JP2012208070A - 原子力プラント構成部材の線量低減方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制できる原子力プラント構成部材の線量低減方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントの定期検査の期間において、例えば、再循環系配管の内面にフェライト皮膜を形成する(S2)。定期検査の終了後、原子炉を起動し(S3)、定格出力で原子炉の運転を継続する(S4)。原子炉に接続された浄化系配管から炉水をサンプリングし、炉水のNi(II)イオン濃度を測定する。測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいとき、鉄酸化物を給水に注入し(S6)、鉄酸化物を含む給水を原子炉内の炉水に混合する。炉心内の燃料棒の外面に固定化された鉄酸化物が炉水内のNi(II)イオンを取り込むため、炉水のNi(II)イオン濃度が低減される。この結果、フェライト皮膜に取り込まれる極微量のCo−60イオンがさらに低減される。
【選択図】図1
【解決手段】原子力プラントの定期検査の期間において、例えば、再循環系配管の内面にフェライト皮膜を形成する(S2)。定期検査の終了後、原子炉を起動し(S3)、定格出力で原子炉の運転を継続する(S4)。原子炉に接続された浄化系配管から炉水をサンプリングし、炉水のNi(II)イオン濃度を測定する。測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいとき、鉄酸化物を給水に注入し(S6)、鉄酸化物を含む給水を原子炉内の炉水に混合する。炉心内の燃料棒の外面に固定化された鉄酸化物が炉水内のNi(II)イオンを取り込むため、炉水のNi(II)イオン濃度が低減される。この結果、フェライト皮膜に取り込まれる極微量のCo−60イオンがさらに低減される。
【選択図】図1
Description
本発明は、原子力プラント構成部材の線量低減方法に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラント構成部材の線量低減方法に関する。
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
放射性腐食生成物の元になる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の接水部から発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉に接続された原子炉浄化系によって取り除かれる。原子炉浄化系で除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。
その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、特開2006−38483号公報、特開2007−192745号公報及び特開2007−24644号公報には、原子力プラント構成部材の炉水と接触する表面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜を形成し、その構成部材への放射性核種の付着を抑制する方法が提案されている。構成部材の炉水と接触する表面へのフェライト皮膜の形成によって、原子力プラントの運転後において、その構成部材の表面に放射性核種が付着することが抑制される。この放射性核種付着抑制方法では、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液,過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成する。
特開2000−105295号公報には、酸化除染及び還元除染を含む化学除染が記載されている。
特開2006−38483号公報に記載された原子力プラント構成部材への放射性核種の付着抑制方法は、フェライト皮膜を形成して原子力プラント構成部材の腐食を抑制し、腐食皮膜の成長に伴って生じる放射性核種の付着を抑制して原子力発電プラントの再循環配管の表面線量率を著しく低減することができる。発明者らは、特開2006−38483号公報に記載された方法により原子力プラント構成部材の表面にフェライト皮膜を形成した場合において、表面線量率をさらに低減するために、詳細な検討を行った。この結果、炉水のニッケルイオン濃度がその表面線量率に影響を与えることを新たに見出した。炉水のニッケルイオン濃度によっては、極微量ではあるがフェライト皮膜への放射性核種への放射性核種の取り込みが認められた。
本発明の目的は、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる原子力プラント構成部材の線量低減方法を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの運転停止後において、この原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、原子力プラントの運転時において、その構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜に接触する炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にすることにある。
原子力プラントの構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜に接触する炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にするので、そのフェライト皮膜への放射性核種の取り込み量をさらに低減することができる。
本発明によれば、原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる。
発明者らは、特開2006−38483号公報に記載されたフェライト皮膜の放射性核種の付着抑制性能のさらなる向上を目指してCo−60付着実験を行った。表面を研磨した、ステンレス鋼製の試験片(第1試験片という)、及びフェライトの一種であるマグネタイト皮膜を表面に形成したステンレス鋼製の試験片(第2試験片という)を、BWRを模擬した水素注入条件(この条件をHWC条件という)、Niイオンを添加し、所定時間の間、浸漬した。試験片取り出し後、それぞれの試験片へのCo−60付着量を測定し、Co−60付着量のNiイオン濃度依存性を調べた。その結果を図4に示す。図4の縦軸は、研磨したステンレス鋼の試験片(第1試験片)の表面へのCo−60付着量に対する、マグネタイト皮膜を表面に形成した試験片(第2試験片)におけるマグネタイト皮膜の表面へのCo−60付着量の比(Co付着量比)を表している。図2に示された結果から、高温高圧純水のNiイオン濃度の低下とともにマグネタイト皮膜を表面に形成した試験片のCo−60付着量が、マグネタイト皮膜を付与していない、ステンレス鋼製の研磨試験片のCo−60付着量に比べて少なくなっていることが分かる。この結果について、発明者らは以下のように考察した。
ステンレス鋼製の試験片表面へのマグネタイト皮膜の形成は、特開2006−38483号公報に記載されたように、行われる。すなわち、フェライト皮膜、具体的には、マグネタイト皮膜の形成に必要な成分である鉄(II)イオン、鉄(II)イオンを酸化する過酸化水素、及びフェライト化反応を促進するpH調整剤であるヒドラジンを含む水溶液を、第2試験片の母材であるステンレス鋼材の表面に接触させることにより行われる。第2試験片となるこのステンレス鋼材の表面で(1)式に示す反応が生じ、その表面にフェライトの一種であるマグネタイトの皮膜が形成される。
3Fe2++H2O2+6OH− → Fe3O4+4H2O ……(1)
形成された皮膜のマグネタイトの構造は、Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4で表される。大括弧の部分は酸素の八面体構造の中心に位置する金属イオンを示しており、マグネタイトではこの部分にFe(II)イオンが存在している。このマグネタイト皮膜を形成した第2試験片を、Niイオンを含む高温の模擬炉水に浸漬した場合に、マグネタイト皮膜内のFe(II)イオンと高温の模擬炉水に含まれるNi(II)イオンの間で(2)式に示すイオン交換反応を起こす可能性がある。
形成された皮膜のマグネタイトの構造は、Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4で表される。大括弧の部分は酸素の八面体構造の中心に位置する金属イオンを示しており、マグネタイトではこの部分にFe(II)イオンが存在している。このマグネタイト皮膜を形成した第2試験片を、Niイオンを含む高温の模擬炉水に浸漬した場合に、マグネタイト皮膜内のFe(II)イオンと高温の模擬炉水に含まれるNi(II)イオンの間で(2)式に示すイオン交換反応を起こす可能性がある。
Fe3O4+Ni2+ = NiFe2O4+Fe2+ ……(2)
模擬炉水のNi(II)イオン濃度が高くなると、(2)式の反応は左から右に進み易くなる。実験結果ではNi(II)イオン濃度が高くなるほどCo−60付着量が増加したことから、Co−60の付着は(2)式の反応の進行に伴って生じるものと考えられる。従って、形成されたマグネタイト皮膜へのCo−60付着を出来るだけ低く抑えるためには、発明者らは、炉水のNi(II)イオン濃度を低くすれば良いという新たな知見、具体的には図2に示された実験結果に基づいて、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にすれば良いという新たな知見を得た。
模擬炉水のNi(II)イオン濃度が高くなると、(2)式の反応は左から右に進み易くなる。実験結果ではNi(II)イオン濃度が高くなるほどCo−60付着量が増加したことから、Co−60の付着は(2)式の反応の進行に伴って生じるものと考えられる。従って、形成されたマグネタイト皮膜へのCo−60付着を出来るだけ低く抑えるためには、発明者らは、炉水のNi(II)イオン濃度を低くすれば良いという新たな知見、具体的には図2に示された実験結果に基づいて、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にすれば良いという新たな知見を得た。
炉水のNi(II)イオン濃度を低減する方法として、以下に示す3つの方法がある。第1の方法は原子炉に供給される給水のNi(II)イオン濃度を下げることであり、第2の方法は原子炉浄化系の容量を増やすことである。そして、第3の方法は、炉心に装荷された燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管外面へのNi(II)イオンの固定化を促進させることによって炉水のNi(II)イオン濃度を下げる方法である。
炉水のNi(II)イオン濃度は、給水によって持ち込まれるNi(II)イオンの量、原子炉浄化系で除去されるNi(II)イオンの量、燃料棒の被覆管外面にNiFe2O4として固定化されて炉水から除去されるNi(II)イオンの量のバランスによって決まる。これら3つのNi(II)イオン量のうち、給水によって持ち込まれるNi(II)イオン量と原子炉浄化系で除去されるNi(II)イオン量のバランスは、(3)式の微分方程式によって表される。
(Ci・vi−C・vo)・dt=V・dC ……(3)
ここで、Ciは給水のNi(II)イオン濃度、viは給水流量、Cは炉水のNi(II)イオン濃度、voは原子炉浄化系内を流れる炉水の流量、Vは原子炉圧力容器内の保有水量、tは原子炉起動後の経過時間である。
ここで、Ciは給水のNi(II)イオン濃度、viは給水流量、Cは炉水のNi(II)イオン濃度、voは原子炉浄化系内を流れる炉水の流量、Vは原子炉圧力容器内の保有水量、tは原子炉起動後の経過時間である。
初期条件である「時間tが0で炉水のNi(II)イオン濃度Cが0」を用いて(3)式を解くと、(4)式が得られる。
C=(1−exp(−(vo/V)・t))・Ci・vi/vo ……(4)
時間tが経過して炉水のNi(II)イオン濃度Cが平衡濃度に達すると、炉水のNi(II)イオン濃度Cは給水のNi(II)イオン濃度Ciの(vi/vo)倍になる。給水に含まれるNi(II)イオンの発生源は給水配管の腐食生成物であり、この腐食性生物の発生量は、給水流量vi及び原子炉浄化系内を流れる炉水流量voと同様に、BWRプラントの運転後において、運転員が積極的に制御することは出来ない。BWRプラント設計時及びBWRプラント建設時であれば、給水に含まれるNi(II)イオンの発生を低減する対策としては、給水配管の耐食性を向上させる金属材料の選定、給水配管の内面処理、及び原子炉浄化系の容量増加の設計等がある。
時間tが経過して炉水のNi(II)イオン濃度Cが平衡濃度に達すると、炉水のNi(II)イオン濃度Cは給水のNi(II)イオン濃度Ciの(vi/vo)倍になる。給水に含まれるNi(II)イオンの発生源は給水配管の腐食生成物であり、この腐食性生物の発生量は、給水流量vi及び原子炉浄化系内を流れる炉水流量voと同様に、BWRプラントの運転後において、運転員が積極的に制御することは出来ない。BWRプラント設計時及びBWRプラント建設時であれば、給水に含まれるNi(II)イオンの発生を低減する対策としては、給水配管の耐食性を向上させる金属材料の選定、給水配管の内面処理、及び原子炉浄化系の容量増加の設計等がある。
BWRプラント運転後における炉水のNi(II)イオン濃度低減対策としては、例えば、特許第3289679号公報に記載されているように、給水に鉄を注入して原子炉圧力容器内に供給し、炉水中のNi(II)イオンをNiFe2O4として炉心に存在している燃料棒の被覆管外面に固定化する方法がある。特許第3289679号公報では、注入により炉水に含まれた鉄酸化物が燃料棒の被覆管外面での炉水の沸騰に伴ってその外面に析出することにより、被覆管外面に鉄酸化物の層が形成され、この鉄酸化物の層に炉水中のCo−60をCoFe2O4として閉じ込め、炉水のCo−60濃度を低減させている。同時に、炉水に含まれるNi(II)イオンも、(2)式及び下記に示す(5)式の反応によってNiFe2O4として上記の鉄酸化物の層に閉じ込めることが出来る。
Fe2O3+Ni2++H2O = NiFe2O4+2H+ ……(5)
これにより、炉水のNi(II)イオン濃度を低減させることが出来る。
これにより、炉水のNi(II)イオン濃度を低減させることが出来る。
前述した「炉水のNi(II)イオン濃度が低いほど、マグネタイト皮膜のCo−60付着抑制効果を高めることが出来る」という新たな知見において、前述した炉水のNi(II)イオン濃度の低減策を適用することが出来る。
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の実施例を、以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1,図2及び図3を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法を原子力プラントであるBWRプラントに適用した例である。
BWRプラントは、図2に示すように、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉格納容器11内に設置された原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には複数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有する。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を、復水器4からRPV12に向ってこの順に設置して構成される。水素注入装置16が、復水器4と復水ポンプ5の間で給水配管10に接続されている。復水浄化装置6をバイパスするバイパス配管(鉄注入配管)82の両端が、給水配管10に接続される。流量調節弁90がバイパス配管82に設けられる。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27を、上流から下流に向かってこの順に設置して構成される。浄化系配管20は、炉水浄化装置27の下流において、再生熱交換器25に接続される。さらに、浄化系配管20は、再循環ポンプ21より上流で再循環系配管22に接続される。開閉弁89が設けられたサンプリング配管85が、例えば、浄化系ポンプ24の上流で、浄化系配管20に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。サンプリング配管85は再循環系配管22に接続してもよい。
RPV12内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14のノズル(図示せず)からジェットポンプ14のベルマウス(図示せず)内に噴出される。ノズルの周囲に存在する炉水も、ノズルから噴出される噴出流の作用により、ベルマウス内に吸引される。ジェットポンプ14から吐出された炉水は、炉心13に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12内に設けられた気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)にて水分が除去された後に、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。
タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮され、水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱される。抽気配管15で主蒸気配管2,タービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
炉心に供給された炉水は、核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解を起こし、過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を生ずる。この酸化性化学種を含む炉水が構成部材と接触したとき、酸化性化学種の作用により構成部材の腐食電位が上昇する。このため、構成部材の応力腐食割れに対する環境緩和対策として、水素注入装置16から給水配管10内を流れる給水に水素を注入してRPV12内の炉水にこの水素を供給する。この水素が炉水に含まれる酸化性化学種を反応することにより、炉水の酸化性化学種濃度が低減され、結果的に、構成部材の腐食電位が低下する。給水に水素を注入しながら行う原子炉の運転を水素注入水質運転(HWC:Hydrogen Water Chemistry)、水素注入を行わない原子炉の運転を通常水質運転(NWC:Normal Water Chemistry)と呼んでいる。
再循環系配管22内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
BWRプラントは、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、BWRプラントに対して定期検査が実施される。この定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心13内の一部の燃料集合体が新燃料集合体と交換される。すなわち、炉心内の一部の燃料集合体が、使用済燃料集合体としてRPV12から取り出され、燃焼度ゼロの新燃料集合体が炉心13に装荷される。
BWRプラントの運転が停止されている定期検査の期間中において、フェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜が、RPV12に接続された配管系(例えば、再循環系配管22及び浄化系配管20等)の炉水と接触する内面に形成される。このマグネタイト皮膜の配管系の内面への形成には、仮設の設備である皮膜形成装置30が用いられる。皮膜形成装置30の循環配管35が、BWRプラントの運転が停止された後、皮膜形成対象物である、例えば、再循環系配管22に接続される。皮膜形成装置30は、マグネタイト皮膜の形成後、具体的には、マグネタイト皮膜の形成に使用した皮膜形成溶液に含まれた薬剤の処理が終了した後、BWRプラントの運転開始前に再循環系配管22から取り外される。皮膜形成装置30は、BWRプラントの運転が停止されている定期検査の期間中において、再循環系配管22の内面に形成した放射性核種を含む酸化皮膜の溶解除去、及び酸化皮膜溶解除去後の配管内面へのマグネタイト皮膜の形成、及びこのマグネタイト皮膜の形成に使用された皮膜形成溶液(廃液)の処理に用いられる。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。サージタンク31、循環配管35、鉄(II)イオン注入装置81、酸化剤注入装置80、pH調整剤注入装置79、フィルタ54、加熱器56、分解処理装置67、カチオン交換樹脂塔63及び混床樹脂塔65を備えている。開閉弁50、循環ポンプ51、弁52、加熱器56、弁58、59、60、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。
配管69が、弁52をバイパスするように両端で循環配管35に接続される。弁53及びフィルタ54が配管69に設けられる。加熱器56及び弁58をバイパスする配管70の両端が循環配管35に接続され、冷却器61及び弁62が配管70に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁59をバイパスする配管71に、カチオン交換樹脂塔63及び弁64が設置される。両端が配管71に接続されてカチオン交換樹脂塔63及び弁64をバイパスする配管72に、混床樹脂塔65及び弁66が設置される。
弁68及び分解処理装置67が設置される配管73が、弁60をバイパスして循環配管35に接続される。分解処理装置67は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管74が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続される。化学除染の対象となる配管(例えば、再循環系配管22)の内面の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸、さらには配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。化学除染の対象となる配管は、皮膜形成対象の配管(例えば、再循環系配管22)である。
鉄(II)イオン注入装置81は、薬液タンク47,弁41,注入ポンプ44及び注入配管75を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ44及び弁41が設けられた注入配管75によって循環配管35に接続される。薬液タンク47は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤(第1の薬剤)の水溶液が充填されている。この水溶液はギ酸を含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸または炭酸を用いることができる。
酸化剤注入装置80は、薬液タンク48,注入ポンプ45,弁42及び注入配管76を有する。薬液タンク48は、注入ポンプ45及び弁42が設置された注入配管76によって循環配管35に接続されている。薬液タンク48には、酸化剤(第2の薬剤)である過酸化水素水溶液が充填されている。
pH調整剤注入装置79は、薬液タンク40,注入ポンプ39,弁38及び注入配管77を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38が設置された注入配管77によって循環配管35に接続される。薬液タンク40はpH調整剤(第3の薬剤)であるヒドラジン水溶液を充填する。
弁57を設けた配管78が、注入配管76に接続され、さらに、分解処理装置67の上流で配管73に接続される。サージタンク31は、最初に、処理に用いられる水が充填されている。薬液タンク47及びサージタンク31には、それぞれの内部に存在する溶液に含まれる酸素を除去するために、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをその溶液内にバブリングする、またはタンクの気層部をパージする不活性ガス注入装置(図示せず)を接続することが好ましい。
酸化剤注入装置80の注入配管76と循環配管35の第2接続点、及びpH調整剤注入装置79の注入配管77と循環配管35の第3接続点は、鉄(II)イオン注入装置81の注入配管75と循環配管35の第1接続点よりも下流に配置され、皮膜形成対象箇所にできるだけ近い位置に配置することが好ましい。このように、鉄(II)イオン注入装置81、酸化剤注入装置80及びpH調整剤注入装置79が循環配管35に接続されているので、鉄(II)イオン注入装置81により循環配管35に鉄(II)イオンを注入した後、酸化剤注入装置80及びpH調整剤注入装置79のそれぞれの注入ポンプを起動することによって、循環配管35内を流れる鉄(II)イオンを含む水溶液に酸化剤及びpH調整剤を添加することができる。pH調整剤注入装置79の注入配管77と循環配管35の第3接続点よりも下流で、pH計84が循環配管35に設置される。
分解処理装置67は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤であるヒドラジンを分解する。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水及び二酸化炭素に分解できる有機酸、または気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
皮膜形成装置30を用いた本実施例の皮膜形成装置30を用いて再循環系配管22内にマグネタイト皮膜を形成し、形成されたマグネタイト皮膜のCo−60付着抑制効果を最大限引き出すために、本実施例では図1に示された各工程が実施される。本実施例におけるBWRプラント構成部材の、炉水と接触する表面へのマグネタイト皮膜の形成は、BWRプラントの運転を停止した後の、例えば、BWRプラントの定期検査(保守点検)の期間内で行われる。
既設のBWRプラントを対象に行われる本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1に示す工程に基づいて、具体的に説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法における、皮膜形成装置30を用いた皮膜形成工程は、BWRプラントの運転が停止されている定期検査の期間中において行われる。
まず、皮膜形成対象物である配管系の内面に対して化学除染を実施する(ステップS1)。既設のBWRプラントは、フェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜)の形成を行う定期検査の前において、少なくとも1つの運転サイクルでの運転を経験している。この既設のBWRプラントでは、RPV12内の炉水と接触する配管系(例えば、再循環系配管22及び浄化系配管20)の内面に、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されている。配管系の表面線量率を低下させるためには、マグネタイト皮膜を形成する前に、皮膜形成対象物である配管系の内面から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが望ましい。マグネタイト皮膜は、放射性核種を含む酸化被膜の上ではなく、この酸化皮膜が除去され配管系の内面に直接形成する。ステップS1の一例は、化学的な処理によりその酸化皮膜を、皮膜形成対象物である配管系の内面から取り除く処理である。
ステップS1における化学除染を実施する場合には、皮膜形成装置30が、皮膜形成対象物の配管系、例えば、再循環系配管22に接続される。皮膜形成装置30の再循環系配管22への接続作業を説明する。
再循環系配管22に接続された浄化系配管20には弁23が設けられている。この弁23のボンネットを開放して浄化系配管20の浄化系ポンプ24側を閉鎖する。弁23のフランジに循環配管35の一端を接続する。循環配管35の他端は、再循環ポンプ21よりも下流で再循環系配管22、例えば、再循環系配管22に接続された枝管(ドレン配管または計装配管などを切り離した枝管)に接続される。このようにして、皮膜形成装置30が再循環系配管22に接続される。
ステップS1で実施する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、開閉弁50,弁52,58,59,60及び33、及び開閉弁34を開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,51を起動して、再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。そして、加熱器56によって加熱して、循環する水の温度を約90℃まで昇温させる。エゼクタ37に連絡されたホッパから供給された過マンガン酸カリウムが、弁36を開くことによって配管74内を流れる水により、サージタンク31内に供給される。サージタンク31内で、過マンガン酸カリウムにより酸化除染液が生成される。この酸化除染液は、循環配管35を通って再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を溶解する。このようにして、再循環系配管22の内面の酸化除染が行われる。
酸化除染終了後、酸化除染液に残留する過マンガン酸イオンは、上記のホッパからサージタンク31に注入されるシュウ酸によって分解される。サージタンク31内に更にシュウ酸を供給することによって還元除染液が生成される。還元除染液のpH調整のため、弁38を開いて薬液タンク40からヒドラジンを循環配管35内に供給する。ヒドラジンを含む還元除染液が、循環ポンプ32により再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜等の汚染物を還元溶解する。還元除染時に、弁64を開くと共に弁59の開度を調整し、還元除染液の一部をカチオン交換樹脂塔63に導く。再循環系配管22の内面から還元除染液中に溶出してきた金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔63内のカチオン交換樹脂に吸着され、除去される。
還元除染の終了後、弁68を開いて循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解処理装置67に供給する。分解処理装置67は、薬液タンク48から配管78を通して供給される過酸化水素、及び活性炭触媒の作用によって還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁58を閉じて加熱を停止し、除染液を冷却器61で冷却して、例えば、60℃まで低下させる。60℃になった除染液が、弁64を閉じて弁66を開くことにより、混床樹脂塔65に供給される。混床樹脂塔65は、分解処理装置67で分解されなかった、除染液に含まれる不純物を除去する。
皮膜形成対象物の表面にフェライト皮膜を形成する(ステップS2)。このでは、フェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜の形成について説明する。
ステップ1の化学除染が終了した後、すなわち、皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁53を開いて弁52を閉じ、フィルタ54への通水を開始する。弁59を開いて弁66を閉じることにより、混床樹脂塔65への通水を停止する。さらに、弁62を閉じ、弁58を開いて加熱器56によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。皮膜形成対象である再循環系配管22に供給される皮膜形成水溶液の温度調整が行われる。弁50,60,33,34は開いており、弁36,41,38,42,57,62,64,66,68は閉じている。加熱された皮膜形成水溶液は、循環配管35及び再循環系配管22により形成される閉ループの経路内を循環する。
フィルタ54への通水は水中に残留している微細な固形物を除去するためである。この固形物が残留していると、皮膜形成対象箇所へのフェライト皮膜の形成の際に、その固形物の表面にもフェライト皮膜が形成され、薬剤が無駄に使用されることになる。上記の固形物の除去によって、皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に含まれる薬剤を有効に使用できる。フィルタ54への通水を除染中に実施した場合には、溶解した高い放射能の放射性核種を含む固形物によってフィルタ54の線量率が高くなりすぎる恐れがある。このため、フィルタ54への通水は除染終了後に行う。上記固形物の除去が終了した時点で、弁52を開いて弁53を閉じる。
皮膜形成水溶液の上記の所定温度は、100℃程度が好ましいが、これに限定されない。要は原子炉の運転時に炉水に含まれる放射性核種が、皮膜形成対象箇所に生成されるフェライト皮膜に取り込まれない程度に、その皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成水溶液の温度は少なくとも200℃以下が好ましく、下限は常温(20℃)でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃以上では皮膜形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず仮設設備の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。皮膜形成水溶液の温度は、60℃〜100℃の範囲の温度にすることが望ましい。皮膜形成水溶液の温度を200℃以下にすることによって、皮膜形成対象の配管系、例えば、再循環系配管22の炉水と接触する内面に緻密なマグネタイト皮膜を形成することができる。
皮膜形成対象箇所にマグネタイト皮膜を形成させるためには、鉄(II)イオンが皮膜形成対象物である、BWRプラントの構成部材の表面(例えば、再循環系配管22の内面)に吸着される必要がある。しかし、皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオンは、(6)式に基づいて溶存酸素により鉄(III)イオンに酸化される。鉄(III)イオンは、鉄(II)イオンに比べて溶解度が低いため、(7)式の反応により水酸化第二鉄として析出してしまい、マグネタイト皮膜の形成に寄与しなくなってしまう。そこで、皮膜形成水溶液中の溶存酸素を除去するため、前述したように、不活性ガスのバブリング、真空脱気あるいは気層部のパージを行うことが好ましい。
4Fe2++O2+2H2O → 4Fe3++4OH− ……(6)
Fe3++3OH− → Fe(OH)3 ……(7)
循環配管35内を循環する水の温度が所定温度(例えば、100℃)に達した後、鉄(II)イオンを含む薬剤(水溶液)を循環配管35内に注入する。すなわち、弁41を開いて注入ポンプ44を駆動し、鉄をギ酸で溶解して調製して得られた鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤を、薬液タンク47から循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液(最初の状態では、水)に注入する。酸化剤である過酸化水素を循環配管35内に注入する。弁42を開いて注入ポンプ45を駆動することにより、薬液タンク48内の過酸化水素水溶液が、注入配管76を通して、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に注入される。過酸化水素は、再循環系配管22の内面に吸着された鉄(II)イオン、及び皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンを、鉄(III)イオンに酸化する。後者の鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化されることにより、皮膜形成水溶液は鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンを含むことになる。続いて、pH調整剤であるヒドラジンを循環配管35内へ注入する。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することによって、薬液タンク40内のヒドラジン水溶液が、注入配管77を通って、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に注入される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内の値になるように、ヒドラジンの循環配管35内への注入量が調節される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節されるため、マグネタイトが、鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンに対する(8)式の反応により再循環系配管22の内面に形成される。
Fe3++3OH− → Fe(OH)3 ……(7)
循環配管35内を循環する水の温度が所定温度(例えば、100℃)に達した後、鉄(II)イオンを含む薬剤(水溶液)を循環配管35内に注入する。すなわち、弁41を開いて注入ポンプ44を駆動し、鉄をギ酸で溶解して調製して得られた鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤を、薬液タンク47から循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液(最初の状態では、水)に注入する。酸化剤である過酸化水素を循環配管35内に注入する。弁42を開いて注入ポンプ45を駆動することにより、薬液タンク48内の過酸化水素水溶液が、注入配管76を通して、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に注入される。過酸化水素は、再循環系配管22の内面に吸着された鉄(II)イオン、及び皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンを、鉄(III)イオンに酸化する。後者の鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化されることにより、皮膜形成水溶液は鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンを含むことになる。続いて、pH調整剤であるヒドラジンを循環配管35内へ注入する。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することによって、薬液タンク40内のヒドラジン水溶液が、注入配管77を通って、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に注入される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内の値になるように、ヒドラジンの循環配管35内への注入量が調節される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節されるため、マグネタイトが、鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンに対する(8)式の反応により再循環系配管22の内面に形成される。
Fe2++2Fe3++2H2O = Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4+8H+ ……(8)
制御装置(図示せず)は、pH計84によって計測された皮膜形成水溶液のpH計測値に基づいて注入ポンプ39の回転速度を制御し、循環配管35内に注入するヒドラジンの注入量を調整する。この制御によって、皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節される。本実施例では、皮膜形成水溶液のpHが7.0に調節される。
制御装置(図示せず)は、pH計84によって計測された皮膜形成水溶液のpH計測値に基づいて注入ポンプ39の回転速度を制御し、循環配管35内に注入するヒドラジンの注入量を調整する。この制御によって、皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節される。本実施例では、皮膜形成水溶液のpHが7.0に調節される。
循環ポンプ32、51が駆動されているので、ヒドラジン、鉄(II)イオン及び過酸化水素を含むpHが7.0で温度が100℃の皮膜形成水溶液が、循環配管35により、開閉弁34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成水溶液と接触する再循環系配管22の内面全面でマグネタイト皮膜の生成反応が生じ、その全面に亘ってマグネタイト皮膜が形成される。
その皮膜形成水溶液が、再循環系配管22内を流れて、循環配管35の開閉弁50側へと戻される。戻された皮膜形成水溶液に、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤が薬液タンク47から、過酸化水素が薬液タンク48から、ヒドラジンが薬液タンク40からそれぞれ注入される。この皮膜形成水溶液が再び再循環系配管22内に導かれる。
皮膜形成対象の配管系の内面へのフェライト皮膜の形成が完了したかの判定が行われる。この判定は、フェライト皮膜の形成処理開始、すなわち、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤の注入が開始されて酸化剤及びpH調整剤の注入が開始された後の経過時間で行われる。所定の時間、皮膜形成液を循環した後、循環を停止する。これによって、再循環系配管22の内面へのマグネタイト皮膜の形成作業が終了する。
配管系の内面へのマグネタイト皮膜の形成作業が終了したとき、皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される。再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成に使用された皮膜形成水溶液は、フェライト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解処理装置67で分解される。薬剤の分解処理では、弁60,68の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成水溶液の一部を分解処理装置67に供給する。弁57を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク48から配管78を通して分解処理装置67に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解処理装置67内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ギ酸は(9)式の反応により二酸化炭素と水に、ヒドラジンは(10)式の反応により窒素と水にそれぞれ分解する。
HCOOH+H2O2 → CO2+2H2O ……(9)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(10)
薬剤の分解を実行している期間において、皮膜形成水溶液は、循環ポンプ32、51の駆動によって循環配管35の一端から再循環系配管22の一端に供給され、再循環系配管22内を通って循環配管35の他端に戻される。
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(10)
薬剤の分解を実行している期間において、皮膜形成水溶液は、循環ポンプ32、51の駆動によって循環配管35の一端から再循環系配管22の一端に供給され、再循環系配管22内を通って循環配管35の他端に戻される。
分解処理装置67に皮膜形成水溶液を供給する前に、弁53を開けて弁52を閉じ、皮膜形成水溶液をフィルタ54に供給する。皮膜形成水溶液に含まれたマグネタイト粒子がフィルタ54によって除去される。マグネタイト粒子の除去後、弁59、64の開度を調整して皮膜形成水溶液の一部をカチオン交換樹脂塔63に供給する。皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオン及びヒドラジニウムイオンがカチオン交換樹脂塔63によって除去される。皮膜形成水溶液に含まれているギ酸及びカチオン交換樹脂塔63で除去し切れなかったヒドラジンの分解は、前述したように、分解処理装置67を用いて行われる。
ヒドラジンとギ酸ではギ酸の方が分解し難いので、分解処理装置67による薬剤の分解がある程度進むと、循環している皮膜形成水溶液のpHが低下し始める。この皮膜形成水溶液のpHが4以下になると、再循環系配管22の内面に形成したフェライト皮膜が溶解する可能性が生じる。このため、pH計84で計測されたpHの値が4以下にならないように、弁38を開けて注入ポンプ39を起動し、薬液タンク40内のヒドラジンを皮膜形成水溶液に注入する。ヒドラジンを注入しながら残留したギ酸、注入したヒドラジンの分解を進めるとギ酸の濃度も徐々に下がってくるので、pH4を維持するヒドラジン注入量は徐々には少なくなる。ギ酸の濃度が少なくなって来るとヒドラジンを注入しなくてもpH4以上を維持できるようになるので、最終的にはヒドラジン注入無しでギ酸の分解を行う。
ヒドラジン及びギ酸を分解処理装置67で上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔64によるヒドラジン、及び混床樹脂塔65によるギ酸の除去を大幅に低減できるので、これらのイオン交換樹脂の廃棄物量を著しく低減できる。
皮膜形成装置30の、皮膜形成対象の配管系からの取り外しを行う。皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が終了した後、再循環系配管22に連絡されている循環配管35の両端が、浄化系配管20、及び再循環系配管22に接続された枝管から取り外される。浄化系配管20に設けられたバルブ28、及びその枝管等が元通りに復旧される。これにより、BWRプラントの運転が開始できる状態になる。再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜は、BWRプラントの起動まで、そのままの状態に保たれる。
定期検査が終了した後、原子炉を起動する(ステップS3)。中央制御室に設置された操作盤に設けられた原子炉モードスイッチが起動に入れられ、炉心13に挿入された複数の制御棒(図示せず)が順番に引き抜かれる。原子炉1のある運転サイクルにおける運転が開始される。制御棒の引き抜きの進行に伴って、やがて、原子炉1が臨界に達する。炉心13に装荷された各燃料集合体に含まれた核燃料物質が核分裂を起こし、炉水の核加熱が開始される。原子炉の昇温昇圧が行われる。この昇温昇圧工程では、制御棒が炉心からさらに引き抜かれて核燃料物質の核分裂が増大し、炉水の温度が上昇して蒸気が発生する。昇温昇圧工程により、原子炉圧力が定格圧力まで上昇し、炉水温度も定格温度(例えば、280℃)まで上昇する。炉心13では核燃料物質の核分裂によって中性子線及びガンマ線が発生する。中性子線及びガンマ線は炉水の放射線分解を誘発して、炉水中に過酸化水素及び酸素を生じさせる。昇温昇圧工程が終了した後、制御棒の引き抜き、及び炉心流量の増大によって、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで、上昇される。原子炉出力が定格出力に保持されて、原子炉の運転が継続される(ステップS4)。
炉水のNi(II)イオン濃度の判定が行われる(ステップS5)。原子炉出力が定格出力なっている状態で、浄化系配管20内を流れる炉水が、開閉弁89を開き、サンプリング配管85によって、所定の時間間隔で定期的にサンプリングされる。サンプリングされた炉水のNi(II)イオン濃度が、分析装置86によって測定される。測定されたNi(II)イオン濃度が、設定値である1.2ppb以下であるかが判定される。
ステップS5の判定結果が「NO」であるとき、すなわち、測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいと判定されたとき、給水への鉄酸化物の注入が行われる(ステップS6)。給水への鉄酸化物の注入は、バイパス配管82を通して行われる。復水器4から給水配管10に排出される給水は、復水器4で生じた腐食生成物である鉄酸化物を含んでいる。通常は、バイパス配管82に設けられた流量調節弁90を全閉状態にして、復水器4から給水配管10に排出される給水の全量を復水浄化装置6に供給し、この給水に含まれた鉄酸化物を復水浄化装置6で除去している。このため、復水浄化装置6から排出された給水によりRPV12内に持ち込まれる鉄酸化物の量は、実質的に皆無になる。
測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいと判定されたときには、運転員によって流量調節弁90が開けられ、復水ポンプ5で昇圧された、鉄酸化物を含む給水の一部が、バイパス配管82を通って、復水浄化装置6よりも下流で給水配管10に導かれ、復水浄化装置6から流出した給水に混合される。このため、鉄酸化物が添加された給水が、給水配管10により、RPV12内に導かれ、炉水に混合される。鉄酸化物を含む炉水が炉心に供給されたとき、この鉄酸化物が炉心に装荷された燃料集合体に含まれた各燃料棒の被覆管の外面に析出し、この外面に鉄酸化物層が形成される。炉心に供給された炉水に含まれるNi(II)イオンが、炉心内の各燃料棒の外面(被覆管の外面)に形成された鉄酸化物層内の鉄酸化物と(2)式及び(5)式の反応を生じて鉄酸化物層に取り込まれ、鉄酸化物層に固定される。この結果、炉水のNi(II)イオン濃度が低下する。
RPV12に供給される鉄酸化物の量は、流量調節弁90の開度を制御することにより、調節される。分析装置86で測定された炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きい状態では、測定された炉水のNi(II)イオン濃度と1.2ppbの差(Ni(II)イオン濃度の1.2ppbからの増大値)が大きくなるほど、流量調節弁90の開度を大きくして、バイパス配管82を通過する給水量を多くしてRPV12に導かれる鉄酸化物の量を増大させる。分析装置86で測定した炉水のNi(II)イオン濃度を制御装置に入力して、この制御装置が測定した炉水のNi(II)イオン濃度に基づいて流量調節弁90の開度を制御しても良い。
ステップS5の判定結果が「YES」であるとき、すなわち、測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppb以下であると判定されたとき、原子炉の運転を終了するかを判定する(ステップS7)。ステップS7では、原子炉1の運転期間がこの原子炉1が運転されている運転サイクルの期間に到達したかが判定される。原子炉1の運転期間がその運転サイクルの期間に到達したとき、この運転サイクルでの原子炉1の運転が終了したと判定され、BWRプラントの運転が停止される。ステップS7において、原子炉1の運転期間がその転サイクルの期間に到達しないと判定されたときには、ステップS4,S5及びS7の工程が繰り返されて実行される。繰り返されたステップS5において測定されたNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいと判定されたときには、ステップS6における給水への鉄酸化物の注入が、前述したように行われる。
本実施例によれば、再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜の作用によって、BWRプラントの構成部材である再循環系配管22の母材と炉水の接触が制限され、再循環系配管22への放射性核種であるCo−60の付着が抑制される。更に、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下に抑制するので、再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜そのものへのCo−60の付着も抑制できる。すなわち、本実施例によれば、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下に抑制しない場合において原子炉の運転中に再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜に取り込まれる極微量のCo−60をさらに低減することができる。この結果、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にすることによって、再循環系配管22の表面線量率を、再循環系配管22の内面にマグネタイト皮膜を形成した場合に比べてさらに低減することができる。
炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きくなったときには、RPV12内の炉水に鉄酸化物を注入するため、この鉄酸化物により燃料棒の外面に形成される鉄酸化物層に、炉水に含まれるNi(II)イオンを固定化することができる。したがって、炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下に抑制することができる。
本実施例では、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成水溶液(皮膜形成液)を、好ましくは、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節して、皮膜形成対象物である配管系(例えば、再循環系配管22)の内面に接触させるので、その配管の内面に緻密なマグネタイト皮膜を形成することができる。
本実施例では、バイパス配管82に設けた流量調節弁90の開度を制御してRPV12内の炉水に注入する酸化物の量を調節している。流量調節弁90を設けたバイパス配管82の替りに、復水浄化装置6の下流で給水配管10に接続した鉄注入装置を設けても良い。炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きくなったときには、その鉄注入装置から、復水浄化装置6の下流における給水配管10に鉄酸化物を注入する。この結果、流量調節弁90の開度を制御する場合と同様に、炉水のNi(II)イオン濃度を低減することができる。
皮膜形成装置30の循環配管35の両端を浄化系配管20に接続して、フェライト皮膜であるマグネタイト皮膜を浄化系配管20の内面に形成してもよい。
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図5を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法を原子力プラントであるBWRプラントに適用した例である。
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法は、実施例1において実施されるステップS1〜S5及びS7の各工程が実施される。しかし、本実施例では、実施例1におけるステップS6において、給水への鉄注入の替りに、原子炉浄化系の処理容量の増加を行っている。
この原子炉浄化系の処理容量の増加を実現するBWRプラントの構成を、図5を用いて説明する。図5に示すBWRプラントは、実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用される図2に示されたBWRプラントの原子炉浄化系に、浄化系配管20A、浄化系ポンプ24A、再生熱交換器25A、非再生熱交換器26A、炉水浄化装置27A及び開閉弁83を追加した構成を有する。図5に示されたBWRプラントの他の構成は図2に示されたBWRプラントと同じである。
浄化系配管20Aの一端が、浄化系ポンプ24より上流側の浄化系配管20に接続され、浄化系配管20Aの他端が、再生熱交換器25より下流側で、再生熱交換器25で加熱された炉水を給水配管10に導く浄化系配管20に接続される。開閉弁83、浄化系ポンプ24A、再生熱交換器25A、非再生熱交換器26A及び炉水浄化装置27Aが、上流から下流に向かってこの順番で浄化系配管20Aに設置されている。浄化系配管20Aは、炉水浄化装置27Aの下流において、再生熱交換器25Aに接続される。
分析装置86で測定された炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppb以下である場合には、開閉弁83が全閉されて浄化系ポンプ24Aが停止されており、炉水は浄化系ポンプ24の駆動によって供給される炉水浄化装置27で浄化される。このため、炉水に含まれるNi(II)イオンは、炉水浄化装置27で除去され、炉水浄化装置27Aで除去されない。
ステップS5で分析装置86によって測定された炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいと判定されたとき、ステップS6において原子炉浄化系の処理容量の増加が行われる。測定された炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいとき、運転員が、制御装置(図示せず)に開閉弁83の弁開指令及び浄化系ポンプ24Aのポンプ起動指令を入力する。制御装置は、弁開指令に基づいて開閉弁83を開き、ポンプ起動指令に基づいて浄化系ポンプ24Aを起動する。再循環系配管22から浄化系配管20に流入した炉水は、駆動している浄化系ポンプ24によって炉水浄化装置27に供給されると共に、浄化系ポンプ24Aの駆動により浄化系配管20Aを通して炉水浄化装置27Aに供給される。これにより、炉水に含まれたNi(II)イオンは、炉水浄化装置27だけでなく炉水浄化装置27Aによっても除去される。
炉水浄化装置27AによるNi(II)イオンの除去能力は、炉水浄化装置27によるNi(II)イオンの除去能力と同じである。このため、炉水浄化装置27及び27Aで炉水に含まれるNi(II)イオンを除去することにより、炉水からNi(II)イオンを除去する能力は、炉水浄化装置27単独使用の場合に比べて2倍になる。炉水浄化装置27及び27Aの使用により、炉水のNi(II)イオン濃度は、炉水浄化装置27単独使用の場合に比べて1/2に低下する。
炉水浄化装置27及び27Aへの炉水の供給により、炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppb以下になったと、ステップS5で判定されたとき、運転員は、制御装置に弁閉指令及びポンプ停止指令を入力する。制御装置は、弁閉指令に基づいて開閉弁83を全閉状態にし、ポンプ停止指令に基づいて浄化系ポンプ24Aを停止する。炉水の炉水浄化装置27Aへの供給が停止され、炉水は炉水浄化装置27だけで浄化される。そして、ステップS7において、原子炉1の運転期間がこの原子炉1が運転されている運転サイクルの期間に到達したと判定されたとき、BWRプラントの運転が停止される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例では、炉水浄化装置を並列に2系統設けているが、この炉水浄化装置を並列に3系統以上設けてもよい。
上記の制御装置が、分析装置86で測定した炉水のNi(II)イオン濃度を入力し、このNi(II)イオン濃度が1.2ppbより大きくなったときに、上記したように、開閉弁83を開き、浄化系ポンプ24Aを起動し、炉水浄化装置27AによるNi(II)イオンの除去によりそのNi(II)イオン濃度が1.2ppbより大きい状態から1.2ppb以下になったときに、開閉弁83を全閉にし、浄化系ポンプ24Aを停止する制御を行ってもよい。
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図6及び図7を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法を原子力プラントであるBWRプラントに適用した例である。
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法は、実施例1においてステップS5をステップS5Aに替えている。実施例1で実施されるステップS1〜S4,S6及びS7の各工程は、本実施例でも実施される。本実施例で実施されるステップS5Aは、炉水のNi(II)イオン濃度ではなく、BWRプラントの構成部材、例えば、配管の線量に基づいて、炉水への鉄酸化物の注入の要否を判定している。
本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法を実現するBWRプラントの構成を、図7を用いて説明する。図7に示すBWRプラントは、実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用される図2に示されたBWRプラントにおいて、サンプリング配管85の替りに、放射線検出器87及び信号処理装置88を設けた構成を有する。図7に示されたBWRプラントの他の構成は図2に示されたBWRプラントと同じである。放射線検出器87を、例えば、BWRプラントの構成部材である再循環系配管22に設置する。信号処理装置88は放射線検出器87に接続される。
ステップS1〜S4の各工程が本実施例でも実施される。放射線検出器87は、再循環系配管22から放射される放射線を検出し、放射線検出信号を信号処理装置88に出力する。信号処理装置88は、入力した放射線検出信号に基づいて再循環系配管22の線量を求める。信号処理装置88は、所定の時間間隔で周期的に求めた線量の経時変化、すなわち、再循環系配管22の配管線量率の増加速度を求める。ステップS5Aで得られた配管線量率の増加速度が1mSv/h/年よりも大きいと判定されたとき、ステップS6において、実施例1と同様な炉水への鉄酸化物の注入が行われる。
ステップS6における鉄酸化物の炉水への注入により、実施例1と同様に、炉水に含まれるNi(II)イオンが燃料棒の外面に固定されて炉水のNi(II)イオン濃度が低下する。これにより、マグネタイト皮膜によるCo−60付着抑制作用が回復され、再循環系配管22の配管線量率の増加速度が1mSv/h/年以下に低下する。
ステップS5Aにおいて再循環系配管22の配管線量率の増加速度が1mSv/h/年以下であると判定されたときは、ステップS7の判定が実施例1と同様に行われる。すなわち、ステップS7において、原子炉1の運転期間がその転サイクルの期間に到達しないと判定されたときには、ステップS4,S5A及びS7の工程が繰り返されて実行される。繰り返されたステップS5Aにおいて得られた配管線量率の増加速度が1mSv/h/年よりも大きいと判定されたときには、ステップS6における給水への鉄注入が、前述したように行われる。原子炉1の運転期間がその運転サイクルの期間に到達したとき、ステップS7では、この運転サイクルでの原子炉1の運転が終了したと判定され、BWRプラントの運転が停止される。
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
実施例2においてサンプリング配管85の替りに放射線検出器87及び信号処理装置88を設けることにより、図5に示された、炉水浄化装置を並列に2系統設けているBWRプラントにおいても、本実施例を適用することができる。ステップS5Aにおいて、再循環系配管22の配管線量率の増加速度が1mSv/h/年よりも大きいと判定されたときには、ステップS6において、実施例2と同様に、開閉弁83を開き、浄化系ポンプ24Aを起動する。ステップS5Aで、再循環系配管22の配管線量率の増加速度が1mSv/h/年以下であると判定されたときには、開閉弁83を全閉状態、浄化系ポンプ24Aを停止状態にする。
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図8を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法を原子力プラントであるBWRプラントに適用した例である。
実施例1〜3は、いずれも、少なくとも1つの運転サイクルでの運転を経験したBWRプラントにおいて、皮膜形成対象物である配管系の内面にフェライト皮膜を形成している。
本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法は、新設のBWRプラントの配管系の内面にフェライト皮膜を形成する点で、前述の各実施例と異なっている。本実施例で用いられる皮膜形成装置は、実施例1で用いる皮膜形成装置30において弁36,52,53,58,59,64,66、配管70〜72,69,74、エゼクタ37、フィルタ51、冷却器61、カチオン交換樹脂塔63及び混床樹脂塔65を除去した構成を有する。本実施例で用いる皮膜形成装置の他の構成は皮膜形成装置30と同じである。本実施例では、新設のBWRプラントの建設が終了し、このBWRプラントの試運転が開始される前に、その皮膜形成装置を用いて皮膜形成対象物であるプラント構成部材の表面に、図8に示すステップS2により、フェライト皮膜を形成する。このフェライト皮膜の形成を以下に説明する。
まず、新設のBWRプラントの建設が終了し、このBWRプラントの最初の試運転が開始される前に、ステップS2において、本実施例で用いられる皮膜形成装置の循環配管35の両端が、実施例1における皮膜形成装置30と同様に、BWRプラントの再循環系配管22に連絡される。新設のBWRプラントでは、再循環系配管22の内面に放射性物質が付着していないので、再循環系配管22に対して化学除染を行う必要がない。このため、本実施例は、図1に示す手順のステップS1の化学除染を実施しないで、本実施例で用いられる皮膜形成装置によりステップS2のフェライト皮膜の形成工程が実施される。
この皮膜形成の工程が終了した後、実施例1で実行されたステップS3〜S7の各工程が実施される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
実施例2及び3のそれぞれを、新設のBWRプラントに適用する場合には、実施例2及び3におけるステップS1の化学除染の工程を実施する必要はない。
1…原子炉、3…タービン、4…復水器、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、13…炉心、20,20A…浄化系配管、21…再循環ポンプ、22…再循環系配管、27,27A…炉水浄化装置、30…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,51…循環ポンプ、35…循環配管、39,44,45…注入ポンプ、40,47,48…薬液タンク、54…フィルタ、56…加熱器、61…冷却器、63…カチオン交換樹脂塔、65…混床樹脂塔、67…分解処理装置、77…pH調整剤注入装置、80…酸化剤注入装置、81…鉄(II)イオン注入装置、82…バイパス配管、83…開閉弁、84…pH計、85…サンプリング配管、86…分析装置、87…放射線検出器、88…信号処理装置。
Claims (14)
- 原子力プラントの運転停止後において、前記原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、前記原子力プラントの運転時において、前記構成部材の表面に形成された前記フェライト皮膜に接触する炉水のNi(II)イオン濃度を1.2ppb以下にすることを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記構成部材が前記原子力プラントの原子炉に接続されて前記炉水が流れる配管系であって、前記フェライト皮膜の形成が前記配管系の内面に行われる請求項1に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記フェライト皮膜に接触する炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいとき、前記炉水に鉄を注入して前記Ni(II)イオン濃度を1.2ppb以下に低減する請求項1または2に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記炉水への前記鉄の注入は、前記原子力プラントの原子炉に接続された給水配管に設けられた第1浄化装置をバイパスした前記鉄を含む給水を前記原子炉に供給する請求項3に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記炉水への前記鉄の注入は、前記原子力プラントの原子炉に接続された給水配管に接続された鉄注入装置によって行われる請求項3に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記原子力プラントの原子炉に連絡される浄化系配管に並列に設けられた複数の浄化装置のうち1つの前記浄化装置により前記炉水に含まれる前記Ni(II)イオンを除去し、前記炉水のNi(II)イオン濃度が1.2ppbよりも大きいとき、他の前記浄化装置にも前記炉水を供給して前記他の浄化装置においても前記Ni(II)イオンを除去する請求項1または2に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 原子力プラントの運転停止後において、前記原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、前記原子力プラントの運転時において、流動している炉水が接触している前記フェライト皮膜を表面に形成している前記構成部材の線量率の増加速度を1mSv/h/年以下にすることを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記構成部材が前記原子力プラントの原子炉に接続されて前記炉水が流れる配管系であって、前記フェライト皮膜の形成が前記配管系の内面に行われる請求項7に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記フェライト皮膜を表面に形成している前記構成部材の線量率の増加速度が1mSv/h/年よりも大きいとき、前記炉水に鉄を注入して前記線量率の増加速度を1mSv/h/年以下に低減する請求項7または8に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記炉水への前記鉄の注入は、前記原子力プラントの原子炉に接続された給水配管に設けられた第1浄化装置をバイパスした前記鉄を含む給水を前記原子炉に供給する請求項9に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記炉水への前記鉄の注入は、前記原子力プラントの原子炉に接続された給水配管に接続された鉄注入装置によって行われる請求項9に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記原子力プラントの原子炉に連絡される浄化系配管に並列に設けられた複数の浄化装置のうち1つの前記浄化装置により前記炉水に含まれる前記Ni(II)イオンを除去し、前記フェライト皮膜を表面に形成している前記構成部材の線量率の増加速度が1mSv/h/年よりも大きいとき、他の前記浄化装置にも前記炉水を供給して前記他の浄化装置においても前記Ni(II)イオンを除去する請求項7または8に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
- 前記構成部材の表面への前記フェライト皮膜の形成は、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を、前記構成部材の前記表面に接触させることによって行われる請求項1ないし12のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量率低減方法。
- 前記構成部材の前記表面に接触させる前記皮膜形成液は、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節されている請求項13に記載の原子力プラント構成部材の線量率低減方法。
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