JP2017122593A - 放射性核種の付着抑制方法、及び炭素鋼配管への皮膜形成装置 - Google Patents

放射性核種の付着抑制方法、及び炭素鋼配管への皮膜形成装置 Download PDF

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Abstract

【課題】原子炉を構成する炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する方法と、この炭素鋼部材に放射性核種の付着を抑制する皮膜を形成する装置を提供する。
【解決手段】本発明による放射性核種の付着抑制方法は、原子力発電プラントの原子炉を構成する炭素鋼部材の炉水と接する表面にクロムを含む皮膜を形成する工程S8、S9と、前記クロムを含む皮膜に白金粒子を付着させることで、前記炭素鋼部材の前記表面にクロムと白金を含む皮膜を形成する工程S11、S12とを備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、沸騰水型原子力発電プラントの原子炉を構成する炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する方法と、この炭素鋼部材に放射性核種の付着を抑制する皮膜を形成する装置に関する。
発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下「BWRプラント」という)及び加圧水型原子力発電プラント(以下「PWRプラント」という)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(以下「RPV」という)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(又はインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
BWRプラント及びPWRプラント等の発電プラントでは、RPVなどの主要な構成部は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構成部は、プラントの製造コストを低減する観点、又は給水系や復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは、内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、及びマンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は、炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。この結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となりうる。従業者の被曝線量は、人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管の内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(例えば、特開昭58−79196号公報)。
また、一度配管の表面に形成された酸化皮膜に取り込まれたコバルト60やコバルト58等の放射性核種を、化学薬品を用いて配管表面から溶解して除去する化学除染法が提案されている(例えば、特開平11−344597号公報)。
また、化学除染後の原子力プラント構成部材の表面にフェライト皮膜としてマグネタイト皮膜を形成することによって、プラントの運転後にその構成部材の表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が提案されている(例えば、特開2006−38483号公報及び特開2007−192745号公報)。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、プラントの構成部材の表面に接触させて、その表面にフェライト皮膜を形成するものである。さらに、マグネタイト皮膜よりも安定なニッケルフェライト皮膜、又は亜鉛フェライト皮膜を原子力プラント構成部材の表面に形成し、プラントの運転後にその構成部材の表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている。
炭素鋼部材の表面に放射性核種が付着することを抑制する方法としては、炉水にアルカリ水を注入して、炭素鋼配管に接する炉水の温度を250℃以上に100時間以上保持して、配管表面に酸化皮膜を形成する方法が提案されている(例えば、特開平9−166694号公報)。
特開昭58−79196号公報 特開平11−344597号公報 特開2006−38483号公報 特開2007−192745号公報 特開平9−166694号公報
亜鉛などの金属イオンを炉水に注入する方法は、ステンレス鋼に対しては放射性核種の付着抑制効果を発現するが、ステンレス鋼に比べて炭素鋼では放射性核種の付着抑制効果が低下するという課題がある。また、炭素鋼部材の表面への放射性核種の付着を抑制する従来の方法では、部材の表面に形成された酸化皮膜に放射性核種が取り込まれやすいので、放射性核種の付着抑制効果が低下するという課題がある。
本発明は、原子炉を構成する炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する方法と、この炭素鋼部材に放射性核種の付着を抑制する皮膜を形成する装置を提供することを目的とする。
本発明による放射性核種の付着抑制方法は、次のような特徴を備える。原子力発電プラントの原子炉を構成する炭素鋼部材の炉水と接する表面にクロムを含む皮膜を形成する工程と、前記クロムを含む皮膜に白金粒子を付着させることで、前記炭素鋼部材の前記表面にクロムと白金を含む皮膜を形成する工程とを備える。
本発明によれば、原子炉を構成する炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する方法と、この炭素鋼部材に放射性核種の付着を抑制する皮膜を形成する装置を提供することができる。
本発明の実施例1による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 付着試験で、CrとPtを含む皮膜を表面に形成しない炭素鋼Aと、この皮膜を表面に形成した炭素鋼Bとに付着したCo−60の量を示す図である。 付着試験を行った炭素鋼Aと炭素鋼Bとの表面をラマン分光によって分析した結果を示す図である。 Crを中心に見た場合のCr−Zn−HO系の電位−pH図である。 実施例1による皮膜形成装置を炉水浄化系に取り付けたBWRプラントの系統図である。 実施例1による皮膜形成装置の機器系統構成を示す図である。 炭素鋼部材の表面に形成されたCrとPtを含む皮膜を示す模式図である。
本発明者らは、原子炉運転条件を模擬した水質環境で、原子炉構造材料へのCo−60(コバルト60)の付着に及ぼす水質や材料の影響を調べていた。その結果、構造材料の表面へのCo−60の付着は、構造材料に形成される酸化皮膜にCo−60が取り込まれることによって生じることが分かり、これを抑制するためには、酸化皮膜の形成の基となる腐食を抑制すればよいことが分かった。
この考察に基づき、原子炉運転条件における炭素鋼へのCo−60の付着抑制方法を検討し、Co−60の付着試験を実施した。付着試験では、Cr(クロム)とPt(白金)を含む皮膜を表面に形成した炭素鋼Bと、この皮膜を表面に形成しない炭素鋼Aとを試験片として用い、これらの試験片をZn(亜鉛)とCo−60を含む炉水を模擬した水に500時間浸漬し、試験片に付着したCo−60の量を測定した。
図2は、付着試験の結果を示す図であり、CrとPtを含む皮膜を表面に形成しない炭素鋼Aと、この皮膜を表面に形成した炭素鋼Bとに付着したCo−60の量を示す図である。図2に示したCo−60の付着量は、炭素鋼AへのCo−60の付着量に対する相対的な値である。図2から明らかなように、CrとPtとを含む皮膜を形成した炭素鋼Bでは、炭素鋼AよりもCo−60の付着量が低下する結果が得られた。
図3は、付着試験を行った炭素鋼Aと炭素鋼Bとの表面をラマン分光によって分析した結果を示す図である。Co−60の付着試験後、炭素鋼Aと炭素鋼Bの表面に形成された酸化皮膜に対してレーザーラマンスペクトル分析を実施し、この結果を図3に示す。図3には、FeとZnCrのラマンスペクトルも併記した。
Co−60の付着量が大幅に低減した炭素鋼Bの表面には、主にZnCr(亜鉛クロマイト)を含む酸化皮膜が形成されていた。一方、炭素鋼Aの表面には、主にFeからなる酸化皮膜が形成されていた。このことから、CrとPtを含む皮膜を形成した炭素鋼Bは、この皮膜の表面にZnCrを含む酸化皮膜が形成され、ZnCrを含む酸化皮膜によりCo−60の付着が抑制されたことがわかる。
図4は、Crを中心に見た場合のCr−Zn−HO系の電位−pH図である。Ptと水素の反応により炭素鋼表面の電位が低下することで、CrとPtを含む皮膜とZnとが反応してZnCrを含む皮膜が形成された。
以上のことから、炭素鋼部材の表面にCrとPtを含む皮膜を形成し、この皮膜とZnを含む炉水との反応によりZnCrを含む皮膜を形成することで、炭素鋼に付着するCo−60の量を低減でき、原子炉を構成する炭素鋼部材への放射性核種(Co−60)の付着を抑制できることが分かった。
本発明では、この方法を原子力発電プラントに適用する。すなわち、原子炉の起動前に炭素鋼部材の表面にCrとPtを含む皮膜を形成することで、原子炉の起動後に炭素鋼部材の表面にZnCrを含む皮膜を形成させる。CrとPtを含む皮膜は、後述する実施例で説明するように、初めにCrを含む皮膜を形成し、次にCrを含む皮膜にPt粒子を付着させることで、CrとPtを含む皮膜を形成する。
図7は、炭素鋼部材110の表面に形成されたCrとPtを含む皮膜113を示す模式図である。CrとPtを含む皮膜113を形成するときには、初めに、炭素鋼部材110の表面の少なくとも一部を覆うように、炭素鋼部材110の表面にCrを含む皮膜111を形成する。次に、Crを含む皮膜111にPt粒子112を付着させる。Pt粒子112は、Crを含む皮膜111とZnを含む炉水とが反応してZnCrを含む酸化皮膜が形成される反応を促進する触媒として作用する。Pt粒子112は、図7に示すように、全てがCrを含む皮膜111の外部に位置するようにCrを含む皮膜111の上に載っていてもよいし、一部がCrを含む皮膜111の外部に位置する(すなわち、一部がCrを含む皮膜111の内部にある)ようにCrを含む皮膜111に埋められていてもよいし、炭素鋼部材110の表面(例えば、Crを含む皮膜111同士の隙間)に位置するようにCrを含む皮膜111に付着していてもよい。Pt粒子112は、CrとPtを含む皮膜113における密度が0.03μg/cm以上となるように、Crを含む皮膜111に付着させるのが好ましい。
炭素鋼部材の表面にCrとPtを含む皮膜を形成して、炉水との反応によりZnCrを含む皮膜を形成することで放射性核種の付着を抑制する本発明の方法を、供用中の原子力発電プラントに適用した場合、炭素鋼部材には既に酸化皮膜が形成されているため、この既存の酸化皮膜の上にCrとPtを含む皮膜が形成されることになる。このため、既存の酸化皮膜に取り込まれたCo−60からの線量を抑えることができず、新たなCo−60の付着が少なかったとしても、線量の低減効果は小さい。従って、本発明による放射性核種の付着抑制方法は、原子力発電所で一般的に行われている化学除染の実施後に連続して行うことが望ましい。具体的には、除染工程の終了後から原子炉の起動までの間に行うことが望ましい。
化学除染とは、原子炉の構成機器の表面に形成された酸化皮膜と構成機器の表面に付着した放射性核種とを溶解して除去する方法である。従って、化学除染によって原子炉構成機器を構成する金属の表面が露出した状態、又は放射性核種が取り込まれた酸化皮膜が除去された後に生じる薄い腐食皮膜しか構成機器の表面にない状態で、本発明による放射性核種の付着抑制方法を適用する。この結果、本発明によって、原子炉の構成部材である炭素鋼部材の炉水と接する表面(炭素鋼部材が炭素鋼配管の場合は、炭素鋼配管の内表面)にCrとPtを含む皮膜を形成でき、炭素鋼部材の表面への放射性核種(特にコバルト60)の付着を好適に抑制することができる。
本発明は、沸騰水型原子力発電所のCrを含まない鋼材で構成されている炭素鋼配管を使用した炉水浄化系に使用するのが最も好適であるが、この限りではなく、炉水の接する原子炉構成部材に適用でき、例えば、炉水再循環系などの部材の表面に適用することができる。また、本発明は、BWRプラントだけでなくPWRプラントの炉水に接する原子炉構成部材にも同様に用いることができる。
本発明の実施例1による放射性核種の付着抑制方法及び炭素鋼配管への皮膜形成装置を、図5、図6、及び図1を用いて説明する。本実施例は、本発明をBWRプラントの炉水浄化系配管に適用した例であり、炭素鋼からなる浄化系配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成して、炭素鋼部材への放射性核種(特にコバルト60)の付着を抑制する例である。
図5は、本実施例による放射性核種の付着抑制方法を適用するBWRプラントの系統図であり、本実施例による皮膜形成装置を炉水浄化系に取り付けたBWRプラントの系統図である。
原子力発電プラントであるBWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、炉水浄化系、及び給水系を備える。原子炉1は、原子炉建屋(図5に示さず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置され、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(RPV)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を備える。炉心13には、多数の燃料集合体(図5に示さず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含む。
再循環系は、再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有する。給水系は、復水ポンプ5、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8、高圧給水加熱器9、及び復水器4とRPV12を接続する給水配管10を備える。復水ポンプ5、復水浄化装置6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8、及び高圧給水加熱器9は、復水器4からRPV12に向って、この順に給水配管10に設置される。炉水浄化系は、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26、炉水浄化装置27、及び再循環系配管22と給水配管10を接続する浄化系配管20を備える。浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26、及び炉水浄化装置27は、この順に浄化系配管20に設置される。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。
RPV12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水は、ジェットポンプ14内に吸引される。これらの冷却水は、炉心13に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された一部の冷却水が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図5に示さず)が回転して、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管15でタービン3から抽気された抽気蒸気が、高圧給水加熱器9及び低圧給水加熱器8にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24によって炉水浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経て、RPV12内に戻される。
図5に示すように、本実施例による皮膜形成装置30は、BWRプラントの炉水浄化系に、液体(皮膜形成液)を循環可能な循環配管35で接続される。例えば、原子炉1の運転を停止している間に、再循環系配管22から分岐している浄化系配管20に設けられた弁23のボンネットを開放し、循環配管35を浄化系配管20に弁23のフランジを用いて接続して、皮膜形成装置30からの液体の流出路を形成する。また、浄化系配管20に設けられた弁101のボンネットを開放し、循環配管35を浄化系配管20に弁101のフランジを用いて接続して、皮膜形成装置30への液体の流入路を形成する。なお、本実施例では皮膜形成装置30を浄化系配管20に接続しているが、皮膜形成装置30を接続する位置はこれに限らない。皮膜形成装置30は、冷却水系統の配管など、プラントを構成する炭素鋼部材と水とが接触する部分へ通水する配管であれば、任意の配管に接続することができる。
本実施例による皮膜形成装置30は、後述するように、CrとPtを含む皮膜の形成処理(放射性核種の付着抑制処理)と化学除染処理とをともに実施できるように構成される。
図6は、本実施例による皮膜形成装置30の機器系統構成を示す図である。図6を用いて、皮膜形成装置30の構成を説明する。皮膜形成装置30は、加熱器53を内蔵したサージタンク31、循環配管35、及びカチオン交換樹脂塔60を備える。循環配管35には、開閉弁47、循環ポンプ48、弁49、弁55、56及び57、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33、及び開閉弁34が、上流から下流へ(弁101から弁23へ)この順に設けられる。
循環配管35には、弁49をバイパスする配管71が接続され、配管71には、弁50及びフィルタ51が設置される。さらに、循環配管35には、弁55をバイパスする配管66が接続され、配管66には、冷却器58及び弁59が設置される。さらに、循環配管35には、弁56をバイパスする配管67が接続され、配管67には、カチオン交換樹脂塔60及び弁61が設置される。配管67には、カチオン交換樹脂塔60及び弁61をバイパスする配管68が接続され、配管68には、混床樹脂塔62及び弁63が設置される。循環配管35には、弁57をバイパスする配管69が接続され、配管69には、弁65及び分解装置64が設置される。分解装置64は、内部に活性炭触媒(例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒)が充填されている。
サージタンク31は、弁57と循環ポンプ32の間で循環配管35に設置される。循環配管35には、循環ポンプ32と弁33の間とサージタンク31とを接続する配管70が接続される。配管70には、弁36及びエゼクタ37が設けられる。エゼクタ37には、シュウ酸をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図6に示さず)が設けられている。シュウ酸は、還元除染剤であり、浄化系配管20の内表面に付着して放射性核種を取り込んだ酸化皮膜を還元溶解するために用いる。シュウ酸を用いて酸化皮膜を還元溶解するときにヒドラジンを使用する場合がある。
本実施例による皮膜形成装置30は、上述したように、CrとPtを含む皮膜の形成処理(放射性核種の付着抑制処理)と化学除染処理とをともに実施できる。例えば、サージタンク31は、処理に用いる液体が充填され、循環ポンプ32は、サージタンク31内の液体を、弁33、34を介して浄化系配管20(図5)に供給する。また、配管70により、循環ポンプ32の吐出側から弁36とエゼクタ37を介してサージタンク31に戻る流路が形成されている。エゼクタ37に設けられたホッパにより、還元除染剤であるシュウ酸をサージタンク31に注入できる。
循環配管35には、クロム酸イオンを含む液体を注入するクロム酸イオン注入装置85が接続される。クロム酸イオン注入装置85は、薬液タンク45、注入ポンプ43、弁41、及び注入配管72を備える。薬液タンク45は、注入ポンプ43及び弁41を備える注入配管72によって、循環配管35に接続される。薬液タンク45には、酸化クロム(CrO)を水に溶解して調製した溶液(第1薬剤)が充填される。
循環配管35には、さらに、酸化剤を注入する酸化剤注入装置86が接続される。酸化剤注入装置86は、薬液タンク46、注入ポンプ44、弁42、及び注入配管73を備える。薬液タンク46は、注入ポンプ44及び弁42を備える注入配管73によって、循環配管35に接続される。薬液タンク46には、酸化剤として過酸化水素水溶液が充填される。注入配管73と循環配管35との接続点を注入点79と呼ぶ。循環配管35には、注入点79から過酸化水素水溶液が注入される。また、過酸化水素水溶液注入装置86は、配管75によって配管69に接続される。配管75には、弁54が設けられる。
循環配管35には、さらに、Ptイオンを含む液体を注入するPtイオン注入装置94が接続される。Ptイオン注入装置94は、薬液タンク93、注入ポンプ92、弁91、及び注入配管95を備える。薬液タンク93は、注入ポンプ92及び弁91を備える注入配管95によって、循環配管35に接続される。薬液タンク93には、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液(第2薬剤)が充填される。
循環配管35には、さらに、還元剤を注入する還元剤注入装置87が接続される。還元剤注入装置87は、薬液タンク40、注入ポンプ39、弁38、及び注入配管74を備える。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38を備える注入配管74によって、循環配管35に接続される。薬液タンク40には、還元剤としてヒドラジン水溶液(第3薬剤)が充填される。
循環配管35には、Ptイオン注入装置94と開閉弁34との間に、pH計76が設けられる。pH計76は、循環配管35を流れて浄化系配管20に供給される液体のpHの値を計測する。
図1は、本実施例による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。本実施例による付着抑制方法を、図1を用いて詳細に説明する。図1に示す手順は、炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成する手順だけでなく、化学除染処理の手順も含んでいる。本実施例による付着抑制方法は、BWRプラントの運転停止期間(例えば、BWRプラントの定期検査中の期間)やBWRプラントの稼働前(供用の開始前、すなわち初めて運転する前)に行う。
ステップS1で、皮膜形成装置30を、皮膜を形成する炭素鋼配管からなる配管系に接続する。皮膜形成装置30の循環配管35を、皮膜を形成する炭素鋼配管である浄化系配管20に接続する。
ステップS2、S3で、皮膜を形成する炭素鋼配管に化学除染を実施する。炉水と接触する配管の内表面には、酸化皮膜が形成されている。BWRプラントにおいては、この酸化皮膜が放射性核種を含んでいる。ステップS2、S3では、一例として、化学的な処理により、この酸化皮膜を浄化系配管20の内表面から取り除く。炭素鋼配管の内表面へのCrとPtを含む皮膜の形成に際しては、配管の線量率を下げるとともに形成する皮膜の密着性を良くするために、配管の内表面に既に存在する酸化皮膜を除去しておく方がよい。このため、皮膜を形成する配管の内表面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。なお、CrとPtを含む皮膜を形成する前に皮膜を形成する部材の表面が露出していればよいので、本実施例で説明する化学除染の替りに、機械的な除染処理を実施することも可能である。
ステップS2、S3で実施する化学除染は、既存の方法(例えば、特開2000−105295号公報を参照)を用いることができる。以下、化学除染処理の一例を簡単に説明する。
まず、ステップS2で、皮膜形成装置30から浄化系配管20の内部に還元除染液を供給する。弁47、49、55、56、57、33、34をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ48、32を駆動する。これにより、浄化系配管20内にサージタンク31内の水を循環させる。加熱器53により循環する水を加熱し、この水の温度が化学除染処理に好ましい温度(例えば90℃)になったときに弁36を開く。すると、エゼクタ37に設けられたホッパから供給された必要量のシュウ酸が、配管70内を流れる水によりサージタンク31内に供給される。サージタンク31内では、シュウ酸が水に溶解して、シュウ酸水溶液が生成される。このシュウ酸水溶液は、循環ポンプ32の駆動によって、サージタンク31から循環配管35を流れて浄化系配管20に供給される。この時、還元剤注入装置87から循環配管35にヒドラジンを注入する。ヒドラジンの注入量は、pH計76で計測する液体のpHの値が予め定めた所定の値、例えば2.5を維持するように、注入ポンプ39の回転数や弁38の開度を制御して調整する。
ステップS3では、シュウ酸水溶液(還元除染液)により、化学除染を実施する。ヒドラジンを含んでpHが所定の値に調整されたシュウ酸水溶液は、弁34を通って皮膜形成装置30から浄化系配管20の弁23に供給され、浄化系配管20を流れる。浄化系配管20を流れるシュウ酸水溶液は、ポンプ24と再生熱交換器25を通って弁101に到達し、弁101から皮膜形成装置30の循環配管35に流れ込んで、弁47に到達する。続いて、シュウ酸水溶液は、ポンプ48で加圧されて循環配管35を流れ、弁49、55、56、57を通ってサージタンク31へ戻る。還元除染液であるシュウ酸水溶液をこのように循環させることにより、シュウ酸の酸化皮膜溶解力で炭素鋼配管の内表面に形成された酸化皮膜を溶解する。
以下では、上記のように皮膜形成装置30と浄化系配管20を流れる液体のことを「循環液体」と称する。循環液体は、還元除染液の他に、以下で説明する、分解中の還元除染液、分解された還元除染液、Crを含む皮膜を形成するための皮膜形成液、及びCrとPtを含む皮膜を形成するための皮膜形成液のことも指す。
酸化皮膜の溶解が進むと還元除染液中の放射能濃度やFe濃度が上昇するため、これらを除去する目的で、カチオン交換樹脂塔60を運用する。カチオン交換樹脂塔60は、弁61を開いて弁56を閉じて運用する。
炭素鋼のシュウ酸による除染の場合、炭素鋼配管の内表面に難溶解性のシュウ酸鉄(II)が形成され、酸化皮膜の溶解が抑制されることがある。この場合は、過酸化水素水溶液を還元除染液に注入し、過酸化水素によりシュウ酸鉄(II)を溶解する。ただし、この際には、カチオン交換樹脂の過酸化水素による劣化を防止するために、カチオン交換樹脂塔60の運用を止める必要がある。弁56を開いて弁61を閉じることでカチオン交換樹脂塔60の運用を止めてから、弁42を開いて注入ポンプ44を起動して、薬液タンク46内の過酸化水素水溶液を注入点79から循環配管35を流れる還元除染液に注入する。これにより、式(1)に示すように、シュウ酸鉄(II)中のFe2+は、Fe3+に酸化されて、シュウ酸鉄(III)錯体として溶解する。
2Fe(COO)+H+2(COOH)→2Fe[(COO) +2HO+2H ・・・(1)
過酸化水素水溶液の注入を停止し、炭素鋼配管の内表面のシュウ酸鉄(II)が溶解するとともに、還元除染液に注入した過酸化水素水溶液が反応によって消失したことを確認した後、再びカチオン交換樹脂塔60を運用して、還元除染液中の陽イオン性の放射性核種と金属カチオンを除去する。
ステップS4からステップS7では、還元除染液の成分であるシュウ酸とヒドラジンを分解する。
ステップS4では、炭素鋼配管の線量率が目標値まで低下した、又は還元除染時間が所定の時間に達したところで、シュウ酸とヒドラジンの分解を開始する。弁65と弁57の開度を調整して、循環している還元除染液の一部が分解装置64に流入するようにする。続いて、弁42が閉じているのを確認して弁54を開き、ポンプ44を起動して、薬液タンク46内の過酸化水素水溶液を、分解装置64に流入する還元除染液に注入する。
分解装置64は、内部に活性炭触媒が充填されており、この触媒の表面では、式(2)、(3)のように、シュウ酸と過酸化水素、ヒドラジンと過酸化水素がそれぞれ反応する。
(COOH)+H→2CO+2HO ・・・(2)
+2H→N+4HO ・・・(3)
式(3)、(4)の反応により、シュウ酸とヒドラジンは、それぞれ分解される。注入された過酸化水素水溶液は、分解装置64で完全に分解されるように注入速度が調整され、分解装置64から流出する循環液体(分解装置64で分解された還元除染液)に過酸化水素が混じらないようにする。
ステップS5では、注入点79から循環液体に過酸化水素水溶液を添加する。シュウ酸とヒドラジンの分解工程でも、シュウ酸があると炭素鋼配管の内表面にシュウ酸鉄(II)が形成される可能性がある。そこで、分解工程がある程度進んだ段階で、循環液体に過酸化水素水溶液を添加して、炭素鋼配管の内表面のシュウ酸鉄(II)を除去する。弁61を閉じて弁56を開き、弁42の開度を調整して注入点79から循環液体に過酸化水素水溶液を注入することで、炭素鋼配管の内表面に過酸化水素を供給する。これにより、式(2)の反応によって、炭素鋼配管の内表面に形成されているシュウ酸鉄(II)のFe2+はFe3+に酸化され、シュウ酸鉄(II)を除去することができる。
ステップS6では、循環液体(還元除染液)にギ酸を添加する。分解工程が進んでいるため、シュウ酸が不足し、Fe3+の溶解状態を維持できなくなりFe(OH)が析出することが考えられる。このため、Fe3+の溶解状態を維持するために、ギ酸を循環液体に注入する。例えば、エゼクタ37に設けられたホッパ(図6に示さず)にギ酸を入れ、弁36を開いてホッパからサージタンク31へギ酸を注入する。このとき、循環液体には、濃度の低下したシュウ酸とヒドラジンに加え、新たに添加した過酸化水素とギ酸が存在する。そして、循環液体は、カチオン交換樹脂塔60をバイパスしながら流れ、分解装置64での分解が継続している。
ステップS7では、循環液体(還元除染液)に含まれるシュウ酸とヒドラジンの分解を終了する。シュウ酸とヒドラジンの分解工程を終了するため、循環液体中の過酸化水素の濃度を下げて、カチオン交換樹脂塔60を運用する。このため、過酸化水素水溶液の注入を止めるために弁42を閉じ、ギ酸の注入を止めるために弁36を閉じる。循環液体への過酸化水素とギ酸の注入がなくなると、これらの濃度が低下する。過酸化水素の濃度が予め定めた所定の値以下、例えば1ppm以下になったところで、カチオン交換樹脂塔60の運用を開始し、循環液体中のカチオン濃度を低下させる。シュウ酸、ヒドラジン、及びギ酸の分解は継続する。ただし、分解の容易さの関係から、これらのうちヒドラジンが先に分解され、次いでシュウ酸が分解され、ギ酸が残った状態が出現する。この状態で分解工程を終了する。
ステップS8からステップS13では、炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成する。初めに、ステップS8からステップS10でCrを含む皮膜を形成し、次に、ステップS11からステップS13でCrとPtを含む皮膜を形成する。
ステップS8では、クロム酸イオン注入装置85を用い、クロム酸イオンを含む液体を、循環配管35を流れる循環液体に添加する。弁41を開いてポンプ43を起動し、薬液タンク45から酸化クロム(CrO)を水に溶解して調製した溶液(第1薬剤)を循環液体に注入する。Crを含む皮膜を効果的に形成するために、第1薬剤は、酸化クロムの濃度が50ppm以上であるのが好ましい。
ステップS9では、還元剤注入装置87を用い、還元性を持つ液体であるヒドラジン水溶液(第3薬剤)を、循環配管35を流れる循環液体に添加する。弁38を開いてポンプ39を起動し、薬液タンク40からヒドラジン水溶液を循環液体に注入する。これにより、循環液体は、クロム酸イオンと還元剤であるヒドラジンとを含む皮膜形成液となる。この皮膜形成液が炭素鋼配管の内表面に接触することにより、Crを含む皮膜が炭素鋼配管の内表面に形成される。Crを含む皮膜を効果的に形成するために、この循環液体(皮膜形成液)は、温度が50℃以上で100℃以下であるのが好ましい。この温度は、例えば、化学除染のときの循環液体の温度である90℃にすることができる。なお、循環液体は、サージタンク31に内蔵された加熱器53で加熱することができる。
Crを含む皮膜としては、例えば、CrO(OH)を含む皮膜、Cr金属を含む皮膜、及びFeCrを含む皮膜のうち少なくとも1つを形成する。例えば、CrO(OH)を含む皮膜を形成する場合には、循環液体のpHの値が、図4に示した電位−pH図でCrO(OH)の安定領域であるpHが約3以上で11以下の値(例えばpHが7)になるように、ヒドラジン水溶液の注入速度を調整する。循環液体のpHの値は、pH計76で計測することができる。これにより、HCrO イオンからCrO(OH)が形成され、循環液体が接触する炭素鋼配管の内表面にCrO(OH)が付着し、炭素鋼配管の内表面にCrO(OH)を含む皮膜が形成される。
Crを含む皮膜の形成量が予め定めた目標量に到達したら、Crを含む皮膜の形成を終了する。Crを含む皮膜の形成量は、実験などで事前に求めた皮膜の形成速度と、皮膜の形成に要した時間とから、推定することができる。また、目標とするCrを含む皮膜の形成量は、予め任意に定めることができ、例えば、炭素鋼配管の内表面をほぼ均一に被覆できる50μg/cm程度の密度とすることができる。
ステップS10では、循環液体に含まれるヒドラジンを分解する。弁63を開いて弁56を閉じ、循環液体を混床樹脂塔62に流通させ、未反応のHCrO イオンとヒドラジンを混床樹脂塔62で除去する。
ステップS11では、Ptイオン注入装置94を用い、Ptイオンを含む液体を、循環配管35を流れる循環液体に添加する。弁56を開いて弁63を閉じ、弁91を開いてポンプ92を起動し、薬液タンク93からヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液(第2薬剤)を循環液体に注入する。このとき、循環液体の温度を60℃にするのが好ましい。Ptイオンの濃度が予め定めた所定の値に達したら、Ptイオンの添加を停止する。Ptイオンの濃度のこの所定の値は、任意に定めることができ、例えば、後述するステップS12で形成するCrとPtを含む皮膜において、Pt粒子の密度が0.03μg/cm以上となるような値に定めることができる。
ステップS12では、還元剤注入装置87を用い、還元性を持つ液体であるヒドラジン水溶液(第3薬剤)を、循環配管35を流れる循環液体に添加する。弁38を開いてポンプ39を起動し、薬液タンク40からヒドラジン水溶液を循環液体に注入する。これにより、循環液体は、Ptイオンと還元剤であるヒドラジンとを含む液体(皮膜形成液)となる。Crを含む皮膜にPtイオンを含む液体とヒドラジン水溶液とを接触させることで、ヒドラジンによってPtイオンがPt金属に還元され、Crを含む皮膜にPt粒子が付着する。この結果、炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜が形成される。
ステップS13では、循環液体に含まれる不純物を除去するため、弁63を開いて弁56を閉じ、循環液体を混床樹脂塔62に流通させる。混床樹脂塔62で循環液体を浄化して、炭素鋼配管の内表面へのCrとPtを含む皮膜の形成を終了する。皮膜形成装置30の循環配管35を浄化系配管20から取り外して、BWRプラントの炉水浄化系を復旧する。
このように、本実施例による放射性核種の付着抑制方法を炭素鋼配管の化学除染の後に行うと、原子炉の起動前に、炭素鋼へのCo−60の付着を抑制するCrとPtを含む皮膜を炭素鋼配管の内表面に形成することができる。
本実施例による放射性核種の付着抑制方法は、CrとPtを含む皮膜の形成に使用する溶液に塩化物イオンや硫酸イオンを含む溶液を用いていないため、BWRプラントの構成部材の健全性(例えば、耐腐食性)を害することがない。また、本実施例による皮膜形成装置30は、化学除染を実施することができ、還元剤のヒドラジンを分解することが可能であるので、廃棄物量を低減することが可能である。
本発明の実施例2について説明する。以下では、実施例1と異なる点についてのみ説明する。
実施例1では、BWRプラントの場内で、炭素鋼配管の内表面にCrを含む皮膜を形成した(図1のステップS8からステップS10)。実施例2では、BWRプラントの場外で、炭素鋼配管の内表面にCrを含む皮膜を形成する。例えば、BWRプラントの場外で、BWRプラントの炭素鋼からなる配管の内表面にCr金属をコーティングすることで、炭素鋼配管の内表面にCrを含む皮膜(Cr金属を含む皮膜)を形成する。
炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成する処理は、原子炉の建設後の起動試験前に実施する。この処理は、BWRプラントの場外で実施しても場内で実施してもよい。但し、この処理をBWRプラントの場外で実施すると、原子炉の建設前にCrとPtを含む皮膜が形成されるので、原子炉の建設時にこの皮膜が炭素鋼配管から剥離する可能性がある。このため、炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成する処理は、BWRプラントの場内で、原子炉の建設後で原子炉の起動前に実施することが望ましい。
炭素鋼配管の内表面にCrとPtを含む皮膜を形成する処理は、Crを含む皮膜を形成した炭素鋼配管に実施例1で示した皮膜形成装置30を取り付けて、図1に示したステップS11、S12を実施することで、行うことができる。
1…原子炉、2…主蒸気配管、3…タービン、4…復水器、5…復水ポンプ、6…復水浄化装置、7…給水ポンプ、8…低圧給水加熱器、9…高圧給水加熱器、10…給水配管、11…原子炉格納容器、12…原子炉圧力容器(RPV)、13…炉心、14…ジェットポンプ、15…抽気配管、20…浄化系配管、21…再循環ポンプ、22…再循環系配管、23…弁、24…浄化系ポンプ、25…再生熱交換器、26…非再生熱交換器、27…炉水浄化装置、30…皮膜形成装置、31…サージタンク、32…循環ポンプ、33…弁、34…開閉弁、35…循環配管、36…弁、37…エゼクタ、38…弁、39…注入ポンプ、40…薬液タンク、41、42…弁、43、44…注入ポンプ、45、46…薬液タンク、47…開閉弁、48…循環ポンプ、49、50…弁、51…フィルタ、53…加熱器、54、55、56、57…弁、58…冷却器、59…弁、60…カチオン交換樹脂塔、61…弁、62…混床樹脂塔、63…弁、64…分解装置、65…弁、66、67、68、69、70、71…配管、72、73、74…注入配管、75…配管、76…pH計、79…注入点、85…クロム酸イオン注入装置、86…酸化剤注入装置、87…還元剤注入装置、91…弁、92…注入ポンプ、93…薬液タンク、94…Ptイオン注入装置、95…注入配管、101…弁、110…炭素鋼部材、111…Crを含む皮膜、112…Pt粒子、113…CrとPtを含む皮膜。

Claims (9)

  1. 原子力発電プラントの原子炉を構成する炭素鋼部材の炉水と接する表面にクロムを含む皮膜を形成する工程と、
    前記クロムを含む皮膜に白金粒子を付着させることで、前記炭素鋼部材の前記表面にクロムと白金を含む皮膜を形成する工程と、
    を備えることを特徴とする放射性核種の付着抑制方法。
  2. 前記クロムを含む皮膜を形成する工程では、前記炭素鋼部材の前記表面にクロム酸イオンを含む液体と還元性を持つ液体とを含む皮膜形成液を接触させることで、前記炭素鋼部材の前記表面に前記クロムを含む皮膜を形成する、請求項1に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  3. 前記クロムと白金を含む皮膜を形成する工程では、前記クロムを含む皮膜に白金イオンを含む液体と還元性を持つ液体とを接触させることで、前記クロムを含む皮膜に白金粒子を付着させる、請求項1又は2に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  4. 前記クロムを含む皮膜を形成する工程では、前記炭素鋼部材の前記表面にクロム酸イオンと還元剤とを含む皮膜形成液を接触させることで、前記炭素鋼部材の前記表面に前記クロムを含む皮膜を形成する、請求項1に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  5. 前記クロムを含む皮膜を形成する工程は、前記原子力発電プラントの運転が停止されている間に行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  6. 前記クロムと白金を含む皮膜を形成する工程は、前記原子力発電プラントの稼働前に行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  7. 前記皮膜形成液は、温度が50℃以上で100℃以下である、請求項2又は4に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  8. 前記クロムを含む皮膜を形成する工程と前記クロムと白金を含む皮膜を形成する工程は、前記炭素鋼部材の化学除染の後に行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載の放射性核種の付着抑制方法。
  9. 液体が流れ、原子力発電プラントの原子炉を構成する炭素鋼配管に接続可能な配管と、
    前記配管に接続され、前記配管を流れる前記液体にクロム酸イオンを含む液体を注入する装置と、
    前記配管に接続され、前記配管を流れる前記液体に還元剤を注入する装置と、
    前記配管に接続され、前記配管を流れる前記液体に白金イオンを含む液体を注入する装置と、
    を備えることを特徴とする炭素鋼配管への皮膜形成装置。
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JP2019168321A (ja) * 2018-03-23 2019-10-03 九州電力株式会社 加圧水型原子力発電プラント構成部材の線源低減方法

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