面電荷が帯電している状態で露光されると、CGLの電荷発生材料(CGM)によって、光が吸収され、正負両極性のチャージキャリアが発生する。このキャリアは、電界によって、一方はCTLに、他方は導電性支持体に注入される。CTLに注入されたキャリアはCTL中を電界によってCTL表面にまで移動し、感光体表面の電荷と結合して消滅する。これにより、感光体表面に電荷分布すなわち静電潜像を形成する。
この表面電位分布測定装置200は、試料表面を光で走査し、潜像のパターンを形成するパターン形成装置220が、上記実施形態における表面電位分布測定装置200に付加されたものである。なお、図26では、制御系が省略されている。図26におけるパターン形成装置220は、感光体が感度を有する波長400nm〜1000nmの半導体レーザ201、コリメートレンズ203、アパーチャ205、及び3つのレンズ(207、209、211)からなる結像レンズなどを備えている。また、試料71の近傍には、試料表面を除電するためのLED213が配置されている。このパターン形成装置220及びLED213は、不図示の制御系によって制御される。
表面電位分布測定装置200における潜像の形成方法について簡単に説明する。感光体試料表面を均一に帯電させる。ここでは、加速電圧を、2次電子放出比が1となる電圧より高い電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、試料はマイナスに帯電することとなる。なお、加速電圧と照射時間とを制御することにより、所望の電位に帯電させることができる。
電子銃10から放出される電子ビームを、感光体試料71に照射させる。加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料に蓄積され、チャージアップを起こす(図27(a))。この結果、試料はマイナスの一様帯電を生じることができる。加速電圧と飽和帯電電位には、図27(b)に示すような関係があり、加速電圧と照射時間を適切に設定ないしは制御することにより、電子写真における実機と同じ帯電電位を形成することができる。照射電流は大きい方が、短時間で、目的の帯電電位に到達することができるため、1nA以上で照射するとよい。
この後、静電潜像が観察できるように入射電子量を1/100〜1/1000に下げる。この状態で、パターン形成装置220の半導体レーザ201を発光させる。半導体レーザ201からのレーザ光は、コリメートレンズ203で略平行光となり、アパーチャ205で規定のビーム径とされた後、結像レンズ207、209、211で試料71の表面に集光される。これにより、試料表面に潜像のパターンが形成される。
有機感光体(OPC)は、暗減衰により、電荷が時間と共に減衰してしまうため、遅くても潜像形成後10秒以内で、信号検出によるデータの取得を完了させる必要がある。図26に示す例のように、真空チャンバー30内で感光体試料に帯電・露光させる機能をもたせることにより、潜像形成直後からデータ取得を開始することが可能で、潜像プロファイル取得に必要な印加電圧を複数変えた計測であっても、10秒以内でのデータ取得を完了させることができる。そして上述の如く印加電圧を変えることで、潜像プロファイル情報を取得できる。
なお、必要に応じて感光体試料の上方に上部電極を追加してもよい。上部電極を配置することにより、試料が電荷分布を持つことによる空間電界の影響を、上部電極までの範囲に局在化させることができるので、構造体モデルをより簡素化できる。
また、上記実施形態では、試料が板状の場合について説明したが、本発明が対象とする試料はこれに限定されるものではなく、例えば試料が円筒形状であってもよい。試料が円筒形状である場合、この試料を、レーザプリンタやデジタル複写機などの電子写真方式の画像形成装置に用いられる感光ドラムにそのまま適用できる。したがって、上記円筒形状の感光体試料に対する表面電位分布の測定結果を画像形成装置の設計にフィードバックすることにより、画像形成に関する各工程のプロセスクォリティを向上させることができ、高画質化、高耐久性、高安定性、及び省エネルギー化を実現することができる。
また、感光体試料が上記のように円筒形状である場合、露光部の一例として、図28に示されているように、半導体レーザ110、コリメートレンズ111、アパーチャ112、シリンダレンズ113、光路折り曲げミラー114、ポリゴンミラー115、2つの走査レンズ116、117および光路折り曲げミラー118などを備えた、光走査装置からなる露光部76を用いてもよい。
上記半導体レーザ110は、露光用のレーザ光を出射する。コリメートレンズ111は、半導体レーザ110から出射されたレーザ光を略平行光とする。アパーチャ112は、コリメートレンズ111を透過した光のビーム径を規定する。ここでは、アパーチャ112の大きさを替えることで、20μm〜200μmの範囲で任意のビーム径を生成することが可能である。シリンダレンズ113は、アパーチャ112を透過した光を一方向にのみ整形する。ミラー114は、シリンダレンズ113からの光の光路をポリゴンミラー115の方向に折り曲げる。ポリゴンミラー115は、複数の偏向面を有し、ミラー114からの光を所定角度範囲で等角速度的に偏向する。2つの走査レンズ116、117は、ポリゴンミラー115で偏向された光を等速度的な光に変換する。ミラー118は、走査レンズ117からの光の光路を試料71の方向に折り曲げる。
この露光部76の動作について簡単に説明する。半導体レーザ110から出射された光は、コリメートレンズ111、アパーチャ112、シリンダレンズ113およびミラー114を介して、ポリゴンミラー115の偏向面近傍に一旦結像される。ポリゴンミラー115は、不図示のポリゴンモータによって一定の速度で図21中の矢印方向に回転しており、その回転に伴って偏向面近傍に結像された光は等角速度的に偏向される。この偏向された光は、さらに2つの走査レンズ116、117を透過し、ミラー118の長手方向を所定角度範囲で等速度的に走査する光に変換される。そして、この光は、ミラー118で試料71に向かって反射され、試料71の表面を走査する。すなわち、光スポットが試料71の母線方向に移動する。これにより、試料71の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。光源は、VCSEL等のマルチビーム走査光学系であってもよい。
また、上記実施形態では、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いる場合について説明したが、これに限らず、イオンビームを用いてもよい。この場合には、前記電子銃に代えてイオン銃が用いられる。そして、例えばイオン銃としてガリウム(Ga)液体金属イオン銃が用いられる場合には、加速電圧は正の電圧となり、試料71には、表面電位が正となるようにバイアス電圧が付加される。
上記実施形態では、試料の表面電位ポテンシャルが負の場合について説明したが、試料の表面電位ポテンシャルが正であってもよい。すなわち、表面の電荷が正電荷であってもよい。この場合には、ガリウムなど正のイオンビームを試料に照射すればよい。
また、図26に示す実施形態では、ゲートバルブ40がビームブランキング電極37の−Z側に配置されているが、これに限定されるものではない。要するに、ゲートバルブ40が、電子銃10と試料台81との間に配置されていればよい。
上記実施形態では、電子銃として電界放出型電子銃を用いる場合について説明しているが、これに限らず、熱電子放出型電子銃を用いてもよいし、図29に示されるように、いわゆるショットキーエミッション(SE)型電子銃を用いてもよい。このショットキーエミッション型電子銃は、エミッタ11、サプレッサ電極12、引き出し電極31、及び加速電極33などを有している。なお、Ifはフィラメント電流、Ieはエミッション電流、Vsはサプレッサ電圧である。SE型電子銃は、熱陰極電界放出型電子銃とも呼ばれている。
また、上記実施形態では、1次反発電子を検出して表面電位分布を求めるものとして説明したが、これに限らず、例えば、試料の材質や表面形状の影響を受けるおそれがない場合には、2次電子を検出して表面電位分布を求めても良い。
本発明によると、電子写真用感光体上に電子写真プロセスで起こるのと同等条件で静電潜像を形成させ、その静電潜像を測定する装置を提供することができる。また、本発明によると、高い計測精度を確保しつつ、計算時間を短縮することのできる表面電荷分布測定方法および装置を提供することができる。
また、本発明によると、一つ前の座標の電子の加速度の微分値をつかって平均をとることで、時間間隔が発散してしまう影響を大きく減らすことが可能になる。
また、本発明によると、電子の加速度を空間電界から算出することにより、計算ステップを省略することができ、計算時間の短縮を実現するこができる。
また、本発明によると、離散的に得られた計測された検出信号データの隣り合う区間が、連続的に接続するように区間毎に多項式関数で表現することで、離散的でかつ誤差を含む計測された検出信号データをもっとも相応しい曲線形状であり、平滑化された連続曲線の関数として表現することが可能となる。平滑化スプライン関数は計測された検出信号データの様々な形状の曲線データに、柔軟かつ正確に対応することが可能であり、電子軌道計算結果と比較する実測データの忠実性が向上し、計測精度と計算時間短縮の両方を実現することができる。
また、本発明によると、計測された検出信号データの、電荷分布試料中心から離れるに従って単調増加し両端で最大値をとる規則性を利用して、最もフィットした法則性のある関数を用いてダミー点を付加することで、振動がなく、データに忠実な平滑化スプラインの結果を得ることができる。そして、シミュレーションデータとの照合がしやすくなり、精度向上ならびに時間短縮を実現することが可能となる。
また、本発明によると、印加電圧を変化させて境界値を決定する方法により、解析が行われた領域から、荷電粒子ビームが全て試料に到達する領域や、全て反転する領域を除くことができる。そのため、少ない軌道計算数で境界値を絞込むことができ、計算時間を大幅に短縮できる。これは、電荷分布の周辺領域のように、電荷密度の空間的変化が小さい領域や、電荷中心部のように、電荷分布の空間周波数は大きいが水平方向電界が小さい領域で、軌道計算を少なくすることができるため特に有効である。
また、本発明によると、一次荷電粒子が試料に到達せずに反転する領域と、試料に到達する領域の境界を検出し、Vthの実測値と算出値の差を算出し、差が減少するように表面の電荷分布データあるいは電位分布データを修正し、修正された電荷分布データを逐次、電子軌道計算する手段を有することにより、電位鞍点が生ずるような、電界強度が高い電位分布であっても、精度良く測定することができる。また、試料の電位状態によって発生する走査電子の走査位置座標変動を補正する手段を有することにより、走査領域の歪曲を抑え、精度良く表面電荷分布を測定することができる。
また、従来の表面電荷分布測定方法では、最低3回の電界計算を演算する工程と、誤差を判定する工程があるのに対し、本発明に係る表面電荷分布測定方法では、電界計算は1回のみであり、また誤差を判定する分岐を必要としない。このような方式を用いることにより、時間間隔の演算工程を従来の3分の1以下に減らすことが可能となった。そして、縦横比が異なる、電荷分布が複雑な形状である等の場合も、計測精度を確保しつつ、短時間でミクロンオーダーの高分解能で表面電荷分布測定が可能となる。
本発明に係る表面電荷分布測定装置によると、静電潜像の形成するための必要な帯電手段と露光手段を有することにより、リアルタイムの測定が可能となり、時間とともに表面電荷量が減衰する感光体の静電潜像をミクロンオーダーの高分解能で測定することが可能となる。特にVCSELなどの複数光源を用いる露光方式の場合、単一光源に比べて、潜像形成及び潜像形成メカニズムが複雑になる。このため、本発明に係る表面電荷分布測定装置は、VCSELなどの複数光源を用いて静電潜像が形成される場合における試料表面の表面電荷分布の測定に有効である。また感光体の静電潜像を測定して、設計にフィードバックすることにより、各工程のプロセスクォリティが向上するため、高画質、高耐久、高安定、省エネルギー化を実現することができる。