本発明は、炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法及びその皮膜形成装置に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法及びその皮膜形成装置に関する。
発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントと略記する。)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
BWRプラント及びPWRプラント等の発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。ただし、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構成部は、プラントの製造所要コストを低減する観点、あるいは給水系や復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
しかし、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系や復水系などを構成する炭素鋼部材も、水が接触する接水部を有するので、その接水部が腐食するおそれがある。この場合において、炭素鋼部材が浄化装置の下流側に配置されていると、炭素鋼部材の腐食生成物は、原子炉の放射性腐食生成物の元になることがある。また、炭素鋼部材の腐食生成物に起因してPWRプラントの二次系の熱交換効率が低下する原因になる場合がある。
そこで、緻密なフェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜、ニッケルフェライト皮膜)を炭素鋼部材の表面に形成することが提案されている(例えば、特開2007−182604号公報参照)。フェライト皮膜の形成において、鉄(II)イオンを第1薬剤、鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2薬剤(酸化剤)、及びpHを調整する第3薬剤(pH調整剤)を含む皮膜形成水溶液を用いている。そのフェライト皮膜は、炭素鋼部材に冷却水が接触するのを遮断する保護膜になるので、炭素鋼部材の冷却水と接する表面の腐食が抑制される。
なお、ステンレス鋼で製造された、BWRプラントの再循環系配管の内面にフェライト皮膜を形成する方法が、特開2006−38483号公報に記載されている。
特開2007−182604号公報
特開2006−38483号公報
原子力発電プラントの炭素鋼部材の表面に緻密なフェライト皮膜を形成する、特開2007−182604号公報に記載されたフェライト皮膜形成方法は、皮膜形成水溶液への第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤の添加を、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤の順に行っている。また、特開2007−182604号公報は、それらの薬剤を、第2薬剤、第1薬剤及び第3薬剤の順に添加することを記載し、さらに、第1薬剤、第3薬剤及び第2薬剤の順に添加することも記載している。
発明者らは、特開2007−182604号公報に記載された炭素鋼部材の表面へのフェライト皮膜の形成について、検討したところ、フェライト皮膜の形成に長時間を要することが分かった。
本発明の目的は、プラントを構成する炭素鋼部材の表面へのフェライト皮膜の形成に要する時間をさらに短縮することができる炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法及びその皮膜形成装置を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラントを構成する炭素鋼部材の表面へのフェライト皮膜の形成に用いられる皮膜形成液を、この皮膜形成液が炭素鋼部材に接触される前の時点で、鉄(II)イオン及び酸を含む第1の薬剤、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤を、皮膜形成液のpHを6.0以上で9.0以下に調整する第3の薬剤を含む液体に添加することによって生成することにある。
鉄(II)イオン及び酸を含む第1の薬剤、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤を、第3の薬剤を含む液体に添加するので、第1の薬剤に含まれている酸の影響を抑制して炭素鋼部材の表面に接触する皮膜形成液のpHを6.0以上で9.0以下に調整することができる。このため、炭素鋼部材の表面の腐食を抑制することができ、その表面へのフェライト皮膜の形成に要する時間をさらに短縮することができる。
好ましくは、鉄(II)イオン及び酸を含む第1の薬剤、鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤、及びpHを調整する第3の薬剤のうち、第3の薬剤を、プラントを構成する炭素鋼部材の水と接する表面に接触される液体に添加し、その後、第1の薬剤及び第2の薬剤を、第3の薬剤を含む液体に添加し、第1の薬剤、第2の薬剤及び第3の薬剤が添加された液体を炭素鋼部材の表面に接触させ、この表面にフェライト皮膜を形成することによっても、上記の目的を達成することができる。
好ましくは、プラントを構成する炭素鋼部材の水と接する表面に接触される液体に、鉄(II)イオン及び酸を含む第1の薬剤、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤、及びpHを調整する第3の薬剤を混合して得られる水溶液を添加し、この水溶液が添加された液体を炭素鋼部材の表面に接触させ、表面にフェライト皮膜を形成することによっても、上記の目的を達成することができる。
本発明によれば、プラントを構成する炭素鋼部材の表面へのフェライト皮膜の形成に要する時間をさらに短縮することができる。
発明者らは、特開2007−182604号公報に記載された炭素鋼部材の表面へのフェライト皮膜の形成で、その皮膜の形成に長時間を要する原因を突き止めるための、詳細な検討及び実験を行った。特開2007−182604号公報に記載された各薬剤の添加順序は、いずれも、第1薬剤の添加を第3薬剤の添加の前に行っている。発明者らの検討の結果、最終的に、その薬剤の添加順序が問題であるとの結論に達した。
第1薬剤は、ギ酸または炭酸に鉄を溶解することによって製造され、鉄(II)イオンのほかにギ酸(または炭酸)を含んでいる。この第1薬剤をフェライト皮膜の形成に必要な量だけ水に添加したとき、第1薬剤の水溶液のpHが約4になった。第1薬剤を含むpHが4で100℃の水溶液(溶存酸素濃度100ppb)に、BWRプラントで用いられる炭素鋼部材を20時間浸漬させたところ、図4に示すように、炭素鋼部材の重量が浸漬前に比べて4×104mg/dm2だけ減少した。これは、炭素鋼部材が約pH4のその水溶液に含まれているギ酸の作用によりそれだけ腐食されたことを意味する。この結果、発明者らは、炭素鋼部材へのフェライト被膜の形成に長時間を要する原因が、第1薬剤を最初に添加することによって、炭素鋼部材の表面が、一時的に、約pH4の水溶液にさらされて腐食により減量することであることを初めて突き止めた。
特開2007−182604号公報に記載されたように、フェライト皮膜形成方法は、皮膜形成水溶液への第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤の添加を、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤の順に行った場合、第1薬剤だけを含む水溶液が炭素鋼部材に接触してから第1薬剤及び第3薬剤を含む水溶液がその表面に接触するまでの間、約pH4の水溶液がその炭素鋼部材の表面に接触することになる。その間における炭素鋼部材の腐食による減量が、炭素鋼部材表面へのフェライト皮膜の形成に要する時間を長くしているのである。なお、特開2007−182604号公報に記載された、各薬剤を第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤の順に添加して生成された皮膜形成水溶液(皮膜形成液)を用いてフェライト皮膜を形成するフェライト皮膜形成方法を方法Aという。
発明者らは、さらに、炭素鋼部材の表面に接触する水溶液のpHと炭素鋼部材の腐食量との関係を求めるために、実験を行った。温度100℃及び溶存酸素濃度100ppbでpHを5,6及び7にしたそれぞれの水溶液に、炭素鋼部材をそれぞれ20時間浸漬させた。これらの実験結果及び上記したpH4の場合の実験結果をまとめて図4に示す。図4の縦軸は浸漬時間が20時間経過したときの炭素鋼部材の腐食量を表し、横軸は水溶液(皮膜形成液)のpHを表している。水溶液のpHが4より増大すると共に炭素鋼部材の腐食による減量が減少する。水溶液のpHが6になると、炭素鋼部材の腐食による減量がpH4の場合の約1/10に低減できる。その腐食による減量は、図4から明らかであるように、水溶液のpHが6以上になると著しく減少する。
以上に述べた検討の結果、発明者らは、炭素鋼部材にフェライト皮膜を形成する際には、水に、第3薬剤を添加し、その後に第1薬剤を添加して炭素鋼部材の表面に接触する第3薬剤及び第1薬剤を含む皮膜形成水溶液を生成すれば良いことを新たに見出した。この水溶液のpHは第3薬剤によって6.0乃至9.0に調整される。すなわち、第3薬剤の添加の後に第1薬剤を添加し、水溶液のpHを6.0乃至9.0に調整することにより、炭素鋼部材の腐食による減量が低減され、炭素鋼部材の表面にフェライト皮膜を形成するために要する時間を短縮することができる。第2薬剤は、第1薬剤の添加が第3薬剤の添加の後になるのであれば、第1薬剤の添加後の期間、及び第3薬剤の添加と第1薬剤の添加の間の期間のいずれで行っても良い。
各薬剤を第3薬剤、第1薬剤及び第2薬剤の順に添加して生成された、pHが6.0乃至9.0である皮膜形成水溶液を用いてフェライト皮膜を形成するフェライト皮膜形成方法を方法Bという。また、各薬剤を第3薬剤、第2薬剤及び第1薬剤の順に注入して生成された、pHが6.0乃至9.0である皮膜形成水溶液を用いてフェライト皮膜を形成するフェライト皮膜形成方法を方法Cという。さらに、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤を事前に室温(20℃)で混合して生成された、pHが6.0乃至9.0である皮膜形成水溶液を用いてフェライト皮膜を形成するフェライト皮膜形成方法を方法Dという。
各薬剤の注入順序が異なる方法A〜Dにおける、薬剤の注入順序及び薬剤注入による皮膜形成水溶液のpHの変化を、図5に示す。ここで、方法B、Cは、pHの変化が同じになるため、一つの線で示している。図5から明らかなように、方法B、C及びDでは、皮膜形成水溶液のpHを常に6以上を維持することができる。同じフェライト皮膜形成時間において、各方法で炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜の量を、図6に示す。方法B,C及びDは、方法Aよりもフェライト皮膜量が多くなる。これは、炭素鋼部材の腐食を抑制することによって、フェライト皮膜の形成に要する時間を短縮できることを示している。方法B,C及びDで形成されたフェライト皮膜の厚みは、いずれも、特開2006−38483号公報に記載されたステンレス鋼で製造された、原子力発電プラントの構造部材に形成されるフェライト皮膜の厚みよりも厚くなる。
方法B,C及びDで形成されるフェライト皮膜の表面の凹凸について説明する。方法Bで形成されるフェライト皮膜は、表面の凹凸が大きい。一方、方法C及びDで形成されるフェライト皮膜は、表面の凹凸が小さい。このような表面の凹凸の違いは、各方法におけるマグネタイトを形成する反応の違いによって生じる。
方法Bでは、皮膜形成水溶液のpHを6.0乃至9.0に調整するpH調整剤である第3薬剤を含む皮膜形成水溶液に、第1薬剤を注入するため、式(1)の反応によって皮膜形成水溶液内に水酸化第一鉄が生成される。その後、酸化剤である第2薬剤を加えることによって、皮膜形成水溶液内で、式(2)の反応によってマグネタイトが生成される。このマグネタイトが炭素鋼部材の表面に界面反応を介して吸着し、その表面にマグネタイト皮膜を形成する。ここで、方法Bにおいては、生成された水酸化第一鉄が、皮膜形成水溶液内で衝突を繰り返して粒に成長する。このため、炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表面の凹凸が大きくなる。
Fe2++2OH- → 2Fe(OH)2 ……(1)
2Fe3++Fe(OH)2 → Fe3O4+H2O+O2- ……(2)
他方、方法Dでは、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤を室温で事前に混合した皮膜形成水溶液を用いるので、式(3)によってその皮膜形成水溶液内にマグネタイトの前躯体であるグリーンラストが生成する。その後、皮膜形成水溶液が60℃〜100℃に加熱されることによって、グリーンラストも60℃〜100℃に加熱される。グリーンラストが加熱されることによって、式(4)の脱水反応が起こり、皮膜形成水溶液内にマグネタイトが生成する。このマグネタイトが炭素鋼部材の表面に界面反応を介して吸着し、マグネタイト皮膜を形成する。グリーンラストは、水酸化第一鉄に比べて異方的な粒成長が小さいため、フェライト皮膜の表面における凹凸が小さくなる。
Fe2++Fe3++5OH- → Fe2+Fe3+(OH)5 ……(3)
2Fe2+Fe3+(OH)5 → Fe3O4+Fe(OH)2+4H2O ……(4)
方法Bにより炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜をレーザーラマン法で分析した結果を図7に示す。図7に示すように、フェライト皮膜のラマン強度のピーク位置は、マグネタイト(Fe3O4)の標準スペクトルのピーク位置と一致した。
炭素鋼部材の腐食抑制効果を、図8により説明する。図8の縦軸は、試料E及びFの重量変化の相対値を示している。試料Eは、炭素鋼部材の表面を機械的に研磨した試料である。試料Fは、方法Bにより炭素鋼部材の表面にマグネタイトの皮膜を形成した試料である。図8から明らかなように、方法Bによりマグネタイト皮膜を表面に形成した試料Fは、試料Eよりも重量の減少が少ない。すなわち、試料Fは、試料Eよりも腐食が抑制されている。
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の発電プラントを構成する炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法の実施例を、図面を用いて説明する。
本発明の好適な一実施例である、BWRプラントの給水配管に適用した実施例1の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図1〜図3を用いて以下に説明する。
原子力発電プラントであるBWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有している。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9を設置している。原子炉浄化系20は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管23に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27を設置している。浄化系配管23は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
RPV12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された冷却水は、燃料棒内の各燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱される。抽気配管15で主蒸気配管2、タービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって浄化系配管23内に流入し、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、浄化系配管23及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
BWRプラントの運転が停止された後、仮設設備である皮膜形成装置30の循環配管(液体配管)35の両端が、炭素鋼製の給水配管(炭素鋼部材)10に接続される。すなわち、BWRプラントの運転停止後に、例えば、復水脱塩器6の出口に設置されているバルブ24のボンネットを開放して復水脱塩器6側を閉止するとともに、バルブ24のフランジを用いて皮膜形成装置30の循環配管35の一端を、低圧給水加熱器8よりも上流で給水配管10に接続する。これと同時に、高圧給水加熱器9よりも下流で給水配管10(例えば、ドレン配管やサンプリング配管)を切り離し、その切り離し部分に循環配管35の他端を接続する。皮膜形成装置30は、フェライト皮膜が形成され、フェライト皮膜の形成に使用した溶液の処理が終了した後、給水配管10から取り外される。皮膜形成装置30は、給水配管10の内面へのフェライト皮膜の形成、及びこの皮膜の形成に使用した溶液の処理の両方に用いられる。さらに、皮膜形成装置30は、給水配管10内面の化学除染を行う際にも用いられる。給水配管10に接続された皮膜形成装置30はBWRプラントでは放射線管理区域であるタービン建屋(図示せず)内に配置されている。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3により説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環配管35、薬液タンク40,45,46、フィルタ51、分解装置64及びカチオン交換樹脂塔60を備えている。開閉弁47、循環ポンプ48、弁49、加熱器53、弁55,56,57、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。弁49をバイパスして循環配管35に接続される配管71に、弁50及びフィルタ51が設置される。加熱器53及び弁55をバイパスする配管66が循環配管35に接続される。冷却器58及び弁59が配管66に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁56をバイパスする配管67に、カチオン交換樹脂塔60及び弁61が設置される。両端が配管67に接続されてカチオン交換樹脂塔60及び弁61をバイパスする配管68に、混床樹脂塔62及び弁63が設置される。弁57をバイパスして弁65及び分解装置64が設置される配管69が循環配管35に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管70が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。化学除染の対象となる配管(例えば、給水配管10)の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには配管内の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
鉄(II)イオン注入装置が、薬液タンク45、注入ポンプ43及び注入配管72を有する。薬液タンク45は、注入ポンプ43及び弁41を有する注入配管72によって循環配管35に接続される。薬液タンク45は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤が充填されている。この薬剤はギ酸を含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸又は炭酸を用いることができる。酸化剤注入装置が、薬液タンク46、注入ポンプ44及び注入配管73を有する。薬液タンク46は、注入ポンプ44及び弁42を有する注入配管73によって循環配管35に接続される。薬液タンク46は、酸化剤である過酸化水素が充填されている。pH調整剤注入装置が、薬液タンク40、注入ポンプ39及び注入配管74を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38を有する注入配管74によって循環配管35に接続される。薬液タンク40はpH調整剤であるヒドラジンを充填する。
本実施例では、pH調整剤注入装置の循環配管35への第1接続点(注入配管74と循環配管35の接続点)90、鉄(II)イオン注入装置の循環配管35への第2接続点(注入配管72と循環配管35の接続点)91、及び酸化剤注入装置の循環配管35への第3接続点(注入配管73と循環配管35の接続点)92のうち、第1接続点90が最も上流に位置している。第2接続点91は第1接続点90よりも下流に位置し、第3接続点92は第2接続点91よりも下流に位置している。第3接続点92は、循環配管35において、化学除染及びフェライト皮膜形成の対象部位にできるだけ近くに位置させることが好ましい。弁54を設けた配管75が配管73と配管69を連絡する。サージタンク31は、処理に用いられる水が充填されている。薬液タンク45及びサージタンク31内に、水溶液に含まれる酸素を除去するために、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることが好ましい。
分解装置64は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水や二酸化炭素に分解できる有機酸、又は気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
本実施例におけるフェライト皮膜形成方法を、図1を用いて詳細に説明する。図1に示す手順は、フェライト皮膜の形成溶液の処理方法だけでなく、化学除染及びフェライト皮膜の形成に用いた溶液の処理方法も含んでいる。まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。すなわち、BWRプラントの運転がBWRプラントの定期検査のために停止された後、前述したように、循環配管35が皮膜形成対象の配管系である給水配管10に接続される。
皮膜形成対象箇所に対する化学除染を実施する(ステップS2)。給水と接触する、給水配管10の内面は、酸化皮膜が形成されている。BWRプラントにおいては、この酸化皮膜は放射性核種を含んでいる。ステップS2の一例は、化学的な処理によりその酸化皮膜を、皮膜形成対象箇所である給水配管10の内面から取り除く処理である。皮膜形成対象の配管系へのフェライト皮膜の形成は、その給水配管内面の腐食抑制を目的とするものであるが、その形成に際しては給水配管10の内面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。フェライト皮膜を形成する前に皮膜形成対象の炭素鋼部材の表面が露出されていればよいので、化学除染の替りに機械的な除染処理を適用することも可能である。
ステップS2で適用する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、弁34,33,57,56,55,49,47をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,48を起動して、除染対象となる給水配管10内にサージタンク31内の水を循環させる。そして、加熱器53により循環する水の温度を約90℃まで昇温する。所定温度になった後、弁36を開く。配管70内を流れる水により、エゼクタ37につながっているホッパから配管70内に導かれる必要量の過マンガン酸カリウムをサージタンク31内に供給する。過マンガン酸カリウムがサージタンク31内で水に溶解し、酸化除染液(過マンガン酸カリウム水溶液)が生成される。この酸化除染液は、循環ポンプ32の駆動によって給水配管10内に供給される。酸化除染液は、給水配管10の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を酸化して溶解する。
酸化除染が終了した後、上記のホッパからシュウ酸をサージタンク31に注入する。このシュウ酸によって酸化除染液に含まれている過マンガン酸カリウムが分解される。その後、サージタンク31内で生成されてpHが調整された還元除染液(シュウ酸水溶液)は、循環ポンプ32によって給水配管10内に供給され、給水配管10の内面に存在する腐食生成物の還元溶解を行う。その還元除染液のpHが、薬液タンク40から循環配管35内に供給されるヒドラジンによって調整される。還元除染液を給水配管10に供給した後、弁61を開くと共に、弁56の開度を調整して、還元除染液の一部をカチオン交換樹脂塔60に導く。還元除染によって還元除染液に溶出してきた金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔60で除去される。
還元除染の終了後、還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。すなわち、弁65を開いて弁57の開度を調整し、循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解装置64に供給する。このとき、薬液タンク46内の過酸化水素が、弁54の開放及び注入ポンプ44の駆動によって、配管75を通して分解装置64に導かれる。シュウ酸及びヒドラジンは、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用によって分解される。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁55を閉じて加熱器53による加熱を停止させ、同時に、弁59を開けて除染液を冷却器58で冷却する。冷却された除染液(例えば、60℃)は、弁61を閉じて弁63を開くことによって、混床樹脂塔62に供給される。混床樹脂塔62は除染液に含まれる不純物を除去する。
これら一連の昇温から酸化溶解、酸化剤分解、還元溶解、還元剤分解、浄化運転を、例えば2〜3回程度繰り返すことにより、除染対象箇所における炭素鋼部材の表面の酸化皮膜を含む腐食生成物を溶解して除去することができる。
このようにして、炭素鋼部材の化学除染が終了した後、フェライト皮膜の形成処理が実行される。
皮膜形成対象箇所の除染が終了した後、皮膜形成水溶液の温度調整を行う(ステップS3)。皮膜形成対象箇所の除染終了後において、皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁50を開いて弁49を閉じ、フィルタ51への通水を開始する。弁56を開いて弁63を閉じることにより、混床樹脂塔62への通水を停止する。さらに、弁55を開いて加熱器53によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。弁47,57,33,34は開いており、弁36,59,61,65,38,41,42,54は閉じている。フィルタ51への通水は水中に残留している微細な固形物を除去するためである。この固形物が残留していると、皮膜形成対象箇所でのフェライト皮膜の形成の際に、その固形物の表面にもフェライト皮膜が形成され、薬剤が無駄に使用されることになる。上記の固形物の除去によって、皮膜形成水溶液に含まれる薬剤を有効に使用できる。また、フィルタ51への皮膜形成水溶液の供給を化学洗浄中に実施した場合には、溶解によって生じた高濃度の鉄に起因する水酸化物でフィルタの圧力損失が高くなるおそれがあるため適切ではない。また、弁56を開放すると共に弁63を閉止することにより、浄化系運転で使用していた混床樹脂塔62への通水を停止する。
皮膜形成水溶液の所定温度は、75℃程度が好ましいが、これに限られない。要は原子炉の運転時における炭素鋼部材の腐食を抑制できる程度に、形成されたフェライト皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成水溶液の温度は、給水配管10の最高使用温度以下、少なくとも200℃以下が好ましい。皮膜形成水溶液の温度は少なくとも200℃以下が好ましく、下限は20℃でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃よりも高い温度では皮膜形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず仮設設備の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。したがって、皮膜形成処理における皮膜形成水溶液の温度は、100℃以下がより好ましい。
第1薬剤に含まれる鉄(II)イオンを酸化させて水酸化第二鉄を生成させないために、皮膜形成水溶液内の溶存酸素を除去することが必要である。このため、サージタンク31及び薬液タンク45内で、不活性ガスのバブリング又は真空脱気を行うことが好ましい。
pH調整剤(第3薬剤)を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS4)。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することにより、pH調整剤(例えば、ヒドラジン)を、薬液タンク40から、循環配管35内を流れている所定温度(例えば、75℃)の皮膜形成水溶液(pH調整剤が初めて注入されるときは水)に注入する。pH計76が、第3接続点92より下流で循環配管35に設置される。pH計76は、循環配管35を流れる皮膜形成水溶液のpHを計測する。このpH計測値に基づいて、注入ポンプ39の回転速度(またはバルブ38の開度)を調整し、皮膜形成水溶液のpHがpH6.0乃至9.0、例えば、7.0に調整される。皮膜形成水溶液のpHが上昇するため、炭素鋼部材である給水配管10の腐食が抑制される。
鉄(II)イオンを含む薬液(第1薬剤)を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS5)。弁41を開いて注入ポンプ43を駆動し、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第1薬剤)を、薬液タンク45から、循環配管35内を流れてヒドラジンが含まれている皮膜形成水溶液に注入する。ここで注入される第1薬剤は、例えば、鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオンを含んでいる。注入された鉄(II)イオンの一部が、皮膜形成水溶液内で水酸化第一鉄となる。
酸化剤を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS6)。弁42を開いて注入ポンプ44を駆動し、酸化剤である過酸化水素を、薬液タンク46から循環配管35内を流れてヒドラジン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を含む皮膜形成水溶液に注入する。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾンまたは酸素を溶解した薬剤を用いてもよい。ヒドラジン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄、ギ酸及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液のpHが、pH6.0乃至9.0、例えば、7.0になるように、ヒドラジンの注入量が調節される。酸化剤は、炭素鋼部材の表面、すなわち、給水配管10の内面に吸着された鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄をフェライト化させる。
ヒドラジン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液が、循環ポンプ32,48が駆動されているので、循環配管35により、バルブ24を介して給水配管10内に供給される。この皮膜形成水溶液は、給水配管10内を流れ、循環配管35の弁47側へと戻され、ヒドラジン、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液及び過酸化水素が供給されて再び給水配管10内に導かれる。皮膜形成水溶液(皮膜形成液)が給水配管10の内面に接触することによって、鉄(II)イオンが炭素鋼部材である給水配管10の内面に吸着される。吸着された鉄(II)イオンが過酸化水素の作用によってフェライト化される。皮膜形成水溶液内の水酸化第一鉄は過酸化水素と反応してマグネタイトを生成する。このマグネタイトは給水配管10の内面に界面反応を介して吸着される。以上のようにして、マグネタイトを主成分とするフェライト皮膜(以下、マグネタイト皮膜という。)が、給水配管10の内面に形成される。
ステップS4、S5及びS6は連続的に実施されることが好ましい。より具体的には、第1接続点90でpH調整剤が注入された皮膜形成水溶液が第2接続点91に達したときに、鉄(II)イオンを含む薬液の皮膜形成水溶液への注入を開始することが好ましい。pH調整剤及び鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液が第3接続点92に達したときに、酸化剤の皮膜形成水溶液への注入を直ちに実施することが好ましい。
鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に酸化剤が供給されると、鉄(II)イオンの酸化反応が開始されるので、皮膜形成水溶液内における鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの存在比率が、フェライト皮膜の生成反応に適した条件となる。皮膜形成水溶液内では、鉄(II)イオンと水酸化第一鉄は平衡定数状態を保って存在する。このため、皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンが減少すれば、皮膜形成水溶液内の水酸化第一鉄から鉄(II)イオンが供給される。循環配管35の内面での無駄なマグネタイト皮膜の形成を防止するため、酸化剤の循環配管35への注入ポイントは、皮膜形成箇所である給水配管10に近い位置、すなわち、バルブ24と循環配管35の接続点に近い位置にすることが好ましい。
フェライト皮膜の形成処理が完了したかが判定される(ステップS7)。この判定は、フェライト皮膜の形成処理開始後の経過時間に基づいて行われる。この経過時間が給水配管10の内面に所定の厚みのフェライト皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、ステップS7の判定は「NO」となり、ステップS4〜S6の操作が連続して行われる。ステップS7の判定が「YES」になったとき、給水配管10の内面へのフェライト皮膜の形成処理が終了する。
その後、皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS8)。給水配管10の内面へのマグネタイト皮膜の形成に使用された皮膜形成水溶液は、マグネタイト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解装置64で分解される。薬剤の分解処理では、弁57,65の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成水溶液の一部を分解装置64に供給する。弁54を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ヒドラジンは窒素と水に、ギ酸は二酸化炭素と水にそれぞれ分解する。触媒を用いた分解処理装置64の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン、ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
ヒドラジン及びギ酸を分解装置64において上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔60によるヒドラジン及び混床樹脂塔62によるギ酸の除去を回避できるので、カチオン交換樹脂塔60内の使用済イオン交換樹脂の廃棄量を著しく低減できる。
本実施例は、ヒドラジン(pH調整剤)を皮膜形成水溶液に注入した後、鉄(II)イオンを含む薬液を、ヒドラジンによってpHが増大された皮膜形成水溶液に注入している。このため、給水配管10の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHは、第1薬剤に含まれているギ酸の影響を受けたとしても、前もって存在するヒドラジンの影響により4.0よりも増大するので、マグネタイト皮膜形成時における給水配管10の内面、すなわち、炭素鋼部材の表面の腐食を抑制することができる。
本実施例は、給水配管10の内面の腐食をマグネタイト皮膜形成時において抑制することができるので、その腐食を抑制できる所定厚みのマグネタイト皮膜をその表面に形成するために要する時間をさらに短縮することができる。
特に、本実施例は、給水配管10の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHが、6.0以上になっているので、炭素鋼部材の水と接触する表面における上記の腐食を著しく抑制することができる。これにより、所定厚みのマグネタイト皮膜をその表面に形成するために要する時間をもっと短縮することができる。pHが9.0を越えた場合には、炭素鋼部材の表面に形成されるマグネタイト皮膜の厚みが薄くなる。このため、炭素鋼部材、すなわち、給水配管10の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHは9.0以下にするとよい。
本実施例は、前述したB方法を適用しているので、マグネタイト皮膜表面の凹凸が大きくなるが、図6に示すように、方法A,C,Dよりも給水配管10の内面(炭素鋼部材の表面)に形成されるマグネタイト皮膜の厚みよりも厚くすることができる。
本実施例は、マグネタイト皮膜の形成に必要な酸化剤及び皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸の分解時に使用する酸化剤として、同じ種類の過酸化水素を用いているので、酸化剤を充填する薬液タンク46及びそれを移送する注入ポンプ44を共用することができる。このため、皮膜形成装置30の構造を簡素化することができる。しかしながら、薬液タンク46の設置場所により薬液タンク46から分解装置64までの配管75の長さが長くなる場合には、マグネタイト皮膜の形成に使用する酸化剤のための薬液タンクとヒドラジン及びギ酸の分解に使用する酸化剤のための薬液タンクを別々に設けることも可能である。
本実施例は、マグネタイト皮膜の形成に使用する薬剤に塩素を含む薬剤を用いていないため、BWRプラントの構成部材の健全性(例えば、耐腐食性)を害することがない。なお、薬剤の使用量を抑制するには、余分な反応生成物を分離除去して未反応薬剤を回収し、回収後の未反応薬剤を再利用することが好ましい。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用した実施例2の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図9を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜形成方法は、前述の方法Cを適用したものである。
本実施例のフェライト皮膜形成方法に用いる皮膜形成装置30Aは、実施例1に用いられる皮膜形成装置30と同じそれぞれの構成要素が用いられている。しかしながら、皮膜形成装置30Aでは、鉄(II)イオン注入装置の循環配管35への第2接続点91、及び酸化剤注入装置の循環配管35への第3接続点92のそれぞれの位置が、皮膜形成装置30と異なっている。皮膜形成装置30Aでは、上流から下流に向って、pH調整剤注入装置の循環配管35への第1接続点90、第3接続点92及び第2接続点91の順に並んでいる。第2接続点91が最も下流に位置している。
このような皮膜形成装置30Aを用いることによって、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液への各薬剤の注入順序は、ヒドラジン、過酸化水素及び鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液となる。ヒドラジンを含む皮膜形成水溶液に過酸化水素が注入され、ヒドラジン及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液に鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液が注入される。給水配管10内に供給された皮膜形成水溶液のpHは7.0である。
本実施例も、実施例1と同様に、ヒドラジンを皮膜形成水溶液に注入した後、鉄(II)イオンを含む薬液を、ヒドラジンによってpHが増大された皮膜形成水溶液に注入している。このため、マグネタイト皮膜形成時における給水配管10の内面の腐食を抑制することができ、本実施例は所定厚みのマグネタイト皮膜を給水配管10の内面に形成するために要する時間をさらに短縮することができる。給水配管10の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHが6.0以上になっているので、所定厚みのマグネタイト皮膜をその表面に形成するために要する時間をもっと短縮することができる。
本実施例は、ヒドラジン、過酸化水素及び鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液をこの順序で循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液に注入しているので、実施例1と違って給水配管10の内面に形成されたマグネタイト皮膜の表面の凹凸を小さくすることができる。このため、本実施例で形成されたマグネタイト皮膜は、実施例1で形成された、表面の凹凸が大きいマグネタイト皮膜に比べて放射性核種を含むクラッドが引っかかる可能性が小さくなる。ただし、酸化剤としての過酸化水素は温度が高い給水配管10の内面に接触することによって分解し易いため、過酸化水素を鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液よりも先に皮膜形成水溶液に注入するとその過酸化水素の一部が無駄に消費される場合がある。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用した実施例3の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図10及び図11を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜形成方法は、前述の方法Dを適用したものである。
本実施例のフェライト皮膜形成方法に用いる皮膜形成装置30Bは、実施例1に用いられる皮膜形成装置30に撹拌槽(混合装置)77、弁78及び注入配管79を設け、注入配管72,73,74を撹拌槽77に接続した構成を有する。注入配管79は、撹拌槽77及び循環配管35に接続され、弁78を設けている。皮膜形成装置30Bの他の構成は、皮膜形成装置30と同じである。
皮膜形成装置30Bを用いた本実施例のフェライト皮膜形成方法を、図11に示す手順に基づいて説明する。この手順は、実施例1で実行された図1に示す手順のうちステップS4〜S6をステップS9に変えたものである。ステップS1〜S3の各手順を実行した後、ステップS9におけるpH調整剤、鉄(II)イオンを含む溶液及び酸化剤を含む水溶液の注入が実行される。すなわち、薬液タンク40内のヒドラジンが注入配管74により、薬液タンク45内の鉄(II)イオン及びギ酸を含む溶液が注入配管72より、及び薬液タンク46内の過酸化水素が注入配管73により、それぞれ撹拌槽77内に供給される。撹拌槽77内において供給された各薬剤が撹拌機(図示せず)によって撹拌される。撹拌槽77内では、鉄(II)イオンと過酸化水素の反応によってグリーンラストが生成される。撹拌槽77内の、ヒドラジン、鉄(II)イオン、グリーンラスト、ギ酸及び過酸化水素を含む水溶液(皮膜形成液)は、pHが7.0になっており、弁78を開くことによって注入配管79を通って循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液(60乃至100℃)内に注入される。pHが7.0である注入された皮膜形成水溶液は、給水配管10内に導かれ、循環配管35内に戻される。その皮膜形成水溶液が給水配管10内を流れることによって、鉄(II)イオン及びグリーンラストが給水配管10の内面に吸着され、給水配管10の内面にマグネタイト皮膜が形成される。グリーンラストは、加熱された皮膜形成水溶液内で式(4)の反応によりマグネタイトになる。このマグネタイトは給水配管10の内面に界面反応を介して吸着される。
ステップS7で所定厚みのマグネタイト皮膜が給水配管10の内面に形成されたと判定されたとき、マグネタイト皮膜の形成処理が終了し、マグネタイト皮膜の形成に用いられた皮膜形成水溶液に含まれているヒドラジン及びギ酸が、ステップS8で分解される。
撹拌槽77内で各薬剤を混合する温度は、室温(例えば、20℃)以下が望ましいが、各薬剤が混合されて生成された皮膜形成水溶液内にグリーンラストが生成される温度に制御すればよい。
本実施例は、鉄(II)イオンを含み、ヒドラジンによってpHが増大された皮膜形成水溶液を、循環配管35内を流れる水(または給水配管10から戻された皮膜形成水溶液)に注入する。このため、マグネタイト皮膜形成時における給水配管10の内面の腐食を抑制することができ、本実施例は、実施例1と同様に、所定厚みのマグネタイト皮膜を給水配管10の内面に形成するために要する時間をさらに短縮することができる。給水配管10の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHが6.0以上になっているので、所定厚みのマグネタイト皮膜をその表面に形成するために要する時間をもっと短縮することができる。
本実施例も、実施例2と同様に、給水配管10の内面に形成されたマグネタイト皮膜の表面の凹凸を小さくすることができる。このため、本実施例で形成されたマグネタイト皮膜は、実施例1で形成された、表面の凹凸が大きいマグネタイト皮膜に比べてクラッドが引っかかる可能性が小さくなる。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用した実施例4の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図12を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜形成方法も、実施例3と同様に、前述の方法Dを適用したものである。
本実施例のフェライト皮膜形成方法に用いる皮膜形成装置30Cは、実施例3に用いられる皮膜形成装置30Bにおいて、薬液タンク40,45,46、弁38,41,42,78、注入ポンプ39,43,44、注入配管72,73,74,79及び撹拌槽77を削除し、薬液タンク80、注入ポンプ81、弁82及び注入配管83を新たに設けた構成を有する。皮膜形成装置30Cの他の構成は、皮膜形成装置30Bと同じである。薬液タンク80は注入配管83によって弁33の下流で循環配管35に接続される。注入ポンプ81及び弁82が注入配管83に設置される。薬液タンク46は配管75によって分解装置64の下流で配管69に接続される。
本実施例は、放射線管理区域外の非放射線管理区域(例えば、工場等)において、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤を予め混合して皮膜形成水溶液を生成し、この皮膜形成水溶液を搬送容器内に収納する。搬送容器内で、鉄(II)イオンと過酸化水素の反応によってグリーンラストが生成される。グリーンラストを含む皮膜形成水溶液を収納した搬送容器は、外気によるグリーンラストの酸化を防ぐために、密閉または窒素ガス等の不活性ガスをパージした状態で、非放射線管理区域から皮膜形成装置30Cを配置した放射線管理区域内に搬送する。この搬送容器の放射線管理区域内への搬送は、BWRプラントの運転停止後に行われる。その搬送容器内の皮膜形成水溶液が、薬液タンク80内に注入される。 本実施例のフェライト皮膜形成方法は、実施例3と同様に、図11に示す各手順が実行される。本実施例のステップS9では、弁82を開いて注入ポンプ81を駆動することによって、薬液タンク80内のpHが7.0である皮膜形成水溶液が、循環配管35内を流れている水(または給水配管10から戻された皮膜形成水溶液)に注入される。薬液タンク80から注入された皮膜形成水溶液が給水配管10内に供給されるので、給水配管10の内面にマグネタイト皮膜が形成される。
本実施例は、実施例3で生じる効果を得ることができる。本実施例は、非放射線管理区域において給水配管10内に供給する皮膜形成水溶液を生成するため、皮膜形成装置が配置された放射線管理区域が皮膜形成水溶液の生成に用いる薬剤、例えば、第1薬剤によって汚される可能性を無くすことができる。
本実施例は、加圧水型原子力発電プラント(PWRプラント)の二次系の給水配管に適用した実施例5の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図13を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜形成方法は、実施例1と同様に、前述の方法Bを適用したものであり、皮膜形成装置30を用いている。
PWRプラントは、原子炉(図示せず)、蒸気発生器84、タービン3及び復水器4を備えている。蒸気発生器84は、内部に設けられた複数の伝熱菅が一次冷却系配管85,84によって原子炉に接続されている。蒸気発生器84に接続された主蒸気配管2がタービン3に接続され、蒸気発生器84に接続された給水配管10が復水器4に接続される。この給水配管10は炭素鋼製である。原子炉内で加熱された高温の一次冷却水が、蒸気発生器84内の複数の伝熱菅に供給され、給水配管10によって蒸気発生器84のシェル側に供給された給水を加熱する。給水の加熱によって温度が低下した一次冷却水は、一次冷却水配管86を通って原子炉に戻される。給水は、高温の一次冷却水による加熱によって蒸気になる。この蒸気は、主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、復水器4に排出されて凝縮される。タービン3は蒸気によって回転される。
PWRプラントの運転停止後、皮膜形成装置30の循環配管35の両端が、実施例1と同様に、PWRプラントの給水配管10に接続される。その後、実施例1と同様に、皮膜形成装置30から皮膜形成水溶液が給水配管10内に供給され、給水配管10の内面にマグネタイト皮膜を形成する。
本実施例も、実施例1で生じる効果を得ることができる。PWRプラントの二次系(例えば、給水配管)においては、アンモニア及びヒドラジンなどの薬品を用いて炭素鋼部材の腐食を抑制することが一般的に行われている。しかしながら、本実施例では、二次系の炭素鋼部材の腐食を抑制するためにアンモニア及びヒドラジンなどの薬品を用いる必要が無くなる。
皮膜形成装置30の替りに、皮膜形成装置30A,30B及び30Cのいずれかを、PWRプラントの給水配管10に接続することによって、前述の方法Cまたは方法DをPWRプラントの給水配管10に適用することができる。
本実施例は、火力発電プラントの給水配管に適用した実施例6の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を、図14を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜形成方法は、実施例1と同様に、前述の方法Bを適用したものであり、皮膜形成装置30を用いている。
火力発電プラントは、ボイラ87に接続された主蒸気配管2がタービン3に接続され、ボイラ87に接続された炭素鋼製の給水配管10が復水器4に接続される。火力プラントの運転停止後、皮膜形成装置30の循環配管35の両端が、実施例1と同様に、PWRプラントの給水配管10に接続される。その後、実施例1と同様に、皮膜形成装置30から皮膜形成水溶液が給水配管10内に供給され、給水配管10の内面にマグネタイト皮膜を形成する。
本実施例も、実施例1で生じる効果を得ることができる。火力プラントの給水系も、PWRプラントと同様に、一般的に、アンモニア及びヒドラジンなどの薬品を用いて炭素鋼部材の腐食を抑制している。本実施例も、二次系の炭素鋼部材の腐食を抑制するためにアンモニア及びヒドラジンなどの薬品を用いる必要が無くなる。
皮膜形成装置30の替りに、皮膜形成装置30A,30B及び30Cのいずれかを、火力プラントの給水配管10に接続することによって、前述の方法Cまたは方法DをPWRプラントの給水配管10に適用することができる。
皮膜形成装置30,30A,30B,30Cのいずれかを、BWRプラントにおいて、例えば、原子炉冷却材浄化系の配管、余熱除去系の配管、原子炉隔離時冷却系の配管、炉心スプレイ系の配管、補機冷却水系統の配管、及びクーリングタワーを用いる冷却水系統の配管等に接続し、実施例1ないし実施例4のいずれかのフェライト皮膜の形成方法を適用することができる。PWRプラント及び火力プラントにおいても、皮膜形成装置30,30A,30B,30Cのいずれかを用いて給水配管以外の炭素鋼部材の表面にフェライト皮膜を形成することができる。
本発明の好適な一実施例である、BWRプラントの給水配管に適用する実施例1の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法の手順を示すフローチャートである。
図1に示す炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法に用いられる皮膜形成装置を接続したBWRプラントの構成図である。
図2に示す皮膜形成装置の詳細な構成図である。
炭素鋼部材の重量変化(腐食量)と炭素鋼部材に接触する水溶液のpHの関係を示す特性図である。
薬剤の注入順序が異なるそれぞれのフェライト皮膜形成方法における皮膜形成水溶液のpHの時間的な変化を示す説明図である。
薬剤の注入順序が異なる各フェライト皮膜形成方法における形成されるフェライト皮膜量の違いを示す説明図である。
フェライト皮膜を形成した炭素鋼表面のレーザーラマンスペクトルを示す説明図である。
炭素鋼部材の表面にフェライト皮膜を形成した場合における炭素鋼部材の腐食量の抑制効果を示す説明図である。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用する実施例2の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法に用いられる皮膜形成装置の構成図である。
図11に示す炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法に用いられる皮膜形成装置の構成図である。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用する実施例3の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法の手順を示すフローチャートである。
本発明の他の実施例である、BWRプラントの給水配管に適用する実施例4の炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法に用いられる皮膜形成装置の構成図である。
図3に示す皮膜形成装置を給水配管に接続したPWRプラントの二次系の構成図である。
図3に示す皮膜形成装置を給水配管に接続した火力プラントの構成図である。
符号の説明
1…原子炉、3…タービン、4…復水器、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、30,30A,30B…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,48…循環ポンプ、35…循環配管、37…エゼクタ、39,41,43…注入ポンプ、40…薬液タンク(pH調整剤)、45…薬液タンク(鉄(II)イオン)、46…薬液タンク(酸化剤)、51…フィルタ、53…加熱器、58…冷却器、60…カチオン交換樹脂塔、62…混床樹脂塔、64…分解装置。