JP2012021388A - 耐震診断システム - Google Patents

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Abstract

【課題】建物の耐震性能を簡単に取得できるような耐震診断システムを提供する。
【解決手段】建物の2階に水平動起振機20を設置して建物を振動させ、それに起因する振動の加速度を振動検出器(21、22、23)で検出して、少なくもと2つの振動検出器からの検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器15を備える。解析器は、各検出信号について加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク値を示す時の振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出し、検出した前記動的固有周波数fと、予め与えられている耐震等級Iでの固有周波数4.98(Hz)を用い、予め定められた式、Md=(f/4.98)を用いて建物の動的壁率Mdを算出する。更に、動的評点Hdを、少なくとも建物のそれぞれの壁について算出し、Md’=(f/5.57)を用いて建物の動的壁率Md’を算出する。
【選択図】図1

Description

本発明は建物、特に木造住宅家屋の耐震性能を診断するのに適した耐震診断システムに関する。
木造住宅の耐震性に対する様々な技術的検討が進められ、新たな耐震診断法や補強方法が提案されている。これまでの在来軸組構法木造住宅の耐震診断法には、簡易診断法・一般診断法・精密診断法などがあり、それぞれの目的に応じて採用されてきた。
簡単な調査と目視による簡易診断法は別として、一般診断法や精密診断法の場合、診断を行う人が建築に関わるやや高度な知識や経験を有する必要があるので、診断内容に個人差が生じやすく、設計図書の判読、建物の詳細な調査、及び診断図書の作成などにかなりの時間と労力が必要であった。
それに対して地震波診断法は、水平動起振機を用いて建物を振動させ、コンピュータ制御により計測された周波数から耐震診断をするので、専門家でなくとも計測することができ、診断内容も個人差がなく、調査に関わる時間もかなり短縮できる。しかも、耐力壁以外の袖壁や垂れ壁なども含めた建物全体としての振動を測定するので、建物全体のかなり正確な耐震診断が可能である。
「小規模建築物基礎設計指針」、日本建築学会発行、第65頁 「木造住宅の耐震診断と補強方法」、日本建築防災協会発行 第29頁、第49頁 平成12年建設省告示第1654号 第5 評価方法の基準 1.構造の安全に関すること
建物の耐震診断をする方法として、例えば簡易診断・一般診断・精密診断がある。これらの耐震診断は、建物に対して様々な調査を行い、その調査結果を用いて計算し耐震性能を出すことができる。しかしながら、調査作業は煩雑であり、耐震診断計算も1つの計算式で与えられるものではなく、複雑である。
このような問題点に鑑み、本発明は、建物の耐震性能を簡単に取得できるような耐震診断システムを提供しようとするものである。
本発明はまた、新築の建物のみならず、中古の建物にも適用可能な耐震診断システムを提供することにある。
本発明は更に、建物の耐震性能が不足する場合に補強の目安を簡単に知ることのできる耐震診断システムを提供することにある。
本発明による耐震診断システムは以下の態様を取り得る。
(第1の態様)
建物の2階に水平動起振機を設置して建物を振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、
少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含み、
前記解析器は、解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出し、
前記解析器は更に、検出した前記動的固有周波数fと予め与えられている耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)を用い、予め定められた以下の式、
Md=(f/4.98)
を用いて建物の動的壁率Mdを算出することを特徴とする耐震診断システム。
(第2の態様)
建物の2階に水平動起振機を設置して建物を振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、
少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含み、
前記解析器は、解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出し、
前記解析器は更に、建物における垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合、検出した前記動的固有周波数fと予め与えられている耐震等級Iの建物の固有周波数5.57(Hz)を用い、予め定められた以下の式、
Md’=(f/5.57)
を用いて建物の動的壁率Md’を算出することを特徴とする耐震診断システム。
(第3の態様)
上記第1又は第2の態様において、前記解析器は更に、基準耐力1.96(KN)、変位角1/120(rad)、算出した前記動的壁率Md又はMd’と、予め与えられている建物の単位面積あたりの壁量R(m/m)、建物の1階床面積S(m)、及び建物基礎の上面から2階床面までの階高h(cm)を用い、予め定められた以下の式、
Kd=(1.96×120×R×Md×S)/h又は
Kd=(1.96×120×R×Md’×S)/h
を用いて建物の動的剛性Kd(KN/cm)を算出する。
(第4の態様)
上記第3の態様において、前記解析器は更に、算出した前記動的剛性Kdと、予め与えられている建物の変位量△x=h/120(cm)を用い、予め定められた以下の式、
Qkd1=Kd×△x
を用いて損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)を算出する。
(第5の態様)
上記第4の態様において、前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1と、前記建物の1階床面積S、建物の単位重量Wi(KN/m)、及び重力の加速度g(=980cm/sec)を用い、予め与えられた以下の式、
α={Qkd1/(S×Wi)}×g
を用いて損傷限界時の建物の加速度α(gal)を算出する。
(第6の態様)
上記第5の態様において、前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の加速度αと、予め与えられている安全限界での塑性とみなした加速度値(α+200)(gal)、及び安全限界での弾性とみなした加速度値4×α(gal)を用い、予め与えられた以下の式、
d=(α+200)/(4×α)
を用いて安全限界時の耐力低減係数dを算出する。
(第7の態様)
上記第6の態様において、前記解析器は更に、算出した前記動的剛性Kd(KN/cm)と、前記予め与えられている建物の変位量△x、算出した前記安全限界時の耐力低減係数d、及び安全限界での変位量の換算値(120/30)を用い、予め定められた以下の式、
Qkd2=Kd×△x×d×(120/30)
を用いて安全限界時の建物の保有耐力Qkd2(KN)を算出する。
(第8の態様)
上記第7の態様において、前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)、予め与えられている中古住宅の改修前の劣化係数0.62、及び中古住宅の改修後の劣化係数0.71を用い、予め定められた以下の式、
Qkd3=Qkd1×0.62
Qkr4=Qkd1×0.71
を用いて中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)と中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を算出する。
(第9の態様)
上記第8の態様において、前記解析器は更に、建物の層せん断力係数Co、前記建物の単位重量Wi、前記建物の1階床面積S、及び建物形状による低減係数K1を用い、予め定められた以下の式、
Qr1=Co×Wi×S×K1
を用いて建物の必要耐力Qr1(KN)を算出するか、又は、建物の1階床面積S、及び建物形状による必要耐力係数を用い、予め定められた以下の式、
Qr2=S×必要耐力係数
を用いて建物の必要耐力Qr2(KN)を算出すると共に、
算出した前記建物の必要耐力Qr1(KN)、又は、算出した前記建物の必要耐力Qr2(KN)、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)、算出した前記安全限界時の建物の保有耐力Qkd2(KN)、算出した前記中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)、算出した前記中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を用い、予め定められた以下の式、
Hd1=Qkd1/(Qr1又はQr2)
Hd2=Qkd2/(Qr1又はQr2)
Hd3=Qkd3/(Qr1又はQr2)
Hd4=Qkd4/(Qr1又はQr2)
を用いて損傷限界時の動的評点Hd1、安全限界時の動的評点Hd2、中古住宅の改修前の動的評点Hd3、中古住宅の改修後の動的評点Hd4を算出する。
本発明によれば、建物自体の持つ耐震性能を計測し、より効果的で安価に耐震補強のできる手法が提供される。すなわち、本発明による耐震診断システムは、まず、その建物の持つ固有周波数、動的壁率、動的剛性、保有耐力を,解析器を使用して正確に算出、表示できる。これにより、顧客は自身の建物の周りで発生する近い将来の地震に対し、建物が倒壊しないだけの十分安心できる補強を考えることができる。補強は、壁の補強、筋交いの補強、梁の補強、床板の補強、重い屋根を軽い屋根に代える間接的な補強方法のいずれも事前に評価し、実施することが可能である。また、新築住宅の経年変化による劣化度なども、数年ごとの計測により可能である。
本発明による耐震診断システムの実施形態の構成を示すブロック図である。 2階建て住宅の場合の実施形態における振動検出器の設置形態及び建物上部荷重の定義を説明するための図である。 2階建て住宅の場合の実施形態における振動検出器の設置形態を説明するための平面図である。 図1の実施形態において検出される加速度と動的共振周波数の関係を示した図である。 木造住宅における加速度と変位量の関係を示す特性図である。 建物の必要耐力Qr1の算定に必要な建物の単位重量を示した図である。 建物の必要耐力Qr2の算定に必要な建物の必要耐力係数を示した図である。 建物の動的剛性Kdの算定に必要な、品確法により定められている壁量を示した図である。 建物の安全限界時の保有耐力の算定に必要な耐力低減係数dの算定例を示した図である。 中古住宅の改修前と改修後の保有耐力の算定に必要な劣化係数の例を示した図である。
図1を参照して、本発明による耐震診断システムの実施形態について説明する。以下で説明される各種指標の算出は、特に「中古」ということわりの無い限り、新築の建物の場合であるが、中古の建物であっても同様に適用可能である。また、各種指標に「動的」という語句を付しているのは、建物を強制的に振動させた結果得られる計測信号を用いて得られた値であるので、固定値のみで算出される、いわば「静的」な値とは区別されるべきであることを企図している。
本耐震診断システムは、周波数可変の加振信号を発生する任意波発振器11、加振信号を増幅する電力増幅器12、電力増幅器12からの増幅された加振信号で建物に対して加振を行なう水平動起振機20、水平動起振機20で加振されている間の振動の加速度を検出する第1、第2、第3の振動検出器21、22、23、これらの検出信号を増幅するための第1、第2、第3の増幅器13、17、24、アナログ信号である検出信号をディジタルの加速度信号に変換する第1、第2、第3のA/D変換器14、18、25、解析器15、パラメータ入力部19を含む。振動検出器は加速度や速度を検出する手段として用いられており、以下では加速度を検出する場合について説明するが、速度を検出するようにしても良い。
2階建ての建物の場合、図2に示すように、水平動起振機20、第1〜第3の振動検出器21〜23は建物基礎101の上面から階高hの2階の床に設置され、特に第3の振動検出器23は建物1の重心対応位置またはその近傍に設置された水平動起振機20に近い位置に設置される。図2に示すWは建物1の単位重量(荷重)(KN/m)であり、2階建住宅の場合、建物基礎101の上面から所定の高さh(m)、ここではh/2(m)の高さより上方の建物1の重量が建物1の1m当たりの単位重量Wとして扱われる。
本耐震診断システムは、水平動起振機20を導入して、建物1に対して積極的に振動を与える。従って、水平動起振機20により、X方向(東西方向)の揺れを発生させるような振動を与えつつ建物2階の床の北側端部、南側端部、及びこれらの中間部に設置した第1、第2、第3の振動検出器による計測を行う一方、Y方向(南北方向)の揺れを発生させるような振動を与えつつ東側端部、西側端部、及びこれらの中間部に設置した第1、第2、第3の振動検出器による計測を行う。なお、説明を簡単にするためにX方向を東西方向、Y方向を南北方向としているが、建物は、横断面が必ず長四角形で、4つの壁が東西、南北に面しているとは限らない。この場合、水平動起振機20による加振は、壁に対して直角に作用するように行なわれる。
図3は、図2に示された水平動起振機20、第1〜第3の振動検出器21〜23の設置形態を平面図で示す。図3は、水平動起振機20でX方向について起振する場合について示している。この場合、建物の2階床の北側端部、南側端部にそれぞれ、第1、第2の振動検出器21、22が設置され、建物1の重心対応位置またはその近傍に設置された水平動起振機20に近い中間位置に第3の振動検出器23が設置される。すなわち、第1〜第3の振動検出器21〜23はY方向(南北方向)に並設される。一方、水平動起振機20でY方向について起振する場合、2階床の東側端部、西側端部にそれぞれ、第1、第2の振動検出器21、22が設置され、水平動起振機20に近い中間位置に第3の振動検出器23が設置される。すなわち、第1〜第3の振動検出器21〜23はX方向に並設される。
なお、本実施形態による耐震診断システムは、振動検出器を3個備える3チャンネルタイプであるが、3チャンネルタイプに比べて安価な2チャンネルタイプ、つまり振動検出器を2個備えたものでも良い。これは、図3のY方向について言えば、解析に必要な加速度検出信号は、北側の壁と南側の壁について解析すれば良い場合には第1、第2の振動検出器21、22の組み合わせ配置による1回の計測作業で得ることができ、北側の壁と南側の壁及びこれらの間の床について解析が必要である場合には第1、第3の振動検出器21、23の組み合わせ配置による計測作業と、第2、第3の振動検出器22、23の組み合わせ配置による計測作業で得ることができるからである。言い換えれば、北側の壁と南側の壁及びこれらの間の床について解析を行う場合について言えば、図3の3チャンネルタイプの場合、水平動起振機20による加振及び計測作業は1回で済む。一方、2チャンネルタイプの場合には2個の振動検出器を図3の21と23の位置(いずれも実線で示す)に配置して加振及び計測作業を行い、次に2個の振動検出器を図3の22と23の位置(いずれも実線で示す)に変更配置して加振及び計測作業を行うことで3チャンネルタイプと同等の検出を行うことができる。この場合、北側の壁と南側の壁の間の床については重複することになるが、一方の値を採用すれば良い。X方向の場合も同様である。
そこで、以下では、図3における第1、第3の振動検出器21、23の組み合わせのみについて説明する。この場合、後述する各指標は、第1の振動検出器21の検出信号を用いて建物の北側の壁について算出され、第3の振動検出器23の検出信号を用いて北側の壁と南側の壁の間の床について算出されることを意味する。
次に、本耐震診断システムによる耐震性能診断について説明する。以下の耐震性能診断は、解析器15の記憶装置にインストールされている耐震性能診断のための解析処理プログラム(耐震診断プログラム)に基づいて行われる。従って、解析器15は、パーソナルコンピュータ、特にポータブルタイプのパーソナルコンピュータによって実現され、耐震診断に際しては記憶装置から解析処理プログラムを読み出して解析処理を実行する。この場合、パラメータ入力部19はキーボードで実現される。また、増幅器、A/D変換器は解析器に内蔵されていても良い。
図3に示すように、建物2階の北側端部に設置された第1の振動検出器21、建物2階の南側端部に設置された第2の振動検出器22は、水平動起振機20による東西方向の揺れに起因する加速度を検出する。第1、第2の振動検出器21、22からの加速度検出信号は、様々な周波数成分の加速度を持つ。第1、第2の振動検出器21、22で検出された加速度検出信号は、第1、第2の増幅器13、17で増幅され第1、第2のA/D変換器14、18でディジタル信号に変換されて解析器15に与えられる。解析器15は、前述のように解析処理プログラムに基づいて信号処理及び解析処理を行う。
解析器15は、第1、第2のA/D変換器14、18の出力信号をそれぞれA(t)、B(t)とした場合、信号処理として以下の数1によるフーリエ変換を行なう。
Figure 2012021388
解析器15はまた、解析処理として、処理された信号S(f)、S(f)に対してここでは周波数分析を行い、各加速度検出信号における周波数成分と加速度値との関係を分析する。すると、図4に示すように、ある特定の周波数において加速度値がピーク値を示す。この時の周波数は固有周波数(共振周波数)と呼ばれ、解析器15はこの固有周波数fを動的固有周波数(動的共振周波数)として検出する。
ここで、図3で説明したように、東西方向に揺れる振動について計測した場合には、第1、第2の振動検出器21、22の出力である第1、第2の加速度検出信号からは同じ動的固有周波数(但し、加速度のピーク値は異なることが多い)が検出されることとなる。これをX方向(東西方向)の動的固有周波数fmXとする。この検出値は記憶装置に保存される。
東西方向に揺れる振動について計測が終了すると、第1、第2の振動検出器21、22をそれぞれ、東側端部、西側端部に移し替える。建物2階の東側端部に設置された第1の振動検出器21、建物2階の西側端部に設置された第2の振動検出器22は、水平動起振機20による南北方向の揺れに起因する加速度を検出する。その結果、上記と同様の信号処理及び解析処理により、解析器15は、南北方向に揺れる振動に対し、第1、第2の振動検出器21、22からY方向(南北方向)の動的固有周波数fmYを検出し、これを記憶装置に保存する。
以下では、上記のようにして得られたX方向の動的固有周波数fmXとY方向の動的固有周波数fmYを用いて各種計算が行なわれるが、動的固有周波数fmXを用いた計算と動的固有周波数fmYを用いた計算は同じであるので、説明を簡単にするために、動的固有周波数fとして説明を行う。従って、以下の説明は、X方向に関する各種算定、Y方向に関する各種算定のいずれにも適用され得る。
さて、解析器15は、予め定められた演算処理を行なって建物の必要耐力を算出すると共に、上記の動的固有周波数fを使用して耐震性能判断に必要な指標として、少なくとも動的壁率、動的剛性、保有耐力、加速度、動的評点を算出する。以下に、これらの算出方法について説明する。
なお、図3のY方向に関して言えば、前述した通り、図3の21と23の位置(いずれも実線で示す)に配置した2個の振動検出器からの加速度検出信号を用いて建物の北側の壁(図3の上側)と北側の壁と南側の壁の間の床についての上記各指標が算出される。X方向に関して言えば、例えば図3の21(破線で示す)と23の位置に配置した2個の振動検出器からの加速度検出信号を用いて建物の東側の壁(図3の右側)と東側の壁と西側の壁の間の床についての上記各指標が算出される。
1.建物の必要耐力の算出
建物の必要耐力というのは、建物に耐力壁などの地震に有効な部材がどれだけ必要かを表す数値で、解析器15は、必要耐力を、以下の式(1)又は(2)に基づいて算出する。
必要耐力Qr1=Co×Wi×S×K1 (1)
必要耐力Qr2=S×必要耐力係数 (2)
式(1)は、建築基準法により定められている式を、層せん断力係数Co(=0.20)、建物の単位重量Wi(KN/m)、建物の1階床面積S(m)、建物形状による低減係数K1を用いて簡略化した式である。単位重量Wi、低減係数K1は、図6を参照して決められる。例えば、一般地域の2階建の軽量屋根の場合、単位重量Wiは3.67を用いる。図6は非特許文献1の第65頁に記載されているが、単位重量Wiは建物仕様の実状に合わせて別途算定する場合がある。建物形状による低減係数K1は非特許文献2の第49頁に記載されている。
式(2)は、非特許文献2の第25頁に記載されており、必要耐力係数は図7を参照して決められる。例えば、一般診断の場合の2階建の建物の必要耐力係数は図7の0.83を用い、精密診断の場合の2階建の建物の必要耐力係数は図7の0.72を用いる。図7の一般診断については非特許文献2の第25頁、精密診断については非特許文献2の第49頁にそれぞれ記載されている。
上記の算出に必要な緒元は、いずれもパラメータ入力部19から入力される。そして、上記の算出に用いられる諸元はすべて固定値であるので、得られる値は、いわば静的耐力である。
2.建物の動的壁率の算出
動的壁率というのは、建物の壁率の倍数(壁倍率)であり、解析器15でこれを算出することで、建物の壁に対する補強の必要性の有無を判定するために用いる。
解析器15は、加速度検出信号を用いて得られた動的固有周波数fを用い、動的壁率を、以下の式(3)に基づいて算出する。
動的壁率Md=(f/4.98) (3)
この式(3)は、以下のように導かれたものである。
一般的に、重力の加速度g=980(cm/sec)と建物の固有周波数f(Hz)の間にはg=(2πfの関係がある。この式からf=√980/2π=4.98(Hz)となり、耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)が求められ、建物について計測して得られた動的固有周波数f(Hz)より動的壁率Mdが得られる。
動的壁率Mdは、建物の壁量の過不足を表す数値(倍率)で、数値が1.0より大きいほど壁量が多く耐震性能の高い建物であることを表し、数値が1.0より小さいほど壁量が少なく耐震性能の低い建物であることを表す。つまり、数値の大小によって建物の耐震性能が分かり、下記のように、建築基準法で定められている耐震等級I、II、IIIと、後述される動的評点Hdとの比較が可能である。
耐震等級 I II III
安全倍率 1.0 1.25 1.5
動的壁率Md 1.0 1.5 2.0
動的評点Hd 1.0 1.25 1.5
動的壁率が1.0より小さい場合には、壁の場合には主に壁、筋交い、その他、床の場合には主に梁、床板、その他について補強を行なって1.0を超えるようにする。
3.建物の損傷限界時の動的剛性(バネ定数)の算出
解析器15は、上記項目2で算出した動的壁率Mdを用い、建物のY方向(南北方向)あるいはX方向(東西方向)の動的剛性Kd(KN/cm)を、以下の式(4)に基づいて算出する。
動的剛性Kd=1.96×120×R×Md×S/h (4)
式(4)は、一般的な建物の剛性を導く式に、動的壁率Mdを加えて導き出したもので、基準耐力1.96(KN)、変位角1/120(rad)を代入している。前述したように、hは建物基礎の上面から2階床面までの階高(cm)である。Rは建築基準法で定められた必要壁率であり、図8を参照して決められる。図8は、建築基準法における品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律:第3条第1項に基づく、平成12年建設省告示第1654号)に定められた壁量を示している(非特許文献3参照)。図8を参照して一例を挙げると、2階建の軽量材による軽い屋根の場合0.36(m/m)、重量材による重い屋根の場合0.46(m/m)という値が定められている。
動的剛性Kdは、建物の曲げ強さ、すなわち建物が外力によって変形しない強さ、変形のしづらさの度合いを表し、数値が大きいほど変形しづらく耐震性能の高い建物を表し、数値が小さいほど変形しやすく耐震性能の低い建物を表す。動的剛性Kdは、動的壁率Mdの大きさに比例して変動する。解析器15は、動的剛性Kdが小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
4.建物の損傷限界時の保有耐力の算出
建物の保有耐力というのは、建物が耐力壁などの地震に有効な部材をどれだけ保有しているかを表す数値で、解析器15は、上記項目3で算出した動的剛性Kdを用い、保有耐力を以下の式(5)に基づいて算出する。
保有耐力Qkd1=Kd×△x (5)
△xは変位量{=h/120(cm)}である。
保有耐力Qkd1(KN)は、地震に対して建物が保有している強さで、数値が大きいほど強い建物で耐震性能の高い建物を表し、数値が小さいほど弱い建物で耐震性能の低い建物を表す。保有耐力Qkd1は、動的剛性Kdの大きさに比例して変動する。解析器15は、保有耐力Qkd1が小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
5.建物の損傷限界時の加速度の算出
解析器15は、上記項目4で算出した保有耐力Qkd1を用い、建物のY方向(南北方向)あるいはX方向(東西方向)の加速度α(gal)を、以下の式(6)に基づいて算出する。
加速度α={Qkd1/(S×Wi)}×980 (6)
加速度αは、地震の大きさを表す数値で、加速度値が大きいほど耐震性能の高い建物を表し、加速度値が小さいほど耐震性能の低い建物を表す。加速度αは、保有耐力Qkd1の大きさに比例して変動する。解析器15は、加速度αが小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
6.建物の安全限界時の耐力低減係数の算出
建物の耐力低減係数というのは、安全限界での弾性とみなした加速度値から安全限界での塑性とみなした加速度値が減少している割合を表す数値であり、解析器15は、上記項目5で算出した加速度αを用い、以下の式(7)に基づいて耐力低減係数を算出する。
耐力低減係数d=(α+200)/(4×α) (7)
式(7)は、木造建物の加速度−変位量特性を示す図5を参照して、安全限界での塑性とみなした加速度値(α+200)(gal)を、安全限界での弾性とみなした加速度値4×α(gal)で割って導かれる。すなわち、図5より(α+200)は、損傷限界での加速度値α(gal)に、安全限界での塑性曲線加速度値の増加分200(gal)を足した値で、(4×α)は損傷限界での加速度値α(gal)に、安全限界での弾性直線加速度値の増加分120/30=4倍したものである。
7.建物の安全限界時の保有耐力の算定
建物の保有耐力というのは、建物が耐力壁などの地震に有効な部材をどれだけ保有しているかを表す数値であり、解析器15は、上記項目4で算出した保有耐力Qkd1、項目6で算出した耐力低減係数dを用い、安全限界時の保有耐力を以下の式(8)に基づいて算出する。
保有耐力Qkd2=Qkd1×d×(120/30)
=Kd×△x×d×(120/30) (8)
式(8)は、項目4で説明した損傷限界{変位角1/120(rad)}時の保有耐力Qkd1の算出式(5)を基にし、安全限界{変位角1/30(rad)}での建物の耐力低減係数d、変位量の換算値120/30=4から導かれたものである。建物の耐力低減係数dの算定例を図9に示す。
8.中古住宅の場合の劣化係数の算出
中古住宅の劣化係数というのは、建物各部の劣化状況を目視により判定した数値で、劣化係数は以下の式(9)で表される。
改修前の劣化係数(J×E×D)=0.62
改修後の劣化係数(J×E×D)=0.71 (9)
式(9)は、建物の基礎と接合部の低減係数J、建物の床仕様と偏心の低減係数E、建物の目視による劣化度Dを、それぞれ日本建築防災協会の一般耐震診断ソフトを使用して、6棟の中古住宅について実際に改修前と改修後を解析した結果の平均値(図10参照)から導き出したものである。
解析器15は、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1、上記の方法で得られた中古住宅の改修前の劣化係数0.62、及び中古住宅の改修後の劣化係数0.71を用い、以下の式(10)を用いて中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)と中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を算出する。
Qkd3=Qkd1×0.62
Qkr4=Qkd1×0.71 (10)
9.建物の動的評点の算出
建物の動的評点というのは、想定された地震に対する建物が保有する耐力の安全率であり、解析器15は、動的評点を以下の式(11)に基づいて算出する。
損傷限界時の動的評点 Hd1=Qkd1/(Qr1又はQr2)
安全限界時の動的評点 Hd2=Qkd2/(Qr1又はQr2)
中古住宅の改修前の動的評点Hd3=Qkd3/(Qr1又はQr2)
中古住宅の改修後の動的評点Hd4=Qkd4/(Qr1又はQr2)
(11)
動的評点は、建物の保有耐力(建物が実際に保有している耐力)Qkd(KN)を建物の必要耐力(設計上、建物に要求される耐力)Qr1又はQr2(KN)で割ることで得られる。つまり、損傷限界時の保有耐力Qkd1を必要耐力Qr1又はQr2で割ると新築住宅の損傷限界時の動的評点Hd1が得られ、安全限界時の保有耐力Qkd2を必要耐力Qr1又はQr2で割ると新築住宅の安全限界時の動的評点Hd2が得られる。同様にして、中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3を必要耐力Qr1又はQr2で割ると中古住宅の改修前の動的評点Hd3が得られ、中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4を必要耐力Qr1又はQr2で割ると中古住宅の改修後の動的評点Hd4が得られる。
言うまでもなく、動的評点は1以上であることが望ましく、もし、動的評点が1より小さいという診断結果が出た場合には、その程度に応じて動的評点が1以上になるような補強を施すことになる。補強は、壁の補強、筋交の補強、梁の補強、床板の補強、重い屋根を軽い屋根に代える(例えば瓦を代える)等、様々な形態で実施することができる。
ところで、非特許文献2には、垂れ壁・腰壁を詳細に評価しない方法ではその他の耐震要素の耐力は、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮し、建物の必要耐力Qrに25%の係数を用いて耐力PeをPe=0.25×Qrとして算出することが記載されている。
これに対し、上記実施形態の「2.建物の動的壁率の算出」において用いた耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)は、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮していない数値であり、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合には上記の建物の固有周波数4.98(Hz)も上記の25%の係数が考慮されるべきである。そして、上記の25%の係数を考慮した場合の耐震等級Iの建物の固有周波数fm1は、
m1=(1+0.25)1/2×4.98
=5.57(Hz)
となる。
そこで、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合、建物の動的壁率の算出は、「2.建物の動的壁率の算出」において用いたMd=(f/4.98)に代えて、Md’=(f/5.57)を用いて動的壁率Md’を算出し、算出結果から建物の壁に対する補強の必要性の有無を判定することが望ましい。そして、この場合、前述した「3.建物の損傷限界時の動的剛性(バネ定数)の算出」における動的剛性Kdは、前述した式(4)のMdに代えて、Md’を代入して算出を行なう。「4.建物の損傷限界時の保有耐力の算出」以降の動作はまったく同様である。
なお、上記実施形態の説明では、2階建ての建物、特に木造戸建住宅に適用した場合について説明したが、3階建て建物にも適用可能であり、3階建ての場合も水平動起振機及び振動検出器を2階の床面に設置して解析が行われる。また、1階建て、つまり平屋であっても、規模の大きな建物、例えば寺社、神社のような大きな平屋の場合には、天井の梁に水平動起振機及び振動検出器を設置して解析を行うことができる。
1 建物
20 水平動起振機
21、22、23 第1、第2、第3の振動検出器
101 建物基礎

Claims (9)

  1. 建物の2階に水平動起振機を設置して建物を振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、
    少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含み、
    前記解析器は、解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出し、
    前記解析器は更に、検出した前記動的固有周波数fと予め与えられている耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)を用い、予め定められた以下の式、
    Md=(f/4.98)
    を用いて建物の動的壁率Mdを算出することを特徴とする耐震診断システム。
  2. 建物の2階に水平動起振機を設置して建物を振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、
    少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含み、
    前記解析器は、解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出し、
    前記解析器は更に、建物における垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合、検出した前記動的固有周波数fと予め与えられている耐震等級Iの建物の固有周波数5.57(Hz)を用い、予め定められた以下の式、
    Md’=(f/5.57)
    を用いて建物の動的壁率Md’を算出することを特徴とする耐震診断システム。
  3. 前記解析器は更に、基準耐力1.96(KN)、変位角1/120(rad)、算出した前記動的壁率Md又はMd’と、予め与えられている建物の単位面積あたりの壁量R(m/m)、建物の1階床面積S(m)、及び建物基礎の上面から2階床面までの階高h(cm)を用い、予め定められた以下の式、
    Kd=(1.96×120×R×Md×S)/h又は
    Kd=(1.96×120×R×Md’×S)/h
    を用いて建物の動的剛性Kd(KN/cm)を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震診断システム。
  4. 前記解析器は更に、算出した前記動的剛性Kdと、予め与えられている建物の変位量△x=h/120(cm)を用い、予め定められた以下の式、
    Qkd1=Kd×△x
    を用いて損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)を算出することを特徴とする請求項3に記載の耐震診断システム。
  5. 前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1と、前記建物の1階床面積S、建物の単位重量Wi(KN/m)、及び重力の加速度g(=980cm/sec)を用い、予め与えられた以下の式、
    α={Qkd1/(S×Wi)}×g
    を用いて損傷限界時の建物の加速度α(gal)を算出することを特徴とする請求項4に記載の耐震診断システム。
  6. 前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の加速度αと、予め与えられている安全限界での塑性とみなした加速度値(α+200)(gal)、及び安全限界での弾性とみなした加速度値4×α(gal)を用い、予め与えられた以下の式、
    d=(α+200)/(4×α)
    を用いて安全限界時の耐力低減係数dを算出することを特徴とする請求項5に記載の耐震診断システム。
  7. 前記解析器は更に、算出した前記動的剛性Kd(KN/cm)と、前記予め与えられている建物の変位量△x、算出した前記安全限界時の耐力低減係数d、及び安全限界での変位量の換算値(120/30)を用い、予め定められた以下の式、
    Qkd2=Kd×△x×d×(120/30)
    を用いて安全限界時の建物の保有耐力Qkd2(KN)を算出することを特徴とする請求項6に記載の耐震診断システム。
  8. 前記解析器は更に、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)、予め与えられている中古住宅の改修前の劣化係数0.62、及び中古住宅の改修後の劣化係数0.71を用い、予め定められた以下の式、
    Qkd3=Qkd1×0.62
    Qkr4=Qkd1×0.71
    を用いて中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)と中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を算出することを特徴とする請求項7に記載の耐震診断システム。
  9. 前記解析器は更に、建物の層せん断力係数Co、前記建物の単位重量Wi、前記建物の1階床面積S、及び建物形状による低減係数K1を用い、予め定められた以下の式、
    Qr1=Co×Wi×S×K1
    を用いて建物の必要耐力Qr1(KN)を算出するか、又は、建物の1階床面積S、及び建物形状による必要耐力係数を用い、予め定められた以下の式、
    Qr2=S×必要耐力係数
    を用いて建物の必要耐力Qr2(KN)を算出すると共に、
    算出した前記建物の必要耐力Qr1(KN)、又は、算出した前記建物の必要耐力Qr2(KN)、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1(KN)、算出した前記安全限界時の建物の保有耐力Qkd2(KN)、算出した前記中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)、算出した前記中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を用い、予め定められた以下の式、
    Hd1=Qkd1/(Qr1又はQr2)
    Hd2=Qkd2/(Qr1又はQr2)
    Hd3=Qkd3/(Qr1又はQr2)
    Hd4=Qkd4/(Qr1又はQr2)
    を用いて損傷限界時の動的評点Hd1、安全限界時の動的評点Hd2、中古住宅の改修前の動的評点Hd3、中古住宅の改修後の動的評点Hd4を算出することを特徴とする請求項8に記載の耐震診断システム。
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