JP2012025810A - ポリアクリロニトリル混合溶液および炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

ポリアクリロニトリル混合溶液および炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができる炭素繊維前駆体繊維製造用に好適なポリアクリロニトリルの安定な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法は、アクリロニトリルを主成分とする単量体と第1の重合開始剤とを含む原料混合物を加熱して、重量平均分子量Mwが100万〜800万のポリアクリロニトリル系重合体であるA成分と未反応単量体とを含む反応溶液を得る第1の重合工程と、第1の重合工程の後、第2の重合開始剤を追加し、前記未反応単量体を重合する第2の重合工程とを含むポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を投入するまでの間、以下のいずれか、または両方の処理を行うことを特徴とする。
(i)重合開始剤濃度に対して溶存酸素濃度を1〜10モル当量倍に制御する
(ii)重合開始剤濃度に対して5〜20モル当量倍の重合禁止剤を添加する
【選択図】なし

Description

本発明は、高品位な炭素繊維前駆体繊維と炭素繊維の製造に好適なポリアクリロニトリル混合溶液とその製造方法、およびそのポリアクリロニトリル混合溶液を用いた炭素繊維の製造方法に関するものである。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有する。このため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、更なる生産性の向上や生産安定化の要請が高い。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある。)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維を得た後、それを200〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、少なくとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって工業的に製造されている。
PAN系炭素繊維の生産性向上は、炭素繊維前駆体繊維の紡糸、耐炎化あるいは炭素化のいずれの観点からも行われている。中でもPAN系炭素繊維前駆体繊維の生産性向上は、次に示す問題から困難であった。すなわち、PAN系炭素繊維前駆体繊維を得る際の紡糸においては、PAN系重合体溶液の特性にともなう限界紡糸ドラフト率とその凝固構造に伴う限界延伸倍率によって生産性が制限されている。生産性を向上させるために紡糸速度を高めると延伸性低下が起こり、生産が不安定化しやすい。一方、紡糸速度を下げると生産は安定化するものの生産性は低下するため、生産性の向上と安定化の両立が困難であるという問題があった。
そのような背景のなか我々は、超高分子量成分を少量含むPAN系重合体溶液が高い曳糸性を発現し、かかるPAN系重合体溶液を用いると高い紡糸ドラフト率で製糸しても毛羽立ちや糸切れが少なく、品位の良い炭素繊維前駆体繊維が得られ、焼成すると高品質の炭素繊維を得られることを見出している(特許文献1参照)。この提案によると、品質および品位を犠牲にすることなく製糸工程の設備生産性を高めることができることから、炭素繊維の大量生産が可能となる。
該文献においては、超高分子量成分を少量含むPAN系重合体の重合法として、バッチ式の溶液二段重合法を提案している。これは、重合開始剤などの試薬を二回に分けて投入することで、超高分子量成分の重合と通常の分子量成分の重合とを同一の反応溶液中で続けて行うものであり、曳糸性に優れたPAN系重合体溶液を容易に得ることができる。しかしながら、場合によっては中間体である超高分子量成分の溶液の経時安定性が低い、すなわち二回目の試薬投入の前に意図せぬ重合が起こることがあり、生産安定性に課題があった。
ラジカル重合の成長反応は、成長ラジカルと単量体との間で起こる反応である。したがって、成長反応を抑制するためには、これらの化学種の濃度を低減すればよい。単に高重合率となるまで重合すれば単量体濃度は低減することができる。一方、成長ラジカル濃度の低減についても、例えば低温活性な開始剤を用いて完全消費させる方法(特許文献2参照)や、重合終了後にラジカルスカベンジャーである酸素を導入する方法(特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、低温活性な開始剤は不必要な分解を抑制するために低温での取り扱いが必要であることが多く、専用の設備を新設する必要があり、酸素を導入する方法は、次のバッチの重合を開始する前に系内を窒素置換するために多大の時間を要するため、設備生産性の観点から改善が必要であった。
特開2008−248219号公報 特開2000−313704号公報 特開2008−179706号公報
そこで本発明の目的は、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができる炭素繊維前駆体繊維製造用に好適なポリアクリロニトリル混合溶液の、品質安定性かつ設備生産性に優れた製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法は、以下のとおりである。すなわち、本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法は、アクリロニトリルを主成分とする単量体と第1の重合開始剤とを含む原料混合物を加熱して、重量平均分子量Mwが100万〜800万のポリアクリロニトリル系重合体であるA成分と未反応単量体とを含む反応溶液を得る第1の重合工程と、第1の重合工程の後、第2の重合開始剤を追加し、前記未反応単量体を重合する第2の重合工程とを含むポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を投入するまでの間、以下のいずれか、または両方の処理を行うことを特徴とする。
(i)重合開始剤濃度に対して溶存酸素濃度を1〜10モル当量倍に制御する
(ii)重合開始剤濃度に対して5〜20モル当量倍の重合禁止剤を添加する
また、本発明の好ましい態様としては、上記の製造方法により得られた重量平均分子量Mwが10万〜80万、Mz/Mwが2.7〜10であるポリアクリロニトリル混合溶液である。
また、本発明の好ましい炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、前記ポリアクリロニトリル混合溶液を乾湿式紡糸するものである。
また、本発明の好ましい炭素繊維の製造方法は、前記炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理することである。
本発明では、第1の重合工程の終了後に酸素あるいは重合禁止剤または、その両方を導入することで、A成分の重合を効果的に止め、第2の重合工程を開始するまでに後重合によって重合率が高まることを防ぐ。かつ、酸素量あるいは重合禁止剤量または、その両方を特定の範囲に制御することで第2の重合工程を速やかに開始させることができる。これにより、曳糸性向上効果のあるPAN系重合体の製造において品質安定性および設備生産性を両立することができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[ポリアクリロニトリル混合溶液の分子量分布]
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法で得られるポリアクリロニトリル混合溶液(以下、このポリアクリロニトリル混合溶液中のポリアクリロニトリルを「ポリアクリロニトリル系重合体」、「PAN系重合体」ということもある)は、アクリロニトリル(以下、ANと略記することがある)を主成分とする重合体を含み、次の要件を満たしている。
本発明では、二段階の重合工程により超高分子量成分を少量含むPAN系重合体溶液を得る。第1の重合工程では超高分子量成分であるA成分を、第2の重合工程ではより低分子量であるB成分を重合する。A成分の重量平均分子量(以下、Mwと略記する)は100万〜800万であり、100万〜500万であることが好ましい。B成分は、本発明で得られるポリアクリロニトリル混合溶液中の全ポリアクリロニトリル系重合体からA成分を差し引いた残り全ての成分のことを指し、B成分のMwは10万〜70万であることが好ましい。A成分のMwが100万より小さいと曳糸性向上効果が小さくなり、800万より大きいと曳糸性向上効果は既に飽和している。また、B成分のMwが10万より小さいと、製糸工程において口金からの吐出が安定しないことや、単糸間の接着が発生することがあり、70万より大きいと、A成分と混合した際に粘度が高くなりすぎ、口金からの吐出が困難となることがある。
本発明で得られるポリアクリロニトリル混合溶液は、Mwが10万〜80万である。また、z平均分子量(以下、Mzと略記する)とMwの比であり、高分子量側への分子量分布の広がり具合を表す多分散度Mz/Mwが2.7〜10である。Mwが10万より小さいと、製糸工程において口金からの吐出が安定しなかったり、単糸間の接着が発生することがあり、80万より大きいと口金圧が高くなったり、延伸性が低下することがある。また、Mz/Mwが2.7より小さいと後述する超高分子量体による曳糸性向上効果が小さくなり、10より大きいと配管圧や口金圧が高くなりすぎることがある。
A成分のMwとB成分のMwの比Mw(A)/Mw(B)は2〜45であることが好ましく、4〜45であることがより好ましく、4〜30であることが更に好ましい。また、A成分とB成分の重量比W(A)/W(B)は0.001〜0.3であることが好ましく、0.005〜0.2であることがより好ましく、0.01〜0.1であることが更に好ましい。Mw比および重量比を前記の範囲とすることによって、ポリアクリロニトリル混合溶液のMwを10万〜80万、Mz/Mwを2.7〜10とすることができ、曳糸性向上効果の高いポリアクリロニトリル混合溶液を得ることができる。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液を用いることにより、生産性の向上と安定化の両立を図りつつ、毛羽立ちの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を製造することができるメカニズムは、必ずしも明確になった訳ではないが、次のように考えられる。口金孔直後でポリアクリロニトリル混合溶液が伸長変形する際に、A成分とB成分が絡み合い、A成分を中心に絡み合い間の分子鎖が緊張することにより伸長粘度の急激な増大、すなわち、歪み硬化がおこる。ポリアクリロニトリル混合溶液の細化に伴い細化部分の伸長粘度が高くなり、流動安定化するため紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができる。
[ポリアクリロニトリル混合溶液の組成]
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液に含まれるA成分としては、PANと相溶性を有することが望ましく、相溶性の観点からPAN系重合体であることが好ましい。組成としては、ANが好ましくは98〜100モル%であり、ANと共重合可能な単量体を2モル%以下なら共重合させてもよいが、共重合成分の連鎖移動定数がANより小さく、必要とするMwを得にくい場合は、共重合成分の混合量をなるべく減らすことが好ましい。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液に含まれるB成分としては、ANが好ましくは98〜100モル%であり、ANと共重合可能な単量体を2モル%以下なら共重合させてもよいが、共重合成分量が多くなるほど共重合部分での熱分解による分子断裂が顕著となり、得られる炭素繊維の引張強度が低下する。
ANと共重合可能な単量体としては、耐炎化を促進する観点から、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
[ポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法]
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法においては、重合操作はバッチ式とするのがよい。重合法としては、A成分およびB成分ともに溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法など公知のラジカル重合法のいずれの方法を用いることもできるが、後処理や再溶解を必要とせず、また、本発明の効果を最大限に発揮し、かつANや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒を好適に用いることができる。具体的には、アクリロニトリルを主成分とする単量体と第1の重合開始剤とを含む溶液を加熱して、溶液重合により超高分子量成分であるA成分と未反応単量体とを含む混合溶液を得た後に、第2の重合開始剤を投入して溶液重合によりB成分を重合する「多段重合」の方法を用いることが好ましい。多段重合を構成する各重合は、同一の反応容器で続けて行うこと(以下、一槽式と記載する)もできるし、A成分を重合した後、反応溶液を別の反応容器に送液してB成分を重合すること(以下、二槽式と記載する)もできる。B成分の重合においては、必要に応じて第3以降の重合開始剤を投入することもできる。多段重合法を用いると、均一性の高いポリアクリロニトリル混合溶液を、比較的単純な操作で得ることができる。
一方、多段重合法の課題として、「後重合」が挙げられる。本明細書中で「後重合」とは、第1の重合工程終了後に起こる意図せぬ重合のことを指す。後重合の原因は、第1の重合工程終了時において重合開始剤が完全に消費しておらず、残存した重合開始剤が徐々に分解して生じた一次ラジカルが残存する単量体と反応することである。多段重合において後重合がおこると、A成分の重合率が狙いよりも高くなるため、得られるポリアクリロニトリル混合溶液の曳糸性向上効果が狙い通りとならないことがある。後重合によるポリマー特性の変動を抑制する方法としては、第1の重合工程が終了してから第2の重合工程を開始するまでの間の保持温度および保持時間を実質的になくす、即ち第2の重合開始剤を投入して第2の重合工程を開始することで第1の重合工程を実質的に終了させる、あるいは、第1の重合工程が終了してから第2の重合工程を開始するまで間の保持温度および保持時間で進行する後重合の分を考慮して仕込み試薬量を調整する、などが考えられるが、プロセス設計の自由度を失うため、一概には採用できない場合が多い。
したがって、曳糸性向上効果を有するポリアクリロニトリル混合溶液を溶液多段重合の方法で生産性よく、かつ狙い通りの曳糸性を有するポリアクリロニトリル混合溶液を品質安定的に得るためには、後重合速度を効果的に低減することが必要である。
[A成分の重合方法]
A成分の重合方法としては、溶液重合法を用いることが好ましい。本発明においては、第1の重合工程において必要量のA成分を重合した後、溶存酸素濃度を制御する、あるいは重合禁止剤を投入する、操作のいずれか、あるいは両方を行うことにより、A成分の重合を効果的に停止する。具体的な停止の方法については後で説明する。
A成分の重合に用いる重合開始剤としては、油溶性アゾ系化合物、水溶性アゾ系化合物および過酸化物などが好ましく、安全面からの取り扱い性および工業的に効率よく重合を行うという観点から、ラジカル発生温度(より一般的には10時間半減期温度と称する。)が30〜150℃、より好ましくは30〜100℃の範囲の重合開始剤が好ましく用いられる。中でも、分解時に重合を阻害する酸素発生の懸念がないアゾ系化合物が好ましく用いられ、溶液重合で重合する場合には、溶解性の観点から油溶性アゾ化合物が好ましく用いられる。重合開始剤の具体例としては、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(ラジカル発生温度30℃)、2,2'−アゾビス(2,4'−ジメチルバレロニトリル)(ラジカル発生温度51℃)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(ラジカル発生温度65℃)、および1,1'−アゾビス(シクロヘキサン―1―カルボニトリル)(ラジカル発生温度88℃)などが挙げられる。また、複数の重合開始剤と重合温度を組み合わせることで重合開始剤が発生させるラジカル量を調整することもできる。また、過酸化物を用いる場合、還元剤を共存させラジカル発生を促進させてもよい。
A成分の分子量は試薬濃度や重合温度によって制御することができる。また、連鎖移動剤を添加して制御することも好ましい態様である。連鎖移動剤は種々の化合物が公知であり、これらを適宜選択し用いることができるが、一例を挙げると連鎖移動効果の高いメルカプタン系の化合物などが特に好ましく用いることができる。ラジカル重合における分子量の制御式は、Mayoらによって既に提案されており、本発明の第1の重合工程に対してもよく成立する。
A成分の重合率も試薬濃度や重合温度によって良好に制御することができる。A成分の重合率は、0.5〜10%とすることが好ましく、1〜5%とすることがより好ましい。A成分の重合率が0.5%よりも低いと、曳糸性向上効果のあるポリアクリロニトリル混合溶液を得ることが困難である。10%よりも高いと、反応溶液の粘度が高くなりすぎ均一混合が難しくなることがあるほか、引き続きB成分の重合を行う際に除熱困難による反応暴走を引き起こすことがある。A成分の重合率が5%以下であれば、引き続きB成分を重合した結果得られるポリアクリロニトリル混合溶液の曳糸性向上効果が特に高まりやすい。一方、A成分の重合においては、重合率が低く重合速度が鈍っていない領域において重合率を精密に制御する必要があり、工業的な規模で実施する場合であって、本発明に記載の要件を満たさない場合、重合率が変動しやすい。
A成分の重合における重合温度は、通常ラジカル重合が行われる温度であれば特に指定しないが、30〜150℃であることが好ましく、40〜90℃であることがより好ましい。重合温度が30℃よりも低いと、反応に時間がかかったり、溶液粘度が高くなって撹拌が不均一になることがある。また、重合温度が150℃よりも高いと、A成分の環化反応や架橋反応が起こることがある。重合温度が単量体や溶媒の沸点を大きく超えると、重合を制御するために加圧が必要となることがあるが、90℃以下であれば概ね加圧の必要はない。重合温度はA成分の重合を通じて一定でもよいし、変化させてもよい。不要な温度変化を低減するため、引き続き行うB成分の重合の開始温度と等しくなるように制御することも、好ましい態様である。
A成分の重合における重合時間は、0.5時間以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上6時間以下がより好ましく、1.5時間以上6時間以下が最も好ましい。一般に、重合時間が短いと設備生産性が向上する。よって重合時間は10時間以下であることが設備生産性を高める観点から好ましい。一方、重合時間が短すぎると単位時間当りの発熱量が増大し温度制御が困難となったり、重合開始および終了操作を行う時間がばらついたときに、重合反応に与える影響が相対的に大きくなるため、制御が難しくなることがある。よって、重合時間は0.5時間以上であることが重合反応制御の観点から好ましい。
[後重合抑制法]
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、A成分の溶液の後重合を抑制する方法は、アクリロニトリルを主成分とする単量体と第1の重合開始剤を含む溶液を加熱して、重量平均分子量Mwが100万〜800万であるA成分と未反応単量体とを含む反応溶液を得る第1の重合工程と、第1の重合工程の後、第2の重合開始剤を追加し、前記未反応単量体を重合する第2の重合工程とを含むポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を投入するまでの間、以下のいずれか、または両方の処理を行うことである。
(i)重合開始剤濃度に対して溶存酸素濃度を1〜10モル当量倍に制御する
(ii)重合開始剤濃度に対して5〜20モル当量倍の重合禁止剤を添加する
かかる制御を行うことによって、後重合を抑制でき、かつB成分の重合は阻害せず、曳糸性向上効果を有するポリアクリロニトリル混合溶液を、高い品質安定性および設備生産性で得ることができる。
酸素がラジカル重合を阻害することは古くから知られている。酸素による重合阻害機構は次のように考えられている。すなわち重合開始剤の分解により生成した一次ラジカルや、一次ラジカルとモノマーとの反応により生じた成長ラジカルを酸素の基底状態である三重項酸素ビラジカルがトラップすると考えられている。このようにして成長反応の連鎖が阻害されることで、後重合が抑制される。
本発明においては、重合開始剤濃度に対して溶存酸素濃度を1〜10モル当量倍に制御する。溶存酸素濃度が1モル当量より小さいと、後重合の抑制効果が不十分であり、低分子量のオリゴマーが生成することがある。10モル当量より大きいと後重合抑制効果は十分であるが、第2の重合開始剤の一部を失活させB成分の重合を阻害することがある。かつ、溶存酸素濃度が5〜1000ppbであることが好ましい。溶存酸素濃度が5ppbより小さいと、後重合の抑制効果が不十分であり、低分子量のオリゴマーが生成することがある。一方、溶存酸素濃度の上限は、反応温度における反応溶液への酸素の飽和溶解度に依存するため、一意に決めることは難しいが、先に例示した溶媒系で反応を行う限りにおいて飽和溶解度は概ね1000ppb以下であることが多いため、これを上限とした。
溶存酸素濃度の制御は、重合槽上部の気相部を酸素を含む気体でフローして、気液分配により反応溶液中の溶存酸素濃度を制御してもよく、反応溶液に酸素を含む気体を直接バブリングして制御してもよい。B成分の重合を速やかに行うために、過剰な酸素を系内に残存させない観点からは、反応溶液に酸素を30ppm以上含む気体を直接バブリングすることがより好ましい。
酸素を含む気体は、酸素そのものでもよく、任意の気体に酸素を任意の割合で混合して作製したものでもよいが、コストの点から空気を用いることが好ましい。
反応溶液へ気体を直接バブリングすることは、反応容器内に気体の放出孔を設けることにより実現できる。放出孔の種類は特に制限されないが、反応溶液が逆流しないような機構を備えることが好ましい。チェックバルブを設けて特定の方向から加圧された場合に自動的に開放させてもよいし、一般的なバルブを設置しておきバブリングするときのみ開放するのでもよい。放出孔の位置は、気体を反応溶液に均一に分散させる観点から反応容器の底部に設けることが好ましい。
後重合を抑制するために反応溶液中に酸素を含む気体をバブリングした後に第2の重合工程を開始する際には、予め溶存酸素濃度が1ppb以下となるように不活性気体をバブリングすることが好ましい。具体的な不活性気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができるが、中でも安価なため工業用として一般的に用いられる窒素ガスなどを用いることが好ましい。
また、不活性気体のバブリングの所要時間を短縮するために、溶存酸素濃度を制御している間、気相部に不活性ガスをフローさせておくことも好ましい態様である。このとき用いる不活性ガスとしては前掲した窒素、ヘリウム、アルゴンなど一般的な不活性ガスの中から選べばよいが、コストの点から窒素を用いることが好ましい。
重合禁止剤は、反応系内に存在する反応性の高いラジカル種と反応してこれをトラップすることにより重合を止める。アクリロニトリルから誘導される成長ラジカルは共鳴安定化効果が低く、反応性が高いため、多くの重合禁止剤により十分な重合禁止効果が得られる。従って、本発明で添加する重合禁止剤としては、キノン類、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、金属塩、あるいはニトロキシルラジカルをはじめとする種々の安定ラジカルなど公知のものから選択することができる。特に、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4−メトキシー1−ナフトール、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩(クペロン)あるいは金属塩、を用いることが好ましい。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、重合禁止剤の添加量は残存する重合開始剤濃度に対して5〜20モル当量倍となるように制御する。添加量が5モル当量倍よりも少ない場合、後重合の抑制効果が不十分であり、A成分の配合量が変動することがある。添加量が20モル当量倍よりも多い場合、後重合抑制効果は十分であるが、第2の重合開始剤の添加により生成したラジカル種がトラップされることにより、B成分の重合を阻害することがある。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、重合禁止剤の添加方法は特に制限しないが、素早く均一に混合する観点からは、重合禁止剤を溶媒に希釈して調製した重合禁止剤溶液を反応溶液に添加することが好ましく、工業的な観点から希釈溶媒としては重合反応に用いるのと同じ溶媒を用いることが好ましい。
[B成分の重合方法]
B成分の重合は、第1の重合工程で得たA成分とアクリロニトリルを主成分とする未反応単量体とを含む反応溶液に、第2の重合開始剤を添加することにより開始する。第2の重合開始剤を追加する前に、アクリロニトリルを主成分とする単量体や溶媒、連鎖移動剤などを必要に応じて追加することができる。また、重合率を高める目的で、第2の重合開始剤を添加した後、さらに重合開始剤を追添加することもできる。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、一槽式で重合を行う場合、第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を追加するまでの間に時間をおいても良いし、直ちに追加しても良い。時間をおく場合、かかる時間は設備生産性を損なわない範囲で10時間を超えない範囲で長くすることもでき、このことは、特に中間体であるA成分の物性を評価するのに時間を要する場合には好ましい。また、時間をおく場合、第1の重合温度のまま保存してもよく、温度を変化させてもよい。
本発明のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、二槽式で重合を行う場合、第1の重合工程で得たA成分とアクリロニトリルを主成分とする未反応単量体とを含む反応溶液を別の反応容器に送液する方法としては、反応容器の間に高低差をつけておき自重で送液する方法や、ギヤポンプやプランジャーポンプなど、溶液を定量的に送液する方法など、公知の方法を用いることができる。また、二槽式で反応を行う場合、第1の重合工程の重合率を高く設定することで、第1の重合工程で用いる反応容器を小さくする、または第1の重合工程で得たA成分と未反応単量体の混合溶液を複数の第2の重合工程に供給する、ことにより、設備生産性を増すことができる。
B成分の重合に用いる重合開始剤としては、油溶性アゾ系化合物、水溶性アゾ系化合物および過酸化物などが好ましく、安全面からの取り扱い性および工業的に効率よく重合を行うという観点から、ラジカル発生温度(より一般的には10時間半減期温度と称する。)が30〜150℃、より好ましくは30〜100℃の範囲の重合開始剤が好ましく用いられる。中でも、分解時に重合を阻害する酸素発生の懸念がないアゾ系化合物が好ましく用いられ、溶液重合で重合する場合には、溶解性の観点から油溶性アゾ化合物が好ましく用いられる。重合開始剤の具体例としては、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(ラジカル発生温度30℃)、2,2'−アゾビス(2,4'−ジメチルバレロニトリル)(ラジカル発生温度51℃)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(ラジカル発生温度65℃)、および1,1'−アゾビス(シクロヘキサン―1―カルボニトリル)(ラジカル発生温度88℃)などが挙げられる。また、複数の重合開始剤と重合温度を組み合わせることで重合開始剤が発生させるラジカル量を調整することもできる。また、過酸化物を用いる場合、還元剤を共存させラジカル発生を促進させてもよい。
B成分の重合における重合温度は、通常ラジカル重合が行われる温度であれば特に指定しないが、A成分の重合における重合温度と同等以上の温度で、かつ50〜150℃であることが好ましい。重合温度は50〜90℃であることがより好ましい。重合温度が50℃よりも低いと、反応に時間がかかったり、溶液粘度が高くなって撹拌が不均一になることがある。また、重合温度が150℃よりも高いと、環化反応や架橋反応が起こることがある。重合温度が単量体や溶媒の沸点を大きく超えると、重合を制御するために加圧が必要となることがあるが、90℃以下であれば概ね加圧の必要はない。重合温度はB成分の重合を通じて一定でもよいし、変化させてもよい。
B成分の重合における重合時間は、6時間以上20時間以下であることが好ましく、6時間以上15時間以下がより好ましい。一般に、重合時間が短いと設備生産性が向上する。よって重合時間は20時間以下であることが設備生産性を高める観点から好ましい。一方、短時間で重合を完結させようとすると、単位時間当りの発熱量が増大し温度制御が困難となることが多い。よって、重合時間は6時間以上であることが重合反応制御の観点から好ましい。
B成分の重合率は、75〜95%であることが好ましく、80〜93%であることがより好ましい。B成分の重合率が75%より小さいと、生産性が低下するだけでなく、大量に残存する未反応単量体を除去するのに必要なエネルギーが増大する。重合率は高いことが望ましいが、重合率が高まるにつれ重合速度が低下していくため、95%程度が上限である。
B成分の分子量および重合率は、A成分の重合と同じく、一般的に知られるラジカル重合の制御式に従う。重合率が高く重合速度は0に漸近する領域であるため、重合率の変動抑制は容易である。
以上のように溶存酸素濃度を制御する、あるいは重合禁止剤を添加する、またはその両方を同時に行うことで、多段重合において、後重合を効果的に抑制することができる。その結果、曳糸性向上効果を有するポリアクリロニトリル混合溶液を高い品質安定性かつ設備生産性で得ることができる。
[炭素繊維前駆体繊維の製造方法]
次に、本発明の製造方法で得られたPAN系重合体を用いた炭素繊維前駆体繊維の製造方法について説明する。
本発明により得られたポリアクリロニトリル混合溶液は、ポリマー濃度を調整するための余分な操作を経ずに紡糸溶液として用いることもできるが、ポリマー濃度を紡糸に適した範囲に調整して紡糸溶液とすることもできる。
本発明においてポリマー濃度とは、PAN系重合体の溶液中に含まれるPAN系重合体の重量%である。具体的には、PAN系重合体の溶液を計量した後、PAN系重合体を溶解せずかつPAN系重合体溶液に用いる溶媒と相溶性のあるものに、計量したPAN系重合体溶液を脱溶媒させた後、PAN系重合体を計量する。ポリマー濃度は、脱溶媒後のPAN系重合体の重量を、脱溶媒する前のPAN系重合体の溶液の重量で割ることにより算出する。
紡糸溶液におけるポリマー濃度は、15〜40重量%の範囲であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましく、18〜25重量%であることが最も好ましい。ポリマー濃度が15重量%未満では溶媒使用量が多くなり、口金単孔からの紡糸溶液の吐出量が増加し、紡糸条件設定上、紡糸ドラフトを高めにくいことがある。一方、ポリマー濃度が30重量%を超えると絡み合いが多くなることで絡み合い点間分子量が低下し、可紡性が低下することがある。紡糸溶液のポリマー濃度は、使用する溶媒量により調製することができる。また、PAN系重合体溶液には、水、メタノール、エタノールなどPAN系重合体が凝固する溶媒(いわゆる、凝固剤)をPAN系重合体が凝固しない範囲で含んでも構わないし、酸化防止剤、重合禁止剤などの成分をPAN系重合体に対して5重量%までは含んでも構わない。
ポリマー濃度の調整手段としては、後処理工程のバッチ式/連続式を問わず、例えば減圧下において溶媒を揮発除去する方法や、溶媒をサイドラインから合流させミキサーを通過させて混合する方法、あるいは、溶媒蒸気を通過させて混合する方法など、公知のものを好ましく用いることができる。
また、45℃の温度における紡糸溶液の粘度は、15〜200Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜150Pa・sの範囲であることがより好ましく、30〜100Pa・sの範囲であることが最も好ましい。溶液粘度が15Pa・s未満では、紡糸糸条の賦形性が低下するため、口金から出た糸条を引き取る速度、すなわち可紡性が低下する傾向を示す。また、溶液粘度は200Pa・sを超えると絡み合いが多くなり、分子量低下しやすくなる傾向を示す。紡糸溶液の粘度は、重量平均分子量とポリマー濃度、溶媒の種類により制御することができる。
本発明の製造方法で得られたPAN系重合体溶液は、乾湿式紡糸法により紡糸することにより炭素繊維前駆体繊維を製造することが紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフトを高めるために好ましい。乾湿式紡糸法は、紡糸溶液を口金から一旦空気中に吐出した後、凝固浴中に導入して凝固させる紡糸方法である。
紡糸溶液の紡糸ドラフトは5〜50の範囲とすることが好ましい。ここで紡糸ドラフトとは、紡糸糸条が口金を離れて最初に接触する駆動源を持ったローラーの表面速度(凝固糸の巻き取り速度)を、口金からの吐出線速度で割った値をいう。紡糸ドラフトが5未満では、望む前駆体繊維の繊度を得るために口金孔径を小さくせざるを得ないことがあり、剪断速度を低下させる観点からは紡糸ドラフトが50以下で十分である。吐出量を変更し、吐出線速度を変更することで容易に紡糸ドラフトを変更することができるため、吐出線速度を変更して吐出角度を確認しながら本発明の吐出角度になるように調整すればよい。吐出量は、生産量に関係するので必要な生産量になるように、最終的には吐出量を固定して紡糸口金孔径を変更することで設定の紡糸ドラフトを得ればよい。
本発明において用いられる凝固浴には、PAN系重合体溶液で溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、塩化亜鉛水溶液、およびチオ硫酸ナトリウム水溶液などのPAN系重合体の溶媒と、いわゆる凝固促進成分の混合物が用いられる。凝固促進成分としては、前記のPAN系重合体を溶解せず、かつPAN系重合体溶液に用いた溶媒と相溶性があるものが好ましい。凝固促進成分としては、具体的には、水、メタノール、エタノールおよびアセトンなどが挙げられるが、回収する必要がないことと安全性の面、凝固に必要な凝固促進成分の量が少ないことから水を使用することが最も好ましい。凝固浴の溶媒濃度、温度などの条件は公知の条件に従って設定すればよい。
本発明において、PAN系重合体溶液を凝固浴中に導入して凝固させ凝固糸を形成した後、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を経て、炭素繊維前駆体繊維が得られる。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えてもよい。凝固後の糸条は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30〜98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。そのときの延伸倍率は、1〜5倍であることが好ましく、1〜3倍であることがより好ましい。
浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、延伸された繊維糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。シリコーン油剤は、耐熱性の高いアミノ変性シリコーン等の変性されたシリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
乾燥工程としては、例えば、乾燥温度が70〜200℃で乾燥時間が10秒から200秒の乾燥条件が好ましい結果を与える。生産性の向上や結晶配向度の向上として、乾燥工程後に加熱熱媒中で延伸することが好ましい。加熱熱媒としては、例えば、加圧水蒸気あるいは過熱水蒸気が操業安定性やコストの面で好適に用いられ、延伸倍率は通常1.5〜10倍である。
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度は、0.01〜1.5dtexであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1.0dtexであり、さらに好ましくは0.1〜0.8dtexである。単繊維繊度が小さすぎると、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および炭素繊維の焼成工程のプロセス安定性が低下することがある。一方、単繊維繊度が大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、続く炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率が低下することがある。本発明における単繊維繊度(dtex)とは、単繊維10,000mあたりの重量(g)である。
本発明の前駆体繊維束の結晶配向度は、88〜95%であり、好ましくは91〜93%である。結晶配向度が低い炭素繊維のストランド引張伸度が不足し、一方、結晶配向度が95%を超えると毛羽を発生しやすくなる。
本発明の前駆体繊維束は、単繊維が3000本以上集束して構成されることが好ましい。3000本より少ない前駆体繊維束を合糸して炭素繊維束を形成しても構わないが、経済性の面で好ましくない。前駆体繊維束を構成する単繊維数は、より好ましくは12000本以上であり、更に好ましくは24000本以上である。
[炭素繊維の製造方法]
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
本発明では、前記のようにして得た炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化する予備炭化工程と、予備炭化工程で得られた繊維を1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得ることができる。
本発明において、耐炎化とは、空気を4〜25mol%以上含む雰囲気中における熱処理をいう。通常、紡糸工程と耐炎化工程以降は非連続であるが、紡糸工程と耐炎化工程の一部もしくは全てを連続的に行っても構わない。
耐炎化する際の延伸比は、0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1とする。耐炎化する際の延伸比が0.8を下回ると、耐炎化工程の張力が低下し、耐炎化炉スリットなどで擦過を起こすことがあり、得られる炭素繊維の単繊維強度分布が広がる。また、耐炎化する際の延伸比が1.2を超えると、延伸張力が高すぎてローラー等に圧迫されて圧痕が残ることや欠陥が拡大することがある。
耐炎化の処理時間は、10〜100分の範囲で適宜選択することができるが、続く予備炭化の生産安定性、および、得られる炭素繊維の力学物性向上の目的から、得られる耐炎化繊維の比重が1.3〜1.38の範囲となるように設定することが好ましい。
予備炭化、および、炭化は、不活性雰囲気中で行なわれるが、用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、および、キセノンなどが用いられる。経済的な観点からは、窒素が好ましく用いられる。
なお、予備炭化における昇温速度は、500℃/分以下に設定されることが好ましい。
予備炭化を行う際の延伸比は、0.95〜1.2、好ましくは1.0〜1.1とする。予備炭化を行う際の延伸比が0.95を下回ると、得られる予備炭化繊維の配向度が不十分となり、炭素繊維のストランド引張弾性率が低下する。また、予備炭化を行う際の延伸比が1.2を超えると、延伸張力が高すぎてローラー等に圧迫されて圧痕が残ることや欠陥が拡大することがある。
炭化の温度は、好ましくは1,000〜2,000℃、より好ましくは1,200〜1800℃、さらに好ましくは1,300〜1,600℃とする。一般に炭化の最高温度が高いほど、ストランド引張弾性率は高まるものの、引張強度は1,500℃付近で極大となるため、両者のバランスを勘案して、炭化の温度を設定する。
炭化を行う際の延伸比は、0.96〜1.05、好ましくは0.97〜1.05、より好ましくは0.98〜1.03とする。炭化を行う際の延伸比が0.96を下回ると、得られる炭素繊維の配向度や緻密性が不十分となり、ストランド引張弾性率が低下する。また、炭化を行う際の延伸比が1.05を超えると、延伸張力が高すぎてローラー等に圧迫されて圧痕が残ることや欠陥が拡大することがある。
より弾性率が高い炭素繊維を所望する場合には、炭化工程に続き黒鉛化を行うこともできる。黒鉛化工程の温度は2000〜2800℃であるのがよい。また、その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して使用される。黒鉛化工程における延伸比は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて、毛羽発生など品位低下の生じない範囲で適宜選択するのがよい。
得られた炭素繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。
電解処理により、得られる繊維強化複合材料において炭素繊維マトリックスとの接着性が適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料の脆性的な破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる繊維強化複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
電解処理の後、炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理を施すこともできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明により得られる炭素繊維は、プリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形するなど種々の成形法により、衝撃後圧縮強度など様々な機械特性に優れた炭素繊維強化複合材料を与えることから、航空機用構造材料、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途およびその他一般産業用途に衝撃後圧縮強度に優れる炭素繊維強化複合材料として好適に用いることができる。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。
<Z平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw);GPC法>
測定しようとする重合体をその濃度が0.1重量%となるように、ジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)に溶解し、検体溶液を得る。得られた検体溶液について、GPC装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線から分子量の分布曲線を求め、MzおよびMwを算出した。測定は3回行い、Mz、Mwの値を平均して用いた。
・カラム :極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速 :0.5ml/min
・温度 :70℃
・試料濾過 :メンブレンフィルター(0.45μmカット)
・注入量 :200μl
・検出器 :示差屈折率検出器。
分子量は、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出時間−分子量の検量線を作成し、その検量線上において、該当する溶出時間に対応するポリスチレン換算の分子量を読み取ることにより求めた。
本実施例では、GPC装置として(株)島津製作所製CLASS−LC2010を、カラムとして東ソー(株)製TSK−GEL−α−M(×2)を、ジメチルホルムアミドおよび臭化リチウムとして和光純薬工業(株)製を、メンブレンフィルターとしてミリポアコーポレーション製0.45μ−FHLP FILTERを、示差屈折率検出器として(株)島津製作所製RID−10AVを、検量線作成用の単分散ポリスチレンとして、分子量184000、427000、791000、1300000、1810000および4240000のものを、それぞれ用いた。
<PAN系重合体濃度>
PAN系重合体濃度は次のようにして求めた。まずPAN系重合体溶液を約100g秤量し、水に滴下することによって凝固させた。凝固させた重合体を95℃の温水で2時間洗浄した後、70℃の温度で4時間乾燥して、得られた乾燥ポリマーを秤量した。PAN系重合体溶液の重量w0と乾燥ポリマーの重量w1とを用いて以下の式により算出した。
重合体濃度(wt%)=w1/w0×100(%)。
<重合率>
重合率は、重合率を測定する時点でのPAN系重合体濃度c1と、重合率を測定する時点までに系内に導入したANとその他の試薬との重量比から一意に算出できるAN濃度c0とを用いて、次のように求めた。
重合率(%)=c1/c0×100(%)。
<後重合率>
後重合率は、第1の重合終了直後の重合率(f1)と第2の重合開始剤を導入する直前の重合率(f2)との差を第1の重合終了直後の重合率(f1)で割って算出した。
後重合率(%)=(f2−f1)/f1×100(%)。
<酸素濃度>
気相部酸素濃度の測定には、株式会社ハック・ウルトラ製のオービスフェア3660Exを用い、プローブとしては同社製のSUS製検出器31130Eを用いた。反応容器内の気相部から50mL/分の流量で連続的にサンプリングしながら、温度制御は特に行わずに気相部酸素濃度をモニターした。
溶存酸素濃度の測定には、気相部酸素濃度測定と同じ装置を用いたが、プローブを反応溶液に接触させて測定した。
校正はマニュアルに従い、大気中の酸素濃度で校正した。
<炭素繊維束の引張強度および弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求めた。測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃の温度で30分で硬化させて作製した。また、炭素繊維のストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を引張強度とした。本実施例では、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製"ベークライト"(登録商標)ERL4221を用いた。
(実施例1)
AN100重量部、イタコン酸1重量部、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10時間半減期温度=65℃)0.01重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.01重量部をジメチルスルホキシド360重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた容積500Lの反応容器(重合槽1)に入れた。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら下記の条件(以下、「重合条件A」という)の熱処理を行い、溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶液Aを得た。
(1)60℃の温度で2時間保持。
得られたPAN系重合体溶液Aを約100g取り、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して、乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは350万であった。また、この重合反応の重合率は、2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が20ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間後の重合率は3.02%であり、ここから後重合率は3.42%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が9.9%、12hr後の後重合率が36.6%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。次に、かかるPAN系重合体溶液Aに、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部、ジメチルスルホキシド20重量部を添加し、撹拌しながら下記の条件(重合条件Bと呼ぶ。)の熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液Pを得た。
(1)50℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持。
得られたPAN系重合体溶液Pを約10g取り、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのポリマー濃度は19.2wt%であり、重合率は92.1%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.8万、4.0であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
上記の紡糸溶液を用いて紡糸・焼成・評価を行った。
まず、紡糸溶液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃の温度で、孔数6,000、口金孔径0.15mmの紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約2mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールした20重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により紡糸し凝固糸条とした。このときの吐出線速度は7m/分で一定とし、凝固糸の巻取り速度を変更することで限界紡糸ドラフト率の測定を行った。また、紡糸ドラフト率4の条件で凝固糸条を得、水洗した後、90℃の温水中で3倍の浴中延伸倍率で延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、165℃の温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥を行い、加圧水蒸気延伸を行い、限界水蒸気延伸倍率の測定を行った。
製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
さらに、下記の製造条件で得られた炭素繊維束の評価を行った。吐出線速度7m/分、紡糸ドラフト率3の条件で凝固糸条を得た。このようにして得られた凝固糸条を、水洗した後、90℃の温水中で3倍の浴中延伸倍率で延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して浴中延伸糸を得た。このようにして得られた浴中延伸糸を165℃の温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥を行い、2本合糸し、トータルフィラメント数12000とした上で、5倍の水蒸気延伸倍率条件で加圧水蒸気延伸を行い、単繊維繊度0.8dtex、フィラメント数12000の炭素繊維前駆体繊維を得た。得られた炭素繊維前駆体繊維を、240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において延伸比1.0で延伸しながらで90分間耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎化繊維を300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸比1.0で延伸しながら予備炭化処理を行い、さらに最高温度1500℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.97に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例2)
用いる薬品の量を、AIBN0.005重量部、オクチルメルカプタン0.02重量部、DMSO280重量部とした意外は、実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは200万であり、重合率は2.13%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が10ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間後の重合率は2.20%であり、ここから後重合率は3.29%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が10.1%、12hr後の後重合率が37.2%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。次に、かかるPAN系重合体溶液Aに、重合開始剤としてAIBN0.3重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.3重量部、ジメチルスルホキシド16重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液Pを得た。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は23.2wt%であり、重合率は91.9%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ26.7万、4.8であった。
重合体濃度が24重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(比較例1)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液A3を得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは350万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が1ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間後の重合率は4.06%であり、ここから後重合率は39.0%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が113.9%、12hr後の後重合率が404.8%であったことから、溶存酸素濃度が低かったため後重合が進行したと考えられる。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.1wt%であり、重合率は91.9%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ46.2万、4.5であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、水蒸気延伸工程において毛羽がみられ、得られた前駆体繊維の品位もやや低かった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(比較例2)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは350万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が飽和するように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間後の重合率は2.95%であり、ここから後重合率は1.03%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が3.0%、12hr後の後重合率が11.6%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にして第2の重合を開始したが、重合開始から90分間は発熱がみられなかったことから、酸素により重合が阻害されたと考えられる。重合開始から90分経過したところで徐々に発熱が始まり、10時間後、PAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は18.3wt%であり、重合率は88.0%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ42.0万、3.9であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例3)
AN100重量部、イタコン酸1重量部、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10時間半減期温度=65℃)0.01重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.003重量部をジメチルスルホキシド376重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた容積500Lの反応容器(重合槽1)に入れた。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら下記の条件(以下、「重合条件C」という)の熱処理を行い、溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶液Aを得た。
(1)70℃の温度で2時間保持。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは250万であり、重合率は6.74%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が34ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、70℃の温度で2時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。2時間後の重合率は7.17%であり、ここから後重合率は6.38%と計算された。また、該溶液を70℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が9.4%、12hr後の後重合率が32.2%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。次に、かかるPAN系重合体溶液Aに、AN100重量部、イタコン酸1重量部、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部、ジメチルスルホキシド376重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液Pを得た。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.3wt%であり、重合率は92.0%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.8万、4.1であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例4)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が20ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部には窒素ガスをフローしなかった。1時間後の重合率は3.02%であり、ここから後重合率は3.42%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が9.5%、12hr後の後重合率が36.1%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にして第2の重合を開始したが、重合開始から30分間は発熱がみられなかったことから、気相部の酸素により重合が阻害されたと考えられる。重合開始から30分経過したところで徐々に発熱が始まり、10時間後、PAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は18.7wt%であり、重合率は90.0%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ39.9万、4.3であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例5)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が20ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。2時間後の重合率は3.11%であり、ここから後重合率は6.51%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が10.0%、12hr後の後重合率が36.8%であったことから、溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
次に、得られたPAN系重合体溶液A3を重合槽1から重合槽2(重合槽1と同様に環流間と撹拌翼とを備える)に、55℃に温調された配管を通して30分かけて送液した。次に、重合槽2に送液されたPAN系重合体溶液Aに、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部、ジメチルスルホキシド20重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液Pを得た。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.1wt%であり、重合率は91.8%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.5万、4.0であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例6)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aに重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、計算される重合開始剤残存量に対して6モル当量となるように添加し、60℃の温度で1時間撹拌した。1時間後の重合率は3.01%であり、ここから後重合率は3.0%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が8.9%、12hr後の後重合率が33.1%であったことから、重合禁止剤の添加によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.2wt%であり、重合率は92.1%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.8万、4.0であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例7)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aに重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、計算される重合開始剤残存量に対して15モル当量となるように添加し、60℃の温度で1時間撹拌した。1時間後の重合率は2.94%であり、ここから後重合率は0.7%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が2.0%、12hr後の後重合率が7.4%であったことから、重合禁止剤の添加によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.2wt%であり、重合率は92.1%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.7万、4.0であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(実施例8)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aに重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、計算される重合開始剤残存量に対して10モル当量となるように添加した。また同時に、得られたPAN系重合体溶液Aの溶存酸素濃度が3ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間後の重合率は2.94%であり、ここから後重合率は0.9%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が2.6%、12hr後の後重合率が9.8%であったことから、重合禁止剤の添加と溶存酸素濃度の制御によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.1wt%であり、重合率は92.0%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.0万、4.0であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(比較例3)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aに重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、計算される重合開始剤残存量に対して1モル当量となるように添加し、60℃の温度で1時間撹拌した。1時間後の重合率は3.54%であり、ここから後重合率は21.4%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が62.8%、12hr後の後重合率が227.4%であったことから、成長ラジカルをトラップするには添加する重合禁止剤の量が少なく、後重合を効果的に抑制することができなかったと考えられる。
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は19.1wt%であり、重合率は91.8%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ45.5万、4.4であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、水蒸気延伸工程において毛羽がみられ、得られた前駆体繊維の品位もやや低かった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(比較例4)
実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Aを評価したところ、Mwは330万であり、重合率は2.92%であった。
次に、後重合を抑制する目的で、得られたPAN系重合体溶液Aに重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、計算される重合開始剤残存量に対して30モル当量となるように添加し、60℃の温度で1時間撹拌した。1時間後の重合率は2.93%であり、ここから後重合率は0.3%と計算された。また、該溶液を60℃でさらに保温したところ、3時間後の後重合率が1.0%、12hr後の後重合率が3.7%であったことから、重合禁止剤の添加によって後重合を効果的に抑制することができたと考えられる。
実施例1と同様にして第2の重合を開始したが、重合開始から60分間は発熱がみられなかったことから、過剰の重合禁止剤により重合が阻害されたと考えられる。重合開始から60分経過したところで徐々に発熱が始まり、10時間後、PAN系重合体溶液Pを得た。実施例1と同様にしてPAN系重合体溶液Pを評価したところ、ポリマー濃度は18.5wt%であり、重合率は89.0%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ32.9万、4.6であった。
重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。
実施例1と同様にして紡糸・評価を行ったところ、製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の品位は良好であった。
つづいて、実施例1と同様にして得られた前駆体繊維の焼成・評価を行った。焼成工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維の品位は良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、強度は5.0GPaであり、弾性率は300GPaであった。
(参考例1)
水系懸濁重合により以下の通り超高分子量ポリアクリロニトリル系重合体を重合した。
AN100重量部、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10時間半減期温度=65℃)0.03重量部、懸濁安定剤としてポリビニルアルコール(鹸化度1000)1.5重量部、およびイオン交換水109重量部を、還流管と攪拌翼を備えた容積3Lの反応容器に入れ、室温で撹拌して懸濁液を作製した。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら70度の温度で2.5時間のあいだ熱処理を行い、PAN系重合体粉末の水分散液を得た。得られた水分散液から濾過によりPAN系重合体粉末を単離し、該粉末の3倍の体積の水に再度分散させて50℃の温度で2時間撹拌して水溶性の不純物を溶解除去したのち濾過によりPAN系重合体粉末を単離する操作を3回繰り返し、120℃の強制対流式熱風オーブン中で乾燥した。得られたPAN系重合体粉末X1の平均粒径は120μm、嵩比重は0.20g/cmであり、Mwは270万であった。
かかるPAN系重合体粉末X1を、溶媒に溶解後のポリマー濃度が0.55wt%となるように計量し、撹拌しながら室温のDMSOに分散させ、50℃に昇温してさらに16時間撹拌して均一なPAN系重合体溶液を得た。
得られたPAN系重合体溶液を還流管と撹拌翼を備えた容積3Lの反応容器に入れ、溶存酸素濃度が1ppbとなるように流量を制御しながら空気をバブリングし、60℃の温度で1時間撹拌した。このとき、重合槽の気相部の酸素濃度が不必要に高くならないように、気相部には重合反応中と同様の5L/分の流量で窒素ガスをフローさせておいた。1時間経過してもポリマー濃度は増加せず、後重合は進行しなかった。
次に、かかるPAN系重合体溶液に、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部、ジメチルスルホキシド20重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
得られたPAN系重合体溶液を約10g取り、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのポリマー濃度は19.0wt%であり、重合率は91.8%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ41.7万、4.1であった。
(参考例2)
水系懸濁重合により以下の通り超高分子量ポリアクリロニトリル系重合体を重合した。
AN100重量部、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10時間半減期温度=65℃)0.06重量部、懸濁安定剤としてポリビニルアルコール(鹸化度1000)1.5重量部、およびイオン交換水370重量部を、還流管と攪拌翼を備えた容積3Lの反応容器に入れ、室温で撹拌して懸濁液を作製した。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら70度の温度で4時間のあいだ熱処理を行い、PAN系重合体粉末の水分散液を得た。得られた水分散液から濾過によりPAN系重合体粉末を単離し、該粉末の3倍の体積の水に再度分散させて50℃の温度で2時間撹拌して水溶性の不純物を溶解除去したのち濾過によりPAN系重合体粉末を単離する操作を3回繰り返し、120℃の強制対流式熱風オーブン中で乾燥した。得られたPAN系重合体粉末X2の平均粒径は105μm、嵩比重は0.32g/cmであり、Mwは240万であった。
かかるPAN系重合体粉末X2を、溶媒に溶解後のポリマー濃度が0.55wt%となるように計量し、撹拌しながら室温のN,N−ジメチルホルムアミドに分散させ、50℃に昇温してさらに12時間撹拌して均一なPAN系重合体溶液を得た。
参考例1と同等にして後重合率を評価したが、後重合は進行しなかった。
次に、かかるPAN系重合体溶液に、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.03重量部、N,N−ジメチルホルムアミド20重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
得られたPAN系重合体溶液を約10g取り、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのポリマー濃度は18.6wt%であり、重合率は89.1%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ33.3万、4.9であった。
(参考例3)
参考例1で作製したPAN系重合体粉末X1を、凍結粉砕(凍結粉砕器としてSpex社製Freezer/Mill6750を使用し、粉砕時間を2分、待機時間を2分、粉砕サイクルを2回に設定して粉砕を実施した。)して平均粒径を5μmとした後に、溶媒に溶解後のポリマー濃度が0.55wt%となるように計量し、撹拌しながら室温のN,N−ジメチルアセトアミドに分散させ、50℃に昇温してさらに2時間撹拌して均一なPAN系重合体溶液を得た。
参考例1と同等にして後重合率を評価したが、後重合は進行しなかった。
次に、かかるPAN系重合体溶液に、重合開始剤としてAIBN0.4重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.01重量部、N,N−ジメチルアセトアミド20重量部を添加し、撹拌しながら重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
得られたPAN系重合体溶液を約10g取り、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのポリマー濃度は18.8wt%であり、重合率は90.1%であった。また、MwおよびMz/Mwはそれぞれ27.9万、6.4であった。
参考例1〜3で示したように、水系懸濁重合により重合して単離したPAN系重合体粉末を溶解して得たPAN系重合体溶液は、後重合が進行しないため、超高分子量成分量を少量含むPAN系重合体溶液を重合する方法として用いる場合、精製および再溶解などの工程を追加する必要があることを除けば、品質安定性の観点からは極めて優れる方法である。
Figure 2012025810

Claims (9)

  1. アクリロニトリルを主成分とする単量体と第1の重合開始剤とを含む原料混合物を加熱して、重量平均分子量Mwが100万〜800万のポリアクリロニトリル系重合体であるA成分と未反応単量体とを含む反応溶液を得る第1の重合工程と、第1の重合工程の後、第2の重合開始剤を追加し、前記未反応単量体を重合する第2の重合工程とを含むポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法において、第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を投入するまでの間、以下のいずれか、または両方の処理を行うことを特徴とするポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
    (i)重合開始剤濃度に対して溶存酸素濃度を1〜10モル当量倍に制御する
    (ii)重合開始剤濃度に対して5〜20モル当量倍の重合禁止剤を添加する
  2. 第1の重合工程終了後から第2の重合開始剤を投入するまでの間、溶存酸素濃度を5〜1000ppbに制御する、請求項1に記載のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
  3. 溶存酸素濃度の制御方法が、反応溶液に酸素を30ppm以上含む気体をバブリングするものである、請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
  4. 酸素を含む気体が空気である、請求項3に記載のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
  5. 溶存酸素濃度を制御する間、気相部に不活性ガスをフローさせる、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
  6. 不活性ガスが窒素である、請求項5に記載のポリアクリロニトリル混合溶液の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた重量平均分子量Mwが10万〜80万、Mz/Mwが2.7〜10であるポリアクリロニトリル混合溶液。
  8. 請求項7に記載のポリアクリロニトリル混合溶液を乾湿式紡糸することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  9. 請求項8に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法により得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
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