JP2011193788A - 発酵能力が向上された酵母及びその利用 - Google Patents

発酵能力が向上された酵母及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】特定の遺伝子の発現が増強された酵母を提供する。
【解決手段】HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2及びPDA1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されている、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択されるキシロース資化性酵母、および、該酵母を用いたエタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、微生物発酵を用いて物質を製造する技術に関し、より詳しくは、発酵能力が向上した酵母及び当該酵母を用いた有用物質の生産方法等に関する。
近年、石油の代替資源としてバイオマスの利用が検討されている。バイオマスには様々なものが想定されるが、食糧と競合しない安価な原料として、リグノセルロースの使用が求められている。リグノセルロースに含まれる主要な糖はセルロースを構成するグルコースと、ヘミセルロースを構成するキシロースである。またそれら以外にもマンノースやアラビノース、ガラクトースなどの糖が含まれている。
エタノール生産能力に優れる酵母Saccharomyces cerevisiaeなどは、グルコースやマンノース、ガラクトースは使用することができるが、キシロースやアラビノースは使用することができない。したがって、リグノセルロースを原料として高効率にエタノールを生産するためには、キシロースやアラビノースの使用が必要となる。
このような要求を満たすため、嫌気性真菌piromyces E2由来のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする遺伝子をS. cerevisiaeに発現する方法(特許文献1、2)や、キシロース資化性酵母Pichia stipitis由来のキシロースリダクターゼ(XR)及びキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする遺伝子を発現する方法(特許文献3、4)が開発されている。また、XIまたはXR-XDHの働きによりキシロースから生じるキシルロースを速やかに代謝させるために、キシルロースから解糖係に至る代謝系路上の各遺伝子(キシルロキナーゼ(XK)、トランスアルドラーゼ(TAL)、トランスケトラーゼ(TKL)、リブロース−5−リン酸エピメラーゼ(PRE)及びリボース−5−リン酸ケトイソメラーゼ(RKI))を過剰発現することによりキシロースの消費速度が向上することが報告されている(特許文献5、非特許文献1)。さらに、このような株を嫌気条件下で1000時間もの長期間に渡りキシロース培地中で順化培養することにより、さらにキシロース消費速度が向上した変異株が取得されている(非特許文献2)。
別の試みでは、変異育種によりキシロース資化速度が向上した変異株を取得し、親株と比べて変異株において発現量が上昇している遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて網羅的に調べることにより、キシロース消費速度を向上させる遺伝子を同定する試みもなされている(特許文献6、7)。また、S. cerevisiaeの内在性の糖トランスポーターであるHTX4,HTX5,HTX6,HTX7およびGAL2遺伝子の過剰発現によりキシロースの取り込みを促進することにより、キシロース消費速度を向上させようという試みも行われている(非特許文献3,4)。さらに、キシロース資化性のある別種の酵母(特許文献8、非特許文献5)や植物(非特許文献6)由来のキシローストランスポーターをS. cerevisiaeに導入することにより、キシロース発酵性を向上させようという試みも報告されている。また、所望しないキシリトールの生産を触媒する非特異的アルドース還元酵素をコードするGRE3遺伝子を破壊する方法(非特許文献7)やホスファターゼをコードするPHO13遺伝子を破壊する方法(非特許文献8)によりキシロース消費速度を向上する試みもなされている。
特許第4334352号公報 特表2006−525029号公報 特許第3122153号公報 特表平9−505469号公報 特表2008−506383号公報 国際公開第WO2004085627号パンフレット 国際公開第WO2005091733号パンフレット 特表2009−502191号公報
Kuyper M , Hartog MM , Toirkens MJ , Almering MJ , Winkler AA , van Dijken JP , Pronk JT,FEMS Yeast Res,2005年,5巻,399-409頁 Kuyper Marko; Toirkens Maurice J; Diderich Jasper A; Winkler Aaron A; van Dijken Johannes P; Pronk Jack T,FEMS Yeast Res,2005年,5巻,925-934頁 Miroslav Sedlak, Nancy W. Y. Ho,Yeast,2004年,21巻,671-684頁 Tanja Hamacher, Jessica Becker, Mark Gardonyi, Barbel Hahn-Hagerdal and Eckhard Boles,Microbiology,2002年,148巻,2783-2788頁 Thomas WeiersTALl , Cornelis P. Hollenberg & Eckhard Boles,Molecular Microbiology,2002年,31巻,871-883頁 Ronald E. Hector, Nasib Qureshi, Stephen R. Hughes and Michael A. Cotta,Applied Microbiology and Biotechnology,2008年,80巻,675-684頁 K. L. Traff, R. R. Otero Cordero, W. H. van Zyl, and B. Hahn-Hagerdal,Applied and EnvironmenTAL Microbiology,2001年,67巻,5668-5674頁 Jennifer Headman Van Vleeta, b, Thomas W. Jeffriesb, c and Lisbeth Olssona,Metabolic Engineering,2007年,10巻,360-369頁
以上のように、キシロースやアラビノースなどの非発酵性糖の発酵能力を向上させるための試みが各種検討されてきた結果、一定の向上はあった。しかしながら、上記のいずれの方法によっても、未だグルコース等の発酵性糖の利用能力と比べると大きく劣るものであり、さらなる改良が求められていた。特許文献6、7に報告されるDNAマイクロアレイの解析結果によれば、キシロース消費速度の向上した株において、発現量が増加した遺伝子が多数同定されているものの、これらの多数の遺伝子の中でいずれの遺伝子がどれだけキシロースの消費速度を向上させるのか明らかにされていない。そのため、いずれの遺伝子を過剰発現するべきか明らかにされておらず、発酵能力の一層の向上には至っていない。
そこで、本発明は、発酵能力が一層向上した酵母を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、こうした酵母の生産方法を提供することを他の一つの目的とする。
糖からエタノールが生産される直接の経路とは異なる遺伝子の増強は、副産物の生成を増加し、結果としてエタノール生産量を減少するものと考えられていた。そのため、発酵能力の向上の研究ないし改変の対象となるのは、解糖系やペントースリン酸経路を中心とした、糖からエタノールが生産される直接の経路に関連する遺伝子であり、それ以外の経路の遺伝子の強化を評価した研究は未だ報告されていない。本発明者らは、敢えて、糖からエタノールが生産される直接の経路とは関係のない、糖トランスポーター、芳香族アミノ酸合成経路、及び、糖新生経路を含む、酵母中の各遺伝子の強化を網羅的に試みたところ、特定の遺伝子発現を増強することで、グルコースなどの発酵性糖及びキシロースなどの非発酵性糖の利用能力が向上し結果として発酵能力が向上するという知見を得て、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
本発明によれば、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2及びPDA1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されている、キシロース資化性酵母が提供される。本発明の酵母においては、キシロース消費速度、キシロースからの物質生産速度及びキシロースからの生産物収率のいずれかが前記遺伝子の発現の増強により向上されうる。
本発明の酵母は、キシロースイソメラーゼをコードするXI遺伝子、又は、キシロースリダクターゼをコードするXR遺伝子とキシリトールデヒドロゲナーゼをコードするXDH遺伝子が過剰発現されていてもよい。
本発明の酵母は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子を有していてもよい。
本発明の酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される酵母であってもよい。
本発明によれば、有用物質の生産方法において、少なくともキシロースを含有する炭素源の存在下で、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される酵母を用いて発酵する工程を備えていてもよい。
前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレンおよびグリセロールからなる群から選択されるいずれかの発酵産物であってもよい。
本発明によれば、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される1種又は2種以上の酵母を宿主として、キシロース資化性能力を付与する遺伝子で形質転換する工程を有してもよい。
本発明によれば、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される1種又は2種以上の酵母に、キシロース資化性能力を付与する遺伝子で形質転換されるキシロース資化性酵母用宿主を用いてもよい。
酵母のエタノール生産経路とその周辺の経路の遺伝子の概略を示す図である。 S.cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXDI-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を示す図である。 S.cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXEL-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を示す図である。 S.cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XKS1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXIH-HOR7p-XKS1を示す図である。 Piromyces E2由来のXI(PiXI)遺伝子を染色体上に多コピー導入することが可能なベクター、pRS524-HOR7p-PiXIを示す図である。 Real-time定量PCRの解析結果から、各株における各遺伝子の発現量の相対比較を行った図6A〜7Gを示す図である。 酵母菌体内で目的遺伝子を過剰発現するための酵母の2μプラスミドpRS436GAPを示す図である。
本発明はHXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2及びPDA1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された酵母及びその利用に関する。HXT10、HXT11、HXT14は、糖トランスポーターのタンパク質をコードする遺伝子であり、GIT1はグリセロホスホイノシトールとグリセロホスホコリンの細胞膜透過タンパク質をコードする遺伝子であり、RGT2は糖レセプターをコードする遺伝子であり、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5は芳香族アミノ酸合成経路上のそれぞれpentafunctional AROM protein (ARO1)、コリスミ酸ムターゼ(ARO7)、プレフェナート脱水酵素(PHA2)、及びトリプトファンシンターゼ(TRP5)を触媒するタンパク質をコードする遺伝子であり、PYC1、PYC2は糖新生を触媒するタンパク質をコードする遺伝子であり、PDA1はピルビン酸からアセチルCoAを合成するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のE1αサブユニットをコードする遺伝子である。これらの遺伝子の発現を増強することにより、キシロースの消費速度が向上した酵母を得ることができる。本発明によれば、これらの遺伝子の発現の増強により、非発酵性糖であるキシロースの利用能力が向上され発酵能力の高い酵母が提供される。この結果、キシロースから効率的に有用物質を生産できるようになる。
既に説明したように、キシロースの利用能力の向上に関し、糖からエタノールが生産される直接の経路とは異なる遺伝子の増強は、エタノール生産量を減少するものと考えられており、これまで検証されてこなかった。本発明者らは、酵母の遺伝子を網羅的に検討し、糖からエタノールが生産される直接の経路とは関係の無い糖トランスポーター、細胞膜透過型担体タンパク質、糖レセプター、芳香族アミノ酸合成経路、および糖新生経路に関する遺伝子の改変により、キシロースの非発酵性糖の利用能力の向上を図ることができることを見出した。本発明者らが糖の利用能力の向上に関し有用であるとして見出した各遺伝子の増強と酵母による糖の利用能力の向上との関係は今まで全く知られておらず、本発明者らが初めて見出した知見である。
以下、本発明を実施する形態につき詳細に説明する。図1は、酵母における糖(グルコースおよびキシロース)からエタノール生産経路に関連する遺伝子と、その周辺の遺伝子を示す図である。
本発明の酵母において、発現が増強される遺伝子の位置関係を図1に示す。糖トランスポーター(HXT10、HXT11、HXT14)、及び、細胞膜パーミアーゼ(GIT1)は、糖などの細胞膜透過を制御するタンパク質である。また、糖センサー(RGT2)は、細胞外の糖濃度センサーとなるタンパク質である。ヘキソーストランスポーター及び細胞膜パーミアーゼによって細胞内に導入された糖は、グルコースが解糖系、キシロースがペントースリン酸経路に導入される。芳香族アミノ酸合成経路には、ペントースリン酸経路で生合成されたエリトロース4‐リン酸(E4P)からコリスミ酸を経てチロシン(Tyr)やフェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)等の芳香族アミノ酸を生合成する酵素群が含まれる。また、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PYC1、PYC2)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からオキサロ酢酸(OAA)を生合成する酵素である。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDA1)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からアセチルCoAを合成する複合酵素である。
糖トランスポーター(HXT)は、グルコースやキシロース等の糖を細胞内に導入する。酵母のHXTをコードする遺伝子には、一般に、細胞外グルコースを細胞内に導入するHXT1〜17などが存在しているが、細胞外キシロースを細胞内に効率よく導入するためには、HXT9,HXT10,HXT11,HXT14を増強対象とすることが好ましい。より好適には、酵母のHXT10、HXT11、HXT14の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
細胞膜パーミアーゼは、種々の化合物の細胞内への透過を制御する。酵母の細胞膜パーミアーゼをコードする遺伝子の1つにはGIT1が存在しており、GIT1を増強対象とすることが好ましい。酵母のGIT1の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
細胞膜グルコース受容体は、膜貫通型グルコースセンサーとして、グルコースをはじめとするヘキソースを受容し、糖濃度を検出する。酵母の細胞膜グルコース受容体をコードする遺伝子にはRGT2及びSNF3が存在しており、RGT2を増強対象とすることが好ましい。酵母のRGT2の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
芳香族アミノ酸合成経路の酵素群は、エリトロース4‐リン酸(E4P)からの芳香族アミノ酸の生合成を触媒する。一般に、芳香族アミノ酸合成経路遺伝子には、ARO1,ARO2、ARO3、ARO4、ARO7,ARO8,ARO9,TYR1、PHA2、TRP2、TRP3、TRP4、TRP1、TRP3,TRP5などが存在しているが、ARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、TRP5を増強対象とすることが好ましい。より好適には、酵母のARO1、ARO7、PHA2、TRP5の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
ピルビン酸カルボキシラーゼは、解糖系で生合成されたピルビン酸を、解糖系の外でオキサロ酢酸(OAA)に変換する酵素である。一般に、OAAはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PCK1)によってホスホエノールピルビン酸(PEP)に変換され、再び解糖系に戻される。ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子には、PYC1、PYC2が存在しており、増強対象とすることが好ましい。酵母のPYC1、PYC2の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、解糖系で生合成されたピルビン酸を、解糖系の外でアセチルCoA(AcCoA)に変換する複合酵素である。一般に、AcCoAは、TCA回路に導入される。ピルビン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、PDA1、PDB1、LAT1、LPD1、PDX1が存在しており、PDA1を増強対象とすることが好ましい。酵母のPDA1の発現を増強することで、酵母の発酵能力を一層向上させることができる。
こうしたタンパク質、及び酵素をコードする遺伝子は、酵母において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの酵素をコードする遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、宿主となる酵母以外の他の種の酵母、他の属の酵母に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などいずれ酵母以外の生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。例えば、S. cerevisiaeのHXT10遺伝子(アクセッション番号:NC_001138又はP43581)、HXT11遺伝子(アクセッション番号:NC_001147又はP54862)、HXY14遺伝子(アクセッション番号:NC_001146又はP42833)、GIT1遺伝子(アクセッション番号:NC_001135又はP25346)、RGT2遺伝子(アクセッション番号:NC_001136又はQ12300)、ARO1遺伝子(アクセッション番号:NC_001136又はP08566)、ARO7遺伝子(アクセッション番号:NC_001148又はP32178)、PHA2遺伝子(アクセッション番号:NC_001146又はP32452)、TRP5遺伝子(アクセッション番号:NC_001139又はP00931)、PYC1遺伝子(アクセッション番号:NC_001139又はP11154)、PYC2遺伝子(アクセッション番号:NC_001134又はP32327)、PDA1遺伝子(アクセッション番号:NC_001137又はP16387)及びの塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIやS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得することができる。なお、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。
なお、本発明で用いるこれらの遺伝子は、各酵素活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
他の一態様としては、本発明で用いる遺伝子は、開示されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
さらに他の一態様として、開示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち開示される塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、開示される塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有し、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子が挙げられる。
このような遺伝子は、例えば、開示される塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、各種生物から抽出したDNA、各種cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、本発明で増強しようとする酵素をコードする遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
また、遺伝子は、例えば、開示されるアミノ酸の配列をコードするDNAを、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
酵母において、これらのタンパク質をコードする遺伝子の発現が増強されている形態としては特に限定されない。これら遺伝子の発現を増強する改変が行われる前に比べて、これらのタンパク質の生産量や活性の増大、あるいは、後述するように発酵能力の増強が確認されればよい。遺伝子の発現が増強されている態様としては、例えば、内因性のいずれかの遺伝子がより強力なプロモーター(例えば、構成的プロモーター)の制御下に連結された態様が挙げられる。また、追加的に内因性及び/又は外因性のいずれかの遺伝子が導入されている態様が挙げられる。追加的に導入されたいずれかの遺伝子は好ましくは構成的プロモーターなど強力なプロモーターで作動可能に保持されている。
導入される遺伝子は、誘導的プロモーターの制御下に連結されていてもよいが、構成的プロモーターの制御下に連結されていることが好ましい。酵母における構成的プロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)プロモーター、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ3(TDH3)プロモーター、チトクロームbc1コンプレックス(CYC1)プロモーター及び高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)プロモーター及びこれらの改変体が挙げられる。
また、これらの遺伝子のいずれかの遺伝子の発現が増強されている態様としては、いずれかの遺伝子の複数コピーが発現可能に保持されている態様が挙げられる。コピー数は特に限定しないが、2以上であることが好ましい。
酵母においていずれかの酵素又はタンパク質をコードする遺伝子の発現が増強されているかどうかは、形質転換酵母の遺伝子を取得して上記各種態様を保持しているかどうかで検出できるほか、形質転換酵母におけるいずれかの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量、当該タンパク質のmRNA発現量、形質転換酵母が産生したタンパク質の活性等のいずれかが、遺伝子の増強前よりも増加しているかどうかで評価することもできる。増加の程度は、好ましくは、こうした発現量等が発現増強前の10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、一層好ましくは70%以上である。
本発明の酵母は、上記した特定の酵素又はタンパク質群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された結果、発酵能力の増強、すなわちキシロース消費速度(又は一定時間内の糖消費量)、キシロースからの物質生産速(一定時間内の物質生産量)及びキシロースからの生産物収率(一定時間内に得られる生産物の理論収率比)のいずれかの向上が観察されうる。
本発明の酵母は、上記の遺伝子群の他、有用物質の生産に関連する外因性又は内因性の遺伝子が改変されていてもよい。ここで有用物質とは、ヒトを含む動植物の生存に関し何らかの寄与のある物質であればよい。例えば、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。したがって、本発明の酵母は、これらの各有用物質からなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子の改変を有することができる。特に、本発明の酵母が生産する主要な有用物質としては、エタノールであることが好ましい。エタノールは特に燃料として利用可能であり、有用な物質とされているためである。
また、本発明の酵母は、酵母における非発酵性糖であるキシロースの資化能力を付与する遺伝子で形質転換する工程によって作成されることが好ましい。本発明の酵母は、キシロースを利用する場合のキシロースの消費能力が増強されているため、非発酵性糖の資化能力が付加又は増強されることで、こうした非発酵性糖による有用物質生産が一層促進されるからである。また、キシロース資化性能力を付与する遺伝子で形質転換されたキシロース資化性酵母用宿主も、非発酵性糖による有用物質生産が一層促進されるために有用である。
酵母におけるこれらの遺伝子に関する改変としては、これらの遺伝子の発現の増強又は抑制が挙げられる。遺伝子の発現の増強は既に説明したが、遺伝子の発現の抑制の態様としては、正常タンパク質の生産量の抑制、機能しない変異体タンパク質の生産ないし促進が挙げられる。そのための遺伝子操作としては、トランスジェニック、遺伝子ノックアウト、ノックイン等が挙げられる。
また、キシロース資化能力は、ある種の酵母(例えば、ピキア・スピティス(Pichia stipitis))が有することが知られているが、一般的な酵母は有していないことが多い。キシロース資化能力を有していない酵母にキシロース資化能力を付与するには、以下の(1)及び(2)の態様が可能である。
(1)キシロースをキシルロースに異性化するキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする遺伝子を導入する
(2)キシロースをキシリトールに変換するキシロースレダクターゼ(XR)とキシリトールをキシルロースに変換するキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をそれぞれコードする遺伝子を導入する。
キシロース資化能力の付与は、(1)及び(2)のいずれかの方法を用いることもできるし、双方を導入してもよい。余剰のNADHの生成を考慮すると、(1)の態様が好ましい。XIをコードする遺伝子は特に限定しないで、公知の各種XIをコードする遺伝子(以下、XI遺伝子という。)を適宜利用できる。酵母由来のXI遺伝子としては、例えば、Pyromyces E2種が保持するXI遺伝子(GenBank アクセッション番号:AJ249909)が挙げられる。また、(2)の態様にあっては、XRをコードする遺伝子(XR遺伝子)及びXDHをコードする遺伝子(XDH遺伝子)によってキシロース資化能力を付与する場合も、同様に、これらの遺伝子はそれぞれ、動物、植物、真菌(酵母、カビ等)、細菌などいずれの生物に由来するものであってもよいが、酵母での発現を考慮すると真核生物由来であることが好ましく、より好ましくは真菌由来であり、さらに好ましくは酵母由来である。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。これらXR遺伝子及びXDH遺伝子についても、XI遺伝子と同様、公知のアミノ酸配列や塩基配列と一定の関係を有し、XR活性又はXDH活性を有するタンパク質をコードする種々の態様の遺伝子を利用できる。
XI遺伝子、XR遺伝子及びXDH遺伝子は、宿主酵母の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。また、高いキシロース資化能力を発揮するために、例えば、上記(1)及び(2)の各態様においてそれぞれ必要な遺伝子が複数コピー保持されていることが好ましい。コピー数は特に限定しないが、2以上であることが好ましい。
また、酵母にキシロース資化性を付与するにあたっては、キシルロースをペントースリン酸経路(PPP)の非酸化過程で代謝する経路を構成する酵素群(Xylu−PPP資化酵素群)から選択される酵素をコードする遺伝子(Xylu−PPP遺伝子)の発現が増強されていることが好ましい。Xylu−PPP資化酵素群は、キシルロースからペントースリン酸経路の最終化合物であるグリセルアルデヒド−3−リン酸とフルクトース−6−リン酸に至る経路に関与する一連の酵素を含んでいる。かかる酵素群に含まれるのは、キシルロキナーゼ、リブロース5−リン酸エピメラーゼ、リボース5−リン酸イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ及びトランスケトラーゼが挙げられる。Xylu−PPP遺伝子としては、これらをコードする遺伝子であればよく、こうした遺伝子を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましくは、3種以上であり、より好ましくは4種以上であり、さらに好ましくは全種(5種類)である。
Xylu−PPP遺伝子のうち、キシルロキナーゼ(XK)遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。また、XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
トランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TAK)遺伝子、リブロース5リン酸エピメラーゼ(PRE)遺伝子、リボース5リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、ペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができ、これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、酵母由来、より好ましくは宿主酵母と同一の属、さらに好ましくは宿主酵母と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としては、TAL1遺伝子、TKL遺伝子としては、TKL1遺伝子、TKL2遺伝子、PRE遺伝子としては、PRE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のPRE1遺伝子(Genbank:X83571)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)が挙げられる。
これらの酵素をコードする各遺伝子についても、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2及びPDA1をコードする遺伝子等と同様、公知のアミノ酸配列や塩基配列と一定の関係を有し、各酵素活性を有するタンパク質をコードする種々の態様の遺伝子を利用できる。
(形質転換酵母の作製)
本発明の形質転換酵母を得るには、これらの各遺伝子(HXT10遺伝子、HXT11遺伝子、HXT14遺伝子、GIT1遺伝子、RGT2遺伝子、ARO1遺伝子、ARO7遺伝子、PHA2遺伝子、TRP5遺伝子、PYC1遺伝子、PYC2遺伝子、PDA1遺伝子)のいずれかを保持する組換えベクターを用いて宿主酵母を形質転換する。組換えベクターは、典型的には、上記各遺伝子の発現を目的とした発現ベクターとして各種形態を採ることができる。
組換えベクターは、例えば、これら遺伝子など所望の遺伝子組み換えのためのDNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。プロモーターとしては、既に説明したほか、GALプロモーター等の誘導的プロモーターが挙げられる。このほか、組換えベクターは、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等を備えることができ、これらの要素が必要に応じ適宜選択される。また、組換えベクターが、遺伝子置換、遺伝子破壊等、染色体への所望のDNA断片の組み込みを意図する場合は、染色体上の所定の領域との相同領域を有している。相同領域は、所望のDNA断片を組み込む領域に応じて適宜選択される。本発明で用いる組換えベクター材料としては、商業的に入手可能な酵母発現ベクターから適宜選択して用いることができる。
なお、こうした組換えベクターの作製、組換え体宿主としての酵母等の取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で通常行われているものであり、たとえば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
本発明の形質転換酵母は、上記のような組換えベクターを酵母に導入して作製することができる。ベクターの導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した酵母につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び活性発現による選抜により本発明の形質転換酵母を得ることができる。
(有用物質を製造する方法)
本発明の有用物質の生産方法は、少なくともキシロースを含む炭素源の存在下、本発明の酵母を用いて発酵する工程を備えることができる。本発明の有用物質の生産方法によれば、酵母におけるキシロースの利用能力が強化されているため、これらの炭素源を利用したとき、キシロース消費速度、キシロースからの物質生産速度及びキシロースからの生産物収率の少なくともいずれかを向上させて、効率的に有用物質を生産することができる。
炭素源としての糖は特に限定しないが、リグノセルロース系バイオマスの分解に伴うものであることが好ましい。リグノセルロース系バイオマスの分解により生成する糖は、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノース等であるが、少なくともキシロースを含んでいることが好ましい。なお、通常の酵母はキシロース資化性を有しないため、キシロースを炭素源として利用することを意図する場合には、キシロース資化性を有する酵母を準備しておく。
有用物質としては特に限定しないが、上記のとおり、例えば、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。特に、エタノールが有用物質として得られることが好ましい。
発酵工程で用いる酵母は、炭素源の種類によって適宜選択される。例えば、酵母としてはSaccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される酵母を用いることができる。一般に、炭素源として酵母における発酵性糖であるグルコースを利用するときには、通常の酵母でよいが、非発酵性糖であるキシロースを炭素源として利用する場合には、キシロース資化能力を有するかあるいは付加された酵母を用いる。
発酵工程では、酵母に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
発酵工程の実施により、用いた本発明の形質転換酵母が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。例えば、本発明の形質転換酵母がエタノール生産能力を有している場合には、エタノールが生産される。発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, eTAL., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
(キシロース代謝酵素遺伝子を有する酵母Saccharomyces cerevisiaeの作製)
(1)TAL1、TKL1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXDI-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を作製した(図2)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子(GenBank Accession:X15953)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、アルコールデヒドロゲナーゼ3(ADH3)遺伝子上流の非コード領域約500bpの領域のDNA配列(ADH3U)、及びその下流の非コード領域約500bpの領域のDNA配列(ADH3D)、並びにマーカーとして、ヒスチジン合成酵素遺伝子HIS3を含む遺伝子配列(HIS3)が含まれるように構築した。
(2)RPE1、RKI1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXEL-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を作製した(図3)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(GenBank:X83571)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換えおよびアルドースレダクターゼ(GRE3)遺伝子を破壊するための領域として、GRE3遺伝子の上流約1000bpの遺伝子配列(GRE3D)、GRE3遺伝子の3’領域約500bpを含む約800bpの領域の遺伝子配列(GRE3U)、並びにマーカーとして、ロイシン合成酵素遺伝子LEU2を含む遺伝子配列(LEU2)が含まれるように構築した。
(3)XKS1遺伝子導入用ベクター
酵母S. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XKS1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXIH-HOR7p-XKS1を作製した(図4)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288株由来のXKS1遺伝子(GeneBank:Z72979)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3U)、及びその下流の約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3D)、並びにマーカーとして、5’側にTDH2プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(hph)遺伝子(GeneBank:V01499)を含む遺伝子配列が含まれるように構築した。
(4)PiXI遺伝子導入用ベクター(マルチコピーインテグレーション)
Piromyces sp. E2由来のXI遺伝子(PiXI)を染色体上に多コピー導入することが可能なベクター、pRS524-HOR7p-PiXIを作製した(図5)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加されたPiXI遺伝子(GenBank:AJ249909)を含む遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、rRNA遺伝子(rDNA)との相同配列であるR45およびR67の遺伝子配列、並びにマーカーとして、プロモーター部分を欠失して発現量を低下させたTRP1d マーカーの遺伝子配列が含まれるように構築した。R45およびR67の遺伝子配列により、PiXIを含む遺伝子配列が第12番染色体上のrDNA座に多コピー導入される。さらにTRP1d マーカーは多コピーで染色体上に導入された場合にはじめてマーカーとして機能するため、多コピー導入が可能である。
(5)キシロースを資化することができる酵母株の作製
図2〜図5に示すベクターを用いてキシロースを資化することができる酵母株を作製した。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。表1は、用いた培地の組成を示す。
Figure 2011193788
まず、S. cerevisiae S288 株由来のゲノムDNAをテンプレートとしてADE2遺伝子(GenBank:M59824)の全長をPCR増幅し、増幅産物を用いて酵母S. cerevisiae W303-1B株(Matα ade2 his3 leu2 trp1 ura3)の形質転換を行い、SD-A寒天培地に塗布して、生育したコロニーを新たなSD-A寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化されてアデニン要求性が相補された選択株をW303-1BA株と命名した。ADE2遺伝子のPCR増幅にはプライマーADE2+1F (5' - atggattctagaacagttggtatattagg -3') (配列番号1)とADE2+1716R (5'- ttacttgttttctagataagcttcgtaacc -3') (配列番号2)を用いた。
次に、図2に示すpXDI-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1ベクター約1μgを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、宿主である酵母S. cerevisiae W303-1BA株の形質転換を行い、SD-AH寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-AH寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW200株と命名した。
次に、図3に示すpXEL-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1ベクター約1μgを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、W200株の形質転換を行い、SD-AHL寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-AHL寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW500と命名した。
次に、図4に示すpXIH-HOR7p-XKS1ベクター約1μgを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、W500株の形質転換を行い、150 μg/mlのハイグロマイシンB(和光純薬)を含むYPD寒天培地(YPD+hyg)に塗布し、生育したコロニーを新たなYPD+hyg寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW600株と命名した。
次に、図5に示すpRS524-HOR7p-PiXI約1μgを制限酵素FseIで消化した断片を用いて、W600株の形質転換を行い、SD-AHLW寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-AHLW寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW700M2株と命名した。さらに、W700M2株を、キシロースを炭素源としたSX-AHLW寒天培地に塗布し、30℃で48時間培養したところ、菌体の増殖が確認できた。
(6)導入遺伝子の発現量の確認
作製した酵母株における、導入した遺伝子の発現量を以下の方法で定量し、比較した。宿主株であるW303-1B株、W200株、W500株、W600株およびW700M2株を、それぞれSD+all培地、SD-AH培地、SD-AHL培地、SD-AHL培地およびSD-AHLW培地5 mlで30℃、24時間培養した。菌体を回収し、滅菌水で洗浄後、OD600で10の濃度となるように滅菌水で懸濁した懸濁液をそれぞれ600μlずつエッペンチューブに分注し、500×gで2分間遠心して上清を除去した。回収した菌体から、YeaSter RNA Kit(ZYMO RESEARCH)を用いてtotal RNAを抽出した。さらに、抽出液中から残存DNAを除去するために、DNA-Free RNA Kit(ZYMO RESEARCH)を用いてDNAの分解、total RNAの精製を行った。精製したtotal RNA溶液は逆転写反応を行うまで−80℃のディープフリーザで保存した。
各サンプルのtotal RNA濃度を測定し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits(Applied Biosystems)を用いてtotal RNAからの逆転写反応を行った。使用したTotal RNAは0.2μgで、その他の反応液組成は添付のプロトコルに従った。逆転写反応はGeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems)を用い、反応時間及び温度は添付のプロトコルに従って設定し、反応を行った。反応後のサンプルは使用するまで−20℃で保存した。定量する遺伝子は、PiXI、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1、RKI1、GRE3とし、また対照とするハウスキーピング遺伝子としてTUB1とUBC6を選択した。Real-time 定量PCR用の反応試薬は、Power SYBR Green PCR Msater Mix(Applied Biosystems)を用い、反応液組成は添付のプロトコルに従った。表2は、用いたプライマーの配列を示す(配列番号3〜20)。
Figure 2011193788
Real-time 定量PCRの解析結果から、各株における各遺伝子の発現量の相対比較を行った(図6)。この際、TUB1遺伝子とUBC6遺伝子を内部コントロールとして用い、サンプル間の発現量比の修正を行った。図6Aおよび図6Bに示すように、W200株において、TKL1遺伝子およびTAL1遺伝子は、親株のW303-1B株に比べて高発現していることを確認した。次に、図6Cおよび図6Dに示すように、W500株において、RKI1遺伝子およびRPE1遺伝子は、W200株よりも発現量が向上していることを確認した。さらに、図6Eに示すように、W500株ではGRE3遺伝子が発現していないことを確認した。また、図6Fに示すように、W600株およびW700M2株ではXKS1遺伝子が発現していることを確認した。さらに、図6Gに示すように、W700M2株ではPiXI遺伝子が高発現していることを確認した。
(遺伝子過剰発現プラスミドの作製)
酵母のキシロース発酵能力を向上させることを目的として、キシロースからエタノールに至る代謝経路の周辺に位置する代謝経路上の遺伝子(図1)を過剰発現するためのプラスミドを下記の手順で作製した。
酵母菌体内で目的遺伝子を過剰発現するために、酵母の2μプラスミドpRS436GAP(DDBJ accession No.304862)を用いた(図7)。pRS436GAPはマルチクローニングサイトを挟んで転写プロモータおよび転写ターミネータとしてそれぞれS. cerevisiae由来のTDH3プロモータ、CYC1ターミネータをもち、酵母用選抜マーカーとしてURA3遺伝子をもつ酵母-大腸菌シャトルベクターであり、マルチクローニングサイト内のSacII-XhoIサイトに遺伝子を挿入して各遺伝子を過剰発現した。
(過剰発現プラスミドの作製)
S. cerevisiaeの15遺伝子(HXT9、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2、及びPDA1)のコード配列をS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得し、コード配列全長をPCR増幅できるプライマー(表3)を設計した(配列番号21〜50)。なお、PCR産物のpRS436GAPプラスミドへのクローニングに、In-Fusion Advantage PCRクローニングキット(Clontech/タカラバイオ)を用いるために、該キットのプロトコルに従ってpRS436GAPプラスミドのSacIIおよびXhoI末端配列15塩基を上記PCRプライマーの5'末端側にそれぞれ付加した。S. cerevisiae S288C株のゲノムDNAを鋳型とし、各遺伝子断片をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて増幅し、pRS436GAPのSacII-XhoIサイトにそれぞれ挿入した。各遺伝子が挿入されたpRS436GAPプラスミドは、DNAシークエンシングにより正しい遺伝子が挿入されていることを確認した。
Figure 2011193788
(過剰発現プラスミドのW700M2株への導入)
上記で作製された15種類の発現プラスミドと、コントロールとしてpRS436GAPの空ベクター(ベクターコントロール;VC)をそれぞれ約1μg用いてW700M2株の形質転換を行い、各遺伝子の過剰発現ベクターが導入された形質転換体をSD-all寒天培地上で選抜した。
(グルコースとキシロースの混合培地中での発酵能力比較)
上記で作製された15種類の形質転換体とベクターコントロール(VC)をそれぞれSD-all培地に接種し、3日間静置培養を行ったものを前培養液とした。次に、5ml のSDX-all培地を入れたスクリューキャップ付き15 ml容プラスチックチューブに上記の前培養液を0.1 ml接種し、密栓したのち30℃で振とう培養(100 rpm)を行った。培養6日後に培養液を分取し、液体クロマトグラフィーにより基質(キシロースおよびグルコース)および生産物(エタノール)の分析を行った。液体クロマトグラフィーのカラムはShim-pack SPR-Pbカラム(島津製作所)を80℃で使用し、検出器は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相には水を用い、流速0.8ml/minで送液した。発酵試験は2回以上実施し、平均値を用いて評価した。
Figure 2011193788
(糖トランスポーターおよび糖レセプターの過剰発現プラスミドを導入したW700M2株の発酵能力比較)
表4は、糖トランスポーター及び糖レセプター遺伝子(HXT9、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2)をそれぞれ導入したW700M2株のキシロース消費量(g/l)、空ベクターを導入したコントロール株(VC)に対するキシロース消費向上率(%)、エタノール生産量(g/l)、コントロールに対するエタノール生産向上率(%)を、キシロース消費量順でソートした結果を示す。HXT9、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2を過剰発現したいずれのW700M2株も、コントロール株(VC)に比べてキシロース消費量とエタノール生産量が増加することが明らかとなった。特に、エタノール生産量向上率においては、HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2の発現の増強が、エタノールの生産量を5%以上向上することが示された。
Figure 2011193788
(芳香族アミノ酸合成経路遺伝子の過剰発現プラスミドを導入したW700M2株の発酵能力比較)
表5は、芳香族アミノ酸合成経路における遺伝子(ARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、およびTRP5)をそれぞれ導入したW700M2株の消費キシロース消費量(g/l)、空ベクターを導入したコントロール株(VC)に対するキシロース消費向上率(%)、エタノール生産量(g/l)、および、コントロール株に対するエタノール生産向上率(%)の平均値を、キシロース消費量順でソートした結果を示す。ARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、およびTRP5を過剰発現したいずれのW700M2株も、コントロール株(VC)に比べてキシロース消費量とエタノール生産量が増加した。特に、エタノール生産量向上率においては、ARO1、ARO7、TRP5、PHA2の発現の増強が、エタノールの生産量を5%以上向上することが示された。また、TRP5、PHA2の発現の増強に至っては、エタノールの生産量を10%以上向上することが示された。
Figure 2011193788
(解糖系周辺の遺伝子の過剰発現プラスミドを導入したW700M2株の発酵能力比較)
表6は、解糖系周辺における遺伝子(PYC1、PYC2、PDA1)をそれぞれ導入したW700M2株のキシロース消費量(g/l)、空ベクターを導入したコントロール株(VC)に対するキシロース消費向上率(%)、エタノール生産量(g/l)、および、コントロール株に対するエタノール生産向上率(%)を、キシロース消費量順でソートした結果を示す。PYC1、PYC2、PDA1の発現を増強したいずれのW700M2株も、コントロール株(VC)に比べてキシロース消費量とエタノール生産量が増加した。また、エタノール生産量向上率においても、PYC1、PYC2、PDA1の発現の増強が、エタノールの生産量を5%以上向上することが示された。特に、PYC2の発現の増強に至っては、エタノールの生産量を10%以上向上することが示された。
上記のキシロース資化性酵母によれば、キシロースからエタノールを効率よく生産することができる。また、キシロース資化性酵母のHXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2、及び、PDA1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を増強することによって、キシロース消費量もしくはエタノール生産量を向上することができる。
配列番号1〜50:プライマー

Claims (10)

  1. HXT10、HXT11、HXT14、GIT1、RGT2、ARO1、ARO7、PHA2、TRP5、PYC1、PYC2及びPDA1からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されている、キシロース資化性酵母。
  2. キシロース消費速度、キシロースからの物質生産速度及びキシロースからの生産物収率のいずれかが前記遺伝子の発現の増強により向上している、請求項1に記載の酵母。
  3. キシロースイソメラーゼをコードするXI遺伝子、又は、キシロースリダクターゼをコードするXR遺伝子とキシリトールデヒドロゲナーゼをコードするXDH遺伝子が過剰発現されている、請求項1又は2に記載の酵母。
  4. 前記酵母は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上の物質の生産に関する外因性又は内因性の遺伝子を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の酵母。
  5. 前記酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の酵母。
  6. 少なくともキシロースを含有する炭素源の存在下、請求項1〜5のいずれかに記載の酵母を用いて発酵する工程を備える、有用物質の生産方法。
  7. 前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、コハク酸、エチレンおよびグリセロールからなる群から選択されるいずれかの発酵産物である、請求項6に記載の生産方法。
  8. 前記有用物質は、エタノールである、請求項7に記載の生産方法。
  9. Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される1種又は2種以上の酵母を宿主として、キシロース資化性能力を付与する遺伝子で形質転換する工程を有する、キシロース資化性酵母の作成方法。
  10. Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Kloeckera、Schwanniomyces及びYarrowiaからなる群から選択される1種又は2種以上の酵母に、キシロース資化性能力を付与する遺伝子で形質転換される、キシロース資化性酵母用宿主。
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