この発明におけるオイルポンプには、ベーンポンプ、ギヤポンプ、ピストンポンプなどが含まれる。また、この発明における動力源には、燃料を燃焼させて動力を発生するエンジン、電気エネルギを運動エネルギに変換する電動モータが含まれる。この発明における動力伝達装置には、入力回転数と出力回転数との間の変速比を変更可能な変速機、入力部材と出力部材との間のトルクを制御するクラッチなどが含まれる。ここで、変速機は無段変速機または有段変速機のいずれでもよい。この発明における動力伝達状態には、変速比、トルク容量が含まれる。この発明における供給経路には、オイルが通る油路、油路が形成されたバルブボディに形成されたポート、油路に設けられたバルブなどが含まれる。
つぎに、この発明の具体例を図面に基づいて説明する。図2には、車両に搭載されている無段変速機1を含む動力伝達装置を対象とした油圧制御装置32に、この発明を適用した例を模式的に示してある。その無段変速機1は、従来知られているベルト式のものであり、駆動プーリ2と従動プーリ3とにベルト35を巻き掛けてこれらのプーリ2,3の間でトルクを伝達し、かつ各プーリ2,3に対するベルト35の巻き掛け半径を変化させることにより、入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変化させることができるように構成されている。より具体的に説明すると、各プーリ2,3は、固定片とその固定片に対して接近・離隔するように配置された可動片とを備え、それらの固定片と可動片との間にV溝状のベルト巻き掛け溝が形成されるように構成されている。
そして、各プーリ2,3にはそれぞれの可動片をその回転中心軸線に沿った方向に移動させるための油圧アクチュエータ4,5が設けられている。それらの油圧アクチュエータ4,5のうちのいずれか一方、例えば従動プーリ3における油圧アクチュエータ5の油圧室5Aには、従動プーリ3がベルト35を挟み付ける挟圧力を発生させる油圧が供給され、また前記油圧アクチュエータ4,5のうちの他方、例えば駆動プーリ2における油圧アクチュエータ4の油圧室4Aには、ベルト35の巻き掛け半径を変化させて変速を行うための圧油が供給されるように構成されている。
上記の無段変速機1の入力側もしくは出力側に、駆動トルクの伝達および遮断を行うためのC1クラッチ6が設けられている。このC1クラッチ6は、供給される油圧に応じてトルク容量が制御されるクラッチであり、例えば湿式の多板クラッチによって構成されている。さらに、エンジン10から駆動輪36に至る経路には前後進切換装置(図示せず)が設けられている。この前後進切換装置は、例えば、遊星歯車機構および摩擦係合装置により構成されており、その摩擦係合装置の係合および解放を切り替えることにより、回転要素の回転方向を正逆に切り換える装置である。この摩擦係合装置の係合および解放を制御する油圧室(図示せず)が設けられており、その油圧室に油路15のオイルが供給されるように構成されている。
上記の無段変速機1およびC1クラッチ6ならびに前後進切換装置は、車両の走行のためのトルクを伝達するものであり、しかも油圧に応じた伝達トルク容量に設定されるものであるから、前記各油圧アクチュエータ4,5およびC1クラッチ6の油圧室、前後進切換装置の摩擦係合装置の係合および解放を制御する油圧室には、トルクに応じた高い油圧を供給することになる。したがって、油圧室4A,5A、C1クラッチ6の油圧室(図示せず)、前後進切換装置の摩擦係合装置の係合および解放を制御する油圧室が、高油圧供給部である。
他方、上記の無段変速機1を含む動力伝達装置には、ロックアップクラッチ(図示せず)を備えたトルクコンバータ(T/C)7が設けられている。そのトルクコンバータ7の構成は、従来知られているものと同様であり、ポンプインペラとタービンランナとの回転数差が大きい(速度比が所定値より小さい)コンバータ領域ではトルクの増幅作用が生じ、またその回転数差が小さい(速度比が所定値より大きい)カップリングレンジでは、トルクの増幅作用のない流体継手として機能するように構成されている。そして、ロックアップクラッチはその入力側部材であるポンプインペラに一体のフロントカバーとタービンランナに一体のハブとを摩擦板を介して直接連結するように構成されている。その摩擦板をフロントカバーに接触させ、また離隔させるためのロックアップ油圧を制御するための制御弁(L/Uコントロールバルブ)8が設けられている。この制御弁8はロックアップクラッチに対する油圧の供給方向やその圧力を制御するためのものであり、したがって、制御弁8は相対的に低い油圧で動作するようになっている。
前記のように、エンジン10から駆動輪36に至る動力伝達装置には、相互に摩擦接触する箇所、軸受、ギヤ同士の噛み合い部分などのように、動力伝達にあたり摺動、発熱、摩耗が発生する被潤滑部9が存在し、その被潤滑部9にはオイルが供給されて冷却および潤滑される。この被潤滑部9は、低圧であっても必要量のオイル(潤滑油)が供給されればよいので、その被潤滑部9や前記制御弁8あるいはトルクコンバータ7を低油圧供給部と呼ぶ。
つぎに、上記の高油圧供給部や低油圧供給部に対して油圧を給排するための構成について説明する。図2に示す例は、車両に搭載されているエンジン10によって駆動されるオイルポンプ(機械式オイルポンプ)11を油圧源とする例である。そのエンジン10は、ガソリンエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する熱機関である。さらに、エンジン10とオイルポンプ11との間の動力伝達経路を接続または遮断するクラッチ(図示せず)が設けられている。なお、駆動輪36にトルクを伝達する動力源として、エンジン10に代えて、あるいはエンジン10に加えて、電動モータが設けられていてもよい。このエンジン10から駆動輪36に至る動力伝達経路に、前記無段変速機1、C1クラッチ6、トルクコンバータ7などが配置されている。
前記オイルポンプ11はオイルパン33からオイルを吸入し、かつ、油路34にオイルを吐出するように構成されている。この油路34の油圧を所定の圧力に調圧する調圧弁12が設けられている。この調圧弁12は、所定方向に往復動するスプールと、油路34と被潤滑部9とを接続するポート12Aと、油路34とオイルパン33とを接続するポート12Bと、スプールを一方向に押圧するバネと、油路34の油圧が作用し、かつ、バネとは逆方向にスプールを押圧するフィードバックポートと、バネと同方向にスプールを押圧する磁気吸引力を生じる電磁コイルとを有している。この調圧弁12は、油路34の油圧が相対的に低い場合は、バネの力でスプールが押圧されてポート12A,12Bが閉じられており、油路34のオイルは被潤滑部9およびオイルパン33へは排出されない。
そして、油路34の油圧が上昇すると、フィードバックポートの油圧によりスプールがバネの力に抗して移動してポート12Aが開き、油路34のオイルが被潤滑部9に排出される。さらに油路34の油圧が上昇すると、スプールがさらに移動して、ポート12A,12Bが共に開き、油路34のオイルが被潤滑部9およびオイルパン33に排出されて、油路34の油圧が制御される。また、調圧弁12においては、電磁コイルへ供給される電流値を制御することにより、スプールがバネの力および磁気吸引力に抗して移動することとなる油路34の油圧を調整することができる。具体的には、電磁コイルへの通電により形成される磁気吸引力を相対的に強くするほど、油路34の油圧が相対的に高くなるまで、油路34のオイルは被潤滑部9およびオイルパン33には排出されない。このようにして、油路34の油圧が制御され、その油圧が制御弁8を経由してトルクコンバータ7に供給される。
一方、油路34は逆止弁13および油路15を介してアキュムレータ(蓄圧器)14に連通されている。その逆止弁13は、オイルポンプ11からアキュムレータ14に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。また、アキュムレータ14は、蓄圧室に弾性体で押圧されたピストンや弾性膨張体などを容器内に収容したものである。すなわち、アキュムレータ14としては、ピストン型またはブラダ型またはダイアフラム型などのうちのいずれを用いてもよい。また、油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とを接続するポートを開閉することのできるソレノイドバルブ39が設けられている。このソレノイドバルブ39への通電および非通電を切り替えることにより、アキュムレータ14の蓄圧室と油路15とが接続または遮断される。したがって、アキュムレータ14の蓄圧室と油路15とが接続されていれば、アキュムレータ14に蓄えられた油圧を、駆動プーリ2におけるアクチュエータ4と、従動プーリ3におけるアクチュエータ5と、C1クラッチ6とに供給することができる。
さらに、図2に示す油圧制御装置32においては、エンジン10により駆動されるオイルポンプ11の他に、電動オイルポンプ28が設けられている。この電動オイルポンプ28を駆動する電動モータ29が設けられている。また、エンジン1によって駆動されて発電する発電機31が設けられており、この発電機31は電動モータ29に接続されている。発電機31は、直流発電機または交流発電機の何れでもよい。したがって、エンジン10の動力で発電機31が発電をおこない、その電力で電動モータ29を駆動することができる。この電動オイルポンプ28の吐出口には逆止弁38を介在させて油路15に接続されている。その逆止弁38は、電動オイルポンプ28から油路15に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。このように構成された油圧制御装置32においては、オイルポンプ11から吐出されたオイルの油圧、および電動オイルポンプ28から吐出されたオイルの油圧をアキュムレータ14に蓄えることができる。
前記アクチュエータ4の油圧室4Aには油路16が接続されており、油路15と油路16とを接続および遮断する供給側電磁開閉弁DSP1が設けられている。この供給側電磁開閉弁DSP1を電気的に制御してオイルの供給経路を開閉することにより、アクチュエータ4に対して圧油を供給し、また圧油の供給を遮断するように構成されている。前記アクチュエータ5の油圧室5Aには油路18が接続されており、油路15と油路18とを接続および遮断する供給側電磁開閉弁DSS1が設けられている。この供給側電磁開閉弁DSS1を電気的に制御して、油路15のオイルをアクチュエータ5に供給する経路を開閉することにより、アクチュエータ5に対して圧油を供給し、また圧油の供給を遮断するように構成されている。さらに、C1クラッチ6の係合および解放を制御する油圧室には油路19が接続されており、油路15と油路19とを接続および遮断する供給側電磁開閉弁DSC1が設けられている。この供給側電磁開閉弁DSC1を電気的に制御してオイルの供給経路を開閉することにより、C1クラッチ6に対して圧油を供給し、また圧油の供給を遮断するように構成されている。
また、アクチュエータ4、5の油圧室、およびC1クラッチ6の油圧室をオイルパン33に連通させる油路17が設けられており、その油路17と油路16とを接続および遮断する排出側電磁開閉弁DSP2が設けられている。この排出側電磁開閉弁DSP2を電気的に制御して、アクチュエータ4のオイルをオイルパン33に排出する経路を開閉することにより、アクチュエータ4の油圧室4Aからオイルパン33に圧油を排出し、また圧油の排出を遮断できるように構成されている。これと同様に、油路18と油路17とを接続および遮断する排出側電磁開閉弁DSS2が設けられている。この排出側電磁開閉弁DSS2を電気的に制御して、アクチュエータ5の油圧室5Aからオイルパン33にオイルを排出する経路を開閉することにより、アクチュエータ5からオイルパン33へ圧油を排出し、また圧油の排出を遮断するように構成されている。
さらに、油路19と油路17とを接続および遮断する排出側電磁開閉弁DSC2が設けられている。この排出側電磁開閉弁DSC2を電気的に制御して、C1クラッチ6の油圧室のオイルをオイルパン33に排出する経路を開閉することにより、C1クラッチ6から圧油をオイルパン33へ排出し、また圧油の排出を遮断できるように構成されている。これらの各電磁開閉弁DSP1,DSS1,DSC1,DSP2,DSS2,DSC2としては、閉弁状態においても油圧の漏れが生じないように構成されたバルブ、例えば、ポペット弁や逆止弁などを用いることができる。なお、図2においては、ソレノイドバルブ39を制御することにより、アキュムレータ14に蓄えられた油圧をアクチュエータ4、5およびC1クラッチ6に供給するように構成されているが、このソレノイドバルブ39を用いずに、各種電磁開閉弁DSP1,DSS1,DSC1,DSP2,DSS2,DSC2の動作を制御することにより、アクチュエータ4、5およびC1クラッチ6に供給する油圧を制御することもできる。
一方、エンジン10および無段変速機1ならびに油圧制御装置32を制御する電子制御装置37が設けられており、電子制御装置37には、車速、アクセルペダルの操作状態、エンジン回転数、ブレーキペダルの操作状態、アキュムレータ14の内圧、無段変速機1の入力回転数および出力回転数、モードスイッチの操作状態、マニュアルシフト装置の操作状態、車両の前後方向における加速度、道路勾配などを検知するセンサやスイッチの信号が入力される。また、車両にはナビゲーションシステムが搭載されている。このナビゲーションシステムは従来知られているものと同様に構成されており、車両の現在位置を検知する機能、目的地までの走行予定経路を検索する機能、走行予定経路の道路状況を検知および表示するする機能などを備えている。このナビゲーションシステムと電子制御装置37との間で信号の授受がおこなわれるように構成されている。また、電子制御装置37には、エンジン10の出力、無段変速機1の変速比およびトルク容量、C1クラッチ6の係合および解放、アキュムレータ14の蓄圧を制御するマップや演算式などが記憶されている。
上述した油圧制御装置32の作用について説明する。オイルポンプ11とエンジン10との間に設けられたクラッチが係合されていると、エンジン10が回転するとオイルポンプ11が駆動されて圧油を吐出する。そのエンジン10の回転は、エンジン10に燃料が供給されて自律回転している場合、または、燃料の供給および点火を止めて車両の走行慣性力で強制的に回転させられている場合のいずれでも生じる。すなわち、エンジン10の駆動時とエンジンブレーキ状態の被駆動時とのいずれであってもオイルポンプ11が回転して油圧を発生する。こうして発生した油圧は、調圧弁12によって設計上、予め定めた低油圧に調圧された後、前記制御弁8を介してトルクコンバータ7に供給され、また被潤滑部9に供給される。
他方、オイルポンプ11はエンジン10の動作状態に応じた油圧を発生するので、急加速時や大きいエンジンブレーキ力を生じさせている場合などにおいては、オイルポンプ11の吐出圧が高くなる。このような場合に生じた高油圧は、逆止弁13を押し開いてアキュムレータ14に供給される。また、逆止弁13は、オイルポンプ11の吐出圧がアキュムレータ14での油圧より低い場合に閉じるから、アキュムレータ14に供給された高油圧はここに蓄えられることになる。
無段変速機1のトルク容量はベルト35の滑りを防止できるように制御され、これは従動プーリ3のアクチュエータ5に供給される油圧に応じた挟圧力によって設定される。より具体的に説明すると、アクセル開度やスロットル開度などに基づいて要求駆動力が求められ、この要求駆動力に基づいて目標エンジントルクが求められる。そして、無段変速機1に入力されるトルク、ベルト35の滑りを防止することなどのパラメータに基づいて油圧室5Aにおける目標油圧が求められ、その目標油圧に基づいて油圧室5Aの実際の油圧が制御される。これらのパラメータに基づいて油圧室5Aの目標油圧を求めるマップあるいは演算式が、電子制御装置37に予め記憶されている。例えば、無段変速機1に入力されるトルクが上昇する場合は、油圧室5Aの油圧を上昇させる制御がおこなわれる。図2に示す油圧制御装置32では、従動プーリ3のアクチュエータ5に連通する供給側電磁開閉弁DSS1を開弁し、排出側電磁開閉弁DSS2を閉じて油圧室5Aに油圧を供給することにより、油圧室5Aの油圧を上昇させることができる。このようにして、無段変速機1のトルク容量が上昇される。
これに対して、無段変速機1に入力されるトルクが低下する場合は、油圧室5Aの油圧を低下させる制御がおこなわれる。図2に示す油圧制御装置32では、従動プーリ3のアクチュエータ5に連通する供給側電磁開閉弁DSS1を閉じ、排出側電磁開閉弁DSS2を開き、油圧室5Aからオイルを排出することにより、油圧室5Aの油圧を低下させることができる。このようにして、無段変速機1のトルク容量が低下される。なお、無段変速機1に入力されるトルクが一定である場合は、供給側電磁開閉弁DSS1を閉じ、かつ、排出側電磁開閉弁DSS2を閉じて、油圧室5Aにオイルを閉じこめて、トルク容量を一定に制御する。
つぎに、無段変速機1における変速比の制御について説明する。まず、車速およびアクセルペダルの操作状態(アクセル開度)に基づいて、車両における要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて目標エンジン出力が求められる。さらに、実際のエンジン出力を目標エンジン出力に基づいて制御するにあたり、エンジン10の運転状態が最適燃費線に沿ったものとなるように、目標エンジン回転数および目標エンジン出力が求められる。そして、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、無段変速機1の変速比が制御される。この無段変速機1の変速比の制御は、油圧室4Aにおける圧油の流量を制御することによりおこなわれる。具体的には、無段変速機1の目標変速比に基づいて、油圧室4Aにおける圧油の目標流量を求めるマップあるいは演算式が電子制御装置37に記憶されており、その目標流量に基づいて供給側電磁開閉弁DSP1および排出側電磁開閉弁DSP2を開閉することにより、油圧室4Aにおける実際の圧油の流量が制御される。
例えば、無段変速機1の変速比を相対的に小さくする制御(アップシフト)をおこなうために、駆動プーリ2の溝幅を狭くする(ベルト35の巻き掛け半径を大きくする)場合には、供給側電磁開閉弁DSP1が開制御されてアクチュエータ4に対して圧油が供給される。また反対に、無段変速機1の変速比を相対的に大きくする制御(ダウンシフト)をおこなうために、駆動プーリ2の溝幅を広くする(ベルト35の巻き掛け半径を小さくする)場合には、排出側電磁開閉弁DSP2が開制御されてアクチュエータ4からオイルがオイルパン33へ排出される。なお、無段変速機1の変速比を固定する場合は、供給側電磁開閉弁DSP1および排出側電磁開閉弁DSP2が共に閉状態に制御され、油圧室4Aにオイルが閉じ込められる。
このように、基本的にはエンジン出力が最適燃費線に沿ったものとなるように、無段変速機1の変速比が制御される。一方、運転者により操作されるマニュアルシフト装置が設けられており、そのマニュアルシフト装置が操作された場合は、無段変速機1の変速比をステップ的に変更(アップシフトおよびダウンシフト)する制御をおこなうことができるように構成されている。このマニュアルシフト装置が運転者により操作された場合は、最適燃費線に基づく無段変速機1の変速比の制御はおこなわれず、無段変速機1の変速比は、マニュアルシフト装置の操作により選択された変速比に固定される。
そして、アクセル開度および車速がほぼ一定に維持される定常走行状態では、無段変速機1の変速比、および従動プーリ3からベルト35に与えられる挟圧力を一定に維持することになる。その場合、無段変速機1についての各電磁開閉弁DSP1,DSP2,DSS1,DSS2を閉状態に制御して、各アクチュエータ4,5の油圧室に圧油を封じ込める。この状態で、各電磁開閉弁DSP1,DSP2,DSS1,DSS2からの油圧の漏洩は生じない。
さらに、車両が走行する場合、C1クラッチ6を係合させて、エンジン10のトルクを駆動輪36に伝達する。したがってC1クラッチ6は走行に要する大きいトルクを伝達することになるので、C1クラッチ6の油圧を上昇させる。すなわち、車両が発進する場合は、供給側電磁開閉弁DSC1に通電してこれを開制御し、C1クラッチ6に対して油圧を供給することによりC1クラッチ6を係合させる。これに対して、C1クラッチ6を解放する場合には、排出側電磁開閉弁DSC2を開に制御してC1クラッチ6から排圧する。そして、これらC1クラッチ6についての各電磁開閉弁DSC1,DSC2も、前述した無段変速機1についての各電磁開閉弁DSP1,DSP2,DSS1,DSS2と同様に、油圧の実質的な漏洩の生じないものである。
図2に示された油圧制御装置32においては、オイルポンプ11またはオイルポンプ28から吐出されたオイルを、油路15を経由させて油圧室4A,5A、C1クラッチ6の油圧室などに供給することができる。また、オイルポンプ11またはオイルポンプ28から吐出されたオイルが油路15に供給されたときに、ソレノイドバルブ39を制御して油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とを接続すると、油路15のオイルの油圧をアキュムレータ14に蓄えることができる。さらに、アキュムレータ14に油圧が蓄えられた後に、ソレノイドバルブ39を制御して油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とを遮断すると、アキュムレータ14内の圧力は油路15へ放出されない。さらに、アキュムレータ14に油圧が蓄えられた後に、ソレノイドバルブ39を制御して油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とを接続し、アキュムレータ14内の圧力を油路15へ放出して、油圧室4A,5A、C1クラッチ6の油圧室に供給することもできる。このとき、油圧室4A,5A、C1クラッチ6における油圧またはオイル量の制御は、各電磁開閉弁DSP1,DSS1,DSC1によりおこなう。
つぎに、アキュムレータ14の蓄圧を含む車両の制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、エンジン10の燃料を消費せずにオイルポンプ11またはオイルポンプ28が駆動中であるか否かが判断される(ステップS1)。例えば、アクセルペダルが戻されて車両が惰力走行し、かつ、エンジン10でフューエルカット制御がおこなわれているときに、車両の運動エネルギがエンジン10を経由してオイルポンプ11に伝達されて、そのオイルポンプ11が駆動されているのであれば、ステップS1で肯定的に判断されてステップS2の制御をおこないスタートに戻る。また、アクセルペダルが戻されて車両が惰力走行し、かつ、エンジン10でフューエルカット制御がおこなわれているときに、車両の運動エネルギがエンジン10を経由しておりオルタネータ31に伝達されて発電がおこなわれ、その電力が電動モータ29に供給されて電動モータ29が駆動され、電動オイルポンプ28が駆動されている場合も、ステップS1で肯定的に判断されてステップS2に進む。
このステップS2においては、アキュムレータ14の内圧が最大圧になるように、アキュムレータ14に常時蓄圧をおこない、この制御ルーチンを終了する。アキュムレータ14の最大圧とは、アキュムレータ14のブラダまたはピストンの仕様から定まる内圧もしくはシステム全体の耐圧性能から決まる圧力の上限値である。すなわち、アキュムレータ14の蓄圧室にオイルが満杯に供給されたときの内圧が上限値である。また、「アキュムレータ14に常時蓄圧をおこない」とは、ソレノイドバルブ39を制御して油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とを接続し、油路15の油圧に関わりなくアキュムレータ14にオイルの油圧を蓄えるという意味である。
これに対して、ステップS1の判断時点で、エンジン10に燃料が供給されて自律回転し、そのエンジン10の動力でオイルポンプ11が駆動されているのであればステップS1で否定的に判断される。また、エンジン10に燃料が供給されて自律回転し、そのエンジン10の動力でオルタネータ31が発電をおこない、その電力が電動モータ29に供給されて電動モータ29が駆動され、電動オイルポンプ28が駆動されている場合も、ステップS1で否定的に判断される。
このように、ステップS1で否定的に判断された場合は、エンジントルクが駆動輪に伝達されて車両が走行中であるか否かが判断される(ステップS3)。このステップS3で肯定的に判断された場合は、アキュムレータ14で蓄圧を開始する基準となる油路15の油圧を車速に応じて変更し(ステップS4)、スタートに戻る。
このステップS4の制御を具体的に説明する。車両1の走行中にアクセルペダルが踏み込まれて無段変速機1でダウンシフト(キックダウン)をおこなう際には、油圧室5Aの油圧を高める必要があるが、その必要圧は車速に応じて異なる。そこで、車速から必要圧を求めるために図3のマップが電子制御装置37に記憶されている。図3のマップにおいては横軸に車速が示され、縦軸に必要圧が示されている、車速が相対的に高くなるほど必要圧が相対的に高くなる傾向にある。ここで、必要圧とは、油圧室5Aにおける目標油圧に相当する値であり、その時点における車速から必要圧を求める。そして、ステップS4においては、アキュムレータ14で蓄圧を開始する油圧の下限を定める基準油圧を、図3の必要圧を超える値に設定する。また、基準油圧とは、アキュムレータ14で蓄圧をおこなうか否かを決定する閾値であり、油路15の油圧が基準油圧以上であればアキュムレータ14への蓄圧がおこなわれ、油路15の油圧が基準油圧未満ではアキュムレータ14への蓄圧はおこなわれない。
一方、前記ステップS3で否定的に判断された場合は、車両が登坂路で停車中であること、または、現在の運転者(ドライバ)が停車している車両を急発進させることを好む運転者であることのいずれかの条件が成立しているか否かが判断される(ステップS5)。車両が登坂路で停車中であるか否かは、道路勾配センサまたは加速度センサの信号から判断することができる。あるいは、ナビゲーションシステムの地図情報を用いて、車両が登坂路で停止しているか否かを判断することもできる。急発進を好む運転者であるか否かは、アクセルペダルの踏み込み量、またはアクセルペダルの踏み込み速度などに基づいて判断することができる。ここで、急発進には、アクセルペダルの踏み込み速度が相対的に速い場合、あるいはアクセルペダルの踏み込み量が相対的に多い場合の他に、ストール発進が含まれる。これは、ブレーキペダルおよびアクセルペダルを同時に踏み込んでエンジン回転数を相対的に高くした後、ブレーキペダルを戻して急発進するものである。
このステップS5で肯定的に判断された場合は、無段変速機1またはC1クラッチ6の油圧室における必要圧が、ステップS4に比べて高くなるため、アキュムレータ14に蓄圧を開始する基準油圧を相対的に高く設定し(ステップS6)、スタートに戻る。この、ステップS6で設定される基準油圧は、道路勾配、急発進時のアクセルペダルの操作状態などの条件を考慮して、実験またはシミュレーションによって求めた値であり、電子制御装置37にマップ化されて記憶されている。また、ステップS6で設定される基準油圧は、ステップS4で設定される基準油圧よりも高い。
これに対して、ステップS5の判断時点において、車両が平坦路で停止してエンジン10がアイドリング状態にあること、または車両が停止してエンジン10が停止している状態にあることが検知されたときは、ステップS5で否定的に判断されて、アキュムレータ14で蓄圧を開始する基準油圧を相対的に低く設定し(ステップS7)、スタートに戻る。前記平坦路は前記登坂路に比べて道路勾配が相対的に小さい。そして、ステップS5で否定的に判断されるということは、動力伝達装置で伝達されるトルクが相対的に低いことになる。つまり、油圧室5Aの目標油圧、C1クラッチ6の油圧室の目標油圧は、ステップS4に進んだときよりも低くなる。したがって、ステップS7において、相対的に低い基準油圧からアキュムレータ14の蓄圧を開始しても、油圧室5AおよびC1クラッチ6の油圧室における圧油の供給不足は生じない。これが、ステップS7で設定される基準油圧を、ステップS4で設定される基準油圧よりも低くした理由である。なお、ステップS7で設定される基準油圧も、予め電子制御装置37に記憶されている。
なお、ステップS6,S7の制御における基準油圧の意味は、ステップS4における基準油圧の意味と同じである。つまり、ステップS4,S6,S7の制御をおこなうと、油路15の油圧が基準油圧未満であるときは、ソレノイドバルブ39が制御されて油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とが遮断されてアキュムレータ14による蓄圧はおこなわれない。これとは逆に、油路15の油圧が基準油圧以上であれば、ソレノイドバルブ39が制御されて油路15とアキュムレータ14の蓄圧室とが接続されて、アキュムレータ14で蓄圧がおこなわれる。また、ステップS4,S6,S7に進んでアキュムレータ14で蓄圧をおこなう制御には、停止しているオイルポンプを駆動させ、かつ、そのオイルポンプから吐出されたオイルの油圧をアキュムレータ14に蓄圧する制御と、オイルポンプが駆動されているがアキュムレータ14への蓄圧がおこなわれていない状態から、その駆動されているオイルポンプから吐出されるオイルをアキュムレータ14に蓄圧する制御とが含まれる。
このように、図1の制御を実行すると、エンジン10で燃料を消費せずにアキュムレータ14に油圧を蓄えることができる条件では、アキュムレータ14の内圧が最大圧となるまで常時蓄圧をおこなうが、エンジン10の動力により駆動されるオイルポンプ11、または電動モータ29の動力で駆動されるオイルポンプ28のうち、少なくとも一方から吐出されたオイルの油圧をアキュムレータ14に蓄圧するときは、アキュムレータ14に常時蓄圧されるわけではない。具体的には、車速、道路勾配、運転者の特性のうちの少なくとも1つの条件に基づいて基準油圧を求め、油路15の油圧が基準油圧以上である場合はアキュムレータ14で蓄圧がおこなわれるのに対して、油路15の油圧が基準油圧未満である場合は、アキュムレータ14への蓄圧はおこなわれない。したがって、オイルポンプ11を駆動するエンジン10の動力、またはオイルポンプ11を間接的に駆動するエンジン10の動力が、不必要に消費されることを抑制でき、エンジン10における燃料消費量の増加を抑制できる。
なお、上記の説明では、主として油圧室5Aの目標油圧に基づいて、基準油圧を求める例を説明しているが、C1クラッチの油圧室における目標油圧に基づいて、基準油圧を求めるようにしてもよい。このC1クラッチもトルク容量を制御する機構であり、目標トルクが相対的に高いほど目標油圧が相対的に高くなる。そして、C1クラッチの目標油圧が相対的高いほど、基準油圧が相対的に高くなるようなマップまたは演算式を電子制御装置37に予め記憶しておけばよい。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS3が、この発明の判断手段に相当し、ステップS4が、この発明の第1の蓄圧制御手段に相当し、ステップS5,S6,S7が、この発明の第2制御手段に相当する。また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、エンジン10が、この発明の動力源に相当し、無段変速機1が、この発明の動力伝達装置に相当し、油圧室4A,5A、クラッチC1の油圧室が、この発明の油圧室に相当し、オイルポンプ11,28が、この発明のオイルポンプに相当し、油路15が、この発明の供給経路に相当し、アキュムレータ14が、この発明のアキュムレータに相当する。
なお、駆動プーリの油圧室の油圧に基づいて無段変速機の変速比が制御されるように構成されているとともに、従動プーリの油圧室における圧油の流量に基づいて無段変速機のトルクが制御されるように構成されている車両においても、図1のフローチャートを実行できる。例えば、変速比を制御する油圧室の目標油圧に基づいて、各ステップで設定される基準油圧を設定できるように、予め電子制御装置にマップや演算式を記憶しておくことができる。あるいは、トルクを制御する油圧室の目標流量に基づいて、各ステップで設定される基準油圧を設定できるように、予め電子制御装置にマップや演算式を記憶しておくことができる。具体的には、目標流量が相対的に多くなるほど、基準油圧が相対的に高くなるようにすればよい。
また、駆動プーリの油圧室の油圧に基づいて無段変速機の変速比が制御されるように構成されているとともに、従動プーリの油圧室の油圧に基づいて無段変速機のトルクが制御されるように構成されている車両においても、図1のフローチャートを実行できる。この場合、両方の油圧室の目標油圧のうち、高い方の目標油圧に基づいて、各ステップで設定される基準油圧を設定できるように、予め電子制御装置にマップや演算式を記憶しておけばよい。
さらに、駆動プーリの油圧室における圧油の流量に基づいて無段変速機の変速比が制御されるように構成されているとともに、従動プーリの油圧室における圧油の流量に基づいて無段変速機のトルクが制御されるように構成されている車両においても、図1のフローチャートを実行できる。この場合、両方の油圧室の目標流量のうち、高い方の目標流量に基づいて、各ステップで設定される基準油圧を設定できるように、予め電子制御装置にマップや演算式を記憶しておけばよい。具体的には、目標流量が相対的に多くなるほど、基準油圧が相対的に高くなるようにすればよい。
さらに、駆動輪にトルクを伝達する動力源としてモータ・ジェネレータが設けられており、そのモータ・ジェネレータのトルクによりオイルポンプが駆動されるように構成されている車両においても、図1の制御例を実行できる。この場合、ステップS1では、車両が惰力走行し、かつ、その運動エネルギがオイルポンプに伝達されて駆動されているか否かが判断され、そのステップS1で肯定的に判断された場合はステップS2に進む。このステップS2では、モータ・ジェネレータを駆動するための電力が消費されていないのであるから、アキュムレータで常時蓄圧をおこなう。
これに対して、そのステップS1で否定的に判断された場合は、ステップS3でモータ・ジェネレータのトルクにより車両が走行中であるか否かが判断される。このステップS3で肯定的に判断された場合はステップS4に進む。これに対して、ステップS5の判断時点において、車両が平坦路で停止してモータ・ジェネレータが停止している状態にあると、ステップS5で否定的に判断されて、ステップS7に進む。このように、駆動輪にトルクを伝達するモータ・ジェネレータが設けられている車両においても、図1の制御例を実行可能であり、その車両において図1の制御例を実行すると、ステップS4,S6,S7に進んだ場合もオイルポンプを駆動するモータ・ジェネレータの消費電力が不必要に増加することを抑制できる。また、図2に示された車両においては、複数のオイルポンプが設けられているが、アキュムレータが接続された油路に供給する圧油を吐出する一台のオイルポンプが設けられている車両においても、図1の制御例を実行できる。
なお、ステップS5において、車両が停止している道路勾配が予め定められた所定値以上であるか否かを判断し、そのステップS5で肯定的に判断された場合にステップS6に進み、そのステップS5で否定的に判断された場合にステップS7に進むようにしてもよい。また、図1のフローチャートにおいては、車両が走行中であるか否かを判断し、車両が走行中である場合に、車速に基づいて基準油圧を求めるルーチンが示されているが、ステップS1で否定的に判断された場合にステップS3の判断をおこなうことなく、ステップS4に進むルーチンを採用することも可能である。この場合、ステップS5,S6,S7はおこなわれない。
さらに、図1のフローチャートにおいては、車両が走行中であるか否かを判断し、車両が走行中である場合に、車速に基づいて基準油圧を求めるルーチンが示されているが、ステップS1で否定的に判断された場合にステップS3の判断をおこなうことなく、ステップS5に進むルーチンを採用することも可能である。この場合、ステップS4はおこなわれない。さらにまた、ステップS1で否定的に判断された場合に、ステップS3をおこなうことなくステップS5に進み、そのステップS5では道路勾配または運転者の特性のいずれか一方のみを判断し、その判断結果に基づいてステップS6またはステップS7に進むルーチンを採用することもできる。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS3が、この発明の判断手段に相当し、ステップS4,S5,S6,S7が、この発明の蓄圧制御手段に相当する。また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、エンジン10が、この発明の動力源に相当し、無段変速機1が、この発明の動力伝達装置に相当し、油圧室4A,5A、クラッチC1の油圧室が、この発明の油圧室に相当し、オイルポンプ11,28が、この発明のオイルポンプに相当し、油路15が、この発明の供給経路に相当し、アキュムレータ14が、この発明のアキュムレータに相当し、駆動輪36が、この発明の駆動輪に相当する。