JP2011254747A - 高級アルコール生産微生物及びその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来にない新規な高級アルコール生産微生物及びその利用を提供する。
【解決手段】炭素数が3以上のカルボン酸を生産し、カルボン酸還元酵素をコードする第1の外来性DNAを備える微生物を用いて、前記高級アルコールを生産する。
【選択図】なし

Description

本発明は、高級アルコールの生産微生物及び高級アルコールの生産方法等に関する。
従来より、炭素数が3以上のアルコール(以下、高級アルコールともいう。)の発酵方法として、クロストリジウム属によるアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)が知られている。近年、石油資源の枯渇やCO2削減要請の高まりから、再び、発酵による高級アルコール生産技術が注目されるようになってきている。しかしながら、クロストリジウム属菌は発酵が困難であって、効率的な高級アルコール生産能力を高めることが困難である。
そこで、例えば、クロストリジウム属菌由来の高級アルコール合成経路を導入して1−ブタノールやイソプロパノールを生産する試みが行われている(非特許文献1〜3)。例えば、非特許文献1は、クロストリジウム属由来の1−ブタノール、アセトン合成経路を大腸菌に導入して高級アルコールを生産したことを開示し、非特許文献2は、C. acetobutylicum由来のTHL遺伝子、CTF遺伝子及びADC遺伝子と、C. Beijerinckii由来のADH遺伝子を大腸菌に導入して、イソプロパノールを生産したことを開示し、非特許文献3も同様の内容を開示している。
また、アミノ酸合成経路の中間物質である2−ケト酸を外来性のケト酸脱炭素酵素で還元して高級アルコールを合成することも検討されている(非特許文献4、特許文献1)。すなわち、これらの文献では、大腸菌の生産する2−ケト酸をケト酸脱炭素酵素で脱炭素し、生成したアルデヒドをさらにアルデヒド脱水素酵素で脱水素して、高級アルコールを生産する方法を提案した。
さらに、カルボン酸は、C. cellulolyticum、Aspergillus niger、Corynespora melonis、Nocardia属Coriolus属、Neurospora属などの微生物によりアルデヒドまでに還元できることが知られており、Nocardia属菌由来のカルボン酸還元酵素を、大腸菌に導入して発現する試みが行われている(非特許文献5〜7)。
米国特許公開公報2008/0261230
Atsumiら、Metab. Eng.2008 Nov;10(6):305-11 Jojimaら、Appl. Microbiol. Biotechnol. 2008 Jan;77(6):1219-24 Hanaiら、Applied and Environmental Microbiology, Dec. 2007,7814-7818 Atsumiら、Nature, 2008, 451; 86-90 J. Biological Chemistry, 2007, 282:478-485 Enzyme and Microbaial Technology, 2008, 42:130-137 J. Bacteriology,1997, 3482-3487
しかしながら、非特許文献1〜3に開示されるように、高級アルコールの合成経路そのものを宿主微生物に導入すると効率的な高級アルコール生産を実現することが難しい。また、非特許文献4及び特許文献1に開示するように、2−ケト酸を脱炭素することで炭素数が低減されるため、エネルギー密度が低下するという不都合があった。さらに、非特許文献5〜7では、カルボン酸をカルボン酸還元酵素を導入した大腸菌に外添してアルデヒドを得たに過ぎず、宿主に高級アルコールを生産させるための技術は開示されてはいない。
そこで、本明細書の開示は、上記課題に鑑み、従来にない新規な高級アルコール生産微生物及びその利用を提供することを一つの目的とする。
本発明者らは、高級アルコールの微生物による生産を検討するのにあたって、微生物が自己生産するカルボン酸に着目するとともに、こうした微生物にカルボン酸還元酵素を導入してカルボン酸類の代謝経路を改変することで、前記有機酸を前記有機酸に由来する高級アルコールへの生産に仕向けることに着目した。本発明者らが、酵母にカルボン酸還元酵素を導入したところ、高級アルコールの生産量が向上するという知見を得て、本発明を完成した。すなわち、本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
本明細書の開示によれば、炭素数が3以上のアルコールを生産するための微生物であって、炭素数が3以上のカルボン酸を生産し、カルボン酸還元酵素をコードする第1の外来性DNAを備える、微生物が提供される。本明細書に開示される微生物は、さらに、アルデヒド脱水素酵素を生産するものであってもよいし、また、この微生物は前記カルボン酸の生産が増強されていることが好ましい。さらに、前記カルボン酸は、2−ヒドロキシプロパン酸であることが好ましい。さらに、前記カルボン酸をピルビン酸経由で生産するための改変であって、第2の外来性DNAの導入及び/又は内在性遺伝子の不活性化よる改変を含むことが好ましい。この態様において、前記内在性遺伝子は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子であり、前記第2の外来性DNAは、乳酸脱水素酵素をコードする、微生物が提供される。さらに、本明細書に開示される微生物にあっては、NADPH及び/又はNADHの生成反応に関与する酵素の発現が増強されていることが好ましい。さらに、酵母であることが好ましい。
本明細書の開示によれば、炭素数が3以上のアルコールの生産方法であって、本明細書に開示される微生物を培養して前記アルコールを生産する工程を備える、方法が提供される。
2−ヒドロキシプロパン酸を1,2−プロパンジオールに変換する経路を示す図である。 2−オキソカルボン酸を、アルコールに変換する経路を示す図である。 カルボン酸還元酵素遺伝子の高発現のための染色体導入用ベクターの構築スキームを示す図である。 カルボン酸還元酵素遺伝子の高発現のための染色体導入用ベクターの構造を示す図である。 グルコース脱水素酵素遺伝子高発現のためのプラスミド構築スキームを示す図である。 カルボン酸還元酵素の導入効果を示す図である。 グルコース脱水素酵素の導入効果を示す図である。
本明細書の開示は、1,2−プロパンジオールを含む炭素数が3以上のアルコールを生産する微生物及びその高級アルコールの生産方法に関する。本明細書に開示される微生物によれば、例えば、図1に例示するように、2−ヒドロキシプロパン酸を、導入されたカルボン酸還元酵素により、微生物が自己生産する炭素数が3以上のカルボン酸をアルデヒドとし、その後、一般に微生物に内在しているアルコール脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ)により、1,2−プロパンジオールを生産することができる。特に、カルボン酸の生産が増強されている場合には、効率的に高級アルコールが生産される。以下、本明細書の開示に関する各種実施形態につき、詳細に説明する。
なお、本明細書において、高級アルコールとは、炭素数が3以上のアルコールを意味している。ここでいう炭素数3以上のアルコールは、一級、二級及び三級アルコールのいずれであってもよい。また、2価以上の多価アルコールであってもよい。また、直鎖アルコールであってもよいし、分枝鎖を有するアルコールであってもよい。高級アルコールとしては、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−フェニル−1−プロパノールが挙げられる。
(高級アルコール生産微生物)
本明細書に開示される微生物は、高級アルコールの生産に適した微生物及び高級アルコールを生産する微生物である。こうした微生物は、少なくとも炭素数が3以上のカルボン酸を生産するものである。
本微生物としては、特に限定しないで、大腸菌や乳酸菌などの細菌を含む原核微生物、酵母やカビなどの真核微生物が挙げられる。乳酸菌は、カルボン酸である乳酸を高生産する点において好ましい。乳酸菌としては、L. delbrueckii、L. acidophilus、L. casei、L. fructivorans、L. hilgardii、L. paracasei、L. rhamnosus、L. paracasei, L. plantarumなどのラクトバシラス属(Lactobacillus)、B. bifidum、B. adolescentisなどのビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、L. lactis、L. cremorisなどラクトコッカス属(Lactococcus)、P. damnosusなどのペディオコッカス属(Pediococcus)、L. mesenteroidesなどリューコノストック属(Leuconostoc)が挙げられる。
真核微生物としては、麹菌などのカビや酵母が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
(炭素数が3以上のカルボン酸)
炭素数が3以上のカルボン酸としては、2−オキソカルボン酸、2−ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸等各種形態のカルボン酸が包含される。カルボン酸還元酵素の基質となりうるものであればよい。Nocardia属のカルボン酸還元酵素などは広い基質特異性が知られている。こうしたカルボン酸としては、例えば、解糖系の産物であるピルビン酸(2−オキソプロパン酸)、乳酸(2−ヒドロキシプロパン酸)のほか、2−オキソブタン酸、2−オキソペンタン酸、2−オキソ−3−メチル−ペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸、フェニルピルビン酸など、微生物におけるアミノ酸や脂肪酸の代謝系、エールリッヒ経路に由来する2−オキソカルボン酸が挙げられる。図2に、2−オキソカルボン酸に対してカルボン酸還元酵素を作用させ、さらに、後述するジオール脱水酵素を作用させたときの変換経路の一例を示す。
本微生物においては、炭素数が3以上のカルボン酸の生産が増強されていることが好ましい。本微生物においては、かかるカルボン酸の生産が増強されている結果、炭素数3以上のアルコールの生産量も増大されるからである。カルボン酸の生産が増強されていることで、炭素数3以上のカルボン酸の生産が増強されている態様としては、こうしたカルボン酸を含む代謝経路の遺伝的改変がなされて、カルボン酸の生産が促進されている態様が挙げられる。こうした遺伝的改変としては、例えば、内在性遺伝子の破壊などによる不活性化や、カルボン酸の生産経路に関連する酵素をコードする外来性DNAの導入などが挙げられる。こうした遺伝的改変としては、例えば、カルボン酸の生産量を効果的に増強するには、ピルビン酸経由で炭素数3以上のカルボン酸を生産する経路のいずれかの酵素の遺伝子を不活性化するか、あるいは外来性DNAの導入が好ましい。
一例として、酵母などの微生物において炭素数3以上のカルボン酸である乳酸の生産を増強させるには、酵母の通常のアルコール発酵を抑制するためにピルビン酸脱炭酸酵素をコードする1又は2以上の内在性遺伝子を破壊などして不活性化するとともに、乳酸脱水素酵素をコードする1又は2以上の外来性遺伝子を導入することが好ましい。こうすることで、ピルビン酸からエタノールへの代謝が抑制されて、ピルビン酸の乳酸脱水素酵素による還元が促進されて乳酸が増産させることになる。こうした乳酸の生産に関する改変に関しては、特開2003−259878号公報、特開2006−006271号公報、特開2006−20602号公報、特開2006−75133号公報、特開2006−2966377号公報、特開2007−89466号公報に開示されている。破壊するピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子は、Saccharomyces cerevisiae等の酵母のPDC1、PDC5、PDC6等の遺伝子とすることが好ましく、導入する乳酸脱水素酵素としては、ウシなどに由来する乳酸脱水素酵素遺伝子とすることが好ましい。
(カルボン酸還元酵素)
本微生物は、カルボン酸還元酵素をコードする外来性DNAを備えている。カルボン酸還元酵素は、Actinomyces sp.、Clostridium thermoaceticum、Aspergillus niger、Corynespora melonis、Coriolus sp.、Neurospora sp.及びNocardia sp.などの微生物大腸菌やNocardia菌などの細菌において芳香族カルボン酸を対応するアルデヒドに還元することが知られている。本微生物は、こうしたカルボン酸還元酵素をコードする外来性DNAを備えている結果、カルボン酸還元酵素の発現が増強される。例えば、内在性カルボン酸還元酵素を生産する微生物においては、当該酵素の発現が増強される(酵素の発現量等が高まるなどして、結果として高い酵素活性を発揮するようになる)。一方、内来性カルボン酸還元酵素を生産市内微生物においては、新たにカルボン酸還元酵素が発現し、カルボン酸還元酵素活性を発揮するようになる。
カルボン酸還元酵素としては、例えば、Nocardia IFM 10152株に由来するカルボン酸還元酵素である配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(GenBankアクセッション番号YP_118225(アミノ酸配列)(塩基配列(配列番号1);NC_006360(REGION: 2191973..2195440))が挙げられる。このほか、カルボン酸還元酵素のアミノ酸配列やそれをコードする塩基配列は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等からアクセスできるGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)等の各種データベースから見出すことができる。
カルボン酸還元酵素としては、カルボン酸還元酵素として既知のアミノ酸配列及び塩基配列と一定の関係を有し、カルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質を用いることもできる。例えば、一つの態様としては、配列番号1等の既知の塩基配列からなるDNA又はその一部と相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるアミノ酸配列を有し、カルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。
ここで、「カルボン酸還元酵素活性」とは、カルボン酸を還元してアルデヒドを生成する活性である。また、「カルボン酸還元酵素活性を有する」とは、当該酵素活性を有してれば足りる。したがって、元の、例えば、配列番号1で表される塩基配列がコードするアミノ酸からなるタンパク質のカルボン酸還元酵素活性より低くてもよいし、当該タンパク質と同等程度あるいはそれ以上のカルボン酸還元酵素活性を有していてもよい。
直接かかるカルボン酸還元酵素活性を測定するには、例えば、10〜50μlの酵素溶液を、1.4mlの反応媒体(最終濃度で50mMTris(pH7.5)、1mMEDTA、10mMMgCl2、1mMDTT、10%(v/v)グリセロール、1mMATP、0.2mMNADPH及び5mM安息香酸)に添加して、NADPHがNADP+に鎖ナックされる際の340nmの吸収の変化率を計測する方法(The Journal of Biological Chemistry, Vol.282、No.1, 478-485)を採用できる。
例えば、前記一つの態様のタンパク質としては、配列番号1で表される塩基配列からDNAの相補鎖とハイブリダイズするDNAによってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質を酵母などの真核細胞で発現したときの当該細胞抽出物又は当該タンパク質の有するカルボン酸還元酵素活性の70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、もっとも好ましくは100%以上である。
なお、ストリンジェントな条件とは、例えば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち、配列番号1等の既知の塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましく95%以上、最も好ましくは97%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
また、カルボン酸還元酵素のさらなる他の一態様として、配列番号1等の既知の塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有し、カルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。すなわち、配列番号1等で表される塩基配列に対して70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされ、カルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
さらにまた、他の一態様として、配列番号2等で表される既知のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、カルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号2等のいずれかで表されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、30個以下、より好ましくは、1個以上10個以下程度である。さらに好ましくは、1個以上5個以下である。
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
なお、アミノ酸の置換、欠失または付加は、カルボン酸還元酵素としての触媒ドメイン、および基質結合ドメインその他の酵素活性に重要な部分以外の領域に導入されることが好ましい。そのようなドメインは、既知のカルボン酸還元酵素との相同性解析から当業者は適宜決定することができる。
アミノ酸の置換、欠失または付加は、常用される技術、例えば、後述する部位特異的突然変異誘発法等により、当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を改変することにより導入することができる。
また、他の一態様としては、配列番号2等で表される既知のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつカルボン酸還元酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
本微生物は、以上説明した各種態様のカルボン酸還元酵素をコードする外来性DNAを備えている。すなわち、こうした外来性DNAによる形質転換によりカルボン酸還元酵素活性が付与又は増強されていることが好ましい。かかる酵素活性が付与されていることにより、カルボン酸を高効率で対応するアルデヒドに変換することができる。
カルボン酸還元酵素をコードするDNAは、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、カルボン酸還元酵素を有する可能性のある微生物等から抽出したDNA、各種cDNAライブラリ又はゲノムDNAライブラリ等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリ等由来の核酸を鋳型とし、カルボン酸還元酵素遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいはカルボン酸還元酵素遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
また、DNAは、例えば、配列番号2等で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
なお、カルボン酸還元酵素をコードするDNAの塩基配列は、遺伝暗号の縮重に従い、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードする塩基配列の少なくとも1つの塩基を他の種類の塩基に置換されていてもよい。従って、こうした外来性DNAは、遺伝暗号の縮重に基づく置換によって変換された塩基配列をコードするDNAも包含している。
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様のDNAを取得することができる。
本微生物は、カルボン酸還元酵素をコードするDNAを発現可能に保持している。すなわち、適当なプロモーターの制御下に連結され、さらに、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等も併せて備えられていてもよい。プロモーターは、誘導的であっても構成的であってもよい。例えば、酵母における構成的プロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)プロモーター、ヒスチジン栄養性機能遺伝子(HIS3)プロモーター、チトクロームbc1コンプレックス(CYC1)プロモーター及び高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)プロモーター及びこれらの改変体が挙げられる。
前記DNAは、宿主細胞の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。また、高いカルボン酸還元能力を発揮するために、例えば、複数コピー保持されていることが好ましい。
本微生物は、カルボン酸還元酵素をコードするDNAを本微生物内で発現可能な形態で保持する組換えベクターなどのDNA構築物によって形質転換されて、カルボン酸還元酵素を発現していることが好ましい。DNA構築物は、例えば、カルボン酸還元酵素をコードするDNAを含み、当該酵素の発現を目的とした組換えベクターとして各種形態を採ることができる。
DNA構築物は、例えば、これら遺伝子など所望の遺伝子組み換えのためのDNA断片を適当な発現ベクター中に備えた適切なプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。プロモーターとしては、既に説明したほか、GALプロモーター等の誘導的プロモーターが挙げられる。このほか、組換えベクターは、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等を備えることができ、これらの要素が必要に応じ適宜選択される。また、組換えベクターが、遺伝子置換、遺伝子破壊等、染色体への所望のDNA断片の組み込みを意図する場合は、染色体上の所定の領域との相同領域を有している。相同領域は、所望のDNA断片を組み込む領域に応じて適宜選択される。本明細書に開示されるDNA構築物の材料としては、商業的に入手可能な酵母発現ベクターから適宜選択して用いることができる。
なお、こうした組換えベクターの作製、組換え体宿主としての酵母等の取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で通常行われているものであり、たとえば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
DNA構築物の宿主への導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した酵母につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び活性発現による選抜により本微生物を形質転換体として得ることができる。
本微生物では、酵母において強力に作用しているアルコール脱水素酵素を利用するため、さらにその発現を増強する必要が回避されている。しかし、一層の発現強化、作用強化を考慮する場合には、補足的に発現されているアルコール脱水素酵素をコードするDNAが導入されていることが好ましい。こうしたアルデヒド脱水素酵素遺伝子としては、例えば、S. cerevisiaeなどに由来するADH2(アルコール脱水素酵素2)遺伝子(GenBankアクセッション番号:CAA89136)等を用いることができる。
本微生物は、また、ジオール脱水酵素の発現が増強されていてもよい。2−オキソカルボン酸にカルボン酸脱水素酵素を作用させる場合には、2−オキソカルボン酸は、カルボン酸脱水素酵素により、対応する2−オキソアルデヒドに変換され、さらに、アルコールコール脱水素酵素により、1,2−ジオールに変換され、さらに、ジオール脱水酵素により、脱水されてアルコールに変換される。例えば、こうした酵素の発現の増強には、ジオール脱水酵素をコードするDNAが導入されていることが好ましい。ジオール脱水素酵素遺伝子としては、例えば、サルモネラ属に由来のプロパンジオール脱水素酵素をコードするPduC遺伝子(GenBankアクセッション番号:AAB84102)等を用いることができる。
本微生物は、NADPH及び/又はNADHの生成反応に関与する酵素の発現が増強されていることが好ましい。カルボン酸還元酵素は、NADPHによりカルボン酸をアルデヒドに還元する。また、アルデヒドは、アルコール脱水素酵素が、NADHによりアルデヒドをアルコールに還元する。したがって、微生物内においてNADP及び/又はNADの還元反応と共役する酵素、すなわち、こうしたNADPH及び/又はNADHの生成反応に関与する酵素の発現を増強して、こうした反応を促進することで、カルボン酸還元酵素及びアルコール脱水素酵素による還元反応を促進できる。こうした酵素としては、例えば、グルコース−1−脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素が挙げられる。したがって、本微生物は、例えば、これらの酵素をコードするDNAが導入されて、こうした酵素の発現が増強されていることが好ましい。こうした外来性DNAの取得や微生物への導入は、カルボン酸還元酵素をコードするDNAに適用したのと同様の手法を採用することができる。なお、そのほか、本微生物は、適宜必要に応じて遺伝子改変がなされていてもよい。グルコース−1−脱水素酵素遺伝子としては、例えば、Bacillus属に由来のGdh遺伝子(GenBankアクセッション番号:NP−388275)等を用いることができる。
(炭素数が3以上のアルコールの生産方法)
本明細書に開示される炭素数が3以上のアルコールの生産方法は、本微生物を培養してこうしたアルコールを生産する工程を備えることができる。本生産方法によれば、カルボン酸を還元し、さらに、生成したアルデヒドを還元することで、効率的にアルコールを生産できる。また、カルボン酸の生産を増強することが可能であるため、当該カルボン酸から効率的にアルコールを生産できる。さらに、カルボン酸からアルコールへの間に炭素数の低減が回避されうるため、出発物質のエネルギー密度を低減することなくアルコールを生産できる。
本微生物は、公知の炭素源等を用いて培養することができる。培養は、本微生物の種類に応じて、一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
発酵終了後、培養液から炭素数が3以上のアルコール含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は、炭素数3以上のアルコールの種類等に応じ公知のアルコール発酵に準じて適宜その条件が選択される。
こうした本微生物の培養の実施により、用いた本微生物が有している炭素数3以上のアルコール生産能力に応じて炭素数が3以上のアルコールが生産される。
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
(酵母染色体導入用遺伝子組換えベクターの構築)
Nocardia由来のカルボン酸還元酵素(CAR)遺伝子を乳酸生産酵母(BY-LDH株)で高発現させるための染色体導入用遺伝子組換えベクターをpBHPH-PDC1-CARと命名した。以下に本実施例におけるベクター構築工程の詳細を図3に基づいて説明するが、ベクター構築の手順はこれに限されるものではない。なお、ベクター構築における一連の反応操作は、一般的なDNAサブクローニング法に準じて行い、一連の酵素類はタカラバイオ杜の製品を使用した。
(1)プレベクターpBHPH-HOR7Pベクターの構築
一般的なDNAサブクローニング法に従って、プレベクターpBHPH-TDH3Pベクターの構築を行った。最初に、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NRBC2260株(独立行政法人・製品評価技術基盤機構における登録菌株)のゲノムDNAを鋳型にPCRを実施し、相同組換えに必要なRPB9遺伝子(増幅末端に制限酵素Apa I、Kpn Iサイトを付与)、RCS1遺伝子(増幅末端に制限酵素Sac I、Not Iサイトを付与)を単離した。増幅の債に使用したプライマーは、以下の通りであった。
RPB9-F:ATATATGGGCCCGTGCTAAGATCAGGATTTTTTCATG(配列番号3)
RPB9-R:ATATATGGTACCCAAGAGCAGATTCTAGGTAGAACG(配列番号4)
RCSl-F:ATATATGAGCTCGACGCACTCCGATGCTGCTAACCAC(配列番号5)
RCSl-R:ATATATGCGGCCGCCGATATATGTAATATAATAAGAACG(配列番号6)
PCRには、増幅酵素として増幅断片の正確性が高いとされるKOD plus DNA polymerase(東洋紡株式会社製)を使用した。調製した酵母NBRC2260株のゲノムDNA 5ng、オリゴヌクレオチドプライマー 50pmol×2、10×KOD酵素反応用バッファー5μ1、25mMgSO4 2μl、2mM dNTP mix 5μl、KOD plus DNA polymerase 1.0ユニットを加えた合計で50μ1の反応溶液を、PCR増幅装置Gene Amp PCR system 9700(PE Applied Biosystems社製)によってDNA増幅した。PCR増幅装置の反応条件は、96℃、2分の熱処理を行った後、96℃で30秒、53℃で30秒、72℃で60秒の3つの温度変化を1サイクルとし、これを25サイクル繰り返し、最後に4℃とした。本反応試料5μ1を1% TEEアガロースゲル(0.5μg/mlのエチジウムブロマイド含有)にて電気泳動し、本ゲルを254nmの紫外線照射(フナコシ社製)によってDNAのバンドを検出し、遺伝子増副の確認を行った。
単離した各遺伝子断片を、それぞれ末端に付与した各種制限酵素にて処理した。制限酵素反応の組成は、定法に従った。次に、既に構築したpBHPH-PTベクター(ハイグロマイシン遺伝子発現型ベクター)を制限酵素Sac I、Kpn I処理により、RPB9断片を、続いてSac I及びNot I処理により、RCS1断片を順次導入しpBHPH-RPB-RCSベクターを構築した。
続いて特開2005-137306号公報に開示する方法にて構築したpBTRP-HOR7P-LDHベクターを同様の制限酵素Not I、SpeIで処理して、得られたPDC1P遺伝子プロモーターを含む断片を取得した。本断片を、上記にて構築したpBHPH-RPB-RCSベクター中に連結させ、プレベクターpBHPH-PDCIPを構築した。
(2)カルボン酸還元酵素(CAR)遺伝子を導入した最終ベクターの構築
構築したプレベクターpBHPH-PDC1Pベクターを制限酵素Spe I、BamH Iで処理した。続いて、カルボン酸還元遺伝子(CAR)にターミネーター配列を付与した遺伝子断片を連結して最終ベクターを作製した。今回作製したBHPH-PDC1-CARベクター一についての詳細なマップを図4に示す。なお、上記の一連のDNA連結反応は、LigaFast Rapid DNA Ligation(プロメガ社製)を用い、詳細は付属のプロトコールに従った。また、Ligation反応溶液のコンピテント細胞への形質転換には、大腸菌JMlO9株(東洋紡社製)を使用した。いずれの場合も、抗生物質アンピシリン100μg/mlを含有したLBプレート下でコロニー選抜を行い、各コロニー用いたコロニーPCRを行うことで、目的のベクターであるかを確認した。なお、エタノール沈殿処理、制限酵素処理等の一連操作の詳細なマニュアルは、既述のMolecular Cloning, Laboratory Manualsecond Editionに従った。
(カルボン酸還元酵素(CAR)遺伝子発現株の単離)
宿主として、乳酸生産酵母(BY-LDH株)を用いた。YPD培養液10mlにて、30℃で対数増殖期(OD600nm)まで培養し、これにFrozen-EZ Yeast Transformation IIキット(ZYMORESEARCH社製)を用いてコンピテントセルを作製した。キット添付のプロトコールに従い、このコンピテントセルに上述の実施例1にて構築した染色体導入型ベクターを制限酵素Apa I、Sac I処理して遺伝子導入した形質転換試料を洗浄後、100μlの滅菌水に溶解させてハイグロマイシン選抜培地(最終ハイグロマイシン濃度150μg/ml)に塗沫し、それぞれについて30℃、静置培養下で形質転換体の選抜を行った。
得られたそれぞれのコロニーを新たなハイグロマイシン選抜培地で再度単離し、生育能を安定に保持している株を形質転換候補株とした。次に、これらの候補株をYPD培養液2m1で一晩培養し、これにゲノムDNA調製キット、Genとるくん−酵母用(商品名、タカラバイオ株式会社製)を用いてゲノムDNAを調製した。調製した各ゲノムDNAを鋳型にPCR解析を行い、カルボン酸還元酵素遺伝子の有無が確認できたものを形質転換株とした。
(グルコース脱水素酵素(Gdh)遺伝子組換えプラスミドの構築)
Bacillus由来のGdh遺伝子をBY-LDH-CARの染色体外で高発現させるためのプラスミドを構築した。本実施例におけるプラスミド構築工程の詳細を図5に示す。なお、プラスミド構築の手順はこれに限定されるものではない。なお、プラスミド構築における一連の反応操作は、一般的なDNAサブクローニング法に準じて行い、一連の素類はタカラバイオ社の製品を使用した。
Gdh遺伝子断片はPCRで増幅し、取得した。PCRには、実施例1における各種遺伝子断片の取得時と同様に操作して、最終的に、所望の遺伝子を増幅しているか否かを確認をした。単離した遺伝子断片を、pAURll2-GAPSSRGプラスミドを制限酵素Sph I及びCla Iで処理して導入して、pAURll2-Gdプラスミドを構築した。
(Gdh遺伝子発現株の単離)
宿主として、BY-LDH-CAR株を用いた。YPD培養液10mlにて、30℃で対数増殖期(OD600nm)まで培養し、これにFrozen-EZ Yeast Transformation IIキット(ZYMORESEARCH社製)を用いてコンピテントセルを作製した。キット添付のプロトコールに従い、このコンピテントセルに実施例3で構築したプラスミドを導入した。形質転換試料を洗浄後、100μlの滅菌水に溶解させて、SD−Ura選抜培地に塗沫し、30℃、静置培養下で形質転換体の選抜を行った。得られたそれぞれのコロニーを新たなSD-Ura選抜培地で再度単離し、生育能を安定に保持している株を形質転換株とした。得られた形質転換体を、BY-LDH-CAR-Gdh株と命名した。
(CAR遺伝子の導入効果)
乳酸生産酵母BY-LDH株と本株にCAR遺伝子を導入した株BY-LDH-CAR株を用いて、CAR遺伝子の導入効果を検討した。それぞれ菌株を、前培養としてYPD培地5m1、30℃にて一晩培養した。続いて、lm1のYPD培地を遠心分離し、酵母を回収し、新たなYPD培養液3m1に植菌し、培養を開始した。続いて24時間後に、サンプリングした。高級アルコール濃度はHyperREZ XP Organic acid column(ThermoScientific,US)を用い、HPLCにより測定した。0.005M硫酸を移動相とし、分離は65℃(カラム温度)、0.6mL/min(流速)の条件下で行い、RI検出器(ShimadzuRID-10A,Japan)を用いて高級アルコールを検出した。コントロールとして、CAR遺伝子を導入していないBY-LDH乳酸生産酵母を用いた。結果を図6に示す。
図6に示すように、CAR遺伝子を導入することにより、コントロールと比較して1,2-PDの生産量は2倍程向上した。コントロールとして用いたCAR遺伝子を導入していないBY-LDH乳酸生産酵母は1,2一プロパンジオール(1,2-PD)を生産することがわかった。これは、酵母が、グルコースの解糖系の中間物質であるDihydroxyacetone Phosphateをmethylglyoxalsynthaseでmethylglyoxalに変換し、更に脱水素で1,2-PDを合成したと推測された。一方、CAR遺伝子導入乳酸生産酵母では、乳酸がCARで還元され、アルデヒドになり、更に、アルデヒド脱水素酵素で脱水素されることより、1,2−プロパンジオールの生産が増大したものと考えられた。よって、ピルビン酸経由で生産される第一次代謝物質であるカルボン酸をCARで還元することで高級アルコールを生産させることができたと考えられる。
(Glucose-1-dehdroenase(Gdh)の導入効果)
Gdh遺伝子はグルコースからNADPHを生成することができる。実施例4で作製した、BHDH-CAR乳酸生産酵母にGdh遺伝子を導入した酵母を用いて、1,2-PDの生産に及ぼす影響について調べた。この酵母の培養方法と1,2−プロパンジオールの測定方法は実施例5に記した方法と同様とした。なお、コントロールを、CAR遺伝子及びGdh遺伝子を導入していない乳酸生産酵母BY-LDH株とした。結果を図7に示す。
図7に示すように、Gdh遺伝子を酵母に導入することにより、1,2-PDの生産量はコントロールより4倍程度向上した。Gdh遺伝子はグルコースからNADPHを生成することができるため、Gdh遺伝子を酵母に導入することにより、酵母内においてNADPH量が増大し、還元力が増強される。この結果、CARによる還元反応が促進されると考えられた。
配列番号3〜6:プライマー

Claims (10)

  1. 炭素数が3以上のアルコールを生産するための微生物であって、
    炭素数が3以上のカルボン酸を生産し、
    カルボン酸還元酵素をコードする第1の外来性DNAを備える、微生物
  2. さらに、アルデヒド脱水素酵素を生産する、請求項1に記載の微生物。
  3. 前記微生物は前記カルボン酸の生産が増強されている、請求項1に記載の微生物。
  4. 前記カルボン酸は、2−ヒドロキシプロパン酸である、である、請求項1又は2に記載の微生物。
  5. 前記カルボン酸をピルビン酸経由で生産するための改変であって、第2の外来性DNAの導入及び/又は内在性遺伝子の不活性化よる改変を含む、請求項1又は2に記載の微生物。
  6. 前記内在性遺伝子は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子である、請求項3に記載の微生物。
  7. 前記第2の外来性DNAは、乳酸脱水素酵素をコードする、請求項3又は4に記載の微生物。
    の微生物。
  8. さらに、NADPH及び/又はNADHの生成反応に関与する酵素の発現が増強されている、請求項1〜7のいずれかに記載の微生物。
  9. 前記微生物は、酵母である、請求項1〜8のいずれかに記載の微生物。
  10. 炭素数が3以上のアルコールの生産方法であって、
    請求項1〜9のいずれかに記載の微生物を培養して前記アルコールを生産する工程を備える、方法。
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