はじめに、本発明の概要について説明する。なお、この概要に付記する図面参照符号は、専ら理解を助けるための例示であり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではない。
図1は、本発明に係る半導体素子評価装置の構成を概略的に示すブロック図である。図1を参照すると、半導体素子評価装置は、少なくとも、制御手段(80)およびデータ処理手段(110)を備えている。また、制御手段(80)は電流測定部(81)を有し、データ処理手段(110)は、期間分割部(111)および電流推定部(112)を有する。
電流測定部(81)は、半導体素子に電流を流すための電圧の印加を開始してから該半導体素子を流れる電流値が定常状態に至るまでの期間に含まれる複数の時刻において、該半導体素子を流れる電流値を測定する。図23を参照すると、期間分割部(111)は、前記期間を第1の期間(例えば期間A)と第1の期間よりも後の第2の期間(例えば期間B)に分割した場合において、第2の期間に含まれる時刻において測定された電流値の時間変化を近似的に表す曲線を求めたときに、該第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値と該曲線を該時刻に外挿して求めた電流値との差が所定の閾値以上となるように前記期間を分割する。
電流推定部(112)は、第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値を近似的に表す曲線を求め、該曲線を外挿して前記開始時刻(例えばt=0)に半導体素子を流れる電流値を推定する。
また、図23を参照すると、電流推定部(112)は、第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値(Id_steady)を差し引いた値の時間変化を近似的に表す第1の曲線(例えば近似直線A)を求め、第1の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と定常状態の電流値とを足し合わせて、前記開始時刻における電流値(例えばId_diff0)を推定するようにしてもよい。
さらに、図23を参照すると、期間分割部(111)は、第2の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値を差し引いた値の時間変化を近似的に表す第2の曲線(例えば近似直線B)を求め、前記第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態における電流値を差し引いた値と第2の曲線を該時刻に外挿して求めた値との差が所定の閾値以上となるように前記期間を分割してもよい。
また、図24を参照すると、電流推定部(112)は、第1の期間(例えば期間A)に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値および前記第2の曲線(例えば近似直線B)を該時刻に外挿して求めた値を差し引いた値を近似的に表す第3の曲線(例えば近似直線C)を求め、第2の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と、第3の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と、定常状態の電流値とを足し合わせて、前記開始時刻における電流値を推定するようにしてもよい。
図1を参照すると、半導体素子評価装置は、さらに、パラメータ抽出手段(180)を備えていることが好ましい。パラメータ抽出手段(180)は、パラメータ抽出部(183)、または、熱抵抗決定部(181)および熱容量決定部(182)を有する。
図13を参照すると、熱抵抗決定部(181)は、上記第1の曲線を外挿して前記開始時刻における値を求め、求めた値に基づいて半導体素子の熱抵抗値を決定する。また、図13を参照すると、熱容量決定部(182)は、熱抵抗決定部(181)により決定した熱抵抗値および上記第1の曲線の傾きに基づいて半導体素子の熱容量値を決定するようにしてもよい。
図28を参照すると、パラメータ抽出部(183)は、第1の熱抵抗パラメータ(RthC)および第1の熱容量パラメータ(CthC)を用いて第1の期間(期間A)における半導体素子の温度変化を記述する第1の熱回路(57)、ならびに、第2の熱抵抗パラメータ(RthB)および第2の熱容量パラメータ(CthB)を用いて第2の期間(期間B)における半導体素子の温度変化を記述する第2の熱回路(58)を組み込んで、半導体素子に対する自己発熱を含む回路シミュレーションを行い、上記の複数の時刻において測定された電流値および定常状態における電流値を再現するように、第1の熱抵抗パラメータ、第1の熱容量パラメータ、第2の熱抵抗パラメータおよび第2の熱容量パラメータを決定するようにしてもよい。
図29を参照すると、パラメータ抽出部(183)は、第1の熱抵抗パラメータ(Rth1)および第1の熱容量パラメータ(Cth1)を用いて第1の期間(期間A)における半導体素子の温度変化を記述する第1の熱回路(第1のセル59)、第2の熱抵抗パラメータ(Rth2)および第2の熱容量パラメータ(Cth2)を用いて第2の期間(期間B)における半導体素子の温度変化を記述する第2の熱回路(第2のセル61)、ならびに、第1の熱回路(セル59)と第2の熱回路(セル61)を接続する熱抵抗素子(接続熱抵抗Rthc1,符号60)を組み込んで、半導体素子に対する自己発熱を含む回路シミュレーションを行い、上記の複数の時刻において測定された電流値および定常状態における電流値を再現するように、第1の熱抵抗パラメータ、第1の熱容量パラメータ、第2の熱抵抗パラメータ、第2の熱容量パラメータ、および、熱抵抗素子(60)の熱抵抗値を決定するようにしてもよい。
なお、熱抵抗決定部(181)は、第3の曲線を外挿し求めた前記開始時刻における値に基づいて第1の期間における半導体素子の熱抵抗値を第1の熱抵抗値として決定するとともに、第2の曲線を外挿して求めた前記開始時刻における値に基づいて第2の期間における半導体素子の熱抵抗値を第2の熱抵抗値として決定してもよい。このとき、熱容量決定部(182)は、第1の熱抵抗値および第3の曲線の傾きに基づいて第1の期間における半導体素子の熱容量値を決定するとともに、第2の熱抵抗値および第2の曲線の傾きに基づいて第2の期間における半導体素子の熱容量値を決定してもよい。
図1を参照すると、半導体素子評価装置は、さらに、モデルパラメータ記憶手段(160)を備えていることが好ましい。モデルパラメータ記憶手段(160)は、パラメータ記憶部(161)を有する。パラメータ記憶部(161)は、所定の電圧を印加した時点において半導体素子を流れる電流値、および、半導体素子を流れる電流値が定常状態となった後における電流値を、それぞれ、第1の電流値および第2の電流値として保持するとともに、半導体素子を模擬する回路シミュレーションにおいて前記所定の電圧を印加した場合に第1の電流値を生成するように調整された回路シミュレーション用のパラメータを保持する。
このとき、熱抵抗決定部(181)は、前記パラメータに熱抵抗を表す熱抵抗パラメータを追加して自己発熱を含む回路シミュレーションを行なった場合に、前記所定の電圧を印加して定常状態となったときに第2の電流値を再現するように熱抵抗パラメータを決定する。また、熱容量決定部(182)は、前記パラメータに対して、決定した熱抵抗値を追加するとともに熱容量を表す熱容量パラメータを追加して、自己発熱を含む回路シミュレーションを行なった場合に、前記複数の時刻において測定された電流値を再現するように熱容量パラメータを決定する。
また、このとき、熱抵抗決定部(181)は、図13に示すように、上記第1の曲線を外挿して前記開始時刻における値を求め、求めた値に基づいて半導体素子の熱抵抗値を決定する。さらに、熱容量決定部(182)は、熱抵抗決定部(181)により決定した熱抵抗値および上記第1の曲線の傾きに基づいて半導体素子の熱容量値を決定する。
本発明に係る半導体素子評価装置によると、自己発熱により電気的特性が変化しうる半導体素子の自己発熱のない状態における電気的特性を正確に決定することができる。また、本発明に係る半導体素子評価装置によると、自己発熱を含む回路シミュレーションのためのパラメータ(例えば、熱抵抗パラメータ、熱容量パラメータ)を高精度に求めることができる。
(実施形態1)
第1の実施形態に係る半導体素子評価装置について、図面を参照して説明する。はじめに、本実施形態の半導体素子評価装置を構成する手段と、それによってもたらされる効果について、概略的に述べる。
図2は、本実施形態に係る半導体素子評価装置の動作について説明するための図である。図2を参照すると、初期状態においてオフしている電界効果型トランジスタにパルス電圧またはステップ電圧を印加し、電圧印加後の複数の時間において、素子特性を測定し、得られた複数の時間における測定値(図2の黒丸)を用いた外挿によって、初期状態(t=0)での素子特性を求める。
より具体的には、複数の時間において測定した素子特性から定常状態での測定値を差し引いた値を補整値とし、該補整値を指数関数または線形関数で外挿することにより、初期状態での素子特性を求める。
初期状態は、まだ自己発熱が開始していない状態である。すなわち、初期状態での素子特性が、自己発熱がない状態での素子特性となる。図3は、ゲート電圧を3通りに変化させたときのドレイン電流Id−ドレイン電圧Vdsプロットである。
本実施形態によると、特許文献1とは異なり、まだ自己発熱が開始していない状態、すなわち、初期状態での素子特性を求めることができ、自己発熱の影響を完全に解消することができる。
また、本実施形態によると、特許文献2のように、あらかじめ熱抵抗Rth0や温度上昇に関するべき指数nを決める必要がない。したがって、本実施形態によると、熱抵抗Rth0やべき指数nの推定に伴う誤差も発生しないため、簡便かつ正確に、自己発熱の影響を排除した素子特性が得られる。
また、本実施形態では、非特許文献3に記載された技術のように、一旦熱抵抗を抽出し、熱抵抗と温度が上昇した定常状態でのドレイン電流を組み合わせて、温度上昇がない状態でのドレイン電流を求めるという間接的な手順を用いない。すなわち、本実施形態では、測定値から温度上昇がない状態でのドレイン電流などの素子特性を直接決定する。したがって、本実施形態によると、熱抵抗の抽出に伴う誤差や、熱抵抗値を用いたデータ処理に伴う誤差を解消することができる。
また、本実施形態によると、温度上昇がない状態でのドレイン電流を求める段階において、複数の時間において測定した素子特性が得られていれば、初期状態である温度上昇がない状態の素子特性を求めることができる。すなわち、本実施形態によると、複数の時間において測定した素子特性以外の経験的パラメータ、実測値あるいは推定値が必要とされない。したがって、本実施形態によると、これらの経験的パラメータ、実測値や推定値に伴う誤差を排除することができ、精度の高い測定結果が得られる。
また、本実施形態では、温度上昇がない状態でのドレイン電流を求める段階において、定常状態における測定値と、これ以外に定常状態に達するまでの最低2点の複数の測定値を使用し、最低2点の複数の時間において測定した素子特性から定常状態での測定値を差し引いた値を補整値とし、該補整値を対象に外挿を行うことにより、外挿の際に不適切な測定点が使用されることを防ぐことができる。
図4は、本実施形態に係る半導体素子評価装置の構成を示すブロック図である。図5は、データ処理の手順を示す。
図4を参照すると、半導体素子評価装置は、少なくとも制御装置7を備えている。また、半導体素子評価装置は、さらに、半導体素子モデリング装置20を備えていてもよい。制御装置7は、制御プログラム8、時間依存性測定データ記憶部12、データ処理プログラム11、および、処理後データ記憶部13を備えている。一方、半導体素子モデリング装置20は、パラメータ抽出プログラム18およびモデルパラメータ記憶部16を備えている。
図4における制御プログラム8、データ処理プログラム11、パラメータ抽出プログラム18、および、モデルパラメータ記憶部16は、それぞれ、図1における制御手段80、データ処理手段110、パラメータ抽出手段180、および、モデルパラメータ記憶手段160に相当する。
図4を参照すると、半導体素子評価装置の外部には、パルス発生装置3、電源装置4、検出装置5、測定対象2、および、測定対象保持装置1が設けられている。
図4に示した半導体素子評価装置は、制御プログラム8の機能およびデータ処理プログラム11の機能とこれらを備えた制御装置7および半導体素子モデリング装置20を除いて、例えば、非特許文献3の図1に記載されたパルス測定用測定装置の構成と同一である。本実施形態では、制御プログラム8およびデータ処理プログラム11により、高精度な自己発熱の評価を実現する。
本実施形態の半導体素子評価装置においては、半導体プローバあるいはテスタなどの測定対象保持装置1に電界効果型トランジスタなどの半導体素子が形成されたシリコンウエハまたはパッケージングされた半導体素子などの測定対象2が設置される。
パルスジェネレータのようにパルスを発生するパルス発生装置3および直流電圧を印加する電源装置4は、それぞれ、測定機器を制御する制御装置7に実装された制御プログラム8により送られる制御信号9により制御され、測定配線6を経由して測定対象2にバイアス電圧を印加する。
検出装置5は、制御プログラム8の制御にしたがって、ドレイン電流などの素子特性を測定し、測定結果を制御装置7に送信する。
制御プログラム8は、電源装置4に対しては印加電圧条件および電圧印加の指令信号、パルス発生装置3に対してはパルス電圧の印加条件および電圧印加の指令信号、検出装置5に対しては測定条件をそれぞれ制御信号9として送信する。
また、制御プログラム8はパルス発生装置3によって印加されるパルス電圧が立ち上がった後の複数の時間で測定された素子特性を検出装置5から測定データ10として受け取る。制御プログラム8は、複数のバイアス電圧において、パルス立ち上がり後の複数の時間で測定された素子特性の測定データを測定データ10として受け取る。制御プログラム8は、一例として、電界効果型トランジスタのゲート電圧を一定とし、ドレイン電圧を変化させた各バイアス条件において、パルス立ち上がり後の複数の時間で測定された素子特性を測定データ10として受け取る。
制御プログラム8は、上記のようにして得られた測定データ10を、パルス立ち上がり後の複数の時間で測定された素子特性に関する時間依存性測定データ14として、ハードディクスあるいは主記憶メモリなどの記憶装置からなる時間依存性測定データ記憶部12に保存する。
なお、プログラム上の処理という観点から、時間依存性測定データ記憶部12は、外部ファイルとしてハードディスクなどの記憶装置に設けられるものであってもよい。また、時間依存性測定データ記憶部12は、配列などのプログラムにより管理されるデータ領域として、ハードディクスあるいは主記憶メモリなどの記憶装置上に設けられるものであってもよい。なお、時間依存性測定データ14は、時間が充分に経過した状態の特性として、半導体パラメータアナライザなどを使用した通常の直流特性測定手段により得られた素子特性の測定値を含んでいてもよい。
データ処理プログラム11は、時間依存性測定データ記憶部12から上記時間依存性測定データ14を取り出し、時間軸に対する外挿処理を行い、パルスの印加を開始した時間における素子特性を求め、得られた結果を処理後データ15として処理後データ記憶部13に出力する。また、処理後データ記憶部13に蓄積された処理後データ15は、イーサネット(登録商標)等の通信ネットワーク、USBメモリなど不揮発性メモリを備えた補助記憶装置、CD−ROMなどの記憶媒体を介して制御装置7の外部に出力される。処理後データ15は、半導体素子のモデルパラメータ作成、半導体素子における自己発熱の解析、あるいはその他の素子特性の解析に使用される。
制御装置7は、測定器を制御して半導体素子特性の時間依存性測定データ14を取得するとともに、自己発熱に関するデータを処理して自己発熱の影響を受けない状態での素子特性として処理後データ15を生成する。制御装置7は、制御プログラム8、データ処理プログラム11、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、プログラムやデータ保存領域を機能されるために必要なハードウェア、および制御信号9および測定データ10を通信するために必要なハードウェアを備えている。制御装置7は、例えば、これらのプログラムと通信機能を実装したパーソナルコンピュータとして実現してもよいし、専用のハードウェアによって構成してもよい。
データ処理プログラム11は、各時間における素子特性値から定常状態での素子特性値を減算して得られる差の値を時間軸で外挿し、パルスの印加開始時点での前記差の値を求め、パルスの印加開始時点での前記差の値に定常状態での素子特性値を足し合わせることにより、パルスの印加開始時点での素子特性値を求める。また、データ処理プログラム11は、前記差の値に対する時間軸で外挿において、時間に対する指数関数、あるは時間を変数とする指数を含む関数を使用することが好ましい。
制御プログラム8が前記各装置を制御してパルス立ち上がり後の複数の時間で測定された素子特性の測定データを測定データ10として受け取る際に、例えば、ゲート電圧やドレイン電圧などの印加電圧にそれぞれ一定の値が指定された第1の評価バイアス条件においてパルス立ち上がり後の複数の時間での測定値を取得し、次に、第2以下の評価バイアス条件での測定を繰り返すようにしてもよい。ここで、評価バイアス条件とは、素子特性の評価条件となる電圧印加条件を指す。例えば、直流電源に対しては、その出力値として設定される電圧を指し、パルス発生装置に対しては、パルスが立ち上がった後の電圧を指す。また、複数の評価バイアス条件に対して、まず、パルス立ち上がり後にある時間が経過した時点での測定値を取得し、続いてパルス立ち上がり後に異なる時間が経過した時点での測定値を得る工程を繰り返すようにしてもよい。
なお、一つの評価バイアス条件において複数の電圧印加時間での測定値を得る際に、一種類のパルス印加に対して測定値を取得した後、異なるパルス幅のパルスを印加することにより異なる電圧印加時間における測定値を得る工程を繰り返すようにしてもよい。ここで、電圧印加時間とは、パルス電圧の立ち上がりが開始した時点から経過した時間をいう。また、一種類のパルス印加またはステップ状の電圧印加において、パルス電圧の立ち上がりから複数の時間で測定された測定値を得るようにしてもよい。また、検出装置5としてデジタルストレージオシロスコープを用いる場合には、サンプリングされた波形を測定データ10として制御装置7に送信し、制御プログラムにおいて必要な電圧印加時間における測定値を取得するようにしてもよい。また、一種類のパルス印加またはステップ状の電圧印加において、複数の電圧印加時間における測定値を得る場合には、パルス電圧の代わりに、ステップ電圧を入力してもよい。
半導体素子モデリング装置20に実装されたパラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を読み取り、処理後データ記憶部13から処理後データ15をそれぞれ読み取り、回路シミュレーションに使用する素子モデルのパラメータを作成し、作成されたモデルパラメータ17をモデルパラメータ記憶部16に保存する。なお、素子モデルとは、例えば、BSIMやHiSIM_HVなどのように素子特性を記述するモデルを指す。また、モデルパラメータとは、素子モデルにおいて使用するパラメータを指す。
なお、時間依存性測定データ14および処理後データ15は、それぞれ、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13からイーサネットなどのネットワーク、USBメモリその他の補助記憶装置、CD−ROMその他の記憶媒体、これら以外の装置や媒体に一旦出力され、これらのネットワーク、補助記憶装置、記憶媒体、その他の装置や媒体を介して、パラメータ抽出プログラム18に読み取られるようにしてもよい。
なお、半導体素子モデリング装置20を用いることにより、測定およびパラメータ抽出を一貫して実施するようにしてもよい。このような場合については、第2の実施形態において詳述する。また、半導体素子モデリング装置20と、素子特性の測定に用いられる制御装置7とは、隣接するように、または、一体として設けられていてもよいし、隔離して設けられていてもよい。
次に、パラメータ抽出プログラム18を用いたモデルパラメータ17の生成方法について説明する。なお、図18は、本発明におけるモデルとデータの依存関係を示す。
図4を参照すると、パラメータ抽出プログラム18は、自己発熱のない素子特性である処理後データ15を再現するモデルパラメータ17を抽出し、モデルパラメータ記憶部16に保存する。図18を参照すると、ここで生成した処理後データ15を再現するモデルパラメータ17を初期状態モデルパラメータ31とする。なお、モデルパラメータ17の抽出に際して、処理後データ15を対象とする一般のパラメータ抽出プログラムと同様の自動抽出手順を用いてもよい。また、操作者によるパラメータ値の設定または操作者によるパラメータ値の抽出方法の逐次的な指定など、操作者の指定する操作に基づいてパラメータを生成する手順を用いてもよい。
パラメータ抽出プログラム18は、自己発熱が定常状態に達した時点での素子特性に対応する時間依存性測定データ14を使用し、自己発熱が発生しない特性である処理後データ15を再現するように構成したモデルパラメータ17である初期状態モデルパラメータ31を、モデルパラメータ記憶部16から読み込む。ここでは、自己発熱が定常状態に達した時点での素子特性を示す時間依存性測定データ14を、定常状態特性データ32とする。初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加して自己発熱を含む素子シミュレーションを行った場合に得られる素子特性が定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータの値を決定し、初期状態モデルパラメータに熱抵抗パラメータの値を付加して得られたモデルパラメータ17をモデルパラメータ記憶部16に保存する。なお、初期状態モデルパラメータに熱抵抗パラメータの値を付加して得られたモデルパラメータ17を熱抵抗付きモデルパラメータ33とする。
ここで、定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータの値を決定するとは、定常状態特性データ32に対するフィッティング誤差が許容範囲内となることを意味し、例えば、初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加して得られる素子モデルが再現する定常状態における特性と定常状態特性データ32との誤差が目標のフィッティング条件(バイアス条件や温度条件)において、目標値以内であることを意味する。
また、パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14と上記手順で生成された熱抵抗付きモデルパラメータ33を用いて、熱容量パラメータを生成する。熱抵抗付きモデルパラメータ33に熱容量パラメータを付加した場合に得られるドレイン電流などの素子特性の時間依存性と、時間依存性測定データ14において見られる素子特性の時間依存性との間の誤差が小さくなるように熱容量パラメータの値を決める。このように決められた熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に加えたモデルパラメータ17を自己発熱対応モデルパラメータ34とする。自己発熱対応モデルパラメータ34は、モデルパラメータ記憶部16に記録される。モデルパラメータ記憶部16に蓄積された自己発熱対応モデルパラメータ34は、イーサネットなどの通信ネットワーク、USBメモリなど不揮発性メモリを備えた補助記憶装置、CD−ROMなどの記憶媒体を介して制御装置7の外部に出力される。処理後データ15は、半導体素子のモデルパラメータ作成、半導体素子における自己発熱の解析、あるいはその他の素子特性の解析に使用される。なお、熱容量の解析や熱容量パラメータの抽出においては、自己発熱のない特性である前記処理後データを得る場合に比べて、多くの種類の経過時間についての測定データを取得することが望ましい。一方、熱容量の解析や熱容量パラメータの抽出については1点ないしは数点の代表的なバイアス点で実施すればよく、広いバイアス範囲に対してデータを取得する必要はない。
次に、図4に示した装置の具体例について説明する。測定対象保持装置1は、半導体素子を保持し、測定に使用する電極を半導体素子に接触する。測定対象保持装置1として、例えば、セミオートプローバを用いることができる。制御プログラム8からの制御信号9が測定対象保持装置1に接続されるようにしてもよい。
測定対象2は、例えば、ウエハ上に形成されたパワーMOSFETである。測定対象2は、SOIMOSFET、バイポーラトランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの各種の半導体素子であってもよい。
パルス発生装置3として、パルスジェネレータを使用することができる。電源装置4として、直流電源装置または半導体パラメータアナライザなどを使用することができる。
検出装置5は、測定対象である素子特性を高い時間分解能で測定する。検出装置5は、例えば、ドレイン電極と接地電位間に挿入されたシャント抵抗にかかる電圧を測定することによりドレイン電流の波形を測定するデジタルオシロスコープとしてもよい。
測定配線6は、例えば、同軸ケーブルよりなる配線である。測定配線6は、測定対象に印加する電圧の印加、素子から特性測定器への接続に使用される。
制御信号9は、制御装置7に実装される制御プログラム8がパルス発生装置3、電源装置4および検出装置5を制御するための信号である。制御信号9は、例えば、GPIBケーブルにより伝送される。
測定データ10は、検出装置5から制御装置7に実装される制御プログラム8に送られる測定値である。測定データ10は、例えば、制御信号9と共通のGPIBケーブルによって伝送される。
なお、図4においては、パルス電圧をゲートに、定常電圧をドレインに印加する場合を想定して、パルス発生装置3に接続する測定配線6と、電源装置4および検出装置5に接続する測定配線6とを分離した形態を示した。バイアスの印加方法が異なる場合、例えば、ドレインにパルス電圧を印加する場合には、別の接続形態を採用してもよい。
また、図4においては、制御プログラム8とデータ処理プログラム11を別のプログラムとして記載した。制御プログラム8の機能とデータ処理プログラム11の機能を備えた単一のプログラムとしてもよい。この場合には、時間依存性測定データ14は、記憶装置にファイルとして記録する代わりに、プログラムが管理する配列などのデータとして制御プログラム8の機能を持つサブルーチンからデータ処理プログラム11の機能を持つサブルーチンに引き渡すようにしてもよい。
図5を参照して、電圧印加条件の具体例としてMOSFETのドレイン電流のドレイン電圧依存性を測定する場合について説明する。ドレイン電圧Vds1において、ゲートパルス印加後の時間(上記の電圧印加時間)t1、t2、t3、t4でのドレイン電流Id(t1)、Id(t2)、Id(t3)、Id(t4)を測定する。時刻t4は充分な時間が経過し、温度上昇が定常状態に達した時刻とする。ここで、Id(t4)を定常状態特性データ32とし、Id_steadyによって表す。時間tにおけるドレイン電流Id(t)とId_steadyとの差をId_diff(t)とし、Id(t1)、Id(t2)、Id(t3)のそれぞれとId_steadyとの差を、それぞれId_diff(t1)、Id_diff(t2)、Id_diff(t3)とする。Id_diff(t1)、Id_diff(t2)、Id_diff(t3)を用いた外挿、例えば、指数関数を含む外挿により、図5(b)のように初期状態t=0におけるドレイン電流Id(0)とId_steadyの差Id_diff(0)を求め、Id_diff(0)とId_steadyの和を自己発熱による温度上昇がない状態のドレイン電流Id(0)、すなわち、処理後データ15とする。次に、第2、第3のドレイン電圧Vds2、Vds3、およびそれ以下の電圧での測定を繰り返す。
なお、図5(b)においては、縦軸にId_diff(t)の対数を取り、直線による外挿によりt=0での値log(Id_diff(0))を直線の切片として求め、log(Id_diff(0))の指数をとることにより指数関数による外挿値Id_diff(0)を得る手順を図示した。なお、図5(b)の縦軸はId_diff(t)の対数をとり、それを線形でプロットしたものを示しているが、Id_diff(t)の値をそのまま対数プロットしても同じである。したがって、図5(b)の縦軸はId_diff(t)の値をそのまま対数プロットしたものとして、ここでの議論をそのまま適用してもよい。なお、図5(a)および図5(b)の横軸は、ともに線形プロットである。
初期状態t=0におけるドレイン電流の推定は、各バイアス点での測定後に実施してもよいし、各ドレイン電圧での測定が一通り完了した後に、まとめて実施してもよい。
ここでは、第1のバイアス電圧(上記ではVds1)で複数経過時間での特性値(ドレイン電流)を取得し、次に、第2のバイアス電圧以下での測定を行う手順を示した。一方、第1の経過時間t1に対して複数あるいはすべてのバイアス電圧での測定を行った後、同様に第2の経過時間t2に対する測定を行い、測定が一通り完了した後に初期状態t=0におけるドレイン電流の推定をまとめて実施してもよい。
また、ドレイン電圧を一定として、ゲートにパルス電圧を加える方法の代わりに、ゲート電圧を一定として、ドレインにパルス電圧を加える方法を用いてもよい。
次に、図6および図7を参照して、ソフトウエアにおける処理の流れを説明する。図6および図7は、一つの処理の流れを2つの図面に分割して記載したものである。すなわち、図6の記号Aは、図7の記号Aにつながっている。したがって、図6のステップS5の次に、図7のステップS6が実施される。
制御装置7に実装された制御プログラム8は、パルス発生装置3、電源装置4に出力電圧の値を設定する。検出装置5には、測定条件を設定する(ステップS1)。
制御プログラム8は、パルス発生装置3、電源装置4および検出装置5に測定開始信号を送信し、測定を開始する。制御プログラム8は、入力パルスの立ち上がりからある電圧印加時間を経過した時点での素子特性を検出装置5から制御プログラム8が管理する一時的な変数領域に取り込む(ステップS2)。
2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得したかを確認する(ステップS3)。取得が完了していれば(ステップS3のYes)、ステップS4進む。一方、2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性の取得が完了していなければ(ステップS3のNo)、ステップS1に戻り、未取得の素子特性を取得するために必要なパルス発生装置3、電源装置4、検出装置5の設定を行い、測定を繰り返す。なお、特性測定点とは、測定を実施する時間をパルス電圧の印加を開始した後経過した時間で表した時間軸上での測定点のことをいう。
未取得の電圧印加時間における素子特性がありステップS1に戻った場合は、パルス発生装置3が発生するパルス幅、または検出装置5において素子特性を取得するタイミングなどの設定を変更し、未取得の電圧印加時間における素子特性を取得できるようにする。
なお、本実施形態では、バイアス条件を何通りかに変えた条件で素子特性を取得するが、測定対象とする各評価バイアス条件(直流電源の電圧、およびパルスの立ち上がった後の電圧など、素子特性と対応させる電圧)に対して、上記の2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得できていることをステップS3における判定条件とし、判定条件が満たされていなければ、ステップS1に戻って残りのデータを取得するために必要な測定条件の変更を行い、以降の工程を継続する。
制御プログラム8は、複数の電圧印加時間における素子特性を、時間依存性測定データ14として時間依存性測定データ記憶部12に保存する(ステップS4)。
なお、ステップS2またはステップS3において、時間依存性測定データ14の一部が逐次時間依存性測定データ記憶部12に保存されていてもよい。
データ処理プログラム11は、時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を取り出し、時間軸に対する外挿処理を行い、パルスの印加を開始した時間における素子特性を求め、得られた結果を処理後データ15として処理後データ記憶部13に出力する(ステップS5)。
処理後データ15を処理後データ記憶部13からパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込み、パラメータ抽出プログラム18は、処理後データ15を再現するモデルパラメータ17である初期状態モデルパラメータ31を生成し、モデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS6)。
時間依存性測定データ記憶部12から定常状態の素子特性を表す測定データ(定常状態特性データ32)を、モデルパラメータ記憶部16から初期状態モデルパラメータ31を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加した特性が定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータRthの値を決定し、決定された熱抵抗パラメータを初期状態モデルパラメータ31に付加したモデルパラメータ17(熱抵抗付きモデルパラメータ33)をモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS7)。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を、モデルパラメータ記憶部16から熱抵抗付きモデルパラメータ33を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。熱抵抗付きモデルパラメータ33に熱容量パラメータを付加した場合に時間依存性測定データ14を再現するように熱容量パラメータCthの値を決定し、決定された熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に付加して得られるモデルパラメータ17を自己発熱対応モデルパラメータ24としてモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS8)。
なお、ステップS7は、以下に記載するステップS7Aに変更してもよい。また、ステップS7Aを実施して作成した熱抵抗パラメータを初期値として、ステップS7により熱抵抗パラメータを調整してもよい。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を取り出し、パラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14に対する数式によるフィッティング、あるいは、これと等価な処理を行い、熱抵抗パラメータの値を決定し、決定した熱抵抗パラメータを初期状態モデルパラメータ31に付加したモデルパラメータ17(熱抵抗付きモデルパラメータ33)を、モデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS7A)。
ステップS8は、以下に記載するステップS8Aに変更してもよい。また、ステップS8Aを実施して作成した熱容量パラメータを初期値として、ステップS8により熱容量パラメータを調整してもよい。さらに、ステップS17AとステップS18Aを、同時に実施するようにしてもよい。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を、モデルパラメータ記憶部16から熱抵抗付きモデルパラメータ33を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14に対する数式によるフィッティング、あるいは、これと等価な処理を行い、熱容量パラメータの値を決定し、決定した熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に付加して得られるモデルパラメータ17を、自己発熱対応モデルパラメータ24としてモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS8A)。
なお、ステップS3の判定条件の構成要素である2つ以上の必要なだけの特性測定点とは、ステップS5において、パルスの印加を開始した時間における素子特性を、時間軸に対する外挿処理を行うために必要な電圧印加時間での測定点を指す。電圧印加時間の点数は、例えば、測定開始前にあらかじめ決められプログラムに設定される定数としてもよい。また、測定結果に対する評価をプログラム上で実施して必要なだけの電圧印加時間に足りないと判断された場合には、測定点数を動的に追加するようにしてもよい。
また、ステップS6〜S8において、所定のモデル精度が得られない、または、フィッティング処理において所定を超える誤差があるなど、精度上、時間依存性測定データ14の追加が好ましい状況が発生した場合には、ステップS1に戻り、未測定の時間tにおける時間依存性測定データ14の測定を追加するようにしてもよい。
ステップS3では、測定対象とする各評価バイアス条件に対して、2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得できていることを判定条件とし、判定条件を満たさない場合にはステップS1に戻る。以下では、判定条件を満たさない例について説明する。
第1の例として、第1の評価バイアス条件、例えば、ステップS1、ステップS2により、ゲート電圧10V、ドレイン電圧1Vで2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得されていても、例えば、第2の評価バイアス条件であるゲート電圧10V、ドレイン電圧2Vでの素子特性が取得されていない場合には、測定は未完了と判定される(ステップS3のNo)。この場合には、ステップS1に戻って評価バイアス条件をゲート電圧10V、ドレイン電圧2Vと設定し、2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得する。
第2の例として、評価バイアス条件をゲート電圧10V、ドレイン電圧が1Vから10Vまでの1Vきざみの電圧とするとき、ステップS1およびステップS2において、ゲート電圧10V、ドレイン電圧が1Vから10Vまでの1Vきざみの電圧で一種類だけの電圧印加時間での素子特性、例えば、パルス立ち上がり後100ナノ秒後の素子特性だけが取得されている場合には、測定は未完了と判定される(ステップS3のNo)。この場合には、ステップS1に戻ってパルス発生装置3におけるパルス電圧の印加方法、または、検出装置5における測定条件を変更し、ステップS2において2種類目の電圧印加時間での素子特性、例えば、パルス立ち上がり後150ナノ秒後の素子特性を取得し、以後必要なだけのデータが得られるまで繰り返す。また、繰り返しの際に、第1の例にけるバイアス電圧の変更と、第2の例における電圧印加時間を変更とが混合されていてもよい。
ステップS3の判定条件である必要なだけの特性測定点について、具体例に基づいて説明する。特性測定点は、外挿処理を行うために、最低2つ必要とされる。また、外挿処理を、各電圧印加時間における電流と定常状態での電流(パルスの立ち上がり後に充分に時間が経過し、定常状態とみなせる状態における電流を含む)との差を用いて行う場合には、定常状態を一つの特性測定点とみなすと、測定点として最低3つの特性測定点が必要となる。また、外挿処理における誤差を除くためには、各電圧印加時間における電流と定常状態での電流の差が最低3点で測定されていることが好ましい。したがって、定常状態を一つの特性測定点とみなした場合には、最低4つの特性測定点における測定値が必要とされる。
特性測定点の個数を動的に追加する要因としては、次のようなものが挙げられる。一つは、あらかじめ設定されていた特性測定点に設定された電圧印加時間が大きすぎて、測定値が定常状態に近づき、外挿における誤差の原因となる場合である。定常状態での測定値を最初に測定しておくことにより、ある特性測定点での測定値から定常状態での測定値を引き算し、その値が設定されたしきい値よりも大きいか小さいかを判定基準として、しきい値よりも小さい場合にはその特性測定点は判定基準を満たさないものとし、新たに電圧印加時間が小さいところに特性測定点をとり、再度測定を繰り返す。また、特性測定点に設定された電圧印加時間が小さすぎる場合には、印加信号の測定系における反射などにより波形が乱れ、図12のようなプロットに乗らない場合も生じるが、この場合には、測定プログラムにより判断を行い、より電圧印加時間の大きい特性測定点を新たに追加してもよい。
また、時間依存性測定データ14は、ステップS4において、時間依存性測定データ記憶部12に一括して保存されてもよく、ステップS4にいたるまでのステップS2またはステップS3において逐次保存されてもよい。例えば、ステップS2において、制御プログラム8により検出装置5から読み込まれた測定データ10は、一時的な変数領域に保存されてもよく、逐次時間依存性測定データ記憶部12に書き込まれてもよい。
より具体的な場合について例示する。例えば、図6および図7のフローにおいて、評価される素子特性はMOSFETのドレイン電流であり、入力電圧をオフ状態から変化させた後の複数の時間でのドレイン電流Idの測定値が、ステップS2に記載された、入力パルスの立ち上がりからある電圧印加時間を経過した時点での素子特性に対応する。ここで、MOSFETに対する入力信号はゲートに印加される0Vから立ち上がるパルス信号であり、複数の時間でのドレイン電流を取得する方法として、パルス幅を変えてドレイン電流を測定する方法、一定幅のパルス入力に対して測定値を読み取るタイミングを変化させる方法、あるいはパルス入力に対するドレイン電流の時間応答をデジタルオシロスコープでサンプリングし読み取る方法などが挙げられる。図9は、測定回路を一例として示す。
ステップS5では、例えば、データ処理プログラム11は、複数の電圧印加時間tにおいて測定されたMOSFETドレイン電流Id(t)の時間依存性から、外挿により初期状態t=0でのドレイン電流Id(0)を求める。この作業をドレイン電圧、ゲート電圧の各バイアス点で求め、各バイアス点でのId(0)をセルフヒーティングがない状態におけるドレイン電流とする。外挿の方法として、tが小さいId(t)の測定値を数点使用し、Id(t)から定常状態のドレイン電流Id_steadyを差し引いて得られた値Id_diff(t)が時間に対する指数関数となるような曲線を当てはめ、t=0における該曲線の値からt=0でのId(t)を求める方法を用いることができる。
具体的には、tが小さい数点に対して、縦軸をlog(Id(t)−Id_steady)、横軸をtとしてプロットして得られる直線のt=0における切片Id_diff(0)を、例えば、最小2乗法によって直線を決定することにより求める。次に、Id_diff(0)に定常状態のドレイン電流Id_steadyを足し合わせることにより、t=0におけるId(t)が得られる。これを、素子モデルを作成するバイアス範囲に含まれる各バイアス条件で実施する。このとき、ドレイン電圧に測定対象となる直流電圧を印加するとともに、ゲートに印加するパルス電圧の高さを測定対象のゲート電圧とする。
本実施形態において、課題が解決されるメカニズム、および、効果について説明する。
最初に、電界効果形トランジスタ、例えば、MOSFETの自己発熱について説明する。なお、自己発熱は、セルフヒーティングとも呼ばれる。
図8を参照して、セルフヒーティングによる特性変動が大きいトランジスタの典型的なId−Vds特性について説明する。破線は、セルフヒーティングがない場合における、MOSFET本来の特性を示す。一方、実線は、セルフヒーティングによる特性変動が定常状態に達したときの電流を示す。
ドレイン電圧が高い場合、または、ゲート電圧が大きくドレイン電流が大きい場合には、素子の消費電力が増大し、素子温度の上昇が顕著となるため、ドレイン電流の低下幅も大きくなる。
セルフヒーティングの影響を軽減ないし除外してトランジスタの特性を測定する方法として、パルス電圧を用いる方法が知られている。図9は、このような方法について説明するための図である。図9を参照すると、入力電圧としてごく短いパルスを印加し、素子の温度が定常状態に達しない状態で素子特性を測定する。これにより、セルフヒーティングがない場合の電流値に近い値が得られる。
しかし、後述するように、入力電圧の印加に伴ってセルフヒーティングが始まると、時間とともに指数関数的に急激に温度上昇する。したがって、パルス幅を短くしても、セルフヒーティングを完全に解消することは困難である。パルス特性によってセルフヒーティングを完全に解消することが困難であることは、特許文献1のようにゲート電圧にパルス電圧を印加した場合のみならず、ドレイン電圧にパルス電圧を印加した場合においても同様である。
次に、セルフヒーティングを数学的に取り扱うためのモデルについて説明する。トランジスタにおける電力消費が熱源となるトランジスタの温度上昇(図10参照)について、BSIMSOIおよびHiSIM_HVでは、図11の形式により、自己発熱を取り扱う。なお、BSIMSOIおよびHiSIM_HVとは、回路シミュレーションに用いられる素子モデルの名称である。図11において、Tdevは素子温度、T0は外部環境温度、Ithは熱流、Rthは熱抵抗、Cthは熱容量、Qは熱量である。また、Idはドレイン電流、Vdsはソース−ドレイン間電圧、Pはトランジスタの消費電力である。
なお、図11に示す熱回路は、表1のような対応により、電気回路とのアナロジーを有する。
[表1]
次に、外挿によりパルス印加開始時点である初期状態の素子特性を求める方法について、図11の熱回路を用いて説明する。非特許文献3に記載された周波数領域での解析の代わりに、時間領域での解析式を図11のモデルから導出すると以下のようになる。
電気回路の場合と同様に、ステップ応答に関する式を書くと以下のように表すことができる。ただし、ドレインには定常電圧が印加され、ゲートには0Vレベルから立ち上がるステップ入力が印加され、ゲート入力が立ち上がると同時に発熱が始まるものとする。すなわち、電力Pがゲート電圧のステップ入力とともにステップ状に立ち上がるものとする。また、Theatは素子における温度上昇であり、素子温度Tdevと外部環境温度T0の差である。また、tはパルスの立ち上がりを起点とした時間である。
P=dQ/dt+Theat/Rth
=CthdTheat/dt+Theat/Rth (1)
式(1)を変形すると、式(1’)が得られる。
CthdTheat/dt+(1/Rth)Theat=P (1’)
式(1’)を解くと、式(2)が得られる。
Theat=C1exp(−t/RthCth)+C2 (2)
式(2)において、t=0でTheat=0であるから、式(2a)が得られる。
C1=−C2 (2a)
また、式(2)において、t=∞で、Theat=PRthであるから、式(2b)が得られる。
C2=PRth (2b)
したがって、式(3)が得られる。
Theat=PRth{1−exp(−t/RthCth)}(3)
ここで、ドレイン電流Idの温度Theatに対する勾配を、式(4)のようにαとおく。
ΔId/ΔTheat=α (4)
また、t=0でのIdをId0とすると、式(5)が得られる。
Id(t)=Id0−αPRth{1−exp(−t/RthCth)} (5)
次に、式(5)に基づいてドレイン電圧実測値の時間依存性からt=0におけるIdsを推定する方法を説明する。
式(5)において、t→∞として定常状態でのドレイン電流Id_steadyを求めると、式(6)が得られる。
Id_steady=Id0−αPRth (6)
ここで、Id(t)と定常電流Id_steadyとの差(図12)をId_diff(t)とすると、式(7)が得られる。
Id_diff(t)=Id(t)−Id_steady (7)
式(7)に、式(5)および式(6)を代入すると、式(8)が得られる。
Id_diff(t)=αPRthexp(−t/RthCth) (8)
式(8)の両辺の対数をとると、式(9)が得られる。
log(Id_diff(t))=log(αPRth)−t/RthCth (9)
図13は、式(9)を横軸をtとしてプロットした図である。図13において矢印で示した切片として、t=0におけるIds_diffが得られる。また、t=0におけるIds_diffと、定常状態のIdであるId_steadyとの和がt=0におけるId、すなわち、まだセルフヒーティングが始まっていない状態でのドレイン電流Idとなる。
なお、上記の考察において、電力Pは時間に依存しないものとした。また、ΔId/ΔTheatを表す温度係数αも定数とした。
実際には、電力Pは時間とともにドレイン電流が変化することに伴い電力Pは時間依存性を持つ。したがって、なんらかの形で電力Pの時間依存性をモデル式に含ませようにしてもよい。また、ΔId/ΔTheat、すなわち、ドレイン電流の温度依存性を表すαについても温度依存性を持たせた形で、上記モデル式に含ませてもよい。ただし、最も基本的な考察あるいは解析に用いる数式としては、上記のようには電力Pを時間に依存しない定数、αもまた温度に依存しない定数としてもよい。精度を向上させるには、温度係数αとして、各バイアスポイントで決めた値、すなわち、ゲート電圧とドレイン電圧との組み合わせ毎に決めた値を用いることが好ましい。ただし、自己発熱が顕著化するバイアスポイントが限られている場合、あまたは、抽出作業を簡略化する目的で、代表的な1つまたは複数のバイアスポイントで決めたαの値を用いて作業を行うようにしてもよい。
電力Pを時間に依存しない定数とし、αも温度に依存しない定数とする近似により、上述のような簡単なモデル式によって時間に依存した温度変化を表すことができる。これらの近似によって得られたモデル式である式(9)と実測値との比較を行った結果、図14に示すように、実測値がモデル式で表されることが確認された。したがって、MOSFETの自己発熱を評価する場合に、上記の近似が妥当であること考えられる。図14は、2つのゲート電圧Vgs1およびVgs2において、モデル式と実測値の比較を示す。
図13の縦軸は、図5(b)と同様に、Id_diff(t)の対数を線形でプロットしたものを示しているが、Id_diff(t)の値をそのまま対数プロットしても同じである。したがって、図13の縦軸はId_diff(t)の値をそのまま対数プロットしたものとして、ここでの議論をそのまま適用してもよい。なお、図5(a)および図5(b)の場合と同じく、図12および図13の横軸は、いずれも線形プロットである。
図13は、縦軸に対数をとり、直線で外挿する場合を示す。これは、指数関数による外挿を行うことに相当する。上記の考察によると、指数関数による外挿は物理的な起源に基づいており正確であると考えられる。ただし、指数関数による外挿との間に誤差が小さい場合には、例えば、誤差が3%以下の場合や誤差が1%以下となる場合には、線形関数または他の関数を用いて外挿してもよい。
また、指数関数または他の関数で外挿する場合に、測定点すべてを用いて図13のような外挿線を決定してもよいが、t=0に近い数点、例えば、3点ないし5点を選択し、選択された実測点を用いて外挿線を決定してもよい。このように、t=0に近い少数の測定点を選択することにより、電力Pやドレイン電流の温度依存性を表すαが厳密には定数でないことにより発生する微小な誤差を削減することができる。この点については、第4の実施形態において詳述する。
図12および式(7)のId_diffは、各時間でのIdの実測値からId_steadyを差し引いて求められる。ここで、Id_steadyは、パルス測定ではない通常の測定により得た結果、例えば、半導体パラメータアナライザ等の測定器で通常の手順によって測定された値であってもよい。また、Id_steadyは、本実施形態に記載するように、パルス電圧を印加する測定法において、充分に広いパルスを印加することにより、測定されたドレイン電流が時間に対して安定したときのドレイン電流値としてもよい。
また、ここでは、Idの実測値からId_steadyを差し引いた値Id_diffを導入してデータ処理の対象とし、Id_steadyを足し合わせることにより、時間ゼロにおけるドレイン電流Id_diffを求める方法を用いた。Id_diffを導入することにより、時間依存性を式(8)のような単純な指数関数に表すことができる。このとき、式(5)の末尾にあるような定数項が消去されるため、外挿値の推定作業が容易となる。
また、Id_diffの導入により、不適切な測定点を除外することも容易になる。ほぼ定常状態に達した後の測定点では、時間に伴う測定値の変化が小さく、定常状態に達した後の測定点を外挿に使用すると誤差を引き起こしやすくなる。あらかじめ測定値と定常状態との差を除外したId_diffを使用することにより、定常状態に達した後の測定点ではId_diffの値が小さくなるため、定常状態に達したことを容易に判別することができる。したがって、Id_diffが所定の値以上となる測定点を使用することにより、不適切な測定点を除外することができる。
また、ドレイン電流変動量の時間依存性を考える場合には、一般に、初期時間t0におけるドレイン電流からの低下量として、初期時間t0におけるドレイン電流から時間tにおけるドレイン電流を差し引いた値を用いる。一方、本実施形態では、初期時間t0におけるドレイン電流は未知であるため、初期時間t0におけるドレイン電流からの低下量を直ちに求めることができない。
そこで、本実施形態では、時間tにおけるドレイン電流から定常状態におけるドレイン電流Id_steadyを差し引いた値Id_diffを用いて定常状態を基準とした解析を行うことにより、図14に示すような良好なフィッティングが得られ、図13に示す原理によって初期時間t0におけるドレイン電流を求めることができる。
また、Id_diffを導入するには、外挿に使用するデータ点以外に定常状態での値が必要となる。定常状態での値は、通常のDC特性測定条件により求めてよいし、パルス電圧またはステップ電圧を印加後充分に長い時間が経過した時点、または、時間に依存した変化が一定の値よりも小さくなる時点における値を使用すればよい。したがって、Id_diffを導入した外挿において、少なくとも、電圧印加後定常状態に至る以前の最低2つの時間における測定点と、定常状態における測定点の合計3点の測定点が必要となる。
なお、ソース電流のようにドレイン電流以外の電流を測定対象とする場合には、実施形態中のドレイン電流を測定対象とする電流に読み替えるものとする。
また、本実施形態においては、一例として、高耐圧MOSFETについて説明する。なお、本実施形態は、セルフヒーティングが顕著な他のMOSFET、または、セルフヒーティングが顕著な他の回路素子に対しても適用し得る。
本実施形態によると、特許文献1とは異なり、まだ自己発熱が開始していない状態、すなわち、初期状態での素子特性を求めることができる。したがって、本実施形態によると、自己発熱の影響を完全に解消することができる。
また、本実施形態では、特許文献2のように、あらかじめ熱抵抗Rth0や温度上昇に関するべき指数nを決める必要がない。したがって、本実施形態によると、簡便かつ正確に自己発熱の影響を排除した素子特性が得られる。
次に、熱抵抗Rthおよび熱容量Cthのパラメータ抽出方法について説明する。
回路シミュレーションに使用する素子モデル内のモデルパラメータである熱抵抗Rthは、以下に述べるいずれの方法で決定してもよい。また、両者を組み合わせて決定してもよい。
第1の方法は、式(8)、式(9)、あるいは図13のプロットに基づく方法である。熱抵抗Rthは、式(8)または式(9)を用いたフィッティング、図13のプロットの切片からの導出、あるいは、これらと等価な方法によって求められる。
なお、解析に使用したバイアス条件に依存して、第1の方法によって求めた熱抵抗Rthが異なる場合がある。しかし、熱抵抗Rthは、本来素子構造に依存してバイアス条件に依存しない。したがって、この場合には、典型的なバイアス条件における熱抵抗Rthを用いればよい。また、典型的なバイアス範囲の各バイアス条件で求めた熱抵抗Rthの平均値、または、加重平均などの合成値を用いればよい。ここで、典型的なバイアス条件とは、例えば、回路動作上重視されるバイアス条件をいう。
第2の方法では、本実施形態に述べた外挿方法により自己発熱のない電流特性を得た後、自己発熱のない電流特性を再現する素子モデルを一旦作成する。さらに、素子モデルの計算値を温度上昇の影響のある電流特性、例えば、定常状態での電流特性、または、電流値の時間依存性と比較し、素子モデルの計算値が温度上昇の影響のある電流特性に一致するように、熱抵抗Rthを調整することで、熱抵抗Rthの値を決定する。
また、第1の方法で求めた熱抵抗Rthを初期値とし、第2方法を用いて調整を行い最終的な熱抵抗Rthを決定するようにしてもよい。すなわち、第1の方法および第2の方法を組み合わせた方法を用いるようにしてもよい。
回路シミュレーションに使用する素子モデル内のモデルパラメータである熱容量Cthは、以下に述べるいずれの方法で決定してもよい。また、これらの両者を組み合わせて熱容量Cthを決定してもよい。
第1の方法は、式(8)、式(9)、あるいは図13のプロットに基づく方法である。熱容量Cthは、式(8)または式(9)を用いたフィッティング、図13のプロットの傾きから導出する方法、または、これらと等価な方法によって求められる。なお、熱容量は、熱抵抗の導出後に熱抵抗の値を使用して求められるか、または、熱抵抗の導出と同時に求められる。
なお、解析に使用したバイアス条件に依存して第1の方法により求めた熱容量Cthが異なる場合がある。しかし、熱容量Cthは、本来素子構造に依存してバイアス条件に依存しないものである。したがって、この場合には、典型的なバイアス条件における熱容量Cthを用いればよい。また、典型的なバイアス範囲の各バイアス条件で求めた熱容量Cthの平均値、または、加重平均などの合成値を用いればよい。ここで、典型的なバイアス条件とは、例えば、回路動作上重視されるバイアス条件をいう。
第2の方法では、本実施形態に述べた外挿方法により自己発熱のない電流特性を得た後、自己発熱のない電流特性を再現する素子モデルを一旦作成する。さらに、電流値の時間依存性と比較し、素子モデルの計算値が温度上昇の影響のある電流特性に一致するように、熱容量Cthを調整することで、熱容量Cthの値を決定する。熱容量は、熱抵抗の導出後に熱抵抗を導入したモデルを使用して求められるか、または、熱抵抗の導出と同時に求められる。
また、第1の方法で求めた熱容量Cthを初期値とし、第2方法を用いて調整を行い最終的な熱容量Cthを決定するようにしてもよい。すなわち、第1の方法および第2の方法を組み合わせた方法を用いてもよい。
なお、t=0での自己発熱がない状態での特性、熱容量または熱抵抗を求めるにあたって、式(8)または式(9)を用いたフィッティングにより求める方法と、図13のプロットに基づいて求める方法とは、原理的に等価である。
(実施形態2)
第2の実施形態に係る半導体素子評価装置について、図面を参照して説明する。本実施形態は、半導体素子のモデリングを行う半導体素子モデリング装置に関する。
ここでは、半導体素子パラメータとは、SPICEなどの回路シミュレータに使用されるBSIM、BSIMSOIなどの素子モデルのパラメータを指し、半導体素子のモデル式が素子特性を再現できるように定めた、半導体素子のモデル式に使用されるパラメータ群を指す。また、半導体素子パラメータを決定することを半導体素子のモデリングという。
半導体素子モデリング装置とは、半導体素子パラメータを作成するための装置であり、例えば、素子特性の測定結果を対象とし、半導体素子のモデル式が素子特性の測定結果を再現できるように、半導体素子パラメータを設定するための装置である。半導体素子モデリング装置では、測定結果の代わりに、目標値や推定値を対象としてパラメータを設定する場合もある。ただし、本実施形態では、測定結果を対象とする。
また、本実施形態においては、半導体素子モデリング装置および半導体素子モデリング装置と密接に関係する測定器群を合わせた全体を、半導体素子評価装置と呼ぶ。
また、本実施形態においては、半導体素子モデリング装置において、特に、半導体素子パラメータの数値を決定する構成要素を半導体素子モデリング装置と呼ぶ。また、半導体素子モデリング装置に実装され半導体素子のモデリングに使用されるプログラム群を半導体素子モデリングプログラムと呼び、半導体素子モデリングプログラムを構成するプログラム群のうちの、特に、半導体素子パラメータの数値決定に密接に関係するプログラムを半導体素子パラメータ抽出プログラムと呼ぶ。
図15は、本実施形態に係る半導体素子評価装置の構成を示すブロック図である。半導体素子評価装置は、第1の実施形態に記載した処理後データ15を用いて半導体素子のモデルパラメータ17を抽出する機能が、第1の実施形態に記載した半導体素子評価装置の制御装置7と一体化する形で追加されている。したがって、本実施形態では、素子特性の測定とモデルパラメータの抽出を一貫して実施する。
図15に示される半導体素子評価装置において、図4に記載した半導体素子評価装置と重複する構成要素の機能および構成は、図4に記載される半導体素子評価装置における各構成要素の機能および構成と同一である。また、第1の実施形態の構成要素または機能の変形例は、本実施形態にも適用し得る。なお、図4に記載した半導体素子評価装置と重複する構成要素は、測定対象保持装置1、測定対象2、パルス発生装置3、電源装置4、検出装置5、測定配線6、制御プログラム8、制御信号9、測定データ10、データ処理プログラム11、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、時間依存性測定データ14、処理後データ15である。
半導体素子モデリング装置20は、第1の実施形態の制御装置の構成、機能、および、これらの変形例を含む。また、半導体素子モデリングプログラム19は、第1の実施形態の制御プログラム8およびデータ処理プログラム11の構成、機能、および、これらの変形例を含む。また、図4に記載したパラメータ抽出プログラム18、モデルパラメータ記憶部16の機能も、測定機能とモデリング機能の一体化の有無に係わる点を除き、図15に示される半導体素子評価装置に記載されたパラメータ抽出プログラム18、モデルパラメータ記憶部16と同じである。また、モデルパラメータ17についても、図4と図15との間で、機能および構成は同一である。
図15に示した半導体素子評価装置について、以下で説明する。図15を参照すると、半導体素子評価装置は、半導体素子モデリング装置20と、半導体素子モデリング装置20により制御されるパルス発生装置3、電源装置4、検出装置5などの測定器群、および、測定対象保持装置1と、を有する。
半導体素子モデリング装置20は、測定器を制御して半導体素子特性の時間依存性測定データ14を取得し、自己発熱に関するデータを処理して自己発熱の影響を受けない状態での素子特性である処理後データ15を生成する。また、半導体素子モデリング装置20は、測定データ12および処理後データ15を用いて、モデルパラメータ17を生成する。
半導体素子モデリング装置20は、制御プログラム8、データ処理プログラム11、パラメータ抽出プログラム18、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、モデルパラメータ記憶部16、プログラムやデータ保存領域を機能されるために必要なハードウェア、および制御信号9および測定データ10を通信するために必要なハードウェアを備えている。半導体素子モデリング装置20は、例えば、これらのプログラムと通信機能を実装したパーソナルコンピュータとして実現してもよいし、専用のハードウェアによって構成してもよい。
半導体素子モデリングプログラム19は、制御プログラム8、データ処理プログラム11、パラメータ抽出プログラム18を構成要素として有する。半導体素子モデリングプログラム19は、測定器を制御して半導体素子特性の時間依存性測定データ14を取得し、自己発熱に関するデータを処理して自己発熱の影響を受けない状態での素子特性である処理後データ15を生成する。また、半導体素子モデリングプログラム19は、時間依存性測定データ14および処理後データ15を用いてモデルパラメータ17を生成し、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、モデルパラメータ記憶部16に対してそれぞれを時間依存性測定データ14、処理後データ15、モデルパラメータ17を読み書きする。
なお、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、モデルパラメータ記憶部16は、半導体素子モデリングプログラム19の外部ファイルとして半導体素子モデリングプログラム19によって管理されてもよいし、半導体素子モデリングプログラム19によって管理される配列変数などの変数として半導体素子モデリングプログラム19によって管理されるようにしてもよい。
時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、モデルパラメータ記憶部16は、それぞれ、時間依存性測定データ14、処理後データ15、モデルパラメータ17を保存するための領域であり、それぞれハードディクスまたは主記憶メモリなどの記憶装置に設けられる。プログラム上の処理という観点から、時間依存性測定データ記憶部12、処理後データ記憶部13、モデルパラメータ記憶部16は、外部ファイルとしてハードディスクなどの記憶装置に設けられるものであってもよいし、配列などのプログラムにより管理されるデータ領域として、ハードディクスあるいは主記憶メモリなどの記憶装置上に設けられるものであってもよい。
次に、パラメータ抽出プログラム18を用いたモデルパラメータ17の生成方法について説明する。なお、図18は、本実施形態におけるモデルとデータの依存関係を示す。
パラメータ抽出プログラム18は、自己発熱のない素子特性である処理後データ15を処理後データ記憶部13から読み込み、処理後データ15を再現するモデルパラメータ17を抽出して、モデルパラメータ記憶部16に保存する。なお、ここで生成した処理後データ15を再現するモデルパラメータ17を、初期状態モデルパラメータ31とする。また、モデルパラメータ17の抽出に際して、処理後データ15を対象とする一般のパラメータ抽出プログラムと同様の自動抽出手順を用いてもよいし、操作者によるパラメータ値の設定または操作者によるパラメータ値の抽出方法の逐次的な指定などの操作者の指定する操作に基づいてパラメータを生成する手順を用いてもよい。
パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ記憶部12から自己発熱が定常状態に達した時点での素子特性に対応する時間依存性測定データ14を読み込み、処理後データ15を再現するように構成したモデルパラメータ17である初期状態モデルパラメータ31をモデルパラメータ記憶部16から読み込む。自己発熱が定常状態に達した時点での素子特性を示す時間依存性測定データ14を、定常状態特性データ32とする。初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加して自己発熱を含む素子シミュレーションを行った場合に得られる素子特性が定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータの値を決定し、初期状態モデルパラメータに熱抵抗パラメータの値を付加して得られたモデルパラメータ17をモデルパラメータ記憶部16に保存する。なお、初期状態モデルパラメータに熱抵抗パラメータの値を付加して得られたモデルパラメータ17を熱抵抗付きモデルパラメータ33とする。
定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータの値を決定するとは、定常状態特性データ32に対するフィッティング誤差がある許容範囲内になることを意味し、典型的には初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加して得られる素子モデルが再現する定常状態における特性と定常状態特性データ32との誤差が目標のフィッティング条件(バイアス条件や温度条件)において、目標値以内であることをいう。
また、パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14と上記手順で生成された熱抵抗付きモデルパラメータ33を用いて、熱容量パラメータを生成する。熱抵抗付きモデルパラメータ33に熱容量パラメータを付加して場合に得られるドレイン電流などの素子特性の時間依存性と、時間依存性測定データ14において見られる素子特性の時間依存性との間の誤差が小さくなるように熱容量パラメータの値を決める。このように決められた熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に加えたモデルパラメータ17を自己発熱対応モデルパラメータ34とする。自己発熱対応モデルパラメータ34はモデルパラメータ記憶部16に記録される。そして、モデルパラメータ記憶部16に蓄積された自己発熱対応モデルパラメータ34は、イーサネットなどの通信ネットワーク、USBメモリなど不揮発性メモリを備えた補助記憶装置、CD−ROMなどの記憶媒体を介して制御装置7の外部に出力される。処理後データ15は半導体素子のモデルパラメータ作成、半導体素子における自己発熱の解析、あるいはその他の素子特性の解析に使用される。なお、熱容量の解析や熱容量パラメータの抽出においては、自己発熱のない特性である前記処理後データを得る場合に比べて、多くの種類の経過時間についての測定データを取得することが望ましい。一方、熱容量の解析や熱容量パラメータの抽出については1点ないしは数点の代表的なバイアス点で実施すればよく、広いバイアス範囲に対してデータを取得する必要はない。
次に、図16および図17を参照して、ソフトウエアにおける処理の流れを説明する。図16の記号Bは、図17の記号Bに接続する。したがって、図16のステップS15に続く工程は、図17のステップS16である。以下、図16および図17を参照して、処理の流れを説明する。
なお、図6における構成要素制御装置7が、図16においては半導体素子モデリング装置20に対応することを除いて、図16に記載したステップS11〜S15の各工程は、図6に記載したステップS1〜S5の各工程と同じである。したがって、ステップS11〜S15の各工程については、概要のみを説明する。
半導体素子モデリング装置20に実装された制御プログラム8は、パルス発生装置3、電源装置4に出力電圧の値を設定する。検出装置5には、測定条件を設定する(ステップS11)。
制御プログラム8は、パルス発生装置3、電源装置4および検出装置5に測定開始信号を送信し、測定を開始する。制御プログラム8は、入力パルスの立ち上がりからある電圧印加時間を経過した時点での素子特性を検出装置5から制御プログラム8が管理する一時的な変数領域に取り込む(ステップS12)。
2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性を取得したかを確認する(ステップS13)。取得が完了していれば(ステップS13のYes)、ステップS14進む。一方、2つ以上の必要なだけの特性測定点における素子特性の取得が完了していなければ(ステップS13のNo)、ステップS11に戻り、未取得の素子特性を取得するために必要なパルス発生装置3、電源装置4、検出装置5の設定を行い、測定を繰り返す。
制御プログラム8は、複数の電圧印加時間における素子特性を、時間依存性測定データ14として時間依存性測定データ記憶部12に保存する(ステップS14)。
なお、ステップS2またはステップS13において、時間依存性測定データ14の一部が逐次時間依存性測定データ記憶部12に保存されていてもよい。
データ処理プログラム11は、時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を取り出し、時間軸に対する外挿処理を行い、パルスの印加を開始した時間における素子特性を求め、得られた結果を処理後データ15として処理後データ記憶部13に出力する(ステップS15)。
処理後データ15を処理後データ記憶部13からパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込み、パラメータ抽出プログラム18は、処理後データ15を再現するモデルパラメータ17である初期状態モデルパラメータ31を生成し、モデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS16)。
時間依存性測定データ記憶部12から定常状態の素子特性を表す測定データ(定常状態特性データ32)を、モデルパラメータ記憶部16から初期状態モデルパラメータ31を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータを付加した特性が定常状態特性データ32を再現するように熱抵抗パラメータの値を決定し、決定された熱抵抗パラメータを初期状態モデルパラメータ31に付加したモデルパラメータ17(熱抵抗付きモデルパラメータ33)をモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS17)。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を、モデルパラメータ記憶部16から熱抵抗付きモデルパラメータ33を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。熱抵抗付きモデルパラメータ33に熱容量パラメータを付加した場合に時間依存性測定データ14を再現するように熱容量パラメータの値を決定し、決定された熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に付加して得られるモデルパラメータ17を自己発熱対応モデルパラメータ24としてモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS18)。
なお、ステップS17は、以下に記載するステップS17Aに入れ替えてもよい。また、ステップS17Aを実施して作成した熱抵抗パラメータを初期値として、ステップS17により熱抵抗パラメータを調整してもよい。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を取り出し、パラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14に対する数式によるフィッティング、あるいは、これと等価な処理を行い、熱抵抗パラメータの値を決定し、決定した熱抵抗パラメータを初期状態モデルパラメータ31に付加したモデルパラメータ17(熱抵抗付きモデルパラメータ33)をモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS17A)。
ステップS18は、以下に記載するステップS18Aに入れ替えてもよい。また、ステップS18Aを実施して作成した熱容量パラメータを初期値として、ステップS18により熱容量パラメータを調整してもよい。さらに、ステップS17AとステップS18Aを、同時に実施するようにしてもよい。
時間依存性測定データ記憶部12から時間依存性測定データ14を、モデルパラメータ記憶部16から熱抵抗付きモデルパラメータ33を、それぞれパラメータ抽出プログラム18の変数領域に読み込む。パラメータ抽出プログラム18は、時間依存性測定データ14に対する数式によるフィッティング、あるいは、これと等価な処理を行い熱容量パラメータの値を決定し、決定された熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に付加して得られるモデルパラメータ17を自己発熱対応モデルパラメータ34としてモデルパラメータ記憶部16に保存する(ステップS18A)。
なお、各工程において、パラメータ抽出プログラム18が読み込むべきデータがすでにパラメータ抽出プログラム18の変数領域に置かれている場合には、新たに該当するデータを読み込む工程を省略してもよい。例えば、ステップS16とステップS17を連続して行う場合には、ステップS17において初期状態モデルパラメータ31を読み込む工程を省略してもよい。一方、ステップS16とステップS17を連続して行わない場合には、例えば、ステップS16を実行した後、一旦パラメータ抽出プログラム18の実行を終了し、別の日に改めてパラメータ抽出プログラム18を実行してステップS17を実施する場合には、ステップS17における初期状態モデルパラメータ31の読み込みを省略することはできない。
また、ステップS16〜S18において、所定のモデル精度が得られない、または、フィッティング処理において所定を超える誤差があるなど、精度上、時間依存性測定データ14の追加が好ましい状況が発生した場合には、ステップS11に戻り、未測定の時間tにおける時間依存性測定データ14の測定を追加するようにしてもよい。
より具体的な例として、電界効果型トランジスタ(MOSFET)のモデルパラメータを抽出する場合について説明する。このとき、モデル作成の際に必要となる主な素子特性はドレイン電流となる。ステップS16においては、自己発熱がない状態のMOSFETのドレイン電流についてゲート電圧やドレイン電圧などのバイアス電圧依存性を再現することができる初期状態モデルパラメータ31が生成されるとともに、初期状態モデルパラメータ31がモデルパラメータ記憶部16に保存される。
また、ステップS17においては、初期状態モデルパラメータ31に熱抵抗パラメータRthを付加した場合に定常状態におけるドレイン電流Idを再現できるように、熱抵抗パラメータRthが決められ、初期状態モデルパラメータ31に初期状態モデルパラメータ31を追加したものが熱抵抗付きモデルパラメータ33としてモデルパラメータ記憶部16に保存される。
さらに、ステップS18においては、複数の時間における測定値から得られた素子特定−時間依存性測定データを熱抵抗付きモデルパラメータ33に熱容量パラメータを追加することにより再現できるよう熱容量パラメータの値が決定され、値が決定された熱容量パラメータを熱抵抗付きモデルパラメータ33に付加したものが、自己発熱対応モデルパラメータ34としてモデルパラメータ記憶部16に保存される。
なお、本実施形態は、MOSFET以外の半導体素子、例えば、バイポーラトランジスタやIGBTの測定にも適用し得る。この場合には、測定に適した電極に直流電圧およびパルス電圧を印加すればよい。
また、単にセルフヒーティングの影響を排除した素子モデルが必要である場合には、ステップS14およびステップS15の工程は不要である。また、ドレイン電流の代わりに、例えば、ソース電流を測定対象および評価対象として、同様の測定および評価を行うようにしてもよい。
(実施形態3)
第3の実施形態に係る半導体素子評価装置について、図面を参照して説明する。半導体素子評価装置の構成および動作は、第1の実施形態または第2の実施形態の半導体素子評価装置の構成および動作と同一である。ここでは、図9の回路においてMOSFETのドレイン電極Dに定常電圧を印加し、ゲート電極Gにパルス電圧を印加し、パルス電圧の立ち上がり後のある時間tにおけるドレイン電流の測定を行う。このとき、パルス電圧の立ち上がり後の複数の時間tにおけるドレイン電流値を取得することにより、パルス入力後のドレイン電流の時間依存性を取得する。
なお、ドレイン電流の時間依存性を取得するに際して、単一のパルス幅のパルス電圧を印加して複数の時間tにおける測定値を取得してもよい。また、複数のパルス幅のパルス電圧を印加して、各パルスごとに1つまたは複数の時間tにおける測定値を取得してもよい。また、パルス電圧を入力する代わりに、ステップ入力電圧を印加し、複数の時間tにおけるドレイン電流値を取得してもよい。
この測定を通常のId−Vd特性測定のバイアス条件に対して行う。例えば、ドレインに印加するドレイン電圧を0V近傍から測定対象電圧Vgsまで変化させ、ゲートに印加するパルス電圧の高さを0V近傍から測定対象Vgsまで変化させて、前記パルス電圧を印加したパルス測定を繰り返す。ゲートに印加するパルスが立ち上がる前の初期電圧は、例えば、0Vとする。
ゲートに印加するパルスが立ち上がる前の初期電圧を0Vとすると、パルスが立ち上がる前はトランジスタがオフしており、自己発熱がない状態となる。本実施形態における自己発熱の解析方法において、精度を向上させるには、自己発熱がない状態を初期値とすることが好ましい。トランジスタの特性により、トランジスタが0Vではオフせず、より低いゲート電圧を印加しなければトランジスタがオフしない場合には、トランジスタがオフするゲート電圧を、パルスが立ち上がる前の初期電圧とすればよい。また、ゲート電圧が0V以上でもオフするトランジスタであれば、トランジスタがオフする0V以上のゲート電圧を、パルスが立ち上がる前の初期電圧とすればよい。また、パルスの印加をドレイン電極に対して行う場合には、パルスが立ち上がる前の初期電圧は、トランジスタが自己発熱を無視し得る程度の低い電圧に設定することが好ましい。
ドレイン電流以外の電流など素子特性の時間依存性を測定する場合、または、電界効果型トランジスタ以外の半導体素子の特性を測定する場合についても、電圧を印加する電極名、印加パルス電圧のバイアス条件、または、測定対象特性を適宜読み替え、上記と同様にして、複数の時間tにおける特性値を取得する。
パルス立ち上がり後50nsec、100nsec、150nsecでのドレイン電流のデータに対する式(8)の指数関数を用いた外挿により、t=0におけるId_diffを決める。また、t=0におけるId_diffと、定常状態のIdであるId_steadyとの和からt=0におけるId、すなわち、まだセルフヒーティングが始まっていない状態でのドレイン電流Idであり処理後データ15に相当する値を求める。図19の実線は、このようにして求めたドレイン電流の値を示す。
なお、外挿は、各時間でのIdから定常状態のIdであるId_steadyを差し引いて求めたId_diffを対象として行う。また、t=0に対するId_diffの外挿値にId_steadyを足し合わせた値を、t=0、すなわち、セルフヒーティングがない状態のIdとする。ここでは、Id_steadyを、パルス立ち上がりからの経過時間が3μsec、10μsec、30μsecにおけるIdの平均とした。これは、Vds=Vgd=VDDとしたときのIdの値がパルスの立ち上がりから3μsecを経過したあたりからほぼ一定となるという測定結果に基づく。
図19の実線は、本発明の方法によって推定したt=0におけるドレイン電流値、すなわち、処理後データ15を示す。また、図19の破線は、パルス幅100nsecのパルスを印加する特許文献1のパルス測定(特許文献1の図5)により求めたIdの測定結果を示す。
特許文献1に記載された方法によると、Vgsが大きく、Vdsが大きい箇所で、Id−Vds特性は右下がりとなる。すなわち、非常に短いパルスを使用しているにもかかわらず、セルフヒーティングが残留している。一方、本発明の方法によっての推定したt=0におけるドレイン電流値によると、Vgsが大きく、Vdsが大きい箇所で、Id−Vds特性は右下がりとはならず、パルス幅100nsecの測定で認められたようなセルフヒーティングによるドレイン電流の劣化が認められない。なお、図19は、ゲート電圧を3通りに変化させたときのドレイン電流Id−ドレイン電圧Vdsプロットを示す。
図19に実線で示した処理後データ15に対してパラメータフィッティングを行うことにより、セルフヒーティングのない特性を対象としたトランジスタモデルを作成することができる。
図11に示した熱回路に対応して、BSIMSOIやHiSIM_HVのようにセルフヒーティングを考慮した回路シミュレーションが可能なモデル形式を用いて素子モデルを作成する場合には、熱抵抗をゼロとした状態で上記セルフヒーティングのない特性を再現するように素子モデルを作成し、その素子モデルに熱抵抗RthおよびCthを加えることにより、セルフヒーティングを考慮した回路シミュレーションが可能な素子モデルが得られる。
また、BSIM4.5などセルフヒーティングに対応しないモデル形式を用いて素子モデルを作成する場合においても、セルフヒーティングがない状態を重視してモデリングを行う場合には、上記のセルフヒーティングのない特性を使用し、上記のセルフヒーティングのない特性を再現するようなモデルを作成すればよい。
次に、図11に記載された熱抵抗Rthのフィッティングについて説明する。熱抵抗パラメータRth(BSIMSOIにおけるパラメータ名はrth0)をゼロにセットすると、モデルによってセルフヒーティングのない特性が計算される。そこで、一旦、Rth0=0と設定し、本発明によって得られたt=0でのドレイン電流の外挿値、すなわち、セルフヒーティングの影響を排除した実測値に対してパラメータのフィッティングを行う。温度依存性パラメータは、上述のいずれかの方法によって決定をしておく。次に、定常状態(DC測定の結果であっても、パルスの立ち上がりから長い時間を経過した時点での特性であってもよい)のドレイン電流を再現するように熱抵抗パラメータRthを決定する。なお、この方法によって熱抵抗パラメータRthを抽出するには、熱抵抗パラメータに対応した素子モデルとして、例えば、BSIMSOIやHiSIM_HVを使用する必要がある。
次に、図11に記載した熱容量Cthのフィッティングについて説明する。前段落までの工程、すなわち、通常のDCパラメータ、温度依存性パラメータ、熱抵抗パラメータRthを抽出した後、図20の回路のシミュレーション結果を、入力電圧を初期状態から変化させた後の複数の時間で得られた素子特性の測定結果に、図21のようにフィッティングする。これにより、熱容量パラメータCthを決定する。なお、この方法によって熱容量パラメータCthを抽出するには、熱容量パラメータに対応した素子モデルとして、例えば、BSIMSOIやHiSIM_HVを使用する必要がある。
また、熱抵抗Rth、熱容量Cthは、入力電圧を初期状態から変化させた後の複数の時間で得られた素子特性の測定結果の時間依存性から直接求めるようにしてもよい。例えば、式(9)をプロットした図13の切片から熱抵抗Rthを求め、プロットの傾きと切片から求めたRthとから、熱容量Cthを求めることもできる。
本実施形態において、課題を解決するメカニズム、および効果は、第1および第2の実施形態と同様である。
(実施形態4)
第4の実施形態に係る半導体素子評価方法について、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1ないし第3の実施形態に対して、精度をより向上されるための手順を付加したものである。本実施形態は、第1ないし第3のいずれの実施形態と組み合わせて実施してもよい。
まず、図22および図23を参照して、従来技術の問題について説明する。次に、その問題を解決するために、経過時間の大きい領域でのId_diff(t)に対する近似曲線または近似直線を求め、Id_diff(t)と近似曲線または近似直線との差Id_diff2(t)を求め、Id_diff2(t)が一定値以上となる期間のId_diff(t)のデータを用いて、t=0に対するId_diff(t)の外挿値、ならびに、熱容量および熱抵抗を決定する方法について説明する。ここで、Id_diff(t)の定義は、他の実施形態における定義と同様に、入力信号の立ち上がり後の経過時間tにおけるドレイン電流Id(t)から定常状態のドレイン電流Id_steadyを引いた値である。
非特許文献1に記載された方法の問題点を説明するために使用した図40を、本発明における図5(b)または図13のような記号および記載方法で表すと、図22(a)のようになる。ただし、非特許文献1におけるバイアス印加方法は、本発明における典型例とは異なるため、図22(a)は本発明の典型的なバイアス条件に対して、非特許文献1に類似する技術を適用したものとする。
図22(a)および(b)において、期間Bは、入力信号の立ち上がりから一定時間経過した後、実測値から定常値を引いた値であるId_diff(t)の対数が、時間に対して線形となる領域である。また、期間Aは、期間Bに至るよりも経過時間の短い領域であり、測定値から定常値を引いた値であるId_diff(t)の対数が、期間Bと比較して時間とともに急激に変化する領域をいう。
また、図22(a)において、実線はId_diff(t)を表し、破線は期間BのId_diff(t)に対して近似した直線を表す。また、図22(b)において、実線はId_diff(t)を表し、破線は期間AのId_diff(t)に対して近似した直線を表す。
非特許文献1の技術を本発明のバイアス条件および測定値に対して適用する場合には、図22(a)に示すように、期間Bに対する近似直線を求め、近似直線の切片からlog(Id_diff(t=0))を求めることになる。
一方、本実施形態においては、図22(b)に示すように、期間AのId_diff(t)に基づいて近似直線を求め、近似直線の切片からlog(Id_diff(t=0))を求めることになる。
図23を参照して、期間Aと期間Bの境界を判定する方法について説明する。図23は、縦軸を電流のログプロットとし、横軸は時間tを線形にプロットとしたセミログプロットである。図23において、実線は、時間tにおけるドレイン電流Id(t)から定常状態のドレイン電流Id_steadyを差し引いた値であるId_diff(t)を示す。なお、本実施形態で使用する記号の意味は、第1ないし第3の実施形態における記号の意味と同一である。
時間tのある程度大きい領域におけるId_diff(t)に対する近似曲線を、Id_diffB(t)とする。図23において、一例として、近似曲線を近似直線Bとし、その値をId_diffB(t)とした。なお、Id_diffB(t)の値は、時間tのある程度大きい領域に対する近似曲線(例えば近似直線)の外挿値として、時間tの小さい領域である期間Aにおける値も規定する。図23を参照すると、近似直線Bの期間Aへの外挿線が破線で示されている。
なお、時間tのある程度大きい領域とは、例えば、図22の期間Bに相当するが、この時点では、仮の期間Bとして、期間Bに含まれると思われる時間領域を大雑把に時間tのある程度大きい領域とすればよい。
具体的には、log(Id_diff(t))が時間に対して線形に変化する領域、または、線形からの誤差が小さい領域を時間tのある程度大きい領域として選択することができる。また、log(Id_diff(t))が急激に変化する領域と、log(Id_diff(t))が緩やかに変化する領域との境界を期間Aと期間Bとの間の仮の境界とし、期間Aと期間Bとの仮の境界からある程度時間tが大きい方向に離れた領域を、時間tのある程度大きい領域としてもよい。
ここで、時間tにおけるId_diff(t)から、時間tのある程度大きい領域に対する近似曲線y=Id_diffB(t)の値を差し引いた値を、式(10)に示すように、Id_diff2(t)とする。
Id_diff2(t)=Id_diff(t)−Id_diffB(t) (10)
なお、Id_diffB(t)が式(8)で表現される場合には、式(10)は式(11)となる。ただし、Id_diffB(t)は、式(8)以外の形式で表現してもよい。
Id_diff2(t)=Id_diff(t)
−αPRthBexp(−t/RthBCthB)) (11)
ここで、RthBは、主に期間Bに相当する時間tの大きい領域でのId_diff(t)の実測値に対するフィッティングにより決定した熱抵抗Rthを表す。また、CthBは主に期間Bに相当する時間tの大きい領域でのId_diff(t)実測値に対するフィッティングにより決定した熱容量Cthを表す。なお、期間BにおけるId_diff(t)の時定数τBを用いると、式(11)は式(12)のように表される。
Id_diff2(t)=Id_diff(t)−αPRthexp(−t/τB) (12)
ここで、時定数τBを式(13)のようにとると、式(11)と式(12)は等価となる。
τB=RthBCthB (13)
上述のように決定したId_diff2(t)の値が、一定値よりも大きくなる時間領域を期間Aとする。そして、この基準により選択された期間AにおけるId_diff(t)の測定値を、第1ないし第3の実施形態におけるId_diff(t)の値として使用し、第1ないし第3の実施形態において説明した解析を行う。
具体的には、Id_diff2(t)の値が一定値より大きくなる時間領域のId_diff(t)を使用して、図5(b)のプロット、または、式(8)もしくは式(9)を用いて、第1ないし第3の実施形態において説明した解析を行う。これにより、図22(b)に破線で示したように期間AでのId_diff(t)の値を使用してId_diff0を求め、さらに、時間t=0におけるドレイン電流Id(0)を求めることができる。
期間AでのId_diff(t)の値に対する近似直線Aの切片としてId_diff0を求める例を、図23に示す。ここで、近似直線Aをy=Id_diffA(t)と表した。また、熱容量Cth、熱抵抗Rthを図22(b)の破線で示した直線、すなわち、期間AのId_diff(t)を使用した図13の近似直線に相当する直線、すなわち、図22(b)の近似直線Aの傾きおよび切片から求めてもよい。
Id_diff2(t)の値が、一定値より大きくなる時間領域を期間Aとする場合に、その判定条件として用いる電流値をId_diff2_critとする。このとき、Id_diff2(t)の値がId_diff2_critより大きくなる時間領域が期間Aに相当する。Id_diff2_critとして、例えば、ドレイン電流の定常値Id_steadyに一定値を掛けた値を用いることができる。例えば、Id_diff2_critとして、Id_steadyの1%または2%に相当する値を用いることができる。また、期間A以外の時間領域を期間Bとする。図24は、このようにして求めた期間Aおよび期間Bを示す。なお、図24はセミログプロットであり、縦軸は電流のログプロットであり、横軸は時間の線形プロットである。図24(b)において、図24(a)よりも横軸を拡大した。
また、期間AのId_diff(t)に基づいて、t=0に対する外挿値Id_diff0を求める方法について説明する。第1の方法は、上述のように、期間Aに対して第1ないし第3の実施形態を適用し、Id_diff(t)対時間tの関係から、図5(b)のプロット、または、式(8)もしくは式(9)を用いて、t=0に対するId_diff(t)の外挿値Id_diff0を求める方法である。例えば、図23において、t=0における近似直線Aの値Id_diffA(t)をId_diff0とする。なお、期間AでのId_diff(t)の値に対する近似曲線または近似直線を導出する際に、期間AでのId_diff(t)を主体としつつ、期間Aに該当しない時間のId_diff(t)をいくつか、例えば、1つか2つ加えてもよい。
また、他の方法について、図24を参照して説明する。この方法では、期間AでのId_diff(t)でなく、Id_diff(t)と時間tの大きい領域のId_diff(t)を用いた外挿値との差であるId_diff2(t)を対象として、第1ないし第3の実施形態を適用し、t=0に対するId_diff(t)の外挿、ならびに、熱容量および熱抵抗を決定する。
図24(a)に示すように、まず、時間tの大きい領域、典型的には期間Bに含まれる領域のId_diff(t)に対する近似曲線のt=0に対する外挿により、より典型的には、期間Bに含まれる領域のId_diff(t)に対する図24に近似直線Bと記載した直線のt=0に対する外挿により、t=0におけるId_diff(t)であるId_diffB(0)を求める。
次に、図24(b)に示すように、期間AのId_diff2(t)を用いた外挿(例えば、図24(b)の近似直線C)により、t=0のId_diff2(t)であるId_diff2(0)を求める。ここで、Id_diff2(t)の定義は、式(10)〜(12)と同様である。次に、定常状態のドレイン電流Id_steadyにId_diff2(0)、Id_diffB(0)の3者を加えたものをt=0のドレイン電流Id(0)とする。Id(0)はId_steadyとId_diff0の和であるため、Id_diff2(0)とId_diffB(0)の和がId_diff0であると考えてもよい。
図24に示した手順を、数式を用いて説明すると、以下のようになる。時間tの大きい領域、典型的には期間Bに含まれる領域のId_diff(t)とする場合、式(8)に相当する近似式は、式(14)のようになる。熱抵抗RthB、熱容量CthBの定義は、式(11)の場合と同じである。
Id_diffB(t)=α・P・RthB・exp(−t/(RthB・CthB)) (14)
なお、式(14)は、図24(a)の近似直線Bに対応する。
また、Id_diff2を式(10)により定義し、Id_diff2に対して式(8)に相当する式は式(15)のようになる。
Id_diff2(t)=α・P・RthC・exp(−t/(RthC・CthC)) (15)
式(15)は、図24(b)の近似直線Cに対応する。熱抵抗RthCは、Id_diff2の時間依存性データを対象にして式(8)、式(9)、または、図13と同様の解析により決めた熱抵抗を表す。また、熱容量CthCは、Id_diff2の時間依存性データを対象にして式(8)、式(9)、または、図13と同様の解析により決めた熱容量を表す。
また、近似直線Cの時定数は
τC=CthCRthC (16)
となる。
式(14)および式(15)の関係を用いて、プロットよりt=0におけるId_diffB(t)であるId_diffB(0)を、またt=0におけるId_diff2(t)であるId_diff2(0)を求める。または、Id_diffの時間依存性へのフィッティングにより式(14)における定数RthBおよびCthBを求め、求めたRthBおよびCthBを式(14)に代入することによりId_diffB(0)を求める。また、式(15)についても同様にId_diff2の時間依存性へのフィッティングにより、式(15)における定数RthCおよびCthCを求め、求めたRthCおよびCthCを式(15)に代入することにより、Id_diff2(0)を求める。
なお、式(14)と式(15)において、一例として、αとPを共通の値とすることができる。
定常状態のドレイン電流Id_steadyと、Id_diff2(0)と、Id_diffB(0)とを足し合わせた値を、t=0のドレイン電流Id(0)とする。
なお、図24を参照して説明した方法は、次の方法と等価である。式(10)、(14)、(15)を用いると、Id_diff(t)を式(17)のように表すことができる。
Id_diff(t)=a exp(−t/τB)+b exp(−t/τC) (17)
ここで、
a=αPRthB 式(18)
b=αPRthC 式(19)
である。また、式(17)の時定数τA,τBとして、式(13)および式(16)を用いた。
また、式(15)を任意の関数f(t)で置き換えて、
Id_diff(t)=a exp(−t/τB)+f(t) (20)
としてもよい。
ここで、時間tの大きい領域(例えば、期間B)に含まれる領域のId_diff(t)を対象とし、式(17)の第2項をゼロをとした式(21)によるフィッティングを行うことにより、係数aおよびτBを決定する。
Id_diff(t)=a exp(−t/τB) (21)
時間tの大きい領域(例えば、期間B)に含まれる領域のId_diff(t)を対象とし、式(20)の第2項をゼロをとすると考えた場合も、同様に、式(21)によるフィッティングによって、係数aおよびτBを決定する。
次に、上述の手順で決定した係数aおよびτBを代入した式(17)を用い、時間tの小さい領域、例えば、図24の期間AにおけるId_diff(t)を対象としたフィッティングにより、式(17)の係数bおよびτCを決定する。
次に、決定した係数a,b,τB,τCを代入した式(17)に、t=0を代入することにより、t=0におけるId_diff(t)の値Id_diff0を求め、Id_diff0と定常状態のドレイン電流Id_steadyとを足し合わせることにより、t=0におけるドレイン電流Id(0)が得られる。
式(20)を用いる場合には、次のようにする。すなわち、上述の手順で決定した係数aおよびτBを代入した式(20)を用いて、関数f(t)を決定する。次に、決定した係数a,τB,f(t)を代入した式(20)に、t=0を代入することにより、t=0におけるId_diff(t)の値Id_diff0を求める。さらに、Id_diff0と定常状態のドレイン電流Id_steadyとを足し合わせることにより、t=0におけるドレイン電流Id(0)が得られる。
ここで、係数aおよびτBの組み合わせの代わりに、RthBとCthBの組み合わせを決定してもよい。また、係数bおよびτCの組み合わせの代わりに、RthCとCthCの組み合わせを決定してもよい。
ここでは、期間Aと期間Bのそれぞれの時定数(あるいは熱抵抗と熱容量の組)を決める方法について説明した。一方、一般の回路シミュレータで用いられる温度上昇モデルは、図11に示すように、一つの熱容量と一つの熱抵抗から決まる単一の時定数を仮定したものであるが、t=0への外挿によって温度上昇のない特性を求める場合には、特に、回路シミュレーションを実施する必要はなく、期間Aと期間Bのそれぞれの時定数(あるいは熱抵抗と熱容量の組)を用いて、本実施形態に記載した数式あるいはプロットを用いてt=0への外挿を行い、温度上昇のない特性を求めればよい。
回路シミュレーションにおいて、期間Aと期間Bのそれぞれの時定数(または熱抵抗と熱容量の組)を使う場合には、回路シミュレーション用の温度上昇モデルを修正する必要がある。この点に関しては、第5の実施形態において後述する。
また、図23を参照して説明した方法、および、図23を参照して説明した方法においては、時間領域を2つに分割した解析を説明したが、同様の操作を繰り返すことにより、時間領域を3つ以上に分割した解析を行ってもよい。
次に、本実施形態の発明の原理について、詳述する。入力信号の立ち上がりと同時に素子特性が急激に変動する期間Aについては、これが測定上のノイズであるのか、自己発熱における性質なのか、自己発熱以外の原因によるものかを知る必要がある。すなわち、期間Aにおける素子特性の変動が測定上のノイズ、または、自己発熱以外の原因によるものであれば、本発明が目的とする自己発熱モデルの解析においては、期間Aにおける特性を無視する必要がある。一方、期間Aにおける素子特性の変動が自己発熱によるものであれば、本発明が目的とする自己発熱モデルの解析において、期間Aを考慮しなければならない。発明者の検討の結果、期間Aは自己発熱に起因するものであり、自己発熱モデルの解析において期間Aを考慮する必要があることが判明した。
図25に示すように、シリコンウエハ55上に設けられた電界効果型トランジスタ54をシリコンウエハ表面の点P0で代表する。また、点P0と同様にシリコンウエハ55の表面に位置し、電界効果型トランジスタから一定距離離れた点を点P1とする。熱流源53は、電界効果型トランジスタにより発生する熱流を表し、t=0に電界効果型トランジスタの消費電力に相当する熱流が流れ始める。ここでは、図25に示すような熱抵抗51と熱容量52のネットワークを使用して、熱流が流れ始めた後の温度の変化を解析した。
図26は、温度変化の解析結果を示す。図26(a)は、時間t=0において熱流源53から熱流が流れ始めた後の点P0と点P1での温度変化の計算結果を示す。図26の縦軸は素子温度の時間依存性T(t)のリニアプロット、横軸は時間tのリニアプロットである。図26(b)は、Id_diff(t)と対比するために、log(Tsteady−T(t))を縦軸にとり、時間tを横軸にとったプロットである。ここで、Tsteadyとは、点P0,P1のそれぞれにおける定常状態の温度である。
図26(b)の点P0に関する結果を見ると、図22または図23を参照して説明した2つの領域、すなわち、期間Aおよび期間Bが明確に再現されている。縦軸を温度T(t)とした図26(a)と比較すると、期間Aは、トランジスタの位置P0では温度が急激に上昇するが、トランジスタから離れた点P1にはまだ熱が伝わっておらず、温度の上昇がまだ充分に始まっていない時間領域に相当する。また、期間Bは、点P0、点P1で同じような変化率で温度が変化する時間領域に相当する。また、期間Bでは、点P0と点P1の温度差がほぼ一定に保たれる。
図27は、図26の結果を概念的に示したものである。なお、シリコンウエハ55の下は測定器の金属性のチャック56に接しており、チャック56はヒートシンクを成すものとした。図27(a)は、期間Aの状態を表し、電界効果型トランジスタ54で発生した熱が、ウエハ深さ方向や、ウエハ面方向(図では横方向)に、時間とともに等方的に広がっていく。期間Aにおけるt=0付近では、まだ熱が点P1に達しないため、点P1の温度上昇は小さい。一方、点P0付近には熱が集中するため、点P0付近の温度は、時間とともに急激に上昇する。
シリコンウエハが無限に厚い場合には、図26(a)に示すような等方的な熱の拡散が永続する。しかし、半導体素子が形成されるウエハは、実際には非常に薄い板状である。したがって、一定の時間が経過すると、図26(b)に示すように、板状であるシリコンウエハの底面のヒートシンクに向かう流れが形成され、それ以上の横方向の熱の広がりが抑制される。これが、期間Bにおける熱の伝わり方であると考えられる。
このように、図22や図23において、期間Aおよび期間Bの2つの領域が存在するのは、自己発熱にともなう物理的効果によるものである。したがって、期間Aにおける温度または電流の時間の経過に伴う急激な変化を、自己発熱の解析において無視することはできない。また、期間Aと期間Bでは、熱の伝わり方が異なる。したがって、本実施形態で説明したように、それぞれの期間において、異なる時定数を持つ温度変化が起こっているものとして、自己発熱の解析、t=0への電流値の外挿、自己発熱パラメータの抽出を行う必要がある。ただし、ここでは、電流の変化は温度の変化に追従するものとした。
次に、第4の実施形態によってもたらされる効果について説明する。
ここで、温度変化の時定数について考えると、電気回路の場合と同様に、時定数は最も簡単な形として熱容量と熱抵抗との積で表される。熱容量は、温度上昇の対象となる体積に比例するが、体積は熱源を中心とした半径の3乗に比例する。したがって、図26(a)に示した時間領域、すなわち、期間Aに相当する熱が狭い範囲に集中している場合は熱容量が小さく、時定数も小さい。一方、図26(b)に示した時間領域、すなわち、期間Bに相当する熱が広がった状態では熱容量は大きくなり、時定数も大きくなる。したがって、温度変化が始まってからの経過時間tの大きい領域では、期間Aで顕著な時定数の小さい温度変化の影響は小さくなり、温度変化が始まってからの経過時間tの大きい領域の測定値を使うことにより、特に、実測値から定常状態の実測値を引いた値を使うことにより、期間Bの時定数を求めることができる。なお、ここで時定数を決めるとは、具体的な時定数の値を数値として決定することを含むとともに、時定数により決まる近似曲線または近似直線を求めることも含む。
また、実測値から定常状態の実測値を差し引いた値から、実測値から定常状態の実測値を差し引いた値に対して期間Bの時定数を用いて外挿した値を、差し引くことにより、すなわち、期間Aにおける測定値と期間Bからの外挿値の差を求めることで、この差が一定以上大きい領域を期間Aとすることができる。トランジスタ特性の変動が大きく、自己発熱の解析において重要な時間領域は期間Aである。したがって、このようにして決めた期間Aの値を使用して、実施形態1〜3の発明を実施し、t=0への測定値の外挿による温度上昇がない素子特性の計算、熱抵抗および熱容量の決定などの自己発熱の解析を行うことにより、実施形態1〜3の発明の精度を向上させることができる。これにより、非特許文献1に記載された方法の問題点を解消することができる。
また、実測値から定常状態の実測値を差し引いた値から、実測値から定常状態の実測値を差し引いた値に対して期間Bの時定数を用いて外挿した値を、差し引いた値を用いて、新たに期間Aの時定数を求めて、期間Aにおける温度変化の影響を記述し、t=0への測定値の外挿により、温度上昇がない素子特性の計算、熱抵抗および熱容量の決定などの自己発熱の解析を行うことで、精度を向上させることができる。これにより、非特許文献1に記載された方法の問題点を解消することができる。
(実施形態5)
第5の実施形態に係る半導体素子評価方法について、図面を参照して説明する。第4の実施形態において、図24を参照して説明した方法のように、期間Aと期間Bのそれぞれの時定数(あるいは熱抵抗と熱容量の組)が決められる場合には、図28に示す熱回路を回路シミュレーションモデルに組み込むことにより、期間Aと期間Bのそれぞれの時定数(あるいは熱抵抗と熱容量の組)を用いて、回路シミュレーションを行うことができる。
本実施形態においては、回路シミュレーションモデルとして、図11と同様の熱回路を2組分組み込む。図28において、熱回路57は期間Aにおける温度変化を表す熱回路(以下、期間Aを表す熱回路)である。一方、熱回路58は期間Bにおける温度変化を表す熱回路(以下、期間Bを表す熱回路)である。
期間Aを表す熱回路57には、期間Aに関して式(15)で表される熱抵抗RthCおよび熱容量CthCが用いられる。一方、期間Bを表す熱回路58には、期間Bに関して式(14)で表される熱抵抗RthBおよび熱容量CthBが用いられる。
期間Aを表す熱回路57の熱流源PC、期間Bを表す熱回路58の熱流源PBは、それぞれ回路上分離されているが、基本的には同一の出力を持つ。すなわち、図11における熱流源と同じものが、期間Aを表す熱回路57と期間Bを表す熱回路58の両方において用いられる。
外部環境温度T0は、期間Aを表す熱回路57および期間Aを表す熱回路58で共通であり、図11の通常の熱回路で使用する外部環境温度T0と同一である。TdevCは、期間Aを表す熱回路57の寄与による素子温度である。一方、TdevBは、期間Bを表す熱回路58の寄与による素子温度である。
TdevCからT0を差し引いたTheatCは、期間Aを表す熱回路57の寄与による素子温度の上昇分である。一方、TdevBからT0を差し引いたTheatBは、期間Bを表す熱回路58の寄与による素子温度の上昇分である。熱回路57の寄与による素子温度の上昇分と熱回路57の寄与による素子温度の上昇分を足し合わせたものが素子の温度上昇分Theatであり、素子温度TdevはT0とTheatの和で与えられる。
なお、素子温度Tdevとは、素子特性、例えば、電界効果トランジスタの電流値などを計算するための素子温度である。TdevおよびTheatの定義は、図11および図11に関する説明に含まれる定義と同一である。Tdevを式で表すと、式(22)となる。
Tdev=T0+TheatC+TheatB (22)
また、上述のように、式(23)および式(24)で表される関係が成立するため、式(22)を、式(25)のように表すこともできる。
TheatC=TdevC−T0 (23)
TheatB=TdevB−T0 (24)
Tdev=T0+(TdevC−T0)+(TdevB−T0) (25)
熱流源PCとPBを異なる出力とし、例えば、図11の熱流を2つに分割したものを用いてもよい。この場合には、分割した熱流源に応じて、熱抵抗RthB、熱容量CthB、熱抵抗RthB、熱容量CthBを求め直す必要がある。一例として、時定数τCおよびτBが保存されるように、これらの値を求め直す。また、第4の実施形態で述べた操作を繰り返すことにより、時間領域を3つ以上に分割する場合には、分割数に応じて3組以上の熱回路を組み込んで使用してもよい。
(実施形態6)
実施形態5において、図28を参照して説明した1組の熱回路に代えて、半導体素子の温度変化を扱うモデルとして、図29に示すように2つのセルと1つの熱抵抗から成る熱回路、または、図30に示すようにn個のセルと(n−1)個のセルから成る熱回路を用いてもよい。ここで、セルとは、熱容量と熱抵抗が並列に接続された熱回路中の単位をいう。
図29の熱回路には、熱容量Cth1および熱抵抗Rth1が並列に接続された第1のセル59、熱容量Cth2および熱抵抗Rth2が並列に接続された第2のセル61、および、接続熱抵抗Rthc1(60)が含まれる。第1のセル59および第2のセル61のそれぞれの一方の端子は、外部環境温度T0に接続される。熱流源Pは、第1のセル59の2つの端子のうちの外部環境温度T0に接続されないほうの端子に接続される。第1のセル59の2つの端子のうち外部環境温度T0に接続されないほうの端子は、接続熱抵抗Rthc1(60)を介して熱流源Pに接続される。第1のセル59および第2のセル61には、それぞれ熱抵抗が1つと熱容量が1つ含まれるため、図29に示した熱回路は、合計2つの熱容量と3つの熱抵抗を有する。この熱回路においては、熱抵抗の個数が熱容量の個数よりも一つ多い。
図30の熱回路は、図29の熱回路における第1のセル59に対する第2のセル61の接続方法と同様の方法で、多数のセルを接続した例である。図30の熱回路は、1つの熱容量と1つの熱抵抗が並列に接続されたセルがn個と、n−1個の接続熱抵抗を含む。第1のセル59以下すべてのセルは、一方の端子が外部環境温度T0に接続される。熱流源Pは、第1のセル59の2つの端子のうちの外部環境温度T0に接続されないほうの端子に接続される。第nのセルの2つの端子のうちの外部環境温度T0に接続されないほうの端子は、接続熱抵抗Rthc(n−1)を介して第(n−1)のセルの2つの端子のうちの外部環境温度T0に接続されないほうの端子に接続される。この熱回路は、n個の熱容量と(2n−1)個の熱抵抗を有する。
図31は、図29の熱回路を用いて計算したId_diff(t)の時間依存性の例を示す。このモデルによると、期間Aおよび期間Bの2つの領域が滑らかに接続されたId_diff(t)の時間依存性を再現することができる。縦軸を図26(b)のようにlog(Tsteady−T(t))としても同様の傾向が得られる。もちろん、図25のような熱回路を用いても2つの期間から成るId_diff(t)の時間依存性を再現できるが、図29に示したように最低限2つの熱容量と3つの熱抵抗があれば、2つの期間よりなるId_diff(t)の時間依存性を再現することができる。
図41(a)、(b)は、非特許文献4に記載された、複数のセル121〜123、131〜133を用いた熱回路の例を示す。図41(a)、(b)を参照すると、いずれの場合も、熱容量と熱抵抗が同数配置されている。また、図41(a)、図41(b)のいずれの場合にも、熱抵抗Rth1、Rth2、Rth3が直列に接続されている。
非特許文献4に記載された図41の熱回路も、本実施形態と同様に複数のセル121〜123、131〜133を含むものの、図22(a)に示すような期間Aおよび期間Bから成るId_diff(t)の時間依存性を再現することは困難である。これは、本実施形態における熱抵抗の並列接続を欠いているからである。図29に示した本実施形態では、熱抵抗Rth2と接続熱抵抗Rthc1の直列接続よりなる合成抵抗が、熱抵抗Rth1と熱容量Cth1に並列に接続されていることにより、図22(a)に示すような期間Aおよび期間Bから成るId_diff(t)の時間依存性を再現することができる。図30の回路についても同様である。
図29のモデルにおいては、第1のセル59が図27(a)に示す熱伝播が狭い範囲に限定されている期間の時定数を表す。一方、第2のセル61は、図27(b)のように熱伝播が広い範囲に伝わった期間における時定数と第1のセル59の時定数の差分を表す。接続抵抗Rthc1は、図27(a)の状態から図27(b)の状態に熱が伝わるための熱抵抗を表す。このように、図29の各要素は、実際の熱伝播現象における物理量と関連付けることができるため、2つの熱容量と3つの熱抵抗というわずかな素子数によって、実際の温度変化、さらにはId_diff(t)の時間依存性を再現することができる。
本実施形態の熱回路に用いるモデルにおける熱抵抗、熱容量の数値は、例えば、本実施形態の熱回路を用いたシミュレーションを実施し、ドレイン電流Id_diff(t)または素子温度などの実測値の時間依存性に対してフィッティングすることによって決定する。
また、図29の熱回路については、以下のように図28の熱回路と対応付けてパラメータを決めてもよい。Rth1にはRthCの値を用いる。また、Cth1にはCthCの値を用いる。さらに、Rth2にはRthBの値を用いる。また、Cth2にCthBの値を用いる。Rth2とRthC1が直列接続された合成抵抗とRth1の並列接続が素子の熱抵抗を満たすように、例えば、図13の切片から、RthCを決める。実測値から抽出する場合には、例えば、期間AにおけるId_diff(t)の傾きからRth1とCth1の積、図24(b)の切片からRth1、期間BにおけるId_diff(t)の傾きからRth2とCth2の積、図24(a)のId_diffB(0)からRth2、期間Aと期間Bの接続領域の滑らかさや接続領域の時間的な長さからRthC1が、それぞれ決まる。
本実施形態の熱回路は、半導体素子において温度上昇がない特性を見積もるための外挿手段、半導体回路シミュレーションにおける素子の温度変化を再現するための熱回路、または、半導体素子の素子温度の時間変化を解析するための手段として用いてもよい。温度上昇がない特性を見積もるための外挿手段として用いる場合には、複数の時間におけるドレイン電流などの測定値を用いて、一旦熱容量や熱抵抗などの定数を決めて、得られた定数を用いた熱回路のシミュレーションを実施して、ドレイン電流などの時間変化を求めることにより、時間ゼロでの特性として温度上昇がない特性が得られる。
(実施形態7)
第1ないし第6の実施形態における手順の一部に、以下の実施形態を採用してもよい。
移動度、しきい値電圧、飽和電圧などの各種素子特性の温度依存性を表すパラメータ、すなわち、温度依存性パラメータは、定常状態で温度を変化させて得られたドレイン電流の実測値をもとに抽出してもよい。ただし、正確なデータを得るには、温度を何通りかに変化させるとともに、上記の手順を実施することによって得た各温度(この温度は、定常状態の測定におけるウエハを保持するチャックの温度に相当し、図11の外部環境温度T0に相当する)で、t=0のドレイン電流に対して温度依存性パラメータを決定する方法を用いることが好ましい。
また、精度は劣るものの、温度を変化させて通常のパルス測定を実施し、各温度でのパルス測定結果を用いて温度依存性パラメータを決定するようにしてもよい。
さらに、サブスレッショルド特性については、パルス測定では精度が得られない場合があるため、定常状態での測定結果を適宜組み合わせるようにしてもよい。すなわち、定常状態での室温データ、または、温度を変化させたデータから、セルフヒーティングの影響が少ないサブスレッショルド特性や線形領域特性においてフィッティングを行い、本発明によって得られたt=0でのドレイン電流外挿値を用いてセルフヒーティングの影響が大きい飽和領域でのフィッティングを実施することにより、モデルパラメータ(温度依存性パラメータを含む)を決定するようにしてもよい。
本発明は、自己発熱の評価が必要な各種半導体素子に適用し得る。また、本発明は、Nチャネル電界効果型トランジスタ(MOSFET)のみならず、Pチャネル電界効果型トランジスタにも適用し得る。さらに、本発明は、電界効果型トランジスタのみならず、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、バイポーラトランジスタなどの他のトランジスタにも適用し得る。また、本発明は、ダイオード、ゲートターンオフダイオード(GTO)、サイリスタなどのトランジスタ以外の半導体素子における自己発熱の解析にも適用し得る。
図32は、電界効果型トランジスタに対して適用する場合のバイアス印加方法を一例として示す図である。また、図33は、絶縁ゲート型トランジスタ(IGBT)に対する適用する場合のバイアス印加方法を一例として示す図である。さらに、図34は、バイポーラトランジスタに対する適用する場合のバイアス印加方法を一例として示す図である。
本実施形態において、課題が解決されるメカニズム、および、課題の解決によってもたらされる効果は、第1ないし第5の実施形態におけるものと同様である。
本発明は、半導体製品一般について適用しうる。また、本発明は、半導体素子モデルの作成環境、半導体素子モデル、特性測定のための装置、半導体素子パラメータを抽出して半導体素子をモデリングするための装置にも適用しうる。さらに、本発明は、これらの環境、モデル、装置において用いられる解析方法として用いることができる。また、本発明は、特に、パワーMOSFETのように自己発熱が大きい素子に対して適用することが好ましい。
なお、上記の特許文献および非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
なお、上記実施形態の一部又は全部は、以下の付記として記載することができるものであるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
半導体素子に電流を流すための電圧の印加を開始してから該半導体素子を流れる電流値が定常状態に至るまでの期間に含まれる複数の時刻において、該半導体素子を流れる電流値を測定する処理と、
前記期間を第1の期間と該第1の期間よりも後の第2の期間に分割した場合において、該第2の期間に含まれる時刻において測定された電流値の時間変化を近似的に表す曲線を求めたときに、該第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値と該曲線を該時刻に外挿して求めた電流値との差が所定の閾値以上となるように前記期間を分割する処理と、
前記第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値を近似的に表す曲線を求め、該曲線を外挿して前記開始時刻に前記半導体素子を流れる電流値を推定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
(付記2)
前記第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値を差し引いた値の時間変化を近似的に表す第1の曲線を求める処理と、
前記第1の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と定常状態の電流値とを足し合わせて、前記開始時刻における電流値を推定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記1に記載のプログラム。
(付記3)
前記第2の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値を差し引いた値の時間変化を近似的に表す第2の曲線を求める処理と、
前記第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態における電流値を差し引いた値と前記第2の曲線を該時刻に外挿して求めた値との差が所定の閾値以上となるように前記期間を分割する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記1または2に記載のプログラム。
(付記4)
前記第1の期間に含まれる時刻において測定された電流値から定常状態の電流値および前記第2の曲線を該時刻に外挿して求めた値を差し引いた値を近似的に表す第3の曲線を求める処理と、
前記第2の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と、前記第3の曲線を前記開始時刻に外挿して求めた値と、定常状態の電流値とを足し合わせて、前記開始時刻における電流値を推定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記3に記載のプログラム。
(付記5)
前記第1の曲線を外挿して前記開始時刻における値を求め、求めた値に基づいて前記半導体素子の熱抵抗値を決定する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記2ないし4のいずれか1に記載のプログラム。
(付記6)
前記熱抵抗値および前記第1の曲線の傾きに基づいて前記半導体素子の熱容量値を決定する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記5に記載のプログラム。
(付記7)
前記第3の曲線を外挿して求めた前記開始時刻における値に基づいて前記第1の期間における前記半導体素子の熱抵抗値を第1の熱抵抗値として決定する処理と、
前記第2の曲線を外挿して求めた前記開始時刻における値に基づいて前記第2の期間における前記半導体素子の熱抵抗値を第2の熱抵抗値として決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記4に記載のプログラム。
(付記8)
前記第1の熱抵抗値および前記第3の曲線の傾きに基づいて前記第1の期間における前記半導体素子の熱容量値を決定する処理と、
前記第2の熱抵抗値および前記第2の曲線の傾きに基づいて前記第2の期間における前記半導体素子の熱容量値を決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記7に記載のプログラム。
(付記9)
第1の熱抵抗パラメータおよび第1の熱容量パラメータを用いて前記第1の期間における前記半導体素子の温度変化を記述する第1の熱回路、ならびに、第2の熱抵抗パラメータおよび第2の熱容量パラメータを用いて前記第2の期間における前記半導体素子の温度変化を記述する第2の熱回路を組み込んで、前記半導体素子に対する自己発熱を含む回路シミュレーションを行う処理と、
前記複数の時刻において測定された電流値および定常状態における電流値を再現するように、前記第1の熱抵抗パラメータ、前記第1の熱容量パラメータ、前記第2の熱抵抗パラメータおよび前記第2の熱容量パラメータを決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記1ないし8のいずれか1に記載のプログラム。
(付記10)
第1の熱抵抗パラメータおよび第1の熱容量パラメータを用いて前記第1の期間における前記半導体素子の温度変化を記述する第1の熱回路、第2の熱抵抗パラメータおよび第2の熱容量パラメータを用いて前記第2の期間における前記半導体素子の温度変化を記述する第2の熱回路、ならびに、該第1の熱回路および該第2の熱回路を接続する熱抵抗素子を組み込んで、前記半導体素子に対する自己発熱を含む回路シミュレーションを行う処理と、
前記複数の時刻において測定された電流値および定常状態における電流値を再現するように、前記第1の熱抵抗パラメータ、前記第1の熱容量パラメータ、前記第2の熱抵抗パラメータ、前記第2の熱容量パラメータ、および、前記熱抵抗素子の熱抵抗値を決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする、付記1ないし8のいずれか1に記載のプログラム。