JP2011225990A - 伸線加工性および伸線後の疲労特性に優れた高炭素鋼線材 - Google Patents

伸線加工性および伸線後の疲労特性に優れた高炭素鋼線材 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼線材としての高強度を有すると共に、優れた伸線加工性を有し、しかも伸線後の疲労特性にも優れた高炭素鋼線材を提供する。
【解決手段】本発明の高炭素鋼線材は、化学成分組成を適切に調整すると共に、パーライト組織の面積率が90%以上であって、パーライト組織2000μm2中に円相当直径が100nm以上、1000nm未満のBN系化合物が100個以下(0個を含む)、円相当直径が1000nm以上であるBN系化合物が10個以下(0個を含む)である。
【選択図】なし

Description

本発明は、スチールコード、半導体切断用ソーワイヤ、ホースワイヤ等に使用される高炭素鋼線材に関するものであり、特に伸線加工性および伸線後の疲労特性を改善した高炭素鋼線材に関するものである。
スチールコード、半導体切断用ソーワイヤ、ホースワイヤ等に使用される高炭素鋼線材は、高強度、高疲労特性に加え、生産性の観点から良好な伸線加工性が求められる。こうしたことから、従来から、上記要求に応じた高品質の鋼線用線材、鋼線が様々開発されている。
例えば特許文献1には、伸線前組織を焼戻し下部ベイナイトにすることで、冷間線引き用硬鋼線材の伸線加工性と疲労特性を改善する技術が提案されている。この技術では、炭化物形状から伸線加工に適していると考えられる下部ベイナイト組織を伸線することによって、優れた伸線加工性と伸線後の疲労特性を実現するようにしている。しかしながら、ベイナイト組織の加工硬化能はパーライト組織に比べて低いものとなり、最終的な線材強度は3500MPa程度に留まっている。
また特許文献2には、全酸素量および非粘性介在物組成と個数を制御することによって、伸線加工性および伸線後の耐疲労性を向上させる技術が提案されている。しかしながら、この技術では引張強さに対する疲労限応力が0.3程度にしかならず、十分な疲労特性が発揮されているとはいえない。
特許文献3では、鋼線中の介在物のアスペクト比を制御することで、高強度線材の疲労特性を向上させる技術が開示している。しかしながら、この技術においては、引張強さに対する疲労限応力が最大で約0.3程度であり、上記特許文献2と同様に十分な疲労強度が得られるに至っていない。
特許文献4には、伸線材のパーライト組織中のラメラセメンタイトをアモルファスセメンタイトで形成すること、および線材強度を線径と炭素量で規定された範囲に制御することによって、高強度高炭素鋼線の耐ひずみ時効脆化特性を向上させる技術が開示されている。この技術によって、縦割れ性を向上させた細径高強度高炭素鋼線を製造することができるが、高強度、高疲労強度を満足するには至っていない。
一方、特許文献5には、パーライトノジュールサイズおよび第2相フェライトの最大長さを制御することで、伸線性、捻回性を向上させる技術が提案されている。この技術によって、伸線性に優れた高強度高炭素鋼線材を得ることができるが、高強度、高疲労強度を満足するには至っていない。
特開平07−258787号公報 特許第3294245号公報 特開平06−340950号公報 特開2003−82437号公報 特開2002−146479号公報
本発明はこうした従来技術における課題を解決する為になされたものであって、その目的は、鋼線材としての高強度を有すると共に、優れた伸線加工性を有し、しかも伸線後の疲労特性にも優れた高炭素鋼線材を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明の高炭素鋼線材とは、C:0.70〜1.2%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005%以下(0%を含まない)、B:0.0005〜0.010%、N:0.002〜0.005%を夫々含有すると共に、固溶Nが0.0015%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、パーライト組織の面積率が90%以上であって、パーライト組織2000μm2中に円相当直径が100nm以上、1000nm未満のBN系化合物が100個以下(0個を含む)、円相当直径が1000nm以上であるBN系化合物が10個以下(0個を含む)である点に要旨を有するものである。
尚、本発明において、「円相当直径」とは、BN系化合物の大きさに着目し、同一面積に換算したときの直径を意味する。また、本発明で対象とする「BN系化合物」とは、BNを主体とするものであるが、MnSを核にしたBN化合物を含むことを許容するものである。
本発明の高炭素鋼線材には、必要によって、更に(a)Cu:0.25%以下(0%を含まない)、(b)Cr:1.0%以下(0%を含まない)、等を含有させることも有用であり、こうした元素を含有させることによって、その種類に応じて高炭素鋼線材の特性が更に改善されることになる。
本発明では、化学成分組成を適切に調整すると共に、パーライト組織の面積割合を調整し、且つパーライト組織中に含まれるBN系化合物を、その大きさに応じて個数を規定することによって、伸線加工性および伸線後の疲労特性に優れた高強度な高炭素鋼線材が実現でき、このような高炭素鋼線材は、スチールコード、半導体切断用ソーワイヤ、ホースワイヤ等の素材として極めて有用である。
本発明者らは、高強度高炭素鋼線材における伸線加工性および伸線後の疲労特性を改善するべく、様々な角度から検討した。その結果、次のような知見が得られた。パーライト組織を冷間で強度の伸線加工を施せば、伸線加工性および疲労特性が劣化するのであるが、伸線前組織のパーライト組織の面積率を90%以上とすると共に、固溶NをBで固定することによって低減し、析出したBN系化合物についてはパーライト組織2000μm2中に、円相当直径が100nm以上、1000nm未満のBN系化合物が100個以下(0個を含む)となるように、また円相当直径が1000nm以上であるBN系化合物が10個以下(0個を含む)となるように微細化すれば、伸線加工性および疲労特性の劣化が抑制でき、優れた特性が発揮されることを見出し、本発明を完成した。
本発明に係る高炭素鋼線材は、(a)固溶N量を規定していること、(b)伸線加工前組織のパーライト面積率を規定していること、(c)BN系化合物の析出サイズおよび個数を所定の範囲とすることが重要な要件である。即ち、伸線加工時に時効脆化の原因となる固溶NをBN系化合物として析出させるとすることで、伸線加工中および伸線後の時効脆化を抑制することができる。また、伸線加工前組織のパーライト面積率を90%以上にすることで、初析フェライトによる伸線加工中の時効脆化を抑制することができる。そして、本発明の線材においては、円相当直径が100nm未満の微細なBN系化合物をパーライト相中に析出させることが重要であり、円相当直径が100nm以上のBN系化合物は伸線性および疲労特性に悪影響を及ぼすことになる。よって、円相当直径が100nm以上のBN系化合物は存在しないことが好ましいが、本発明の規定範囲内に制限することで、その影響を最小限に抑えることができる。
本発明の高炭素鋼線材において、パーライト面積率、BN系化合物の析出形態(析出サイズおよび個数)等の要件を規定した理由は下記の通りである。
[パーライト組織の面積率:90%以上]
本発明の高炭素鋼線材は、パーライト組織を主相とするものである。パーライト組織以外に、初析フェライト相やベイナイト相からなる組織が含まれるが、これらの組織が増加すると、加工硬化能の低下が引き起こされることになる。こうしたことから、パーライト組織の面積率を90%以上とする必要がある。
[BN系化合物の析出形態]
分塊圧延前加熱温度、分塊圧延開始後の冷却速度を調整し(後述する)、析出するBN系化合物の円相当直径を100nm未満に微細化することによって、線材の伸線加工性および疲労強度を改善することができる。円相当直径が100nm以上のBN系化合物は存在しないことが好ましいが、本発明で規定する範囲内に制限することでその影響を最小限にすることができるので、円相当直径が100nm以上のBN系化合物の析出形態をその大きさに応じて下記のように規定した。尚、BN系化合物の組成は、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectrometer)を用いて、必要によってEDXとWDS(Wavelength Dispersive X−ray Spectrometer)を併用して確認することができる。
(パーライト組織2000μm2中に円相当直径が100nm以上、1000nm未満のBN系化合物が100個以下(0個を含む))
Nの固定によって析出するBN系化合物を微細にすることは、伸線加工性および疲労強度を改善するために有効であり、所定範囲のサイズとする必要がある。比較的微細なBN系化合物のサイズを円相当直径で100nm以上、1000nm未満に制御し、パーライト組織2000μm2中に100個以下(0個を含む)に制御することで、伸線加工性および疲労強度を改善することができる。
(パーライト組織2000μm2中に円相当直径が1000nm以上のBN系化合物が10個以下(0個を含む))
本発明の高炭素鋼線材において、円相当直径が1000nm以上と比較的大き目のサイズのBN系化合物の析出を抑制することも重要である。このようなBN系化合物の析出個数が多くなると、伸線加工性および疲労強度を著しく低下させるため、析出個数をパーライト組織2000μm2中に10個以下(0個を含む)に制御することで、伸線加工性および疲労強度を改善することができる。
本発明の高炭素鋼線材においては、その化学成分組成も適切に調整する必要がある。上記した固溶N量も含めて、その化学成分組成における各成分(元素)による範囲限定理由は次の通りである。
[C:0.70〜1.2%]
Cは、経済的且つ有効な強化元素であり、Cの含有量の増加に伴って伸線時の加工硬化量、伸線後の強度が増大する。C含有量が0.70%未満になると、面積率で90%以上のパーライト組織を得ることが困難となる。一方、C含有量が過剰になると、オーステナイト粒界にネット状の初析セメンタイト相が生成して伸線加工時に断線が発生しやすくなるだけでなく、最終伸線後における極細線材の靱性・延性を著しく劣化させる。こうしたことから、C含有量は0.70〜1.2%と規定した。
[Si:0.1〜1.5%]
Siは鋼の脱酸のために必要な元素である。またパーライト組織中のフェライト相に固溶し、パテンティング後の強度を上げる効果もある。Cの含有量が0.1%未満と少ない場合には、脱酸効果や強度向上効果が不十分となるため、下限は0.1%とする。一方、Siの含有量が過剰になると、前記パーライト組織中のフェライト相の延性を低下させ、伸線後の極細線の延性を低下させるため、その上限を1.5%と規定した。
[Mn:0.1〜1.5%]
MnはSiと同様に、脱酸剤として有用な元素である。また線材の強度を高めるのにも有効である。更に、Mnは、鋼の焼入れ性を高めて圧延材の初析フェライトを低減させる効果がある。こうした効果を発揮させるためには、Mnの含有量は0.1%以上とする必要がある。一方、Mnは偏析しやすい元素であり、含有量が1.5%を超えると、特に線材の中心部に偏析し、その偏析部にはマルテンサイトやベイナイトが生成するので、伸線加工性が低下する。こうしたことから、Mn含有量は0.1〜1.5%とした。
[P:0.015%以下(0%を含まない)]
Pは不可避的不純物であり、できるだけ少ないほうが好ましい。特に、粒界に偏析し脆化を引き起こすために、伸線加工性の劣化への影響が大きいので、本発明では0.015%以下とした。
[S:0.015%以下(0%を含まない)]
Sは不可避的不純物であり、できるだけ少ないほうが好ましい。特に、粒界に偏析し脆化を引き起こすために、伸線加工性の劣化への影響が大きいので、本発明では0.015%以下とした。
[Al:0.005%以下(0%を含まない)]
Alは脱酸元素として有効であるが、硬質非変形のアルミナ系非金属介在物(Al23)を生成する。この非金属介在物は、極細鋼線の延性を阻害し、伸線加工性を著しく妨げるため、本発明の鋼線材では0.005%以下にする必要がある。
[B:0.0005〜0.010%]
Bは固溶NをBN系化合物として微細析出することで、線材の伸線加工性および伸線後の疲労特性を向上させるのに有効な元素である。BN系化合物を十分に析出させるためには、B含有量は0.0005%以上とする必要がある。また0.010%を超えて過剰に含有されると、BN系化合物が粗大化し易くなり、疲労強度を劣化させることになる。また、Bの一部を固溶Bとすることで初析フェライトの生成抑制にも有効であり、B添加量をN添加量で割った値が0.9以上となることが好ましく、より好ましくは1.0以上となることが好ましい。
[N:0.002〜0.005%(但し、固溶Nは0.0015%以下)]
Nは、固溶状態では伸線中に脆化を引き起こし、伸線加工性を劣化させるため、BによってBN系化合物を析出させ、固溶Nを0.0015%以下とすることが必要である。固溶Nを0.0015%以下とするためには、下記式(1)を満たすようにすればよい。また、Nが多すぎるとBによる固定が不十分となり、固溶Nが増加するためその上限を0.005%とした。一方、N含有量を0.002%未満にするには、製造コストから現実的でないため、その下限は0.002%以上とした。
[B]−([N]−0.0015)×0.77≧0.0000 …(1)
但し、[B]および[N]は、夫々BおよびNの含有量(質量%)を示す。
本発明に係る高炭素鋼線材における基本成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物(上記P,S以外の不純物)であるが、該不可避的不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。また、本発明の高炭素鋼線材には、必要によって、更に(a)Cu:0.25%以下(0%を含まない)、(b)Cr:1.0%以下(0%を含まない)、等を含有させることも有用であり、こうした元素を含有させることによって、その種類に応じて高炭素鋼線材の特性が更に改善されることになる。
[Cu:0.25%以下(0%を含まない)]
Cuは鋼線の耐食性を高めると共に、メカニカルデスケーリング(MD)時のスケール剥離性を向上し、ダイスの焼き付き等のトラブルを防止するのに有効な元素である。しかしながら、過剰に含有させると、熱間圧延後の線材載置温度を900℃程度の高温にした場合でさえ、線材表面にブリスターが生成し、このブリスター下の鋼母材にマグネタイトが生成するため、MD性が劣化する。更に、CuはSと反応して粒界中にCuSを偏析するので、線材製造過程で鋼塊や線材等に疵を発生させる。この様な悪影響を防止するために、Cu含有量は0.25%以下とすることが好ましい。
[Cr:1.0%以下(0%を含まない)]
Crはパーライトのラメラ間隔を微細化し、線材の強度や伸線加工性等を向上させるのに有効である。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、未溶解セメンタイトが生成し易くなったり、変態終了時間が長くなり、熱間圧延線材中にマルテンサイトやベイナイト等の過冷組織が生じる恐れが生じる他、MD性も悪くなるので、その上限を1.0%以下とすることが好ましい。
上記のようなBN化合物の形態に制御して、本発明の高炭鋼線材を製造するに当たっては、上記のような化学成分組成を有する鋳片に対して、分塊圧延での加熱温度およびその後の冷却速度を制御すれば良い。即ち、分塊圧延前の加熱温度を1300℃以上とすると共に、分塊圧延開始後の1300〜1100℃の温度範囲での冷却速度を0.5℃/秒以上に制御することが有効である。
分塊圧延前の加熱温度を1300℃以上とすることによって、BN系化合物を十分に鋼中に固溶させ、その後、分塊圧延開始後の1300〜1100℃の温度範囲での冷却速度を0.5℃/秒以上に制御することで、パーライト組織2000μm2中に円相当直径が100nm以上、1000nm未満であるBN系化合物を100個以下、円相当直径が1000nm以上であるBN系化合物を10個以下にすることができ、これによって伸線加工性および伸線後の疲労特性に優れた高炭素鋼線材が実現できる。
本発明の高炭素鋼線材は、パーライト組織の面積率を90%以上とするものであるが、こうした組織とするためには、熱間圧延後の巻取り温度と、その後の冷却速度を制御すれば良い。即ち、熱間圧延後の巻取り温度を850℃以上、950℃以下で行ない、その後600℃までの冷却速度を10〜35℃/秒となるように冷却(例えば、ステルモア衝風冷却)を行なえばよい。
熱間圧延後の巻取り温度は、圧延機への負荷が過大とならないように、850℃以上とする必要があるが、この巻取り温度を950℃以下とすることで、再結晶、粒成長を制御してノジュールを微細化することができる。その後600℃までの冷却速度は、初析フェライトを抑制するために10℃/秒以上とし、急冷でマルテンサイトおよびベイナイト組織が生じないように35℃/秒以下とする必要がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(実施例1)
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼(鋼種A〜T、A1〜N1)を、転炉出鋼後、二次精錬処理を行って溶製し、連続鋳造法により鋳造した鋳片を製造した。尚、下記表1、2に示した固溶N量は下記の方法によって測定したものである。
[固溶N量の測定方法]
本発明における「固溶N量」の値は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物量を差し引くことで、鋼中の固溶N量を算出した。
(a)鋼中の全N量は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定する。
(b)鋼中の全N化合物量は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いる。供試鋼素材からサンプルを切り出し、10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部:メタノール)中で、定電流電解を行なう。約0.5gサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。不溶解残渣を硫酸、硫酸カリウムおよび純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせる。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定する。
上記の方法によって求めた鋼中の全N量から全N化合物量を差し引くことで、鋼中の固溶N量を算出する。
Figure 2011225990
Figure 2011225990
各鋼種の鋳片に対して、分塊圧延前の加熱温度、分塊圧延開始後の冷却速度(1300〜1100℃での冷却速度)、熱間圧延後の巻取り温度(圧延巻取り温度)、および巻取り後600℃までの冷却速度(巻取り後冷却速度)を、下記表3、4に示すように制御した。また分塊圧延後の鋼片を、熱間圧延(後述する)して得られた線材(熱間圧延線材)について、下記の方法によって、パーライト面積率、BN系化合物の形態(サイズ、個数)を測定した。その結果を、下記表3、4に併記する。
Figure 2011225990
Figure 2011225990
[パーライト面積率の測定方法]
パーライト面積率は、熱間圧延線材の横断面の表層、D/4、D/2(D:線材の直径)の各位置において、埋め込み研磨し、ピクリン酸を用いた化学腐食を実施した後、光学顕微鏡により、互いに90度をなす4箇所にて夫々1視野撮影した(倍率:400倍で200μm×200μmの領域)。光学顕微鏡写真の画像をプリントアウトして、透明フィルムを重ねた上から白い部分を黒マジックで塗りつぶした後(光学顕微鏡写真の画像が白い部分をフェライトおよび下部ベイナイトとした)、透明フィルムをスキャナーでパーソナルコンピューターに取り込み、画像解析ソフト(「Image Pro Plus」商品名:Cybernetics社製)を用いて、画像を2値化した後、パーライト面積率を求め、平均値を算出した。尚、表層に脱炭層が存在する場合には、JIS G 0058で規定される全脱炭部は測定部位から除外した。
[BN系化合物の形態の測定]
熱間圧延線材の横断面のD/4(D:線材の直径)の位置において、互いに90度をなす4箇所にて夫々1視野撮影した(倍率:2000倍でのFE-SEM観察)。尚、1視野を2000μm2として、画像解析ソフト(「Image Pro Plus」商品名:Cybernetics社製)を用いて、画像を2値化した後、円相当直径が100nm以上、1000nm未満、および1000nm以上の析出物を判定し、EDXによりBN系化合物の組成を確認した。その後、各視野のBN系化合物の個数を測定し、4視野の平均個数を算出した。
[スチールコードの試作]
分塊圧延により得られた鋼片を、900℃以上、1100℃以下に加熱後、熱間圧延を実施し、直径:5.5mmφのコイルを得た。得られたコイルを、メカニカルデスケーリング、ボラックス処理で伸線前処理を行い、乾式伸線により直径:1.4mmφの伸線材を得た。その一部(後記表5の試験No.10〜19、表6の試験No.30、38〜40、43)については、乾式伸線工程途中に直径:3.0mmφで、鉛パテンティングによる中間熱処理を施した。その後、鉛パテンティングによる最終パテンティング、ブラスめっき処理を施し、ダイスアプローチ角8度のダイスを用いた湿式伸線(線速:500m/分)により、直径:0.18mmφのスチールコードを試作した。
上記で得られた各スチールコードについて、下記の方法によって、疲労強度を測定すると共に、伸線加工性の判定を判定した。
[疲労強度の測定]
疲労強度は、試作したスチールコードの疲労試験を実施することにより測定した。ハンター疲労試験機は、BEKAERT社製のハンター疲労試験機を使用し、試験応力σを900〜1900MPa、ヤング率Eを196200MPaとして、下記式(2)からサンプル長さL(mm)、チャックブッシングC(mm)を決定した。試験応力σを900〜1900MPaまで50MPa刻みとして、各試験応力で5本試験を行った。5本すべてのサンプルが回転数1000万回を達成した最も高い試験応力を、そのサンプルの疲労強度とし、その疲労強度を線材素線強度(測定は島津製作所製のオートグラフを使用し、歪み速度:10mm/minとした)で割った値(疲労強度/素線強度)が0.35以上の場合に疲労強度に優れると判断した。また、ハンター疲労試験室は、室温20℃、湿度35%に管理した。
C=1.198×E×d/σ …(2)
但し、d:素線径(mm)、L=2.19×C+チャック挿入長さ(mm)
[伸線加工性の判定]
伸線加工性は、試作したスチールコード(直径:0.18mmφのもの)の捻回試験を実施することにより判定した。このときの捻回試験は、前川試験機製作所製のねじり試験機を使用し、GL(チャック間距離)=50mmとした。破断後の破面に縦割れがないものを伸線加工性良好(○)、縦割れが生じているものを伸線加工性不良(×)として判定した。
これらの結果(素線強度、疲労強度、疲労強度/素線強度、伸線加工性)を、用いた鋼種と共に下記表5、6(試験No.1〜43)に示す。
Figure 2011225990
Figure 2011225990
これらの結果から、次のように考察できる(尚、下記No.は、表5、6の試験No.を示す)。No.1〜20は、本発明で規定する要件を満足する例であり、化学成分組成およびBN系化合物の形態(サイズ、個数)が適切に制御されており(前記表3)、伸線加工性、および伸線加工後の疲労特性が良好であることが分かる。
これに対して、No.21〜43は、本発明で規定するいずれかの要件を外れる例であり(表4)、少なくともいずれかの特性が劣っている。このうちNo.21〜29は、化学成分組成は本発明で規定する要件を満足するが、分塊圧延前の加熱温度が低くなっており、BN系化合物の形態が適切に制御されておらず、少なくとも良好な疲労強度が得られていない。尚、表6において、「伸線不可」と表記したのはスチールコードに試作の段階で破断(断線)が生じたことを意味する(従って、素線強度、疲労強度等は評価せず)。
No.30は、C含有量が本発明で規定する範囲を超える例であり、伸線加工時に断線が生じている(伸線不可)。No.31は、C含有量が本発明で規定する範囲に満たない例であり、パーライト面積率が90%以上になっておらず、加工硬化能が低下し、良好な疲労強度が得られていない。
No.32は、Si含有量が本発明で規定する範囲を超える例であり、パーライト中のフェライトの延性が低下し、伸線限界が低下して、伸線加工時に断線が生じている(伸線不可)。No.33は、Bが含有されておらず、微細なBN系化合物が析出していないことで、疲労強度が劣化している。
No.34は、Mn含有量が過剰になっている例であり、Mn偏析部にマルテンサイト、ベイナイトが生成し、伸線限界が低下して、伸線加工時に断線が生じている(伸線不可)。No.35のものは、P含有量が過剰になっている例であり、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。
No.36は、S含有量が過剰になっている例であり、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。No.37は、Al含有量が過剰になっている例であり、アルミナ系非金属介在物が生成して、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。
No.38のものは、B含有量が過剰になっている例であり、BN系化合物が多量に析出することによって、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。No.39のものは、Bが含有されておらず、微細なBN系化合物が析出していないことで、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。No.40は、N含有量が過剰になっている例であり、前記式(1)の関係を満たしておらず、よって時効脆化が顕著に生じ、疲労強度が低下すると共に、伸線加工時に断線が生じている(伸線不可)。
No.41〜43は、1300〜1100℃の温度範囲での冷却速度が適正でないので、BN系化合物の形態が適正に制御されておらず、疲労強度および伸線加工性のいずれも劣化している。

Claims (3)

  1. C:0.70〜1.2%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005%以下(0%を含まない)、B:0.0005〜0.010%、N:0.002〜0.005%を夫々含有すると共に、固溶Nが0.0015%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、パーライト組織の面積率が90%以上であって、パーライト組織2000μm2中に円相当直径が100nm以上、1000nm未満のBN系化合物が100個以下(0個を含む)、円相当直径が1000nm以上であるBN系化合物が10個以下(0個を含む)であることを特徴とする伸線加工性および伸線後の疲労特性に優れた高炭素鋼線材。
  2. 更に、Cu:0.25%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の高炭素鋼線材。
  3. 更に、Cr:1.0%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の高炭素鋼線材。
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