発明者らは、原子力プラントの炭素鋼製の構成部材、すなわち、炭素構成部材への放射性核種の付着を抑制できる対策について種々の検討を行った。
前述したように、炭素鋼部材の、炉水と接触する表面にニッケルまたは白金を付着させる場合は、ステンレス鋼製の構成部材の、炉水と接触する表面にニッケルまたは白金を付着させる場合に比べて、その表面への放射性核種の付着抑制効果が低下する。
そのような放射性核種の付着抑制効果の低下を改善するために、発明者らは、炉水条件において炭素鋼製の構成部材の、炉水と接触する表面に貴金属(例えば、白金)を付着させ、その後、炭素鋼部材の、貴金属が付着された表面にニッケルを付着させたところ、炭素鋼部材のその表面への放射性核種の付着量が著しく低減されることを見出した(特開2016−161466号公報参照)。
このような知見に基づいて、発明者らは、貴金属及びニッケルを炭素鋼部材の表面に付着させることがその表面への放射性核種の付着抑制につながると考えた。そこで、発明者らは、貴金属及びニッケルを炭素鋼部材の表面に付着させることを前提に、その表面への放射性核種の付着をさらに抑制することができる対策案についての検討を行った。
発明者らによる検討の結果、発明者らは、最終的に、ニッケル金属皮膜を炭素鋼部材の表面に形成し、このニッケル金属皮膜の表面に貴金属(例えば、白金)を付着させ、酸素を含む130℃以上(好ましくは、130℃以上330℃以下)の温度範囲の水をそのニッケル金属皮膜の表面に接触させて、その皮膜内のニッケル金属をNi含有率が定比に近い安定なニッケルフェライトに変換させ、炭素鋼部材の表面をその安定なニッケルフェライト皮膜で覆うことによって、その炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制できるとの結論を見出した。
ところで、その放射性核種の付着抑制では、発明者らは、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制を図る工程のうちの一つの工程である、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着作業、すなわち、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成及びこのニッケル金属皮膜表面への貴金属の付着に要する時間を短縮することが、原子力プラントの、燃料交換作業及び保守点検作業が実施される運転停止期間の限られた期間においてその貴金属付着作業を実施するためにも重要であるとの認識を有した。
そこで、発明者らは、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着作業、特に、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成に要する時間を短縮できる対策を見出すべく、種々の検討を行った。この検討結果を以下に説明する。
炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成に用いる皮膜形成水溶液を生成するための薬剤としては、ニッケルの対アニオンとして水及び二酸化炭素に分解可能なギ酸を用いる。具体的には、ギ酸ニッケル水溶液を使用した。炭素鋼をギ酸ニッケル水溶液に浸漬すると、式(1)に示すように、炭素鋼内の鉄とギ酸ニッケル水溶液に含まれるニッケルイオンとの置換めっき反応が生じ、炭素鋼の表面にニッケル金属皮膜が形成される。
Fe+Ni2+ → Fe2++Ni ……(1)
さらに、ギ酸ニッケル水溶液に還元剤を注入すると、還元剤の作用により、ニッケルイオンが還元されてニッケル金属となり、このニッケル金属が炭素鋼の表面に析出する。還元剤として、例えば、ヒドラジンを使用すると、式(2)に示す反応により、ニッケル金属が生成される。
2Ni2++N2H4 → Ni+N2+2H++H2 ……(2)
発明者らは、式(1)及び式(2)の各反応により炭素鋼の表面に形成されるニッケル金属皮膜の量を調べるため、炭素鋼製の試験片を90℃のギ酸ニッケル水溶液に浸漬し、浸漬開始から60分が経過したときに、その試験片をギ酸ニッケル水溶液から取り出した第1ケース、及び別の炭素鋼製の試験片をギ酸ニッケル水溶液に浸漬し、浸漬開始から60分が経過したときに、その試験片が浸漬されているギ酸ニッケル水溶液にヒドラジン(還元剤)を注入し、ヒドラジンを含むギ酸水溶液に浸漬された試験片を、ヒドラジンを含むギ酸水溶液への浸漬開始から4時間が経過したときに、ヒドラジンを含むギ酸水溶液から取り出した第2ケースのそれぞれのケースについて、それぞれの試験片に形成されたニッケル金属皮膜の量を比較した。
この結果、ヒドラジンの注入前にギ酸ニッケル水溶液から試験片を取り出した、式(1)の反応だけが生じる第1ケースにおいて試験片に形成されたニッケル金属皮膜の量が、ヒドラジンが注入されたギ酸ニッケル水溶液から試験片を取り出した、式(1)及び式(2)のそれぞれの反応が生じる第2ケースにおいて試験片に形成されたニッケル金属皮膜の量の約8割に達することを、発明者らは確認した。このため、発明者らは、炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成には、式(1)の置換めっき反応が大きな影響を与え、その置換めっき反応が重要であると判断した。
すなわち、ニッケルイオンのヒドラジンによる還元反応速度は、触媒が存在すると早く進むことが知られている。しかしながら、還元除染後のニッケル金属皮膜形成においては、触媒が存在しないため、その還元反応速度はあまり早くは進まない。一方、炭素鋼部材内の鉄とギ酸ニッケル水溶液に含まれるニッケルイオンとの置換めっき反応は、薬剤の使用が限定される還元除染後の条件下でも、ヒドラジンによる還元反応よりも早く進行するため、置換めっきを始めに実施する。
次に、式(1)の置換めっき反応の、皮膜形成水溶液のpH依存性を調べたところ、発明者らは、ギ酸ニッケルを含む皮膜形成水溶液のpHが4.0で、炭素鋼部材におけるニッケル金属皮膜形成量が極大化する傾向を見出した。発明者らが調べた、ニッケル金属皮膜の形成量のpH依存性の結果を図7に示す。図7から明らかであるように、pH3.8〜4.2の間で炭素鋼部材の表面に形成されるニッケル金属皮膜の量は、皮膜形成水溶液のpHが3.9〜4.2(3.9以上4.2以下)の範囲内で炭素鋼部材内の鉄と皮膜形成水溶液に含まれるニッケルイオンとの置換メッキ反応の効率が増大するため、その量の最大値の80%以上になった。このため、ニッケル金属皮膜を炭素鋼部材の表面に形成するためには、皮膜形成水溶液のpHを3.9以上4.2以下の範囲に制御することが好ましい。
そこで、発明者らは、皮膜形成水溶液のpHを3.9以上4.2以下の範囲に制御するために、ギ酸ニッケル水溶液による皮膜形成水溶液のpHの調節と併せて、皮膜形成水溶液にpH緩衝溶液を注入することを考えた。pH緩衝溶液は、弱酸と弱塩基の混合溶液であり、希釈しても、外部から酸または塩基を加えてもそれらの影響をあまり受けず、水素イオン濃度(pH)がそれほど変化しないような溶液である。このようなpH緩衝溶液としては、弱酸にはギ酸ニッケルに含まれる、例えば、ギ酸と、弱塩基には取り扱いが容易な、例えば、アンモニアの混合溶液がある。弱酸及び弱塩基のそれぞれは、pH緩衝溶液の成分である。例えば、pH緩衝溶液の一例であるギ酸及びアンモニアの混合溶液では、ギ酸及びアンモニアのそれぞれがpH緩衝溶液の成分である。pH緩衝溶液は、酸及び塩基のそれぞれ1種類の成分を含んでいるとも言える。皮膜形成水溶液にpH緩衝溶液を注入することによって、皮膜形成水溶液のpHをある値、例えば、3.9以上4.2以下の範囲内のpHに一定に保つことができる。また、pH緩衝溶液の他の例としては、酢酸とアンモニアの混合溶液がある。pH緩衝溶液に含まれるギ酸及び酢酸は、触媒及び酸化剤の作用により分解することができる。
pH緩衝溶液にギ酸及びアンモニアの混合溶液を使用することとして、皮膜形成水溶液のpHを4.0にする場合におけるギ酸及びアンモニアのそれぞれの濃度を計算する。ギ酸ニッケルのニッケル濃度を、例えば200ppmとした場合、そのニッケル濃度に伴うギ酸濃度は約400ppmとなる。このため、ギ酸及びアンモニアの混合溶液(pH緩衝溶液)においてギ酸ニッケルの注入時にpH緩衝性を持たせるためには、その混合溶液のギ酸濃度は、少なくともギ酸ニッケルに伴うギ酸濃度よりも高くする必要がある。上記の混合溶液において、例えば、2倍の800ppmのギ酸を用いたとき、皮膜形成水溶液のpHを4.0にするために必要なアンモニアの濃度は、以下のように計算できる。ギ酸の酸解離反応式及び酸解離平衡式は、ぞれぞれ、式(3)及び式(4)のように表される。
HCOOH → H++HCOO− ……(3)
ここで、KFはギ酸の酸解離定数、[H+]は皮膜形成水溶液の水素イオン濃度、[HCOO-]は皮膜形成水溶液のギ酸イオン濃度、及び[HCOOH]は皮膜形成水溶液のギ酸濃度である。
ギ酸の全濃度[HCOOH]Tは、式(5)で表される。
[HCOOH]T=[HCOOH]+[HCOO-] ……(5)
アンモニアの酸解離反応式及び酸解離平衡式は、それぞれ、式(6)及び式(7)で表される。
NH4 + → H++NH3 ……(6)
ここで、KAはアンモニアの酸解離定数、[NH3]は皮膜形成水溶液のアンモニア濃度、及び[NH4 +]は皮膜形成水溶液のアンモニアイオン濃度である。
アンモニアの全濃度[NH3]Tは、式(8)で表される。
[NH3]T=[NH3]+[NH4 +] ……(8)
水のイオン積KWを、KW=[H+][OH-]として表すと、イオン均衡式は式(9)で表される。なお、[OH-]は皮膜形成水溶液の水酸化物イオン濃度である。
[H+]+[NH4 +]=[OH-]+[HCOO-] ……(9)
式(9)の[NH4 +]、[OH-]、[HCOO-]について、式(4)、式(5)、式(7)、式(8)及び水のイオン積KWの関係を使って整理すると、式(10)が得られる。
KF=1.12×10-4、KA=2.43×10-8、及びKW=5.379×10-13として、ギ酸全濃度[HCOOH]Tを800ppm(17.4mmol/L)、皮膜形成水溶液のpHを4.0とした時のアンモニア全濃度[NH3]Tを求めると、156ppmとなる。同様に、皮膜形成水溶液のpHが4.0である場合のギ酸全濃度400ppm〜1600ppmの範囲におけるアンモニア全濃度[NH3]Tを求めた。皮膜形成水溶液のpHが4.0である場合における、ギ酸濃度と求められたアンモニア濃度の関係を図8に実線で示した。同様に、図8には、皮膜形成水溶液のpHが3.9の場合におけるギ酸濃度とアンモニア濃度の関係を一点鎖線で、皮膜形成水溶液のpHが4.2の場合におけるギ酸濃度とアンモニア濃度の関係を破線でそれぞれ示している。図8によれば、pH3.9からpH4.2に必要なギ酸及びアンモニアのそれぞれの濃度は、一点鎖線(pH3.9)と破線(pH4.2)に挟まれた領域の濃度とすればよいことが分かる。
ところで、発明者らは、特開2006−38483号公報及び特開2012−247322号公報に記載されているように、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を含む、60℃〜100℃の低い温度範囲の皮膜形成水溶液を原子力プラントの構成部材の表面に接触させて構成部材の表面にマグネタイト皮膜を形成し、このマグネタイト皮膜上に貴金属を付着させた場合には、原子力プラントの運転中においてマグネタイト皮膜が貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。また、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成されたニッケルフェライト皮膜上に貴金属を付着させた場合においても、原子力プラントの運転中においてニッケルフェライト皮膜が貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。
炭素鋼部材の表面からの、このようなフェライト皮膜の溶出は、やがて、炭素鋼部材上のフェライト皮膜の消失をもたらし、フェライト皮膜が消失した後、すなわち、運転サイクルの末期において、放射性核種が炭素鋼部材の表面に付着することになる。この結果、炭素鋼部材表面への放射性核種の、長期間に亘る付着抑制が阻害されることになる。また、この運転サイクルでの原子力プラントの運転を停止した後、炭素鋼部材の表面に、再度、フェライト皮膜を形成する必要がある。
貴金属が表面に付着されたマグネタイト皮膜及びニッケルフェライト皮膜等のフェライト皮膜の溶出を考慮すれば、炭素鋼部材の表面への放射性核種付着のさらなる抑制を図るだけでなく、その表面への放射性核種の、長期間に亘る付着抑制も重要であると発明者らは考えた。
発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成したニッケルフェライト皮膜がこの皮膜上に貴金属を付着させたときにそのニッケルフェライトが溶出する理由について、検討を行った。この検討により、原子力プラントの運転停止中において、そのような低い温度範囲で炭素鋼部材の表面に形成されたニッケルフェライトの皮膜は、Ni0.7Fe2.3O4の皮膜であり、不安定であることが分かった。なお、Ni0.7Fe2.3O4は、Ni1-xFe2+xO4においてxが0.3である場合の形態である。このため、不安定な皮膜であるNi0.7Fe2.3O4の皮膜上に、貴金属、例えば、白金が付着されているとき、Ni0.7Fe2.3O4が、その白金の作用により、原子力プラントの運転中において炉水中に溶出するということが分かった。また、不安定なNi0.7Fe2.3O4の皮膜は、上記の低い温度範囲で形成されるため、炭素鋼部材の表面にNi0.7Fe2.3O4の小さい粒が多数付着している状態になっている。この理由によっても、上面に白金が付着したNi0.7Fe2.3O4の皮膜が溶出する。
ところで、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させる際に、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+として溶出していると、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させることができなくなる。このため、発明者らは、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させるときにおける、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐ対策を検討した。そして、発明者らは、炭素鋼部材の表面をニッケル金属の皮膜で覆うことによって炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができることを見出した。炭素鋼部材の表面を覆うニッケル金属は、後述するように、炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する安定なニッケルフェライト皮膜の形成に寄与する物質である。炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成してこのニッケル金属皮膜で炭素鋼部材の表面を覆うことによって、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、貴金属のニッケル金属皮膜表面への付着、具体的には、炭素鋼部材への貴金属の付着を短い時間で行うことができた。併せて、炭素鋼部材への貴金属の付着量も増大した。
炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成は、ニッケルイオン及び還元剤を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させることによって可能である。ニッケル金属皮膜の形成においては、その水溶液に含まれるニッケルイオンが炭素鋼部材に含まれるFeと置換されてニッケル金属皮膜が炭素鋼部材の表面に形成される第1工程、及びニッケルイオンが還元剤の作用によりニッケル金属になり、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜が形成される第2工程の2つの工程が存在する。特に、ニッケル金属皮膜を形成する第1工程においては、ニッケルイオン及び還元剤と共に前述のpH緩衝溶液(例えば、ギ酸及びアンモニアの混合溶液)を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させるため、pH緩衝溶液の作用により、炭素鋼部材に接触させる皮膜形成水溶液のpHを設定値(好ましいpHの範囲である3.9以上4.2以下の範囲内の、例えば、4.0)に維持することができる。
皮膜形成水溶液がpH緩衝溶液を含んでいるため、皮膜形成水溶液のpHは還元剤(例えば、ヒドラジン)の注入によっても影響を受けず、還元剤及びpH緩衝溶液を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触している間、皮膜形成水溶液のpHを設定値に維持することができる。このため、皮膜形成水溶液のpHの変動による、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属の付着量の減少を防止することができ、その表面へのニッケル金属の付着量を増大させることができる。この結果、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成に要する時間を短縮することができる。
皮膜形成水溶液のpHを3.9以上4.2の範囲内のpHにすることによって、炭素鋼部材表面に形成されるニッケル金属皮膜の量を著しく増大させることができる(図7参照)。皮膜形成水溶液がpH緩衝溶液を含むことによって、皮膜形成水溶液のpHの設定値を3.9以上4.2の範囲内のpHにすることができ、pH緩衝溶液の作用と相俟って炭素鋼部材表面に形成されるニッケル金属皮膜の量をさらに増大させることができる。この結果、炭素鋼部材表面へのニッケル金属皮膜の形成に要する時間を、さらに短縮することができる。
また、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜表面への貴金属の付着は、貴金属イオン(例えば、白金イオン)及び還元剤を含む水溶液を形成されたニッケル金属皮膜に接触させることによって可能である。上記のように、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成することによって、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、短い時間でより多くの貴金属を炭素鋼部材に付着させることができる。
さらに、炭素鋼部材の表面への放射性核種の、長期間に亘る付着抑制に関する検討結果を以下に説明する。発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で不安定なNi0.7Fe2.3O4の皮膜を炭素鋼部材の表面に形成するのではなく、付着した貴金属によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜の、炭素鋼部材の表面への形成を目指した。そこで、発明者らは、炭素鋼部材への貴金属の付着を効果的に行うために炭素鋼部材の表面に形成したニッケル金属皮膜を、その安定なニッケルフェライト皮膜の、炭素鋼部材の表面への形成に利用できないかを種々検討した。この結果、酸素を含む高温(130℃以上)の水を、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の、貴金属が付着された側の表面に接触させることによって、そのニッケル金属皮膜を、炭素鋼部材の表面を覆う、貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜(Ni1-xFe2+xO4において0≦x<0.3を満足するニッケルフェライト、例えば、NiFe2O4)に変えることができた。NiFe2O4は、Ni1-xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライトである。炭素鋼部材の表面は、安定なニッケルフェライト皮膜(NiFe2O4皮膜)で覆われる。ちなみに、その表面に付着した貴金属の作用によって溶出する不安定なニッケルフェライトは、Ni1-xFe2+xO4において0.3≦x<1.0を満足するニッケルフェライト、例えば、Ni0.7Fe2.3O4である。Ni0.7Fe2.3O4は、前述したように、Ni1-xFe2+xO4においてxが0.3であるニッケルフェライトである。
表面にニッケル金属皮膜が形成されてこのニッケル金属皮膜表面に貴金属(例えば、白金)が付着された炭素鋼部材のニッケル金属皮膜が、酸素を含む130℃以上(好ましくは、130℃以上330℃以下の温度範囲内)の水との接触により、炭素鋼部材の表面を覆うニッケルフェライト皮膜(Ni1-xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライト皮膜)に変換される理由を説明する。酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水が炭素鋼部材上のニッケル金属皮膜に接触すると、ニッケル金属皮膜及び炭素鋼部材が130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度に加熱される。その水に含まれる酸素がニッケル金属皮膜内に移行し、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜内に移行する。ニッケル金属皮膜内のニッケルが、130℃以上330℃以下の温度範囲内の高温環境で、ニッケル金属皮膜内に移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライトが生成される。このニッケルフェライトの皮膜が、炭素鋼部材の表面を覆う。
炭素鋼部材の表面を覆ったニッケル金属皮膜に含まれるニッケル金属から、130℃以上330℃以下の温度範囲内の高温の環境下において上記のように生成された、Ni1-xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライトは、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.3O4皮膜のように水中に溶出しなく安定であり、さらに、Co−60等の放射性核種の取り込みを抑制する。このNi1-xFe2+xO4においてxが0である安定なニッケルフェライトは、ニッケル金属皮膜に付着した白金等の貴金属の作用により、炭素鋼部材及びニッケル金属皮膜の腐食電位が低下されるために生成される。このように、130℃以上330℃以下の温度範囲内の高温の環境下で、炭素鋼部材の表面を覆ったニッケル金属から生成されたその安定なニッケルフェライト皮膜は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.3O4皮膜よりも長期に亘って炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
発明者らは、ニッケル及び白金を付着していない炭素鋼製の試験片A及び表面に安定なニッケルフェライト皮膜を形成してそのニッケルフェライト皮膜表面に白金を付着した炭素鋼製の試験片Bを用いて、放射性核種であるCo−60の付着を確認する実験を行った。この実験は、試験片A及びBを閉ループの循環配管内に設置し、その循環配管内に原子炉内の炉水を模擬した模擬水を流して循環させて行った。循環する模擬水はCo−60を含んでおり、模擬水の温度は280℃である。循環配管内に設置された試験片A及びBのそれぞれは、循環配管内を流れる模擬水中に500時間浸漬された。500時間が経過した後、試験片A及びBのそれぞれを循環配管から取り出し、それぞれの試験片のCo−60付着量を測定した。
それぞれの試験片におけるCo−60付着量の測定結果を図9に示す。図9から明らかであるように、白金を付着した安定なニッケルフェライト皮膜を表面に形成した試験片Bでは、炭素鋼の表面が露出した試験片Aに比べてCo−60の付着量が著しく低下した。
そして、循環配管から取り出された試験片A及びBのそれぞれの表面における組成をラマン分光によって分析した。この分析結果を図10に示す。実質的に炭素鋼である試験片Aの表面には、主にFe3O4からなる皮膜が形成されていた。Co−60の付着量が大幅に低減された試験片Bの表面には、ニッケルフェライト(NiFe2O4)を主成分とする酸化皮膜が形成されていた。このNiFe2O4は、Ni1-xFe2+xO4においてxが0である形態である。
また、循環配管から取り出された試験片Bの表面のオージェースペクトルの結果を、図11に示した。図11に示す結果より、試験片Bの母材(炭素鋼)の表面に、均一な組成のNiFe2O4が形成されていることが確認できた。このNiFe2O4の形成により、試験片Bでは、Co―60の付着量が著しく抑制されたのである。
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の、炭素鋼製の浄化系配管(炭素鋼部材)に適用される。
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心13を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する炭素鋼製の給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。高圧給水加熱器16及び低圧給水加熱器14に接続されドレン水回収配管27が、復水器10に接続される。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11を連絡する浄化系配管18に、浄化系ポンプ19、再生熱交換器20、非再生熱交換器21及び炉水浄化装置22をこの順に設置している。浄化系配管18は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器26内に設置されている。
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴出される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引されて炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された一部の炉水が蒸気になる。この蒸気は、RPV3から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11内を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。給水は、さらに、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で加熱されてRPV3内に導かれる。抽気配管17でタービン9から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ19の駆動によって浄化系配管18内に流入し、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21で冷却された後、炉水浄化装置22で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器20で加熱されて浄化系配管18及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、皮膜形成装置30が用いられ、この皮膜形成装置30が、図2に示すように、BWRプラントの浄化系配管18に接続される。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。
皮膜形成装置30は、サージタンク32、加熱器33、循環ポンプ34,35、循環配管31、ニッケルイオン注入装置36、還元剤注入装置41、白金イオン注入装置46、pH緩衝溶液注入装置51、冷却器62、酸化剤供給装置56、カチオン交換樹脂塔63、混床樹脂塔64、分解装置65及びエゼクタ66を備えている。
開閉弁67、循環ポンプ35、弁68,71,74及び79、サージタンク32、循環ポンプ34、弁84及び開閉弁85が、上流よりこの順に循環配管31に設けられている。弁68をバイパスする配管70が循環配管31に接続され、弁69及びフィルタ61が配管70に設置される。両端が循環配管31に接続されて弁74をバイパスする配管76に、カチオン交換樹脂塔63及び弁75が設置される。両端が配管76に接続されてカチオン交換樹脂塔63及び弁75をバイパスする配管78に、混床樹脂塔64及び弁77が設置される。カチオン交換樹脂塔63は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔64は陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填している。弁81が、カチオン交換樹脂塔63よりも上流側において、配管76と配管78の接続点と循環配管31の間で、配管76に設けられる。弁82が、カチオン交換樹脂塔63よりも下流側において、配管76と配管78の接続点と循環配管31の間で、配管76に設けられる。弁71をバイパスする配管73の一端が弁71の上流側で循環配管31に接続され、配管73の他端が混床樹脂塔64の上流側で配管78に接続される。配管73には、冷却器62及び弁72が設置される。
弁79が、循環配管31と配管76の接続点とサージタンク32の間で循環配管31に設置される。配管83の一端が弁77よりも下流側で配管78に接続され、配管83の他端が弁79とサージタンク32の間で循環配管31に接続される。弁80及び弁80よりも下流に位置する分解装置65が、配管83に設けられる。分解装置65は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク32が弁79と循環ポンプ34の間で循環配管31に設置される。加熱器33がサージタンク32内に配置される。弁86及びエゼクタ66が設けられる配管87が、弁84と循環ポンプ34の間で循環配管31に接続され、さらに、サージタンク32に接続されている。再循環系配管6の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク32内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ66に設けられている。
ニッケルイオン注入装置36が、薬液タンク37、注入ポンプ38及び注入配管39を有する。薬液タンク37は、注入ポンプ38及び弁40を有する注入配管39によって循環配管31に接続される。ギ酸ニッケル(Ni(HCOO)2・2H2O)を水に溶解して調製したギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオンを含む水溶液)が、薬液タンク37内に充填される。
白金イオン注入装置(貴金属イオン注入装置)46が、薬液タンク47、注入ポンプ48及び注入配管49を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ48及び弁50を有する注入配管49によって循環配管31に接続される。白金錯体(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O))を水に溶解して調整した白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液)が、薬液タンク47内に充填されている。白金イオンを含む水溶液は貴金属イオンを含む水溶液の一種である。貴金属イオンを含む水溶液としては、白金イオンを含む水溶液以外に、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかのイオンを含む水溶液を用いてもよい。
還元剤注入装置41が、薬液タンク42、注入ポンプ43及び注入配管44を有する。薬液タンク42は、注入ポンプ43及び弁45を有する注入配管44によって循環配管31に接続される。還元剤であるヒドラジンの水溶液が薬液タンク42内に充填される。還元剤としては、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体及びヒドロキシルアミンのいずれかを用いるとよい。
pH緩衝溶液注入装置51が、薬液タンク52、注入ポンプ53及び注入配管54を有する。薬液タンク52は、注入ポンプ53及び弁55を有する注入配管54によって循環配管31に接続される。pH緩衝溶液であるギ酸及びアンモニアの混合水溶液が薬液タンク52内に充填される。
注入配管39,54、49及び44が、弁84から開閉弁85に向かってその順番で、弁84と開閉弁85の間で循環配管31に接続される。
酸化剤供給装置56が、薬液タンク57、供給ポンプ58及び供給配管59を有する。薬液タンク57は、供給ポンプ58及び弁60を有する供給配管59によって弁80よりも上流で配管83に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク57内に充填される。酸化剤としては、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。
pH計88が、注入配管44と循環配管31の接続点と開閉弁85の間で循環配管31に取り付けられる。
BWRプラント1は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止されている期間を利用して、BWRプラントの保守点検が行われる。
上記のようにBWRプラント1の運転が停止されている期間中において、BWRプラント1における炭素鋼部材の一つである、RPV3に連絡される炭素鋼製の配管系、例えば、浄化系配管18を対象にした、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法が実施される。この貴金属の付着方法では、浄化系配管18の、炉水と接触する内面へのニッケル金属皮膜の形成処理、及び形成されたニッケル金属皮膜への貴金属、例えば、白金の付着処理が行われる。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、図1に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、皮膜形成装置30が用いられる。
まず、皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に、皮膜形成装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止されているときに、例えば、再循環系配管6に接続されている浄化系配管18に設置されている弁23のボンネットを開放して再循環系配管6側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管31の開閉弁85側の一端部が弁23のフランジに接続される。さらに、再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間で浄化系配管18に設置されている弁25のボンネットを開放して非再生熱交換器21側を封鎖する。循環配管31の開閉弁67側の他端部が弁25のフランジに接続される。このように、循環配管31の両端部が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管31を含む閉ループが形成される。
なお、本実施例では、皮膜形成装置30を原子炉浄化系の浄化系配管18に接続しているが、浄化系配管18以外に、炭素鋼部材であってRPV3に連絡される残留熱除去系、原子炉隔離時冷却系及び炉心スプレイ系のいずれかの炭素鋼製の配管に皮膜形成装置30を接続し、この炭素鋼製の配管に本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を適用してもよい。
皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に対する化学除染を実施する(ステップS2)。前の運転サイクルでの運転を経験したBWRプラント1では、放射性核種を含む酸化皮膜が、RPV3から排出された炉水と接触する浄化系配管18の内面に形成されている。浄化系配管18の線量率を下げるためにも、その内面から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが好ましい。この酸化皮膜の除去は、ニッケル金属皮膜と浄化系配管18の内面の密着性を向上させることにもつながる。この酸化皮膜を除去するために、化学除染、特に、還元除染剤であるシュウ酸を含む還元除染液を用いた還元除染が、浄化系配管18の内面に対して実施される。
ステップS2において、浄化系配管18の内面に対して適用される化学除染は、特開2000−105295号公報に記載された公知の還元除染である。この還元除染について説明する。まず、開閉弁67,弁68,71,74,79及び84、及び開閉弁85をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ34及び35を駆動する。これにより、サージタンク32内で加熱器33により90℃に加熱された水が、浄化系配管18内に供給され、循環配管31及び浄化系配管18によって形成される閉ループ内を循環する。循環配管31内を流れる、90℃の一部の水を、弁86を開いて配管87内に導く。ホッパ及びエゼクタ66から配管87内に供給された所定量のシュウ酸が、配管87内を流れる水によりサージタンク32内に導かる。このシュウ酸がサージタンク32内で水に溶解し、サージタンク32内でシュウ酸水溶液(還元除染液)が生成される。
このシュウ酸水溶液は、循環ポンプ34の駆動によってサージタンク32から循環配管31に排出される。還元剤注入装置41の薬液タンク42内のヒドラジン水溶液が、弁45を開いて注入ポンプ43を駆動することにより、注入配管44を通して循環配管31内のシュウ酸水溶液に注入される。pH計88で測定されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて注入ポンプ43(または弁45の開度)を制御して循環配管31内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節することにより、浄化系配管18に供給されるシュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。本実施例では、浄化系配管18の内面にニッケル金属を付着させるとき、及びそのニッケル金属の皮膜の上に貴金属、例えば、白金を付着させるときに用いる還元剤であるヒドラジンが、還元除染の工程ではシュウ酸水溶液のpHを調整するpH調整剤として用いられる。
pHが2.5で90℃の、ヒドラジン(pH調整剤)を含むシュウ酸水溶液が、循環配管31から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜に接触する。この酸化皮膜は、シュウ酸によって溶解される。還元除染が実施されている間、シュウ酸水溶液はヒドラジン(pH調整剤)を含んでいる。そのシュウ酸水溶液は、酸化皮膜を溶解しながら浄化系配管18内を流れ、浄化系ポンプ19及び再生熱交換器20を通過して循環配管31に戻される。循環配管31に戻されたシュウ酸水溶液は、開閉弁67を通って循環ポンプ35で昇圧され、弁68、71、74及び79を通過してサージタンク32に達する。このように、シュウ酸水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環し、浄化系配管18の内面の還元除染を実施してその内面に形成された酸化皮膜を溶解する。
酸化皮膜の溶解に伴って、シュウ酸水溶液の放射性核種及びFeの各濃度が上昇する。シュウ酸水溶液のこれらの濃度の上昇を抑えるために、弁75,81及び82を開いて弁74の開度を調節し、浄化系配管18から循環配管31に戻されたシュウ酸水溶液の一部を、配管76を通してカチオン交換樹脂塔63に導く。シュウ酸水溶液に含まれた放射性核種及びFe等の金属陽イオンは、カチオン交換樹脂塔63内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン交換樹脂塔63から排出されたシュウ酸水溶液及び弁74を通過したシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に再び供給され、浄化系配管18の還元除染に用いられる。なお、カチオン交換樹脂はヒドラジンプレークした樹脂を使用している。
シュウ酸を用いた、炭素鋼部材(例えば、浄化系配管18)の表面に対する還元除染では、炭素鋼部材の表面に難溶解性のシュウ酸鉄(II)が形成され、このシュウ酸鉄(II)により、炭素鋼部材の表面に形成された放射性核種を含む酸化皮膜のシュウ酸による溶解が抑制される場合がある。この場合には、弁74を全開にし、弁75を閉じてシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔63への供給を停止し、酸化剤である過酸化水素を、循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液に注入する。この過酸化水素のシュウ酸水溶液への注入は、弁60を開いて供給ポンプ58を起動し、薬液タンク57内の過酸化水素を供給配管59、配管83及び弁82を通して循環配管31内を流れているシュウ酸水溶液に供給する。このとき、弁80は閉じている。
過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が循環配管31から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)が、シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素の作用によりFe(III)に酸化され、シュウ酸鉄(III)錯体となってシュウ酸水溶液中に溶解する。すなわち、シュウ酸鉄(II)、及びシュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素及びシュウ酸が、式(11)に示す反応により、シュウ酸鉄(III)錯体、水及び水素イオンを生成する。
2Fe(COO)2+H2O2+2(COOH)2 →
2Fe[(COO)2]2 −+2H2O+2H+ …(11)
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)が溶解され、シュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が式(11)の反応によって消失したことが確認された後、弁75を開いて弁74の開度を調節し、循環配管31内を流れて弁71を通過したシュウ酸水溶液の一部を、配管76を通してカチオン交換樹脂塔63に供給する。シュウ酸水溶液に含まれる放射性核種等の金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔63内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。なお、シュウ酸水溶液内の過酸化水素の消失は、循環配管31からサンプリングしたシュウ酸水溶液に過酸化水素に反応する試験紙を付け、試験紙に現れる色を見ることによって確認できる。
浄化系配管18の、還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したとき、または、浄化系配管18の還元除染時間が所定の時間に達したとき、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。すなわち、還元除染剤分解工程が実施される。なお、還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したことは、浄化系配管18の還元除染箇所からの放射線を検出する放射線検出器の出力信号に基づいて求められた線量率により確認することができる。
シュウ酸及びヒドラジンの分解は、以下のようにして行われる。弁82を閉じ、弁80及び74を開いて弁79の開度を一部減少させ、カチオン交換樹脂塔63から排出されたシュウ酸水溶液が、弁80を通って配管83により分解装置65に供給される。このとき、弁60を開いて供給ポンプ58を駆動することにより、薬液タンク57内の過酸化水素が、供給配管59を通して配管83に供給され、分解装置65内に流入する。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、分解装置65内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用により分解される。分解装置65内でのシュウ酸及びヒドラジンの分解反応は、以下の式(12)及び式(13)で表される。
(COOH)2+H2O2 → 2CO2+2H2O ……(12)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(13)
シュウ酸及びヒドラジンの分解装置65内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環させながら行われる。供給した過酸化水素がシュウ酸及びヒドラジンの分解のために分解装置65で完全に消費されて分解装置65から流出しないように、薬液タンク57から分解装置65への過酸化水素の供給量を、供給ポンプ58の回転速度を制御して調節する。
還元除染剤分解工程においても、シュウ酸水溶液にシュウ酸が存在すると、このシュウ酸水溶液と接触する、炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に、シュウ酸鉄(II)が形成される可能性がある。そこで、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解がある程度進んだ段階で、供給ポンプ58の回転速度を増大させ、分解装置65から過酸化水素が流出するように、薬液タンク57から分解装置65への過酸化水素の供給量を増加させる。
分解装置65から排出された、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に導かれる。還元除染剤分解工程において浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)は、前述したように、その過酸化水素の作用によりシュウ酸鉄(III)錯体になりシュウ酸水溶液中に溶解する。シュウ酸水溶液中のシュウ酸等の分解が進んでいるため、シュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)を溶解しやすいFe(III)に変換するシュウ酸が不足し、循環配管31の内面にFe(OH)3が析出しやすくなる。このため、Fe(OH)3の析出を抑制するため、シュウ酸水溶液にギ酸を注入する。ギ酸の注入は、例えば、弁86を開いて配管87内にシュウ酸水溶液が流れている状態で前述のホッパ及びエゼクタ66からギ酸をそのシュウ酸水溶液に供給することにより行われる。供給されたギ酸は、サージタンク32内でシュウ酸水溶液に混合される。
供給されたギ酸を含むシュウ酸水溶液は、濃度の低下したシュウ酸及びヒドラジンに加え、分解装置65から排出された過酸化水素を含んでいる。このシュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素は浄化系配管18内面に析出したシュウ酸鉄(II)を溶解し、ギ酸はFe(OH)3を溶解する。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解も、分解装置65内で継続される。
次に、シュウ酸及びヒドラジンの分解工程を終了するため、循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を低下させてカチオン交換樹脂塔63にシュウ酸水溶液を供給する。このため、弁60を閉じて、弁86を閉じ、エゼクタ66からのギ酸の供給を停止する。循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液への過酸化水素及びギ酸の注入が停止されると、シュウ酸水溶液中のこれらの濃度も低下する。シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が1ppm以下になったとき、弁75を開いて弁74の開度を低減させ、カチオン交換樹脂塔63にシュウ酸水溶液を供給する。シュウ酸水溶液に含まれる金属陽イオンは、前述したように、カチオン交換樹脂塔63内の陽イオン交換樹脂で除去され、シュウ酸水溶液の金属陽イオン濃度が低下する。分解装置65内でシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解は継続される。シュウ酸、ヒドラジン及びギ酸のうちでは、ヒドラジンが先に分解され、次いでシュウ酸が分解され、ギ酸が最後に残る。この状態でシュウ酸及びヒドラジンの分解工程を終了する。
以上に述べた化学除染が終了したとき、浄化系配管18は、浄化系配管18の内面から放射性核種を含む酸化皮膜が除去されて図9に示す状態になっており、浄化系配管18の内面が前述した残存するギ酸を含む水溶液に接触している。
皮膜形成液の温度調整を行う(ステップS3)。弁74及び79を開けて弁75,80,81及び82を閉じる。循環ポンプ34及び35が駆動しているので、残存するギ酸を含む水溶液が循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。このギ酸水溶液(後述の皮膜形成水溶液)は、加熱器33によって加熱されて、60℃〜100℃(60℃以上100℃以下)の温度範囲内の温度、例えば、90℃になる。さらに、弁69を開いて弁68を閉じる。これらの弁操作により、循環配管31内を流れているギ酸水溶液がフィルタ61に供給され、ギ酸水溶液に残留している微細な固形分がフィルタ61によって除去される。微細な固形分をフィルタ61によって除去しない場合には、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜を形成する際に、ニッケルギ酸水溶液を循環配管31に注入したとき、その固形物の表面にもニッケル金属皮膜が形成され、注入したニッケルイオンが無駄に使用される。フィルタ61へのギ酸水溶液の供給は、このようなニッケルイオンの無駄な使用を防止するためである。
pH緩衝溶液を注入する(ステップS4)。弁68を開いて弁69を閉じ、フィルタ61への通水を停止する。pH緩衝溶液注入装置51の弁55を開いて注入ポンプ53を駆動し、薬液タンク52内のpH緩衝溶液、具体的には、ギ酸及びアンモニアの混合水溶液を、注入配管54を通して循環配管31を流れる残存するギ酸を含む90℃の水溶液に注入する。注入されるpH緩衝溶液内のギ酸の濃度は、例えば、800ppmであり、アンモニアの濃度は、例えば、156ppmである。このpH緩衝溶液の注入により、循環配管31を流れる残存するギ酸を含む水溶液(または後述の皮膜形成水溶液)のpHは、3.9以上4.2以下のpHの範囲内の、例えば、4.0になり、4.0に保たれる。残存するギ酸を含む水溶液(後述の皮膜形成水溶液)のpHは、薬液タンク52に供給する前にpH緩衝溶液に含まれるギ酸及びアンモニアの混合比率を予め変えることによって、3.9以上4.2以下のpHの範囲内で調節することが可能である。
ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS5)。ニッケルイオン注入装置36の弁40を開いて注入ポンプ38を駆動し、薬液タンク37内のギ酸ニッケル水溶液を、注入配管39を通して、循環配管31内を流れる、pH緩衝溶液及び残存するギ酸を含む90℃の水溶液に注入する。注入されるギ酸ニッケル水溶液のニッケルイオン濃度は、例えば、200ppmである。ステップS4における2種類の成分(ギ酸及びアンモニア)を含むpH緩衝溶液の注入によって、循環配管31内を流れる残存するギ酸を含む水溶液(または後述の皮膜形成水溶液)のpHは4.0で緩衝されるので、ギ酸ニッケル水溶液の注入によっても、その水溶液のpHはほとんど変動しない。ギ酸ニッケル水溶液の循環配管31への注入によって、ニッケルイオン、ギ酸及びアンモニアを含む90℃の皮膜形成水溶液が、循環配管内で生成される。この皮膜形成水溶液に含まれるギ酸はpH緩衝溶液及びギ酸ニッケル水溶液のそれぞれに含まれたギ酸であり、この皮膜形成水溶液に含まれるアンモニアはpH緩衝溶液に含まれたアンモニアである。元々残存していたギ酸、ニッケルイオン、及びpH緩衝溶液の成分であるギ酸及びアンモニアを含むその皮膜形成水溶液は、循環ポンプ34の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に接触する。このとき、浄化系配管18の内面では、浄化系配管18に含まれる鉄と浄化系配管18内を流れる皮膜形成水溶液に含まれるニッケルイオンとの間で置換めっき反応が生じ、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜が形成される。この置換めっき反応を促進させる時間を確保するため、ギ酸ニッケル水溶液の注入開始時点から、例えば、60分経過後に、次の工程(ステップS6における還元剤注入工程)を実施する。
pH4.0の皮膜形成水溶液91(図5)が浄化系配管18の内面に接触すると、浄化系配管18からFe2+が皮膜形成水溶液91に溶出し、この溶出に伴って電子が生成される。鉄(II)イオンとの置換によって浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンは、その電子によって還元されてニッケル金属になる。このため、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜89が形成される(図5参照)。その60分間では、皮膜形成水溶液は、還元剤を含んでいない。このため、ギ酸ニッケル水溶液の注入開始から還元剤注入開始までの60分間では、浄化系配管18の表面に取り込まれたニッケルイオンは、還元剤ではなく、電子によって還元されてニッケル金属なり、ニッケル金属皮膜89が浄化系配管18の内面に形成される。ニッケルイオンと浄化系配管18内の鉄との置換めっき反応は、浄化系配管18の内面と接触する皮膜形成水溶液91のpHが4.0(図2)のときに最も活発であり(図7参照)、浄化系配管18の内面に取り込まれるニッケルイオンの量が最も多くなる。
還元剤を注入する(ステップS6)。ギ酸ニッケル水溶液の注入開始から60分が経過したとき、還元剤注入装置41の弁45を開いて注入ポンプ43を駆動し、薬液タンク42内の還元剤であるヒドラジンの水溶液を、注入配管44を通して循環配管31内を流れる皮膜形成水溶液に注入する。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、200ppmである。このヒドラジン水溶液が注入された皮膜形成水溶液のpHは、注入されたpH緩衝溶液の作用によって4.0からほとんど変動しない。
ニッケルイオン、ギ酸、アンモニア及びヒドラジン(還元剤)を含む90℃の皮膜形成水溶液は、循環ポンプ34の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給される。この皮膜形成水溶液91が浄化系配管18の内面に接触することにより、浄化系配管18の内面に吸着されたニッケルイオンは、皮膜形成水溶液91に含まれるヒドラジンの還元作用によりニッケル金属となるため、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜89が形成される(図5参照)。還元剤の注入により皮膜形成水溶液91のpHが7等に大きくなると、取り込まれたニッケルイオンがニッケル金属になる量が増大する。
浄化系配管18から循環配管31に排出された皮膜形成水溶液91は、循環ポンプ35及び34で昇圧され、ニッケルイオン注入装置36からのギ酸ニッケル水溶液及び還元剤注入装置41からのヒドラジン水溶液がそれぞれ注入されて、再び、浄化系配管18に注入される。このように、皮膜形成水溶液91を、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環させることによって、やがて、ニッケル金属皮膜89が、浄化系配管18の、皮膜形成水溶液91と接触する内面の全面を均一に覆う。このとき、浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属は、例えば1平方センチメートル当たり50μgから300μg(50μg/cm2以上300μg/cm2以下)の範囲となる。なお、浄化系配管18の該当する内面全体を覆うニッケル金属皮膜89の1平方センチメートル当たりの量は、その内面と接触する皮膜形成水溶液の温度によって異なる。皮膜形成水溶液の温度が60℃の場合には、その量は50μg/cm2であり、皮膜形成水溶液の温度が90℃の場合には、その量は250μg/cm2である。本実施例では、皮膜形成水溶液の温度が90℃であるので、浄化系配管18の内面に形成されるニッケル金属皮膜89の量は250μg/cm2である。
ギ酸ニッケル水溶液の注入開始時点から60分経過後ではなく、ギ酸及びアンモニアを含む90℃の皮膜形成水溶液が循環配管31内で注入配管44と循環配管31の接続点の位置に到達したときに、弁45を開いて注入ポンプ43を駆動し、薬液タンク42内の還元剤であるヒドラジンの水溶液を、注入配管44を通して循環配管31内に注入してもよい。この場合には、浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンがヒドラジン(還元剤)によって還元され、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜が形成される。
本実施例では、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜89の形成は、前述のように、浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンを電子で還元することにより、さらに、ニッケルイオンの電子による還元が開始された後(ギ酸ニッケル水溶液の注入開始から所定時間(例えば、60分)が経過した後)に皮膜形成水溶液に注入されるヒドラジン(還元剤)の還元作用によって浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンを還元することにより、行われる。浄化系配管18の内面への放射性核種(例えば、Co−60)の付着抑制効果は、形成されるニッケル金属皮膜の厚みが厚い程、大きくなる。
Fe2+の溶出に伴う電子によるニッケルイオンの還元反応は、浄化系配管18の内面と皮膜形成水溶液91が接触している期間の初期において早いが、浄化系配管18の内面がニッケル金属で覆われて浄化系配管18から溶出するFe2+の量が減少するに伴って遅くなる。浄化系配管18の内面全体がニッケル金属で覆われてしまうと、Fe2+が溶出しなくなり、電子によるニッケルイオンの還元反応は停止される。ヒドラジン(還元剤)によるニッケルイオンの還元反応は、Fe2+の溶出量の減少とは無関係に、継続される。そこで、ギ酸ニッケル水溶液の注入開始から所定時間が経過したときヒドラジン(還元剤)水溶液をニッケルイオンを含んでいる皮膜形成水溶液91に注入して、浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンをヒドラジン(還元剤)で還元し、浄化系配管18の内面へのニッケル金属の増大を図り、その内面に形成されるニッケル金属皮膜89の厚みを増加させる。
なお、ヒドラジン(還元剤)によるニッケルイオンの還元反応は電子によるニッケルイオンの還元反応よりも遅く、前者の還元反応によるニッケル金属皮膜89の形成には時間が掛かるために、電子によるニッケルイオンの還元を、ヒドラジン(還元剤)によるニッケルイオンの還元よりも先に実施する。
ニッケル金属皮膜の形成が完了したかを判定する(ステップS7)。浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89が不十分な場合(皮膜形成水溶液の温度が90℃で、その内面に存在するニッケル金属が250μg/cm2未満の場合)には、ステップS5〜S7の各工程が繰り返される。浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属が250μg/cm2になったとき、注入ポンプ38を停止して弁40を閉じて循環配管31へのギ酸ニッケル水溶液の注入を停止すると共に注入ポンプ43を停止して弁45を閉じて循環配管31へのヒドラジン水溶液の注入を停止し、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜の形成を終了する。ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入してからの経過時間が設定時間になったとき、浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属が250μg/cm2になったと判定する。その設定時間は、炭素鋼試験片の表面のニッケル金属が250μg/cm2になるまでの時間を予め測定することによって求められる。
ギ酸、還元剤を分解する(ステップS8)。弁81及び弁75を開いて弁74の開度の一部を閉じ、ニッケルイオン、ギ酸、アンモニア及びヒドラジンを含む皮膜形成水溶液91の一部を、配管76を通してカチオン交換樹脂塔63に導く。さらに、弁99を閉じたままにしておき、弁80を開いてカチオン交換樹脂塔63から排出された皮膜形成水溶液91が、配管83を通して分解装置65に供給される。このとき、薬液タンク57内の過酸化水素が供給配管59及び配管83を通して分解装置65に供給される。皮膜形成水溶液91に含まれる、ギ酸及びヒドラジン(還元剤)は、分解装置65内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により、二酸化炭素、窒素及び水に分解される。
ニッケルイオン及びアンモニアが除去され、ギ酸及び還元剤が分解された皮膜形成水溶液を浄化する(ステップS9)。ギ酸及びヒドラジン(還元剤)が分解された後、弁74を開いて弁75,80及び81を閉じて皮膜形成水溶液91のカチオン交換樹脂塔63及び分解装置65への供給を停止し、弁72を開いて弁71の開度の一部を閉じ、弁77及び82を開く。循環ポンプ35及び34は駆動している。浄化系配管18から循環配管31に戻された、分解によりヒドラジン及びギ酸の各濃度が低減され、ニッケルイオン及びアンモニアを含む皮膜形成水溶液91は、冷却器62で60℃になるまで冷却される。さらに、冷却器62から排出された60℃の皮膜形成水溶液91が混床樹脂塔64に導かれ、この皮膜形成水溶液91に残留しているニッケルイオン、他の陽イオン及び陰イオン、さらにアンモニアが、混床樹脂塔64内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂により除去される(第1浄化工程)。60℃に冷却された皮膜形成水溶液に含まれた上記の各イオンが実質的になくなるまで、循環配管31及び浄化系配管18を循環させる。第1浄化工程終了後、弁71を開いて弁72,77及び82を閉じる。第1浄化工程終了後、その皮膜形成水溶液は、実質的の60℃の水になる。次のステップS10の工程において浄化系配管18の表面に形成されたニッケル金属皮膜上への貴金属(例えば、白金)の付着が容易に行われるように、第1浄化工程後においても、その60℃の水に僅かに残存するFe3+の水酸化鉄(III)の形成による析出を抑制するために、その60℃の水にアンモニア(例えば、50ppmのアンモニア)を注入する。このアンモニアの注入は、弁86を開いた後、エゼクタ66から配管87内を流れる60℃の水にアンモニアを供給することによって行われる。供給されたアンモニアは、サージタンク32内で60℃の水に混合される。上記の所定量のアンモニアが注入された後、弁86を閉じる。
白金イオン水溶液を注入する(ステップS10)。白金イオン注入装置46の弁50を開いて注入ポンプ48を駆動する。循環配管31内を流れる水は、加熱器33による加熱により60℃に保たれる。循環配管31内を流れる60℃のアンモニアを含む水に、注入配管49を通して薬液タンク47内の白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O)の水溶液)が注入される。注入されるこの水溶液の白金イオンの濃度は、例えば、1ppmである。ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物の水溶液内では、白金がイオン状態になっている。60℃のアンモニア及び白金イオンを含む水溶液が、循環ポンプ34及び35の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18から循環配管31に戻される。そのアンモニア及び白金イオンを含む水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。
注入開始直後において、薬液タンク47から循環配管31と注入配管49の接続点を通して循環配管31に注入される、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液のその接続点での白金濃度が、設定濃度、例えば、1ppmとなるように、予め、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる60℃のアンモニア及び白金イオンを含む水溶液の白金イオンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜の表面に所定量の白金を付着させるのに必要な、薬液タンク47に充填するNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の量を計算し、計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の量を薬液タンク47に充填する。計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ48の回転速度を制御し、薬液タンク47内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液を循環配管31内に注入する。
還元剤を注入する(ステップS11)。還元剤注入装置41の弁45を開いて注入ポンプ43を駆動し、薬液タンク42内の還元剤であるヒドラジンの水溶液を、注入配管44を通して、循環配管31内を流れる、アンモニア及び白金イオンを含む60℃の水溶液に注入する。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、100ppmである。
ヒドラジン水溶液は、60℃の、アンモニア及び白金イオンを含む水溶液がヒドラジン水溶液の注入点である注入配管44と循環配管31の接続点に到達した以降に循環配管31に注入される。この場合には、アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含み60℃の水溶液が、循環配管31から浄化系配管18に供給される。しかし、より好ましくは、薬液タンク47内に充填された所定量のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液を全て循環配管31内に注入し終わった直後にヒドラジン水溶液を注入配管44から循環配管31に注入することが望ましい。この場合には、アンモニア及び白金イオンを含む60℃の水溶液が循環配管31から浄化系配管18に供給され、白金イオン水溶液の注入配管49から循環配管31への注入が終了した後では、アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含み60℃の水溶液92(図6参照)が循環配管31から浄化系配管18に供給される。
前者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、ヒドラジンにより白金イオンを白金にする還元反応が、最初に、循環配管31内を流れる、ヒドラジン及び白金イオンを含む水溶液内で生じるのに対して、後者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、既に、白金イオンが浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89の表面に吸着されており、この吸着された白金イオンがヒドラジンにより還元されるので、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89表面への白金90の付着量がさらに増加する(図6参照)。
ヒドラジン水溶液の注入開始直後において、薬液タンク42から循環配管31と注入配管44の接続点を通して注入されるヒドラジン水溶液のその接続点でのヒドラジン濃度が、設定濃度、例えば、100ppmとなるように、予め、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる60℃の白金イオンを含む水溶液92内のヒドラジンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89表面に吸着された白金イオンを白金90に還元するために必要な、薬液タンク42に充填するヒドラジン水溶液の量を計算し、計算されたヒドラジン水溶液の量を薬液タンク42に充填する。計算されたヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ43の回転速度を制御し、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液を循環配管31内に注入する。
なお、薬液タンク47内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液(白金イオンを含む水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ48の駆動を停止して弁50を閉じる。これにより、白金イオンを含む水溶液の循環配管31への注入が停止される。また、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液(還元剤水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ43の駆動を停止して弁45を閉じる。これにより、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入が停止される。
ニッケル金属皮膜89表面に吸着した白金イオンが注入されたヒドラジンによって還元されて白金90となるため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89の表面に白金90が付着する(図6参照)。この白金付着工程において、炭素鋼配管表面にはニッケル金属皮膜が既に形成されているため、下地の鉄の溶出が抑制されるので白金の付着が起こり易くなっている。
白金の付着が完了したかを判定する(ステップS12)。白金イオン水溶液及び還元剤水溶液の注入からの経過時間が所定時間になったとき、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89表面への所定量の白金の付着が完了したと判定する。その経過時間が所定時間に到達しないときには、ステップS10〜S11の各工程が繰り返される。
浄化系配管18及び循環配管31内に残留する水溶液を浄化する(ステップS13)。浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89表面への白金90の付着が完了したと判定された後、弁81,77及び82を開いて弁74の開度の一部を閉じ、循環ポンプ35で昇圧された、白金イオン、アンモニア及びヒドラジンを含む60℃の水溶液を、混床樹脂塔64に供給する。その水溶液に含まれる白金イオン、他の金属陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)、アンモニア、ヒドラジン及びOH基が、混床樹脂塔64内のイオン交換樹脂に吸着され、その水溶液から除去される(第2浄化工程)。混床樹脂塔64から排出されたその水溶液は、弁82を通して循環配管31に戻され、サージタンク32に導かれる。
廃液を処理する(ステップS14)。第2浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管31と廃液処理装置(図示せず)を接続する。第2浄化工程の終了後に、浄化系配管18及び循環配管31内に残存する、放射性廃液である水溶液は、そのポンプを駆動して循環配管31から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。浄化系配管18及び循環配管31内の水溶液が排出された後、洗浄水を浄化系配管18及び循環配管31内に供給し、循環ポンプ34,35を駆動してこれらの配管内を洗浄する。洗浄終了後、浄化系配管18及び循環配管31内の洗浄水を、上記の廃液処理装置に排出する。
以上により、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属と貴金属の付着方法が終了する。そして、浄化系配管18に接続された皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外し、浄化系配管18を復旧させる。
皮膜形成水溶液がpH緩衝溶液の、酸及び塩基のそれぞれ1種類の成分を含んでいるため、皮膜形成水溶液のpHはギ酸ニッケル水溶液及び還元剤(例えば、ヒドラジン))の注入によっても影響を受けず、還元剤、及びpH緩衝溶液、酸及び塩基のそれぞれ1種類の成分を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触している間、皮膜形成水溶液のpHを設定値に維持することができる。このため、皮膜形成水溶液のpHの変動による、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属の付着量の減少を防止することができ、その表面へのニッケル金属の付着量を増大させることができる。この結果、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成に要する時間を短縮することができる。
皮膜形成水溶液のpHを3.9以上4.2の範囲内のpHにすることによって、炭素鋼部材表面に形成されるニッケル金属皮膜の量を著しく増大させることができる(図7参照)。皮膜形成水溶液がpH緩衝溶液を含むことによって、皮膜形成水溶液のpHの設定値を3.9以上4.2の範囲内のpHにすることができ、pH緩衝溶液の作用と相俟って炭素鋼部材表面に形成されるニッケル金属皮膜の量をさらに増大させることができる。この結果、炭素鋼部材表面へのニッケル金属皮膜の形成に要する時間を、さらに短縮することができる。
本実施例によれば、ニッケルイオン及び還元剤(例えば、ヒドラジン)を含む皮膜形成水溶液を浄化系配管18の内面に接触させ、浄化系配管18の、炉水と接触する内面に、この内面を覆うニッケル金属皮膜89を形成することができる。このニッケル金属皮膜89によって、浄化系配管18から皮膜形成水溶液へのFe2+の溶出を防止することができ、浄化系配管18の内面への貴金属(例えば、白金)の付着がFe2+の溶出によって阻害されることがなくなり、その内面への貴金属の付着(具体的には、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89の表面への貴金属の付着)に要する時間を短縮することができる。また、その内面への貴金属の付着を効率良く行うことができ、浄化系配管18の内面への貴金属の付着量が増加する。
本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89には、50μg/cm2以上300μg/cm2以下の範囲内のニッケル金属が存在する。このように、50μg/cm2以上300μg/cm2以下の範囲内のニッケル金属が存在すると、ニッケル金属皮膜89が、浄化系配管18の、皮膜形成液に接触する内面の全面を覆った状態とになり、BWRプラントの運転中において、浄化系配管18内を流れる炉水が浄化系配管18の母材と接触することが、そのニッケル金属皮膜89によって、遮られる。このため、炉水に含まれる放射性核種の浄化系配管18の母材への取り込みが生じない。
浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89は、浄化系配管18への白金の付着に要する時間を短縮させるだけでなく、後述の実施例2,3及び4等で述べるように、付着した白金90の作用と相俟って、浄化系配管18の内面への、付着した白金によっても炉水に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜の形成に貢献する。
浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜89の形成は、皮膜形成水溶液に含まれたニッケルイオンが浄化系配管18に含まれる鉄と置換めっき反応によって浄化系配管18の内面に取り込まれ、浄化系配管18からのFe2+の溶出に伴って生成された電子、または皮膜形成水溶液に含まれるヒドラジン(還元剤)により配管内表面に吸着したニッケルイオンが還元されてニッケル金属になる。このように、置換めっき反応と電子または還元剤の還元作用によって生成されたニッケル金属は、浄化系配管18の母材との密着性が強い。このため、形成されたニッケル金属皮膜89は、浄化系配管18からはがれることはない。
本実施例では、浄化系配管18の内面を還元除染した後、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜89を形成するため、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜の上にニッケル金属皮膜が形成されることはなく、浄化系配管18から放出される放射線が低減され、浄化系配管18の表面線量率が著しく低減される。
シュウ酸水溶液を用いた、浄化系配管18内面の還元除染時、及びシュウ酸の分解時において、炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)を、シュウ酸水溶液に注入した酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって除去する。このシュウ酸鉄(II)の除去により、浄化系配管18とニッケル金属皮膜89の密着性が向上し、ニッケル金属皮膜89が浄化系配管18の内面から剥離することを防止できる。
本発明の好適な他の実施例である実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図12を用いて以下に説明する。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、BWRプラントの浄化系配管に適用される。
本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法におけるステップS1〜S14の各工程、及び新たなステップS15〜S17の各工程が実施される。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例1で用いられる皮膜形成装置30がステップS1〜S14の各工程で用いられる。
本実施例では、ステップS1〜S14の各工程が、順次、実施される。ステップS1〜S14の各工程は実施例1と同じであるため、これらの工程の説明は省略する。ここでは、ステップS14の工程の後に実施されるステップS15〜S17の各工程について詳述する。
皮膜形成装置を配管系から除去する(ステップS15)。ステップS1〜S14の各工程が実施された後、浄化系配管18に接続されている皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外す。そして、浄化系配管18が復旧される。
原子力プラントを起動させる(ステップS16)。BWRプラント1の燃料交換及び保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転に入るために、ニッケル金属皮膜89が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1が起動される。
130℃以上の炉水を白金が付着されたニッケル金属皮膜に接触させる(ステップS17)。BWRプラント1が起動されたとき、RPV3内の炉水は、前述したように、再循環系配管6及びジェットポンプ5を通って炉心4に供給される。そして、炉心から吐出された炉水は、ダウンカマに戻される。ダウンカマ内の炉水は、再循環系配管6を経由して浄化系配管18内に流入し、やがて、給水配管11に流入してRPV3内に戻される。
炉心4から制御棒(図示せず)が引き抜かれて炉心4が未臨界状態から臨界状態になり、炉心4内の炉水が燃料棒内の核燃料物質の核分裂で生じる熱で加熱される。このとき、炉心4では蒸気が発生せず、まだ、タービン9には蒸気が供給されていない。さらに、制御棒が炉心4から引き抜かれ、原子炉2の昇温昇圧工程において、RPV3内の圧力が定格圧力まで上昇され、その核分裂で生じる熱によって炉水が加熱されてRPV3内の炉水の温度が定格温度(280℃)まで上昇される。RPV3内の圧力が定格圧力になり、炉水温度が定格温度に上昇した後、炉心4からの制御棒の引き抜き、及び炉心4に供給される炉水の流量増加により、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで上昇される。定格出力を維持した、BWRプラント1の定格運転が、その運転サイクルの終了まで継続される。原子炉出力が、例えば、10%出力まで上昇したとき、炉心4で発生した蒸気が主蒸気配管8を通してタービン9に供給され、発電が開始される。
炉水93には、酸素及び過酸化水素が含まれている。酸素及び過酸化水素は、RPV3内で炉水93の放射線分解により生成される。RPV3内の炉水93は、再循環系配管6から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成されている、白金90が付着したニッケル金属皮膜89に接触する(図13参照)。原子炉2の昇温昇圧工程において、前述の核分裂で生じる熱による炉水の加熱により、このニッケル金属皮膜89に接触する炉水93の温度は上昇し、やがて、130℃以上になり、280℃まで上昇する。炉水93の温度が130℃以上になると、内面に形成されたニッケル金属皮膜89、及び保温材で取り囲まれている浄化系配管18のそれぞれの温度も130℃以上になる。本実施例では、130℃以上330℃以下の温度範囲内である130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度の炉水が、白金が付着したニッケル金属皮膜に接触される。
この結果、炉水93に含まれる酸素がニッケル金属皮膜89内に移行し、浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜89内に移行する(図14参照)。浄化系配管18及びニッケル金属皮膜89は、ニッケル金属皮膜89に付着した白金90の作用によって、腐食電位が低下する。ニッケル金属皮膜89の腐食電位の低下、及び約130℃以上の高温環境の形成により、ニッケル金属皮膜89内のニッケルが移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライト(NiFe2O4)が生成される。
このため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89がこのニッケルフェライトの皮膜94に変換され、ニッケルフェライト皮膜94が浄化系配管18の内面を覆うことになる(図15参照)。ニッケルフェライト皮膜94が、浄化系配管18の、ニッケル金属皮膜89が覆っていた内面全体を覆う。ニッケルフェライト皮膜94上に白金90が付着している。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外した後に、BWRプラント1を起動させるだけで、浄化系配管18の内面に形成されて白金90が付着されたニッケル金属皮膜89を白金90が付着されたニッケルフェライト皮膜94に変えることができる。ニッケルフェライト皮膜94は、付着した白金90の作用によっても溶出しない、安定なニッケルフェライトである。このため、浄化系配管18の内面への、付着した白金90によっても炉水93中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜94の形成に要する時間が短縮される。
本実施例は、ニッケル金属皮膜89の、浄化系配管18の内面への形成、及び白金90のニッケル金属皮膜89への付着が、実施例1と同様に、BWRプラント1の運転停止中に行われるが、ニッケル金属皮膜89のニッケルフェライト皮膜94への変換が、BWRプラント1の起動後において行われる。このため、炉水の温度が130℃未満の状態では、ニッケル金属皮膜89がニッケルフェライト皮膜94に変わっておらず、浄化系配管18の内面が、白金90が付着したニッケル金属皮膜89で覆われている(図13参照)。この状態でも、白金90の作用により炉水93が接触している浄化系配管18及びニッケル金属皮膜89の腐食電位が低下し、ニッケル金属皮膜89及び浄化系配管18への放射性核種の取り込みは生じない。このように、浄化系配管18への放射性核種の付着が抑制される。
安定なニッケルフェライト皮膜に付着している白金90は、ニッケル金属皮膜89を安定なニッケルフェライト皮膜94に変換させるだけでなく、原子力プラント1の運転中において、炉水93中の溶存酸素と水素注入により炉水93に注入された水素を反応させて水を生成する触媒としても機能する。このため、炉水93中の溶存酸素濃度が低減され、原子力プラント1のステンレス鋼製の構造部材における応力腐食割れの発生を抑制する。
炉水93がニッケル金属皮膜89に接触する状態では、極微量であるがニッケル金属皮膜89に含まれるニッケルが炉水93中に溶出する。炉水93がニッケル金属皮膜89に接触する期間が長くなる、例えば、一つの運転サイクルの期間に亘ると、ニッケル金属皮膜89が消失する可能性もある。しかしながら、本実施例では、BWRプラント1の起動時における昇温昇圧工程で炉水93の温度が130℃以上になると、前述したように、白金90が付着されて炉水93に接触しているニッケル金属皮膜89がニッケルフェライト皮膜94に変わるので、運転サイクルのほとんど大部分の期間では、浄化系配管18の内面が、白金90の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜94で覆われることになる。ニッケル金属皮膜89が浄化系配管18の内面を覆っている期間は、一つの運転サイクルにおける原子力プラント1の運転期間に対して極めて短い期間であるため、ニッケル金属皮膜89に含まれるニッケルが炉水93中に溶出する量は極微量であり、浄化系配管18の内面を覆うニッケル金属皮膜89の厚みはほとんど変化しない。このため、ニッケルフェライト皮膜94に変わる前に、ニッケル金属皮膜89が消失することは起こりえない。
本発明の好適な他の実施例である実施例3の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図16を用いて以下に説明する。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、BWRプラントの浄化系配管に適用される。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において実施されるステップS1〜S17の各工程が実施される。ただし、実施例1及び2がステップS4の工程で図3に示される皮膜形成装置30を用いているのに対し、本実施例では、図16に示される皮膜形成装置30Aを用いる。皮膜形成装置30Aは、皮膜形成装置30においてpH緩衝溶液注入装置51をギ酸注入装置51C及びアンモニア注入装置51Dを含むpH緩衝溶液注入装置51Aに変えた構成を有する。pH緩衝溶液注入装置51Aを除いた皮膜形成装置30Aの構成は、pH緩衝溶液注入装置51を除いた皮膜形成装置30の構成と同じである。
pH緩衝溶液注入装置51Aの構造を以下に説明する。pH緩衝溶液注入装置51Aのギ酸注入装置51Cが、薬液タンク52A、注入ポンプ53A及び注入配管54Aを有する。薬液タンク52Aは、注入ポンプ53A及び弁55Aを有する注入配管54Aによって、循環配管31に接続されて弁55を有する注入配管54に弁55の上流側で接続される。pH緩衝溶液の一つの成分であるギ酸の水溶液が薬液タンク52A内に充填される。また、pH緩衝溶液注入装置51Aのアンモニア注入装置51Dが、薬液タンク52B、注入ポンプ53B及び注入配管54Bを有する。薬液タンク52Bは、注入ポンプ53B及び弁55Bを有する注入配管54Bによって、循環配管31に接続された上記の注入配管54に弁55の上流側で接続される。pH緩衝溶液の他の一つの成分であるアンモニアの水溶液が薬液タンク52B内に充填される。
ステップS1〜S3の各工程が実施される。その後におけるステップS4の工程では、弁55を開いた状態で、薬液タンク52A内のギ酸水溶液及び薬液タンク52B内のアンモニア水溶液が弁55を有する注入配管54に供給され、注入配管54内で、ギ酸水溶液及びアンモニア水溶液が混合され、pH緩衝溶液である、ギ酸及びアンモニアを含む混合溶液が生成される。このギ酸及びアンモニアを含む混合溶液が、注入配管54を通して循環配管31内を流れる残存するギ酸を含む90℃の水溶液に注入される。
ギ酸水溶液及びアンモニア水溶液の注入配管54への供給を、さらに具体的に説明する。ギ酸注入装置51Cの弁55Aを開いて注入ポンプ53Aを駆動し、薬液タンク52A内のギ酸水溶液を、注入配管54Aを通して注入配管54に供給する。弁55Aを開くのと同時に、アンモニア注入装置51Dの弁55Bを開いて注入ポンプ53Bを駆動し、薬液タンク52B内のアンモニア水溶液を、注入配管54Bを通して注入配管54に供給する。注入配管54内では、ギ酸水溶液とアンモニア水溶液が混合され、ギ酸及びアンモニアを含む混合溶液が生成される。注入配管54へのギ酸水溶液の注入流量及びアンモニア水溶液の注入流量は注入ポンプ53A及び53Bで調節され、注入配管54と循環配管31の合流点でのギ酸濃度が800ppm、アンモニア濃度が156ppmとなるように注入流量が調整され、系統保有水量から計算されるギ酸濃度800ppm及びアンモニア濃度156ppmを達成するために必要な注入量全量を注入するまで継続する。
pH緩衝溶液である、ギ酸及びアンモニアを含む混合溶液が注入される、循環配管31内を流れる残存するギ酸を含む90℃の水溶液のpHは、3.9〜4.2の範囲内の値、例えば、4.0になる。
本実施例においても、ステップS4の工程の実施後に、ステップS5〜S17の各工程が、順次、実施される。
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、ギ酸注入装置51C及びアンモニア注入装置51Dからギ酸水溶液及びアンモニア水溶液を注入配管54に別々に供給するため、ステップS5の工程でのニッケルイオン注入後、何らかの原因、例えば、皮膜形成水溶液が流れる配管(浄化系配管18及び循環配管31)内のどこかでFe(OH)3のような不純物が沈積し、沈積した不純物が溶解してギ酸及びアンモニアの混合溶液の緩衝能力を越えて皮膜形成水溶液のpHが4.0から変動してしまった場合、例えば、そのpHが4.0よりも低くなった場合にはアンモニア注入装置51Dからアンモニアを、pHが4.0よりも高くなった場合にはギ酸注入装置51Cからギ酸を個別に注入して皮膜形成水溶液のpHを4.0に調節することができる。すなわち、皮膜形成水溶液のpHを、設定値(例えば、4.0)に容易に調節することができる。
本発明の好適な他の実施例である実施例4の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図17及び図18を用いて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、少なくとも1つの運転サイクルでの運転を経験したBWRプラントの浄化系配管に適用される。
本実施例では、実施例2で実施されるステップS1〜S15及びS17の各工程、及び新たなステップS18及びS19の各工程が実施される。本実施例は、実施例2で用いられる皮膜形成装置30がステップS1〜S14の各工程で用いられ、さらに、新たな加熱システム95がステップS18及びS17の各工程で用いられる。
加熱システム95の構成を、図18を用いて説明する。加熱システム95は、耐圧構造であって、循環配管96、循環ポンプ97、加熱装置98及び昇圧装置である弁99を有する。循環ポンプ97が循環配管96に設けられ、加熱装置98が循環ポンプ97の上流で循環配管96に設けられる。加熱装置98は循環ポンプ97の下流に配置してもよい。配管100が循環ポンプ97をバイパスしており、配管100の一端部が循環ポンプ97よりも上流で循環配管96に接続され、配管100の他端部が循環ポンプ97よりも下流で循環配管96に接続される。弁99が配管100に設けられる。開閉弁101が循環配管96の上流側端部に設けられ、開閉弁102が循環配管の下流側端部に設けられる。
本実施例では、ステップS1〜S14の各工程が実施された後、ステップS15,S18,S17及びS18の各工程が、順次、実施される。ステップS15,S18,S17及びS18の各工程を、以下に詳細に説明する。
皮膜形成装置を配管系から除去する(ステップS15)。本実施例において、ステップS1〜S14の各工程が実施された後、浄化系配管18に接続されている皮膜形成装置30が浄化系配管18から取り外される。皮膜形成装置30の循環配管31の一端部が弁23のフランジから取り外され、循環配管31の他端部が弁25のフランジから取り外される。
加熱システムを配管系に接続する(ステップS18)。加熱システム95の循環配管96(第3配管)の開閉弁102側の一端部が弁23のフランジに接続され、循環配管96が浄化系配管18に連絡される。循環配管96の開閉弁101側の他端部が弁25のフランジに接続され、循環配管96が再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間で浄化系配管18に接続される。循環配管96の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管96を含む閉ループが形成される。
次に、130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度を有し、酸素を含む水を、白金が付着されたニッケル金属皮膜に接触させる(ステップS17)。酸素を含む水が、循環配管96及び浄化系配管18を含む閉ループ内に充填される。循環ポンプ97を駆動して、酸素を含む水を、その閉ループ内で循環させる。循環ポンプ97の回転速度を或る回転速度まで増加させ、その後、弁99の開度を徐々に減少させて循環ポンプ97から吐出される水の圧力を高める。加熱装置98により、その閉ループ内を循環する酸素を含む水を加熱し、その水の温度を上昇させる。このように、循環ポンプ97から吐出される水の圧力を高めながら、その水の温度を上昇させる。弁99が全閉になった後は、循環ポンプ97の回転速度を、さらに、増加させる。このような操作により、その閉ループ内を循環する水の圧力が、例えば、0.27MPa〜12.863MPaの範囲に上昇したとき、循環する水の温度は約130.0℃〜330.0℃の範囲内に上昇する。循環する水の圧力を調節し、その水の温度を130℃以上330℃以下の温度範囲内の、例えば、150℃に調節する。閉ループ内を循環する水の温度は、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜を安定なニッケルフェライト皮膜に変換する間、150℃に保持される。
酸素を含む150℃の水93Aが、循環配管96から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成された、白金90が付着したニッケル金属皮膜89に接触する(図13参照)。浄化系配管18は、循環配管96の両端部が接続された弁23及び25の付近を除いて、保温材(図示せず)で取り囲まれている。150℃の水93Aがニッケル金属皮膜89に接触することによって、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜89のそれぞれが加熱され、それぞれの温度が150℃になる。
酸素を含む水93A、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜89のそれぞれが、150℃になるため、その水93Aに含まれる酸素(O2)及び水93Aに含まれる一部の水分子を構成する酸素がニッケル金属皮膜89内に移行し、浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜89内に移行する(図14参照)。水93Aに含まれる酸素は、130℃以上の水93A中では単独で移動し易くなり、ニッケル金属皮膜89内に入り易くなる。ニッケル金属皮膜89に付着した白金90の作用により、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜89の腐食電位が低下する。ニッケル金属皮膜89の腐食電位の低下、及び150℃の高温環境の形成により、ニッケル金属皮膜89内のニッケルがニッケル金属皮膜89内に移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+xO4においてxが0である、白金の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト(NiFe2O4)が生成される。このため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89が安定なニッケルフェライト(NiFe2O4)皮膜94に変換され、ニッケルフェライト皮膜94が浄化系配管18の弁23と弁25の間の部分の内面を覆うことになる(図15参照)。白金90は、安定なニッケルフェライト皮膜94の表面に付着している。
加熱システムを配管系から取り外す(ステップS19)。ニッケルフェライト皮膜94が浄化系配管18の内面を覆って形成された後、浄化系配管18に接続されている加熱システム95が浄化系配管18から取り外される。その後、浄化系配管18が復旧される。
燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、白金90が付着したニッケルフェライト皮膜94が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1が起動される。浄化系配管18内を流れる炉水は、ニッケルフェライト皮膜94が形成されているため、浄化系配管18の母材に直接接触することはない。
本実施例は実施例1で生じた各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、加熱システム95を用いて浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89を安定なニッケルフェライト皮膜94に変換するため、ステップS17におけるその変換の処理をBWRプラント1の運転停止中に行うことができる。このため、BWRプラント1を起動するときには、浄化系配管18の内面に、既に、安定なニッケルフェライト皮膜94が形成されているので、本実施例では、実施例1においてその内面に安定なニッケルフェライト皮膜94が形成される前の時点においても浄化系配管18の腐食を抑制することができる。
さらに、本実施例では、加熱システム95を用いて130℃以上330℃以上の温度範囲の、酸素を含む水を、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜89に接触させるので、その水を所定温度まで加熱するために要する時間を短縮することができる。また、加熱システム95の必要とする耐圧性の度合いを低減することができる。
本発明の好適な他の実施例である実施例5の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、図19を用いて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法は、少なくとも1つの運転サイクルでの運転を経験したBWRプラントの浄化系配管に適用される。
本実施例は、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法においてステップS4をステップS4A及び4Bに替えた手順を有する。ステップS4A及び4Bを除いた本実施例の手順は、ステップS4を除いた実施例1の手順と同じである。すなわち、本実施例は、ステップS4Aの工程の前に前述のステップS1〜S3の各工程を実施し、ステップS4Bの工程の後に前述のステップS5〜S14の各工程を実施する。
本実施例では、図16に示す皮膜形成装置30Aが用いられる。ただし、本実施例で用いられる皮膜形成装置30Aは、注入配管54が存在しなく、図16に示すギ酸注入装置51C及びアンモニア注入装置51Dのそれぞれが別々に循環配管31に、直接、接続される。すなわち、ギ酸注入装置51Cの注入配管54Aが、ニッケルイオン注入装置36の注入配管39と循環配管31の接続点と弁84との間で、循環配管31に接続され、アンモニア注入装置51Dの注入配管54Bが、注入配管54Aと循環配管31の接続点と注入配管39と循環配管31の接続点との間で、循環配管31に接続される。ギ酸注入装置51C及びアンモニア注入装置51Dは、実質的に、pH緩衝溶液注入装置である。本実施例で用いられる皮膜形成装置30Aの他の構造は、図16に示す皮膜形成装置30Aと同じである。
ステップS1〜S3の各工程が実施された後、ステップS4A及びS4Bの各工程が実施される。ステップS4Aでは、ギ酸注入装置51Cの薬液タンク52Aに充填されたギ酸水溶液が、注入配管54Aを通して循環配管31内を流れる、残存するギ酸を含む90℃の水溶液に注入される。ギ酸水溶液が注入された、その90℃の水溶液が注入配管54Bと循環配管31の接続点に到達したとき、薬液タンク52BCの薬液タンク52Bに充填されたアンモニア水溶液が、注入配管54Aを通して循環配管31に注入される。循環配管31内を流れるその90℃に水溶液のギ酸濃度が800ppmになるように、またその水溶液のアンモニア濃度が156ppmになるように、ギ酸水溶液及びアンモニア水溶液のそれぞれの循環配管31への注入流量が制御される。
ギ酸水溶液及びアンモニア水溶液のそれぞれの注入により、浄化系配管18内のその90℃の水溶液中で、実質的に、pH緩衝溶液、すなわち、ギ酸及びアンモニアを含む混合溶液が生成され、浄化系配管18内で、pH緩衝溶液の異なる2種類の成分であるギ酸及びアンモニアを含み、pHが4.0で90℃の水溶液が生成される。ギ酸水溶液及びアンモニア水溶液のそれぞれの循環配管31内への注入は、注入されたギ酸及びアンモニアが循環配管31内で混合されてpH緩衝溶液が生成されるように、実施される。
ギ酸及びアンモニアを含み、pHが4.0で90℃のその水溶液が、ニッケルイオン注入装置36の注入配管39と循環配管31との接続点に到達したとき、ギ酸ニッケル水溶液が、ニッケルイオン注入装置36の薬液タンク37から浄化系配管18内のpHが4.0で90℃の水溶液に注入される(ステップS5)。その後、ステップS5〜S14の各工程が、順次、実施される。
本実施例では、ステップS14の工程が実施された後、実施例2で述べたステップS15〜S17の各工程、及び実施例4で述べたステップS15,S18,S17及びS18の各工程のいずれかを実施してもよい。
本実施例は、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
なお、図16に示す皮膜形成装置30Aは、実施例1,2,4及び5のそれぞれにおいて皮膜形成装置30の替りに使用することができる。
実施例4で用いる加熱システム95は実施例3及び5のそれぞれで使用することができ、実施例3及び5のそれぞれでは、図17に示す手順を適用することができる。
前述した実施例1ないし5は、加圧水型原子力プラント及びカナダ型重水冷却圧力管型原子力プラントの炉水に接触する炭素鋼部材に対して適用することができる。