つぎに、この発明を具体例を参照して説明する。この実施例では、車両の動力源から駆動輪に至る経路に無段変速機を配置する場合について説明する。図2には、車両に搭載されている無段変速機1と、この無段変速機1を制御する油圧制御装置とを模式的に示してある。その無段変速機1は、従来知られているベルト式のものであり、駆動プーリ2と従動プーリ3とにベルトVを巻き掛けてこれらのプーリ2,3の間でトルクを伝達し、かつ各プーリ2,3に対するベルトVの巻き掛け半径を変化させることにより、変速比を変化させるように構成されている。
より具体的に説明すると、各プーリ2,3は、固定シーブ(固定片)とその固定シーブに対して接近および離隔することができるように配置された可動シーブ(可動片)とを備え、それらの固定シーブと可動シーブとの間にV溝状のベルト巻き掛け溝が形成されている。また、駆動プーリ2の可動シーブを軸線に沿った方向に移動させるための油圧アクチュエータ4が設けられている。さらに、従動プーリ3の可動シーブを軸線に沿った方向に移動させるための油圧アクチュエータ5が設けられている。それらの油圧アクチュエータ4,5のうちのいずれか一方、例えば従動プーリ3における油圧アクチュエータ5の油圧室5Aには、従動プーリ3がベルトVを挟み付ける挟圧力を発生させる油圧が供給される。また前記油圧アクチュエータ4,5のうちの他方、例えば駆動プーリ2における油圧アクチュエータ4の油圧室4Aには、ベルトVの巻き掛け半径を変化させて変速を行うための油圧が供給される。
つぎに、上記の油圧アクチュエータ4,5に対して油圧を給排する油圧制御装置6の構成を説明する。図2に示す油圧制御装置6は、車両に搭載されている動力源7によって駆動されるオイルポンプ8を有している。この動力源7は、車両の駆動輪(図示せず)に伝達する動力を発生するもの、あるいはオイルポンプ8を駆動するために専用に設けられたもののいずれであってもよい。つまり、動力源7はオイルポンプ8を駆動する動力を発生することができる動力装置であればよく、動力源7は、内燃機関、電動モータ、フライホイールなどがのうち、少なくとも1つを用いることができる。
この実施例においては、動力源7としてエンジンが用いられている場合について説明し、以下、便宜上「エンジン7」と記す。このエンジン7は、電子スロットルバルブ(図示せず)の開度を制御することにより出力トルクを制御することができるように構成されており、エンジン7と駆動プーリ2とが動力伝達可能に接続されている。このエンジン7と駆動プーリ2との間の動力伝達経路には、前後進切換装置または流体伝動装置などが設けられていてもよい。この前後進切換装置はエンジン7の出力軸の回転方向に対して、駆動プーリ2の回転方向を正逆に切り換えることのできる装置である。この前後進切換装置は、遊星歯車機構および摩擦係合装置を備えており、その摩擦係合装置の係合および解放を切り換えることにより、駆動プーリ2に伝達されるトルクの向きを切り換えることができるように構成されている。また、流体伝動装置は流体の運動エネルギにより動力伝達をおこなう装置であり、流体伝動装置と並列にロックアップクラッチが設けられている。
一方、オイルポンプ8の吸入口9はオイルパン10に接続されている。さらに、オイルポンプ8の吐出口には油路11が接続されており、油路11には、逆止弁12および油路13を介してアキュムレータ(蓄圧器)14が接続されている。その逆止弁12は、オイルポンプ8からアキュムレータ14に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。また、アキュムレータ14は、蓄圧室に弾性体で押圧されたピストンや弾性膨張体などを容器内に収容し、その弾性力以上の圧力で油圧を蓄えるように構成されている。
前記アキュムレータ14から油圧室4Aに圧油を供給する経路には、供給側電磁開閉弁DSP1が設けられている。この供給側電磁開閉弁DSP1は、電磁コイル、電磁コイルへの通電および非通電により移動するプランジャ、プランジャの移動により接続または遮断される入力ポート15および出力ポート16を有している。この入力ポート15が油路13に接続され、出力ポート16が油路17を介して油圧室4Aに接続されている。この供給側電磁開閉弁DSP1を電気的に制御することにより、入力ポート15と出力ポート16とを接続または遮断することができる。この入力ポート15と出力ポート16とが接続された状態が、供給側電磁開閉弁DSP1の「開」であり、入力ポート15と出力ポート16とが遮断された状態が、供給側電磁開閉弁DSP1の「閉」である。
また、供給側電磁開閉弁DSP1は、電磁コイルへの通電と非通電とを切り替えることのできるオン・オフ型のソレノイドバルブ、または電磁コイルへの通電の割合(デューティ比)を制御することのできるデューティソレノイドバルブ、あるいは電流値をリニアに制御することのできるリニアソレノイドバルブのいずれであってもよい。この供給側電磁開閉弁DSP1がオン・オフ型のソレノイドバルブである場合は、電磁コイルに通電して供給側電磁開閉弁DSP1を「開」とする時間を制御することにより、油圧室4Aに供給されるオイルの流量を制御することができる。一方、供給側電磁開閉弁DSP1がデューティソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電および非通電を交互に繰り返して、供給側電磁開閉弁DSP1の「開」と「閉」とを交互に切り替えるとともに、デューティ比を制御することにより、油圧室4Aに供給されるオイルの流量を制御することができる。さらに、供給側電磁開閉弁DSP1がリニアソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電電流値を制御することにより、供給側電磁開閉弁DSP1を「開」とし、かつ、入力ポート15と出力ポート16との連通面積を制御することにより、油圧室4Aに供給されるオイルの流量を制御することができる。なお、供給側電磁開閉弁DSP1を常時「閉」とすると、オイルポンプ8またはアキュムレータ14の油圧は油圧室4Aに供給されなくなる。
また、油圧室4Aの圧油をオイルパン10に排出する経路に排出側電磁開閉弁DSP2が設けられている。この排出側電磁開閉弁DSP2は、電磁コイル、電磁コイルへの通電および非通電により移動するプランジャ、プランジャの移動により接続または遮断される入力ポート18およびドレーンポート19を有している。この入力ポート18が油路17に接続され、ドレーンポート19がオイルパン10に接続されている。この供給側電磁開閉弁DSP2を電気的に制御することにより、入力ポート18とドレーンポート19とを接続または遮断することができる。この入力ポート18とドレーンポート19とが接続された状態が、排出側電磁開閉弁DSP2の「開」であり、入力ポート18とドレーンポート19とが遮断された状態が、排出側電磁開閉弁DSP2の「閉」である。
また、排出側電磁開閉弁DSP2は、電磁コイルへの通電と非通電とを切り替えることのできるオン・オフ型のソレノイドバルブ、または電磁コイルへの通電の割合(デューティ比)を制御することのできるデューティソレノイドバルブ、あるいはリニアソレノイドバルブのいずれであってもよい。この排出側電磁開閉弁DSP2がオン・オフ型のソレノイドバルブである場合は、電磁コイルに通電して排出側電磁開閉弁DSP2を「開」とする時間を制御することにより、油圧室4Aからオイルパン10に排出されるオイルの流量を制御することができる。一方、排出側電磁開閉弁DSP2がデューティソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電および非通電を交互に繰り返して、排出側電磁開閉弁DSP2の「開」と「閉」とを交互に切り替えるともに、デューティ比を制御することにより、油圧室4Aからオイルパン10に排出されるオイルの流量を制御することができる。さらに、排出側電磁開閉弁DSP2がリニアソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電電流値を制御することにより、排出側電磁開閉弁DSP2を「開」とし、かつ、入力ポート18とドレーンポート19との連通面積を制御することにより、油圧室4Aから排出されるオイルの流量を制御することができる。なお、排出側電磁開閉弁DSP2を常時「閉」とすると、油圧室4Aのオイルはオイルパン10に排出されなくなる。
一方、油路13から油圧室5Aに圧油を供給する経路には、供給側電磁開閉弁DSS1が設けられている。この供給側電磁開閉弁DSS1は、電磁コイル、電磁コイルへの通電および非通電により移動するプランジャ、プランジャの移動により接続または遮断される入力ポート20および出力ポート21を有している。この入力ポート20が油路13に接続され、出力ポート21が油路22を介して油圧室5Aに接続されている。この供給側電磁開閉弁DSS1を電気的に制御することにより、入力ポート20と出力ポート21とを接続または遮断することができる。この入力ポート20と出力ポート21とが接続された状態が、供給側電磁開閉弁DSS1の「開」であり、入力ポート20と出力ポート21とが遮断された状態が、供給側電磁開閉弁DSS1の「閉」である。
また、供給側電磁開閉弁DSS1は、電磁コイルへの通電と非通電とを切り替えることのできるオン・オフ型のソレノイドバルブ、または電磁コイルへの通電の割合(デューティ比)を制御することのできるデューティソレノイドバルブ、またはリニアソレノイドバルブのいずれであってもよい。この供給側電磁開閉弁DSS1がオン・オフ型のソレノイドバルブである場合は、電磁コイルに通電して供給側電磁開閉弁DSS1を「開」とする時間を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御する(高める)ことができる。一方、供給側電磁開閉弁DSS1がデューティソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電および非通電を交互に繰り返して、供給側電磁開閉弁DSS1の「開」と「閉」とを交互に切り替えるとともに、デューティ比を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御する(高める)ことができる。この油圧室5Aの油圧が相対的に高くなるほど、従動プーリ3からベルトVに加えられる挟圧力が相対的に高くなる。さらに、供給側電磁開閉弁DSS1がリニアソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電電流値を制御することにより、供給側電磁開閉弁DSS1を「開」とし、かつ、入力ポート20と出力ポート21との連通面積を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御することができる。なお、供給側電磁開閉弁DSS1を常時「閉」とすると、オイルポンプ8またはアキュムレータ14の油圧は油圧室5Aに供給されなくなる。
また、油圧室5Aの圧油をオイルパン10に排出する経路には排出側電磁開閉弁DSS2が設けられている。この排出側電磁開閉弁DSS2は、電磁コイル、電磁コイルへの通電および非通電により移動するプランジャ、プランジャの移動により接続または遮断される入力ポート23およびドレーンポート24を有している。この入力ポート23が油路22に接続され、ドレーンポート24がオイルパン10に接続されている。この供給側電磁開閉弁DSS2を電気的に制御することにより、入力ポート23とドレーンポート24とを接続または遮断することができる。この入力ポート23とドレーンポート24とが接続された状態が、排出側電磁開閉弁DSS2の「開」であり、入力ポート23とドレーンポート24とが遮断された状態が、排出側電磁開閉弁DSS2の「閉」である。
また、排出側電磁開閉弁DSS2は、電磁コイルへの通電と非通電とを切り替えることのできるオン・オフ型のソレノイドバルブ、または電磁コイルへの通電の割合(デューティ比)を制御することのできるデューティソレノイドバルブ、またはリニアソレノイドバルブのいずれであってもよい。この排出側電磁開閉弁DSS2がオン・オフ型のソレノイドバルブである場合は、電磁コイルに通電して排出側電磁開閉弁DSS2を「開」とする時間を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御する(低下させる)ことができる。一方、排出側電磁開閉弁DSS2がデューティソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電および非通電を交互に繰り返して、排出側電磁開閉弁DSS2の「開」と「閉」とを交互に切り替えるともに、デューティ比を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御する(低下させる)ことができる。さらに、排出側電磁開閉弁DSS2がリニアソレノイドバルブである場合は、電磁コイルへの通電電流値を制御することにより、排出側電磁開閉弁DSS2を「開」とし、かつ、入力ポート23とドレーンポート24との連通面積を制御することにより、油圧室5Aの油圧を制御することができる。なお、排出側電磁開閉弁DSS2を常時「閉」とすると、油圧室5Aのオイルはオイルパン10に排出されなくなる。
これらの開閉弁DSP1,DSS1,DSP2,DSS2は、閉弁状態においても油圧の漏れが生じないように構成されたバルブであり、例えば、ポペット弁によって構成されている。このポペット弁は、先端部がテーパ状もしくは半球状に形成された弁体と、その弁体が押し付けられる弁座シート部とを有する公知のものである。なお、特に図示はしないが、オイルポンプ8から吐出されたオイルを、前後進切換装置の摩擦係合装置の係合および解放を制御する油圧室に供給する油路が設けられていてもよい。また、特に図示はしないが、オイルポンプ8の他に別の動力源により駆動されるオイルポンプを設け、そのオイルポンプから吐出されたオイルにより、ロックアップクラッチの係合および解放を制御するように構成されていてもよい。さらには、そのオイルポンプから吐出されたオイルが潤滑系統に供給されるように構成されていてもよい。
前記の動力源7、無段変速機1の変速比およびトルク容量、前後進切換装置の摩擦係合装置の係合および解放、ロックアップクラッチの係合および解放などを制御する電子制御装置25が設けられている。この電子制御装置25には、シフトポジション、エンジン回転数、車速、無段変速機1の入力回転数および出力回転数、アクセル開度などを検出するセンサやスイッチの信号が入力される。この電子制御装置25に入力される信号、および電子制御装置25に予め記憶されているデータに基づいてエンジン出力、無段変速機1の変速比およびトルク容量が制御される。例えば、車速およびアクセル開度に基づいて車両における要求駆動力が求められる。この要求駆動力に基づいて目標エンジン出力が求められる。この目標エンジン出力に基づいて、エンジン回転数およびエンジントルクを制御するにあたり、エンジン7の運転状態を最適燃費線に沿ったものとするために、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、無段変速機1の変速比を制御する。また、実際のエンジントルクを目標エンジントルクに近づけるように、電子スロットルバルブの開度を制御する。
例えば、前記無段変速機1の変速比を相対的に大きくするダウンシフトをおこなう場合は、供給側電磁開閉弁DSP1を「閉」状態に制御するとともに、排出側電磁開閉弁DSP2を制御して、油圧室4Aのオイルをオイルパン10へ排出し、油圧室4Aのオイル量を減少させる。すると、ベルトVの張力によりプライマリプーリ2におけるベルトVの巻き掛け半径が相対的に小さくなるような変速、つまりダウンシフトが生じる。これに対して、前記無段変速機1の変速比を相対的に小さくするアップシフトをおこなう場合は、排出側電磁開閉弁DSP2を「閉」状態に制御し、かつ、供給側電磁開閉弁DSP1を制御することにより、油圧室4Aのオイル量を増加する。このようにして、油圧室4Aのオイル量を増加すると、プライマリプーリ2の溝幅が狭められて、プライマリプーリ2におけるベルトVの巻き掛け半径が相対的に大きくなるような変速、つまりアップシフトが生じる。
さらに、前記無段変速機1の変速比を一定に維持する場合は、供給側電磁開閉弁DSP1を「閉」状態に制御し、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2を「閉」状態に制御する。この制御により、油圧室4Aにオイルが閉じこめられて油圧室4Aのオイル量が一定となり、無段変速機4の変速比が一定に維持される。このようにして、無段変速機1の変速比を制御する場合、アップシフト制御またはダウンシフト制御、さらに変速比を一定にする制御のいずれにおいても、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との偏差を求め、その偏差を相対的に小さくするようにフィードバック制御(FB制御)が実行される。
このフィードバック制御には、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との偏差を相対的に小さくする制御をおこなうにあたり、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数とに偏差が生じている時間に比例して、その制御に用いる操作量を変化させる積分動作が含まれる。例えば、各電磁開閉弁がオン・オフ型のソレノイドバルブであるときは、各電磁開閉弁を「開」または「閉」とする時間が積分項に相当する。また、各電磁開閉弁がデューティソレノイドバルブであるときは、各電磁開閉弁の電磁コイルにおけるデューティ比が積分項に相当する。さらに、各電磁開閉弁がリニアソレノイドバルブであるときは、各電磁開閉弁を「開」とするときの連通面積が積分項に相当する。
つぎに、無段変速機1のトルク容量の制御について説明する。無段変速機1のトルク容量を増加する場合は、排出側電磁開閉弁DSS2を「閉」とし、かつ、供給側電磁開閉弁DSS1を制御して油圧室5Aの油圧を高める。この制御により、従動プーリ3からベルトVに加えられる挟圧力が増加し、トルク容量が高められる。これに対して、無段変速機1のトルク容量を低下させる場合は、供給側電磁開閉弁DSS1を「閉」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSS2を制御して油圧室5Aの圧油をオイルパン10に排出させる。この制御により、従動プーリ3からベルトVに加えられる挟圧力が低下し、無段変速機1のトルク容量が低下する。さらに、無段変速機1のトルク容量を一定に維持する場合は、供給側電磁開閉弁DSS1を「閉」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSS2を「閉」とする。すると、油圧室5Aの油圧が一定に制御されて、従動プーリ3からベルトVに加えられる挟圧力が一定になる。このようにして、無段変速機1のトルク容量が一定に制御される。なお、オイルポンプ8から吐出された油圧の余剰分はアキュムレータ14に蓄積される。
つぎに、無段変速機1の変速比を制御する具体例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、車両が走行中にアップシフト制御がおこなわれているとき(ステップS1)には、実エンジン回転数と目標エンジン回転数との偏差を相対的に小さくするように、フィードバック制御がおこなわれる。このアップシフト制御が実行されているときに、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える条件が成立したか否かが判断される(ステップS2)。例えば、アクセル開度の踏み込み量が急激に増加した場合に、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える条件が成立する。このステップS2で否定的に判断された場合は、アップシフト制御が継続される。
これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、以下の3つの制御をおこなう。まず、増速弁を閉じる制御、つまり、供給側電磁開閉弁DSP1を「閉」とする制御がおこなわれる(ステップS3)。また、アップシフト制御のフィードバック制御で用いていた積分項(I項)をクリアする制御をおこなう(ステップS4)。さらに、前記アップシフト制御で用いていた目標エンジン回転数を保持する制御をおこなうとともに、排出側電磁開閉弁DSS2を「閉」とする制御をおこなう(ステップS5)。このように、供給側電磁開閉弁DSP1を「閉」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSS2を「閉」とすることにより、油圧室4Aにオイルが閉じ込められ、無段変速機1の変速比が一定に制御される。
さらに、ステップS3,S5により無段変速機1の変速比を一定とする制御がおこなわれてから、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS6)。この所定時間は、駆動プーリ2の実回転数の変化幅が相対的に小さくなったか否かを、時間により間接的に判断するためのものである。このステップS6で否定的に判断された場合はステップS3に戻る。これに対して、ステップS6で肯定的に判断された場合は、減速弁制御を開始し(ステップS7)、この制御ルーチンを終了する。この減速弁制御とは、供給側電磁開閉弁DSP1を「閉」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2を制御して油圧室4Aのオイルをオイルパン10に排出させ、無段変速機1の変速比を大きくするダウンシフト制御である。このダウンシフト制御においては、実際のエンジン回転数と、ダウンシフト制御実行中における目標エンジン回転数との偏差を、相対的に小さくするようなフィードバック制御が実行される。この時、アップアシフト制御で用いていた積分項は、ダウンシフト制御には持ち越されていない。
このように、図1の制御を実行すると、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える過渡時において、供給側電磁開閉弁DSP1が「閉」に制御され、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2が「閉」に制御され、無段変速機1の変速比が固定される。このため、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える過渡時に、オイルポンプ8の吐出圧、もしくはアキュムレータ14から放出された圧力がオイルパン10に排出されることを防止できる。したがって、オイルポンプ8を駆動するために消費されるエネルギの無駄を回避でき、オイルポンプ8の駆動効率が低下することを抑制できる。
また、図1の制御例においては、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える条件が成立すると、供給側電磁開閉弁DSP1および排出側電磁開閉弁DSP2が共に「閉」となり、無段変速機1の変速比が固定される。その後、ステップS7に進み、排出側電磁開閉弁DSP2が「開」となり、ダウンシフト制御が開始される。このため、油圧室4Aのオイルをオイルパン10へ排出してダウンシフトするときに、オイルポンプ8から吐出されたオイルが油圧室4Aに供給されることを防止できる。つまり、無段変速機1でダウンシフトが生じにくくなることを防止できる。したがって、実際のエンジン出力が、最適燃費線(目標エンジン出力)から外れてしまうことを回避できる。
さらに、図1の制御例においては、アップシフト制御のフィードバック制御で用いていた積分項がステップS4でクリアされ、その積分項はステップS7でおこなうダウンシフト制御には持ち越されない。このため、ダウンシフト制御をおこなうにあたり、目標エンジン回転数と実際のエンジン回転数との偏差を相対的に小さくするフィードバック制御を実行する際に、実際のエンジン回転数が頻繁に変化するハンチングを抑制することができる。
また、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換えられると、供給側電磁開閉弁DSP1が「閉」となり、油路13の油圧が急激に変化する可能性がある。これに対して、図2の油圧制御装置6においては、油路13の油圧変動をアキュムレータ14で吸収することにより、油路13の油圧変動時の最大値(サージ圧)を相対的に低くすることができる。したがって、油圧制御装置6を構成する部品の耐久性が低下することを抑制でき、かつ、油路13の油圧変動時のショックを低減することができる。
ところで、図1の制御例は、ダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える場合にも実行可能であり、その制御を説明する。まず、ステップS1ではダウンシフト制御がおこなわれ、かつ、フィードバック制御がおこなわれる。ステップS2ではダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える条件が成立したか否かが判断される。このステップS2で肯定的に判断されるとステップS3では、排出側電磁開閉弁DSP2が「閉」に制御される。また、ステップS4では、ダウンシフト制御のフィードバック制御で用いていた積分項(I項)がクリアされる。また、ステップS5では、ダウンシフト制御時の目標エンジン回転数が保持されるとともに、供給側電磁開閉弁DSP1および排出側電磁開閉弁DSP2が共に「閉」に制御され、無段変速機1の変速比が固定される。
さらに、ステップS6は前述と同じ判断であり、ステップS7に進むと、供給側電磁開閉弁DSP1を「開」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2を「閉」とする制御を実行し、この制御ルーチンを終了する。すなわち、ステップS7ではアップシフト制御およびそれにともなうフィードバック制御が実行される。このように、ダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える過渡時に、供給側電磁開閉弁DSP1が「閉」に制御され、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2が「閉」に制御され、無段変速機1の変速比が固定される。このため、ダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える過渡時に、オイルポンプ8の吐出圧、もしくはアキュムレータ14から放出された圧力がオイルパン10に排出されることを防止できる。したがって、オイルポンプ8を駆動するために消費されるエネルギの無駄を回避でき、オイルポンプ8の駆動効率が低下することを抑制できる。
また、ダウンシフト制御実行中に、油圧室4Aにオイルが供給されることを防止できる。つまり、無段変速機1でダウンシフトが生じにくくなることを防止できる。したがって、実際のエンジン出力が、最適燃費線(目標エンジン出力)から外れてしまうことを回避できる。さらに、ダウンシフト制御のフィードバック制御で用いていた積分項がステップS4でクリアされ、その積分項はステップS7でおこなうアップシフト制御には持ち越されない。このため、アップシフト制御をおこなうにあたり、目標エンジン回転数と実際のエンジン回転数との偏差を相対的に小さくするフィードバック制御を実行する際に、実際のエンジン回転数が頻繁に変化するハンチングを抑制することができる。
なお、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える場合、ダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える場合のいずれにおいても、ステップS3,S4,S5の制御の実行順序は問われない。例えば、ステップS3,S4,S5を同時に実行してもよいし、ステップS5,S4,S3の順序で実行してもよい。さらに、上記の説明では、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように無段変速機1の変速比を制御する例を説明しているが、これは、無段変速機1の実際の入力回転数を、無段変速機1の目標入力回転数に近づけるように無段変速機1の変速比を制御することと技術的な意味は同じである。
また、図1に示された油圧制御装置6において、各電磁開閉弁は、ポペット弁に代えてスプールバルブを用いることもできる。このスプールバルブは、磁気吸引力およびバネの力により移動するスプールと、スプールに形成されたランド部と、スプールの動作により開閉されるポートとを備えた公知のものである。つまり、油圧室4Aに供給される圧油量を制御する増速弁と、油圧室5Aから排出される圧油量を制御する減速弁とが別個に設けられており、この増速弁および減速弁が単独で動作可能となるように、油圧制御装置6が構成されていれば、図1の制御を実行可能である。さらに、オイルポンプ8を駆動する動力源はエンジンではなく電動モータでもよいし、逆止弁13およびアキュムレータ14が設けられていない油圧制御装置であってもよい。なお、図2に示された無段変速機1においては、駆動プーリ2の油圧室4Aのオイル量を制御することにより変速比が制御され、従動プーリ3の油圧室5Aの油圧を制御することにより、トルク容量が制御されるように構成されているが、従動プーリの油圧室のオイル量を制御することにより変速比が制御され、駆動プーリの油圧室の油圧を制御することにより、トルク容量が制御されるように構成されている無段変速機において、その変速比を制御するときに図1の制御例を実行することもできる。
また、上記の説明においては、アップシフト制御からダウンシフト制御に切り換える条件が成立した場合、あるいはダウンシフト制御からアップシフト制御に切り換える条件が成立した場合は、切換後のシフト制御を開始する前に、供給側電磁開閉弁DSP1および排出側電磁開閉弁DSP2を共に「閉」とする制御をおこなっているが、ステップS5では一方のシフト制御で用いられていた駆動プーリ2の目標回転数を保持することの他に、つぎのような制御をおこなうこともできる。例えば、油路13から油圧室4Aに供給される油圧を増圧する機構を設けておき、ステップS5において供給側電磁開閉弁DSP1を「開」とし、かつ、排出側電磁開閉弁DSP2を「閉」とするとともに、油路13から油圧室4Aに供給される油圧を増圧すれば、油圧室4Aからオイルが排出されることを防止できる。このような制御をおこなえば、一方のシフト制御から他方のシフト制御に切り換える過渡時に、変速制御が不安定となることを回避できる。なお、この発明に係る無段変速機は、車両、建設機械、工作機械などに用いることができる。無段変速機をいずれに用いる場合においても、動力源から可動部材に至る動力伝達経路に無段変速機が配置される。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の第1変速制御手段に相当し、ステップS3,S5が、この発明の第2変速制御手段に相当し、ステップS7が、この発明の第3変速制御手段に相当する。また、駆動プーリ2が、この発明の駆動プーリに相当し、従動プーリ3が、この発明の従動プーリに相当し、ベルトVが、この発明のベルトに相当し、油圧室4Aが、この発明の油圧室に相当し、供給側電磁開閉弁DSP1が、この発明の第1変速制御弁に相当し、排出側電磁開閉弁DSP2が、この発明の第2変速制御弁に相当し、無段変速機1が、この発明の無段変速機に相当する。