JP2007024644A - 原子力プラント構成部材への放射性核種の付着抑制方法及び成膜装置 - Google Patents

原子力プラント構成部材への放射性核種の付着抑制方法及び成膜装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 原子力プラント構成部材への放射性核種の付着を効果的に抑制する方法を提供する。
【解決手段】 原子力プラントを構成する金属部材の表面に形成された汚染物を除去する除染工程の終了段階から前記原子力プラントの起動前までの期間に、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、前記第1と第2の薬剤の混合した処理液のpHを5.5〜9.0に調整する第3の薬剤とを、この順序で混合して前記金属部材の表面に接触させてフェライト皮膜を成膜し、該フェライト皮膜により前記金属部材の表面に放射性核種が付着するのを抑制する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、発電プラント等の原子力プラントの構成部材への放射性核種の付着を抑制する方法及びその方法を実施する成膜装置に関する。
沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRと略記する。)では、圧力容器内に燃料棒を収容してなる原子炉内に、再循環ポンプやインターナルポンプによって冷却水を強制循環することにより、燃料で発生した熱を効率的に冷却水に移動させるようにしている。このようにして原子炉内で発生した冷却水の蒸気は、大部分が蒸気タービン発電機の駆動に利用され、蒸気タービンから排出される蒸気は復水器で凝縮されるとともに、復水器内で凝縮された復水はほぼ完全に脱気されて、再び原子炉の冷却水として給水される。その際、復水器内では、炉心で水の放射線分解によって発生した酸素及び水素もほぼ完全に除去される。また、原子炉に戻される復水は、原子炉における放射性腐食生成物の発生を抑制するため、脱塩器などのイオン交換樹脂濾過装置で主として金属不純物が除去され、200℃近くまで加熱して原子炉に給水される。
また、放射性腐食生成物は、圧力容器内や再循環系等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材は腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製の原子炉圧力容器には、ステンレス鋼の内面肉盛りがなされ、低合金鋼が直接炉水と接触することを防いでいる。このような材料上の配慮に加えて、炉水の一部を炉水浄化装置によって浄化し、炉水中にわずかに生成する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中のごくわずかな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が金属酸化物として燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属元素は、燃料から放射される中性子の照射を受けて原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種となる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は取り込まれている酸化物の溶解度に従って冷却水に溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出される。炉水中の放射性物質は、炉水浄化系によって取り除かれるが、除去できなかったものは炉水とともに再循環系などを循環している間に構成部材の接水部表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。作業被曝の線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されているが、近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法や、炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水中に注入して、炉水と接触する再循環系配管表面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60やコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特許文献1)。また、冷却水中に放射性核種が溶出又は放出される状態になる前に、運転中に炉水が通流する再循環系配管及び炉水浄化系配管の内面に、予め一定条件で酸化皮膜を形成させることが提案されている(特許文献2)。
特開昭58−79196号公報 特開昭62−95498号公報
しかし、特許文献1に記載のように、亜鉛などの金属イオンを炉水中に注入する方法では、運転中に常に亜鉛イオンを注入し続けなければならず、また、亜鉛自体の放射化を避けるために同位体分離した亜鉛を使用しなければならないという問題がある。
また、特許文献2に記載の酸化皮膜を形成させる方法の場合は、例えばBWRの運転温度域(250〜300℃)において酸化皮膜を形成させていることから、次のような問題があることが判明した。すなわち、本発明者らの研究によると、酸化皮膜を生成する対象の構成部材がステンレス鋼の場合、構成部材の表面にまずクロム成分の多い内層酸化皮膜が形成され、その内層酸化皮膜の表面にクロム成分の少ない外層酸化皮膜が形成されることが判った。特に、このような2層構造の酸化皮膜の場合、内層酸化皮膜に放射性のCo−60やCo−58が取込まれ易いという性質があり、放射性核種の付着抑制効果があまり大きくないということが判明した。
本発明は、原子力プラント構成部材への放射性核種の付着を効果的に抑制することを課題とする。
上記課題を解決するため、種々の検討を行った結果、溶存酸素の金属母材中への拡散速度が遅い温度条件(例えば、100℃以下)でフェライト(例えば、マグネタイト)の緻密な皮膜のみを形成させることにより、放射性核種のコバルトの取り込みを抑制できることを明らかにした。
すなわち、ステンレス鋼表面にマグネタイト皮膜を形成した後、BWR供用運転条件の高温水中に浸漬してCo−60の付着量を調べた結果、図2に示すようにCo付着量を大きく抑制できることが分かった。図2において、縦軸は試料A、B、CのCo−60付着量の相対値を示している。試料Aはステンレス鋼の表面を機械的に研磨した試料、試料Bはステンレス鋼の表面にBWR供用運転条件下で予め酸化皮膜を形成した試料、試料Cはステンレス鋼の表面に100℃以下の条件でマグネタイト皮膜を形成した試料である。図2から明らかなように、試料A、Bに比べて、マグネタイト皮膜を形成した試料CのCo付着量は大きく抑制されていることが分かる。なお、マグネタイト皮膜を形成する方法としては、磁気記録媒体のフェライト膜を形成する技術(例えば、特公昭63−15990号公報)が挙げられる。しかしながら、同公報に記載の方法は塩素を用いており、原子力プラントの構成部材の健全性を確保する観点から、塩素を用いることができないので、従来の方法とは異なる方法を採用する必要がある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原子力プラントを構成する金属部材の表面に塩素の代りに有機酸を使って鉄(II)イオンを吸着させ、20℃〜200℃(好ましくは20℃〜100℃、さらに好ましくは60〜100℃)において、前記吸着した鉄(II)イオンを酸化することにより、塩素を使用することなく、原子力プラントを構成する金属部材の表面に放射性核種が付着するのを抑制できるフェライト皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)原子力プラントを構成する金属部材の表面に鉄(II)イオンを吸着させ、前記吸着した鉄(II)イオンを20℃〜200℃において酸化して該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることを含む、原子力プラント構成部材の放射性核種の付着抑制方法。
(2)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを、それぞれ別々に又はそれらを混合した処理液を、原子力プラントを構成する金属部材の表面に接触させ、20℃〜200℃において該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることを含む、前記(1)記載の方法。
(3)処理液が、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pH5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを、この順に混合して得られるものである、前記(2)記載の方法。
(4)第3の薬剤が原子炉格納容器内で混合されることを特徴とする前記(2)又は(3)記載の方法。
(5)第1の薬剤がギ酸水溶液に金属鉄を溶解させた溶液であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)第1の薬剤がギ酸鉄(II)を溶解した溶液であることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)第1の薬剤が、電解により金属鉄電極から溶出する鉄(II)イオンを含む溶液であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(8)第2の薬剤が過酸化水素であることを特徴とする前記(2)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)第3の薬剤がヒドラジンであることを特徴とする前記(2)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)第1の薬剤中の処理液中における鉄(II)イオン濃度に対する、第2の薬剤中の処理液中における過酸化水素濃度の比が1/4以下であることを特徴とする前記(2)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)不活性ガスでバブリングされた第1の薬剤及び処理液を用いることを特徴とする前記(2)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)原子力プラントを構成する金属部材が2系統の配管であって、処理液を2系統の間で交互にフィルアンドドレインすることによって該金属部材の表面へのフェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする前記(2)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)フェライト皮膜の成膜時に処理液に浮遊する粒子状物質をフィルタで除去しながら、フェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする前記(2)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)金属部材の表面に付着している酸化皮膜を含む汚染物を除去してから、前記フェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)汚染物の除去が、酸化除去と還元除去を繰返し行う化学除染により行われることを特徴とする前記(14)記載の方法。
(16)フェライト皮膜の成膜が、60℃〜100℃において行なわれることを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)フェライト皮膜の成膜が、原子力プラントを構成する金属部材の表面に付着している汚染物を除去する除染工程の終了後から原子力プラントの起動までの間に行われることを特徴とする前記(1)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18)フェライト皮膜の成膜部位に自由液面が存在する場合において、気相部を不活性ガスでパージすることを特徴とする前記(1)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)前記(1)〜(18)のいずれかに記載のフェライト皮膜の成膜後に、使用した薬剤の成分を常温常圧で気体の物質又は水へ分解することを含む前記(1)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(20)使用した薬剤の成分を常温常圧で気体の物質又は水へ分解した後に、さらに前記(1)〜(18)のいずれかに記載のフェライト皮膜の成膜を行なうことを含む前記(19)記載の方法。
(21)a)処理液を貯留するサージタンク;と、
b)サージタンク内に貯留された処理液を吸引する循環ポンプ;と、
c)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を貯留する第1の薬液タンク;と、
d)前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤を貯留する第2の薬液タンク;と、
e)pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤を貯留する第3の薬液タンク;と、
f)循環ポンプにより吸引された処理液に第1の薬液タンク、第2の薬液タンク及び第3の薬液タンクからの薬剤を混合し、これを成膜対象の配管系に供給するための供給配管;と、
g)成膜対象の配管系から戻される処理液を前記サージタンクに戻す戻り管;と、
h)処理液の温度を60℃〜100℃に加熱する加熱手段;
とを備えてなり、第3の薬剤の注入位置は原子炉格納容器内に設置されていることを特徴とする原子力プラント構成部材の表面にフェライト膜を成膜するための成膜装置。
(22)処理液中のpH、処理液中の鉄(II)イオン濃度及び処理液の白金電極電位の少なくとも一つ以上を測定できる装置が設置されていることを特徴とする前記(21)記載の成膜装置。
(23)原子力プラントを構成する金属部材の表面に鉄(II)イオンを吸着させ、前記吸着した鉄(II)イオンを20℃〜200℃において酸化し、pHを5.5〜9.0に調整して該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させた原子力プラント構成部材。
(24)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを混合した処理液を原子力プラントを構成する金属部材の表面に接触させ、20℃〜200℃において該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させた前記(23)記載の原子力プラント構成部材。
(25)処理液として、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pH5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とをこの順に混合して得られるものを用いる前記(24)記載の原子力プラント構成部材。
本発明によれば、原子力プラント構成部材への放射性核種の付着を効果的に抑制することのできる方法、並びにそのための原子力プラント構成部材及びフェライト成膜装置が提供される。
本明細書において「原子力プラントを構成する金属部材」とは、原子力発電プラント等の原子炉で生成する放射性物質を含む炉水が通流、接触する一切の金属部材を言う。このようなものとしては、例えば、BWRプラントの炉水再循環系又は炉水浄化系を構成する金属部材が挙げられるが、これに限るものではない。また、本発明の方法はBWRプラントに限らず、加圧水型(PWR)原子力プラントにおける炉水と接触する金属構成部材にも適用できる。これらの金属部材には主にステンレス鋼が使用される。
また、本明細書において「常温」及び「常圧」とは、それぞれ20℃及び1気圧のことを言う。
本発明の方法は、原子力プラントを構成する金属部材の表面に鉄(II)イオンを吸着させ、前記吸着した鉄(II)イオンを常温〜200℃(好ましくは、60℃〜100℃)において酸化して該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることを含む。
本発明の方法は、典型的には、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを混合した処理液を原子力プラントを構成する金属部材の表面に接触させ、常温〜200℃(好ましくは、60℃〜100℃)において該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることにより行われる。好ましくは、前記処理液として、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pH5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とをこの順に混合して得られるものが用いられる。
第1の薬剤
鉄(II)イオンを含む第1の薬剤としては、鉄(II)イオンを含む化合物又はその水溶液であれば特に限定されるものではなく、例えば、鉄と有機酸又は無機酸との塩の水溶液を用いることができる。特に、有機酸や炭酸は、使用後に二酸化炭素や水に分解することができるため好ましい。有機酸としては、例えば、ギ酸、マロン酸、ジグリコール酸、シュウ酸等を例示することができる。フェライト皮膜の生成量や均一性の観点から、第1の薬剤としてはギ酸鉄(II)の水溶液を用いることが好ましい。図3にギ酸鉄(II)及びジグリコール酸鉄(II)を用いた場合でのそれぞれのフェライト皮膜の生成量を相対値で示す。
或いは、金属鉄を電極として用いる電解により鉄電極から溶出する鉄(II)イオンを含む水溶液を第1の薬剤として用いることもできる。
第2の薬剤
第2の薬剤としては、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する作用を有する酸化剤又はその水溶液を用いることができる。
鉄(II)イオンを含む溶液からフェライトを形成させるためには、まずその一部を酸化して鉄(III)イオンとする必要がある。酸化剤としては、例えば、過酸化水素が挙げられる。
鉄(II)イオンを酸化して鉄(III)イオンとする際に、鉄(III)イオンが多くなりすぎるとフェライトが形成されずに水酸化鉄(Fe(OH)3)が析出するので、水酸化鉄が析出しない程度の量の酸化剤を使用することが好ましい。そこで、酸化剤濃度/鉄(II)イオン濃度の比とフェライト皮膜生成量との関係を調べた。その結果を図5に示す。この結果より、酸化剤(過酸化水素)濃度の鉄(II)イオン濃度に対する比が1/4を超えるとフェライト皮膜はほとんど生成しないことが分かり、フェライト皮膜形成のためにはこの比を1/4(0.25)以下、さらには0.15以下にすることが好ましい。
第3の薬剤
本発明の方法では、前記第1の薬剤及び第2の薬剤を含む処理液(好ましくは、水溶液)を用いるが、この処理液は所定の範囲のpHに調整して用いることが好ましい。そこで、本発明では第3の薬剤としてpH調整剤又はその水溶液を用いる。pH調整剤により処理液のpHは5.5〜9.0に調整される。本発明で用いられるpH調整剤としては特に限定されるものではなく、例えば、ヒドラジン等の有機塩基を用いることができる。
金属構成部材表面へのフェライト膜の形成
上記第1、第2及び第3の薬剤を用いて原子力プラントの金属構成部材の表面にフェライト膜を形成させる。
第1、第2及び第3の薬剤はそれぞれ別々に金属構成部材に接触させてもよいし、又は第1、第2及び第3の薬剤を含む混合液(処理液)として用いてもよい。
第1、第2及び第3の薬剤を混合して処理液として用いる場合、これらは混合するとすぐに液中にフェライトの微粒子が生成し始めるので、処理液は金属構成部材を処理する直前に調製(混合)されることが好ましい。
また、本発明者らは、第1、第2及び第3の薬剤を混合する順序によりフェライト皮膜の形成しやすさや、形成されるフェライト膜の緻密性が変化することを見出した。本発明者らの実験によると、第1の薬剤、第2の薬剤そして第3の薬剤の順で混合した処理液を用いた場合に、フェライト皮膜の形成性がよく(図4)、さらには均一で緻密なフェライト膜が形成されることがわかった。特に、pH調整剤である第3の薬剤は原子炉格納容器内で添加混合することが好ましい。
また、前記第1の薬剤及び処理液は、窒素又はアルゴン等の不活性ガスをバブリングして水溶液中の酸素を除去しておくことが好ましい。
本発明の方法は、例えば:
a)循環する処理液を貯留するサージタンク;と、
b)サージタンク内に貯留された処理液を吸引する循環ポンプ;と、
c)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を貯留する第1の薬液タンク;と、
d)前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤を貯留する第2の薬液タンク;と、
e)pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤を貯留する第3の薬液タンク;と、
f)第1の薬液タンク、第2の薬液タンク及び第3の薬液タンクからの薬剤と、循環ポンプにより吸引された処理液とを混合し、この処理液を成膜対象の配管系に供給するための供給配管;と、
g)成膜対象の配管系から戻される処理液を前記サージタンクに戻す戻り管;と、
h)処理液の温度を60℃〜100℃に加熱する加熱手段;
とを備えた成膜装置を用いて実施することができる。ここで、好ましくは、第3の薬剤の注入位置は原子炉格納容器内に設置される。
流れの上流側から第1の薬剤(鉄(II)イオン)、第2の薬剤(酸化剤)、そして第3の薬剤(pH調整剤)の順で循環系統に注入されるように各薬剤の注入位置を設定し、特に第3の薬剤は処理対象部位の直前で注入されるようにすることが好ましい。このように注入位置を配置することにより、処理対象部位以外に無駄なフェライト皮膜が形成されることを防止できる。
成膜装置からの処理液は、供給配管を通って、フェライト皮膜を成膜しようとする金属部材に供給される。
処理の対象としている金属部材が2系統の配管に分かれている場合、処理液をその2系統の間で交互にフィルアンドドレイン(fill and drain)することにより、両系統の金属部材の表面にフェライト皮膜の成膜を行うこともできる。
処理液中に微細な固形物等の浮遊する粒子状物質が存在するとフェライト皮膜の成膜処理の際にその粒子状物質表面でも皮膜の形成が起こり、それによって無駄な薬剤が使用されるので、これを防止するために、処理液から粒子状物質を除去するフィルタを処理液の循環路に設置することが好ましい。
金属部材の表面には原子炉の運転によって生成した放射性核種を取り込んだ酸化皮膜が形成されている場合があるので、金属部材の表面にフェライト皮膜を形成させる前に、その酸化皮膜等の汚染物を取り除いておくことが好ましい。この汚染酸化皮膜を除去する方法(除染処理)としては、例えば、研磨等の機械的処理の他に金属部材表面を酸化剤及び還元剤で処理する化学除染が挙げられる。また、処理液の流路において自由液面が存在する箇所(即ち、気相が存在する箇所)は、処理液の酸化を防ぐために気相を窒素及びアルゴン等の不活性ガスでパージすることが好ましい。除染工程の終了後、原子力プラントの起動までの間にフェライト皮膜の成膜処理を行なう。
フェライト皮膜の成膜後、使用した薬剤はその一部又は全部を気体(常温常圧において)及び/又は水に分解することが好ましく、さらには、その後、再度上記のようにしてフェライト皮膜の形成処理を行なうことが特に好ましい。
以下に、実施例及び図面により本発明の具体例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図6に原子力発電プラントの再循環配管に本発明の成膜装置を接続する場合の全体系統構成図を示し、図7にその成膜装置の詳細系統構成図を示す。
図6は、本発明の成膜装置30を炉水再循環系に適用する場合を示している。図6に示すように、原子力発電プラントは、燃料棒を圧力容器に収容してなる原子炉1と、原子炉1に連結された主蒸気配管2と、主蒸気配管2に連結された蒸気タービン発電機3と、蒸気タービン発電機3の蒸気排出口に連結された復水器4とを備えて構成される。復水器4で凝縮された復水は、復水ポンプ5によって抜き出され、復水浄化装置6と、給水ポンプ7と、低圧給水加熱器8と、高圧給水加熱器9とを有してなる給水配管系10を介して原子炉1の給水として戻されるようになっている。低圧給水加熱器8と高圧給水加熱器9の熱源は、蒸気タービン発電機3の抽気により賄われるようになっている。
また、原子炉1内の冷却水を循環する炉水再循環系は複数設けられ、原子炉1の底部に連結された複数の再循環ポンプ21により抜き出された炉水を炉水再循環配管22を介して原子炉1の上部に戻して循環するように構成されている。また、原子炉1の炉水を浄化する炉水浄化系は、炉水再循環配管22に連結された浄化系ポンプ24により抜き出された炉水を再生熱交換器25及び非再生熱交換器26を介して冷却し、冷却された炉水を炉水浄化装置27により浄化し、浄化された炉水を再生熱交換器25で昇温した後、給水系の高圧給水加熱器9の下流側から原子炉1に戻すように構成されている。
成膜装置30は原子炉1へ以下のようにして接続することができる。原子炉1の運転を停止し、炉水再循環配管22から分岐した炉水浄化系配管のバルブ23のボンネットを開放して炉水浄化装置27側を閉止する。そして、成膜装置に連結された仮設配管をバルブ23のフランジを経由して炉水再循環配管22の再循環ポンプ21の上流側に接続する。成膜装置30のもう一方に連結された仮設配管を再循環ポンプ21の下流側に接続する。即ち、炉水再循環配管22からの一部の炉水が成膜装置を通過し、再び炉水再循環配管22に戻るように各装置及び配管を連結する。
成膜装置30の一実施形態としては、例えば、図7に示すものが挙げられる。本実施形態の成膜装置30は、化学除染処理に兼用できるように構成されている。フェライト皮膜処理に用いる水(処理液)が充填されるサージタンク31は、循環ポンプ32、バルブ33、34等を介して炉水再循環配管22の一端に接続されている。
処理液配管35には、バルブ41、42及び注入ポンプ43、44を介して、薬液タンク45、46が連結されている。上流側の薬液タンク45には第1の薬剤(鉄(II)イオン:例えば、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む水溶液)が貯留されている。下流側の薬液タンク46には第2の薬剤(酸化剤:例えば、過酸化水素水)が貯留されている。そして、薬液タンク46の下流側に第3の薬剤(pH調整剤:例えば、ヒドラジン)を貯留する薬液タンク40が処理液配管35に連結されている。
バルブ36及びエゼクタ37を介してサージタンク31に戻る流路を設け、エゼクタ37から配管内の汚染物を化学除染するための薬剤(例えば、酸化溶解するための過マンガン酸、及び還元溶解するためのシュウ酸等)を投入できるように構成されていてもよい。
循環ポンプ32によって炉水再循環配管22の一端に供給された処理液は、炉水再循環配管22内を通って他端からバルブ47を通過して再び成膜装置30へと戻ってくる。バルブ47を介して戻された処理液は、循環ポンプ48、バルブ49、加熱器53とバルブ55、56、57を介してサージタンク31へと運ばれる。
バルブ49には、バルブ50とフィルタ51が並列に連結されている。フィルタ51は処理液に浮遊する粒子状物質を捕捉するためのものである。フェライト皮膜形成時にはバルブ50を開放してフィルタ51が通水可能となるようにすることが好ましい。
加熱器53とバルブ55には、冷却器58とバルブ59が並列に連結されている。
バルブ56には、カチオン交換樹脂塔60がバルブ61を介して、また、混床樹脂塔62がバルブ63を介して、それぞれ並列に連結されている。
バルブ57には、分解装置64がバルブ65を介して並列に接続されている。分解装置64には、バルブ54を介して薬液タンク46に接続された注入ポンプ44の吐出側に連結され、薬液タンク46に貯留された過酸化水素水を分解装置64に注入可能なように構成されている。第1の薬剤において鉄(II)イオンの対アニオンとして有機酸や炭酸を使用した場合や、第3の薬剤においてpH調整剤としてヒドラジン等の化合物を使用した場合には、これらは分解装置64で水や常温常圧において気体である物質に分解することができる。分解装置64で第1の薬剤及び第3の薬剤の一部又は全部を水、二酸化炭素、又は放出可能な気体に分解することにより、廃棄物量を低減することができる。また、薬剤の使用量を抑えるために、反応しなかった薬剤を処理液から分離回収し、再利用することが好ましい。
この例では、フェライト皮膜形成に必要な酸化剤と分解に必要な酸化剤とが同一の過酸化水素であるため薬液タンクと注入ポンプを共用することにより設備を少なくしているが、設置場所により接続配管が長くなる場合には分けて設置することもできる。
第2の薬剤(酸化剤)を注入するバルブ42の位置は、第1の薬剤(鉄(II)イオン)を注入するバルブ41の下流側であって、第3の薬剤(pH調整剤)を注入するバルブ38の上流側に設定し、第3の薬剤を注入するバルブ38の位置は、酸化剤を注入するバルブ42の下流側であって、かつ処理対象部位にできるだけ近い位置(好ましくは、原子炉格納容器内)に設定することが好ましい。
さらに、薬液タンク45及びサージタンク31には、水溶液中の酸素を除去するために窒素又はアルゴン等の不活性ガスをバブリングすることが好ましい。
次に、本発明の成膜装置30を用いる放射性核種の付着抑制方法を、図1に示したフローチャートに沿って説明する。
工程S1(成膜装置の設置)
本発明方法を実施するに際しては、成膜装置30を処理対象の構成部材を含む配管系に連結する。例えば、図8のように、炉水再循環系の金属部材を処理対象とする場合は、原子炉1が停止されたときに原子炉1と炉水再循環配管22との連結をプラグ28と29で切り離し、炉水再循環配管22から分岐したバルブ12と13を介して成膜装置30を連結する。ここで、図8では図7に示した詳細な成膜装置30の一部を省略している。
工程S2(除染処理)
次に、本実施形態の場合では、炉水と接する金属部材の表面に形成された放射性核種を取り込んだ酸化皮膜などの汚染物を、成膜装置30を用いて化学的な処理により除染する。なお、本発明の放射性核種の付着抑制方法を実施するに当たって、化学除染を実施することが好ましいが、汚染酸化皮膜が存在せずフェライト皮膜の処理対象である金属部材の表面が露出されていれば行なわなくてもよい。また、化学除染に代えて研磨などのような機械的な除染処理を行なってもよい。
化学除染は周知の方法であり、例えば以下のようにして行なうことができる。バルブ33、34、47、49、55、56、57を開き、他のバルブを閉じた状態で、循環ポンプ32、循環ポンプ48を起動して、化学除染の対象の炉水再循環系22内にサージタンク31内の処理液を循環させる。そして、加熱器53により処理液の温度を約90℃まで昇温する。次いで、バルブ36を開いてエゼクタ37に設置されたホッパから必要量の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム)及び/又は還元剤(例えば、シュウ酸)をサージタンク31に注入する。次いで、サージタンク31の溶液を除染対象部位まで流し、形成されている汚染酸化皮膜等の汚染物を酸化溶解及び/又は還元溶解して除去することができる。具体的には、過マンガン酸カリウムを流して汚染物の酸化溶解した後、処理液中に残っている過マンガン酸イオンを分解するため、同じくホッパからシュウ酸をサージタンク31に注入する。このとき下記式の反応が起こる:
2KMnO+5C+6H→2K+2Mn2++10CO+8H
続いて、汚染物の還元溶解を行うためさらにシュウ酸を処理液に注入するとともに、処理液のpHを調整するため、バルブ38を開いて薬液タンク40からpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を処理液中に注入する。この一連の処理により処理液中に溶出した金属カチオンはカチオン交換樹脂塔60に通して処理液中から除去する。
化学除染終了後、処理液中のシュウ酸を分解するため処理液の一部を分解装置64に通流させる。このとき、バルブ54を開けて薬液タンク46の第2の薬剤(酸化剤:例えば、過酸化水素水)を同時に分解装置64に流入させてシュウ酸とヒドラジンとを以下の化学反応式に基づいて分解する:
(COOH)+H→2CO+2H
+2H→N+4H
シュウ酸とヒドラジンとを分解した後、処理液中の不純物を除去するため、加熱器53をオフにすると共に、バルブ55を閉じる。これと同時に、冷却器58のバルブ59を開けて、処理液を冷却器58に通して処理液の温度を下げる。これにより処理液の温度が混床樹脂塔62に通水できる温度(例えば、60℃)まで下げた後、カチオン樹脂塔60のバルブ61を閉じ、混床樹脂塔62側のバルブ63を開いて、処理液を混床樹脂塔62に通流させて処理液中の不純物を除去する。
これら一連の工程、即ち、昇温、汚染物の酸化溶解、酸化剤の分解、汚染物の還元溶解、還元剤の分解、浄化運転(汚染物、不純物の除去)を、2〜3回程度繰り返すことにより、金属部材表面に堆積した汚染された酸化皮膜を含む汚染物を溶解して除去することができる。そして、最後の浄化運転により除染液の除染剤及び金属イオン等の濃度が、放射性物質取扱施設で受け入れ可能となるレベルまで除染工程を行なうのが好ましい。
工程S3(処理液の加熱)
除染工程終了後、処理液を加熱する。バルブ49を閉じ、バルブ50を開いてフィルタ51への通水を開始する。処理液中に微細な固形物が残留していると、フェライト皮膜の生成処理の際に該固形物表面でも皮膜生成が生じて無駄な薬剤が使用されることになるため、これを防止するためにフィルタ51が使用される。なお、フィルタ51への通水を前記工程S2中に実施すると、高い放射能を含む固形物を捕捉してフィルタの線量率が高くなりすぎる恐れがあるため適切ではない。
加熱器53により処理液を所定温度(常温〜200℃、好ましくは60℃〜100℃)に調整する。バルブ56を開いてバルブ63を閉止することにより混床樹脂塔62への通水を停止する。このときの処理液の温度は、放射性核種が取り込まれない程度に緻密なフェライト皮膜が形成される温度であれば特に限定されないが、好ましくは200℃以下である。下限は常温でもよいが、フェライト皮膜の生成速度を考慮すると60℃以上が好ましい。また、100℃を超える温度でも本発明の方法は実施可能であるが、処理液の沸騰を抑制するために系を加圧しなければならず、装置の耐圧性が要求されるようになり設備コストが大きくなるため、100℃以下で行なうことが好ましい。
工程S4(処理液への第1の薬剤(鉄(II)イオン)の添加)
フェライト皮膜を形成させるためには、鉄(II)イオンが成膜対象部の表面に吸着させる必要がある。この溶液中の鉄(II)イオンは溶存酸素によって下記式に従って鉄(III)イオンに酸化され、また生じた鉄(III)イオンは下記式に従って水酸化鉄として析出してくる。
4Fe2++O+2HO→4Fe3++4OH
Fe3++3OH→Fe(OH)
しかしながら、この水酸化鉄はフェライト皮膜形成には寄与しないので、これらの反応が起こらないように第1の薬剤の溶液及び処理液中の溶存酸素はできる限り除去しておくことが好ましい。溶液中の溶存酸素を除去する方法としては、例えば、窒素ガス及びアルゴンガス等の不活性ガスによるバブリングや真空脱気等が挙げられる。
循環される処理液の温度が所定温度に達したら、バルブ41を開いて薬液タンク45から鉄を第1の薬剤(例えば、鉄(II)イオンを含むギ酸)を処理液中に添加する。
工程S5(処理液への第2の薬剤(酸化剤)の添加)
続いて、処理対象の金属部材表面に吸着した鉄(II)イオンをフェライト化させるため、バルブ42を開いて薬液タンク46に貯留されている酸化剤(例えば、過酸化水素水)を処理液中に添加する。
工程S6(処理液への第3の薬剤(pH調整剤)の添加)
最後に処理液のpHを5.5〜9.0に調整するため、バルブ38を開けて薬液タンク40からpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を処理液中に添加する。第1、第2及び第3の薬剤が全て添加された処理液を処理対象部位に接触させてフェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜)が形成される。
工程S4、5、6は連続的に、すなわち、第1の薬剤が第2の薬剤注入点に達すると同時に第2の薬剤の注入が開始され、第1の薬剤と第2の薬剤とを添加した処理液が第3の薬剤注入点に達すると同時に第3の薬剤の注入が開始されるようにすることが好ましい。第1の薬剤だけ先に注入して系を循環させると系内に残っている溶存酸素により酸化反応が生じる可能性が高くなり、無駄な反応による薬剤の損失と反応の阻害につながる。このため、薬液タンク45とサージタンク31のバブリングだけでなく、自由液面が生じる再循環配管22の気相を図9に示すようにプラグ28と29に連結された不活性ガス(例えば、窒素ガス)供給ラインとベントラインとを用いて不活性ガスでパージすることが望ましい。
第1の薬剤に第2の薬剤が供給されると鉄(II)イオンの酸化反応が開始される。このとき、第1の薬剤中の鉄(II)イオン濃度に対する、第2の薬剤中の酸化剤(例えば、過酸化水素)の濃度の比が1/4(0.25)以下、好ましくは0.15以下とすると、鉄(II)イオンと鉄(III)イオンとの存在比率が皮膜生成反応に適した条件となる。ただし、このままでは処理液は酸性になっておりフェライト皮膜を形成することができないので、この処理液にpH調整剤を添加して処理液のpHを中性付近に調整する必要がある。pH調整剤の添加と同時にフェライト皮膜生成反応が開始するので、対象部位以外への無駄な皮膜形成を防止するため、第3の薬剤(pH調整剤)の注入ポイントは、図8に示すように、格納容器11の内部の処理対象物の直前(上流側)に設置することが好ましい。
第1、第2及び第3の薬剤の添加の順序は、第1、第2及び第3の薬剤の順序で添加するのが好ましい。第2、第1及び第3の薬剤の順番で添加してもよいが、過酸化水素は温度が高い金属表面で分解し易く、先に注入すると一部が無駄に消費されるので好ましくない。第1、第3及び第2の薬剤の添加順序の場合ではフェライト皮膜の形成は認められるものの、フェライト皮膜を形成する粒子の大きさが大きくなる。したがって、薬剤を効率的に利用し、より緻密なフェライト皮膜を形成させるために、第1、第2及び第3の薬剤の順序で添加することが望ましい。
図8に示した場合では、再循環配管22の2箇所で自由液面が生じる。処理液の液面の高さは、処理液が圧力容器1に入らないように制御する必要があるが、ドライウェル内の線量率を低く抑えるためにはできるだけ高い水位とすることが望ましい。これらの液面の高さは、循環ポンプ32と48の流量バランスをバルブ33や49(図7)を用いて微妙に調整することにより制御することができる。気液界面近傍ではフェライト皮膜が形成しやすく、液面を変動させることにより再循環配管22の上部に位置するライザー管にも効率的にフェライト皮膜を形成させることも可能である。
工程S7(フェライト皮膜の形成確認)
このようにして、フェライト皮膜の形成が十分であると認めれらる場合には、次の工程S8(廃液処理)へと進む。
フェライト皮膜の形成が不完全又は十分ではないと認められる場合には、工程S4に戻って、必要に応じて処理液に第1、第2及び第3の薬剤を追加し、目標とする厚さのフェライト皮膜が形成されるまでフェライト皮膜形成の操作を繰り返す。
工程S8(廃液処理)
フェライト皮膜が形成された後の処理液中には第1の薬剤で使用したギ酸や第3の薬剤で使用したヒドラジン等の物質が残存するので、処理液を廃棄する前に工程S8の廃液処理を実施してそれらを分解・除去しておくことが好ましい。これらの物質をイオン交換樹脂塔60で処理することもできるが、イオン交換樹脂の廃棄物が増えてしまうので、これらの物質は分解装置64で分解処理するのが好ましい。この分解処理により、ギ酸は下記式に従って二酸化炭素と水に、ヒドラジンは窒素と水に分解される。
HCOOH+H→CO+2H
+2H→N+4H
これにより、イオン交換樹脂塔60の負荷を減らしてイオン交換樹脂の廃棄物量を減らすことができる。なお、分解処理は、シュウ酸の分解と同様に、分解装置64に流入する処理液中に過酸化水素を導入してギ酸及びヒドラジンの分解を行う。
このようにして、対象部位に緻密なフェライト皮膜を形成して通常の原子炉供用運転中における対象部位への放射性核種(例えば、放射性コバルトイオン等)の付着を抑制することができる。その結果、炉水再循環系の配管の線量率を抑制して定検作業時における検査作業員の被曝を低減できる。また、イオン交換樹脂に蓄積する放射性廃棄物の発生量も少なくすることができる。さらに、本発明の方法はフェライト成膜形成に塩素等の薬剤を用いていないので、原子炉構成部材の健全性を害することがない。
(実施例2)
図10に、2系統の再循環系配管22を有する場合の系統構成図を示す。
成膜装置30は基本的に図8及び図7に示したものと同じであるが、両方の再循環系配管22に処理液を流すことができるように流路を切り替えるためのバルブを追加している点で異なる。
化学除染やフェライト皮膜生成にかかわる基本的な作業の流れは図1に示すものと同じであるが、2系統(以下、一方を「A系統」、他方を「B系統」という)の再循環配管22を一度にフェライト皮膜処理するため、次に示すように処理液がA系統からB系統に、次いでB系統からA系統へと交互に移送するように流れる点で異なっている。
実施例1の装置(図8)では成膜装置と再循環配管22とは2本の配管で連結されていたが、これに対して実施例2の装置(図10)では、成膜装置とA系統及びB系統の再循環配管22とはそれぞれ1本の配管で連結されている。排水等を考慮すれば再循環配管22の最も低い位置に成膜装置からの配管を接続することが好ましい。これに伴って第3の薬剤(pH調整剤)を注入するポイントもそれぞれの再循環配管22の直前となるように2ヶ所必要になるため、pH調整剤を貯留する第3の薬液タンクから原子炉格納容器11内に敷設される注入ラインも2系統必要になり、バルブで注入ラインを選択するように構成されている。
具体的な運転手順としては、例えば、まずA系統(22a)と成膜装置30に水(処理液)を注入して除染に必要な液位となるようにする。次いで、バルブ77、78を開き、バルブ76、79を閉じた状態で、循環ポンプ32と48を起動すればA系統に保持されていた水はB系統(22b)に移送される。処理液を移送しながら加熱器53で加温する。A系統の水が全てB系統に移送し終わったら、バルブ77、78を閉じ、バルブ76、79を開くと今後はB系統からA系統に水が移送される。フェライト皮膜形成させる際には、処理液を注入する側の系統に第3の薬剤(pH調整剤)が注入されるように、バルブ38aと38bの開閉を制御する。
バルブを操作して処理液の流れを制御する点以外は、実施例1と同じ手順で化学除染とフェライト皮膜の生成を行うことができる。
このような操作により2系統の再循環配管22を同時にフェライト皮膜形成することができる。バルブの切り替えは自動化することが好ましい。
なお、この方法では再循環配管22への処理液の注入・排出により再循環配管22の内部の液面が移動することにより管内表面の多くの部分が気液界面となる時間を有するため、フェライト皮膜の生成が均一になりやすい。また、一定の液量を満たす方式のため、最高液面が設定上限値を越えるリスクが減って、運転ミスによる原子炉内への処理水の流出が発生する可能性が小さくなる。
(実施例3)
図11に、実施例3の系統構成図を示す。実施例3の実施形態は、実施例1(図7)の実施形態と比較して、装置及び配管の基本的な配置は同じだが、サージタンク31及び第1の薬剤の薬液タンク45に不活性ガス(例えば、窒素)のバブリング装置71を設置した点で異なる。
第1の薬剤及びサージタンク内の処理液を不活性ガスでバブリングすることにより、それぞれの溶液中の溶存酸素を除去して、実質的に酸素を含まない溶液にすることができる。その結果、フェライト皮膜の成膜に寄与しない鉄(III)イオンの溶液中における生成を抑制し、フェライト皮膜の生成反応を促進することができる。
(実施例4)
図12に、実施例4の系統構成図を示す。実施例4の実施形態は、実施例1(図7)の実施形態と比較して、装置及び配管の基本的な配置は同じだが、第1の薬剤の薬液タンク45に代わって、電解槽81が設置されており、電解槽81内で直流電源83から供給される電気で鉄板82(金属鉄電極)から溶解する鉄(II)イオンを利用する点で異なる。鉄(II)イオンを含む処理液は注入ポンプ43でフィルタ51を介して処理液配管35へと導かれる。
また、電解時には水の電導度を大きくして電解電流を流れやすくするために炭酸ガス供給装置84から炭酸ガスを電解槽81にバブリングして供給することが好ましい。
電解の極性を変更する際に金属の微粒子が発生するので、これを除去するためフィルタ51を電解槽81の出口側に設置するのが好ましい。
このような系統を構成するメリットは、鉄(II)イオンの溶解性は低いので通常は大きな薬液タンク45が必要だが、本実施例の方法ではコンパクトな電解槽で鉄(II)イオンを効率的に供給でき、また、炭酸ガスを利用するので廃棄物処理が簡単になる点にある。
(実施例5)
図13に、実施例5の系統構成図を示す。実施例5の実施形態は、実施例1(図7)の実施形態と比較して、装置及び配管の基本的な配置は同じだが、フィルタ51の下流側に分岐を設け、その先に鉄(II)イオン濃度測定用クロマトグラムが接続されて処理液中の鉄(II)イオン濃度が測定できるように構成されている点で異なる。
図14は各薬剤混合後の経過時間と鉄(II)イオン濃度及び皮膜量との関係を示したグラフである。薬剤混合後約2時間でフェライト皮膜の成長は飽和しており、その時の鉄(II)イオン濃度は初期濃度の約1/6になっていることがわかる。このことから、フェライト皮膜の形成の程度を鉄(II)イオン濃度から見積もることができる。
図13の鉄(II)イオン濃度測定用クロマトグラムは白金電極電位測定装置に置き換えてもよい。図15は、各薬剤混合後の経過時間と処理液の白金電極電位及び皮膜量との関係を示したグラフである。薬剤混合後約2時間でフェライト皮膜の成長は飽和しており、その時の白金電極電位は約-400mVを示していた。このことから、フェライト皮膜の形成の程度を白金電極電位から見積もることができる。
(実施例6)
図16に、実施例6の手順をフローチャートにして示す。実施例1では、フェライト皮膜の形成が不十分だった場合に処理液に各薬剤を更に添加してフェライト皮膜形成処理を繰り返しているが、実施例6では、同じ処理液は使用せずに新たな処理液に交換してフェライト皮膜形成処理をする点で異なる。
この方法ではフェライト皮膜の形成効率が優れている。図17に実施例1及び実施例6の場合との比較実験の結果を示した。フェライト皮膜の形成処理を繰り返して行なう場合、実施例6の方法のほうがフェライト皮膜の形成効率が優れていることが示された。
商業的には反応溶液の量が多く、取り替えることが困難であるが、分解装置64によってギ酸とヒドラジンを分解した処理液に、各薬剤を再添加した処理液を用いることにより同様の効果を得ることができる。
本発明の放射性核種の付着抑制方法の一実施形態を示すフローチャートである。 種々の方法により表面が加工されたステンレス鋼をBWR供用運転条件の高温水中に浸漬した時のCo−60の付着量(相対値)を示す図である。 種々の有機酸鉄(II)とフェライト皮膜生成量(相対値)との関係を示した図である。 薬剤の添加順序とフェライト皮膜生成量(相対値)との関係を示した図である。 過酸化水素/鉄(モル比)とフェライト皮膜生成量(相対値)との関係を示す図である。 実施例1の実施形態による全体系統構成図である。 実施例1の実施形態による成膜装置の詳細系統構成図である。 実施例1の実施形態において、第3の薬剤の注入点を原子炉格納容器内とした場合の構成を示した図である。 実施例1の実施形態において、再循環配管上部の気相を窒素パージした場合の構成を示した図である。 実施例2の実施形態による全体系統構成図である。 実施例3の実施形態による成膜装置の構成を示す図である。 実施例4の実施形態による成膜装置の構成を示す図である。 実施例5の実施形態による成膜装置の構成を示す図である。 フェライト皮膜形成量(相対値)と処理液中の鉄(II)イオン濃度(相対値)との関係を示す図である。 フェライト皮膜形成量(相対値)と処理液の白金電極電位との関係を示す図である。 本発明の放射性核種の付着抑制方法の別の一実施形態を示すフローチャートである。 処理液に試薬を追加する方法と処理液を交換する方法とのフェライト皮膜生成量(相対値)を比較した図である。
符号の説明
1・・・原子炉圧力容器
2・・・主蒸気配管
3・・・タービン
4・・・復水器
5・・・復水ポンプ
6・・・復水浄化装置
7・・・給水ポンプ
8、9・・・給水加熱器
10・・・給水配管
11・・・原子炉格納容器
21・・・再循環ポンプ
22・・・再循環配管
28、29・・・プラグ
30・・・成膜装置
31・・・サージタンク
32、48・・・循環ポンプ
35・・・処理液配管
37・・・エゼクタ
39、43、44・・・注入ポンプ
40、45、46・・・薬液タンク
51・・・フィルタ
53・・・加熱器
58・・・冷却器
60・・・カチオン交換樹脂塔
62・・・混床樹脂塔
64・・・分解装置
81・・・電解槽
82・・・鉄板
83・・・直流電源
84・・・炭酸ガス供給装置
86・・・鉄(II)イオン濃度測定用イオンクロマトグラム

Claims (25)

  1. 原子力プラントを構成する金属部材の表面に鉄(II)イオンを吸着させ、前記吸着した鉄(II)イオンを20℃〜200℃において酸化して該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることを含む、原子力プラント構成部材の放射性核種の付着抑制方法。
  2. 鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを、それぞれ別々に又はそれらを混合した処理液を、原子力プラントを構成する金属部材の表面に接触させ、20℃〜200℃において該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させることを含む、請求項1記載の方法。
  3. 処理液が、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pH5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを、この順に混合して得られるものである、請求項2記載の方法。
  4. 第3の薬剤が原子炉格納容器内で混合されることを特徴とする請求項2又は3記載の方法。
  5. 第1の薬剤がギ酸水溶液に金属鉄を溶解させた溶液であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 第1の薬剤がギ酸鉄(II)を溶解した溶液であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。
  7. 第1の薬剤が、電解により金属鉄電極から溶出する鉄(II)イオンを含む溶液であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
  8. 第2の薬剤が過酸化水素であることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項記載の方法。
  9. 第3の薬剤がヒドラジンであることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項記載の方法。
  10. 第1の薬剤中の処理液中における鉄(II)イオン濃度に対する、第2の薬剤中の処理液中における過酸化水素濃度の比が1/4以下であることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項記載の方法。
  11. 不活性ガスでバブリングされた第1の薬剤及び処理液を用いることを特徴とする請求項2〜10のいずれか1項記載の方法。
  12. 原子力プラントを構成する金属部材が2系統の配管であって、処理液を2系統の間で交互にフィルアンドドレインすることによって該金属部材の表面へのフェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする請求項2〜11のいずれか1項記載の方法。
  13. フェライト皮膜の成膜時に処理液に浮遊する粒子状物質をフィルタで除去しながら、フェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 金属部材の表面に付着している酸化皮膜を含む汚染物を除去してから、前記フェライト皮膜の成膜が行なわれることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
  15. 汚染物の除去が、酸化除去と還元除去を繰返し行う化学除染により行われることを特徴とする請求項14記載の方法。
  16. フェライト皮膜の成膜が、60℃〜100℃において行なわれることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
  17. フェライト皮膜の成膜が、原子力プラントを構成する金属部材の表面に付着している汚染物を除去する除染工程の終了後から原子力プラントの起動までの間に行われることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項記載の方法。
  18. フェライト皮膜の成膜部位に自由液面が存在する場合において、気相部を不活性ガスでパージすることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項記載の方法。
  19. 請求項1〜18のいずれか1項記載のフェライト皮膜の成膜後に、使用した薬剤の成分を常温常圧で気体の物質又は水へ分解することを含む請求項1〜18のいずれか1項記載の方法。
  20. 使用した薬剤の成分を常温常圧で気体の物質又は水へ分解した後に、さらに請求項1〜18のいずれか1項記載のフェライト皮膜の成膜を行なうことを含む請求項19記載の方法。
  21. a)処理液を貯留するサージタンク;と、
    b)サージタンク内に貯留された処理液を吸引する循環ポンプ;と、
    c)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を貯留する第1の薬液タンク;と、
    d)前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤を貯留する第2の薬液タンク;と、
    e)pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤を貯留する第3の薬液タンク;と、
    f)循環ポンプにより吸引された処理液に第1の薬液タンク、第2の薬液タンク及び第3の薬液タンクからの薬剤を混合し、これを成膜対象の配管系に供給するための供給配管;と、
    g)成膜対象の配管系から戻される処理液を前記サージタンクに戻す戻り管;と、
    h)処理液の温度を60℃〜100℃に加熱する加熱手段;
    とを備えてなり、第3の薬剤の注入位置は原子炉格納容器内に設置されていることを特徴とする原子力プラント構成部材の表面にフェライト膜を成膜するための成膜装置。
  22. 処理液中のpH、処理液中の鉄(II)イオン濃度及び処理液の白金電極電位の少なくとも一つ以上を測定できる装置が設置されていることを特徴とする請求項21記載の成膜装置。
  23. 原子力プラントを構成する金属部材の表面に鉄(II)イオンを吸着させ、前記吸着した鉄(II)イオンを20℃〜200℃において酸化し、pHを5.5〜9.0に調整して該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させた原子力プラント構成部材。
  24. 鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とを混合した処理液を原子力プラントを構成する金属部材の表面に接触させ、20℃〜200℃において該金属部材の表面にフェライト皮膜を成膜させた請求項23記載の原子力プラント構成部材。
  25. 処理液として、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤と、pH5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤とをこの順に混合して得られるものを用いる請求項24記載の原子力プラント構成部材。
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