JP2020148574A - 原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法及び原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法 - Google Patents

原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法及び原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法 Download PDF

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秀幸 細川
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Abstract

【課題】炭素鋼部材表面のNi金属皮膜の形成量を精度良く計測できる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を提供する。【解決手段】停止中の原子力プラントの炭素鋼製の浄化系配管の内面にNiイオンを含む皮膜形成液を接触させてNi金属皮膜を形成する。Ni金属皮膜の形成の完了を判定する(S5)。この判定は、浄化系配管と同じ材質であって皮膜形成液と接触する重量差計測装置の金属部材の、皮膜形成液に接触する前と皮膜形成液に接触した後の重量差、金属部材から前記皮膜形成液への鉄(II)イオンの溶出量に基づいて行われる。Ni金属皮膜の形成量が設定形成量になってNi金属皮膜の形成を終了した後、貴金属イオンを含む水溶液をNi金属皮膜の表面に接触させ、この表面に貴金属を付着させる(S9,S10)。原子力プラントの起動後(S15)、130℃以上の酸素を含む炉水を、貴金属が付着されたNi金属皮膜に接触させる(S16)。【選択図】図1

Description

本発明は、原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法及び原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法及び原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に関する。
例えば、沸騰水型原子力プラント(以下「BWRプラント」という。)は、原子炉圧力容器(以下「RPV」という。)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。炉水とは、RPV内に存在する冷却水をいう。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の炉水と接する表面で発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などが使用される。また、低合金鋼製のRPVは、内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。さらに、原子炉浄化系のろ過脱塩装置は、炉水の一部を浄化し、炉水に僅かに含まれる金属不純物を積極的に除去する。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料物質から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
運転を経験した原子力プラントの構造部材、例えば、配管の表面に形成された、コバルト60及びコバルト58等の放射性核種を含む酸化皮膜を、化学薬品を用いた溶解により除去する化学除染法が提案されている(特開2000−105295号公報)。
また、配管への放射性核種の付着を低減する方法が種々検討されている。例えば、化学除染後の原子力プラントの構造部材の、炉水に接触する表面に、フェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜を形成することによって、原子力プラントの運転後においてその構造部材の表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報に提案されている。さらに、特開2006−38483号公報には、原子力プラントを起動後に、貴金属を注入した炉水をそのマグネタイト皮膜に接触させてマグネタイト皮膜上に貴金属を付着させることが記載されている。
特開2007−182604号公報は、原子力プラントの運転停止中において、上記のマグネタイト皮膜の替りに、ニッケルフェライト皮膜を原子力プラントの炭素鋼製の構造部材の表面に形成することを記載する。ニッケルフェライト皮膜の形成により、炭素鋼製の構造部材の腐食が抑制され、その構造部材への放射性核種の付着が抑制される。
さらに、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成し、ニッケルイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5ないし9.0の範囲にあり、温度が60℃ないし100℃の範囲にある皮膜形成液を用いて、そのニッケル金属皮膜の表面にニッケルフェライト皮膜を形成し、その後、そのニッケル金属皮膜を高温水によってニッケルフェライト皮膜に転換する方法が提案されている(例えば、特開2011−32551号公報)。
特開2010−127788号公報は、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面にフェライト皮膜を形成する際に、このフェライト皮膜の形成量を水晶振動子電極装置によって計測し、計測されたフェライト皮膜の形成量に基づいて、その構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成終了を判定することを記載している。
特開2015−158486号公報は、BWRプラントの構成部材である再循環系配管の内面に貴金属を付着させるとき、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を、再循環系配管の内面に接触させることを記載している。
特開2018−48831号公報は、炭素鋼部材の、炉水と接触する表面にニッケル金属皮膜を形成し、このニッケル金属皮膜の表面に貴金属を付着し、貴金属が付着されたニッケル金属皮膜の表面に、酸素を含む200℃以上の水を接触させることによって、そのニッケル金属皮膜を、炭素鋼部材の表面を覆う、貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜(Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト皮膜)に変換させることを記載する。
特開2000−105295号公報 特開2006−38483号公報 特開2007−182604号公報 特開2011−32551号公報 特開2010−127788号公報 特開2015−158486号公報 特開2018−48831号公報
原子力プラントの炭素鋼部材の、冷却水(炉水)に接触する表面にニッケル金属皮膜を形成する際、その表面に所定量(所定厚み)のニッケル金属皮膜が形成されていることを確認することは、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制の観点から重要なことである。特開2018−48831号公報では、原子力プラントの浄化系配管と閉ループを形成する、皮膜形成装置の循環配管へのニッケルイオン水溶液の注入開始時点からの経過時間が、予め設定された設定時間に達したことをもって、所定厚みのニッケル金属皮膜が浄化系配管の、炉水に接触する表面に形成されたと判定している(段落0100、7行〜11行参照)。
発明者らは、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量(厚み)を精度良く計測する方法について検討した。原子力プラントのステンレス鋼部材(例えば、再循環系配管)及び炭素鋼部材(例えば、浄化系配管)の表面に形成されたフェライト皮膜の形成量を、水晶振動子電極装置を用いて計測することが、特開2010−127788号公報に記載されている。
しかしながら、特開2010−127788号公報に記載された水晶振動子電極装置をそのまま用いたのでは、後述する理由により、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を精度良く計測できないことを、発明者らは認識した。このため、発明者らは、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を精度良く計測できる方法の実現を図らなければならないとの思いに至った。
本発明の目的は、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を精度良く計測できる原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法及び原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、ニッケルイオンを含む皮膜形成液を、原子力プラントの炭素鋼部材の、炉水と接する第1表面に接触させて、この第1表面に、この第1表面を覆うニッケル金属皮膜を形成し、
原子力プラントのその炭素鋼部材と同じ材質であってその皮膜形成液と接触する金属部材を有する重量差計測装置の金属部材の、皮膜形成液に接触する前の第1重量と金属部材の皮膜形成液に接触した後の第2重量との差である重量差を求め、
金属部材から皮膜形成液への鉄溶出量を求め、
その重量差及びその鉄溶出量に基づいて、第1表面に形成されるニッケル金属皮膜の形成量を求め、
求められたニッケル金属皮膜の形成量に基づいて、ニッケル金属皮膜の形成終了を判定し、
ニッケル金属皮膜の形成、及びニッケル金属皮膜の形成完了の判定は、原子力プラントの運転停止後で原子力プラントの起動前に行われる原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法にある。
原子力プラントのその炭素鋼部材と同じ材質であってその皮膜形成液と接触する金属部材を有する重量差計測装置の金属部材の、皮膜形成液に接触する前の第1重量と金属部材の皮膜形成液に接触した後の第2重量との差である重量差、及び金属部材から皮膜形成液への鉄溶出量に基づいて、その第1表面に形成されるニッケル金属皮膜の形成量を求めているため、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を精度良く計測することができる。
上記の目的は、上記の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法を実施し、
形成されたニッケル金属皮膜の第2表面に貴金属を付着させ、
酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を貴金属が付着したニッケル金属皮膜の第2表面に接触させ、
その貴金属の付着は、原子力プラントの運転停止後で原子力プラントの起動前に行われる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法によっても達成できる。
本発明によれば、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を精度良く計測することができる。
本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に適用される実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置を沸騰水型原子力発電プラントの浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。 図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。 ニッケル金属皮膜厚み計測装置の図3に示す循環配管への取り付け状態を示す説明図である。 図4に示されるニッケル金属皮膜厚み計測装置の水晶振動子電極装置の詳細断面図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法が開始される前における、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管の断面図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により、ニッケル金属皮膜が浄化系配管の内面に形成された状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により浄化系配管の内面に形成されたニッケル金属皮膜の表面に貴金属を付着させた状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、浄化系配管の内面に形成されて白金が付着した、ニッケル金属皮膜に酸素を含む130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度の炉水を接触させる状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度の炉水に含まれる酸素、及び浄化系配管内のFe2+が、浄化系配管の内面に形成されて白金が付着したニッケル金属皮膜に移行する状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、浄化系配管の内面に形成されて白金が付着したニッケル金属皮膜が、安定なニッケルフェライト皮膜に変換された状態を示す説明図である。 図4に示されるニッケル金属皮膜厚み計測装置の水晶振動子電極装置を用いて計測した、水晶振動子電極装置における炭素鋼部材の皮膜形成水溶液に接触した後の重量と皮膜形成水溶液に接触する前の重量の差(重量差)、そのニッケル金属皮膜厚み計測装置の電気化学測定装置を用いて計測した、その炭素鋼部材からの鉄溶出量、及びその重量差及び鉄溶出量に基づいて算出した、その炭素鋼部材に形成されたニッケル金属皮膜の量のそれぞれの変化と、皮膜形成水溶液の、そのニッケル金属皮膜厚み計測装置の炭素鋼部材との接触時間との関係を示す特性図である。 ニッケルイオン水溶液に接触された炭素鋼製の参照試験片の表面にニッケル金属皮膜を形成させる試験を実施したときにおける、ニッケルイオン水溶液(皮膜形成水溶液)との各接触時間での参照試験片に形成されたニッケル金属皮膜量と算出されたニッケル金属皮膜量の比較を示す特性図である。 水晶振動子電極装置の炭素鋼部材の表面に形成された皮膜のX線解析結果を示す説明図である。 本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に適用される実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。
発明者らは、原子炉の運転条件を模擬した水質環境下で原子力プラントの構造部材へのCo−60付着に及ぼす水質及び構造部材の材料の影響を調べていた。その結果、構造部材の表面へのCo−60の付着は、Co−60が構造部材の表面に形成される酸化皮膜に取り込まれることによって生じることが分った。さらに、そのCo−60の付着を抑制するためには、構造部材の表面における酸化皮膜形成の元になる構造部材の腐食を抑制すれば良いことが分ってきた。
発明者らは、炭素鋼部材の表面への放射性核種の付着を抑制するために、特開2018−48831号公報に記載されるように、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成し、このニッケル金属皮膜の表面に貴金属である白金を付着させ、白金が付着されたニッケル金属皮膜を安定なニッケルフェライト皮膜に転換させることにした。発明者らが、さらに、放射性核種の付着抑制効果について検討を進めたところ、炭素鋼部材表面への放射性核種の付着抑制は、形成されるニッケル金属皮膜の厚みが影響することが分かった。
そこで、発明者らは、炭素鋼部材の表面に形成されるニッケル金属皮膜の量(例えば、ニッケル金属皮膜の厚み)を精度良く計測することが必要であるとの思いに至った。発明者らは、特開2010−127788号公報に記載された、原子力プラントの構造部材の表面に形成されるフェライト皮膜の量を計測する水晶振動子電極装置を、炭素鋼部材の表面に形成するニッケル金属皮膜量の計測に適用し、水晶振動子マイクロバランス法(以下、QCMという)によりニッケル金属皮膜量を計測することを考えた。QCMは、水溶液中で微小重量を連続的に計測する技術である。
その水晶振動子電極装置(重量差計測装置)91は、図5に示すように、水晶92、電極ホルダ93、金属部材である炭素鋼部材94及びシール部材95を有する。水晶92が電極ホルダ93の窪み内に配置され、炭素鋼部材94が水晶92の電極ホルダ93と接触しない一面に取り付けられる。炭素鋼部材94の厚みは、水晶92の振動を阻害しないように、非常に薄くなっている。炭素鋼部材94は、ニッケル金属皮膜が内面に形成される、原子力プラントの浄化系配管と同じ材質の炭素鋼部材である。シール部材95が、炭素鋼部材94が取り付けられた水晶92の一面に接触し、炭素鋼部材94の側面と電極ホルダ93の窪みの内面の間を封鎖している。このため、シール部材95は、炭素鋼部材94の表面にニッケル金属皮膜を形成するためにその炭素鋼部材94の表面に接触する、ニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液(皮膜形成液)が、水晶92と接触することを防止している。シール部材95の設置によって水晶92がその皮膜形成水溶液と接触しない水晶振動子電極装置91は、ノイズが著しく低減され、炭素鋼部材94の皮膜形成水溶液に接触した後の重量と皮膜形成水溶液に接触する前の重量の差(重量差)を精度良く計測できる。
発明者らは、水晶振動子電極装置91を用いて、炭素鋼部材の表面に形成されるニッケル金属皮膜の量、すなわち、そのニッケル金属皮膜の重量を計測できると思い、その重量を計測した。この重量の結果、発明者らは、水晶振動子電極装置91で計測された炭素鋼部材94の重量差と炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量が一致せず、水晶振動子電極装置91のみでは、ニッケル金属皮膜の量(重量)の計測が不可能であると認識した。
このため、発明者らは、炭素鋼部材94の表面におけるニッケル金属皮膜の形成メカニズムに着目した。このニッケル金属皮膜は、ニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材94に接触させることによって形成されるため、炭素鋼部材94の鉄と皮膜形成水溶液に含まれるニッケルイオンの置換反応により形成されると、発明者らは考えた。この置換反応は、皮膜形成水溶液に含まれるニッケルイオンが炭素鋼部材94から皮膜形成水溶液への鉄(II)イオン(Fe2+)の溶出により発生した電子を受け取ることによって生じる。したがって、発明者らは、炭素鋼部材94の正味の重量差(炭素鋼部材94の皮膜形成水溶液に接触した後の重量と炭素鋼部材94の皮膜形成水溶液に接触する前の重量の差)、及び炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出量を計測し、計測されたその正味の重量差及び鉄(II)イオンの溶出量に基づいて、炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量(重量)を計測できることを想定するに至った。そして、発明者らは、水晶振動子電極装置91を用いたQCM、及び電気化学測定法の併用により、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94、すなわち、原子力プラントの炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量を計測することを着想した。
電気化学測定法は、白金対極、基準電位を取るための参照電極及び作用極の三つの電極を用い、計測対象の金属部材(例えば、炭素鋼部材94)を作用極とし、白金対極と作用極との間に微小の電位を印加し、この電位印可時において白金対極と作用極の間を流れる電流の値を計測する技術である。この電流値を計測することによって、炭素鋼部材94からニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液に溶出する鉄(II)イオンの溶出量の計測が可能となる。
水晶振動子電極装置91を用いたQCM、及び電気化学測定法の併用により、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量は、以下の式(1)で表されるように、水晶振動子電極装置91を用いたQCMにより計測された炭素鋼部材94の正味の重量差(マイナスの値)を電気化学測定法により計測された鉄(II)イオンの溶出量(プラスの値)で補正することにより求まる。
p = m + mc …(1)
ただし、mpはニッケル金属皮膜の量、mは水晶振動子電極装置91における炭素鋼部材94の正味の重量差(炭素鋼部材94の皮膜形成水溶液に接触した後の重量と皮膜形成水溶液に接触する前の重量の差)及びmcは炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出量(具体的には、鉄(II)イオンの溶出量)である。
さらに、発明者らは、原子力プラントの炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量を計測する際に、水晶振動子電極装置91を用いたQCM及び電気化学測定法の適用が可能であるかを検討した。
発明者らは、QCMを適用した水晶振動子電極装置91を用いて、水晶振動子電極装置91の金属部材の正味の重量を連続的に計測する実験を行った。この実験では、原子力プラントの構成部材である炭素鋼の表面に形成される実際のニッケル金属皮膜の量(重量)を求めるために、炭素鋼試験片(参照試験片)を、前述のニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液に接触させた。水晶振動子電極装置91もその皮膜形成水溶液に接触させた。
さらに、QCMと同時に電気化学測定を行うため、鉄(II)イオンの溶出量を計測する電気化学測定装置を用いた。電気化学測定装置は、前述の電気化学測定方法を適用する装置であり、作用極、白金対極及び参照電極の三つ電極を使用する三電極法により鉄(II)イオンの溶出量を計測する。作用極は、水晶振動子電極装置91においてニッケル金属皮膜を形成する金属部材、具体的には、炭素鋼部材94である。参照電極として、例えば、銀/塩化銀電極を用いる。作用極である、水晶振動子電極装置91の金属部材と同様に、電気化学測定装置の白金対極及び参照電極も上記の皮膜形成水溶液に接触させる。
白金対極と金属部材(作用極)の間に微小電圧を印可し、この微小電圧は20mV以下の範囲内で増加される。そして、白金対極と金属部材の間を流れ、微小電圧の増加に伴って変化する電流を計測する。印可した電圧の値及び計測された電流値を用いて電圧−電流図が作成される。その電圧−電流図における電圧と電流の関係を示す特性曲線の傾きが、金属部材からの鉄の溶出のし易さを表す分極抵抗値Sである。分極抵抗値Sは、その特性曲線に基づいて求めることができる。求められた分極抵抗値Sの逆数に物質に依存するStern−geary定数を掛けることによって、すなわち、下記の式(2)用いることによって鉄の溶出時における電流値Icorrを算出することができる。
corr = K/S …(2)
ただし、KはStern−geary定数である。
式(2)により求められた電流値Icorrを以下の式(3)に代入することによって、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94から溶出する鉄(II)イオンの溶出量mcが求められる。
Figure 2020148574
ただし、tは炭素鋼部材94と皮膜形成水溶液(還元剤を含まずニッケルイオンを含む水溶液または還元剤及びニッケルイオンを含む水溶液)の接触が開始された時点から経過した、炭素鋼部材94と皮膜形成水溶液との接触時間、aは鉄の原子量、nは溶出する鉄イオンの原子価、及びFはファラデー定数である。
なお、式(3)によって求められた鉄(II)イオンの溶出量mcを上記の式(1)に代入することによって、炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量、すなわち、原子力プラントの炭素鋼部材の表面(例えば、浄化系配管の内面)に形成されたニッケル金属皮膜の量を求めることができる。
水晶振動子電極装置91、電気化学測定装置の白金対極及び参照電極、及び炭素鋼試験片(参照試験片)は、最初、容器内に充填された水に浸漬されてこの水に接触している。水晶振動子電極装置91、電気化学測定装置の白金対極及び参照電極、及び炭素鋼試験片とニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液であるギ酸ニッケル水溶液との接触時間が0分である状態(水晶振動子電極装置91等が皮膜形成水溶液であるギ酸ニッケル水溶液に接触していない状態)で、容器内の水にギ酸ニッケルを添加し、その後、水晶振動子電極装置91等とギ酸ニッケル水溶液との接触時間が5分になった時点で還元剤であるヒドラジンを容器内のギ酸ニッケル水溶液に添加した。容器内の水にギ酸ニッケルを添加することによって容器内でギ酸ニッケル水溶液が生成され、そして、ヒドラジンを添加することによって容器内にヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液が生成される。水晶振動子電極装置91、電気化学測定装置の白金対極及び参照電極、及び炭素鋼試験片(参照試験片)は、図12に示すように、上記の接触時間0分の後、接触時間が5分に達する前では容器内でヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液に接触され、接触時間5分が経過した後では、白金対極等がヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液と接触される。
容器内のギ酸ニッケル水溶液に含まれるニッケルイオンが、そのギ酸ニッケル水溶液に接触された、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94からギ酸ニッケル水溶液に溶出する鉄(II)イオンと置換されて炭素鋼部材94に取り込まれ、炭素鋼部材94に取り込まれたニッケルイオンが、鉄(II)イオンの溶出に伴って発生した電子よって還元されてニッケル金属になる。
炭素鋼部材94とギ酸ニッケル水溶液との接触時間が長くなって炭素鋼部材94においてニッケル金属の占める領域が増加する伴って、炭素鋼部材94から溶出する鉄(II)イオンの量が減少し、炭素鋼部材94におけるニッケル金属の生成量も減少する。やがて、このようにして生成されたニッケル金属がニッケル金属皮膜となって炭素鋼部材94の表面を覆ってしまうと、炭素鋼部材94からギ酸ニッケル水溶液への鉄(II)イオンの溶出が止まって上記の電子の生成も行われなくなり、炭素鋼部材94の表面を覆うニッケル金属皮膜の厚みも増加しなくなる。炭素鋼部材94がギ酸ニッケル水溶液に接触されてから5分が経過したとき、図12に示すように、還元剤であるヒドラジンがギ酸ニッケル水溶液に添加され、炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜は、ヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液に接触する。ヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液に含まれるニッケルイオンは、そのニッケル金属皮膜の表面に吸着され、ヒドラジンによって還元されてニッケル金属になる。このため、電子の生成が停止された後においても、ヒドラジンの還元作用により、ニッケル金属皮膜の表面に吸着されたニッケルイオンをニッケル金属に変換することができ、そのニッケル金属皮膜の厚みを増加させることができる。
最初にヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液(皮膜形成水溶液)に接触し、その後にヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液(皮膜形成水溶液)と接触した、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の重量は、水晶振動子電極装置91によって計測されるが、図12に示された破線のように変化する。図12の重量変化を示す破線は、ヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触する接触時間が0分〜5分までの間では、ヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触しているときの炭素鋼部材94の重量とギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触する前の炭素鋼部材94の重量の差(重量差)の変化、及びヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触する接触時間が5分〜20分までの間では、ヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触しているときの炭素鋼部材94の重量とギ酸ニッケル水溶液が炭素鋼部材94に接触する前の炭素鋼部材94の重量の差(重量差)の変化を示している。また、電気化学測定装置で計測された、炭素鋼部材94からギ酸ニッケル水溶液に溶出する鉄(II)イオンの溶出量は、式(2)及び(3)により求められた鉄(II)イオンの溶出量であるが、図12に示された点線のように変化する。水晶振動子電極装置91によって計測された炭素鋼部材94の重量(マイナスの値)(m)、及び電気化学測定装置で計測された、炭素鋼部材94から溶出する鉄(II)イオンの溶出量(mc)を式(1)に代入することによって、鉄(II)イオンの溶出量(プラスの値)が炭素鋼部材94の重量(マイナスの値)に加算されて炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量(mp)が求められる。求められたニッケル金属皮膜量は、図12に示された実線のように変化する。
図12によれば、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94がヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液に接触している第1期間では、点線のように、鉄(II)イオンの溶出量が多くなり、実線のように、ニッケル金属皮膜の量も増加する。その第1期間では、鉄(II)イオンの溶出量の増加よりもニッケル金属皮膜の量の増加が少ないので、破線で示すように、炭素鋼部材94の重量は減少する。第1期間が終了して、その炭素鋼部材94がヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液に接触した以降の第2期間においては、炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出が停止され、鉄(II)イオンの溶出量は変化しない。これに対して、ヒドラジンの還元作用により、炭素鋼部材94の表面に形成されるニッケル金属皮膜の量が増加し、このニッケル金属皮膜量の増加に伴って、炭素鋼部材94の重量も増加する。
4個の前述の炭素鋼試験片(参照試験片)も、水晶振動子電極装置91等と同時に、容器内のヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液に接触され、さらに、ヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液に接触される。これらの炭素鋼試験片は、ヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液との接触が開始された後、30秒後、1分後、5分後及び20分後に、ヒドラジンを含まないギ酸ニッケル水溶液、または、ヒドラジンを含むギ酸ニッケル水溶液から取り出される。取り出された各炭素鋼試験片の表面に形成されているニッケル金属皮膜の量は、各炭素鋼試験片の表面に形成されたニッケル金属皮膜を酸によって溶解し、溶解されたニッケル金属を原子吸光光度計を用いて測定することによって求められる。図13は、上記したように式(1)により算出されたニッケル金属皮膜量(μg/cm2)、及びギ酸ニッケル水溶液との接触時間が30秒、1分、5分及び20分になる各炭素鋼試験片の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量(μg/cm2)を示している。図13において、実線の特性曲線は式(1)により算出されたニッケル金属皮膜量の変化を示しており、各黒丸は接触時間が30秒、1分、5分及び20分である各炭素鋼試験片の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量を示している。
式(1)により算出されたニッケル金属皮膜量と炭素鋼試験片の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量は、15%以内で一致している。この結果、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の量は、水晶振動子電極装置91及び電気化学測定装置を用いることによって、精度良く計測することができ、しかも、連続計測ができることが分った。
このため、水晶振動子電極装置91及び電気化学測定装置を用いて原子力プラントの炭素鋼部材の表面に所定量のニッケル金属皮膜量が形成されたことを精度よく確認することができ、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成作業の終了を的確に判定することができる。
水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜のX線回折(XRD)の結果を図14に示す。炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜のスペクトルは、図14に示すように、ニッケル金属の標準スペクトルと一致した。この結果から、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の表面に形成された皮膜は、ニッケル金属の皮膜であることが確認できた。
ステンレス鋼部材の表面への放射性核種の付着抑制のための作業は前述した通りであるので、ここでは、炭素鋼部材の表面への放射性核種の付着抑制のための作業、すなわち、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成、ニッケル金属を含む貴金属粒子のニッケル金属皮膜の表面への付着、及び酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水の、ニッケル金属を含む貴金属粒子が付着されたニッケル金属皮膜の表面への接触のそれぞれについて、説明する。
特開2018−48831号公報に記載されているように、前述の特開2006−38483号公報及び特開2012−247322号公報に記載された方法により、原子力プラントの構造部材の表面にフェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜を形成した場合には、形成されたマグネタイト皮膜が付着された貴金属の作用により炉水中に溶出するという課題が生じる。炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜の溶出によりフェライト皮膜が消失する運転サイクルの末期では、フェライト皮膜による放射性核種の付着抑制効果が消失する。このため、この運転サイクルでの原子力プラントの運転を停止した後、炭素鋼部材の表面に、再度、フェライト皮膜を形成する必要がある。なお、炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜が付着した貴金属の作用により溶出する理由は、特開2018−48831号公報の段落0036に記載されている。
また、特開2011−32551号公報に記載されているように、BWRプラントの炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜を覆う、鉄含有率の高いニッケルフェライトを含むニッケルフェライト皮膜に、酸素を含む150℃以上の水を接触させて、そのニッケル金属皮膜をニッケルフェライト皮膜に変換させた場合には、ニッケル金属皮膜から変換されたニッケルフェライト皮膜は、不安定なニッケルフェライト皮膜(例えば、Ni0.7Fe2.34皮膜)になる。ニッケル金属皮膜の不安定なニッケルフェライト皮膜への変換は、ニッケル金属皮膜をニッケルフェライト皮膜に変換する際にニッケル金属皮膜への鉄供給量が多くなってニッケルの量が不足するためである。
なお、ニッケル金属皮膜を元々覆っていたニッケルフェライト皮膜は、高温水接触後にニッケル金属皮膜から移行されたニッケル金属と反応してNi0.7Fe2.34の皮膜になる。元々のニッケルフェライト皮膜のニッケルフェライトのNi含有率はNi0.7Fe2.34のそれよりも低く、その元々のニッケルフェライト皮膜は、還元環境では不安定なニッケルフェライト皮膜である。不安定なニッケルフェライトは、Ni1-xFe2+x4において0.3≦x<1.0を満足するニッケルフェライト、例えば、Ni0.7Fe2.34である。
このため、特開2011−32551号公報でも、特開2006−38483号公報と同様に、不安定なニッケル皮膜の表面へのBWRプラントの運転中に注入された貴金属の付着により、このニッケルフェライト皮膜が炉水中に溶出する。やがて、運転サイクルの末期において、不安定なニッケルフェライト皮膜が消失し、炭素鋼部材が露出して炉水と接触する可能性がある。
ところで、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させる際に、炭素鋼部材からFe2+が溶出していると、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させることができなくなる。炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぎ、炭素鋼部材への貴金属の付着を短時間で行い、その付着量を増大させるためには、特開2018−48831号公報に記載されているように、炭素鋼部材の表面をニッケル金属の皮膜で覆うと良い。
なお、還元除染剤分解工程の期間中における炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成では、ニッケルイオン及びシュウ酸を含み、pHが3.5〜6.0の範囲にあって60℃以上100℃以下の温度範囲内の温度の水溶液(皮膜形成水溶液)が用いられる。還元除染剤分解工程が終了した以降、例えば、化学除染の浄化工程以降における、炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成では、ニッケルイオンを含みシュウ酸を含んでいない、pHが3.5〜6.0の範囲にあって60℃以上100℃以下の温度範囲内の温度の水溶液(皮膜形成水溶液)が用いられる。
pHが6.0よりも大きなその皮膜形成水溶液が炭素鋼部材の表面に接触した場合には、炭素鋼部材から溶出する鉄(II)イオンの量が少なくなって生成される電子も少なくなる。この電子が少ないと、ニッケルイオンのニッケル金属への還元が抑制され、ニッケル金属が炭素鋼部材の表面に生成されなくなる。ニッケル金属を炭素鋼部材の表面に生成させるためには、皮膜形成水溶液のpHを6.0以下にする必要がある。また、皮膜形成水溶液のpHを3.5よりも小さくすると、炭素鋼部材の表面に付着するニッケル金属の量が非常に少なくなる。したがって、炭素鋼部材の表面に接触させる皮膜形成水溶液のpHを3.5以上6.0以下の範囲内にすることによって、その表面に、ニッケル金属皮膜を形成することができる。
発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で不安定なNi0.7Fe2.34の皮膜を炭素鋼部材の表面に形成するのではなく、付着した貴金属によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜の、炭素鋼部材の表面への形成により、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着のより長期に亘る抑制を実現することを目指した。そこで、発明者らは、放射性核種の付着のより長期に亘る抑制を実現するために、炭素鋼部材の表面に形成したニッケル金属皮膜の、その安定なニッケルフェライト皮膜の形成への利用について、種々の検討を行った。その結果、発明者らは、酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水(例えば、炉水)の、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜への接触による、炭素鋼部材及びニッケル金属皮膜での130℃以上330℃以下の温度範囲内の高温環境の形成、及びニッケル金属皮膜の表面に付着した貴金属の作用により、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜に含まれるニッケル金属が、安定なニッケルフェライトに変換されることを見出した。この安定なニッケルフェライトは、Ni1-xFe2+x4において0≦x<0.3を満足するニッケルフェライトであり、例えば、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト(NiFe24)である。やがて、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜は、炭素鋼部材の表面を覆う、付着した貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜(例えば、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト皮膜(NiFe24皮膜))になる。
炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の表面に付着させる、貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかを用いてもよい。
炭素鋼部材の表面に形成されて貴金属(例えば、白金)を付着したニッケル金属皮膜が、酸素を含む130℃以上(好ましくは、130℃以上330℃以下)の範囲内の温度の水と接触することにより、炭素鋼部材の表面を覆う安定なニッケルフェライト皮膜(NiFe24皮膜)に変換される理由を説明する。130℃以上の水が炭素鋼部材上のニッケル金属皮膜に接触すると、ニッケル金属皮膜及び炭素鋼部材が130℃以上に加熱される。その水に含まれる酸素がニッケル金属皮膜内に移行し、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜内に移行する。130℃以上の高温環境で、且つニッケル金属皮膜に付着した、例えば、白金の作用により、ニッケル金属皮膜内のニッケルが、ニッケル金属皮膜内に移行した酸素及びFe2+と反応し、例えば、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトが生成される。この際、フェライト構造の中へのニッケル及び鉄のそれぞれの取り込まれ易さは貴金属の影響を受け、貴金属が存在する場合は鉄よりもニッケルが取り込まれ易くなるため、Ni1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライト(NiFe24)が生成される。この安定なニッケルフェライトの皮膜が、炭素鋼部材の表面を覆う。
上記のように生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトは、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.34皮膜のように水中に溶出しなく安定であり、母材の炭素鋼への放射性核種の付着抑制に作用する。このように、130℃以上の高温の環境、及び白金の作用により生成されたその安定なニッケルフェライト皮膜は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.34皮膜よりも長期に亘って炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
ニッケル金属皮膜に接触させる酸素を含む水の温度が130℃未満である場合には、ニッケル金属皮膜は、安定なニッケルフェライト皮膜(NiFe24皮膜)に変換されない。ニッケル金属皮膜を貴金属の作用により溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜に変換させるためには、ニッケル金属皮膜に接触させる酸素を含む水の温度を130℃以上(130℃以上330℃以下)の温度範囲内の温度にする必要がある。
原子力プラントの炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜は、炭素鋼部材から皮膜形成水溶液への鉄(II)イオン(Fe2+)の溶出によって発生した電子の還元作用により、炭素鋼部材の表面に付着した、皮膜形成水溶液に含まれるニッケルイオンがニッケル金属に変換されることによって生成される。炭素鋼部材の表面全体がニッケル金属皮膜によって覆われると、炭素鋼部材から皮膜形成水溶液への鉄(II)イオンの溶出がとまり、電子が生成されなくなる。この結果、電子の還元作用を利用した、ニッケルイオンのニッケル金属への変換が行われなくなる。そこで、還元剤である、例えば、ヒドラジンを皮膜形成水溶液に注入すれば、炭素鋼部材の表面全体がニッケル金属皮膜によって覆われる前後を問わず、このヒドラジンの還元作用により、ニッケルイオンをニッケル金属に変換することができ、電子の還元作用のみを利用する場合に比べて、炭素鋼部材の表面に形成されるニッケル金属皮膜の厚みを厚くすることができる。
貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させるときに使用する還元剤としては、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体及びヒドロキシルアミンのいずれかを用いてもよい。
炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成が終了した後、析出した水酸化鉄及びマグネタイト、ニッケルイオン及びギ酸を含むその水溶液(ヒドラジンが注入された場合にはヒドラジンを含む)が、ギ酸の分解工程(またはギ酸及びヒドラジンの分解工程)において、その水溶液に含まれるニッケルイオン及びFe2+が後述のカチオン交換樹脂塔で除去され、ギ酸(またはギ酸及びヒドラジン)が後述の分解装置で分解される。ギ酸及びヒドラジンの分解後、その水溶液が後述の混床樹脂塔に導かれ、水溶液に含まれる不純物が混床樹脂塔内のイオン交換樹脂で除去されてその水溶液が浄化される。
水溶液の浄化後においても、カチオン交換樹脂塔及び混床樹脂塔で除去しきれなかったFe2+がその水溶液中に存在する可能性がある。水溶液の浄化後において水溶液中に存在するFe2+は、ギ酸等を分解するためにその水溶液に供給される過酸化水素により酸化されてFe3+となり、水酸化鉄及びマグネタイトとして析出する。その後、貴金属をニッケル金属皮膜上に付着させるために、貴金属イオン及び還元剤をその水溶液に注入した場合には、注入された貴金属イオンの一部が還元剤の作用によって析出している水酸化鉄及びマグネタイトに貴金属として付着してしまい、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜上に付着する貴金属の量が低減し、所定量の貴金属をニッケル金属皮膜の表面に付着させるために要する時間が、長くなってしまう。
水溶液に残留する鉄イオン(Fe3+)が水酸化鉄及びマグネタイトとして析出し、貴金属が水酸化鉄及びマグネタイトに付着することを避けるために、水溶液に錯イオン形成剤(例えば、アンモニア)、貴金属イオン(例えば、白金イオン)及び還元剤(例えば、ヒドラジン)のそれぞれを注入し、水溶液に残留する鉄イオンと注入された錯イオン形成剤、例えば、アンモニアが鉄−アンモニア錯イオンを形成し、その鉄イオンの析出を抑えることが知られている(特開2015−158486号公報参照)。その鉄イオンとアンモニアは、特開2015−158486号公報に記載された式(4)から式(6)に示された各反応によって、鉄−アンモニア錯イオンを生成する。
このように、鉄−アンモニア錯イオンがその水溶液中に生成されると、ヒドラジンが注入されてその水溶液のpHが8程度以上のアルカリ性になったとしても、その水溶液内で鉄イオンの析出が抑制される。錯イオン形成剤を水溶液に注入することにより、水溶液に含まれる貴金属イオンを、ヒドラジンの助けをかりて、プラントの炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の表面に効率良く付着させることができる。このため、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着に要する時間をさらに短縮できる。
錯イオン形成剤としては、還元剤(例えば、ヒドラジン)の注入により水溶液のpHが増加した場合においても、錯イオンの形成によってFe3+の溶解度を上昇させ、水酸化鉄及びマグネタイトの析出を抑制できる物質であれば良く、アンモニア、ヒドロキシルアミン等のモノアミン類、シアン化合物、尿素及びチオシアン化合物のうち少なくとも1つを用いる。
以上の検討結果を反映した、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の好ましい実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の、炭素鋼製の浄化系配管(炭素鋼部材)に適用される。
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、蒸気発生装置であり、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11を連絡する浄化系配管18に、浄化系ポンプ19、再生熱交換器20、非再生熱交換器21及び炉水浄化装置22をこの順に設置している。弁29を有して炉水浄化装置22をバイパスするバイパス配管28が、炉水浄化装置22の上流側と下流側で浄化系配管18に接続される。弁27が、バイパス配管28と浄化系配管18の接続点よりも炉水浄化装置22側で浄化系配管18に設けられる。浄化系配管18は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器24内に設置される。
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴出される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引され、ジェットポンプ5内に噴射された前述の冷却水と共に炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。この給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で抽気配管17によりタービン9から抽気された抽気蒸気によって加熱されてRPV3内に導かれる。高圧給水加熱器16及び低圧給水加熱器14に接続されドレン水回収配管26が、復水器10に接続される。
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ19の駆動によって浄化系配管18内に流入し、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21で冷却された後、炉水浄化装置22で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器20で加熱されて浄化系配管18及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、皮膜形成装置30が用いられ、これらの皮膜形成装置30が、図2に示すように、浄化系配管18に接続される。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。
皮膜形成装置30は、循環配管31、サージタンク32、加熱器33、循環ポンプ34,35、ニッケルイオン注入装置36、還元剤注入装置41、白金イオン注入装置46、冷却器52、カチオン交換樹脂塔53、混床樹脂塔54、分解装置55、酸化剤供給装置56及びエゼクタ61を備えている。
開閉弁62、循環ポンプ35、弁63,66,69及び74、サージタンク32、循環ポンプ34、弁77及び開閉弁78が、上流よりこの順に循環配管31に設けられている。弁63をバイパスする配管65が循環配管31に接続され、弁64及びフィルタ51が配管65に設置される。弁66をバイパスして両端が循環配管31に接続される配管68には、冷却器52及び弁67が設置される。両端が循環配管31に接続されて弁69をバイパスする配管71に、カチオン交換樹脂塔53及び弁70が設置される。両端が配管71に接続されてカチオン交換樹脂塔53及び弁70をバイパスする配管73に、混床樹脂塔54及び弁72が設置される。カチオン交換樹脂塔53は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔54は陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填している。
弁75及び弁75よりも下流に位置する分解装置55が設置される配管76が、弁74をバイパスして循環配管31に接続される。分解装置55は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク32が弁74と循環ポンプ34の間で循環配管31に設置される。加熱器33がサージタンク32内に配置される。空間86が、サージタンク32内で、サージタンク32内に存在する、例えば、皮膜形成水溶液116の液面よりも上方に形成される。流量調節弁88が設けられてサージタンク32の側壁を貫通するガス供給管89の一端部が、サージタンク32内に配置された散気管87に接続される。ガス供給管89の他端部は、不活性ガス、例えば、窒素ガスが充填された不活性ガスボンベ(図示せず)に接続される。ガス供給管89及び不活性ガスボンベは、不活性ガス供給装置を構成する。
弁79及びエゼクタ61が設けられる配管80が、弁77と循環ポンプ34の間で循環配管31に接続され、さらに、サージタンク32に接続される。浄化系配管18の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク32内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ61に設けられる。
ニッケルイオン注入装置36が、薬液タンク37、注入ポンプ38及び注入配管39を有する。薬液タンク37は、注入ポンプ38及び弁40が設けられた注入配管39によって循環配管31に接続される。例えば、ギ酸ニッケル(Ni(HCOO)2・2H2O)を希薄なギ酸水溶液に溶解して調製したギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオンを含む水溶液)が、薬液タンク37内に充填される。
白金イオン注入装置(貴金属イオン注入装置)46が、薬液タンク47、注入ポンプ48及び注入配管49を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ48及び弁50が設けられた注入配管49によって循環配管31に接続される。白金錯体(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O))を水に溶解して調整した白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液)が、薬液タンク47内に充填されている。白金イオンを含む水溶液は貴金属イオンを含む水溶液の一種である。
還元剤注入装置41が、薬液タンク42、注入ポンプ43及び注入配管44を有する。薬液タンク42は、注入ポンプ43及び弁45が設けられた注入配管44によって循環配管31に接続される。還元剤であるヒドラジンの水溶液が、薬液タンク42内に充填される。
注入配管39,49及び44が、弁77から開閉弁78に向かってその順番で、弁77と開閉弁78の間で循環配管31に接続される。
酸化剤供給装置56が、薬液タンク57、供給ポンプ58及び供給配管59を有する。薬液タンク57は、供給ポンプ58及び弁60が設けられた供給配管59によって弁75よりも上流で配管76に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク57内に充填される。酸化剤としては、オゾンを溶解した水溶液を用いてもよい。
pH計81が、注入配管44と循環配管31の接続点と開閉弁78の間で循環配管31に取り付けられる。酸素濃度計114が、循環ポンプ34と弁77との間で循環配管31に取り付けられる。
ニッケル金属皮膜厚み計測装置(皮膜形成量計測装置)82は、前述の水晶振動子電極装置91、重量差計測装置84、鉄溶出量計測装置104、皮膜厚み算出装置121及び弁体が取り外された弁ボンネット107を有する。ニッケル金属皮膜厚み計測装置82は、pH計81の循環配管31への取り付け位置と開閉弁78の間で循環配管31に取り付けられる(図3参照)。
重量差計測装置84は、水晶振動子電極装置91及び重量差算出装置105を有する。この水晶振動子電極装置91は、前述したように、図5に示す構成を有し、水晶92、電極ホルダ93、金属部材である炭素鋼部材94及びシール部材95を備える。水晶振動子電極装置91の詳細な構成は、前述したので、ここでの説明は省略する。弁ボンネット107が、pH計81の循環配管31への取り付け位置と開閉弁78の間で循環配管31に取り付けられる。具体的には、弁ボンネット107のフランジ109A及び109Bのそれぞれが循環配管31に接続される。フランジ108が、弁ボンネット107の上端に取り付けられ、弁ボンネット107を封鎖する。水晶92を保持する電極ホルダ93が、フランジ108にフィールドスルー111を用いて取り付けられている。電極ホルダ93が、フランジ108から、弁ボンネット107内の炉水の流れる流路に向かって伸びている。金属部材である、浄化系配管18と同じ材質の炭素鋼部材94が、水晶92の電極ホルダ93と接触しない一面に直接取り付けられる。水晶92と炭素鋼部材94の密着性が悪い場合には、水晶92の上記一面に、金及び白金等の貴金属を取り付け、取り付けられた貴金属の表面に炭素鋼部材94を蒸着により設置してもよい。水晶92に接続された1本の配線98が、電極ホルダ93内を通って弁ボンネット107の外部に達しており、重量差算出装置105に接続される。
鉄溶出量計測装置104は、電気化学測定装置83及び鉄溶出量算出装置106を有する。その電気化学測定装置83は、図4に示すように、白金対極96、参照電極97、電流計100及び電圧計102を有する。白金対極96及び参照電極97は弁ボンネット107内に配置され、電流計100及び電圧計102は弁ボンネット107の外部に配置される。本実施例では、参照電極97として、例えば、銀/塩化銀電極を用いる。配線103の一端が白金対極96に接続され、配線103の他端が弁ボンネット107の外部において直流電源101に接続される。電流計100が配線103に接続される。電気化学測定装置83では、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94が作用極として使用される。直流電源101に接続された配線99が、電極ホルダ93内を通って炭素鋼部材94に接続される。参照電極97に接続された配線120が、電圧計102を介して配線99に接続される。電流計100に接続された配線90及び電圧計102に接続された配線119のそれぞれが、鉄溶出量算出装置106に接続される。
重量差算出装置105及び鉄溶出量算出装置106は、皮膜厚み算出装置121に接続される。
BWRプラント1は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止されている期間を利用して、BWRプラント1の保守点検が行われる。
上記のようにBWRプラント1の運転が停止されている期間中において、BWRプラント1における炭素鋼部材の一つである、RPV3に連絡される炭素鋼製の配管系、例えば、浄化系配管18を対象にした、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法が実施される。この炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、浄化系配管18の、炉水と接触する内面への、ニッケル金属皮膜の形成処理、形成されたニッケル金属皮膜への貴金属、例えば、白金の付着処理及び白金が付着されたニッケル金属皮膜の安定なニッケルフェライト皮膜への変換処理が行われる。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図1に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、皮膜形成装置30が用いられる。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、図1に示されるステップS1〜S16の各工程が実施されるが、この原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、ステップS1〜S7の各工程を実施する原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法を含んでいる。
まず、皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に、皮膜形成装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止されているときに、例えば、浄化系ポンプ19の上流で浄化系配管18に設置された弁23のボンネットを開放して再循環系配管6側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管31の開閉弁78側の一端部が弁23のフランジに接続される。さらに、再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間で浄化系配管18に設置された弁25のボンネットを開放して非再生熱交換器21側を封鎖する。循環配管31の開閉弁62側の他端部が、弁25のフランジに接続される。循環配管31の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管31を含む閉ループが形成される。
なお、本実施例では、皮膜形成装置30を原子炉浄化系の浄化系配管18に接続しているが、浄化系配管18以外に、炭素鋼部材であってRPV3に連絡される残留熱除去系、原子炉隔離時冷却系及び炉心スプレイ系、給水系のいずれかの炭素鋼製の配管に皮膜形成装置30を接続し、この炭素鋼製の配管に本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を適用してもよい。
以下に説明するステップS2〜S14の各工程は、皮膜形成装置30により、浄化系配管18の、弁23と弁25の間の部分に対して実施される。
皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に対する化学除染を実施する(ステップS2)。前の運転サイクルでの運転を経験したBWRプラント1では、放射性核種を含む酸化皮膜が、RPV3から流れ込む炉水と接触する浄化系配管18の内面に形成されている。ニッケル金属皮膜を浄化系配管18の内面に形成する前に、浄化系配管18の線量率を下げるために、その内面から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが好ましい。この酸化皮膜の除去は、ニッケル金属皮膜と浄化系配管18の内面の密着性を向上させる。この酸化皮膜を除去するために、化学除染、特に、還元除染剤であるシュウ酸を含む還元除染液を用いた還元除染が、浄化系配管18の内面に対して実施される。
ステップS2において、浄化系配管18の内面に対して適用される化学除染は、特開2000−105295号公報に記載された公知の還元除染である。この還元除染について説明する。まず、開閉弁62,弁63,66,69,74及び77、及び開閉弁78をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ34及び35を駆動する。これにより、サージタンク32内で加熱器33により90℃に加熱された水が、循環配管31及び浄化系配管18によって形成される閉ループ内を循環する。この水の温度が90℃になったとき、弁79を開いて循環配管31内を流れる一部の水を配管80内に導く。ホッパ及びエゼクタ61から配管80内に供給された所定量のシュウ酸が、配管80内を流れる水によりサージタンク32内に導かれる。このシュウ酸がサージタンク32内で水に溶解し、シュウ酸水溶液(還元除染液)がサージタンク32内で生成される。
このシュウ酸水溶液は、循環ポンプ34の駆動によってサージタンク32から循環配管31に排出される。還元剤注入装置41の薬液タンク42内のヒドラジン水溶液が、弁45を開いて注入ポンプ43を駆動することにより、注入配管44を通して循環配管31内のシュウ酸水溶液に注入される。pH計81で計測されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて注入ポンプ43(または弁45の開度)を制御して循環配管31内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節して、浄化系配管18に供給されるシュウ酸水溶液のpHを2.5に調節する。本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜の上に貴金属、例えば、白金を付着させるときに用いられる還元剤であるヒドラジン(後述のステップS10の工程)が、還元除染の工程ではシュウ酸水溶液のpHを調整するpH調整剤として用いられる。
pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液が循環配管31から浄化系配管18に供給され、その水溶液中のシュウ酸が、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜を溶解する。シュウ酸水溶液は、酸化皮膜を溶解しながら浄化系配管18内を流れ、循環配管31に戻される。シュウ酸水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環し、浄化系配管18の内面の還元除染を実施してその内面に形成された酸化皮膜を溶解する。
酸化皮膜の溶解に伴って、シュウ酸水溶液の放射性核種濃度及びFe濃度が上昇する。これらの濃度上昇を抑えるために、弁70を開いて弁69の開度を減少させ、循環配管31に戻されたシュウ酸水溶液の一部を、配管71によりカチオン交換樹脂塔53に導く。シュウ酸水溶液に含まれた放射性核種及びFe等の金属陽イオンは、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン交換樹脂塔53から排出されたシュウ酸水溶液及び弁69を通過したシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に再び供給され、浄化系配管18の還元除染に用いられる。
シュウ酸を用いた、炭素鋼部材(例えば、浄化系配管18)の表面に対する還元除染では、炭素鋼部材の表面に難溶解性のシュウ酸鉄(II)が形成され、このシュウ酸鉄(II)により、炭素鋼部材表面の酸化皮膜のシュウ酸による溶解が抑制される場合がある。この場合には、弁69を全開にし、弁70を閉じてシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔53への供給を停止する。さらに、弁60を開いて供給ポンプ58を起動し、薬液タンク57内の過酸化水素を、弁75を閉じた状態で、供給配管59及び配管76を通して循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液に供給する。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が浄化系配管18に導かれる。このため、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)が、その過酸化水素の作用によってFe(III)に酸化され、そのシュウ酸鉄(II)がシュウ酸鉄(III)錯体としてシュウ酸水溶液中に溶解する。すなわち、シュウ酸鉄(II)、及びシュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素及びシュウ酸が、式(4)に示す反応を生じ、シュウ酸鉄(III)錯体、水及び水素イオンを生成する。
2Fe(COO)2+H22+2(COOH)2
2Fe[(COO)2]2−+2H2O+2H+ …(4)
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)が溶解され、シュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が式(4)の反応によって消失したことが確認された後、循環配管31の弁66を通過したシュウ酸水溶液の一部を、配管71を通してカチオン交換樹脂塔53に供給する。このシュウ酸水溶液に含まれる放射性核種等の金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。なお、シュウ酸水溶液内の過酸化水素の消失は、例えば循環配管31からサンプリングしたシュウ酸水溶液に過酸化水素に反応する試験紙を浸漬し、試験紙に現れる色を見ることによって確認できる。
浄化系配管18の、還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したとき、または、浄化系配管18の還元除染時間が所定の時間に達したとき、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。すなわち、還元除染剤分解工程が実施される。なお、還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したことは、浄化系配管18の還元除染箇所からの放射線を検出する放射線検出器の出力信号に基づいて求められた線量率により確認することができる。
シュウ酸及びヒドラジンの分解は、以下のようにして行われる。弁75を開いて弁74の開度を一部減少させ、弁69と弁70を通過した、ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液は、弁75を通って配管76により分解装置55に供給される。このとき、弁60を開いて供給ポンプ58を駆動することにより、薬液タンク57内の過酸化水素が、供給配管59及び配管76を通して分解装置55に供給される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、分解装置55内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用により分解される。分解装置55内でのシュウ酸及びヒドラジンの分解反応は、式(5)及び式(6)で表される。
(COOH)2+H22 → 2CO2+2H2O ……(5)
24+2H22 → N2+4H2O ……(6)
シュウ酸及びヒドラジンの分解装置55内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環させながら行われる。供給した過酸化水素がシュウ酸及びヒドラジンの分解のために分解装置55で完全に消費されて分解装置55から流出しないように、薬液タンク57から分解装置55への過酸化水素の供給量を、供給ポンプ58の回転速度を制御して調節する。
還元除染剤分解工程においても、シュウ酸水溶液中にシュウ酸が存在すると、このシュウ酸水溶液と接触する、炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に、シュウ酸鉄(II)が形成される可能性がある。そこで、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解がある程度進んだ段階で、供給ポンプ58の回転速度を増大させ、分解装置55から過酸化水素が流出するように、薬液タンク57から分解装置55への過酸化水素の供給量を増加させる。この際、事前に弁69を閉止し、カチオン交換樹脂塔53に過酸化水素が流れ込まないようにしておく。
分解装置55から排出された、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に導かれる。炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)は、前述したように、その過酸化水素の作用によりシュウ酸鉄(III)錯体になりシュウ酸水溶液中に溶解する。シュウ酸水溶液中のシュウ酸等の分解が進んでいるため、シュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)を溶解しやすいFe(III)に変換させるシュウ酸が不足し、循環配管31の内面にFe(OH)3が析出しやすくなる。このため、Fe(OH)3の析出を抑制するため、シュウ酸水溶液にギ酸を注入する。ギ酸の注入は、シュウ酸の供給と同様に、ギ酸を前述のホッパ及びエゼクタ61から配管80内を流れるシュウ酸水溶液に供給することにより行われる。
サージタンク32内のギ酸を含むシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に供給される。ギ酸を含むそのシュウ酸水溶液は、濃度の低下したシュウ酸及びヒドラジンに加え、分解装置55から排出された過酸化水素を含んでいる。シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素は浄化系配管18内面に析出したシュウ酸鉄(II)を溶解し、ギ酸はFe(OH)3を溶解する。シュウ酸水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループを循環するため、シュウ酸及びヒドラジンの分解も、分解装置55内で継続される。
次に、シュウ酸の分解工程を終了するために、弁60の開度を分解装置55から過酸化水素が流出しない程度に低下させ、さらに、弁79を閉じて新たなギ酸の注入を停止する。循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液への過酸化水素及びギ酸の注入が停止されると、シュウ酸水溶液中のこれらの濃度も低下する。シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が1ppm以下になったとき、弁70を開いて弁69の開度を低減させ、シュウ酸水溶液をカチオン交換樹脂塔53に供給する。シュウ酸水溶液に含まれる金属陽イオンは、前述したように、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂で除去され、シュウ酸水溶液の金属陽イオン濃度が低下する。分解装置55内でシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解は継続される。シュウ酸、ヒドラジン及びギ酸のうちでは、ヒドラジンが先に分解され、次いでシュウ酸が分解され、ギ酸が最後に残る。この状態でシュウ酸の分解工程を終了する。
以上に述べた化学除染が終了したとき、浄化系配管18は、浄化系配管18の内面から放射性核種を含む酸化皮膜が除去されて図6に示す状態になっており、前述した残存するギ酸を含む水溶液が浄化系配管18の内面に接触している。
皮膜形成水溶液の温度調整を行う。弁69及び74を開けて弁70及び75を閉じる。循環ポンプ34及び35が駆動しているので、残存するギ酸を含む水溶液が循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。そのギ酸を含む水溶液が、加熱器33によって90℃まで加熱される。このギ酸水溶液(後述の皮膜形成水溶液)の温度は、60℃〜100℃(60℃以上100℃以下)の範囲にすることが望ましい。
さらに、弁64を開いて弁63を閉じる。これらの弁操作により、循環配管31内を流れているギ酸水溶液がフィルタ51に供給され、ギ酸水溶液に残留している微細な固形分がフィルタ51によって除去される。微細な固形分をフィルタ51によって除去しない場合には、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜を形成する際に、ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入したとき、その固形物の表面にもニッケル金属皮膜が形成され、注入したニッケルイオンが無駄に消費される。フィルタ51へのギ酸水溶液の供給は、このようなニッケルイオンの無駄な消費を防止するためである。
流量調節弁88を開くことにより、不活性ガスボンベ内の窒素ガスが、ガス供給管89を通して散気管87に供給される。この窒素ガスは、散気管87に形成された、窒素ガスを排出する多数の排出孔を通してサージタンク32内の水溶液中に多数の気泡となって噴出される。気泡の噴出によって、その水溶液中の溶存酸素が除去される。除去された溶存酸素は、その水溶液から空間86内に排出され、サージタンク32内の空間86に連絡された空気排出管(図示せず)を通してサージタンク32の外部に排出される。
ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS3)。弁63を開いて弁64を閉じ、フィルタ51への通水を停止する。ニッケルイオン注入装置36の弁40を開いて注入ポンプ38を駆動し、薬液タンク37内のギ酸ニッケル水溶液が、注入配管39を通して循環配管31内を流れる、残存するギ酸を含み酸素を含まない90℃の水溶液に注入される。このとき、ギ酸ニッケル水溶液の注入された循環配管31内を流れる循環水のニッケルイオン濃度が、例えば、200ppmになるように薬液タンク37内のギ酸ニッケル水溶液の濃度と注入量を調整する。このとき、ギ酸ニッケル水溶液が注入された循環配管31内を流れる循環水のpHは、4.0〜6.0(4.0以上6.0以下)の範囲になるように調整される。例えば、ギ酸ニッケル水溶液を注入された循環配管31内を流れる循環水のpH調整は、薬液タンク37内のギ酸ニッケルとギ酸の混合比率の変更及び薬液タンク37内で調整したギ酸ニッケル水溶液の注入量の変更により行われる。
ニッケルイオン及びギ酸を含みpHが4.0で90℃の水溶液、すなわち、皮膜形成水溶液(皮膜形成液)は、循環ポンプ34の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給される。この皮膜形成水溶液116が浄化系配管18の内面に接触することにより、ニッケル金属皮膜112が浄化系配管18の内面に形成される(図7参照)。このニッケル金属皮膜112の形成は、以下のようにして行われる。浄化系配管18の内面とpH4.0の皮膜形成水溶液116との接触によって、皮膜形成水溶液116に含まれるニッケルイオンと浄化系配管18内の鉄(II)イオンとの置換反応が加速されて浄化系配管18の内面に取り込まれるニッケルイオンの量が多くなり、浄化系配管18から皮膜形成水溶液116への鉄(II)イオンの溶出が増大する。浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンは、鉄(II)イオンの溶出に伴って発生した電子により還元されてニッケル金属になる。浄化系配管18から循環配管31に排出された皮膜形成水溶液116は、ニッケルイオン注入装置36からのギ酸ニッケル水溶液が注入された後、再び、浄化系配管18に供給される。このように、皮膜形成水溶液116が循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループを循環され、やがて、ニッケル金属皮膜112が、浄化系配管18の、皮膜形成水溶液116と接触する内面全体を均一に覆うようになる。このとき、浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属皮膜112は、例えば1平方センチメートル当たり50μg以上300μg以下(50〜300μg/cm2)の範囲内のニッケル金属を含む。
皮膜形成対象箇所に形成されたニッケル金属皮膜の形成量を計測する(ステップS4)。まず、重量差計測装置84を用いた、その炭素鋼部材94の重量差の計測について説明する。
皮膜形成水溶液116が浄化系配管18の内面に接触して浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜112が形成されている間、浄化系配管18に接続された弁ボンネット107内に設置された、重量差計測装置84の水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の表面もニッケルイオンを含む皮膜形成水溶液116に接触している。このため、浄化系配管18と同じ材質である炭素鋼部材94の表面にも、浄化系配管18の内面と同様に、ニッケル金属皮膜112が形成される。炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚みは、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚みと実質的に同じである。炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚みを計測することによって、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚みを知ることができる。
水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚み計測を、以下に詳細に説明する。浄化系配管18内及び弁ボンネット107内に皮膜形成水溶液116を供給している間、水晶振動子電極装置91の電源(図示せず)から1本の配線を通して水晶92に電圧を印加する、この電圧の印加によって水晶92が振動される。炭素鋼部材94も水晶92と一緒に振動する。水晶92及び炭素鋼部材94の振動数が、水晶92に接続されたもう1本の配線98を通して重量差計測装置84の重量差算出装置105に伝えられる。
ニッケル金属皮膜112の形成時には、水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出も同時に生じるため、ニッケルイオンと鉄(II)イオンの置換反応が進むにつれ、炭素鋼部材94の正味の重量は減少する。このため、炭素鋼部材94及び水晶92の振動数は、炭素鋼部材94が皮膜形成水溶液116に接触していないときの、炭素鋼部材94及び水晶92の振動数よりも増加する。これらの振動数の差が、炭素鋼部材94の表面へのニッケル金属皮膜112の形成による炭素鋼部材94の重量増加と炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出に伴う炭素鋼部材94の重量減少との差分に相当する。
配線98により水晶92及び炭素鋼部材94の振動数が伝えられる重量差算出装置105は、炭素鋼部材94と皮膜形成水溶液との接触が開始された時点から経過した、炭素鋼部材94と皮膜形成水溶液との或る接触時間における、炭素鋼部材94が皮膜形成水溶液116に接触しているときのその振動数と炭素鋼部材94が皮膜形成水溶液116に接触していないときのその振動数との差、すなわち、上記の或る接触時間における、炭素鋼部材94が皮膜形成水溶液116に接触しているときの炭素鋼部材94の重量と炭素鋼部材94が皮膜形成水溶液116に接触していないときの炭素鋼部材94の重量との差(重量差)を求める。求められたこの重量差には、ニッケル金属皮膜112の形成による炭素鋼部材94の重量増加及び炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出に伴う炭素鋼部材94の重量減少が反映されている。
重量差計測装置84を用いた、その炭素鋼部材94の重量差計測と同時に、鉄溶出量計測装置104を用いた、炭素鋼部材94から溶出する鉄(II)イオンの溶出量の計測を行う。浄化系配管18に皮膜形成水溶液116を供給している間、鉄溶出量計測装置104の電気化学測定装置83の直流電源101から配線99を通して水晶振動子電極装置91の炭素鋼部材94に、電圧が印加される。すなわち、直流電源101によって印可される電圧は、炭素鋼部材94と白金対極96の間に印可される。また、直流電源101により参照電極97に対して約20mVの電圧を印加することによって、作用極である炭素鋼部材94から、配線99を介して白金対極96に向かって電子が流れる。電気化学測定装置83に内蔵している電流計100を用いて、炭素鋼部材94と白金対極96の間に流れる電流を計測する。
電流計100で計測された電流の値は配線90を通して、また電圧計102で計測された電圧の値は配線119を通して、鉄溶出量計測装置104の鉄溶出量算出装置106に入力される。鉄溶出量算出装置106は、入力した電流の値及び電圧の値を用いて、印可した電圧の変化に対応する計測された電流の変化を示す特性図である電圧−電流図を作成する。さらに、鉄溶出量算出装置106は、作成した電圧−電流図における電圧と電流の関係を示す特性曲線に基づいて、その特性曲線の傾き、すなわち、分極抵抗値Sを求める。
そして、鉄溶出量算出装置106は、求められた分極抵抗値S及びStern−geary定数Kを式(2)に代入することによって、鉄(II)イオンが炭素鋼部材94から溶出しているときにおける電流値Icorrを算出する。鉄溶出量算出装置106は、算出された電流値Icorr、接触時間t、鉄の原子量a、鉄溶出の原子価n、及びファラデー定数Fを式(3)に代入し、或る接触時間tにおける、炭素鋼部材94からの鉄(II)イオンの溶出量mcを算出する。
さらに、重量差算出装置105で算出された或る接触時間における上記の重量差、及び鉄溶出量算出装置106で算出された或る接触時間における上記の鉄(II)イオンの溶出量mcが、皮膜厚み算出装置121に入力される。皮膜厚み算出装置121は、入力したその重量差及び鉄(II)イオンの溶出量mcを式(1)に代入して炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の量(重量)を算出する。皮膜厚み算出装置121は、算出されたニッケル金属皮膜112の量、すなわち、その重量をニッケル金属の密度で割ることにより炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の体積を求め、さらに、求められたニッケル金属皮膜112の体積を炭素鋼部材94の、皮膜形成水溶液に接触する面積で割ることにより炭素鋼部材94の表面に形成されたニッケル金属皮膜112の厚みを算出する。
ニッケル金属皮膜の形成が完了したかを判定する(ステップS5)。浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜112の形成が完了したかの判定は、皮膜厚み算出装置121で算出されたニッケル金属皮膜112の厚みとニッケル金属皮膜112の設定厚みを比較することによって行われる。ニッケル金属皮膜112の設定厚みは、浄化系配管18の内面に形成すべきニッケル金属皮膜112の厚みである。算出されたニッケル金属皮膜112の厚み(形成量)がニッケル金属皮膜112の設定厚み(設定形成量)よりも薄いと判定された場合(ステップS5の判定結果が「NO」の場合)には、ステップS3〜S5の各工程が繰り返される。算出されたニッケル金属皮膜112の厚みがニッケル金属皮膜112の設定厚みになったとき、ステップS5の判定結果が「YES」になり、注入ポンプ38が停止されて弁40が閉じられ、薬液タンク37から循環配管31へのギ酸ニッケル水溶液の注入が停止される。この結果、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜112の形成が終了する。
なお、設定厚みのニッケル金属皮膜112は、浄化系配管18の内面において、例えば、1平方センチメートル当たり50μgから300μg(50μg/cm2以上300μg/cm2以下)の範囲内のニッケル金属を含んでいる。本実施例におけるステップS5の判定結果が「YES」になった場合における、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112は、例えば、250μg/cm2のニッケル金属を含んでいる。
ギ酸を分解する(ステップS6)。弁69の開度を絞って弁70を開き、ニッケルイオン及びギ酸を含む皮膜形成水溶液116の一部を、配管71を通してカチオン交換樹脂塔53に導く。皮膜形成水溶液116の一部に含まれたニッケルイオンがカチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。弁75を開いて弁74の開度の一部を閉じることにより、カチオン交換樹脂塔53から排出されたギ酸を含む皮膜形成水溶液116及び弁69を通過したニッケルイオン及びギ酸を含む皮膜形成水溶液116が、配管76を通して分解装置55に導かれる。このとき、薬液タンク57内の過酸化水素が供給配管59及び配管76を通して分解装置55に供給される。皮膜形成水溶液116に含まれるギ酸は、分解装置55内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により二酸化炭素及び水に分解される。
ギ酸が分解された皮膜形成水溶液を浄化する(ステップS7)。ギ酸が分解された後、弁74を開いて弁75を閉じてギ酸濃度を低減させた皮膜形成水溶液116の分解装置55への供給を停止し、弁67を開いて弁66を閉じて弁72を開いて弁69の開度の一部を閉じる。このとき、弁70は閉じている。循環ポンプ35及び34は駆動している。浄化系配管18から循環配管31に戻されたギ酸濃度を低減させた皮膜形成水溶液116は、冷却器52で60℃になるまで冷却される。さらに、ギ酸濃度を低減させた60℃の皮膜形成水溶液116が混床樹脂塔54に導かれ、この皮膜形成水溶液116に残留しているニッケルイオン、他の陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔54内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されて除去される(第1浄化工程)。ギ酸濃度を低減させた60℃の皮膜形成水溶液を、上記の各イオンが実質的になくなるまで、循環配管31及び浄化系配管18を循環させる。各イオンが実質的になくなった皮膜形成水溶液は、実質的に60℃の水である。
錯イオン形成剤水溶液を注入する(ステップS8)。第1浄化工程が終了した後、弁69を開いて弁72を閉じ、弁79を開いてエゼクタ61に通水し、エゼクタ61によりホッパから錯イオン形成剤水溶液であるアンモニア水溶液を吸引する。このアンモニア水溶液が、サージタンク32内の、微量のFe3+を含む60℃の水に供給される。微量のFe3+、及びアンモニアを含む60℃の水溶液は、サージタンク32から、循環ポンプ34によって昇圧されて循環配管31により浄化系配管18へと供給される。アンモニアを含むこの60℃の水溶液は、構成される閉ループに沿って循環ポンプ35に到達し、循環ポンプ35で昇圧されてサージタンク32へと戻される。
白金イオン水溶液を注入する(ステップS9)。循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液は、加熱器33による加熱により60℃に保たれる。アンモニアの注入が終了した後、弁50を開いて注入ポンプ48を駆動する。循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液に、注入配管49を通して薬液タンク47内の白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O)の水溶液)が注入される。注入されるこの水溶液の白金イオンの濃度は、例えば、1ppmである。ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物の水溶液内では、白金がイオン状態になっている。白金イオン及びアンモニアを含む、60℃の水溶液が、循環ポンプ34及び35の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給され、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。
注入開始直後において、薬液タンク47から循環配管31と注入配管49の接続点を通して循環配管31に注入される、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液のその接続点での白金濃度が、設定濃度、例えば、1ppmとなるように、予め、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液内の白金イオンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜表面に所定量の白金を付着させるのに必要な、薬液タンク47に充填するNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の量を計算し、計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の量を薬液タンク47に充填する。計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ48の回転速度を制御し、薬液タンク47内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液を循環配管31内に注入する。
還元剤を注入する(ステップS10)。還元剤注入装置41の弁45を開いて注入ポンプ43を駆動し、薬液タンク42内の還元剤であるヒドラジンの水溶液が、注入配管44を通して循環配管31内を流れる、白金イオン及びアンモニアを含む60℃の水溶液に注入される。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、100ppmである。
ヒドラジン水溶液は、アンモニア及びNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む60℃の水溶液がヒドラジン水溶液の注入点である注入配管44と循環配管31の接続点に到達した以降に循環配管31に注入される。この場合には、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃の水溶液が、循環配管31から浄化系配管18に供給される。しかし、より好ましくは、薬液タンク47内に充填された所定量のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液を全て循環配管31内に注入し終わった直後にヒドラジン水溶液を循環配管31に注入することが望ましい。この場合には、アンモニア及び白金イオンを含む60℃の水溶液が循環配管31から浄化系配管18に供給され、白金イオン水溶液の循環配管31への注入が終了した後では、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃の水溶液117(図8参照)が循環配管31から浄化系配管18に供給される。
前者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、ヒドラジンにより白金イオンを白金にする還元反応が、最初に、循環配管31内を流れる、ヒドラジン及び白金イオンを含む水溶液内で生じるのに対して、後者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、既に、白金イオンが浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の表面に吸着されており、この吸着された白金イオンがヒドラジンにより還元されるので、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112表面への白金115の付着量がさらに増加する(図8参照)。
ヒドラジン水溶液の注入開始直後において、薬液タンク42から循環配管31と注入配管44の接続点を通して注入されるヒドラジン水溶液のその接続点でのヒドラジン濃度が、設定濃度、例えば、100ppmとなるように、予め、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる60℃の白金イオンを含む水溶液内のヒドラジンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112表面に吸着された白金イオンを白金115に還元するために必要な、薬液タンク42に充填するヒドラジン水溶液の量を計算し、計算されたヒドラジン水溶液の量を薬液タンク42に充填する。計算されたヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ43の回転速度を制御し、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液を循環配管31内に注入する。
なお、薬液タンク47内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液(白金イオンを含む水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ48を停止して弁50を閉じる。これにより、白金イオンを含む水溶液の循環配管31への注入が停止される。また、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液(還元剤水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ43を停止して弁45を閉じる。これにより、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入が停止される。
ニッケル金属皮膜112の表面に吸着された白金イオンが注入されたヒドラジンによって還元されて白金115となるため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の表面に白金115が付着する(図8参照)。
本実施例では、ニッケル金属皮膜112と接触する水溶液117に含まれたアンモニアがこの水溶液117に含まれる微量の鉄イオン(Fe3+)と反応し、鉄−アンモニア錯イオンを生成する。このため、水溶液117中の鉄イオン濃度が減少し、水溶液117に含まれる鉄イオンが水酸化鉄及びマグネタイトとして析出しなくなる。水溶液117に含まれる白金イオンが、白金として水酸化鉄及びマグネタイトに付着することがなくなり、ニッケル金属皮膜112上に付着する白金の量が増加する。
白金の付着が完了したかを判定する(ステップS10)。白金イオン水溶液及び還元剤水溶液の注入からの経過時間が所定時間になったとき、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の表面への所定量の白金115の付着が完了したと判定する。その経過時間が所定時間に到達しないときには、ステップS9〜S11の各工程が繰り返される。
浄化系配管18及び循環配管31内に残留する水溶液を浄化する(ステップS12)。浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の表面への白金115の付着が完了したと判定された後、弁72を開いて弁69の開度の一部を閉じ、循環ポンプ35で昇圧された、白金イオン及びヒドラジン、アンモニアを含む60℃の水溶液117を、混床樹脂塔54に供給する。その水溶液117に含まれる白金イオン、他の金属陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)、ヒドラジン、アンモニア及びOH基が、混床樹脂塔54内のイオン交換樹脂に吸着され、その水溶液117から除去される(第2浄化工程)。
廃液を処理する(ステップS13)。第2浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管31と廃液処理装置(図示せず)を接続する。第2浄化工程の終了後に、浄化系配管18及び循環配管31内に残存する、放射性廃液である水溶液は、そのポンプを駆動して循環配管31から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。浄化系配管18及び循環配管31内の水溶液が排出された後、洗浄水を浄化系配管18及び循環配管31内に供給し、循環ポンプ34,35を駆動してこれらの配管内を洗浄する。洗浄終了後、浄化系配管18及び循環配管31内の洗浄水を、上記の廃液処理装置に排出する。
以上により、浄化系配管18の、非再生熱交換器21よりも上流の弁23と弁25の間の部分の内面へのニッケル金属皮膜112の形成、及びニッケル金属皮膜112上への白金115の付着の各工程が終了する。なお、浄化系配管18の、弁25よりも下流の部分の内面には、白金115が付着したニッケル金属皮膜112が形成されていない。
皮膜形成装置を配管系から除去する(ステップS14)。ステップS1〜S13の各工程が実施された後、皮膜形成装置30が浄化系配管18から取り外され、浄化系配管18が復旧される。
原子力プラントを起動させる(ステップS15)。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、白金115を付着しているニッケル金属皮膜112が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1が起動される。
130℃以上の炉水を、白金が付着されたニッケル金属皮膜に接触させる(ステップS16)。BWRプラント1が起動されたとき、RPV3内のダウンカマに存在する炉水は、前述したように、再循環系配管6及びジェットポンプ5を通って炉心4に供給される。炉心から吐出された炉水は、ダウンカマに戻される。ダウンカマ内の炉水は、再循環系配管6を経由して浄化系配管18内に流入し、やがて、給水配管11に流入してRPV3内に戻される。
炉心4から制御棒(図示せず)が引き抜かれて炉心4が未臨界状態から臨界状態になり、炉心4内の炉水が燃料棒内の核燃料物質の核分裂で生じる熱で加熱される。炉心4では蒸気が発生していない。さらに、制御棒が炉心4から引き抜かれ、原子炉2の昇温昇圧過程において、RPV3内の圧力が定格圧力まで上昇され、その核分裂で生じる熱によって炉水が加熱されてRPV3内の炉水の温度が定格温度(280℃)になる。RPV3内の圧力が定格圧力になり、炉水温度が定格温度に上昇した後、炉心4からのさらなる制御棒の引き抜き、及び炉心4に供給される炉水の流量増加により、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで上昇される。定格出力を維持した、BWRプラント1の定格運転が、その運転サイクルの終了まで継続される。原子炉出力が、例えば、10%出力まで上昇したとき、炉心4で発生した蒸気が主蒸気配管8を通してタービン9に供給され、発電が開始される。
炉水には、酸素及び過酸化水素が含まれている。酸素及び過酸化水素は、RPV3内で炉水の放射線分解により生成される。RPV3内の、酸素を含む炉水118が、浄化系ポンプ19が駆動されている状態で、再循環系配管6から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成されている、白金115が付着したニッケル金属皮膜112に接触する(図9参照)。前述の核分裂で生じる熱による炉水118の加熱により、このニッケル金属皮膜112に接触する炉水118の温度は、上昇し、やがて、130℃以上になり、最終的には定格出力時の280℃まで上昇する。
この炉水118の温度は、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21の前後で大きく異なる。RPV3内の炉水の温度が280℃であるとき、浄化系配管18の、再生熱交換器20よりも上流の部分には、約280℃の炉水118が流れる。再生熱交換器20での熱交換の結果、再生熱交換器20から弁25側に流出する炉水118の温度は200℃から150℃程度の範囲に低下する。さらに、非再生熱交換器21において、炉水118は、50℃から室温程度までの範囲の温度に低下し、この温度範囲内で、イオン交換樹脂を含む炉水浄化装置22に供給される。炉水浄化装置22から流出した炉水118は、給水として用いられるため、再生熱交換器20で150℃から200℃程度の範囲に加熱された後、給水配管11を流れる給水に合流する。
BWRプラント1が起動されてRPV3内の圧力が定格圧力(このときの炉水の温度は280℃)まで上昇する期間において、浄化系配管18の、弁23と再生熱交換器20の間の部分を流れる炉水118、浄化系配管18の、再生熱交換器20と弁25の間の部分を流れる炉水118、及び浄化系配管18の再生熱交換器20よりも給水配管11側の部分を流れる炉水118は、時間のずれはあるが、130℃以上の温度になる。原子炉2の昇温昇圧過程において、RPV3内の圧力が上昇するに伴って、RPV3内の炉水118の温度は130℃を超えてより高い温度まで上昇する。
このため、弁23と弁25の間の浄化系配管18の内面に形成された、白金115が付着したニッケル金属皮膜112の表面が、前述の130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度で酸素を含む炉水118と接触することによって、浄化系配管18及びそのニッケル金属皮膜112が炉水118と同じ温度に加熱される。炉水118に含まれる酸素が、弁23と弁25の間において浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112内に移行し、炭素鋼部材である浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜112内に移行する(図10参照)。130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温環境では、炉水118に含まれる酸素及び浄化系配管18からのFe2+が、ニッケル金属皮膜内に移行し易くなる。なお、炉水118の酸素濃度が低い場合には、炉水118の水分子が鉄の腐食によって分解されて酸素が生じ、この酸素が前述の炉水118に含まれる酸素と同じ働きをする。ニッケル金属皮膜112に付着した白金115の作用による、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜112のそれぞれの腐食電位の低下、及び130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温環境の形成により、ニッケル金属皮膜112がニッケル金属皮膜112内に移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライト(NiFe24)が生成される。
昇温昇圧工程において、炉水118の温度が130℃になる前の段階から、復水ポンプ12と復水浄化装置13の間で給水配管11に接続される水素注入装置(図示せず)により給水配管11内を流れる給水に水素が注入される。この水素注入は、昇温昇圧工程、原子炉出力の上昇工程及びBWRプラント1の定格運転時において実施される。水素を含む給水が原子炉圧力容器3に供給されるため、水素は、結局、炉水に注入されることになる。前述した白金115の作用による、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜112のそれぞれの腐食電位の低下は、炉水118に含まれる酸素と注入された水素が白金115の作用によって反応して水になることによって生じる。
安定なニッケルフェライトが生成される際において、フェライト構造へのニッケルと鉄の取り込まれ易さは白金(貴金属)115の影響を受け、白金115が存在する場合は鉄よりもニッケルが取り込まれ易くなるため、Ni1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライトが生成される。そして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112は安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜113に変換され、弁23と弁25の間における浄化系配管18の内面が、表面に白金115が付着された安定なニッケルフェライト皮膜113で覆われる(図11参照)。 浄化系配管18の内面を覆ったニッケル金属皮膜112から、130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温の環境下において上記のように生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト(NiFe24)は、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.34皮膜のように水中に溶出しなく安定であり、母材である炭素鋼、すなわち、浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制することができる。
本実施例によれば、皮膜形成水溶液116を浄化系配管18の内面に接触させてこの内面にニッケル金属皮膜112を形成している際に、重量差計測装置84の水晶振動子電極装置91の、その浄化系配管18と同じ材質である炭素鋼部材94の表面(皮膜形成水溶液116と接触)にもニッケル金属皮膜112が形成される。このような炭素鋼部材94の、皮膜形成水溶液116に接触する前の重量とその炭素鋼部材94の、皮膜形成水溶液116に接触した後の重量との重量差、及びその炭素鋼部材94から皮膜形成水溶液116への鉄(II)イオンの溶出量を用いることによって、炭素鋼部材94の表面、すなわち、浄化系配管18の内面に形成されるニッケル金属の形成量(ニッケル金属の厚み)を精度良く計測することができる。また、設定形成量のニッケル金属皮膜112が浄化系配管18の内面に形成されたことを、容易に確認できる。
このような本実施例は、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜の形成の終了、すなわち、皮膜形成水溶液116へのギ酸ニッケル水溶液の注入停止、すなわち、ニッケルイオンの注入停止を適切に行うことができる。これにより、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜の形成を容易に終了させることができる。
本実施例は、浄化系配管18の内面に対する還元除染が終了した後にその内面へのニッケル金属皮膜112の形成を行っているので、ニッケル金属皮膜112が浄化系配管18の内面からはがれることを防止できる。
本実施例によれば、ニッケル金属皮膜112に付着した白金115の作用、及び130℃以上280℃以下の高温環境下で、前述したように、ニッケル金属皮膜112から生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトの皮膜113は、BWRプラント1の運転中においても、付着した白金115の作用により炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜である。このように生成された、付着した白金115の作用によっても炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜113は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.34皮膜よりも長期に亘って浄化系配管18の腐食を抑制することができる。具体的には、浄化系配管18の内面に形成されたその安定なニッケルフェライト皮膜113は、付着した白金115の作用によって溶出することがなく、複数の運転サイクル、例えば、5つの運転サイクル(例えば、5年間)に亘って浄化系配管18の内面を覆うことができる。このように、安定なニッケルフェライト皮膜113が長期に亘って浄化系配管18の内面を覆うことができるため、浄化系配管18は長期に亘って放射性核種の付着が抑制される。
さらに、本実施例では、錯イオン形成剤であるアンモニアを皮膜形成水溶液116に注入しているため、化学除染により浄化系配管18の内面の酸化被膜の溶解によって生じたFe(III)イオンが注入されたアンモニアと反応し、Fe(III)イオンのアンモニア錯イオンが生成される。Fe(III)イオンのアンモニア錯イオンの溶解度がFe(III)イオンの溶解度よりも増大する。この結果、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の表面に白金115を付着させるために、Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を含む水溶液及びヒドラジン(還元剤)がアンモニアを含む皮膜形成水溶液117に注入されたとき、この皮膜形成水溶液117のpHがそのヒドラジンの作用により上昇したとしても、皮膜形成水溶液内のFe(III)イオンが水酸化鉄及びマグネタイトになって析出することを著しく抑制することができる。したがって、皮膜形成水溶液117に含まれている白金イオンがニッケル金属皮膜112の表面に吸着されてヒドラジンの作用によって白金115としてニッケル金属皮膜112の表面に付着する量が著しく増大し、ニッケル金属皮膜112の表面に所定量の白金115が付着するのに要する時間が短縮される。
本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112は、浄化系配管18への白金の付着に要する時間を短縮させるだけでなく、付着した白金115の作用と相俟って、浄化系配管18の内面への、付着した白金によっても炉水に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜113の形成に貢献する。そのニッケルフェライト皮膜113によって、次の運転サイクルにおけるBWRプラントの起動後において、浄化系配管18内を流れる炉水が浄化系配管18の母材と接触することが遮られる。このため、炉水による浄化系配管18の腐食が抑制され、さらに、炉水に含まれる放射性核種の浄化系配管18の母材への取り込みが生じない。
本発明の好適な他の実施例である実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図2、図3及び図15を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、BWRプラントの、炭素鋼製の浄化系配管に適用される。
本実施例では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法におけるステップS1〜S16の各工程及び新たなステップS17の工程が実施される。ステップS17の工程は、ステップS3の工程とステップS4の工程の間で実施される。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、ステップS1〜S3、S17及びS4〜S7の各工程を実施する原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法を含んでいる。
ステップS1及びステップS2の各工程が実施された後、ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS3)。実施例1と同様に、ギ酸ニッケル水溶液が、ニッケルイオン注入装置36の薬液タンク37から循環配管31内を流れる、残存するギ酸を含む90℃の水溶液に注入される。その水溶液へのギ酸ニッケル水溶液の注入により、ニッケルイオン及びギ酸を含みpHが4.0で90℃の皮膜形成水溶液116が循環配管31内で生成され、この皮膜形成水溶液116が、循環配管31から浄化系配管18に供給される。浄化系配管18に供給される皮膜形成水溶液116のニッケルイオン濃度は、例えば、200ppmである。
皮膜形成水溶液116が浄化系配管18の内面に接触することにより、皮膜形成水溶液116に含まれるニッケルイオンと浄化系配管18内の鉄(II)イオンとの置換反応が生じてニッケルイオンが浄化系配管18の内面に取り込まれる。このとき、浄化系配管18から皮膜形成水溶液116への鉄(II)イオンが溶出する。浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンは、鉄(II)イオンの溶出に伴って発生した電子により還元されてニッケル金属になる。やがて、浄化系配管18の内面を覆うニッケル金属皮膜112が、浄化系配管18の内面に形成される。浄化系配管18の内面全体がニッケル金属皮膜112で覆われたとき、浄化系配管18から皮膜形成水溶液116への鉄(II)イオンの溶出が停止され、鉄(II)イオンの溶出に伴う電子の生成も行われなくなる。そして、ニッケル金属皮膜112の表面に付着したニッケルイオンのニッケル金属への変換も停止される。
還元剤を注入する(ステップS17)。浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜112の形成量は、実施例1と同様に、水晶振動子電極装置91、重量差計測装置84、鉄溶出量計測装置104、皮膜厚み算出装置121及び弁ボンネット107を有するニッケル金属皮膜厚み計測装置(皮膜形成量計測装置)82によって計測される。浄化系配管18の内面全体がニッケル金属皮膜112で覆われたときNiおけるニッケル金属皮膜112の厚みを、ニッケル金属皮膜112の第1設定厚み(ニッケル金属皮膜112の第1設定形成量)とする。
ニッケル金属皮膜厚み計測装置82によって計測された、浄化系配管18の内面のニッケル金属皮膜112の厚みが第1設定厚みになったとき、還元剤であるヒドラジンの水溶液が、還元剤注入装置41から循環配管31内を流れる皮膜形成水溶液116に注入される。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、450ppmである。皮膜形成水溶液116は、ヒドラジンの注入により、ニッケルイオン及びヒドラジンを含みpHが4.0以上6.0以下の範囲内にある皮膜形成水溶液116、具体的には、ニッケルイオン、ギ酸及びヒドラジンを含みpHが6で90℃の皮膜形成水溶液116になる。
浄化系配管18に供給された、ヒドラジンを含むその皮膜形成水溶液116は、ニッケル金属皮膜112の表面に接触する。皮膜形成水溶液116Aに含まれたニッケルイオンがニッケル金属皮膜112の表面に吸着され、このニッケルイオンがヒドラジンにより還元されてニッケル金属になる。皮膜形成水溶液116Aが循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環するため、ニッケル金属皮膜112の表面に付着するニッケル金属が増加し、浄化系配管18の内面に形成されるニッケル金属皮膜112の厚みが増加する。厚み(形成量)が増加するニッケル金属皮膜112の厚み(形成量)は、ニッケル金属皮膜厚み計測装置82によって計測される。
ニッケル金属皮膜厚み計測装置82によって計測された、浄化系配管18の内面上のニッケル金属皮膜112の厚みに基づいて、ニッケル金属皮膜112の形成が完了したかが判定される(ステップS5)。ヒドラジンの作用によって増加したニッケル金属皮膜112の厚みが、第1設定厚みよりも厚い第2設定厚み(第1設定形成量よりも多い第2設定形成量)になったとき、ニッケル金属皮膜112の形成が完了したと判定される(ステップS5の判定は「YES」)。ニッケル金属皮膜112の厚みが、第1設定厚みよりも厚いが第2設定厚みよりも薄いとき、ステップS5の判定が「NO」となり、ステップS5の判定が「YES」になるまで、ステップS3〜S5の各工程が繰り返される。本実施例では、ステップS5の判定が「YES」になったとき、浄化系配管18の内面全体を覆うニッケル金属皮膜112は、1平方センチメートル当たり250μg/cm2のニッケル金属を含んでいる。
ステップS5の判定が「YES」になったとき、実施例1と同様に、ステップS6〜S16の各工程が実施される。このため、本実施例でも、浄化系配管18の内面に、この内面を覆う安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜113が形成される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、還元剤を含む皮膜形成水溶液を用いるため、還元剤の作用により、浄化系配管18の内面に形成されるニッケル金属皮膜112の厚みを、実施例1において浄化系配管18の内面に形成されるニッケル金属皮膜112の厚みよりも厚くすることができる。このため、浄化系配管18の内面を覆う安定なニッケルフェライト皮膜の厚みも厚くなる。
本実施例では、浄化系配管18の内面全体がニッケル金属皮膜によって覆われた後に、還元剤(例えば、ヒドラジン)を皮膜形成水溶液に注入しているが、ギ酸ニッケル水溶液の、循環配管31内を流れる残存するギ酸を含む90℃の水溶液への注入時に、還元剤水溶液、例えば、ヒドラジン水溶液をその水溶液に注入して、例えば、ニッケルイオン、ギ酸及びヒドラジンを含みpHが4.0で90℃の皮膜形成水溶液116を循環配管31内で生成してもよい。このとき、生成された、ニッケルイオン、ギ酸及びヒドラジンを含みpHが4.0で90℃の皮膜形成水溶液116が、浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜112が形成される。
実施例1及び2は、加圧水型原子力プラントにおいて原子炉圧力容器に連絡される炭素鋼製の配管に対して適用することができる。加圧水型原子力プラントの原子炉圧力容器内の炉水の温度は、沸騰水型原子力プラントにおける原子炉圧力容器3内の炉水の温度よりも高くなる。
1…沸騰水型原子力発電プラント、3…原子炉圧力容器、4…炉心、6…再循環系配管、9…タービン、11…給水配管、18…浄化系配管、30…皮膜形成装置、31…循環配管、32…サージタンク、33…加熱器、34,35…循環ポンプ、36…ニッケルイオン注入装置、37,42,47,57…薬液タンク、38,43,48…注入ポンプ、41…還元剤注入装置、46…白金イオン注入装置、52…冷却器、53…カチオン交換樹脂塔、54…混床樹脂塔、55…分解装置、56…酸化剤供給装置、58…供給ポンプ、82…ニッケル金属皮膜厚み計測装置(皮膜形成量計測装置)、83…電気化学測定装置、84…重量差計測装置、91…水晶振動子電極装置、92…水晶、94…炭素鋼部材、95…シール部材、96…白金対極、97…参照電極、104…鉄溶出量計測装置、105…重量差算出装置、106…鉄溶出量算出装置、107…弁ボンネット、112…ニッケル金属皮膜、113…ニッケルフェライト皮膜、115…白金、116…皮膜形成水溶液、121…皮膜厚み算出装置。

Claims (15)

  1. ニッケルイオンを含む皮膜形成液を、原子力プラントの炭素鋼部材の、炉水と接する第1表面に接触させて、この第1表面に、この第1表面を覆うニッケル金属皮膜を形成し、
    前記原子力プラントの前記炭素鋼部材と同じ材質であって前記皮膜形成液に接触する金属部材を有する重量差計測装置の前記金属部材の、前記皮膜形成液に接触する前の第1重量と前記金属部材の前記皮膜形成液に接触した後の第2重量との差である重量差を求め、
    前記金属部材から前記皮膜形成液への鉄溶出量を求め、
    前記重量差及び前記鉄溶出量に基づいて、前記第1表面に形成される前記ニッケル金属皮膜の形成量を求め、
    求められた前記ニッケル金属皮膜の形成量に基づいて、前記ニッケル金属皮膜の形成終了を判定し、
    前記ニッケル金属皮膜の形成、及び前記ニッケル金属皮膜の形成完了の判定は、前記原子力プラントの運転停止後で前記原子力プラントの起動前に行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  2. 前記ニッケル金属皮膜の形成は、前記第1表面に対して還元除染が実施された後に行われる請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  3. 前記ニッケル金属皮膜の形成終了は、前記ニッケル金属皮膜の形成量が設定形成量になったとき、前記皮膜形成液へのニッケルイオンの注入を停止することによって行われる請求項1または2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  4. 前記炭素鋼部材の第1表面への前記ニッケル金属皮膜の形成は、前記皮膜形成液の前記第1表面への接触による前記炭素鋼部材からの鉄イオンの溶出に伴って発生する電子、及び前記皮膜形成液に注入される還元剤のいずれかの作用によって、前記皮膜形成液から前記炭素鋼部材に取り込まれた前記ニッケルイオンがニッケル金属に変換されることによって行われる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  5. 前記金属部材を有する水晶振動子電極装置、及び前記水晶振動子電極装置からの第1出力信号を入力して前記重量差を求める重量差算出装置を含む重量差算出装置を用いる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  6. 前記水晶振動子電極装置として、前記金属部材、前記金属部材が表面に設置された水晶、前記水晶を保持する保持部材及びシール部材を有し、前記シール部材が、前記水晶の表面のうち、前記金属部材及び前記保持部材に接触している表面以外の表面の全面を覆っている水晶振動子電極装置を用いる請求項5に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  7. 前記金属部材を作用電極として用いる電気化学測定装置、及び前記電気化学測定装置からの第2出力信号を入力して前記鉄溶出量を求める鉄溶出量算出装置を含む鉄溶出量計測装置を用いる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  8. 前記電気化学測定装置として、前記皮膜形成液と接触する対極及び参照電極を有して前記金属部材を前記作用電極として用いる電気化学装置を用い、前記対極と前記金属部材の間に流れる電流が計測され、計測された前記電流が前記鉄溶出量算出装置に入力される請求項7に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  9. 前記ニッケル金属皮膜の形成が、原子炉圧力容器に連絡される、前記炭素鋼部材である第1配管に、第2配管を通して前記皮膜形成液を供給し、前記皮膜形成液を、前記第1表面である前記第1配管の内面に接触させることにより行われる請求項1ないし8のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法。
  10. 請求項1ないし8のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法を実施し、
    形成された前記ニッケル金属皮膜の第2表面に貴金属を付着させ、
    酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を前記貴金属が付着した前記ニッケル金属皮膜の第2表面に接触させ、
    前記貴金属の付着は、前記原子力プラントの運転停止後で前記原子力プラントの起動前に行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  11. 前記ニッケル金属皮膜の第2表面への前記貴金属の付着は、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を前記ニッケル金属皮膜の第2表面に接触させることにより行われる請求項10に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  12. 請求項9に記載の原子力プラントの炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜の形成方法を実施し、
    形成された前記ニッケル金属皮膜の第2表面に貴金属を付着させ、
    酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を前記貴金属が付着した前記ニッケル金属皮膜の第2表面に接触させ、
    前記貴金属の付着は、前記原子力プラントの運転停止後で前記原子力プラントの起動前に行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  13. 前記ニッケル金属皮膜の第2表面への前記貴金属の付着は、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を前記第2配管から前記第1配管に供給して、この水溶液を、前記第1配管の内面に形成された前記ニッケル金属皮膜の第2表面に接触させることにより行われる請求項12に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  14. 前記貴金属が付着した前記ニッケル金属皮膜への、130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度になっている前記水の接触は、前記原子力プラントが起動した後に行われる請求項13に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  15. 130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度になっている前記水として、前記原子力プラントの起動後における、原子炉圧力容器内の炉水を用いる請求項14に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
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