発明の説明
I.概要
本発明は、Fcγレセプターアンタゴニストを提供することによってIgGおよび免疫複合体に媒介される疾患を処置するための新規治療法に対するニーズを満たす。特に、本発明に記載のFcγレセプターアンタゴニストは、FcγRIAの改変された細胞外ドメイン(ここで、第1Igドメイン(D1)は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1Igドメインで置換される)を含む可溶性ハイブリッドレセプターである。そのようなハイブリッドレセプターは、天然のFcγRIAの高親和性結合を維持し、免疫複合体の析出によって媒介される炎症性プロセスを含むIgG媒介性炎症を減少させるための方法において使用され得る。
可溶性FcγRIAは、皮膚アルサス反応における炎症を阻止するが、可溶性FcγRIIAまたはFcγRIIIAは、阻止しないことが見出された(実施例9および10を参照のこと)。さらに、可溶性FcγRIAは、細胞のFcγRを介した免疫複合体の結合およびシグナル伝達も阻止することが見出された(下記の実施例に詳細に記載される)。可溶性FcγRIAが、マウスにおける、皮膚アルサス反応、関節炎のコラーゲン抗体誘導モデルおよびコラーゲン誘導関節炎において炎症を阻止したという知見は驚くべきものだった。なぜなら、IgG Fcに対する高親和性レセプターとしてのFcγRIAは、循環中の単量体IgGで飽和されると予想され、ゆえに通常、免疫複合体への結合にはあまり利用可能でないからである。これらの知見は、可溶性FcγRIAが、自己免疫疾患および炎症を処置するために使用され得る強力な治療剤であることを示している。さらに、これらの結果は、本明細書中に記載されるようなハイブリッドFcγレセプターを含むFcγに対する他の可溶性で高親和性のレセプターを、そのような状態を処置するために使用することを支持する。
したがって、本明細書中に記載される可溶性Fcγレセプターポリペプチドは、IgGおよび免疫複合体に媒介される疾患、例えば、自己免疫性糖尿病、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、ウェゲナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、B型肝炎に関連する結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、ヘノッホシェーンライン紫斑病、関節リウマチ(RA)、ランバート・イートン症候群、炎症性腸疾患(IBD)、本態性混合型クリオグロブリン血症、C型肝炎に関連するクリオグロブリン血症、混合結合組織病、自己免疫性血小板減少症(ITPおよびTTP)、成人型皮膚筋炎、ギランバレー症候群、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、抗リン脂質抗体症候群、血管炎、ブドウ膜炎、血清病、天疱瘡(例えば、尋常性天疱瘡)および外因性抗原に関連する疾患(例えば、ウイルスおよび細菌の感染症)を処置するために、免疫細胞(例えば、リンパ球、単球、白血球、マクロファージ(macrohages)およびNK細胞)におけるIgGおよび免疫複合体のシグナル伝達と拮抗するか、またはシグナル伝達を阻止するために有用である。喘息、アレルギーおよび他のアトピー性疾患もまた、本発明の可溶性Fcγレセプターポリペプチドで処置されることにより、免疫応答が阻害され得るか、または問題を起こす細胞が枯渇され得る。本発明の可溶性Fcγレセプターポリペプチドを使用することによってFcγレセプターを介してIgGおよび免疫複合体のシグナル伝達を阻止するか、または阻害することもまた、膵臓、腎臓、下垂体および神経細胞の疾患に対して有益であり得る。本発明の可溶性Fcγレセプターポリペプチドは、IgGおよび免疫複合体のアンタゴニストとして有用である。そのような拮抗作用は、直接的な中和またはIgGおよび免疫複合体のFcドメインの結合によって達成され得る。
II.可溶性ハイブリッドFcγレセプターならびにそれらを生成するための方法および材料
したがって、1つの局面において、本発明は、免疫細胞においてIgGまたは免疫複合体によって媒介されるシグナル伝達を中和することができる単離された可溶性ハイブリッドFcγレセプター(FcγR)ポリペプチドを提供する。そのハイブリッドFcγレセプターは、通常、少なくとも2つの異なるFcγレセプターサブファミリーの細胞外Igドメインに対応するポリペプチド領域を含み、膜貫通および細胞内のポリペプチドセグメントを実質的に含まない。特に、本発明の可溶性ハイブリッドFcγレセプターは、通常、ヒトFcγRIAの改変された細胞外ドメインを含み、ここで、第1Igドメイン(D1)は、ヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1Igドメインに対応するポリペプチド領域で置換されている。
ヒトFcγRIA(FcγRIのアイソフォームa)をコードする実例的なヌクレオチド配列は、配列番号1によって提供される。配列番号1は、およそ277アミノ酸残基(配列番号2の残基16〜292;配列番号3)の細胞外Fcγ結合ドメインを含む374アミノ酸(配列番号2)をコードするオープンリーディングフレームを含む。FcγRIは、アイソフォームb1およびcも含み、その両方ともが、図6DにおいてFcγRIA(配列番号2)と比較して表されている。アイソフォームb1およびcの細胞外ドメインは、3つのIgドメインを含むアイソフォームaとは対照的に、2つだけのIgドメインを含む。FcγRIAの第1、第2および第3のIgドメインは、それぞれ、配列番号2のアミノ酸残基22〜101、104〜184および190〜250にほぼ対応する。
ヒトFcγRIIA(FcγRIIのアイソフォーム)の細胞外ドメインをコードする実例的なヌクレオチド配列は、配列番号6によって提供される。配列番号6は、およそ34または35アミノ酸残基(配列番号7の残基1〜34または1〜35)の分泌シグナル配列およびおよそ177または176アミノ酸残基(配列番号7の残基35〜211または36〜211)の細胞外のFcγ結合ドメインを含む211アミノ酸(配列番号7)をコードするオープンリーディングフレームを含む。FcγRIIAの細胞外ドメインは、それぞれ配列番号7のアミノ酸残基39〜119および122〜204にほぼ対応する2つのIgドメインを含む。
ヒトFcγRIIB(FcγRIIのアイソフォームb)の細胞外ドメインをコードする実例的なヌクレオチド配列は、配列番号8によって提供される。配列番号8は、およそ42アミノ酸残基(配列番号9の残基1〜42)の分泌シグナル配列およびおよそ174アミノ酸残基(配列番号9の残基43〜216)の細胞外のFcγ結合ドメインを含む216アミノ酸(配列番号9)をコードするオープンリーディングフレームを含む。FcγRIIBの細胞外ドメインは、それぞれ配列番号9のアミノ酸残基48〜129および132〜213にほぼ対応する2つのIgドメインを含む。
ヒトFcγRIIIA(FcγRIIIのアイソフォームa)の細胞外ドメインをコードする実例的なヌクレオチド配列は、配列番号10によって提供される。配列番号10は、およそ17または20アミノ酸残基(配列番号11の残基1〜17または1〜20)の分泌シグナル配列およびおよそ178または175アミノ酸残基(配列番号11の残基18〜195または21〜195)の細胞外のFcγ結合ドメインを含む195アミノ酸(配列番号11)をコードするオープンリーディングフレームを含む。FcγRIIIAの細胞外ドメインは、それぞれ配列番号11のアミノ酸残基24〜105および108〜189にほぼ対応する2つのIgドメインを含む。
ヒトFcγRIIIB(FcγRIIIのアイソフォームb)の細胞外ドメインをコードする実例的なヌクレオチド配列は、配列番号12によって提供される。配列番号12は、およそ17または20アミノ酸残基(配列番号13の残基1〜17または1〜20)の分泌シグナル配列およびおよそ178または175アミノ酸残基(配列番号13の残基18〜195または21〜195)の細胞外のFcγ結合ドメインを含む195アミノ酸(配列番号13)をコードするオープンリーディングフレームを含む。FcγRIIIBの細胞外ドメイン(domaino)は、それぞれ配列番号13のアミノ酸残基24〜105および108〜189にほぼ対応する2つのIgドメインを含む。
ある特定の実施形態において、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含み、ここで、単離されたポリペプチドは、IgG(例えば、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1)のFcドメインに特異的に結合することができる。本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、少なくとも106M−1、好ましくは、少なくとも107M−1、より好ましくは、少なくとも108M−1、最も好ましくは、少なくとも109M−1という結合親和性(Ka)で単量体ヒトIgG(例えば、ヒトIgG1)に結合する場合、特異的に結合する。ある特定の実施形態において、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、108M−1〜109M−1の結合親和性(Ka)で単量体ヒトIgGに結合する。可溶性FcγRポリペプチドの結合親和性は、例えば、Scatchard解析(Scatchard,Ann.NY Acad.Sci.51:660,1949)によって、当業者によって容易に測定され得る。親和性定数(Ka)の測定に加えて、親和性を判断する代替の手段は、平衡定数(Kd)であり、ここで、減少は、親和性が改善されるときに観察され得る。ある特定の実施形態において、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、10−8M未満、好ましくは、10−9M未満、より好ましくは、10−10M未満の平衡解離定数(Kd)でヒトIgG1に結合する。特定のバリエーションにおいて、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、約1.7×10−10Mという平衡解離定数(Kd)でヒトIgG1に結合する。いくつかの実施形態において、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286を含む。他の実施形態において、本発明の可溶性FcγRポリペプチドは、(i)アミノ酸xからアミノ酸301までの配列番号40に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、35以上39以下の整数である);(ii)アミノ酸xからアミノ酸310までの配列番号42に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、43以上48以下の整数である);(iii)アミノ酸xからアミノ酸286までの配列番号44に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、18以上24以下の整数である);および(iv)アミノ酸xからアミノ酸286までの配列番号46に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、18以上24以下の整数である)から選択されるアミノ酸配列を含む。
可溶性ハイブリッドFcγRIポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%またはそれ以上の同一性を共有するいくつかの実施形態において、FcγRポリペプチドのアミノ酸配列と、配列番号40、配列番号42、配列番号44または配列番号46の対応するアミノ酸配列との間の任意の差は、1つ以上の保存的アミノ酸置換に起因する。
配列番号40、42、44または46に示されているような参照ポリペプチドに対して実質的な配列同一性を有するポリペプチドは、通常、参照ポリペプチドに対して1つ以上のアミノ酸の置換、欠失または付加を有すると特徴づけられる。これらの変更は、好ましくは、軽度のもの、すなわち、保存的アミノ酸置換(例えば、いくつかの例示的な保存的アミノ酸置換を列挙している後掲の表2を参照のこと)およびタンパク質またはポリペプチドの折りたたみまたは活性に著しく影響しない他の置換;小さな欠失、代表的には、1〜約30アミノ酸の欠失;およびアミノ末端またはカルボキシル末端の小さな伸長(例えば、アミノ末端のメチオニン残基)、最大約20〜25残基の小さなリンカーペプチドまたは精製を容易にする小さな伸長(親和性タグ)(例えば、ポリヒスチジントラクト、プロテインA(Nilssonら、EMBO J.4:1075,1985;Nilssonら、Methods Enzymol.198:3,1991)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(Smith and Johnson,Gene 67:31,1988)または他の抗原性エピトープもしくは結合ドメイン)である(Fordら、Protein Expression and Purification 2:95−107,1991を広く参照のこと)。親和性タグをコードするDNAは、商業的供給源(例えば、Pharmacia Biotech,Piscataway,NJ)から入手可能である。
本発明のレセプターポリペプチドにおける必須のアミノ酸は、当該分野で公知の手順(例えば、部位特異的突然変異誘発またはアラニンスキャニング突然変異誘発(Cunningham and Wells,Science 244:1081−1085,1989;Bassら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4498−4502,1991))に従って同定され得る。後者の手法では、1つのアラニン変異を、その分子内のすべての残基に導入し、得られた変異体分子を生物学的活性(例えば、リガンド結合およびシグナル伝達)について試験することにより、その分子の活性にとって重大なアミノ酸残基を同定する。リガンドとレセプターとの相互作用の部位もまた、核磁気共鳴、結晶学または光親和性標識などの手法によって決定されるような結晶構造の解析によって決定され得る(例えば、de Vosら、Science 255:306−312,1992;Smithら、J.Mol.Biol.224:899−904,1992;Wlodaverら、FEBS Lett.309:59−64,1992を参照のこと)。必須のアミノ酸の同定は、関連レセプターを用いたホモロジーの解析からも推論され得る。
Reidhaar−Olson and Sauer Science 241:53−57,1988またはBowie and Sauer Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2152−2156,1989によって開示されているものなどの突然変異誘発およびスクリーニングの公知の方法を用いて、複数のアミノ酸置換物が作製され得、試験され得る。簡潔には、これらの著者らは、ポリペプチド内の2つ以上の位置を同時にランダム化し、機能的ポリペプチドについて選択し、次いで、突然変異誘発されたポリペプチドの配列決定を行うことにより、各位置における許容可能な置換の範囲を決定するための方法を開示している。使用され得る他の方法としては、ファージディスプレイ、例えば、Lowmanら、Biochem.30:10832−10837,1991;Ladnerら、米国特許第5,223,409号;Huse,WIPO公開WO92/06204)および領域特異的突然変異誘発(Derbyshireら、Gene 46:145,1986;Nerら、DNA 7:127,1988)が挙げられる。
上で開示されたような突然変異誘発法は、ハイスループットスクリーニング法と組み合わされることにより、クローニングされ突然変異誘発されたレセプターの宿主細胞における活性を検出し得る。この点において好ましいアッセイとしては、細胞増殖アッセイおよびバイオセンサーベースのリガンド結合アッセイ(これらは下記で説明される)が挙げられる。活性なレセプターまたはその一部(例えば、リガンド結合フラグメント)をコードする突然変異誘発されたDNA分子は、宿主細胞から回収され得、そして近代的装置を用いて速やかに配列決定され得る。これらの方法によって、目的のポリペプチドにおける個別のアミノ酸残基の重要性を迅速に判定することができ、これらの方法は、未知の構造のポリペプチドに対して適用することができる。
上で述べた方法を用いて、当業者は、配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286の参照ポリペプチドと実質的に同一であり、かつ、その参照ポリペプチドのリガンド結合特性(すなわち、IgG結合特性)を保持している、可溶性FcγRポリペプチドを含む種々のポリペプチドを調製することができる。レセプターポリペプチドのリガンド結合特性を測定するためのアッセイ系は、一般に当該分野で公知であり、本明細書中に記載されるような可溶性ハイブリッドFcγRのFcγ結合特性を測定する際に使用するために容易に適合可能である。例示的なアッセイは、さらに本明細書中に記載される。
例えば、好ましいアッセイ系は、商業的に入手可能なバイオセンサー装置(BIAcoreTM,Pharmacia Biosensor,Piscataway,NJ)を使用し、ここで、レセプターポリペプチドは、レセプターチップの表面上に固定される。この装置の使用は、Karlsson(J.Immunol.Methods 145:229−240,1991)ならびにCunninghamおよびWells(J.Mol.Biol.234:554−563,1993)によって開示されている。本発明に従って使用するために、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、アミンまたはスルフヒドリル化学を用いて、フローセル内の金膜に付着されているデキストラン繊維に共有結合的に付着される。試験サンプルをそのセルに通す。リガンド(例えば、IgG)が、サンプル中に存在する場合、そのリガンドは、固定されたハイブリッドFcγRに結合し、媒質の屈折率を変化させ、それが、金膜の表面プラズモン共鳴の変化として検出される。この系によって、会合速度および解離速度の決定(それらから結合親和性が計算され得る)ならびに結合の化学量論の評価が可能になる。
可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、当該分野で公知の他のアッセイ系においても使用され得る。そのような系としては、結合親和性を決定するためのScatchard解析(Scatchard,Ann.NY Acad.Sci.51:660−672,1949を参照のこと)および熱量アッセイ(Cunninghamら、Science 253:545−548,1991;Cunninghamら、Science 254:821−825,1991を参照のこと)が挙げられる。
本発明に記載の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、天然のFcγRに由来しない1つ以上の追加のポリペプチドセグメントも含み得る。したがって、いくつかの実施形態において、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、Fcγレセプターに対して異種のポリペプチドセグメントをさらに含む融合タンパク質である。特に適当な異種ポリペプチドは、例えば、米国特許第5,155,027号および同第5,567,584号に開示されているような二量体化タンパク質である。この点において、好ましい二量体化タンパク質は、免疫グロブリン定常領域ドメイン、例えば、IgGγ1およびヒトκ軽鎖を含む。免疫グロブリン−可溶性FcγRポリペプチド融合物は、種々のそのようなレセプターアナログを生成する遺伝的に操作された細胞において発現され得る。ある特定のバリエーションにおいて、二量体化タンパク質は、2つの定常領域ドメインおよびヒンジ領域を含むが可変領域を欠く、免疫グロブリン重鎖定常領域、代表的には、Fcフラグメントである(Sledziewskiら、米国特許第6,018,026号および同第5,750,375号を参照のこと)。そのような融合物は、二量体化タンパク質が、互いに結合しており(例えば、ジスルフィド結合を介して)、2つのポリペプチドが、互いに近位に並んでいる、多量体分子として代表的には分泌される。
補助ドメインが、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドに融合されることにより、そのポリペプチドが、特異的な細胞、組織または高分子(例えば、コラーゲンまたは他のFcレセプターを発現している細胞)を標的化し得る。いくつかの実施形態において、親和性タグ(例えば、マルトースタンパク質;免疫グロブリンドメイン;または例えば、配列番号18に示されるものなどのポリヒスチジンタグ)が、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドに融合されることにより、精製が容易になる。いくつかのバリエーションにおいて、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドが、2つ以上の部分(例えば、精製のための親和性タグおよび標的化ドメイン)に融合される。ポリペプチド融合物はまた、特にドメイン間に、1つ以上の切断部位を含み得る。例えば、Tuanら、Connective Tissue Research 34:1−9,1996を参照のこと。
本発明は、本明細書中に開示される可溶性ハイブリッドFcγレセプターポリペプチドをコードする、DNAおよびRNA分子を含むポリヌクレオチド分子も提供する。本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖分子と二本鎖分子の両方を含む。可溶性ハイブリッドFcγレセプターをコードする実例的なDNA配列が、本明細書中で開示される。本発明の可溶性ハイブリッドFcγレセプターをコードする追加のDNA配列は、遺伝暗号に基づいて当業者によって容易に生成され得る。対応するRNA配列は、TのかわりにUを用いる置換によって生成され得る。遺伝暗号の縮重を考慮すると、かなりの配列バリエーションが所与のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子の中に存在し得ることを当業者は容易に認識するだろう。
したがって、別の局面において、本発明は、本明細書中に記載されるような可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。通常、本発明の単離されたポリヌクレオチドは、配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可溶性FcγRポリペプチドをコードし、ここで、コードされるポリペプチドは、IgG(例えば、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1)のFcドメインと特異的に結合することができる。いくつかの実施形態において、コードされるポリペプチドは、配列番号40のアミノ酸残基35〜301、36〜301もしくは39〜301;配列番号42のアミノ酸残基43〜310もしくは48〜310;配列番号44のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286;または配列番号46のアミノ酸残基18〜286、21〜286もしくは24〜286を含む。他の実施形態において、コードされるポリペプチドは、(i)アミノ酸xからアミノ酸301までの配列番号40に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、35以上39以下の整数である);(ii)アミノ酸xからアミノ酸310までの配列番号42に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、43以上48以下の整数である);(iii)アミノ酸xからアミノ酸286までの配列番号44に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、18以上24以下の整数である);および(iv)アミノ酸xからアミノ酸286までの配列番号46に示されているようなアミノ酸配列(ここで、xは、18以上24以下の整数である)から選択されるアミノ酸配列を含む。特定のバリエーションにおいて、その核酸は、配列番号39のヌクレオチド残基103〜903、106〜903もしくは115〜903;配列番号41のヌクレオチド残基127〜930もしくは142〜930;配列番号43のヌクレオチド残基52〜858、61〜858もしくは70〜858;または配列番号45のヌクレオチド残基52〜858、61〜858もしくは70〜858を含む。
本発明の可溶性ハイブリッドFcγレセプターおよび核酸は、好ましくは、組換えである(合成的に生成されない限り)。組換えDNA法は、当該分野で公知であり、本明細書中に記載されるようなFcγRポリペプチドを生成するために容易に使用され得る。上で述べたように、本発明に記載のハイブリッドレセプターは、異なるサブクラスのFcγレセプター(例えば、FcγRIIA、FcγRIIA、FcγRIIAまたはFcγRIIA)の第1Igドメインで置換された第1Igドメイン(D1)を有する、ヒトFcγRIAの細胞外ドメインに由来する。したがって、組換えDNA法は、天然のFcγレセプターを発現している適当な組織または細胞に由来するRNAまたはDNAを用いるそれぞれの核酸領域のPCR増幅などによって、例えば、ハイブリッドレセプターの様々なポリペプチド領域をコードする特定の核酸セグメント(例えば、FcγRIAの第2および第3のIgドメインをコードする1つの核酸セグメントおよびFcγRIIA、FcγRIIA、FcγRIIAまたはFcγRIIAの第1Igドメインをコードする第2セグメント)をクローニングするために使用され得る。次いで、ハイブリッドレセプターのそれぞれの領域をコードする核酸セグメントが、例えば、ライゲーションまたはオーバーラップPCRなどの標準的な手法を用いて連結され得る。
本発明の可溶性ハイブリッドFcγRが由来し得る1つ以上の天然のFcγレセプターをコードするDNAまたはRNAは、当該分野で周知の方法に従って調製され得る。相補DNA(cDNA)クローンは、目的のポリペプチドをコードする大量のRNAを生成する組織または細胞から単離されるRNAから調製される。グアニジンHCl抽出の後のCsCl勾配における遠心分離による単離を用いて全RNAが調製され得る(Chirgwinら、Biochemistry 18:52−94,1979)。ポリ(A)+RNAは、AvivおよびLederの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:1408−1412,1972)を用いて全RNAから調製される。相補DNAは、公知の方法を用いてポリ(A)+RNAから調製される。代替として、ゲノムDNAが単離され得る。いくつかの応用(例えば、トランスジェニック動物における発現)のために、ゲノムのクローンを使用すること、または少なくとも1つのゲノムのイントロンを含むようにcDNAクローンを改変することが、都合よいことがある。cDNAクローンおよびゲノムクローンを同定するためおよび単離するための方法は、周知であり、当該分野における通常のスキルレベルの範囲内であり、ライブラリーを探索するためまたはプライミングするために本明細書中に開示される配列またはその一部を使用することを含む。目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、ハイブリダイゼーションまたはポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」,Mullis,米国特許第4,683,202号)によって同定され、単離される。発現ライブラリーは、目的のポリペプチドに対する抗体、レセプターフラグメントまたは他の特異的な結合パートナーを用いて探索され得る。
特異的なハイブリッドFcγレセプターのバリアントもまた、公知の手法を用いて調製され得る。参照配列に対して1つ以上のアミノ酸の置換、欠失または付加を有するバリアントは、バリアントをコードするDNAを生成して、その後、組換え細胞培養においてそのDNAを発現するように、例えば、カセット突然変異誘発もしくはPCR突然変異誘発または当該分野で周知の別の手法を用いる、対応するハイブリッドFcγレセプタータンパク質をコードするDNAにおけるヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発によって調製され得る。上で概要を述べたように、本発明に記載のFcγレセプターバリアントは、代表的には、天然のFcγRIAと類似のFcγ結合性を示すが、追加のバリアント特性を有するバリアントもまた選択され得る。ランダム突然変異誘発が、標的のコドンまたは領域において行われ得、そして発現されたバリアントハイブリッドFcγRタンパク質は、所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングされ得る。既知の配列を有するDNA内の所定部位における置換変異を作製するための手法は、周知であり、例えば、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発である。
アミノ酸置換は、単一のアミノ酸残基または複数のアミノ酸残基の置換であり得る(例えば、2、3、4個またはそれ以上のアミノ酸が置換され得る)。挿入は、代表的には、約1〜約20アミノ酸であるが、それよりもかなり長い挿入が許容され得る。欠失は、約1〜約20残基、または約1〜約30残基に及ぶが、いくつかの場合において、欠失は、もっと長いことがある。置換、欠失、挿入またはそれらの任意の組み合わせを用いることにより、最終的なバリアントハイブリッドレセプターに到達する。ある特定のバリエーションにおいて、分子の変更が最小限になるように、参照配列に対する改変が比較的少ないアミノ酸に関して行われる。しかしながら、もっと長い変更も、ある特定の状況では許容され得る。
本発明のポリヌクレオチドは、自動化された合成によっても調製され得る。短い二本鎖セグメント(60〜80bp)の生成は、技術的に簡単であり、相補鎖を合成し、次いで、それらをアニーリングすることによって達成され得る。それよりも長いセグメント(代表的には、>300bp)は、20〜100ヌクレオチド長の一本鎖フラグメントからモジュール形式で構築される。ポリヌクレオチドの自動化された合成は、当該分野における通常のスキルレベルの範囲内であり、適当な装置および試薬は、商業的供給業者から入手可能である。Glick and Pasternak,Molecular Biotechnology,Principles & Applications of Recombinant DNA(ASM Press,Washington,D.C.,1994);Itakuraら、Ann.Rev.Biochem.53:323−356,1984;およびClimieら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:633−637,1990を広く参照のこと。
本発明の可溶性ハイブリッドFcγレセプターポリペプチドは、従来の手法に従って、遺伝的に操作された宿主細胞において生成され得る。適当な宿主細胞は、外来性DNAで形質転換され得るか、またはトランスフェクトされ得、そして培養液中で生育される、細胞型であり、それらとしては、細菌、真菌細胞および高等真核生物の培養細胞(多細胞生物の培養細胞を含む)、特に、哺乳動物の培養細胞が挙げられる。クローニングされたDNA分子を操作するための手法および外来性DNAを種々の宿主細胞に導入するための手法は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989);およびAusubelら、eds.,Current Protocols in Molecular Biology(Green and Wiley and Sons,NY,1993)によって開示されている。
一般に、可溶性ハイブリッドFcγレセプターポリペプチドを発現させるために、そのポリペプチドをコードするDNA配列は、その発現に必要な他の遺伝因子(通常、発現ベクター内の転写プロモーターおよびターミネーターを含む)に作動可能に連結される。そのベクターは、通常、1つ以上の選択マーカーおよび1つ以上の複製開始点も含むが、ある特定の系では、選択マーカーが別個のベクター上に提供され得ること、および外来性DNAの複製が、宿主細胞のゲノムに組み込まれることによって提供され得ることを当業者は認識するだろう。プロモーター、ターミネーター、選択マーカー、ベクターおよび他のエレメントの選択は、当該分野における通常のスキルレベルの範囲内の通例の計画事項である。多くのそのようなエレメントは、文献に記載されており、商業的供給業者を通じて入手可能である。
ポリペプチド融合物を宿主細胞の分泌経路に入るように指示するために、分泌シグナル配列が、発現ベクター内に提供される。その分泌シグナル配列は、天然のFcγレセプター(例えば、ハイブリッドレセプターが由来し得る天然のFcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIB)の分泌シグナル配列であってもよいし、別の分泌タンパク質(例えば、t−PA;米国特許第5,641,655号を参照のこと)に由来してもよいし、新規に合成されてもよい。操作された切断部位は、分泌ペプチドとポリペプチド融合物の残りの部分との間の接合点に含められることにより、宿主細胞におけるタンパク分解性のプロセシングが最適化され得る。分泌シグナル配列は、ポリペプチド融合物をコードするDNA配列に作動可能に連結され、すなわち、その2つの配列は、正しい読み枠で結合され、新しく合成されるポリペプチド融合物が宿主細胞の分泌経路に入るように指示するように配置される。分泌シグナル配列は、通常、目的のポリペプチドをコードするDNA配列に対して5’側に位置するが、ある特定のシグナル配列は、目的のDNA配列内の別の箇所に位置し得る(例えば、Welchら、米国特許第5,037,743号;Hollandら、米国特許第5,143,830号を参照のこと)。本発明に従って使用するための例示的な分泌シグナル配列は、例えば、配列番号40のアミノ酸残基1〜38、配列番号42のアミノ酸残基1〜47、配列番号44のアミノ酸残基1〜17もしくは1〜20、配列番号46のアミノ酸残基1〜17もしくは1〜20、配列番号60のアミノ酸残基1〜35、配列番号62のアミノ酸残基1〜16、配列番号64のアミノ酸残基1〜19または配列番号66のアミノ酸残基1〜23をコードするDNA配列を含む。
哺乳動物培養細胞は、本発明において使用するために適した宿主である。外来性DNAを哺乳動物宿主細胞に導入するための方法としては、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクション(Wiglerら、Cell 14:725,1978;Corsaro and Pearson,Somatic Cell Genetics 7:603,1981:Graham and Van der Eb,Virology 52:456,1973)、エレクトロポレーション(Neumannら、EMBO J.1:841−845,1982)、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション(Ausubelら、前出)およびリポソーム媒介性トランスフェクション(Hawley−Nelsonら、Focus 15:73,1993;Ciccaroneら、Focus 15:80,1993)が挙げられる。哺乳動物培養細胞における組換えポリペプチドの生成は、例えば、Levinsonら、米国特許第4,713,339号;Hagenら、米国特許第4,784,950号;Palmiterら、米国特許第4,579,821号;およびRingold,米国特許第4,656,134号によって開示されている。適当な哺乳動物培養細胞としては、COS−1(ATCC No.CRL1650)、COS−7(ATCC No.CRL1651)、BHK(ATCC No.CRL1632)、BHK570(ATCC No.CRL10314)、293(ATCC No.CRL1573;Grahamら、J.Gen.Virol.36:59−72,1977)およびチャイニーズハムスター卵巣(例えば、CHO−K1,ATCC No.CCL 61;CHO−DG44,Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220,1980)細胞株が挙げられる。さらに適当な細胞株は、当該分野で公知あり、American Type Culture Collection,Manassas,Virginiaなどの公的な寄託所から入手可能である。強力な転写プロモーター(例えば、SV−40、サイトメガロウイルスまたは骨髄増殖性肉腫ウイルス由来のプロモーター)が、使用され得る。例えば、米国特許第4,956,288号および米国特許出願公開番号20030103986を参照のこと。他の適当なプロモーターとしては、メタロチオネイン遺伝子由来のプロモーター(米国特許第4,579,821号および同第4,601,978号)およびアデノウイルス主要後期プロモーターが挙げられる。哺乳動物細胞において使用するための発現ベクターとしては、pZP−1、pZP−9およびpZMP21(これらは、それぞれ、アクセッション番号98669、98668およびPTA−5266としてAmerican Type Culture Collection,10801 University Blvd.,Manassas,VA USAに寄託されている)ならびにこれらのベクターの誘導体が挙げられる。
薬物選択は、一般に、外来DNAが挿入されている哺乳動物培養細胞について選択するために使用される。そのような細胞は、通常、「トランスフェクタント」と称される。選択的物質の存在下において培養され、そして目的の遺伝子を子孫に伝えることができる細胞は、「安定なトランスフェクタント」と称される。例示的な選択マーカーは、抗生物質作用のネオマイシンに対する耐性をコードする遺伝子である。選択は、G−418などのネオマイシンタイプの薬物の存在下において行われる。選択系は、「増幅」と称されるプロセスである、目的の遺伝子の発現レベルを増加させるためにも使用され得る。増幅は、低レベルの選択的物質の存在下においてトランスフェクタントを培養し、次いで、選択的物質の量を増加させることにより、高レベルの導入遺伝子産物を生成する細胞について選択することによって行われる。例示的な増幅選択マーカーは、ジヒドロ葉酸還元酵素であり、これは、メトトレキサートに対する耐性を付与するものである。他の薬物耐性遺伝子(例えば、ハイグロマイシン耐性、多薬物耐性、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ)もまた使用され得る。細胞表面マーカーおよび他の表現型選択マーカーを用いることにより、トランスフェクトされた細胞の同定(例えば、蛍光励起細胞分取による)が容易になり得、それらのマーカーとしては、例えば、CD8、CD4、神経成長因子レセプター、緑色蛍光タンパク質などが挙げられる。
昆虫細胞、植物細胞および鳥類細胞を含む他の高等真核細胞もまた、宿主として使用され得る。植物細胞において遺伝子を発現させるためのベクターとしてのAgrobacterium rhizogenesの使用は、Sinkarら、J.BioSci.(Bangalore)11:47−58,1987によって概説されている。昆虫細胞の形質転換およびその中での外来ポリペプチドの生成は、Guarinoら、米国特許第5,162,222号およびWIPO公開WO94/06463によって開示されている。
昆虫細胞は、通常Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)に由来する組換えバキュロウイルスに感染され得る。King and Possee,The Baculovirus Expression System:A Laboratory Guide(Chapman & Hall,London);O’Reillyら、Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual(Oxford University Press.,New York,1994);およびRichardson,Ed.,Baculovirus Expression Protocols,Methods in Molecular Biology(Humana Press,Totowa,NJ,1995)を参照のこと。組換えバキュロウイルスは、Luckowら(J.Virol.67:4566−4579、1993)によって報告されているトランスポゾンベースの系を使用することによっても作製され得る。この系は、トランスファーベクターを利用するものであり、キットの形態で商業的に入手可能である(BAC−TO−BACキット;Life Technologies,Gaithersburg,MD)。トランスファーベクター(例えば、PFASTBAC1;Life Technologies)は、目的のタンパク質をコードするDNAを、「バクミド」と呼ばれる大型のプラスミドとしてE.coli内で維持されるバキュロウイルスゲノム中に移すためのTn7トランスポゾンを含む。Hill−Perkins and Possee,J.Gen.Virol.71:971−976,1990;Bonningら、J.Gen.Virol.75:1551−1556,1994;およびChazenbalk and Rapoport,J.Biol.Chem.270:1543−1549,1995を参照のこと。当該分野で公知の手法を用いて、ポリペプチド融合物をコードするトランスファーベクターが、E.coli宿主細胞に形質転換され、そしてそれらの細胞は、組換えバキュロウイルスを示唆する中断されたlacZ遺伝子を含むバクミドについてスクリーニングされる。組換えバキュロウイルスゲノムを含むバクミドDNAは、通常の手法を用いて単離され、そのDNAを用いて、Sf9細胞などのSpodoptera frugiperda細胞がトランスフェクトされる。その後、ポリペプチド融合物を発現する組換えウイルスが生成される。組換えウイルスの貯蔵物が、当該分野において通常使用される方法によって作製される。
タンパク質の生成にむけて、宿主細胞、代表的には、ヤガの一種(fall armyworm)であるSpodoptera frugiperdaに由来する細胞株(例えば、Sf9またはSf21細胞)またはTrichoplusia niに由来する細胞株(例えば、HIGH5細胞;Invitrogen,Carlsbad,CA)を感染させるために組換えウイルスが使用される。Glick and Pasternak,前出を広く参照のこと。米国特許第5,300,435号もまた参照のこと。無血清培地を用いて、それらの細胞を生育し、維持する。適当な培地の調合物は、当該分野で公知であり、商業的供給業者から得ることができる。それらの細胞は、およそ2〜5×105細胞の播種密度から1〜2×106細胞の密度で生育され、その時点において、組換えウイルス貯蔵物が、0.1〜10、より代表的には、3付近の感染効率(MOI)で加えられる。使用される手順は、利用可能な研究室のマニュアル(例えば、King and Possee,前出;O’Reillyら、前出;Richardson,前出)に広く記載されている。
酵母細胞を含む真菌細胞もまた、本発明において使用され得る。この点において、目的の特定の酵母種としては、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastorisおよびPichia methanolicaが挙げられる。S.cerevisiae細胞を外来性DNAで形質転換するための方法およびそこから組換えポリペプチドを生成する方法は、例えば、Kawasaki,米国特許第4,599,311号;Kawasakiら、米国特許第4,931,373号;Brake,米国特許第4,870,008号;Welchら、米国特許第5,037,743号;およびMurrayら、米国特許第4,845,075号によって開示されている。形質転換された細胞は、選択マーカーによって決定される表現型(通常、薬物耐性、または特定の栄養素(例えば、ロイシン)の非存在下において生育する能力)によって選択される。Saccharomyces cerevisiaeにおいて使用するための例示的なベクター系は、Kawasakiら(米国特許第4,931,373号)によって開示されているPOT1ベクター系であり、これによって、形質転換された細胞を、グルコース含有培地中での生育によって選択することができる。酵母における使用に適したプロモーターおよびターミネーターとしては、糖分解酵素遺伝子(例えば、Kawasaki,米国特許第4,599,311号;Kingsmanら、米国特許第4,615,974号;およびBitter,米国特許第4,977,092号を参照のこと)およびアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子由来のものが挙げられる。米国特許第4,990,446号;同第5,063,154号;同第5,139,936号;および同第4,661,454号もまた参照のこと。Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces fragilis、Ustilago maydis、Pichia pastoris、Pichia methanolica、Pichia guillermondiiおよびCandida maltosaをはじめとした他の酵母に対する形質転換系が、当該分野で公知である。例えば、Gleesonら、J.Gen.Microbiol.132:3459−3465,1986;Cregg,米国特許第4,882,279号;およびRaymondら、Yeast 14:11−23,1998を参照のこと。Aspergillus細胞は、McKnightら、米国特許第4,935,349号の方法に従って利用され得る。Acremonium chrysogenumを形質転換するための方法は、Suminoら、米国特許第5,162,228号によって開示されている。Neurosporaを形質転換するための方法は、Lambowitz,米国特許第4,486,533号によって開示されている。Pichia methanolicaにおける組換えタンパク質の生成は、米国特許第5,716,808号;同第5,736,383号;同第5,854,039号;および同第5,888,768号において開示されている。
細菌のEscherichia coli、Bacillusおよび他の属の菌株を含む原核生物の宿主細胞もまた、本発明の範囲内において有用な宿主細胞である。これらの宿主を形質転換するための手法およびその宿主内においてクローニングされた外来DNA配列を発現するための手法は、当該分野で周知である(例えば、Sambrookら、前出を参照のこと)。E.coliなどの細菌においてポリペプチド融合物が発現されるとき、そのポリペプチドは、細胞質において代表的には不溶性顆粒として保持され得るか、または細菌の分泌配列によって細胞周辺腔に向かい得る。前者の場合、それらの細胞は、溶解され、その顆粒を回収し、例えば、グアニジンHClまたは尿素を用いて変性する。次いで、変性されたポリペプチドは、尿素溶液および還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンとの組み合わせに対する透析の後の、緩衝食塩水溶液に対する透析などによって、その変性剤を希釈することによって再度折り畳まれ得る。代替において、そのタンパク質は、細胞質から可溶型として回収され得、そして変性剤を使用せずに単離され得る。そのタンパク質は、水性抽出物、例えば、リン酸緩衝食塩水中の水性抽出物として細胞から回収される。目的のタンパク質を捕捉するために、その抽出物を、固定化された抗体またはヘパリン−Sepharoseカラムなどのクロマトグラフィ媒質に直接適用する。分泌型のポリペプチドは、細胞を破壊し(例えば、超音波処理または浸透圧ショックによって)、タンパク質を回収することによって、可溶性かつ機能性の形態で細胞周辺腔から回収され得、それにより、変性および再折りたたみの必要性が不要になる。例えば、Luら、J.Immunol.Meth.267:213−226,2002を参照のこと。
形質転換された宿主細胞またはトランスフェクトされた宿主細胞は、栄養分および選択された宿主細胞の生育に必要な他の成分を含む培養液中で、従来の手順に従って培養される。限定培地および複合培地(complex media)を含む種々の適当な培地は、当該分野で公知であり、それらは一般に、炭素源、窒素源、必須アミノ酸、ビタミンおよびミネラルを含む。培地は、必要に応じて、成長因子または血清のような成分も含み得る。増殖培地は、一般に、外から加えられたDNAを含む細胞について、例えば、薬物選択、または発現ベクター上に保有されている選択マーカーもしくは宿主細胞中に同時にトランスフェクトされた選択マーカーによって補完される必須栄養素の不足によって、選択する。
本発明のタンパク質は、従来のタンパク質精製法によって、代表的には、クロマトグラフィ法の組み合わせによって、精製される。Affinity Chromatography:Principles & Methods(Pharmacia LKB Biotechnology,Uppsala,Sweden,1988);およびScopes,Protein Purification:Principles and Practice(Springer−Verlag,New York,1994)を広く参照のこと。免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含むタンパク質は、固定化されたプロテインAに対するアフィニティークロマトグラフィによって精製され得る。ゲル濾過などの追加の精製工程を用いることにより、所望のレベルの純度を得ることできるか、または脱塩、緩衝液交換などを行うことができる。
本発明のポリペプチドは、混入している高分子、特に、他のタンパク質および核酸に関して、少なくとも約80%の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度または95%超(例えば、96%、97%、98%または99%超)の純度まで精製され得、そして感染性物質および発熱性物質を含まないことがある。本発明のポリペプチドはまた、99.9%超純粋の薬学的に純粋な状態まで精製され得る。ある特定の調製物において、精製されたポリペプチドは、他のポリペプチド、特に、動物起源の他のポリペプチドを実質的に含まない。
一般に、硫安塩析および酸抽出またはカオトロープ抽出が、サンプルの分画に使用され得る。例示的な精製工程としては、ヒドロキシアパタイト、サイズ排除、FPLCおよび逆相高速液体クロマトグラフィが挙げられ得る。適当なクロマトグラフィ媒質としては、誘導体化デキストラン、アガロース、セルロース、ポリアクリルアミド、特殊シリカなどが挙げられる。PEI、DEAE、QAEおよびQ誘導体が適当である。例示的なクロマトグラフィ媒質としては、フェニル、ブチルまたはオクチル基で誘導体化された媒質(例えば、Phenyl−SepharoseFF(Pharmacia)、Toyopearlブチル650(Toso Haas,Montgomeryville,PA)、Octyl−Sepharose(Pharmacia)など);またはAmberchrom CG 71(Toso Haas)などのポリアクリル樹脂などが挙げられる。適当な固体支持体としては、使用される条件下において不溶性である、ガラスビーズ、シリカベースの樹脂、セルロース樹脂、アガロースビーズ、架橋アガロースビーズ、ポリスチレンビーズ、架橋ポリアクリルアミド樹脂などが挙げられる。これらの支持体は、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基および/または炭水化物部分によるタンパク質の付着を可能にする反応基で修飾され得る。
カップリング化学の例としては、臭化シアン活性化、N−ヒドロキシスクシンイミド活性化、エポキシド活性化、スルフヒドリル活性化、ヒドラジド活性化、ならびにカルボジイミドカップリング化学用のカルボキシルおよびアミノ誘導体が挙げられる。これらおよび他の固形媒質が、当該分野において周知で、広く使用されており、それらは、商業的供給業者から入手可能である。ポリペプチドを単離するためおよび精製するための特定の方法の選択は、通例の計画事項であり、一つには、選択される支持体の特性によって決定される。例えば、Affinity Chromatography:Principles & Methods(Pharmacia LKB Biotechnology 1988)およびDoonan,Protein Purification Protocols(The Humana Press 1996)を参照のこと。
可溶性FcγRの単離および精製のさらなるバリエーションが、当業者によって考案され得る。例えば、抗FcγR抗体が、免疫親和性精製によって大量のタンパク質を単離するために使用され得る。
本発明のポリペプチドは、特定の特性を活用することによっても単離され得る。例えば、固定化された金属イオン吸着(IMAC)クロマトグラフィを用いることにより、ポリヒスチジンタグを含むタンパク質を含むヒスチジンリッチタンパク質が精製され得る。簡潔には、まず、ゲルを二価の金属イオンで帯電させることにより、キレートを形成する(Sulkowski,Trends in Biochem.3:1(1985))。ヒスチジンリッチタンパク質は、使用される金属イオンに応じて異なる親和性でこのマトリックスに吸着され、そして競合溶出、pHの低下または強力なキレート剤の使用によって溶出される。他の精製方法としては、レクチンアフィニティークロマトグラフィおよびイオン交換クロマトグラフィによるグリコシル化タンパク質の精製(M.Deutscher(ed.),Meth.Enzymol.182:529,1990)が挙げられる。本発明のさらなる実施形態の中で、目的のポリペプチドと親和性タグ(例えば、マルトース結合タンパク質、免疫グロブリンドメイン、サブスタンスP、FlagTMペプチドまたは抗体もしくは他の特異的な結合物質が利用可能な別のポリペプチドもしくはタンパク質)との融合物が、精製を容易にするために構築され得る。
可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドまたはそのフラグメントは、上に記載されたように化学合成を通じても調製され得る。FcγRポリペプチドは、単量体または多量体(例えば、ホモ二量体)であり得;グリコシル化されてもよいし、グリコシル化されなくてもよく;PEG化されてもよいし、PEG化されなくてもよく;最初のメチオニンアミノ酸残基を含んでもよいし、含まなくてもよい。
いくつかのバリエーションにおいて、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、ポリマーへの連結によって化学修飾される。代表的には、そのポリマーは、水溶性であり、ハイブリッドFcγRポリペプチド結合体は、生理学的環境などの水性環境において沈殿しない。適当なポリマーの例は、単一の反応基(例えば、アシル化のための活性なエステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有するように修飾されているものである。このようにして、重合の程度が制御され得る。そのポリマーは、分枝していてもよいし、分枝していなくてもよい。ハイブリッドFcγRポリペプチド結合体は、そのような水溶性ポリマーの混合物も含み得る。ポリペプチドおよび水溶性ポリマー部分を含む結合体を作製するための一般的な方法は、当該分野で公知である(例えば、Karasiewiczらに対する米国特許第5,382,657号;Greenwaldらに対する米国特許第5,738,846号;Nieforthら、Clin.Pharmacol.Ther.59:636,1996;Monkarshら、Anal.Biochem.247:434,1997を参照のこと)。そのような方法は、ハイブリッドFcγRを含むホモ二量体、ヘテロ二量体または多量体の可溶性レセプター結合体を作製するために使用され得る。
可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチド結合体の1つの例は、FcγRポリペプチドのN末端に付着されているポリアルキルオキシド部分を含む。PEGは、1つの適当なポリアルキルオキシドである。例証として、可溶性ハイブリッドFcγRは、PEGで修飾され得る(「PEG化」として知られるプロセス)。可溶性ハイブリッドFcγRのPEG化は、当該分野で公知のPEG化反応のいずれかによって行われ得る(例えば、EP0154316;Delgadoら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 9:249,1992;Duncan and Spreafico,Clin.Pharmacokinet.27:290,1994;Francisら、Int J Hematol 68:1,1998を参照のこと)。例えば、PEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子を用いるアシル化反応またはアルキル化反応によって行われる。代替のアプローチにおいて、ハイブリッドFcγR結合体は、活性化されたPEGを縮合することによって形成される(ここで、PEGの末端のヒドロキシ基またはアミノ基は、活性化されたリンカーによって置き換えられている)(例えば、Karasiewiczらに対する米国特許第5,382,657号を参照のこと)。PEG化反応のために、ポリマー分子の代表的な分子量は、約2kDa〜約100kDa、約5kDa〜約50kDaまたは約12kDa〜約25kDaである。水溶性ポリマーと可溶性ハイブリッドFcγRとのモル比は、通常、1:1〜100:1の範囲内である。代表的には、水溶性ポリマーと可溶性ハイブリッドFcγRとのモル比は、ポリPEG化に対して1:1〜20:1およびモノPEG化に対して1:1〜5:1である。
III.可溶性ハイブリッドFcγレセプターを使用するための方法および組成物
本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、IgGに対して特異的に作用し、FcγレセプターへのIgGの結合を阻害し得るので、IgGおよびFcγレセプター活性を阻害するために有用である。したがって、本発明の別の局面では、本明細書中に記載されるような可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、IgGとFcレセプターとの相互作用を阻害するため、ならびにそのようなIgG−FcR相互作用に生理学的に相関するもの(例えば、抗原抗体免疫複合体の析出、シグナル伝達、細胞表面Fcレセプターを有する免疫細胞からのサイトカイン分泌)をインビボまたはインビトロにおいて阻害するために使用される。本発明の可溶性FcγRポリペプチドの活性は、例えば、IgGの存在下における増殖アッセイ、ルシフェラーゼアッセイまたは結合アッセイ、ならびに本明細書中に記載されるかまたは別途当該分野で公知であるような、IgGとFcγRとの相互作用を評価するための他の生物学的アッセイもしくは生化学的アッセイにおいてアッセイされ得る。
本明細書中に示されるように、可溶性FcγRIAポリペプチドは、免疫複合体の析出を完全に阻止し、また、免疫複合体の結合およびシグナル伝達も阻止した(下記の実施例において詳細に記載される)。さらに、可溶性FcγRIAは、皮膚アルサス反応ならびに関節炎のコラーゲン抗体誘発モデルおよびコラーゲン誘発モデルにおいて炎症を阻止した。これらの知見は、可溶性FcγRIAが、自己免疫疾患および炎症を処置するために使用され得る強力な治療剤であることを示し、そのような状態を処置するために、本明細書中に記載されるようなハイブリッドFcγレセプターを含むFcγに対する他の可溶性で高親和性のレセプターを使用することをさらに支持する。
それゆえ、本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、IgGに結合することによって、およびIgGと内在性Fcγレセプターとの結合を阻害することによって、免疫応答を調節するために特に有用である。したがって、本発明は、炎症を有するか、または免疫疾患もしくは免疫障害を有する被験体を処置するために、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドを使用することを含む。適当な被験体としては、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、SLE、クリオグロブリン血症、自己免疫性血小板減少症(ITPおよびTTP)、成人型皮膚筋炎、C型肝炎に関連するクリオグロブリン血症、B型肝炎に関連する結節性多発動脈炎、ギランバレー症候群、グッドパスチャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、抗リン脂質抗体症候群、血管炎、ブドウ膜炎、血清病、天疱瘡(例えば、尋常性天疱瘡)、外因性抗原に関連する疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、炎症性の皮膚状態、内毒素血症、関節炎、喘息、IBD、大腸炎、乾癬性関節炎、関節リウマチまたは他のIgGもしくは免疫複合体に媒介される炎症状態に対して治療的に使用するために、インビボにおいてIgGおよび/または免疫複合体の炎症性作用を阻害するために使用され得る。
ある特定のバリエーションにおいて、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、IgG媒介性炎症状態、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE);狼瘡(腎炎、非腎性、円板状、脱毛症を含む);クリオグロブリン血症;混合結合組織病;自己免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病(ITP);血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic throbocytopenic purpura)(TTP));シェーグレン症候群;成人型皮膚筋炎;C型肝炎に関連するクリオグロブリン血症;B型肝炎に関連する結節性多発動脈炎;ギランバレー症候群;グッドパスチャー症候群;慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;抗リン脂質抗体症候群;血管炎;ブドウ膜炎;血清病;外因性抗原に関連する疾患;関節炎(関節リウマチ、若年性関節リウマチ、乾癬性関節炎);乾癬;アトピー性皮膚炎;炎症性の皮膚状態;炎症性腸疾患(IBD)(クローン病、潰瘍性大腸炎)に関連する応答;憩室症;喘息;膵炎;I型(若年発症)糖尿病(IDDM);膵癌;膵炎;バセドウ病;慢性自己免疫性じんま疹;多発性筋炎/皮膚筋炎;中毒性表皮壊死症;全身性強皮症および全身性硬化症;呼吸窮迫症候群;成人呼吸窮迫症候群(ARDS);髄膜炎;アレルギー性鼻炎;脳炎;大腸炎;糸球体腎炎;IgG媒介性アレルギー性状態;アテローム性動脈硬化症、自己免疫性心筋炎;多発性硬化症;アレルギー性脳脊髄炎;ウェゲナー肉芽腫症を含む肉芽腫症であるサルコイドーシス;顆粒球減少症;再生不良性貧血;クームス陽性貧血;ダイアモンドブラックファン貧血;自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む免疫性溶血性貧血;悪性貧血;赤芽球癆(PRCA);第VIII因子欠乏症;血友病A;自己免疫性好中球減少症;汎血球減少症;白血球減少症;白血球漏出を伴う疾患;CNS炎症性障害;多臓器障害症候群;重症筋無力症;抗糸球体基底膜病;ベーチェット(Bechet)病;キャッスルマン症候群;イートン・ランバート筋無力症症候群;レイノー症候群;スティーブンス・ジョンソン症候群;骨髄移植片拒絶;実質臓器移植片拒絶(高いパネル反応性抗体価に対する前処置を含む);移植片対宿主病(GVHD);水疱性類天疱瘡(pemphigoid bullous);天疱瘡(尋常性、落葉状を含むすべて);自己免疫性多腺性内分泌障害;ライター病;全身硬直症候群;免疫複合体腎炎;精巣または卵巣の自己免疫疾患(例えば、自己免疫性の(autoimune)睾丸炎または卵巣炎);原発性甲状腺機能低下症;自己免疫性内分泌疾患、例えば、自己免疫性甲状腺炎、慢性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、亜急性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下症、アジソン病または自己免疫性多腺症候群(または多腺性内分泌障害症候群);自己免疫性肝炎;リンパ性間質性肺炎(HIV);NSIPに対する閉塞性細気管支炎(非移植)、大血管炎(リウマチ性多発筋痛症および巨細胞(高安)動脈炎を含む);中血管炎(川崎病および結節性多発動脈炎を含む);強直性脊椎炎;急速進行性糸球体腎炎;原発性胆汁性肝硬変;セリアックスプルー(グルテン性腸症);ALS;冠動脈疾患;またはIgGもしくは免疫複合体の阻害が望まれる別の場合を処置するために使用される。
本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、脳の脈絡膜神経叢による免疫複合体の沈着に関連する心理学的障害を処置するためにも使用され得る。そのような沈着は、例えば、全身性エリテマトーデスなどの疾患の中枢神経系および末梢神経系の症状発現(manisfestations)の根底にあることがある。一部の患者では、これらの症状発現は、罹患率および死亡率の主な原因であり、その徴候としては、認知機能不全、特に、記憶および論理的思考の困難、精神病、頭痛および発作が挙げられる。別の例として、脈絡膜神経叢内の免疫複合体の沈着は、本態性混合型クリオグロブリン血症に見られる末梢神経障害に関与し得る(Harrison’s Principles of Internal Medicine(Kasperらeds.,McGraw−Hill,New York 2005)を参照のこと)。
本明細書中に記載される処置方法の各実施形態において、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、処置法が捜し求められている疾患または障害の管理に関連する従来の方法論と一致する様式で送達される。本明細書中の開示に従って、有効量の薬剤が、その疾患または障害を予防するかまたは処置するために十分な時間にわたって、かつ予防するかまたは処置するために十分な条件下において、そのような処置を必要とする被験体に投与される。
本明細書中に記載されるような可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドの投与が適した被験体には、特定のIgG媒介性炎症状態を発症するリスクが高い患者、ならびにすでにIgG媒介性炎症状態を示している患者が含まれる。ある特定の実施形態において、その被験体は、処置法が捜し求められている疾患または障害を有すると診断されている。さらに、被験体は、その疾患または障害の任意の変化について(例えば、その疾患または障害の臨床上の症状の増加または減少について)、処置の経過中、モニターされ得る。また、いくつかのバリエーションにおいて、その被験体は、IgGとFcγレセプターとの相互作用の阻害を含む処置を必要とする別の疾患または障害に罹患していない。
予防的な適用では、薬学的組成物または薬が、特定の疾患に罹患しやすいかまたは別途そのリスクのある患者に、その疾患のリスクを排除するかもしくは低下させるか、またはその疾患の発症を遅延させるのに十分な量で投与される。治療的な適用では、そのような疾患が疑われるかまたはそのような疾患にすでに罹患している患者に、その疾患の症状およびその合併症を治癒するかまたは少なくとも部分的に停止するのに十分な量で、組成物または薬が投与される。このことを達成するのに適切な量は、治療的または薬学的に有効な用量または量と称される。予防レジメンと治療レジメンの両方において、本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、通常、十分な応答(例えば、IgGとFcγRとの相互作用またはIC沈着に関連する炎症性メディエーターの阻害)が達成されるまで、数回の投薬で投与される。代表的には、その応答は、モニターされ、そして所望の応答が弱まり始めると、投薬が繰り返される。
本発明の方法に従う処置に適した被験体患者を同定するために、一般に認められたスクリーニング方法を用いて、特定のIgG媒介性炎症状態に関連する危険因子が測定され得るか、または被験体において特定されている既存の障害の状態が測定され得る。そのような方法は、例えば、個体が特定の疾患と診断されている親族を有するか否かを判定する工程を包含し得る。スクリーニング方法は、例えば、遺伝的要素を有すると知られている特定の疾患に対する家系の状態を判定する従来の精密検査も含み得る。このような目的で、ヌクレオチドプローブが、目的の特定疾患に関連する遺伝マーカーを有する個体を同定するために日常的に使用され得る。さらに、特定の疾患に対するマーカーを同定するために有用である多岐にわたる免疫学的方法が当該分野で公知である。例えば、モノクローナル抗体プローブを使用して特定の炎症性疾患に関連する抗原または自己抗体を検出する様々なELISAイムノアッセイ法が、利用可能であり、当該分野で周知である。既知の患者の症候学、年齢因子、関連危険因子などによって示されるようなスクリーニングが実行され得る。これらの方法によって、臨床医は、本明細書中に記載される処置するための方法を必要とする患者を日常的に選択することが可能になる。これらの方法によれば、IgG媒介性炎症の阻害は、独立した処置プログラムとして、または他の処置に対する追跡、補助もしくは同等の処置レジメンとして、実行され得る。
投与のために、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、薬学的組成物として製剤化される。可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドを含む薬学的組成物は、薬学的に有用な組成物を調製する公知の方法に従って製剤化され得、ここで、治療的分子は、薬学的に許容可能なキャリアを含む混合物中に混合される。組成物は、その投与がレシピエント患者によって許容され得る場合、「薬学的に許容可能なキャリア」であるといわれる。薬学的に許容可能なキャリアは、処置される状態および送達様式にとって適切であるとき、水性であり得るか、脂質であり得るか、半固体もしくは固体であり得る。薬学的に許容可能な水性キャリアとしては、食塩水、緩衝食塩水(例えば、リン酸緩衝食塩水)、5%デキストロース水溶液などが挙げられるがこれらに限定されない。他の適当なキャリアは、当業者に周知である(例えば、Gennaro(ed.),Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company,19th ed.1995)を参照のこと)。製剤は、1つ以上の賦形剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、バイアル表面上におけるタンパク質損失を防ぐアルブミンなどをさらに含み得る。
本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドを含む薬学的組成物は、有効量で被験体に投与される。したがって、その組成物は、通常、統計学的に有意な有益効果(例えば、疾患の進行または重症度の統計学的に有意な緩和または逆転)をもたらす量で投与される。正確な用量は、処置される状態の性質および重症度、患者の体質などを考慮し、一般に認められている標準に従って、臨床医によって決定される。用量の決定は、当該分野における通常のスキルレベルの範囲内である。本発明の方法に従って、ポリペプチドは、例えば、筋肉内、皮下、静脈内、心房内、関節内、非経口、鼻腔内、肺内、経皮的、胸膜内、鞘内および経口の投与経路をはじめとした種々の投与様式によって、被験体に投与され得る。予防および処置の目的で、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、投与経路および投与方法に応じて、長時間にわたる連続的な送達による単回ボーラス送達(例えば、連続的な経皮的送達または長時間の注入)または反復投与プロトコルで(例えば、毎時間、毎日または毎週に基づいて)、被験体に投与され得る。静脈内投与は、ボーラス注射、または代表的には1時間〜数時間にわたる注入によるものであり得る。徐放製剤が使用され得る。
有効な投薬量の決定は、代表的には、ヒト臨床試験によって追跡される動物モデル研究に基づき、モデル被験体において主題の疾患または障害の発生率または重症度を有意に低下させる有効な投薬量および投与プロトコルを決定することによって導かれる。本発明の組成物の有効な用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるのか動物であるのか、投与される他の医薬、処置が予防的であるのか治療的であるのか、ならびに組成物自体の特定の活性および個体において所望の応答を誘発する能力をはじめとした多くの様々な因子に応じて変動する。通常、患者は、ヒトであるが、いくつかの疾患では、患者は、非ヒト哺乳動物であり得る。代表的には、投与レジメンは、最適な治療的応答をもたらすように、すなわち、安全性および有効性が最適になるように、調整される。したがって、治療的または予防的に有効な量は、IgG媒介性炎症を阻害する有益な作用が、望まれない任意の副次的な作用にまさるものでもある。可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドを投与する場合、投薬量は、代表的には、約0.1μg〜100mg/kgまたは1μg/kg〜約50mg/kg、より一般的には、10μg〜5mg/kg被験体体重に及ぶ。より特定の実施形態において、その薬剤の有効量は、約1μg/kg〜約20mg/kg、約10μg/kg〜約10mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約5mg/kgである。この範囲内の投薬量は、単回または複数回の投与(例えば、1日あたり複数回の投与、または毎日、毎週、隔週または毎月の投与を含む)によって達成され得る。例えば、ある特定のバリエーションにおいて、レジメンは、初回の投与の後の、毎週または隔週の間隔での複数回の投与からなる。別のレジメンは、初回の投与の後の、毎月または隔月の間隔での複数回の投与からなる。あるいは、投与は、IgG媒介性炎症および/またはその疾患もしくは障害の臨床症状をモニターすることによって示されるような、不規則な基準に基づき得る。
薬学的組成物の投薬量は、標的部位において所望の濃度を維持するように主治医によって変更され得る。例えば、静脈内の送達様式が選択されている場合、標的組織における薬剤の血流中の局所濃度は、被験体の状態および予定され測定される応答に応じて、1リットルあたり約1〜50ナノモルの組成物、時折、1リットルあたり約1.0ナノモル〜1リットルあたり10、15または25ナノモルであり得る。それより高いまたは低い濃度が、送達様式、例えば、経皮送達 対 粘膜表面への送達に基づいて、選択され得る。投薬量は、投与される製剤の放出速度、例えば、散剤に対する点鼻薬、徐放経口または注射される粒子、経皮的製剤などに基づいて調整されるべきである。同じ血清濃度レベルを達成するために、例えば、5ナノモル濃度という放出速度(標準的な条件下において)を有する緩効性粒子は、10ナノモル濃度という放出速度を有する粒子の約2倍の投薬量で投与され得る。
可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドを含む薬学的組成物は、液体の形態、エアロゾルまたは固体の形態で、供給され得る。液体の形態は、注射可能な溶液、エアロゾル、液滴、トポロジカル(topological)溶液および経口懸濁液によって例証される。例示的な固体の形態としては、カプセル、錠剤および放出制御型が挙げられる。後者の形態は、ミニ浸透圧ポンプおよび植込錠によって例証される(例えば、Bremerら、Pharm.Biotechnol.10:239,1997;Ranade,“Implants in Drug Delivery”Drug Delivery Systems 95−123(Ranade and Hollinger,eds.,CRC Press 1995);Bremerら、“Protein Delivery with Infusion Pumps”Protein Delivery:Physical Systems 239−254(Sanders and Hendren,eds.,Plenum Press 1997);Yeweyら、“Delivery of Proteins from a Controlled Release Injectable Implant”Protein Delivery:Physical Systems 93−117(Sanders and Hendren,eds.,Plenum Press 1997)を参照のこと)。他の固体の形態としては、クリーム、ペースト、他のトポロジカル塗布物などが挙げられる。
リポソームは、例えば、静脈内、腹腔内、髄腔内、筋肉内、皮下に、または経口投与、吸入もしくは鼻腔内投与を介して、治療的なポリペプチドを被験体に送達する1つの手段を提供する。リポソームは、水性区画を囲む1つ以上の脂質二重層からなる微視的ベシクルである(Bakker−Woudenbergら、Eur..Clin.Microbiol.Infect.Dis.12(Suppl.1):S61,1993;Kim,Drugs 46:618,1993;Ranade,“Site−Specific Drug Delivery Using Liposomes as Carriers”Drug Delivery Systems 3−24(Ranade and Hollinger,eds.,CRC Press 1995)を広く参照のこと)。リポソームは、細胞膜と組成が似ており、結果として、リポソームは、安全に投与され得、生分解性である。調製方法に応じて、リポソームは、単層または多層であり得、リポソームは、サイズが様々であり得、直径は0.02μmから10μm超に及ぶ。種々の薬剤が、リポソーム内に被包され得る:疎水性の薬剤は、二重層の中に分配され、親水性の薬剤は、内側の水性空間の中に分配される(例えば、Machyら、Liposomes In Cell Biology And Pharmacology(John Libbey 1987);Ostroら、American J.Hosp.Pharm.46:1576,1989を参照のこと)。さらに、リポソームのサイズ、二重層の数、脂質組成、ならびにリポソームの電荷および表面特性を変更することによって、被包される薬剤の治療的な利用可能性を制御することが可能である。
リポソームは、実質的にいずれのタイプの細胞にも吸着し得、次いで、被包された薬剤をゆっくり放出し得る。あるいは、吸収されたリポソームは、食作用性である細胞のエンドサイトーシスによって取り込まれ得る。エンドサイトーシスの後、リポソームの脂質がリソソーム内で分解され、被包されていた薬剤が放出される(Scherphofら、Ann.N.Y.Acad.Sci.446:368,1985を参照のこと)。静脈内投与の後、小さいリポソーム(0.1〜1.0μm)は、代表的には、主に肝臓および脾臓に位置する細網内皮系の細胞によって取り込まれる一方で、3.0μmより大きいリポソームは、肺に沈着する。この細網内皮系の細胞によるより小さいリポソームの優先的な取り込みは、化学療法剤をマクロファージおよび肝臓の腫瘍に送達するために用いられている。
細網内皮系は、大用量のリポソーム粒子による飽和または薬理学的手段による選択的なマクロファージの不活性化をはじめとしたいくつかの方法によって回避され得る(Claassenら、Biochim.Biophys.Acta 802:428,1984を参照のこと)。さらに、糖脂質またはポリエチレン(polyethelene)グリコールによって誘導体化されたリン脂質をリポソーム膜に組み込むことによって、細網内皮系による取り込みが著しく少なくなることが示されている(Allenら、Biochim.Biophys.Acta 1068:133,1991;Allenら、Biochim.Biophys.Acta 1150:9,1993を参照のこと)。
リポソームは、リン脂質の組成を変更するか、またはレセプターもしくはカウンターレセプターをリポソームに挿入することによって、特定の細胞または臓器を標的化するようにも調製され得る。例えば、高含有量の非イオン性界面活性剤を用いて調製されたリポソームが、肝臓を標的化するために使用されている(例えば、Hayakawaらに対する日本国特許04−244,018;Katoら、Biol.Pharm.Bull.16:960,1993を参照のこと)。これらの製剤は、ダイズホスファチジルコリン(phospatidylcholine)、α−トコフェロールおよびエトキシ化硬化(ethoxylated hydrogenated)ひまし油(HCO−60)をメタノール中で混合し、その混合物を真空下で濃縮し、次いで、その混合物を水で再構成することによって調製された。ダイズ由来ステリルグルコシド混合物(SG)およびコレステロール(Ch)を含むジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のリポソーム製剤もまた肝臓を標的化すると示されている(Shimizuら、Biol.Pharm.Bull.20:881,1997を参照のこと)。
あるいは、様々な標的化カウンターレセプター(例えば、抗体、抗体フラグメント、炭水化物、ビタミンおよび輸送タンパク質)が、リポソームの表面に結合され得る。例えば、肝臓を標的化するために、リポソームは、分枝タイプのガラクトシル脂質誘導体で修飾されることにより、肝臓細胞の表面上でもっぱら発現されるアシアロ糖タンパク質(ガラクトース)レセプターを標的化することができる(Kato and Sugiyama,Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Syst.14:287,1997;Murahashiら、Biol.Pharm.Bull.20:259,1997を参照のこと)。組織標的化のより一般的なアプローチでは、標的細胞を、その標的細胞によって発現されるカウンターレセプターに特異的なビオチン化抗体で予め標識する(Harasymら、Adv.Drug Deliv.Rev.32:99,1998を参照のこと)。遊離抗体を血漿から除去した後、ストレプトアビジン結合体化リポソームを投与する。別のアプローチでは、標的化抗体をリポソームに直接付着する(Harasymら、前出を参照のこと)。
本発明のポリペプチドは、タンパク質マイクロカプセル化の標準的な手法を用いてリポソーム内に被包され得る(例えば、Andersonら、Infect.Immun.31:1099,1981;Andersonら、Cancer Res.50:1853,1990;Cohenら、Biochim.Biophys.Acta 1063:95,1991;Alvingら、“Preparation and Use of Liposomes in Immunological Studies”Liposome Technology(Vol.III)317(Gregoriadis,ed.,CRC Press,2nd ed.1993);Wassefら、Meth.Enzymol.149:124,1987を参照のこと)。上で述べたように、治療的に有用なリポソームは、種々の構成要素を含み得る。例えば、リポソームは、ポリ(エチレングリコール)の脂質誘導体を含み得る(Allenら、Biochim.Biophys.Acta 1150:9,1993を参照のこと)。
分解可能なポリマーミクロスフェアは、高い全身性レベルの治療的タンパク質を維持するように設計されている。ミクロスフェアは、分解可能なポリマー(例えば、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、非生分解性酢酸エチルビニルポリマー)から調製され、ここで、タンパク質は、そのポリマーの中に封入される(例えば、Gombotz and Pettit,Bioconjugate Chem.6:332,1995;Ranade,“Role of Polymers in Drug Delivery”Drug Delivery Systems 51−93(Ranade and Hollinger,eds.,CRC Press 1995);Roskos and Maskiewicz,“Degradable Controlled Release Systems Useful for Protein Delivery”Protein Delivery:Physical Systems 45−92(Sanders and Hendren,eds.,Plenum Press 1997);Bartusら、Science 281:1161,1998;Putney and Burke,Nature Biotechnology 16:153,1998;Putney,Curr.Opin.Chem.Biol.2:548,1998を参照のこと)。ポリエチレングリコール(PEG)でコーティングされたナノスフェアもまた、治療的タンパク質を静脈内投与するためのキャリアを提供し得る(例えば、Grefら、Pharm.Biotechnol.10:167,1997を参照のこと)。
例えば、Ansel and Popovich,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(Lea & Febiger,5th ed.1990);Gennaro(ed.),Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company,19th ed.1995)およびRanade and Hollinger,Drug Delivery Systems(CRC Press 1996)によって示されているように、他の剤形が当業者によって考案され得る。
薬学的組成物は、本発明の可溶性FcγRポリペプチドを含む容器を備えるキットとして供給され得る。本発明のFcγRポリペプチドは、単回投与もしくは反復投与が意図された注射可能な溶液の形態で、または注射の前に再構成される無菌粉末として、提供され得る。あるいは、そのようなキットは、治療的なポリペプチドを投与するための、乾燥粉末撒布器(disperser)、液体エアロゾル発生器または噴霧器を備え得る。そのようなキットは、薬学的組成物の適応症および使用法についての書面による情報をさらに備え得る。さらに、そのような情報は、可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチド含有組成物が、FcγRに対する既知の過敏症を有する患者では禁忌であるという声明を含み得る。
上で述べたように、本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、多岐にわたるIgG媒介性炎症性疾患に対する治療的な可能性を有する。生物が侵入物質をかわすための防御反応である炎症は、多くの細胞性および体液性のメディエーターが関与する、カスケードで生じる事象である。一方、炎症反応を抑制することにより、宿主は免疫無防備状態になり得る;しかしながら、炎症は、抑制しないままであると、例えば、慢性炎症性疾患を含む重篤な合併症をもたらし得る。重要なことには、これらの多種多様な疾患状態は、共通の炎症性メディエーターを共有する。炎症を特徴とする集合的な疾患は、ヒトの罹患率および死亡率に対して大きな影響を及ぼす。本明細書中に記載される研究は、とりわけ、可溶性FcγRが免疫複合体の結合およびシグナル伝達を阻止する能力、ならびに可溶性FcγRがIgG媒介性疾患を処置する能力を示す。したがって、本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、膨大な数のヒトおよび動物疾患、例えば、本明細書中で検討されるIgGおよび免疫複合体に媒介される疾患に対して治療的な可能性を有する。可溶性ハイブリッドFcγRを用いる処置を受け入れやすい例示的な疾患は、下記のIII(A)およびIII(B)の項においてさらに記載される。
A.免疫複合体媒介性疾患
抗原とその同族抗体との結合によって免疫複合体が生成され、そして組織内におけるこれらの免疫複合体の沈着が種々の自己免疫疾患の根底にある発症機序である(Jancar and Crespo,Trends Immunol.26:48−55,2005を参照のこと)。これらの疾患としては、結合組織の自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群および混合結合組織病);多種多様な病因の疾患(例えば、クリオグロブリン血症、結節性多発動脈炎および抗リン脂質症候群);ならびに外因性抗原に関連する疾患(細菌、ウイルスおよび寄生虫の感染症を含む)、有機塵に関連する疾患および血清病型の疾患(感染症、毒ヘビ咬傷および薬物過敏症に対する受動免疫療法を含む)が挙げられる。これらの状態の各々は、特定の抗原抗体対によって引き起こされ、それらによって示され、組織損傷に対する機構:循環免疫複合体の形成後のその複合体の組織内の沈着が、類似している(Jancar and Crespo,前出を参照のこと)。抗原抗体複合体は、免疫複合体が細胞表面Fcγレセプターに結合することによって部分的に媒介されるプロセスである炎症の引き金を引くことによって、およびその抗原抗体複合体が補体を固定する能力によって、組織を損傷し得る。
正常な状況において、免疫複合体は、細網内皮系の食作用性の細胞によって取り除かれる。しかしながら、いくつかの場合において、免疫複合体は、組織内に蓄積し、沈着することにより、III型過敏反応を引き起こす(Jancar and Crespo,前出を参照のこと)。免疫複合体が血液中に形成されると、抗原が進入した部位から移動した部位において沈着が生じ得る。複合体の沈着は、例えば、血漿の濾過が生じる部位である、血管壁上、関節の滑膜内、腎臓の糸球体基底膜上および脳の脈絡膜神経叢上において日常的に観察される(Jancar and Crespo,前出を参照のこと)。これは、クリオグロブリン血症などの免疫複合体媒介性疾患において観察される関節炎、血管炎および糸球体腎炎の高発生率の理由である。
免疫複合体は、組織内に沈着した後、IgGのFcドメインを介して細胞表面FcγRに結合する。前に述べたように、FcγRは、免疫系の体液性の部門と細胞性の部門とを結びつけるものとして重大な役割を果たす(Cohen−Solalら、Immunol.Lett.92:199−205,2004;Hogarthら、Curr.Opin.Immunol.14:798−802,2002;Nakamuraら、Expert Opin.Ther.Targets 9:169−190,2005;Nimmerjahn,Springer Semin.Immunopathol.28:305−319,2006を参照のこと)。IgGのFc部分によるこれらの細胞表面レセプターの連結は、種々の免疫エフェクター機能(例えば、抗原提示、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、食作用および炎症性メディエーターの放出)の引き金を引くことができる。Fcγレセプターの3つの主要なクラスであるFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIは、ヒト免疫系の細胞の特定のサブセットおよび重複したサブセット内において発現され、その発現パターンは、免疫ホメオスタシスにおける多種多様な役割を説明する(Nakamuraら、前出を参照のこと)。単量体IgGに対して高親和性を示すFcγRIを除いて、他のサブクラスのFcγRは、低親和性IgGレセプターである(Cohen−Solalら、前出;Hogarthら、前出を参照のこと)。しかしながら、これらの細胞レセプターは、複数のFc:FcγR相互作用を通じて抗原抗体免疫複合体(IC)と高アビディティーで結合する。この特性は、FcγRIIおよび/またはFcγRIIIを発現している細胞が、細胞外環境をサンプリングすることおよび飽和量の単量体IgGにもかかわらずICに対して適切に応答することを可能にすると考えられる(Hogarthら、前出を参照のこと)。
この能力を示す可溶性レセプターを同定するスクリーニングの試みの一部として、天然のヒトFcγRの各々の可溶性細胞外ドメインが、CHO細胞において発現され、その条件培地から均一に精製された。rh−FcγRの各々が、いくつかのインビトロ系において免疫複合体媒介性炎症性事象を減少させたのに対し、高親和性レセプターのFcγRIAだけが、マウスの皮膚の逆受身アルサス反応における炎症を一貫して減少させた。この結果は、単量体IgGに対する高親和性レセプターとしてのFcγRIAが、一般に、インビボにおいて循環単量体IgGとともに飽和されているのでICへの結合には利用可能でないと予想される点において予想外だった。FcγRIAの全身送達もまた関節炎のマウスのコラーゲン抗体誘導モデルにおいて炎症を無効にしたという観察結果は、FcγRIAが、免疫複合体媒介性疾患を処置するための新規治療法であり得ることを示唆する。さらに、これらの結果は、そのような状態を処置するために、本明細書中に記載されるようなハイブリッドFcγレセプターを含むFcγに対する他の可溶性で高親和性のレセプターを使用することを支持する。
したがって、細胞表面Fcガンマレセプターへの免疫複合体の結合を阻止することによって、本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドは、炎症性サイトカインの分泌を減少させ得、好中球などの炎症細胞型の浸潤を減少させ得る。本明細書中に記載される研究によって証明されるように、可溶性FcγRIAは、抗原抗体免疫複合体の析出を阻止し、マスト細胞による免疫複合体媒介性のサイトカイン分泌を阻害した(実施例9および10,後掲を参照のこと)。マウスにおける研究では、さらに、可溶性FcγRIAが、皮膚の逆受身アルサス反応において浮腫および好中球浸潤を減少させ、コラーゲン抗体誘導関節炎モデル、さらにマウスのコラーゲン誘導関節炎において足の炎症を減少させた(実施例9〜11および13,後掲を参照のこと)。したがって、可溶性FcγRIAならびに本明細書中に記載されるようなそのハイブリッド型は、ヒトまたは他の非ヒト種における様々な免疫複合体媒介性疾患の処置において使用される。
1.クリオグロブリン血症(Cryoblobulinemia)
クリオグロブリン血症という用語は、37℃未満の温度において可逆的に沈殿する1種の免疫グロブリン(モノクローナルクリオグロブリン血症)またはそれ以上の免疫グロブリン(混合型クリオグロブリン血症)の血清中の存在のことを指す(Meltzer and Franklin,Am.J.Med.40:828−836,1996;Dammaccoら、Eur.J.Clin.Invest.31:628−638,2001;Sansonnoら、Rheumatology(Oxford)46:572−578,2007を参照のこと)。寒冷沈降反応の機構は、不明であるが、Igの構造の変化、Ig Fcドメインの自己会合および/またはIgMリウマチ因子の活性が関与し得る(Sansonno and Dammacco,Lancet Infect.Dis.5:227−236,2005を参照のこと)。クリオグロブリン血症は、3つのサブグループに分類される(Dammaccoら、前出を参照のこと):I型は、単一のモノクローナルIgから構成され;II型は、モノクローナルIgMとポリクローナルIgGとの混合物から構成され;そしてIII型は、ポリクローナルIgM/IgGの混合物である。I、IIおよびIII型のクリオグロブリン血症は、それぞれ、血清寒冷沈降物を有するすべての人のおよそ10〜15%、50〜60%および30〜40%を占める(Dammaccoら、前出;Sansonnoら、前出を参照のこと)。
クリオグロブリン血症(cryogobulinemia)を有する患者は、ほとんどの場合、紫斑、脱力および関節痛という臨床的3主徴、ならびに糸球体腎炎、血管炎、末梢神経障害、関節炎ならびに/または喀血および呼吸困難の肺の症状を示す(Dammaccoら、前出;Sansonnoら、前出;Ferriら、Cleve.Clin.J.Med.69 Suppl 2:SII20−23,2002(「Ferriら、I」);Ferriら、J.Clin.Pathol.55:4−13,2002(「Ferriら、II」)を参照のこと)。クリオグロブリン血症は、多発性骨髄腫、リンパ増殖性障害、結合組織疾患、感染症および肝臓疾患をはじめとした種々の障害に関連して観察され得る(Ferriら、I,前出;Ferriら、II,前出)。C型肝炎ウイルス(HCV)の発見の前および抗HCV抗体を検出する方法が開発される前に、根底にある同定可能な疾患を有しない患者は、特発性または「本態性」の混合型クリオグロブリン血症を有すると考えられていた。現在では、「本態性」混合型クリオグロブリン血症が、HCV感染に強く関連し、II型およびIII型クリオグロブリン血症を有する患者の大部分を含んでいることが知られている(Sansonnoら、前出を参照のこと)。最新のエビデンスから、本態性混合型クリオグロブリン血症は、C型肝炎感染に対する異常な免疫応答によって、C型肝炎抗原、ポリクローナルC型肝炎特異的IgGおよびモノクローナルIgMリウマチ因子からなる免疫複合体が形成されるときに、生じることが示唆されている。感受性の組織部位内にこれらの免疫複合体が沈着すると、炎症性カスケードの引き金が引かれ、本態性混合型クリオグロブリン血症の臨床的な症候群がもたらされる(Dammaccoら、前出;Sansonnoら、前出)。
クリオグロブリン血症は、HCVに加えて、他の種々の感染症(サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)およびB型肝炎ウイルス(HBV)などのウイルス起源の感染症、Mycoplasma pneuymoniae、Treponema pallidum(梅毒)、Mycobacterium tuberculosis、Coxiella Burnetti Q熱、Brucellaを含む細菌起源の感染症、ならびにToxoplasma gondiiなどの寄生生物による感染症および内臓リーシュマニア症を含む)にも関連する(Ferriら、II,前出を参照のこと)。
本態性混合型クリオグロブリン血症は、主要な血管炎障害であると考えられている。Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)による血管炎の分類は、罹患血管のサイズに基づき、それらの疾患を、大血管、中血管または小血管を冒す疾患にグループ化する(Jennetteら、Cleve.Clin.J.Med.69 Suppl 2:SII33−38,2002;Fiorentino,J.Am.Acad.Dermatol.48:311−340,2003を参照のこと)。重要なことには、2つの血管炎症候群は、免疫複合体の沈着に関連する:ヘノッホシェーンライン紫斑病は、IgA含有免疫複合体の沈着に関連し;そして本態性クリオグロブリン血症性血管炎は、IgG/IgM免疫複合体の沈着に関連する(Fiorentino,前出を参照のこと)。
本態性混合型クリオグロブリン血症におけるHCV感染の発生率は、報告されている症例では、地理によって40〜100%に及ぶ。世界中でおよそ2億人が、慢性的にHCVに感染しており、毎年、350万人の新たな感染が報告されている(Sy and Jamal,Int.J.Med.Sci.3:41−46,2006を参照のこと)。米国における発生率および有病率は、1年あたり30,000の新たな感染であり、慢性感染は390万である(Sy and Jamal,前出を参照のこと)。慢性的にHCVに感染している患者のおよそ50〜60%が、血清中にクリオグロブリンを有し、約5%の症例において顕性のクリオグロブリン血症性症候群を発症している(Sansonnoら、前出;Sansonno and Dammacco,前出を参照のこと)。混合型クリオグロブリン血症を有する患者の5%において、B型肝炎ウイルスが病因物質として報告されている(Ferriら、I,前出を参照のこと)。
クリオグロブリン血症に対する現在の治療としては、中程度の疾患に対して低用量ステロイドが挙げられ、より重篤な形態の疾患に対しては、ステロイド、シクロホスファミドまたはプラスマフェレシスの組み合わせが、使用される。活性なHCV媒介性肝炎を有する患者は、インターフェロン−αとリバビリンとの組み合わせで処置されることが多い。
本発明のFcγRIAポリペプチドの有効性は、疾患の動物モデルにおけるインビボにおいて試験され得る。クリオグロブリン血症を含む免疫複合体媒介性疾患に対する可溶性FcγRIAの有効性を評価するために特に適している動物モデルは、B細胞を促進する特性を有するインターロイキン−7(IL−7)様サイトカインである胸腺間質リンホポイエチン(thymic stromal lymphopoietin)(TSLP)を過剰発現するマウスである。TSLPマウスは、IgG−IgM混合組成の循環クリオグロブリンを大量に産生する(Tanedaら、Am.J.Pathol.159:2355−2369,2001を参照のこと)。これらの動物における混合型クリオグロブリン血症の発症は、腎臓、肝臓、肺、脾臓および皮膚における免疫複合体沈着に起因して、これらの組織が関わる全身性の炎症性疾患に関連する(Tanedaら、前出を参照のこと)。これらの動物における腎臓疾患は、HCVに感染している患者において見られるようなヒトクリオグロブリン血症糸球体腎炎に酷似している。この疾患プロセスにおけるFcγレセプターに対する役割は、抑制性レセプターであるFcγレセプターIIbが欠失した後に罹患率および死亡率が高まることを伴う腎損傷の悪化によって示された(Muhlfeldら、Am.J.Pathol.163:1127−1136、2003を参照のこと)。本発明に記載の組換え可溶性FcγRによるTSLPトランスジェニックマウスの処置は、実施例12,後掲にさらに記載される。
2.全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデス(SLE)は、病原性自己抗体の産生、それに続く免疫複合体の沈着(それにより、広範な組織損傷がもたらされる)を特徴とする複合的な多臓器(全身性)の自己免疫障害である。SLEの病因は、不明であるが、複数の遺伝的、環境的およびホルモン性の因子が、疾患において役割を果たすと考えられている(Hahn,“Systemic Lupus Erythematosus”Harrison’s Principles of Internal Medicine(Kasper et al.eds.,McGraw−Hill,New York 2005)を参照のこと)。SLEは、臨床的に、漸増と漸減の経過、ならびに皮膚、腎臓および中枢神経系を含む複数の臓器が関与することを特徴とする(Lupus:Molecular and Cellular Pathogenesis(Kammer and Tsokos eds.,Human Press,N.J.,1st ed.1999);Systemic Lupus Erythromatosus(Lahita ed.,Academic Press,Amsterdam,3rd ed.1999))。したがって、この疾患は、幅広い種類の症状および臨床的特徴(全身性、皮膚、腎臓、筋骨格および血液学的を含む)を示す。
SLEの全体的な有病率は、2000人に約1人であり、700人の白人女性中、約1人が、生涯においてSLEを発症する(Lahita,Curr.Opin.Rheumatol.11:352−6,1999)。米国単独では、50万人を超える人が、SLEを有し、ほとんどが、妊娠可能年齢の女性である(Hardin,J.Exp.Med.185:1101−1111,2003)。
SLEを診断する単一の基準はない。米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)は、SLEを診断する11の基準を開発しており、それは、皮膚、全身性および臨床検査の局面におけるSLEの臨床スペクトラムに及ぶものである。これらの基準としては、頬部発疹、円板状発疹、太陽光に対する感受性、口腔潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎臓および中枢神経系の炎症、血液の変質、ならびに抗核抗体の存在が挙げられる。SLE患者として分類されるためには、患者は、これらの基準のうちの4つを満たさなければならない(Tanら、Arthritis Rheumatol.25:1271−1277,1982)。SLEは、通常、検査によって確かめられ、その試験としては、抗核抗体を検出する血液検査;腎臓機能を評価する血液検査および尿検査;SLEに関連することが多い低レベルの補体の存在を検出する補体検査;炎症レベルを測定する沈降速度(ESR)またはC反応性タンパク質(CRP);肺の損傷を評価するX線ならびに心臓の損傷を評価するEKGが挙げられるが、これらに限定されない。
SLEに対する標準的な治療は、一般的な免疫応答インヒビターであるステロイドの糖質コルチコイドの投与である。これを用いることにより、症状を軽減することができる;しかしながら、現在、SLEの治癒は、達成可能でない。0.5mg/kg/日未満のレベルの低用量p.o.プレドニゾンが、通常、投与される。残念なことに、この治療は、患者を緩解にし続けるには不十分であり、この疾患の拡大が頻繁に見られる。発赤は、静脈内パルスを介した、3日間連続の30mgメチルプレドニゾロン/kg/日での高用量糖質コルチコイドによって管理され得る。しかしながら、高用量のステロイド処置は、患者に対して重篤な副作用をもたらし得る。
これらの標準的な処置は、一般に非特異的であり、重篤な副作用を伴うことが多く、その疾患の進行または生命を危うくする腎臓合併症(ループス腎炎またはLN)への移行に著しく影響しない。その結果として、SLEを処置するための新規方法の開発が、当該分野において長年にわたって必要とされている。
3.関節リウマチ
関節リウマチ(RA)は、代表的には組織の損傷および関節の変形に導く関節の慢性炎症を特徴とする。正確な病因は、明らかではないが、関節リウマチは、一般に、免疫複合体、種々のリンパ系細胞型(T細胞、B細胞、好中球、マクロファージ、いくつかの炎症性サイトカイン(例えば、TNF−αおよびIL−1β)が関与する自己免疫疾患であると考えられている(Harrison’s Principles of Internal Medicine(Kasperらeds.,McGraw−Hill,New York 2005);Olsen and Stein,N.Engl.J.Med.350:2167−2179,2004を参照のこと)。
関節リウマチは、全身を冒す全身性疾患であり、関節炎の最も一般的な形態の1つである。RAは、免疫介在性であり、特に、炎症、ならびに重篤な障害および死亡率上昇をもたらすその後の組織損傷を特徴とする。特に、RAは、関節を裏打ちする膜の炎症を特徴とし、それにより、疼痛、硬直、温感、発赤および腫脹が引き起こされる。炎症細胞は、骨および軟骨を消化し得る酵素を放出する。関節リウマチの結果として、炎症した関節の裏打ちである滑膜が、骨および軟骨を浸潤し、損傷し得ることにより、他の生理学的作用の中でも関節の劣化および重篤な疼痛がもたらされる。関与する関節は、その形状および配列を失い得、その結果、疼痛がもたらされ、動きを失う。
種々のサイトカインが、リウマチの関節において局所的に産生される。数多くの研究によって、2つの原型炎症性サイトカインであるIL−1およびTNF−αが、滑膜の炎症および進行性の関節破壊に関与する機構において重要な役割を果たすことが証明されている。実際に、RAを有する患者にTNF−αインヒビターおよびIL−1インヒビターを投与することによって、炎症の臨床的および生物学的な徴候が劇的に改善し、骨侵食および軟骨破壊の放射線学的徴候が減少した。しかしながら、これらの有望な結果にもかかわらず、かなりのパーセンテージの患者が、これらの薬剤に応答せず、このことは、他のメディエーターもまた関節炎の病態生理学に関与することを示唆している(Gabay,Expert.Opin.Biol.Ther.2:135−149,2002)。RAが、関節軟骨の主要な細胞外マトリックス成分であるII型コラーゲンに対する抗体の存在を特徴とするので、これらの抗体は、関節腔内における滑膜細胞または他の炎症細胞型との相互作用を通じて、上に記載されたものなどの炎症性サイトカインの放出を媒介すると考えられている。
RAの病原において重要であり得る免疫学的異常は、滑液細胞および血管炎に見られる免疫複合体も含む。これらの複合体の一因は、滑膜組織を浸潤し、炎症性サイトカインを産生し得る形質細胞およびTヘルパー細胞によって産生される抗体(例えば、RF)である。マクロファージおよびそれらのサイトカイン(例えば、TNF、GMCS−F)もまた、病的な滑膜に大量に存在する。高レベルの接着分子は、滑膜組織における炎症細胞の遊出および貯留に寄与する。いくつかのリンパ球とともに、マクロファージ由来の管壁細胞(lining cell)の増加も、顕著である。
RAの確立された処置としては、疾患を緩和する抗リウマチ薬物(DMARD)(例えば、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、メトトレキサート、レフルノミド、リツキシマブ、インフリキシマブ、アザチオプリン、D−ペニシラミン、金(経口または筋肉内)、ミノサイクリンおよびシクロスポリン)、プレドニゾンなどのコルチコステロイド(coritcosteroids)および非ステロイド性抗炎症性薬物(NSAIDS)が挙げられる。これらの処置は、一般に非特異的であり、重篤な副作用を伴うことが多く、関節破壊の進行に著しく影響しない。その結果として、RAを処置するための新規方法の開発が、当該分野において長年にわたって必要とされている。
本発明の可溶性FcγRIAポリペプチドは、免疫複合体と、滑膜内の炎症細胞型との相互作用を阻止し、炎症を妨げることができた。ゆえに、本発明のFcγRIAポリペプチドは、関節リウマチおよび他の関節炎の疾患において炎症を減少させる価値のある治療剤として機能し得る。
当該分野で公知の関節リウマチに対するいくつかの動物モデルが存在する。例えば、コラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルでは、マウスが、ヒト関節リウマチによく似た慢性炎症性関節炎を発症する。CIAは、RAと類似の免疫学的および病理学的な特徴を共有するので、このことにより、このモデルが潜在的なヒト抗炎症性化合物をスクリーニングするための理想的なモデルとなる。CIAモデルは、発生するために免疫応答と炎症反応の両方に依存するマウスの周知のモデルである。その免疫応答は、抗原として与えられるコラーゲンに応答したB細胞およびCD4+T細胞の相互作用を含み、抗コラーゲン抗体を産生させる。この炎症性の段階は、マウスの天然のコラーゲンに架橋し、細胞のFcレセプターおよび/または補体カスケードを活性化する、これらの抗体のいくつかの結果としての、炎症のメディエーターによる組織応答の結果である。CIAモデルを用いる際の利点は、その病原の基本的機構が公知である点である。II型コラーゲン上の関連性のあるT細胞エピトープおよびB細胞エピトープが、同定されており、免疫媒介性関節炎に関係する様々な免疫学的パラメータ(例えば、遅延型過敏症および抗コラーゲン抗体)および炎症性パラメータ(例えば、サイトカイン、ケモカインおよびマトリクス分解酵素)が、確定されているので、それらを用いることにより、CIAモデルにおいて試験化合物の有効性を評価することができる(Wooley,Curr.Opin.Rheum.3:407−20,1999;Williamsら、Immunol.89:9784−788,1992;Myersら、Life Sci.61:1861−78,1997;およびWangら、Immunol.92:8955−959,1995)。
これらのCIAモデルマウスへの本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドの投与を用いることにより、症状を回復させ、疾患の経過を変更させるための可溶性FcγRの使用を評価することができる。限定ではなく例として、マウス1匹あたり0.1mg〜2.0mgの本発明の可溶性ハイブリッドFcγRポリペプチドの注射(s.c.、i.p.またはi.m投与経路を介して、限定されないが最大4週間にわたって、1週間に1〜7回)が、疾患スコア(足のスコア、炎症のインシデントまたは疾患)を著しく減少させ得る。投与の開始(例えば、コラーゲン免疫の前もしくはコラーゲン免疫時、または2回目のコラーゲン免疫の後の任意の時点(疾患がすでに進行している時点を含む))に応じて、本発明のアンタゴニストは、関節リウマチの予防、ならびにその進行の予防において有効であり得る。本明細書中に記載される研究によって示されるように、可溶性FcγRIAポリペプチド(配列番号2の残基16〜282)の投与は、マウスCIAモデルにおいて症状を回復させ、疾患の経過を変更させた(実施例13,後掲を参照のこと)。
免疫複合体媒介性のリウマチ性疾患に対する別のモデルは、マウスにおける関節炎のコラーゲン抗体誘導モデルである(Teratoら、J.Immunol.48:2103−2108,1992を参照のこと)。関節疾患は、このモデルにおいて、II型コラーゲンに対する4つのモノクローナル抗体のカクテル(例えば、Chemicon製のArthrogen−CIA(登録商標))の静脈内注射によって誘導される。マウスにおいて関節炎を誘導するために使用されるArthrogen−CIA(登録商標)は、II型コラーゲンのCB11ドメイン内の83アミノ酸ペプチド内の個別のエピトープを認識する4つのクローンの混合物である(Chemicon International technical brochure)。これらのエピトープは、ヒト、マウス、ウシ、ニワトリ、サルおよびラット由来のII型コラーゲンにおいて類似している。これらの抗体は、マウスの関節に局在化し、それらは、軟骨特異的II型コラーゲンと免疫複合体を形成する。その抗原抗体免疫複合体は、関節内の炎症細胞型の表面上に位置するFcガンマレセプターとの相互作用を通じて疾患を誘導すると考えられている。代表的には、0日目に、2〜4mgのArthrogen−CIAカクテルを、静脈内投薬によってマウスに注射する。これに続いて、3日後に、50〜100μgのLPSを腹腔内注射する(Teratoら、Autoimmunity 22:137−147,1995を参照のこと)。赤いおよび腫脹した足として明らかな関節炎を、1〜2日後に発症する。代表的な実験において、それらのマウスを、適当なビヒクルに溶解された可溶性FcγRIA(100〜2000μgのタンパク質)の注射によって0日目または3日目に処置する。可溶性ハイブリッドFcγRの投薬は、0日目または3日目に開始され、例えば、1日おきに与えられ得る。各動物に対する関節炎スコアは、関節腫脹および関節の厚さを毎日評価し得る。代表的な実験において、可溶性ハイブリッドFcγRは、関節炎スコアを低下させる。
4.混合結合組織病
混合結合組織病は、SLE、全身性硬化症、多発性筋炎または皮膚筋炎およびRAの臨床的特徴、ならびにリボ核タンパク質(RNP)抗原に対する循環抗核抗体の非常に高い力価を特徴とする稀な障害である(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Kim and Grossman,Rheum.Dis.Clin.North Am.31:549−565,2005;Venables,Lupus 15:132−137,2006を参照のこと)。本明細書中で抗U1RNPと称される高力価のこの抗体は、明確な臨床単位としてMCTDを考慮するための根拠である。MCTDは、それをSLEまたは強皮症のサブセットとして考える人によって、明確な障害として検証されている。他の人たちは、MCTDを区別されていない結合組織疾患として分類しがちである。手の腫脹、レイノー現象、多発性関節痛、炎症性ミオパチー、食道運動低下および肺機能不全が、よく起こる。診断は、臨床的特徴と、RNPに対する抗体と、他の自己免疫疾患に特異的な抗体が存在しないこととの組み合わせによる。一部の患者において、この障害は、古典的な全身性硬化症またはSLEに発展する。
レイノー現象が他の症状発現よりも何年も前に生じ得る。最初の症状発現は、初期のSLE、強皮症、多発性筋炎もしくは皮膚筋炎またはRAに似ていることが多い。最初の症状に関係なく、限局的な疾患は、進行して広汎性になる傾向があり、その臨床パターンは、時間をかけて変化する。最も頻繁に見られる所見は、手の腫脹であり、それは最終的にはソーセージ状の外観の指をもたらす。皮膚の所見としては、狼瘡または皮膚筋炎様発疹が挙げられる。びまん性で強皮症様の皮膚の変化および虚血性ネクローシスまたは指先の潰瘍化は、MCTDではほとんど見られない。ほぼすべての患者が、多発性関節痛を有し、75%が、明白な関節炎を有する。しばしばこの関節炎は、非変形性であるが、RAにおけるものと類似の糜爛性の変化および変形を示すことがある。圧痛を伴うかまたは伴わない近位筋の筋力低下が、よく起こる。腎疾患が、約10%に生じ、これは軽度であることが多いが、時折、罹患率または死亡率を引き起こす。三叉神経の感覚性ニューロパチーが、他の結合組織疾患よりもMCTDにおいて頻繁に発症する。リウマチ因子が、陽性であることが多く、力価が高いことが多い。ESRは、頻繁に上昇する。
SLE、強皮症、多発性筋炎またはRAを有するとみられる患者において、さらなる特徴が重複するときに、MCTDが、代表的に疑われる。患者は、まず、抗核抗体(ANA)ならびに抽出可能な核抗原(ENA)およびRNP抗原に対する抗体について試験される。これらの試験の結果が、MCTDと適合する(例えば、RNP抗体が非常に多い)場合、γ−グロブリンレベル、血清補体レベル、リウマチ因子、抗Jo−1(抗ヒスチジルt−RNA合成酵素)およびENAのリボヌクレアーゼ耐性Smith(Sm)構成要素に対する抗体ならびに二本鎖DNAを試験することにより、他の可能性のある診断が排除される。さらなる精密検査は、症状および徴候に依存する;筋炎の症状発現、腎臓の関与または肺の関与は、それらの臓器の試験(例えば、筋炎を診断するためのCPK、MRI、筋電図または筋生検)を促す。
全体的な10年生存率は、80%であるが、予後は、どの症状発現が優勢であるかに大きく左右される。死因としては、肺高血圧症、腎不全、MI、結腸穿孔、播種性感染症および脳出血が挙げられる。一部の患者は、処置されずに長年にわたって緩解を持続する。
混合結合組織病(MCTD)は、世界中で生じており、どの人種の中でも10代および20代が発生率のピークであるが、MCTDは、小児および高齢者に見られる。女性が主に罹患する。発生率および有病率は、明確に確定されていない。ほとんどの研究では、MCTDの臨床的特徴および血清学的特徴を有する患者の数は、SLEよりも約4倍少なく、約10/100,000という全体的な有病率が示唆されている(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Venables,前出を参照のこと)。
MCTDに対する現在の処置は、SLEに対する処置と同様であり、疾患が中程度または重度である場合はコルチコステロイドを用いる。中程度または重度の疾患を有するほとんどの患者が、特に初期に処置される場合、コルチコステロイドに応答する。軽度の疾患は、しばしば、サリチレート、他のNSAID、抗マラリア薬または時折、低用量コルチコステロイドによって管理される。重篤な主要器官の関与は、通常、より高用量のコルチコステロイドを必要とする。
5.HBVに関連する結節性多発動脈炎
1866年にKussmaulおよびMaierによって初めて報告された古典的な結節性多発動脈炎(PAN)は、多岐にわたる症状を特徴とする多臓器障害である(Fiorentino,J.Am.Acad.Dermatol.48:311−340,2003;Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。PANは、腎臓および内臓の動脈が特徴的に関与する、小さいサイズおよび中程度のサイズの筋性動脈の壊死性血管炎である。病変は、分節状であり、動脈の分岐および分枝を伴う傾向がある。この疾患の急性期では、好中球が、血管壁のすべての層および血管周囲の領域を浸潤し、その結果、内膜の増殖および血管壁の変性がもたらされる。病変が進行するにつれて、単核細胞がその領域を浸潤し、結果、管腔の障害を伴う脈管のフィブリノイド壊死、血栓症、その脈管によって供給されている組織の梗塞、および出血がもたらされる(Fiorentino,前出を参照のこと)。
B型肝炎ウイルス抗原から構成される循環免疫複合体の単離とともに、B型肝炎抗原血症の存在が、全身性血管炎、特に、PAN型の全身性血管炎を有する患者の10〜30%に存在し、このことは、この疾患の病原における免疫学的役割を示唆する。この考えは、この疾患を有する患者の血管壁におけるB型肝炎抗原、IgMおよび補体の沈着の所見によって裏付けられる(Fiorentino,前出を参照のこと)。
患者は、通常、発熱、体重減少、関節痛および倦怠感を示す。筋肉るいそう、腹痛、複合性単神経炎(mononeutitis complex)、高血圧症、睾丸炎およびうっ血性心不全が、それぞれの臓器系の脈管の関与を示す主要な症状である。B型肝炎感染に続発する場合、これらの臨床所見は、同じである。無処置のPANの予後は、不良であり、5年生存率は10〜20%であると報告されている(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。通常、死亡は、胃腸の合併症、特に、腸の梗塞および穿孔(perforaton)ならびに心臓血管の原因に起因する。
これまでの報告は、PANの発生率を顕微鏡的多発血管炎および関連する血管炎障害と併せているので、PANの正確な発生率を確定することは、困難である。しかしながら、PANの発生率は、100万あたり5〜9症例であると推定され(Fiorentino,前出を参照のこと)、10〜54%の範囲の頻度が報告されているが、約6%の症例が、HBV感染に起因すると推定されている(26,27)。
PAN患者は、現在、シクロホスファミド有りまたは無しのステロイドで処置されている(Fiorentino,前出を参照のこと)。HBVを有する患者の場合、ビダラビンおよびラミブジン有りまたは無しのインターフェロン−αによる抗ウイルス処置が、血漿交換と併用されるとき、有効である(Fiorentino,前出;Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。
6.尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡(PV)は、高齢患者において最もよく観察される水疱形成皮膚疾患である。この疾患は、皮膚の表皮細胞間の接着の喪失、その結果として表皮内に水疱が形成されることを特徴とする。損傷性または無傷の患者皮膚の直接的な免疫蛍光解析によって、ケラチノサイトの表面上におけるIgGの沈着が示される。このような沈着は、Ca2+依存性カドヘリンファミリーの膜貫通糖タンパク質であるデスモグレインに対する循環IgG自己抗体に由来する。PVは、生命を危うくすることがある。現在の治療の柱は、プレドニゾンなどの全身性ステロイドである。アザチオプリンまたはミコフェノール酸モフェチルなどの他の免疫抑制剤も使用される(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。
7.外因性抗原に関連する疾患
外因性抗原は、ウイルス、細菌または寄生生物による感染によって引き起こされるものをはじめとした多岐にわたる免疫複合体疾患、ならびに外来タンパク質または薬物への曝露によって引き起こされる血清病をもたらす(Jancar and Crespo,前出;Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Knowles and Shear,Dermatol.Clin.25:245−253,2007;Wolfら、Clin.Dermatol.23:171−181,2005を参照のこと)。組織免疫複合体沈着に関連する細菌感染症としては:連鎖球菌性、ブドウ球菌性および髄膜炎菌性の感染症;バルトネラ症、ボレリア症、ハンセン病、梅毒およびレプトスピラ症が挙げられる。ウイルス感染症としては:B型肝炎(結節性多発動脈炎)、C型肝炎(クリオグロブリン血症)、HIV関連免疫複合体腎症、ヒトパルボウイルスB19感染症、CMV感染症、伝染性単核球症およびデング出血熱が挙げられる。寄生虫病としては:Trypansoma、Plasmodium、ToxoplasmaおよびSchistosomaが挙げられる。
現在、最も一般的な血清病様反応は、非タンパク質薬物への曝露に起因する。血清病様反応に関係づけられている薬物としては:アロプリノール(allopurinal)、ヒ素誘導体および水銀誘導体、バルビツレート、ブプロピオン、セファロスポリン、フラゾリドン、金塩、グリセオフルビン、ヒドララジン、インフリキシマブ、ヨウ化物、メチルドパ、ペニシリン、フェニトイン、ピペラジン、プロカインアミド、ストレプトキナーゼおよびスルホンアミドが挙げられる。血清病様反応の他の原因としては、異種血清、アレルゲン抽出物、血液製剤、ホルモン、hymenoptera venomおよびワクチンへの曝露が挙げられる。
B.抗体産生が関与する他の疾患
1.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板の破壊(血小板減少症に導く)をもたらす特異的な血小板膜糖タンパク質に対する自己抗体の存在(IgG>IgM)を特徴とし、また、広範な斑状出血および粘膜からの出血、貧血ならびに極度の脱力を特徴とする、全身性の自己免疫性疾病である(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Cines and McMillan,Annu.Rev.Med.56:425−442,2005;Stasi and Provan,Mayo Clin.Proc.79:504−522,2004を参照のこと)。
血小板数が、きわめて少なくなり、歯肉、消化管および鼻からの自然出血が見られる。紫斑とは、血小板の減少の結果として出血が起きている、皮膚および粘膜(例えば、口の裏打ち)のやや紫色に見える領域のことを指す。理学的検査によって、脾臓の拡大が示されることがある。代表的な発疹は、皮膚における小血管の顕微鏡的出血に起因して生じる。10,000未満の血小板数は、脳に自然出血をもたらすことがあり、死に至ることがある。免疫性血小板減少性紫斑病、出血性紫斑病、血小板減少性紫斑病、ヴェルルホフ病とも呼ばれる。ほとんどの症例が無症候性であるが、非常に少ない血小板数によって、出血性素因および紫斑がもたらされ得る。小児に発症する急性ITP(男性と女性で同様の発生率)および成人に発症する慢性ITP(女性のほうが多い;2.6対1;10歳より上のITP患者の72%が女性である)という2つのタイプのITPが存在する。ほとんどの小児は、処置なしで回復する。小児における有病率のピークは、2〜4歳であり、成人では、20〜50歳である;すべてのITP患者のおよそ40%が、10歳より若い。
ITPの発生率:1年あたり100,000人の小児あたり4〜8人、100万人の成人あたり66症例、100万人の小児あたり50症例。慢性難治性ITPの新症例は、1年あたり100万人あたり約10症例を含む。米国におけるITPを有する個体の数は、およそ200,000であると推定されている。合計して、1年あたり100万人あたり約100の新症例のITPが存在する。新症例のおよそ半数が、小児である。
軽度のITPは、処置を必要としない。血小板数が、1マイクロリットルあたり10,000未満になるか、または出血(例えば、消化管における出血または重篤な鼻出血)が生じたときに50,000未満であるとき、一般に、ステロイドによる処置が開始される(Cines and McMillan,前出を参照のこと)。生命を危うくする症例の場合は、静脈内免疫グロブリン(IVIg)が用いられる。その後で、いわゆるステロイド節約剤(あるいはDMARDsと呼ばれる)を用いてもよい。これらのストラテジーが失敗に終わるときは、破壊のために標的にされた血小板は脾臓で最期を遂げることが多いので、脾臓摘出に着手することが多い。比較的新しいストラテジーは、通常Rh+の赤ん坊によってアカゲザル抗原に感作された母親において使用される薬剤である抗Dによる処置である。他の化学療法薬(例えば、ビンクリスチン、アザチオプリン(Imuran)、ダナゾール、シクロホスファミドおよびシクロスポリン)は、潜在的に有害な副作用を有するので、これらの薬物は、他の処置が有益でないと示された重篤な症例の患者にだけ処方される。IVIgは、有効であるが高価であり、改善は一時的である(一般に、1ヶ月未満しか続かない)。しかしながら、血小板数が危険なほど少なく、かつ他の処置に対する応答が不良な脾臓摘出前のITP患者の場合、IVIg処置によって、血小板数が増加し得、脾臓摘出手術が危険なものにならない。
2.シェーグレン症候群
シェーグレン症候群(SS)は、ドライアイおよび口渇をもたらす唾液腺および涙腺のリンパ球浸潤を特徴とする慢性自己免疫障害である。シェーグレン症候群は、原発性(下にある結合組織の障害を伴わない自己免疫性の乾燥(乾き)症候群)または続発性(RA、SLEまたはSScのような進行中の結合組織障害を有する患者における自己免疫媒介性の乾燥症候群)に分類される(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。SSに対する女性と男性との比率は、9:1であり、診断時の平均年齢は60歳である。病原モデルは、ウイルスを仮定するか、または適切な遺伝的/ホルモン的バックグラウンドにおける環境的な傷害は、唾液腺および涙腺における上皮炎(epitheliitis)をもたらす。結果として生じる単核細胞浸潤物(約70%のCD4+T細胞、25%のCD8+T細胞、20〜30%のB細胞)は、サイトカイン(IFNγ)を放出し、そしてそれにより、炎症性サイトカイン:TNFα、IL−1βおよびIL−6を放出するマクロファージが活性化される。次いで、これらのサイトカインは、腺房細胞からのMMPの放出を引き起こし、それにより、基底膜コラーゲンが分解される。やがて、腺組織は、瘢痕組織および脂肪で置き換えられる(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。
口渇/眼の症状に加えて、他の症状としては:食道運動障害、末梢神経障害関節痛および線維筋痛症が挙げられ得る。患者の60%が、自己抗体(リウマチ因子、ANA、Ro/SS−A、La/SS−B)を示し、極度の疲労に苦しむ。SS患者は、リンパ腫を発症するリスクが44倍高いと報告されている。
SSのために、NSAIDs、ステロイド、ヒドロキシクロロキンおよびメトトレキサートをはじめとした種々の処置が用いられている。いくつかの抗サイトカイン治療も使用されるが、第一選択療法としては推奨されない。これらとしては:REMICADE、ENBREL、IFN−α、抗IFN−γ、RITUXAN、シクロスポリン、タクロリムスおよび様々な局所用眼科調製物が挙げられる。
3.抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群は、動脈血栓症および/または静脈血栓症、ならびに持続的に陽性の抗カルジオリピン抗体および/またはループス抗凝固因子に関連する妊婦罹患率(pregnancy morbidity)を特徴とする発生頻度の高い自己免疫性で血栓形成促進性の状態である(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Blume and Miller,Cutis 78:409−415,2006;Fischerら、Semin.Nephrol.27:35−46,2007を参照のこと)。これらの抗体のうちのいくつか(IgGおよびIgM)が、リン脂質結合タンパク質(負に帯電したリン脂質自体ではなくB2−糖タンパク質1、プロトロンビン、プロテインC、プロテインS、TPAおよびアネキシンV)に直接対するという最近のエビデンス。APSは、他の自己免疫疾患、最も一般的にはSLE(続発性APS)と合併して、または単離された障害(原発性APS)として、生じ得る。
APSは、身体の任意のサイズの血管および任意の臓器を冒す。臨床上の特徴としては、末梢静脈動脈血栓症(深部静脈血栓症)、胎児消失、皮膚疾患、心臓および肺の徴候、腎臓の関与ならびに神経性障害(脳卒中)が挙げられる。血栓性の合併症は、SLE患者における死亡の主な原因である。
APSは、後天性の血栓形成傾向の一般的な原因であり、米国において1年あたり35,000新症例のAPS関連静脈血栓症および5000新症例の動脈血栓症と推定されている。APS抗体を有する患者は、再発性の血栓症を有する可能性がこれらの抗体を有しない患者よりも3〜10倍高い。米国では、一般集団の約2%が、ループス抗凝固因子、抗カルジオリピン抗体またはその両方を含む抗リン脂質抗体(AAs)について陽性と試験される。AAsは、脳卒中または一過性脳虚血発作を有する50歳未満の患者の46%および心筋梗塞の若年生存者(45歳未満)の21%において検出された。SLEを有する患者におけるAAsの有病率は、非常に高い(30〜50%)。透析患者における高AAsの有病率は、公開文献において0.7%〜69%と様々である。APSを有する患者では、女性と男性の割合は、原発性について約2対1およびSLEに関連する症例について9対1である。
APSを有するが、血栓性の事象または皮膚の変化を起こしていない患者に対する現在の治療は、低用量アスピリンを用いた生涯続く治療である。中程度から高度のAA力価または血栓症を有する患者は、ヘパリンなどの抗凝固因子を用いた速効性の処置を必要とする。長期間の治療は、ワルファリンを用いた抗凝固である。生命を危うくするAPSを有する患者においてシクロホスファミドを使用する臨床試験の活動、およびAPSに関連する妊娠損失を管理するためにステロイドを使用する臨床試験の活動が、いくつか存在する。AAsのレベルを管理するために抗B細胞治療を用いることについての十分な前例はない。
4.皮膚筋炎
皮膚筋炎は、筋肉酵素レベルの上昇、および皮膚の発疹、代表的には顔面上の赤紫色の発疹ならびに眼瞼および眼窩周囲組織の浮腫を伴う、対称性の近位筋の脱力を特徴とする進行性の状態である(Dalakas,Curr.Opin.Pharmacol.1:300−306,2001;Dalakas,Nat.Clin.Pract.Rheumatol.2:219−227,2006を参照のこと)。罹患筋肉組織は、慢性炎症性反応による線維の変性を示し、小児および成人に生じ、後者の場合、内臓癌を伴うことがある。PM/DMの原因は、不明である。それは、めったに家族の複数のメンバーに生じることはないが、ある特定のHLAタイプに関連し得る(例えば、DR3、DR5またはDR7)。ウイルスならびにToxoplasmaおよびBorrelia種を含む感染物質が、この疾患の可能性のあるトリガーとして提唱されている。薬物誘導疾患のいくつかの症例が、報告されている(例えば、ヒドロキシ尿素、ペニシラミン、スタチン、キニジンおよびフェニルブタゾン)。免疫学的異常および体液性異常が、共通する(例えば、筋肉におけるTNF−αの増加、循環筋炎特異的自己抗体;異常なT細胞およびB細胞の活性;他の自己免疫疾患の家族歴)。B細胞は、血管周囲部位に最も大量に存在する炎症細胞である。
皮膚筋炎は、皮膚の問題(代表的には、顔面上の赤紫色の発疹ならびに眼瞼および眼窩周囲組織の浮腫)に関連し、関節、心臓、肺および胃腸の徴候が、患者の最大50%に生じるので、この疾病は、重篤な罹患率に関連し得る。皮膚筋炎は、他の結合組織の自己免疫疾患(例えば、SLE、強皮症およびRA)と関連することが多い。RAとは異なり、DM/PMと特異的に関連する関節炎は、糜爛性でないか、または変形性でない。SLEなどの他の自己免疫性の結合組織疾患に関連する皮膚の変化と一致して、その皮膚には、血管周囲の炎症性浸潤物が存在する。PM/DMは、通常、生命を危うくするものではないが、患者は、脱力が残ること、障害および生活の質の低下を示すことが多い。重篤な筋力低下および/または心肺の関与が理由で、PM/DMによって死に至ることがある。悪性疾患のリスクは、DMを有する患者において非常に高い(発生率=26)が、PMを有する患者ではそうではない;悪性疾患は、60歳を超える成人においてより頻繁に生じる。皮膚または筋肉の石灰沈着症(堅い黄色または肌色の小結節を顕わす)は、成人では珍しいが、DMを有する最大40%の小児または青年に生じる;これは、非常に消耗性である。それらは、皮膚表面を通って突出することがあり、この症例では、2次感染が起き得る。
炎症性ミオパチーの発生率(多発性筋炎単独、ならびに多発性筋炎と皮膚筋炎の複合型は、それぞれ100,000人あたり0.1および1と推定されており(人種のバイアスなし)、明らかに増加している。有病率は、PM単独およびPM/DM複合型に対してそれぞれ100,000人あたり1および6である。女性が男性よりも多く罹患する(約2:1)。PM/DMは、任意の年齢の人において生じ得る。2つの発症年齢のピークが存在する。成人では、発症年齢のピークは、およそ50歳であり、小児では、年齢のピークは、およそ5〜10歳である。
処置の中心は、ステロイドである(Dalakas,Jama 291:2367−2375,2004;Dalakas,Pharmacol.Ther.102:177−193,2004を参照のこと)。メトトレキサート、アザチオプリンおよびミコフェノール酸モフェチルによる免疫抑制剤治療もまた用いられている。不応性の患者では、IVIgが短期間の治療のために用いられている。この障害に対する新たに出現した治療には、Rituxanが含まれる。TNFアンタゴニストは、DMに関連するリスクのいくつか(感染症、悪性疾患、他の自己免疫疾患の誘導)を増加させ得るという懸念がいくらかあるが、REMICADEおよびENBRELが、この障害に対する進行中の臨床試験において研究されている。
5.ギランバレー症候群
ギランバレー症候群は、感染後の重篤な神経性障害である。GBS患者において観察される神経損傷は、おそらく、交差反応性の抗ガングリオシド抗体によって引き起こされる。GBSにおける交差反応性抗体産生の細胞性免疫学的バックグラウンドは、ほとんど不明である。一部では、GBSにおける最も頻度の高い先行感染であるCampylobacter jejuniに対する樹状細胞の特異な応答が、B細胞の増殖および自己反応性形質細胞への分化を増強させるという仮説がたてられている。宿主に関連する因子ならびに病原性の因子が、これに関係し得る(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出;Lewis,Neurol.Clin.25:71−87,2007;Said,Neurol.Clin.25:115−137,2007;Yuki,Muscle Nerve 35:691−711,2007を参照のこと)。
GBSは、5〜15%という死亡率の壊滅的な障害である。IVIgは、これらの患者に対してまず選択される処置である(Harrison’s Principles of Internal Medicine,前出を参照のこと)。なおも、約50%の患者が、6ヶ月後に自力で歩行できない。GBSは、急性末梢神経障害の少なくとも4つのサブタイプからなる。急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)サブタイプの組織学的な外観は、実験的自己免疫性神経炎と似ていて、それは、主に、ミエリンタンパク質P0、P2およびPMP22由来のペプチドに対するT細胞によって引き起こされる。AIDPにおけるT細胞性免疫の役割は、未だ不明であり、抗体および補体の関与についてのエビデンスが存在する。現在、GBSの軸索サブタイプである、急性運動性軸索性ニューロパチー(AMAN)および急性運動感覚性軸索型ニューロパチー(AMSAN)が、ランビエ絞輪における軸索を浸潤するマクロファージを標的化するガングリオシドに対する抗体によって軸索鞘上で引き起こされるという強力なエビデンスが存在する。GBSを有する約4分の1の患者が、その近い時点においてCampylobacter jejuniに感染しており、この疾患の軸索の形態が、これらの人々において特に共通している。C jejuni細菌細胞壁由来のリポオリゴ糖は、ガングリオシド様構造を含み、それをウサギに注射することにより、急性運動性軸索性ニューロパシーに似たニューロパチーが誘導される。GM1、GM1b、GD1aおよびGalNac−GD1aに対する抗体は、特に、急性運動性軸索性ニューロパチー、そしてGalNacGD1aを除いて急性運動感覚性軸索型ニューロパチーに関連づけられる。フィッシャー症候群のサブタイプは、特に、GQ1bに対する抗体と関連し、C jejuniの細胞壁におけるガングリオシド構造と類似の交差反応性が見出されている。抗GQ1b抗体は、インビトロにおいて、補体媒介性機構によって運動神経末端を損傷すると示されている。
GBSは、稀な障害であり、米国では男性と女性に等しく発症する(NIH,The National Women’s Health Centre,2004)。GBSは、米国において100,000人の集団あたり1人に発症する(NIH,The National Women’s Health Centre,2004)。GBSを含むすべての慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の米国の有病率は、100,000あたり約1〜7.7である(米国において2,000〜15,000症例)。しかしながら、これは、おそらく過小評価であり、CIDPは、すべてのニューロパチー(1000万症例)の5%を構成すると想定され、そして実際には、合計で約300,000(活動性)〜500,000症例が存在すると予想され得る。
IVIgおよびプラスマフェレシスが、GBSに対する治療として現在用いられている。GBSは、自己免疫性のニューロパチーであるので、T細胞、B細胞および/または補体を標的にした治療がこれらの疾患において有用であり得ると予想される。
6.グッドパスチャー症候群
用語「グッドパスチャー症候群」(GPS)は、Ernest Goodpastureによる1919年の報告に由来する冠名であり、彼は、インフルエンザ感染に関連する肺出血の臨床的な症候群および急性半月体形成性糸球体腎炎の組織学的所見を報告した。年月を重ねるにつれて、この用語は、様々な人によって様々な方法で使用され、一部の人たちは、GPSのような腎機能障害を伴う肺出血のすべての原因を含める。他の人たちは、用語GPSを、抗GBM抗体を伴うが肺出血を有しない糸球体腎炎とは対照的に、抗糸球体基底膜(抗GBM)抗体に関連する肺出血を有する患者に限定した。さらに他の人たちは、GPSではなく抗IV型コラーゲンの疾患の概念を採用する。
GPSの診断に対する必須条件は、腎臓の糸球体における結合した抗GBM抗体の証明である。循環抗GBM抗体は、抗GBM疾患を有する90%を超える患者に存在する。無処置のGPSの臨床経過は厳しいものであり、処置されてもGPSの臨床経過は厳しい;この疾患は、極度に不良な予後を伴う。
GPSは、100万人に約0.1症例という発生率の稀な疾患である。この疾患は、アフリカ系アメリカ人よりも白人において発生頻度が高く、ニュージーランドのマオリ族などのある特定の他の人種群において、より発生頻度が高いことがある。GPSは、一年中存在し得るが、その発生率は、春および初夏に増加するとみられる。
GPSに対する現在の治療としては、ステロイド、免疫抑制剤および血漿交換が挙げられる。その腎臓病理学が、腎臓糸球体における抗GBM抗体の蓄積に起因すると見られるので、B細胞を標的とした治療が、この疾患において有用であり得る。
前述のことから、本発明の特定の実施形態は、例証の目的で本明細書中に記載されるが、様々な改変が本発明の精神および範囲から逸脱することなく行われ得ることが認識されるだろう。したがって、本発明は、以下の非限定的な例によってさらに例証され、添付の請求項によるときを除いて、限定されない。
実施例1
FcγRIA−CEE、FcγRIA−CHISおよびFcγRIA−CFLAGタグ化タンパク質を発現する哺乳動物の可溶性FcγRIA発現構築物の構築
Glu−Glu(CEE)、6His(CHIS)またはFLAG(CFLAG)というC末端タグを有する、ヒトFcγRIAの細胞外ドメインを含む発現構築物を、FcγRIAをコードするDNAフラグメント(配列番号14)および発現ベクターpZMP20を用いるPCRおよび相同組換えによって構築する。
FcγRIA−CEEをコードするPCRフラグメントは、5’非翻訳領域内のpZMP20ベクター配列との5’オーバーラップ、配列番号14のFcγRIA細胞外ドメインコード領域部分(ヌクレオチド1〜846)、Glu−Gluタグ(GluGluTyrMetProMetGlu;配列番号15)コード配列、およびポリオウイルス配列内リボソーム進入部位領域内のpZMP20ベクターとの3’オーバーラップを含む。PCR増幅反応は、5’オリゴヌクレオチド「100」(ACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCACCATGTGGTTCTTGACAACTCTG;配列番号16)、3’オリゴヌクレオチド「200」(CAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTCTAGATTATTCCATGGGCATGTATTCTTCCACTTGAAGCTCCAACTCAGG;配列番号17)および鋳型として予め生成されたFcγRIAのDNAクローン(配列番号14)を使用する。
PCR増幅反応条件は、以下のとおりである:94℃5分を1サイクル;94℃1分、その後の55℃2分、その後の72℃3分を35サイクル;72℃10分を1サイクル。PCR反応混合物を1%アガロースゲル上で泳動し、予想サイズに対応するDNAフラグメントを、QIAquickTMGel Extraction Kit(Qiagen,Cat.No.28704)を用いてゲルから抽出する。
プラスミドpZMP20は、キメラCMVエンハンサー/MPSVプロモーター、酵母を組み換える前の直鎖化のためのBglII部位、ポリオウイルス由来の配列内リボソーム進入エレメント、膜貫通ドメインのC末端で切断されたCD8の細胞外ドメイン;E.coli複製起点;SV40プロモーター、エンハンサーおよび複製起点、DHFR遺伝子ならびにSV40ターミネーターを含む哺乳動物の選択マーカー発現単位;ならびにS.cerevisiaeにおける選択および複製のために必要なURA3およびCEN−ARS配列を有する発現カセットを含む哺乳動物の発現ベクターである。
ゲルから抽出されたFcγRIA−CEE PCRフラグメントで酵母を組み換える前に、プラスミドpZMP20をBglIIで消化する。100μlのコンピテント酵母(S.cerevisiae)細胞を10μlのFcγRIA−CEE挿入DNAおよび100ngのBglII消化pZMP20ベクターと混合し、そしてその混合物を0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移す。0.75kV(5kV/cm)、∞ohmおよび25μFという電源(BioRad Laboratories,Hercules,CA)の設定を用いて、その酵母/DNA混合物に電気パルスをかける。600μlの1.2Mソルビトールをそのキュベットに加え、酵母を100μlおよび300μlのアリコートで2枚のURA−Dプレート上にプレーティングし、30℃でインキュベートする。約72時間後、1枚のプレートからのUra+酵母形質転換体を1mlのH2Oに再懸濁し、軽く遠心して酵母細胞をペレットにする。その細胞ペレットを0.5mlの溶解緩衝液(2%Triton X−100、1%SDS、100mM NaCl、10mM Tris,pH8.0、1mM EDTA)に再懸濁する。500μlの溶解混合物を、酸で洗浄された250μlのガラスビーズおよび300μlのフェノール−クロロホルムが入ったEppendorfチューブに加え、3分間ボルテックスし、Eppendorf遠心機において最高速度で5分間遠心する。300μlの水相を新しいチューブに移し、600μlのエタノールでDNAを沈殿させた後、最高速度で30分間遠心分離する。そのチューブをデカントし、ペレットを1mLの70%エタノールで洗浄する。そのチューブをデカントし、DNAペレットを30μlの10mM Tris,pH8.0、1mM EDTAに再懸濁する。
エレクトロコンピテントE.coli宿主細胞(DH12S)の形質転換を、5μlの酵母DNA調製物および50μlのE.coli細胞を用いて行う。その細胞に2.0kV、25μFおよび400ohmで電気パルスをかける。エレクトロポレーションの後、1mlのSOC(2%BactoTMTryptone(Difco,Detroit,MI)、0.5%酵母抽出物(Difco)、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl2、10mM MgSO4、20mMグルコース)を加え、次いで、その細胞を50μlおよび200μlのアリコートで2枚のLB AMPプレート(LBブロス(Lennox)、1.8%BactoTMAgar(Difco)、100mg/Lのアンピシリン)上にプレーティングする。
その構築物に対する3つのDNAクローンのインサートを配列解析に供し、正しい配列を含む1つのクローンを選択する。商業的に入手可能なキット(QIAGEN Plasmid Mega Kit,Qiagen,Valencia,CA)を製造者の指示書に従って使用して、ラージスケールのプラスミドDNAを単離する。
同じプロセスを用いることにより、GlySerGlyGlyHisHisHisHisHisHis(配列番号18)から構成されるC末端hisタグを有するFcγRIA(FcγRIA−CHIS)またはGlySerAspTyrLysAspAspAspAspLys(配列番号19)から構成されるC末端FLAGタグを有するFcγRIA(FcγRIA−CFLAG)を調製する。これらの構築物を調製するために、3’オリゴヌクレオチド「200」の代わりに、3’オリゴヌクレオチド「300」(CAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTCTAGATTAGTGATGGTGATGGTGATGTCCACCAGATCCCACTTGAAGCTCCAACTCAGG;配列番号20)を用いてFcγRIA−CHISが生成されるか、または3’オリゴヌクレオチド「400」(CAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTCTAGATTACTTATCATCATCATCCTTATAATCGGATCCCACTTGAAGCTCCAACTCAGG;配列番号21)を用いてFcγRIA−CFLAGが生成される。
実施例2
FcγRIA−CEE、FcγRIA−CHISおよびFcγRIA−CFLAGという、C末端タグ化タンパク質を発現する可溶性FcγRIAレセプター発現構築物のトランスフェクションおよび発現
200μgの可溶性FcγRIAタグ化発現構築物の各々の3セットを37℃において3時間、200単位のPvuIで別々に消化し、イソプロピルアルコールを用いて沈殿させ、1.5mL微量遠心チューブにおいて遠心分離する。上清をペレットからデカントし、そのペレットを1mLの70%エタノールで洗浄し、室温において5分間インキュベートする。そのチューブを微量遠心管において14,000RPMで10分間遠心し、上清をペレットからデカントする。次いで、そのペレットを無菌環境において750μlのCHO細胞組織培養液に再懸濁し、60℃において30分間インキュベートし、そして室温まで冷却する。およそ5×106個のCHO細胞を、3本のチューブの各々においてペレットにし、DNA−培地溶液を用いて再懸濁する。そのDNA/細胞混合物を0.4cmギャップキュベットに入れ、以下のパラメータを用いてエレクトロポレーションを行う;950μF、高キャパシタンス、300V。次いで、そのキュベットの内容物を取り出し、プールし、CHO細胞組織培養液で25mLに希釈し、125mL振盪フラスコに入れる。そのフラスコを、120RPMで振盪している振盪機上の37℃、6%CO2の恒温器に入れる。
そのCHO細胞を栄養素選択に供した後、200nMメトトレキサート(MTX)、次いで、1μM MTXに段階的に増幅する。タグ化タンパク質の発現を、ウエスタンブロットによって確認し、そのCHO細胞プールを、タンパク質精製にむけて回収するためにスケールアップする。
実施例3
FcγRIA−CH6の精製
C末端6His(CHIS)タグを有する、ヒトFcγRIAの細胞外ドメインを含む発現構築物を、実施例1,前出に記載したように構築した。この構築物を、実施例2,前出に記載したようにCHO細胞にトランスフェクトし、CHO細胞において発現させた。上記の実施例において「FcγRIA−CHIS」と称された、コードされたHis−タグ化FcγRIAは、本明細書中で「FcγRIA−CH6」または「pFCGR1A CH6」とも称される。FcγRIA−CH6に対するヌクレオチドコード配列は、配列番号22に示され、対応するFcγRIA−CH6アミノ酸配列は、配列番号23に示されている。発現されたFcγRIA−CH6を、以下に記載されるように精製した。
FcγRIA−CH6を、Ni IMAC捕捉、Q SepharoseにおけるクロマトグラフィおよびSuperdex200におけるサイズ排除クロマトグラフィの組み合わせによってCHO条件培地から精製した。Ni IMAC捕捉:CHO条件培地をフィルター滅菌し(0.22μm)、10kD MWCO 0.1m2膜を備える蠕動ポンプシステムを用いて10×濃縮した。濃縮された培地を、少なくとも5CVの50mM NaPO4、500mM NaCl pH7.5と緩衝液交換し、最終濃度25mMイミダゾールに調整した。必要であれば濃NaOHまたは濃HClのいずれかを用いてpHを7.5に調整した。Hisタグ化FcγRIAタンパク質を、Ni−NTA His Bind Superflow樹脂に結合しているIMACを用いて捕捉した。培地を適用する前に、その樹脂を50mM NaPO4、500mM NaCl、25mMイミダゾールpH7.5中で平衡化した。適切なサイズのローラーボトルを用いるバッチモードまたはクロマトグラフィステーションを用いるカラムモードのいずれかにおいて、4℃で一晩、結合させた。充填した後、樹脂を少なくとも10CVの50mM NaPO4、500mM NaClおよび25mMイミダゾールpH7.5で洗浄した。50mM NaPO4、500mM NaCl pH7.5における、イミダゾールの勾配またはイミダゾール濃度を上げていく工程を用いて、結合したタンパク質を溶出させた(500mMイミダゾールが、溶出の終点だった)。分画を回収し、ウエスタンブロッティング、SDS−PAGEおよびRP−HPLCによって解析し、そしてFcγRIA−CH6を含む分画を混合した。
Q Sepharoseパッシブ(Passive)クロマトグラフィ:FcγRIA−CH6を含むIMACプールを、3×10kD MWCO 0.1cm2膜を備えるLabscale TFFシステムを使用することによって15CVの50mM NaPO4、150mM NaCl pH 7.5に緩衝液交換した。7.5mgのFcγRIA−CH6あたり1.0mLのQ Sepharose樹脂サンプルを、少なくとも10CVの50mM NaPO4、2M NaCl pH7.5を用いて負荷し、次いで、10CVの50mM NaPO4、150mM NaCl pH7.5で平衡化した。樹脂および調整されたIMACプールを混合し、静かに撹拌しながら4℃で一晩インキュベートした。そのスラリーを重力流カラムに移し、フロースルー(flow−through)を回収し、そのカラムを少なくとも5CVの平衡緩衝液で洗浄した。そのフロースルーおよび洗浄画分を混合し、RP−HPLCおよびSDS−PAGEによってFcγRIA−CH6の存在について評価した。
サイズ排除クロマトグラフィ:Q Sepharoseフロースルー+洗浄画分を、画分の体積に応じて、10kD MWCO 0.1cm2膜を備えるTFFラボスケールシステム、適切な直径のYM30膜を備える撹拌セルシステム、または30kD MWCO Ultracel遠心分離膜のいずれかを用いて少なくとも10〜20倍に濃縮した。濃縮されたFcγRIA−CH6画分を、注入される体積および質量の量に適切なサイズのSuperdex200カラムに注入した。そのカラムを、50mM NaPO4、109mM NaCl,pH7.3または35mM NaPO4、120mM NaCl pH7.2を含む調合緩衝液で平衡化した。そのカラムを、45cm/時を超えない流速において均一濃度で溶出し、画分を回収して、SDS−PAGEおよびRP−HPLCによってFcγRIA−CH6の存在について解析した。FcγRIA−CH6を含む画分を混合し、YM30膜(30kD MWCO)を備える撹拌セル装置を用いて所望の濃度に濃縮した。最終的なFcγRIA−CH6濃縮物を、0.22um滅菌フィルターで濾過し、使用するまで−80℃で保存した。
実施例4
可溶性FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6の構築、発現および精製
実施例1、2および3,前出において上に記載されたようなC末端His6タグを有する可溶性単量体型のFcγRIAの構築、発現および精製に加えて、同様の方法を用いて、可溶性単量体型のFcγRIIAおよびFcγRIIIAも作製した。
簡潔には、可溶性単量体型のFcγRIIAおよびFcγRIIIAをコードする発現構築物を、天然のシグナル配列、細胞外ドメインおよびC末端His6タグ(GSGGHHHHHH;配列番号18)をコードするDNA配列を用いて作製した。そのDNA配列は、FcγRIIAに対してはアミノ酸1〜212(配列番号25のアミノ酸1〜212)およびFcγRIIIAに対しては1〜195(配列番号27のアミノ酸1〜195)をコードした。レセプターを、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)DXB−11細胞(Larry Chasin,Columbia University,New York,NY)に由来する上清から精製した。CHO条件培地をフィルター滅菌し、濃縮し、そして50mM NaPO4、500mM NaCl、25mMイミダゾール,pH7.5(緩衝液A)に緩衝液交換した。そのHisタグ化FcγRタンパク質(FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6)を、緩衝液Aで平衡化されたNi−NTA His Bind Superflow樹脂(Novagen,Madison,WI)を用いて捕捉した。50mM NaPO4、500mM NaCl,pH7.5中のイミダゾールの勾配(0〜500mM)を用いて、結合したタンパク質を溶出した。画分を、SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティング(抗6×ヒスチジンHRPマウスIgG1,R&D Systems,Minneapolis,MN)によって可溶性FcγRについて解析した。
可溶性FcγRを含むNi−NTA画分を50mM NaPO4、150mM NaCl,pH7.5(緩衝液B)に緩衝液交換し、緩衝液Bで予め平衡化されたQ Sepharose4FF樹脂(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)とともに4℃において一晩インキュベートした。そのスラリーを重力流カラムに移し、フロースルーおよび洗浄画分を混合し、上に記載したように可溶性FcγRの存在について評価した。混合した画分を濃縮し、50mM NaPO4、109mM NaCl,pH7.3(緩衝液C)で平衡化されたSuperdex 200 Hiload(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)カラム上に注入した。そのカラムを緩衝液Cで溶出し、可溶性FcγRを含む画分を混合し、濃縮し、フィルター滅菌し、そして−80℃で保存した。SDS−PAGE、ウエスタンブロッティング、N末端の配列決定およびサイズ排除多角度光散乱法(size exclusion multi−angle light scattering)によって、FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6を解析した。エンドトキシンレベルは、約20mg/mLで調合された各レセプター調製物について<1.0エンドトキシン単位/mLだった。
FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6に対するヌクレオチドコード配列は、それぞれ配列番号24および配列番号26に示されている。FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6に対するコードされるポリペプチド配列は、それぞれ、配列番号25および配列番号27に示されている。N末端の配列解析から、成熟FcγRIIA−CH6に対する開始部位としてGln−34、および成熟FcγRIIIA−CH6に対する開始部位としてMet−18とGlu−21の両方が示された。したがって、シグナル配列を有しない成熟型のFcγRIIA−CH6ポリペプチドは、配列番号25のアミノ酸残基34〜222に対応し、成熟型のFcγRIIIA−CH6は、配列番号27のアミノ酸残基18〜205および21〜205に対応する。
実施例5
固定化されたヒトIgG1への可溶性Hisタグ化FcγR(FcγRIA−CH6、FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6)の結合
Biacore3000装置(Piscataway,NJ)を用いて、測定を行った。センサーチップ表面の活性化およびIgG1抗体(ヒトミエローマ血漿由来のラムダ,Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の共有結合固定化を、0.2M N−エチル−N’−(3−ジエチルアミノ−プロピル)カルボジイミドおよび0.05M N−ヒドロキシスクシンアミドならびにBiacore Control Softwareを用いて行った。10mM酢酸ナトリウム,pH5.0において11μg/mLに希釈されたヒトIgG1抗体を固定化することにより、特異的結合フローセルを調製し、そして第2フローセルを活性化させるがIgG1に曝露しないことにより、参照フローセルを調製した。特異的結合フローセルと参照フローセルの両方における未反応のエステル部位を1Mエタノールアミン塩酸塩でブロックした。
可溶性FcγRIA結合の動態解析のために、IgG1抗体を458レゾナンスユニット(RU)のレベルで固定化した。FcγRIA−CH6を活性フローセルと参照フローセルの両方の上に順次、注入した。FcγRIA−CH6結合の動態解析のために、HBS−EP(Biacore)アッセイ緩衝液(10mM Hepes,pH7.4、0.15M NaCl、3.5mM EDTA、0.005%ポリソルベート20)中の0.16〜10.3×10−9Mの濃度範囲のFcγRIA−CH6を用いた。FcγRIA−CH6を、40μL/分の流速で3分間注入した。続いて、FcγRIA−CH6溶液をHBS−EP緩衝液に切り替え、解離を3分間測定した。各FcγRIA−CH6の濃度を、ランダムな順序で2つ組において試験した。各測定の後、10mMグリシン−HCl,pH1.8の注入を50μL/分で30秒間にわたって1回行うことにより、IgG1表面を再生した。
可溶性FcγRIIAおよびFcγRIIIAの結合の平衡解析のために、IgG1抗体を1013RUのレベルで固定化した。0.03〜24×10−6Mの濃度範囲の可溶性FcγRを用いた。各可溶性FcγR(FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6)を、10μL/分の流速で1分間注入した。各FcγRに対する解離時間は、5分だった。FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6の各濃度をランダムな順序で2つ組において試験した。各測定の後、HBS−EPの注入を30μL/分で30秒間にわたって1回行うことにより、IgG1表面を再生した。
3つすべての可溶性FcγRに対する結合曲線を、特異的結合表面曲線から参照表面曲線を差し引くこと、ならびに緩衝液注入曲線を差し引くことによって処理した。処理された結合曲線を1:1の結合モデルに全体的にあてはめ、得られた速度定数および平衡定数を、Biacoreソフトウェアを用いて評価した。
可溶性FcγRは、1:1結合相互作用に最も適合した様式で固定化ヒトIgG1に結合した。そのIgG1は、共有結合固定化の際に結合活性をいくらか損失し、表面の活性は、理論最大値の26〜81%に及んだ。IgG1に結合するFcγRIA−CH6の会合段階および解離段階は、200秒超にわたって測定可能であったことから、結合曲線の動態解析が可能だった。FcγRIA−CH6は、それぞれ2.8×106M−1s−1および4.6×10−4s−1という会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)でIgG1に結合し、このことから、1.7×10−10Mという平衡解離定数(KD)が得られた。FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6に対する会合/解離速度は、速すぎて正確に測定できなかったので、平衡解離定数は、定常状態において測定された。IgG1へのFcγRIIIA−CH6およびFcγRIIA−CH6の結合は、飽和でき、それぞれ0.63×10−6Mおよび1.9×10−6MというKD推定値で低親和性だった。各可溶性FcγRは、ヒトIgG1で観察されたものと類似の速度および親和性で固定化ウサギ抗OVA IgGに結合した。
実施例6
タグ化されていない可溶性単量体FcγRIAタンパク質を発現する哺乳動物の可溶性FcγRIA発現構築物の構築
ヒトFcγRIAの細胞外ドメインを含む2つの発現構築物を、短いバージョンのFcγRIA(配列番号2のアミノ酸1〜282)および長いバージョンのFcγRIA(C末端に追加の10アミノ酸)(配列番号2のアミノ酸1〜292)の細胞外ドメインをコードするDNAフラグメントならびに発現ベクターpZMP31を用いるPCRおよび相同組換えによって構築した。
5’非翻訳領域におけるpZMP31ベクター配列との5’オーバーラップ、それぞれ配列番号2のアミノ酸残基1〜282または1〜292に対応するFcγRIA細胞外ドメインコード領域、およびポリオウイルス配列内リボソーム進入部位領域におけるpZMP31ベクターとの3’オーバーラップを含むFcγRIAの短いおよび長いバージョンをコードするPCRフラグメントを構築した。短いバージョンと長いバージョンの両方に対するPCR増幅反応には、5’オリゴヌクレオチド「zc57709」(ACTTTGCCTTTCTCTCCACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCACCATGTGGTTCTTGACAACT;配列番号28)を使用した。短いバージョンに対しては3’オリゴヌクレオチド「zc57710」(TGGGGTGGGTACAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTTTAGCCAAGCACTTGAAGCTCCA;配列番号29)を使用し、長いバージョンに対しては3’オリゴヌクレオチド「zc57712」(TGGGGTGGGTACAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTTTAATGAAACCAGACAGGAGT;配列番号30)を使用した。FcγRIA鋳型は、予め生成されたFcγRIAのcDNAに由来した。
PCR増幅反応条件は、以下のとおりだった:95℃2分を1サイクル;95℃15秒、その後の55℃30秒、その後の68℃1分間を30サイクル。PCR反応混合物を1%アガロースゲル上で泳動し、予想サイズに対応するDNAフラグメントを、GE Healthcare illustra GFXTM PCR DNAおよびGel Band Purification Kitを用いてゲルから抽出した。
プラスミドpZMP31は、キメラCMVエンハンサー/MPSVプロモーター、酵母を組み換える前の直鎖化のためのEcoRI部位、ポリオウイルス由来の配列内リボソーム進入エレメント;E.coli複製起点およびアンピシリン選択マーカー;SV40プロモーター、エンハンサーおよび複製起点、DHFR遺伝子ならびにSV40ターミネーターを含む哺乳動物の選択マーカー発現単位;ならびにS.cerevisiaeにおける選択および複製のために必要なURA3およびCEN−ARS配列を有する発現カセットを含む哺乳動物の発現ベクターである。
ゲルから抽出された短いおよび長いバージョンのFcγRIA PCRフラグメントの各々で酵母を組み換える前に、プラスミドpZMP31をEcoRIで消化した。100μlのコンピテント酵母(S.cerevisiae)細胞を20μlのFcγRIAの短いまたは長いインサートDNAおよび約100ngのEcoRI消化pZMP31ベクターと混合した。その混合物を0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移した。0.75kV(5kV/cm)、∞ohmおよび25μFという電源(BioRad Laboratories,Hercules,CA)の設定を用いて、その酵母/DNA混合物に電気パルスをかけた。600μlの1.2Mソルビトールをそのキュベットに加え、酵母を2つの300μlのアリコートで2枚のURA−Dプレート上にプレーティングし、30℃でインキュベートした。約72時間後、1枚のプレートからのUra+酵母形質転換体を800μlのH2Oに再懸濁し、軽く遠心して酵母細胞をペレットにした。その細胞ペレットを0.5mlの溶解緩衝液(2%Triton X−100、1%SDS、100mM NaCl、10mM Tris,pH8.0、1mM EDTA)に再懸濁した。500μlの溶解混合物を、酸で洗浄された250μlのガラスビーズおよび300μlのフェノール−クロロホルムが入ったEppendorfチューブに加え、3分間ボルテックスし、Eppendorf遠心機において最高速度で5分間遠心した。300μlの水相を新しいチューブに移し、600μlのエタノールでDNAを沈殿させた後、最高速度で10分間遠心分離した。そのチューブをデカントし、ペレットを1mLの70%エタノールで洗浄した後、最高速度で10分間遠心分離した。そのチューブをデカントし、DNAペレットを10μlのH2Oに再懸濁した。
エレクトロコンピテントE.coli宿主細胞(DH10B)の形質転換を、1μlの酵母DNA調製物および20μlのE.coli細胞を用いて行った。その細胞に2.0kV、25μFおよび400ohmで電気パルスをかけた。エレクトロポレーションの後、600μlのSOC(2%BactoTMTryptone(Difco,Detroit,MI)、0.5%酵母抽出物(Difco)、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl2、10mM MgSO4、20mMグルコース)を加え、その細胞を50μlおよび550μlのアリコートで2枚のLB AMPプレート(LBブロス(Lennox)、1.8%BactoTMAgar(Difco)、100mg/Lのアンピシリン)上にプレーティングした。
コロニーPCRによってコロニーをスクリーニングし、各構築物からの5つのDNAクローンのインサートを配列解析に供した。正しい配列を含む1つのクローンを選択した。ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いてDNA配列決定を行った。EdgeBioSystems Preforma Centriflex Gel Filtration Cartridges(Gaithersburg,MD)を用いて配列決定反応物を精製し、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(Applied Biosystems,Foster City,CA)において泳動した。得られた配列データを、Sequencher v4.6ソフトウェア(GeneCodes Corporation,Ann Arbor,MI.)を用いてアセンブルし、編集した。正しい配列を含む1つのクローンを選択し、商業的に入手可能なキット(QIAGEN Plasmid Mega Kit,Qiagen,Valencia,CA)を製造者の指示書に従って使用して、ラージスケールのプラスミドDNAを単離した。
インサートDNAの短いおよび長いバージョンの配列は、それぞれ、配列番号31および配列番号33に示されている。非タグ化FcγRIAの短いおよび長いバージョンに対する対応するコードされるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号32および配列番号34に示されている。FcγRIAに対するシグナル配列は、配列番号2のアミノ酸1〜15(配列番号40および42の残基1〜15)に対応することによって、配列番号32および34の16位における、成熟非タグ化FcγRIAタンパク質に対する開始部位が得られる。
実施例7
非タグ化FcγRIAタンパク質を発現する可溶性FcγRIAレセプター発現構築物のトランスフェクションおよび発現
200μgの可溶性FcγRIAの短いおよび長いバージョンの発現構築物を、37℃において18時間(一晩)、200単位のBstB1で消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで洗浄し、エタノールで沈殿させ、そして1.5mL微量遠心チューブにおいて遠心分離した。上清をペレットからデカントし、そのペレットを1mLの70%エタノールで洗浄し、室温において5分間インキュベートした。そのチューブを微量遠心管において14,000RPMで10分間遠心し、上清をペレットからデカントした。次いで、そのペレットを無菌環境において200μlのCHO細胞組織培養液に再懸濁し、37℃において30分間インキュベートした。およそ1×107個のCHO細胞を、ペレットにし、DNA−培地溶液を用いて再懸濁した。そのDNA/細胞混合物を0.4cmギャップキュベットに入れ、以下のパラメータを用いてエレクトロポレーションを行った;950μF、高キャパシタンス、300V。次いで、そのキュベットの内容物を取り出し、プールし、CHO細胞組織培養液で25mLに希釈し、125mL振盪フラスコに入れた。そのフラスコを、120RPMで振盪している振盪機上の37℃、5%CO2の恒温器に入れた。
そのCHO細胞を栄養素選択に供し、200nMメトトレキサート(MTX)への増幅に供した。タグ化タンパク質の発現を、ウエスタンブロットによって確認し、そのCHO細胞プールを、タンパク質精製にむけて回収するためにスケールアップした。
実施例8
非タグ化FcγRIAの精製
以下の方法を、CHO DXB11細胞条件培地からの非タグ化FcγR1Aの精製に適用する。
A.IgGアフィニティークロマトグラフィ
未希釈(1×)の培地を回収し、IgG Sepharose 6 Fast Flow樹脂(GE Healthcare)を含むカラムに15cm/hの流速で充填した。10Lの条件培地の場合、150mLの充填樹脂を含む5cm直径のカラムを使用した。培地を充填した後、215nmにおける吸光度およびA280nmが少なくとも2カラム体積(CV)についてベースラインに戻るまで、そのカラムを1.6mMクエン酸、23mM二塩基性NaPO4、150mM NaCl pH7.0で100cm/hにて洗浄した。10CVの下降pH勾配の20mMクエン酸、5mM二塩基性NaPO4、0.05%Tween20,pH3.0を61cm/hの流速で用いて、結合したタンパク質を溶出した。FcγR1Aを含む画分を、SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングによって特定し、2M Tris pH7.0を0.2Mという最終濃度になるまで加えることによって中和し、そして4M NaClを加えることによって100mM NaClとした。
B.陽イオン交換クロマトグラフィ
Tween−20をHS50クロマトグラフィによってFcγR1Aプールから除去した。FcγR1A溶出プールを、固体MESおよびHClを用いて10mM MES pH6.0に調整し、10mM MES pH6.0を用いて<5mS/cmに希釈した。FcγR1A含有プールをHS50カラムに充填することにより、141cm/hの流速で定量的に捕捉し、A215およびA280nm UVシグナルが少なくとも5CVについてベースラインに戻るまで、その樹脂を382cm/hにて10mM MES pH6.0で洗浄した。結合したFcγR1Aを、10mM MES、2M NaCl pH6.0からなる60%溶出緩衝液の5CVから最大量を使用して増加性のNaCl濃度の勾配を用いて382cm/hrで溶出した。画分を回収し、FcγR1AをSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングによって同定した。
C.サイズ排除クロマトグラフィ
タンパク質の量を280nmにおける吸光度によって評価し、緩衝液交換されたHS50溶出プールのFcγR1A含有画分を、存在するFcγR1Aの量に応じて、30kD分子量カットオフ(MWCO)Ultracel遠心分離濃縮器またはYM30 63.5mm撹拌式セルメンブレンを用いて濃縮した。最終的な濃縮物の体積は、使用したゲル濾過カラムの体積の3%を超えなかった。濃縮されたFcγR1AプールをSuperdex75カラム上に注入し(<1mgのFcγR1Aの場合、カラムサイズは10/300mmだった;1〜10mgの場合、カラムサイズは16/60mmだった;>10mgの場合、カラムサイズは26/60mmだった)、そのタンパク質を34〜76cm/hの流速において均一濃度で溶出した。使用した移動相は、35mM NaPO4、120mM NaCl pH7.2だった。画分を回収し、SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングによってFcγR1Aを同定した。そのFcγR1A含有画分を、上に記載したように20mg/mLの最終濃度に濃縮し、0.22μm滅菌フィルターに通し、−80℃で保存した。FcγR1AであることをN末端の配列決定およびアミノ酸解析によって確かめた。N末端の配列解析から、成熟タンパク質がピログルタミン酸から開始し、それが翻訳後に16位のアミノ酸のグルタミン残基から変換されることが示された。
実施例9
可溶性FcγRIAの抗炎症活性
A.免疫複合体の析出
ニワトリ卵オバルブミン(OVA)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中において15.0μg/mLの最終濃度になるように溶解し、指示濃度の可溶性FcγRIAの存在下および非存在下の200μLの最終体積において300μgのウサギポリクローナル抗OVA抗体/mLと混合した。その直後に、反応混合物の濁度を、37℃で5〜10分間にわたって30秒ごとに分光光度計を活用して350nmにおいてモニターした。線形回帰を用いて濁度曲線の直線部分の傾きを計算し、免疫複合体の析出のFcγR媒介性阻害を、抗OVAおよびOVAのみを含むインキュベーションに対して表した。
B.マスト細胞からのサイトカイン分泌
5.0mLのPBSの最終体積において、300μLのウサギポリクローナル抗OVAをPBSにおける75.0μLの1mg OVA/mLと混合することによって、免疫複合体を調製した。37℃で30〜60分間インキュベートした後、その混合物を18〜20時間4℃に置いた。その免疫複合体を12,000rpmで5.0分間遠心分離することによって回収し、上清画分を取り出して廃棄し、その免疫複合体沈殿物を1.0mLの氷冷PBSに再懸濁した。その免疫複合体をさらに洗浄した後、1.0mLの氷冷PBSの最終体積に再懸濁した。BCAアッセイを用いてタンパク質濃度を測定した。
MC/9細胞を培地A(10%ウシ胎児血清、50.0μM B−メルカプトエタノール、0.1mM可欠アミノ酸、1.0mMピルビン酸ナトリウム、36.0μg/mL L−アスパラギン、1.0ng/mL rmIL−3、5.0ng/mL rmIL−4、25.0ng/mL rmSCFを含むDMEM)中において、0.5〜3×106細胞/mLの密度にサブクローン化した。細胞を1500rpmで5.0分間遠心分離することによって回収し、細胞ペレットを培地A(サイトカインを含まない)で洗浄し、2.0×106細胞/mLで培地Aに再懸濁した。細胞のアリコート(2.0×105細胞)を、96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、200μLの緩衝液Aの最終体積中、10.0μg/ウェルのOVA/抗OVA免疫複合体(IC)とともにインキュベートした。37℃において4.0時間後、培地を取り出し、1500rpmで5.0分間遠心分離した。無細胞の上清画分を回収し、Luminexサイトカインアッセイキットを用いて、IL−6、IL−13、TNFαおよびMCP−1サイトカイン放出の存在についてアリコートを解析した。
C.SRBCの補体媒介性溶解
抗体感作SRBC(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)を調製し、様々な濃度の可溶性FcγRIAとともにインキュベートした。4℃において15分後、ラット血清(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の1:50希釈物の25μLのサンプルを加え、そして製造者が記載しているようにその混合物の540nmにおける吸光度をモニターすることによって、溶血を測定した。
D.ヒトIgG1に対するFcγRIA−CH6親和性の測定
ブランク参照として第2の誘導体化されていないセルを利用して、IgG1抗体を1つのフローセルに固定化した。アミンカップリングキット(Biacore)、およびBiacore Control Softwareによって操作されるSurface Preparationのための標準的なWizard Templateを用いてIgG1抗体の固定化を行った。pHスカウティング研究に対するWizardの結果に基づいて、IgG1抗体溶液を酢酸ナトリウム,pH5.0中で11μg/mLに希釈した。アミンカップリング用のWizard Templateを用いることにより、抗体を1つのフローセルに固定化した。次いで、センサー表面上のカルボキシル基を、0.2M N−エチル−N’−(3−ジエチルアミノ−プロピル)カルボジイミド(EDC)および0.05M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む溶液を注入することによって活性化した。次いで、150〜200RUのレベルを標的として、抗体溶液を活性化表面の上に注入した。カルボキシメチルデキストラン表面上の残存エステル部位を1Mエタノールアミン塩酸塩でブロックすることによって、この固定化手順を終了した。
アナライト溶液(FcγRIA−CH6)を注入するための方法は、動態解析用のBiacore Wizard Templateを用いて記載された。この方法は、25℃において行われ、サンプルは、外界温度のオートサンプラー内に保存された。なお、Wizard Templateを用いるとき、注入モードなどの動態にとって最適なある特定のパラメータが、Wizardプログラムによって予め定義される。
FcγRIAを解析するための方法を、動態速度定数kaおよびkdを決定するために最適化した。レセプターを両方のフローセル(すなわち、ブランクのフローセルおよび抗体誘導体化されたフローセルであるそれぞれ1および2)の上に順番に注入することにより、非修飾コントロール表面へのFcγRIAの結合(ウサギ抗OVA IgGへの結合が判定されなかった)に対する、ヒトIgG1抗体へのFcγRIAの結合の比較解析が可能になった。40μL/分の流速で3分間、アナライトを注入した(会合時間)。各アナライト注入に対する解離時間は、3分間だった。アナライトの用量反応曲線の範囲は、0.16〜10.3nMだった。各用量反応曲線の点について、N=2回の反復注入を行った。装置のノイズおよびドリフトを差し引くための緩衝液の注入をこの順序に含めた。用量反応曲線サンプルをランダムな様式で注入した。FcγRIAの動態解析のために、各用量反応曲線サイクルの後に、グリシン,pH1.75を50μL/分で1回、30秒間注入することにより、IgG抗体表面を再生した。
Biacore Control,Evaluation and Simulationソフトウェアを用いて、データ解析を行った。まず、ベースラインの安定性を評価することにより、再生工程が、注入の順序全体を通して一貫した結合表面を提供することを確かめた。コントロール表面に対するFcγRIAアナライトの非特異的結合のレベルを調べ、最小であることを確かめた。特異的結合表面曲線(すなわち、フローセル2)からコントロール表面曲線(すなわち、フローセル1)を差し引くこと、ならびに緩衝液注入曲線を用いて装置のノイズおよびドリフトを差し引くことによって、結合曲線を処理した。アナライト注入の再現性についてデータを調べ、次いで、得られた補正後の結合曲線を結合モデルに全体的に当てはめることにより、得られた当てはめおよび平衡定数を評価した。
E.マウスにおける皮膚の逆受身アルサス反応
10週齢の雌C57BL/6マウス(1群あたりn=8匹のマウス)をイソフルランで麻酔し、背面の皮膚を剪毛し、各マウスの背中を70%アルコールで拭いた。各マウスの背面の皮膚の異なる部位に、それぞれ0.02mLの皮内注射を2回行った。その注射溶液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ならびに40.0μgのウサギ抗オバルブミン(56℃における30〜40分間のインキュベーションによって熱失活した抗OVA)単独、または40.0μgの抗OVAおよび指示量のFcγRIA−CH6を含んでいた。コントロール群のマウスには、40.0μgの非免疫ウサギIgG(上に記載したように熱失活したもの)の皮内注射を2回行った。抗体調製物は、注射の前に、14,000rpmにおいて10分間で遠心分離することにより、微粒子が除去された。皮内注射の直後に、10.0mgのOVA/mLおよび10.0mgのエバンスブルー/mLを含む100.0μLの溶液を各マウスの尾静脈に注射した。いくつかの場合において、尾静脈注射溶液は、1.0mg/kgの用量のデキサメタゾンも含んでいた。注射の4時間後、CO2ガスによってマウスを安楽死させた。エバンスブルー色素の脈管漏出の面積(mm2)を測定すること、および病変部位から採取されたパンチバイオプシーの組織の重量(mg)を測定することによって、皮膚の浮腫を評価した。次いで、その組織サンプルを液体N2中で急凍し、−80℃において保存した。
Cytostore(Calgary,Alberta Canada)製のMyeloperoxidase Assay Kitを用いて、報告されているように(Bradleyら、J.Invest.Dermatol.78:206−209,1982)パンチバイオプシーサンプルにおけるミエロペルオキシダーゼ活性を測定することによって、好中球浸潤を評価した。
ビヒクル単独または指示濃度のFcγRIA−CH6を含むビヒクルの静脈内注射によって、マウスにおいてFcγRIA−CH6の全身投与を行った。アルサス反応を惹起する1.0時間前に、0.1mL最終体積の調合緩衝液(35mMリン酸ナトリウム、120mM NaCl,pH7.2)中の指示用量のFcγRIA−CH6を各マウスに投与した。マウスにおける皮膚アルサス反応を上に記載したように正確に行った。
F.結果および考察
FcγRIA−CH6が免疫複合体の析出を阻止できたか否かを評価するために、MOller(Immunology 38:631−640,1979)およびGavinら(Clin.Exp.Immunol.102:620−625,1995)の方法に基づいて、抗OVA/OVA免疫複合体析出アッセイを確立した。37℃において抗OVAとOVAとをインキュベートすることにより、溶液混合物の光学濃度が時間依存的に増加した(図1、丸)(これは、不溶性抗OVA/OVA免疫複合体の形成と一致する観察結果だった)。アッセイの開始時にFcγRIA−CH6を加えることにより、免疫複合体の析出が用量依存的に減少した(図1、三角および四角)。免疫複合体の析出は、1500nM FcγRIA−CH6によって完全に無くなった。非タグ化組換え可溶性FcγRIAを用いたときに、同一のデータが得られた。抗原:抗体免疫複合体の析出は、抗体Fc重鎖間の非共有結合性相互作用に依存するとみられ(MOller,Immunology 38:631−640)、また、Fcγレセプターは、抗体のFc部分に結合する(Dijstelbloem HMら、Trends Immunol.22:510−516,2001)ので、これらのデータから、可溶性FcγRIAが、抗OVA抗体のFc部分に結合することによって免疫複合体の析出を乱すことが示唆される。
FcγRIA−CH6と抗体Fcとの相互作用を直接評価するために、固定化されたヒトIgG1へのFcγRIA−CH6の結合を表面プラズモン共鳴解析によって評価した。1つのIgG1分子に対して1つのFcγRIA分子という結合化学量論が推定されるので(Woof and Burton,Nature Rev.Immunol.4:1−11,2004)、モノクローナルヒトIgG1抗体を、FcγRIA−CH6の動態解析に対する最適レベル内の密度レベルである485というRU(レゾナンスユニット)レベルで1つのフローセルにおけるセンサー表面に固定化した。FcγRIAは、それぞれ2.8×106M−1s−1および4.6×10−4s−1という会合速度および解離速度で急速に固定化IgG1に結合した(この値から1.7×10−10Mという平衡解離定数が算出された)。これらのデータは、以前に報告されたデータ(Paetz Aら、Biochem.Biophys.Res.Commun.338:1811−1817,2005)と類似しており、FcγRIA−CH6が高親和性でヒトIgG1に結合することを証明している。
マスト細胞は、III型過敏反応などの種々の免疫障害において免疫複合体媒介性炎症を媒介すると考えられている(Ravetch,J.Clin.Invest.110:1759−1761,2002;Sylvestre and Ravetch,Immunity 5:387−390,1996;Jancar and Crespo,Trends Immunology 26:48−55,2005)。マスト細胞のFcγレセプターへの免疫複合体の結合は、IL−6およびTNFαなどの炎症性サイトカインの分泌を誘導すると考えられており(Ravetch,前出;Jancar and Crespo,前出)、続いて、好中球浸潤および組織損傷がもたらされる。マスト細胞からのサイトカイン分泌が、免疫複合体によって刺激され得たか否かを評価するために、マウスマスト細胞株MC/9を、予め形成されたウサギ抗OVA/OVA免疫複合体の存在下および非存在下においてインキュベートした。抗OVA/OVA免疫複合体とのインキュベーションによって、MC/9細胞条件培地中における炎症性サイトカインIL−6、IL−13、TNFαおよびMCP−1の蓄積が時間依存的および濃度依存的に増加した。対照的に、等しい濃度のウサギ抗OVA IgG単独とともにMC/9細胞がインキュベートされたとき、サイトカインの産生は、変化しなかった。これらのデータは、MC/9細胞が、炎症性サイトカインの産生によって免疫複合体に反応することを証明する。
増加量のFcγRIA−CH6の存在下において抗OVA/OVA免疫複合体とともにMC/9細胞をインキュベートすることにより、IL−6(図2A)、IL−13(図2B)、TNFα(図2C)およびMCP−1(図2D)の蓄積が用量依存的に減少した。非タグ化組換え可溶性FcγRIAを用いたとき、同一のデータが得られた。これらのデータは、可溶性FcγRIAが、マウスマスト細胞において免疫複合体の結合およびシグナル伝達を阻止し得ることを証明している。
可溶性FcγRIAを、抗体感作SRBCの補体媒介性溶解に対する作用についても評価した。抗体感作SRBCをラット血清とともに37℃でインキュベートすることにより、補体の活性化およびSRBCの溶解がもたらされた。そのインキュベーション混合物にFcγRIA−CH6を加えることにより、用量依存的様式でSRBC溶解が阻止された。対照的に、無関係のコントロールタンパク質TACI−Igを用いたとき、溶血の阻害は、ほとんどまたはまったく観察されなかった。
上に記載した知見は、FcγRIA−CH6が、インビトロにおいて免疫複合体の形成を阻止し得ること、マスト細胞における免疫複合体媒介性シグナル伝達を阻害し得ること、およびIgG媒介性補体活性を阻止し得ることを証明している。これらのデータから、FcγRIA−CH6が、インビボの状況において、IgGまたは免疫複合体に媒介される炎症を阻止する際に有効であり得ることが示唆される。このことを試験するために、マウスにおいて皮膚の逆受身アルサス反応を確立し、免疫複合体媒介性浮腫および好中球浸潤に対するFcγRIA−CH6の作用を評価した。
等しい濃度の非免疫IgGの皮内注射と比べて、抗OVA抗体の注射によって、処置マウスの皮膚における浮腫が時間および濃度によって増加した。エバンスブルー色素の血管外遊出面積の増加(図3A)と組織重量の増加(図3B)の両方として、浮腫は明らかだった。OVAの尾静脈注射の非存在下において浮腫が観察されなかったので、これらの作用は、免疫複合体に特異的だった。ミエロペルオキシダーゼの抽出可能な活性によって測定される病変部位内の好中球の蓄積もまた増加した(図3C)。
増加量のFcγRIA−CH6とともに抗OVA抗体を皮内送達することにより、浮腫が濃度依存的に減少した(これは、エバンスブルー面積の減少(図3A)または病変部位の組織重量の減少(図3B)のいずれかによって判断された)。病変バイオプシーにおけるミエロペルオキシダーゼ活性もまた、FcγRIA−CH6によって有意に減少した(図3C)。これらのデータは、FcγRIA−CH6が、マウスのアルサス反応における免疫複合体誘導炎症の有効なインヒビターだったことを証明している。
これらのデータは、FcγRIA−CH6の局所送達が、マウスのアルサス反応において免疫複合体媒介性の皮膚炎症を阻止し得ることを証明している。
FcγRIA−CH6の全身送達が、皮膚の炎症を減少できたか否かを判定するために、アルサス反応を惹起する1.0時間前に、FcγRIA−CH6をマウスの尾静脈に注射した。ビヒクル単独の注射と比べて、FcγRIA−CH6の注射は、浮腫の用量依存的減少をもたらした(これは、エバンスブルー色素の抗OVA誘導血管外遊出(図4)または病変部位の組織重量の抗OVA誘導増加(図5)のいずれかによって判断された)。最高用量のFcγRIA−CH6を用いたとき、浮腫は、実質的に無くなった(図4および5)。上に記載されたデータと同様に、このモデルでは、13.0μgのFcγRIA−CH6の皮内送達によっても、浮腫が減少した(図4および5)。最高用量のFcγRIA−CH6が静脈内経路によって投与されたときに見られた浮腫の減少は、13.0μgのFcγRIA−CH6の皮内送達で観察された浮腫の減少と類似していた(図4および5)。抽出可能なミエロペルオキシダーゼ活性によって測定される病変部位内の好中球の蓄積もまた、FcγRIA−CH6で処置された動物において無くなった。
実施例10
組換えヒトFcγRIA、FcγRIIAおよびFcγRIIIAの抗炎症活性の比較
抗炎症活性に対する単量体FcγRIA−CH6の評価(実施例9,前出を参照のこと)に加えて、単量体FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6(上の実施例4に記載したように調製されたもの)もまた、実施例9に記載された同じインビトロアッセイおよびインビボアッセイを用いて試験した。可溶性FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6を、FcγRIA−CH6と平行して、免疫複合体の析出、マスト細胞からのサイトカイン分泌およびIgG媒介性補体活性に対する作用について試験した。FcγRIA−CH6と同様に、FcγRIIA−CH6とFcγRIIIA−CH6の両方が、免疫複合体の析出を減少させ、抗体感作赤血球の補体媒介性溶解を阻止し、マスト細胞条件培地におけるIL−6、IL−13、MCP−1およびTNF−αの免疫複合体媒介性蓄積を阻止した。免疫複合体の析出の減少に関する効力の相対的順序は、FcγRIIIA>FcγRIA>FcγRIIAであり、各可溶性FcγRに対して1〜1.5μM(およそ1:1のFcγR:抗OVAのモル比)を用いたときに最大阻害が見られた。補体媒介性溶解の阻止とマスト細胞のサイトカイン分泌の阻害の両方に対する効力の相対的な順序は、FcγRIA>FcγRIIIA>FcγRIIAだった。サイトカイン分泌の阻害に関しては、各可溶性FcγRに対して、調べられた各サイトカインに対するIC50は類似していた。
FcγRIIA−CH6およびFcγRIIIA−CH6を、FcγRIA−CH6と平行して、マウスの皮膚アルサス反応における浮腫および好中球浸潤に対するインビボにおける作用についても試験した。可溶性FcγRIA−CH6で観察された炎症の減少とは対照的に、同様の濃度範囲にわたって使用したとき、FcγRIIIA−CH6もFcγRIIA−CH6も、エバンスブルー色素の抗OVA誘導血管外遊出、組織重量または組織MPO活性を減少させなかった(図6A〜Cを参照のこと)。
FcγRIIAおよびFcγRIIIAの二量体Fc5融合タンパク質バージョン(各々、エフェクター非応答バージョンのヒトFc(Fc5)に融合されたFcγRIIAまたはFcγRIIIAの細胞外ドメインの2分子を含む)も調製し、上に記載されたアッセイにおいて試験した。FcγRIIA−Fc5に対するヌクレオチドおよびコードされるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号35および配列番号36に示されており、FcγRIIIA−Fc5に対するヌクレオチドおよびコードされるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号37および配列番号38に示されている。N末端の配列解析から、成熟FcγRIIA−Fc5に対する開始部位としてのGln−34、ならびに成熟FcγRIIIA−Fc5に対する開始部位としてのMet−18およびGlu−21が示された。二量体Fc5融合タンパク質の各々は、上に記載されたインビトロアッセイのすべてにおいて各タンパク質の単量体バージョンと類似の活性を有した。単量体対応物と同様に、また、FcγRIA−CH6とは対照的に、FcγRIIA−Fc5もFcγRIIIA−Fc5も、マウスの逆受身アルサス反応において炎症または好中球浸潤を減少させなかった。
実施例11
関節炎のコラーゲン抗体誘導モデル
雄DBA/1Jマウス(8週齢、1群あたりn=8匹のマウス)に、2mg(200uL中)の抗II型コラーゲン抗体カクテル(Chemicon Intl.Arthrogen−CIA(登録商標))を尾静脈内注射によって0日目に投与した。注射されたmAbカクテルの量は、文献の値および予備研究からのデータに基づき、ここで、2.0mgの用量のArthrogen−CIA(登録商標)によって、雄DBA/1マウスにおける関節炎の症状が無くなり、安定した。3日後、ビヒクル単独(PBS)または指示濃度(0、0.67または2.0mg)のFcγRIA−CH6を含むビヒクルをマウスに皮下注射した。Arthrogenキットにおいて提供されているように、3.5時間後、50μLのPBSの最終体積に溶解された50ugのLPSをすべてのマウスの腹腔内に注射した。マウスをビヒクルまたは指示濃度のFcγRIA−CH6で1日おきに合計5回の投薬で処置した。
0日目から開始して毎日、Arthrogen−CIA(登録商標)抗体カクテルの注射の前に、関節炎についてマウスのスコアリングを行った(視覚的スコアおよびノギスでの足の測定)。マウスを11日目に屠殺した。血清を回収し、−80℃で保存した。足を10%NBF中に回収し、組織学検査のために処理した。
Arthrogen−CIA(登録商標)抗体カクテルでマウスを処置することにより、足の炎症が時間依存的に増加した(これは、視覚的な足のスコア(図7、PBS処置)または足の厚さ(図8、PBS処置)によって判断された)。関節炎スコアの増加は、ビヒクル単独(PBS)で処置された動物において容易に観察される。FcγRIA−CH6で動物を処置することにより、足の炎症が濃度依存的に減少した。視覚的な足のスコア(図7)または足の厚さ(図8)として明らかな抗体誘導炎症は、最高用量のFcγRIA−CH6を投与することによって完全に無くなった。これらのパラメータのより頑強でない減少が、0.67mgの用量のFcγRIA−CH6が投与されたときに見られた。これらのデータは、FcγRIA−CH6が、関節炎の状況において強力な抗炎症特性を有することを証明している。
実施例12
TSLPトランスジェニックマウスにおける可溶性ハイブリッドFcγRによるクリオグロブリン血症の処置
B細胞を促進する特性を有するインターロイキン−7(IL−7)様サイトカインである胸腺間質リンホポイエチン(TSLP)を過剰発現するマウスは、IgG−IgM混合組成の大量の循環クリオグロブリンを産生する(Tanedaら、Am.J.Pathol.159:2355−2369,2001を参照のこと)。これらの動物における混合型クリオグロブリン血症の発症は、腎臓、肝臓、肺、脾臓および皮膚(同文献を参照のこと)における免疫複合体の沈着に起因して、これらの組織が関わる全身性の炎症性疾患に関連する。これらの動物における腎臓疾患は、HCVに感染した患者に見られるようなヒトクリオグロブリン血症糸球体腎炎に酷似している。この疾患プロセスにおけるFcγレセプターに対する役割は、抑制性レセプターであるFcγレセプターIIbが欠失した後に罹患率および死亡率が高まることを伴う腎損傷の悪化によって示された(Muhlfeldら、Am.J.Pathol.163:1127−1136,2003を参照のこと)。これらのデータを考慮すると、免疫複合体媒介性炎症に対する可溶性FcγRIAの有効性を証明する本明細書中に記載される研究から、TSLPトランスジェニックマウスが、クリオグロブリン血症を処置するための本明細書中に記載されるような可溶性FcγRIAまたは可溶性ハイブリッドFcγRの有効性を評価するための適当なモデルであることが示唆される。
10匹のTSLPトランスジェニックマウス(3〜6週齢)の群を、ビヒクル単独、または0.1、0.3、0.9もしくは2.0mgの可溶性ハイブリッドFcγレセプターを含むビヒクルで、皮下注射によって処置する。ビヒクル、または可溶性ハイブリッドFcγRを含むビヒクルを、種々の投薬スケジュール(例えば、21日間にわたる1日おき、または21日間にわたる4日おき)によって動物に投薬する。
投薬後の21日目に、アルブミン尿を測定するために尿サンプルを回収し、その動物をハロタンで麻酔し(anesthesized)、心臓穿刺によって血液を採取する。脾臓、腎臓、肝臓、耳および肺を取り出し、組織学検査のために通例のとおり処理する。すべての臓器について、ホルマリン固定された組織およびパラフィン包埋された組織からの4μm切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した後、通例のプロトコルを行う。腎臓からは、2μm切片を、H&E、過ヨウ素酸Schiff試薬(PAS)および過ヨウ素酸メセナミン銀染色で染色する。
標準的な臨床化学分析器を用いて血中尿素窒素を測定し、4℃で保存された血清をクリオグロブリンの存在について視覚的検査によって評価する。尿中のアルブミンとクレアチニンとの比を算出することにより、標準的な手順によってアルブミン尿を評価する。
H&E染色されたスライドおよび銀染色されたスライドにおいて形態計測を行い、H&E染色されたスライドにおける糸球体核(glomerular nuclei)の数および糸球体房の面積(glomerular tuft area)、銀染色されたスライドにおける糸球体マトリックスの面積および糸球体房の面積、ならびにマクロファージについての染色が陽性の糸球体MAC−2の面積および糸球体房の面積を測定することによって、腎臓の損傷を評価する。結果は、1糸球体あたりの細胞数、糸球体房の面積あたりの細胞数、各糸球体のマトリックス面積、マトリックスのパーセンテージ、1糸球体あたりのマクロファージの面積、および糸球体面積あたりのマクロファージの面積として表される。
可溶性ハイブリッドFcγRの有効性は、野生型コントロールと比べたときの、糸球体房の面積、マクロファージによって占められる糸球体の平均面積および1糸球体あたりの平均細胞数の減少として、ならびにマトリックス面積の減少によって、判断される。
実施例13
FcγRIAはマウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルにおいて疾患の発生率および進行を減少させる
A.マウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデル
関節炎のCIAモデルは、ヒト関節炎を処置する薬物の治療的な可能性を評価するための、適切かつ十分に考慮されたモデルである。関節炎は、関節における炎症および/または不適切な免疫複合体形成を特徴とする疾患である。その免疫複合体は、重要な硝子軟骨マトリックスタンパク質であるII型コラーゲンに対する抗体から構成されることが多い。関節内において免疫複合体が形成されることにより、関節腔に免疫細胞が動員され、罹患関節内の軟骨および骨を破壊する炎症性サイトカインが産生される。したがって、マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎は、ヒトにおける関節リウマチと多くの生化学的、細胞性および構造上の類似点を共有する。
8〜10週齢の雄DBA/1Jマウス(25〜30g)をこれらの研究のために用いた。−21日目に、フロイント完全アジュバント(Chondrex Inc.,Redmond,WAによって調製されたもの)中で製剤化された0.1mLの1mg/mlニワトリII型コラーゲンを動物の尾に皮内注射した。3週間後の0日目において、フロイント不完全アジュバント中で調製されたこと以外同じ注射をマウスに行った。動物は、2回目のコラーゲン注射の後、関節炎の症状を示し始め、ほとんどの動物が、1〜2週間以内に炎症を示した。ノギスを用いて足の厚さを測定すること、および各足に臨床スコア(0〜3)を割り当てること(疾患スコアリングについては、下記の記載を参照のこと)によって、各足において疾患の程度を評価した。
B.疾患のモニタリング
このモデルにおける疾患の発生率は、95〜100%であり、非応答者は、ほんの少し(0〜2匹)だった(6週間後の観察で判定)。動物は、著明で持続性の足腫脹を発症して初めて、確立された疾患を有すると考えられる。すべての動物を、毎日観察することにより、その足における疾患の状態を評価した(これは、定性的な臨床スコアを各足に割り当てることによって行った)。毎日、疾患の臨床状態に従って、各動物の4本の足にスコアをつけた。臨床スコアを決定するために、足は、3つのゾーン、すなわち、足指、足自体(手(manus)または足(pes))および手首または足首の関節を有すると考える。これらのゾーンに対する炎症の程度および重症度に注目し、その程度および重症度としては:腫脹についての各足指の観察;爪の剥がれまたは足指の発赤;いずれかの足における浮腫または発赤の任意のエビデンスの記録;任意の腱または骨の微細な解剖的分界が失われているという記録;任意の浮腫または発赤についての手首または足首の評価;および炎症が脚の基部まで広がり尽くすという記録が挙げられる。1、2または3という足のスコアは、第1に、重症度の全体的な印象に基づき、第2に、どれくらい多くのゾーンが関与しているかに基づいた。臨床スコアリングに使用されるスケールを以下に示す:
臨床スコア
0=正常
0.5=1本以上の足指が関与しているが、足指が炎症しているだけである
1=足(1つのゾーン)が関与する軽度の炎症で、足指(1本または複数)が含まれ得る
2=足における中程度の炎症で、足指(複数)および/または手首/足首のうちのいくつか(2つのゾーン)が含まれ得る
3=足、手首/足首および一部または全部の足指における重篤な炎症(3つのゾーン)
C.処置
確立された疾患は、1またはそれ以上の足炎症のランクの定性的スコアとして定義された。確立された疾患が顕れたら、日付を記録し、その動物の「疾患が確立された」1日目および処置開始の1日目とした。皮下に合計6回、1日おきにPBSもしくは以下の用量のヒトFcγRIAのうちの1つ(hFcγRIA;所望の濃度にPBS中で希釈):2mg;0.667mg;0.22mg;または皮下に合計3回、4日おきに以下の用量のhFcγRIAのうちの1つ(所望の濃度にPBS中で希釈):2mg;0.667mgでマウスを処置した。
実験期間の終わりに血液を回収することにより、抗コラーゲン抗体の血清レベルならびに血清免疫グロブリンおよびサイトカインのレベルをモニターした。最後の処置の48時間後に動物を安楽死させた。血清を得るために血液を回収し、組織学検査のために、すべての足および選択された組織を10%NBF中に回収した。血清を回収し、免疫グロブリンアッセイおよびサイトカインアッセイのために−80℃で凍結した。
II型コラーゲンを注射され、ビヒクルで処置されたマウスは、ランダム化の後の日に、より高い疾患スコア(足のスコア)として明らかな足腫脹を発症した(図10、白丸を参照のこと)。12日間にわたって1日おきにFcγRIAで処置することにより、臨床スコアの統計学的に有意な用量依存的減少がもたらされた(図10、黒の符号を参照のこと)。0.22mgの用量で処置することにより、疾患の進行が50%減少し、2.0mgの用量は、疾患の重症度を90%低下させた。長期間にわたってFcγRIAを投与したとき、足のスコアの減少も見られた(図11を参照のこと)。FcγRIAを1日おきに投与したときに見られた90%減少に対して、9日間にわたって4日ごとに2.0mgのFcγRIAで処置することにより、ビヒクル単独(PBS)での処置と比べて、臨床スコアが50%減少した(図11を参照のこと)。hFcγRIAで処置されたマウスは、罹患した足の数も用量依存的に減少させた(図12を参照のこと)。
要約すれば、これらの結果は、マウスのコラーゲン誘導関節炎において、組換えヒトFcγRIAの投与が、疾患の発生率および進行を減少させ得ることを示唆している。これらのデータは、ヒトにおける関節炎ならびに他のIgGおよび免疫複合体に媒介される疾患を処置するための、新しい有効な治療としてのFcγRIAの使用を支持する。
実施例14
FcγRIAはマウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルにおいてIL−6および抗II型コラーゲン抗体のレベルを低下させる
足の炎症の程度および重症度を評価することによってマウスCIAモデルにおける疾患の発症をモニターすることに加えて、上に記載されたCIA研究(実施例13を参照のこと)において使用されるマウスを、以下で概要が述べられるように、IL−6および抗II型コラーゲン(collage)抗体のレベルについても評価した。
A.方法
Luminexアッセイによる血清サイトカインの定量化
マウス血清中のサイトカインのレベルを、Upstate Biotechnology製のLuminexサイトカインアッセイキットを用いて定量化した。各プレートを、0.2mLのAssay Bufferで10分間ブロッキングし、その緩衝液を除去し、そのプレートをブロットした。標準物質、コントロール、ブランクおよび試験サンプルの各々0.025mLを適切なウェルに加えた後、0.025mLのSerum Matrixのサンプルを加えた。0.025mLの体積のAssay Bufferを各サンプルウェルに加えた後、0.025mLの捕捉ビーズを加え、超音波処理によって懸濁した。各プレートを密閉し、箔で覆い、4℃の振盪機上でインキュベートした。18〜24時間後、ウェルの内容物を吸引によって除去し、そのプレートをブロットした。次いで、各プレートを0.2mLの洗浄緩衝液で2〜3回洗浄し、0.025mLのDetection Antibody Cocktailを各ウェルに加え、そのプレートを密閉し、箔で覆い、室温の振盪機上で60分間インキュベートした。0.025mLのStreptavidin−Phycoerythrinのサンプルを各ウェルに加え、各プレートを密閉し、箔で覆い、室温の振盪機上で30分間インキュベートした。各ウェルの内容物を吸引によって除去し、各プレートをブロットし、0.2ml/ウェルの洗浄緩衝液で2〜3回洗浄した。0.1mlのSheath Bufferのサンプルを各ウェルに加え、各サンプルの吸光度をLuminex装置において読み出した。
抗II型コラーゲン抗体の定量化
マウス血清中の抗II型コラーゲン抗体のレベルを、Chondrex製のMouse IgG Anti−Type II Collagen Antibody Kitを用いて定量化した。各プレートを、室温において60分間、0.1mLのBlocking Bufferでブロッキングした。そのプレートをWash Bufferで3回洗浄し、標準物質、サンプルまたはブランクを、0.1mLの最終体積で適切なウェルに加えた。そのプレートを覆い、4℃において一晩インキュベートした。翌日、各プレートをWash Bufferで6回洗浄し、0.1mL体積の2次抗体を各ウェルに加えた。次いで、そのプレートを室温においてインキュベートした。2.0時間後、各プレートを洗浄し、0.1mLのOPD溶液を各ウェルに加え、室温において30分間インキュベートした。0.05mLの2N硫酸を各ウェルに加えることによって、反応を終了させ、490nmにおける各ウェルの吸光度を測定した。
B.結果
II型コラーゲンの注射を受けなかった関節炎でないマウスと比べて、II型コラーゲンを注射されたマウスのIL−6の血清レベルは、15日目の屠殺時に上昇していた。IL−6のレベルは、正常マウスでは検出レベル未満であり、コラーゲン誘導関節炎を発症し、ビヒクル単独で処置されたマウスでは、320pg/mLに上昇していた。可溶性ヒトFcγRIAでの処置(2週間にわたって2.0mgを1日おきに投与した)によって、IL−6の血清レベルが15日目に95pg/mLまで70%低下した。
IL−6レベルの低下に加えて、可溶性ヒトFcγRIAでの処置は、関節炎マウスの血清中の抗II型コラーゲン抗体のレベルも低下させた。2.0mgのFcγRIAを1日おきに投与することによって、ビヒクル単独で処置された関節炎マウスにおいて15日目の屠殺時に観察されたレベルに対して、抗II型コラーゲン抗体の量が40〜50%減少した。
実施例15
FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1Igドメインの後ろにFcγR1Aの第2および第3Igドメインを発現するハイブリッド可溶性C末端6HisFcγRIA発現プラスミドの構築
C末端タグ6His(c6xH)とともに、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1細胞外Igドメインの後ろに、ヒトFcγRIAの第2および第3細胞外Igドメインを含む発現構築物を作製した。これらのハイブリッドFcγR構築物は、それぞれ、FcγRIIA/RIA−CH6、FcγRIIB/RIA−CH6、FcγRIIIA/RIA−CH6およびFcγRIIIB/RIA−CH6とも称される。これらの構築物を、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1IgドメインをコードするDNAフラグメント、FcγRIAの第2および第3IgドメインをコードするDNAフラグメントならびに発現ベクターpZMP31を用いるPCRおよび相同組換えによって作製した。
5’非翻訳領域におけるpZMP31ベクター配列との5’オーバーラップ、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1IgドメインおよびFcγRIAの第2Igドメインとの3’オーバーラップをコードする4つのPCRフラグメントを作製した。PCR増幅反応には、5’オリゴヌクレオチド:TCCACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCATGGCTATGGAGACCCAAATGTCT(配列番号47;FcγRIIAリーダー配列に特異的な順方向プライマー)、TCCACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCATGGGAATCCTGTCATTCTTACC(配列番号48;FcγRIIBリーダー配列に特異的な順方向プライマー)またはTCCACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCATGTGGCAGCTGCTCCTCCCAACT(配列番号49;FcγRIIIAおよびFcγRIIIBリーダー配列に特異的な順方向プライマー)を用いた。4つのPCR反応を、3’オリゴヌクレオチドCGTGAAGACTCTGCTGGAGACCTGCAGTAGTAGCCATTCGGAAAGCACAGTCAGATGCAC(配列番号50;FcγRIIAおよびFcγRIIBのドメイン1(第1Igドメイン)に特異的で、FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)との配列オーバーラップを含む逆方向プライマー)、CGTGAAGACTCTGCTGGAGACCTGCAGTAGTAGCCAGCCGATATGGACTTCTAGCTGCAC(配列番号51;FcγRIIIAのドメイン1(第1Igドメイン)に特異的で、FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)との配列オーバーラップを含む逆方向プライマー)またはCGTGAAGACTCTGCTGGAGACCTGCAGTAGTAGCCAGCCGACATGGACTTCTAGCTGCAC(配列番号52;FcγRIIIBのドメイン1(第1Igドメイン)に特異的で、FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)との配列オーバーラップを含む逆方向プライマー)を用い、鋳型として、可溶性FcγRIIA(MPET構築物#1202)、FcγRIIB(MPET構築物#1204)、FcγRIIIA(MPET構築物#1205)またはFcγRIIIB(MPET構築物#1207)に対する予め生成されたDNAクローンを利用して行った。
CH6(C末端6−His)タグとともにFcγRIAの第2および第3Igドメインをコードする3つの追加のPCRフラグメントを作製した;これらのフラグメントは、(i)FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAまたはFcγRIIIBの第1IgドメインをコードするPCRフラグメントとの5’オーバーラップ;(ii)FcγRIA細胞外ドメインコード領域(Igドメイン2および3);(iii)6Hisタグコード配列;および(iv)MCSの下流のpZMP31ベクターとの3’オーバーラップを含んでいた。PCR増幅反応には、以下の5’オリゴヌクレオチド:CTCAGCGACCCTGTGCATCTGACTGTGCTTTCCGAATGGCTACTACTGCAGGTCTCCAGC(配列番号53;FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)に特異的で、FcγRIIAおよびFcγRIIBの第1Igドメインとの配列オーバーラップを含む順方向プライマー)、CTCAGTGACCCGGTGCAGCTAGAAGTCCATATCGGCTGGCTACTACTGCAGGTCTCCAGC(配列番号54;FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)に特異的で、FcγRIIIAの第1Igドメインとの配列オーバーラップを含む順方向プライマー)またはCTCAGTGACCCGGTGCAGCTAGAAGTCCATGTCGGCTGGCTACTACTGCAGGTCTCCAGC(配列番号55;FcγRIAのドメイン2(第2Igドメイン)に特異的で、FcγRIIIBの第1Igドメインとの配列オーバーラップを含む順方向プライマー)を用いた。この3つのPCR反応の各々が、3’オリゴヌクレオチドTACAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTCTAGATTAGTGATGGTGATGGTGATGTCC(配列番号56;FcγRIA細胞外ドメインのC末端に特異的で、6Hisタグおよび終止コドン配列を含む逆方向プライマー)および鋳型として予め生成されたFcγRIAのDNAクローン(MPET構築物#1198)を用いて行われた。
PCR増幅反応条件は、以下のとおりだった:95℃5分を1サイクル;95℃30秒、その後の55℃30秒、その後の68℃1分を25サイクル;72℃7分を1サイクル。PCR反応混合物を1%アガロースゲル上で泳動し、予想サイズに対応するDNAフラグメントを、QIAquickTMGel Extraction Kit(Qiagen,Cat.No.28704)を用いてゲルから抽出した。
プラスミドpZMP31は、キメラCMVエンハンサー/MPSVプロモーター、酵母を組み換える前の直鎖化のためのFseI、NarIおよびBglII部位、E.coli複製起点;SV40プロモーター、エンハンサーおよび複製起点、DHFR遺伝子ならびにSV40ターミネーターを含む哺乳動物の選択マーカー発現単位;ならびにS.cerevisiaeにおける選択および複製のために必要なURA3およびCEN−ARS配列を有する発現カセットを含む哺乳動物発現ベクターである。
上で述べたゲルから抽出されたPCRフラグメントの対応する以下の組み合わせ:FcγRIIAとFcγRIA、FcγRIIBとFcγRIA、FcγRIIIAとFcγRIA、またはFcγRIIIBとFcγRIAを用いて、酵母における組換えの前に、プラスミドpZMP31をFseI、NarIおよびBglIIで消化した。50μlのコンピテント酵母(S.cerevisiae)細胞を、3μlの各PCRフラグメントインサートDNA、ならびに30ngのFseI、NarIおよびBglII消化pZMP31ベクターと混合した。その混合物を0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移した。0.75kV(5kV/cm)、∞ohmおよび25μFという電源(BioRad Laboratories,Hercules,CA)の設定を用いて、その酵母/DNA混合物に電気パルスをかけた。300μlの1.2Mソルビトールをそのキュベットに加え、酵母を75μlおよび200μlのアリコートで2枚のURA−DSプレート上にプレーティングし、30℃でインキュベートした。約72時間後、1枚のプレートからのUra+酵母形質転換体を100μlの酵母溶解緩衝液(0.1M NaCl、0.0062M Tris HCl、0.0038M Tris Base、0.001M EDTA、2%(v/v)ポリソルベート20、1%(w/v)SDS)、および10UのZymolyase/100ulを含む100μlのQiagen MiniPrepキット緩衝液P1に再懸濁した。次いで、この混合物を37℃においておよそ15分間インキュベートし、後は、製造者の指示書に従ってQiagenミニプレップキットのプロトコルを続けた。
エレクトロコンピテントE.coli宿主細胞(DH12S)の形質転換を、4μlの酵母DNA調製物および50μlのE.coli細胞を用いて行った。その細胞に1.75kV、25μFおよび400ohmで電気パルスをかけた。エレクトロポレーションの後、0.5mlのLBを加え、次いで、その細胞を10μlおよび30μlのアリコートで2枚のLB AMPプレート(LBブロス(Lennox)、1.8%BactoTMAgar(Difco)、100mg/Lのアンピシリン)上にプレーティングした。
構築物1つにつき5つのDNAクローンのインサートを配列解析に供した。正しい配列を含む1つのクローンを選択する。商業的に入手可能なキット(QIAGEN Plasmid Mega Kit,Qiagen,Valencia,CA)を製造者の指示書に従って用いて、ラージスケールのプラスミドDNAを単離した。FcγRIIA/RIA−CH6、FcγRIIB/RIA−CH6、FcγRIIIA/RIA−CH6およびFcγRIIIB/RIA−CH6ハイブリッド構築物に対するヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号39、41、43および45に示されている。FcγRIIA/RIA−CH6、FcγRIIB/RIA−CH6、FcγRIIIA/RIA−CH6およびFcγRIIIB/RIA−CH6に対する、対応するコードされるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号40、42、44および46に示されている。
同じプロセスを用いることにより、GlySerGlyGlyHisHisHisHisHisHisから構成されるC末端hisタグを有する天然の可溶性配列FcγRIA(天然の配列Igドメイン1、2および3を含む)(FcγRIA−CHIS)を調製した。この構築物を調製するために、C末端hisタグを有する天然の可溶性配列FcγRIA(天然の配列Igドメイン1、2および3を含む)をコードするPCRフラグメントを、オリゴヌクレオチドプライマーTCCACAGGTGTCCAGGGAATTCATATAGGCCGGCCATGTGGTTCTTGACAACTCTGCTC(配列番号57;FcγRIAリーダー配列に特異的な順方向プライマー)、オリゴヌクレオチドプライマーTACAACCCCAGAGCTGTTTTAAGGCGCGCCTCTAGATTAGTGATGGTGATGGTGATGTCC(配列番号58;FcγRIA細胞外ドメインのC末端に特異的で、6Hisタグおよび終止コドン配列を含む、逆方向プライマー)および鋳型として予め生成されたFcγRIAのDNAクローン(MPET構築物#1198)を用いて作製した。
発現および凝集レベルの下流解析のために、293F細胞の一過性トランスフェクションにおいてMega Prep Plasmid DNAを利用した。各構築物について、25μgのプラスミドDNAを300μlの予め温められた37℃のOptimem培地(Invitrogen)に希釈し、室温において5分間インキュベートした。別個のチューブにおいて、32μlのLipofectamine2000(Invitrogen)を300μlの予め温められたOptimem培地に希釈し、室温において5分間インキュベートした。その2本のチューブの内容物を共に加えて混合し、時折静かに混合しながら室温において30分間インキュベートした。DNA/lipofectamine複合体が形成された後、それらを、Invitrogen Freestyle培地中で培養された1×106細胞/mlの25mlの293F細胞に加えた。96時間にわたって培養を進め、そして低速で5分間遠心分離して細胞をペレットにすることによって培地を回収した。その培地を蓄え、発現および凝集レベルの解析に進めた(実施例16,後掲を参照のこと)。
実施例16
一過性293F条件培地からの可溶性ハイブリッドFcγR構築物の解析
可溶性FcγRIAタンパク質は、自己会合複合体を形成する傾向を有し、通常の細胞培養温度において凝集する。可溶型の他のFcγレセプターファミリーメンバー(FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、FcγRIIIB)は、FcγRIAが示す自己会合のレベルを示さないとみられる。
FcγRIAの第1Igドメインを、上に記載したような(実施例15を参照のこと)他のファミリーメンバー(FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、FcγRIIIB)のうちの1つの第1Igドメインで置き換えた、可溶性ハイブリッドFcγR構築物を作製した。これらのハイブリッド構築物(FcγRIIA/RIA−CH6、FcγRIIB/RIA−CH6、FcγRIIIA/RIA−CH6およびFcγRIIIB/RIA−CH6)を293F細胞株に一過性にトランスフェクトし、それらの細胞からの条件培地を、発現およびIg−Sepharose Resin(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)における捕捉について評価した。他のファミリーメンバーの天然の可溶性バージョンも、同様の様式で発現させ、解析した。
IgG Sepharoseは、単量体の凝集していないFcγRIAにだけ結合すると実験的に示されている。したがって、様々なFcγR構築物がIgG Sepharoseに結合する能力を、各構築物の自己凝集する傾向の基準として使用した(ここで、IgG Sepharoseへの結合が強いことは、自己凝集の傾向が低いことを示唆する)。
天然およびハイブリッドの構築物を発現する条件培地をバッチモードでIgG Sepharoseへの結合に供した。300uLの充填樹脂を、19.9mMクエン酸(EMD,Darnstadt,Germany)、5.1mM二塩基性NaPO4、150mM NaCl、0.05%Tween20(EM Science,Darnstadt,Germany)pH3.0を用いて事前に溶出し、次いで、1.61mMクエン酸、23.4mM二塩基性NaPO4、150mM NaCl pH7.0で平衡化した。
平衡化された樹脂を、10〜25mLの条件培地と混合し、ゆっくり回転させながら4℃において1時間インキュベートした。1時間後、その混合物をBioRAD Econoカラム(Hercules,CA)に移し、重力流によってフロースルーを別個の容器に回収した。次いで、その樹脂を、80カラム体積の平衡緩衝液で洗浄した。4mLの溶出緩衝液を用い、およそ5分間、その樹脂(reisn)とインキュベートして、結合したタンパク質を溶出した後、溶出画分を回収した。別の1mLの溶出緩衝液を用いてその樹脂を追跡し、その追跡体積を同じ容器に溶出画分として回収した。その溶出画分を、0.5mLの2M Tris pH8.0を用いて中和した。
充填物、フロースルーおよび溶出画分を、調製されたサンプルが決して加熱されない非還元条件下のウエスタンブロットによってさらに解析した。サンプルを、MES泳動緩衝液(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて4〜12%Bis−Trisゲル上に充填し、すべてを体積について標準化し、そしてゲルを150V一定で泳動した。次いで、I−Blotシステム(Invitrogen)を用いて、SDS−PAGEゲルを0.2μmニトロセルロースに転写した。次いで、そのブロット上の非特異的部位を、Western A緩衝液(0.097%(w/w)TRIS塩基、0.661%(w/w)Tris HCl、0.18612%(w/w)EDTA、0.05%(v/w)Igepal、0.877%(w/w)NaCl、0.25%ゼラチン)中の2.5%脱脂粉乳(NFDM)を用いてブロッキングした。そのブロットを、Western A緩衝液中の2.5%NFDMにおいて1:1000希釈された抗FcγR1/CD64モノクローナル抗体(R&D,Minneapolis,MN)、次いで、抗マウスIgG−HRP(Santa Cruz Biotech,Santa Cruz,CA)を用い、各々、室温において1時間インキュベートし、インキュベーションとインキュベーションの間にWestern A緩衝液で洗浄して、探索した。サンプルが調製されたら、充填物(凝集物および単量体)において発現された総量に対する、フロースルー中の標的のパーセント(凝集物の量)および溶出プール中のパーセント(単量体の量)についてサンプルを解析した。この解析は、ImageQuant TL v2005ソフトウェア(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を実行するImageQuant RT ECL撮像装置において行われた。
2つのFcγRハイブリッド構築物が、天然の可溶性FcγRIAと比べて、発現された凝集物および単量体の量の改善(すなわち、凝集物の量の減少および単量体の量の増加)を示した。天然の可溶性FcγRIAは、発現された総量の66%の平均凝集物量を示し、発現された総量の21%が、IgG樹脂から回収された(発現された総量の13%が行方不明だった)。FcγRIIA/RIAハイブリッドは、14.2%の平均凝集物量を示し、40%のIgG回収量を示した(48%が行方不明だった)。FcγRIIIA/RIAハイブリッドは、36%の平均凝集物量を示し、82%が、IgG樹脂から回収された。これらの結果は、n=2である。
実施例17
CHO細胞における可溶性ハイブリッドFcγR構築物の発現
FcγRIIAまたはFcγRIIIAの第1Igドメインの後ろに、FcγRIAの第2および第3のIgドメインを発現する可溶性C末端6−hisFcγRIAに対する配列を有するハイブリッド構築物について(実施例15を参照のこと)、600μgの各発現構築物(mega prepプラスミド)を37℃において2.5時間、720単位のBstB1制限酵素で消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで洗浄した後、クロロホルム/イソアミルで洗浄し、次いで、エタノールを用いて一晩沈殿させ、1.5mL微量遠心チューブにおいて遠心分離した。上清をデカントし、ペレットを1mLの70%エタノールで洗浄し、室温において5分間インキュベートした。そのチューブを微量遠心管において14,000RPMで10分間遠心し、上清をペレットからデカントした。そのペレットを組織培養フード上の無菌環境においておよそ5分間、開放空気において乾燥させ、37℃に予め温められた1.2mlのCHO細胞組織培養液に再懸濁し、37℃において10分間インキュベートした。そのDNAペレットを可溶化する一方で、およそ5.6×107CHO細胞をペレットにし、2.4mlのCHO細胞組織培養液に再懸濁した。可溶化されたプラスミド調製物の各々を、3つの400μlの体積に分割し、次いで、最終体積が800μlとなるように400μlのCHO細胞懸濁液を加えた。そのDNA/細胞混合物を0.4cmギャップキュベットに入れ、以下のパラメータを用いて、エレクトロポレーションを行った;950μF、高キャパシタンス、300V。次いで、各プラスミドエレクトロポレーションセットについて、キュベットの内容物を取り出し、プールし、CHO細胞組織培養液で25mLに希釈し、125mL振盪フラスコに入れた。そのフラスコを、120RPMで振盪している振盪機上の37℃、5%CO2の恒温器に入れた。
そのCHO細胞を栄養素選択に供し、500nMメトトレキサート(MTX)に増幅した。選択されたCHO株をMECL1308(FcγRIIA/IAハイブリッド)および1309(FcγRIIIA/IAハイブリッド)と命名した。
発現について試験するために、エレクトロポレーション後7回継代のプールを用いて培養を始めた。細胞を遠心分離し、50mlの体積中の新鮮培地に0.6×106細胞/mlで再懸濁し、前に記載したように96時間にわたって進めた。タグ化タンパク質の発現をウエスタンブロットによって確認した。
実施例18
Wave Reactor内でのCHO DXB11細胞におけるFcγRIIA/IA−CH6タンパク質の発現
10LのWavebag Reactor(Wave Biotech)内で、ZG構築物1892でトランスフェクトされたCHO DXB11細胞においてFcγRIIA/IA−CH6タンパク質を発現させた。その細胞を、5mM L−グルタミン(200mM L−グルタミン,Gibcoカタログ#25030−081からのもの)、1mMピルビン酸ナトリウム(100mMピルビン酸ナトリウム,Gibcoカタロク#11360−070からのもの)および500nMメトトレキサートが加えられたZM2培地(SAFC Biosciences Ex−CELLカタログ#68041)を用いて振盪フラスコ中でスケールアップした。L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを含むがメトトレキサートを含まない4.5LのZM2培地に、対数期の500mLの振盪フラスコ培養物を播種することによって反応器でのランを開始した。これにより、3.5×105細胞/mLの密度を含む5Lの最終作用体積(final working volume)がもたらされた。
CO2レベルを、3%〜6%に維持し、反応器の上部の空間に0.2LPMで連続して注ぎ込んだ。9.5度の角度設定において1分間に25回揺り動かす速度で培養物をプラットホーム上で揺り動かすことによって、細胞の溶存酸素要求を満たした。pHは、調節されなかったが、6.6〜7.0で留まっていた。密度が2.0×106細胞/mLに達するまで温度を37℃に維持し、次いで、残りのランの間は温度を34℃に低下させた。グルコースレベルを2g/L超に維持し、L−グルタミンを2mM超に維持した。
播種の11日後に、7.5×106細胞/mLの密度および96%の生存率の培養物を回収した。上清を3500×gで15分間遠心分離し、澄んだ条件培地を0.22μmフィルター(Millipore Opticapカタログ#KWSSL4HB3)に通し、タンパク質精製にまわした。
実施例19
Wave Reactor内でのCHO DXB11細胞におけるFcγRIIIA/IA−CH6タンパク質の発現
10LのWavebag Reactor(Wave Biotech)内で、ZG構築物1894でトランスフェクトされたCHO DXB11細胞においてFcγRIIIA/IA−CH6タンパク質を発現させた。その細胞を、5mM L−グルタミン(200mM L−グルタミン,Gibcoカタログ#25030−081からのもの)、1mMピルビン酸ナトリウム(100mMピルビン酸ナトリウム,Gibcoカタロク#11360−070からのもの)および500nMメトトレキサートが加えられたZM2培地(SAFC Biosciences Ex−CELLカタログ#68041)を用いて振盪フラスコ中でスケールアップした。L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを含むがメトトレキサートを含まない4.5LのZM2培地に、対数期の500mLの振盪フラスコ培養物を播種することによって反応器でのランを開始した。これにより、3.1×105細胞/mLの密度を含む5Lの最終作用体積がもたらされた。
CO2レベルを、3%〜6%に維持し、反応器の上部の空間に0.2LPMで連続して注ぎ込んだ。9.5度の角度設定において1分間に25回揺り動かす速度で培養物をプラットホーム上で揺り動かすことによって、細胞の溶存酸素要求を満たした。pHは、調節されなかったが、6.6〜7.0で留まっていた。密度が1.4×106細胞/mLに達するまで温度を37℃に維持し、次いで、残りのランの間は温度を34℃に低下させた。グルコースレベルを2g/L超に維持し、L−グルタミンを2mM超に維持した。
播種の11日後に、6.3×106細胞/mLの密度および97%の生存率の培養物を回収した。上清を3500×gで15分間遠心分離し、澄んだ条件培地を0.22μmフィルター(Millipore Opticapカタログ#KWSSL4HB3)に通し、タンパク質精製にまわした。
実施例20
可溶性FcγRIAおよびFcγRIIIA/IA−CH6の精製
10LのWavebag Reactor(Wave Biotech)内で、rh−FcγRIAおよびFcγRIIIA/IA−CH6のラージスケール生成を行った。細胞を、5mM L−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウムおよび500nMメトトレキサートが加えられたZM2培地(SAFC Biosciences Ex−CELL)を用いて振盪フラスコ中でスケールアップした。L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを含むがメトトレキサートを含まない4.5LのZM2培地に、対数期の500mLの振盪フラスコ培養物を播種することによって反応器でのランを開始した。これにより、3.1×105細胞/mLの密度を含む5Lの最終作用体積がもたらされた。CO2レベルを、3%〜6%に維持し、反応器の上部の空間に0.2LPMで連続して注ぎ込んだ。9.5度の角度設定において1分間に25回揺り動かす速度で培養物をプラットホーム上で揺り動かすことによって、細胞の溶存酸素要求を満たした。pHは、調節されなかったが、6.6〜7.0で留まっていた。密度が1.4×106細胞/mLに達するまで温度を37℃に維持し、次いで、残りのランの間は温度を34℃に低下させた。グルコースレベルを2g/L超に維持し、L−グルタミンを2mM超に維持した。播種の11日後に、6.3×106細胞/mLの密度および97%の生存率の培養物を回収した。上清を3500×gで15分間遠心分離し、澄んだ条件培地を0.22μmフィルター(Millipore Opticap)に通した後、タンパク質精製を行った。
実施例8,前出に記載したようにIgG−Sepharose、Poros HS−50およびSuperdex75における連続クロマトグラフィによって非タグ化rh−FcγRIAを精製した。
Ni−NTA Superflow樹脂、Q−SepharoseおよびSuperdex200における連続クロマトグラフィによって、His−タグ化FcγRIIIA/IAを精製した。簡潔には、CHO条件培地をフィルター滅菌し、濃縮し、そして50mM NaPO4、500mM NaCl、25mMイミダゾール,pH7.5(緩衝液A)に緩衝液交換した。緩衝液Aで平衡化されたNi−NTA His Bind Superflow樹脂(Novagen,Madison,WI)を用いて、His−タグ化FcγRIIIA/IAタンパク質を捕捉した。50mM NaPO4、500mM NaCl,pH7.5におけるイミダゾールの勾配(0〜500mM)を用いて、結合したタンパク質を溶出した。SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティング(抗6×ヒスチジンHRPマウスIgG1,R&D Systems,Minneapolis,MN)によって、画分をFcγRIIIA/IAについて解析した。
FcγRIIIA/IA−CH6を含むNi−NTA画分を、50mM NaPO4、150mM NaCl,pH7.5(緩衝液B)に緩衝液交換し、4℃において一晩、緩衝液Bで予め平衡化されたQ Sepharose 4FF樹脂(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)とともにインキュベートした。スラリーを重力流カラムに移し、フロースルーおよび洗浄画分を混合し、上に記載したようにrh−FcgRの存在について評価した。混合した画分を濃縮し、50mM NaPO4、109mM NaCl,pH7.3(緩衝液C)で平衡化されたSuperdex 200 Hiload(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)カラム上に注入した。そのカラムを緩衝液Cにおいて溶出し、FcγRIIIA/IA−CH6を含む画分を混合し、濃縮し、フィルター滅菌し、そして−80℃で保存した。SDS−PAGE、ウエスタンブロッティング、N末端の配列決定およびサイズ排除多角度光散乱法によって、FcγRIIIA/IA−CH6を解析した。
実施例21
凝集研究
天然の可溶性FcγRIAの凝集
哺乳動物細胞からの可溶性組換えヒトFcγRIA(CD64A)のラージスケール生成は、歴史的に不確実である(Berntzenら、J.Immunol.Methods 298:93−104,2005;Sondermann and Oosthuizen,Biochem.Soc.Trans.30:481−486,2002;Paetzら、Biochem.Biophys.Res.Commun.338:1811−1817,2005;Bruhnsら、Blood DOI 10.1182,2008/blood−2008−09−179754を参照のこと]。本発明者らは、293fまたはCHO DXB−11細胞のいずれかからの可溶性組換えヒトFcγRIAの低収量が、大きな可溶性凝集物をもたらすタンパク質の温度依存性の非共有結合性自己会合に大きく起因することを見出した。さらに、FcγRIA凝集物が形成されることにより、細胞培養条件培地からのタンパク質の回収も制限される。より詳細に凝集プロセスを研究するために、上に記載したようにCHO DXB−11細胞の条件培地からFcγRIAを精製した。高度に精製されたFcγRIAタンパク質を様々な時間にわたって4℃、25℃および37℃においてインキュベートし、凝集物の形成をSuperdex75カラムにおけるサイズ排除クロマトグラフィによってモニターした。
4℃または25℃のいずれかにおいて最大48時間にわたってインキュベートした後のFcγRIAの溶出プロファイルは、FcγRIAの解凍したてのサンプルの溶出プロファイルと同一であり、すなわち、そのタンパク質は、10.3分という溶出時間での単一の相同ピークとして、そのカラムから溶出された。対照的に、37℃における0、2、5、20または48時間にわたるFcγRIAのインキュベーションによって、7.8分に溶出される材料が定量的に増加しつつ、単量体FcγRIAとして溶出される材料の量が時間依存的に減少し、溶出プロファイルは、大きなFcγRIA凝集物の形成と一致した。37℃において0、2、5、20または48時間にわたってインキュベートされたサンプルの場合、凝集物として回収された材料の量は、それぞれ、カラムに適用された総FcγRIAの0%、17%、43%、83%および93%だった。
凝集したFcγRIAが生物学的に活性であるか否かを評価するために、37℃において20時間インキュベートされた材料(83%凝集)を、以前に報告されているように免疫複合体の析出の阻害について試験した(Ellsworthら、J.Immunol.180,580−589,2008を参照のこと)。オバルブミンと抗オバルブミンとの混合物を増加量の非インキュベート(単量体)FcγRIAとともにインキュベートすることにより、免疫複合体の析出が用量依存的に阻害され、最大阻害は、5.0μMのFcγRIAを用いたときに観察された。対照的に、同一濃度の凝集FcγRIAを用いたときは、阻害は、ほとんどまたはまったく観察されなかった。細胞条件培地または精製FcγRIAタンパク質が、IgG−Sepharoseの小さいカラムに適用されるIgG−Sepharose溶出アッセイにおいて、同様の結果が得られた。このアッセイでは、FcγRIAサンプルをカラムに適用し、そのカラムをPBSで洗浄し、結合したFcγRIAを低pH緩衝液で溶出した。洗浄画分および低pH緩衝液溶出物を回収し、充填物、洗浄画分および溶出画分におけるFcγRIAの量を、抗FcγRIA特異的抗体によるウエスタンブロッティングによって評価した。37℃において48時間インキュベートされたFcγRIAについては、総FcγRIAの96%が、未結合の洗浄画分中に見られ、4%が、結合画分中に存在した。対照的に、4℃においてインキュベートされたFcγRIAについては、サンプル全体が、結合画分中に見られた。これらのデータは、凝集したFcγRIAがIgG−Sepharoseに結合しないことを証明している。まとめると、これらのデータは、凝集したFcγRIAが生物学的に不活性であることを証明している。
予め凝集された材料のSuperdex75溶出プロファイルが、4℃もしくは25℃においてさらにインキュベートするか、または過剰量のヒトIgG1を加えることによって、変化しなかったので、FcγRIAの温度依存性の凝集は、不可逆的であるとみられる。
0、5、10、15または20時間にわたってリン酸緩衝液中、37℃でFcγRIAをインキュベートした後のFcγRIAの円偏光二色性(CD)スペクトルの測定から、FcγRIAの温度によって誘導されるアンフォールディングについてのさらなる証拠がもたらされた。インキュベートされていないFcγRIA(0h)について、約285nmにおけるトラフによって分断されるおよそ270nmおよび290nmにおけるCDシグナルの2つのピークが観察された。37℃において様々な時間にわたってインキュベートされたFcγRIAにおいて、CDシグナル強度の時間依存的減少が、これらの波長にわたって観察されたことから、FcγRIAに対する構造が時間および温度に依存して失われることが示唆される。
これらのデータは、溶液中におけるFcγRIAの安定性を動的光散乱(DLS)によって評価することによって、さらに実証された。DLS実験では、溶液中に拡散する分子に起因する光散乱強度の時間依存的ゆらぎを測定した。光散乱の変化は、分子サイズおよびコンフォメーションに関係する。拡散係数を測定し、次いで、それを用いてFcγRIAの流体力学的半径(Rh)を算出した。FcγRIAを様々な時間にわたって25℃および37℃のリン酸緩衝液pH7.3中でインキュベートし、Rhを評価した。インキュベートされていないFcγRIA(0h)について、Rhは、約3.4nmだった。様々な時間にわたって25℃においてインキュベートされたFcγRIAについては、Rhは変化しなかった(すべてのインキュベーション時間に対して、Rh約3.2nm)。対照的に、1.0h、2.0h、3.0hおよび48hにわたってインキュベートされたサンプルに対するFcγRIAのRhは、37℃におけるインキュベーション時間を用いたとき、それぞれ4.1nm、5.2nm、6.4nmおよび12.8nmに増加した。これらのデータから、FcγRIAが、この調合物中の37℃において時間とともに、多量体形成したか、またはアンフォールディングしたことが示唆される。
上に記載されたデータは、高度に精製されたFcγRIAが、中性pHのリン酸緩衝液中において37℃でインキュベートされたときに、不安定かつ不活性な自己会合凝集物として形成されたことを証明した。凝集が、FcγRIAを発現しているCHO細胞の条件培地中でも生じるか否かを評価するために、37℃に維持された細胞からの未希釈条件培地を、上に記載したIgG−Sepharose結合アッセイを用いて評価した。37℃で培養されたFcγRIAを発現しているCHO細胞について、1日経過した条件培地を回収し、IgG−Sepharoseカラムに適用した。回収されたFcγRIAの80パーセントが、未結合画分(凝集タンパク質)中に見られ、残り(20%)は、単量体FcγRIAとしてカラムから溶出された。これらのデータから、FcγRIAが、CHO細胞の条件培地中で凝集し、このことが他の研究者たちが記録していた組換え可溶性FcγRIAの生成/回収が不良であることをおそらく説明すると示唆される(Berntzenら、前出;Sondermann and Oosthuizen,前出;Paetzら、前出;Bruhnsら、前出を参照のこと)。
ハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAの安定性研究
天然の可溶性FcγRIAの組換え体の温度誘導性凝集を回避するために、上に記載したプロトコルを用いて天然のFcγRIIIA(CD16A)の膜遠位Igドメインを天然のFcγRIAの膜遠位Igドメインの代わりに用いるドメインスワッピングプロトコルを用いて、ハイブリッドFcγR分子を作製した。上で述べたように、ハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAのインビトロおよびインビボにおける生物学的活性は、天然のFcγRIAの生物学的活性と同一だった。ハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAが、温度誘導性凝集に感受性であるか否かを評価するために、天然のFcγRIAおよびハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAを各々、様々な長さの時間にわたって37℃のリン酸緩衝液、pH7.3中でインキュベートした。上に記載したようなサイズ排除クロマトグラフィによって各FcγRの凝集をモニターし、凝集物として存在する、総FcγRに関するパーセントを算出した。37℃において0h、2h、4h、20h、24hまたは48hにわたってインキュベートされた天然のFcγRIAのパーセント凝集は、それぞれ、0、14%、40%、81%、84%および95%だった。対照的に、同一条件下でインキュベートされたFcγRIIIA/IAに対するパーセント凝集は、0、2%、6%、30%、34%および51%だった。天然のFcγRIAとFcγRIIIA/IAとの凝集の差は、0.1Mスクシネート緩衝液,pH6.0中でより著明だった:0h、2h、4h、20h、24hまたは48hにわたってインキュベートされた天然のFcγRIAのパーセント凝集は、それぞれ0、5%、13%、52%、55%および77%だった。これらの条件下のFcγRIIIA/IAのパーセント凝集は、それぞれ0%、0%、0%、5%、8%および16%だった。これらのデータから、ハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAが、天然のFcγRIAよりもかなり温度誘導性凝集に感受性でないことが示唆される。
天然のFcγRIAについて上に記載した条件と同一の条件下でのFcγRIIIA/IAの動的光散乱(DLS)解析によって、同様のデータが得られた。天然のFcγRIAを37℃においてインキュベートした後にそのタンパク質の流体力学的半径(Rh)が増加したこととは対照的に、最大3.0時間にわたって37℃でインキュベートした後のFcγRIIIA/IAについては、Rhの変化は観察されなかった(これらの時間にわたって、Rh=3.6〜3.8)。Rhが5.1nmにわずかに増加したことが、37℃において48時間にわたってインキュベートされたFcγRIIIA/IAについて見られた。上に記載したように、このRhの増加は、Rhが12.8nmに増加した同一条件下においてインキュベートされた天然のFcγRIAについて観察された増加よりもかなり小さかった。また、これらのデータは、ハイブリッドレセプターFcγRIIIA/IAが、天然のFcγRIAと比べて、温度誘導性凝集に感受性でないことを証明している。
CHO条件培地中の単量体FcγRIIIA/IAの回収が、天然のFcγRIAの回収と比べて増加したか否かを評価するために、これらのレセプターの各々を発現しているCHO細胞の24時間培養物中の単量体FCGRの量と凝集FCGRの量を比較した。上に記載したようにウエスタンブロッティングによって検出されるIgG−Sepharose結合アッセイを用いて、凝集をモニターした。カラムに適用された総FcγRに関するパーセントとして、53%のFcγRIIIA/IAが、IgG−Sepharoseに結合し、低pH洗浄工程において溶出されたという点でそれが単量体であったのに対し、47%のタンパク質が、凝集材料として洗浄物中に溶出された。対照的に、天然のFcγRIAの場合、14%のタンパク質しかIgG−Sepharoseに結合せず、86%のタンパク質が、凝集材料として洗浄物中に溶出された。純粋なタンパク質と同様に、これらのデータから、FcγRIIIA/IAが、CHO条件培地中において温度誘導性凝集に対してそれほど感受性でなく、天然のFcγRIAと比べて多い量で回収され得ることが示唆される。
実施例22
可溶性FcγRIA、FcγRIIA/RIAおよびFcγRIIIA/IAの抗炎症活性の比較
方法
1.免疫複合体の析出
ニワトリ卵オバルブミン(OVA)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中において15.0μg/mLの最終濃度になるように溶解し、指示濃度の、天然のFcγRIA可溶性レセプターまたはハイブリッド可溶性レセプターであるFcγRIIA/IA−CH6もしくはFcγRIIIA/IA−CH6のうちの1つ(この実施例ではそれぞれ「FcγRIIA/IA」(または「FCGR2A1A」)および「FcγRIIIA/IA」(または「FCGR3A1A」)とも称される)の存在下および非存在下の200μLの最終体積において300μgのウサギポリクローナル抗OVA抗体/mLと混合した。その直後に、反応混合物の濁度を、37℃で5〜10分間にわたって30秒ごとに分光光度計を活用して350nmにおいてモニターした。線形回帰を用いて濁度曲線の直線部分の傾きを計算し、免疫複合体の析出のFcγR媒介性阻害を、抗OVAおよびOVAのみを含むインキュベーションに対して表した。
2.マスト細胞からのサイトカイン分泌
5.0mLのPBSの最終体積において、300μLのウサギポリクローナル抗OVAをPBSにおける75.0μLの1mg OVA/mLと混合することによって、免疫複合体を調製した。37℃で30〜60分間インキュベートした後、その混合物を18〜20時間4℃に置いた。その免疫複合体を12,000rpmで5.0分間遠心分離することによって回収し、上清画分を取り出して廃棄し、その免疫複合体沈殿物を1.0mLの氷冷PBSに再懸濁した。その免疫複合体をさらに洗浄した後、1.0mLの氷冷PBSの最終体積に再懸濁した。BCAアッセイを用いてタンパク質濃度を測定した。
MC/9細胞を培地A(10%ウシ胎児血清、50.0μM B−メルカプトエタノール、0.1mM可欠アミノ酸、1.0mMピルビン酸ナトリウム、36.0μg/mL L−アスパラギン、1.0ng/mL rmIL−3、5.0ng/mL rmIL−4、25.0ng/mL rmSCFを含むDMEM)中において、0.5〜3×106細胞/mLの密度にサブクローン化した。細胞を1500rpmで5.0分間遠心分離することによって回収し、細胞ペレットを培地A(サイトカインを含まない)で洗浄し、2.0×106細胞/mLで培地Aに再懸濁した。細胞のアリコート(2.0×105細胞)を、96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、200μLの緩衝液Aの最終体積中、指示濃度の、天然のFcγRIA可溶性レセプターまたはハイブリッド可溶性レセプターFcgRIIA/IA−CH6もしくはFcgRIIIA/IA−CH6のうちの1つの存在下および非存在下において、10.0μg/ウェルのOVA/抗OVA免疫複合体(IC)とともにインキュベートした。37℃において4.0時間後、培地を取り出し、1500rpmで5.0分間遠心分離した。無細胞の上清画分を回収し、Luminexサイトカインアッセイキットを用いて、IL−6、IL−13、TNFαおよびMCP−1サイトカイン放出の存在についてアリコートを解析した。
3.ヒトIgG1に対するFcγR親和性の測定
ブランク参照として第2の誘導体化されていないセルを利用して、IgG1抗体を1つのフローセルに固定化した。アミンカップリングキット(Biacore)、およびBiacore Control Softwareによって操作されるSurface Preparationのための標準的なWizard Templateを用いてIgG1抗体の固定化を行った。pHスカウティング研究に対するWizardの結果に基づいて、IgG1抗体溶液を酢酸ナトリウム,pH5.0中で11μg/mLに希釈した。アミンカップリング用のWizard Templateを用いることにより、抗体を単一のフローセルに固定化した。次いで、センサー表面上のカルボキシル基を、0.2M N−エチル−N’−(3−ジエチルアミノ−プロピル)カルボジイミド(EDC)および0.05M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む溶液を注入することによって活性化した。次いで、150〜200RUのレベルを標的として、抗体溶液を活性化表面の上に注入した。カルボキシメチルデキストラン表面上の残存エステル部位を1Mエタノールアミン塩酸塩でブロックすることによって、この固定化手順を終了した。
アナライト溶液(天然の可溶性FcγRIAまたは可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IAおよびFcγRIIIA/IA)を注入するための方法は、動態解析用のBiacore Wizard Templateを用いて記載された。この方法は、25℃において行われ、サンプルは、外界温度のオートサンプラー内に保存された。なお、Wizard Templateを用いるとき、注入モードなどの動態にとって最適なある特定のパラメータが、Wizardプログラムによって予め定義される。
可溶性FcγRIAを解析するための方法を、動態速度定数kaおよびkdを決定するために最適化した。レセプターを両方のフローセル(すなわち、ブランクのフローセルおよび抗体誘導体化されたフローセルであるそれぞれ1および2)の上に順番に注入することにより、非修飾コントロール表面へのFcγRの結合(ウサギ抗OVA IgGへの結合が判定されなかった)に対する、ヒトIgG1抗体へのFcγRの結合の比較解析が可能になった。40μL/分の流速で3分間、アナライトを注入した(会合時間)。各アナライト注入に対する解離時間は、3分間だった。アナライトの用量反応曲線の範囲は、0.16〜10.3nMだった。各用量反応曲線の点について、N=2回の反復注入を行った。装置のノイズおよびドリフトを差し引くための緩衝液の注入をこの順序に含めた。用量反応曲線サンプルをランダムな様式で注入した。FcγR、各FcγRの動態解析のために、各用量反応曲線サイクルの後に、グリシン,pH1.75を50μL/分で1回、30秒間注入することにより、IgG抗体表面を再生した。
Biacore Control,Evaluation and Simulationソフトウェアを用いて、データ解析を行った。まず、ベースラインの安定性を評価することにより、再生工程が、注入の順序全体を通して一貫した結合表面を提供することを確かめた。コントロール表面に対するFcγRアナライトの非特異的結合のレベルを調べ、最小であることを確かめた。特異的結合表面曲線(すなわち、フローセル2)からコントロール表面曲線(すなわち、フローセル1)を差し引くこと、ならびに緩衝液注入曲線を用いて装置のノイズおよびドリフトを差し引くことによって、結合曲線を処理した。アナライト注入の再現性についてデータを調べ、次いで、得られた補正後の結合曲線を結合モデルに全体的に当てはめることにより、得られた当てはめおよび平衡定数を評価した。
4.マウスにおける皮膚の逆受身アルサス反応
10週齢の雌C57BL/6マウス(1群あたりn=8匹のマウス)をイソフルランで麻酔し、背面の皮膚を剪毛し、各マウスの背中を70%アルコールで拭いた。各マウスの背面の皮膚の異なる部位に、それぞれ0.02mLの皮内注射を2回行った。その注射溶液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ならびに40.0μgのウサギ抗オバルブミン(56℃における30〜40分間のインキュベーションによって熱失活した抗OVA)単独、または40.0μgの抗OVAおよび指示量の天然の可溶性FcγRIAまたは可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IAもしくはFcγRIIIA/IAのうちの1つを含んでいた。コントロール群のマウスには、40.0μgの非免疫ウサギIgG(上に記載したように熱失活したもの)の皮内注射を2回行った。抗体調製物は、注射の前に、14,000rpmにおいて10分間で遠心分離することにより、微粒子が除去された。皮内注射の直後に、10.0mgのOVA/mLおよび10.0mgのエバンスブルー/mLを含む100.0μLの溶液を各マウスの尾静脈に注射した。いくつかの場合において、尾静脈注射溶液は、1.0mg/kgの用量のデキサメタゾンも含んでいた。注射の4時間後、CO2ガスによってマウスを安楽死させた。エバンスブルー色素の脈管漏出の面積(mm2)を測定すること、および病変部位から採取されたパンチバイオプシーの組織の重量(mg)を測定することによって、皮膚の浮腫を評価した。次いで、その組織サンプルを液体N2中で急凍し、−80℃において保存した。
Cytostore(Calgary,Alberta Canada)製のMyeloperoxidase Assay Kitを用いて、報告されているように(Bradleyら、J.Invest.Dermatol.78:206−209,1982を参照のこと)パンチバイオプシーサンプルにおけるミエロペルオキシダーゼ活性を測定することによって、好中球浸潤を評価した。
結果および考察
天然のFcγRIA可溶性レセプターならびにハイブリッドFcγR可溶性レセプターFcγRIIA/IAおよびFcγRIIIA/IAの、免疫複合体の析出に対する相対的な有効性を評価するために、MOller(Immunology 38:631−640,1979)およびGavinら(Clin.Exp.Immunol.102:620−625,1995)の方法に基づいて、抗OVA/OVA免疫複合体析出アッセイを確立した。37℃において抗OVAとOVAとをインキュベートすることにより、溶液混合物の光学濃度が時間依存的に増加した(これは、不溶性抗OVA/OVA免疫複合体の形成と一致する観察結果だった)。アッセイの開始時に天然の可溶性FcγRIAを加えることにより、混合物の光学濃度が用量依存的に減少したことから、免疫複合体の析出の阻害が示唆された。免疫複合体の析出は、1500nM可溶性FcγRIAによって完全に無くなった。同様に、可溶性ハイブリッドレセプターであるFcγRIIA/IAとFcγRIIIA/IAの両方が、OVA−抗OVA免疫複合体の析出を阻止した。用量反応曲線は、3つすべてのFcγRについて類似していたことから、これらのレセプターが等しい効力を有したことが示唆される。抗原:抗体免疫複合体の析出は、抗体Fc重鎖間の非共有結合性相互作用に依存するとみられ(MOller,Immunology 38:631−640,1979)、また、Fcγレセプターは、抗体のFc部分に結合する(Dijstelbloemら、Trends Immunol.22:510−516,2001)ので、これらのデータから、天然の可溶性FcγRIAならびに可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IAおよびFcγIIIA/IAが、抗OVA抗体のFc部分に結合することによって免疫複合体の析出を乱すことが示唆される。
天然のFcγRIAおよび各ハイブリッドレセプターと抗体Fcとの相互作用を直接評価するために、固定化されたヒトIgG1へのFcγRの結合を表面プラズモン共鳴解析によって評価した。1つのIgG1分子に対して1つのFcγR分子という結合化学量論が推定されるので(Woof and Burton,Nature Rev.Immunol.4:1−11,2004)、モノクローナルヒトIgG1抗体を、FcγRの動態解析に対する最適レベル内の密度レベルである485というRU(レゾナンスユニット)レベルで1つのフローセルにおけるセンサー表面に固定化した。天然のFcγRIA可溶性レセプターは、それぞれ2.8×106M−1s−1および4.6×10−4s−1という会合速度および解離速度で急速に固定化IgG1に結合した(この値から1.7×10−10Mという平衡解離定数が算出された)。これらのデータは、以前に報告されたデータ(Paetzら、Biochem.Biophys.Res.Commun.338:1811−1817,2005)と類似しており、天然の可溶性FcγRIAが高親和性でヒトIgG1に結合することを証明している。可溶性ハイブリッドレセプターFcγRII/IAおよびFcγRIIIA/IAは、天然のFcγRIAと類似の会合速度および解離速度で、固定化されたIgG1に迅速に結合した。これらのデータから、これらのハイブリッドレセプターが、固定化されたヒトIgG1に高親和性で結合したことが示唆される。
マスト細胞は、III型過敏反応などの種々の免疫障害において免疫複合体媒介性炎症を媒介すると考えられている(Ravetch,J.Clin.Invest.110:1759−1761,2002;Sylvestre and Ravetch,Immunity 5:387−390,1996;Jancar and Crespo,Trends Immunology 26:48−55,2005)。マスト細胞のFcγレセプターへの免疫複合体の結合は、IL−6およびTNFαなどの炎症性サイトカインの分泌を誘導すると考えられており(Ravetch,前出;Jancar and Crespo,前出)、続いて、好中球浸潤および組織損傷がもたらされる。マスト細胞からのサイトカイン分泌が、免疫複合体によって刺激され得たか否かを評価するために、マウスマスト細胞株MC/9を、予め形成されたウサギ抗OVA/OVA免疫複合体の存在下および非存在下においてインキュベートした。抗OVA/OVA免疫複合体とのインキュベーションによって、MC/9細胞条件培地中における炎症性サイトカインIL−6、IL−13、TNFαおよびMCP−1の蓄積が時間依存的および濃度依存的に増加した。対照的に、等しい濃度のウサギ抗OVA IgG単独とともにMC/9細胞がインキュベートされたとき、サイトカインの産生は、変化しなかった。これらのデータは、MC/9細胞が、炎症性サイトカインの産生によって免疫複合体に反応することを証明する。
増加量の天然のFcγRIA可溶性レセプターまたはハイブリッド可溶性レセプターFcγRIIA/IAもしくはFcγRIIIA/IAのうちの1つの存在下において抗OVA/OVA免疫複合体とともにMC/9細胞をインキュベートすることにより、IL−6、IL−13、TNFαおよびMCP−1の蓄積が用量依存的に減少した(図13を参照のこと)。各レセプターに対する用量反応曲線の差がほとんどまたはまったく無かったことが注目され、このことにより、これらの各レセプターに対する効力が同一であることが示唆される。これらのデータは、天然のFcγRIAおよびこれらのハイブリッド可溶性レセプターが、マウスマスト細胞において免疫複合体の結合およびシグナル伝達を阻止し得ることを証明している。
上に記載した知見は、天然の可溶性FcγRIAならびに可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IAおよびFcγRIIIA/IAが、インビトロにおいて免疫複合体の形成を阻止し得ること、およびマスト細胞における免疫複合体媒介性シグナル伝達を阻害し得ることを証明している。これらのデータから、FcγRが、インビボの状況において、免疫複合体媒介性炎症を阻止する際に有効であり得ることが示唆される。このことを試験するために、マウスにおいて皮膚の逆受身アルサス反応を確立し、免疫複合体媒介性浮腫および好中球浸潤に対する各FcγRの作用を評価した。
等しい濃度の非免疫IgGの皮内注射と比べて、抗OVA抗体の注射によって、処置マウスの皮膚における浮腫が時間および濃度によって増加した。エバンスブルー色素の血管外遊出面積の増加と組織重量の増加の両方として、浮腫は明らかだった。OVAの尾静脈注射の非存在下において浮腫が観察されなかったので、これらの作用は、免疫複合体に特異的だった。ミエロペルオキシダーゼの抽出可能な活性によって測定される病変部位内の好中球の蓄積もまた増加した。
増加量の天然の可溶性FcγRIAとともに抗OVA抗体を皮内送達することにより、浮腫が濃度依存的に減少した(これは、エバンスブルー面積の減少(図14Aおよび15A)または病変部位の組織重量の減少(図14Bおよび15B)のいずれかによって判断された)。可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IA(図14Aおよび14B)およびFcγRIIIA/IA(図15Aおよび15B)のいずれかを用いたとき、同様の結果が得られた。
両方のハイブリッドレセプターが、浮腫の両方の基準を減少させ、天然のFcγRIAと等しい効力だった。病変バイオプシーにおけるミエロペルオキシダーゼ活性によって判断される好中球浸潤もまた、等しい効力で、天然の可溶性FcγRIAおよび各可溶性ハイブリッドレセプターによって有意に減少した(図16Aおよび16B)。これらの結果は、天然の可溶性FcγRIAならびに可溶性ハイブリッドレセプターFcγRIIA/IAおよびFcγRIIIA/IAの各々が、マウスの逆受身アルサス反応において浮腫および好中球浸潤を阻止し得ることを示している。
前述の本発明は、理解を明確にする目的で詳細に記載されてきたが、ある特定の改変が添付の請求項の範囲内で実施され得ることが認識されるだろう。本明細書中で引用されたすべての刊行物および特許文書は、その各々が参考として援用されると個別に示されるのと同程度に、その全体がすべての目的のために本明細書によって参考として援用される。