図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。図1に示すように、ハイブリッド車両は、エンジンからなる内燃機関ENG、電動機(モータ)MG、モータMGと電力を授受する二次電池からなる蓄電池BATT、自動変速機31、車両の走行速度を減速させるメカブレーキ(制動装置)BRK、及びエンジンENG、モータMG、自動変速機31、メカブレーキBRKの各部を制御する電子制御装置ECU(Electronic Control Unit)21を備える。
ECU21は、各種演算処理を実行するCPU21aとこのCPU21aで実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果などを記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)21bとを備え、各種電気信号を入力すると共に、演算結果などに基づいて駆動信号を外部に出力する。
本実施形態では、ECU21のCPU21aが、本発明における制御手段21a1として機能する。
ECU21には、アクセルペダル(図示省略)の操作量を検知するアクセル開度センサ22の出力信号が供給される。
メカブレーキBRKは、油圧で動作する油圧式ブレーキで構成され、ブレーキペダル(図示省略)の操作量に応じて当該車両の制動を行なう。メカブレーキBRKが発生する制動力は、ECU21によって制御されている。
メカブレーキBRKは、油圧式ブレーキに限らず、ディスクブレーキなど、制動力を制御することができる装置であればよい。
尚、ロック機構R1は、シンクロメッシュ機構に限らず、スリーブ等による摩擦係合解除機構の他、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ等のブレーキや、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチなどで構成してもよい。
自動変速機31は、エンジンENGの駆動力(出力トルク)が伝達されるエンジン出力軸32と、図外のディファレンシャルギヤを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギヤからなる出力部材33と、変速比の異なる複数のギヤ列G2〜G5とを備える。
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギヤ列G3,G5の駆動ギヤG3a,G5aを回転自在に軸支する第1入力軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギヤ列G2,G4の駆動ギヤG2a,G4aを回転自在に軸支する第2入力軸35と、リバースギヤGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1入力軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2入力軸35及びリバース軸36は第1入力軸34と平行に配置されている。
また、自動変速機31は、第1入力軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギヤGiaと、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギヤGiaに噛合する第1アイドル従動ギヤGibと、第2入力軸35に固定された第2アイドル従動ギヤGicと、リバース軸36に固定され第1アイドル駆動ギヤGibに噛合する第3アイドル従動ギヤGidとで構成されるアイドルギヤ列Giを備える。尚、アイドル軸37は第1入力軸34と平行に配置されている。
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチC1及び第2クラッチC2を備える。第1クラッチC1は、エンジン出力軸32に伝達されたエンジンENGの駆動力を第1入力軸34に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2は、エンジン出力軸32に伝達されたエンジンENGの駆動力を第2入力軸35に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2を締結させて伝達状態とすると、エンジン出力軸32は第1アイドル駆動ギヤGib及び第2アイドル駆動ギヤGicを介して第2入力軸35に連結される。
両クラッチC1,C2は、素早く状態が切り換えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチC1,C2は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、差動回転機構である遊星歯車機構PGが配置されている。遊星歯車機構PGは、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
遊星歯車機構PGのサンギヤSa、キャリアCa、リングギヤRaからなる3つの回転要素を、速度線図(各回転要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる図)におけるギヤ比に対応する間隔での並び順にサンギヤSa側からそれぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素とすると、第1回転要素はサンギヤSa、第2回転要素はキャリアCa、第3回転要素はリングギヤRaとなる。
そして、遊星歯車機構PGのギヤ比(リングギヤRaの歯数/サンギヤSaの歯数)をgとして、第1回転要素たるサンギヤSaと第2回転要素たるキャリアCaの間の間隔と、第2回転要素たるキャリアCaと第3回転要素たるリングギヤRaの間の間隔との比が、g:1となる。
第1回転要素たるサンギヤSaは、第1入力軸34に固定されている。第2回転要素たるキャリアCaは、3速ギヤ列G3の3速駆動ギヤG3aに連結されている。第3回転要素たるリングギヤRaは、ロック機構R1により変速機ケース等の不動部に解除自在に固定される。
ロック機構R1は、リングギヤRaが不動部に固定される固定状態、又はリングギヤRaが回転自在な開放状態の何れかの状態に切換自在なシンクロメッシュ機構で構成されている。
尚、ロック機構R1は、シンクロメッシュ機構に限らず、スリーブ等による摩擦係合解除機構の他、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ等のブレーキや、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチなどで構成してもよい。また、遊星歯車機構PGは、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合し一方がサンギヤ、他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンPa、Pa’を自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギヤ(第1回転要素)を第1入力軸34に固定し、リングギヤ(第2回転要素)を3速ギヤ列G3の3速駆動ギヤG3aに連結し、キャリア(第3回転要素)をロック機構R1で不動部に解除自在に固定するように構成すればよい。
遊星歯車機構PGの径方向外方には、中空のモータMGが配置されている。換言すれば、遊星歯車機構PGは、中空のモータMGの内方に配置されている。モータMGは、ステータMGaとロータMGbとを備える。
また、モータMGは、ECU21の指示信号に基づき、パワードライブユニットPDUを介して制御される。ECU21は、パワードライブユニットPDUを、蓄電池BATTの電力を消費してモータMGを駆動させる駆動状態と、ロータMGbの回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニットPDUを介して蓄電池BATTに充電する回生状態とに適宜切り換える。
出力部材33を軸支する出力軸33aには、2速駆動ギヤG2a及び3速駆動ギヤG3aに噛合する第1従動ギヤGo1が固定されている。出力軸33aには、4速駆動ギヤG4a及び5速駆動ギヤG5aに噛合する第2従動ギヤGo2が固定されている。
このように、2速ギヤ列G2と3速ギヤ列G3の従動ギヤ、及び4速ギヤ列G4と5速ギヤ列G5の従動ギヤとをそれぞれ1つのギヤGo1,Go2で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
また、第1入力軸34には、リバースギヤGRに噛合するリバース従動ギヤGRaが固定されている。
第1入力軸34には、シンクロメッシュ機構で構成され、3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、3速駆動ギヤG3a及び5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第1選択手段である第1噛合機構SM1が設けられている。
第2入力軸35には、シンクロメッシュ機構で構成され、2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結した2速側連結状態、4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結した4速側連結状態、2速駆動ギヤG2a及び4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第2選択手段である第2噛合機構SM2が設けられている。
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギヤGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第3噛合機構SM3が設けられている。
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
自動変速機31では、第1クラッチC1を係合させることにより、モータMGの駆動力を用いてエンジンENGを始動させるIMA始動を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構R1により遊星歯車機構PGのリングギヤRaを固定状態とし、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。
エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34を介して、遊星歯車機構PGのサンギヤSaに入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジンENGの回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリアCaを介し3速駆動ギヤG3aに伝達される。
3速駆動ギヤG3aに伝達された駆動力は、3速駆動ギヤG3a及び第1従動ギヤGo1で構成される3速ギヤ列G3のギヤ比(3速駆動ギヤG3aの歯数/第1従動ギヤGo1の歯数)をiとして、1/i(g+1)に変速されて第1従動ギヤGo1及び出力軸33aを介し出力部材33から出力され、1速段が確立される。
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構PG及び3速ギヤ列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ蓄電池BATTの残容量(充電率)SOCに応じて、ECU21は、モータMGでブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、蓄電池BATTの残容量SOCに応じて、モータMGを駆動させて、エンジンENGの駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又はモータMGの駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、モータMGの駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジンENGを始動させることができる。
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることをECU21が車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報から予測した場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
エンジンENGの駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結して伝達状態とする。これにより、エンジンENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、第2入力軸35、2速ギヤ列G2及び出力軸33aを介して、出力部材33から出力される。
尚、2速段において、ECU21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
逆に、ECU21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を、第3駆動ギヤG3a及び第5駆動ギヤG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチC1を伝達状態とし、第2クラッチC2を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り換えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、蓄電池BATTの残容量SOCに応じて、ECU21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構SM1が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
第1噛合機構SM1が3速側連結状態である場合には、第2駆動ギヤG2aで回転される第1従動ギヤGo1によって回転する第3駆動ギヤG3aが第1入力軸34を介してモータMGのロータMGbを回転させるため、このロータMGbの回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
第1噛合機構SM1がニュートラル状態である場合には、ロック機構R1を固定状態とすることによりリングギヤRaの回転数を「0」とし、第1従動ギヤGo1に噛合する3速駆動ギヤG3aと共に回転するキャリアCaの回転数を、サンギヤSaに連結させたモータMGにより発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構R1を開放状態とすることにより遊星歯車機構PGを各回転要素が相対回転不能な状態とし、モータMGの駆動力を3速ギヤ列G3を介して出力部材33に伝達することにより行うことができる。あるいは、第1噛合機構SM1をニュートラル状態として、ロック機構R1を固定状態としてリングギヤRaの回転数を「0」とし、モータMGの駆動力を1速段の経路で第1従動ギヤGo1に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。これにより、エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34、第1噛合機構SM1、3速ギヤ列G3を介して、出力部材33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
3速段においては、第1噛合機構SM1が3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構PGのサンギヤSaとキャリアCaとが同一回転となる。
従って、遊星歯車機構PGの各回転要素が相対回転不能な状態となり、モータMGでサンギヤSaにブレーキをかければ減速回生となり、モータMGでサンギヤSaに駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。また、第1クラッチC1を開放して、モータMGの駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
3速段において、ECU21は、車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
これにより、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とし、第1クラッチC1を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切換えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。
4速段で走行中は、ECU21が車両情報からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
逆に、ECU21が車両情報からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプリシフト状態とする。これにより、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とし、第2クラッチC2を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、動力伝達装置ECU21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態とし、モータMGでブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。
ECU21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、モータMGによりブレーキをかければ減速回生、モータMGから駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチC1が伝達状態とされることによりエンジンENGとモータMGとが直結された状態となるため、モータMGから駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、モータMGでブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチC1を開放状態とすればよい。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、エンジンENGの始動を行うこともできる。
ECU21は、5速段で走行中に車両情報から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。これにより、4速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて後進段を確立する場合には、ロック機構R1を固定状態とし、第3噛合機構SM3をリバースギヤGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、リバースギヤGR、リバース従動ギヤGRa、サンギヤSa、キャリアCa、3速ギヤ列G3及び出力軸33aを介して後進方向の回転として、出力部材33から出力され、後進段が確立される。
図2は、蓄電池BATTのSOCに基づき、最大蓄電量を複数の領域(ゾーン)に分割した例を示す。
各領域は、具体的には、通常の使用領域であり基準領域となるAゾーン、Aゾーンより蓄電池BATTのSOCが小さく放電が一部制限される放電一部制限領域であるBゾーン、Bゾーンより更に蓄電池BATTのSOCが小さく放電が制限される放電制限領域であるCゾーン、及び、Aゾーンより蓄電池BATTのSOCが大きく充電が制限される充電制限領域であるDゾーンに区分されている。
温度によって充放電の特性が変化するため、最大蓄電量をSOCの他に、温度を加味して分割してもよい。
Aゾーンは、更に、蓄電池BATTのSOCが最適な中間領域AゾーンM、AゾーンMより蓄電池BATTのSOCが小さいAゾーンL、及び、AゾーンMより蓄電池BATTのSOCが大きいAゾーンHに区分されている。
図3に示すように、ECU21は、これらの領域に基づいて減速時の回生動作を許可又は制限する。回生動作は、CゾーンからAゾーンHまでは許可され、Dゾーンでは制限付きで実行される。回生動作により蓄電池BATTが充電されるため、Dゾーン以外ではSOCの低下を抑制するために充電を行なう。
Dゾーンのときは、蓄電池BATTの充電を行なわないようにするため、原則として回生動作を禁止するが、後述のように、回生制動の制動力Tmgが回生制動の上限として設定された制動力Tmgmaxを超えたときには、例外的に、回生動作を行なわせる場合がある。
当該車両は、ECU21の制御手段21a1の制御によって、メカブレーキBRKによる制動、エンジンENGが始動しているときに第1クラッチC1又は第2クラッチC2を締結することで発生する回転抵抗(以下、「エンジンブレーキ」という)による制動、及び上述したモータMGの発電による回生制動の3種類の制動を制御して制動力を発生する。
蓄電池BATTのSOCが低下するとモータMGの駆動力によって車両を駆動することができなくなるため、可能な限り、車両の減速時にモータMGによる回生制動のみで制動を行なう。こうすることで減速に使用するエネルギーを効率良く蓄電池BATTに回収できる。
しかし、上述のように蓄電池BATTのSOCが上限に達した場合は、回生制動の制動力が発生しなくなる。
そこで、蓄電池BATTのSOCが上限に達する前に、制御手段21a1は、エンジンブレーキ、メカブレーキBRKによる制動を行ない、車両の制動力の減少を抑制する。モータMGの回生制動力のみで制動を行なうことをEモード、モータMGの回生に加え、エンジンブレーキ、メカブレーキBRKの制動力によって制動を行なうことをMモードという。Mモードでは、エンジンブレーキ、メカブレーキBRKの制動力のみで制動を行なう場合もある。以下、詳細に説明する。
図4は、Mモード及びEモードと要求制動力Treqに対する各制動力の割合を示す。Mモードでは、ECU21は、第1クラッチC1を接続し、エンジンブレーキ制動力Teng、メカブレーキ制動力Tme及び回生制動力Tmgを合わせて要求制動力Treqになるように制御する。Eモードでは、ECU21は、第1クラッチC1を開放し、回生制動力Tmgを要求制動力Treqになるように制御する。
Eモードによる制動を行なっているときに、蓄電池BATTのSOCがある所定の値α以上になった場合、Mモードに切り替える。
所定値αは、蓄電池BATTのSOCの上限以下の値に設定する。本実施形態では、AゾーンHとDゾーンとの境界値を所定値αとして設定している。これは、所定値α以上であることを確認してから、実際に回生を行なわないようにするまでの移行時間が存在するためである。所定値αは、この移行時間を考慮して設定される。所定値αは、固定値でもよいし、車速に応じて変更可能であってもよい。また、蓄電池BATTのSOCが所定値α以下になった場合、Eモードへ切り替える。
Mモードでは、まず、第1クラッチC1を徐々に締結することによってエンジンブレーキの制動力Tengを徐々に増加させる。このとき、エンジンブレーキを発生させるために、エンジンENGが始動していないときはエンジンENGの始動を行なう。その後、メカブレーキBRKによる制動を徐々に作動させ、回生制動の制動力Tmgを0にする。
エンジンブレーキを徐々に作動させることで、急な制動の変化によるショックの発生を抑制し、スムーズにメカブレーキBRKの制動へ移行することができる。また、車両に加速要求が発生した場合、エンジンブレーキを作動させることによって、エンジンENGが回転しているため、モータMG及びエンジンENGによる駆動をスムーズに行なうことができる。
図5は、本実施形態における、蓄電池BATTのSOCが所定値αを超えたときの各制動力の時間変化の一例を示す。
横軸は制動を開始してからの経過時間を表し、縦軸は車両の制動力を表す。
図示のとおり、制御手段21a1は、回生制動の制動力Tmgとエンジンブレーキの制動力TengとメカブレーキBRKとの制動力Tmeの合計が、要求制動力Treqになるように各制動力を制御する。
制御手段21a1は、時刻T1で蓄電池BATTのSOCが所定値αを超え、第1クラッチC1を徐々に締結開始することでエンジンブレーキを徐々に作動する。このとき、回生制動の制動力Tmgは徐々に弱めるように制御する。回生制動の制動力Tmgは、モータMGに接続されたインバータ(図示省略)に構成された、電力を熱として消費させるトランジスタ回路に流す電流を制御することによって調整を行なう。流す電流の値を大きくすることで回生制動の制動力Tmgを減少させ、小さくすることで回生制動の制動力Tmgを増加させる。
時刻T2で、徐々にメカブレーキの作動を開始し、時刻T3で回生制動の制動力Tmgを0にする。
上記の時間変化に対する、各制動力の変化は、要求制動力Treqや当該車両の走行速度に応じて、それぞれをテーブルとしてメモリ21bに保存している。
Mモードでは、上記テーブルを使用して、エンジンブレーキの制動力Teng及びメカブレーキBRKの制動力Tmeを決定し、その合計の制動力を要求制動力Treqから減じて回生制動の制動力Tmgを決定する。
また、Mモードによる制動は、蓄電池BATTのSOCが所定値αを超えたときだけではなく、ブレーキペダルが一定以上踏込まれたとき、すなわち要求制動力が所定の値βを超えたときにも行なう。これは、回生制動によって発生できる制動力は、要求制動力Treqよりも小さいためである。従って、エンジンブレーキやメカブレーキBRKを作動させて要求制動力Treqまで制動力を増加させる必要がある。
所定値βは、回生制動の上限の制動力に設定してもよいし、Mモードによる制動を開始してから実際に制動力を出力するまでに、回生制動が上限に達しないように設定してもよい。また、所定値βを車両の走行速度や要求制動力Treqに応じて変更可能なようにしてもよい。
更に、Mモードによる制動は、モータMGに異常が発生したときにも行なう。モータMGの異常とは、モータMGの電流の開閉を行なっているコンタクタ(電磁接触器)に異常が発生し、開放することができないことを指す。この異常が発生すると、車両の減速時に常に発電が行なわれ、蓄電池BATTのSOCに関わらず充電が行なわれる。そのため、蓄電池BATTのSOCが高い場合でも充電が行なわれ、過充電によって蓄電池BATTが損傷する可能性が高くなる。
従って、モータMGに異常が発生したときに、Mモードによる制動を行なうことによって過充電が発生することを抑制する。
異常が発生したか否かの判定は、モータMGに接続された電流センサが検知したモータMGの電流値が予め定めた範囲外か否かを判定することによって行なう。範囲外のときは異常状態、範囲内のときは正常状態として判定する。
また、Mモードによる制動を行なっているとき、上述のように決定された回生制動の制動力Tmgが実際に回生制動の上限として設定された制動力Tmgmaxを超えることがある。この場合には、制動力を増加させる必要がある。
上記制動力を増加させる方法は、2つある。
1つは、第2クラッチC2を徐々に締結させることによって発生する摩擦力によって制動力を増加する方法である。上述のように、第1クラッチC1を締結して駆動するときは、第1入力軸34から出力軸33aに回転が伝わる。このとき、プリシフトが行なわれている場合は、2速側又は4速段連結状態になっている。従って、出力軸33aの回転が、第2入力軸35、Gic、Gibを介してGiaに伝わっている。この状態で、第2クラッチC2を徐々に締結させると摩擦が発生する。この摩擦を制動に利用する(第2発明の制動力の制御に相当)。
もう1つは、モータMGの発電量を増加させることで制動力を増加する方法である。モータMGの発電量を増加させると電気エネルギーの発生が増加するため、制動力が増加する。発電量の増加は、上述のように、モータMGに接続されたインバータに構成された、電力を熱として消費させるトランジスタ回路に流す電流を減少させることで行なう(第3発明の制動力の制御に相当)。
過充電による蓄電池BATTの損傷を保護するための発電量の上限や蓄電池BATTのSOCの上限は、余裕を持って設定されるため、予め設定された上限を多少超えたとしても直ちに蓄電池BATTが損傷しないように設定される。例えば、蓄電池BATTのSOCの上限を、AゾーンHとDゾーンとの境界値と100%との中間に設定する。
但し、長い期間上限を超えた状態で回生を続けると蓄電池BATTが損傷する可能性が高くなるため、短時間(例えば、10秒)で制動が終了するような場合に用いる。従って、例えば、急制動時のようにブレーキペダルが最大近くまで踏込まれたときに行なう。このようにすることで運転上必要な場合に、制動力の減少を抑制して制動力の不足を補償する。また、車両の走行速度が低いときなどに行なってもよい。また、ある所定の時間を超えたときに、第2クラッチC2を徐々に締結して制動力を増加する方法に移行してもよい。
上記のように、ECU21は、回生制動の制動力Tmgが回生制動の上限として設定された制動力Tmgmaxを超えたときに回生による制動を行なうため、蓄電池BATTのSOCがDゾーンにある場合でも減速回生を禁止せず、減速回生を実行する。
Eモードによる制動を行なう場合には、Mモードで接続状態にしていた第1クラッチC1を開放状態に移行することで、エンジンブレーキによる制動力を0にする。
次に、本実施形態のECU21のCPU21aによって実行される制動制御の処理について説明する。
本実施形態では、CPU21aが、本発明における制御手段21a1として動作する。
図6は、CPU21aが実行する本発明の制御手段の処理の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
最初のステップST1は、アクセル開度、車両の走行速度、シフト位置、エンジン回転数を検知する。
次にステップST2に進み、車両が減速すべきか否かを判定する。ステップST1で検知したアクセル開度、車両の走行速度又はエンジン回転数が減少しているときに減速すべきと判定する。また、ブレーキペダルが操作されたときにも減速すべきと判定する。減速すべきではない場合は本制御を終了し、減速すべき場合はステップST3に進む。
ステップST3では、車両のブレーキペダルの操作量から要求制動力Treqを検知する。
次にステップST4に進み、要求制動力Treqが所定値β以上か否かを判定する。判定結果がYESのときは、ステップST5に進む。
ステップST5では、モータMGに異常が発生しているか否かを判定する。異常が発生していないときは、ステップST6に進む。判定は、上述のように電流センサが検知した値によって行なう。
ステップST6では、蓄電池BATTのSOCが所定値α以上か否かを判定する。判定結果がYESのときは、ステップST7に進む。
ステップST7では、EモードからMモードへの切り替え、又はMモードからEモードへの切り替えがあるか否かを判定する。減速するために、これからモードの切り替えが必要になると予想されるとき判定結果がYESとなり、モードの切り替え後、モードが維持されるとき判定結果がNOとなる。
ステップST5又はST7の判定結果がYESのとき、ステップST8に進み、第1クラッチC1のクラッチストロークCstを検知する。次にステップST9に進み、アクセル開度に応じた実際のエンジントルクTengbを検知する。
次にステップST10に進み、クラッチストロークCst、エンジントルクTengb、クラッチストロークCstに応じて決定されるクラッチ伝達トルク換算マップに応じて、現在の第1クラッチC1の締結状態(半クラッチの繋がり具合)に応じて、実際に発生するエンジンブレーキ制動力Tengを検知する。このとき、現在の変速段の変速比も考慮に入れる。クラッチ伝達トルク換算マップは、クラッチストロークCstの値に対するクラッチの伝達可能なトルクがテーブル化され、メモリ21bに保存されている。このテーブルから得た伝達可能なトルクと変速段の変速比によって、エンジンブレーキの制動力Tengを決定する。
次にステップST11に進み、上述のように、メモリ21bに保存しているテーブルを検索することによってメカブレーキの制動力Tmeを検知する。
次にステップST12に進み、要求制動力Treqから上記ステップST10、ST11で決定したエンジンブレーキの制動力Teng及びメカブレーキの制動力Tmeを減じて、回生制動力Tmgを決定する。
ステップST10、ST11によって決定されるエンジンブレーキの制動力Teng、メカブレーキBRKの制動力Tmeは、図5のように制動開始からの経過時間によって変化する。ステップST8〜ST12の処理が呼び出されるたびに、図5に示したように、エンジンブレーキの制動力Teng、メカブレーキBRKの制動力Tme、モータMGの回生制動力Tmgを徐々に変化させるために、クラッチストロークCst(クラッチの締結状態)も変化するようにECU21に制御される。
ステップST7の判定結果がNOのとき、ステップST13に進み、現在の制動のモードがEモードか否かを判定する。
ステップST4の判定結果がNO、ステップST6の判定結果がNO、又はステップST13の判定結果がYESのとき、ステップST14に進み、モータMGの回生制動力Tmgを要求制動力Treqと同じ値に決定にする。
ステップST13の判定結果がNOのとき、ステップST15に進み、メカブレーキの制動力Tme、エンジンブレーキの制動力Tengを検知する。検知の方法は、前記ステップST8からステップST11と同様である。
ステップST12又はST14の処理が終了したら、ステップST16に進み、回生制動力Tmgが回生制動力の上限Tmgmaxより大きいか否かを判定する。判定結果がYESのときは、ステップST17に進み、制動力の増加を行なう。制動力の増加は、上述のように、第2クラッチC2を徐々に締結させることで増加させて行なう。
また、急制動であると判断した場合(要求制動力Treqが上限に近い場合)、モータMGの発電量を増加させて制動力の増加を行ない、急制動ではないと判断した場合、第2クラッチC2を徐々に締結させて制動力の増加を行なってもよい。
ステップST16、ST17の処理が、第2発明及び第3発明の制動力の制御に相当する。
ステップST16の判定結果がNOのとき、ステップST17の処理が終了、又はステップST15の処理が終了したらステップST18に進む。本ステップでは、上述のステップの処理によって、制動のモードに応じて検知又は決定された、エンジンブレーキ、メカブレーキBRK及びモータMGの回生の制動力によって車両の制動を行なう。
例えば、Eモードのときは、ステップST14で決定されたモータMGの回生制動力Tmgによる制動を行なう。Mモードのときは、ステップST15で検知されたメカブレーキBRKの制動力Tme及びエンジンブレーキの制動力Tengによって制動を行なう。制動モードの切り替えがあるときは、ステップST10、ST11、ST12で決定されたモータMGの回生制動力Tmg、エンジンブレーキの制動力Teng、メカブレーキBRKの制動力Tmeによって制動を行なう。また、ステップST17で制動力が増加されたときは、増加された制動力によって制動を行なう。
次にステップST19に進み、加速要求が有り且つ蓄電池BATTのSOCが所定値α以上か否かを判定する。加速要求が有るか否かは、アクセル開度センサ22の出力信号によって得られるアクセルペダルの操作量が所定の値以上増加したときは加速要求が有ると判定し、それ以外は加速要求が無いと判定する。この所定値は0でもよいし、加速要求とは認められない程度の値でもよい。
加速要求が有ったときは、ステップST20に進み、エンジンENGを停止する。このとき、第1クラッチC1は係合状態とする。これによって、モータMGは、自動変速機31へ駆動力を出力するとともに、エンジンENGのクランクシャフトを回転させる。すなわち、エンジンENGのクランクシャフトを回転させる抵抗分だけ駆動力が必要になるため、第1クラッチC1が開放状態にあるときよりも、蓄電池BATTの電力を使用することになる。これによって、蓄電池BATTのSOCを低下させ、上限に近い状態を回避することができる。ステップST19の所定値αは、ステップST6の所定値αとは異なる値に設定してもよい。
ステップST19、ST20の処理が、第4発明の制御に相当する。
ステップST19の判定結果がNOのとき、又はステップST20の処理が終了したら本制動制御処理を終了する。
以上のように、車両の減速時に、モータMGに異常があるとき、蓄電池BATTのSOCが所定値α以上であるとき、及び要求制動力Treqが所定値β以上であるときは、制動をMモードへ切り替えて制動を行なう。
Mモードの制動では、エンジンブレーキの制動力Tengを検知し(ステップST10)、メカブレーキの制動力Tmeを検知し(ステップST11)、上記Teng、Tmeの合計の制動力を要求制動力Treqから減じて回生制動力Tmgを決定し(ステップST12)、制動を実行する(ステップST18)。
回生制動力Tmgが回生制動力の上限Tmgmax以上であったときは、第2クラッチC2を締結するか、モータMGの発電量を増加することで制動力の増加を行ない(ステップST17)、協調制動を実行する(ステップST18)。
協調制動中に加速要求が有り、蓄電池BATTのSOCが所定値α以上のときは(ステップST19)、エンジンENGを停止し(ステップST20)、モータMGにエンジンENGを回転させることで蓄電池BATTのSOCが上限に近い状態を回避する。
従って、電動機の回生制動のみで制動を行なっている場合に、蓄電池の蓄電量が上限に達した場合でも、当該車両の制動力の減少を抑制することができる。