本発明のα,α−ジフルオロエステル類の製造方法について詳細に説明する。
一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。該アルキル基は、炭素数1から18の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)である。該芳香環基は、炭素数1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該置換アルキル基および置換芳香環基は、それぞれ上記のアルキル基および芳香環基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基の保護体等が挙げられる。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)を意味する。また、上記の“係る置換基としての芳香環基”には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基の保護体等が置換することもある。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。
一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR3は、アルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基および置換アルキル基は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2において記載したアルキル基および置換アルキル基と同じである。
一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のXは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1とR2は、もしくは、R1またはR2とR3は、それぞれ任意の炭素原子同士で、もしくは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を介して共有結合により環状構造を採ることもある。
一般式[3]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR4は、水素原子またはアルキル基を表す。該アルキル基は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2において記載したアルキル基と同じである。
一般式[3]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR5は、アルキル基を表す。該アルキル基は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2において記載したアルキル基と同じである。
一般式[3]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のYは、塩素原子または臭素原子を表す。
一般式[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のMeは、メチル基を表す。
一般式[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR6は、メチル基、エチル基またはプロピル基を表す。
一般式[1]、[3]または[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類は、特開2001−139519号公報、特願2010−041158等を参考にして同様に製造することができる。本特許願の出願時には、後者は未公開のため、本特許願の発明の説明に必要な箇所を抜粋して説明する。特願2010−041158では、2−フルオロプロピオン酸エステルをラジカル開始剤の存在下に「窒素−臭素結合を有する臭素化剤」と反応させることにより、2−ブロモ−2−フルオロプロピオン酸エステルが製造できることを開示しており、具体的な実験操作の一例を参考例1に示す。
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが特に好ましい。これらの有機塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基とフッ化水素のモル比は、1:0.3から7の範囲であれば良く、1:0.5から5が好ましく、1:0.7から3が特に好ましい。有機塩基とフッ化水素のモル比は、特に制限はないが、フッ化水素の比率が高くなると、副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類に対する目的物のα,α−ジフルオロエステル類の生成比は高くなるが、反応速度は遅くなる。一方で、有機塩基の比率が高くなると、反応速度は速くなるが、副生物に対する目的物の生成比は低くなる。よって、実用的な製造方法の観点から、該モル比には好適な範囲が存在し、用いる有機塩基の種類によっても若干異なる。本発明の好適な有機塩基である1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を用いる場合の、DBUとフッ化水素のモル比は、1:1.8から2.7の範囲であれば良く、1:1.9から2.6が好ましく、1:2.0から2.5が特に好ましい(実施例4から8を参照)。モル比の微調整は、DBU・3HF(液体)とDBUを任意の割合で混合して行うのが簡便である(DBU・1HFは吸湿性固体のため、大量規模での取り扱いが必ずしも容易ではない)。
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の使用量は、一般式[1]、[3]または[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1モルに対してフッ化物イオン(F−)として0.7モル以上であれば良く、0.8から30モルが好ましく、0.9から20モルが特に好ましい。
本フッ素置換反応は、重合禁止剤の存在下に行うこともできる。例えば、高い生産性を期待して高濃度条件で反応を行うと、副生するα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の重合により、反応系が円滑に攪拌できなくなることがある。この様な場合に、重合禁止剤の添加は効果的である。しかしながら、好適な反応条件を採用することにより、高濃度条件でも重合禁止剤の非存在下に、反応を良好に行うことができる。また、重合禁止剤は本フッ素置換反応に必須ではないが、大量規模での製造には極めて効果的である。
係る重合禁止剤としては、フェノチアジン、ヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、メトキノン、tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、オゾノン35、テトラエチルチウラムジスルフィド、Q−1300、Q−1301、クロラニル、イオウ等が挙げられる。これらの重合禁止剤は市販品であり、大量規模での入手が容易で且つ安価である。その中でもフェノチアジン、ヒドロキノンおよび2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールが好ましく、フェノチアジンおよび2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールが特に好ましい。
重合禁止剤を用いる場合の該使用量は、一般式[1]、[3]または[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1モルに対して0.00001モル以上であれば良く、0.0001から0.1モルが好ましく、0.0003から0.05モルが特に好ましい。
反応溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、トルエン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
反応溶媒の使用量は、一般式[1]、[3]または[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1モルに対して0.01L以上であれば良く、0.02から20Lが好ましく、0.03から10Lが特に好ましい。本フッ素置換反応は、高い生産性を期待して反応溶媒を用いずに行うこともできる。
反応温度は、−20から+150℃の範囲であれば良く、−10から+125℃が好ましく、0から+100℃が特に好ましい。
反応時間は、240時間以内の範囲であれば良く、原料基質、フッ化物イオン源および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の消費が殆ど停止した時点を終点とすることが好ましい。
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]、[4]または[6]で示されるα,α−ジフルオロエステル類を得ることができる。一般式[1]、[3]および[5]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1、R2、R3、R4、R5およびR6は、本フッ素置換反応を通して前後で変化しない。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作により更に高い化学純度に精製することができる。また、粗生成物または精製品[高沸点化処理で得られる処理物や分別蒸留品等]は、必要に応じて無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、五酸化二燐、シリカゲル、合成ゼオライト等の乾燥剤、種々の除水フィルター等で脱水することができる。さらに、粗生成物または精製品は、必要に応じてフッ化ナトリウム、塩化カルシウム、シリカゲル等の脱弗剤、有機塩基(「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基として挙げたもの等)との接触蒸留等で脱弗することができる。
好適な後処理としては、反応終了液を直接、回収蒸留することにより粗生成物を得ることができる。本フッ素置換反応では、反応終了液または粗生成物中のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の副生量を有意に低減することができる。しかしながら、目的物のα,α−ジフルオロエステル類と副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の沸点が近いため、簡単な操作である分別蒸留により高純度に精製することが困難であった。そこで、副生物の二重結合部位の反応性に着目して、副生物だけを特異的に高沸点化して(高沸点化処理)、目的物との沸点差を格段に大きく付けることにより、簡単な操作である分別蒸留により目的物の高純度品が効率良く得られることを見出した。この手法は、本発明で対象とする目的物の精製方法における好ましい態様である。
高沸点化処理としては、重合処理またはマイケル付加反応処理が挙げられる。
前者の重合処理について具体的に説明する。
重合処理は、フッ素置換反応で得られた副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類を含む反応終了液または粗生成物に対して、重合開始剤の存在下に副生物だけを重合させ、高沸点化終了液から目的物のα,α−ジフルオロエステル類を回収、必要に応じて更に分別蒸留することにより、目的物の高純度品を得ることができる。
フッ素置換反応を重合禁止剤の存在下に行った場合には、予め重合禁止剤を取り除いた後に重合処理を行うのが好ましい。
重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキシピバレート、ジ−tert−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化水素、過硫酸アンモニウム等の過酸化物系等が挙げられる。その中でも2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキシピバレートおよびジ−tert−ブチルパーオキシドが好ましく、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)および1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)が特に好ましい。これらの重合開始剤は市販品であり、大量規模での入手が容易で且つ安価である。重合開始剤の選定には、重合開始剤に由来する分解物と目的物の、蒸留における分離容易性も考慮する必要がある。この様な観点から、特に好ましいものの中でも2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)および1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)が極めて好ましい。
重合開始剤の使用量は、含まれる副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類1モルに対して1モル以下であれば良く、0.00001から0.7モルが好ましく、0.0001から0.5モルが特に好ましい。
本重合処理の処理溶媒および処理温度は、フッ素置換反応における反応溶媒および反応温度と同じである。
重合処理の処理溶媒の使用量は、副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類を含む反応終了液または粗生成物1容量に対して0.01容量以上であれば良く、0.03から10容量が好ましく、0.05から5容量が特に好ましい。本重合処理は、高い生産性を期待して処理溶媒を用いずに行うこともできる。
重合処理の処理時間は、120時間以内の範囲であれば良く、副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の含量、重合開始剤および重合条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により重合の進行状況を追跡し、副生物の消費が殆ど停止した時点を終点とすることが好ましい。
重合処理における目的物のα,α−ジフルオロエステル類の回収は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、目的物の高純度品を得ることができる。好適な重合処理における目的物の回収としては、高沸点化終了液を直接、回収蒸留することにより高沸点化粗処理物を得ることができる。高沸点化粗処理物は、必要に応じて分別蒸留等の操作により更に高い化学純度に精製することができる。
重合処理による副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の高沸点化では、一般式[7]
[式中、R1、R2およびR3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1、R2およびR3と同じであり、nは2以上の整数を表す。両末端部位には、フッ素置換反応における、α−ハロゲノ−α−フルオロエステル類(原料基質)、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」(フッ化物イオン源)、重合禁止剤、反応溶媒等に由来する原子、官能基または官能基の一部分、重合処理における、α,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)、重合開始剤、処理溶媒等に由来する原子、官能基または官能基の一部分、もしくは、水(H2O)または酸素(O2)に由来する原子、官能基または官能基の一部分等が導入される。]
で示される重合体に変換される。
後者のマイケル付加反応について具体的に説明する。
マイケル付加反応処理は、フッ素置換反応で得られた副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類を含む反応終了液または粗生成物に対して、求核剤を用いて副生物だけをマイケル付加反応させ、高沸点化終了液から目的物のα,α−ジフルオロエステル類を回収、必要に応じて更に分別蒸留することにより、目的物の高純度品を得ることができる。
[式中、R
7およびR
8はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。R
7とR
8はそれぞれ任意の炭素原子同士で、もしくは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を介して共有結合により環状構造を採ることもある。]
で示される窒素求核剤、または、一般式[9]
[式中、R9は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。]
で示される硫黄求核剤が挙げられる。その中でも硫黄求核剤が好ましく、R9がアルキル基または芳香環基の硫黄求核剤が特に好ましい。求核剤の選定には、未反応のまま残存する求核剤と目的物の、蒸留における分離容易性も考慮する必要がある。この様な観点から、特に好ましいものの中でもR9が芳香環基の硫黄求核剤が極めて好ましい。
一般式[8]で示される窒素求核剤のR7およびR8は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2において記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。
一般式[8]で示される窒素求核剤のR7およびR8は、それぞれ任意の炭素原子同士で、もしくは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を介して共有結合により環状構造を採ることもある。
一般式[9]で示される硫黄求核剤のR9は、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1およびR2において記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。
求核剤の使用量は、含まれる副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類1モルに対して0.7モル以上であれば良く、0.8から700モルが好ましく、0.9から500モルが特に好ましい。
本マイケル付加反応処理は、塩基の存在下に行うことにより、処理時間を短縮することができる場合がある。しかしながら、好適な処理条件を採用することにより、塩基の非存在下に、処理を良好に行うことができる。また、塩基は本マイケル付加反応処理に必須ではないが、大量規模での精製には極めて効果的である。
係る塩基としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基、フッ素置換反応における「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基として挙げたもの等が挙げられる。その中でも有機塩基が好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが特に好ましい。これらの塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
塩基を用いる場合の該使用量は、含まれる副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類1モルに対して0.7モル以上であれば良く、0.8から700モルが好ましく、0.9から500モルが特に好ましい。
本マイケル付加反応処理の処理溶媒、該使用量、処理温度、処理時間および、マイケル付加反応処理における目的物のα,α−ジフルオロエステル類の回収は、重合処理における処理溶媒、該使用量、処理温度、処理時間および、重合処理における目的物の回収と同じである。但し、処理時間については、“重合開始剤および重合条件”の箇所を“求核剤およびマイケル付加反応条件”に読み替える。
マイケル付加反応処理による副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の高沸点化では、一般式[10]
[式中、R
1、R
2およびR
3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR
1、R
2およびR
3と同じであり、R
7およびR
8は、窒素求核剤のR
7およびR
8と同じである。]
、一般式[11]
[式中、R
1、R
2およびR
3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR
1、R
2およびR
3と同じであり、R
8は、窒素求核剤のR
8と同じである。本化合物は、窒素求核剤が1級アミン(R
8NH
2、R
8はアルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す)の場合に採り得る可能性のある構造式として示される。]
、または、一般式[12]
[式中、R
1、R
2およびR
3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR
1、R
2およびR
3と同じである。本化合物は、窒素求核剤がアンモニア(NH
3)の場合に採り得る可能性のある構造式として示される。]
で示される窒素付加物、もしくは、一般式[13]
[式中、R
1、R
2およびR
3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR
1、R
2およびR
3と同じであり、R
9は、硫黄求核剤のR
9と同じである。]
、または、一般式[14]
[式中、R1、R2およびR3は、一般式[1]で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類のR1、R2およびR3と同じである。本化合物は、硫黄求核剤が硫化水素(H2S)の場合に採り得る可能性のある構造式として示される。]
で示される硫黄付加物に変換される。
副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類の高沸点化処理では、重合処理とマイケル付加反応処理の両方を行うことにより、目的物のα,α−ジフルオロエステル類の更に高純度品を得ることができる。この場合には、行う順序に制限はなく、また同時に行うこともできる。当然、これらの処理は、繰り返し行うこともできる。
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。MeおよびEtは、それぞれメチル基、エチル基の略記号である。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU24.7g(162mmol、0.600eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.2、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類(原料基質)50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、50℃で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は87%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は73:4:23であった。反応終了液を直接、回収蒸留(減圧度〜2kPa、油浴温度〜100℃)することにより、下記式
で示される目的物、副生物および原料基質を含む粗生成物を60.0g得た(目的物加水分解体は回収蒸留で留出せず)。粗生成物の19F−NMR分析より目的物、副生物および原料基質の組成比は73:20:7であり、内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、目的物が165mmol含まれており(残りの大部分はDMI)、収率は61%であった。
上記を参考にして同様に製造した[原料基質300gスケールで2ラン(計3.24mol)実施]、目的物、副生物および原料基質を含む粗生成物(反応終了液を直接、回収蒸留したもの)710g[モレキュラーシーブ4A乾燥品、目的物、副生物および原料基質の組成比70:23:7、目的物246g(1.98mol)含有、収率61%]に、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)8.00g[25.9mmol、0.0569eq vs.副生物(455mmolとする)]を加え、50℃で終夜攪拌した。重合による高沸点化終了液の19F−NMR分析より同上組成比は89:2:9であった。高沸点化終了液を直接、回収蒸留(減圧度〜2kPa、留出温度〜90℃)することにより、高沸点化粗処理物を411g得た[同上組成比90:1:9、目的物246g(1.98mol)含有]。高沸点化粗処理物中の目的物、副生物、原料基質およびDMIのガスクロマトグラフィー純度は、それぞれ56.3%、0.6%、5.6%、32.6%であった。高沸点化粗処理物を分別蒸留(理論段数20段、減圧度60kPa、留出温度79℃)することにより、目的物の精製品を223g(1.80mol)得た。粗生成物からの回収率は91%であり、反応からのトータル収率は56%であった。精製品中の目的物および副生物のガスクロマトグラフィー純度は、それぞれ98.9から99.2%、1.1から0.6%であった。
上記で得られた精製品10.0g(80.6mmol、1.00eq)に、チオフェノール444mg[4.03mmol、5.88eq vs.副生物(685μmolとする)]を加え、室温で終夜攪拌した。マイケル付加反応による高沸点化終了液を直接、分別蒸留することにより、目的物の再精製品を9.30g得た。回収率は93%であった。再精製品中の目的物および副生物のガスクロマトグラフィー純度は、それぞれ99.8%、0.2%であった。
α,α−ジフルオロエステル類の1H−NMR、19F−NMRおよびマスクロマトグラフィー(MS)を下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH3)4Si、重溶媒;CDCl3]、δ ppm;1.81(t、18.8Hz、3H)、3.88(s、3H)。
19F−NMR(基準物質;C6F6、重溶媒;CDCl3)、δ ppm;62.90(q、18.3Hz、2F)。
MS;EI/124(M+)、81、65、59、CI/125(M+H)。
アセトニトリル50.0mL(0.463L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素31.7g(149mmol、1.38eq)、DBU10.1g(66.3mmol、0.614eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール100mg(454μmol、0.00420eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.1、フッ化物イオン4.14eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類20.0g(108mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、50℃で3日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は70%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は77:5:18であり、内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、目的物が57.2mmol含まれており、収率は53%であった。
トルエン50.0mL(0.463L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素31.7g(149mmol、1.38eq)、DBU10.1g(66.3mmol、0.614eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール100mg(454μmol、0.00420eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.1、フッ化物イオン4.14eq)。この不均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類20.0g(108mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、50℃で3日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は75%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は72:4:24であり、内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、目的物が57.9mmol含まれており、収率は54%であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU53.3g(350mmol、1.30eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:1.7、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、40℃で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は100%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は42:8:50であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU32.9g(216mmol、0.800eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.0、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、40℃で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は90%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は60:3:37であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU24.7g(162mmol、0.600eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.2、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、50℃で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は87%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は73:4:23であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU20.6g(135mmol、0.50eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.3、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、50℃で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は80%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は77:2:21であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン140mL(0.519L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)・3フッ化水素97.6g(460mmol、1.70eq)、DBU12.3g(80.8mmol、0.300eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール250mg(1.13mmol、0.00419eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:2.6、フッ化物イオン5.10eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類50.0g(270mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、40℃で終夜攪拌し、さらに50℃で5日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は78%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は85:極少量:15であった。
フッ化物イオン源の「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」に関して、実施例4から8の結果(表1を参照)は、フッ素置換反応において記載した“本発明の好適な有機塩基である1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を用いる場合の、DBUとフッ化水素のモル比は、1:1.8から2.7の範囲であれば良く、1:1.9から2.6が好ましく、1:2.0から2.5が特に好ましい”ことを明らかに示している。DBUとフッ化水素のモル比が1:1.7の実施例4では、反応速度は速くなるが、副生物のα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類に対する目的物のα,α−ジフルオロエステル類の生成比は低くなる。一方で、DBUとフッ化水素のモル比が1:2.6の実施例8では、副生物に対する目的物の生成比は高くなるが、反応速度は遅くなる。よって、実用的な製造方法の観点から、DBUとフッ化水素のモル比1:2.0から2.5が強く推奨される。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン27.0mL(0.499L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン・1フッ化水素18.6g(108mmol、2.00eq)、トリn−ブチルアミン・3フッ化水素13.3g(54.2mmol、1.00eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール50.0mg(227μmol、0.00420eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:1.7、フッ化物イオン5.00eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類10.0g(54.1mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、40℃で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は72%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は68:5:27であった。
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン5.00mL(0.996L/mol)に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン・1フッ化水素2.60g(15.1mmol、3.01eq)、70%フッ化水素ピリジン138mg[フッ化水素96.6mg(4.83mmol、0.962eq)、ピリジン41.4mg(523μmol、0.104eq)]と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール5.00mg(22.7μmol、0.00452eq)を加え、氷冷下で攪拌した(有機塩基とフッ化水素のモル比1:1.3、フッ化物イオン3.97eq)。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1.00g(5.02mmol、1.00eq)を氷冷下で加え、室温で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は75%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は64:9:27であった。
[比較例1]
ジメチルスルホキシド5.40mL(0.998L/mol)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1.00g(5.41mmol、1.00eq)、フッ化カリウム(スプレードライ品)376mg(6.47mmol、1.20eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール10.0mg(45.4μmol、0.00839eq)を加え、80℃で3時間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は60%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は16:未検出:84であった。
[比較例2]
ジメチルスルホキシド5.40mL(0.998L/mol)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1.00g(5.41mmol、1.00eq)、フッ化カリウム(スプレードライ品)376mg(6.47mmol、1.20eq)、18−クラウン−6 285mg(1.08mmol、0.200eq)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール10.0mg(45.4μmol、0.00839eq)を加え、40℃で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は49%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は12:未検出:88であった。
[比較例3]
ジメチルスルホキシド6.00mL(1.11L/mol)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類1.00g(5.41mmol、1.00eq)とフッ化セシウム984mg(6.48mmol、1.20eq)を加え、60℃で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は89%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比は25:未検出:75であった。
[比較例4]
テトラヒドロフラン1.00mL(1.85L/mol)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類100mg(541μmol、1.00eq)とテトラn−ブチルアンモニウムフルオリドの1.0Mテトラヒドロフラン溶液1.08mL(1.08mmol、2.00eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は100%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比については、副生物のみ検出した(他に2つの大きな不純物を副生した)。
[比較例5]
フッ化水素6.48g(324mmol、20.0eq)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類3.00g(16.2mmol、1.00eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMR分析より変換率は0%であった(反応は全く進行しなかった)。
[比較例6]
フッ化水素203g(10.1mol、10.1eq)に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類185g(1.00mol、1.00eq)と五塩化アンチモン150g(502mmol、0.502eq)を加え、40℃で2時間、60℃で2時間、さらに80℃で2時間攪拌した(内圧を1.00MPa以下に制御した)。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より変換率は50%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α−ブロモ−α,β−不飽和エステル類(不純物)およびα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類の加水分解体(原料基質加水分解体)のガスクロマトグラフィー純度は、それぞれ2.8%、23.3%、9.1%であった。
[比較例7]
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン30.0g(263mmol、1.00eq)に、フッ化水素83.2g(4.16mol、15.8eq)を氷冷下で加え、室温で2時間攪拌した。この均一溶液に、下記式
で示されるα−ハロゲノ−α−フルオロエステル類48.6g(263mmol、1.00eq)を加え、室温で終夜、さらに50℃で2日間攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は4%であり、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類(目的物)、α,α−ジフルオロエステル類の加水分解体(目的物加水分解体)およびα−フルオロ−α,β−不飽和エステル類(副生物)の生成比については、目的物加水分解体が主生成物であった(痕跡量の目的物と副生物を検出した)。本比較例は、ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器を用いて行ったが、著しい腐食が認められた[全ての実施例は、ガラス(グラスライニング)製反応容器を用いて行ったが、腐食は殆ど認められなかった]。比較例7は、特開2001−072608号公報を参考にして同様に製造したが、本発明で対象とする目的物を殆ど得ることができなかった。
[参考例1]
α,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)170Lに、下記式
で示される(R)−2−フルオロプロピオン酸メチル85.0kg(801mol、1.00eq)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)171kg(961mol、1.20eq)と1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)1.17kg(4.79mol、0.006eq)を加え、85から93℃で35時間攪拌した。5時間後、10時間後、15時間後と20時間後に1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)をそれぞれ1.17kg(4.79mol、0.006eq)追加した(使用量合計0.03eq)。反応終了液の変換率は
19F−NMRより92%であった。反応終了液を室温まで降温し、フタル酸ジアリル20.0kg(81.2mol、0.10eq)を加え、酸化性物質を処理した。処理液中のスクシンイミドを濾過し、α,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)30Lで洗浄し、濾洗液を直接、単蒸留(フラッシュ蒸留)することにより、下記式
で示される2−ブロモ−2−フルオロプロピオン酸メチルが含まれるα,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)溶液を341kg得た。α,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)溶液に含まれる2−ブロモ−2−フルオロプロピオン酸メチルの含量は19F−NMR(内部標準法による定量)より115kg(620mol)であった。収率は77%であった。
上記で得られた2−ブロモ−2−フルオロプロピオン酸メチルが含まれるα,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)溶液全量(341kg)を分別蒸留(理論段数30、沸点71℃、減圧度9.1kPa、還流比2:1)することにより、本留を103kg得た。回収率は90%であった。本留のガスクロマトグラフィー純度は99.9%であった。未反応の(R)−2−フルオロプロピオン酸メチルと反応溶媒のα,α,α−トリフルオロトルエン(BTF)は、分別蒸留の初留として混合物の形で収率良く回収でき、必要に応じてモレキュラシーブス等で乾燥した後に、再利用することができる。
2−ブロモ−2−フルオロプロピオン酸メチルの1H−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH3)4Si、重溶媒;CDCl3]、δ ppm;2.27(d、19.6Hz、3H)、3.90(s、3H)。
19F−NMR(基準物質;C6F6、重溶媒;CDCl3)、δ ppm;53.34(q、19.3Hz、1F)。
参考例1の原料基質である(R)−2−フルオロプロピオン酸メチルは、特開2005−236405号公報、特開2007−212495号公報、特開2008−191444号公報等を参考にして同様に製造することができる。当然、光学活性体の代わりにラセミ体も同様に利用することができる。
[参考例2]
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン1.80L(0.870L/mol)に、水素化リチウムアルミニウム45.7g(1.20mol、0.580eq)を加え、氷冷下で攪拌した。この不均一溶液に、下記式
で示されるα,α−ジフルオロエステル類257g(2.07mol、1.00eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量300mL)を氷冷下で加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液の
19F−NMR分析より変換率は100%であった。反応終了液に、水220g(12.2mol、5.89eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量220mL)を氷冷下で加え、60℃まで徐々に昇温し、同温度で3時間攪拌した(懸濁溶液)。この懸濁溶液をセライト濾過し、テトラヒドロフラン300mLで洗浄することにより、下記式
で示されるβ,β−ジフルオロアルコール類を含むテトラヒドロフラン溶液を2.40kg得た。該テトラヒドロフラン溶液の19F−NMRの内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、所望の化合物が1.66mol含まれていた。また、該テトラヒドロフラン溶液のカールフィッシャー分析より水分含量は5.1%であった。
上記で得られたテトラヒドロフラン溶液に、テトラヒドロフラン630mLを加え、常圧蒸留(留出温度〜66℃)することにより共沸脱水を行い、引き続いて回収蒸留(減圧度〜16kPa、留出温度〜64℃)することにより、上記式で示されるβ,β−ジフルオロアルコール類の粗生成物(相当量のテトラヒドロフランを含む)を693g得た。該粗生成物の19F−NMRの内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、所望の化合物が1.59mol含まれており、収率は77%であった。また、該粗生成物のカールフィッシャー分析より水分含量は1.6%であった。
上記で得られた粗生成物を分別蒸留(理論段数30段、減圧度32kPa、留出温度72℃)することにより、上記式で示されるβ,β−ジフルオロアルコール類の精製品を129g得た。回収率は84%であり、トータル収率は65%であった。該精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.9%以上であった。また、該精製品のカールフィッシャー分析より水分含量は950ppmであった。
β,β−ジフルオロアルコール類の1H−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH3)4Si、重溶媒;CDCl3]、δ ppm;1.65(t、3H)、2,45(br、1H)、3.72(t、2H)。
19F−NMR(基準物質;C6F6、重溶媒;CDCl3)、δ ppm;61.97(m、2F)。
この様に、本発明の目的物であるα,α−ジフルオロエステル類は、医農薬中間体として極めて重要なβ,β−ジフルオロアルコール類に変換することができる。