発明者らは、原子力プラントの構造部材の表面における、Co−60を取り込み易い酸化被膜の形成について詳細に検討した。この結果、発明者らは、原子力プラントの運転中において原子力プラントの構造部材の炉水に接触する表面に酸化皮膜が形成された後、原子炉圧力容器内の炉水への白金注入によりその酸化皮膜の表面に白金が付着すると、この付着した白金によりその酸化皮膜の組成が変化してCo−60を取り込み易い酸化皮膜に変化することを突き止めた。また、構造部材の、酸化皮膜が形成されていない金属の表面に、酸化皮膜形成前に白金を付着させると、炉水の模擬水を接触させてその金属の表面に酸化皮膜を形成させても、この酸化皮膜へのCo−60を取り込みが抑制され、結果的に、原子力プラントの構造部材の炉水に接触する表面におけるCo−60の付着量を抑制できることが分かった。つまり、原子力プラントの構造部材の母材表面に酸化皮膜が形成されていない状態でその構造部材の表面を強還元環境に曝すことで、構造部材の母材から溶出したFeイオンの構造部材表面の酸化によるFe酸化物の析出を抑え、酸化物中に取り込まれるCo−60の構造部材表面への付着を抑制するだけでなく、構造部材の応力腐食割れの進展を抑制することができる。
沸騰水型原子力プラントでは、ステンレス鋼製の構造部材(例えば、再循環系配管等)が使用されており、このステンレス鋼製の構造部材を模擬したステンレス鋼製の試験片を用いて以下の検討を行った。
発明者らは、ステンレス試験片を研磨しただけの未処理試験片、及びこの未処理試験片を白金溶液に浸漬して白金を付着させて試験片(白金付着試験片)を、沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内の炉水を模擬した、Co−60を含む280℃の高温水に浸漬し、それぞれの試験片に取り込まれたCo−60の量を測定した。この測定結果を図4に示す。その高温水は、約200ppbの溶存酸素、約50ppbの溶存水素、及び過酸化水素を含んでいる。図4に示された結果は、その高温水に浸漬した白金付着試験片の表面に形成された酸化皮膜へのCo−60の取り込みが、未処理試験片に比べて抑制されていることを示している。発明者らは、以上に述べた知見に基づいて、酸化皮膜が形成されていない状態で原子力プラントの構造部材の表面に白金を付着させ、その後、原子力プラントの運転を開始して定格出力条件での高温の炉水を構造部材に接触するようにすれば、構造部材の表面に形成される酸化皮膜への高温の炉水中のCo−60の取り込みが抑制されると共に、炉水に注入される水素及び構造部材の表面に付着した白金の作用によって、構造部材の腐食電位が低下し、構造部材における応力腐食割れの発生及び進展を抑制することができる、と考えた。
原子力プラントの構造部材の炉水と接触する表面に白金を付着させる従来の貴金属注入技術では、原子力プラントの起動から所定期間(例えば、3ヶ月程度)経過した後、白金が原子力プラントの運転中において炉水に注入される。貴金属が注入されるまでの間に構造部材の表面で酸化皮膜が成長し、白金の注入によってこの酸化皮膜に白金が付着することで前述のような酸化皮膜の組成変化が生じ、その際にCo−60が酸化皮膜に取り込まれてしまうのである。
そこで、発明者らは、原子力プラントが起動してから白金を注入するまでの間に形成されるCo−60を取り込み易い酸化皮膜を構造部材の炉水と接触する表面に形成させない方法について種々検討した。この結果、構造部材に形成された酸化皮膜を除去するために原子力プラントが停止している間に実施される化学除染の期間内で、構造部材の、酸化皮膜が除去された表面に白金を付着させることにより、原子力プラントの運転後に構造部材の表面に形成される酸化皮膜へのCo−60の取り込みが、白金を付着しない場合に比べて抑制されることが分かった。
発明者らは、原子力プラントの起動前の原子力プラントの停止中で化学除染を実施している間に白金を原子力プラントの構造部材の表面に付着できる技術について検討を行った。この検討の一環として、発明者らが原子炉圧力容器内の炉水に白金を注入して原子力プラントの構造部材の表面に白金粒子を付着させる従来の貴金属注入を検討したところ、炉水に含まれる白金イオンが原子力プラントの構造部材の表面で還元されてその構造部材の表面に白金として付着されることが分かった。さらに、100℃以下の低温においても白金イオンを還元できる方法についても、発明者らは検討した。この検討の結果、還元除染液に含まれる還元除染剤(例えば、シュウ酸)の一部を分解した後、白金イオンを含む薬剤及び還元剤を添加した還元除染液を原子力プラントの構造部材の表面に接触させることにより、その表面への白金粒子の付着(または白金皮膜の形成)が実現できることが分かった。また、還元剤を用いて効率的に白金イオンを還元することにより、原子力プラントの運転中に行われる従来の貴金属注入よりも、白金が原子力プラントの構造部材の表面に効率良く付着することを突き止めた。また、還元剤の使用は、特開2006−38483号公報及び特開平10−186085号公報のそれぞれに記載された貴金属の付着処理よりも、白金が原子力プラントの構造部材の表面に効率良く付着すると共に、白金の付着に要する時間に要する時間を短縮することができる。
発明者らは、以上の検討により得られた知見を考慮し、化学除染の一工程である還元除染剤の分解工程の間で、除染された構造部材の表面に効率良く白金を付着させる方法について検討した。その表面に白金を付着させるために還元除染剤の一部を分解処理した還元除染液に白金イオンを供給し、この白金イオンを還元して金属として構造部材の表面に析出させるため、還元剤をその還元除染液に供給する。白金イオン及び還元剤を含む還元除染液を構造部材の表面に接触させることにより、その表面において式(1)または式(2)の反応を生じさせ、その表面に白金粒子を付着させる、またはその表面に白金皮膜を形成させることができる。
Pt2++2e- → Pt ……(1)
Pt4++4e- → Pt ……(2)
還元剤としては、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン及び尿素のいずれかを用いる。水と一緒に供給できる還元剤であれば使用可能であるが、白金は、元々、還元され易いため、還元作用があまり強くないヒドラジンが好適である。ヒドラジンを用いた場合の白金イオンの還元反応は、例えば、式(3)のようにあらわされる。
Pt2++2OH-+N2H4 = Pt+2NH2OH ……(3)
還元除染工程で使用される還元除染液は、例えば、シュウ酸濃度が2000ppmでヒドラジン濃度が600ppmであるpH2.5の水溶液である。還元除染工程では、還元除染液であるこの水溶液のシュウ酸(還元除染剤)の作用により、構造部材の表面の酸化皮膜を溶解してその表面から酸化皮膜を除去している。酸化皮膜の溶解中は、還元除染液のシュウ酸濃度が高くて還元除染液のpHも2.5以下と低いため、構造部材の表面も極僅かながら溶解しているので、構造部材の表面への白金付着にふさわしい条件になっていない。
化学除染の工程における白金イオンの注入時期は、浄化工程が終了した後であれば、還元除染剤の分解工程でのシュウ酸及びヒドラジンの分解及び浄化工程でのシュウ酸の除去が実施されてシュウ酸濃度が著しく低下した水溶液中の不純物の影響を考慮する必要が無いために好都合であるが、浄化工程の終了を待たねばならず、化学除染の全工程に要する時間短縮の観点からは好ましくはない。このため、発明者らは、還元除染剤の分解工程及び浄化工程を含む、還元除染工程終了後の時期において、貴金属、例えば、白金イオンを注入する時点について検討した。
化学除染では、還元除染剤として主にシュウ酸を用いて酸化皮膜を溶解し、溶解した酸化皮膜の金属元素成分はカチオン交換樹脂で除去される。還元除染終了後、還元除染液に含まれるシュウ酸は、過酸化水素及び触媒を用いて水と二酸化炭素に分解されて除去される。還元除染液に含まれるpH調整剤であるヒドラジンは、過酸化水素及び触媒の作用によって水と窒素に分解される。
発明者らは、シュウ酸の分解によってpHが上昇し、構造部材が溶解しなくなるpH4以上の還元除染液に白金イオンを注入すれば良いと考えた。シュウ酸濃度が2000ppmでヒドラジン濃度が600ppmであるpH2.5の水溶液を還元除染に用いた場合には、pHが4に上昇したとき、pH4のその水溶液に含まれるシュウ酸濃度は50ppmであり、ヒドラジンは完全に分解されてその水溶液には含まれていない。これは、シュウ酸に比べてヒドラジンは非常に分解し易いからである。このため白金イオンを注入する時期は還元剤の分解が開始されpHが上昇して構造材が溶解しなくなるpH4以上になってから以降が良いと考えられる。
発明者らは、白金注入を実施した場合におけるステンレス鋼製の試験片の表面への白金付着量(従来法)、及び白金イオンを含む第1薬剤及び還元剤を含む第2薬剤を純水に添加して生成した処理水溶液をステンレス鋼製の試験片の表面に接触させた場合におけるその試験片の表面への白金付着量を調べた。後者の第1薬剤及び第2薬剤を含む処理水溶液を用いた場合における白金付着量は、従来法における白金付着量の約9倍になった。また、処理水溶液の白金濃度を低下させたときには、白金粒子がステンレス鋼製の試験片の表面に付着することを確認した。
さらに、発明者らは、化学除染中、すなわち、化学除染の、還元除染工程終了後における還元除染剤の分解工程において、原子力プラントの構造部材を模擬したステンレス鋼製の試験片の表面に白金粒子を付着できるかを確認する実験を行った。この実験においては、還元除染工程終了後における還元除染剤の分解工程での還元除染剤の分解途中の還元除染液を模擬した水溶液(模擬還元除染液)が用いられた。この模擬還元除染液は、還元除染剤であるシュウ酸の濃度が50ppmであってヒドラジンが含まれていないpH4のシュウ酸水溶液である。
シュウ酸濃度が50ppmの、模擬還元除染液であるシュウ酸水溶液に、白金イオンを含む第1薬剤及び還元剤(例えば、ヒドラジンを含む第2薬剤)を純水に添加して生成した水溶液を混合し、この混合液にステンレス鋼製の試験片を浸漬させた。白金イオンを含む第1薬剤及びヒドラジンを純水に添加して生成した水溶液の白金濃度は100ppbであり、ステンレス鋼製の試験片を浸漬させた混合液の温度は90℃である。具体的には、シュウ酸を含む混合液は、シュウ酸50ppmを含む水溶液に白金を100ppbとなるように添加し、その後、ヒドラジンを300ppmとなるようにさらに添加して生成された。このシュウ酸を含む混合液のpHは4である。この混合液に上記のステンレス鋼製の試験片を浸漬してから20分経過した後、試験片を混合液から取り出した。そして、試験片表面における白金の付着状態を観察し、試験片表面における白金付着量を求めた。また、1リットルの純水に白金濃度が100ppbとなるようにPt溶液を添加し、その後、ヒドラジンを300ppmとなるようにさらに添加して生成された水溶液に、20分間、ステンレス鋼製の試験片を浸漬した。上記と同様に、ステンレス鋼製の試験片をその水溶液から取り出して試験片表面の白金付着量を求めた。
この結果、白金イオンを含む第1薬剤及びヒドラジンを純水に添加して生成した上記水溶液をステンレス鋼製の試験片の表面に接触させた場合と同様に、混合液から取り出した試験片の表面には、白金粒子が均一に分散して緻密に付着していた。上記したように模擬還元除染液と処理液の混合液(シュウ酸、白金イオン及び還元剤であるヒドラジンを含む水溶液)に浸漬した試験片の表面における白金の付着量は、白金イオンを含む第1薬剤及びヒドラジンを純水に添加して生成した水溶液に浸漬したステンレス鋼製の試験片表面における白金付着量とほぼ同じになった。
貴金属注入により原子力プラントの構造部材の表面に付着させる貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかを用いてもよい。また、還元剤としては、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン及び尿素のいずれかを用いてもよい。
還元除染液に含まれる還元除染剤であるシュウ酸が一部分解されたとき(例えば、還元除染液のpHが4に上昇したとき)、分解されていないシュウ酸以外に、シュウ酸よりも濃度が少ないが、陽イオン交換樹脂で除去しきれなかった鉄イオン及びクロムイオンがその還元除染液内にシュウ酸錯体の形で存在する場合がある。これらのシュウ酸錯体は、還元剤の添加による還元除染液のpHの上昇により分解し、鉄イオン及びクロムイオンが不純物として還元除染液中に存在するようになる。
そこで、発明者らは、ステンレス鋼製の試験片への白金の付着に及ぼす還元除染液に含まれる不純物の影響を調べるため、浄化工程終了後の還元除染液を想定した純水と、浄化工程前の還元除染液を想定した濃度のシュウ酸、及びその1/10の濃度の鉄イオン及びクロムイオン(不純物)を含む水溶液をそれぞれ90℃に加熱し、加熱したその水溶液にステンレス鋼試験片を浸漬した後、その水溶液中の白金イオン濃度が1ppmになるように、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウムをその水溶液に添加した。また、ヒドラジンの濃度が100ppmになるように、ヒドラジンをその水溶液にさらに添加した。ステンレス鋼製試験片を、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム及びヒドラジンを含むその水溶液に4時間浸漬させて、そのステンレス鋼製試験片に白金を付着させた。
浸漬時間である4時間が経過したとき、その試験片を水溶液から取り出す。取り出した試験片を王水で溶解して白金濃度を測定し、ステンレス鋼製試験片への白金付着量を求めた。この結果、浄化工程後の還元除染液を模擬した純水では試験片への白金の付着を確認することができた。しかしながら、不純物(鉄イオン及びクロムイオン)を添加した、浄化工程の前の還元除染液を模擬したその水溶液では、ステンレス鋼製試験片への白金の付着がほとんど見られなかった。
この違いは、不純物を添加したケースでは、鉄イオンが水酸化鉄及びマグネタイトとして水溶液中に析出したことに起因しており、この比表面積が大きい鉄の析出物に白金が付着してしまい、ステンレス鋼製試験片への付着が少なくなったと、発明者らは考えた。そこで、発明者らは、鉄イオンの析出を抑制する方法として、鉄イオンと錯イオンを形成する錯イオン形成剤をその水溶液に添加することにより、その水溶液中での鉄イオンの析出を抑える方法を検討した。ここでは、錯イオン形成剤として、アンモニアを用いた。鉄イオンとアンモニアは、式(4)から式(6)に示されたそれぞれの反応によって、鉄−アンモニア錯イオンを生成する。
Fe3++NH3 → [Fe(NH3)]3+ ……(4)
Fe3++2NH3 → [Fe(NH3)2]3+ ……(5)
Fe3++3NH3 → [Fe(NH3)3]3+ ……(6)
このように、鉄−アンモニア錯イオンが還元除染液である水溶液中に生成されると、還元剤であるヒドラジンが添加されてその水溶液のpHが8程度以上のアルカリ性になったとしても、その水溶液内で鉄イオンの析出が抑制される。しかし、生成されるシュウ酸錯体の量そのものが少ないときには、鉄イオンの析出を抑える錯イオン形成剤を還元除染液に添加しなくても、ステンレス鋼製の構造部材の炉水と接触する表面に、必要量の白金を付着させることができる。このような場合でも、錯イオン形成剤を還元除染液に添加することにより、還元除染液に含まれる白金イオンを、還元剤の助けをかりて、効率良く原子力プラントの構造部材の表面に付着させることができる。このため、構造部材の表面の化学除染及びその表面への貴金属の付着に要する時間をさらに短縮することができる。
白金の付着に及ぼす還元除染液に含まれる不純物の影響を調べる試験に用いた、シュウ酸、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム、ヒドラジン及び不純物(鉄イオン及びクロムイオン)を含む上記の水溶液(模擬還元除染水溶液)に、錯イオン形成剤であるアンモニアを添加して、上記の不純物の影響を調べる試験と同様な試験を行った。アンモニアを添加することにより、鉄析出物の形成が抑制され、その水溶液は透明な状態を維持した。
アンモニアを添加した上記の水溶液を用いた白金付着処理が終了した後におけるステンレス鋼製試験片への白金の付着量を、図5に示す。ステンレス鋼製試験片への白金の付着量が、アンモニアの添加によって、不純物を添加していないケースと同程度まで回復することが分かった。
以上の試験結果に基づいて、化学除染の還元除染剤分解工程において還元除染液中にシュウ酸、鉄イオン及びクロムイオンが残留している場合であっても、還元除染液内での鉄イオンの析出を抑制する、アンモニアのような鉄イオンと錯イオンを形成する物質(錯イオン形成剤)を、還元除染液に添加することにより、白金イオンと還元剤(例えばヒドラジン)の働きで白金イオンを白金として構造部材の表面に付着させることができることを、発明者らは新たに見出した。錯イオン形成剤としては、還元剤(例えば、ヒドラジン)の添加により還元除染液のpHが増加した場合においても、錯イオンの形成によってFe(III)の溶解度を上昇させ、水酸化鉄及びマグネタイトの析出を抑制できる物質であれば良く、アンモニア、ヒドロキシルアミン等のモノアミン類、シアン化合物、尿素及びチオシアン化合物のうち少なくとも1つを用いる。
また、発明者らは、還元剤の使用により貴金属イオン(例えば、白金イオン)の還元反応によって原子力プラントの構造部材(例えば、配管系)の表面への貴金属粒子の付着が促進されるため、白金付着施工対象物であるその構造部材の下流側の表面には、その上流側の表面よりも、貴金属粒子の付着性が低下した、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液が接触することになり、貴金属の付着量が、構造部材の下流側の表面で減少するという課題が生じることを見出した。
この課題は、発明者らが、還元除染の不純物である鉄イオン及びクロムイオンを含み、アンモニア(錯イオン形成剤)、白金イオン及びヒドラジン(還元剤)を添加して生成されたシュウ酸水溶液に、ヒドラジンの添加により白金イオンの還元反応が開始されて30分を経過した後にステンレス鋼製の研磨試験片を浸漬することによって確認した。すなわち、ヒドラジンの添加により白金イオンの還元反応が開始されて30分を経過した後にその研磨試験片をそのシュウ酸水溶液に浸漬しても、研磨試験片の表面への白金の付着が認められなかった。これは、そのシュウ酸水溶液中で白金イオンの白金金属微粒子への還元反応が進行したため、研磨試験片の表面で還元反応を生じて付着する白金イオンが減少したためであると、発明者らは考えた。
この課題に対する対策を種々検討した結果、発明者らは、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含む水溶液を構造部材の表面に接触させ、その後、この水溶液に還元剤を注入し、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液を構造部材の表面に接触させることにより、構造部材の下流側の表面への貴金属の付着量が増加することを見出した。この貴金属付着量の増加を確認した試験を以下に説明する。
貴金属付着量の違いを確認するために、発明者らは、以下に述べるA〜Eの5つのケースについて試験を行った。ケースAの試験では、ステンレス鋼製の研磨試験片を、30分間、還元除染の不純物である鉄イオン及びクロムイオンを含むシュウ酸溶液に10ppmのアンモニア及び1ppmの白金イオンを添加して生成された、鉄イオン、クロムイオン、アンモニア及び白金イオンを含むシュウ酸水溶液に浸漬させ、この水溶液から取り出した。ケースAの試験において、その水溶液から取り出した試験片Aには、図6に示すように、計測誤差範囲の僅かな白金が付着しただけである。
ケースBの試験では、ステンレス鋼製の研磨試験片を、鉄イオン、クロムイオン、10ppmのアンモニア、1ppmの白金イオン及び10ppmのヒドラジン(還元剤)を含むシュウ酸水溶液に4時間浸漬させ、この水溶液から取り出した。ケースBの試験において、その水溶液から取り出した試験片Bには、図6に示すように、約1μg/cm2の白金が付着した。
ケースCの試験では、ステンレス鋼製の研磨試験片をケースAで用いたシュウ酸水溶液に30分浸漬させ、その後、この水溶液に10ppmのヒドラジンを添加し、さらに、ヒドラジンの添加から4時間が経過したとき、その試験片をヒドラジンを含むこの水溶液から取り出した。ケースCの試験において、その水溶液から取り出した試験片Cには、図6に示すように、ケースBに比べて1.6倍の約1.6μg/cm2の白金が付着した。
ケースDの試験では、鉄イオン、クロムイオン、10ppmのアンモニア及び1ppmの白金イオンを含むシュウ酸水溶液に10ppmのヒドラジンを添加して30分が経過したとき、ステンレス鋼製の研磨試験片を、鉄イオン、クロムイオン、アンモニア及び白金イオン及びヒドジンを含むそのシュウ酸水溶液に浸漬し、4時間経過後にこの水溶液から取り出した。ケースDの試験において、その水溶液から取り出した試験片Dには、図6に示すように、白金がほとんど付着しなかった。これは、ヒドラジンの添加によって白金イオンの還元反応が進行し、シュウ酸溶液中に白金の微細粒子が析出して試験片の表面への白金の付着性が低下したためと考えられる。
ケースEの試験では、ステンレス鋼製の研磨試験片をケースAで用いたシュウ酸水溶液に30分浸漬させてこの水溶液から取り出し、その後、この水溶液に10ppmのヒドラジンを添加し、ヒドラジンの添加から30分が経過したとき、取り出した試験片を、ヒドラジンを含むその水溶液に浸漬させ、さらに4時間が経過したとき、その試験片をこの水溶液から取り出した。ケースEの試験において、その水溶液から取り出した試験片Eには、図6に示すように、ケースCよりも多い、約3.5μg/cm2の白金が付着した。
ケースCの試験における鉄イオン、クロムイオン、アンモニア及び白金イオンを含むシュウ酸水溶液にステンレス鋼製の試験片を浸漬させてからその水溶液にヒドラジンを添加するまでの時間、及びケースEの試験における、ステンレス鋼製の試験片を鉄イオン、クロムイオン、アンモニア及び白金イオンを含むシュウ酸水溶液に一度浸漬させてから取り出し、試験片を取り出したその水溶液にヒドラジンを添加した時点から試験片を再浸漬するまでの時間を、それぞれ5分及び1時間に変えた試験をそれぞれ行った。ケースC及びEでは、アンモニア及び白金イオンを含むシュウ酸水溶液に試験片を浸漬させてからその水溶液にヒドラジンを添加するまでの時間が、5分及び1時間であっても、各試験片には、30分の場合と同様に、試験片Bよりも白金の付着量が多くなった。ただし、ケースC及びEにおいても、アンモニア及び白金イオンを含むシュウ酸水溶液に試験片を浸漬させてからその水溶液にヒドラジンを添加するまでの時間が5分未満のときには、試験片への白金の付着量は試験片Bと同等であった。
以上の試験結果から、発明者らは、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み、還元剤(例えばヒドラジン)を含まない水溶液を、原子力プラントの構造部材の表面に接触させ、この水溶液の構造部材の表面への接触後、5分から1時間の範囲内の時間が経過した時点で、その表面に、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液を接触させることにより、構造部材表面への貴金属の付着量を回復させることができ、その付着量を増加させることができることを見出した。これは、錯イオン形成剤及び還元除染剤を含む水溶液に注入した貴金属イオンが貴金属として構造部材の表面に付着する効率を向上させる。
特に、ケースEのように、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液を原子力プラントの構造部材の表面に接触させ、その後、この水溶液が構造部材の表面に接触しない期間を出現させ、この水溶液が構造部材の表面に接触しないその期間を経て、前述のその水溶液と構造部材の表面の接触から、5分〜1時間の範囲内の時間が経過した時点で、その構造部材の表面に、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液を接触させた場合に、発明者らは、構造部材表面への貴金属の付着量を大幅に増加できることを見出した。このようなケースEの状態は、実施例9で述べるように、沸騰水型原子力プラントの2系統の再循環系配管の間で、シュウ酸水溶液を揺動させることによって実現することができる。
錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液の、原子力プラントの構造部材の表面への接触後、5分から1時間の範囲内の時間が経過した時点で、その表面に、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液を接触させることは、実際の原子力プラントにおいては、原子力プラントの構造部材の表面に接触する、錯イオン形成剤及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液に貴金属イオンを注入した時点から、5分〜1時間の範囲内の時間が経過したときにその水溶液に還元剤を注入することによって実現することができる。白金イオンを注入した時点から還元剤を注入するまでの時間が1時間を超える場合には、原子力プラントの貴金属付着対象物の表面への貴金属の付着に要する時間が長くなり、実機の原子力プラントにとっては稼働率の観点から好ましくない。
錯イオン形成剤の、還元除染剤を含む水溶液への注入、及び還元剤の、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含む水溶液への注入は、上記した、錯イオン形成剤及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液への貴金属イオンの注入から、5分〜1時間の範囲内の時間が経過した時点における還元剤のその水溶液への注入との併用により、貴金属の構造部材の表面への付着効率の向上を図ることができ、さらに、原子力プラントの構造部材の表面の化学除染及びその表面への貴金属の付着に要する時間をさらに短縮することができる。
発明者らは、還元除染剤の分解工程において還元除染剤の分解を開始した以降に原子力プラントの構造部材の炉水に接触する表面に貴金属粒子、例えば、白金粒子を付着させる条件について検討した。還元除染剤の分解を開始した後において、還元除染剤(例えば、シュウ酸)を含む還元除染液(還元除染剤水溶液)に、錯イオン形成剤及び貴金属イオン(例えば、白金イオン)を含む薬剤を添加し、錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み還元剤を含まない第1水溶液を、原子力プラントの構造部材の炉水に接触する面に接触させ、その表面に貴金属イオンを吸着させるためには、その第1水溶液のpHを4.0以上にする必要がある。その水溶液のpHの上限は9.0である。また、第1水溶液を構造部材の表面に接触させた後、この表面に貴金属を付着させるために、その表面に接触される、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む第2水溶液のpHも、4.0〜9.0の範囲内にする。この結果、原子力プラントの構造部材の表面に貴金属粒子(例えば白金粒子)を付着させるためにその表面に接触させる、錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液のpHは、4.0〜9.0の範囲にすることが望ましい。その水溶液のpHが4.0未満であるときは、還元除染液に含まれている還元除染剤の作用により、その構造部材の表面が溶解するため、貴金属粒子が構造部材の表面に付着しなくなる。
錯イオン形成剤、白金イオンを含む薬剤、還元剤、及び還元除染剤を含む水溶液の温度を、60℃から100℃の範囲内に調節することが望ましい。その水溶液の温度が60℃よりも低くなると貴金属が原子力プラントの構造部材の表面に付着しにくくなり、所定量の貴金属がその表面に付着するまで長時間を要することになる。このため、錯イオン形成剤、白金イオンを含む薬剤、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液の温度は60℃以上にすることにより、原子力プラントの構造部材の表面に短時間に貴金属を付着させることができ、原子力プラントの定期検査の他の工程に悪影響を与えることを避けることができる。また、その水溶液の温度が100℃よりも高くなると、その水溶液の沸騰を抑制するために水溶液を加圧しなければならない。このため、仮設設備である貴金属注入装置に耐圧性が要求され、その装置が大型化する。したがって、その水溶液の温度が100℃よりも高くすることは好ましくない。
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の実施例を、以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内に複数のジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、ステンレス鋼製の複数の再循環系配管22、及び再循環系配管22のそれぞれに設置された再循環ポンプ21を有する。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を、復水器4からRPV12に向って、この順に設置して構成されている。水素注入装置28が、復水器4と復水ポンプ5の間で給水配管10に接続されている。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
RPV12内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴射される。この噴射により、ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された炉水は燃料集合体の各燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12内に設けられた気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)にて水分が除去された後に、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管15によりタービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水を加熱する。
給水として炉心に持ち込まれた水は、核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解され、過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を生成する。この酸化性化学種によって、炉水と接触する、BWRプラントの構造部材(例えば、再循環系配管22)の腐食電位が上昇する。構造部材の腐食電位の増大は、この構造部材の応力腐食割れの要因となる。このため、応力腐食割れに対する環境緩和対策として、水素が、給水配管12内を流れる給水に水素注入装置16から注入され、RPV12内の炉水に注入される。この注入された水素を炉水中の酸化性化学種(例えば、溶存酸素)と反応させることにより、炉水中の酸化性化学種の濃度を低減させて構造部材の腐食電位を低下させることが行われている。炉水に水素を注入しながら行うBWRプラントの運転を水素注入水質運転(HWC:Hydrogen Water Chemistry)と呼び、その水素注入を行わないBWRプラントの運転を通常水質運転(NWC:NOrmal Water Chemistry)と呼んでいる。
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
BWRプラントは、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心13に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心13に装荷される。この燃料交換が終了した後、BWRプラントが再度起動される。燃料交換のためにBWRプラントが停止されている期間を利用して、BWRプラントの保守点検が行われる。
BWRプラントの保守点検の期間中において、RPV12に接続された配管系(例えば、再循環系配管22及び浄化系配管20等)の、炉水と接触するする内面への白金の付着処理が行われる。この白金の付着処理には、仮設の設備である貴金属注入装置30が用いられる。貴金属注入装置30の循環配管35の両端部が、BWRプラントの運転が停止された後、貴金属付着対象物である、例えば、再循環系配管22に接続される。再循環系配管22はBWRプラントの構造部材の一つである。貴金属注入装置30は、再循環系配管22の内面への貴金属(例えば、白金)の付着処理が終了した後でBWRプラントの運転開始前に再循環系配管22から取り外される。貴金属注入装置30は、BWRプラントの運転が停止されている期間において、BWRプラントの運転中において構造部材の表面に形成された放射性核種を含む酸化皮膜の溶解除去、還元除染液に含まれる還元除染剤の分解、化学除染後の構造部材の表面への貴金属の付着、及び貴金属付着の際に還元除染液に添加した薬剤(還元剤及び錯イオン形成剤)の除去の各処理に用いられる。
本実施例では、貴金属付着対象物として再循環系配管22を選択したが、給水系、冷却材浄化系、及び補機冷却水系の各配管を貴金属付着対象物にする場合には、該当する貴金属付着対象物の配管系に循環配管35を接続する。
貴金属注入装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。貴金属注入装置30は、サージタンク31、循環ポンプ33,29、加熱器32、循環配管35、エゼクタ37、白金イオン注入装置39、還元剤注入装置44、錯イオン形成剤注入装置49、酸化剤供給装置54、カチオン交換樹脂塔66、混床樹脂塔69及び分解装置77を備えている。
開閉弁59、循環ポンプ29、弁60,61及び62、サージタンク31、循環ポンプ33、弁34及び開閉弁36が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。弁60をバイパスする配管65が循環配管35に接続され、冷却器63及び弁64が配管65に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁61をバイパスする配管68に、カチオン交換樹脂塔66及び弁67が設置される。両端が配管68に接続されてカチオン交換樹脂塔66及び弁67をバイパスする配管71に、混床樹脂塔69及び弁70が設置される。カチオン交換樹脂塔66は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔69は陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填している。
弁72及び分解装置77が設置される配管73が弁62をバイパスして循環配管35に接続される。分解装置77は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク31が弁62と循環ポンプ33の間で循環配管35に設置される。加熱器32がサージタンク31内に配置される。弁38及びエゼクタ37が設けられる配管74が、弁34と循環ポンプ33の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。再循環系配管22の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには再循環系配管22の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
白金イオン注入装置39が、薬液タンク40、注入ポンプ41及び注入配管43を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ41及び弁42を有する注入配管43によって循環配管35に接続される。白金錯体を水に溶解して調製した白金イオンを含む薬剤(第1薬剤)が、薬液タンク40内に充填されている。白金錯体としては、例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を用いる。
還元剤注入装置44が、薬液タンク45、注入ポンプ46及び注入配管48を有する。薬液タンク45は、注入ポンプ46及び弁47を有する注入配管48によって循環配管35に接続される。還元剤であるヒドラジンが薬液タンク45内に充填される。
錯イオン形成剤注入装置49が、薬液タンク50、注入ポンプ51及び注入配管53を有する。薬液タンク50は、注入ポンプ51及び弁52を有する注入配管53によって循環配管35に接続される。錯イオン形成剤であるアンモニア水が薬液タンク50内に充填される。
酸化剤供給装置54が、薬液タンク55、供給ポンプ56及び供給配管58を有する。薬液タンク55は、供給ポンプ56及び弁57を有する供給配管58によって分解装置77より上流で配管73に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク55内に充填される。酸化剤としては、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。
pH計75が、注入配管48と循環配管35の接続点よりも下流で循環配管35に取り付けられる。導電率計101が、注入配管53と循環配管35の接続点と弁34の間で循環配管35に取り付けられる。
弁80を設けた配管76の両端部が、pH計75と開閉弁36の間に存在する循環配管2、及び開閉弁59と循環ポンプ29の間に存在する循環配管2にそれぞれ接続される。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図1を用いて詳細に説明する。本実施例では、貴金属の一種である白金がステンレス鋼製の再循環系配管の内面に付着される。この白金付着は、化学除染の還元除染の終了後における還元剤の分解工程の途中で行われる。本実施例で行われる化学除染は、ステンレス鋼製の再循環系配管を対象に行われるため、酸化除染液による酸化除染工程及び酸化除染剤分解工程を含んでおり、これらの工程以外に、還元除染液による還元除染工程、還元除染剤分解工程及び浄化工程を含んでいる。貴金属注入装置30を用いて行われる図1に示す手順は、白金の、その構造部材の表面への付着工程だけでなく、その構造部材の表面の化学除染、白金の付着に用いた処理液に含まれる還元剤(例えば、ヒドラジン)の分解、及び錯イオン形成剤の除去の各工程を含んでいる。
まず、貴金属注入装置を貴金属付着対象物の配管系に接続する(ステップS1)。BWRプラントの運転が停止されているときに、例えば、再循環系配管22に接続されている浄化系配管20に設置されている弁23のボンネットを開放して浄化系ポンプ24側を封鎖する。循環配管35の一端が弁23のフランジに接続される。これにより、循環配管35の一端が再循環系ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。他方、再循環ポンプ21の下流側で再循環系配管22に接続されたドレン配管または計装配管などの枝管を切り離し、その切り離された枝管に、循環配管35の他端を接続する。循環配管35の両端が再循環系配管22に接続され、再循環系配管22及び循環配管35を含む閉ループが形成される。再循環系配管22の両端部におけるRPV12内での各開口部は、後述する酸化除染液、還元除染液、及び白金イオン、ヒドラジン及びシュウ酸を含む水溶液がRPV12内に流入しないように、プラグ(図示せず)でそれぞれ封鎖される。
貴金属付着対象物に対して化学除染における酸化除染及び還元除染を実施する(ステップS2)。運転を経験したBWRプラントでは、RPV12内の炉水と接触する、配管系の内面に、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されている。このため、白金をその配管系の内面に付着させる前に、放射性核種を除去することが好ましい。皮膜形成対象物の配管系への白金の付着は、その配管系内面の放射性核種の付着抑制及び応力腐食割れ抑制を目的とするものであるが、事前にその酸化皮膜を除去することは、形成される白金付着物が放射性核種を取り込んだ酸化皮膜を覆うことを防ぎ、配管系の線量を低減させることになる。本実施例では、配管系の内面に形成された、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜の除去が、化学除染により行われる。
ステップS2以降で適用する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)である。化学除染等に用いられる水が、サージタンク31に充填されている。弁36,34,62,61,60及び59をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ29及び33を駆動する。サージタンク31内で加熱器32により加熱された水が、循環配管35及び再循環系配管22によって形成される閉ループ内を循環する。循環する水の温度は、加熱器32により90℃に調節される。必要量の過マンガン酸カリウムは、エゼクタ37を通して水が流れる配管74内に供給され、サージタンク31に導かれ、過マンガン酸カリウム水溶液(酸化除染液)を生成する。この酸化除染液は、サージタンク31から循環配管35を経て再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物(放射性核種を含む)を溶解する(酸化除染工程)。
酸化除染が終了した後、エゼクタ37から配管74内に供給されるシュウ酸をサージタンク31内に注入する。このシュウ酸によって酸化除染液に含まれている過マンガン酸カリウムが分解される(酸化除染剤分解工程)。その後、シュウ酸の供給によりサージタンク31内で生成され、ヒドラジンによりpHが調節されたシュウ酸水溶液(還元除染液)は、循環配管35から再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に付着している腐食生成物(放射性核種を含む)の還元溶解を行う(還元除染工程)。薬液タンク45内のヒドラジンは、還元剤注入装置44において弁47を開き、注入ポンプ46を駆動することにより、注入配管48を通して循環配管35内に注入される。pH計75で測定されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて注入ポンプ46(または弁47の開度)を制御してヒドラジン注入量を調節することにより、再循環系配管22に供給されるシュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。本実施例では、再循環系配管22の内面に白金を付着させるときに用いられる還元剤であるヒドラジンが、還元除染工程でシュウ酸水溶液のpH調整剤として利用される。再循環系配管22に供給されるシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が2000ppmであり、シュウ酸水溶液のpHは2.5である。再循環系配管22の内面に付着している、放射性核種を含む腐食生成物が、そのシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸によって溶解され除去される。
放射性核種及び腐食生成物が溶解しているシュウ酸水溶液が、再循環系配管22から循環配管35に排出される。弁67を開いて弁58の開度を調節することにより、循環配管35に排出されたシュウ酸水溶液の一部が、配管68を通して、カチオン交換樹脂塔66に導かれる。シュウ酸水溶液に含まれた放射性核種の金属陽イオン等の金属陽イオンは、カチオン交換樹脂塔66内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン交換樹脂塔66から排出されたシュウ酸水溶液及び弁58を通過したシュウ酸水溶液は、循環配管35から再循環系配管22内に再び供給される。このように、シュウ酸水溶液は、循環配管35及び再循環系配管22を含む閉ループ内を循環しながら、再循環系配管22の内面の還元除染を行う。
還元除染剤分解工程が実施される(ステップS3)。この還元除染剤分解工程は、還元除染剤及びpH調整剤の分解工程(ステップS3a)及び還元除染剤及び還元剤の分解工程(ステップS3c)を含んでいる。
ステップS2における還元除染が終了した後、ステップS3aが以下のように実施される。ステップS3aでは、還元除染液に含まれる還元除染剤(シュウ酸)の一部が分解される(ステップS3b)。注入ポンプ46の駆動を停止して弁47を全閉にし、薬液タンク45から循環配管35へのpH調整剤であるヒドラジンの注入を停止する。さらに、弁72を開いて弁62の開度を調整して循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液の一部を分解装置77に供給する。このシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、供給ポンプ56の駆動により薬液タンク55から供給配管58を通して分解装置77に導かれた過酸化水素、及び分解装置77内の活性炭触媒の作用によって分解される。シュウ酸及びヒドラジンの分解装置77内での分解は、シュウ酸水溶液を再循環系配管22及び循環配管35により形成される閉ループ内を循環させながら行われる。過酸化水素によるシュウ酸及びヒドラジンの活性炭触媒上での分解反応は、式(7)及び式(8)で表される。
(COOH)2+H2O2 → 2CO2+2H2O ……(7)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(8)
シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸の分解により、シュウ酸水溶液のpHは徐々に大きくなる。pH計75で測定したシュウ酸水溶液のpHが、例えば、約4.5になったとき、供給ポンプ56を停止し、弁62を全開にし、弁57,72を全閉にする。これにより、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸の分解が停止され、ステップS3bの工程が終了する。ヒドラジンは分解され易いので、ステップS3bの工程におけるシュウ酸の分解によりpHが4になったシュウ酸水溶液は、ヒドラジンを含んでいない。さらに、弁67を閉じてシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔66への供給を停止する。なお、pH4.5のシュウ酸水溶液は、シュウ酸濃度が約20ppmであり、ヒドラジンが存在していない。
シュウ酸の一部の分解が終了したとき、例えば、シュウ酸濃度が約20ppmになったとき、シュウ酸水溶液は、シュウ酸、及びシュウ酸によって溶解された酸化被膜成分であるFe(III)イオン及びCr(III)イオンを含んでいる。シュウ酸濃度が約20ppmであるシュウ酸水溶液は、Fe(III)イオン及びCr(III)イオンを2ppm含んでいる。BWRプラントの構造部材の表面に白金を付着させるために、シュウ酸濃度が約20ppmであるシュウ酸水溶液に白金イオン及び還元剤であるヒドラジンを注入すると、ヒドラジンの注入によるシュウ酸水溶液のpHの上昇の度合いによっては、Fe(III)イオンが水酸化鉄やマグネタイトを形成してその水溶液中に析出する可能性がある。水酸化鉄やマグネタイトが析出した場合には、析出した水酸化鉄やマグネタイトに注入した白金イオンが白金として付着してしまうために、還元除染された構造物表面への白金の付着量が減少することが、前述したように、発明者らの検討により分かった。還元除染された構造物表面への白金付着量の減少を抑制するために、発明者らは、Fe(III)イオンと錯イオンを形成する錯イオン形成剤、例えば、アンモニアを、後述するように、シュウ酸濃度が約20ppmであるシュウ酸水溶液に添加することにした。
錯イオン形成剤を注入する(ステップS4)。シュウ酸の一部分解により、還元除染液のpHが約4.5になったとき、錯イオン形成剤注入装置49から循環配管35内に錯イオン形成剤であるアンモニアを含むアンモニア水が注入される。弁52を開いて注入ポンプ51を駆動すると、薬液タンク50内のアンモニア水が、注入配管53を通して循環配管35内に注入される。アンモニア水の注入前に、注入されたアンモニア水がイオン交換樹脂で除去されるのを防ぐために、弁61を開にして弁67及び弁70を閉にする。シュウ酸濃度が約20ppmのシュウ酸水溶液では、このシュウ酸水溶液のアンモニアの濃度が約20ppmになるように、アンモニア水が注入される。シュウ酸水溶液のアンモニア濃度は、このシュウ酸水溶液のFe(III)イオンの濃度よりも高くする必要がある。しかし、アンモニア濃度があまり高いと、廃液処理に要する時間が長くなるので、例えば、シュウ酸溶液のFe(III)イオンの濃度が2ppmであるときには、シュウ酸水溶液のアンモニア濃度が20ppmになるように、アンモニアが注入される。
ステップS4におけるアンモニアの注入は、例えば、以下のように行う。予め、注入開始直後の循環配管35の注入点でのアンモニア濃度が設定濃度になるように、アンモニア水の循環配管35への注入速度を計算し、さらに、循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液内のアンモニアを設定濃度にするのに必要な、薬液タンク50に充填するアンモニア水の量を計算し、計算されたアンモニア水の量を薬液タンク50に充填する。計算されたアンモニア水の注入速度に合わせて注入ポンプ51の回転速度を制御し、薬液タンク50内のアンモニア水がなくなったときに、注入ポンプ51を停止し、薬液タンク50から循環配管35へのアンモニア水の注入を停止する。
この結果、Fe(III)イオン及びアンモニアが、循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液内に共存することになる。式(4)、式(5)及び式(6)のそれぞれの反応により、その水溶液内でFe(III)イオンのアンモニア錯イオンが形成され、Fe(III)イオンの溶解度が増加する。このため、シュウ酸水溶液へのヒドラジンの注入により、その水溶液のpH上昇による水酸化鉄及びマグネタイトの析出が抑制される。
貴金属イオンを含む薬剤を注入する(ステップS5)。弁42を開いて注入ポンプ41を駆動する。薬液タンク40内の貴金属である白金イオンを含む薬剤の水溶液、すなわち、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を含む水溶液(白金イオンを含む水溶液)が注入配管43を通って循環配管35内を流れているアンモニアを含むシュウ酸水溶液に注入される。Na2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液内では、白金はイオン状態になっている。白金イオンを含む薬剤の注入によって生成された、白金イオン及びシュウ酸を含む水溶液が、循環配管35から再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22から循環配管35に戻され、循環配管35及び再循環系配管22で形成される閉ループ内を循環する。
Na2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液は、注入されたアンモニアを含んだシュウ酸水溶液が、再循環系配管22内に流入して循環配管35内に排出され、アンモニア水の注入点である注入配管43と循環配管35の接続点に到達した以降であれば、アンモニア水の注入終了前でも循環配管35に注入しても良い。白金イオンの注入は、アンモニアの注入と同様に行われる。予め、注入開始直後の循環配管35の注入点での白金イオン濃度が設定濃度、例えば、1ppmとなるように、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の循環配管35への注入速度を計算し、さらに、循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液内の白金イオンを設定濃度にするのに必要な、薬液タンク40に充填するNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の量を計算し、計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の量を薬液タンク40に充填する。計算されたNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の注入速度に合わせて注入ポンプ41の回転速度を制御し、薬液タンク40内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液を循環配管35に注入する。
錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液を、所定時間の間、配管系に供給する(ステップS6)。白金イオンを含む水溶液であるNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の、循環配管35への注入を開始した後、5分から1時時間の範囲内の時間、例えば、30分が経過するまで、薬剤タンク45から還元剤であるヒドラジンを循環配管35に注入せず、アンモニア及び白金イオンを含み、還元剤であるヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液を、貴金属付着対象物である再循環系配管22に供給する。このため、再循環系配管22の、循環配管35から供給されるそのシュウ酸水溶液を受け入れる流入口と、この部分の下流に位置し、再循環系配管22の、循環配管35へのそのシュウ酸水溶液の排出口の間の、再循環系配管22の全内面は、後述のステップS7で注入される還元剤であるヒドラジン、アンモニア及び白金イオンを含む、90℃のシュウ酸水溶液に接触する前に、アンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液に接触される。
還元剤を注入する(ステップS7)。Na2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液を、循環配管35内を流れるアンモニアを含むシュウ酸水溶液に注入して30分が経過したとき、還元剤であるヒドラジンを循環配管35に注入する。
還元剤であるヒドラジンの、還元剤注入装置44からの注入は、以下のように行われる。弁47を開いて注入ポンプ46を駆動する。薬液タンク45内の還元剤であるヒドラジンが注入配管48を通って循環配管35内を流れている白金イオン及びアンモニアを含んでいるシュウ酸水溶液に注入される。このようなヒドラジンの注入は、アンモニア水の注入と同様に行われる。予め、注入開始直後の循環配管35の注入点でのヒドラジン濃度が設定濃度、例えば、100ppmとなるように、薬剤タンク45内のヒドラジン水溶液の循環配管35への注入速度を計算し、さらに、循環配管35内を流れる白金イオン及びアンモニアを含むシュウ酸水溶液内のヒドラジンを設定濃度にするのに必要な、薬液タンク45に充填するヒドラジン水溶液の量を計算し、計算されたヒドラジン水溶液の量を薬液タンク45に充填する。計算されたヒドラジン水溶液の注入速度に合わせて注入ポンプ46の回転速度を制御し、薬液タンク45内のヒドラジン水溶液を循環配管35に注入する。
アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含む90℃のシュウ酸水溶液が、再循環系配管22に供給される。アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含む90℃のシュウ酸水溶液は、30分の時間遅れをもって、20ppmのアンモニア及び1ppmの白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液と既に接触した、再循環系配管22の内面に接触しながら、再循環系配管22の、循環配管35へのそのシュウ酸水溶液の排出口に向かって流れる。アンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液が、30分間先行して再循環系配管22の内面に接触することにより、既に、白金イオンが、再循環系配管22の、還元除染が終了した内面に吸着されている。このため、アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含む90℃のシュウ酸水溶液が、30分遅れで、再循環系配管22の内面と接触し、この水溶液に含まれるヒドラジンとこの内面に吸着された白金イオンの還元反応が生じる(下記の式(9)参照)。この還元反応により、再循環系配管22の内面に吸着された白金イオンが、還元され、白金粒子になって効率良くその内面に付着される。
白金イオンの循環配管35への注入からヒドラジンの循環配管35への注入までの時間は、白金イオン注入装置39の注入配管43と循環配管35の接続点から、再循環系配管22の前述の流入口を経て再循環系配管22の前述の排出口までの循環配管35の容積及び再循環系配管22の容積の合計を、循環配管35から再循環系配管22に供給するシュウ酸水溶液の流量で割って得られる時間(30分)にすることが望ましい。
また、アンモニアを含みヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液に白金イオンを注入した時点から5分後にヒドラジンを循環配管35内のアンモニア及び白金イオンを含みヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液に注入した場合においても、このシュウ酸水溶液の白金イオンの濃度が1ppmであるため、アンモニア及び白金イオンを含みヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液が先行して脚循環配管22内を流れることにより、再循環系配管22の前述の流入口を経て再循環系配管22の前述の排出口までの、再循環系配管22の内面全体に亘って、白金イオンが吸着される。吸着された白金イオンは、前述したように、注入されたヒドラジンの作用により白金に還元される。
ヒドラジンによる白金イオンの還元反応は、式(9)のように表される。
Pt4++4OH-+2N2H4 → Pt+4NH2OH ……(9)
シュウ酸水溶液に注入した白金イオンを有効に使用するため、注入するヒドラジンの量は、式(9)の当量よりも多くする必要がある。一方で、過剰なヒドラジンの注入は、後の還元剤の分解処理で負担となるので、ヒドラジンの循環するシュウ酸水溶液への注入量は多くても式(9)の当量の5000倍以下にすることが好ましい。
白金イオン、アンモニア、ヒドラジン(還元剤)及び20ppmのシュウ酸を含む90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35から再循環系配管22に供給される。アンモニアの作用によってシュウ酸水溶液中の鉄イオンが水酸化鉄及びマグネタイトとして析出しなく、再循環系配管22の内面に吸着された白金イオンが、式(9)の還元反応で白金となって再循環系配管22の内面に付着する。
貴金属イオンを含む薬剤及び還元剤の注入を停止する(ステップS8)。白金イオン注入装置39から循環配管35へのNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の注入により、薬液タンク40内のNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液がなくなったとき、注入ポンプ41を停止して弁42を閉じ、薬液タンク40から循環配管35へのNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液の注入を停止する。錯イオン形成剤注入装置49から循環配管35への還元剤であるヒドラジンの注入により、薬液タンク45内のヒドラジン水溶液がなくなったとき、注入ポンプ46を停止して弁47を閉じ、薬液タンク45から循環配管35へのヒドラジン水溶液の注入を停止する。
還元剤であるヒドラジンの水溶液の注入停止後においても、所定時間の間、例えば4時間程度、白金イオン、アンモニア、ヒドラジン(還元剤)及び20ppmのシュウ酸を含む90℃のシュウ酸水溶液を、循環配管35および再循環系配管22で形成された閉ループで循環させる。この循環によって、シュウ酸水溶液に含まれる白金イオンが、前述したように、式(9)に示される反応により白金として析出し、この白金が再循環系配管22の内面に付着する。
還元除染剤及び還元剤の分解を実施する(ステップS3c)。還元剤の注入が停止されて前述の所定時間(例えば、4時間)が経過した後、還元除染剤分解工程が再開される。ステップS3aと同様に、弁72を開いて弁62の開度を調整して循環配管35内を流れる白金イオン、ヒドラジン(還元剤)及びシュウ酸を含む水溶液の一部を、分解装置77に供給する。前述のシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)の分解と同様に、その水溶液に含まれるヒドラジン(還元剤)及びシュウ酸が、過酸化水素、及び分解装置77内に充填された、ルテニウムを担持した活性炭触媒の作用によって分解される(還元除染剤分解工程)。分解装置77に供給される水溶液に含まれる白金イオンは、水溶液に含まれるヒドラジンの作用により白金になり、水溶液中に白金ナノ粒子となって析出する。この白金が、分解装置77内でルテニウムと同様に触媒として作用する。分解装置77内で、供給される水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、配管58により分解装置77に供給された過酸化水素、及びその水溶液内で生成された上記の白金の作用によっても分解される。分解装置77から排出された水溶液が循環配管35内を流れる水溶液に混合され、循環配管35及び再循環系配管22を含む閉ループを循環する。弁61及び弁67のそれぞれの開度が調整され、その水溶液の一部がカチオン交換樹脂塔66に通水されてカチオン成分が浄化される。閉ループを循環する水溶液の導電率が導電率計101で測定される。測定された水溶液の導電率が設定導電率に低下したとき、シュウ酸水溶液(pHは5.6)のシュウ酸濃度が10ppmに低下し、シュウ酸及びヒドラジンの分解が終了する。このとき、ヒドラジンは全て分解されている。弁62が全開にされ、供給ポンプ56が停止され、弁57,72が閉じられて全閉状態になる。
還元除染剤及び還元剤が分解された水溶液の浄化を実施する(ステップS9)。ステップS3cの工程が終了した後、弁64を開いて弁60を閉じ、弁70を開いて弁61、67を閉じる。加熱器32による、シュウ酸及びヒドラジンが分解された水溶液の加熱が停止され、この水溶液が冷却器63で冷却されて水溶液の温度が例えば60℃に調節される。60℃になった、白金付着処理に使用した水溶液が、混床樹脂塔69に供給される。その水溶液に残留している金属イオン成分、還元除染剤成分、錯形成剤、還元剤及び水溶液中に析出した白金粒子が混床樹脂塔69内のイオン交換樹脂に捕集されて水溶液から除去される。この水溶液に含まれるアンモニアは、混床樹脂塔69内の陽イオン交換樹脂により除去される。水溶液にこの時までに含まれる他の不純物、すなわち、放射性核種を含む金属陽イオン、及び陰イオンが混床樹脂塔69内の陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂で除去される(浄化工程)。
廃液を処理する(ステップS10)。浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管35と廃液処理装置(図示せず)を接続する。浄化工程の終了後に循環配管35及び再循環系配管22内に存在する水溶液は、放射性廃液である。その水溶液は高圧ホースに設けられたポンプを駆動して循環配管35から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。循環配管35及び再循環系配管22内の全ての水溶液が、廃液処理装置に排出される。
その後、開閉弁36,59を閉じて弁80を開いて、循環配管35及び配管76内に水を充填し、循環ポンプ29,33を駆動する。その水が、循環配管35及び配管76で形成される閉ループ内を循環し、循環配管35等の内面を洗浄する。洗浄終了後、循環配管35及び配管76内に水は、廃液となり、循環配管35外に排出される。これにより、本実施例における再循環系配管22の化学除染の全工程が終了する。
酸化除染工程、酸化除染剤分解工程、還元除染工程、還元除染剤分解工程及び浄化工程が複数回、例えば、2〜3回繰り返される場合には、ステップS4〜S7の各ステップは最後の還元除染剤分解工程で行われる。
化学除染の全工程が終了した後、循環配管35と廃液処理装置を接続している高圧ホースを取り外し、循環配管35の両端部が再循環系配管22から取り外される。再循環系配管22及び浄化系配管20が循環配管35の接続前の状態に復旧され、その後で、BWRプラントの運転が開始される。
本実施例によれば、アンモニア(錯イオン形成剤)を含みヒドラジン(還元剤)を含まないシュウ酸水溶液に白金イオンを注入してから5分〜1時間の範囲内の時間である30分が経過した時点で、ヒドラジンを循環配管35に注入するので、前述したように、再循環系配管22の内面への白金の付着効率が向上し、注入した白金イオンを有効に再循環系配管22の内面に付着させることができる。本実施例では、再循環系配管22の前述の流入口を経て再循環系配管22の前述の排出口までの、再循環系配管22の内面全体に亘って、白金の付着量を増加させることができる。
本実施例では、還元除染液に含まれているシュウ酸の一部を分解し(ステップS3)、シュウ酸(約20ppm)が残っている状態でシュウ酸水溶液に白金イオン及びヒドラジン(還元剤)を添加するため、再循環系配管22の内面への白金の付着が終了した後、シュウ酸及びヒドラジンが、分解装置77で分解される。その水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、分解装置77内において、分解装置77内の触媒(例えば、活性炭触媒)及び過酸化水素の作用によって分解されるだけでなく、その過酸化水素、及びその水溶液中の白金イオンがヒドラジンによって還元されて生成された白金の作用によっても分解される。このため、本実施例では、その水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解が早く終了し、ステップS3a及びS3cにおけるシュウ酸(還元除染剤)の分解に要する時間を、特開2000−105295号公報の還元除染剤分解工程における還元除染剤の分解に要する時間よりも短縮することができる。このような本実施例は、再循環系配管22の内面への化学除染及びその内面への白金粒子の付着の両者を行うのに要する時間を短縮できる。
また、BWRプラントの運転が停止されている期間において、本実施例で用いられた貴金属注入装置30を用いて再循環系配管22の内面への化学除染を実施し、この化学除染の工程の最後の浄化工程が終了した後に、貴金属注入装置30を用いて白金イオン及びヒドラジン(還元剤)を含む水溶液を再循環系配管22の内面に接触させて再循環系配管22の内面に白金粒子を付着させることが考えられる。本実施例は、シュウ酸の分解途中でシュウ酸が20ppm残っている状態で、白金を再循環系配管22の内面に付着できるので、原子力プラントの構造部材の表面の化学除染及びその表面への貴金属の付着に要する時間は、シュウ酸の分解が終了した後に再循環系配管2の内面に白金を付着させる場合に比べて短縮することができる。
本実施例における上記した還元除染剤の分解に要する時間は、上記のケースにおける還元除染剤の分解に要する時間よりも短縮できる。さらに、本実施例では、再循環系配管22の内面への白金粒子の付着に用いたヒドラジン(還元剤)の分解は、ヒドラジンの分解速度が速いため、ステップS3cにおける還元除染剤(シュウ酸)の分解時間内で行うことができる。このため、本実施例は、還元除染剤の分解に要する時間以外に、上記のケースのような、白金粒子の付着に用いたヒドラジンを分解させるための時間を必要としない。
さらに本実施例では、錯イオン形成剤であるアンモニアをシュウ酸水溶液に注入している。このため、化学除染により再循環系配管22の内面の酸化被膜の溶解によって生じたFe(III)イオンが注入されたアンモニアと反応し、Fe(III)イオンのアンモニア錯イオンが生成される。Fe(III)イオンのアンモニア錯イオンの溶解度がFe(III)イオンの溶解度よりも増大する。この結果、再循環系配管22の内面に白金を付着させるために、Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を含む水溶液及びヒドラジン(還元剤)がアンモニアを含むシュウ酸水溶液に注入されたとき、このシュウ酸水溶液のpHがそのヒドラジンの作用により上昇したとしても、シュウ酸水溶液内のFe(III)イオンが水酸化鉄及びマグネタイトになって析出することを著しく抑制することができる。したがって、シュウ酸水溶液に含まれている白金イオンが再循環系配管22の内面に吸着されてヒドラジンの作用によって白金として再循環系配管22の内面に付着する量が著しく増大する。再循環系配管22の内面に所定量の白金が付着するのに要する時間が短縮される。
本実施例では、錯イオン形成剤(例えば、アンモニア)を含む水溶液がシュウ酸水溶液に注入された後で、Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を含む水溶液、すなわち、白金イオンを含む水溶液がそのシュウ酸水溶液に注入されるので、シュウ酸水溶液に含まれている白金イオンが、白金として、有効に再循環系配管22の内面に付着する。
本実施例によれば、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が20ppm(pHが約4.5)であり、再循環配管22がそのシュウ酸水溶液によって溶解されないため、再循環配管22の内面に接触される水溶液がシュウ酸を含んでいる状態で再循環系配管22の内面に白金粒子を効率良く付着させることができる。特に、この水溶液が還元剤であるヒドラジンを含んでいるので、白金イオンがヒドラジンにより再循環系配管22の内面付近で効率的に白金に還元される。このため、再循環系配管22の内面に接触するその水溶液が90℃の低温であっても、白金粒子が再循環系配管22の内面に効率良く付着し、付着した白金粒子がその内面において緻密になっている。
BWRプラントの運転が停止されている期間で、再循環系配管22の内面に白金粒子を付着させるので、再循環系配管22の内面に白金粒子が付着した状態でBWRプラントを起動することができる。このため、BWRプラントの起動後、特に、BWRプラントの起動から3ヶ月の間に、放射性核種であるCo−60を取り込み易い酸化皮膜が再循環系配管22の内面に形成されることが、再循環系配管22の内面に付着した白金粒子によって抑制される。これは、再循環系配管22の表面線量率を低下させることに貢献する。
BWRプラントの起動時からRPV12内の炉水に水素を注入したとき、再循環系配管22の内面に付着した白金の触媒作用により、再循環系配管22内を流れる炉水に溶存している酸素とその水素の反応が促進され、再循環系配管22の腐食電位を下げることができる。このため、BWRプラントの起動時における、ステンレス鋼製の再循環系配管22における応力腐食割れの発生を抑制することができる。
本実施例では、pH調整剤として使用できる還元剤であるヒドラジンを用いているので、後述の実施例6のように、還元剤注入装置43及びpH調整剤注入装置93を別々に設ける必要がなく、貴金属注入装置30がコンパクト化される。
本実施例では、Na2[Pt(OH)6]・nH2O)を含む水溶液及びヒドラジン(還元剤)を含むシュウ酸水溶液を用いて再循環系配管22の内面に白金を付着させる前におけるシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)を分解装置77で分解し、その内面への白金の付着後における、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジン(還元剤)の分解も、分解装置77を用いて行われる。このため、還元剤の分解に別の分解装置を用いる必要がなく、貴金属注入装置30の構成を単純化することができる。
本実施例では、60℃〜100℃の範囲内の90℃に加熱するので、再循環系配管22の内面への白金粒子の付着を短時間に行うことができ、貴金属注入装置30を耐圧構造にする必要がなく小型化できる。
ステップS3aにおいてシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)を分解装置77内で分解し、シュウ酸の一部を分解して(ステップS3b)、シュウ酸水溶液のpHが4になったとき、シュウ酸の分解を停止して、再循環系配管22の内面への白金の付着を行ってもよい。シュウ酸水溶液のpHが4のとき、その水溶液のシュウ酸濃度は50ppmであり、約5ppmのFe(III)イオン及びCr(III)イオンがその水溶液に含まれている。ステップS4で、シュウ酸水溶液のアンモニア濃度が約50ppmになるように、アンモニア水がそのシュウ酸水溶液に注入される。このため、ステップS5で注入される還元剤によるシュウ酸水溶液のpHの増大によって水酸化鉄及びマグネタイトの析出がアンモニアの作用により抑制される。したがって、ステップS5でシュウ酸水溶液に注入した白金イオンが再循環配管22の内面に白金として付着する量を、前述したように、増大させることができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図7及び図8を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法に用いられる貴金属注入装置30Aを図8を用いて説明する。貴金属注入装置30Aは貴金属注入装置30に鉄(III)イオン濃度測定装置81、弁82及び配管83を追加した構成を有する。鉄(III)イオン濃度測定装置81及び弁82が配管83に設置されている。配管83の両端部は、循環ポンプ33と弁34の間で循環配管35に接続される。鉄(III)イオン濃度測定装置81としては、例えば、イオンクロマトグラフィーが用いられる。貴金属注入装置30Aの他の構成は貴金属注入装置30と同じである。
貴金属注入装置30Aを用いた本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図7を用いて詳細に説明する。本実施例の貴金属付着方法は、ステップS1〜S10の各工程を実施する実施例1の貴金属付着方法にステップS11の工程を追加した方法である。ステップS9の工程は、ステップS1及びS2の各工程が実施され、ステップS3の還元除染剤の分解工程においてステップS3bで実施された「シュウ酸の一部の分解」が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が例えば約20ppmになった時点と、錯イオン形成剤注入工程(ステップS4)との間に実施される。
シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が測定され、測定されたFe(III)イオン濃度がFe(III)イオン設定濃度以下であるかが判定される(ステップS11)。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸の一部が分解装置77で分解され、シュウ酸濃度が低下する。シュウ酸濃度が20ppmになったとき、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が2ppmになる。Fe(III)イオン濃度2ppmは、本実施例における、錯イオン形成剤の注入を開始するときのFe(III)イオン設定濃度である。また、シュウ酸濃度が50ppmになったとき(シュウ酸水溶液のpHが4になったとき)に錯イオン形成剤を注入する場合には、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度がFe(III)イオン設定濃度である5ppmになったときに錯イオン形成剤の注入が開始される。シュウ酸濃度が10ppmになったときに錯イオン形成剤を注入する場合には、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度がFe(III)イオン設定濃度である1ppmになったときに錯イオン形成剤の注入が開始される。
弁82が開いており、循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液の一部が配管83内を流れる。配管83内を流れるシュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が、鉄(III)イオン濃度測定装置81で測定される。再循環系配管22の内面への白金付着の阻害要因となるのは、シュウ酸水溶液のFe(III)イオンである。このため、本実施例では、シュウ酸水溶液のFe(III)イオンを鉄(III)イオン濃度測定装置81によって連続的に測定するため、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が錯イオン形成剤注入開始時のFe(III)イオン設定濃度まで低下したことを直ぐに確認することができる。
測定されたFe(III)イオン濃度がFe(III)イオン設定濃度(例えば、2ppm)まで低下しないとき(ステップS11の判定が「NO」であるとき)には、シュウ酸の分解が継続して行われる。Fe(III)イオン濃度の測定値がFe(III)イオン設定濃度(例えば、2ppm)に低下してステップS11の判定が「YES」になったとき、ステップS4の工程における錯イオン形成剤であるアンモニアの注入が行われる。アンモニアが循環配管35に注入された後は、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度を測定する必要がなくなるので、弁82が閉じられる。
その後、実施例1と同様に、ステップS5〜S8,S3c,S9及びS10の各工程が実施される。ステップS10の工程が終了した後、貴金属注入装置30Aの循環配管35が再循環系配管22から取り外される。その後、再循環系配管22の内面に白金粒子を付着しているBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、鉄(III)イオン濃度測定装置81によってシュウ酸水溶液の鉄(III)イオン濃度を測定するので、錯イオン形成剤であるアンモニアの注入時期を適切に把握することができる。
実施例4ないし6及び8のそれぞれの実施例において、ステップS3bの還元除染剤の一部を分解しているときにステップS11の工程を実施し、ステップS11の判定が「YES」になったとき、ステップS4の錯イオン形成剤注入工程を実施してもよい。また、実施例7において、浄化工程(ステップS9)でステップS11の工程を実施し、ステップS11の判定が「YES」になったとき、ステップS4の錯イオン形成剤注入工程を実施してもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図9及び図10を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法に用いられる貴金属注入装置30Bを図10を用いて説明する。貴金属注入装置30Bは、実施例2で用いる貴金属注入装置30Aに錯イオン形成剤注入濃度決定装置84を追加した構成を有する。錯イオン形成剤注入濃度決定装置84は鉄(III)イオン濃度測定装置81に接続される。貴金属注入装置30Bの他の構成は貴金属注入装置30Aと同じである。
貴金属注入装置30Bを用いた本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図9を用いて詳細に説明する。本実施例の貴金属付着方法は、ステップS1〜S10の各工程を実施する実施例1の貴金属付着方法にステップS12及びS13の各工程を追加した方法である。ステップS12及びS13の各工程は、ステップS1及びS2の各工程が実施され、ステップS3の還元除染剤の分解工程においてステップS3bで実施された「シュウ酸の一部の分解」が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が例えば50ppmになった時点と、錯イオン形成剤注入工程(ステップS4)との間に実施される。
シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が測定される(ステップS12)。このステップS12では、実施例2のステップS9と同様に、弁82を開いて循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液の一部が配管83に供給され、鉄(III)イオン濃度測定装置81がこのシュウ酸水溶液の鉄(III)イオン濃度を測定する。
錯イオン形成剤の注入濃度が決定される(ステップS13)。鉄(III)イオン濃度測定装置81で測定されたシュウ酸水溶液の鉄(III)イオン濃度が、錯イオン形成剤注入濃度決定装置84に入力される。錯イオン形成剤注入濃度決定装置84は、測定された鉄(III)イオン濃度を用いて錯イオン形成剤の注入濃度を決定し、さらに、この錯イオン形成剤の注入濃度に基づいて錯イオン形成剤の注入量を決定する。
本実施例では、再循環系配管22の内面に白金を付着させる処理のタイミングを実施例1よりも早くするため、ステップS3bにおけるシュウ酸の一部の分解を、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が例えば50ppm(シュウ酸水溶液のpHが4)になった時点で終了する。このため、ステップS5において、シュウ酸濃度が実施例1よりも高い条件、例えば50ppm程度残留している時点で循環配管35への白金イオンを含む水溶液の注入が行われる。残留しているシュウ酸の濃度が高いため、シュウ酸水溶液に残留しているFe(III)イオン濃度も高くなる。シュウ酸濃度が50ppm程度であると、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度は5ppm程度になる可能性がある。したがって、還元剤であるヒドラジンのシュウ酸水溶液への注入によるpH上昇に伴うFe(III)イオンの析出を抑制するために、シュウ酸水溶液に注入する錯イオン形成剤であるアンモニアの濃度は、実施例1におけるその濃度よりも高くする必要がある。
このため、前述したように、鉄(III)イオン濃度測定装置81で測定された鉄(III)イオン濃度を用いて、錯イオン形成剤注入濃度決定装置84がアンモニアの注入濃度を決定する。例えば、測定された、シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度が5ppmであるとき、錯イオン形成剤注入濃度決定装置84は、例えば、そのFe(III)イオン濃度の10倍以上のアンモニア濃度となるように、注入するアンモニアの濃度を50ppmに決定する。さらに、錯イオン形成剤注入濃度決定装置84は、決定されたアンモニアの注入濃度を用いて錯イオン形成剤注入装置49の薬液タンク50から注入するアンモニアの注入量を決定する。決定された、濃度50ppmのアンモニアの注入量が薬液タンク50内に充填される。
その後、ステップS4の工程における錯イオン形成剤であるアンモニアの注入が行われる。そして、実施例1と同様に、ステップS5〜S8,S3c,S9及びS10の各工程が実施される。ステップS10の工程が終了した後、貴金属注入装置30Bの循環配管35が再循環系配管22から取り外される。その後、再循環系配管22の内面に白金粒子を付着しているBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。なお、使用したアンモニア濃度が実施例1よりも高いため、廃液処理に使用するイオン交換樹脂をそれに合わせて実施例1よりも増やす必要がある。
シュウ酸水溶液のFe(III)イオン濃度の替りに、導電率計101で測定した、シュウ酸水溶液の導電率を用いて、錯イオン形成剤の注入濃度を決定し、さらに、この錯イオン形成剤の注入濃度に基づいて錯イオン形成剤の注入量を決定してもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例4の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図11〜図14を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の貴金属付着方法で用いられる貴金属注入装置30Cを図12、図13及び図14を用いて説明する。貴金属注入装置30Cは、実施例1で用いる貴金属注入装置30に貴金属付着量測定装置85、弁78及び配管97を追加した構成を有する。貴金属付着量測定装置85及び弁78が配管97に設置されている。配管97の両端部は、循環ポンプ33と弁34の間で循環配管35に接続される。貴金属注入装置30Cの他の構成は貴金属注入装置30と同じである。
貴金属付着量測定装置85は、水晶振動子電極装置86及び皮膜厚み算出装置92を有する。水晶振動子電極装置86は、弁78の下流で配管97に設けられる。水晶振動子電極装置86の配管97への取り付け構造を、図13を用いて詳細に説明する。弁体を取り外した弁ボンネット94が弁78の下流で配管97に取り付けられる。具体的には、弁ボンネット94のフランジ94A,94Bが配管97に接続される。水晶振動子電極装置86は弁ボンネット94内に配置される。水晶振動子電極装置86の長く伸びた電極ホルダ88が、弁ボンネット94に取り付けられたフランジ95にフィードスルー91を用いて取り付けられている。弁ボンネット94内で電極ホルダ88の先端部に金属部材89が設けられる。
水晶振動子電極装置86の詳細な構造を、図14を用いて説明する。水晶振動子電極装置86は、水晶87、金属部材89、シール部材90及び電極ホルダ88を有する。水晶87が、電極ホルダ88の先端部に形成された窪み内に設置されている。金属部材89が、電極ホルダ88のその窪みの開放端側で水晶87の表面に取り付けられる。金属部材89は、原子力プラントの構造部材と同じ材質の金属部材(例えば、ステンレス鋼部材または炭素鋼部材)である。本実施例では、貴金属付着対象物がステンレス鋼製の再循環系配管22であるので、金属部材89はステンレス鋼製である。シール部材90が、電極ホルダ88の窪み内に設置された水晶87の表面のうち金属部材89及び電極ホルダ88に接触する表面以外の表面を全面に亘って覆っている。電極ホルダ88内を貫通する2本の配線93が水晶87に接続される。各配線93は貴金属厚み算出装置(貴金属付着量算出装置)92に接続される。貴金属厚み算出装置92は表示装置(図示せず)に接続される。
貴金属注入装置30Cを用いた本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図11を用いて説明する。本実施例の貴金属付着方法は、ステップS1〜S10の各工程を実施する実施例1の貴金属付着方法にステップS14及びS15の各工程を追加して方法である。
本実施例では、実施例1と同様に、ステップS1で、貴金属注入装置30Cの循環配管35の両端部が、実施例1と同様に、ステップS1及びS2の各工程が実施され、ステップS3の還元除染剤の分解工程においてステップS3bで実施された「シュウ酸の一部の分解」が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が例えば約20ppmになった後で、ステップS4〜S8の各工程を実施する。ステップS8が終了した後に、ステップS14の工程が実施される。
貴金属付着量を測定する(ステップS14)。ステップS8での、還元剤であるヒドラジン水溶液の注入停止後においても、前述したように、「所定時間(例えば4時間)の間、白金イオン、アンモニア、ヒドラジン(還元剤)及び20ppmのシュウ酸を含む90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35および再循環系配管22で形成された閉ループ内を循環され、再循環系配管22の内面への白金の付着が行われる。
再循環系配管22から循環配管35に排出されたそのシュウ酸水溶液の一部が、配管97に流入し、弁ボンネット94内に達する。このシュウ酸水溶液に含まれた白金イオンがヒドラジンの作用によって還元されて白金となり再循環系配管22の内面に付着するのと同様に、白金イオンがヒドラジンで還元されることにより生成された白金が、弁ボンネット81内に配置された水晶振動子電極装置82の金属部材89の、その水溶液と接触する表面に付着する。金属部材89はステンレス鋼製であるため、金属部材89のその表面への白金粒子の付着度合いは、再循環系配管22の内面における白金粒子の付着度合いと実質的に同じである。金属部材89の表面に付着した皮膜状の白金粒子の厚みを測定することによって、再循環系配管22の内面に付着された皮膜状の白金粒子の厚みを知ることができる。
水晶振動子電極装置86の金属部材89の表面に皮膜状の白金粒子の厚みの測定を、詳細に説明する。白金イオン、アンモニア、ヒドラジン及びシュウ酸を含む水溶液を再循環系配管22に供給している間、一本の配線93を通して貴金属厚み算出装置92から水晶87に電圧を印加する。この電圧の印加によって水晶87が振動され、金属部材89も水晶87と一緒に振動する。水晶87及び金属部材89の振動数が、水晶87に接続されたもう一本の配線93を通して貴金属厚み算出装置92伝えられる。金属部材89の、シュウ酸水溶液と接触する表面に白金粒子が付着すると金属部材89が重くなるので、金属部材89を含む水晶87の振動数は、金属部材89の表面に白金粒子が付着していないときの金属部材89を含む水晶87の振動数よりも減少する。これらの振動数の差が、金属部材89の表面に白金粒子が付着して増加した金属部材89の重量を表している。貴金属厚み算出装置92は、入力した振動数に基づいて、その振動数の差、すなわち、白金粒子の付着による金属部材89の重量の増加分を算出する。この重量の増加分が金属部材89の表面に付着した白金粒子の重量である。
貴金属厚み算出装置92は、特開2010−127788号公報に記載された皮膜厚み算出装置におけるマグネタイト皮膜の厚みの算出と同様に、白金の密度を用いて金属部材89の表面に付着した皮膜状の白金粒子の厚みを求める。金属部材89の表面に付着した白金粒子の厚みは、再循環系配管22に白金イオン、アンモニア、ヒドラジン(還元剤)及びシュウ酸を含む水溶液を供給している間、貴金属厚み算出装置92によって継続して求められる。金属部材89の表面に付着した白金粒子の、求められた厚みは、表示装置(図示せず)に表示される。本実施例で用いられる水晶振動子電極装置86は、特開2010−127788号公報の図9に示された「水晶振動子電極装置16」のように、温度が90℃と低いシュウ酸水溶液中でも、金属部材89の表面に付着した白金粒子の厚みを精度良く測定することができる。
貴金属付着量が貴金属設定付着量以上であるかを判定する(ステップS15)。オペレータは、表示装置に表示された金属部材89の表面に付着した白金粒子の付着量が、貴金属設定付着量(例えば、1μg/cm2)以上になっているかを判定する。この判定は、貴金属厚み算出装置92で求められた、金属部材89の表面に付着した皮膜状の白金粒子の付着量を入力する演算装置(図示せず)で行ってもよい。この演算装置は、入力した、金属部材89の表面に付着した皮膜状の白金粒子の付着量と、貴金属設定付着量(例えば、1μg/cm2)を比較し、金属部材89の表面における白金粒子の付着量が、その貴金属設定付着量以上になっているかを判定する。この判定結果は、演算装置から表示装置(図示せず)に出力されてこの表示装置に表示される。
金属部材89の表面における白金粒子の付着量が貴金属設定付着量未満であるとき(ステップS15の判定が「NO」であるとき)、金属部材89への白金の付着処理、すなわち、再循環系22の内面への白金の付着処理が継続して行われる。金属部材89の表面における白金粒子の付着量が貴金属設定付着量以上であるとき(ステップS15のはんていが「YES」であるとき)、ステップS3cの分解工程が実施される。
ステップS3cの分解工程が終了した後、ステップS9及びS10の各工程が実施される。ステップS10の工程が終了した後、貴金属注入装置30Cの循環配管35が再循環系配管22から取り外される。その後、再循環系配管22の内面に白金粒子を付着しているBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、貴金属付着量測定装置85を用いているので、再循環系配管22の内面への白金の付着量を精度良く測定することができ、所定量の白金が再循環系配管22の内面に付着したことを確認することができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例5の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図15を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の貴金属付着方法で用いられる貴金属注入装置30Dを図15を用いて説明する。貴金属注入装置30Dは、実施例1で用いる貴金属注入装置30にpH調整剤注入装置96を追加した構成を有する。貴金属注入装置30Dの他の構成は貴金属注入装置30と同じである。
pH調整剤注入装置96は、薬液タンク97、注入ポンプ98及び注入配管100を有する。薬液タンク97は、注入ポンプ97及び弁99を有する注入配管100によって循環配管35に接続される。薬液タンク97には、pH調整剤であるヒドラジンが充填されている。
貴金属注入装置30Dの還元剤注入装置44の薬液タンク45には、還元剤である尿素が充填されている。尿素はpHを調節することができないため、本実施例で用いる貴金属注入装置30DはpH調整剤注入装置96を備えている。
貴金属注入装置30Dを用いた本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、図1に示す手順、すなわち、ステップS1〜S8の各工程を実施する。ステップS4〜S6の各工程は、ステップS3bの「還元除染剤(例えば、シュウ酸)の一部を分解する工程」が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が20ppmになった時点と、ステップS3cの「還元除染剤及び還元剤の分解工程」との間で実施される。本実施例の貴金属付着方法は、ステップS2で実施される還元除染工程及びステップS5で実施される還元剤の注入工程が、実施例1と異なっている。本実施例の残りのステップの各工程は、実施例1と同じである。
本実施例におけるステップS2の還元除染工程では、エゼクタ37から配管74内に供給されるシュウ酸を用いてサージタンク31内で生成されて循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液(還元除染液)に、注入ポンプ98を駆動して弁99を開くことにより、薬液タンク97内のpH調整剤であるヒドラジンが注入配管100を通して循環配管35に注入される。このヒドラジンの注入により、pHが2.5で温度が90℃の還元除染液が生成される。このシュウ酸水溶液が循環配管35から再循環系配管22に供給され、再循環系配管22の内面の還元除染が行われる。
その後、ステップS3の還元除染剤の分解工程において、ステップS3bの「シュウ酸の一部の分解」が行われる。ステップS3cでの分解が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が20ppmになったとき、前述のステップS4〜S6の各工程が実行される。ステップS4では、錯イオン形成剤であるアンモニアが循環配管35に注入される。さらに、ステップS5の還元剤の注入工程では、薬液タンク45内の還元剤である尿素が循環配管35内に注入される。白金イオン、尿素、アンモニア及びシュウ酸を含んで90℃のシュウ酸水溶液が循環配管35から再循環系配管22に供給される。白金イオン、尿素及びシュウ酸を含んで90℃のシュウ酸水溶液が再循環系配管22の内面に接触し、白金イオンがその内面で尿素により還元されて再循環系配管22の内面に白金粒子として付着される。
本実施例では、ステップS6,S3c,S7及びS8の各工程が実行される。ステップS8の工程が終了した後、貴金属注入装置30Dの循環配管35が再循環系配管22から取り外される。その後、白金粒子を再循環系配管22の内面に付着しているBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例6の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図16を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの浄化系配管20に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法には、実施例1で用いられる貴金属注入装置30が用いられる。貴金属注入装置30の替りに貴金属注入装置30A〜30Dのいずれかを用いても良い。本実施例では、実施例1と同様に、図1に示すステップS1〜S10の各工程を有する手順が実行される。
本実施例のステップS1では、貴金属注入装置30の循環配管35の一端を、実施例1と同様に、弁23のフランジに接続する。金属注入装置30の循環配管35の他端を、非再生熱交換器26と炉水浄化装置27の間で浄化系配管20に設けられた弁95の開放されたボンネットのフランジに接続する。このようにして、貴金属注入装置30が浄化系配管20に接続され、浄化系配管20及び循環配管35を有する閉ループが形成される。
貴金属注入装置30の循環配管35の両端部を浄化系配管20に接続した後、ステップS2、ステップS3a(含むステップS3b)、S4〜S8,S3c、S9及びS10の各工程が実施例1と同様に実行される。このため、弁23と弁95の間の浄化系配管20の内面の化学除染が実行され、弁23と弁95の間の浄化系配管20の内面への白金粒子の付着が行われる。
ステップS10の工程が終了した後、貴金属注入装置30の循環配管35が浄化系配管20から取り外される。その後、浄化系配管20の内面に白金粒子を付着しているBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例に後述の実施例7または8を適用してもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例7の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を図3及び図17を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
前述の実施例1ないし6では、白金イオンを含む薬剤、還元剤及び錯イオン形成剤の循環配管35への注入を還元除染剤分解工程(ステップS3)で行っている。これに対し、本実施例では、図17に示された手順が実行され、白金イオンを含む薬剤、還元剤及び錯イオン形成剤の循環配管35への注入が、化学除染の一工程である浄化工程で行われる。本実施例の貴金属付着方法では、実施例1で用いられた貴金属注入装置30が用いられる。貴金属注入装置30の替りに、貴金属注入装置30Bないし30Dのいずれか1つを用いてもよい。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法では、BWRプラントの運転が停止された後、実施例1と同様に、ステップS1〜S3の各工程が実施される。ステップS1において、貴金属注入装置30の循環配管35の両端部が再循環系配管22にそれぞれ接続される。さらに、ステップS2の酸化除染及び還元除染及びステップS3の還元除染剤分解工程が実施される。ステップS3では、シュウ酸及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液を過酸化水素が供給される分解装置77に供給し、シュウ酸を分解する。ステップS3の工程が終了した後、ステップS9の浄化工程が実施される。本実施例の貴金属付着方法では、ステップS9の浄化工程と並行して、ステップS4〜S8の各工程が順番に実施される。
ステップS3の還元除染剤及びpH調整剤の分解が終了したとき、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度は10ppmまで低下しており、シュウ酸水溶液のpHが5.6になっている。実施例1と同様に、シュウ酸水溶液の浄化工程(ステップS9)が実施される。加熱器32によるシュウ酸水溶液の加熱が停止され、弁64が開いて弁60が閉じられる。シュウ酸水溶液が冷却器63で60℃に冷却される。弁67,70が開いて弁61が閉じられているので、60℃のシュウ酸水溶液が混床樹脂塔69に供給されて浄化される。
ステップS3の還元除染剤及びpH調整剤の分解が終了してシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppmまで低下したとき、このシュウ酸水溶液にFe(III)イオンとCr(III)イオンが1ppm程度残留している場合がある。後述の還元剤の注入によりシュウ酸水溶液のpHが上昇して溶解しているFe(III)イオンが水酸化鉄やマグネタイトを形成して析出する可能性がある。このため、本実施例でも、水酸化鉄及びマグネタイトの析出を抑制するために、後述するように、錯イオン形成剤であるアンモニアをシュウ酸水溶液に注入する。
混床樹脂塔69から排出されて循環配管35内を流れる、ヒドラジン(還元剤)を含まない60℃のシュウ酸水溶液に、錯イオン形成剤であるアンモニアが錯イオン形成剤注入装置49から注入される(ステップS4)。さらに、そのシュウ酸水溶液に、白金イオン注入装置39からNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液が注入される(ステップS5)。アンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない60℃の水溶液が、所定時間(例えば、30分)の間、再循環系配管22に供給される(ステップS6)。白金イオンがアンモニアを含みヒドラジンを含まない60℃の水溶液に注入されてから30分を経過したとき、還元剤注入装置44から還元剤であるヒドラジンがその水溶液に注入される(ステップS7)。ヒドラジンの注入により、このシュウ酸溶液のpHが7から8程度になる。白金イオン、ヒドラジン、アンモニア及び10ppmのシュウ酸を含む60℃でpHが7のシュウ酸水溶液が、循環配管35から再循環系配管22内に供給される。このシュウ酸水溶液が再循環系配管22の内面に接触することにより、この内面に白金粒子が付着する。
再循環系配管22から循環配管35に排出されたシュウ酸水溶液が、冷却器63で60℃に冷却されて混床樹脂塔69に供給され、そのシュウ酸水溶液に含まれる白金イオン、ヒドラジン、アンモニア、シュウ酸及び他の不純物が、混床樹脂塔69内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂で除去される。白金イオン、ヒドラジン、アンモニア、シュウ酸及び他の不純物のそれぞれの濃度が低下する。濃度が低下した白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを補給するために、錯イオン形成剤注入装置49からアンモニアが、白金イオン注入装置39からNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液が、及び還元剤注入装置44からヒドラジンが、それぞれ所定量、カチオン交換樹脂塔66及び混床樹脂塔69から循環配管35に排出された60℃のシュウ酸水溶液に注入される。白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃のシュウ酸水溶液は、循環配管35から再循環系配管22に再び供給される。
浄化工程と並行して行われる、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃のシュウ酸水溶液の再循環系配管22への供給が継続して行われることにより、再循環系配管22の内面に付着された白金粒子の量が増加する。再循環系配管22の内面に所定量の白金粒子が付着したとき、アンモニア水、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液及びヒドラジン水溶液の循環配管35への注入が停止される(ステップS8A)。再循環系配管22の内面に所定量の白金粒子が付着したことは、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃のシュウ酸水溶液の、再循環系配管22への供給開始から所定時間が経過したことに基づいて、判定する。その後、導電率計101で測定した水溶液の導電率が5μS/cm以下になったとき、ステップS9の浄化工程が終了する。
浄化工程が終了した後、ステップS10の廃液処理が実行される。浄化工程が終了したとき、化学除染の全工程が終了し、その後、貴金属注入装置30が再循環系配管22から取り外され、BWRプラントが起動される。
本実施例は、再循環系配管22の化学除染及び再循環系配管22の内面への白金粒子の付着に要する施工時間を短縮することができる。本実施例では、シュウ酸の分解が終了した後の浄化工程において、10ppmのシュウ酸を含むシュウ酸水溶液に白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンを注入し、白金イオン、アンモニア、ヒドラジン及びシュウ酸を含む水溶液を用いて再循環系配管22内面への白金の付着を行うので、その水溶液のシュウ酸濃度が10ppmと非常に小さい。このため、再循環系配管22の内面への白金の付着量が増大し、再循環系配管22の内面への白金の付着に要する時間が短縮される。
さらに、本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることがきる。
本実施例では、シュウ酸濃度が10ppmのシュウ酸水溶液に白金イオンを含む薬剤、アンモニア及びヒドラジンを注入しているが、これらの薬剤の注入を行わないでそのシュウ酸水溶液を混床樹脂塔69を通しながら上記の閉ループを循環させ、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が、例えば、5ppmに低下したときに、弁61を開、弁70を閉として樹脂塔をバイパスし、続いてアンモニア、白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンをその水溶液に注入してもよい。この場合には、アンモニア、白金イオン、ヒドラジン及び5ppmのシュウ酸を含む水溶液が、再循環系配管22に供給される。白金皮膜が再循環系配管22の内面に形成される。白金皮膜形成後に、アンモニア、白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンの注入が停止され、弁70を開、弁61を閉として処理液を混床樹脂塔69へ通水して浄化工程が継続して行われる。このように、シュウ酸濃度をさらに低下させてシュウ酸水溶液に、アンモニア、白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンを注入することにより、白金の付着量がさらに増大し、再循環系配管22の内面への白金の付着に要する時間がさらに短縮される。
本発明の他の好適な実施例である実施例8の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を図3及び図18を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、実施例1で用いられた貴金属注入装置30を用いることにより行われる。また、本実施例では、ステップS4〜S6の各工程が、ステップS3の還元除染剤の分解工程及びステップS7の浄化工程と並行して実施される。
本実施例の貴金属付着方法では、実施例1と同様に、ステップS1及びS2の各工程が実施され、ステップS3の還元除染剤の分解工程においてステップS3bのシュウ酸の一部の分解が、過酸化水素が供給される分解装置77内で行われる。ステップS3bによりシュウ酸水溶液のシュウ酸が分解されてシュウ酸濃度が20ppmになったとき、錯イオン形成剤、すなわち、アンモニア水の注入が行われる(ステップS4)。その後、実施例7と同様に、ステップS5〜S7及び8Aの各工程が実施される。このため、白金イオン、ヒドラジン及びアンモニアを含む60℃のシュウ酸水溶液の供給による再循環系配管22の内面への白金の付着処理と、シュウ酸の分解工程及びシュウ酸水溶液に対する浄化工程とが、並行して行われる。
また、ステップ8Aの工程が終了した後、導電率計101で測定した水溶液の導電率が5μS/cm以下になったとき、ステップS7の浄化工程が終了する。
浄化工程が終了した後、ステップS10の廃液処理が実行される。廃液処理工程が終了したとき、化学除染の全工程が終了し、その後、貴金属注入装置30が再循環系配管22から取り外され、BWRプラントが起動される。
本実施例は実施例7で生じる各効果を得ることができる。
実施例6、実施例7及び8において、貴金属注入装置30の替りに、貴金属注入装置30A,30B,30C及び30Dのいずれか1つを用いてもよい。
実施例1ないし8で行われる化学除染は、還元除染工程でシュウ酸及びヒドラジン(pH調整剤)を含む還元除染液を用いて行われる。このような化学除染に対して、シュウ酸(還元除染剤)を含みヒドラジン(pH調整剤)を含まない還元除染液を用いて還元除染を行う化学除染が知られている。実施例1ないし8のそれぞれにおいて、ステップ2で行われる還元除染を、還元除染剤を含みpH調整剤を含まない還元除染液を用いて行ってもよい。この還元除染液のpHは、pH調整剤を含まない分、還元除染剤及びpH調整剤を含む還元除染液のpHよりも小さくなる。
実施例1〜5,7及び8の各実施例では、BWRプラントの2系統存在する再循環系配管22のうち1系統の再循環系配管22の内面への白金の付着作業が終了し、残りの再循環系配管22の内面に対しても白金の付着を行う場合には、貴金属注入装置30の循環配管35の両端部を白金の付着が終了した再循環系配管22から取り外し、この貴金属注入装置30の循環配管35の両端部を白金の付着が行われていない他の再循環系配管22に接続する。その後、貴金属注入装置30を用いた、実施例1〜5,7及び8のいずれかの貴金属付着方法により、他の再循環系配管22の内面に白金を付着させる。2系統の再循環系配管の各内面への白金の付着作業が終了した後、前述の各実施例と同様にBWRプラントが起動される。
本発明の他の好適な実施例である実施例9の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法を、図19及び図20を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、BWRプラントの再循環系配管22に適用される。本実施例では、貴金属である白金の注入は、BWRプラントの起動前の運転停止中に行われる。
BWRプラントには、2系統の再循環系配管22が設けられている。本実施例の原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法では、再循環系配管22の内面への貴金属付着が、1系統ずつ行われず、2系統に対して実施される。2系統のそれぞれの再循環系配管22は、図3に示すように、U字状になっている部分があり、両端部が高い位置にあり、その一端は圧力容器に接続されて炉水を再循環ポンプ21に導入しており、他端はジェットポンプへつながるライザー管(図示せず)が接続されたリングヘッダー(図示せず)へつながっている。再循環ポンプ21が設置された部分は再循環系統のうちでも低い部分である。実施例1〜5,7及び8では、各再循環系配管22の両端部における各開口部は、前述したように、プラグで封鎖された。しかし、本実施例では、それらの開口部は開放されたままである。
本実施例の貴金属付着方法を以下に説明する。
まず、貴金属注入装置を貴金属付着対象物の配管系に接続する(ステップS1)。BWRプラントは、A系統の再循環系配管22A及びB系統の再循環系配管22Bを有する。便宜的に、A系統の再循環系配管22を再循環系配管22Aと称し、B系統の再循環系配管22を再循環系配管22Bと称する。本実施例のステップS1では、白金注入装置30の循環配管35の両端部が、実施例1と同様に、A系統の再循環系配管22Aに接続される。すなわち、循環配管35の端部(第1端部)108が、再循環系配管22Aの、再循環ポンプ21の下流側の端部(第4端部)110に接続される。循環配管35の端部(第2端部)109が、再循環系配管22Aの、再循環ポンプ21の上流側の端部(第3端部)111に接続される。循環配管35の端部(第1端部)108を再循環系配管22Aの端部(第3端部)111に接続し、循環配管35の端部(第2端部)109を再循環系配管22Aの端部(第4端部)110に接続してもよい。実施例1と異なるのは、循環配管35がB系統の再循環系配管22Bにも接続されることである。
開閉弁105が循環配管35の開閉弁36よりも下流の端部(第1端部)108に設けられ、開閉弁104が循環配管35の開閉弁59よりも上流の端部(第2端部)109に設けられる。開閉弁106が設けられた連絡配管102が、開閉弁59と開閉弁104の間で循環配管35に接続され、さらに、再循環系配管22Bの、再循環ポンプ21の上流側の端部(第5端部)113に接続される。開閉弁107が設けられた連絡配管103が、開閉弁36と開閉弁105の間で循環配管35に接続され、さらに、再循環系配管22Bの、再循環ポンプ21の下流側の端部(第6端部)112に接続される。連絡配管102を再循環系配管22Bの端部(第5端部)113に、及び連絡配管103を再循環系配管22Bの端部(第6端部)112にそれぞれ接続してもよい。
スロッシング運転を行いながら、貴金属付着対象物に対して化学除染における酸化除染及び還元除染を実施する(ステップS2)。本実施例における酸化除染及び還元除染のそれぞれは、開閉弁104,105,106,107による2系統の再循環系配管の切り換えにより、スロッシング運転と呼ばれる、循環配管35の両端部が接続された再循環系配管22Aと循環配管35に接続された連絡配管102,103が接続された再循環系配管22Bの間で酸化除染液及び還元除染液等の化学除染液を揺動させる水位制御が行われる。このようなスロッシング運転は、ステップS3の還元除染液の分解工程、ステップS6Aの錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含む水溶液のスロッシング工程、ステップS7の還元剤注入工程における還元剤注入後における錯イオン形成剤、貴金属イオン、還元剤及び還元除染剤を含む水溶液のスロッシング工程及びステップS9の浄化工程のそれぞれで行われる。
サージタンク31内で生成された過マンガン酸カリウム水溶液(酸化除染液)を用いた再循環系配管22A、22Bのスロッシング運転による酸化除染について説明する。90℃の水を再循環系配管22Aと22Bの間でスロッシング運転する。サージタンク31に水を供給して満水にし、弁34,80,60,61,62を開に、他の弁を閉にして、ポンプ33,29を駆動して水を循環させる。続いて弁36、105を開いて水を再循環系配管22Aに供給する。再循環系配管22Aの水位が上昇し、ポンプ29側の配管35から再循環系配管22Aの水を引き出せるようになったら弁59を開いて弁80を閉じる。この時、サージタンク31の水位が低下しすぎないように、適宜、水を補給する。これでサージタンク31及び再循環系配管22Aを循環する閉ループが形成される。続いて、弁107を開いて弁105を閉じ、循環水を再循環系配管22Bへ注入する。この時、弁104は開いたままなので再循環系配管22A内の水位は低下する。再循環系配管22Bの水位が増加し、再循環系配管22A内の水位が低下したところで弁106、105を開いて、弁104,107を閉じる。これにより、再循環系配管22B内の水位は低下に転じ、再循環系配管22A内の水位は上昇に転じる。このように弁104から107の開閉を操作することにより再循環系配管22A及び22B内のそれぞれの水位を交互に上下させ、水位の上下を継続しながらヒーター32を使って水温を90℃まで上昇させる。こうして90℃の循環水のスロッシング運転を確立した後、酸化除染を開始する。
開閉弁36,59及び開閉弁106,105が開いて開閉弁104,107が閉じている。循環ポンプ33の駆動により、サージタンク31内の90℃の過マンガン酸カリウム水溶液が循環配管35から再循環系配管22Aに供給される。再循環系配管22A内の過マンガン酸カリウム水溶液の水位が上昇したところで、開閉弁104,107を開いて開閉弁105,106を閉じる。開閉弁104,107が開いて開閉弁105,106が閉じている状態を弁の第1状態という。再循環系配管22A内を満たしていた過マンガン酸カリウム水溶液が循環配管35を通ってサージタンク31に回収される。加熱器32で加熱された、サージタンク31内の90℃の過マンガン酸カリウム水溶液は、循環ポンプ33により、循環配管35および連絡配管103を通って再循環系配管22B内に供給される。再循環系配管22B内の過マンガン酸カリウム水溶液の水位が上昇したところで、開閉弁105,106を開いて開閉弁104,107を閉じる。開閉弁105,106が開いて開閉弁104,107が閉じている状態を弁の第2状態という。再循環系配管22B内を満たしていた過マンガン酸カリウム水溶液が、循環ポンプ29により、循環配管35を通ってサージタンク31に回収される。サージタンク31に回収された過マンガン酸カリウム水溶液は、次に、再循環系配管22A内のその水溶液の水位上昇に使用される。このように、再循環系配管22A及び再循環系配管22B内のそれぞれの水溶液の水位上昇を交互に繰り返すスロッシング運転が行われ、再循環系配管22A及び再循環系配管22Bのそれぞれの内面の酸化除染が行われる。スロッシング運転が行われているとき、過マンガン酸カリウム水溶液が再循環系配管22A,22Bのそれぞれの両端部から原子炉圧力容器12内に流入しないように、循環ポンプ33,29の回転速度が調節される。このため、再循環系配管22A,22B内に形成される過マンガン酸カリウム水溶液のそれぞれの水位が、再循環系配管22A及び再循環系配管22Bのそれぞれの両端よりも下方に形成される。
エゼクタ37から配管74内への過マンガン酸カリウムの注入は、過マンガン酸カリウム水溶液の過マンガン酸カリウム濃度が設定濃度になったところで停止されるが、再循環系配管22A及び再循環系配管22Bにおける過マンガン酸カリウム水溶液のスロッシング運転は、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれの内面と過マンガン酸カリウム水溶液の接触時間が設定時間になるまで繰り返される。
再循環系配管22A及び22Bのそれぞれにおいてその接触時間が設定時間になったとき、再循環系配管22A及び22Bの酸化除染が終了し、シュウ酸がエゼクタ37から供給され、サージタンク31に導かれる。再循環系配管22A及び22Bにおいて過マンガン酸カリウム水溶液の前述のスロッシング運転が継続して行われ、過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸イオンが注入されたシュウ酸により分解される。
スロッシング運転を行いながら、シュウ酸は、過マンガン酸イオンが完全に分解された水溶液のシュウ酸濃度が、例えば、2000ppmになる量を注入し、さらに、還元剤注入装置44の薬液タンク45からヒドラジンをpH調整剤として注入する。この結果、pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液(還元除染液)が生成される。このシュウ酸水溶液は、前述のスロッシング運転により、再循環系配管22A及び22Bに交互に供給され、これらの再循環系配管の内面の還元除染が行われる。還元除染中、弁70が閉じられており、弁67を開いて弁61の開度を減少させる。シュウ酸水溶液の一部がカチオン交換樹脂塔66に導かれ、シュウ酸水溶液に含まれた金属陽イオンがカチオン交換樹脂塔66で除去される。再循環系配管22A及び22Bのそれぞれの線量が設定線量まで低下したとき、各再循環系配管の還元除染が終了する。
還元除染終了後、再循環系配管22Aと再循環系配管22Bの間でシュウ酸水溶液に対するスロッシング運転を行いながら、還元除染剤(シュウ酸)の分解工程を実施する(ステップS3)。ステップS3bにおいてシュウ酸の一部が分解され、シュウ酸水溶液のpHが、例えば、4.5に上昇したとき、このシュウ酸水溶液の錯イオン形成剤としてアンモニア濃度が20ppmになるように、その水溶液にアンモニア水が注入される(ステップS4)。なお、シュウ酸の分解によりpHが4.5になったシュウ酸水溶液は、ヒドラジンが完全に分解されており、ヒドラジンを含んでいない。例えば、再循環系配管22Bにシュウ酸水溶液を供給しながら分解装置77でシュウ酸の分解を行い、再循環系配管22Bから再循環系配管22Aにシュウ酸水溶液を戻すときに、シュウ酸水溶液のpHが4.5になったとする。このため、再循環系配管22Aに向かって循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に、還元剤注入装置49の薬液タンク50からアンモニア水が注入される。スロッシング運転により、アンモニアを含むシュウ酸水溶液によるスロッシング運転で、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれにおいてアンモニアを含むシュウ酸水溶液の、所定水位までの水位上昇を少なくとも一回行う。
その後、白金イオンを含む薬剤がシュウ酸水溶液に注入される(ステップS5)。例えば、再循環系配管22Bから再循環系配管22Aにアンモニアを含むシュウ酸水溶液を戻すときに、再循環系配管22Aに向かって循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に、白金イオン注入装置39の薬液タンク40からNa2[Pt(OH)6]・nH2Oを含む水溶液が注入される。
錯イオン形成剤、貴金属イオン及び還元除染剤を含み、還元剤を含まない水溶液の、スロッシング運転を行う(ステップS6A)。本実施例のステップ6Aは、実施例1のステップS6に相当する。20ppmのアンモニア及び1ppmの白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液が、再循環系配管22A内に所定の水位を形成するまで供給される。このとき、開閉弁105が開いて開閉弁107が閉じられ、開閉弁106が開いて開閉弁104が閉じられている。再循環系配管22A内においてそのシュウ酸水溶液の所定の水位が形成されたとき、開閉弁107が開いて開閉弁105が閉じられ、開閉弁104が開いて開閉弁106が閉じられる。再循環系配管22A内に存在する、20ppmのアンモニア及び1ppmの白金イオンを含み、ヒドラジンを含まない90℃のシュウ酸水溶液が、再循環系配管22B内に所定の水位を形成するまで供給される。このスロッシング運転において、シュウ酸水溶液に含まれる白金イオンが、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれの内面に吸着する。
再循環系配管22B内で所定の水位が形成された後で、再循環系配管22Bから再循環系配管22Aに向かうアンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まないシュウ酸水溶液に、スロッシング運転を行いながら、還元剤注入装置44の薬液タンク45内のヒドラジンが還元剤として注入される(ステップS7)。アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含む90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35を通って再循環系配管22Aに供給され、ステップ6Aの工程で既に白金イオンが吸着されている再循環系配管22Aの内面に接触する。このとき、開閉弁105が開いて開閉弁107が閉じられ、開閉弁106が開いて開閉弁104が閉じられている。再循環系配管22Aの内面に吸着されている白金イオン、及びシュウ酸水溶液中でその内面近くに存在する白金イオンがヒドラジンにより還元されて白金になって再循環系配管22Aの内面に付着する。
再循環系配管22A内に形成されるそのシュウ酸水溶液の水位が所定の水位に達したとき、開閉弁107が開いて開閉弁105が閉じられ、開閉弁104が開いて開閉弁106が閉じられる。再循環系配管22A内のアンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、サージタンク31内で加熱器32により90℃に加熱されて、ステップ6Aの工程で既に白金イオンが内面に吸着されている再循環系配管22Bに供給される。アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が接触する再循環系配管22Aと同様に、再循環系配管22Bの内面に白金が付着する。
白金イオンを含む薬剤及びヒドラジン(還元剤)が、それぞれ所定量循環配管35に注入されたとき、白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンの注入が停止される(ステップS7)。アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が再循環系配管22A及び22Bのそれぞれに4時間接触するように、このシュウ酸水溶液によるスロッシング運転が行われる。
その後、スロッシング運転によって、ステップS3cにおける、シュウ酸水溶液に含まれる還元除染剤及び還元剤の分解が行われる。シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppmに低下したとき、実施例1と同様に、浄化工程(ステップ9)が実施される。その後、廃液処理が行われる(ステップS10)。この廃液処理では、再循環系配管22A及び22B及び循環配管35内に存在する廃液が、外部に排出される。以上により、再循環系配管22A及び22Bに対する化学除染の全工程が終了する。
白金注入装置30の循環配管35及び連絡配管102,103が再循環系配管22A,22Bから取り外され、その後、BWRプラントが起動される。
酸化除染工程、酸化除染剤分解工程、還元除染工程、還元除染剤分解工程及び浄化工程が複数回、例えば、2〜3回繰り返される場合には、ステップS4、S5,S6A,S7及びS8の各ステップは最後の還元除染剤分解工程で行われる。
本実施例によれば、実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例では、スロッシング運転によって、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれにおいてアンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まないシュウ酸水溶液の所定水位までの水位上昇を少なくとも一回行い、その後、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれにおいてアンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液の所定水位までの水位上昇を行うため、本実施例では、前述したケースEの状態を実現することができる。すなわち、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれの内面は、アンモニア及び白金イオンを含み、ヒドラジンを含まないシュウ酸水溶液に30分間接触され、その後、このシュウ酸水溶液に30分間接触しなく、そして、アンモニア、白金イオン及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液に4時間接触される。したがって、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれの内面の白金の付着量が、図6に示すように、実施例1よりも大幅に増加し、各再循環配管の内面への白金の付着効率が著しく向上する。
さらに、本実施例によれば、白金注入装置30を再循環系配管22A及び22Bに接続するため、実施例1のように、再循環系配管22Aの内面を対象とした、白金付着処理を含む化学除染の全工程が終了した後、白金注入装置30を、再循環系配管22Aから取り外し、再循環系配管22Bに接続する作業が不要になる。このため、再循環系配管22A及び22Bのそれぞれに対する化学除染及び貴金属付着に要する時間が、実施例1よりも短縮することができる。
本実施例において、貴金属注入装置30の替りに、貴金属注入装置30A,30B,30C及び30Dのいずれかを用いてもよい。また、実施例7及び8のそれぞれにおいて、ステップS6の替りにステップS6Aを実施し、本実施例のスロッシング運転を適用してもよい。
実施例1〜8のいずれかの原子力プラントの構造部材への貴金属付着方法は、加圧水型原子力発電プラントの原子炉圧力容器に接続される配管に対して適用することができる。