図1は、ハイブリッド車両に適用される本発明の駆動力制御装置の実施形態を示す図である。図1に示すように、ハイブリッド車両は、原動機としてのエンジンENGと、電動機MGと、電動機MGと電力を授受する二次電池1と、自動変速機31と、エンジンENG、電動機MG、自動変速機31を制御する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)からなる駆動力制御装置21とを備える。
駆動力制御装置21は、各種演算処理を実行するCPU21aとこのCPU21aで実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果などを記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)21bとを備え、車両速度、アクセルペダルの操作量、及びエンジンENGの回転数等を表す各種電気信号が入力されると共に、演算結果などに基づいて駆動信号を外部に出力する。CPU21aには、各種電気信号に基づいて後述するイナーシャトルクを検知する検知手段21cが設けられている。
自動変速機31は、エンジンENGの駆動力が伝達されるエンジン出力軸32と、図外のディファレンシャルギアを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギア33と、変速比の異なる4つのギア列G2〜G5とを備える。出力ギア33に駆動力を伝達することは、駆動輪に駆動力を伝達することと同じである。
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギア列G3,G5の駆動ギアG3a,G5aを回転自在に軸支する第1入力軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギア列G2,G4の駆動ギアG2a,G4aを回転自在に軸支する第2入力軸35と、リバースギアGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1入力軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2入力軸35及びリバース軸36は第1入力軸34と平行に配置されている。
また、自動変速機31は、第1入力軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギアGiaと、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギアGiaに噛合する第1アイドル従動ギアGibと、第2入力軸35に固定された第2アイドル従動ギアGicと、リバース軸36に固定され第1アイドル従動ギアGibに噛合する第3アイドル従動ギアGidとで構成されるアイドルギア列Giを備える。尚、アイドル軸37は第1入力軸34と平行に配置されている。
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチC1及び第2クラッチC2を備える。第1クラッチC1は、エンジンENGの駆動力を第1入力軸34に伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切替自在に構成されている。また、第1クラッチC1は、伝達状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。第2クラッチC2は、エンジンENGの駆動力を第2入力軸35に伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切替自在に構成されている。また、第2クラッチC2は、伝達状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。エンジン出力軸32は第1アイドル従動ギアGib及び第2アイドル従動ギアGicを介して第2入力軸35に連結される。
両クラッチC1,C2は、素早く状態が切り替えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチC1,C2は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、遊星歯車機構PGが配置されている。遊星歯車機構PGは、サンギアSaと、リングギアRaと、サンギアSa及びリングギアRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
遊星歯車機構PGのサンギアSa、キャリアCa、リングギアRaからなる3つの要素を、速度線図(各要素の相対的な回転速度の比を直線で表すことができる図)におけるギア比に対応する間隔での並び順にサンギアSa側からそれぞれ第1要素、第2要素、第3要素とすると、第1要素はサンギアSa、第2要素はキャリアCa、第3要素はリングギアRaとなる。
そして、遊星歯車機構PGのギア比(リングギアRaの歯数/サンギアSaの歯数)をgとして、第1要素たるサンギアSaと第2要素たるキャリアCaの間の間隔と、第2要素たるキャリアCaと第3要素たるリングギアRaの間の間隔との比が、g:1となる。
第1要素たるサンギアSaは、第1入力軸34に固定されている。第2要素たるキャリアCaは、3速ギア列G3の3速駆動ギアG3aに連結されている。第3要素たるリングギアRaは、ロック機構R1により変速機ケース7に解除自在に固定される。
ロック機構R1は、リングギアRaが変速機ケース7に固定される固定状態、又はリングギアRaが回転自在な開放状態の何れかの状態に切替自在なシンクロメッシュ機構で構成されている。
尚、ロック機構R1は、シンクロメッシュ機構に限らず、同期機能がないドグクラッチ、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチなどで構成してもよい。また、遊星歯車機構PGは、シングルピニオン型に限らず、サンギアと、リングギアと、互いに噛合し一方がサンギア、他方がリングギアに噛合する一対のピニオンPa,Pa’を自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギア(第1要素)を第1入力軸34に固定し、リングギア(第3要素)を3速ギア列G3の3速駆動ギアG3aに連結し、キャリア(第2要素)をロック機構R1で変速機ケース7に解除自在に固定するように構成すればよい。
遊星歯車機構PGの径方向外方には、中空の電動機MGが配置されている。換言すれば、遊星歯車機構PGは、中空の電動機MGの内方に配置されている。電動機MGは、ステータMGaとロータMGbとを備える。
また、電動機MGは、駆動力制御装置21の指示信号に基づき、パワードライブユニットPDUを介して制御される。駆動力制御装置21は、パワードライブユニットPDUを、二次電池1の電力を消費して電動機MGを駆動させる駆動状態と、ロータMGbの回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニットPDUを介して二次電池1に充電する回生状態とに適宜切り替える。
出力ギア33を軸支する出力軸33aには、2速駆動ギアG2a及び3速駆動ギアG3aに噛合する第1従動ギアGo1が固定されている。出力軸33aには、4速駆動ギアG4a及び5速駆動ギアG5aに噛合する第2従動ギアGo2が固定されている。
このように、2速ギア列G2と3速ギア列G3の従動ギア、及び4速ギア列G4と5速ギア列G5の従動ギアとをそれぞれ1つのギアGo1,Go2で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
また、第1入力軸34には、リバースギアGRに噛合するリバース従動ギアGRaが固定されている。
第1入力軸34には、シンクロメッシュ機構で構成され、3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、5速駆動ギアG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、3速駆動ギアG3a及び5速駆動ギアG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在な第1噛合機構SM1が設けられている。
第2入力軸35には、シンクロメッシュ機構で構成され、2速駆動ギアG2aと第2入力軸35とを連結した2速側連結状態、4速駆動ギアG4aと第2入力軸35とを連結した4速側連結状態、2速駆動ギアG2a及び4速駆動ギアG4aと第2入力軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在な第2噛合機構SM2が設けられている。
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在な第3噛合機構SM3が設けられている。
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
自動変速機31では、第1クラッチC1を係合させることにより、電動機MGの駆動力を用いてエンジンENGを始動させることができる。
エンジンENGの駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構R1により遊星歯車機構PGのリングギアRaを固定状態とし、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。ここで、エンジンENGの駆動力のみによる走行をENG走行という。
エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34を介して、遊星歯車機構PGのサンギアSaに入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジンENGの回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリアCaを介し3速駆動ギアG3aに伝達される。
3速駆動ギアG3aに伝達された駆動力は、3速駆動ギアG3a及び第1従動ギアGo1で構成される3速ギア列G3のギア比(駆動ギアの歯数/従動ギアの歯数)をiとして、1/{i(g+1)}に変速されて第1従動ギアGo1及び出力軸33aを介し出力ギア33から出力され、1速段が確立される。
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構PG及び3速ギア列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ二次電池1の充電率SOC(State Of Charge)に応じて、駆動力制御装置21は、電動機MGでブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、二次電池1の充電率SOCに応じて、電動機MGを駆動させて、エンジンENGの駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又は電動機MGの駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、電動機MGの駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジンENGを始動させることができる。
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることを駆動力制御装置21が車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号から予測した場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギアG2aと第2入力軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
エンジンENGの駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギアG2aと第2入力軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結して伝達状態とする。この場合、エンジンENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギア列Gi、第2入力軸35、2速ギア列G2及び出力軸33aを介して、出力ギア33から出力される。
尚、2速段において、駆動力制御装置21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
逆に、駆動力制御装置21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を、第3駆動ギアG3a及び第5駆動ギアG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチC1を伝達状態とし、第2クラッチC2を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り替えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、二次電池1の充電率SOCに応じて、駆動力制御装置21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構SM1が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
第1噛合機構SM1が3速側連結状態である場合には、第2駆動ギアG2aで回転される第1従動ギアGo1によって回転する第3駆動ギアG3aが第1入力軸34を介して電動機MGのロータMGbを回転させるため、このロータMGbの回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
第1噛合機構SM1がニュートラル状態である場合には、ロック機構R1を固定状態とすることによりリングギアRaの回転数を「0」とし、第1従動ギアGo1に噛合する3速駆動ギアG3aと共に回転するキャリアCaの回転数を、サンギアSaに連結させた電動機MGにより発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構SM1を3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構R1を開放状態とすることにより遊星歯車機構PGを各要素が相対回転不能な状態とし、電動機MGの駆動力を3速ギア列G3を介して出力ギア33に伝達することにより行うことができる。または、第1噛合機構SM1をニュートラル状態として、ロック機構R1を固定状態としてリングギアRaの回転数を「0」とし、電動機MGの駆動力を1速段の経路で第1従動ギアGo1に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。この場合、2速段におけるENG走行時のエンジンENGの駆動力に加えて、電動機MGの駆動力が、入力軸34、3速ギア列G3、出力軸33aを介して出力ギア33に伝達される。
エンジンENGの駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。この場合、エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34、第1噛合機構SM1、3速ギア列G3を介して、出力ギア33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
3速段においては、第1噛合機構SM1が3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構PGのサンギアSaとキャリアCaとが同一回転となる。
従って、遊星歯車機構PGの各要素が相対回転不能な状態となり、電動機MGでサンギアSaにブレーキをかければ減速回生となり、電動機MGでサンギアSaに駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。この場合、3速段におけるENG走行時のエンジンENGの駆動力に加えて、電動機MGの駆動力が、入力軸34、3速ギア列G3、出力軸33aを介して出力ギア33に伝達される。
また、第1クラッチC1を開放して、電動機MGの駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
3速段において、駆動力制御装置21は、車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギアG2aと第2入力軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギアG4aと第2入力軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
これにより、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とし、第1クラッチC1を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギアG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。この場合、エンジンENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギア列Gi、第2入力軸35、4速ギア列G4及び出力軸33aを介して、出力ギア33から出力される。
4速段で走行中は、駆動力制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
逆に、駆動力制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギアG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とし、第2クラッチC2を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、駆動力制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を3速駆動ギアG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態とし、電動機MGでブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジンENGの駆動力に加えて、電動機MGの駆動力が、入力軸34、3速ギア列G3、出力軸33aを介して出力ギア33に伝達される。
駆動力制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を5速駆動ギアG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機MGによりブレーキをかければ減速回生、電動機MGから駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジンENGの駆動力に加えて、電動機MGの駆動力が、入力軸34、5速ギア列G5、出力軸33aを介して出力ギア33に伝達される。
エンジンENGの駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギアG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチC1が伝達状態とされることによりエンジンENGと電動機MGとが直結された状態となるため、電動機MGから駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機MGでブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチC1を開放状態とすればよい。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、エンジンENGの始動を行うこともできる。
駆動力制御装置21は、5速段で走行中に各種電気信号から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギアG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、4速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて後進段を確立する場合には、ロック機構R1を固定状態とし、第3噛合機構SM3をリバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギア列Gi、リバースギアGR、リバース従動ギアGRa、サンギアSa、キャリアCa、3速ギア列G3及び出力軸33aを介して後進方向の回転として、出力ギア33から出力され、後進段が確立される。
1速段から2速段にアップシフトする場合、及び3速段から4速段にアップシフトする場合には、第2クラッチC2が本発明の「低速側変速段で開放状態となり高速側変速段で締結状態となる他方の摩擦係合機構」に該当し、第1クラッチC1が本発明の「低速側変速段で締結状態となり高速側変速段で開放状態となる一方の摩擦係合機構」に該当する。
また、2速段から3速段にアップシフトする場合、及び4速段から5速段にアップシフトする場合には、第1クラッチC1が本発明の「低速側変速段で開放状態となり高速側変速段で締結状態となる他方の摩擦係合機構」に該当し、第2クラッチC2が本発明の「低速側変速段で締結状態となり高速側変速段で開放状態となる一方の摩擦係合機構」に該当する。
以降、本実施形態においては、「低速側変速段で開放状態となり高速側変速段で締結状態となる他方の摩擦係合機構」を「次段クラッチ」といい、「低速側変速段で締結状態となり高速側変速段で開放状態となる一方の摩擦係合機構」を「前段クラッチ」という。また、この場合の「低速側変速段」を「前段」といい、「高速側変速段」を「次段」という。
次に、アップシフト時の本実施形態の車両の駆動力制御装置21による駆動力制御について説明する。
まず、ENG走行中のアップシフト時の駆動力制御について図2を参照して説明する。図2は、ENG走行中のアップシフト時の回転数やトルクの時間変化を示す図である。図2の(a)〜(h)の横軸は時間(単位はs(秒))である。また、図2(a)の縦軸はエンジン回転数Ne(単位はrpm)、図2(b)の縦軸はエンジントルクTe(単位はN・m)、図2(c)の縦軸は前段クラッチトルクTpc(単位はN・m)、図2(d)の縦軸は次段クラッチトルクTnc(単位はN・m)、図2(e)の縦軸はモータトルクTm(単位はN・m)、図2(f)の縦軸はクラッチ足軸トルクToc(単位はN・m)、図2(g)の縦軸はモータ足軸トルクTom(単位はN・m)、図2(h)の縦軸は足軸トルクTo(単位はN・m)である。
ここで、エンジン回転数NeはエンジンENGの回転数であり、エンジントルクTeはエンジンENGの出力するトルク(駆動力)である。前段クラッチトルクTpcは前段クラッチの締結量によって決定される伝達可能な最大トルクであり、次段クラッチトルクTncは次段クラッチの締結量によって決定される伝達可能な最大トルクである。モータトルクTmは電動機MGの出力するトルク(駆動力)である。
また、クラッチ足軸トルクTocは、エンジントルクTe及びエンジンENGのイナーシャトルクTiの合計駆動力が第1クラッチC1及び奇数番目のギア列(3速ギア列G3,5速ギア列G5)を介して出力ギア33に伝達されるトルクと、エンジントルクTe及びエンジンENGのイナーシャトルクTiの合計駆動力が第2クラッチC2及び偶数番目のギア列(2速ギア列G2,4速ギア列G4)を介して出力ギア33に伝達されるトルクとを合わせた合計駆動力である。モータ足軸トルクTomはモータトルクTmが3速ギア列G3及び5速ギア列G5のいずれかを介して出力ギア33に伝達されるトルクである。足軸トルクToは、クラッチ足軸トルクTocとモータ足軸トルクTomとを合わせた合計駆動力である。すなわち、足軸トルクToは、自動変速機31から出力ギア33に伝達されるトルクである。
また、モータトルクTm及びモータ足軸トルクTomが、正の値のときには電動機MGの駆動力が出力ギア33に伝達されている状態であり、負の値のときには電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生をしている状態である。
尚、図2では、エンジントルクTe(図2(b))が一定のTQ1で維持されるものとして説明する。車両が前段でENG走行中である場合には、前段クラッチトルクTpc(図2(c))はTQ1よりも大きいTQ2に設定される。このときには、エンジントルクTeのTQ1のみが自動変速機31を介して出力ギア33に伝達されて車両が走行している。
時刻t1は、エンジン回転数Ne(図2(a))が所定の回転数α以上になったことで、駆動力制御装置21がアップシフトが必要であると判断した時刻を示す。駆動力制御装置21は、時刻t1でアップシフトが必要であると判断すると、前段クラッチトルクTpc(図2(c))をTQ1に設定する。
時刻t2は、時刻t1から所定時間経過後の時刻であり、駆動力制御装置21が前段クラッチ及び次段クラッチの状態の切り替えを開始する時点である。時刻t3は、前段クラッチ及び次段クラッチの状態の切り替えが終了する時刻を示す。駆動力制御装置21は、前段クラッチの締結量を制御して、時刻t2でTQ1である前段クラッチトルクTpcを時刻t3で0となるように減少させると共に、次段クラッチの締結量を制御して、時刻t2で0である次段クラッチトルクTnc(図2(d))を時刻t3でTQ1になるように増加させる。時刻t3で、前段クラッチが開放状態となり、次段クラッチがTQ1のトルクを伝達する伝達状態となり、エンジンENGの駆動力の伝達経路が前段のギア列から次段のギア列に切り替わる。変速比が小さくなるため、時刻t3以降ではエンジン回転数Neが減少し、エンジンENGのイナーシャトルクTiが発生する。
このため、次段クラッチが滑らないようにするために、時刻t3〜t4において、エンジントルクTeとイナーシャトルクTiとの合計駆動力が伝達できるように次段クラッチトルクTncをTQ3に増加させる。ここで、時刻t4は、エンジン回転数Neの減少が止まり、アップシフトによるイナーシャトルクTiが0になる時刻を示す。本実施形態では、時刻t3〜t4の期間をイナーシャ相としている。すなわち、イナーシャ相の開始時点(時刻t3)は、次段クラッチトルクTncがエンジントルクTeに到達した時点、換言すれば、エンジンENGの駆動力の伝達経路が前段のギア列から次段のギア列に切り替わることでエンジン回転数Neの変化が始まった時点となる。イナーシャ相の終了時点(時刻t4)は、変速によるエンジン回転数Neの減少が収まり、イナーシャトルクTiが0になった時点となる。
本実施形態では、イナーシャ相t3〜t4を、アクセルペダルの操作量などに応じて求めている。具体的には、イナーシャ相t3〜t4は、予め実験などによって求めることができる時間であり、この時間をアクセルペダルの操作量などから取得できるように、メモリ21bに記憶されている。
イナーシャトルクTiは、駆動力制御装置21の検知手段21cによって、イナーシャ相t3〜t4の時間と、前段及び次段の変速比と、エンジン回転数Neとから、テーブルを検索することで決定される。このテーブルは、予め実験などによって決定されてメモリ21bに記憶されている。この検知手段21cによる検索が、本発明の、「検知手段によって、原動機で発生するイナーシャトルクを検知する」処理に該当する。そして、駆動力制御装置21は、時刻t3でTQ1である次段クラッチトルクTncに、ここで検索されたイナーシャトルクTiを超えるトルクを上乗せして、イナーシャ相t3〜t4における次段クラッチトルクTncがTQ3に設定される。これにより、次段クラッチの滑りが防止される。
駆動力制御装置21は、イナーシャ相t3〜t4において、イナーシャトルクTiが出力ギア33に伝達されることを阻止するように、電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生を行なう。このため、モータトルクTm(図2(e))は、駆動する場合とは逆方向で、大きさがTQ4のトルクとなる。このときのモータトルクTmの減少量ΔTm(−TQ4)は、「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」及び「イナーシャトルクTi」に応じて決定される。「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」は、1速段から2速段へのアップシフトのときには、電動機MGは、遊星歯車機構PG、3速ギア列G3,出力軸33a,2速ギア列G2を介して第2クラッチC2に接続され、1速段の変速比である1/{i(g+1)}と2速ギア列のギア比とに応じた値となる。「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」は、2速段から3速段へのアップシフトのときには、電動機MGは第1クラッチC1に直結されているので1である。「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」は、3速段から4速段へのアップシフトのときには、電動機MGは、3速ギア列G3,出力軸33a,4速ギア列G4を介して第2クラッチC2に接続されるので、3,4速ギア列G3,G4のギア比に応じた値となる。「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」は、4速段から5速段へのアップシフトのときには、電動機MGは第1クラッチC1に直結されているので1である。
このモータトルクTmの減少量ΔTmに応じて電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生を行なうことが、本発明の、「原動機のイナーシャトルクが駆動輪に伝達されることを阻止するように、検知手段で検知されたイナーシャトルクに基づいて、電動機で発電させて二次電池に充電する回生を行なう」処理に該当する。
上記のようなENG走行時におけるアップシフト時の駆動力制御装置21の駆動力制御によって、時刻t2〜t3において、前段クラッチトルクTpcがTQ1から0に減少し、次段クラッチトルクTncが0からTQ1に増加することで、クラッチ足軸トルクToc(図2(f))は、エンジントルクTeによって出力ギア33に発生するトルクがTQ5からTQ6に減少していく。そして、イナーシャ相の開始時点である時刻t3で、次段クラッチトルクTncが、エンジントルクTeとイナーシャトルクTiとの合計駆動力を伝達できるようにTQ1からTQ3に増加されることで、クラッチ足軸トルクTocがTQ6からTQ7に増加する。そして、イナーシャ相の終了時点である時刻t4で、次段クラッチトルクTncが、TQ3からTQ1に減少されることで、クラッチ足軸トルクTocがTQ7からTQ6に減少する。
また、イナーシャ相t3〜t4において、モータトルクTmは、イナーシャトルクTiが出力ギア33に伝達されることを阻止するように、−TQ4に減少されるため、モータ足軸トルクTom(図2(g))は、クラッチ足軸トルクTocがTQ6からTQ7に増加し、モータ足軸トルクTomが0から−TQ8に減少するため、従って、足軸トルクTo(図2(h))は、イナーシャ相t3〜t4において、イナーシャトルクTiが発生してもTQ6のまま変化せず、変速ショックが抑制される。
次に、HEV走行中のアップシフト時の駆動力制御について図3を参照して説明する。図3は、HEV走行中におけるアップシフト時の回転数やトルクの時間変化を示す図である。尚、図3の(a)〜(h)の縦軸及び横軸は、図2の(a)〜(h)の縦軸及び横軸と同じである。
ここで、モータトルクTm(図3(e))は、前段において、TQ9に設定されているものとして説明する。HEV走行時においても、ENG走行時と同様に、時刻t3で、エンジンENGのイナーシャトルクTiが発生する。このイナーシャトルクTiを検知手段21cが検知する。イナーシャ相t3〜t4においては、イナーシャトルクTiが出力ギア33に伝達されることを阻止するように、モータトルクTmをTQ9から減少量ΔTmだけ小さいTQ10に減少させる。このときのモータトルクTmの減少量ΔTmは、ENG走行時と同様に、「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」及び「イナーシャトルクTi」に応じて決定される。これにより、モータ足軸トルクTom(図3(g))は、イナーシャ相t3〜t4において、TQ11からTQ12に減少する。
このモータトルクTmをTQ9からTQ10に減少させることが、本発明の、「原動機のイナーシャトルクが駆動輪に伝達されることを阻止するように、検知手段で検知されたイナーシャトルクに基づいて、電動機の駆動力を減少させる」処理に該当する。
クラッチ足軸トルクToc(図3(f))は、図2で示したENG走行時と同じである。このため、足軸トルクToは、時刻t2までは、TQ5のクラッチ足軸トルクTocとTQ11のモータ足軸トルクTomとの合計駆動力であるTQ13となる。また、足軸トルクToは、時刻t2〜t3において、TQ6のクラッチ足軸トルクTocとTQ11のモータ足軸トルクTomとの合計駆動力であるTQ14に向かって徐々に減少していく。イナーシャ相t3〜t4において、イナーシャトルクTiが発生しても、クラッチ足軸トルクTocがTQ6からTQ7に増加し、モータ足軸トルクTomがTQ11からTQ12に減少するため、足軸トルクTo(図3(h))はTQ14のまま変化せず、変速ショックが抑制される。
また、HEV走行時に、モータトルクTmが減少量ΔTmに比べて小さかった場合には、この減少量ΔTmから時刻t3時点でのモータトルクTmを引いた分のトルクに応じて、電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生を行なう。
次に、比較例として、従来のHEV走行中のアップシフト時の作動について図4を参照して説明する。図4は、HEV走行中におけるアップシフト時の回転数やトルクの時間変化を示す図である。尚、図4の(a)〜(h)の縦軸及び横軸は、図2及び図3の(a)〜(h)の縦軸及び横軸と同じである。
従来は、イナーシャ相t3〜t4において、イナーシャトルクTi分のトルクを減少させるためにエンジンENGの点火時期を遅らせて、エンジントルクTe(図4(b))をTQ1からTQ15に減少させる。これによって、TQ15に減少されたエンジントルクTeとイナーシャトルクTiとの合計駆動力がTQ1になるため、次段クラッチトルクTnc(図4(d))は、イナーシャ相t3〜t4において、本実施形態のようにTQ1からTQ3に増加されない。従って、クラッチ足軸トルクToc(図4(f))は、イナーシャ相t3〜t4においてもTQ6のままとなる。このため、モータトルクTm(図4(e))は、イナーシャ相t3〜t4において駆動力を減少する必要がないため、モータ足軸トルクTom(図4(g))は、イナーシャ相t3〜t4においてもTQ11のままとなる。従って、足軸トルクTo(図4(h))は、イナーシャ相t3〜t4においてもTQ14のまま変化せず、変速ショックが緩和される。
このように、従来のアップシフト時の作動では、イナーシャ相t3〜t4において、最もエネルギー効率の高い点火時期から遅らせて点火することでエンジントルクTeを減少しているため、エネルギー効率が低下する。
次に、本実施形態の駆動力制御装置21によって実行される駆動力制御の処理について説明する。
駆動力制御装置21は、アクセルペダルの操作量などの各種電気信号に基づき、車両を加速する必要があると判断した場合には、先ず、エンジン回転数Neを増加させる。そして、駆動力制御装置21は、エンジン回転数Neが前段における所定の回転数α以上になったとき(図2及び図3の時刻t1)、前段から次段にアップシフトするために、変速の開始処理を実行する。駆動力制御装置21は、変速の開始処理の最初に、前段クラッチトルクTpcをTQ2からTQ1に設定する。そして、駆動力制御装置21は、前段クラッチトルクTpcをTQ1から0に減少させると共に、次段クラッチトルクTncを0からTQ1に増加させる(図2及び図3の時刻t2〜t3)。次段クラッチトルクTncがTQ1になったとき、駆動力制御装置21は、変速の開始処理を終了し、イナーシャ相の処理を実行する(図2及び図3の時刻t3〜t4)。
このイナーシャ相の駆動力制御の処理について図5を参照して説明する。図5は、駆動力制御装置21が実行するイナーシャ相における駆動力制御の処理の手順を示すフローチャートである。
最初のステップST1で、イナーシャトルクTiを検索する。これは、上述のように、イナーシャ相t3〜t4の時間と、前段及び次段の変速比と、エンジン回転数Neとから、メモリ21bに格納されたテーブルからイナーシャトルクTiを検索する。本ステップST1が、本発明の「検知手段によって、原動機で発生するイナーシャトルクを検知する」処理に該当する。
次に、ステップST2に進み、モータトルクTmの減少量ΔTmを決定する。これは、上述のように、「電動機MGと次段クラッチとの間の変速比」及び「イナーシャトルクTi」に応じて決定する。次にステップST3に進み、車両がHEV走行中か否かを判定する。ステップST3で、HEV走行中と判定される場合には、ステップST4に進み、ΔTmが現時点(図3(e)のt3以前)のTm(図3(e)ではTQ9)より大きいか否かを判定する。ステップST4で、ΔTmが現時点のTmより小さいと判定される場合には、ステップST5に進み、次段クラッチトルクTncにイナーシャトルクTiを超えるトルクを上乗せする。本ステップST5の処理によって、次段クラッチトルクTncが、図3(d)で示されるTQ1からTQ3に増加され、クラッチ足軸トルクTocが、TQ6からTQ7に増加する。
次に、ステップST6に進み、減少量ΔTmに応じてモータトルクTmを減少させる。モータトルクTmが、図3(e)で示されるTQ9からTQ10に減少され、モータ足軸トルクTomが、図3(g)で示されるTQ11からTQ12に減少される。ステップST5及びST6の処理によって、足軸トルクToは、図3(h)で示されるイナーシャ相t3〜t4において、TQ14のまま変化しないため、HEV走行中のアップシフト時のイナーシャトルクTiによる出力ギア33のトルク増加を阻止することができる。
ステップST6の処理が、本発明の、「原動機のイナーシャトルクが駆動輪に伝達されることを阻止するように、検知手段で検知されたイナーシャトルクに基づいて、電動機の駆動力を減少させる」処理に該当する。
ステップST3でHEV走行中ではないENG走行中と判定される場合、又は、ステップST4でΔTmが現時点(図2のt3以前)のTmより大きいと判定される場合には、ステップST7に進み、電動機MGが発電することにより二次電池1を充電する回生ができるか否かを判定する。二次電池1の充電率SOCが高くて充電すべきでないようなときに、回生ができないと判定する。
ステップST7で、回生ができないと判定されたときは、ステップST8に進み、エンジンENGの点火時期を遅らせるなどによって、エンジントルクTeを減少させる従来のイナーシャ相の処理を実行する。ステップST7で、回生ができると判定されたときは、ステップST9に進む。ステップST9では、ステップST5と同様に、次段クラッチトルクTncにイナーシャトルクTiを超えるトルクを上乗せする。本ステップST9の処理によって、次段クラッチトルクTncが、図2(d)の時刻t3〜t4で示されるTQ1からTQ3に増加され、クラッチ足軸トルクTocが、TQ6からTQ7に増加する。
次に、ステップST10に進み、モータトルクTmの減少量ΔTmに応じて電動機MGで発電することで二次電池1を充電する回生を行なう。本ステップST10の処理によって、モータトルクTmが、図2(e)の時刻t3〜t4で示される0から−TQ4に減少され、モータ足軸トルクTomが0から−TQ8に減少される。ステップST10の処理によって、ENG走行中のアップシフト時のイナーシャトルクTiによる出力ギア33のトルク増加を阻止することができる。ステップST9及びST10の処理によって、足軸トルクToは、図2(h)で示されるイナーシャ相t3〜t4において、TQ6のまま変化しないため、ENG走行中のアップシフト時のイナーシャトルクTiによる出力ギア33のトルク増加を阻止することができる。
ステップST10の処理が、本発明の、「原動機のイナーシャトルクが駆動輪に伝達されることを阻止するように、検知手段で検知されたイナーシャトルクに基づいて、電動機で発電させて二次電池に充電する回生を行なう」処理に該当する。
ステップST6,ST8,ST10の処理が終了するとイナーシャ相t3〜t4の駆動力制御処理を終了する。
図5に示されるイナーシャ相の処理が終了すると(図2及び図3の時刻t4以降)、駆動力制御装置21は、前段から次段への変速の終了処理を実行し、変速処理を終了する。
以上、説明してきたように、本実施形態の車両の駆動力制御装置によって、アップシフト時のイナーシャ相t3〜t4において、従来のように点火時期を遅らせてエンジントルクTeを減少させることなく、原動機としてのエンジンENGのイナーシャトルクTiが出力ギア33に伝達されることを阻止するように、変速ショックを抑制している。また、電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生を行なう場合には、イナーシャトルクTi分のエネルギーで二次電池1の充電率SOCを増加させることができ、モータトルクTmを減少させる場合には、電動機MGの電力消費量を減少させることができる。従って、アップシフト時の変速ショックを抑制すると共に、イナーシャトルクを有効に利用することで、従来のように、最もエネルギー効率の高い点火時期から遅らせて点火することでエンジントルクTeを減少させるものに比べ、エネルギー効率を向上できる。
また、本実施形態の車両の駆動力制御装置では、電動機MGは、摩擦係合機構としての第1クラッチC1と第2クラッチC2との2つのクラッチを介して原動機としてのエンジンENGと駆動力を互いに伝達自在に設けられている。そして、アップシフト時のイナーシャ相t3〜t4において、次段クラッチトルクTncが、エンジントルクTeとエンジンENGのイナーシャトルクTiとの合計駆動力になるように次段クラッチの締結量を制御する。これによって、変速ショックの抑制及びエネルギー効率の向上に加えて、次段クラッチの摩耗及び発熱を抑制することができる。
ここで、次段クラッチとは、上述したとおり、1速段から2速段へのアップシフト又は3速段から4速段へのアップシフトの場合には、他方の摩擦係合機構(次段クラッチ)となる第2クラッチC2であり、2速段から3速段へのアップシフト又は4速段から5速段へのアップシフトの場合には、他方の摩擦係合機構(次段クラッチ)となる第1クラッチC1である。
尚、本実施形態では、電動機MGは、摩擦係合機構としての第1クラッチC1及び第2クラッチC2を介して原動機としてのエンジンENGと駆動力を互いに伝達自在に設けられているがこれに限らない。例えば、電動機MGは、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を介さずに、エンジンENGと直結されていてもよい。
この場合には、アップシフト時のイナーシャ相t3〜t4において、次段クラッチトルクTncを増加させず、エンジンENGのイナーシャトルクTiに応じて、電動機MGで発電させて二次電池1を充電する回生を行なうか、又は電動機MGの駆動力を減少させればよい。このときのモータトルクTmの減少量ΔTmは、電動機MGとエンジンENGとが直結されているため、イナーシャトルクTiと同じになる。
また、本実施形態の自動変速機31は、5速段まで変速可能であるが、これに限らず、例えば、6速段以上まで変速可能な自動変速機にも、本発明を適用することができる。この場合、変速段に対応させてギア列の駆動ギア及び噛合機構を駆動ギア軸34,35に追加し、追加された駆動ギアに噛合する従動ギアを出力軸33aに追加すればよい。