JP2019164059A - 原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法 - Google Patents

原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法 Download PDF

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伊藤  剛
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Abstract

【課題】炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制効果をより長い期間に亘って持続できる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を提供する。【解決手段】BWRプラントの炭素鋼製の浄化系配管に皮膜形成装置を接続する(S1)。浄化系配管の還元除染(S2)後に、シュウ酸水溶液にギ酸ニッケル水溶液を注入し(S3)、生成された、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液を用いて浄化系配管の内面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する。ギ酸及びシュウ酸を分解した(S5)後、白金イオンの注入(S8)及び還元剤の注入(S9)により生成された、白金イオン及び還元剤を含む水溶液を、シュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させてこの表面に白金を付着させる。浄化系配管から皮膜形成装置を取り外す(S13)、原子力プラントを起動して(S14)。130℃以上の酸素を含む炉水を白金が付着されたその皮膜に接触させる。【選択図】図1

Description

本発明は、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に関する。
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(以下、RPVという)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。炉水とは、RPV内に存在する冷却水をいう。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の炉水と接する表面で発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などが使用されている。また、低合金鋼製のRPVは、内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種になる酸化物の形態で燃料棒表面に付着した一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出し、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出される。炉水中の放射性核種は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、そこで除去されなかった放射性核種は炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。この結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
運転を経験した原子力プラントの構成部材、例えば、配管の炉水と接触する内面に形成された、コバルト60やコバルト58等の放射性核種を含む酸化被膜を、化学薬品を用いた溶解により除去する化学除染法が提案されている(特開2000−105295号公報)。
また、配管への放射性核種の付着を低減する方法が様々検討されている。例えば、原子力プラントの構成部材の表面への放射性核種の付着抑制のために、特開平8−220293号公報は、炉水に亜鉛及びニッケル等の金属イオンを注入し、構成部材の表面に亜鉛及びニッケルを付着させることを記載している。
化学除染後の原子力プラント構成部材表面に、フェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜を形成することによって、プラントの運転後においてその構成部材表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報に提案されている。さらに、特開2006−38483号公報には、構成部材の表面にマグネタイト皮膜を形成した後、原子力プラントを起動し、貴金属を注入した炉水をそのマグネタイト皮膜に接触させてマグネタイト皮膜上に貴金属を付着させることが記載されている(図17及び図18参照)。
さらに、特開2011−32551号公報は、BWRプラントの炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成し、このニッケル金属皮膜の表面にニッケルフェライト皮膜を形成し、さらに、BWRプラントの運転中において、酸素を含む150℃以上の水をそのニッケルフェライト皮膜の表面に接触させて上記のニッケル金属皮膜をニッケルフェライト皮膜に変換させる。
特開2014―182020号公報は、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成し、酸素を含む200℃以上の水をこのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させて、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させることを記載する。
特開2015−158486号公報は、BWRプラントの構成部材である再循環系配管の内面に貴金属を付着させるとき、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を、再循環系配管の内面に接触させることを記載している。
特開2000−105295号公報 特開平8−220293号公報 特開2006−38483号公報 特開2011−32551号公報 特開2014―182020号公報 特開2015−158486号公報
特開2006−38483号公報に記載されたように、原子力プラントの構造部材の表面に、フェライト皮膜の一種であるマグネタイト皮膜を形成し、炉水中の溶存酸素と水素注入により炉水に注入された水素を反応させて水を生成して溶存酸素を低減させる触媒として機能する貴金属を、そのマグネタイト皮膜上に付着させた場合、後述するように、発明者らは、原子力プラントの運転中において、白金の作用によりマグネタイト皮膜が溶出するという現象が生じることを見出した。また、特開2014―182020号公報に記載されたように、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成し、酸素を含む200℃以上の水をこのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることにより、シュウ酸ニッケル皮膜から変換されたニッケルフェライト皮膜も、この皮膜上に貴金属を付着させた場合にも、特開2006−38483号公報に記載された、貴金属が表面に付着されたマグネタイト皮膜と同様に、そのニッケルフェライト皮膜が溶出することを、発明者らは、新たに見出した。
本発明の目的は、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制効果をより長い期間に亘って持続させることができる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの炭素鋼部材への還元除染液を用いた還元除染、及びこの還元除染の終了後に実施される、その還元除染液に含まれるシュウ酸の分解のいずれかの工程が終了した後、ニッケルイオン及びシュウ酸を含む皮膜形成液を、その炭素鋼部材の第1表面に接触させて、この第1表面に、この第1表面を覆う、シュウ酸ニッケル皮膜を含むシュウ酸ニッケル皮膜部を形成し、
貴金属をそのシュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に付着させ、
酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を貴金属が付着したそのシュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に接触させ、
そのシュウ酸ニッケル皮膜部の形成及びそのシュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面への貴金属の付着が、原子力プラントの運転停止後で原子力プラントの起動前に行われる。
酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水に接触するシュウ酸ニッケル皮膜部及び炭素鋼部材の腐食電位が、シュウ酸ニッケル皮膜に付着している貴金属の作用によって低下する。このような腐食電位の低下、及び酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水の、そのシュウ酸ニッケル皮膜部への接触による、炭素鋼部材及びシュウ酸ニッケル皮膜部での130℃以上330℃以下の温度範囲の高温環境の形成によって、そのシュウ酸ニッケル皮膜部が、付着した貴金属の作用によっても、原子力プラントの接触する冷却水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜に変換される。炭素鋼部材の表面を覆うこのような安定なニッケルフェライト皮膜は、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制効果をより長い期間に亘って持続させることができる。
好ましくは、
本発明によれば、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制効果をより長い期間に亘って持続させることができる。
本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力発電プラントの浄化系配管に適用される実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置を沸騰水型原子力発電プラントの浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。 図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法が開始される前における、沸騰水型原子力発電プラントの浄化系配管の断面図である。 図1に示されるプ原子力ラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により、シュウ酸ニッケル皮膜が浄化系配管の内面に形成された状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により、浄化系配管の内面に形成された、シュウ酸ニッケル皮膜の表面に貴金属を付着させた状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、浄化系配管の内面に形成されて白金が付着した、シュウ酸ニッケル皮膜に酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲の水を接触させる状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、130℃以上330℃以下の温度範囲の水に含まれる酸素、及び浄化系配管内のFe2+が、浄化系配管の内面に形成されて白金が付着した、シュウ酸ニッケル皮膜に移行する状態を示す説明図である。 図1に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において、浄化系配管の内面に形成された、シュウ酸ニッケル皮膜が、安定なニッケルフェライト皮膜に変換された状態を示す説明図である。 炭素鋼試験片A(表面に皮膜を形成しない)、炭素鋼試験片B(シュウ酸ニッケル皮膜を表面に形成し、シュウ酸ニッケル皮膜上に白金を付着していない)及び炭素鋼試験片C(シュウ酸ニッケル皮膜を表面に形成し、シュウ酸ニッケル皮膜上に白金を付着)のそれぞれを用いたCo−60付着試験後における、それらの炭素鋼試験片のX線回折分析結果を示す説明図である。 60Coを含む模擬炉水に浸漬した各種の炭素鋼製の試験片への60Coの付着結果を示した説明図である。 本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に適用される実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に適用される実施例3の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図13に示す原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法において浄化系配管の内面に形成されたニッケル金属皮膜を安定なニッケルフェライト皮膜に変換するために浄化系配管に接続される加熱システムの構成図である。 本発明の他の実施例である、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に適用される実施例4の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図15に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により浄化系配管の内面に、シュウ酸ニッケル皮膜が形成された状態を示す説明図である。 図15に示される原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法により浄化系配管の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜の表面に貴金属を付着させた状態を示す説明図である。
発明者らは、原子力プラントの運転条件を模擬した水質環境で原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種、例えば、Co−60の付着に及ぼす水質及び構造材料の影響を調べていた。その結果、炭素鋼部材の表面へのCo−60の付着は炭素鋼部材の表面に形成される酸化皮膜にCo−60が取り込まれるためであり、このCo−60の取り込みを抑制するためには酸化皮膜形成の元となる炭素鋼部材の腐食を抑制すれば良いことが分かってきた。還元除染後に還元除染液が残存する条件下で、放射性核種付着抑制効果のある皮膜を炭素鋼部材の表面に形成するため、発明者らは、種々の詳細な検討及び実験を行った。
発明者らは、特に、近年、応力腐食割れ対策として導入が進んでいる貴金属注入技術と前述のフェライト皮膜形成技術の同時成立性について検討した。フェライト皮膜形成技術としては、前述の特開2006−38483号公報に記載されるように、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を含む、60℃〜100℃の低い温度範囲の皮膜形成液を原子力プラントの構成部材の表面に接触させて構成部材の表面にマグネタイト皮膜を形成するものがある。このマグネタイト皮膜の炉水と接触する表面に貴金属を付着させてその影響を調べたところ、発明者らは、原子力プラントの、水素注入模擬条件での運転中において、マグネタイト皮膜が付着された貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。また、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成されたニッケルフェライト皮膜上に貴金属を付着させた場合においても、発明者らは、原子力プラントの水素注入模擬条件での運転中においてニッケルフェライト皮膜が付着された貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。
なお、炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表面への貴金属の付着には、下記の第1ケース及び第2ケースの2つのケースがある。第1のケースでは、炉水中の溶存酸素濃度を低減するために原子力プラントの運転中に炉水に注入された貴金属が、炭素鋼部材上に形成されたフェライト皮膜の表面に付着する。第2のケースでは、特開2006−38483号公報に記載されるように、原子力プラントの停止中に、構成部材上に形成されたフェライト皮膜表面に貴金属イオンを含む溶液を接触させ、そのフェライト皮膜表面に貴金属を付着させる。
炭素鋼部材の表面に形成されたフェライト皮膜のそのような溶出は、やがて、炭素鋼部材上のフェライト皮膜の消失をもたらし、フェライト皮膜が消失した後、すなわち、運転サイクルの末期において、フェライト皮膜によってもたらされる放射性核種の付着抑制効果が消失する。フェライト皮膜が消失した場合には、原子力プラントの運転を停止した後、炭素鋼部材の表面に、再度、フェライト皮膜を形成する必要がある。
発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成されたニッケルフェライト皮膜上に貴金属を付着させたときに、そのニッケルフェライトが溶出する理由について、検討を行った。この検討により、原子力プラントの運転停止中において、そのような低い温度範囲で炭素鋼部材の表面に形成されたニッケルフェライト皮膜は、Ni0.7Fe2.34の皮膜であり、不安定であることが分かった。なお、Ni0.7Fe2.34は、Ni1-xFe2+x4においてxが0.3である場合の形態である。このため、不安定な皮膜であるNi0.7Fe2.34皮膜上に、例えば、白金が付着されているとき、Ni0.7Fe2.34が、その白金の作用により、原子力プラントの運転中において炉水中に溶出するということが分かった。また、不安定なNi0.7Fe2.34の皮膜は、上記の低い温度範囲で形成されるため、炭素鋼部材の表面にNi0.7Fe2.34の小さい粒が多数付着している状態になっている。この理由によっても、上面に白金が付着したNi0.7Fe2.34の皮膜が溶出する。
また、前述の特開2014−182020号公報では、炭素鋼部材の還元除染後においてシュウ酸を含む還元除染液(シュウ酸水溶液)にニッケルイオンを含む水溶液を注入することにより生成された、シュウ酸イオン及びニッケルイオンを含む50℃〜97℃の低い温度範囲内の皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させ、その表面に、シュウ酸ニッケル皮膜を形成する。さらに、酸素を含む200℃以上の水をそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることにより、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケルフェライト皮膜に変換する。
発明者らは、酸素を含む200℃以上の水をそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることにより生成されたニッケルフェライト皮膜の表面に貴金属を付着させて、原子力プラントの水素注入模擬条件下での280℃の模擬炉水をそのニッケルフェライト皮膜に接触させ、そのニッケルフェライト皮膜が模擬炉水中に溶出するかを確認する試験を行った。この試験では、そのニッケルフェライト皮膜が模擬炉水中に溶出することを確認した。発明者らは、分析により、酸素を含む200℃以上の水をそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることにより生成されたニッケルフェライト皮膜が、溶出しやすい前述の不安定なニッケルフェライト(Ni0.7Fe2.34)の皮膜であることを確認した。
発明者らは、酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を、炭素鋼部材の表面に形成されて貴金属が付着されたニッケル金属皮膜に接触させることによって、炭素鋼部材の表面に形成されたそのニッケル金属皮膜を、付着した貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜に変換することが可能であるという技術的知見に接していた。このため、発明者らは、この技術的知見を炭素鋼部材の表面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜に適用することによって、このシュウ酸ニッケル皮膜を、付着した貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜に変換することができると考えた。
そこで、発明者らは、炭素鋼部材の表面に形成されて貴金属が付着されたシュウ酸ニッケル皮膜に、酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を接触させた。その結果、貴金属を付着させたシュウ酸ニッケル皮膜は、酸素を含むその温度範囲内の温度の水との接触により、付着した貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜(Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト皮膜、すなわち、NiFe24皮膜)に変換された。
上記のように生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトは、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.34皮膜のように水中に溶出しなく安定であり、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制に作用する。このNi1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライトは、ニッケル金属皮膜に付着した白金等の貴金属の作用により、炭素鋼部材及びニッケル金属皮膜の腐食電位が低下されるために生成される。このように、炭素鋼部材の表面を覆ったシュウ酸ニッケル皮膜から130℃以上330℃以下の高温の環境下で且つ腐食電位を低下させる白金の存在下で生成されたその安定なニッケルフェライト皮膜は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.34皮膜よりも長期に亘って炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
フェライト構造へのニッケル及び鉄のそれぞれの取り込まれ易さは付着している貴金属の影響を受け、貴金属が存在する場合は鉄よりもニッケルが取り込まれ易くなるため、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトが生成される。
なお、ニッケル金属皮膜に接触させる酸素を含む水の温度が130℃未満である場合には、ニッケル金属皮膜は、安定なニッケルフェライト皮膜(NiFe24皮膜)に変換されない。ニッケル金属皮膜を貴金属の作用により溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜に変換させるためには、ニッケル金属皮膜に接触させる酸素を含む水の温度を130℃以上にする必要がある。
以上に述べたように、発明者らは、シュウ酸ニッケル皮膜を炭素鋼部材の表面に形成し、貴金属をそのシュウ酸ニッケル皮膜上に付着させ、酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を、貴金属を付着したシュウ酸ニッケル皮膜に接触させて、このシュウ酸ニッケル皮膜を、付着した貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜に変換することによって、炭素鋼部材の表面を貴金属が付着した安定なニッケルフェライト皮膜で覆うことができることを見出した。貴金属が付着されたその安定なニッケルフェライト皮膜は、炭素鋼部材の表面を長期間に亘って覆うことができる。シュウ酸ニッケル皮膜の形成は、ニッケルイオン及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させることによって行われ、シュウ酸ニッケル皮膜上への貴金属の付着は、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液をそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることによって実現できる。
ところで、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させる際に、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+として溶出していると、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させることができなくなる。しかしながら、炭素鋼部材の表面をシュウ酸ニッケル皮膜で覆うことによって炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、貴金属のシュウ酸ニッケル皮膜表面への付着を短い時間で行うことができた。併せて、炭素鋼部材への貴金属の付着量も増大した。炭素鋼部材の表面を覆うシュウ酸ニッケルは、炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する安定なニッケルフェライト皮膜の形成に寄与する物質である。
炭素鋼部材の表面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜上に付着させる貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかを用いてもよい。また、還元剤としては、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体及びヒドロキシルアミンのいずれかを用いてもよい。
さらに、発明者らが行った、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制に関する検討結果を以下に説明する。発明者らは、炭素鋼の表面が露出した炭素鋼製の試験片A、白金を付着していないニッケルフェライト皮膜を表面に形成した炭素鋼製の試験片B、及びシュウ酸ニッケル皮膜から変換されて白金が付着された安定なニッケルフェライト皮膜を表面に形成した炭素鋼製の試験片Cのそれぞれを、BWRプラントの運転中の炉水の条件を模擬した、Co−60を含む模擬炉水に500時間浸漬させ、各試験片に付着したCo−60の量を測定した。このCo−60の付着量の測定結果を説明する前に、試験片A、B及びCのそれぞれのX線回折による分析結果を以下に説明する。
この試験に用いた、Co−60を含む模擬水に浸漬する前の試験片A、B及びCのそれぞれの表面における化学組成をX線回折によって分析した。この分析結果を図10に示す。試験片Aでは、炭素鋼のピークを確認した。試験片B及びCでは、試験片Aで確認した炭素鋼のピークに加え、ニッケルフェライトのピークを確認した。なお、試験片Cの表面には、ニッケルフェライト(NiFe24)を主成分とする酸化皮膜が形成されていた。このNiFe24は、Ni1-xFe2+x4においてxが0である形態である。
前述の試験片A,B及びCに対するCo-60の付着量測定実験は、具体的には、試験片A、B及びCを閉ループの循環配管内に設置し、この循環配管内に前述の模擬炉水(温度は280℃)を循環させた。循環配管内の模擬炉水に浸漬してから500時間が経過した後、循環配管内に設置された試験片A、B及びCのそれぞれが循環配管から取り出される。取り出された各試験片の線量がゲルマニウム半導体ガンマ線検出器により測定され、ゲルマニウム半導体ガンマ線検出器による測定値に基づいて、試験片A、B及びCのそれぞれにおけるCo-60の付着量が求められた。それぞれの試験片におけるCo-60の付着量の測定結果を図11に示す。図11から明らかであるように、シュウ酸ニッケル皮膜から変換されて白金が付着された安定なニッケルフェライト皮膜を表面に形成した炭素鋼製の試験片CのCo-60付着量は、他の試験片A及び試験片BのそれぞれのCo-60付着量よりも低下した。
なお、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成するために、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含み、pHが2.5〜6.0(2.5以上6.0以下)の範囲にあって温度が60℃以上100℃以下の温度範囲の皮膜形成水溶液を該当する炭素鋼部材の表面に接触させると、炭素鋼部材の表面が完全にシュウ酸ニッケル皮膜で覆われるまでの間、炭素鋼部材からFe2+がその水溶液に溶出する。溶出したFe2+は、水酸化鉄及びマグネタイトとしてその水溶液中に析出する。
炭素鋼部材の表面へのシュウ酸ニッケル皮膜の形成が終了した後、析出した水酸化鉄及びマグネタイト、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含むその水溶液が、ギ酸及びシュウ酸の分解工程において、カチオン交換樹脂塔及び分解装置に供給される。水溶液に含まれるニッケルイオン及びFe2+がカチオン交換樹脂塔で除去され、ギ酸及びシュウ酸が分解装置で分解される。ギ酸及びシュウ酸の分解後、その水溶液が混床樹脂塔に導かれ、水溶液に含まれる不純物が混床樹脂塔内のイオン交換樹脂で除去されてその水溶液が浄化される。
水溶液の浄化後においても、カチオン交換樹脂塔及び混床樹脂塔で除去しきれなかったFe2+がその水溶液中に存在する可能性がある。水溶液の浄化後において水溶液中に存在するFe2+は、その水溶液に溶存する酸素、及びその水溶液に含まれるギ酸及びシュウ酸を分解するためにその水溶液に供給される過酸化水素により酸化されてFe3+となり、水酸化鉄及びマグネタイトとして析出する。その後、貴金属イオン及び還元剤をその水溶液に注入した場合、注入された貴金属イオンの一部が還元剤の作用によって析出している水酸化鉄及びマグネタイトに貴金属として付着してしまい、炭素鋼部材の表面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜上に付着する貴金属の量が低減してしまい、所定量の貴金属をシュウ酸ニッケル皮膜の表面に付着させるために要する時間が、長くなってしまう。
水溶液に残留する鉄イオン(Fe3+)が水酸化鉄及びマグネタイトとして析出し、貴金属が水酸化鉄及びマグネタイトに付着することを避けるために、水溶液に錯イオン形成剤(例えば、アンモニア)、貴金属イオン(例えば、白金イオン)及び還元剤(例えば、ヒドラジン)のそれぞれを注入し、水溶液に残留する鉄イオンと注入された錯イオン形成剤、例えば、アンモニアが鉄−アンモニア錯イオンを形成し、その鉄イオンの析出を抑えることが知られている(特開2015−158486号公報参照)。その鉄イオンとアンモニアは、式(1)から式(3)に示された各反応によって、鉄−アンモニア錯イオンを生成する。
Fe3++NH3 → [Fe(NH3)]3+ ……(1)
Fe3++2NH3 → [Fe(NH323+ ……(2)
Fe3++3NH3 → [Fe(NH333+ ……(3)
このように、鉄−アンモニア錯イオンがその水溶液中に生成されると、還元剤であるヒドラジンが注入されてその水溶液のpHが8程度以上のアルカリ性になったとしても、その水溶液内で鉄イオンの析出が抑制される。錯イオン形成剤を水溶液に注入することにより、水溶液に含まれる貴金属イオンを、還元剤の助けをかりて、原子力プラントの炭素鋼部材の表面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜の表面に効率良く付着させることができる。このため、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着に要する時間をさらに短縮することができる。
錯イオン形成剤としては、還元剤(例えば、ヒドラジン)の注入により水溶液のpHが増加した場合においても、錯イオンの形成によってFe3+の溶解度を上昇させ、水酸化鉄及びマグネタイトの析出を抑制できる物質であれば良く、アンモニア、ヒドロキシルアミン等のモノアミン類、シアン化合物、尿素及びチオシアン化合物のうち少なくとも1つを用いる。
以上に述べたように、浄化後の水溶液中に鉄イオン(Fe3+)が残留している場合であっても、水溶液内での鉄イオンの析出を抑制する、アンモニアのような鉄イオンと錯イオンを形成する物質(錯イオン形成剤)を、その水溶液に注入することにより、白金イオン(貴金属イオン)と還元剤(例えばヒドラジン)の働きで白金イオンを白金として炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の表面に付着させることができるのである。
皮膜形成水溶液に含まれるシュウ酸の分解は、還元除染が終了した直後ではなく、シュウ酸ニッケル皮膜が炭素鋼部材の表面に形成された後に実施してもよい。この場合には、炭素鋼部材の還元除染が終了した後、還元除染液、例えば、シュウ酸水溶液にニッケルイオン水溶液を注入してニッケルイオン及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液(例えば、シュウ酸水溶液にニッケルイオン水溶液としてギ酸ニッケル水溶液を注入した場合には、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液)を生成し、この皮膜形成水溶液が炭素鋼部材の表面に接触され、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜が形成される。そして、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜が形成された後、皮膜形成水溶液に含まれるシュウ酸の分解が実施される。ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液を用いた場合には、炭素鋼部材の表面へのシュウ酸ニッケル皮膜の形成後に、ギ酸及びシュウ酸の分解が実施される。
このため、化学除染において還元除染後に実施される還元除染剤、すなわち、シュウ酸の分解工程、及び浄化工程が不要になり、このシュウ酸の分解工程、及び浄化工程は、シュウ酸ニッケル皮膜の形成後においてギ酸の分解工程、及び浄化工程と一緒に実施される。したがって、シュウ酸ニッケル皮膜上に貴金属を付着させる貴金属付着作業に要する時間を短縮することができる。
以上に述べた検討結果に基づいて、発明者らは、以下に述べる発明を新たに創生することができた。
ニッケルイオン及びシュウ酸を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させ、炭素鋼部材のその表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成し、貴金属をそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に付着させ、酸素を含み130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を、貴金属を付着したシュウ酸ニッケル皮膜に接触させる。
この発明は、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に関する発明である。この発明によれば、炭素鋼部材の表面に形成されて貴金属が付着されているシュウ酸ニッケル皮膜に酸素を含み130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を接触させることにより、そのシュウ酸ニッケル皮膜を基に、貴金属の触媒作用を利用して130℃以上330℃以下の温度範囲内の高温下で、炭素鋼部材の表面に安定なニッケルフェライト皮膜を形成するので、この形成された安定なニッケルフェライト皮膜は、貴金属が付着していても水に溶出しなく、より長期に亘って(具体的には、複数の運転サイクルに亘って)炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1のプラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の、炭素鋼製の浄化系配管(炭素鋼部材)に適用される。
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、蒸気発生装置であり、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷される。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11を連絡する浄化系配管18に、浄化系ポンプ19、再生熱交換器20、非再生熱交換器21及び炉水浄化装置22をこの順に設置している。炉水浄化装置22をバイパスするバイパス配管28が、炉水浄化装置22の上流側と下流側で浄化系配管18に接続される。弁27が、バイパス配管28と浄化系配管18の接続点よりも炉水浄化装置22側で浄化系配管18に設けられる。浄化系配管18は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器26内に設置される。
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴出される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引されて炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で抽気配管17によりタービン9から抽気された抽気蒸気によって加熱されてRPV3内に導かれる。高圧給水加熱器16及び低圧給水加熱器14に接続されドレン水回収配管82が、復水器10に接続される。
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ19の駆動によって浄化系配管18内に流入し、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21で冷却された後、炉水浄化装置22で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器20で加熱されて浄化系配管18及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
本実施例のプラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法では、皮膜形成装置30が用いられ、これらの皮膜形成装置30が、図2に示すように、浄化系配管18に接続される。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。
皮膜形成装置30は、循環配管31、サージタンク32、加熱器33、循環ポンプ34,35、ニッケルイオン注入装置36、還元剤注入装置41、白金イオン注入装置46、冷却器52、カチオン交換樹脂塔53、混床樹脂塔54、分解装置55、酸化剤供給装置56及びエゼクタ61を備えている。
開閉弁62、循環ポンプ35、弁63,66,69及び74、サージタンク32、循環ポンプ34、弁77及び開閉弁78が、上流よりこの順に循環配管31に設けられる。弁63をバイパスする配管65が循環配管31に接続され、弁64及びフィルタ51が配管65に設置される。弁66をバイパスして両端が循環配管31に接続される配管68には、冷却器52及び弁67が設置される。両端が循環配管31に接続されて弁69をバイパスする配管71に、カチオン交換樹脂塔53及び弁70が設置される。両端が配管71に接続されてカチオン交換樹脂塔53及び弁70をバイパスする配管73に、混床樹脂塔54及び弁72が設置される。カチオン交換樹脂塔53は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔54は陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填している。
弁75、及び弁75よりも下流に位置する分解装置55が設置される配管76が、弁74をバイパスして循環配管31に接続される。分解装置55は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク32が弁74と循環ポンプ34の間で循環配管31に設置される。加熱器33がサージタンク32内に配置される。空間が、サージタンク32内で、サージタンク32内に存在する、例えば、皮膜形成水溶液87の液面よりも上方に形成される。流量調節弁84が設けられてサージタンク32の側壁を貫通するガス供給管85の一端部が、サージタンク32内に配置された散気管83に接続される。ガス供給管85の一端部は、不活性ガス、例えば、窒素ガスが充填された不活性ガスボンベ(図示せず)に接続される。ガス供給管85及び不活性ガスボンベは、不活性ガス供給装置を構成する。
弁79及びエゼクタ61が設けられる配管80が、弁77と循環ポンプ34の間で循環配管31に接続され、さらに、サージタンク32に接続される。浄化系配管18の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク32内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ61に設けられる。
ニッケルイオン注入装置36が、薬液タンク37、注入ポンプ38及び注入配管39を有する。薬液タンク37は、注入ポンプ38及び弁40が設けられた注入配管39によって循環配管31に接続される。例えば、ギ酸ニッケル(Ni(HCOO)・2H2O)を希薄なギ酸水溶液に溶解して調製したギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオンを含む水溶液)が、薬液タンク37内に充填される。
白金イオン注入装置(貴金属イオン注入装置)46が、薬液タンク47、注入ポンプ48及び注入配管49を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ48及び弁50が設けられた注入配管49によって循環配管31に接続される。白金錯体(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na[Pt(OH)]・nHO))を水に溶解して調整した白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液)が、薬液タンク47内に充填されている。白金イオンを含む水溶液は貴金属イオンを含む水溶液の一種である。
還元剤注入装置41が、薬液タンク42、注入ポンプ43及び注入配管44を有する。薬液タンク42は、注入ポンプ43及び弁45が設けられた注入配管44によって循環配管31に接続される。還元剤であるヒドラジンの水溶液が、薬液タンク42内に充填される。
注入配管39,49及び44が、弁77から開閉弁78に向かってその順番で、弁77と開閉弁78の間で循環配管31に接続される。
酸化剤供給装置56が、薬液タンク57、供給ポンプ58及び供給配管59を有する。薬液タンク57は、供給ポンプ58及び弁60が設けられた供給配管59によって弁75よりも上流で配管76に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク57内に充填される。酸化剤としては、オゾンを溶解した水溶液を用いてもよい。
pH計81が、注入配管44と循環配管31の接続点と開閉弁78の間で循環配管31に取り付けられる。酸素濃度計125が、循環ポンプ34と弁77との間で循環配管31に取り付けられる。
BWRプラント1は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止されている期間を利用して、BWRプラント1の保守点検が行われる。
上記のようにBWRプラント1の運転が停止されている期間中において、BWRプラント1における炭素鋼部材の一つである、RPV3に連絡される炭素鋼製の配管系、例えば、浄化系配管18を対象にした、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法が実施される。この炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、浄化系配管18の、炉水と接触する内面への、シュウ酸ニッケル皮膜の形成処理、形成されたシュウ酸ニッケル皮膜への貴金属、例えば、白金の付着処理及び白金が付着されたシュウ酸ニッケル皮膜の安定なニッケルフェライト皮膜への変換処理が行われる。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図1に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、皮膜形成装置30が用いられる。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、貴金属付着作業(ステップS1〜S13)、及び安定なニッケルフェライト皮膜の生成作業(ステップS14〜S15)を含む。
まず、皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に、皮膜形成装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止されているときに、例えば、浄化系ポンプ19の上流で浄化系配管18に設置された弁23のボンネットを開放して再循環系配管6側を封鎖止する。皮膜形成装置30の循環配管31の開閉弁78側の一端部が弁23のフランジに接続される。さらに、再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間で浄化系配管18に設置された弁25のボンネットを開放して非再生熱交換器21側を封鎖する。循環配管31の開閉弁62側の他端部が、弁25のフランジに接続される。循環配管31の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管31を含む閉ループが形成される。
なお、本実施例では、皮膜形成装置30を原子炉浄化系の浄化系配管18に接続しているが、浄化系配管18以外に、炭素鋼部材であってRPV3に連絡される残留熱除去系、原子炉隔離時冷却系及び炉心スプレイ系、給水系のいずれかの炭素鋼製の配管に皮膜形成装置30を接続し、この炭素鋼製の配管に本実施例のプラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を適用してもよい。
以下に説明するステップS2〜S12の各工程は、皮膜形成装置30により、浄化系配管18の、弁23と弁25の間の部分に対して実施される。
皮膜形成対象の炭素鋼製の配管系に対する還元除染を実施する(ステップS2)。前の運転サイクルでの運転を経験したBWRプラント1では、放射性核種を含む酸化皮膜が、RPV3から流れ込む炉水と接触する浄化系配管18の内面に形成されている。シュウ酸ニッケル皮膜を浄化系配管18の内面に形成する前に、浄化系配管18の線量率を下げるために、その内面から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが好ましい。この酸化皮膜の除去は、シュウ酸ニッケル皮膜と浄化系配管18の内面の密着性を向上させる。この酸化皮膜を除去するために、還元除染剤であるシュウ酸を含む還元除染液(シュウ酸水溶液)を用いた還元除染が、浄化系配管18の内面に対して実施される。
ステップS2において、浄化系配管18の内面に対して適用される還元除染は、特開2000−105295号公報に記載された公知の還元除染である。この還元除染について説明する。まず、開閉弁62,弁63,66,69,74及び77、及び開閉弁78をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ34及び35を駆動する。これにより、浄化系配管18内にサージタンク32内で加熱器33により90℃に加熱された水が、循環配管31及び浄化系配管18によって形成される閉ループ内を循環する。この水の温度が90℃になったとき、弁79を開いて循環配管31内を流れる一部の水を配管80内に導く。ホッパ及びエゼクタ61から配管80内に供給された所定量のシュウ酸が、配管80内を流れる水によりサージタンク32内に導かれる。このシュウ酸がサージタンク32内で水に溶解し、シュウ酸水溶液(還元除染液)がサージタンク32内で生成される。
このシュウ酸水溶液は、循環ポンプ34の駆動によってサージタンク32から循環配管31に排出される。還元剤注入装置41の薬液タンク42内のヒドラジン水溶液が、弁45を開いて注入ポンプ43を駆動することにより、注入配管44を通して循環配管31内のシュウ酸水溶液に注入される。pH計81で測定されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて注入ポンプ43(または弁45の開度)を制御して循環配管31内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節して、浄化系配管18に供給されるシュウ酸水溶液のpHを2.5に調節する。本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜の上に貴金属、例えば、白金を付着させるときに用いられる還元剤であるヒドラジンが、還元除染の工程ではシュウ酸水溶液のpHを調整するpH調整剤として用いられる。
ヒドラジン(pH調整剤)を含むpHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液が循環配管31から浄化系配管18に供給され、その水溶液中のシュウ酸が、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜を溶解する。シュウ酸水溶液は、酸化皮膜を溶解しながら浄化系配管18内を流れ、循環配管31に戻される。循環配管31に戻されたシュウ酸水溶液は、開閉弁62を通って循環ポンプ35で昇圧され、弁63、66、68及び73を通過してサージタンク32に達する。このように、シュウ酸水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環し、浄化系配管18の内面の還元除染を実施してその内面に形成された酸化皮膜を溶解する。
酸化皮膜の溶解に伴って、シュウ酸水溶液の放射性核種濃度及びFe濃度が上昇する。これらの濃度上昇を抑えるために、弁70を開いて弁69の開度を調節することにより、循環配管31に戻されたシュウ酸水溶液の一部を、配管71によりカチオン交換樹脂塔53に導く。シュウ酸水溶液に含まれた放射性核種及びFe等の金属陽イオンは、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン交換樹脂塔53から排出されたシュウ酸水溶液及び弁69を通過したシュウ酸水溶液は、循環配管31から浄化系配管18に再び供給され、浄化系配管18の還元除染に用いられる。
シュウ酸を用いた、炭素鋼部材(例えば、浄化系配管18)の表面に対する還元除染では、炭素鋼部材の表面に難溶解性のシュウ酸鉄(II)が形成され、このシュウ酸鉄(II)により、炭素鋼部材の表面に形成された放射性核種を含む酸化皮膜のシュウ酸による溶解が抑制される場合がある。この場合には、弁69を全開にし、弁70を閉じてシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔53への供給を停止する。さらに、弁60を開いて供給ポンプ58を起動し、薬液タンク57内の過酸化水素を、弁75を閉じた状態で、供給配管59及び配管76を通して循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液に供給する。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が循環配管31から浄化系配管18内に導かれる。浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)が、その過酸化水素の作用により、Fe(III)に酸化され、そのシュウ酸鉄(II)がシュウ酸鉄(III)錯体としてシュウ酸水溶液中に溶解する。すなわち、シュウ酸鉄(II)、及びシュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素及びシュウ酸が、式(4)に示す反応により、シュウ酸鉄(III)錯体、水及び水素イオンを生成する。
2Fe(COO)2+H22+2(COOH)2
2Fe[(COO)2]2−+2H2O+2H+ …(4)
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)が溶解され、シュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が式(4)の反応によって消失したことが確認された後、弁70を開いて弁69の開度を調節し、循環配管31の弁66を通過したシュウ酸水溶液の一部を、配管71を通してカチオン交換樹脂塔53に供給する。シュウ酸水溶液に含まれる放射性核種等の金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。なお、シュウ酸水溶液内の過酸化水素の消失は、例えば循環配管31からサンプリングしたシュウ酸水溶液に過酸化水素に反応する試験紙を浸漬し、試験紙に現れる色を見ることによって確認できる。
ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS3)。サージタンク32内には、ヒドラジン(pH調整剤)を含むシュウ酸水溶液の液面(循環配管31内で皮膜形成水溶液が生成された後では、皮膜形成水溶液の液面)が形成され、この液面よりも上方に空間(図示せず)が存在する。この空間には空気が存在する。その空間内に存在する空気に含まれる酸素が、その液面を介してサージタンク32内の90℃のシュウ酸水溶液に供給される。サージタンク32内での酸素の供給によって、そのシュウ酸水溶液は約2ppmの微量の酸素を含むことになる。このため、シュウ酸水溶液内の溶存酸素を除去するために、サージタンク32内の90℃のシュウ酸水溶液に不活性ガス(例えば、窒素ガス)がバブリングされる。
窒素ガスのバブリングは、流量調節弁84を開いて。不活性ガスボンベ内の窒素ガスを、ガス供給管85を通して散気管83に供給することによって行われる。この窒素ガスは、散気管83形成された、窒素ガスを排出する多数の排出孔を通してサージタンク32内の水溶液に多数の気泡となって噴出される。気泡の噴出によって、その皮膜形成水溶液87中の溶存酸素が除去される。除去された溶存酸素は、その水溶液からサージタンク32内の、皮膜形成水溶液87の水面より上方の空間内に排出され、さらに、この空間からサージタンク32の外部に排出される。酸素濃度計125で測定された溶存酸素濃度がその設定酸素濃度である0ppmになるように、流量調節弁84の開度を調節し、散気管83に供給する窒素ガスの流量を調節する。
ニッケルイオン注入装置36の弁40を開いて注入ポンプ38を駆動することにより、薬液タンク37内のギ酸ニッケル水溶液が、注入配管39を通して循環配管31内を流れる、酸素が含まれなくてヒドラジンを含むpHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液に注入され、循環配管31内で、ニッケルイオン、ギ酸、シュウ酸及びヒドラジンを含むpHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液(皮膜形成液)87が生成される。この皮膜形成水溶液は、浄化系配管18に供給される。この皮膜形成水溶液87は、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液87のニッケルイオン濃度は、例えば、200ppmであり、この皮膜形成水溶液87のシュウ酸の濃度は、例えば、2000ppmである。この皮膜形成水溶液87のpHは2.5〜6.0(2.5以上6.0以下)の範囲内のpH(例えば、2.5)になっている。皮膜形成水溶液87の温度は、60℃〜100℃(60℃以上100℃以下)の範囲内にすることが望ましい。ギ酸ニッケル水溶液の替りに、シュウ酸ニッケル水溶液を用いてもよい。
浄化系配管18に供給される皮膜形成水溶液87のニッケルイオン濃度を上記の200ppmにし、この皮膜形成水溶液87のpHを2.5〜6.0(2.5以上6.0以下)の範囲内の値にするためには、薬液タンク37に供給されるギ酸ニッケル水溶液を生成するためのギ酸ニッケルとギ酸の混合比率を変更し、さらに、薬液タンク37から循環配管31へのギ酸ニッケル水溶液の注入量を調節する。
酸素が含まれず、ニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン及びシュウ酸を含みpHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液87は、循環ポンプ34の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給される。浄化系配管18に供給される皮膜形成水溶液87は、窒素ガスをバブリングするため、酸素を含んでいない。この皮膜形成水溶液87が浄化系配管18の内面に接触することにより、シュウ酸ニッケル皮膜(シュウ酸ニッケル皮膜部)86が浄化系配管18の内面に形成される(図5参照)。そのシュウ酸ニッケル皮膜86は、浄化系配管18の内面とpH2.5の皮膜形成水溶液87との接触によって、皮膜形成水溶液87に含まれるニッケルイオン及びシュウ酸イオンが反応することにより形成される。この結果、図5に示すように、シュウ酸ニッケル皮膜86が浄化系配管18の内面に形成される。
シュウ酸ニッケル皮膜部はシュウ酸ニッケル皮膜86を含んでいる。本実施例では、後述の実施例4とは異なり、シュウ酸ニッケル皮膜部がシュウ酸ニッケル皮膜86を含んでいるだけであるため、シュウ酸ニッケル皮膜86が、炭素鋼部材の表面に形成されるシュウ酸ニッケル皮膜部を実質的に構成する。
浄化系配管18から循環配管31に排出された皮膜形成水溶液87は、循環ポンプ35及び34で昇圧される。皮膜形成水溶液87は、ニッケルイオン注入装置36からのギ酸ニッケル水溶液が注入された後で、浄化系配管18に供給される。このように、皮膜形成水溶液87を、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内で循環させることによって、やがて、シュウ酸ニッケル皮膜86が、皮膜形成水溶液87と接触する、弁23と弁25の間の浄化系配管18の内面の全面を均一に覆うようになる。このとき、浄化系配管18の内面に存在する、シュウ酸ニッケル皮膜86内のニッケルは、例えば1平方センチメートル当たり50μgから300μg(50μg/cm2以上300μg/cm2以下)の範囲となる。なお、浄化系配管18の上記の区間で内面全体を覆うシュウ酸ニッケル皮膜の1平方センチメートル当たりの量は、その内面と接触する皮膜形成水溶液の温度によって異なる。皮膜形成水溶液の温度が60℃の場合には、その量は50μg/cm2であり、皮膜形成水溶液の温度が90℃の場合には、その量は250μg/cm2である。本実施例では、皮膜形成水溶液の温度が90℃であるため、浄化系配管18の内面に形成されるシュウ酸ニッケル皮膜の量は250μg/cm2である。
シュウ酸ニッケル皮膜の形成が完了したかを判定する(ステップS4)。浄化系配管18の内面に付着している、シュウ酸ニッケル皮膜86の量が不十分な場合(シュウ酸ニッケル皮膜86の量が250μg/cm2未満の場合)には、ステップS3及びS4の各工程が繰り返される。弁23と弁25の間で浄化系配管18の内面に存在するシュウ酸ニッケル皮膜86の量が、例えば、250μg/cm2になったとき、浄化系配管18のその間の内面の全面がシュウ酸ニッケル皮膜86で覆われるため、注入ポンプ38を停止して弁40を閉じて循環配管31へのギ酸ニッケル水溶液の注入を停止し、浄化系配管18の内面へのシュウ酸ニッケル皮膜86の形成を終了する。ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入してからの経過時間が設定時間(例えば、30分)になったとき、浄化系配管18の内面に存在するニッケルが250μg/cm2になったと判定する。
ギ酸及びシュウ酸を分解する(ステップS5)。シュウ酸ニッケル皮膜86の形成が終了した後、弁70を開いて弁69を絞って弁69の開度を調節し、浄化系配管18から戻された、ニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン(pH調整剤)及びシュウ酸を含むpHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液87をカチオン交換樹脂塔53に供給する。これにより、ニッケルイオンがカチオン交換樹脂塔53内のカチオン交換樹脂に吸着されるため、皮膜形成水溶液87のニッケルイオン濃度が低下する。続いて、弁75を開いて弁74の開度の一部を閉じ、循環ポンプ35で昇圧された皮膜形成水溶液87の一部を、配管76を通して分解装置55に導く。さらに、弁60を開いて供給ポンプ58を駆動し、薬液タンク57内の過酸化水素を供給配管59及び配管76を通して分解装置55に供給する。皮膜形成水溶液87に含まれる、ギ酸、ヒドラジン及びシュウ酸は、分解装置55内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により、二酸化炭素、窒素及び水に分解される。
ギ酸及びシュウ酸等を分解している間に、弁64を開いて弁63を閉じる。この結果、循環配管31内を流れている皮膜形成水溶液87がフィルタ51に供給され、皮膜形成水溶液87に含まれる微細な固形分がフィルタ51によって除去される。微細な固形分を除去しない場合には、後述するように、ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入したとき、その固形物の表面にもニッケル金属皮膜が形成され、注入したニッケルイオンが無駄に消費されることになる。
ギ酸及びシュウ酸が分解された皮膜形成水溶液を浄化する(ステップS6)。ギ酸、ヒドラジン及びシュウ酸の分解工程が終了した後、弁74を開いて弁75を閉じてギ酸及びシュウ酸濃度を低減させた皮膜形成水溶液87の分解装置55への供給を停止し、弁67を開いて弁66を閉じ、弁72を開いて弁69の開度の一部を閉じ、さらに、弁70を閉じる。循環ポンプ35及び34は駆動している。浄化系配管18から循環配管31に戻された、ギ酸及びシュウ酸濃度を低減させた皮膜形成水溶液87は、冷却器52で60℃になるまで冷却されて混床樹脂塔54に導かれる。この皮膜形成水溶液87に残留しているニッケルイオン、他の陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔54内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されて除去される(第1浄化工程)。ギ酸及びシュウ酸濃度を低減させた60℃の皮膜形成水溶液を、上記の各イオンが実質的になくなるまで、循環配管31及び浄化系配管18を循環させる。各イオンが実質的になくなった皮膜形成水溶液は、濃度が低下したギ酸及びシュウ酸を含み、さらに、残留した微量の鉄イオン(Fe3+)を含んでいる。この皮膜形成水溶液は、以後、単に、水溶液という。
錯イオン形成剤水溶液を注入する(ステップS7)。第1浄化工程が終了した後、弁69を開いて弁72を閉じ、弁79を開いてエゼクタ61に通水し、ホッパから錯イオン形成剤水溶液であるアンモニア水溶液を吸引する。このアンモニア水溶液が、サージタンク32内の、微量のFe3+を含む60℃の水溶液に供給される。微量のFe3+、及びアンモニアを含む60℃の水溶液は、サージタンク32から、循環ポンプ34によって昇圧されて循環配管31により浄化系配管18へと供給される。アンモニアを含むこの60℃の水溶液は、構成される閉ループに沿って循環ポンプ35に到達し、循環ポンプ35で昇圧されてサージタンク32へと戻される。
白金イオン水溶液を注入する(ステップS8)。アンモニア注入が終了した後、弁50を開いて注入ポンプ48を駆動する。循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液は、加熱器33による加熱により60℃に保たれる。循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液に、注入配管49を通して薬液タンク47内の白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na[Pt(OH)]・nHO)の水溶液)が注入される。注入されるこの水溶液の白金イオンの濃度は、例えば、1ppmである。ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物の水溶液内では、白金がイオン状態になっている。白金イオン及びアンモニアを含む、60℃の水溶液が、循環ポンプ34及び35の駆動により、循環配管31から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18から循環配管31に戻される。その白金イオンを含む水溶液は、循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。
注入開始直後において、薬液タンク47から循環配管31と注入配管49の接続点を通して循環配管31に注入される、Na[Pt(OH)]・nHOの水溶液のその接続点での白金濃度が、設定濃度、例えば、1ppmとなるように、予め、Na[Pt(OH)]・nHOの水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる、アンモニアを含む60℃の水溶液内の白金イオンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜表面に所定量の白金を付着させるのに必要な、薬液タンク47に充填するNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液の量を計算し、計算されたNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液の量を薬液タンク47に充填する。計算されたNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ48の回転速度を制御し、薬液タンク47内のNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液を循環配管31内に注入する。
還元剤を注入する(ステップS9)。還元剤注入装置41の弁45を開いて注入ポンプ43を駆動し、薬液タンク42内の還元剤であるヒドラジンの水溶液を、注入配管44を通して循環配管31内を流れる、白金イオン及びアンモニアを含む60℃の水溶液に注入する。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、100ppmである。
ヒドラジン水溶液は、アンモニア及びNa[Pt(OH)]・nHOを含む60℃の水溶液がヒドラジン水溶液の注入点である注入配管44と循環配管31の接続点に到達した以降に循環配管31に注入される。この場合には、白金イオン、ヒドラジン(還元剤)及びアンモニアを含む60℃の水溶液が、循環配管31から浄化系配管18に供給される。しかし、より好ましくは、薬液タンク47内に充填された所定量のNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液を全て循環配管31内に注入し終わった直後にヒドラジン水溶液を循環配管31に注入することが望ましい。この場合には、アンモニア及び白金イオンを含む60℃の水溶液が循環配管31から浄化系配管18に供給され、白金イオン水溶液の循環配管31への注入が終了した後では、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃の水溶液89(図6参照)が循環配管31から浄化系配管18に供給される。
前者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、ヒドラジンにより白金イオンを白金にする還元反応が、最初に、循環配管31内を流れる、ヒドラジン及び白金イオンを含む水溶液内で生じるのに対して、後者のヒドラジン水溶液の注入の場合には、既に、白金イオンが浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86の表面に吸着されており、この吸着された白金イオンがヒドラジンにより還元されるので、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86表面への白金88の付着量がさらに増加する(図6参照)。
ヒドラジン水溶液の注入開始直後において、薬液タンク42から循環配管31と注入配管44の接続点を通して注入されるヒドラジン水溶液のその接続点でのヒドラジン濃度が、設定濃度、例えば、100ppmとなるように、予め、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度を計算し、さらに、循環配管31内を流れる60℃の白金イオンを含む水溶液内のヒドラジンをその設定濃度にして、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86表面に吸着された白金イオンを白金88に還元するために必要な、薬液タンク42に充填するヒドラジン水溶液の量を計算し、計算されたヒドラジン水溶液の量を薬液タンク42に充填する。計算されたヒドラジン水溶液の循環配管31への注入速度に合わせて注入ポンプ43の回転速度を制御し、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液を循環配管31内に注入する。
なお、薬液タンク47内のNa[Pt(OH)]・nHOの水溶液(白金イオンを含む水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ48の駆動を停止して弁50を閉じる。これにより、白金イオンを含む水溶液の循環配管31への注入が停止される。また、薬液タンク42内のヒドラジン水溶液(還元剤水溶液)が、全量、循環配管31に注入されたとき、注入ポンプ43の駆動を停止して弁45を閉じる。これにより、ヒドラジン水溶液の循環配管31への注入が停止される。
シュウ酸ニッケル皮膜86表面に吸着した白金イオンが注入されたヒドラジンによって還元されて白金88となるため、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86の表面に白金88が付着する(図6参照)。
本実施例では白金88がシュウ酸ニッケル皮膜86の表面に付着されているが、これは、白金88がシュウ酸ニッケル皮膜部の表面に付着しているとも言える。
本実施例では、シュウ酸ニッケル皮膜86と接触する水溶液89に含まれたアンモニアがこの水溶液89に含まれる微量の鉄イオン(Fe3+)と反応し、鉄−アンモニア錯イオンを生成する。このため、水溶液89中の鉄イオン濃度が減少し、水溶液89に含まれる鉄イオンが水酸化鉄及びマグネタイトとして析出しなくなる。水溶液89に含まれる白金イオンが、白金として水酸化鉄及びマグネタイトに付着することがなくなり、シュウ酸ニッケル皮膜86上に付着する白金の量が増加する。
白金の付着が完了したかを判定する(ステップS10)。白金イオン水溶液及び還元剤水溶液の注入からの経過時間が所定時間になったとき、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86の表面への所定量の白金の付着が完了したと判定する。その経過時間が所定時間に到達しないときには、ステップS8〜S10の各工程が繰り返される。
浄化系配管18及び循環配管31内に残留する水溶液を浄化する(ステップS11)。浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86表面への白金88の付着が完了したと判定された後、弁72を開いて弁69の開度の一部を閉じ、循環ポンプ35で昇圧された、白金イオン及びヒドラジン、アンモニアを含む60℃の水溶液を、混床樹脂塔54に供給する。その水溶液に含まれる白金イオン、他の金属陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)、ヒドラジン、アンモニア及びOH基が、混床樹脂塔54内のイオン交換樹脂に吸着し、その水溶液から除去される(第2浄化工程)。
廃液を処理する(ステップS12)。第2浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管31と廃液処理装置(図示せず)を接続する。第2浄化工程の終了後に、浄化系配管18及び循環配管31内に残存する、放射性廃液である水溶液は、そのポンプを駆動して循環配管31から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。浄化系配管18及び循環配管31内の水溶液が排出された後、洗浄水を浄化系配管18及び循環配管31内に供給し、循環ポンプ34,35を駆動してこれらの配管内を洗浄する。洗浄終了後、浄化系配管18及び循環配管31内の洗浄水を、上記の廃液処理装置に排出する。
以上により、浄化系配管18の、非再生熱交換器21よりも上流の弁23と弁25の間の部分の内面へのシュウ酸ニッケル皮膜86の形成、及びシュウ酸ニッケル皮膜86上への白金88の付着の各処理が終了する。なお、浄化系配管18の、弁25よりも下流であって再生熱交換器20よりも上流の部分には、内面に、白金88が付着したシュウ酸ニッケル皮膜86が形成されていない。
皮膜形成装置を配管系から除去する(ステップS13)。ステップS1〜S12の各工程が実施された後、皮膜形成装置30が浄化系配管18から取り外され、浄化系配管18が復旧される。
原子力プラントを起動させる(ステップS14)。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、白金88を付着しているシュウ酸ニッケル皮膜86が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1が起動される。
130℃以上の炉水を、白金が付着されたシュウ酸ニッケル皮膜に接触させる(ステップS15)。BWRプラント1が起動されたとき、RPV3内のダウンカマに存在する炉水は、前述したように、再循環系配管6及びジェットポンプ5を通って炉心4に供給される。炉心から吐出された炉水は、ダウンカマに戻される。ダウンカマ内の炉水は、再循環系配管6を経由して浄化系配管18内に流入し、やがて、給水配管11に流入してRPV3内に戻される。
炉心4から制御棒(図示せず)が引き抜かれて炉心4が未臨界状態から臨界状態になり、炉水が燃料棒内の核燃料物質の核分裂で生じる熱で加熱される。このとき、炉心4では蒸気が発生していない。さらに、制御棒が炉心4から引き抜かれ、原子炉2の昇温昇圧過程において、RPV3内の圧力が定格圧力まで上昇され、その核分裂で生じる熱によって炉水が加熱されてRPV3内の炉水の温度が定格温度(280℃)になる。RPV3内の圧力が定格圧力になり、炉水温度が定格温度に上昇した後、炉心4からのさらなる制御棒の引き抜き、及び炉心4に供給される炉水の流量増加により、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで上昇される。定格出力を維持した、BWRプラント1の定格運転が、その運転サイクルの終了まで継続される。原子炉出力が、例えば、10%出力まで上昇したとき、炉心4で発生した蒸気が主蒸気配管8を通してタービン9に供給され、発電が開始される。
炉水90には、酸素及び過酸化水素が含まれている。酸素及び過酸化水素は、RPV3内で炉水90の放射線分解により生成される。RPV3内の、酸素を含む炉水90が、浄化系ポンプ19が駆動されている状態で、再循環系配管6から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成されている、白金88が付着したシュウ酸ニッケル皮膜86に接触する(図7参照)。前述の核分裂で生じる熱による炉水の加熱により、このシュウ酸ニッケル皮膜86に接触する炉水90の温度は、上昇し、やがて、130℃以上になり、最終的には定格出力時の280℃まで上昇する。
この炉水90の温度は、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21の前後で大きく異なる。RPV3内の炉水90の温度が280℃であるとき、浄化系配管18の、再生熱交換器20よりも上流の部分には、約280℃の炉水90が流れる。再生熱交換器20での熱交換の結果、再生熱交換器20から弁25側に流出する炉水90の温度は200℃から150℃程度の範囲に低下する。さらに、非再生熱交換器21において、炉水90は、50℃から室温程度までの範囲の温度に低下し、この温度範囲内で、イオン交換樹脂を含む炉水浄化装置22に供給される。炉水浄化装置22から流出した炉水90は、給水として用いられるため、再生熱交換器20で150℃から200℃程度の範囲に加熱された後、給水配管11を流れる給水に合流する。
BWRプラント1が起動されてRPV3内の圧力が定格圧力(このときの炉水の温度は280℃)まで上昇する期間において、浄化系配管18の、弁23と再生熱交換器20の間の部分を流れる炉水90、浄化系配管18の、再生熱交換器20と弁25の間の部分を流れる炉水90、及び浄化系配管18の、弁26と弁32Aの間の部分を流れる炉水90は、時間のずれはあるが、130℃以上の温度になる。原子炉2の昇温昇圧過程において、RPV3内の圧力が上昇するに伴って、RPV3内の炉水の温度は130℃を超えてより高い温度まで上昇する。
このため、弁23と弁25の間の浄化系配管18の内面に形成された、白金88が付着したシュウ酸ニッケル皮膜86の表面が、前述の130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度の、酸素を含む炉水90と接触することによって、浄化系配管18及びそのシュウ酸ニッケル皮膜86が炉水90と同じ温度に加熱される。炉水90に含まれる酸素が、弁23と弁25の間において浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行し、炭素鋼部材である浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行する(図8参照)。130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温環境では、炉水90に含まれる酸素及び浄化系配管18からのFe2+が、シュウ酸ニッケル皮膜内に移行し易くなる。なお、炉水の酸素濃度が低い場合には、炉水の水分子が鉄の腐食によって分解されて酸素が生じ、この酸素が前述の炉水90に含まれる酸素と同じ働きをする。シュウ酸ニッケル皮膜86に付着した白金88の作用による、浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル皮膜86のそれぞれの腐食電位の低下、及び130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温環境の形成により、シュウ酸ニッケル皮膜86がシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライト(NiFe24)が生成される。この際、フェライト構造へのニッケルと鉄の取り込まれ易さは白金(貴金属)の影響を受け、白金が存在する場合は鉄よりもニッケルがフェライト構造に取り込まれ易くなるため、Ni1-xFe2+x4においてxが0である安定なニッケルフェライトが生成される。そして、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86は安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜91に変換され、弁23と弁25の間における浄化系配管18の内面が、表面に白金88が付着された安定なニッケルフェライト皮膜91で覆われる(図9参照)。浄化系配管18の内面を覆ったシュウ酸ニッケル皮膜86から、130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温の環境下において上記のように生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライト(NiFe24)は、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.34皮膜のように水中に溶出しなく安定であり、母材である炭素鋼、すなわち、浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制する。
本実施例によれば、シュウ酸ニッケル皮膜86に付着した白金88により浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル皮膜86の腐食電位が低下した状態で、かつ130℃以上280℃以下の高温環境下で、前述したように、シュウ酸ニッケル皮膜86から生成された、Ni1-xFe2+x4においてxが0であるニッケルフェライトの皮膜91は、BWRプラント1の運転中においても、付着した白金88の作用により炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜である。このように生成された、付着した白金88の作用によっても炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜91は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.34皮膜よりも長期に亘って浄化系配管18の腐食を抑制することができる。具体的には、浄化系配管18の内面に形成されたその安定なニッケルフェライト皮膜91は、付着した白金88の作用によって溶出することがなく、複数の運転サイクル、例えば、5つの運転サイクル(例えば、5年間)に亘って浄化系配管18の内面を覆うことができる。このように、安定なニッケルフェライト皮膜91が長期に亘って浄化系配管18の内面を覆うことができるため、浄化系配管18への放射性核種の付着が長期に亘って抑制される。このため、浄化系配管18に対して実施される化学除染の回数を減少させることができる。特に、炉水浄化装置22よりも上流側の、弁23と非再生熱交換器21との間で、浄化系配管18の内面に安定なニッケルフェライト皮膜91を形成しているため、特に、浄化系配管18のその部分の内面への放射性核種の付着を長期に亘って抑制することができる。
本実施例では、還元除染に用いられたシュウ酸水溶液(還元除染液)に含まれるシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解は、還元除染が終了した直後ではなく、シュウ酸ニッケル皮膜86の浄化系配管18の内面への形成が終了した後のステップS5の工程で実施される。このステップS5において、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、皮膜形成水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)として皮膜形成水溶液に含まれるギ酸と共に分解装置55で分解される。このように、本実施例では、化学除染において還元除染後に実施される還元除染剤、すなわち、シュウ酸の分解工程が不要になり、このシュウ酸の分解工程は、シュウ酸ニッケル皮膜の形成後のステップS5においてギ酸の分解工程と一緒に実施される。また、還元除染後のシュウ酸の分解工程の後に実施される浄化工程も不要になり、この浄化工程は、ステップS5の工程の後に実施されるステップS6の工程(第1浄化工程)で実施される。
したがって、化学除染において実施される、その還元除染に引き続いて実施されるシュウ酸の分解工程及びシュウ酸の分解工程に引き続いて実施される浄化工程の両工程が不要になるため、本実施例では、シュウ酸ニッケル皮膜上に貴金属を付着させる貴金属付着作業に要する時間を短縮することができる。
本実施例によれば、ニッケルイオン及びシュウ酸イオンを含む皮膜形成水溶液の浄化系配管18の内面への接触によって、浄化系配管18の、炉水と接触する内面に、この内面を覆うシュウ酸ニッケル皮膜86を形成することができる。このシュウ酸ニッケル皮膜86によって、浄化系配管18から皮膜形成水溶液へのFe2+の溶出を防止することができ、浄化系配管18の内面への貴金属(例えば、白金)の付着がFe2+の溶出によって阻害されることがなくなり、その内面への貴金属の付着(具体的には、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86表面への貴金属の付着)に要する時間を短縮することができる。また、その内面への貴金属の付着を効率良く行うことができ、浄化系配管18の内面への貴金属の付着量が増加する。
本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86は、50μg/cm2以上300μg/cm2以下の範囲内の量になる。このように、50μg/cm2以上300μg/cm2以下の範囲内のシュウ酸ニッケル皮膜86が存在すると、シュウ酸ニッケル皮膜86が、浄化系配管18の、皮膜形成液に接触する内面の全面を覆った状態とになり、BWRプラントの運転中で、シュウ酸ニッケル皮膜86が安定なニッケルフェライト皮膜91に変換されるまでの期間において、浄化系配管18内を流れる炉水が浄化系配管18の母材と接触することが、そのシュウ酸ニッケル皮膜86によって、遮られる。このため、浄化系配管18の内面が安定なニッケルフェライト皮膜91で覆われるまでの期間においても、炉水に含まれる放射性核種の浄化系配管18の母材への取り込みが生じない。
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86は、浄化系配管18への白金の付着に要する時間を短縮させるだけでなく、付着した白金88の作用と相俟って、浄化系配管18の内面への、付着した白金によっても炉水に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜91の形成に貢献する。浄化系配管18の内面への、白金88が付着したシュウ酸ニッケル皮膜86の形成が終了した後における次の運転サイクルでのBWRプラントの運転中で、そのニッケルフェライト皮膜91は、このニッケルフェライト皮膜91の形成後において、浄化系配管18内を流れる炉水と浄化系配管18の母材との接触を遮る。このため、炉水による浄化系配管18の腐食が抑制され、さらに、炉水に含まれる放射性核種の、浄化系配管18の母材への取り込みが抑制される。
本実施例では、浄化系配管18の内面を還元除染した後、浄化系配管18の内面にシュウ酸ニッケル皮膜86を形成するため、このシュウ酸ニッケル皮膜86から変換された安定なニッケルフェライト皮膜は、浄化系配管18から剥がれ難くなる。
シュウ酸水溶液を用いた、浄化系配管18内面の還元除染時、及びシュウ酸の分解時において、炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)を、シュウ酸水溶液に注入した酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって除去する。このシュウ酸鉄(II)の除去により、浄化系配管18とシュウ酸ニッケル皮膜86の密着性が向上し、シュウ酸ニッケル皮膜86が浄化系配管18の内面から剥離することを防止できる。
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図12を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、BWRプラントの、炭素鋼製の浄化系配管に適用される。
本実施例では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法におけるステップS1〜S15の各工程、及び新たに追加されたステップS2Bの工程が実施される。新たなステップS2Bの工程は、ステップS2の工程とステップS3の工程の間で実施される。本実施例で実施される化学除染(ステップS2A)は、還元除染の実行(ステップS2)及びシュウ酸の分解(ステップS2B)の各工程を含んでいる。本実施例において、貴金属付着作業はステップS1,S2、S2B及びS3〜S13の各工程を含み、安定なニッケルフェライト皮膜の生成作業はステップS14〜S15の各工程を含む。
本実施例で実施されるS1,S4及びS6〜S15の各工程は、実施例1で実施されるそれらの工程と同じであるため、ここでは、それらの工程の説明は省略する。本実施例で実施されるステップS2A,S3及びS5の各工程を、以下に説明する。
化学除染を実施する(ステップS2A)。ステップS1の工程が終了した後、浄化系配管18の内面に対して化学除染が実施される。この化学除染(ステップS2A)は、前述したように、ステップS2(還元除染の実行)及びステップS2B(シュウ酸の分解)の各工程を含んでいる。
まず、還元除染が実行される(ステップS2)。実施例1と同様に、皮膜形成装置30から浄化系配管18内にシュウ酸水溶液(還元除染液)が供給され、浄化系配管18の内面に対する還元除染が実施される。
シュウ酸(還元除染剤)が分解される(ステップS2B)。還元除染が終了した後、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解が、シュウ酸水溶液を分解装置55に供給して、実施例1のステップS5の工程で実施される、皮膜形成水溶液に含まれているシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解と同様に実施される。分解装置55内でのシュウ酸及びヒドラジンの分解反応は、式(5)及び式(6)で表される。
(COOH)2+H22 → 2CO2+2H2O ……(5)
24+2H22 → N2+4H2O ……(6)
シュウ酸の分解工程においても、分解装置55から排出されたシュウ酸水溶液にシュウ酸が存在する可能性があり、浄化系配管18の内面にシュウ酸鉄(II)が形成される可能性がある。このため、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解がある程度進んだ段階で、分解装置55から過酸化水素が流出するように、薬液タンク57から分解装置55への過酸化水素の供給量を増加させる。この際、カチオン交換樹脂塔53への過酸化水素の流入を避けるために、事前に弁70を閉じる。
ステップS2Bのシュウ酸分解工程でも、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)が、前述したように、シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素の作用により、シュウ酸鉄(III)錯体になりシュウ酸水溶液中に溶解する。シュウ酸水溶液中のシュウ酸等の分解が進んでいるため、シュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)をFe(III)に変換するシュウ酸が不足し、循環配管31の内面にFe(OH)3が析出しやすくなる。このため、Fe(OH)3の析出を抑制するため、シュウ酸水溶液にギ酸を注入する。ギ酸の注入は、ギ酸を、例えば、前述のホッパ及びエゼクタ61から配管80内を流れるシュウ酸水溶液に供給してサージタンク32に導くことにより行われる。供給されたギ酸は、シュウ酸水溶液に混合される。
なお、シュウ酸鉄(II)を溶解するための酸化剤のシュウ酸水溶液への注入、及び水酸化鉄の析出を抑制するためのギ酸のシュウ酸水溶液への注入は、シュウ酸の分解工程(ステップS2B)が開始された後に行われる。
次に、シュウ酸の分解工程を終了するため、弁60の開度を絞って、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を、分解装置55から過酸化水素が流出しない程度に調節する。そして、循環配管31内を流れるシュウ酸水溶液への新たなギ酸の注入を停止するために弁79を閉じる。
シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が1ppm以下になったとき、弁70を開いて弁69の開度を低減させ、カチオン交換樹脂塔53にシュウ酸水溶液を供給する。シュウ酸水溶液内の金属陽イオンは、前述したように、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂で除去され、シュウ酸水溶液の金属陽イオン濃度が低下する。分解装置55内でシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解は継続される。シュウ酸、ヒドラジン及びギ酸のうちでは、ヒドラジンが先に分解され、次いでシュウ酸及びギ酸が分解される。この状態でシュウ酸の分解工程を終了する。なお、シュウ酸の分解が終了したときには、ヒドラジンは分解されて消失しているため、循環配管31内に存在する水溶液は、シュウ酸及びギ酸を含んでいるが、ヒドラジンを含んでいない。
以上に述べた化学除染の工程(ステップS2A)が終了したとき、具体的には、シュウ酸の分解工程(ステップS2B)が終了したとき、浄化系配管18は、浄化系配管18の内面から放射性核種を含む酸化皮膜が除去されて図4に示す状態になっており、浄化系配管18の内面が前述した残存するギ酸及びシュウ酸を含む水溶液に接触している。
ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS3)。シュウ酸の分解工程が終了した後、循環配管31内を流れる、残存するギ酸及びシュウ酸を含む90℃の水溶液に、実施例1と同様に、ニッケルイオン注入装置36からギ酸ニッケル水溶液を注入する。この結果、ニッケルイオン、ギ酸及びシュウ酸イオンを含みpHが2.5以上6.0以下の範囲内にある皮膜形成水溶液、例えば、200ppmのニッケルイオン、ギ酸、及び10ppmのシュウ酸を含みpHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液87が、循環配管31内に生成される。この皮膜形成水溶液87が、循環配管31から浄化系配管18に供給される。皮膜形成水溶液87が浄化系配管18の内面に接触することにより、その内面を覆うシュウ酸ニッケル皮膜86が、浄化系配管18の内面に形成される(図5参照)。
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86の量が、例えば、250μg/cm2になったとき、すなわち、ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入してからの経過時間が第1設定時間(例えば、30分)になったとき、ステップS4において、浄化系配管18の内面がシュウ酸ニッケル皮膜86で覆われたと判定され、シュウ酸ニッケル皮膜86の形成が終了する。
ギ酸及びシュウ酸を分解する(ステップS5)。シュウ酸ニッケル皮膜86の形成が終了した後、実施例1のステップS5の工程と同様に、皮膜形成水溶液87に含まれるギ酸及びシュウ酸が分解される。シュウ酸水溶液に含まれるヒドラジン(pH調整剤)は、シュウ酸の分解工程(ステップS2B)で分解されたので、皮膜形成水溶液87に含まれていなく、本実施例のステップS5の工程では分解されない。
その後、実施例1と同様に、ステップS6〜S15の各工程が実施される。
本実施例ではシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解をシュウ酸ニッケル皮膜の形成前に実施しているため、本実施例は、実施例1で得られる効果、すなわち、シュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解をステップS5において皮膜形成水溶液に含まれるギ酸の分解と一緒に行うことによって得られる「貴金属付着作業に要する時間の短縮」の効果を得ることができない。しかしながら、本実施例では、化学除染において還元除染後のシュウ酸の分解工程の後に実施される浄化工程を、ステップS5の工程の後に実施されるステップS6の工程(第1浄化工程)で実施するため、本実施例は、これらの浄化工程を一緒に行うことによって得られる「貴金属付着作業に要する時間の短縮」を得ることができる。
したがって、本実施例は、シュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解をステップS5において皮膜形成水溶液に含まれるギ酸の分解と一緒に行うことによって得られる「貴金属付着作業に要する時間の短縮」の効果以外の、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、実施例1と比較して皮膜形成水溶液のシュウ酸濃度が低いため、浄化系配管18の内面に形成されるシュウ酸ニッケル皮膜に含まれるニッケルの量が増加し、本実施例で形成される安定なニッケルフェライト皮膜の厚みを、実施例1において形成される安定なニッケルフェライト皮膜の厚みよりも厚くすることができる。
本発明の好適な他の実施例である実施例3の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図13及び図14を用いて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、少なくとも1つの運転サイクルでの運転を経験したBWRプラントの浄化系配管に適用される。
本実施例では、実施例1で実施されるステップS1〜S13及びS15の各工程、及び新たに追加されたステップS16及びS17の各工程が実施される。本実施例は、実施例1で用いられる皮膜形成装置30がステップS1〜S12の各工程で用いられ、さらに、新たな加熱システム92がステップS16、S15及びS17の各工程で用いられる。
加熱システム92の構成を、図14を用いて説明する。加熱システム92は、耐圧構造であって、循環配管93、循環ポンプ94、加熱装置95及び昇圧装置である弁96を有する。循環ポンプ94が循環配管93に設けられ、加熱装置95が循環ポンプ94の上流で循環配管93に設けられる。加熱装置95は循環ポンプ94の下流に配置してもよい。配管97が循環ポンプ94をバイパスしており、配管97の一端部が循環ポンプ94よりも上流で循環配管93に接続され、配管97の他端部が循環ポンプ94よりも下流で循環配管93に接続される。弁96が配管97に設けられる。開閉弁98が循環配管93の上流側端部に設けられ、開閉弁99が循環配管の下流側端部に設けられる。
本実施例では、ステップS1〜S12の各工程が実施された後、ステップS13,S16,S15及びS17の各工程が、順次、実施される。ステップS13,S16,S15及びS17の各工程を、以下に詳細に説明する。
皮膜形成装置を配管系から除去する(ステップS13)。本実施例において、ステップS1〜S12の各工程が実施された後、浄化系配管18に接続されている皮膜形成装置30が浄化系配管18から取り外される。皮膜形成装置30の循環配管31の一端部が弁23のフランジから取り外され、循環配管31の他端部が弁25のフランジから取り外される。
加熱システムを配管系に接続する(ステップS16)。加熱システム92の循環配管93(第3配管)の開閉弁99側の一端部が弁23のフランジに接続され、循環配管93が浄化系配管18に接続される。循環配管93の開閉弁98側の他端部が弁25のフランジに接続され、循環配管93が再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間で浄化系配管18に接続される。循環配管93の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管93を含む閉ループが形成される。
次に、130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度を有し、酸素を含む水を、白金が付着されたシュウ酸ニッケル皮膜に接触させる(ステップS15)。酸素を含む水が、循環配管93及び浄化系配管18を含む閉ループ内に充填される。循環ポンプ94を駆動して、酸素を含む水を、その閉ループ内で循環させる。循環ポンプ94の回転速度を或る回転速度まで増加させ、その後、弁96の開度を徐々に減少させて循環ポンプ94から吐出される水の圧力を高める。加熱装置95により、その閉ループ内を循環する酸素を含む水を加熱し、その水の温度を上昇させる。このように、循環ポンプ94から吐出される水の圧力を高めながら、その水の温度を上昇させる。弁96が全閉になった後は、循環ポンプ94の回転速度を、さらに、増加させる。このような操作により、その閉ループ内を循環する水の圧力が、例えば、0.27MPa〜12.863MPaの範囲に上昇したとき、循環する水の温度は約130.0℃〜330.0℃の範囲内に上昇する。循環する水の圧力を調節し、その水の温度を130℃以上330℃以下の温度範囲内の、例えば、150℃に調節する。閉ループ内を循環する水の温度は、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86を安定なニッケルフェライト皮膜に変換する間、150℃に保持される。
酸素を含む150℃の水90Aが、循環配管93から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成された、白金88が付着したシュウ酸ニッケル皮膜86に接触する(図7参照)。浄化系配管18は、循環配管93の両端部が接続された弁23及び25の付近を除いて、保温材(図示せず)で取り囲まれている。150℃の水90Aがシュウ酸ニッケル皮膜86に接触することによって、浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル皮膜86のそれぞれが加熱され、それぞれの温度が150℃になる。
酸素を含む水90A、浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル皮膜86のそれぞれが、150℃になるため、その水90Aに含まれる酸素(O2)及び水90Aに含まれる一部の水分子を構成する酸素がシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行し、浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行する(図8参照)。水90Aに含まれる酸素は、130℃以上の水90A中では単独で移動し易くなり、シュウ酸ニッケル皮膜86内に入り易くなる。シュウ酸ニッケル皮膜86に付着した白金88の作用により、浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル皮膜86の腐食電位が低下する。シュウ酸ニッケル皮膜86の腐食電位の低下、及び150℃の高温環境の形成により、シュウ酸ニッケル皮膜86内のニッケルがシュウ酸ニッケル皮膜86内に移行した酸素及びFe2+と反応し、Ni1-xFe2+x4においてxが0である、白金の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト(NiFe24)が生成される。このため、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86が安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜91に変換され、ニッケルフェライト皮膜91が浄化系配管18の弁23と弁25の間の部分の内面を覆うことになる(図9参照)。白金88は、安定なニッケルフェライト皮膜91の表面に付着している。
加熱システムを配管系から取り外す(ステップS17)。ニッケルフェライト皮膜91が浄化系配管18の内面を覆って形成された後、浄化系配管18に接続されている加熱システム92が浄化系配管18から取り外される。その後、浄化系配管18が復旧される。
燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、白金88が付着したニッケルフェライト皮膜91が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1が起動される。浄化系配管18内を流れる炉水は、ニッケルフェライト皮膜91が形成されているため、浄化系配管18の母材に直接接触することはない。
本実施例は実施例1で生じた各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、加熱システム92を用いて浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86を安定なニッケルフェライト皮膜91に変換するため、ステップS15におけるその変換の処理をBWRプラント1の運転停止中に行うことができる。このため、BWRプラント1を起動するときには、浄化系配管18の内面に、既に、安定なニッケルフェライト皮膜91が形成されているので、本実施例では、実施例1においてその内面に安定なニッケルフェライト皮膜91が形成される前の時点においても浄化系配管18の腐食を抑制することができる。
さらに、本実施例では、加熱システム92を用いて130℃以上330℃以上の温度範囲の、酸素を含む水を、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86に接触させるので、その水を所定温度まで加熱するために要する時間を短縮することができる。また、加熱システム92の必要とする耐圧性の度合いを低減することができる。
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、図15を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、BWRプラントの、炭素鋼製の浄化系配管に適用される。
本実施例では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法におけるステップS1〜S15の各工程、及び新たに追加されたステップS18(還元剤の注入)の工程が実施される。ステップS18は、ステップS3とステップS4の間で実施される。
本実施例では、ステップS1及びS2の各工程が実施された後、実施例1と同様に、ニッケルイオン水溶液を注入する(ステップS3)。薬液タンク37内のギ酸ニッケル水溶液が、注入配管39を通して循環配管31内を流れる、ヒドラジン(pH調整剤)を含むpHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液に注入される。この結果、ニッケルイオン、シュウ酸及びヒドラジンを含み還元剤(例えば、ヒドラジン)を含まない、pHが2.5以上6.0以下の範囲内にある皮膜形成水溶液(第1皮膜形成液)87、例えば、200ppmのニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン(pH調整剤)及び2000ppmのシュウ酸を含み還元剤(ヒドラジン)を含まない、pHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液87が、循環配管31内で生成され、浄化系配管18に供給される。皮膜形成水溶液87が浄化系配管18の内面に接触することにより、その内面を覆うシュウ酸ニッケル皮膜86Cが、浄化系配管18の内面に形成される(図16参照)。シュウ酸ニッケル皮膜86Cの量が、例えば、250μg/cm2になったとき、すなわち、ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入してからの経過時間が第1設定時間(例えば、30分)になったとき、浄化系配管18の内面がシュウ酸ニッケル皮膜86Cで覆われたと判定する。
そして、還元剤を注入する(ステップS16)。シュウ酸ニッケル皮膜86Cが浄化系配管18の内面に形成された後、還元剤であるヒドラジンの水溶液が、還元剤注入装置41から循環配管31内を流れる皮膜形成水溶液87に注入される。注入されるヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば、100ppmである。皮膜形成水溶液87は、ヒドラジン(還元剤)の注入により、ニッケルイオン、シュウ酸イオン、ヒドラジン(pH調整剤)及びヒドラジン(還元剤)を含みpHが2.5以上6.0以下の範囲内にある皮膜形成水溶液(第2皮膜形成液)87A、具体的には、ニッケルイオン、ギ酸、シュウ酸、ヒドラジン(pH調整剤)及びヒドラジン(還元剤)を含みpHが6.0で90℃の、皮膜形成水溶液87Aになる。皮膜形成水溶液87Aに含まれるシュウ酸の濃度は、2000ppmである。皮膜形成水溶液87AのpHは、ヒドラジン(還元剤)の注入により、皮膜形成水溶液87のpHよりも高くなる。還元除染においてシュウ酸水溶液のpHを2.5にするためにシュウ酸水溶液に注入したpH調整剤、及びステップS16の工程で皮膜形成水溶液に注入した還元剤はどちらもヒドラジンであるため、これらのヒドラジンを区別するために前者の「ヒドラジン」を「ヒドラジン(pH調整剤)」と、後者の「ヒドラジン」を「ヒドラジン(還元剤)」と表記しました。
循環配管31から浄化系配管18に供給されたその皮膜形成水溶液87Aは、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル皮膜86Cの表面に接触する。皮膜形成水溶液87Aに含まれたニッケルイオンがシュウ酸ニッケル皮膜86Cの表面に吸着され、この吸着されたニッケルイオンがヒドラジンにより還元されてニッケル金属になる。皮膜形成水溶液87Aが循環配管31及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環するため、シュウ酸ニッケル皮膜86Cの表面に付着したニッケル金属が増加し、シュウ酸ニッケル皮膜86Cの表面にこの表面を覆う、ニッケル金属及びシュウ酸ニッケルが混在する混在皮膜(以下、単に、混在皮膜という)86Bが形成される。結果的に、シュウ酸ニッケル皮膜86C、及びこのシュウ酸ニッケル皮膜86Cを覆う混在皮膜86Bを含むシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aが、浄化系配管18の内面に形成される(図16参照)。
本実施例において、皮膜形成水溶液87及び皮膜形成水溶液87Aはどちらもニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン及びシュウ酸を含んでいるのに、皮膜形成水溶液87が浄化系配管18の内面に接触した場合には、シュウ酸ニッケル皮膜が浄化系配管18の内面に形成され、皮膜形成水溶液87Aが形成されたそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触した場合には、シュウ酸ニッケル皮膜ではなく、混在皮膜(ニッケル金属及びシュウ酸ニッケルが混在する混在皮膜)がそのシュウ酸ニッケル皮膜の表面に形成される理由を、以下に説明する。
皮膜形成水溶液87Aは、ニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン(pH調整剤)及びシュウ酸を含み還元剤(ヒドラジン)を含まない、pHが2.5で90℃の皮膜形成水溶液87に、ヒドラジン(還元剤)を注入することによって生成される。皮膜形成水溶液87Aは、皮膜形成水溶液87にヒドラジン(還元剤)を注入するために、ヒドラジン(還元剤)が注入された分、皮膜形成水溶液87よりもヒドラジン濃度が増加し、pHも皮膜形成水溶液87よりも高くなる。
シュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)等を含むpHが2.5である皮膜形成水溶液87を浄化系配管18の内面に接触させた場合には、シュウ酸ニッケル皮膜が浄化系配管18の内面に形成されるが、混在皮膜は形成されない。これに対して、ヒドラジン(還元剤)が皮膜形成水溶液87に注入されてpHが皮膜形成水溶液87よりも高くなった皮膜形成水溶液87Aをシュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させた場合には、そのシュウ酸ニッケル皮膜の表面にその混在皮膜が形成される。このように、皮膜形成水溶液のpHが4.0以上になると、シュウ酸ニッケル皮膜の上に混在皮膜が形成される。なお、皮膜形成水溶液のpHが4.0未満の場合には、混在皮膜が形成されない。
実施例1及び3のそれぞれにおいても、ニッケルイオン、ギ酸、ヒドラジン(pH調整剤)及びシュウ酸を含み還元剤(ヒドラジン)を含まない90℃の皮膜形成水溶液87のpHが2.5と低いので、浄化系配管18の内面には、上記の混在皮膜が形成されず、シュウ酸ニッケル皮膜が形成される。
本実施例では、シュウ酸ニッケル混在皮膜86Aがシュウ酸ニッケル皮膜部であり、シュウ酸ニッケル皮膜86C及び混在皮膜86Bを含むシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aが、シュウ酸ニッケル皮膜86C及び混在皮膜86Bを含むシュウ酸ニッケル皮膜部である。
本実施例のステップS4の工程では、ギ酸ニッケル水溶液を循環配管31に注入してからの経過時間が、前述の第1設定時間よりも長い第2設定時間になったとき、シュウ酸ニッケル混在皮膜86Aの浄化系配管18の内面への形成が終了する。この第2設定時間は、シュウ酸ニッケル皮膜86Cのシュウ酸ニッケル皮膜の量が、例えば、250μg/cm2になる第1設定時間(例えば、30分)に、シュウ酸ニッケル皮膜86Cの表面に形成される混在皮膜86Bの厚みが所定厚みになるまでに要する時間を加えた時間である。
ステップS4の工程が終了した後、ステップS5及びS6の各工程が実施され、さらに、ステップS7(錯イオン形成剤の注入)、ステップS8(白金イオン溶液の注入)及びステップS9(還元剤の注入)が実施される。ステップS7,S8及びS9の各工程の実施により、生成された、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃の水溶液89が、浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aの表面に接触される(図17参照)。水溶液89が接触したシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aの表面、具体的には、混在皮膜86Bの表面に、図17に示すように、白金88が付着する。ステップS10の判定が「Yes」になったとき、ステップS11〜S13の各工程が、順次、実施される。
そして、原子力プラントが起動され(ステップS14)、酸素を含む130℃以上の温度の炉水を、白金が付着されたシュウ酸ニッケル混在皮膜に接触させる(ステップS15)。実施例1と同様に、酸素を含む130℃以上280℃以下の温度範囲内の温度の炉水90が、浄化系配管18の内面に形成された、白金88が付着したシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aの表面、すなわち、混在皮膜86Bの表面に接触する。炉水90に含まれる酸素、及び浄化系配管18に含まれるFeがイオン化されたFe2+が、シュウ酸ニッケル混在皮膜86Aの混在皮膜86B及びシュウ酸ニッケル皮膜86Cのそれぞれに移行する。付着した白金88の作用による、浄化系配管18及びシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aのそれぞれの腐食電位の低下、及び130℃以上280℃以下の温度範囲内の高温環境下で、混在皮膜86B及びシュウ酸ニッケル皮膜86Cが、移行した酸素及びFe2+と反応して安定なニッケルフェライト(NiFe24)に変換される。
このため、本実施例では、混在皮膜86B及びシュウ酸ニッケル皮膜86Cのそれぞれが安定なニッケルフェライト(NiFe24)皮膜91に変換される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、浄化系配管18の内面に、混在皮膜86B及びシュウ酸ニッケル皮膜86Cを含むシュウ酸ニッケル混在皮膜86Aを形成しているため、本実施例における、浄化系配管18の内面を覆う安定なニッケルフェライト皮膜91の厚みを、実施例1において形成される安定なニッケルフェライト皮膜91の厚みよりも厚くすることができる。具体的には、本実施例における安定なニッケルフェライト皮膜91の厚みは、混在皮膜86Bの厚みだけ、実施例1におけるその厚みよりも厚くなる。
実施例3で用いる加熱システム92は実施例2及び4のそれぞれで使用することができ、実施例2及び4のそれぞれでは、図13に示すステップS1、S15及びS17の各工程をステップS14及びS15の替りに、その順番で適用することができる。
前述した実施例1ないし5は、加圧水型原子力プラントの炉水に接触する炭素鋼部材に対して適用することができる。
1…沸騰水型原子力発電プラント、2…原子炉、3…原子炉圧力容器、4…炉心、6…再循環系配管、9…タービン、11…給水配管、14…低圧給水加熱器、16…高圧給水加熱器、18…浄化系配管、30…皮膜形成装置、31,93…循環配管、33…加熱器、34,35…循環ポンプ、36…ニッケルイオン注入装置、37,42,47,57…薬液タンク、38,43,48…注入ポンプ、41…還元剤注入装置、46…白金イオン注入装置、52…冷却器、53…カチオン交換樹脂塔、54…混床樹脂塔、55…分解装置、56…酸化剤供給装置、58…供給ポンプ、86,86C…シュウ酸ニッケル皮膜、86A…シュウ酸ニッケル混在皮膜、86B…シュウ酸ニッケル及びニッケル金属が混在する混在皮膜、88…白金、91…安定なニッケルフェライト皮膜。

Claims (12)

  1. 原子力プラントの炭素鋼部材への還元除染液を用いた還元除染、及び前記還元除染の終了後に実施される、前記還元除染液に含まれるシュウ酸の分解のいずれかの工程が終了した後、ニッケルイオン及びシュウ酸を含む皮膜形成液を、前記炭素鋼部材の第1表面に接触させて、この第1表面に、この第1表面を覆う、シュウ酸ニッケル皮膜を含むシュウ酸ニッケル皮膜部を形成し、
    貴金属を前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に付着させ、
    酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の水を前記貴金属が付着した前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に接触させ、
    前記シュウ酸ニッケル皮膜部の形成及び前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面への前記貴金属の付着が、前記原子力プラントの運転停止後で前記原子力プラントの起動前に行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  2. 前記皮膜形成液が、シュウ酸を含む前記還元除染液にギ酸ニッケル水溶液を注入することにより生成され、
    前記皮膜形成液に含まれるシュウ酸及びギ酸のそれぞれの分解が、前記シュウ酸ニッケル皮膜部を前記炭素鋼部材の第1表面に形成した後に実施される請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  3. 前記シュウ酸ニッケル皮膜部の形成が、原子炉圧力容器に連絡される、前記炭素鋼部材である第1配管に、第2配管を通して前記皮膜形成液を供給して、この皮膜形成液を前記炭素鋼部材の第1表面である前記第1配管の内面に接触させることにより前記第1配管の内面において行われ、
    前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面への前記貴金属の付着が、貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を、前記第2配管を通して前記第1配管に供給して、この水溶液を前記第1配管の内面に形成された前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に接触させることにより行われる請求項1または2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  4. 前記皮膜形成液を前記第1配管及び前記第2配管を含む閉ループ内で循環させ、前記貴金属イオン及び前記還元剤を含む前記水溶液を前記閉ループ内で循環させる請求項3に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  5. 前記シュウ酸ニッケル皮膜部の形成が、pHが2.5以上6.0以下の範囲内の値に調整された前記皮膜形成液を前記炭素鋼部材の第1表面に接触させることにより行われる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  6. 前記シュウ酸を含む前記還元除染液に、酸化剤及びギ酸の少なくとも1つを注入する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  7. 130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の前記水が、前記原子炉圧力容器内での加熱によって生成される炉水である請求項3または4に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  8. 前記第2配管を前記第1配管から取り外した後、第3配管の両端部を前記第1配管に接続して前記第1配管及び前記第3配管を含む他の閉ループを形成し、
    前記酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度になっている前記水の前記第1配管への供給は、前記他の閉ループ内を循環する、前記酸素を含む前記水を、前記第3配管に設けられた加熱装置により130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度に加熱して前記第3配管から前記第1配管に供給することによって行い、
    前記酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度になっている前記水の、前記貴金属が付着した前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面への接触は、前記第3配管から前記第1配管に供給された、前記酸素を含む130℃以上330℃以下の温度範囲内の温度の前記水を、前記第1配管の内面に形成された前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に接触させることにより行われ、
    前記第3配管の前記第1配管への接続は、前記原子力プラントの運転停止後で前記原子力プラントの起動前に行われる請求項4に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  9. 前記貴金属イオン及び前記還元剤を含む前記水溶液に錯イオン形成剤を注入し、前記錯イオン形成剤を含む前記水溶液を、前記シュウ酸ニッケル皮膜部の第2表面に接触させる請求項3,4及び8のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  10. 前記シュウ酸ニッケル皮膜部が、前記炭素鋼部材の第1表面に形成されてこの第1表面を覆うシュウ酸ニッケル皮膜、及び前記シュウ酸ニッケル皮膜の上に形成される、シュウ酸ニッケル及びニッケル金属が混在する混在皮膜を含んでいる請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  11. 前記シュウ酸ニッケル皮膜の形成は、pHが2.5以上6.0以下の範囲内の値である前記皮膜形成液を、前記炭素鋼部材の表面に接触させることにより行われ、
    前記混在皮膜の形成は、ニッケルイオン、還元剤及びシュウ酸を含むみ酸素を含まないpHが2.5以上6.0以下の範囲内の値である第2皮膜形成液を、前記シュウ酸ニッケル皮膜の表面に接触させることにより行われる請求項10に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
  12. 前記皮膜形成液の温度が、60℃以上100℃以下の温度範囲内にある請求項1ないし11のいずれか1項に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法。
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