以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[I]第1実施形態(図1〜図3)
図1は、第1実施形態に係る除染実施方法が除染対象とする原子力プラントの概略構成図である。また、図2は、第1実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。
1.本設系統
まず、原子炉圧力容器13(RPV:Reactor Presser Vessel)、原子炉再循環系統(PLR系統:Primary Loop Recirculation System)200及びその周辺の本設系統について説明する。
沸騰水型原子炉プラント9においては、原子炉圧力容器13内に炉心10が収容され、この炉心10を囲む炉心シュラウド11と原子炉圧力容器13との間に、環状のダウンカマ14が形成される。このダウンカマ14には、例えば16台または20台のジェットポンプ16が環状に所定間隔で配置される。炉心シュラウド11には、炉心10の上方を覆うシュラウドヘッド17が固定して設けられる。このシュラウドヘッド17に気水分離器18が設置され、この気水分離器18の上方に蒸気乾燥器19が設けられる。
原子炉圧力容器13の頭頂部には、上蓋冷却スプレイノズル1、上蓋計装ノズル2及びベントノズル3が設置される。このうちの上蓋冷却スプレイノズル1に、一次冷却材などの液体を散布するRHR(残留熱除去)ヘッドスプレイ管26が接続されている。
原子炉圧力容器13の外側には、PLR系統200が2系統もしくは3系統設けられる。原子炉圧力容器13内のダウンカマ14の下部から再循環水出口ノズル20を経てPLR系統200へ流出した一次冷却材は、PLR系統200に設けられたPLRポンプ21によって昇圧される。PLRポンプ21に流入する一次冷却材の流量は、PLRポンプ21のそれぞれ吸入側、吐出側に設けられたPLR吸入弁22、PLR吐出弁23により調整される。
一次冷却材は、再循環水入口ノズル24を経てジェットポンプ16に導かれ、ジェット駆動流体としてジェットポンプ16のノズルから噴出し、ダウンカマ14の上部の一次冷却材を吸い込んでジェット流とする。ジェットポンプ16から噴出した一次冷却材は、炉心10を通過中に加熱されて気液二相流になる。気水分離器18内に送られた気液二相流は蒸気と水に分離され、蒸気は更に蒸気乾燥器19で湿分が取り除かれた後に、原子炉圧力容器13の上部の蒸気出口ノズル27から流出して、図示しないタービン系統へ供給される。なお、上記構成は原子力発電プラントの一例であり、プラントによっては、ジェットポンプが無い場合もある。
タービン系で仕事をした一次冷却材としての蒸気は、図示しない復水器により復水となり、図示しない給水加熱器により加熱されて給水となって、原子炉圧力容器13に設けられた給水ノズル12に導かれる。この給水ノズル12には、原子炉圧力容器13の内壁に沿って環状に形成された給水スプレイリング12Aが接続される。給水ノズル12に導かれた給水としての一次冷却材は、給水スプレイリング12Aから原子炉圧力容器13内に供給される。
また、原子炉圧力容器13内には、給水スプレイノズル12Aの下方に、原子炉圧力容器13の内壁に沿って環状に形成された炉心スプレイリング15Aが配置される。この炉心スプレイリング15Aは、給水ノズル12と略同一高さで原子炉圧力容器13に設けられた炉心スプレイノズル15に接続される。炉心10の非常時に炉心スプレイノズル15を経て炉心スプレイリング15Aから一次冷却材が炉心10に注水される。
原子炉圧力容器13において、気水分離器18及び蒸気乾燥器19で分離された水は、炉心シュラウド11と原子炉圧力容器13との間のダウンカマ14に流下し、ジェットポンプ16に吸い込まれて炉心10へ導かれ、原子炉圧力容器13内を循環する。
また、原子炉圧力容器13の底部には、制御棒駆動機構ハウジング29、中性子束計測ハウジング28及びドレンノズル30が設置されている。制御駆動機構ハウジング29は図示しない制御棒駆動機構を収容し、この制御棒駆動機構が図示しない制御棒を駆動して炉心10の出力を制御する。また、中性子束計測ハウジング28内には、図示しない中性子束計測器が収容され、この中性子束計測器が炉心10における中性子束を計測する。また、ドレンノズル30はボトムドレンライン31に接続されて、原子炉圧力容器13内の炉水を排出する。
原子炉圧力容器13、PLR系統200、タービン系統をそれぞれ流れる一次冷却材には腐食生成物が発生し、このうち、炉心10を通過して放射化された腐食生成物は、PLR系統200の構成機器(20〜24)を含む各種機器に付着し堆積して放射線源になる。従って、廃炉時における作業員の被ばく線量低減対策として、汚染された配管・機器などに対して化学除染等を実施する必要がある。第1実施形態を含む各実施形態の除染実施方法及び除染実施装置は、このような原子炉圧力容器13または原子炉圧力容器13を含むPLR系統200等を主な除染対象として化学除染を行うものである。
各実施形態では、上述した原子炉圧力容器13、PLR系統200及びRHRヘッドスプレイ管26が本設系統である。各図では、PLR系統200及びRHRヘッドスプレイ管26を太い破線で表記している。また、説明の簡略化のため、原子炉圧力容器13に接続されている他の本設系統は省略している。また、図中において、原子炉圧力容器13を中心に対称性を有して左右に設けられた構成を「左側PLR系統200L」などと、適宜「右側」、「左側」の語を付して称する。
2.除染実施装置100A
次に、除染実施方法を実施する除染実施装置100Aについて説明する。この除染実施装置100Aは、蒸気出口ノズル27を閉止する閉止プラグ40と、原子炉圧力容器13の外部に設置されて、除染液が循環する循環経路401を構築する仮設系統300Aと、を有して構成される。
閉止プラグ40は、例えば気水分離器18及び蒸気乾燥器19が原子炉圧力容器13内から除去されている場合には、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27を原子炉圧力容器13の内側から閉止する。また、閉止プラグ40は、例えば原子炉圧力容器13内に気水分離器18及び蒸気乾燥器19が存在している場合には、蒸気出口ノズル27に接続された図示しない主蒸気配管を切断し、この切断箇所に閉止プラグ40を閉止することで蒸気出口ノズル27を閉止する。但し、閉止プラグ40が主蒸気配管の切断箇所を閉止する場合には、原子炉圧力容器13内の除染液(後述)の濃度が低くなって除染効果が低下した時点で、主蒸気配管に貯溜した除染液の混入した液体(水)を仮設系統300Aへドレンする場合がある。
仮設系統300Aは、この仮設系統300Aを第1ノズル(後述)に、除染液が流通可能に接続させる第1仮設配管39と、仮設系統300Aを第2ノズル(後述)に、除染液が流通可能に接続させる第2仮設配管48と、これらの第1仮設配管39及び第2仮設配管48を接続する第3仮設配管56と、を有して構成される。更に、仮設系統300Aは、第1仮設配管39、第2仮設配管48または第3仮設配管56(本第1実施形態では第1仮設配管39)に配置された仮設ポンプ25と、第3仮設配管56に配置された薬剤供給部としての薬剤調製部50及びオゾン発生器51と、温度調整器としての熱交換器49と、浄化系統57と、を有して構成される。
前記第1ノズルは、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方(本第1実施形態では、4個の給水ノズル12と2個の炉心スプレイノズル15の全てまたは一部)である。第1仮設配管39は、本第1実施形態では、これらの給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方に直接接続されるが、これらの給水ノズル12、炉心スプレイノズル15のそれぞれに接続された配管に接続されてもよい。
前記第2ノズルは、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方(本第実施形態では、複数本の制御棒駆動機構ハウジング29と複数本の中性子束計測ハウジング28と1個のドレンノズル30のそれぞれ全てまたは一部)である。このうちのドレンノズル30はボトムドレンライン31に接続されている。第2仮設配管48は、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とボトムドレンライン31の少なくとも一方に直接接続されてもよいが、本第1実施形態では、制御棒駆動機構ハウジング29、中性子束計測ハウジング28及びボトムドレンライン31に接続された炉底ヘッダ配管32に接続される。この炉底ヘッダ配管32に炉底弁69が配設されている。
仮設系統300Aの第1仮設配管39、第2仮設配管48及び第3仮設配管56によって、原子炉圧力容器13の給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方と、これらの給水ノズル12、炉心スプレイノズル15よりも原子炉圧力容器13の下方に設けられた制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方とが、除染液を流通可能に接続されて循環経路401が構築される。
従って、循環経路401は、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で、仮設系統300A、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル3の1個または2個、原子炉圧力容器13、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、及び仮設系統300Aを巡る経路であり、仮設系統300Aの仮設ポンプ25の作用で原子炉圧力容器13内の上方から下方へ除染液を流動させて、この除染液を循環させる。
つまり、除染液は、循環経路401内を循環する際に、原子炉圧力容器13内から制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方を経て仮設系統300Aに抜き出され、仮設系統300Aから給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方を経て、更に、上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル3の1個または2個を経て原子炉圧力容器13内に流入する。
これらの第1仮設配管39、第2仮設配管48及び第3仮設配管56を含む仮設系統300Aの配管構成について更に詳説する。
仮設系統300Aでは、左右の各PLR系統200に対して、PLRポンプ21とPLR吐出弁23との間にPLRボトム配管33が接続され、PLR吐出弁23の下流側にPLRミドル配管34が接続される。このうちのPLRボトム配管33は、第2仮設配管48に接続される。
また、右側PLRミドル配管34Rは、左右連結配管34Cを介して左側PLRミドル配管34Lに接続されて、右側PLRミドル配管34Rを流通する除染液が左側PLRミドル配管34Lに供給される。なお、図中の左右連結配管34C上に記載された2箇所の丸Aは、互いに連続していることを示す。左右連結配管34Cには左右連結弁37が設けられる。
また、右側PLRミドル配管34Rには、左右連結配管34Cへの接続点とPLR系統200への接続点との間にPLRミドル弁38が設けられる。この右側PLRミドル配管34Rは、給水ノズル12または炉水スプレイノズル15に接続される第1仮設配管39にT字状に接続される。更に、右側PLRミドル配管34Rは第1仮設配管39において、仮設ポンプ25とノズル弁47(後述)との間に接続される。
第1仮設配管39には、除染液の循環を逆転させるための第1逆流配管41が、仮設ポンプ25及びノズル弁47を挟む位置に環状に接続される。この第1逆流配管41には、除染液の順方向の循環時に閉止される第1逆流弁42が設けられる。また、第2逆流弁61を有する第2逆流配管62が、仮設ポンプ25と並列に、右側PLRミドル配管34Rと第3仮設配管56に接続される。この第3仮設配管56には、第2逆流配管62への接続点と第1仮設配管39への接続点との間に、第3逆流弁63が設けられる。
また、第1仮設配管39から、RHRヘッドスプレイ管26に接続されるヘッドスプレイ管接続配管44が分岐する。このヘッドスプレイ管接続配管44にはヘッドスプレイ管接続弁46が設けられる。また、第1仮設配管39において、右側PLRミドル配管34Rへの接続点とヘッドスプレイ管接続配管44への接続点との間に、ノズル弁47が設けられる。
ヘッドスプレイ管接続配管44に接続されたRHRヘッドスプレイ管26は、本来上蓋冷却スプレイノズル1に接続されているが、除染実施装置100Aの構成としては、上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル3のいずれか1個または2個に接続される。RHRヘッドスプレイ管26が接続されていない上蓋冷却スプレイノズル1、上蓋計装ノズル2、ベントノズル3のいずれかは、原子炉圧力容器13内に除染液が注入される際にこの原子炉圧力容器13内の空気等の気体を排出したり、除染液に注入される薬剤としての還元剤が分解したときに発生するガスを排出するためのエアベントとして利用される。
また、原子炉圧力容器13には、この原子炉圧力容器13内で発生したガスを排出する排ガス処理系統64が接続されている。この排ガス処理系統64はガス処理機構65を備え、除染液にオゾンガスが酸化剤として注入された場合に原子炉圧力容器13内で発生したガスを、ガス処理機構65により処理して排出する。
仮設系統300Aの前記熱交換器49は、仮設系統300Aを流れる除染液を加熱または冷却して所定温度に調整する。また、仮設系統300Aの薬剤調製部50は、第3仮設配管56内を流れる除染液に、調製ポンプ45の稼働により薬剤を供給して、薬剤の除染液中の含有量を調整する。薬剤は酸化剤及び還元剤であり、酸化剤としてはオゾンまたは過マンガン酸塩が用いられ、還元剤としては有機酸が用いられる。酸化剤がオゾンの場合には、オゾン発生器51からガスミキサ75を介して除染液中にオゾンが注入される。
ここで、還元剤としての有機酸は、シュウ酸、ギ酸、ビルビン酸、グリオキシル酸、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸の少なくとも一つが好ましい。つまり、化学除染では、通常、還元剤としてシュウ酸が好適に用いられる。このシュウ酸は、分解可能な有機酸のうちで酸解離定数(pKa)が小さく強い酸であるため、比較的低濃度での使用で除染効果を得ることができる。しかしながら、シュウ酸は、シュウ酸鉄の溶解度が低いため、鉄溶出が多い系統に対しては適さない場合がある。また、シュウ酸は水への溶解速度も遅いため、シュウ酸を高濃度に溶解することは難度が高い。
従って、例えばシュウ酸の使用が困難な場合には、常温から除染条件温度までの温度範囲で、水への溶解性を有する有機酸または液体状である有機酸を用いることが望ましい。酸解離定数(pKa)が約3以下と比較的低く、且つ上述の水への溶解性を有しまたは液体状である性質を有する有機酸としては、例えば、モノカルボン酸ではギ酸、ピルビン酸、グリオキシル酸などがあり、ジカルボン酸ではマロン酸、酒石酸、マレイン酸などがあり、トリカルボン酸ではクエン酸などがある。より高い除染効果を得るために、これらの有機酸を適宜複数使用してもよい。
仮設系統300Aの浄化系統57は、除染液の浄化が必要な場合に稼働されるものであり、除染剤分解部52、フィルタ53及びイオン交換部54を有して構成される。除染剤分解部52は、例えば、紫外線で除染剤を分解する紫外線照射装置である。フィルタ53は、除染液中の不溶解成分を除去する。イオン交換部54は、溶解成分を除去するものであり、例えば、陽イオン交換樹脂塔と、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合した混床樹脂塔と、の2種の樹脂塔を用いる。
このように構成された浄化系統57は、浄化弁59及び浄化ポンプ55を備えた浄化系統配管58に接続される。この浄化系統配管58は第3仮設配管56に環状に接続される。除染液の浄化が必要な際には、浄化弁59が開弁され、浄化ポンプ55が起動して、第3仮設配管56を流れる除染液が浄化系統配管58に誘導され、浄化系統57の除染剤分解部52、フィルタ53、イオン交換部54により順次浄化される。
なお、以上説明した除染実施装置100Aは、必ずしも全ての構成が含まれていなくてもよい。上述の構成のうち、以下で説明する各実施形態に係る除染実施方法が実施可能な構成が含まれていれば十分である。また、上記構成の説明は、除染実施装置100Aの仮設系統300Aに配置された弁及びポンプ等の各構成機器、及び配管の設置数及び位置を限定するものではない。例えば上述の構成には弁等が適宜追加されてもよい。
3.除染実施方法
次に、図2及び図3を用いて、除染実施方法を説明する。図2は、第1実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。また、図3は、第1実施形態に係る除染実施方法を示すフローチャートである。
除染実施方法では、まず、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27を閉止プラグ40により閉止する(S10)。この閉止プラグ40は、原子炉圧力容器13内に気水分離器18及び蒸気乾燥器19が存在していない場合には、原子炉圧力容器13の内側から蒸気出口ノズル27を閉止する。原子炉圧力容器13内に気水分離器18及び蒸気乾燥器19が存在している場合には、蒸気出口ノズル27に接続された図示しない主蒸気配管を切断し、この切断個所を閉止プラグ40により閉止することで蒸気出口ノズル27を閉止する。この蒸気出口ノズル27の閉止により、蒸気出口ノズル27を経て、除染液が原子炉圧力容器13内に流入または原子炉圧力容器13外へ抜き出されることが防止される。
次に、仮設系統300Aを用いて、原子炉圧力容器13が除染液の流路になるように循環経路401を構築する(S11)。ここで、このステップS11は、前述のステップS10と順序を入れ替え、ステップS10の前に実施してもよい。また、第1実施形態では、図2に示されるように、炉底ヘッダ配管32を除染液の循環経路401に含み、PLR系統200を循環経路401に含まない例で説明する。
具体的には、例えば第3逆流弁63、ノズル弁47、ヘッドスプレイ管接続弁46、及び炉底ヘッダ配管32に設けられた炉底弁69が開弁される。一方、PLR吸入弁22、PLR吐出弁23、左右連結弁37、PLRミドル弁38、第1逆流弁42、第2逆流弁61及び浄化弁59は閉弁される。なお、黒塗りの弁は閉弁状態、白塗りの弁は開弁状態を表す。
これにより、仮設系統300A、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル3の1個または2個、原子炉圧力容器13、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、及び仮設系統300Aを巡る循環経路401が構築される。
炉心10の燃料は、原子炉停止後に原子炉圧力容器13から搬出されている。一方、ジェットポンプ16、炉心シュラウド11、気水分離器18及び蒸気乾燥器19等の炉内機器は内蔵された状態であってよい。但し、気水分離器18及び蒸気乾燥器19は、除染実施時には既に搬出されている場合もある。
次に、原子炉圧力容器13内に除染液もしくは水張水を注入する(S12)。この除染液は、水張水に薬剤調製部50から薬剤が注入されたものであり、RHRヘッドスプレイ管26を経て上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル13のいずれか1個または2個から、更に、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方から原子炉圧力容器13内に供給される。給水ノズル12からの除染液は給水スプレイリング12Aにより、炉心スプレイノズル15からの除染液は炉心スプレイリング15Aによりそれぞれ原子炉圧力容器13の内壁面へ向かって噴射して供給される。除染液は、蒸気出口ノズル27と同一高さ、またはこの蒸気出口ノズル27よりも上方位置まで原子炉圧力容器13内に供給されて貯溜される。
次に、仮設系統300Aとの接続弁を開放する(S13)。例えば、接続弁として炉底弁69を開放して、原子炉圧力容器13内に貯溜された除染液を炉底ヘッダ配管32へ引き抜く。原子炉圧力容器13の底部には、不溶解成分のスラッジが堆積していることが多い。このスラッジは、原子炉圧力容器13の底部の除染液の流れを阻害して、除染液の線流速を不足させることに加え、原子炉圧力容器13の底部への除染液の接触をも阻害する。
そこで、第2仮設配管48への除染液の回収箇所を、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方として、堆積したスラッジを直接回収する。このようにしてスラッジを回収することで、原子炉圧力容器13の底部の除染液に線流速が付加されることに加え、除染液を原子炉圧力容器13の底部に接触させて、除染効率を向上させることが可能になる。
次に、炉底ヘッダ配管32から抜き出された除染液を、第2仮設配管48を含む仮設系統300Aに抜き出して回収する(S14)。回収された除染液は、仮設系統300Aの第3仮設配管56を流れる間に、熱交換器49で加熱または冷却されて温度が調整される。と同時に、薬剤調製部50で調製された薬剤(還元剤、還元剤)が調製ポンプ45により除染液に注入されて、その薬剤の除染液中の含有量が調整される。特に、酸化剤がオゾンの場合には、オゾン発生器51からガスミキサ75を介して除染液にオゾンが注入される。
次に、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27を閉止した状態で、仮設系統300Aの仮設ポンプ25を稼働させて、この仮設系統300Aからの除染液を、第1仮設配管39及びRHRヘッドスプレイ管26を経て原子炉圧力容器13に返還し、仮設系統300Aと原子炉圧力容器13を含む循環経路401内で除染液を循環させて、原子炉圧力容器13内を化学除染する(S15)。
第1仮設配管39を流れた除染液は、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方を経て給水スプレイリング12A、炉心スプレイリング15Aからそれぞれ原子炉圧力容器13内に供給されて返還される。また、RHRヘッドスプレイ管26を流れた除染液は、上蓋冷却スプレイノズル1、上蓋計装ノズル2、ベントノズル3のいずれか1個または2個から原子炉圧力容器13内に供給されて返還される。
また、循環経路401を除染液が循環する際には、化学除染の対象部位に対する除染液の流速に応じて除染液の通水時間を調整することが好ましい。通常、供用中のプラントの化学除染では、その後に続く点検作業工程への影響を低減するために、極力短時間に除染を実施することが求められる。しかしながら、廃止措置の場合には時間的制約が少ないため、除染液の線流速が遅くなる部位については通水時間を長くとることができる。そこで、本第1実施形態においては、仮設ポンプ25の出力を制御して、除染液の線流速が遅くなる部位では除染液の通水時間を長くし、反対に除染液の線流速が速くなる部位では除染液の通水時間を短く調整する。
また、化学除染は、除染液に酸化剤を用いた酸化工程と、除染液に還元剤を用いた還元工程とを交互に切り替えながら除染することが望ましい。酸化剤としては、例えばオゾンまたは過マンガン酸塩を用いる。また、還元剤としては、シュウ酸、ギ酸、ビルビン酸、グリオキシル酸、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸の少なくとも1つの有機酸を使用するのが望ましい。廃炉前除染を対象にしている各実施形態に係る除染実施方法は、除染液が接触する構成材への影響を考慮する必要性が低い。よって、除染液に添加する薬剤(酸化剤、還元剤)は、除染効果または扱いやすさを考慮して選択すればよい。
化学除染の実施中に除染液を浄化する必要があるか否かを判断し(S16)、浄化する場合には、浄化弁59を開弁すると共に浄化ポンプ55を起動させて、除染液を浄化系統配管58に誘導する(S17)。浄化系統配管58に誘導された除染液は、浄化系統57の除染剤分離部52、フィルタ53及びイオン交換部54により順次浄化される。この浄化された除染液は、仮設系統300Aから原子炉圧力容器13に返還し、循環経路401を循環させて除染を継続する(S15)。例えば、第1仮設配管39及びRHRヘッドスプレイ管26から原子炉圧力容器13内に除染液が供給される。
ステップS16において、除染液の浄化が不要な場合(NOの場合)には、除染対象としての原子炉圧力容器13の化学除染が十分なされたか否かを判断する(S18)。このステップS18において、原子炉圧力容器13の化学除染が十分になされたと判断した場合に化学除染を終了し、化学除染が十分でない場合にはステップS14〜S18を順次実施し、循環経路401において除染液を循環させて原子炉圧力容器13の化学除染を継続する。
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
(1)原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27を閉止プラグ40により閉止した状態で、原子炉圧力容器13及び仮設系統300Aを含む循環経路401に除染液を循環して流通させることから、蒸気出口ノズル27に接続された主蒸気配管(不図示)に除染液が流れることがない。即ち、循環経路401は、大径の主蒸気配管が存在しない縮小した領域になる。この結果、仮設系統300Aの仮設ポンプ25が、限定したスペースに設置された流量の小さなポンプであっても、循環経路401に除染液を効率的に循環させることができ、原子炉圧力容器13の化学除染を効率的に実施できる。
(2)原子炉圧力容器13及び仮設系統300Aを含む循環経路401に除染液を循環させて、原子炉圧力容器13を化学除染する際に、仮設系統300Aの仮設ポンプ25が用いられ、PLRポンプ21が用いられることがない。このため、PLRポンプ21を用いることにより生ずる除染作業の煩雑さや除染費用の高騰を未然に回避できる。
(3)原子炉圧力容器13の化学除染は、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で実施される。従って、原子炉圧力容器13の頭頂部に設けられた上蓋冷却スプレイノズル1、上蓋計装ノズル2、ベントノズル3のいずれか1個または2個から除染液を原子炉圧力容器13内に供給する際に、この供給された除染液が蒸気出口ノズル27から原子炉圧力容器13外へ流出することを確実に防止できる。
(4)原子炉圧力容器13の化学除染において、原子炉圧力容器13内に供給される除染液は、その液面が蒸気出口ノズル27と同一高さまたは蒸気出口ノズル27よりも上方位置になるように供給される。この結果、特に原子炉圧力容器13内に気水分離器18及び蒸気乾燥器19が存在している場合に、これらの気水分離器98及び蒸気乾燥器19が除染液に浸されることになるので、これらの気水分離器18及び蒸気乾燥器19を好適に除染できる。
[II]第2実施形態(図4)
図4は、第2実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第2実施形態の除染実施方法が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態と同一の除染実施装置100を用いて循環経路402を構築し、この循環経路402を循環して流通する除染液を第1実施形態とは逆方向に流して、除染液の循環を逆転させた点である。上記循環経路402は、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で、仮設系統300A、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、原子炉圧力容器13、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、及び仮設系統300Aを巡る経路である。
つまり、原子炉圧力容器13及び仮設系統300Aを含む循環経路402に除染液を循環して流通させる際に、原子炉圧力容器13内の除染液を給水ノズル12と給水スプレイノズル15の少なくとも一方から抜き出し、仮設系統300A中の除染液を、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方から原子炉圧力容器13内に流入させる。
第2実施形態では、除染液の循環を逆転させるため、第1実施形態で閉弁されていた第1逆流弁42及び第2逆流弁61が開弁される。一方、第1実施形態で開弁されていたヘッドスプレイ管接続弁46、ノズル弁47及び第3逆流弁63が閉弁される。この第2実施形態の除染実施方法においても、蒸気出口ノズル27は閉止プラグ40により閉止される。
以上の弁等の開閉状態によって、除染液は、図4に示すように、第1逆流配管41及び第2逆流配管62を流通して逆方向に循環する。つまり、除染液は、原子炉圧力容器13内を上昇して、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方から抜き出される。第1逆流配管41及び第2逆流配管62に除染液を流通させることで、仮設ポンプ25をその揚水の向きを変えずに、除染液の逆方向の循環に利用することが可能になる。
また、上述のような除染液の逆方向の循環の場合、除染液の全量を、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方を経て原子炉圧力容器13の底部から流入することで、原子炉圧力容器13の底部に堆積したスラッジを撹拌して、このスラッジの移動を促進させることが可能になる。
更に、この原子炉圧力容器13の底部からの除染液の流入に併せて、仮設系統300Aに設定されたバブリング装置(不図示)から除染液に気体43を注入して除染液をバブリングし、原子炉圧力容器13の底部における除染液の撹拌を強化して、この底部に堆積したスラッジの移動を促進させてもよい。供給する気体43は、酸化工程においては、酸化剤としてのオゾンガスが好ましい。オゾンガスは、除染液の撹拌促進と同時に、酸化剤としての効果を発揮するからである。
一方、還元工程においては、気体43は、窒素などの反応性の乏しいガスが好ましい。還元工程中は、除染効果の制御のため除染液中の酸化還元電位を制御している場合があるからである。なお、酸化還元電位を特に制御していない場合には、この気体43は空気であってもよい。
また、第1及び第2実施形態を含む各実施形態における除染実施方法は、廃炉前に実施される化学除染であるため、化学除染に要する所要時間を考慮する必要性が低い。そこで、循環経路402に除染液を循環して流通させる際に、原子炉圧力容器13に対する除染液の、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方からの抜き出しと、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方への流入とを交互に逆転させて繰り返してもよい。即ち、第1実施形態の循環経路401を流通する除染液の順方向の循環と、第2実施形態の循環経路402を流通する除染液の逆方向の循環とを、例えば一定時間毎に切り替えて繰り返してもよい。
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)〜(4)と同様の効果を奏するほか、次の効果(5)及び(6)を奏する。
(5)除染液を仮設系統300Aの第2仮設配管48から、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方を経て原子炉圧力容器13内に流入させることで、原子炉圧力容器13の特に底部に堆積したスラッジを移動させて、この底部の化学除染を効果的に実施できる。この場合、除染液に気体43を注入してハブリングさせることで、原子炉圧力容器13内での除染液の攪拌が促進されて、除染効果をより一層向上させることができる。
(6)第1実施形態の循環経路401を流通する除染液の順方向の循環と、第2実施形態の循環経路402を流通する除染液の逆方向の循環とを交互に切り替えて繰り返してもよい。この場合には、原子炉圧力容器13内において順方向または逆方向の一方向の循環では除染液の線流速が十分でない箇所においても、他方向の循環で除染液の線流速が十分になることで、除染効果を向上させることができる。
[III]第3実施形態(図5、図6)
図5は、第3実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第3実施形態の除染実施方法が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態で閉弁されていたPLR吸入弁22、左右連結弁37及びPLRミドル弁38を開弁することで、原子炉圧力容器13及びPLR系統200を化学除染の除染対象とした点である。これにより、第1実施形態の除染経路401または第2実施形態の除染経路402に、仮設系統300A、PLR系統200、原子炉圧力容器13、仮設系統300Aを巡る経路を追加した循環経路403A、403Bが構築される。
一般に、廃炉が予定された原子炉プラントにおいては、PLRポンプ21は原子炉停止に伴って停止し、通常それ以後長期間停止した状態にある。上述した弁(PLR吸入弁22、左右連結弁37、PLRミドル弁38)の開弁状態では、PLRポンプ21を含むPLR系統200の略全域が、除染液の流通する循環経路403A、403Bになる。図5に示す循環経路403Aは、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された第1実施形態の循環経路401に、仮設系統300A、PLR系統200、原子炉圧力容器13、及び仮設系統300Aを巡る経路を追加したものである。
このとき、原子炉圧力容器13で除染液を十分に流動させるために、PLR系統200内で除染液を循環させることが望ましい。しかしながら、PLRポンプ21を停止した状態では、除染液は、PLRポンプ21に遮断されてPLR系統200内で循環することが困難になる。そこで、PLRポンプ21の電動機及び回転体を撤去し、開口部を耐圧キャップ等で仮閉止して、PLRポンプ21の内部を除染液の流路にする。これにより、原子炉圧力容器13から再循環水出口ノズル20を経てPLR系統200に流入した除染液は、PLRポンプ21を通過し、PLRポンプ21の閉止キャップ部からPLRボトム配管33へ引き抜かれる。
また、第1仮設配管39からPLRミドル配管34内へ分岐した除染液は、PLR系統200内に流入した後、再循環水入口ノズル24からジェットポンプ16へ流入し、このジェットポンプ16の駆動力により原子炉圧力容器13内へ流出する。つまり、第3実施形態では、PLR系統200の大部分が化学除染されると共に、ジェットポンプ16の駆動力の利用によって、原子炉圧力容器13内での除染液の流動が促進される。
また、図6は、第3実施形態に係る除染実施方法において、循環経路403Bで除染液を逆方向に循環させた状態を示す説明図である。この循環経路403Bは、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された第2実施形態の循環経路402に、仮設系統300A、PLR系統200、原子炉圧力容器13、及び仮設系統300Aを巡る経路を追加したものである。
この循環経路403Bでの除染液の逆方向の循環では、PLR系統200に除染液を循環させるために、第2実施形態の弁の開閉状態(図4)において、PLR吸入弁22またはPLR吐出弁23を更に開弁(図6においてはPLR吐出弁23のみを開弁)する。また、第3実施形態における除染液の順方向の循環の場合(図5)と同様に、左右連結弁37及びPLRミドル弁38を開弁(図6においてはPLR吐出弁23を開弁しているため左右連結弁37のみを開弁)して、PLR系統200の大半に除染液を流通させる。
このとき除染液は、仮設系統300Aの第2仮設配管48を経て、PLRボトム配管33からPLR系統200へ流入することになる。そして、図5に示す順方向の循環と同様に、原子炉圧力容器13内で除染液をジェットポンプ16の駆動力を利用して流出させる場合、上述のようにPLR吸入弁22を閉弁して、PLR吐出弁23を開弁する。
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(6)と同様な効果を奏するほか、次の効果(7)を奏する。
(7)仮設系統300Aの除染液を原子炉圧力容器13のみならずPLR系統200へも流通させることで、このPLR系統200を化学除染することができる。そして、PLR系統200を除染した除染液を再循環水入口ノズル24に向けて流通させることで、ジェットポンプ16の駆動力を利用して原子炉圧力容器13内での除染液の攪拌を促進できるので、除染効率を向上させることができる。
[IV]第4実施形態(図7、図8)
図7は、第4実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第4実施形態の除染実施方法を実施する除染実施装置100Bが第1実施形態と異なる点は、その仮設系統300Bの第3仮設配管56における浄化系統配管58の上流側に仮設ポンプ25が配設され、この除染実施装置100Bを用いた除染実施方法では、仮設ポンプ25を稼働することで、循環経路404A(図7)または循環経路404B(図8)をそれぞれ構築して、原子炉圧力容器13の化学除染を実施する点である。
ここで、循環経路404Aは、図7に示すように、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で、仮設系統300B、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、上蓋冷却スプレイノズル1と上蓋計装ノズル2とベントノズル3の1個または2個、原子炉圧力容器13、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、及び仮設系統300Bを巡る経路である。また、循環経路400Bは、図8に示すように、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で、仮設系統300B、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、原子炉圧力容器13、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、及び仮設系統300Bを巡る経路である。
この第4実施形態は、例えば図示しない他の構成機器との関係で第1仮設配管39に仮設ポンプ25を設置することが好ましくない場合に、原子炉圧力容器13内で除染液の向きを、第1または第2実施形態と同様に維持したまま、仮設ポンプ25を浄化系統配管58の上流側に移動させたものである。この第4実施形態の除染実施装置100Bにおける仮設系統300Bでは、第1逆流弁42と第2逆流弁61と仮設ポンプ25との相互の相対的配置関係は、第1及び第2実施形態の仮設系統300Aの場合と同様に維持される。
循環経路404Aを構築する際の仮設系統300B等における各弁の開閉状態は第1実施形態と同様であり、ヘッドスプレイ管接続弁46及び第3逆流弁63が開弁され、PLRミドル弁38、第1逆流弁42及び第2逆流弁61が閉弁される。また、循環経路404Bを構築する際の仮設系統300B等における各弁の開閉状態は第2実施形態と同様であり、PLRミドル弁38、第1逆流弁42及び第2逆流弁61が開弁され、ヘッドスプレイ管接続弁46及び第31逆流弁63が閉弁される。
以上のように構成されたことから、本第4実施形態においては、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(6)と同様な効果を維持したまま、仮設ポンプ25の設置位置を変更することができる。
[V]第5実施形態(図9)
図9は、第5実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第5実施形態の除染実施方法を実施する除染実施装置100Cが第1及び第3実施形態と異なる点は、除染実施装置100Cの仮設系統300Cにおいて、第2仮設配管48に接続されるPLRボトム配管33が直接PLR系統200に接続されず、PLRポンプ21をバイパスするバイパスライン81に接続された点である。従って、この第5実施形態の除染実施方法では、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された第3実施形態の循環経路403のうち、PLR系統200を流れた除染液が、PLRポンプ21をバイパスしてバイパスライン81から、ボトムドレンライン31を経て第2仮設配管48に流通する循環経路405が構築される。
前述の第3実施形態では、PLRポンプ21を稼働させずにPLR系統200に除染液を流通させるために、PLRポンプ21を仮閉止する必要があった。しかし、PLRポンプ21の解体状況によっては、電動機などが未だ撤去されておらず仮閉止をすることができない場合もある。そこで、本第5実施形態では、PLRポンプ21をバイパスライン81によりバイパスさせることで、原子炉停止後のPLRポンプ21の解体状況に拘らず、原子炉圧力容器13及びPLR系統200の化学除染を実施する。また、このバイパスライン81を用いることで、PLRポンプ21に対する特段の処置を施さずに、化学除染を実施することもできる。
具体的には、PLRポンプ21の吸入側及び吐出側に例えば仕切弁及び仮設ホースを接続して、バイパスライン81を構成する。この仕切弁は、図9に示すように、PLR吸入弁22及びPLR吐出弁23を三方弁に改造したものであってもよい。
以上のように構成されたことから、本第5実施形態においては、第1〜第3実施形態の効果(1)〜(7)と同様な効果を奏するほか、PLRポンプ21の解体状況に拘わらず、またはPLRポンプ21に対する特段の処理を施すことなく、原子炉圧力容器13及びPLR系統200に対して化学除染を実施できる。
[VI]第6実施形態(図10)
図10は、第6実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第6実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第6実施形態の除染実施方法を実施する除染実施装置100Dが第1実施形態と異なる点は、この除染実施装置100Dの仮設系統300Dが、給水ノズル12、炉心スプレイノズル15の少なくとも一方と左側PLR系統200Lとを接続する助勢経路84と、この助勢経路84に接続された助勢ポンプ83と、左側PLRボトム配管33Lに配設された助勢弁86とを有し、助勢ポンプ83の稼働により左側PLR系統200Lを循環する除染液の線流速が高められた点である。
従って、この第6実施形態では、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された第1実施形態の循環経路401に、主に原子炉圧力容器13、再循環水出口ノズル20、PLR系統200、助勢経路84、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、及び原子炉圧力容器13を巡る経路を追加した循環経路406が構築されている。
助勢ポンプ83等を設置した理由は、次の通りである。つまり、原子炉圧力容器13は容量が非常に大きいため、原子炉圧力容器13を含んだ経路に化学除染を実施する場合、一箇所に設置された仮設ポンプ25では、十分な流速が得られない場合がある。特に、仮設ポンプ25から離れ、且つ左右連結配管34C(図5)を介して除染液を流入する左側PLR系統200Lでは、除染液に十分な線流速が得られない。そこで、左側PLR系統200L内の除染液の流通を、助勢ポンプ83で直接助勢する。
このときには、左側PLR系統200Lを流通する除染液が全て、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方から原子炉圧力容器13内へ誘導されるように、助勢弁86を閉止するのが好ましい。なお、左側PLR系統200Lでの除染液の流通は、主に助勢ポンプ83で制御されるので、図10では、第3実施形態等に示した左右連結配管34C及び左側PLRミドル配管34Lの図示を省略している。但し、左右連結配管34C及びPLRミドル配管34(34L、34R)による除染液の流通を適宜維持していてもよい。
以上のように構成されたことから、本第6実施形態によれば、第1及び第3実施形態の効果(1)〜(4)及び(7)と同様な効果を奏するほか、除染液の線流速が不充分となる左側PLR系統200Lの線流速を助勢ポンプ83により助勢することで、特に左側PLR系統200Lの除染を十分に実施できると共に、除染時間を短縮できる。
[VII]第7実施形態(図11)
図11は、第7実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第7実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第7実施形態の除染実施方法を実施する除染実施装置100Eが第1及び第2実施形態と異なる点は、この除染実施装置100Eの仮設系統300Eにおいて、第1逆流配管41(図1)が削除され、且つ第2逆流配管62に逆流ポンプ87が設置され、この逆流ポンプ87の稼働により循環経路407に除染液を逆方向に循環させた点である。
第2施形態では、第1逆流配管41(図4等)と第2逆流配管62に除染液を流通させて、除染液を逆方向に循環させていた。しかしながら、他の機器の配置状況によっては、第1逆流配管41を第1仮設配管39に接続できない場合がある。そこで、本第7実施形態の除染実施装置100Eにおける仮設系統300Eでは、第2逆流配管62に逆流ポンプ87を配設し、この逆流ポンプ87により第2実施形態と同様に、原子炉圧力容器13内で除染液を下方から上方へ向けて逆方向に流通させている。
また、第7実施形態では、PLRミドル配管34に流入する除染液を全て第2逆流配管62に誘導させるため、PLRミドル配管34には第4逆流弁88が配設される。また、第1仮設配管39における仮設ポンプ25の下流側には、ポンプ閉止弁78が配設される。このポンプ閉止弁78は、除染液の逆方向の循環の際に閉弁される。
従って、循環経路407は、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27が閉止プラグ40により閉止された状態で、仮設系統300Eの第3仮設配管56及び第2仮設配管48、制御棒駆動機構ハウジング29と中性子束計測ハウジング28とドレンノズル30の少なくとも一方、原子炉圧力容器13、給水ノズル12と炉心スプレイノズル15の少なくとも一方、仮設系統300Eの第1仮設配管39、第2逆流配管62、及び仮設系統300Eの第3仮設配管56を巡る経路である。
以上のように構成されたことから、本第7実施形態によれば、除染液が循環経路407内を第1実施形態とは逆方向に循環して流通することで、第1逆流配管41を用いることなく第2実施形態の効果(5)及び(6)と同様な効果を奏する。
[VIII]第8実施形態(図12)
図12は、第8実施形態に係る除染実施方法を説明する説明図である。この第8実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第8実施形態の除染実施方法を実施する除染実施装置100Fが第1実施形態と異なる点は、除染対象としての原子炉圧力容器13、PLR系統200のほかに、CUW系統及びRHR系統を含む、除染液の循環が可能な少なくとも一つの周辺系統が含まれた点である。
この第8実施形態では、これらの原子炉圧力容器13、PLR系統200及び周辺系統を各々隔離して個別の通水区域として循環経路408を形成する。この循環経路408においても、原子炉圧力容器13の蒸気出口ノズル27は閉止プラグ40により閉止されている。また、除染実施装置100Fの仮設系統300Fには、全ての通水区域に直接または間接に接続されるプラットホーム89が設けられる。このプラットホーム89は、熱交換器49、薬剤調製部50、オゾン発生器51、浄化系統57、浄化系統配管58及び仮設ポンプ25を備え、除染液の状態を管理して浄化等を行なうと共に、各通水区域への除染液の供給及び戻りを管理する。
例えば、プラットホーム89は、第1仮設配管39及び第2仮設配管48がプラットホーム配管91に接続されることで閉循環経路として構成される。この閉循環経路を形成するために、プラットホーム89と第2仮設配管48とのそれぞれの接続部分に、閉循環構成弁92と閉循環開放弁93とが設けられる。
プラットホーム89には、除染液供給ヘッダ94a及び除染液戻りヘッダ94bが設けられる。これらのヘッダ94(94a、94b)には、各通水区域に接続される分岐配管が接続される。分岐配管のそれぞれには、それぞれの分岐配管への通水を調整して除染対象の通水区域を選択する選択弁98(98a〜98f)が配設される。
除染液は、除染液供給ヘッダ94aから、選択された通水区域に供給されてこの通水区域を除染する。除染液供給ヘッダ94aから通水区域へ除染液を供給する際には、除染液供給ヘッダ94aと除染液戻りヘッダ94bとの間に設けられた供給用弁97を閉止する。この供給用弁97を閉止することで、プラットホーム配管91を流通する除染液を堰止めて、流通する除染液の全てを除染液供給ヘッダ94aに流入させる。通水区域を循環して除染した除染液は、除染液戻りヘッダ94bからプラットホーム89に戻される。選択弁98を次々に切り替えることで、各通水区域を順次除染することが可能になる。
ところで、このように各通水区域を順次除染する場合、線量率の高い原子炉圧力容器13等の通水区域を初期に除染すると、プラットホーム89が直ちに高レベルに汚染されてしまう。この場合、線量率の低い通水区域では、流れの停滞部に高放射能濃度の液が蓄積する恐れがある。例えば、線量率の高いPLR系統等の通水区域を除染した後に、線量率の低い通水区域を除染すると、線量率の高い通水区域に蓄積した汚染を拡大してしまう恐れがある。従って、各通水区域に対しては、汚染放射能量の低い区域から高い区域に順次化学除染を実施することが好ましい。
また、原子炉圧力容器13は、必要通水量が他の通水区域の容量と比較して桁違いに大きい。このため、原子炉圧力容器13を初期に除染した後にその他の除染対象を除染する場合には、除染液を大量に排水する必要がある。この排水の際には除染剤の分解処理及び浄化処理が必要になるため、これらの処理に多大な時間を要する。
一方、除染容量が小さく且つ汚染放射能量の低い通水区域から順次除染を実施していくと、最終サイクルの還元工程では、陽イオン交換樹脂への通水によって放射能と溶出金属をある程度除去しておけば十分になる。つまり、除染容量が小さく且つ汚染放射能量の低い系統から除染をすることで、除染剤の分解と最終浄化を実施することなく、水及び薬剤を追加することで次の除染対象に除染を移行できる。このため、第8実施形態においては、除染容量が小さく且つ汚染放射能量の低い通水区域から順次除染を行う。
また、プラットホーム配管91には、除染対象になる通水区域を除染するのに十分な液位及び液量の除染液を維持するために、バッファタンク99が設けられることが望ましい。必要時にのみバッファリングを実施するために、バッファタンク99にはバッファ弁96が設けられる。なお、プラットホーム89は、同一の機能を発揮する構成であれば、上述の配置関係に限定されない。例えば、プラットホーム配管91の接続位置、ヘッダ94、及びバッファタンク99の位置は、他の機器との配置を考慮して適宜変更してもよい。
以上のように構成されたことから、本第8実施形態によれば、第1及び第3実施形態の効果(1)〜(4)及び(7)と同様な効果を奏するほか、次の効果(8)及び(9)を奏する。
(8)除染対象である原子炉圧力容器13、PLR系統200及び周辺系統が、各々隔離され個別の通水区域として小さく区分けされたので、仮設ポンプ25の流量が小さい場合でも、除染液の線流速を高めて除染効果を向上させることができる。
(9)汚染放射能量が低く且つ除染容量も小さな通水区域から化学除染が順次実施されるので、除染剤の分解や最終浄化を実施することなく次の通水区域の除染に移行でき、この結果、化学除染を効率的に実施できる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。