以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態の導電パターンの形成方法においては、まず、図1に示すように絶縁基材1上に第1のインク層2が形成される。
絶縁基材1としては、通常の樹脂基板およびガラス基板などが使用することができる。回路基板を製造する場合には、リジッド基板およびフレキシブル基板のいずれを用いてもよい。リジッド基板の材質は、例えば、ベークライト、フェノール、紙エポキシ、ガラスエポキシ、アルミナ、およびセラミックスなどから選択することができる。フレキシブル基板の材質は、例えばポリイミド、液晶ポリマー、およびポリエステルなどから選択することができる。
ディスプレイなどに使用される場合には、ガラスおよびフレキシブル基板を用いることができる。フレキシブル基板の材質は、例えば、超薄板ガラスや飽和ポリエステル(PET)系樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、架橋フマル酸ジエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスルフォン(PSF,PSU)、ポリアリレート(PAR)、環状ポリオレフィン(COP,COC)、セルロース系樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、マレイミド−オレフィン樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリベンズアゾール系樹脂、エピスルフィド化合物、シアネート系樹脂、および芳香族エーテル系樹脂などから選択することができる。
上述したような絶縁基材は、単層のみならず積層して用いることもできる。この場合には、絶縁基材同士の間に、回路パターンなどの導電層が設けられていてもよい。表面が絶縁性の基材であれば、本明細書において絶縁基材と称する。
太陽電池などに使用されるシリコン基板もまた、絶縁基材1として使用することができる。
第1のインク層2を形成する前に、絶縁基材1は表面処理を施すことが好ましい。表面処理を施すことによって、第1のインクの濡れ性が高められる。その結果、絶縁基材1に対する第1のインクの接触角を小さくすることができる。表面処理の方法は、絶縁基材1の材質等に応じて適宜選択することができる。例えば、ガラス製の絶縁基材の場合には、プラズマ表面処理装置やUVオゾン表面処理装置等によって表面処理を施すことができる。
第1のインク層2は、第1のインクにより形成され、この第1のインクは、絶縁基材1への導電パターンの密着性を確保するためのバインダーを含有する。バインダーとしては、重合反応により硬化させることのできるモノマーを用いることができる。重合により硬化するモノマーは、具体的には、光硬化性のカチオン重合性化合物である。
カチオン重合性化合物は、光照射によって光カチオン重合開始剤から発生する酸の作用によって架橋または重合する。重合後には、熱可塑性樹脂の硬化膜が得られる。ここで、熱可塑性とは、熱により再流動可能となることを意味し、その性質が維持される時間は短時間であってもかまわない。カチオン重合性化合物は、単独で50℃において、100mPa・sec以下程度の流動性を有していることが望ましい。
カチオン重合性化合物としては、例えば、エポキシ基、オキセタン基、およびオキソラン基などの環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物などが挙げられる。上述した置換基は、次のような化合物の側鎖に導入されてもよい。例えば、アクリル化合物、ビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラミン化合物、ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、およびビニルアルコールエステル類などから選択される化合物である。ビニルアルコールエステル類は、ビニルアルコールとアクリルとのエステル化合物、またはビニルエーテルとメタクリルとのエステル化合物である。
カチオン重合性化合物は、脂肪族骨格または脂環式骨格を有することができる。こうした重合性化合物が用いられる場合には、露光時のインクの透明度が高められる。その結果、硬化膜に適切な熱可塑性および再溶解性を付与することができる。しかも、感度、定着性、およびメンテナンス性が向上する。メンテナンス性とは、印刷時のインクジェットヘッド等の印刷装置におけるインク成分揮発などによる不具合の低減を意味する。
特に、脂環式骨格を有するエポキシ化合物がカチオン重合性化合物として用いられる場合には、反応性に加えて、ある程度の高沸点と低粘度とを備えることができる。具体的には、沸点は150℃以上程度となり、粘度は50℃以下の温度で50mPa・sec以下程度となる。
上述した化合物なかでも、オキシラン化合物、オキセタン化合物、およびビニルエーテル化合物が好適である。
オキシラン化合物としては、エポキシ樹脂として通常知られているものであれば使用することができる。具体的には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、および脂肪族エポキシドなどから選択されるエポキシドのモノマー、オリゴマー、およびポリマーが挙げられる。
より具体的には、例えば、ダイセル化学社製のセロキサイド2021、セロキサイド2021A、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、およびセロキサイド3000に例示される脂環式エポキシ;エポキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物であるサイクロマーA200、サイクロマーM100、およびMGMAのようなメチルグリシジル基を有するメタクリレート;低分子エポキシ化合物であるグリシドール、β−メチルエピコロルヒドリン、α−ピネンオキサイド;炭素数12〜14のα−オレフィンモノエポキシド、炭素数16〜18のα−オレフィンモノエポキシド、およびダイマックS−300Kなどのエポキシ化大豆油;ダイマックL−500などのエポキシ化亜麻仁油;エポリードGT301、およびエポリードGT401などの多官能エポキシなどを挙げることができる。
また、次のような化合物を使用することができる。サイラキュア(米国ダウケミカル社製、脂環式エポキシ);水素添加するとともに脂肪族化した低分子フェノール化合物の水酸基末端を、エポキシを有する基で置換した化合物;ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステル、および水添芳香族の多価カルボン酸のグリシジルエステルなどである。さらに、多価脂肪族アルコールおよび脂環アルコールから選択されるアルコールのグリシジルエーテル化合物を用いることもできる。アルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、ネオペンチルアルコール、ヘキサンジオール、およびトリメチロールプロパンなどが挙げられる。
脂環式骨格を有するエポキシ化合物は、反応性に加えてある程度の高い沸点と低い粘度とを有している。このため、第1のインク層2をインクジェット印刷により形成する場合に好適である。
脂環式エポキシ化合物のうち、重量平均分子量の比較的小さくないものは、AMES試験による変異原性が高くない。具体的には、セロキサイド3000などである。重量平均分子量が150以上300以下の脂環式エポキシ化合物であれば、所望の変異原性を維持でき、保存安定性が損なわれることもない。
重合性化合物は、例えばエポキシ化合物のみで構成することができる。この場合、オキシラン化合物の含有量は、第1のインク全体の30重量%以上であることが好ましい。第1のインク全体の30重量%以上がオキシラン化合物の場合には、粘度の上昇や熱可塑性の低下のおそれがない。オキシラン化合物の含有量は、第1のインク全体の40重量%以上であることがより好ましい。
オキシラン化合物とオキセタン化合物とビニルエーテル化合物とによって、カチオン重合性化合物を構成してもよい。オキシラン化合物の含有量は、重合性化合物全体の30重量%以下であることが望ましい。こうした範囲内でオキシラン化合物が含有された重合性化合物が用いられる場合には、基材に対して十分な密着性および耐溶剤性を有する硬化物を形成できる。オキシラン化合物の含有量は、重合性化合物全体の3〜20重量%がより好ましい。
オキセタン化合物としては、オキセタン環を2つ有する化合物、およびオキセタン環を1つ有する化合物などを用いることができる。オキセタン環を2つ有する化合物としては、例えば、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,4−ビス〔(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、1,3−ビス〔(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、4,4'−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ビフェニル、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、およびビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ノルボルナンなどが挙げられる。
オキセタン環を1つ有する化合物としては、例えば、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、およびオキセタニルシルセスキオキサンなどが挙げられる。
また、オキセタン基を側鎖に有するアクリル化合物、およびオキセタン基を側鎖に有するメタクリル化合物なども用いることができる。こうした化合物が含有された場合には、第1インクの粘度の上昇を抑制することができる。しかも、オキセタン化合物の場合と同様にインクの硬化が加速される。
基材に対する密着性のより優れた硬化膜を得るためには、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタンを用いることが好ましい。3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタンが含有された第1のインクを用いることによって、PET、PP、PCなどのプラスチック部材、およびガラスなど各種材質からなる基材に対する密着性が、よりいっそう高い硬化膜を形成することができる。なお、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタンが含有された第1のインクは、ステンレススチール(SUS)、銅、およびアルミニウムなどの多様な金属に対する密着性も高めることができる。
二官能のオキセタン化合物を用いた場合には、硬化物の耐溶剤性がより向上する。オキセタン化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
オキシラン化合物、オキセタン化合物、およびビニルエーテル化合物によって重合性化合物が構成される場合、オキシラン化合物は重合性化合物の総量の30重量%以下を占めることができる。この際、オキセタン化合物の含有量は、重合性化合物の総量の20〜60重量%とすることが好ましい。
重合性化合物中にこうした量でオキシラン化合物およびオキセタン化合物が含有された第1のインクを用いることによって、密着性を損なわず、しかも膜強度がよりいっそう向上した硬化膜を形成することができる。
ビニルエーテル化合物としては、下記一般式(1)で表わされるビニルエーテル化合物が用いられる。
前記一般式(1)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基からなる群から選択される。ただし、少なくとも1つのR11はビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する。R12は、置換または非置換の環式骨格または脂肪族骨格を有するp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。
pが0であって、R12としてシクロヘキサン環骨格が導入される場合には、R12中に酸素原子が含まれることが好ましい。これによって、揮発性を低く抑制することができる。具体的には、シクロヘキサン環骨格に含まれる少なくとも一つの炭素原子は、ケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、または酸素含有置換基を有する構造などであることが望まれる。
脂肪族グリコール誘導体やシクロヘキサンジメタノールなどのメチレン基に結合したビニルエーテル化合物は、通常よく知られている。このようなビニルエーテル化合物の重合反応は、粒子によって顕著に阻害される。しかも、比較的粘度が高いため、このようなビニルエーテル化合物と粒子とを含有したインクを調製することは、これまで困難とされてきた。
前記一般式(1)で表わされるビニルエーテル化合物は、脂環式骨格、環状エーテル化合物、テルペノイド骨格あるいは芳香族骨格に、少なくとも1つのビニルエーテル基が直接結合している。このため、粒子と同時に含有されても硬化性能に優れる。
前記一般式(1)において(p+1)価の有機基R12としては、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含む(p+1)価の基、シクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、および、コレステロール骨格などの橋かけ脂環化合物から誘導される(p+1)価の基などが挙げられる。
上述したようなビニルエーテル化合物の含有量は、カチオン重合性化合物全量の50重量%以下とすることが望ましい。こうした範囲内であれば、形成される硬化膜の熱可塑性を維持することができる。
ビニルエーテル化合物としては、具体的には、シクロヘキサン(ポリ)オール、ノルボルナン(ポリ)オール、トリシクロデカン(ポリ)オール、アダマンタン(ポリ)オール、ベンゼン(ポリ)オール、ナフタレン(ポリ)オール、アントラセン(ポリ)オール、ビフェニル(ポリ)オールなどの脂環ポリオールまたはフェノール誘導体おける水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などが挙げられる。
また、ポリビニルフェノールやフェノールノボラックなどのポリフェノール化合物における水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などをビニルエーテル化合物として用いることもできる。上述したようなビニルエーテル化合物においては、水酸基の一部が残留していてもよい。あるいは、脂環式骨格の一部のメチレン原子がケトン基やラクトン、酸素原子などに酸化あるいは置換されていても問題ない。こうした場合には、揮発性が低下するため望ましいものとなる。
特に、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物は揮発性が高い。このため、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物が用いられる場合は、シクロヘキサン環は少なくともシクロヘキサノン環等に酸化されていることが望まれる。
より好ましいのは、ビニルエーテル構造を含む置換基を有する環状エーテル化合物である。硬化性および安全性の面では、環構成原子として酸素原子を含む5員環とともに、橋かけ構造またはスピロ構造を有する環状エーテル骨格が最も好適である。こうしたビニルエーテル化合物は、相当するアルコール化合物とビニルエーテル源とを出発原料として、触媒を用いてアルコール化合物の水酸基をビニルエーテル基に置換することにより合成することができる。J.Am.Chem.Soc.Vol124,No.8,1590−1591(2002)には、ビニルエーテル源として酢酸ビニルやプロペニルエーテルなどを用い、触媒としては塩化イリジウムを用いることが記載されている。
なお、テルペノイド骨格やノルボルナン骨格のような骨格は、天然に多く存在している。こうした骨格を有するエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物は、コストの面で良好である。
このような環状エーテル化合物の例を以下に示す。環構造を有するビニルエーテル化合物が含有されたインクを用いると、基材に対する塗膜の密着性が低下することはない。しかも、到達硬度の低下も生じない点では、環構造を有するビニルエーテル化合物が有利である。
一方、環構造を有しないビニルエーテル化合物としては、具体的には比較的揮発性の低いポリ(アルキレングリコール)骨格を有するビニルエーテル化合物が、一般によく知られている。具体的には、トリエチレングリコールジビニルエーテルが、安価な化合物としてよく用いられている。
ビニルエーテル構造を含む置換基を有する環状化合物は、カチオン重合性化合物全体の30重量%以上を占めることが好ましい。こうした量で前述の環状化合物が含有される場合には、硬度および溶剤耐性が十分な硬化膜を得ることができる。
ビニルエーテル化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
オキセタン化合物および上述のビニルエーテル化合物の少なくとも一方は、単官能化合物であることが望ましい。単官能化合物が含有されることによって、得られる硬化物の収縮性を制御することができる。適切な含有量で単官能化合物を加えることにより、重合性化合物の硬化過程で生じる収縮が抑えられ、結果的に硬化物の密着性が高められる。
単官能化合物の含有量は、カチオン重合性化合物総量の20〜70重量%を占めることが好ましい。こうした範囲内で単官能化合物が含有された重合性化合物を含むインクを用いる場合には、基材に対する密着性とともに硬度も十分な硬化物を形成することができる。単官能化合物は、カチオン重合性化合物の総量の30〜50重量%を占めることがより好ましい。
例えば、単官能オキセタン化合物20〜40重量%、二官能のオキセタン化合物10〜30重量%、オキシラン化合物3〜20重量%、ビニルエーテル化合物30〜50重量%という処方で配合された重合性化合物が好ましい。かかる重合性化合物を含有する第1のインクを用いることによって、強度および耐溶剤性がよりいっそう優れた硬化膜を形成することができる。
二官能のオキセタン化合物がカチオン重合性化合物に含有される場合には、硬化膜の架橋度が増すことから、耐溶剤性が非常に高められる。カチオン重合性化合物の18重量%以上が二官能のオキセタン化合物であって、30重量%以下が単官能のオキセタン化合物の含有量が30重量%以下の場合には、次のような特性が得られる。具体的には、光照射後の加熱が120℃以下で行なわれると、この加熱直後には密着性は発現せず、数日放置することによって密着性が発現する。後述する第2のインクを硬化膜上に塗布した後に、この硬化膜の密着性が発現する。しかも、硬化収縮による応力が緩和されるので、硬化膜の反りや変形が抑えられる。
上述したような重合性化合物は、常温で流動性を有していれば任意のものを用いることができる。適切な粘度は、第1のインクの塗布に適用する印刷法に応じて、適宜選択すればよい。スクリーン印刷などでは0.1Pa・sec〜500Pa・secの粘度範囲が使用され、インクジェット印刷などでは1mPa・sec〜50mPa・secの粘度で使用される。インクの粘度は、例えばコーンプレート型の粘度計などを用いて測定することができる。
なお、第1のインクには、汎用の熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリ−1,2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、ポリ−1,3−ブタジエン)などの(ジ)エン類のポリマー、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテルなどのポリエーテル類、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネートなどのポリビニルエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、ポリスルフィド、およびフェノキシ樹脂などが挙げられる。
また、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ−t−ブチルアクリレート、ポリ−3−エトキシプロピルアクリレート)、およびポリメチルアクリレートなどのポリアクリル酸エステル;ポリオキシカルボニルテトラメタクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリドデシルメタクリレート、ポリテトラデシルメタクリレート、ポリ−n−プロピルメタクリレート、ポリ−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ−2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート、ポリ−1,1−ジエチルプロピルメタクリレート、およびポリメチルメタクリレートなどのポリメタクリル酸エステルなどを用いてもよい。
さらには、熱可塑性ポリエステル樹脂および熱可塑性ポリアミド樹脂などを用いることもできる。
第1のインクには、重合開始剤として光酸発生剤が含有される。光酸発生剤は、例えば、下記化学式(2)で表わされるスルホニウム塩、下記化学式(3)で表わされるスルホニウム塩、および下記化学式(4)で表わされるヨードニウム塩から選択することができる。
上記化学式に示されるように、スルフォニウムカチオンまたはヨードニウムカチオンがアニオンと対イオンを形成してなるオニウム塩が、光酸発生剤として用いられる。さらに、ホスホニウムカチオンがアニオンと対イオンを形成してなるオニウム塩もまた、光酸発生剤として用いることができる。ヨードニウム塩としては、下記一般式(5)で表わされるジアリールヨードニウム塩を用いてもよい。
(上記一般式(5)中、R7およびR8は、水素原子または炭素数1〜20の置換基である。ただし、少なくとも一方は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、または炭素数3〜20の分岐アルキル基である。)
対イオンとしてのアニオンは、フルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、パラトルエンスルホネートアニオン、パラニトロトルエンスルホネートアニオン、ハロゲン系アニオン、スルホン酸系アニオン、カルボン酸系アニオン、および硫酸アニオンからなる群から選択することができる。
さらに、例えば、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などの光酸発生剤を、光カチオン重合開始剤として使用することができる。
市販のオニウム塩化合物としては、例えば、みどり化学社製の以下のものが挙げられる。MPI−103(CAS.NO.[87709−41−9])、BDS−105(CAS.NO.[145612−66−4])、MDS−203(CAS.NO.[127855−15−5])、Pyrogallol tritosylate(CAS.NO.[20032−64−8])、DTS−102(CAS.NO.[75482−18−7])、DTS−103(CAS.NO.[71449−78−0])、MDS−103(CAS.NO.[127279−74−7])、MDS−105(CAS.NO.[116808−67−4])、MDS−205(CAS.NO.[81416−37−7])、BMS−105(CAS.NO.[149934−68−9])、TMS−105(CAS.NO.[127820−38−6])、NB−101(CAS.NO.[20444−09−1])、NB−201(CAS.NO.[4450−68−4])、DNB−101(CAS.NO.[114719−51−6])、DNB−102(CAS.NO.[131509−55−2])、DNB−103(CAS.NO.[132898−35−2])、DNB−104(CAS.NO.[132898−36−3])、DNB−105(CAS.NO.[132898−37−4])、DAM−101(CAS.NO.[1886−74−4])、DAM−102(CAS.NO.[28343−24−0])、DAM−103(CAS.NO.[14159−45−6])、DAM−104(CAS.NO.[130290−80−1]、CAS.NO.[130290−82−3])、DAM−201(CAS.NO.[28322−50−1])、CMS−105、DAM−301(CAS.No.[138529−81−4])、およびEPI−105(CAS.No.[135133−12−9])などである
また、Lamberti社製のESACURE1064およびESACURE1187、サンアプロ社製のCPI−100P(CAS.No.[68156−13−8])、チバガイギー社製のIRGACURE250などが挙げられる。
さらに、和光純薬社製のWPI−054(CAS.No.[524678−29−3])、WPI−113(CAS.No.[477602−76−9])、WPI−116(CAS.No.[71786−70−4])、およびWPI−170(CAS.No.[61358−25−6])などが挙げられる。
上述したオニウム塩のなかでも、スルホニウム塩やヨードニウム塩は、安定性に優れている。しかしながら、その製造過程に起因して、通常、不可避に一価の塩(一価のカチオンと1個のアニオンとの塩)と、二価以上の塩(例えば二価のカチオンと2個のアニオンとの塩)との混合物が含まれる。混合物中における二価以上の多価の塩の含有量は、75モル%程度に及ぶ。一般的には、市販品もこうした混合物の状態であり、特にスルホニウム塩では、この傾向が顕著である。多価の塩がインク中に含有されると、感光波長が長波長側にシフトして、一般に高感度となることが知られている。こうした利点を確保するために、二価以上の塩が意図的に混入される場合もある。例えば、Lamberti社ESACURE−1064等などの市販品がそれらに該当する。
多価の塩は、インク中に存在する粒子等の凝集安定性に大きく影響を及ぼす。インク中に粒子等が含有される場合には、粒子を分散させるために分散剤が用いられるのが一般的である。多価の塩は、粒子と分散剤との間に弱い結合を生じさせて、ゲルまたは凝集体の発生を引き起こすといった欠点も有する。第1のインクが、後述するような充填剤を含有する場合には通常、これら多価の塩の存在を極力抑えることが、充填剤の分散安定性の向上に繋がる。
多価のオニウム塩の含有率は、通常、全オニウム塩総量の20重量%以下であることが望ましい。多価のオニウム塩の含有率は、より好ましくは5重量%以下であり、含まれないことが最も好ましい。
オニウム塩化合物の中でも、アリールスルフォニウムのフルオロフォスフェート塩、あるいはアリールヨードニウムのフルオロフォスフェート塩が特に望ましい。これらは、粒子等の凝集を抑制する効果が大きく、分散安定性に格段に優れている。また、一価のオニウム塩であっても、分散剤が不足した場合には、分散剤である末端アミン樹脂を経時的に徐々に置換する。そのため、オニウム塩の構造は、粒子等の表面と分散剤末端との結合部位に極力近づきにくいことが望ましい。比較的大きな置換基が構造内に含まれるオニウム塩であれば、これが可能となる。比較的大きな置換基としては、例えばベンゼン環が挙げられる。
ベンゼン環が炭素数20以下の有機基を有する場合には、立体障害によって粒子等の表面へのイオン吸着がよりいっそう低減される。ベンゼン環の50モル%以上が、炭素数4〜20の有機基を有することがより好ましい。この場合には、光反応時の空気中への分解物の飛散が抑制されるために安全性が高められる。しかも、かかるオニウム塩は、カチオン重合性化合物に対する溶解性が高いことから、第1のインク中における塩の析出も抑えられる。
一価のオニウム塩が用いられると、その感光波長が短波長側にシフトするため、感度が低下する傾向がある。VI元素を複素環内に有する芳香族置換基、またはVI元素を連結基として有する芳香族置換基が構造内に含まれる場合には、こうした不都合を回避することができる。VI元素としては、具体的には硫黄および酸素が挙げられる。
さらに、下記一般式(6)または(7)に示されるように、比較的大きな有機基が含まれるオニウム塩は、溶解安定性が高く、分散安定性も良好である。
ここで、A-はフルオロフォスフェートアニオンであり、R1、R2、およびR3は水素原子を含む炭素数1〜20の有機基であり、R4は二価の芳香族置換基またはVI原子を構造内に含む二価の芳香族置換基である。R1、R2、およびR3の少なくとも一つは、水素原子、または炭素数1〜20の直鎖アルキル基、または炭素数3〜20の分岐アルキル基である。R1、R2、およびR3の少なくとも一つは、炭素数1〜14の直鎖アルキル基、または炭素数3〜5の分岐アルキル基であることが好ましい。
R1、R2、およびR3として導入されうる炭素数1〜20の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデカニル基などのアルキル基;メチルオキシ基,エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、およびデカニルオキシ基などの炭素数〜20のアルキルオキシ基;エチレングリコールが脱水縮合したポリエチレンオキシド骨格を有する炭素数3〜20の置換基等が挙げられる。R1〜R3の少なくとも一つは、炭素数1〜14の直鎖アルキル基、または炭素数3〜5の分岐アルキル基を有する。
R4として導入され得る二価の芳香族置換基としては、例えば、フェニレンやビフェニレンなどフェニレンを有する基;フェニレンサルファイド、フェニレンジサルファイドなどのフェニレンサルファイド骨格を有する基;ベンゾチオフェニレン、チオフェニレンおよびビチオフェニレン基などチオフェン骨格を有する基;フラニレン、ベンゾフラニレンなどのフラン骨格を有する基等が挙げられる。
第1のインクにおいて、光酸発生剤の含有量は、その酸発生効率や添加する粒子の量などに応じて設定することができる。一実施形態においては、光酸発生剤の含有量は、カチオン重合性化合物の0.5〜10重量%が好ましい。こうした範囲内で光酸発生剤が含有されていれば、適切な感度を確保することができる。しかも、インクの経時的劣化、経時的増粘が引き起こされることもない。
光酸発生剤の含有量が少ないほどベンゼンの発生量が少なくなるため、光酸発生剤の含有量はできるだけ少ないことが望ましい。また、光酸発生剤の種類によっても、が入寮の最適範囲は異なる。ESACURE1187を用いる場合には含有量は、カチオン重合性化合物の1〜7重量%が好ましく、3〜5重量%がさらに好ましい。
光酸発生剤とともに光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、例えば、アクリジン化合物、ベンゾフラビン類、ペリレン類、アントラセン類、チオキサントン化合物類、およびレーザ色素類などを挙げることができる。なかでも、ジヒドロキシアントラセンの水素原子を有機基で置換した化合物やチオキサントン誘導体などは、効果が高いことから望ましい。
アントラセン化合物としては、例えば下記一般式(8)で表わされるアントラセンジエーテル化合物が挙げられる。
Rは一価の有機基であり、例えばアルキル基、アリール基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、およびビニル基などが挙げられる。
アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、およびi−ペンチル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、およびp−トリル基などが挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−メチル−2−ヒドロキシエチル基、および2−エチル−2−ヒドロキシエチル基などが挙げられる。また、アルコキシアルキル基としては、例えば2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、2−エトキシエチル基、および3−エトキシプロピル基などが挙げられる。
さらに、アリル基、または2−メチルアリル基などをRとして導入してもよい。このような化合物は、例えば(J.Am.Chem.Soc.,Vol.124,No.8(2002)1590)に示される方法で合成することができる。
前記一般式(8)におけるRO基は、酸により重合する基であることが好ましい。こうしたRO基としては、例えば、ビニルエーテル基、プロペニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、およびオキソラン基などが挙げられる。こうした置換基がRO基として導入されている場合、重合開始剤による重合反応時に光増感剤も重合に関与する。その結果、この光増感剤自体も重合反応生成物に組み込まれることになる。
RO基が、酸または熱により解離してOH基を生じる基の場合も、同様に重合開始剤による重合反応時に関与して、重合反応生成物に組み込まれることになる。こうしたRO基としては、例えばtert-ブチル基、tert-ブトキシカルボニル基、アセタール基およびシリコーン含有基などが挙げられる。
すなわち、一般式(8)におけるR基自体が重合した場合、光増感剤は重合生成物の一部となる。あるいは、光増感剤中に酸または熱により生成されたOH基が光カチオン重合性化合物と結合した場合も同様に、光増感剤は重合生成物の一部となる。これによって、重合反応の重合度をより進めることが可能であり、最終的な硬化性能(硬度)を向上させることが可能となるので、こうした第1のインクを用いることによって、得られる硬化膜の耐久性も向上させることができる。
前記一般式(8)におけるR5およびR6は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルキルスルホニル基およびアルコキシ基からなる群から選択される。R5およびR6として水素原子が導入される場合には、簡便に合成することができる。
前記一般式(8)で表わされる化合物としては、具体的には、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン(、2,3−ジエチル−9,10−ジエトキシアントラセン)のようなジアルコキシアントラセンや、9,10−ジフェノキシアントラセン、9,10−ジアリルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−メチルアリルオキシ)アントラセン、9,10−ジビニルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、および9,10−ジ(2−メトキシエトキシ)アントラセンなどが挙げられる。
いずれの化合物も十分な効果を発揮するが、化合物自体またはその合成原料の入手コストや、化合物の安全性を考慮すると、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、および9,10−ジビニルオキシアントラセンが特に好ましい。
第1のインクは、さらに充填剤を含有することができる。第1のインク層が硬化可能であり、また第2のインクの焼成時に形状が保たれるものであれば、充填剤の材質は特に限定されない。充填剤の材質は、例えば、金属、金属化合物、ガラス、セラミックス、および樹脂などから選択することができる。
充填剤が第1のインク中に含有されることにより、次のような点で有利となる。第1のインク層を硬化させてなる硬化膜の上には、粒子を含有する第2のインク層を積層し、第2のインク層の焼成が行なわれる。硬化膜は、この焼成によって軟化するが、充填剤が含有されていれば必要以上に軟化することがない。硬化膜が熱可塑化された際、第2のインク層中の粒子が必要以上に硬化膜中に沈みこむことも避けられる。これによって、導電性が低下するのを防ぐことができる。
第1のインクに含有される充填剤は、例えば、導電性の粒子または焼結によって導電性を発現する粒子とすることができる。この場合には、第1のインク層に導電性を付与することができる。具体的には、充填剤の材質は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属錯体、および炭素から選択することができる。金属としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、またはこれらの合金などが挙げられる。
なお、こうした導電性の粒子または焼結によって導電性を発現する粒子が充填剤として用いられる場合には、第1のインク層はパターン化される必要がある。このパターン化については後述する。
充填剤形状は特に限定されないが、例えば、球形や不定形の粒子を用いることができる。導電性を高めるためには、ナノロッド状、針状、フレーク(扁平)状などの形状の粒子が効果的である。ここで、ナノロッド状とは、アスペクト比(ロッド長/ロッド径)が1.0より大きく20以下の棒状であることをさす。
第1のインク層を硬化させてなる硬化膜の上には第2のインク層が形成され、この第2のインク層には、所定の粒子が含有される。第2のインク層中の粒子は、条件によっては下層の第1のインクの硬化膜中に沈み込むことがある。粒子が沈み込んでしまうと、所望の導電性を確保することができない。第1のインクに含有される充填剤の平均粒子径が500nm以下であれば、第2のインク層中の粒子の沈み込みを十分に低減することができる。
第1のインク層をインクジェット法により形成する場合には、含有される充填剤の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。平均粒子径が300nm以下の粒子が含有されたインクであれば、プリンターヘッドのノズルから良好に吐出することができる。インクジェットインクとする場合には、充填剤の平均粒子径は200nm以下がより好ましく、180nm以下が特に好ましい。
充填剤の粒子径は、例えば以下のような手法により求めることができる。まず、インク試料を500倍程度に溶媒に希釈し、この希釈した試料について動的光散乱法による粒子径測定を行ない、キュムラント解析によりキュムラント平均粒子径を算出する。こうして得られた値を、充填剤の平均粒子径とする。なお、平均粒子径の値は通常体積平均の値を用いるが、動的光散乱法によるz値(強度平均)を用いてもよい。このような測定は、例えばMalvern社製Zetasizerなどを用いて行なうことができる。
第1のインクは、常温で流動性を有することが望まれる。第1のインクの粘度は、印刷方法に応じて適宜選択することができる。第1のインクの粘度は、一般的には含有されるカチオン重合性化合物の粘度に相当する。すでに説明したように、スクリーン印刷が適用される場合には、第1のインクの粘度は0.1Pa・sec〜500Pa・secであることが好ましい。インクジェット印刷が適用される場合には、第1のインクの粘度は、1mPa・sec〜50mPa・secの範囲内であることが好ましい。インクの粘度は、例えばコーンプレート型の粘度計で測定することができる。
所定の範囲の粘度が確保できれば、第1のインクに含有される充填剤の濃度は特に限定されない。カチオン重合性化合物の光重合を行なう場合には、充填剤の濃度は25重量%以下とすることが望まれる。こうした濃度であれば、光の透過が妨げられることはないので、カチオン重合性化合物の重合反応を十分に進行させて、硬化させることができる。また、第1のインク層の膜厚は薄いほうが望ましいが、100nm以上10μm以下であれば所望の効果が得られる。
第1のインクの印刷方法は特に限定されず、任意の塗布装置を用いて絶縁基材上に塗布することができる。塗布装置は、例えば、スクリーン印刷機、インクジェットプリンタ、ディスペンサ、スピンコーター、ディップコーティング装置、フレキソ印刷機、およびグラビア印刷機等から選択することができる。
充填剤として絶縁粒子が含有される場合には、第1のインク層は必ずしもパターニングされている必要はない。絶縁基材全体に塗布してもよいが、インクの使用量を削減することができる点では、パターニングが有利である。一方、導電性の粒子または焼結によって導電性を発現する粒子が充填剤として第1のインクに含有される場合には、第1のインク層はパターン化される。
第1のインク層のパターン形状は、第2のインク層のパターンと同様の形状とすることができる。第1のインク層のパターン幅は、第2のインクのパターン幅よりも大きければ特に限定されない。パターン状に印刷することによって、第1のインクの使用量を削減することができる。また、第1のインクのパターニングにより第2のインクのパターニングをしやすくすることも可能であるが、これについては後述する。
第1のインク層に光を照射して、カチオン重合性化合物を重合させることにより、熱可塑性樹脂の硬化膜が得られる。紫外線を照射可能であれば、任意の光源を用いることができる。光源は、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、および紫外線LEDなどから選択することができる。照射照度が大きい点で、メタルハライドランプが最も望ましい。
光照射にあたっては、通常、積算光量としては150〜300mJ/cm2、ピーク照度では1500〜3000mW/cm2程度で感光させることが望ましいが、これに限定されない。積算光量およびピーク照度といった光照射の条件は、第1のインクの組成や膜厚等に応じて適宜選択すればよい。
光重合により硬化させることによって、第1のインク層は熱可塑性樹脂の硬化膜となる。図2に示すように、絶縁基材1上に形成された硬化膜3の上には、第2のインク層4を形成する。
第2のインク層4は、第2のインクにより形成される。この第2のインクは、導電性の粒子または焼結により導電性を発現する粒子と、この粒子を溶媒中に分散するための分散剤と、分散媒とを含有する。第2のインクに含有される粒子の材質は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属錯体、および炭素から選択することができる。
金属としては、期律表の第4周期、第5周期、および第6周期からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましい。このうち第2〜14族から選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、および第14族から選ばれる少なくとも1種の金属がさらに好ましい。
具体的には、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、およびこれらの合金からなる群から選択される材料が挙げられる。これらの中でも、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウムが好ましい。またこれらを組み合わせて用いてもよく、合金として用いてもよい。
金属酸化物としては、チタン、銅、ニッケル、亜鉛、錫、インジウムまたはこれらの組合せの酸化物が好ましい。金属窒化物としては、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびバナジウムからなる群から選択される金属の窒化物が好ましい。金属炭化物としては、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、コバルト、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、マンガン、および鉄からなる群から選択される金属の炭化物が好ましい。
金属錯体としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウムまたはこれらの合金の錯体が用いられる。
粒子の形状は特に限定されず、球形や不定形のいずれの形状であってもよい。得られるパターンの導電性を高めるためには、ナノロッド状、針状、またはフレーク(扁平)状といった形状の粒子を用いることが好ましい。こうした形状の粒子では、粒子同士の接触面積が増加するためである。
第2のインクに含有される粒子の平均粒子径は、100nm以下であることが望ましい。粒子の平均粒子径は、第1のインクに含有される充填剤の場合と同様の手法により求めることができる。平均粒子径が100nm以下の粒子が含有された第2のインクは、適切な温度で焼成することができる。粒子の平均粒子径が60nm以下と小さい場合には、焼成温度を十分低くすることができる。
しかしながら、第2のインクに含有される粒子の平均粒子径が小さすぎると、金属の酸化や粒子の凝集が起きやすくなる。より多くの保護分散剤を配合することによって、こうした不都合を防止できるものの、その場合には焼成温度が上昇してしまう。適切な温度範囲で焼成するために、第2のインクに含有される粒子の平均粒子径は、5nm以上であることが望まれる。特に銅などの酸化しやすい金属の場合には、その平均粒子径は20nm以上であることが好ましい。
第2のインクに含有される粒子として、上述した平均粒子径の粒子とともに、より大粒径の粒子を用いてもよい。大粒径の粒子の粒径は特に限定されないが、平均粒子径は5μm以下であることが望まれる。平均粒子径が5μmまでの粒子であれば、インク中に良好に分散させることができる。
ただし、第2のインクをインクジェット法により印刷する場合には、大粒径の粒子の平均粒子径は300nm以下とすることが望まれる。第1のインクの場合と同様、平均粒子径が300nm以下の粒子が含有されたインクであれば、プリンターヘッドのノズルから良好に吐出することができる。インクジェットインクとする場合には、第2のインクに含有される粒子の平均粒子径は200nm以下がより好ましく、180nm以下が特に好ましい。
第2のインクは、上述した粒子を分散剤とともに分散媒に分散させて調製することができる。上述の粒子を分散できるとともに印刷可能であれば、分散媒は特に限定されない。印刷後に除去可能であり、得られるパターン層の導電性に影響を与えない任意の分散媒を用いることができる。
例えば、加熱により揮発可能な有機溶剤や水などが使用できる。有機溶剤は、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、飽和炭化水素類、非極性有機溶剤、および低極性有機溶剤などからなる群から選択することができる。
アルコール系溶媒としては、例えば、モノアルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、および多価アルコール部分エーテル系溶媒などを用いることができる。
モノアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール、2−メチルブタノール、2−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、1−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、2−ヘキサノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、1−ノナノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、1−デカノール、シクロヘキサノール、グリシドール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、およびジアセトンアルコールなどが挙げられる。
多価アルコール系溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、へキシレングリコール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、およびグリセロールなどが挙げられる。
多価アルコール部分エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、およびジプロピレングリコールモノプロピルエーテルなどが挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノンなどのほか、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、3,5−オクタンジオン、2,4−ノナンジオン、3,5−ノナンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、および1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ヘプタンジオンなどのβ−ジケトン類などが挙げられる。
アミド系溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルモルホリン、N−アセチルピペリジン、およびN−アセチルピロリジンなどが挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、ジエチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、および乳酸n−ブチルなどが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、およびジエチレングリコールジプロピルエーテルなどが挙げられる。
飽和炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、およびヘキサデカン等が挙げられる。
非極性有機溶剤あるいは低極性有機溶剤としては、例えばキシレン、トルエン、エチルベンゼン、メシチレン、シクロヘキサン、およびシクロオクタン等が挙げられる。
上述した分散媒は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第2のインクをインクジェット法により印刷する場合には、プリンターヘッドのノズルから良好に吐出するために、第2のインクに用いる分散媒は、揮発性が低く室温の常圧下で気化しにくいことが望まれる。上述したアルコール類のなかでも、エタノール、1−プロパンオール、1−ブタノール、1−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、およびジアセトンアルコールが好ましい。
なお、グリコール類の多くは、粘度の高い化合物である。インクジェット吐出できる粘度に調整するためには、比較的粘度の低いものを用いることが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、およびジプロピレングリコールなどが挙げられる。
上述したような分散媒に粒子を分散するための分散剤としては、高分子分散剤または界面活性剤を用いることができる。高分子分散剤は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子化合物;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子化合物;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、およびゼラチンからなる群から選択することができる。前述の高分子化合物の共重合体を使用することもできる。分散剤は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
水溶性分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(分子量:1000〜500000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100000)、カルボキシメチルセルロース(アルカリセルロースのヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1000〜100000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6000000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50000〜900000)、ゼラチン(平均分子量:61000〜67000)、および水溶性のデンプン等が挙げられる。なお、かっこ内の数値は、水溶性の場合の高分子化合物の数平均分子量を示している。これらの範囲で分散剤として好適に使用できる。
市販の高分子分散剤としては例えば、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(ルーブリゾール社製);ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190(ビックケミー社製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、およびフローレンTG−720W(共栄社化学社製)等を挙げることができる。
界面活性剤としては、例えば、アミノ基−NH2、カルボキシル基−COOH、スルホ基−SO3H、またはホスホノ基−PO(OH)2を有する任意の界面活性剤を用いることができる。
分散剤の含有量は、その種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、高分子分散剤の場合には、粒子の1〜20重量%が好ましく、3〜10重量%がより好ましい。界面活性剤の場合には、粒子:界面活性剤のモル比が1:0.8〜1:50の範囲であることが好ましい。粒子:界面活性剤は、1:1〜1:20のモル比の範囲であることがより好ましい。
第2のインクは、常温で流動性を有することが望まれる。第2のインクの粘度は、印刷方法に応じて適宜選択することができる。例えば、スクリーン印刷が適用される場合には、第2のインクの粘度は0.1Pa・sec〜500Pa・secであることが好ましい。インクジェット印刷が適用される場合には、第2のインクの粘度は、1mPa・sec〜50mPa・secの範囲内であることが好ましい。インクの粘度は、例えばコーンプレート型の粘度計で測定することができる。
所定の範囲の粘度および導電性が確保できれば、第2のインクに含有される粒子の含有量は特に限定されない。導電性粒子または焼結により導電性を発現する粒子は、第2のインク全量の10〜80重量%を占めていれば、所望の導電性を発現できるとともに粒子が沈降することもない。粒子の含有量は、第2のインク全体の20〜70重量%がより好ましい。
第2のインクの塗膜の膜厚は、所望の導電性などの特性が発現できればよく、特に限定されない。少なくとも1μm以上の膜厚で形成されれば、十分な導電性を得ることができる。一方、十分な焼成を行なうために、第2のインクの層の膜厚は50μm以下であることが望まれる。より大きな膜厚が必要な場合には、第2のインク層を積層することも可能である。
第2のインクの印刷方法は、パターン印刷可能な方法であれば特に限定されず、任意の塗布装置を用いて第1のインク層の上に印刷することができる。塗布装置は、例えばスクリーン印刷機、インクジェットプリンタ、ディスペンサ、フレキソ印刷機、グラビア印刷機、およびマイクロコンタクト印刷機等から選択することができる。
なかでも、インクジェット印刷方式は、版を使わずにパターンを印刷することができるため好ましい。また、非接触での印刷であるため基材にダメージを与えない。しかも、基材の凹凸に対応できる点でも有利である。
第2のインク層は、第1のインクを硬化させてなる硬化膜の上に印刷によって形成される。この第2のインク層が形成される際、第1のインク層においては、光照射によりカチオン重合性化合物が重合して熱可塑性樹脂が得られている。第2のインクは、熱可塑性樹脂の硬化膜の上に印刷されるので、第1のインクと第2インクとは混ざり合うことはない。ただし、第1のインクは必ずしも完全硬化しているわけではない。
カチオン重合性化合物を含有するインクは、硬化速度が遅いという特徴を有している。光照射の後のインク層は、加熱を行なうと完全に硬化する。光照射のみの場合には、光照射直後のインク層は十分に硬化していない。その後、徐々に硬化が進行して完全に硬化する傾向がある。
完全硬化していない状態で第2のインクを積層することによって、第1のインク層と第2のインク層との密着性がよりいっそう高められる。完全硬化させてから第2のインクを積層しても、後工程として加熱処理を施して第1のインクを可塑化することにより、十分な密着性を得ることができる。
上述したように本実施形態においては、第2のインクは、第1のインクの硬化塗膜上に印刷される。この際の第2のインクは、基材表面には接しないように第1のインク層の上に配置される。第1のインク層がパターニングされて硬化膜パターンの上に第2のインク層が形成される場合には、第2のインク層は、この硬化膜パターンの端からはみ出ないように印刷される。第2のインクの接触角を調整することによって、これを達成することができる。
第2のインクは、基材に対する密着性が十分ではない。このため、第2のインクが下層の硬化膜からはみ出て、基材表面に直接接して印刷されると、この部分から印刷されたパターンが剥離してしまう。第1のインク層をパターン状に印刷して硬化膜パターンが形成された場合には、この硬化膜パターンの端からはみ出ないように、第2のインク層を形成することが望まれる。パターン端をはみ出して第2のインクが印刷されると、パターンからはみ出た部分で回路の短絡が生じるおそれがある。
第2のインク層が下層の硬化膜からはみ出ず、この硬化膜の上にパターニングされて印刷されるためには、硬化膜に対する第2のインクの接触角が十分大きくなければならない。一方、第1のインク層は必要最小限の膜厚で、基材に対して十分に大きな密着性を呈する必要がある。このため、第1のインクは、基材に対する接触角が十分小さくなければならない。第1のインクの基材に対する接触角が、第2のインクの硬化膜に対する接触角より小さければ、これが可能となる。
具体的には、第1のインクの基材に対する接触角は70°以下であることが望ましい。接触角が70°以下であれば、第1のインク層の硬化膜と基材との密着性は十分に大きいものとなる。実際には、基材に対する第1のインクの接触角は、硬化膜に対する第2のインクの接触角より小さくなければならない。このため、基材の材質やインクの成分等によって、適切な接触角の範囲が異なる。
例えば、水系分散媒を含む第2のインクは、接触角が比較的大きいため、第1のインクの基材に対する接触角は65°以下であればよい。第2のインクがキシレンなどの炭化水素系有機溶剤を含む場合には、接触角は比較的小さいため、第1のインクの基材に対する接触角は35°以下であることが望まれる。
また、第1のインクの基材に対する接触角は10°以上であることが望ましい。第1のインクの接触角が10°以上であれば、塗布後の液の流動を抑制して微細パターンを形成することができる。より精細なパターンを印刷するためには、第1のインクの基材に対する接触角は20°以上であることがより望ましい。
第1のインクを硬化させてなる硬化膜に対する第2のインクの接触角が大きいほど、第2のインク層の膜厚を大きくすることができる。含有される分散媒の種類によって、第2のインクの接触角は異なる。水系分散媒が含有される場合には、硬化膜に対する第2の接触角は70°以上であることが望ましい。一方、炭化水素系有機溶剤が含有される場合には、硬化膜に対する第2のインクの接触角は35°より大きいことが望ましい。
所定の大きさの接触角を有していれば、塗布後のインクの流動が抑制され、精細なパターニングを行なうことができる。また、十分な膜厚のパターンを印字することが可能となり、導電性の十分な回路が得られる。
インクの接触角は、JIS規格(JIS R3257)に準拠した方法で測定することができる。まず、シリンジを用いて、基材または下地塗膜にインク液滴を接触させる。1秒後、例えば協和界面科学社製接触角計(DM−301)を用いて、基材または下地塗膜に対する接触角を測定する。
例えば、基材材料の選択、およびインク組成の調節などによって、第1のインクおよび第2のインクのそれぞれの接触角を所定の範囲に調整することができる。基材に関しては、基材材料の選択のほか、基材表面への処理剤の塗布やUV洗浄、プラズマ洗浄などの洗浄による親水処理または疎水処理などが挙げられる。インク組成に関しては、分散媒の選択、界面活性剤の添加、界面活性剤の種類や添加量の調整などが挙げられる。
接触角を調整することによって、絶縁基材と第1のインクの硬化膜との密着性は十分に大きなものとなり、この硬化膜は、第2のインクの下地として使用可能となる。基材に対する第1のインクの接触角が上述の範囲より大きい場合には、第1のインク層をパターニングした際に不都合が生じる。すなわち、大きな接触角に起因して第1のインク層の表面が平坦ではなく凸状となり、得られる硬化膜パターンの表面が凸面を有することになる。こうした凸面の上に、硬化膜の端からはみ出さずに第2のインク層を載置することは、通常容易ではない。
同様に、硬化膜に対する第2のインクの接触角が上述の範囲より小さいと、硬化膜塗膜上に第2のインクを塗布したときに、硬化膜パターンの端からはみ出さずに第2のインクを載置することが困難となる。よって、上述したように接触角を調整することによって、第2のインクを硬化膜の上に積層することが可能となる。
第2のインクを印刷して第2のインク層を硬化膜上に形成した後、第2のインク層の焼成が行なわれる。第2のインク層を焼成することによって、このインク中に含有される粒子が焼結され、十分な導電性を付与することができる。第2のインク層の焼成方法は特に限定されず、例えばオーブンによる加熱を行なう方法が一般的である。
真空中、窒素などの不活性ガス雰囲気中、水素、ギ酸などの還元ガス雰囲気中で加熱して、第2のインク層を焼成することができる。また、マイクロ波加熱による方法、プラズマを用いる方法、ホットワイヤ法などによる水素ラジカルでの還元処理、レーザー照射加熱、またはフラッシュランプ照射などの方法により第2のインク層の焼成を行なってもよい。
絶縁基材が可撓性を有する場合には、フラッシュランプ照射やレーザー照射といった方法により第2のインク層を焼成することが好ましい。可撓性を有するフレキシブル基板の材質は、通常熱に弱い。したがって、ヒーターによる加熱は避けることが望まれる。フラッシュランプ照射は、インク層表面を高速に加熱して、基材はほとんど温度上昇させずに処理することができる。しかも、基材表面の全域にわたって同時に照射することができるため好ましい。
ヒーターにより加熱して第2のインク層を焼成する場合には、基材だけでなく第1のインクの硬化膜も、この焼成中の温度に対する耐熱性を維持できることが要求される。第2のインク層の焼成によって基材全体の温度が上昇してしまう場合も、同様に基材に耐熱性が求められる。
第1のインクの硬化膜に対する第2のインク層の密着性を得るためには、第2のインクを印刷後、熱処理を施して第1のインクの硬化膜を可塑化することが効果的である。熱処理は、上述した第2のインク層の焼成とは別途行なうことができ、焼成の後および前のいずれに行なってもよい。通常は、第2のインク層を焼成すると、この第2のインク層に接する第1のインク層の温度が上昇する。このため、第1のインクの硬化膜の可塑化も同時に行なうのが効率的である。この際の加熱温度は、第1のインクの硬化膜が熱可塑化する温度に達する必要がある。具体的な温度は、第1のインク層の材質や焼成方法等に応じて適宜選択すればよい。
特に、フラッシュランプ照射やレーザー照射など基材の温度の上がりにくい方法で第2のインク層の焼成が行なわれる場合には、次のような照射条件に調整することが望まれる。具体的には、第2のインク層との界面において、第1のインクの硬化膜が熱可塑化する温度に達するような照射条件である。
通常、第2のインク層を焼成して粒子が焼結されるには、第2のインクの温度は第1のインクを熱可塑化する温度より十分高い。第2のインク層と第1のインクの硬化膜との界面の温度は、第1のインクの硬化膜が熱可塑化する温度より上昇していることが推測される。第2のインク層と第1のインクの硬化膜との密着性を得るためには、必ずしも第1のインクの硬化膜全体を熱可塑化する必要はない。第1のインク硬化膜の熱可塑化は、第2のインク層との界面部分で生じれば、十分な密着性を確保することができる。
所定の焼成処理を施すことによって、図3に示すように粒子の焼結体としての導電パターン5が、熱硬化性樹脂の硬化膜3を介して絶縁基材1上に形成される。本明細書においては、この硬化膜3と導電パターン5との積層体6のみならず、絶縁基材1を含めて印刷物と称する。
上述したように、一実施形態にかかる導電パターンの形成方法により、基材に対して十分な密着性を有する導電パターンを印刷法により形成することが可能となった。用いられる基材の材質は限定されず、フレキシブルな基材に対しても十分な密着性を有する導電パターンを形成することができる。すなわち、金属ナノ粒子インクをフレキシブル基材上に印刷することが可能となった。
プライマーコーティング処理と比較すると、本実施形態の方法は、工程が簡便で装置コストも軽減される。コーティングのための装置や工程が不要であり、場合によっては、配線の印刷と同時にインクジェット装置で処理することができるためである。本実施形態の方法によって、基材に対する密着性の高い金属配線を、印刷法により簡便に形成することが可能となった。
以上、絶縁基材上に導電パターンを形成する方法について説明したが、金属製の基材の上に導電パターンを形成することもできる。金属製の基材としては、例えば、ステンレススチール(SUS)、銅、およびアルミニウムなどが挙げられる。
用いられる第1のインクは、絶縁性に限定され、第2のインクのパターンよりも幅広のパターン状に、金属基材上に印刷される。こうした第1のインクパターンを形成する以外は、上述と同様の手法により第2のインクを印刷して、導電パターンを形成することができる。
以下に、導電パターンの形成の具体例を示す。
まず、オキシラン化合物10重量%、オキセタン化合物40重量%、およびビニルエーテル化合物50重量%を配合して、第1のインクに含有されるカチオン重合性化合物を調製した。
オキシラン化合物としては、セロキサイド3000(リモネンジオキサイド、ダイセル化学)を用い、オキセタン化合物としては、オキセタン211(3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、東亞合成)を用いた。また、ビニルエーテル化合物としては、ONB−DVE(ヒドロキシメチル−ヒドロキシオキサノルボルナンジオールジビニルエーテル、ダイセル化学)を用いた。
カチオン重合性化合物に光酸発生剤および増感剤を加えて、第1のインク(A)を得た。光酸発生剤としては、ESACURE1064(LAMBERTI社)を用い、その含有量はインク全体の7.5重量%とした。増感剤としては、9,10−ジブトキシアントラセン(川崎化成)を用い、その含有量はインク全体の0.4重量%とした。
さらに、それぞれ以下のように粒子等を加える以外は、前述の第1のインクAと同様にして、第1のインクB,C,およびDを得た。なお、各粒子等の添加量は、インク全体に対する割合である。
(第1のインクB) 粒径150nmのシリカ粒子を10重量%添加
(第1のインクC) 粒径40nmの銀粒子(球状)を20重量%添加
(第1のインクD) フレーク状銀粒子を20重量%添加
下記表1には、第1のインクA〜Dに含有される粒子等をまとめる。
第2のインクとしては、銀粒子(平均粒子径8〜10nm程度)が分散媒に分散されたインク(大研化学製)を準備した。分散媒はウンデカンであり、インク中における銀粒子の含有量は50重量%である。
(実施例1)
絶縁基材としてガラス基板を用意し、UVオゾン処理機により表面処理を施した。処理後のガラス基板上に、前述の第1のインクAを用いて第1のインク層を形成した。具体的には、バーコーターを用いてガラス基板上に第1のインクAを塗布し、膜厚約4μmのインク層を形成した。
メタルハライドランプ(Light Hammer 6、Fusion社製)を用いて、第1のインク層にUV照射を行なった。ランプのピーク照度は1800mW/cm2とし、照射の積算光量は250mJ/cm2とした。UV照射後の第1のインク層を、さらに、ホットプレートにより150℃で5分間加熱して硬化膜を得た。
硬化膜の上には、インクジェット方式により第2のインクを印刷して、第2のインク層を形成した。パターンは線幅500μmの直線状とした。電気炉を用いて、第2のインク層を不活性雰囲気下、300℃で60分間焼成して導電パターンを得た。
(実施例2)
第2のインク層を光照射により硬化させた以外は、実施例1と同様にして導電パターンを得た。具体的には、フラッシュランプを用いて、20J/cm2で1msの閃光時間で照射した。
(実施例3)
基材をポリイミドフィルムに変更した以外は、実施例2と同様の手法により導電パターンを得た。
(実施例4)
基材をPETフィルムに変更した以外は、実施例2と同様の手法により導電パターンを得た。
(実施例5)
第1のインクをインクジェット方式により塗布して、線幅1mmの直線状のパターンを印刷した以外は実施例2と同様にして、第1のインクの硬化膜パターンを形成した。この硬化膜パターンの上に、インクジェット方式により線幅1mmのパターンで第2のインク層を形成した以外は、実施例2と同様の手法により導電パターン得た。
得られた導電パターンの断面形状は、図3に示すような形状であった。
(実施例6)
第1のインク層の硬化にUV照射のみを用いて加熱を行なわない以外は、実施例2と同様の手法により導電パターンを得た。
(実施例7)
第1のインクとして第1のインクBを使用した以外は実施例2と同様の手法により、導電パターンを得た。
(実施例8)
第1のインクとして第1のインクCを使用した以外は実施例2と同様の手法により、導電パターンを得た。
(実施例9)
第1のインクとして第1のインクDを使用した以外は実施例2と同様の手法により、導電パターンを得た。
実施例1〜9について、第1のインク層の形成条件、および第2のインク層の焼成方法を、用いた基材とともに下記表2にまとめる。
なお、実施例1〜9のいずれにおいても、基材に対する第1のインクの接触角は、第1のインクの硬化膜に対する第2のインクの接触角より小さいことが、協和界面科学社製接触角計(DM−301)での測定により確認された。いずれにおいても、導電パターンは、その全体が基材に接しないように第1のインクの硬化膜上に形成されていた。
(比較例1)
第1のインク層を形成せず、第2のインク層を基材上に直接形成した以外は実施例2と同様の手法により、導電パターンを得た。
(比較例2)
TDVE(トリエチレングリコールジビニルエーテル、ISPジャパン)と、光酸発生剤と増感剤とを配合して、第1のインクEを調製した。光酸発生剤としては、ESACURE1064(LAMBERTI社)を用い、その含有量はインク全体の7.5重量%とした。増感剤としては、9,10−ジブトキシアントラセン(川崎化成)を用い、その含有量はインク全体の0.4重量%とした。この第1のインクEの硬化膜は、熱可塑性を有しない。
このインクEを用いて第1のインク層を形成した以外は実施例2と同様の手法により、導電パターンを得た。
(比較例3)
第1のインクをインクジェット方式により塗布して、線幅500μmの直線状のパターンを印刷した以外は実施例2と同様にして、第1のインクの硬化膜パターンを得た。この硬化膜パターンの上に、インクジェット方式により線幅1mmのパターンで第2のインク層を形成した以外は、実施例2と同様の手法により導電パターンを得た。第2のインク層は、硬化膜パターンの端を越えて基材表面に直接接して形成された。
(比較例4)
表面処理を施さないガラス基板上に、第1のインクをインクジェット方式により塗布して、線幅500μmの直線状パターンを印刷した以外は実施例2と同様にして、第1のインクの硬化膜パターンを形成した。
硬化膜の上には、インクジェット方式により第2のインクを印刷して、線幅500μmの第2のインク層を形成した。ここで用いた第2のインクは、50重量%の銀粒子(平均粒径8〜10nm程度)がブチルカルビトールに分散されたインクである。こうした点を変更した以外は、実施例2と同様の手法により導電パターンを得た。
協和界面科学社製接触角計(DM−301)により測定したところ、基材に対する第1のインクの接触角は77°であり、第1のインクの硬化膜に対する第2のインクの接触角は25°であることが確認された。
比較例1〜4について、第1のインク層の形成条件、および第2のインク層の焼成方法を、用いた基材とともに下記表3まとめる。
実施例および比較例の導電パターンについて、密着性、パターン形状、および抵抗率を評価した。密着性は、クロスカット剥離試験(JIS K5600−5−6、ISO 2409)に準拠して評価した。密着性の判断基準は次のとおりである。
○:剥離試験におけるJIS分類1以下:剥離面積が5%以下
×:剥離試験におけるJIS分類2以上:剥離面積が5%を超える
パターン形状は、光学顕微鏡を用いた観察により異常の有無で判断した。異常が確認されなければ“○”であり、確認されれば“×”である。なお、異常とはパターンのはみ出しなどの形状の異常をさす。
抵抗率は4端子法により測定した。抵抗率は、10μΩ/cm2以下であれば合格レベルである。
上記表4に示されるように、実施例1〜9で形成された導電パターンは、いずれも基材に対する密着性が良好であり、パターン形状に異常も生じていない。パターンの抵抗率は最大でも5.1μΩ/cm2であり、実用上問題ない範囲である。特に、第1のインクに充填剤が含有された場合には、低効率がより小さくなることが、実施例7〜9に示されている。
これに対して、表5に示されるように比較例では、密着性の良好な導電パターンを形成することができない。第1のインクを使用しない場合には、パターン形状に異常が生じるのに加えて、抵抗率も著しく大きくなることが比較例1に示されている。
比較例2では、第1のインクの硬化膜が熱可塑性ではなく、比較例3では、第2のインク層の一部が基材に直接接して形成された。これらに起因して、導電パターンの密着性が低下した。
比較例4では、基材に対する第1のインクの接触角が、第1のインクの硬化膜に対する第2のインクの接触角より大きい。密着性の低下およびパターン形状の劣化は、これが原因であると推測される。加えて、比較例4では膜厚の低下もみられたため、パターンの抵抗率が実用レベルから外れている。