JP2011156549A - プランジャー装置およびプランジャーチップ - Google Patents

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Abstract

【課題】ダイカストマシンに備えられるプランジャー装置であって、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、早急に凝固させることが可能であり、耐久性に優れたプランジャー装置を提供する。
【解決手段】溶融金属が投入されるスリーブ2と、前記スリーブ2に摺動可能に内装され、前記スリーブ2内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップ3と、を有するプランジャー装置1であって、前記スリーブ2の内周面2bと、前記プランジャーチップ3の溶融金属に面する先端面(前端面3a)と、には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、炭素結合された炭素系被膜が被覆される。
【選択図】図1

Description

本発明は、ダイカストマシンに備えられるプランジャー装置およびプランジャーチップの技術に関する。
従来から、ダイカストマシンにおいては、湯道を介してダイカスト金型のキャビティと連通されるスリーブや、該スリーブに内装されるプランジャーチップなどから構成されるプランジャー装置が備えられる。
そして、キャビティ内に溶融金属を充填する際は、スリーブ内に溶融金属を投入し、その後、プランジャーチップをスリーブの内周部に沿って摺動させて、該プランジャーチップによってキャビティ内に溶融金属を圧出することとしている。
ところで、従来のプランジャー装置は、スリーブ内に投入された溶融金属中に初期凝固層を発生させやすく、このような初期凝固層の発生は、鋳造製品の材料強度の低下など、鋳造製品の品質(以下、「鋳造品質」と記載する)の低下をもたらす要因となっていた。
ここで、このような初期凝固層の発生に関するメカニズムについて、図6を用いて具体的に説明する。
図6は、溶融金属151の投入後における従来のプランジャー装置101を示した図であり、(a)はその側面断面図であり、(b)は(a)における矢印Bの方向から見た正面断面図である。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図6(a)における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図6においては、図面上の上下方向を、プランジャー装置101の上下方向と規定して以下説明する。
プランジャー装置101は、主に円筒形状の中空部材からなり、ダイカスト金型に接続されるスリーブ102や、円柱形状の中実部材からなるプランジャーチップ103などにより構成される。
スリーブ102のダイカスト金型側端部(前端部)は、ダイカスト金型のキャビティ111へと通じる湯道112と連通される。また、スリーブ102はダイカスト金型から外方へ向かって延出しており、延出側端部(後端部)の上面には給湯口102aが形成される。
ここで、プランジャーチップ103の軸心方向断面に関する直径寸法は、スリーブ102の内周部102bの直径寸法に対して略同程度に形成される。そして、スリーブ102の後端部において、プランジャーチップ103はスリーブ102と同軸上に挿入されるとともに、スリーブ102の内周部102bに沿って軸心方向に摺動可能に配設される。
そして、給湯口102aを介してスリーブ102内に溶融金属151を投入した後に、プランジャーチップ103を前方(湯道112側の方向)に摺動させることで、溶融金属151はキャビティ111内に圧出される。
ここで、スリーブ102内に溶融金属151を投入する際は、前述の通り、給湯口102aを介して上方より溶融金属151を注ぎ込むことになる。
よって、スリーブ102内に投入された直後の溶融金属151の液面は、暫くの間大きく波打つ状態となり、プランジャーチップ103の前端面103a(溶融金属151に面する側面)に押し寄せた溶融金属151は、前記前端面103aの略全領域を飲み込んで濡らすこととなる。
プランジャーチップ103の前端面103aを濡らした一部の溶融金属151は、その後、自重によって該前端面103aに沿って下方に流下する。
しかし、前記前端面103aの溶融金属151に対する「濡れ性」が大きい場合、溶融金属151が完全に流下するまでには時間が長くかかる。
よって、前記前端面103aに付着して前端面103aを濡らしている溶融金属151の一部は、流下する途中で外気に触れて冷却され、初期凝固層151aとなって凝固する。
即ち、図6(b)に示すように、プランジャーチップ103の前端面103aにおいて、本来の溶融金属151に関する液面の位置、つまり波打ち状態が収まった該液面の位置(図6におけるXの位置)より上方に超えた領域が外気に触れて冷却され、初期凝固層151aとして形成されるのである。
なお、初期凝固層151aは、正面視において、左右両端部が中央部よりも上方へ突出した形状に形成されるが、これは次の理由による。
即ち、プランジャーチップ103の前端面103aにおいて、その正面視外縁部にはテーパー部103bが設けられる。そして、テーパー部103bは、プランジャーチップ103の軸心方向断面が、前方(溶融金属151側の方向)に向かうにつれて徐々に縮径するように形成される。
従って、テーパー部103bに付着した溶融金属151は、表面張力の影響によって、前記前端部103aの平面部に付着した溶融金属151に比べてスリーブ102内に貯溜された溶融金属151の表面に流下するまでの時間が長くかかり、前端面103aの平面部に付着した溶融金属151に比べて上方へ突出した状態に凝固される。
つまり、初期凝固層151aは、正面視において、テーパー部103bが設けられる左右両端部が中央部よりも上方へ突出した形状に形成されるのである。
また、スリーブ102内に一旦投入された溶融金属151は、時間の経過とともにスリーブ102によって徐々に熱を奪われて冷却される。
その結果、溶融金属151におけるスリーブ102の内周部102bに面する箇所、つまり、溶融金属151の底部においても、初期凝固層151bが形成される。
このように、従来のプランジャー装置101においては、スリーブ102内に投入された溶融金属151に関して初期凝固層151a・151bを発生させやすい構成となっていた。
よって鋳造品質を向上させるべく、このような初期凝固層151a・151bの発生を低減するには、先ず、プランジャーチップ103の前端面103aに関する「濡れ性」を小さくすることが有効であり、さらに、無加圧時の溶融金属151に対するスリーブ102の内周部102bと、プランジャーチップ103の前端面103aとの熱伝達率を低く抑え、スリーブ102によって溶融金属151によって奪われる熱量を少なくすることが有効である。
なお、前記「無加圧時」とは、スリーブ102内への溶融金属151の投入後であって、プランジャーチップ103がスリーブ102の後端部(湯道112と対向する側の端部)に位置する状態、つまり、プランジャーチップ103が、未だ前方(湯道112側の方向)に向かって摺動移動されておらず、溶融金属151に圧力が加わっていない状態を意味する。
一方、プランジャーチップ103がスリーブ102内を湯道112に向かって摺動し、キャビティ111内へ溶融金属151が充填された後においては、スリーブ102内に留まる一部の溶融金属151は早急に凝固することが望ましいが、これは次の理由による。
即ち、キャビティ111内への溶融金属151の充填後においても、依然としてスリーブ102内に留まる一部の溶融金属151は、凝固してビスケット部を形成する。そして、前記ビスケット部の肉厚は、通常キャビティ111内に形成される鋳造製品の肉厚に比べて大きく形成される。
よって、キャビティ111内への溶融金属151の充填が完了し、ダイカスト金型の冷却工程が開始されると、先ず鋳造製品の冷却が完了し、その後、ビスケット部の冷却が完了する。
つまり、ビスケット部の冷却に費やされる時間が長くなれば、それだけ鋳造工程における1サイクルあたりの時間が延び、既に冷却を完了した鋳造製品についても、更に余分に冷却されることとなり、「ひけ」などの品質不良を引き起こす要因ともなる。
従って、鋳造品質を向上させるべく、溶融金属151の加圧時においては、溶融金属151に対するスリーブ102の熱伝達率を高くし、スリーブ102によって溶融金属151より奪われる熱量を多くすることで、スリーブ102内に留まる一部の溶融金属151の凝固時間を、少なくとも従来のプランジャー装置101においてスリーブ102内に留まる一部の溶融金属151が凝固するのに必要な時間以下にする必要があった。
なお、前記「加圧時」とは、スリーブ102内において、プランジャーチップ103が前方端(図6におけるプランジャーチップ103Aの位置)に位置する状態、つまり、プランジャーチップ103が前方(湯道112側の方向)に向かって摺動し、プランジャーチップ103によって溶融金属151に圧力が加わっている状態を意味する。
以上に述べたように、従来のプランジャー装置において、鋳造品質を向上させるためには、前記無加圧時にスリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後は、該溶融金属を早急に(少なくとも従来のプランジャー装置においてかかる時間以内に)凝固させる必要があり、このような要求に対応するべく様々な技術が開示されている。
即ち、「特許文献1」においては、薄肉鋳片連続鋳造装置に関する技術ではあるが、少なくとも金属ベルトに接して形成される、湯溜り部の幅方向を規制する堰の表面、または該堰と接する前記金属ベルトの表面部分に、前記湯溜り部に注入される溶融金属の「濡れ性」が低い耐火物層をコーティング、または溶射加工する技術が開示されている。
また、「特許文献2」においては、溶融金属が導入されるスリーブと、スリーブ内に導入された溶融金属を送出するプランジャーヘッドや、スリーブ内周部と摺動する環状の摺動部などからなり、スリーブ内をストロークするプランジャーとを有し、少なくともプランジャーヘッドが有効量の結晶性乱層構造窒化硼素を含む粉末を焼結してなるプランジャー装置に関する技術が開示されている。
また、「特許文献3」においては、金型に関する技術ではあるが、被成形材料(溶融金属)との接触面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも一種のナノカーボン類を含む炭素膜を被覆する技術が開示されている。
平2−84233号公報 特開2000−33470号公報 特開2008−105082号公報
このような前記「特許文献1」乃至前記「特許文献3」によって開示される技術を用いれば、従来のプランジャー装置の問題点を改善し、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を早急に凝固させることが可能であるとも思われる。
しかし、前記「特許文献1」に開示される技術を用いて、例えばプランジャーチップの先端面(溶融金属に面する側面)に、アルミナやシリカなどからなる耐火物層(セラミックス層)を設けたとしても、溶融金属に対する「濡れ性」を小さくし、初期凝固層の発生を低減することはできるものの、キャビティ内への溶融金属の圧出時に加わる衝撃力によって、前記耐火物層は破壊されやすく、現実的にこのような技術をプランジャー装置に利用することは難しい。
また、耐火物層(セラミックス層)は、一般的に優れた断熱性を有するが、該断熱性を有するが故に、加圧時におけるプランジャー装置の熱伝導性が阻害され、鋳造工程における1サイクルあたりの時間が延び、鋳造品質に悪影響を及ぼす。
さらに、プランジャー装置に溶融金属を投入すれば、耐火物層(セラミックス層)と、母材であるプランジャーチップの素材との間には、大きな熱膨張差が発生することから、プランジャーチップの先端面にのみ、耐火物層(セラミックス層)を設ける場合は、耐火物層はプランジャーチップより剥離しやすく、現実的にこのような技術をプランジャー装置に利用することは難しい。
なお、熱膨張差によるプランジャーチップからの耐火物層(セラミックス層)の剥離を防ぐために、例えば、プランジャーチップ全体を耐火物層(セラミックス層)によって覆ったとしても、スリーブの内周部に関する摩耗が著しくなり、現実的にこのような技術をプランジャー装置に利用することは難しい。
一方、前記「特許文献2」に開示される技術に拠れば、溶融金属に対する「濡れ性」を小さくし、初期凝固層の発生を低減するとともに、強度、および断熱性に優れたプランジャー装置を提供することができる。しかし、前記断熱性を有するが故に、加圧時にあるプランジャー装置の熱伝導性が阻害され、鋳造工程における1サイクルあたりの時間が延び、鋳造品質に悪影響を及ぼす。
つまり、前記「特許文献2」に開示される技術に拠れば、少なくとも初期凝固片の発生を効果的に低減することができる被膜をプランジャーチップに施工することが可能となるものの、その一方においては、鋳造品質に悪影響を及ぼすため、前記被膜の効果としては不十分である。
また、前記「特許文献3」に開示される技術に拠れば、一方においては、溶融金属に対する「濡れ性」を小さくし、初期凝固層の発生を低減するとともに、強度、および熱伝導性に優れたプランジャー装置を提供することができるものの、他方においては、前記熱伝導性を有するが故に、無加圧時におけるプランジャー装置の断熱性が阻害されるため、初期凝固層の発生を低減することは難しい。
本発明は、以上のような従来のプランジャー装置に関する様々な問題点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、ダイカストマシンに備えられるプランジャー装置およびプランジャーチップであって、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を早急に凝固させることが可能であり、耐久性に優れたプランジャー装置およびプランジャーチップを提供することにある。
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、本発明者らは、前述の課題を達成するべく鋭意検討を繰り返した結果、単にプランジャー装置に被覆する物質の特性によって、プランジャーチップの先端面に関する「濡れ性」の低減化や、加圧時および無加圧時におけるスリーブ内周部の熱伝達率の設定を図るのではなく、これらプランジャーチップおよびスリーブの形状特性(具体的には、物質を被覆する表面上の形状)を加えることで、前述の課題が解決出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、請求項1においては、溶融金属が投入されるスリーブと、前記スリーブに摺動可能に内装され、前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップと、を有するプランジャー装置であって、前記スリーブの内周面と、前記プランジャーチップの溶融金属に面する先端面と、には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、炭素結合された炭素系被膜が被覆されるものである。
請求項2においては、請求項1に記載のプランジャー装置であって、前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成されるものである。
請求項3においては、請求項1または請求項2のうちの何れか一項に記載のプランジャー装置であって、前記スリーブと前記プランジャーチップとの前記溶融金属に関する熱伝達率は、前記プランジャーチップによって前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、前記プランジャーチップによって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合、6000[W/mK]以上であるものである。
請求項4においては、溶融金属が投入されるスリーブに摺動可能に内装され、前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップであって、溶融金属に面する先端面には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、炭素結合された炭素系被膜が被覆されるものである。
請求項5においては、請求項4に記載のプランジャー装置であって、前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成されるものである。
請求項6においては、請求項4または請求項5のうちの何れか一項に記載のプランジャー装置であって、前記プランジャーチップの前記溶融金属に関する熱伝達率は、前記プランジャーチップによって前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、前記プランジャーチップによって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合、6000[W/mK]以上であるものである。
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明におけるプランジャー装置に拠れば、ダイカストマシンに備えられるプランジャー装置およびプランジャーチップであって、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を早急に凝固させることが可能であり、耐久性に優れたプランジャー装置およびプランジャーチップを提供することができる。
本発明の一実施例に係るプランジャー装置の全体的な構成を示した断面側面図。 各点数ごとの「濡れ性」における湯流れ状態をサーモグラフィーによって画像化したものであり、(a)は3点が付与される「濡れ性」を示した画像写真であり、(b)は2点が付与される「濡れ性」を示した画像写真であり、(c)は1点が付与される「濡れ性」を示した画像写真であり、(d)は0点が付与される「濡れ性」を示した画像写真である。 各試験材料に関する「濡れ性」を、獲得した点数の合計からなる湯流れ指数によって示した棒グラフ。 各試験材料に関する無加圧時の熱伝達率を示した棒グラフ。 本発明におけるプランジャー装置のスリーブ内に給湯して凝固させた溶融金属塊を示した写真であり、(a)は溶融金属塊の上面を写した写真、(b)は溶融金属塊の下面を写した写真、(c)はプランジャーチップ側の端部における溶融金属塊の上面を写した拡大写真。 溶融金属の投入後における従来のプランジャー装置を示した図であり、(a)はその側面断面図であり、(b)は(a)における矢印Bの方向から見た正面断面図である。 従来のプランジャー装置のスリーブ内に給湯して凝固させた溶融金属塊を示した写真であり、(a)は溶融金属塊の上面を写した写真、(b)は溶融金属塊の下面を写した写真、(c)はプランジャーチップ側の端部における溶融金属塊の上面を写した拡大写真。
次に、発明の実施の形態を説明する。
[プランジャー装置1]
先ず、本実施例におけるプランジャー装置1の構成について、図1を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図1における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図1においては、図面上の上下方向をプランジャー装置1の上下方向と規定して、以下説明する。
プランジャー装置1はダイカスト金型10のキャビティ11内に溶融金属を送り込む(充填する)ための装置である。
プランジャー装置1はダイカスト金型10に備えられ、主にスリーブ2やプランジャーチップ3などにより構成される。
一方、ダイカスト金型10は、後方に配設される固定金型10Aや、該固定金型10Aの前方において、該固定金型10Aと対向して配設される可動金型10Bなどを有して構成される。
また、これら固定金型10Aと可動金型10Bとは、図示せぬ固定プラテンと可動プラテンとに各々着脱可能に固定保持される。そして、可動プラテンが前後方向(固定金型10Aに対する対向方向)に摺動することで、可動金型10Bは固定金型10Aに対して近接離間される。
固定金型10Aには、プランジャー装置1のスリーブ2が嵌設される。そして、可動金型10Bが固定金型10Aに近接し、ダイカスト金型10が「型閉じ」されると、可動金型10Bと固定金型10Aとの間にキャビティ11と該キャビティ11に繋がる湯道12が形成され、該湯道12を介して、スリーブ2とキャビティ11とが連通される。
先ず始めに、スリーブ2について説明する。
スリーブ2は、キャビティ11内に送り込む溶融金属を一旦貯溜するとともに、該キャビティ11と連通される湯道12に前記溶融金属を導くための部位である。
スリーブ2は円筒形状の中空部材から形成され、軸心方向を前後方向に向けて、固定金型10Aに嵌設される。
即ち、スリーブ2はその前端部において、固定金型10Aに挿嵌される。また、スリーブ2は固定金型10Aから外方(後方)へ向かって延出している。スリーブ2の延出側端部(後端部)からは、スリーブ2の内周面2bにて囲まれる空間に、後述するプランジャーチップ3が内挿される。
スリーブ2の後端部において、その上部には給湯口2aが形成され、該給湯口2aを介して、スリーブ2内に溶融金属が投入される。
なお、可動金型10Bにおいて、スリーブ2の前端部と対向する側の側面部にはスプルコア13が配設される。そして、スリーブ2の軸心方向断面における内周面2bにて囲まれる空間のうち、スプルコア13で占められていない部分(空隙部分)の面積は、前方に向かって徐々に縮小され、スリーブ2の前端部は湯道12と連通される。
このような構成を有することで、後述するプランジャーチップ3によってスリーブ2内より押し出される溶融金属は、効果的に内圧を高められて湯道12へとスムーズに導かれるのである。
次に、プランジャーチップ3について説明する。
プランジャーチップ3は、スリーブ2内に投入された溶融金属を湯道12に向かって押し出すための部位である。
プランジャーチップ3は円柱形状の中実部材から形成され、スリーブ2に内挿される。スリーブ2に内挿されたプランジャーチップ3は、スリーブ2と同軸上に配置される。
ここで、プランジャーチップ3の軸心方向断面に関する直径寸法は、スリーブ2の内周面2bにて囲まれた空間の直径寸法に対して略同程度に形成される。そして、プランジャーチップ3は、スリーブ2の内周面2bに沿って軸心方向に摺動可能に配設される。
このような構成からなるプランジャー装置1によって、ダイカスト金型10のキャビティ11内に溶融金属を送り込むには、先ず、プランジャーチップ3をスリーブ2の後端部(給湯口2aよりも後方)に配置した状態で、給湯口2aを介してスリーブ2内に溶融金属を投入し、その後、プランジャーチップ3を前方(湯道12側の方向)に向かって摺動させる。
すると、スリーブ2内に投入された溶融金属は、プランジャーチップ3の前端面によって前方へと押し出され、スプルコア13の形状に沿って、湯道12へと圧出される。
そして、プランジャーチップ3が前方端(図1におけるプランジャーチップ3Aの位置)の位置に到達すると、キャビティ11内への溶融金属の充填作業は完了する。
ここで、本実施例におけるプランジャー装置1において、スリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の前端面3a(溶融金属に面する側面)とには、後述する様々な試験によって得られた結果に基づき、特別な表面加工が施工されている。
具体的には、これらスリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の前端面3aとには、表面粗さが少なくともRa0.2[μm]を超える値、より望ましくはRa1.5[μm]以上3.2[μm]以下の範囲内となるような複数の凹凸形状が形成されるとともに、皮膜内の炭素成分同士が互いに炭素結合された炭素系被膜が被覆される。
このような表面加工を施すことで、プランジャー装置1は、優れた耐久性を有しつつ、プランジャーチップ3の前端面3aに関する「濡れ性」の低減化と、加圧時および無加圧時におけるスリーブ2の内周面2bの適切な熱伝達率の確保とを同時に実現することを可能としている。
よって、プランジャー装置1は、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を早急に凝固させることが可能なのである。
なお、このような特別な表面加工は、スリーブ2内の溶融金属と接触するスプルコア13などにおいても施工されることが、鋳造品質を向上させるうえでより望ましい。
[「濡れ性」試験]
次に、前述したプランジャー装置1に施工される特別な表面加工の方法を探るべく、本発明者らが行った「濡れ性」試験について、図2、および図3を用いて説明する。
「濡れ性」試験は表1に示すように、前端面3aおよび内周面2bに形成された凹凸形状についての表面粗さの大きさと、前端面3aおよび内周面2bに施された被膜の種類との組み合わせについて各々異なる13種類の試験材料を用意し、これら試験材料の表面部に溶融金属を注いだ時の該溶融金属の流れ具合を観測することで行った。
Figure 2011156549
以下、前記「濡れ性」試験に関する手法について具体的に説明する。
先ず、「濡れ性」試験に用いられる試験材料と溶融金属について説明する。
試験材料は、SKD61を材料とする一辺が200mm、且つ厚みが20mmの板状部材を13枚用意し、各板状部材の一方の平面部全体に、表1に示されるNo.1〜No.13までの表面加工を各々施工して形成した。
前記表面加工については、各試験材料の一方の平面部において、表1に示される凹凸形状の大きさからなる表面粗さを形成し、その後、表1に示される被膜を被覆することとした。
例えば、No.1の試験材料であれば、一方の平面部において、凹凸形状の大きさがRa3.2[μm]となるような表面粗さを形成し、その後、前記平面部において約5[μm]の厚みを有する炭素系被膜を被覆するのである。
なお、表面粗さに関する凹凸形状の施工方法については、例えば、ショット・ブラストや放電加工や放電被覆など、いずれの施工方法を用いてもよい。
また、炭素系被膜については、例えば、化学気相法によるカーボンナノファイバーの生成や、フラーレン粉のすりこみなど、いずれの方法を用いて被覆してもよい。
ここで、表1中に示される被膜の種類において、(結合)なる記載を有するものは、該被膜における炭素成分同士が互いに炭素結合されていることを意味する。前記炭素結合については、例えば化学気相法や火炎処理やバインダーの利用など、いずれの方法によって行ってもよい。
溶融金属はADC12を成分とするアルミニウム合金を摂氏700℃まで昇温して溶解させることで形成した。
次に、「濡れ性」試験に関する試験方法について説明する。
先ず始めに、周囲温度が摂氏約20℃である実験場内において、各試験材料は、表面加工が施工された平面部を上方に向けつつ、該平面部が水平面に対して約20°の傾斜を有するようにして配設される。
各試験材料の配設が完了すれば、該試験材料の上端部より上方に向かって約20mm離れた位置より、約100ccの溶融金属が前記試験材料の上側平面部に向かって各々注がれる。
そして、各試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属の流れ具合を観測し、予め定められた評価基準に基づいて点数を付与することで、各試験材料に関する「濡れ性」を評価することとした。
なお、このような試験材料に関する「濡れ性」の評価は、各々の試験材料に対して3回繰り返して行われ、このとき得られた点数の合計点を「湯流れ指数」として、各試験材料に関する「濡れ性」の状態を示す固有値として付与することとした。
次に、各試験材料に関する「濡れ性」の評価方法について説明する。
各試験材料に関する「濡れ性」の評価は、前述のとおり、予め定められた評価基準に基づいて付与される点数の合計点、即ち「湯流れ指数」によって行うこととした。
ここで、前記評価基準について説明すると、図2(a)に示すように、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属が、溶融状態(液体状態)を維持しつつ該上側平面部に沿って一気に下方へと流れ落ちる場合、このような試験材料の「濡れ性」に関する評価としては、3点を付与することとした。
また、図2(b)に示すように、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属が、溶融状態(液体状態)を維持しつつ該上側平面部に沿って下方へと流れ落ちるものの、一時的にではあるが途中で流れが止まってしまう場合、このような試験材料の「濡れ性」に関する評価としては、2点を付与することとした。
また、図2(c)に示すように、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属が、該上側平面部に沿って下方へと流れ落ちるものの、その流れの速度は鈍く、結果的に冷却が進んで凝固した溶融金属の塊が下方へと流れ落ちる場合、このような試験材料の「濡れ性」に関する評価としては、1点を付与することとした。
また、図2(d)に示すように、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属の大部分が、該上側平面部に沿って下方へと流れ落ちることがなく、該上側平面部上に留まってしまう場合、このような試験材料の「濡れ性」に関する評価としては、0点を付与することとした。
つまり、試験材料の上側平面部の溶融金属に対する濡れ性が低いほど高い点数を付与し、濡れ性が高いほど低い点数を付与するようにしている。
このような評価基準に基づいて、各試験材料の「濡れ性」に関する評価は行われ、「湯流れ指数」が6点以上となる試験材料については、「濡れ性」が適度に低いとして、「濡れ性」に関する評価は「良好」であると判断することとした。
即ち、図2(b)に示すように、3回繰り返して行われる「濡れ性」の評価のうち、いずれの回数においても、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属が、少なくとも溶融状態(液体状態)を維持しつつ、該上側平面部に沿って下方へと流れ落ちる場合には、「濡れ性」に関する評価は「良好」であると判断することとした。
次に、「濡れ性」試験の結果について説明する。
図3に示すように、13種類からなる試験材料のうち、6点以上の「湯流れ指数」が付与された試験材料は、8種類存在した。
即ち、No.1、2、4〜8、10の試験材料については、「濡れ性」に関する評価が「良好」であるとの結果を得た。
なお、前述の表1におけるNo.3、11の試験材料については、図3中の棒グラフが示されていないが、これは、3回行われる「濡れ性」の評価のうち、全ての回にわたって、試験材料の上側平面部に注がれた溶融金属の大部分が、該上側平面部に沿って下方へと流れ落ちることがなく、該上側平面部上に留まってしまい、「湯流れ指数」が0点であったことを意味する。
ここで、これらNo.1、2、4〜8、10の試験材料において、表面粗さに関する凹凸形状の大きさと、被膜の種類との組み合わせを見てみると、表面粗さに関する凹凸形状の大きさについては、少なくともRa0.2[μm]を超える値、より望ましくはRa1.5[μm]以上3.2[μm]以下の範囲内にあり、また、被膜の種類については、炭素系被膜を有する必要があることが判明した。
このような「濡れ性」試験の結果に基づき、本発明者らは、効果的に「濡れ性」を低減するべく表面加工の方法として、表面粗さに関する凹凸形状の大きさを少なくともRa0.2[μm]を超える値、より望ましくはRa1.5[μm]以上3.2[μm]以下の範囲内にて形成するとともに、炭素系被膜を被覆することを導き出した。
[熱伝達率の測定試験]
次に、前述したプランジャー装置1に施工される特別な表面加工の方法を探るべく、本発明者らが行った熱伝達率の測定試験について、図4、図5、および図7を用いて説明する。
前述のとおり、ダイカストマシンに備えられるプランジャー装置において、鋳造品質を向上させるべく、初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を早急に凝固させるには、プランジャーチップの先端面に関する「濡れ性」を低くすることが前提条件として必要となる。
そして、このような前提条件に加えて、無加圧時の溶融金属については、スリーブの熱伝達率を低く抑えて、スリーブによって溶融金属により奪われる熱量を少なくするとともに、加圧時の溶融金属については、スリーブの熱伝達率を高くして、スリーブによって溶融金属より奪われる熱量を多くする必要がある。
このようなことから、本発明者らは、先ず、前述した「濡れ性」試験において、「濡れ性」に関する評価が「良好」であると判断されたNo.1、2、4〜8、10の試験材料に対して、無加圧時における熱伝達率を測定し、図4に示す結果を得た。
なお、熱伝達率の測定については、周囲温度が摂氏約20℃である実験場内において、サーモトレーサー(TH9200シリーズ、NEC三栄製)を用いて、各試験材料を計測することによって行った。
次に、本発明者らは、これらNo.1、2、4〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施工したプランジャー装置を用いて、実際にキャビティ内への溶融金属の充填を行い、鋳造製品を鋳造した。
その結果、No.1、2の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置においては、従来のプランジャー装置に比べて、初期凝固層の発生量についてあまり変化が見られなかった。
これに対して、No.4〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置においては、従来のプランジャー装置に比べて、初期凝固層の発生量が格段に低減し、鋳造品質の低下も見られないことが確認できた。
以下、図5、および図7を用いて、初期凝固層の発生量に関する実験結果について、具体的に説明する。
図5は、初期凝固層の発生量が低減したプランジャー装置の一例として、No.4〜8、10のうちのいずれかの試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置において、溶融金属をスリーブ内に投入して一定時間放置し、その後、該溶融金属を強制的に冷却して凝固させたもの(以下、「第一溶融金属塊51」と記す)である。
一方、図7は、従来のプランジャー装置において、溶融金属をスリーブ内に投入して一定時間放置し、その後、該溶融金属を強制的に冷却して凝固させたもの(以下、「第二溶融金属塊52」と記す)である。
なお、これら図5(a)、および図7(a)において、紙面左側がプランジャーチップ側であり、紙面右側がキャビティに連通される湯道側である。
図7(a)に示すように、従来のプランジャー装置における第二溶融金属塊52においては、プランジャーチップ側(紙面左側)端部の上面に、初期凝固層52aが形成される。
具体的には、初期凝固層52aは、図7(c)の領域Z2内において、黒色を有しつつ第二溶融金属塊52の幅方向に向かって延出された隆起部して形成される。
一方、図5(a)に示すように、No.4〜8、10のうちのいずれかの試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置における第一溶融金属塊51においては、プランジャーチップ側(紙面左側)端部の上面に、初期凝固層の形成は見られない。
具体的には、図5(c)の領域Z1によって示すように、プランジャーチップ側(紙面左側)端部の上面は他の領域と略同色であり、際立った隆起部も見られない。
また、図7(b)に示すように、従来のプランジャー装置における第二溶融金属塊52においては、下面全体が黒色化し、層状の初期凝固層52bが形成される。
一方、図5(b)に示すように、No.4〜8、10のうちのいずれかの試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置における第一溶融金属塊51においては、下面全体が多少黒色化し、層状の初期凝固層51bが形成されるものの、第二溶融金属塊52の初期凝固層52bと比べて、その厚みは薄く形成される。
このような結果に基づき、本発明者らは、No.4〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置においては、従来のプランジャー装置に比べて、初期凝固層の発生量が格段に低減することが確認できたのである。
よって、これらNo.4〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施工したプランジャー装置については、無加圧時、および加圧時による熱伝達率は「適切」であるとの判断を得た。
なお、No.1、2の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置において、初期凝固層が発生した要因としては、以下のことが考えられる。
即ち、表1に示すように、No.1の試験材料はNo.7の試験材料と、また、No.2の試験材料はNo.8の試験材料と、表面粗さに関する凹凸形状の大きさや、被膜の種類、即ち炭素系被膜について、各々共通する。
しかし、No.1、2の試験材料については、炭素系皮膜に関して炭素結合が行われておらず、溶融金属との接触時において、該炭素系被膜の一部がプランジャー装置より剥離し、十分な断熱効果を得ることができなかったと考えられる。
以上のような結果を踏まえて、本発明者らは、引き続きNo.4〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置に対して、サーモトレーサー(TH9200シリーズ、NEC三栄製)を用いて、加圧時における熱伝達率を測定し、表2に示す結果を得た。
Figure 2011156549
このような図4、および表2に示される結果に基づいて、本発明者らは、プランジャー装置に施される表面加工について、無加圧時、および加圧時における適切な熱伝達率の範囲を導くことに成功した。
即ち、無加圧時、および加圧時における熱伝達率が「適切」と判断された試験材料が、NO.4〜8、10の試験材料であったことから、本発明者らは、「適切」と判断された試験材料のうち、無加圧時における熱伝達率を示す図4において、最も高い熱伝達率を示したNo.8の試験材料に着目し、無加圧時における適切な熱伝達率の範囲を、3700[W/mK]以下とすることを導き出した。
なお、溶融金属との接触時において、該被膜の一部がプランジャー装置より剥離することなく、十分な断熱効果を得るべく、被膜については、炭素結合を行うことが必要である。
一方、無加圧時、および加圧時における熱伝達率が「適切」と判断された試験材料が、NO.4〜8、10の試験材料であったことから、本発明者らは、「適切」と判断された試験材料のうち、加圧時における熱伝達率を示す表2において、最も低い熱伝達率を示したNo.5の試験材料に着目し、無加圧時における適切な熱伝達率の範囲を、6000[W/mK]以上とすることを導き出した。
なお、No.5の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置において、スリーブ内に留まる一部の溶融金属が冷却されて凝固するのにかかる時間は、従来のプランジャー装置においてかかる時間と略同程度であった。
よって、より高い熱伝達率を示した、他のNO.4、6〜8、10の試験材料と同様の表面加工を施したプランジャー装置に拠れば、スリーブ内に留まる一部の溶融金属が冷却されて凝固するのにかかる時間をさらに短縮化することができる。
以上のように、本実施例におけるプランジャー装置は、溶融金属が投入されるスリーブ2と、前記スリーブ2に摺動可能に内装され、前記スリーブ2内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップ3と、を有するプランジャー装置1であって、前記スリーブ2の内周面2bと、前記プランジャーチップ3の溶融金属に面する先端面(前端面3a)と、には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、炭素結合された炭素系被膜が被覆されることとしている。
このような構成を有することで、本実施例におけるプランジャー装置1に拠れば、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ11内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を少なくとも従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に早急に凝固させることが可能となり、耐久性に優れたプランジャー装置1を提供することができる。
即ち、前述した「濡れ性」試験や、熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、スリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の前端面3aとに、表面粗さが少なくともRa0.2[μm]を超える値となるような複数の凹凸形状を形成し、且つ炭素結合された炭素系被膜を被覆することで、プランジャーチップ3の「濡れ性」を小さくし、これに加えて、無加圧時の溶融金属に対するスリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の前端面3aとの熱伝達率を低く抑えることができる。
よって、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減することができる。
従って、鋳造製品における材料組織が従来のプランジャー装置101に比べてより密になり、該鋳造製品の材料強度が上がるなど、鋳造品質を向上させることができるのである。
また、無加圧時の溶融金属に対する、プランジャーチップ3の前端面3aの熱伝達率を低く抑えられることから、スリーブ2内に投入された溶融金属からのプランジャーチップ3への入熱が減少し、プランジャーチップ3自身の熱膨張を抑制することができる。
よって、熱膨張差によりプランジャーチップ3の前端面3aから炭素系被膜が剥離するのを防止することができ、耐久性に優れたプランジャー装置1を提供することができる。
さらに、従来のプランジャー装置101においては、プランジャーチップ103への入熱量を見越して、スリーブ2内に投入する溶融金属の湯温を余分に昇温していたが、プランジャーチップ3への入熱が減少することで、前記溶融金属の湯温も低く抑えることができ、経済的である。
また、前述した熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、スリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の前端面3aとに、このような特別な加工を施すことで、加圧時の溶融金属に対するプランジャーチップ3の前端面3aとスリーブ2の内周面2bとの熱伝達率を高く保持することができ、キャビティ11内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を少なくとも従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に早急に凝固させることが可能となる。
よって、鋳造工程における1サイクルあたりの時間が、従来のプランジャー装置101に比べて延びることはなく、既に冷却を完了した鋳造製品が、更に余分に冷却されることともない。
従って、「ひけ」などの品質不良を引き起こす要因もなくなり、鋳造品質を向上させることができるのである。
また、このような特別な加工については、スリーブ2の内周面2bと、プランジャーチップ3の溶融金属に面する先端面(前端面)とについてのみ、加工することとしている。
よって、プランジャーチップ3の摺動移動により、スリーブ2の内周面2bに施された特別な加工が摩耗することも効果的に抑制でき、耐久性に優れたプランジャー装置1を提供することができるのである。
また、本実施例におけるプランジャー装置1においては、前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成されることとしている。
このような構成を有することで、前述した「濡れ性」試験の結果からも分かるように、「濡れ性」が低く、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減したプランジャー装置1を、確実に実現することができるのである。
また、本実施例におけるプランジャー装置1においては、前記スリーブ2と前記プランジャーチップ3との前記溶融金属に関する熱伝達率は、前記プランジャーチップ3によって前記スリーブ2内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、前記プランジャーチップ3によって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合6000[W/mK]以上であることとしている。
このような構成を有することで、前述した熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、無加圧時におけるスリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減し、且つ加圧時におけるスリーブ2内に留まる一部の溶融金属を、少なくとも従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に送給に凝固させることが可能なプランジャー装置1を、確実に実現することができるのである。
一方、本実施例におけるプランジャーチップ3は、溶融金属が投入されるスリーブ2に摺動可能に内装され、前記スリーブ2内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップ3であって、溶融金属に面する先端面(前端面3a)には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、炭素結合された炭素系被膜が被覆されることとしている。
このような構成を有することで、本実施例におけるプランジャーチップ3に拠れば、鋳造品質を向上させるべく、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減しつつ、キャビティ11内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を少なくとも従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に早急に凝固させることが可能となり、耐久性に優れたプランジャーチップ3を提供することができる。
即ち、前述した「濡れ性」試験や、熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、プランジャーチップ3の前端面3aに、表面粗さが少なくともRa0.2[μm]を超える値となるような複数の凹凸形状を形成し、且つ炭素結合された炭素系被膜を被覆することで、プランジャーチップ3の「濡れ性」を小さくし、これに加えて、無加圧時の溶融金属に対するプランジャーチップ3の前端面3aの熱伝達率を低く抑えることができる。
よって、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減することができる。
従って、鋳造製品における材料組織が、従来のプランジャー装置101のプランジャーチップ103によるものと比べて密になり、該鋳造製品の材料強度が上がるなど、鋳造品質を向上させることができるのである。
また、無加圧時の溶融金属に対する、プランジャーチップ3の前端面3aの熱伝達率を低く抑えられることから、スリーブ2内に投入された溶融金属からのプランジャーチップ3への入熱が減少し、プランジャーチップ3自身の熱膨張を抑制することができる。
よって、熱膨張差によりプランジャーチップ3の前端面3aから炭素系被膜が剥離するのを防止することができ、耐久性に優れたプランジャーチップ3を提供することができる。
さらに、従来のプランジャー装置101においては、プランジャーチップ103への入熱量を見越して、スリーブ2内に投入する溶融金属の湯温を余分に昇温していたが、プランジャーチップ3への入熱が減少することで、前記溶融金属の湯温も低く抑えることができ、経済的である。
また、前述した熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、少なくともプランジャーチップ3の前端面3aに、このような特別な加工を施すことで、加圧時の溶融金属に対するプランジャーチップ3の前端面3aの熱伝達率を高く保持することができ、キャビティ11内への溶融金属の充填が完了した後、該溶融金属を従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に早急に凝固させることが可能となる。
よって、鋳造工程における1サイクルあたりの時間が、従来のプランジャー装置101に比べて延びることはなく、既に冷却を完了した鋳造製品が、更に余分に冷却されることともない。
従って、「ひけ」などの品質不良を引き起こす要因もなくなり、鋳造品質を向上させることができるのである。
また、本実施例におけるプランジャーチップにおいては、前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成されることとしている。
このような構成を有することで、前述した「濡れ性」試験の結果からも分かるように、「濡れ性」が低く、スリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減したプランジャーチップ3を、確実に実現することができるのである。
また、本実施例におけるプランジャーチップにおいては、前記プランジャーチップ3の前記溶融金属に関する熱伝達率は、前記プランジャーチップ3によって前記スリーブ2内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、前記プランジャーチップ3によって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合、6000[W/mK]以上であることとしている。
このような構成を有することで、前述した熱伝達率の測定試験の結果からも分かるように、無加圧時におけるスリーブ2内の溶融金属に発生する初期凝固層の発生を低減し、且つ加圧時におけるスリーブ2内に留まる一部の溶融金属を、少なくとも従来のプランジャー装置101においてかかる時間以内に送給に凝固させることが可能なプランジャーチップ3を、確実に実現することができるのである。
1 プランジャー装置
2 スリーブ
2b 内周面
3 プランジャーチップ

Claims (6)

  1. 溶融金属が投入されるスリーブと、
    前記スリーブに摺動可能に内装され、前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップと、
    を有するプランジャー装置であって、
    前記スリーブの内周面と、前記プランジャーチップの溶融金属に面する先端面と、には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、
    炭素結合された炭素系被膜が被覆される、
    ことを特徴とするプランジャー装置。
  2. 前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成される、
    ことを特徴とする、請求項1に記載のプランジャー装置。
  3. 前記スリーブと前記プランジャーチップとの前記溶融金属に関する熱伝達率は、
    前記プランジャーチップによって前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、
    前記プランジャーチップによって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合、6000[W/mK]以上である、
    ことを特徴とする、請求項1または請求項2のうちの何れか一項に記載のプランジャー装置。
  4. 溶融金属が投入されるスリーブに摺動可能に内装され、前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出するプランジャーチップであって、
    溶融金属に面する先端面には、Ra0.2[μm]を超える大きさの表面粗さを有する凹凸形状が形成されるとともに、
    炭素結合された炭素系被膜が被覆される、
    ことを特徴とするプランジャーチップ。
  5. 前記凹凸形状における表面粗さの大きさは、Ra1.5[μm]以上Ra3.2[μm]以下の範囲内によって形成される、
    ことを特徴とする、請求項4に記載のプランジャーチップ。
  6. 前記プランジャーチップの前記溶融金属に関する熱伝達率は、
    前記プランジャーチップによって前記スリーブ内に投入された溶融金属を圧出する前の無加圧時の場合、3700[W/mK]以下であり、
    前記プランジャーチップによって前記溶融金属を圧出した後の加圧時の場合、6000[W/mK]以上である、
    ことを特徴とする、請求項4または請求項5のうちの何れか一項に記載のプランジャーチップ。
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