JP5321320B2 - 発酵能力が向上された酵母及びその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、微生物発酵を用いて物質を製造する技術に関し、より詳しくは、特定の解糖系酵素の増強することで、糖の消費能力、発酵産物の生産速度や収量などの発酵能力が向上した酵母及び当該酵母を用いた有用物質の生産方法等に関する。
石油資源の消費を抑え、大気中の二酸化炭素量の増加を抑制するという観点から、代替原料としてバイオマスの利用の可能性が検討されている。バイオマスには様々なものが想定されるが、食糧と競合しない安価な原料として、リグノセルロースの使用が求められている。リグノセルロースに含まれる主要な糖はセルロースを構成するグルコースと、ヘミセルロースを構成するキシロースである。またそれら以外にもマンノースやアラビノース、ガラクトースなどの糖が含まれている。
エタノール生産能力に優れる酵母Saccharomyces cerevisiaeなどは、グルコースやマンノース、ガラクトースは使用することができるが、キシロースやアラビノースは使用することができない。したがって、リグノセルロースを原料として高効率にエタノールを生産するためには、キシロースやアラビノースの使用が必要となる。
このような要求を満たすため、キシロースやアラビノースを使用する酵母を作製する試みがこれまでになされている(非特許文献1)。キシロースを使用するためのひとつの方法は、嫌気性真菌Piromycesのキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする遺伝子をS. cerevisiaeに発現するものである(特許文献1〜3)。一方、アラビノースを利用するためのひとつの方法は、Bacillus subtilisのアラビノースイソメラーゼをコードする遺伝子、Escherichia coliのリブロキナーゼおよびリブロース5リン酸4エピメラーゼをコードする遺伝子をS. cerevisiaeに発現するものである(特許文献4)。いずれの方法においても、S. cerevisiaeにキシロースやアラビノースを資化させることは可能となったが、酵母が元来発酵の原料として利用できるグルコースからのエタノール生産と比べて、通常は発酵の原料とならない糖、いわゆる非発酵性糖であるキシロースやアラビノースからのエタノール生産では、糖の消費速度およびエタノールの生産速度や収量などの発酵能力が非常に低かった。そこで、これを改良するための様々な研究が行われている(非特許文献2、3)。
また、キシロースを資化するように改良したS. cerevisiaeのDNAアレイ解析が試みられているが、グルコースを発酵する場合とキシロースを発酵する場合で解糖系酵素をコードする遺伝子の発現レベルはほとんど変化せず、わずかにADHとPDCはキシロースの場合に遺伝子の発現レベルが低下することが報告されている(非特許文献4)。また、同様にキシロースを資化可能なS. cerevisiaeのDNAアレイ解析によれば、原料となる糖の種類によってADHやPDCの遺伝子発現レベルは変化しないことが報告されている(非特許文献5)。さらに、また、S. cerevisiaeとは異なる属の酵母である、Hancenula polymorphaにおいて、ピルビン酸デカルボキシラーゼを過剰発現すると、キシロースを原料としたエタノール生産性が向上したという報告がある(非特許文献6)。
特開2005−514951号公報 国際公開第WO2006009434号パンフレット 特開2006−525029号公報 国際公開第WO2006096130号パンフレット
Jeffries TW、Jin YS, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2004年,63巻,495-509頁 Hahn-Hagerdal B、Karhumaa K、Fonseca C、Spencer-Martins I,Gorwa-Grauslund MF, Appl. Microbiol. Biotechnol. 2007年,74巻,937-53頁 Jeffries TW Current Opinion in Biotechnology,2006年,17巻,320-326頁 Sedlak M、Edenberg HJ、Ho NWY,Enzyme and Microbial Technology,2003年,33巻,19-28頁 Jin YS、Laplaza JM、Jeffries TW, Applied and Environmental Microbiology、2004年、70巻、6816-6825頁 Ishchuk OP、Voronovsky AY、Stasyk OV、Gayda GZ、Gonchar MV,Abbas CA、Sibirny AA, FEMS Yeast Reserch.,2008年,8巻,1164−1174頁
以上のように、キシロースやアラビノースなどの非発酵性糖の発酵能力を向上させるための試みは、解糖系以外の他の経路について各種なされてきた結果、一定の向上はあった。しかしながら、未だグルコース等の発酵性糖の利用能力と比べると大きく劣るものであり、さらなる改良が求められていた。
一方、これまでの研究から、解糖系は、改良の余地がほとんどないものと考えられており、発酵能力の向上の研究ないし改変の対象となるのは、上記のとおり、解糖系以外の経路であり、解糖系の強化を評価した研究は未だ報告されていない。非特許文献4、5に報告されるDNAアレイ解析結果によれば、グルコースを発酵する場合とキシロースを発酵する場合で解糖系酵素をコードする遺伝子の発現レベルはほとんど変化しておらず、こうした結果も上記した解糖系に関する一般的な認識を支持している。しかしながら、リグノセルロースの利用を考慮したとき、キシロースなどの非発酵性糖のみならず、グルコースなどの発酵性糖の利用能力ないし発酵能力をさらに向上させることも必要である。
そこで、本発明は、発酵能力が一層向上した酵母を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、こうした酵母の利用を提供することを他の一つの目的とする。
本発明者らは、酵母の解糖系は既に十分な程度に強力であるところ、敢えて解糖系の強化を試みたところ、解糖系のいくつかの酵素を増強することで、グルコースなどの発酵性糖及びキシロースなどの非発酵性糖の利用能力が向上し結果として発酵能力が向上するという知見を得て、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
本発明によれば、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、フォスフォフルクトキナーゼをコードする遺伝子、グルコキナーゼをコードする遺伝子及びヘキソキナーゼをコードする遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されている、酵母が提供される。本発明の酵母においては、糖消費速度、糖からの物質生産速度及び糖からの生産物収率のいずれかが前記1種又は2種以上の遺伝子の発現の増強により向上されうる。また、本発明の酵母においては、前記アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子はアルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子であってもよく、前記フォスフォフルクトキナーゼ遺伝子はフォスフォフルクトキナーゼ2遺伝子であってもよく、前記グルコキナーゼ遺伝子は、グルコキナーゼ1遺伝子であってもよく、さらに、前記ヘキソキナーゼ遺伝子は、ヘキソキナーゼ2遺伝子であってもよい。
本発明の酵母は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子を有していてもよい。
本発明の酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Klocckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択されるに属する酵母であってもよい。
本発明によれば、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースからなる群から選択される1種又は2種以上の糖を含む炭素源の存在下、本発明の酵母を用いて発酵する工程、を備える、有用物質の生産方法が提供される。本発明の生産方法において、前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレンおよびグリセロールからなる群から選択されるいずれかの発酵産物であってもよい。
酵母の解糖系及びその周辺の代謝経路の概略を示す図である。 S.cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XK)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXhisHph-HOR7p-ScXKを示す図である。 Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ(XI)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXLG-HOR7p-PsE2XIを示す図である。 S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を示す図である。 S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を示す図である。 Piromyces sp. E2由来のXI遺伝子を染色体上に多コピー導入することが可能なベクター、pRS524-HOR7p-PiXI を示す図である。 Real-time 定量PCRの解析結果から、各株における各遺伝子の発現量の相対比較を行った図7A〜7Gを示す図である。 好気条件下での増殖試験(IX700株とMT8-1株)の結果を示す図である。 好気条件下での増殖試験(IX700M株とIX700株)の結果を示す図である。 IX700M株のキシロースを炭素源として用いた発酵試験結果を示す図である。 解糖系の遺伝子を導入したIX700M株についての消費キシロース量、エタノール生産量、グリセロール生産量およびエタノール収率(理論収率比)を、エタノール生産量順でソートした結果を示す図である。 ADH1、PFK2、GLK1過剰発現株のキシロースを炭素源とした発酵試験の結果を示す図である。 グルコースを炭素源とした発酵における、基質の比消費速度の増加率(A)、および発酵24時間目の、副産物であるグリセロール蓄積量の増加率(B)を示す図である。 マンノースを炭素源とした発酵における、基質の比消費速度の増加率(A)、および発酵24時間目の、副産物であるグリセロール蓄積量の増加率(B)を示す図である。
本発明は、ヘキソキナーゼ(HXK)をコードする遺伝子、グルコキナーゼ(GLK)をコードする遺伝子、フォスフォフルクトキナーゼ(PFK)をコードする遺伝子及びアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)をコードする遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された酵母及びその利用に関する。これらの酵素は、いずれも解糖系における酵素である。これらの酵素をコードする遺伝子の発現を増強することにより、これらの酵素の生産量及び/又は活性が向上し、結果として、これらの酵素活性の高い酵母を得ることができる。本発明によれば、これらの遺伝子の発現の増強により、グルコースなどの発酵性糖、キシロース、マンノースなどの非発酵性糖又はこれらの混合物である糖原料の利用能力が向上され発酵能力の高い酵母が提供される。この結果、リグノセルロースやその他の原料由来の1種又は2種以上の糖を効率的に利用し、高効率で有用物質を生産できるようになる。
既に説明したように、非発酵性糖の利用能力の向上に関し、解糖系以外のペントースリン酸経路(PPP)等の経路での改変では限界があった。本発明者らは、もはや改良の余地がないと考えられていた解糖系の改変により、キシロース等の非発酵性糖の利用能力の向上の他、グルコース等の発酵性糖の利用能力のさらなる向上も図ることができることを見出した。本発明者らが糖の利用能力の向上に関し有用であるとして見出した各酵素の増強と酵母による糖の利用能力の向上との関係は今まで全く知られておらず、本発明者らが初めて見出した知見である。
以下、本発明を実施する形態につき詳細に説明する。図1は、酵母における解糖系及び関連する酵素を示す図である。
(酵母)
本発明の酵母において、発現が増強される遺伝子がコードする各酵素の解糖系での位置関係を図1に示す。ヘキソキナーゼ(HXK2等)やグルコキナーゼ(GLK1等)は、グルコースを分解する解糖系の入り口の酵素である。フォスフォフルクトキナーゼ(PFK2等)は、グルコース6-リン酸から異性化されたフルクトース6-リン酸をリン酸化する酵素であると同時に、ペントースリン酸経路から流れ込む、キシロース由来の分解物としてのフルクトース6-リン酸を解糖系に導入する酵素である。アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1等)はエタノール生産の最終段階の酵素である。
ヘキソキナーゼ(HXK)(EC.2.7.1.1)は、グルコースをはじめとするヘキソースをATPでリン酸化してグルコース6−リン酸を生じる反応を触媒する。酵母のHXKは、一般に、フルクトース、マンノースなどのヘキソースを6−リン酸に変換することができるとされている。HXKにはアイソザイムが存在しているが、HXK1を増強対象とすることが好ましい。
グルコキナーゼ(GLK)(EC.2.7.1.2)は、グルコースをATPでリン酸化してグルコース6−リン酸を生じる反応を触媒する。酵母のGLKには、アイソザイムが存在しているが、発酵にあっては、GLK1を増強対象とすることが好ましい。
フォスフォフルクトキナーゼ(PFK)(EC.2.7.1.11)は、ATPによるフルクトース6−リン酸をリン酸化してフルクトース1,6−ビスリン酸を生じる反応を触媒する。酵母のPFKはPFK1とPFK2のヘテロ多量体であるが、PFK2を増強対象とすることが好ましい。
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(EC.1.1.1.1)は、アルコール発酵においては、NADH+の存在下、アセトアルデヒトをエタノールに還元する反応を触媒する。酵母のADHにはアイソザイムが存在しているが、ADH1を増強対象とすることが好ましい。
こうした酵素をコードする遺伝子は、酵母において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの酵素をコードする遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、解糖系を増強できるものである限り、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、宿主となる酵母以外の他の種の酵母、他の属の酵母に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などいずれ酵母以外の生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。例えば、S. cerevisiaeのHXK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001138又はD50617、配列番号1,2)、GLK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001135又はM24077、配列番号3,4)、PFK2遺伝子(アクセッション番号:NC_001145又はZ48755、配列番号5,6)及びADH1遺伝子(アクセッション番号:NC_001147又はZ74828、配列番号7,8)の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIやS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得することができる。なお、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。
なお、本発明で用いるこれらの遺伝子は、各酵素活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
他の一態様としては、本発明で用いる遺伝子は、開示されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
さらに他の一態様として、開示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、XI活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち開示される塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、開示される塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有し、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子が挙げられる。
このような遺伝子は、例えば、開示される塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、各種生物から抽出したDNA、各種cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、本発明で増強しようとする酵素をコードする遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
また、遺伝子は、例えば、開示されるアミノ酸の配列をコードするDNAを、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
酵母において、これらの酵素をコードする遺伝子の発現が増強されている形態としては特に限定されない。これら遺伝子の発現を増強する改変が行われる前に比べて、これらのタンパク質の生産量や活性の増大、あるいは、後述するように解糖系の増強が確認されればよい。遺伝子の発現が増強されている態様としては、例えば、内因性のいずれかの遺伝子がより強力なプロモーター(例えば、構成的プロモーター)の制御下に連結された態様が挙げられる。また、追加的に内因性及び/又は外因性のいずれかの遺伝子が導入されている態様が挙げられる。追加的に導入されたいずれかの遺伝子は好ましくは構成的プロモーターなど強力なプロモーターで作動可能に保持されている。
導入される遺伝子は、誘導的プロモーターの制御下に連結されていてもよいが、構成的プロモーターの制御下に連結されていることが好ましい。酵母における構成的プロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)プロモーター、ヒスチジン栄養性機能遺伝子(HIS3)プロモーター、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ3(TDH3)プロモーターチトクロームbc1コンプレックス(CYC1)プロモーター及び高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)プロモーター及びこれらの改変体が挙げられる。
また、これらの遺伝子のいずれかの遺伝子の発現が増強されている態様としては、いずれかの遺伝子の複数コピーが発現可能に保持されている態様が挙げられる。コピー数は特に限定しないが、2以上であることが好ましい。
いずれかの遺伝子は、酵母の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。
酵母においていずれかの酵素をコードする遺伝子の発現が増強されているかどうかは、形質転換酵母の遺伝子を取得して上記各種態様を保持しているかどうかで検出できるほか、形質転換酵母におけるいずれかの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量、当該タンパク質のmRNA発現量、形質転換酵母が産生したタンパク質の活性等のいずれかが、遺伝子の増強前よりも増加しているかどうかで評価することもできる。増加の程度は、好ましくは、こうした発現量等が発現増強前の10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、一層好ましくは70%以上である。
本発明の酵母は、上記した特定の酵素群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された結果、糖消費速度(又は一定時間内の糖消費量)、糖からの物質生産速(一定時間内の物質生産量)及び糖からの生産物収率(一定時間内に得られる生産物の理論収率比)のいずれかの向上が観察されうる。
本発明の酵母は、上記の遺伝子群の他、有用物質の生産に関連する外因性又は内因性の遺伝子が改変されていてもよい。こうした酵母によれば、解糖系の強化によりこうした有用物質の生産もより増強されると考えられる。ここで有用物質とは、ヒトを含む動植物の生存に関し何らかの寄与のある物質であればよい。例えば、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。したがって、本発明の酵母は、これらの各有用物質からなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子の改変を有することができる。
また、本発明の酵母は、酵母における非発酵性糖であるキシロース、マンノースなどの資化能力が付加又は強化されたものであってもよい。本発明の酵母は、グルコース以外の糖を利用する場合の解糖系の能力が増強されているため、非発酵性糖の資化能力が付加又は増強されることで、こうした非発酵性糖による有用物質生産が一層促進されるからである。
酵母におけるこれらの遺伝子に関する改変としては、これらの遺伝子の発現の増強又は抑制が挙げられる。遺伝子の発現の増強は既に説明したが、遺伝子の発現の抑制の態様としては、正常タンパク質の生産量の抑制、機能しない変異体タンパク質の生産ないし促進が挙げられる。そのための遺伝子操作としては、遺伝子ノックアウト、ノックイン等が挙げられる。
例えば、酵母による乳酸生産に関しては、例えば、特開2003−93060号公報、特開2003−259578号公報、特開2005−137306号公報、特開2006−6271号公報、特開2006−20602号公報、特開2006−42719号公報等が挙げられる。プロパンジオールに関しては、特表平10−507082号公報、特表平11−502718号公報、特表2001−504338号公報、特表2001−514426号公報、特表2007−517517号公報が挙げられる。プロパノールやイソプロパノール生産に関しては、特開2008−70737号公報、国際公開第WO2008/131286号が挙げられる。高級アルコール生産に関しては、国際公開第WO2008/98227号、Atsumi Sらの論文.(Nature. 2008 Jan 3;451(7174):86-9)が挙げられる。なかでも、ブタノール及びイソブタノールの生産については、それぞれ国際公開第WO2008/080124号及び国際公開第WO2009/086423号が挙げられる。コハク酸生産に関しては、Arikawa Yらの論文(J Biosci Bioeng. 1999;87(1):28-36.)が挙げられる。また、さらにグリセロール生産に関しては特表2001−525175号公報が挙げられる。
また、キシロース資化能力は、特殊な酵母(例えば、耐熱性酵母であるハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula poymorpha))が有することが知られているが、一般的な酵母は有していないことが多い。キシロース資化能力を有していない酵母にキシロース資化能力を付与するには、図1に示すように、以下の(1)及び(2)の態様が可能である。
(1)キシロースをキシルロースに異性化するキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする遺伝子を導入する
(2)キシロースをキシリトールに変換するキシロースレダクターゼ(XR)とキシリトールをキシルロースに変換するキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をそれぞれコードする遺伝子を導入する。
キシロース資化能力の付与は、(1)及び(2)のいずれかの方法を用いることもできるし、双方を導入してもよい。余剰のNADHの生成を考慮すると、(1)の態様が好ましい。XIをコードする遺伝子は特に限定しないで、公知の各種XIをコードする遺伝子(以下、XI遺伝子という。)を適宜利用できる。酵母由来のXI遺伝子としては、例えば、Pyromyces E2種が保持するXI遺伝子(GenBank アクセッション番号:AJ249909)が挙げられる。また、(2)の態様にあっては、XRをコードする遺伝子(XR遺伝子)及びXDHをコードする遺伝子(XDH遺伝子)によってキシロース資化能力を付与する場合も、同様に、これらの遺伝子はそれぞれ、動物、植物、真菌(酵母、カビ等)、細菌などいずれの生物に由来するものであってもよいが、酵母での発現を考慮すると真核生物由来であることが好ましく、より好ましくは真菌由来であり、さらに好ましくは酵母由来である。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。これらXR遺伝子及びXDH遺伝子についても、XI遺伝子と同様、公知のアミノ酸配列や塩基配列と一定の関係を有し、XR活性又はXDH活性を有するタンパク質をコードする種々の態様の遺伝子を利用できる。
XI遺伝子、XR遺伝子及びXDH遺伝子は、宿主酵母の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。また、高いキシロース資化能力を発揮するために、例えば、上記(1)及び(2)の各態様においてそれぞれ必要な遺伝子が複数コピー保持されていることが好ましい。コピー数は特に限定しないが、2以上であることが好ましい。
また、酵母にキシロース資化性を付与するにあたっては、キシルロースをペントースリン酸経路(PPP)の非酸化過程で代謝する経路を構成する酵素群(Xylu−PPP資化酵素群)から選択される酵素をコードする遺伝子(Xylu−PPP遺伝子)の発現が増強されていることが好ましい。Xylu−PPP資化酵素群は、キシルロースからペントースリン酸経路の最終化合物であるグリセルアルデヒド−3−リン酸とフルクトース−6−リン酸に至る経路に関与する一連の酵素を含んでいる。かかる酵素群に含まれるのは、キシルロキナーゼ、リブロース5−リン酸エピメラーゼ、リボース5−リン酸イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ及びトランスケトラーゼが挙げられる。Xylu−PPP遺伝子としては、これらをコードする遺伝子であればよく、こうした遺伝子を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましくは、3種以上であり、さらに好ましくは全種(4種類)である。
Xylu−PPP遺伝子のうち、キシルロキナーゼ(XK)遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。また、XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
トランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TAK)遺伝子、リブロース5リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース5リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、ペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができ、これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、酵母由来、より好ましくは宿主酵母と同一の属、さらに好ましくは宿主酵母と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としては、TAL1遺伝子、TKL遺伝子としては、TKL1遺伝子、TKL2遺伝子、RPE遺伝子としては、RPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(Genbank:X83571)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列:)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)が挙げられる。
これら解糖系以外の経路の酵素をコードする各遺伝子についても、解糖系の酵素をコードするHXK遺伝子等と同様、公知のアミノ酸配列や塩基配列と一定の関係を有し、各酵素活性を有するタンパク質をコードする種々の態様の遺伝子を利用できる。
(形質転換酵母の作製)
本発明の形質転換酵母を得るには、これらの各遺伝子(HXK遺伝子、GLK遺伝子、PFK遺伝子、ADH遺伝子)のいずれかを保持する組換えクターを用いて宿主酵母を形質転換する。組換えベクターは、典型的には、上記各遺伝子の発現を目的とした発現ベクターとして各種形態を採ることができる。
組換えベクターは、例えば、これら遺伝子など所望の遺伝子組み換えのためのDNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。プロモーターとしては、既に説明したほか、GALプロモーター等の誘導的プロモーターが挙げられる。このほか、組換えベクターは、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等を備えることができ、これらの要素が必要に応じ適宜選択される。また、組換えベクターが、遺伝子置換、遺伝子破壊等、染色体への所望のDNA断片の組み込みを意図する場合は、染色体上の所定の領域との相同領域を有している。相同領域は、所望のDNA断片を組み込む領域に応じて適宜選択される。本発明で用いる組換えベクター材料としては、商業的に入手可能な酵母発現ベクターから適宜選択して用いることができる。
なお、こうした組換えベクターの作製、組換え体宿主としての酵母等の取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で通常行われているものであり、たとえば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
本発明の形質転換酵母は、上記のような組換えベクターを酵母に導入して作製することができる。ベクターの導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した酵母につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び活性発現による選抜により本発明の形質転換酵母を得ることができる。
(有用物質を製造する方法)
本発明の有用物質の生産方法は、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースからなる群から選択される1種又は2種以上の糖を含む炭素源の存在下、本発明の酵母を用いて発酵する工程を備えることができる。本発明の生産方法によれば、酵母における解糖系が強化されているため、これらの炭素源を利用したとき、糖消費速度、糖からの物質生産速度及び糖からの生産物収率の少なくともいずれかを向上させて、効率的に有用物質を生産することができる。
炭素源としての糖は特に限定しないが、リグノセルロース系バイオマスの分解に伴うものであることが好ましい。リグノセルロース系バイオマスの分解により生成する糖は、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノース等であるが、少なくともグルコース及びキシロースを含んでいることが好ましい。また、さらに、マンノースを含んでいてもよい。なお、通常の酵母はキシロース資化性やアラビノース資化性を有しないため、キシロースを炭素源として利用することを意図する場合には、キシロース資化性又はアラビノース資化性を有する酵母を準備しておく。グルコースの他、マンノース、ガラクトースを通常資化することができる。酵母等に対するアラビノース代謝経路の導入例として国際公開第WO2006/096130号、同第WO2008/122354号、同第WO2009/011591号、特開2004-532008号公報、米国特許出願公開第2004/0132074号明細書が挙げられる。
有用物質としては特に限定しないが、上記のとおり、例えば、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。
発酵工程で用いる酵母は、炭素源に含まれる糖の種類によって適宜選択される。炭素源とし酵母における発酵性糖であるグルコースを利用するときには、通常の酵母でよいが、非発酵性糖であるキシロース等を炭素源として利用する場合には、キシロース資化能力を有するかあるいは付加された酵母を用いる。
発酵工程では、酵母に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
発酵工程の実施により、用いた本発明の形質転換酵母が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。例えば、本発明の形質転換酵母がエタノール生産能力を有している場合には、エタノールが生産され、乳酸を生産可能に改変されている場合には、乳酸等が生産される。発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。なお、以下の実施例で用いる培地を表1にまとめて示す。
(キシロース代謝酵素遺伝子を有する酵母Saccharomyces cerevisiaeの作製)
(1)XK遺伝子導入用ベクター
酵母S. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XK)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXhisHph-HOR7p-ScXKを作製した(図2)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae NBRC304 株由来のXK遺伝子であるXKS1(genebank:X61377)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3U)、及びその下流の約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3D)、並びにマーカーとして、5’側にTDH2プロモーター、3’側にCYC1tターミネーターが付加された、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(hph)遺伝子を含む遺伝子配列が含まれるように構築した。
(2)XI遺伝子導入用ベクター
Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ(XI)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXLG-HOR7p-PsE2XIを作製した(図3)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、Piromyces sp. E2由来のXI遺伝子であるPiXI(Genbank:AJ249909)を含む遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子の5’領域約500bpの遺伝子配列(LEU2U)、及びその下流の約500bpの領域の遺伝子配列(LEU2D)、並びにマーカーとして、5’側にTDH2プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された、アミノグリコシドフォスフォトランスフェラーゼ(G418)遺伝子を含む遺伝子配列が含まれるように構築した。
(3)TAL1、TKL1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を作製した(図4)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1(Genbank:U19102)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子であるTKL1(Genbank:X73224)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、アルコールデヒドロゲナーゼ3(ADH3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3U)、及びその下流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3D)、並びにマーカーとして、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子を含む遺伝子配列(HIS3 marker)が含まれるように構築した。
(4)RPE1、RKI1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を作製した(図5)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子であるRPE1(Genbank:X83571)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(Genbank:Z75003)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換えおよびアルドースレダクターゼ3(GRE3)遺伝子を破壊するための領域として、GRE3遺伝子の上流約1000bpの遺伝子配列(GRE3U)、GRE3遺伝子の3’領域約500bpを含む約800bpの領域の遺伝子配列(GRE3D)、並びにマーカーとして、ロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子を含む遺伝子配列(LEU2 marker)が含まれるように構築した。
(5)XI遺伝子導入用ベクター(マルチコピーインテグレーション)
Piromyces sp. E2由来のXI遺伝子を染色体上に多コピー導入することが可能なベクター、pRS524-HOR7p-PiXIを作製した(図6)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、Piromyces sp. E2由来のXI遺伝子であるPiXIを含む遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、rRNA遺伝子(rDNA)との相同配列であるR45およびR67の遺伝子配列、並びにマーカーとして、プロモーター部分を欠失して発現量を低下させたTRP1d markerの遺伝子配列が含まれるように構築した。R45およびR67の遺伝子配列により、PiXIを含む遺伝子配列が第12番染色体上に多コピー導入される。さらにTRP1d markerは多コピーで染色体上に導入された場合にはじめてマーカーとして機能する。
(6)キシロースを資化することができる酵母株の作製
図2〜図5に示すベクターを用いてキシロースを資化することができる酵母株を作製した。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。まず、図2に示すpXhisHph-HOR7p-ScXKベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、宿主である酵母S. cerevisiae MT8-1株の形質転換を行い、YPD+HYG寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなYPD+HYG寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をIX100株と命名した。つぎに、図3に示すpXLG-HOR7p-PsE2XIベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、IX100株の形質転換を行い、YPD+G418寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなYPD+G418寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をIX200と命名した。
つぎに、図4に示すpXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、IX200株の形質転換を行い、SD-H寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-H寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をIX400株と命名した。つぎに、図5に示すpXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、IX400株の形質転換を行い、SD-L寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-L寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をIX700株と命名した。
(7)XI遺伝子マルチコピーインテグレーション株の作製
図6に示すpRS524-HOR7p-PiXIを制限酵素FseIで消化した断片を用いて、IX700株の形質転換を行い、SD-W寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-W寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をIX700M株と命名した。さらに、IX700M株を、キシロースを炭素源としたSX-HLW寒天培地に塗布し、30℃で48時間培養したところ、菌体の増殖が確認できた。
(9)導入遺伝子の発現量の確認
作製した酵母株における、導入した遺伝子の発現量を以下の方法で定量し、比較した。宿主株であるMT8-1株、IX200株、IX400株およびIX700株を、それぞれSD+all培地、SD-H培地およびSD-HL培地5 mlで30℃、24時間培養した。菌体を回収し、滅菌水で洗浄後、OD600で10の濃度となるように滅菌水で懸濁した懸濁液をそれぞれ600μlずつエッペンチューブに分注し、500×gで2分間遠心して上清を除去した。回収した菌体から、YeaSter RNA Kit(ZYMO RESEARCH)を用いてtotal RNAを抽出した。さらに、抽出液中から残存DNAを除去するために、DNA-Free RNA Kit(ZYMO RESEARCH)を用いてDNAの分解、total RNAの精製を行った。精製したtotal RNA溶液は逆転写反応を行うまで−80℃のディープフリーザで保存した。
各サンプルのtotal RNA濃度を測定し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits(Applied Biosystems)を用いてtotal RNAからの逆転写反応を行った。使用したTotal RNAは0.2μgで、その他の反応液組成は添付のプロトコルに従った。逆転写反応はGeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems)を用い、反応時間及び温度は添付のプロトコルに従って設定し、反応を行った。反応後のサンプルは使用するまで−20℃で保存した。定量する遺伝子は、PiXI、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1、RKI1、GRE3とし、またハウスキーピング遺伝子としてTUB1とUBC6を選択した。Real-time 定量PCR用の反応試薬は、Power SYBR Green PCR Msater Mix(Applied Biosystems)を用い、反応液組成は添付のプロトコルに従った。用いたプライマーの配列(配列番号9〜26)は表2にまとめて示す。
Real-time 定量PCRの解析結果から、各株における各遺伝子の発現量の相対比較を行った(図7)。この際、TUB1遺伝子とUBC6遺伝子を内部コントロールとして用い、サンプル間の発現量比の修正を行った。図7Aおよび図7Bから、XKS1遺伝子およびPiXI遺伝子は、遺伝子を導入した全ての株で発現を確認した。TAL1遺伝子およびTKL1遺伝子はIX400株とIX700株において、MT8-1株やIX200株よりも発現量が向上していることを確認した(図7C、図7D)。さらに、図7E、図7Fから、IX700株ではRPE1遺伝子およびRKI1遺伝子が他の株と比べて高発現していることを確認した。さらに、IX700株ではGRE3遺伝子が発現していないことを確認した(図7G)。
(1)キシロースを炭素源とした増殖試験
IX700株のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。MT8-1株とIX700株をそれぞれSD+all培地およびSD-HL培地5 mlで30℃、24時間培養し、L字型試験管に調製したSX+all培地およびSX-HL培地5 mlに、酵母培養液を終濃度がOD600で0.1となるようにそれぞれ加え、増殖試験を開始した。増殖試験はバイオフォトレコーダーTVS062CA(ADVANTEC)を用いて30℃、70 rpm、好気条件で行った。増殖試験の結果、IX700株はキシロースでの増殖が可能であることを確認した(図8)。しかしその増殖速度は非常に遅く、十分に生育できなかった。
(2)IX700M株のキシロースを炭素源とした増殖試験
IX700M株のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。IX700株とIX700M株をそれぞれSD-HL培地、S X-HLW培地5mlで30℃、24時間培養し、L字型試験管に調製したSX-HL培地、SX-HLW培地5mlに、酵母培養液を終濃度がOD600で0.1となるようにそれぞれ加え、増殖試験を開始した。増殖試験はバイオフォトレコーダーTVS062CA(ADVANTEC)を用いて30℃、70 rpm、好気条件で行った。増殖試験の結果、IX700M株はIX700株と比べてキシロースでの増殖速度が大幅に向上していることを確認した。(図9)。
(3)IX700M株のキシロースを炭素源とした発酵試験
IX700M株はキシロースを炭素源とした好気での増殖能力が優れていたため、IX700M株を用いてキシロースを炭素源としたエタノール発酵を行った。まず、IX700M株をSX-HLW培地5 mlで30℃、24時間培養した。次に、培養液をバッフル付き三角フラスコに調製した新しいSX-HLW培地250 mlに全量添加し、30℃、80 rpmで48時間、好気的に培養を行った。培養後、培養液を1000×gで5分遠心して菌体を回収した。培養液中の基質の持ち込みを抑えるため、回収した菌体を滅菌水で再懸濁し、1000×g、5分遠心を行い菌体を回収した。この洗浄操作は2回行い、洗浄後の菌体を滅菌水に懸濁した。
つぎに、通気口と逆止弁付き排気口を供えた100mlの密封ボトルに、キシロースを5%含む発酵用の培地であるSX5-HLW培地を調製し、発酵培地の最終OD600が10となるように酵母懸濁液を加えて、全量を40 mlに調製した。ボトルの気相を窒素ガスで1分間置換した後、30℃、400 rpmで撹拌しながら発酵を行った。任意の時間でサンプリングを行って発酵培地上清を回収し、またサンプリング毎に気相の窒素ガス置換を行った。回収した発酵培地上清を用いて、液体クロマトグラフィーProminence(島津製作所)により基質および生産物の分析を行った。カラムはShim-pack SPR-Pbカラム(島津製作所)を80度で使用し、検出器は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相は水を用い、流速0.8ml/minで送液した。図10に発酵培地中のキシロースおよび生産物の経時変化を示す。
図10に示すように、時間の経過と共にキシロースが消費され、エタノールが生成したことから、IX700M株はキシロースをエタノールに変換することができることを確認した。
(解糖系遺伝子発現プラスミドの作製)
酵母のキシロース発酵能力を向上させることを目的として、キシロースからエタノールに至る代謝経路(解糖系)上の遺伝子を過剰発現するためのプラスミドを下記の手順で作製した。
酵母菌体内で遺伝子を過剰発現するために、酵母の2μプラスミドpRS436GAP(DDBJ accession No.304862)を用いた。pRS436GAPはマルチクローニングサイトを挟んで転写プロモータおよび転写ターミネータとしてそれぞれS. cerevisiae由来のTDH3プロモータ、CYC1ターミネータをもつ酵母-大腸菌シャトルベクターであり、マルチクローニングサイト内のSacII-XhoIサイトに遺伝子を挿入して各遺伝子を過剰発現した。
S. cerevisiaeの解糖系の24遺伝子(HXK1, HXK2, GLK1, PGI1, PFK1, PFK2, FBP1, FBA1, TPI1, TDH1, TDH3, PGK1, GPM1, ENO1, ENO2, PYK2, CDC19, PDC1, PDC5, PDC6, ADH1, ADH2, ADH4, およびADH5)のコード配列をS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得し、コード配列全長をPCR増幅できるプライマーを設計した。なお、PCR産物のpRS436GAPプラスミドへのクローニングにIn-Fusion 2.0 CF Dry-Down PCR Cloning Kit(Clontech)を用いるために、該キットのプロトコルに従ってpRS436GAPプラスミドのSacIIおよびXhoI末端配列15塩基を上記PCRプライマーの5'末端側にそれぞれ付加した。S. cerevisiae S288C株のゲノムDNAを鋳型とし、各遺伝子断片をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて増幅し、pRS436GAPのSacII-XhoIサイトにそれぞれ挿入した。比較としてPiXI遺伝子の発現ベクターを同様に作製した。各遺伝子が挿入されたpRS436GAPプラスミドは、DNAシークエンシングにより正しい遺伝子が挿入されていることを確認した。
(解糖系遺伝子発現プラスミドのIX700M株への導入)
上記で作製された25種類の発現プラスミドと、コントロールとしてpRS436GAPの空ベクターをそれぞれ約1μg用いてIX700M株の形質転換を行い、各遺伝子の過剰発現ベクターが導入された形質転換体をSX-HLUW寒天培地上で選抜した。
(発酵能力比較(一次スクリーニング))
上記で作製された26種類の形質転換体をそれぞれSX-HLUW培地に接種し、3日間静置培養を行ったものを前培養液とした。次に、5ml のSX-HLUW培地を入れた15 ml容プラスチックチューブに上記の前培養液を0.1 ml接種し、密栓したのち30℃で振とう培養(80 rpm)を行った。培養3日後に培養液を分取し、液体クロマトグラフィーにより基質および生産物の分析を行った。消費キシロース量、エタノール生産量、エタノール収率(理論収率比)を、エタノール生産量順でソートした結果を図11に示す。ADH1、GLK1、PFK2、およびHXK2遺伝子を導入したIX700M株ではコントロールに比べてキシロース消費量とエタノール生産量が増加することが明らかとなった。
(ADH1、PFK2、GLK1過剰発現株のキシロースを炭素源とした発酵試験)
上記実験でエタノール生産量増大促進効果の高かったADH1、PFK2、およびGLK1遺伝子過剰発現株について、100mlの密封ボトルを用いた発酵試験を行った。
IX700M/ADH1、IX700M/PFK2、IX700M/GLK1、IX700M/Control株をSX-HLUW培地5 mlで30℃、24時間培養した。次に、培養液をバッフル付き三角フラスコに調製した新しいSX-HLUW培地250 mlに全量添加し、30℃、80 rpmで48時間、好気的に培養を行った。培養後、培養液を1000×gで5分遠心して菌体を回収した。培養液中の基質の持ち込みを抑えるため、回収した菌体を滅菌水で再懸濁し、1000×g、5分遠心を行い菌体を回収した。この洗浄操作は2回行い、洗浄後の菌体を滅菌水に懸濁した。
つぎに、通気口と逆止弁付き排気口を供えた100mlの密封ボトルに、キシロースを5%含むSX-HLUW培地を調製し、発酵培地の最終OD600が10となるように酵母懸濁液を加えて、全量を40 mlに調製した。ボトルの気相を窒素ガスで1分間置換した後、30℃、100 rpmで撹拌しながら発酵を行った。任意の時間でサンプリングを行って発酵培地上清を回収し、またサンプリング毎に気相の窒素ガス置換を行った。回収した発酵培地上清を用いて、液体クロマトグラフィーProminence(島津製作所)により基質および生産物の分析を行った。カラムはShim-pack SPR-Pbカラム(島津製作所)を80度で使用し、検出器は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相は水を用い、流速0.8ml/minで送液した。図12に72時間後の発酵試験結果を示す。
図12に示すように、ADH1、PFK2、およびGLK1遺伝子過剰発現株でキシロース消費量とエタノール生産量が増大することが確認された。また、ADH1、PFK2遺伝子過剰発現株ではエタノール収率が向上することが明らかとなった。また副産物であるグリセロールの収率(対消費糖収率)はADH1遺伝子過剰発現株で減少した。もう一つの副産物であるキシリトールの収率(対消費糖収率)はADH1、PFK2、およびGLK1遺伝子過剰発現株で減少することが明らかとなった。
(ADH1、GLK1、PFK2、HXK2過剰発現株のグルコース、マンノースを炭素源とした発酵試験)
ADH1やGLK1、PFK2、HXK2は解糖系の酵素もしくはエタノール生産に関連する酵素であるため、各遺伝子の過剰発現が、キシロースだけでなくグルコースやマンノースなどからのエタノール生産にも効果があることが考えられる。そこでADH1、GLK1、PFK2、HXK2過剰発現株のグルコースおよびマンノースでのエタノール生産能力を評価した。
IX700M/ADH1、IX700M/GLK1、 IX700M/PFK2およびIX700M/HXK2株をSX-HLUW培地5 mlで30℃、24時間培養した。次に、培養液をバッフル付き三角フラスコに調製した新しいSX-HLUW培地250 mlに全量添加し、30℃、80 rpmで48時間、好気的に培養を行った。培養後、培養液を1000×gで5分遠心して菌体を回収した。培養液中の基質の持ち込みを抑えるため、回収した菌体を滅菌水で再懸濁し、1000×g、5分遠心を行い菌体を回収した。この洗浄操作は2回行い、洗浄後の菌体を滅菌水に懸濁した。
つぎに、通気口と逆止弁付き排気口を供えた100mlの密封ボトルに、グルコースを5%含むSD-HLUW培地、およびマンノースを5%含むSM-HLUW培地を調製し、発酵培地の最終OD600が10となるように酵母懸濁液を加えて、全量を50 mlに調製した。ボトルの気相を窒素ガスで1分間置換した後、30℃、400 rpmで撹拌しながら発酵を行った。任意の時間でサンプリングを行って発酵培地上清を回収し、またサンプリング毎に気相の窒素ガス置換を行った。回収した発酵培地上清を用いて、液体クロマトグラフィーにより基質および生産物の分析を行った。図13にはグルコース、図14にはマンノースを炭素源とした発酵における、基質の比消費速度の増加率(A)、および発酵24時間目の、副産物であるグリセロール蓄積量の増加率(B)を示す。各値はコントロールを基準とした場合の増減をパーセントで示している。
図13から、GLK1およびHXK2過剰発現株では、コントロール株と比べてグルコースの比消費速度がそれぞれ7.2%、14%向上した。また、ADH1過剰発現株では、グルコース比消費速度の向上は見られなかったが、グリセロールの蓄積量が9.2%減少した。さらに、図14から、ADH1、GLK1、PFK2、HXK2各過剰発現株は、マンノース比消費速度が約7〜30%向上した。特に、GLK1およびHXK2過剰発現株では、それぞれ29.8%、29.1%と大きく向上した。また、グリセロールの蓄積は、ADH1過剰発現株において13.7%減少した。
配列番号9〜26:プライマー

Claims (11)

  1. キシロース資化性を有する酵母であって、
    アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子及びキシロースイソメラーゼをコードする遺伝子の発現が増強され、
    キシルロキナーゼをコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子、リブロース5リン酸エピメラーゼをコードする遺伝子、及びリボース5リン酸ケトイソメラーゼをコードする遺伝子の発現が増強されている、キシロース資化能が増強されている、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)。
  2. 前記トランスアルドラーゼをコードする遺伝子は、トランスアルドラーゼ1遺伝子であり、前記トランスケトラーゼをコードする遺伝子は、トランスケトラーゼ1遺伝子であり、前記リブロース5リン酸エピメラーゼをコードする遺伝子は、リブロース5リン酸エピメラーゼ1遺伝子であり、前記リボース5リン酸ケトイソメラーゼをコードする遺伝子は、リボース5リン酸ケトイソメラーゼ1遺伝子である、請求項1に記載のサッカロマイセス・セレビジエ
  3. さらに、フォスフォフルクトキナーゼをコードする遺伝子の発現が増強されている、請求項1又は2に記載のサッカロマイセス・セレビジエ。
  4. 前記フォスフォフルクトキナーゼ遺伝子は、フォスフォフルクトキナーゼ2遺伝子である、請求項3に記載のサッカロマイセス・セレビジエ。
  5. さらに、グルコキナーゼをコードする遺伝子をコードする遺伝子の発現が増強されている、請求項1〜4のいずれかに記載のサッカロマイセス・セレビジエ。
  6. 前記グルコキナーゼ遺伝子は、グルコキナーゼ1遺伝子である、請求項5に記載の酵母。
  7. 前記酵母は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の酵母。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の酵母を含む、キシロースを含む炭素源を利用して発酵する発酵用材料。
  9. 少なくともキシロースを含む炭素源の存在下、請求項1〜8のいずれかに記載の酵母を用いて発酵する工程、
    を備える、有用物質の生産方法。
  10. 前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレンおよびグリセロールからなる群から選択されるいずれかの発酵産物である、請求項9に記載の生産方法。
  11. 前記有用物質は、エタノールである、請求項10に記載の生産方法。
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