WO2023021903A1 - ディンプル加工方法 - Google Patents
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Abstract
ディンプル加工方法において、棒状本体(3)の径方向に突出する切れ刃(5)を1つ以上備える回転切削工具(1)を準備する。射出スリーブの内周面に対してプランジャーチップ(30)の外周面(33)が摺動する部材において、射出スリーブの内周面またはプランジャーチップ(30)の外周面(33)を加工面とする。棒状本体(3)の軸心(3a)を中心に回転切削工具(1)を回転させつつ回転切削工具(1)が加工面に沿って移動するように射出スリーブまたはプランジャーチップ(30)を相対的に送る。1つの切れ刃(5)の一度の切削で加工面に1つのディンプル(34)を形成する。
Description
本開示の1つの形態は、被加工物の表面にディンプルを形成するディンプル加工方法に関する。
ダイカストマシンは、アルミ合金、亜鉛合金、銅合金等の溶湯を金型に向けて射出するための射出機を有する。射出機は、金型と連通する射出スリーブと、射出スリーブ内に注入された溶湯を金型に向けて圧入するプランジャーチップを有する。プランジャーチップの外周面は、潤滑油が供給される環境下で射出スリーブの内周面に対して摺動する。高温の溶湯を高圧で圧入し、しかも高速で摺動するため、プランジャーチップと射出スリーブの互いに摺動する部分は潤滑不足になり易い。そのため摺動部分に摩耗、カジリ、焼付き等の損傷、あるいは溶湯の凝固等が発生する。これらの現象は、ダイカスト成型品の品質を低下させる要因になる。そのためプランジャーチップと射出スリーブの摺動性を良好に保ち、射出加工を安定させるための技術が従来考え出されている。
特許第6453427号公報には、射出スリーブの内周面に多数の微小な凹みであるディンプルを形成する技術が記載されている。特許第4655169号公報,特許第4775521号公報には、鋳造用金型のキャビティ面にディンプルを形成する技術が記載されている。特開2009-195935号公報には、射出スリーブの内周面に多数の微小な表面開孔を具備するセラミックスを設ける技術が記載されている。
潤滑油が供給される被加工物の摺動面にディンプルを形成することで、ディンプル内に潤滑油が充填される。ディンプルの近傍領域が相手材と接触する際、圧力によりディンプルから潤滑油が排出される(スクイーズ効果)。これにより相手材と被加工物の間に潤滑膜が形成されて、相手材が被加工物に対して接触しづらくなる。かくして被加工物に接触する相手材と被加工物の間に生じる摩擦抵抗を小さくすることができる。また突発的に被加工物と相手材が接触して摩擦する際、摩耗粉が発生して被加工物と相手材との間に挟まり、摩擦抵抗を大きくする場合がある。この摩耗粉をディンプル内に収容させることで、摩擦抵抗の増加を抑制できる。
例えばプランジャーチップは、水平に延出する射出スリーブ内を重力の影響下で摺動する。そのため上側の摺動面と下側の摺動面で摺動条件に違いがある。したがって摺動条件の違いに基づいて、摺動面の領域毎に最適なディンプルの深さ、形状、面積率等を設定することが望ましい。従来、射出スリーブや鋳造用金型にディンプルを加工する方法として、例えばショットブラスト、ショットピーニング、放電加工、レーザ加工、腐食加工等が考え出されている。これらの加工方法では、摺動面の領域毎にディンプルの深さ、形状、面積率等が最適になるようにコントロールすることが難しい。また、例えば放電加工、レーザ加工の場合、エッジの進入角度が比較的大きいディンプルが形成される。そのため潤滑油がディンプル内に留まり易く圧力によって好適に排出することが難しい。
上述のように、従来考えられているディンプル加工方法では、ダイカストマシンのプランジャーチップと射出スリーブの摺動性の低下を解消するには至らず、種々改良の余地があった。したがってダイカスト成型品の品質を維持するためにプランジャーチップと射出スリーブの摺動性を良好に保つ技術が望まれている。
本開示の一つの特徴は、ダイカストマシンの射出スリーブまたはプランジャーチップにディンプルを形成するディンプル加工方法に関する。棒状本体の径方向に突出する切れ刃を1つ以上備える回転切削工具を準備する。射出スリーブの内周面に対してプランジャーチップの外周面が摺動する部材において、射出スリーブの内周面またはプランジャーチップの外周面を加工面とする。棒状本体の軸心を中心に回転切削工具を回転させつつ回転切削工具が加工面に沿って移動するように射出スリーブまたはプランジャーチップを相対的に送る。1つの切れ刃の一度の切削で加工面に1つのディンプルを形成する。回転切削工具が軸心中心に1回転するときに切れ刃の数だけディンプルを形成する。
したがって加工面の摺動条件に基づいて最適な深さ、形状、面積率等のディンプルを形成できる。そのため加工面に供給される潤滑油をディンプルに好適に充填でき、かつ加工面が摺動する際の圧力によってディンプルから潤滑油を好適に排出できる。これによりプランジャーチップの外周面と射出スリーブの内周面において損傷や溶湯の溶着を抑制し、摺動性を良好に維持できる。しかも1つの切れ刃の一度の切削で1つのディンプルを形成することで、1つのディンプルの形成時間を短くできる。そのため射出スリーブまたはプランジャーチップにディンプルを形成する加工コストを抑えることができる。
本開示の他の特徴によると、ディンプルを加工面に5%~50%の面積率で形成する。したがってディンプルの面積率を5%以上にすることで、摺動性を維持するために十分な量の潤滑油をディンプル内に保持できる。ディンプルの面積率を50%以上にすると、摺動面が受ける圧力が過剰に大きくなり、同部分の摩耗が進行するが、ディンプルの面積率を50%以下にすることで摺動面の摩耗の進行を抑制できる。
本開示の他の特徴によると、ディンプルの深さまたは面積率を円筒状の加工面の周方向または軸方向において変更する。したがって加工面の摺動条件に基づいて、形成されるディンプルの深さと面積率を加工面の領域毎に変更できる。例えばプランジャーチップの外周面は、射出スリーブの内周面に対して摺動する際、軸方向前部で面圧が大きくなり損傷し易い。プランジャーチップの外周面の軸方向前部に形成されるディンプルを、他の領域よりも深さまたは面積率を大きくすることで、射出スリーブの内周面に対する外周面の摺動性を良好にできる。
本開示の他の特徴によると、ディンプルの形状を円形、楕円形、紡錘形、半円形とし、複数のディンプルを離間または連通させて形成する。複数のディンプルを加工面の摺動方向に対して所定の角度の方向に並ぶように配置する。したがってディンプルの長手方向、複数のディンプルが連通している場合の連通方向、あるいは複数のディンプルの配列方向に沿って潤滑油を送ることができる。そのため加工面の摺動に合わせて各ディンプルに潤滑油を順次供給できる。これにより加工面の潤滑切れを抑制でき、加工面における損傷または溶湯の溶着を抑制できる。
本開示の1つの実施形態を図1~12に基づいて説明する。図1に示すディンプル加工機10は、円柱状のプランジャーチップ30の外周面33を加工面として、複数のディンプル34を加工面に形成する。ディンプル加工機10は、回転切削工具1が装着される加工装置11と、プランジャーチップ30が保持されるワーク保持装置15を有する。加工装置11が上方に配置され、ワーク保持装置15が加工装置11の下方に配置される。
図1に示すように加工装置11は、X軸方向に延出するX軸ガイド11aと、X軸ガイド11aに沿って移動可能なX方向移動部材11bを有する。加工装置11は、X方向移動部材11bに対してY軸方向(図1の紙面厚み方向)に移動するY方向移動部材11cと、Y方向移動部材11cに対してZ軸方向に移動するZ方向移動部材11dを有する。X方向移動部材11b、Y方向移動部材11c、Z方向移動部材11dは、例えば送りねじ機構、ラックピニオン機構、サーボモータを利用して移動する。加工装置11は、Z方向移動部材11dの先端に概ね上下方向に延出するスピンドル12を有する。スピンドル12の先端に回転切削工具1が装着される。スピンドル12がモータを利用して回転することで、回転切削工具1が軸心3aを中心に回転する。
図1に示すようにワーク保持装置15は、基台16の上面に設けられかつ基台16に対して回転または移動可能なテーブル17を有する。プランジャーチップ30は、テーブル17の上面に装着されたワーク保持部17aに保持される。テーブル17は、ワーク保持部17aでプランジャーチップ30を保持した状態でプランジャーチップ30とともに移動または回転する。例えばプランジャーチップ30の中心をテーブル17の回転中心であるワーク回転軸15aに合わせ、モータを利用してテーブル17を回転させる。テーブル17は、例えば送りねじ機構、ラックピニオン機構、モータ等を利用してスピンドル12に対して上下左右前後方向に移動可能である。スピンドル12とテーブル17の回転速度、移動方向、移動速度は、ディンプル加工機10に設けられた制御装置によって制御される。
図2に示すように回転切削工具1は、丸棒状のシャンク2と、シャンク2の先端に設けられた棒状本体3を有する。棒状本体3とシャンク2は、棒状本体3に向けて径が小さくなるテーパ状の連結部2aで連結される。シャンク2は、スピンドル12(図1参照)に装着される。棒状本体3は、径が一定の丸棒状あるいは円柱状である。棒状本体3とシャンク2は、例えば超硬合金で構成される。あるいは棒状本体3は、化学気相蒸着法(CVD)や物理蒸着法(PVD)等でTiN等のコーティング層が施された超硬合金で構成される。回転切削工具1が回転する中心である軸心3aは、棒状本体3の中心を通って長手方向に延出する。棒状本体3の外周部には、軸心3aの延出方向に沿って先端3bまで直線的に延びる溝8が設けられる。
図2~4に示すように棒状本体3の外周部には、棒状本体3の先端3bから軸方向に並んだ複数の刃部4が設けられる。複数の刃部4は、溝8の一端縁に沿って設けられる。複数の刃部4は、棒状本体3の軸方向に所定のピッチ、例えば等間隔で配置される。刃部4は、棒状本体3と同じ材料で一体に構成される。あるいは刃部4は、超硬合金製の棒状本体3に接合された立方晶窒化ホウ素(CBN)で構成される。刃部4は、棒状本体3の径方向外方に突出する。刃部4は、棒状本体3の径方向外方に向く逃げ面6と、回転切削工具1の回転方向前方に向くすくい面7を有する。逃げ面6とすくい面7の交差する部分に切れ刃5が形成される。図4に示すように回転切削工具1の回転方向前方から見て、1つの切れ刃5の稜線は円弧状である。
図3,4に示すように回転切削工具1は、軸心3aが外周面33(加工面)に対して平行にまたは所定の角度になるようにセットされる。また、回転切削工具1は、外周面33に対して切れ刃5の切込み深さが所定の深さ34aになるようにセットされる。回転切削工具1が軸心3aを中心に回転する際、切れ刃5が所定の回転角度領域において外周面33を切削し、他の回転角度領域において切れ刃5が外周面33から離れる。このように切れ刃5が外周面33を断続的に切削する。回転切削工具1が1回転する毎に、1つの切れ刃5が外周面33を一度切削して1つのディンプル34を形成する。外周面33には、深さ34a、周方向幅34b、軸方向幅34cの楕円形または円形のディンプル34が形成される。
図3,4に示すディンプル34の深さ34aは、例えば0.001~0.1mmである。ディンプル34のエッジの進入角度は、例えば1°以上、2°以上、5°以上である。そしてディンプル34のエッジの進入角度は、例えば10°以下、15°以下、20°以下である。外周面33に対して切れ刃5が切込む深さ34aを変更することで、周方向幅34b、軸方向幅34cを変更可能である。各ディンプル34は、5~50%の面積率で形成される。
図1に示すように回転切削工具1の回転と連動させてテーブル17を所定の回転速度でワーク回転軸15aを中心に回転させる。これにより外周面33には、テーブル17の回転方向に所定のスペース(間隔)を有して離間した複数のディンプル34が形成される。テーブル17の回転速度を小さくすることで、複数のディンプル34をテーブル17の回転方向に沿って連通させて形成できる。
図7に示すようにプランジャーチップ30の外周面33には、複数のディンプル34が線J1および線J2に沿って格子状に配列される。線J1は、プランジャーチップ30の周方向に沿って延び、プランジャーチップ30の軸方向に対して直交する。線J2は、プランジャーチップ30の軸方向に対する傾斜が0°で、軸方向と略平行である。複数のディンプル34は、プランジャーチップ30の周方向および軸方向に所定の間隔、例えば等間隔で形成される。ディンプル34の深さ34a(図3,4参照)と面積率は、プランジャーチップ30の周方向位置または軸方向位置によって変更可能である。例えば先端面31に近い位置では深さ34aを大きくし、先端面31から遠ざかるにしたがって深さ34aを小さくすることができる。これに代えて、あるいは加えて、例えば先端面31に近い位置では面積率を大きくし、先端面31から遠ざかるにしたがって面積率を小さくすることができる。
次に本開示に係るプランジャーチップ30と射出スリーブ40を具備するダイカストマシン20について説明する。図5に示すようにダイカストマシン20は、固定盤21に連結された固定型23と、固定盤21に対して移動可能な可動盤22に連結された可動型24を有する。固定型23と可動型24が協働してダイカスト成型品の型を形成する。固定盤21には、固定盤21を貫通して固定型23と連通する略円筒状の射出スリーブ40が連結される。射出スリーブ40は、固定盤21に対して固定型23の反対側(図5において固定盤21の右側)の上部で開口する注湯口40bを有する。アルミ合金、亜鉛合金、銅合金等の溶湯28は、注湯口40bから射出スリーブ40内に注入される。射出スリーブ40の内側には、注湯口40bから固定型23と可動型24が形成する型に向けて溶湯28を送る湯道40cが形成される。
図5に示すようにプランジャーチップ30は、射出スリーブ40内を摺動する。プランジャーチップ30と射出スリーブ40は、例えば鉄鋼材料で構成される。プランジャーチップ30の外周面33は、射出スリーブ40の内周面41の内径よりもわずかに小さい外径で形成される。内周面41と外周面33の間のクリアランスは、例えば0.05mmである。射出スリーブ40は、注湯口40bよりも先端側にプランジャー開口40aを有する。プランジャー開口40aは、射出スリーブ40の内周面41と略同じ内径であり内周面41と連通する。プランジャーチップ30は、先端面31を湯道40c側に向けてプランジャー開口40aから射出スリーブ40内に挿入される。プランジャーチップ30が射出スリーブ40の内周面41に対して摺動することで、潤滑油が外周面33に形成されたディンプル34内に供給される。潤滑油は、先端面31側(前側)のディンプル34から後方のディンプル34へとプランジャーチップ30の摺動方向に沿って順次供給される。
図5に示すようにダイカストマシン20は、プランジャーチップ30を射出スリーブ40内で移動させる射出機25を有する。射出機25は、先端にプランジャーチップ30が装着されたプランジャーロッド25aと、プランジャーロッド25aを射出スリーブ40に向けて押圧する射出シリンダ25cを有する。プランジャーチップ30の後端のねじ孔32(図6参照)に、プランジャーロッド25aの先端に連結されたチップジョイント25bがねじ締結される。プランジャーロッド25aは、射出スリーブ40の延出方向に沿って延出する。射出シリンダ25cは、アキュムレータの圧力を駆動源にしてプランジャーロッド25aをその延出方向に押圧する。これによりプランジャーチップ30は、射出スリーブ40の延出方向に沿って湯道40cに向けて押出される。
図5に示すようにダイカストマシン20は、可動盤22を固定盤21に対して接近または離間する方向に移動させる型締機27を有する。可動盤22を固定盤21に接近させることで、可動型24が固定型23と密着する。可動盤22を固定盤21から離間させることで、可動型24と固定型23の間で成型されたダイカスト成型品を取出すことができる。ダイカストマシン20は、ダイカスト成型品を可動型24から離型するための複数の押出ピン26bを有する。複数の押出ピン26bは、可動型24の内側に向けて進入可能である。複数の押出ピン26bは、押出機26によって可動型24に向けて押圧される押出盤26aに連結される。可動型24と固定型23を離間させる際、押出盤26aが可動型24に接近して複数の押出ピン26bが可動型24内に打込まれる。複数の押出ピン26bに押出されてダイカスト成型品が可動型24から離型する。
図2に示すディンプル34が形成されたプランジャーチップ30と、ディンプルを有さない従来のプランジャーチップについて、35000回のショット数でダイカスト成型した後の表面状態を比較した。プランジャーチップ30には、周方向および軸方向に等間隔で配置され、かつ深さ34a(図3,4参照)と面積率が一定である複数のディンプル34を形成した。射出スリーブ40の内周面41にはディンプルを形成しなかった。
図8に示すようにプランジャーチップ30の外周面33には、使用時の上端に相当するP方向面33bにおいて溶湯の溶着が観察された。外周面33の下端に相当するQ方向面33aにおいて損傷が観察された。使用時の左右端に相当するRS方向面33cには、損傷または溶着がほとんど観察されなかった。以下、Q方向面33a(下面)と、Q方向面33aと反対側のP方向面33b(上面)について説明する。
図9に示すようにQ方向面33a(下面)には、プランジャーチップ30の摺動方向に延出する細かい筋状の摩耗痕が観察された。また、先端面31側のQ方向面33aの端部に欠けが観察された。Q方向面33aの損傷は、先端面31に近い領域で観察され、先端面31から離れるほど損傷の程度が小さかった。ディンプルを有さないプランジャーチップを同条件で使用した場合、プランジャーチップ30の場合よりも広い図中の破線で示す領域に亘って摩耗痕が観察された。また、ディンプルを有さない従来のプランジャーチップの場合、先端面側のQ方向面の端部においてプランジャーチップ30よりも大きい欠けが観察された。
図10に示すように先端面31側のP方向面33b(上面)の端部において、溶湯の溶着が観察された。P方向面33bの溶着は、P方向面33bの前部でのみ観察され、P方向面33bの中央部、後部では観察されなかった。また、P方向面33bには、摩耗痕や欠け等の損傷はほとんど観察されなかった。ディンプルを有さないプランジャーチップを同条件で使用した場合、プランジャーチップ30の場合よりも広い図中の破線で示す領域に亘って、厚みの大きい溶着が観察された。
図5に示すようにプランジャーチップ30は、略水平に延出するプランジャーロッド25aの先端で支持されて、略水平に延出する射出スリーブ40の内周面41に対して摺動する。そしてプランジャーチップ30の外周面33と射出スリーブ40の内周面41の間にはクリアランスが設けられる。そのためプランジャーチップ30の重量によってプランジャーチップ30が上下方向に振動する。そのため先端面31に近い領域において、外周面33の上下部と内周面41との間のクリアランスが、元々の大きさよりも小さくまたは大きくなる。これにより外周面33は、Q方向面33a(下面)において射出スリーブ40の内周面41に対する面圧が大きくなって摩耗や欠け等の損傷が発生し易くなる。P方向面33b(上面)の先端面31に近い領域において、射出スリーブ40の内周面41に対する面圧が小さくなり、逆流した溶湯が溶着し易くなる。
上記の比較によって、図2に示す本開示の1つの形態の方法によりディンプル34が形成されたプランジャーチップ30の方が、ディンプルを有さないプランジャーチップよりも外周面の損傷または溶着が小さくなることが分かった。そのため外周面33に形成されたディンプル34には、射出スリーブ40の内周面41(図5参照)に対する外周面33の摺動性を維持する効果があることが確認できる。
さらに、図9,10に示すように先端面31に近い外周面33で損傷または溶着が大きく、先端面31から離れた外周面33で損傷または溶着が小さいまたは発生しないことが分かった。そのため、例えば先端面31に近い外周面33ではディンプル34の深さ34a(図3,4参照)または面積率を最適化することで、先端面31に近い外周面33で発生する損傷または溶着を抑制できる。すなわち外周面33には、先端面31に近いほど深さ34aの深いディンプル34を形成することができる。これに代えてまたは加えて、外周面33には、先端面31に近いほどディンプル34の面積率を大きくするようにディンプル34を形成することができる。
さらに、図9,10に示すように外周面33の上下部で損傷または溶着が大きく、外周面33の左右部で損傷または溶着が小さいことが分かった。そのため、例えば外周面33の上下部ではディンプル34の深さ34a(図3,4参照)または面積率を大きくし、外周面33の左右部ではディンプル34の深さ34aまたは面積率を小さくすることもできる。これにより外周面33の上下部で発生する損傷または溶着を抑制できる。また、外周面33の左右部にディンプル34を形成する作業時間を短縮して、ディンプル34の形成コストを抑えることができる。
次に、図11に示すように回転切削工具1を用いて略円筒状の射出スリーブ40の内周面41に複数のディンプル42を形成する例を説明する。回転切削工具1は、軸心3aの延出方向が内周面41に対して平行にまたは所定の角度になるようにセットされる。また、回転切削工具1は、内周面41に対して切れ刃5の切込み深さが所定の深さになるようにセットされる。回転切削工具1が軸心3aを中心に回転する際、切れ刃5が所定の回転角度領域において内周面41を切削し、他の回転角度領域において切れ刃5が内周面41から離れる。回転切削工具1が1回転する毎に、1つの切れ刃5が内周面41を一度切削して1つのディンプル42を形成する。内周面41には楕円形または円形のディンプル42が形成される。
図11に示すディンプル42の深さは、例えば0.001~0.1mmである。ディンプル42のエッジの進入角度は、例えば1°以上、2°以上、5°以上である。そしてディンプル34のエッジの進入角度は、例えば10°以下、15°以下、20°以下である。内周面41に対する切れ刃5の切込み深さを変更することで、ディンプル42の周方向幅と軸方向幅を変更可能である。各ディンプル42は、例えば5~50%の面積率で形成される。
図11に示すように射出スリーブ40の軸中心をワーク回転軸15aに合わせる。回転切削工具1の回転と連動させて射出スリーブ40を所定の回転速度でワーク回転軸15aを中心に回転させる。これにより内周面41には、射出スリーブ40の周方向に所定の間隔を有して離間した複数のディンプル42が形成される。射出スリーブ40の回転速度を小さくすることで、複数のディンプル42を射出スリーブ40の周方向に連通させて形成できる。
図12に示すように射出スリーブ40の内周面41には、周方向幅42a、軸方向幅42bの楕円形または円形のディンプル42が形成される。複数のディンプル42は、線J3および線J4に沿って格子状に配列される。線J3は、射出スリーブ40の周方向に沿って延び、射出スリーブ40の軸方向に対して直交する。線J4は、射出スリーブ40の軸方向に対する傾斜が0°であり、軸方向に略平行である。複数のディンプル42は、射出スリーブ40の周方向および軸方向に所定の間隔、例えば等間隔で形成される。ディンプル42の深さと面積率は、射出スリーブ40の周方向位置または軸方向位置によって変更可能である。例えば上部内周面41aと下部内周面41bでは、ディンプルの深さまたは面積率を内周面41の左右部よりも大きくする。例えばプランジャーチップ30の摺動速度に合わせて、内周面41に形成されるディンプル42の深さまたは面積率を最適化する。例えば射出スリーブ40の内周面41には、プランジャー開口40aに近いほどディンプル42の深さの浅いディンプル42を形成することができる。これに代えて、または加えて内周面41には、プランジャー開口40aに近いほどディンプル42の面積率が小さくなるようにディンプル42を形成することができる。
上述するようにディンプル加工方法は、図2に示すように棒状本体3の径方向に突出する切れ刃5を1つ以上備える回転切削工具1を準備する。図5に示すように射出スリーブ40の内周面41に対してプランジャーチップ30の外周面33が摺動する部材において、射出スリーブ40の内周面41またはプランジャーチップ30の外周面33を加工面とする。図2,11に示すように棒状本体3の軸心3aを中心に回転切削工具1を回転させつつ回転切削工具1が加工面に沿って移動するように射出スリーブ40またはプランジャーチップ30を相対的に送る。1つの切れ刃5の一度の切削で加工面に1つのディンプル42またはディンプル34を形成する。回転切削工具1が軸心3aを中心に1回転するときに切れ刃5の数だけディンプル42またはディンプル34を形成する。
したがって加工面の摺動条件に基づいて最適な深さ、形状、面積率等のディンプル34,42を形成できる。そのため加工面に供給される潤滑油をディンプル34,42に好適充填でき、かつ加工面が摺動する際の圧力によってディンプル34,42から潤滑油を好適に排出できる。これによりプランジャーチップ30の外周面33と射出スリーブ40の内周面41において損傷または溶湯の溶着を抑制し、摺動性を良好に維持できる。しかも1つの切れ刃5の一度の切削で1つのディンプル34,42を形成することで、1つのディンプル34,42の形成時間を短くできる。そのため射出スリーブ40またはプランジャーチップ30にディンプル34,42を形成する加工コストを抑えることができる。
図2,11に示すようにディンプル34,42を加工面に5%~50%の面積率で形成する。したがってディンプル34,42の面積率を5%以上にすることで、摺動性を維持するために十分な量の潤滑油をディンプル34,42内に保持できる。ディンプル34,42の面積率を50%以下にすることで、射出スリーブ40とプランジャーチップ30の摺動面の摩耗の進行を抑制できる。
図2,11を参照するようにディンプル34,42の深さまたは面積率を円筒状の加工面の周方向または軸方向において変更する。したがって加工面の摺動条件に基づいて、形成されるディンプル34,42の深さと面積率を加工面の領域毎に変更できる。
図2,11を参照するようにディンプル34,42の形状を円形、楕円形、紡錘形、半円形とし、複数のディンプル34,42を離間または連通させて形成する。複数のディンプル34,42を加工面の摺動方向に対して所定の角度の方向に並ぶように配置する。したがってディンプル34,42の長手方向、複数のディンプル34,42が連通している場合の連通方向、あるいは複数のディンプル34,42の配列方向に沿って潤滑油を送ることができる。そのため加工面の摺動に合わせて各ディンプル34,42に潤滑油を順次供給できる。これにより加工面の潤滑切れを抑制でき、加工面における損傷または溶湯の溶着を抑制できる。
以上説明した実施形態には様々な変更を加えることができる。複数の切れ刃5を有する回転切削工具1を例示した。これに代えて1つの切れ刃5を有する構成としても良い。図2に示す切れ刃5は、棒状本体3の周方向に1つ形成されている。これに代えて、棒状本体3の周方向に複数個の切れ刃5を有する構成としても良い。複数の切れ刃5は、棒状本体3の軸方向または周方向に等間隔で並んでいても良く、不等間隔で並んでいても良い。軸方向に径が変わらず一定である棒状本体3を例示した。これに代えて例えば先端3bに向けて径が細くなる円錐状の棒状本体3を用いても良い。これらの回転切削工具を使用し、ヘリカル状にディンプルを形成しても良い。
棒状本体3の軸心3aの延出方向に沿って直線的に延びる溝8が設けられ、溝8の一端縁に沿って、すなわち軸心3aの延出方向に沿って複数の切れ刃5が並ぶ回転切削工具1を例示した。これに代えて、例えば溝8を棒状本体3の外周部にヘリカル状に形成し、複数の切れ刃5を溝8の一端縁に沿ってヘリカル状に配置する構成としても良い。切れ刃5がヘリカル状に配置された回転切削工具1を回転させて加工面を切削することで、線J2(図7参照)が射出スリーブ40またはプランジャーチップ30の軸方向に対して90°よりも小さい角度で傾斜する。これにより射出スリーブ40とプランジャーチップ30が摺動する方向に対して傾斜する方向に平行な並びで構成される千鳥格子状にディンプル34,42を配列できる。これに代えて、1つの切れ刃で千鳥格子状にディンプルを形成しても良い。
図4を参照するように回転切削工具1の回転方向前方から見た稜線が円弧状である切れ刃5を例示した。これに代えて、例えば回転切削工具1の回転方向前方から見た稜線が棒状本体3の径方向に突出する三角形状の切れ刃を用いても良い。この切れ刃によって加工面にいわゆる紡錘状のディンプルを形成できる。紡錘状のディンプルは、2つの点を結ぶ直線の両側において2つの点を弧状に結んだ周縁部を有する。あるいは棒状本体3の先端3bにおいて軸心3aから外れた場所に位置し、かつ軸心3a方向に突出する切れ刃(外周刃と底刃)を用いても良い。この切れ刃によって加工面にいわゆる三日月状のディンプルを形成できる。三日月状のディンプルは、2つの点を結ぶ直線の片側または2つの点を結ぶ直線上において2つの点を弧状または直線状に結んだ周縁部を有する。
ディンプルを形成するもしくは形成しない加工面は、例示したものに限定されない。例えば射出スリーブ40とプランジャーチップ30の両方にディンプルを形成しても良く、どちらか一方のみにディンプルを形成しても良い。射出スリーブ40に形成されるディンプル42とプランジャーチップ30に形成されるディンプル34は、形状、深さ、面積率、軸方向に対する配列方向等が同じであっても良く、いずれかまたは全てが異なっていても良い。射出スリーブ40の内周面41において、例えばプランジャー開口40aに近い入口側と固定型23に近い出口側で、形成されるディンプル42の形状や軸方向に対する配列パターン等を変えても良い。
ディンプル34の深さ34aまたは面積率を大きくした外周面33の領域と、プランジャーロッド25aの先端に装着した際のプランジャーチップ30の上下位置とを一致させるため、ねじ締結に代わるプランジャーチップ30の装着構造を用いても良い。例えばプランジャーチップ30を軸回りに回転させずプランジャーロッド25aの軸方向にスライドさせて装着する構造としても良い。
ディンプルのパターンについては、例えば以下の様に計算して設定する。棒状本体3の径方向において軸心3aから切れ刃5までの最大距離である切削工具半径をR1[mm]、切れ刃5の稜線の輪郭形状の半径をR2[mm]とする。切込み深さ(ディンプル深さ)をh[mm]、回転切削工具1の回転方向のディンプル径をd1[mm]、軸方向のディンプル径をd2[mm]とする。加工面上のディンプル面積をS[mm2]、ディンプル面積率をAr[%]、d1方向、d2方向それぞれの中心間距離をp1[mm]、p2[mm]とする。工具回転数をN[rpm]、角速度をω[rad/s]、被削材表面と切削工具の相対移動速度をF[mm/s]とする。1つのディンプルを形成するときにおいて、回転切削工具1の回転角をθ[rad]、回転切削工具1の相対移動距離をδ[mm]とする。各パラメータに対して以下の(式1)~(式7)の関係が成り立つ。
(式1)θ=2・cоs-1{(R1-h)/R1}
(式2)ω=π・N/30
(式3)δ=F・θ/ω
(式4)F=N・p1
(式5)d1=2・√{R12-(R1-h)2}+δ
(式6)d2=2・√{R22-(R2-h)2}
(式7)Ar/100=S/(p1・p2)
(式1)θ=2・cоs-1{(R1-h)/R1}
(式2)ω=π・N/30
(式3)δ=F・θ/ω
(式4)F=N・p1
(式5)d1=2・√{R12-(R1-h)2}+δ
(式6)d2=2・√{R22-(R2-h)2}
(式7)Ar/100=S/(p1・p2)
これらの関係を用いれば、切削工具形状と切削条件から形成されるディンプル径や中心間距離、面積率を計算可能である。さらにディンプル形状や中心間距離、面積率から切削工具形状や切削条件を決定することができる。なお、楕円形などの場合d1≠d2となるが、この時、p1もしくはp2を任意に決めても良いし、p1、p2とディンプル形状の間に一定の関係を持たせても良い。例えばアスペクト比As=d1/d2としてAsの関数であるα(As)を導入し、以下の(式8)、(式9)の関係を成り立たせても良い。
(式8)p1=√{α・S/(Ar/100)}
(式9)p2=p1/α
(式8)p1=√{α・S/(Ar/100)}
(式9)p2=p1/α
Claims (4)
- ダイカストマシンの射出スリーブまたはプランジャーチップにディンプルを形成するディンプル加工方法であって、
棒状本体の径方向に突出する切れ刃を1つ以上備える回転切削工具を準備し、
前記射出スリーブの内周面に対して前記プランジャーチップの外周面が摺動する部材において、前記射出スリーブの前記内周面または前記プランジャーチップの前記外周面を加工面とし、
前記棒状本体の軸心を中心に前記回転切削工具を回転させつつ前記回転切削工具が前記加工面に沿って移動するように前記射出スリーブまたは前記プランジャーチップを相対的に送り、
1つの前記切れ刃の一度の切削で前記加工面に1つのディンプルを形成するディンプル加工方法。 - 請求項1に記載のディンプル加工方法であって、
前記ディンプルを前記加工面に5%~50%の面積率で形成するディンプル加工方法。 - 請求項1または2に記載のディンプル加工方法であって、
前記ディンプルの深さまたは面積率を円筒状の前記加工面の周方向または軸方向において変更したディンプル加工方法。 - 請求項1~3のいずれか1つに記載のディンプル加工方法であって、
前記ディンプルの形状を円形、楕円形、紡錘形、半円形とし、複数の前記ディンプルを離間または連通させて形成し、前記複数のディンプルを前記加工面の摺動方向に対して所定の角度の方向に並ぶように配置するディンプル加工方法。
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WO2017119298A1 (ja) * | 2016-01-06 | 2017-07-13 | 兼房株式会社 | 回転切削工具を用いたディンプル加工方法及びディンプル加工用回転切削工具 |
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-
2022
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- 2022-07-19 JP JP2023542272A patent/JPWO2023021903A1/ja active Pending
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