JP2011204835A - 複合熱電材料及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】以下の構成を備えた複合熱電材料及びその製造方法。(a)複合熱電材料は、熱電材料からなる母相と、少なくとも母相の粒内に析出している1種以上の酸化物粒子とを備えている。(b)母相は、一般式:(M1-aAa)1+x(Ni1-bBb)1+y(Sn1-cCc)で表される組成を有するハーフホイスラー化合物を含む。但し、0≦a<0.1、0≦b<0.1、0≦c<0.1。−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2。Mは、Ti、Zr及び/又はHf。Aは、IIIa族元素、IVa族元素、Va族元素及び/又は希土類元素、Bは、VIIIa族元素及び/又はIb族元素、Cは、IIIb族元素、IVb族元素及び/又はVb族元素。(c)酸化物粒子は、遷移金属元素、希土類元素、IIb族元素、IIIb族元素及び/又はIVb族元素を含む。
【選択図】図9
Description
(1)エネルギー変換の際に余分な老廃物を排出しない、
(2)排熱の有効利用が可能である、
(3)材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる、
(4)モータやタービンのような可動装置が不要であり、メンテナンスの必要がない、
等の特徴を有していることから、エネルギーの高効率利用技術として注目されている。
ゼーベック係数は、1Kの温度差によって生じる起電力の大きさを表す。熱電材料は、それぞれ固有のゼーベック係数を持っており、ゼーベック係数が正であるもの(p型)と、負であるもの(n型)に大別される。
(1)Bi−Te系、Pb−Te系、Si−Ge系等の化合物半導体、
(2)Zn−Sb系、Co−Sb系、Fe−Sb系等のスクッテルダイト化合物、
(3)TiNiSn等のハーフホイスラー化合物、
などが知られている。
例えば、特許文献1には、
(1)塩化コバルト及び塩化アンチモンのエタノール溶液にアルミナ粒子を分散させ、
(2)分散液に還元剤を加えてCo粒子及びSb粒子を析出させ、
(3)分散液を水熱処理することにより、アルミナ粒子とCoSb3粒子の凝集体からなる複合粒子を形成し、
(4)複合粒子を放電プラズマ焼結(SPS)させる
熱電材料の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、CoSb3の連続相中に、平均粒径1〜100nmのアルミナ粒子が均一に分散している熱電材料が得られる点が記載されている。
(1)所定量のFe、Al、V、及びSiを秤量し、この粉末をメカニカルアロイングすることによりFe2VAl0.9Si0.1合金粉末を作製し、
(2)合金粉末にBiを加えてさらに混合し、
(3)混合粉末を放電プラズマ焼結させる
熱電材料の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、Fe2VAl0.9Si0.1合金粒子を取り囲むようにBi層が形成された熱電材料が得られる点が記載されている。
同文献には、このような方法により、母材中に微粒子を取り込ませた箔が得られる点が記載されている。
(1)ZrNiSn粉末に対してZrO2ナノ粒子を2〜6vol%加えて混合し、引き続き3日間アニール処理し、
(2)得られた粉末を放電プラズマ焼結させる
熱電材料の製造方法が開示されている。
同文献には、
(a)ZrO2ナノ粒子は、主として粒界に存在する点、及び、
(b)650Kより高い温度でのZTの増分は、それぞれ、ZrNiSn−2vol%ZrO2で約10%、ZrNiSn−6vol%ZrO2で約15%(ZTの絶対値で約0.22)になる点
が記載されている。
(1)Zr0.5Hf0.5Ni0.8Pd0.2Sn0.99Sb0.01粉末に対してZrO2ナノ粒子を3〜9vol%加えて混合し、引き続き3日間アニール処理し、
(2)得られた粉末を放電プラズマ焼結させる
熱電材料の製造方法が開示されている。
同文献には、
(a)ZrO2ナノ粒子は、主として粒界に存在する点、及び、
(b)6vol%又は9vol%のZrO2を含む試料のZTは、800Kにおいて0.7を超え、ZTの増分で約30%になる点、
が記載されている。
さらに、非特許文献3には、複合材料ではないが、ハーフホイスラー相の低温におけるフォノンの平均自由行程は、粒径程度である点が記載されている。
溶液中で金属塩を還元させる化学的な手法を用いると、ナノサイズで均一な複合材料を作製することができる。しかしながら、希土類、Ti、Zr、Hfなどの酸化しやすく還元しにくい元素を主要構成元素として含む場合、これらの元素を還元して目的相を作製するのは極めて困難である。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような複合熱電材料の熱伝導度を低減し、かつ、無次元性能指数を向上させることにある。
(a)前記複合熱電材料は、
熱電材料からなる母相と、
少なくとも前記母相の粒内に析出している1種又は2種以上の酸化物粒子と、
を備えている。
(b)前記母相は、(1)式で表される組成を有するハーフホイスラー化合物を含む。
(M1-aAa)1+x(Ni1-bBb)1+y(Sn1-cCc) ・・・(1)
但し、
0≦a<0.1、0≦b<0.1、0≦c<0.1。
−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2。
Mは、Ti、Zr及びHfから選ばれる1種以上の元素。
Aは、IIIa族元素、IVa族元素(Ti、Zr、及びHfを除く)、Va族元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素、
Bは、VIIIa族元素(Niを除く)及びIb族元素から選ばれる1種以上の元素、
Cは、IIIb族元素、IVb族元素(Snを除く)及びVb族元素から選ばれる1種以上の元素。
(c)前記酸化物粒子は、遷移金属元素、希土類元素、IIb族元素、IIIb族元素、及び、IVb族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む。
請求項1に記載の(1)式で表される組成となるように配合された原料を溶解する母相溶解工程と、
前記母相溶解工程で得られた溶湯を凝固させる母相凝固工程と、
前記母相凝固工程で得られた凝固物に請求項1に記載の酸化物粒子を加え、凝固物を再溶解させる再溶解工程と、
前記再溶解工程で得られた溶湯を急冷凝固させる急冷凝固工程と、
を備えている。
さらに、母相内に酸化物微粒子が分散して存在することによって、母相内に不純物準位が形成される。その結果、ゼーベック係数Sが向上し、出力因子PFが増大する。これらの結果、酸化物微粒子を複合させない場合及び母相の粒界に酸化物微粒子を分散させた場合に比べて、無次元性能指数ZTが向上する。
[1. 複合熱電材料]
本発明に係る複合熱電材料は、熱電材料からなる母相と、少なくとも母相の粒内に析出している1種又は2種以上の酸化物粒子とを備えている。
母相は、所定の組成を有するハーフホイスラー化合物を主相として含む。
[1.1.1. 結晶構造]
図1に、AgAsMg型結晶構造の単位胞の模式図を示す。ハーフホイスラー化合物は、AgAsMg型結晶構造(空間群F43m)を有し、一般式:XYZで表される。本実施の形態に係る熱電材料の主相を構成するMNiSn系化合物(M=Ti、Zr、Hf)は、AgAsMg型結晶構造を有するハーフホイスラー化合物の一種である。
図1において、X原子及びZ原子は、それぞれ、4a(0、0、0)サイト(以下、単に「Mサイト」という。)及び4b(1/2、1/2、1/2)サイト(以下、単に、「Snサイト」という。)に位置しており、X原子及びZ原子は岩塩構造を形成している。MサイトとSnサイトは、等価である。
Y原子は、八面体状に配位したポケット(X原子及びZ原子で構成される立方体の中心)、すなわち、4c(1/4、1/4、1/4)サイト(以下、単に「Niサイト」という。)に位置している。他のポケット、すなわち、4d(3/4、3/4、3/4)サイト(以下、単に「4dサイト」という。)は、通常、空になっている。
後述するように、Snサイト原子に対してNiサイト原子を過剰にすると、過剰のNiサイト原子は、4dサイトに入る。
ドーパントを含まないハーフホイスラー化合物XYZの原子当たりの価電子数は、6である。原子当たりの価電子数が6(又は、総価電子数が18)であるハーフホイスラー化合物は、半導体的特性を示し、適度な大きさのゼーベック係数Sと電気抵抗率ρを持つことが知られている。
なお、ハーフホイスラー化合物XYZは、X:Y:Z=1:1:1の化合物であるので、原子当たりの価電子数#eは、次の(a)式で表される。
#e=(#eX+#eY+#eZ)/3 ・・・(a)
ここで、#eX、#eY及び#eZは、それぞれ、X原子、Y原子及びZ原子の価電子数である。また、各サイトが複数種類の原子で占められている場合には、#eX、#eY及び#eZは、それぞれ、各サイトを占める原子の平均の価電子数である。
一方、原子当たりの価電子数が6であるハーフホイスラー化合物XYZのいずれか1以上のサイトにおいて、主構成元素とは価電子数の異なる元素をドーピングすると、原子当たりの価電子数が変化する。その結果、電気伝導度σが増大し、ゼーベック係数Sが増大し、あるいは熱伝導度κが低下する。
一方、原子当たりの価電子数が6であるハーフホイスラー化合物の主構成元素の一部を、それより価電子数の小さな元素(以下、これを「p型ドーパント」という。)で置換すると、原子当たりの価電子数が6より小さいハーフホイスラー化合物が得られる。原子当たりの価電子数が6より小さくなると、ホールがドープされる。また、p型ドーパントの量がある一定量を超えると、ゼーベック係数Sが正に転じ、p型熱電材料となる。
(1) 元素置換によって熱伝導度κが小さくなるため、
(2) 電子構造が変化し、フェルミレベル近傍の状態密度のエネルギーに対する傾きが急峻になることにより、ゼーベック係数Sが増大するため、あるいは、
(3) p型ドーパントとn型ドーパントが局所的なダイポールを形成するため、ドーパントによるクーロン力を遮蔽し、キャリア移動度の低下を抑制するため、
と考えられる。
但し、キャリアの増加は、主として、n型ドーパントによる価電子数の増加の寄与分と、p型ドーパントによる価電子数の増加の寄与分の差に依存する。そのため、キャリアを増加させるという点では、n型ドーパントとp型ドーパントの同時添加は実益がなく、いずれか一方を添加するのが好ましい。
一般に、熱電特性を支配するゼーベック係数S、電気伝導度σ及び熱伝導度κは、いずれもキャリア濃度の関数となる。従って、高い熱電特性を得るためには、原子当たりの価電子数は、ハーフホイスラー化合物の組成に応じて、最適な値を選択するのが好ましい。
母相は、次の(1)式で表される組成を有するハーフホイスラー化合物を含む。
(M1-aAa)1+x(Ni1-bBb)1+y(Sn1-cCc) ・・・(1)
但し、
0≦a<0.1、0≦b<0.1、0≦c<0.1。
−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2。
Mは、Ti、Zr及びHfから選ばれる1種以上の元素。
Aは、IIIa族元素、IVa族元素(Ti、Zr、及びHfを除く)、Va族元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素、
Bは、VIIIa族元素(Niを除く)及びIb族元素から選ばれる1種以上の元素、
Cは、IIIb族元素、IVb族元素(Snを除く)及びVb族元素から選ばれる1種以上の元素。
「B」は、Niサイトを置換する元素(ドーパント)を表す。元素Bは、Niを除くVIIIa族元素(26Fe、27Co、44Ru、45Rh、46Pd、76Os、77Ir、78Pt)、又はIb族元素(29Cu、47Ag、79Au)のいずれであっても良い。
「C」は、Snサイトを置換する元素(ドーパント)を表す。元素Cは、IIIb族元素(5B、13Al、31Ga、49In、81Tl)、Snを除くIVb族元素(6C、14Si、32Ge、82Pb)、又はVb族元素(7N、15P、33As、51Sb、83Bi)のいずれであっても良い。
これらの元素は、比較的安価であり、しかも熱伝導度κを大幅に増大させることなく、出力因子PFを増大させる効果が大きいので、各サイトを置換する元素として好適である。
一般に、各サイトの主構成元素を、これとは価電子数が同一又は異なる元素で置換すると、キャリア濃度が増大し、あるいは、フォノン散乱が増大する。しかしながら、各サイトの置換量が過剰になると、異相の生成割合が増大し、かえって熱電特性が低下する。従って、a、b、cは、それぞれ、0.1未満とする必要がある。a、b、cは、それぞれ、さらに好ましくは、0.05以下である。
しかしながら、(M+A)量が化学量論組成に比べて少なくなり過ぎると、フルホイスラーMNi2Sn(M=Ti、Zr、Hf)、Sn、Ni、Ni−Sn合金などの異相が析出するという問題がある。従って、xは、−0.1以上である必要がある。xは、さらに好ましくは、−0.05以上、さらに好ましくは、−0.01以上である。
一方、(M+A)量が化学量論組成に比べて過剰になると、過剰な元素Mを主成分とする異相(例えば、金属Ti相、Ti6Sn5など)が材料中に析出する。従って、xは、0.2以下である必要がある。xは、さらに好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.1以下である。
一方、Snサイトを占める元素(Sn+C)の量に対して、(Ni+B)量が過剰になると、過剰な(Ni+B)が4dサイトに導入される。4dサイトに導入された(Ni+B)は、出力因子PFを低下させることなく、ハーフホイスラー相の熱伝導度κを低下させる作用がある。従って、yは、0より大きいことが好ましい。
一方、(Ni+B)量が化学量論組成に比べて過剰になると、フルホイスラー相が材料中に析出する。フルホイスラー相は金属的であるため、フルホイスラー相の析出は、熱電特性を低下させる原因となる。従って、yは、0.2以下である必要がある。
例えば、M=Tiである場合において、熱伝導度κを低減するためには、yは0.015以上が好ましく、さらに好ましくは0.047以上である。
一方、フルホイスラー相の析出を抑制するためには、yは0.145以下が好ましく、さらに好ましくは0.123以下である。
また、例えば、M=Zrである場合において、熱伝導度κを低減するためには、yは0.01以上が好ましく、さらに好ましくは0.031以上、さらに好ましくは0.04以上である。
一方、フルホイスラー相の析出を抑制するためには、yは0.10以下が好ましく、さらに好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.05以下である。
(Ni+B)量を化学量論組成よりも過剰とし、製造条件を最適化すると、過剰の(Ni+B)が4dサイトに入る。その結果、MNiSn系ハーフホイスラー化合物の格子定数が増加する。すなわち、格子定数の増加は、4dサイトに導入された(Ni+B)量と相関がある。
例えば、M=Tiである場合において、出力因子PFを低下させることなく、熱伝導度κを低下させるためには、ハーフホイスラー化合物(主相)の格子定数は、0.5933nm以上が好ましい。格子定数は、さらに好ましくは、0.5937nm以上である。
ドーパントを含まないTiNiSn焼結体の場合、Ni/Sn比を制御すると、ハーフホイスラー相の格子定数を変化させることができる。具体的には、y値を変化させることにより、格子定数が0.5929nm以上0.5942nm以下であるTiNiSn系ハーフホイスラー化合物が得られる。
一方、出力因子PFを向上させるために行ったY−Sb置換材では、格子定数が0.5947nmの材料を合成できる。従って、出力因子PFの高いTiNiSn系ハーフホイスラー化合物の格子定数の上限は、0.5947nmとなる。
一方、出力因子PFを向上させるために、Zrサイト、Niサイト及びSnサイトのいずれか1以上のサイトにドーピングを施すと、格子定数が最大で0.6130nmであるZrNiSn系ハーフホイスラー化合物が得られる。
ドーパントを含まないZrNiSn焼結体の場合、Ni/Sn比を制御すると、ハーフホイスラー相の格子定数を変化させることができる。具体的には、y値を変化させることにより、格子定数が0.6110nm以上0.6130nm以下であるZrNiSn系ハーフホイスラー化合物が得られる。
本発明に係る複合熱電材料は、上述したMNiSn系ハーフホイスラー化合物及び後述する酸化物微粒子のみからなることが望ましいが、不可避的不純物(異相)が含まれていても良い。但し、熱電特性に悪影響を与える異相は、少ない方が好ましい。
さらに、本実施の形態に係る複合熱電材料は、母相及び酸化物微粒子からなる複合粒子と、他の材料(例えば、樹脂、ゴム等)との複合体であっても良い。
上述したように、(Ni+B)量が過剰になると、母相中にフルホイスラー相が析出する場合がある。フルホイスラー相は金属相であるため、フルホイスラー相の析出は熱電特性を低下させる原因となる。
例えば、M=Tiである場合において、高い熱電特性を得るためには、最強線ピーク強度比は、18%未満が好ましい。最強線ピーク強度比は、さらに好ましくは、10%以下、さらに好ましくは、5%以下である。
また、例えば、M=Zrである場合において、高い熱電特性を得るためには、最強線ピーク強度比は、6%未満が好ましい。最強線ピーク強度比は、さらに好ましくは、5%以下、さらに好ましくは、4%以下である。
ここで、最強線ピーク強度比とは、次の(b)式で表される値をいう。
最強線ピーク強度比=IFULL(220)×100/IHALF(220) ・・・(b)
但し、IHALF(220)は、熱電材料中に含まれるハーフホイスラー相のX線回折における最強線ピーク強度である。IFULL(220)は、熱電材料中に含まれるフルホイスラー相のX線回折における最強線ピーク強度である。
上述したように、(Ni+B)/(Sn+C)比を1より大きくしたり(y>0)、あるいは、Mサイト、Niサイト及びSnサイトのいずれか1以上にドーパントを添加すると、母相の熱電特性が向上する。
例えば、M=Tiである場合において、y>0とすると、ZrやHfのような重元素を添加しなくても、室温における母相の熱伝導度κを4W/mK以下にすることができる。また、Mサイト、Niサイト及びSnサイトのいずれにもドーパントを添加しない場合であっても、室温での母相のZT値を0.05以上にすることができる。さらに、母相のZT値を0.07以上にすることも可能となる。
また、例えば、M=Zrである場合において、y>0とすると、Hfのような重元素を添加しなくても、室温における母相の熱伝導度κを6.7W/mK以下にすることができる。また、Mサイト、Niサイト及びSnサイトのいずれにもドーパントを添加しない場合であっても、773〜873Kでの母相のZT値を0.35以上にすることができる。
酸化物粒子は、少なくとも母相の粒内に析出している。
酸化物粒子は、母相の粒内にのみ析出していても良く、あるいは、母相の粒内と粒界の双方に析出していても良い。酸化物粒子が母相の粒内及び粒界の双方に析出している場合、粒内の酸化物粒子と粒界の酸化物粒子は、互いに同一組成であっても良く、あるいは、異なる組成であっても良い。
酸化物粒子は、遷移金属元素(21Sc〜29Cu、39Y〜47Ag、72Hf〜79Au)、希土類元素(57La〜71Lu)、IIb族元素(30Zn、48Cd、80Hg)、IIIb族元素(5B、13Al、31Ga、49In、81Tl)、及び、IVb族元素(6C、14Si、32Ge、50Sn、82Pb)から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む。
酸化物粒子を構成する酸化物としては、具体的には、希土類酸化物、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、AlO1.5、ZnOなどがある。母相の粒内には、これらの酸化物粒子のいずれか1種が析出していても良く、あるいは、2種以上が析出していても良い。
これらの中でも、酸化物粒子は、ZnO、TiO2、ZrO2、YO1.5、NdO1.5及びLaO1.5から選ばれるいずれか1種以上が好ましい。これらの酸化物は、他の酸化物に比べて熱電特性を向上させる効果が大きい。
複合熱電材料全体に占める酸化物粒子の総体積割合は、複合材の熱電特性に影響を与える。一般に、酸化物粒子の総体積割合が大きくなるほど、熱伝導度κが低下し、あるいは、ゼーベック係数Sが増大する。一方、酸化物粒子の総体積割合が過剰になると、電気伝導度σが低下する。また、酸化物粒子が過剰になると、粒子が凝集・粒成長し、粒内析出粒子が相対的に減少する場合がある。高い熱電特性を得るためには、母相の粒内に析出している酸化物粒子の量は、多いほど良い。
具体的には、母相の粒内に存在する酸化物粒子の体積分率αは、0<α≦0.10の範囲にあるのが好ましい。体積分率αは、さらに好ましくは0<α≦0.07、さらに好ましくは0<α≦0.05、さらに好ましくは0.005≦α≦0.03である。
ここで、「母相の粒内に存在する酸化物粒子の体積分率」とは、以下の手順により得られる値をいう。
(1)複数個(好ましくは、数個〜十数個)の結晶粒が含まれるように、少なくとも1視野の顕微鏡写真を撮影し、視野の面積を求める。
(2)視野中の粒内に析出している酸化物粒子の数を数える。
(3)視野中から無作為に複数個(好ましくは、十数個〜数十個)の酸化物粒子を選び、又は、視野中のすべての酸化物粒子を選び、平均粒子径(後述する「円相当径」)を求め、円と仮定した酸化物粒子の平均面積を求める。
(4)粒内に析出している酸化物粒子の数×酸化物粒子の平均面積を視野の面積で除して、粒子面積率を求める。
(5)粒子面積率(粒子分布状態)が画像の奥行き方向にも存在すると仮定して、粒子面積を体積に換算し、得られた値を「母相の粒内に存在する酸化物粒子の体積分率」とする。なお、「粒子分布状態が画面の奥行き方向にも存在する」とは、3次元格子の格子点上に析出粒子が分布するようなモデルを仮定し、考える領域の立方体に対して、奥行き方向に垂直な断面(丁度格子点上に来るような断面)を幾つか抽出すると、どの断面でも断面積に対する析出粒子の面積が一定である状態を言う。
また、酸化物粒子の総体積に占める母相の粒内に析出している酸化物粒子の体積の割合(以下、「粒内析出率」という)は、15%以上が好ましい。粒内析出率は、さらに好ましくは、20%以上である。
なお、「粒内析出率」とは、以下の手順により得られる値をいう。
(1)複数個(好ましくは、数個〜十数個)の結晶粒が含まれるように、少なくとも1視野の顕微鏡写真を撮影する。
(2)粒内に析出している粒子の平均粒径と粒界に析出している粒子の平均粒径が同一であると仮定し、視野中の酸化物粒子の総数及び粒内に析出している酸化物粒子の数(但し、粒径が500nm以上の粗大粒子を除く)を数える。
(3)粒内に析出している酸化物粒子の数を視野中の酸化物粒子の総数で除した値を「粒内析出率」とする。
酸化物粒子の平均粒径は、複合材の熱電特性に影響を与える。一般に、酸化物粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、フォノンの散乱が不十分となる。従って、酸化物粒子の平均粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、ある一定の体積分率αにおいて酸化物粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、粒子間距離が大きくなりすぎ、フォノンの散乱が不十分となる。従って、酸化物粒子の平均粒径は、100nm以下が好ましい。
ここで、「酸化物粒子の粒径」とは、顕微鏡写真上で観察される酸化物粒子の面積と等価な面積を持つ円の直径(円相当径)をいう。「酸化物粒子の平均粒径」とは、顕微鏡写真上で観察される複数個(好ましくは、10個以上)の酸化物粒子の粒径の平均値をいう。
平均粒径は、以下の手順により求めることができる。
(1)複数個(好ましくは、数個〜十数個)の結晶粒が含まれるように、少なくとも1視野の顕微鏡写真を撮影する。
(2)画像解析ソフト(例えば、フリーソフト:ImageJ)で粒子の総面積を見積もり、粒子の総面積を粒子の個数で割ることで、粒子1個あたりの平均面積を求める。
(3)粒子が完全な球(円)であると仮定して、1個の粒子の平均面積から直径(平均粒径)を算出する。
母相の粒内に析出している酸化物粒子間の平均距離は、複合材の熱電特性に影響を与える。一般に、酸化物粒子間の平均距離が短すぎると、電子などのキャリアの散乱確率が高くなりすぎるために、電気伝導度が著しく低下する場合がある。
キャリアの平均自由行程(MFPcar)は、次式により算出することができる。
MFPcar=v×τ=v×(μ×m*/e)
v=(3×kB×T/m*)0.5
但し、v:キャリアの速度、τ:緩和時間、μ:移動度、m*:キャリアの有効質量、e:電子の素電荷、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度である。
m*=2〜3me(文献値:C.Uher et al., "Transport properties of pure and doped MNiSn(M=Zr, Hf), Physical Review B59(13)p.8651-8621、me=自由電子の質量)、μ=17.4〜21.5cm2/Vs(実測値)として、キャリアの平均自由行程を算出すると、1.5〜2.5nmとなる。従って、酸化物粒子間の平均距離は、1.5nm以上が好ましい。
一方、酸化物粒子間の平均距離が長くなりすぎると、フォノンの散乱が不十分となる。従って、酸化物粒子間の平均距離は、1μm以下が好ましい。
ここで、「酸化物粒子間の平均距離」とは、以下の手順により得られる値を言う。
(1)上述した手順により、画像解析ソフトを用いて、1視野当たりの粒子の個数(平均粒子数)及び粒子の平均粒径を求める。
(2)1視野の面積内に、平均粒径の粒子が平均粒子数に相当する数だけ等間隔(正方格子状)に並んでいると仮定して、平均粒子間距離(正方格子の1辺の長さ)を算出する。
本発明に係る複合熱電材料の製造方法は、母相溶解工程と、母相凝固工程と、再溶解工程と、急冷凝固工程、焼結工程とを備えている。
母相溶解工程は、上述した(1)式で表される組成となるように配合された原料を溶解する工程である。MNiSn系ハーフホイスラー化合物は、Snの融点が他の元素に比べて低いので、酸化物を分散させる前に、予め所定の組成を有する均一な母相を作製するのが好ましい。
原料の溶解方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。溶解方法としては、具体的には、アーク溶解法、高周波溶解法、ガラス管封入アニール法などがある。また、原料の溶解は、酸化を防ぐために、不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
母相凝固工程は、母相溶解工程で得られた溶湯を凝固させる工程である。母相凝固工程において、溶湯は、ゆっくりと凝固させても良く、あるいは、急冷凝固させても良い。急冷凝固法は、結晶粒が微細化され、熱伝導度κを低減することができるという利点がある。また、急冷によって、異相の析出も抑制することができる。
急冷凝固方法としては、具体的には、
(1) 窒化ホウ素製ノズル内で原料を溶融させ、溶湯を回転する銅ロール(冷却媒体)上に噴霧又は滴下する方法(銅ロール法)、
(2) 窒化ホウ素製ノズル内で原料を溶融させ、溶湯をノズル穴から噴霧又は滴下させ、溶湯の流れに周囲からジェット流体を吹きつけ、生成した液滴を落下させながら凝固させる方法(アトマイズ法)、
などがある。
急冷凝固方法としてアトマイズ法を用いる場合、溶湯の酸化を防ぐために、ジェット流体には、不活性ガス(例えば、Arなど)を用いるのが好ましい。
急冷時の冷却速度は、100℃/sec以上が好ましい。冷却速度が100℃/sec未満であると、成分元素が偏析し、均一な固溶体が得られない場合がある。均一な固溶体を得るためには、冷却速度は、速いほどよい。
再溶解工程は、母相凝固工程で得られた凝固物に、上述した酸化物粒子を加え、凝固物を再溶解させる工程である。
再溶解工程は、原料中に所定量の酸化物粒子を添加する以外は、母相溶解工程と同様であるので、詳細な説明を省略する。
急冷凝固工程は、再溶解工程で得られた溶湯を急冷凝固させる工程である。
急冷凝固工程は、溶湯中に所定量の酸化物粒子を添加する以外は、母相溶解工程の急冷凝固法と同様であるので、詳細な説明を省略する。
焼結工程は、急冷凝固工程で得られた急冷凝固物の粉末を成形し、焼結させる工程である。急冷凝固物は、必要に応じて適度に粉砕した後、そのまま各種の用途に用いることができる。従って、焼結工程は、必ずしも必要な工程ではないが、バルクの状態で使用するときには、通常、焼結を行う。
粉末状のMNiSn系ハーフホイスラー化合物を焼結させる場合、その焼結方法には、種々の方法を用いることができる。焼結方法としては、具体的には、常圧焼結法、ホットプレス、HIP、放電プラズマ焼結(SPS)法などがある。これらの中でも、SPS法は、短時間で緻密な焼結体が得られるので、焼結方法として特に好適である。
焼結条件(例えば、焼結温度、焼結時間、焼結時の加圧力、焼結時の雰囲気等)は、MNiSn系ハーフホイスラー化合物の組成、使用する焼結方法等に応じて、最適なものを選択する。
例えば、SPS法を用いる場合、焼結温度は、MNiSn系ハーフホイスラー化合物の融点以下が好ましく、加圧力は、20MPa以上が好ましい。また、加圧力を20MPa以上とすると、緻密な焼結体を得ることができる。焼結時間は、緻密な焼結体が得られるように、焼結温度に応じて最適な時間を選択する。
粉末を焼結した後、焼結体を所定の温度に保持するアニール処理を行っても良い。焼結体に対してアニール処理を施すと、成分元素の偏析、析出した異相等を除去することができる。
アニール処理の温度は、700℃以上MNiSn系ハーフホイスラー化合物の融点以下が好ましい。アニール処理温度が700℃未満であると、十分な効果が得られない。
アニール処理時間は、アニール処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、アニール処理温度が高くなるほど、短時間で偏析等を除去することができる。通常は、数時間〜数十時間である。
一般に、熱電材料の変換効率は、無次元性能指数ZTと1対1の対応関係があり、ZTが大きいほど熱電変換効率は大きくなる。性能指数ZTは、以下の式で表される。
ZT=[(σ×S2)/κ]×T=PF/κ×T
(σ:電気伝導度、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導度、T:絶対温度)
この式より、ZTを向上させるためには、PF(出力因子)を向上させるか、κを低減すれば良いことが分かる。
κ=κcarr+κph
但し、熱電材料では、通常、ZTが最高となるようなキャリア濃度が選択されるが、そのキャリア濃度では、κcarr≪κphとなるため、結局、熱伝導度は、κphの大きさに依存する。格子熱伝導度は、物質の種々の不完全性(不純物、構造欠陥等)で散乱される。
しかしながら、化学的手法は、還元しにくい元素を主構成元素として含む熱電材料には適用できない。
また、混合法では、主に母相の結晶粒界に酸化物微粒子が偏析した微細構造となり、粒子間距離は、母相結晶粒子の微細化の度合いによって制限される。そのため、この方法では、粒子間距離を十分に小さくすることは困難である。また、酸化物粒子の一部は、結晶粒内にも析出するが、酸化物粒子の大きさは約500nmであり、酸化物粒子の大きさを十分に小さくすることができない。
さらに、母相粒子や酸化物粒子を微細化するために長時間の処理を行うと、ボールやポットからの不純物の混入量が増大する。また、長時間の処理は、メカノケミカル反応により分相を促進させ、予想外の性能低下が生じる場合がある。実際に、本発明の組成物を非特許文献1、2と同様な方法にて作製したところ、酸化物と母相との反応によって、ゼーベック係数が低下するという問題が生じている。
さらに、母相内に酸化物微粒子が分散して存在することによって、母相内に不純物準位が形成される。その結果、ゼーベック係数Sが向上し、出力因子PFが増大する。これらの結果、酸化物微粒子を複合させない場合及び母相の粒界に酸化物微粒子を分散させた場合に比べて、無次元性能指数ZTが向上する。
例えば、TiNiSnのTiの一部をZrやHfで置換したり、あるいは、ZrNiSnのNiの一部をPdやPtで置換すると、複合材の熱伝導度κをさらに低減することができる。
このような不完全性は、同時にキャリアを散乱させて、電気伝導度を低下させる可能性もある。しかしながら、一般に、キャリアの平均自由行程は、フォノンのそれと比べて小さいので、フォノン減少の度合いの方が大きく、無次元性能指数は増大する。
しかも、空孔(4dサイト)へのNiサイト原子の導入は、母相のゼーベック係数S及び電気伝導度σにも影響を与える。そのため、y値を最適化すると、母相の熱伝導度κを低減すると同時に、出力因子PFも増大させることができる。特に、ZrNiSn系ハーフホイスラー化合物にNi侵入型欠陥を導入した場合には、キャリア濃度の最適化により、TiNiSn系ハーフホイスラー化合物の出力因子(3.8mW/K2m)に比べて高い出力因子(4.6mW/K2m)が得られる。
さらに、フルホイスラー相/ハーフホイスラー相の最強線ピーク強度比が所定値未満となるように組成や製造条件を最適化すると、フルホイスラー相の析出に起因する母相の熱電特性の低下を抑制することができる。
[1. 試料の作製]
全体の組成が(Zr1-aYa)Ni(Sn1-aSba)、(Ti0.8Zr0.2)NiSn、あるいは、[(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)0.99Y0.01]Ni(Sn0.99Sb0.01)となるように、Y、Ni、Sb、Ti、Zr、Hf、及びSnを秤量した。この原料を窒化ホウ素製るつぼに入れ、高周波溶解させ、インゴットを得た。このインゴットを乳鉢又はボールミルで粉砕し、20μmメッシュのふるいを通して母相粉末を得た。
母相粉末に対して、エタノールを溶媒として、TiO2、ZrO2、ZnO、SiO2、Y2O3、Nd2O3、又は、La2O3のナノ粒子(10〜100nm)を0.1〜10vol%混合した。その後、減圧条件下で試料を室温から400℃の温度で保持することによって溶媒を除去し、ナノ粒子が被覆されたハーフホイスラー粉末(以下、「被覆粉末」という)を得た(比較例1)。
さらに、被覆粉末を再溶解し、急冷凝固させることにより、結晶粒内に酸化物粒子が分散したハーフホイスラー粉末(以下、「分散粉末」という)を得た(実施例1)。
得られた母相粉末、被覆粉末又は分散粉末を、SPS装置を用いて焼結させた。焼結温度は1100℃、焼結時間は15分、焼結時の圧力は50MPaとした。
[2.1. 組織観察]
焼結体の組織をSEMにより観察した。また、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、SEM写真から、酸化物粒子の平均粒子間距離、平均粒径、体積分率α、及び、粒内析出率を算出した。
[2.2. 熱電特性]
焼結体から試料を切り出し、ゼーベック係数S、電気伝導度σ及び熱伝導度κを測定した。また、測定されたゼーベック係数S、電気伝導度σ及び熱伝導度κを用いて、出力因子PF及び無次元性能指数ZTを算出した。
[3.1. 組織]
図2(a)及び図2(b)に、それぞれ、被覆粉末を用いて作製した複合熱電材料(比較例1:ZrNiSn+1vol%ZrO2)のSEM写真、及び、図2(a)と同一視野でのOのEPMAによる組成分析結果を示す。図3に、分散粉末を用いて作製した複合熱電材料(実施例1:(Ti0.8Zr0.2)NiSn+3vol%ZrO2)のSEM写真を示す。さらに、図4に、図3の試料の低倍率SEM写真を示す。
図2に示すように、被覆粉末を用いて複合熱電材料を作製した場合、その組織は、酸化物ナノ粒子(約100nm)がハーフホイスラー相の粒界に偏析したコアシェル型の微細構造であった。コアシェル型の場合、粒内に若干の酸化物粒子らしきものが見られる程度であり、これを考慮しても体積分率α及び粒内析出率は、いずれもほぼ0%であった。
一方、図3及び図4に示すように、分散粉末を用いて複合熱電材料を作製した場合、その組織は、100nm以下の酸化物粒子が母相の結晶粒内に分散した分散型の微細構造であった。また、ZrO2の量を3vol%に増加させると、粒内にナノ粒子が析出するだけでなく、凝集・粒成長した酸化物粗大粒子が粒界に生成することがわかった。
図5(a)に、図5(b)のSEM写真から抽出した分析対象粒子(黒の斑点)の分布図を示す。図5(b)に、画像解析に用いたSEM写真(図3と同一のSEM写真)を示す。さらに、図6に、図5(a)の画像を用いて画像解析ソフトにより求めた粒子の粒度分布を示す。
図3の試料の場合、平均粒子径=54nm(最大264nm、最小20nm以下(写真の解像度の限界))、体積分率α=0.0085(0.85vol%)、粒内析出率=30%、平均粒子間距離=238nmであった。
平均粒子間距離及び母相の粒内に存在する酸化物粒子の体積分率は、酸化物粒子の仕込み組成により変化した。一方、本発明に係る方法を用いた場合、粒内析出率は、仕込み組成によらず、いずれも0%を超えていた。
図7に、ZrNiSn(複合化無し)、混合法で作製したZrNiSn/1vol%ZrO2複合熱電材料、及び、急冷凝固法で作製したZrNiSn/1vol%ZrO2複合熱電材料のゼーベック係数の絶対値の温度依存性を示す。
図7より、混合法で作製した試料の場合、複合化していないZrNiSnに比べてゼーベック係数の絶対値が低下しているのに対し、急冷凝固法で作製した試料の場合、ゼーベック係数の絶対値が増大することがわかった。
混合法で作製した複合熱電材料は、ゼーベック係数の絶対値が低下したために、複合化無しの試料に比べて出力因子が低下した(図8の(1)→(2))。これに対し、急冷凝固法で同じ組成の複合熱電材料を作製した場合、複合化無しの試料に比べて出力因子は低下しなかった(図8の(1)→(3))。さらに、急冷凝固法で複合熱電材料を作製する場合において、酸化物をYO1.5からZrO2に変えると、複合化無しの試料よりも出力因子が増加することがわかった(図8の(1)→(4))。
図9より、以下のことがわかる。
(1)酸化物添加量が多くなるほど熱伝導度が低下する。また、少なくとも10vol%までは、酸化物添加は熱伝導度低減に有効である。
(2)(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSn系複合熱電材料の場合、その出力因子は、酸化物粒子の混合比が増加するに従って若干低下した。しかしながら、熱伝導度低減効果のため、図9(b)に示すように、7vol%程度までは、無次元性能指数ZTは、複合化なしの試料よりも増加した。
(3)母相の組成により、複合化による性能向上効果に違いがある。特に、(Ti0.8Zr0.2)NiSn/ZrO2系複合熱電材料の場合、0.5vol%以上のZrO2の添加で、0.85以上のZTが得られた。
表2より、以下のことがわかる。
(1)母相に対して1vol%の酸化物を添加することにより、熱伝導度の低下が生じている。特に、NdO1.5やLaO1.5などの希土類酸化物との複合化(No.5〜7)は、熱伝導度低減の効果が高い。
(2)混合法によりZrO2を添加した場合(No.3)、及び、急冷凝固法によりSiO2を添加した場合(No.9)を除き、母相に対して1vol%の酸化物を添加することにより、出力因子の増大が生じている。その結果、これらの無次元性能指数は、酸化物の複合化無し(No.1)に比べて、約30%以上増大した。
Claims (9)
- 以下の構成を備えた複合熱電材料。
(a)前記複合熱電材料は、
熱電材料からなる母相と、
少なくとも前記母相の粒内に析出している1種又は2種以上の酸化物粒子と、
を備えている。
(b)前記母相は、(1)式で表される組成を有するハーフホイスラー化合物を含む。
(M1-aAa)1+x(Ni1-bBb)1+y(Sn1-cCc) ・・・(1)
但し、
0≦a<0.1、0≦b<0.1、0≦c<0.1。
−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2。
Mは、Ti、Zr及びHfから選ばれる1種以上の元素。
Aは、IIIa族元素、IVa族元素(Ti、Zr、及びHfを除く)、Va族元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素、
Bは、VIIIa族元素(Niを除く)及びIb族元素から選ばれる1種以上の元素、
Cは、IIIb族元素、IVb族元素(Snを除く)及びVb族元素から選ばれる1種以上の元素。
(c)前記酸化物粒子は、遷移金属元素、希土類元素、IIb族元素、IIIb族元素、及び、IVb族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む。 - 前記酸化物粒子は、希土類酸化物、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、AlO1.5及びZnOから選ばれる1種以上を含む請求項1に記載の複合熱電材料。
- 前記酸化物粒子は、ZnO、TiO2、ZrO2、YO1.5、NdO1.5及びLaO1.5から選ばれる1種以上を含む請求項1又は2に記載の複合熱電材料。
- 前記母相の粒内に存在する前記酸化物粒子の体積分率αは、0<α≦0.10の範囲にある請求項1から3までのいずれかに記載の複合熱電材料。
- 前記酸化物粒子の粒内析出率は、15%以上である請求項1から4までのいずれかに記載の複合熱電材料。
- 前記酸化物粒子の平均粒径は、1〜100nmの範囲にある請求項1から5までのいずれかに記載の複合熱電材料。
- 前記母相の粒内に析出している前記酸化物粒子間の平均距離は、1.5nm以上1μm以下である請求項1から6までのいずれかに記載の複合熱電材料。
- 請求項1に記載の(1)式で表される組成となるように配合された原料を溶解する母相溶解工程と、
前記母相溶解工程で得られた溶湯を凝固させる母相凝固工程と、
前記母相凝固工程で得られた凝固物に請求項1に記載の酸化物粒子を加え、凝固物を再溶解させる再溶解工程と、
前記再溶解工程で得られた溶湯を急冷凝固させる急冷凝固工程と、
を備えた複合熱電材料の製造方法。 - 前記急冷凝固工程で得られた急冷凝固物の粉末を成形し、焼結させる焼結工程をさらに備えた請求項8に記載の複合熱電材料の製造方法。
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