JP2012219783A - 作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法及び同方法を使用する装置 - Google Patents

作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法及び同方法を使用する装置 Download PDF

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Abstract

【課題】作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定する方法及び同方法を使用する装置を提供する。
【解決手段】作動ガス循環型エンジンにおいて、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を、エンジン停止後に所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度から減じて得られる酸素濃度差が所定値A以上である場合は循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、酸素濃度差が所定値A未満である場合は循環通路内への空気の侵入が無いと判定する。
【選択図】図2

Description

本発明は、作動ガス循環型エンジンへの空気の侵入を判定する方法及び同方法を使用する装置に関する。より詳しくは、本発明は、作動ガス循環型エンジンの既燃ガスの循環通路への空気の侵入を判定する方法及び同方法を使用する装置に関する。
従来から、燃焼室に燃料(例えば、水素)と酸化剤(例えば、酸素)と作動ガス(例えば、不活性ガス)とを供給して同燃料を燃焼させるとともに、同燃焼室から排出された既燃ガス中の作動ガスを循環通路を通して同燃焼室に循環させる作動ガス循環型エンジンが提案されている。上記作動ガスは、不活性であると共に、比熱比が大きく、エンジンの熱効率を高めるものが望ましい。従って、上記作動ガスとしては、例えば、希ガス類に属する単原子ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン等を挙げることができる。現実には、エンジンの作動ガスとしては、これらの中ではアルゴンが広く用いられている。かかるエンジンの既燃ガス中には、HO(水蒸気)とアルゴンガスとが含まれる。従って、上記エンジンは、燃焼室から排出される既燃ガスを燃焼室に循環(再供給)するための循環通路、及び同循環通路に介装され、既燃ガス中に含まれるHO(水蒸気)を凝縮させて分離・除去する凝縮器を備えているのが一般的である。
作動ガス循環型エンジンは、所謂「クローズド・サイクル・エンジン(Closed Cycle Engine)」の一種であり、燃焼室から排出された既燃ガスを燃焼室に循環(再供給)させる循環通路は密閉されている必要がある。この循環通路に漏れが生ずると、作動ガスを含む循環ガスが大気中に漏れ出したり、逆に、大気中の空気が循環通路内に流入したりしてしまう。空気の主成分である窒素(及び酸素)は、作動ガスとして使用される不活性な単原子ガス(例えば、アルゴン)と比較して比熱比が低いことから、循環通路内に空気が流入すると、循環ガス全体としての比熱比が低下し、上死点(TDC)付近での燃焼室内の温度や圧力が低下し、エンジンの熱効率の低下を招く虞がある。
従って、作動ガス循環型エンジンにおいては、既燃ガスの循環通路への空気の侵入を、迅速且つ高精度に判定する必要がある。当該技術分野においては、例えば、液化ガス内燃機関の燃料タンク内の気相部分への空気の混入を酸素濃度に基づいて運転中に監視し、混入が認められる場合には、混入量に応じて気相燃料の噴射量を調整して、空燃比のズレを解消しようとする試みが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
しかしながら、作動ガス循環型エンジンにおいては、運転条件によって循環ガス中の酸素濃度が変動するため、上記従来技術のように運転中の酸素濃度に基づいて空気の混入を判定することは難しい。
以上のように、当該技術分野においては、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定する技術に対する継続的な要求が存在する。
特開2004−76665号公報
前述のように、当該技術分野においては、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定する技術に対する継続的な要求が存在する。本発明は、かかる要求に応えるために為されたものである。より具体的には、本発明は、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定する方法及び同方法を使用する装置を提供することを目的とする。
本発明の上記目的は、
燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出する、第1酸素濃度検出ステップ、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出する、第2酸素濃度検出ステップ、及び
前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、空気侵入判定ステップ、
を含む、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によって達成される。
また、本発明の上記目的は、
燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出し、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出し、そして
前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、
ように構成されていること、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置によっても達成される。
上記のように、本発明によれば、エンジン停止後及び再始動前の循環通路内の酸素濃度を酸素濃度検出手段によって検出し、これらの酸素濃度の差に基づいて循環通路内への空気の侵入の有無が判定される。これにより、本発明によれば、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定することができる。
本発明の1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用される作動ガス循環型エンジンを含むシステムの構成を表す概略図である。 本発明の1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において実行される一連の処理を表すフローチャートである。 本発明のもう1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において実行される一連の処理を表すフローチャートである。
前述のように、本発明は、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定する方法及び同方法を使用する装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、エンジン停止後及び再始動前の循環通路内の酸素濃度を酸素濃度検出手段によって検出し、これらの酸素濃度の差に基づいて循環通路内への空気の侵入の有無を判定することにより、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定することを想到するに至ったものである。
即ち、本発明の第1態様は、
燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出する、第1酸素濃度検出ステップ、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出する、第2酸素濃度検出ステップ、及び
前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、空気侵入判定ステップ、
を含む、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法である。
上記作動ガス循環型エンジンは、前述のように、燃焼室に燃料と酸化剤と作動ガスとを供給して同燃料を燃焼させるとともに、同燃焼室から排出された既燃ガス中の作動ガスを循環通路を通して同燃焼室に循環させる。既燃ガスには、燃料の燃焼に伴って発生する燃焼生成物等が含まれる。従って、作動ガス循環型エンジンにおいては、既燃ガス中に含まれる燃焼生成物を分離・除去する手段を備えているのが一般的である。
尚、燃焼生成物は燃料として使用される物質の種類によって異なる。従って、燃焼生成物を分離・除去する手段もまた、燃料として使用される物質の種類に応じたものが必要とされる。例えば、燃料として水素を使用する場合、既燃ガスにはHO(水蒸気)が含まれる。この場合、当該エンジンは、燃焼室から排出される既燃ガスを燃焼室に循環(再供給)するための循環通路、及び同循環通路に介装され、既燃ガス中に含まれるHO(水蒸気)を凝縮させて分離・除去する凝縮器を備えるのが一般的である。あるいは、凝縮器の代わりに、又は凝縮器に加えて、HO(水蒸気)を吸着する吸着材を循環通路に配設してもよい。
また、例えば、炭化水素系の燃料を使用する場合は、HO(水蒸気)のみならずCO(二酸化炭素)もまた、既燃ガスに含まれる。この場合、当該エンジンは、上述のようなHO(水蒸気)を分離・除去するための手段(例えば、凝縮器、吸着材等)のみならず、CO(二酸化炭素)を分離・除去するための手段もまた循環通路に配設されているのが一般的である。かかるCO(二酸化炭素)を分離・除去するための手段としては、例えば、CO(二酸化炭素)を溶解して吸収するモノエタノールアミン溶液又はCO(二酸化炭素)を吸着して吸収するゼオライト系吸着剤等が挙げられる。
上記酸素濃度検出手段は、循環通路内の酸素濃度を検出することができる限り、特定の構成のものに限定されるものではない。例えば、上記酸素濃度検出手段は、センサ素子の周辺に存在する酸素の濃度に対応する信号を電流や電圧として送出する、所謂「酸素濃度センサ」であってもよい。酸素濃度センサは、例えば、高温に加熱された安定化ジルコニア(セラミックス)の酸素イオン伝導性を利用してセンサ周辺の酸素濃度を検出するタイプのものが一般的である。酸素濃度検出手段は、検出された酸素濃度に対応する測定信号(検出信号)を送出する。
また、上記酸素濃度検出手段は、循環通路内の酸素濃度を検出することができる限り、設置場所を選ぶものではない。尚、内燃機関であるエンジンにおいては、空燃比制御等を目的として、例えば、エンジンのエキゾーストマニホルドの下流辺りに酸素濃度センサが配設されていることが多い。そこで、かかる既存の酸素濃度センサを、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において、酸素濃度検出手段として利用してもよい。
上記空気侵入判定手段は、上述のように、酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて循環通路内への空気の侵入の有無を判定する。上記空気侵入判定手段は、例えば、酸素濃度検出手段から送出される、酸素濃度に対応する測定信号(検出信号)等に基づいて、循環通路内に空気が侵入したか否かを判定するためのアルゴリズムを備えるのが一般的である。当該アルゴリズムはソフトウェア(例えば、プログラム等)として実装されていてもよく、ハードウェア(例えば、演算回路等)として実装されていてもよい。
例えば、一般的には、当該アルゴリズムは、例えば、上記作動ガス循環型エンジンを含むシステムに関する各種制御を行うための電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)が備えるROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等の記憶装置にプログラムとして格納され、ECUが備える中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)によって、当該プログラムによって規定される処理(循環通路内への空気の侵入の有無の判定)が実行されるように実装される。加えて、上記ECUは、例えば、上記検出信号を受け取ったり、判定結果に基づく処理を他の手段に実行させるための指示信号(制御信号)を送出したりするための通信ポート等を備えることができる。因みに、ECUとは、例えば、CPUと、ROM、RAM、HDD、又は不揮発性メモリ等の記憶装置と、インターフェース等と、を含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子装置を指す。但し、空気侵入判定手段及び電子制御装置に関する上記説明はあくまでも例示であって、空気侵入判定手段及び電子制御装置の構成は上記説明に限定されるものではない。
上述のように、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法は、以上説明してきたような作動ガス循環型エンジンに適用されるものであり、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出する、第1酸素濃度検出ステップ、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出する、第2酸素濃度検出ステップ、及び
前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、空気侵入判定ステップ、
を含む。
先ず、第1酸素濃度検出ステップにおいては、上述のように、酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出する。ここで、第1酸素濃度としては、エンジン停止直後に検出される循環通路内の酸素濃度を当てることができる。換言すれば、所定期間1としては、特段の理由が無い限り、エンジンが停止して以降の、ごく短い期間を設定することができる。具体的には、所定期間1は、例えば、上記作動ガス循環型エンジンを含むシステムにおいて、エンジン停止の指示が出され、実際にエンジンが停止し、循環通路内の循環ガスにおける酸素濃度分布が概ね一様となった直後の循環通路内の酸素濃度が第1酸素濃度として酸素濃度検出手段によって検出されるように設定することができる。
次に、第2酸素濃度検出ステップにおいては、上述のように、酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出する。ここで、所定期間2は、作動ガス循環型エンジンの既燃ガスの循環通路への空気の侵入が発生していると想定した場合に、循環通路内の酸素濃度が有意な変化を示すのに十分長い期間であることが望ましい。但し、エンジンが(再び)始動すると、エンジンの運転条件によって、循環通路内の酸素濃度が変動するので、所定期間2は、酸素濃度検出手段が、エンジンが再始動する前に、第2酸素濃度を検出するように設定される必要がある。
換言すれば、所定期間2は、エンジンが再始動する前であって、前回エンジンが停止して所定期間1が経過し、第1酸素濃度が検出された時点から十分に長い期間が経過した時点において第2酸素濃度が検出されるように設定される。ここで「十分に長い期間」は、上述のように、循環通路内の酸素濃度が有意な変化を示すのに十分長い期間であり、例えば、酸素濃度検出手段の検出精度や循環通路内の酸素濃度の変動要因等を考慮して設定することができる。具体的には、第2酸素濃度は、前回エンジンが停止してから所定期間2が経過したことをもって直ちに検出してもよく、あるいは所定期間2の経過後であって、エンジン始動の指示が出され、エンジンが実際に始動する前の時点(つまり、エンジン再起動の直前)において検出してもよい。尚、エンジンが停止してから再始動されるまでの期間の長さはまちまちであるが、上述の概念に反しない限り、所定期間2は固定値でなくてもよい。
更に、空気侵入判定ステップにおいては、上述のように、空気侵入判定手段が、第2酸素濃度から第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、酸素濃度差が所定値A未満である場合は循環通路内への空気の侵入が無いと判定する。ここで、酸素濃度差は、第1酸素濃度と第2酸素濃度との差である。換言すれば、酸素濃度差は、循環通路内の酸素濃度が、エンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間1が経過した時点からエンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分に該当する。即ち、空気侵入判定手段は、同期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分が所定値A以上である場合は循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、同期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分が所定値A未満である場合は循環通路内への空気の侵入が無いと判定する。
また、上記所定値Aは、循環通路内への空気の侵入の有無を判定する際の閾値である。上記所定値Aは、例えば、酸素濃度検出手段の検出精度等に基づき、エンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間1が経過した時点からエンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分を有意なものとみなすことができる最小値等を考慮して定めることができる。空気侵入判定手段は、かかる閾値としての所定値Aに基づいて、循環通路内への空気の侵入の有無を判定し、同判定結果は、例えば、循環通路内への空気の侵入を知らせる警告、エンジンの再始動の禁止、及び循環通路内に進入した空気のパージ処理等、他の処理を実行するか否かの条件分岐等に利用することができる。
尚、上述の所定期間1、所定期間2、及び所定値Aは、前述の循環通路内に空気が侵入したか否かを判定するためのアルゴリズムと同様に、例えば、ECUが備えるROM又はRAM等の記憶装置にデータとして格納され、ECUが備えるCPUによって、当該アルゴリズムに対応するプログラムによって規定される処理(例えば、第1酸素濃度及び第2酸素濃度の検出、循環通路内への空気の侵入の有無の判定等)が実行される際に参照されるようにしてもよい。
ところで、本発明に係る作動ガス循環型エンジンにおいて使用される上記燃料としては、例えば、ガソリン、軽油、天然ガス、プロパン、水素等の、種々の燃料を用いることができる。但し、前述のように、本発明は、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定することを目的とするものである。作動ガス循環型エンジンにおいては、燃焼室における燃料の燃焼の結果として生ずる燃焼生成物を既燃ガスから除去する必要がある。かかる観点から、上記燃料としては、既燃ガスから容易に除去することができる燃焼生成物のみを生ずるものが望ましい。具体的には、上記燃料としては、水素が望ましい。水素を燃料として使用すると、燃焼生成物として水(HO)のみを生ずるので望ましい。
また、上記酸化剤としては、エンジンの燃焼室内で燃料を酸化させて熱を生じ、作動ガスを膨張させて動力を生み出すことができる限り、如何なる酸化剤であってもよい。しかしながら、酸化剤は、燃料を酸化(燃焼)させた結果として、燃料の酸化体に加えて、自らの還元体をも生ずる。作動ガス循環型エンジンにおいては、かかる酸化体や還元体をも既燃ガスから除去する必要がある。かかる観点から、上記酸化剤としては、既燃ガスから容易に除去することができる燃料の酸化体及び酸化剤の還元体のみを生ずるものが望ましい。具体的には、上記酸化剤としては、酸素が望ましい。酸化剤としての酸素を、上述の望ましい燃料としての水素と組み合わせて使用すると、燃焼(水素)の酸化体でもあり、酸化剤(酸素)の還元体でもある水(HO)のみが燃焼生成物として生ずるので望ましい。
更に、上記作動ガスとしては、例えば、空気や窒素等の種々のガスを用いることができるが、エンジンの熱効率を高めるという観点からは、大きい比熱比を有するガスを使用することが望ましい。また、燃焼室内での燃料の燃焼に伴って有害な物質を発生させないという観点からは、不活性ガスを使用することが望ましい。具体的には、上記作動ガスとしては、例えば、アルゴン、ネオン、ヘリウム等の不活性な単原子ガスを使用することが望ましい。かかる比熱比が大きいガスを作動ガスとして用いる場合、比較的小さい比熱比を有するガス(例えば、空気、窒素等)を作動ガスとして用いる場合と比較して、より高い熱効率でエンジンを運転することができる。また、これらは不活性な希ガスであるため、例えば、空気を作動ガスとして使用する場合に生ずる窒素酸化物(NOx)のような有害物質を発生させないので望ましい。これらの中で、作動ガス循環型エンジンにおける作動ガスとしては、アルゴンが広く使用されている。
従って、本発明の第2態様は、
本発明の前記第1態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
前記燃料、酸化剤、及び作動ガスが、それぞれ水素、酸素、及びアルゴンであることを特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法である。
上記のように、上記燃料、酸化剤、及び作動ガスとして、それぞれ水素、酸素、及びアルゴンを使用すると、燃焼生成物として水(HO)のみを生じ、燃焼生成物の既燃ガスからの除去が容易であり、作動ガスの比熱比が高いためエンジンの熱効率が高まり、更に、作動ガスが不活性であり、燃料の燃焼に伴って有害物質を発生させないことから、これらの燃料、酸化剤、及び作動ガスの組み合わせは極めて望ましい。
ところで、前述のように、空気侵入判定手段によってなされる循環通路内への空気の侵入の有無についての判定結果は、例えば、循環通路内への空気の侵入を知らせる警告、エンジンの再始動の禁止、及び循環通路内に進入した空気のパージ処理等、他の処理を実行するか否かの条件分岐等に利用することができる。
例えば、空気侵入判定手段によって循環通路内への空気の侵入が発生していると判定された際に、何等かの警告を行うことにより、例えば、循環通路内への空気の侵入が発生していることを運転者や車両点検者に知らせ、循環通路の密閉性の点検や空気の侵入箇所の補修等を促すことができる。
従って、本発明の第3態様は、
本発明の前記第1態様又は前記第2態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
前記作動ガス循環型エンジンが警告手段を更に備えること、及び
前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
前記警告手段が、前記酸素濃度差が前記所定値A以上である場合は警告を発し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は警告を発しない、警告ステップ、
を更に含むこと、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法である。
上記警告手段は、例えば、前述の空気侵入判定手段の構成に関する説明において言及したECU(電子制御装置)に接続されて、空気侵入判定手段による判定結果に基づいて、同ECUの制御によって警告を発するように構成された警告手段であってもよい。また、上記警告手段が発する警告は、特定の方法によるものに限定される必要は無く、例えば、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用されるエンジンを搭載する車両の運転者や車両点検者等の視覚や聴覚等に訴える方法(例えば、警告ランプ、アラーム音、音声等)であってもよい。但し、警告手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、警告手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
上記のように、本実施態様においては、循環通路内への空気の侵入が有ると空気侵入判定手段が判定する状況にある場合には、例えば、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用されるエンジンを搭載する車両のインパネ(インストゥルメンタル・パネル)等のダッシュボードに配設された警告ランプの点灯、オーディオシステムを介するアラーム音や音声等の鳴動等により、当該車両の運転者や車両点検者等に対して警告が発せられる。これにより、運転者や車両点検者等は、例えば、当該車両が搭載するエンジンの循環通路内への空気の侵入が発生していることを察知して、循環通路の密閉性の点検や空気の侵入箇所の補修等にいち早く取り掛かることができる。
ところで、本実施態様の変形例として、循環通路内への空気の侵入の有無を判定する際の閾値である所定値Aを複数設定し、それぞれに対応する複数の警告を発するようにしてもよい。例えば、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において循環通路内への空気の侵入の有無を判定する際の閾値として使用される所定値Aよりも大きい第2の所定値Aを設定しておき、当該変形例に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、第2の警告ステップとして、第2の警告手段が、酸素濃度差がかかる第2の所定値A以上である場合は第2の警告を発し、酸素濃度差が第2の所定値A未満である場合は第2の警告を発しない、ステップを更に含むようにしてもよい。
この場合、上記第2の警告ステップにより、酸素濃度差が、所定値Aよりも大きい第2の所定値A以上である場合は第2の警告が発せられる。この第2の警告により、当該変形例に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用されるエンジンを搭載する車両の運転者や車両点検者は、例えば、当該車両が搭載するエンジンの循環通路内への空気の侵入が更に深刻な状況となっており、循環通路の密閉性の点検や空気の侵入箇所の補修等を早急に行わずに放置すると、やがて当該エンジンが停止する等の重大な事態を迎える危険性が高いことを察知することができる。
尚、上記変形例のように複数の警告を発するようにする場合、複数の警告手段を設けるのではなく、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法における警告手段がそれぞれの警告手段の機能を兼ねてもよい。即ち、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法における警告手段が、複数の閾値に基づいて複数の警告を発するようにしてもよい。
ところで、上記のように、作動ガス循環型エンジンの循環通路内への空気の侵入が更に深刻な状況となった場合に、循環通路の密閉性の点検や空気の侵入箇所の補修等を早急に行わずに放置すると、当該エンジンの始動を許可しても、失火(ミスファイヤ)等により当該エンジンが停止する等の虞がある。
上述のような問題を考慮すると、作動ガス循環型エンジンの循環通路内への空気の侵入が更に深刻な状況となった場合は、当該エンジンの始動を禁止することが望ましい。
そこで、本発明の第4態様は、
本発明の前記第1態様乃至前記第3態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
前記作動ガス循環型エンジンが、
エンジンの始動を禁止する始動禁止手段、
を更に備えること、及び
前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
前記始動禁止手段が、前記酸素濃度差が前記所定値Aよりも大きい値である所定値B以上である場合はエンジンの始動を禁止し、前記酸素濃度差が前記所定値B未満である場合はエンジンの始動を禁止しない、始動禁止ステップ、
を更に含むこと、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法である。
上記始動禁止手段は、所定の期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分(酸素濃度差)が上記所定値B以上である場合には、たとえ運転者等によるエンジン始動の指示があったとしても、当該エンジンの始動を禁止する手段である。具体的には、上記始動禁止手段は、例えば、エンジン始動用モータ(所謂「セルモータ」)への電源供給を遮断することにより、当該エンジンの始動を禁止することができる。
また、上記所定値Bは、循環通路内への空気の侵入の程度がエンジンの始動を禁止すべきレベルであるか否かを判定する際の閾値である。上記所定値Bは、例えば、エンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間1が経過した時点からエンジン再始動前であってエンジン停止後に所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分が、上述のような意図せぬエンジン停止等の問題を引き起こす程のものであるか否か等を考慮して定めることができる。
始動禁止手段は、かかる閾値としての所定値Bに基づき、酸素濃度差が前記所定値Aよりも大きい値である所定値B以上である場合はエンジンの始動を禁止し、前記酸素濃度差が前記所定値B未満である場合はエンジンの始動を禁止しない。これにより、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によれば、循環通路内への空気の侵入が著しく多いと判定される場合(即ち、酸素濃度差が所定値B以上である場合)、当該エンジンの始動が強制的に禁止されるので、上述のような意図せぬエンジン停止等の問題を未然に防止することができる。
ところで、周知のように、空気の主成分は窒素及び酸素である。従って、作動ガス循環型エンジンの既燃ガスの循環通路内に空気が侵入した場合、侵入した空気に含まれる酸素は当該エンジンにおける燃料の燃焼の際に酸化剤として消費されて減少する可能性があるものの、窒素は燃料の燃焼には寄与しないため、消費されずに循環通路内に蓄積されてゆく。前述のように、窒素の比熱比は、作動ガス循環型エンジンにおいて一般的に使用される作動ガス(例えば、不活性な単原子ガス)の比熱比と比較して低い。
結果として、作動ガス循環型エンジンの既燃ガスの循環通路内に空気が侵入した場合、相対的に低い比熱比を有する窒素が当該エンジンの循環通路内に蓄積されるため、作動ガス全体としての比熱比が低下し、当該エンジンの熱効率が低下してしまう。即ち、循環通路内に空気が侵入した作動ガス循環型エンジンにおいて、当該エンジンの熱効率を良好なレベルに維持するためには、循環通路内における窒素の蓄積量を、エンジンの熱効率に実質的な影響を及ぼさない水準未満に維持する必要がある。
従って、本発明の第5態様は、
本発明の前記第1態様乃至前記第4態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
前記作動ガス循環型エンジンが、
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記循環通路内に侵入した窒素の蓄積量である窒素蓄積量を推定する窒素蓄積量推定手段、及び
前記循環通路内に前記作動ガスを充填する作動ガス充填手段、
を更に備えること、並びに
前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
前記窒素蓄積量推定手段が、前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記窒素蓄積量を推定する、窒素蓄積量推定ステップ、及び
前記作動ガス充填手段が、前記窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填し、前記窒素蓄積量が前記所定値C未満である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填しない、作動ガス充填ステップ、
を更に含むこと、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法である。
上記窒素蓄積量推定手段は、上述のように、酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて循環通路内に侵入した窒素の蓄積量である窒素蓄積量を推定する。より具体的には、上記窒素蓄積量推定手段は、例えば、前述の空気侵入判定ステップが実行される度に算出される酸素濃度差を、例えば、ECUが備える記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDD、又は不揮発性メモリ等)に格納しておき、既知の空気の構成成分の比率に基づいて、個々の酸素濃度差のそれぞれに対応する窒素の濃度(侵入量)を算出する。上記窒素蓄積量推定手段は、斯くして算出された、循環通路内に侵入した窒素の量の合計値を求めることにより、窒素蓄積量を推定することができる。
尚、上記窒素蓄積量推定手段によって実行される上記のような処理のアルゴリズムは、例えば、ソフトウェア(例えば、プログラム等)として実装されていてもよく、ハードウェア(例えば、演算回路等)として実装されていてもよい。例えば、一般的には、かかるアルゴリズムは、例えば、ECUが備える記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDD、又は不揮発性メモリ等)にプログラムとして格納され、ECUが備えるCPUによって、当該プログラムによって規定される処理(窒素蓄積量の算出)が実行されるように実装される。
また、上記作動ガス充填手段は循環通路内に作動ガスを充填する手段である。例えば、上記作動ガス充填手段は、作動ガスを貯蔵する作動ガス貯蔵部(例えば、タンク、ボンベ等)、同作動ガス貯蔵部と循環通路とを連通する作動ガス供給路、及び同作動ガス供給路に介装され作動ガスの流量を調節する作動ガス流量調整手段(例えば、可変絞り弁)等を含んでなる。この場合、作動ガス充填手段は、作動ガス貯蔵部内に貯蔵された作動ガス自体の圧力によって作動ガスを循環通路内に供給するタイプのものであっても、あるいは、作動ガス供給路に介在された圧縮機(例えば、コンプレッサ、ポンプ等)によって作動ガスの圧力を高めて作動ガスを循環通路内に供給するタイプのものであってもよい。
更に、上記所定値Cは、循環通路内に侵入した窒素の蓄積量が、作動ガス充填手段を作動させて循環通路内に作動ガスを追加すべきレベルであるか否かを判定する際の閾値である。上記所定値Cは、例えば、上記窒素蓄積量推定手段によって循環通路内の酸素濃度の変動履歴に基づいて推定される循環通路内における窒素の蓄積量(窒素蓄積量)が、斯くして蓄積された窒素を含む作動ガス全体としての比熱比を低下させ、エンジンの熱効率に実質的な影響を及ぼす程のものであるか否か等を考慮して定めることができる。
上記作動ガス充填手段は、かかる閾値としての所定値Cに基づき、前記窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填し、前記窒素蓄積量が前記所定値C未満である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填しない。これにより、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によれば、循環通路内に侵入した窒素の蓄積量(窒素蓄積量)が著しく多いと判定される場合(即ち、窒素蓄積量が所定値C以上である場合)、循環通路内に前記作動ガスが追加的に充填されるので、上述のように蓄積された窒素を含む作動ガス全体としての比熱比が低下し、結果としてエンジンの熱効率が低下する問題を回避することができる。
ところで、窒素蓄積量推定手段によって推定される窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合に作動ガス充填手段によって循環通路内に追加的に充填される作動ガスの量は、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用されるエンジンを含むシステムの構成に応じて適宜定めることができる。
例えば、同システムが、作動ガス充填手段によって新たな作動ガスが充填される作動ガス充填口と、作動ガスが充填される際に、新たな作動ガスの充填量に応じて循環通路内の既存のガスを循環通路から排出するための既存ガス排出口とを備え、この作動ガス充填口と既存ガス排出口との間に該当する循環通路内の空間(以降、「パージ空間」と勝する)に存在する既存ガスが、作動ガス充填手段によって循環通路内に追加的に充填される作動ガスによって置換される場合は、同パージ空間以外の循環通路内の空間に存在するガスに含まれる窒素は置換されずに循環通路内に残るため、上記パージ空間においては、窒素の量が、例えばエンジンの熱効率等の観点から残存が許容される窒素の量から当該置換されない窒素の量を差し引いた量よりも少なくなるまで、既存のガスが新たな作動ガスによって置換されなければならない。
あるいは、作動ガス充填手段によって新たに充填される作動ガスが循環通路内の既存ガスと混合された後に当該混合ガスが循環通路から排出されるような構成においては、上述のようにパージ空間内の既存ガスが新たな作動ガスによって置換されるような構成と比較して、より多くの作動ガスを追加的に充填する必要がある。
以上、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法の幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの方法に留まるものではなく、これらの方法を実現する作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置もまた、本発明の範囲に含まれる。これらの装置の詳細については、これまでに説明してきた各実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法についての説明から明らかであるので、ここでは改めて説明せず、それぞれの作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置の構成要件のみ以下に列挙する。
即ち、本発明の第6態様は、
燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出し、
前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出し、そして
前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、
ように構成されていること、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置である。
また、本発明の第7態様は、
本発明の前記第6態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
前記燃料、酸化剤、及び作動ガスが、それぞれ水素、酸素、及びアルゴンであることを特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置である。
更に、本発明の第8態様は、
本発明の前記第6態様又は前記第7態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
前記作動ガス循環型エンジンが警告手段を更に備えること、及び
前記警告手段が、前記酸素濃度差が前記所定値A以上である場合は警告を発し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は警告を発しない、
ように構成されていること、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置である。
加えて、本発明の第9態様は、
本発明の前記第6態様乃至前記第8態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
前記作動ガス循環型エンジンが、
エンジンの始動を禁止する始動禁止手段、
を更に備えること、及び
前記始動禁止手段が、前記酸素濃度差が前記所定値Aよりも大きい値である所定値B以上である場合はエンジンの始動を禁止し、前記酸素濃度差が前記所定値B未満である場合はエンジンの始動を禁止しない、
ように構成されていること、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置である。
また更に、本発明の第10態様は、
本発明の前記第6態様乃至前記第9態様の何れかに係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
前記作動ガス循環型エンジンが、
前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記循環通路内に侵入した窒素の蓄積量である窒素蓄積量を推定する窒素蓄積量推定手段、及び
前記循環通路内に前記作動ガスを充填する作動ガス充填手段、
を更に備えること、並びに
前記窒素蓄積量推定手段が、前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記窒素蓄積量を推定し、
前記作動ガス充填手段が、前記窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填し、前記窒素蓄積量が前記所定値C未満である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填しない、
ように構成されていること、
を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置である。
以上のように、本発明の各種実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法及び空気侵入判定装置によれば、エンジン停止後及び再始動前の循環通路内の酸素濃度を酸素濃度検出手段によって検出し、これらの酸素濃度の差に基づいて循環通路内への空気の侵入の有無が判定される。これにより、本発明によれば、作動ガス循環型エンジンにおける既燃ガスの循環通路への空気の侵入を迅速且つ高精度に判定することができる。その結果、本発明によれば、循環通路内への空気の侵入に起因するエンジンの熱効率の低下等の問題を未然に防止することができる。
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法及び空気侵入判定装置につき、添付図面を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまで例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
1)作動ガス循環型エンジンを含むシステムの構成
前述のように、図1は、本発明の1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が適用される作動ガス循環型エンジンを含むシステムの構成を表す概略図である。当該システムは、作動ガス循環型エンジンの本体部110、燃料供給部130、酸素供給部140、作動ガス供給部(作動ガス充填手段)150、循環通路部160、及び凝縮手段170を備えている。図1に示すように、このエンジンは、燃焼室に酸化剤としての酸素及び作動ガスとしてのアルゴンガスを供給し、このガスを圧縮することにより高温高圧となったガス中に、燃料としての水素ガスを噴射することによって燃料を拡散燃焼させる形式のエンジンである。なお、図1はエンジン本体部110の特定気筒の断面のみを示しているが、複数の気筒を含むエンジンの場合は、他の気筒も同様な構成を備えている。
エンジン本体部110は、特定の構成に限定されるものではないが、本実施態様においては、シリンダヘッド111と、シリンダブロックが形成するシリンダ112と、シリンダ内において往復運動するピストン113と、クランク軸114と、ピストン113とクランク軸114とを連結しピストン113の往復運動をクランク軸114の回転運動に変換するためのコネクティングロッド115と、シリンダブロックに連接されたオイルパン116とを備えるピストン往復動型エンジンである。
この場合、ピストン113の側面にはピストンリングが配設され(図示せず)、シリンダヘッド111、シリンダ112及びオイルパン116から形成される空間は、ピストン113により、ピストンの頂面側の燃焼室117と、クランク軸を収容するクランクケース118と、に区画されている。
シリンダヘッド111には、燃焼室117に連通した吸気ポートと、燃焼室117に連通した排気ポートと、が形成されている(何れも図示せず)。吸気ポートには吸気ポートを開閉する吸気弁121が配設され、排気ポートには排気ポートを開閉する排気弁122が配設されている。更に、シリンダヘッドには、燃料としての水素ガスを燃焼室117内に直接噴射する燃料噴射弁123が配設されている。
燃料供給部130は、燃料タンク131(水素ガスタンク)、燃料ガス通路132、燃料ガス圧レギュレータ(図示せず)、燃料ガス流量計(図示せず)、及びサージタンク(図示せず)等を備えることができる。また、酸化剤供給部140は、酸化剤タンク141(酸素ガスタンク)、酸素ガス通路142、酸素ガス圧レギュレータ(図示せず)、酸素ガス流量計(図示せず)、及び酸素ガスミキサ(図示せず)を備えることができる。更に、作動ガス供給部(作動ガス充填手段)140は、作動ガスタンク141(アルゴンガスタンク)、作動ガス通路142、作動ガス圧レギュレータ(図示せず)、作動ガス流量計(図示せず)、及び作動ガスミキサ(図示せず)を備えることができる。
尚、エンジン本体部110、燃料供給部130、酸化剤供給部140、及び作動ガス供給部150の具体的な構成並びに動作については、例えば、作動ガス循環型水素エンジン等に関して当該技術分野において周知であるので、本明細書における詳細な説明は割愛する。
循環通路部160は、第1及び第2通路部(第1及び第2流路形成管)161及び162を備え、第1通路部161と第2通路部162との間に、入口部と出口部とを有する凝縮手段170が介装されている。循環通路部160は、排気ポートと吸気ポートとを燃焼室117の外部にて接続する「既燃ガス(循環ガス)の循環通路」を構成している。
第1通路部161は、排気ポートと凝縮手段170の入口部とを接続している。第2通路部162は、凝縮手段170の出口部とと吸気ポートとを接続しており、その途中に、酸素ガスミキサ及び作動ガスミキサ等(図示せず)を介して酸素供給部140及び作動ガス供給部150が合流している。
凝縮手段170は、上述したように既燃ガス(循環ガス)の入口部と出口部とを備える。更に、凝縮手段170は、冷媒導入口171、冷媒排出口172、及び凝縮水排出口173を備え、冷媒導入口171と冷媒排出口172とを接続する冷媒循環部には、冷媒の冷却に用いられる放熱器(ラジエタ)174が介装されている。尚、冷媒としては、例えば、水を使用することができる。
凝縮手段170は、入口部から導入されて出口部から排出される既燃ガス(循環ガス)に含まれる水分(水蒸気)を、冷媒導入口171から導入されると共に凝縮手段170の内部を通過した後に冷媒排出口172から排出される冷媒によって冷却し、凝縮させる。凝縮された水は、一旦、凝縮手段170の底部に溜まり、凝縮水排出口173を開閉する弁体(図示せず)が開かれた際に凝縮水排出口173を通して系外に排出される。即ち、本実施態様においては、凝縮手段170の底部が、凝縮水溜めの機能を果たしており、凝縮水排出口173及び上記弁体が排水手段を構成している。一方、水分が除去(分離)されたガスは、凝縮手段170の出口部から循環通路部160(第2通路部162)に排出される。
尚、上記のように、本実施態様においては、凝縮手段170は冷却水を冷媒として使用することができる水冷式凝縮器を用いているが、凝縮手段170は、水以外の冷媒を使用するものであってもよく、空気(空気の送風)により内部を通過するガスの水分を凝縮させる空冷式凝縮部を備えるものであってもよい。
次に、本実施態様においては、上記凝縮手段よりも上流の循環通路部160(第1通路部161)に、酸素濃度検出部180(酸素濃度検出手段)が配設されている。酸素濃度検出部180は、第1通路部161内の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ181、及び酸素濃度センサ181によって検出された酸素濃度に対応する測定信号(検出信号)を送出する酸素濃度検出信号送出ライン182を備える。
上記のように、酸素濃度検出部180が備える酸素濃度センサ181によって検出された酸素濃度に対応する測定信号(検出信号)は、例えば、酸素濃度検出信号送出ライン182によってECU(図示せず)に提供され、当該ECUが備える記憶装置(例えば、ROM)に格納されたプログラムに基づいて、(空気侵入判定ステップにおいて)循環通路内に空気が侵入したか否かを判定する処理を、当該ECUが備えるCPUに実行させる際に利用される。
本実施態様においては、前述のように、酸素濃度検出手段180が、エンジン110の停止後に所定期間1が経過し且つエンジン110の再始動前の時点における循環通路部160内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出し、次いで、エンジン110の停止後に所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン110の始動前の時点における循環通路部160内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出し、更に空気侵入判定手段(図示せず)が、第2酸素濃度から第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は循環通路部160内への空気の侵入が有ると判定し、酸素濃度差が所定値A未満である場合は循環通路部160内への空気の侵入が無いと判定する。かかる作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において実行される一連の処理につき、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
2)作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法の具体例(1)
前述のように、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法においては、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度が検出され、次いでエンジン停止後に所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度が検出され、更に、第2酸素濃度から第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は循環通路内への空気の侵入が有ると判定され、かかる酸素濃度差が所定値A未満である場合は循環通路内への空気の侵入が無いと判定される。前述のように、このようにして得られる判定結果に基づいて、種々のアクション(例えば、警告を発する等)を制御することもできる。
かかる一連の処理につき、ここで、図2を参照しながら説明する。図2は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において実行される一連の処理を表すフローチャートである。同フローチャートに示される一連の処理は、例えば、エンジンの停止をトリガとする等して、適切なタイミングにおいて開始させることができる。
図2に示すように、本実施態様においては、先ずステップS201において、作動ガス循環型エンジンが停止される。その後、エンジン停止後に所定期間1が経過すると(ステップS202:Yes)、この時点における循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度C1が酸素濃度検出手段によって検出され、例えば、ECUが備える記憶装置(例えば、RAM、HDD等)に格納される(ステップS203)。但し、前述のように、この所定期間1としては、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンを含むシステムにおいて、エンジンが停止した直後の循環通路内の酸素濃度が第1酸素濃度C1として酸素濃度検出手段によって検出されるように、ごく短い期間を設定するのが一般的である。尚、エンジンが停止してから所定期間1が未経過である場合は(ステップS202:No)、所定期間1が経過するまで、このステップS202において待機する。
本実施態様においては、上記ステップS203において第1酸素濃度C1が取得された後に、例えば、当該エンジンを搭載する車両の運転手等によってエンジン始動の指示がなされる(ステップS204)。但し、このステップは必ずしも必須ではない。何れにせよ、エンジンが停止してから所定期間2が経過すると(ステップS205:Yes)、この時点における循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度C2が酸素濃度検出手段によって検出され、例えば、ECUが備える記憶装置に格納される(ステップS206)。但し、前述のように、この所定期間2は所定期間1よりも長い期間であり、当該エンジンの循環通路への空気の侵入が発生していると想定した場合に、循環通路内の酸素濃度が有意な変化を示すのに十分長い期間として設定される。尚、エンジンが停止してから所定期間2が未経過である場合は(ステップS205:No)、所定期間2が経過するまで、このステップS205において待機する。
第2酸素濃度C2は、前述のように、ステップS201においてエンジンが停止してから所定期間2が経過したことをもって直ちに検出してもよく、あるいは所定期間2の経過後であって、エンジン始動の指示が出され、エンジンが実際に始動する前の時点(つまり、エンジン再起動の直前)において検出してもよい。尚、エンジンが停止してから再始動されるまでの期間の長さはまちまちであるが、上述の概念に反しない限り、所定期間2は固定値でなくてもよい。
以上説明してきたステップS201乃至S203の一連の処理は、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法における第1酸素濃度検出ステップに該当し、ステップS205及びS206の一連の処理は、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法における第2酸素濃度検出ステップに該当する。このように、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法においては、エンジンが停止している期間中の循環通路内における酸素濃度の変化を検出し、当該変化に基づいて当該循環経路内への空気の侵入を判定するため、エンジンの運転条件等による影響を受け難く、判定精度を高めることができる。
続いて、上述のように取得された第1酸素濃度C1及び第2酸素濃度C2から酸素濃度差ΔCが算出される(ステップS207)。具体的には、酸素濃度差ΔCは、第2酸素濃度C2から第1酸素濃度C1を減算することによって得ることができる。かかる処理は、前述のように、例えばECUが備える記憶装置に格納されたプログラムをCPUに実行させることによって行うことができる。尚、酸素濃度差ΔCは、エンジン停止から所定期間1が経過した時点から所定期間2が経過した時点までの間に巡検通路内に侵入した空気の量に強い関連を有する値である。
次いで、ステップS208において、上述のようにして得られた酸素濃度差ΔCが所定値A以上であるか否かが判定される。ここで、所定値Aは、前述のように、循環通路内への空気の侵入の有無を判定する際の閾値である。所定値Aは、例えば、酸素濃度検出手段の検出精度等に基づき、エンジン停止後に所定期間1が経過した時点から所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分を有意なものとみなすことができる最小値等を考慮して定められる閾値である。所定値Aは、エンジン停止後に所定期間1が経過した時点から所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分が有意なものであるか否か等を考慮して予め定めることができる。
ステップS208においては、かかる閾値としての所定値Aに基づいて、循環通路内への空気の侵入の有無が判定される。具体的には、ステップS208においては、酸素濃度差ΔCが所定値A以上である場合は(ステップS208:Yes)、循環通路内への空気の侵入が有ると判定される(ステップS209)。一方、酸素濃度差ΔCが所定値A未満である場合は(ステップS208:No)、循環通路内への空気の侵入が無いと判定され(ステップS210)、このフローチャートによって示される一連の処理が終了される。
以上説明してきたステップS207からS210までの一連の処理が、本発明に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法における空気侵入判定ステップに該当する。本実施例においては、この空気侵入判定ステップにおいて循環通路内への空気の侵入が有ると判定された場合は(ステップS208:Yes→ステップS209)、ステップS211において警告が発せられる。当該ステップは、前述の警告ステップに該当する。尚、前述のように、警告は特定の方法によるものに限定される必要は無く、例えば、警告ランプ、アラーム音、音声等のように運転者や車両点検者等の視覚や聴覚等に訴える方法であっても、バイブレータ等の触覚に訴えるものであってもよい。このようにして警告を行うことにより、例えば、循環通路内への空気の侵入が発生していることを運転者や車両点検者に知らせ、循環通路の密閉性の点検や空気の侵入箇所の補修等を促すことができる。
更に、本実施態様においては、ステップS212において、ステップS207において算出された酸素濃度差ΔCが上述の所定値Aよりも大きい値である所定値B以上であるか否かが判定される。所定値Bは、前述のように、循環通路内への空気の侵入の程度がエンジンの始動を禁止すべきレベルであるか否かを判定する際の閾値である。ここで、エンジンの始動を禁止すべきレベルとは、例えば、循環通路内への多量の空気の侵入によって、燃焼室内における失火(ミスファイヤ)等に起因して、上述のような意図せぬエンジン停止等の問題を引き起こす虞がある程の循環通路の気密性の大幅な低下に相当する。
ステップS212においては、かかる閾値としての所定値Bに基づき、酸素濃度差ΔCが(所定値Aよりも大きい値である)所定値B以上である場合は(ステップS212:Yes)、エンジンの始動を禁止し(ステップS213)、酸素濃度差ΔCが所定値B未満である場合は(ステップS212:No)、エンジンの始動を禁止せずに、このフローチャートによって示される一連の処理が終了される。当該ステップは、前述の始動禁止ステップに該当する。
結果として、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によれば、酸素濃度差ΔCが所定値B以上である場合(ステップS212:Yes)、循環通路内への空気の侵入が著しく多いと判定され、たとえ運転者等によるエンジン始動の指示があった場合でも、当該エンジンの始動が強制的に禁止される。従って、上述のような意図せぬエンジン停止等の問題を未然に防止することができる。
3)作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法の具体例(2)
上述の具体例(1)に示した実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によれば、エンジン停止後に所定期間1が経過した時点から所定期間2が経過した時点までの期間における循環通路内の酸素濃度の上昇分に相当する酸素濃度差ΔCを、所定値A、所定値B等の閾値を用いて評価・判定し、かかる判定結果に基づいて、例えば、運転者等への警告やエンジンの再始動の禁止等の種々のアクションを制御している。
ところで、前述のように、空気の主成分である窒素は燃料の燃焼には寄与しないため、作動ガス循環型エンジンの循環通路内に侵入した空気に含まれる窒素は、消費されずに循環通路内に蓄積されてゆく。窒素の比熱比は、作動ガス循環型エンジンにおいて一般的に使用される作動ガス(例えば、アルゴン等の不活性な単原子ガス)の比熱比と比べて低いため、作動ガス全体としての比熱比が低下し、当該エンジンの熱効率が低下してしまう。即ち、循環通路内に空気が侵入した作動ガス循環型エンジンにおいて、当該エンジンの熱効率を良好なレベルに維持するためには、循環通路内における窒素の蓄積量を、エンジンの熱効率に実質的な影響を及ぼさない水準未満に維持する必要がある。
かかる一連の処理につき、ここで、図3を参照しながら説明する。図3は、前述のように、本発明のもう1つの実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法において実行される一連の処理を表すフローチャートである。同フローチャートに示される一連の処理は、例えば、エンジンの停止をトリガとする等して、適切なタイミングにおいて開始させることができる。
図3に示すように、本実施態様においても、上述の具体例(1)に示した実施態様と同様に、作動ガス循環型エンジンが停止されるステップ(S301)が一連の処理を開始するトリガとなっており、このステップS301から酸素濃度差ΔCが算出されるステップ(S307)までの各々の処理は、上述の具体例(1)に示した実施態様におけるステップS201からステップS207までの各々の処理と同一であるので、本実施態様においては、当該部分の説明は割愛する。
図3に示すように、ステップS307において酸素濃度差ΔCが算出されると、当該酸素濃度差ΔCに基づいて、作動ガス循環型エンジンにの循環経路内における窒素増加分ΔNが推定される(ステップS308)。更に、このようにして今回推定された窒素増加分ΔNが、過去に推定された窒素増加量ΔNの合計値である窒素蓄積量ΣN(前回更新分)に加えられ、新たな窒素蓄積量ΣN(今回更新分)が得られる(ステップS309)。
次に、ステップS310において、このようにして更新された最新の窒素蓄積量ΣN(今回更新分)が所定値C以上であるか否かが判定される。最新の窒素蓄積量ΣNが所定値C以上であると判定される場合は(ステップS310:Yes)、循環通路内に作動ガス(本実施態様においてはAr)が追加的に充填され、循環通路内における窒素の濃度が低減される(ステップS311)。
ところで、所定値Cは、前述のように、循環通路内に侵入した窒素の蓄積量ΣN(今回更新分)が、作動ガス充填手段を作動させて循環通路内に作動ガスを追加すべきレベルであるか否かを判定する際の閾値である。即ち、所定値Cは、例えば、循環通路内に蓄積された窒素を含む作動ガス全体としての比熱比を低下させ、エンジンの熱効率に実質的な影響を及ぼす窒素の最低濃度等を考慮して予め定められる。
本実施態様においては、作動ガス充填手段は、かかる閾値としての所定値Cに基づき、窒素蓄積量ΣNが予め定められた所定値C以上である場合は循環通路内に作動ガス(Ar)が追加的に充填される。これにより、本実施態様に係る作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法によれば、循環通路内に侵入した窒素の蓄積量(ΣN)が著しく多いと判定される場合(即ち、窒素蓄積量ΣNが所定値C以上である場合)、循環通路内に作動ガスが追加的に充填されるので、蓄積された窒素を含む作動ガス全体としての比熱比が低下し、結果としてエンジンの熱効率が低下する問題を回避することができる。
尚、本実施態様における上記ステップS308及びステップS309の一連の処理は、前述の窒素蓄積量推定ステップに該当する。また、本実施態様における上記ステップS310及びステップS311の一連の処理は、前述の作動ガス充填ステップに該当する。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成及び実行手順の組み合わせを有する幾つかの実施例について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができる。
110…エンジン本体部、111…シリンダヘッド、112…シリンダ、113…ピストン、114…クランク軸、115…コネクティングロッド、116…オイルパン、117…燃焼室、118…クランクケース、121…吸気弁、122…排気弁、123…燃料噴射弁、130…燃料供給部、131…燃料タンク、132…燃料ガス通路、140…酸化剤供給部、141…酸化剤タンク、142…酸化剤通路、150…作動ガス供給部(作動ガス充填手段)、151…作動ガス貯蔵タンク、152…作動ガス通路、160…循環通路部、161…第1通路部(第1流路形成管)、162…第2通路部(第2流路形成管)、170…凝縮手段、171…冷媒導入口、172…冷媒排出口、173…凝縮水排出口、174…放熱器(ラジエタ)、180…酸素濃度検出部、181…酸素濃度センサ、及び182…酸素濃度検出信号送出ライン。

Claims (10)

  1. 燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
    燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
    前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
    前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
    を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
    前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出する、第1酸素濃度検出ステップ、
    前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出する、第2酸素濃度検出ステップ、及び
    前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、空気侵入判定ステップ、
    を含む、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法。
  2. 請求項1に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
    前記燃料、酸化剤、及び作動ガスが、それぞれ水素、酸素、及びアルゴンであることを特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法。
  3. 請求項1又は請求項2の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが警告手段を更に備えること、及び
    前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
    前記警告手段が、前記酸素濃度差が前記所定値A以上である場合は警告を発し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は警告を発しない、警告ステップ、
    を更に含むこと、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが、
    エンジンの始動を禁止する始動禁止手段、
    を更に備えること、及び
    前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
    前記始動禁止手段が、前記酸素濃度差が前記所定値Aよりも大きい値である所定値B以上である場合はエンジンの始動を禁止し、前記酸素濃度差が前記所定値B未満である場合はエンジンの始動を禁止しない、始動禁止ステップ、
    を更に含むこと、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが、
    前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記循環通路内に侵入した窒素の蓄積量である窒素蓄積量を推定する窒素蓄積量推定手段、及び
    前記循環通路内に前記作動ガスを充填する作動ガス充填手段、
    を更に備えること、並びに
    前記作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法が、
    前記窒素蓄積量推定手段が、前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記窒素蓄積量を推定する、窒素蓄積量推定ステップ、及び
    前記作動ガス充填手段が、前記窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填し、前記窒素蓄積量が前記所定値C未満である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填しない、作動ガス充填ステップ、
    を更に含むこと、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定方法。
  6. 燃料、酸化剤、及び作動ガスを燃焼室に導き、前記燃料を燃焼室内で燃焼させて動力を得る作動ガス循環型エンジンであって、
    燃焼室から放出される既燃ガスを燃焼室に循環させる循環通路、
    前記循環通路内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段、並びに
    前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度に基づいて前記循環通路内への空気の侵入の有無を判定する空気侵入判定手段、
    を備える作動ガス循環型エンジンにおいて、
    前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に所定期間1が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第1酸素濃度を検出し、
    前記酸素濃度検出手段が、エンジン停止後に前記所定期間1よりも長い所定期間2が経過し且つエンジン始動前の時点における前記循環通路内の酸素濃度である第2酸素濃度を検出し、そして
    前記空気侵入判定手段が、前記第2酸素濃度から前記第1酸素濃度を減じて得られる差である酸素濃度差が予め定められた所定値A以上である場合は前記循環通路内への空気の侵入が有ると判定し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は前記循環通路内への空気の侵入が無いと判定する、
    ように構成されていること、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置。
  7. 請求項6に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
    前記燃料、酸化剤、及び作動ガスが、それぞれ水素、酸素、及びアルゴンであることを特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置。
  8. 請求項6又は請求項7の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが警告手段を更に備えること、及び
    前記警告手段が、前記酸素濃度差が前記所定値A以上である場合は警告を発し、前記酸素濃度差が前記所定値A未満である場合は警告を発しない、
    ように構成されていること、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置。
  9. 請求項6乃至請求項8の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが、
    エンジンの始動を禁止する始動禁止手段、
    を更に備えること、及び
    前記始動禁止手段が、前記酸素濃度差が前記所定値Aよりも大きい値である所定値B以上である場合はエンジンの始動を禁止し、前記酸素濃度差が前記所定値B未満である場合はエンジンの始動を禁止しない、
    ように構成されていること、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置。
  10. 請求項6乃至請求項9の何れか1項に記載の作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置であって、
    前記作動ガス循環型エンジンが、
    前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記循環通路内に侵入した窒素の蓄積量である窒素蓄積量を推定する窒素蓄積量推定手段、及び
    前記循環通路内に前記作動ガスを充填する作動ガス充填手段、
    を更に備えること、並びに
    前記窒素蓄積量推定手段が、前記酸素濃度検出手段によって検出される酸素濃度の変動履歴に基づいて前記窒素蓄積量を推定し、
    前記作動ガス充填手段が、前記窒素蓄積量が予め定められた所定値C以上である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填し、前記窒素蓄積量が前記所定値C未満である場合は前記循環通路内に前記作動ガスを追加的に充填しない、
    ように構成されていること、
    を特徴とする、作動ガス循環型エンジンへの空気侵入判定装置。
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