JP2011120508A - コハク酸を製造する方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】遺伝子工学的手法によりコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)遺伝子の発現量を減少させ、代謝経路を改変した糸状菌を作製し、この糸状菌を用いて好気的条件においてグリセロールを炭素源として発酵を行うことにより、コハク酸を生産する方法。発現量の減少は、例えば、SDH遺伝子から転写されるmRNAに対して相補的な配列を有するRNAを発現するDNA配列を組み込むことにより行う。
【選択図】なし
Description
コハク酸は、広範な産業上の用途を有する。例えば食品や化粧品にpH調整剤として使用されている。
また従来から、ポリブチレンサクシネート(PBS)系プラスチックの原料として利用されている。PBSは生分解性プラスチックの一つであり、使用後、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解されるため、環境負荷の低いプラスチックとして注目されている。
従来、PBSの原料となるコハク酸は、石油由来の無水マレイン酸から製造されていた。しかし近年、環境中への二酸化炭素排出量削減の観点から、プラスチックの原料を植物バイオマス由来のものへ転換する技術開発が進められており、コハク酸についても微生物を利用した発酵法による生産方法が報告されている(特許文献1及び2)。
特許文献1では、コハク酸生産性の細菌を利用して嫌気的条件でコハク酸を製造する方法が開示されている。この他にも嫌気的条件でコハク酸を生産する公知の方法があるが、これらの方法を実施するためには、培養時の嫌気状態を維持するために特殊な設備が必要となる。
特許文献2には好気的な条件でコハク酸を製造する方法が開示されている。この方法ではキャンディダ(Candida)属の真菌を利用して、好気的条件で、n-パラフィンを原料としてコハク酸を製造する。
非特許文献1ではコハク酸生産性細菌である Mannheimia succiniciproducens において、複数の遺伝子を破壊することにより副産物である乳酸、ギ酸、酢酸の生成量を減らし、嫌気的条件でのコハク酸生産量を増加させることができることが報告されている。
非特許文献2では、グラム陰性細菌である大腸菌について、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)をコードする遺伝子及びその他の複数の遺伝子を破壊するとともに、植物(Sorghum vulgare)由来のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子を高発現させることで、副産物である酢酸等の生産量を減らし、好気的条件の培養でコハク酸を生産させることができることが報告されている。なお後述するようにSDHはTCA回路においてコハク酸をフマル酸に酸化する酵素である。
上記遺伝子工学により改変された微生物を利用する方法は、嫌気的条件である点(非特許文献1)及び組換え体を使用する点(非特許文献2)で、特殊な設備が必要になるという問題がある。
SDH遺伝子を改変した微生物を利用する方法としては、非特許文献2の他に、特許文献3において、アンチセンス法等によってSDH遺伝子の発現量を減少させることによってコハク酸を製造する着想が開示されている。しかし具体的な実施可能性については全く検討されていない。
即ち、本発明は以下の(1)〜(5)の5つの発明を包含する。
(1) コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を減少させるためのDNA配列を組み込んだ形質転換された糸状菌を用いてグリセロールからコハク酸を製造する方法。
(2) コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を減少させる方法が、コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子から転写されるmRNAの全部又は一部に対して相補的な配列を有するRNAを発現するDNA配列を菌体内に担持させる方法である、(1)に記載のコハク酸を製造する方法。
(3) 該DNA配列が宿主である糸状菌と同一の種由来のもののみからなることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のコハク酸を製造する方法。
(4) 糸状菌が白色腐朽菌であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のコハク酸を製造する方法。
(5) 糸状菌がトラメテス(Trametes)属の白色腐朽菌であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のコハク酸を製造する方法。
本発明で使用される糸状菌は、好ましくは担子菌に属する白色腐朽菌であり、例えば、コリオラス/トラメテス(Coriolus/Trametes)属、シゾフィラム(Schizophyllum)属、プレウロタス(Pleurotus)属、ファネロカエテ(Phanerochaete)属、ジェルカンデラ(Bjerkandera)属、イルペックス(Irpex)属、マイセリオソラ(Myceliophthora)属、ピクノポラス(Pycnoporus)属、ボツリティス(Botrytis)属、グリフォラ(Grifola)属、ステレウム(Stereum)属等に属する菌を例示することができる。具体的にはコリオラス/トラメテス属のアラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus/Trametes hirsuta)を用いることができる。
上記フラビンタンパク質は、N末端付近に存在するヒスチジン残基に補酵素FADが結合する。
その前後のアミノ酸配列(R−[ST]−H−[ST]−x(2)−A−x−G−G)は生物種を越えてよく保存されており、このタンパク質の配列上の特徴となっている(*1、下記ウェブサイト参照、以下同様)。
*1(http://www.expasy.ch/prosite/PDOC00393)。
*2(Saccharomyces Genome Database http://www.yeastgenome.org/)
その他にも、Phanerochaete chrysosporium (*3)、Coprinus cinereus(*4)、Aspergillus niger(*5)、Neurospora crassa(*6)、Cryptococcus neoformans(*7)等についてゲノム情報を利用してSDH遺伝子の配列を取得することができる。
*3(http://genome.jgi-psf.org/whiterot1/whiterot1.home.html)
*4(http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/coprinus_cinereus/MultiHome.html)
*5(http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/aspergillus_group/MultiHome.html)
*6(http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/neurospora/)
*7(http://www.tigr.org/tdb/e2k1/cna1/)
さらにゲノム配列が公開されておらず、SDH遺伝子が公共のデータベースに登録されていないような生物については、種々の公知の方法でSDH遺伝子の配列を取得することができる。例えば実施例に記載の方法を用いることができ、アラゲカワラタケsdh1遺伝子(配列番号1)の配列を取得することができる。
宿主に移入するDNAは、プロモーター配列及びその下流に連結されたアンチセンス鎖を含んでいればよく、その他の配列を含んでいてもよい。具体的には、リンカー配列、ターミネーター配列、選択マーカー等が例示される。プロモーター配列とアンチセンス鎖の間にリンカー配列を含んでいてもよい。またアンチセンス鎖の下流において転写を適切に停止させるために、アンチセンス鎖の下流にターミネーター配列が連結されていることが好ましい。
形質転換体の選抜に用いる選択マーカーは、実施例に記載したようにプロモーター配列及びアンチセンス鎖を含むDNAとは連結されていない状態で形質転換に用いることができるが、連結した状態でもよい。
また宿主が特定の遺伝子の欠損により栄養要求性となっているような場合には、正常な遺伝子を選択マーカーとして用いることができる。具体的には、例えば本発明の実施例ではオルニチンカルボキシトランスフェラーゼ(OCT)遺伝子の欠損によりアルギニン要求性を示す宿主に対して、正常なOCT遺伝子を選択マーカーとして用いている。
形質転換に用いるDNAに含まれる配列は、宿主ゲノム、プラスミド、その他の単離されたDNA試料からPCR法により増幅し取得することができる。PCRは市販の酵素等を用いて、公知の方法で実施することができる。
形質転換体においてSDH遺伝子の発現量が減少したことは、公知の方法で確認することができる。例えばノーザン解析、定量RT−PCR等の方法を利用できる。形質転換体のSDH遺伝子の発現量は、宿主又は野生型株と比較して、少なくとも5分の1以下に減少していることが好ましい。
宿主微生物及び形質転換体を生育させるための培養は、公知の培地及び培養条件で実施することができる。窒素源としては酵母エキス、ペプトン、各種アミノ酸、大豆粕、コーンスティープリカー、尿素、硫酸アンモニウム、各種無機窒素を用いることができる。炭素源としては、菌株を生育させるためであれば、菌株の資化性に応じて、グルコース等の糖類、オリゴ糖、デンプンやセルロースなどの多糖類、エタノールやグリセロール等のアルコール類を用いることができる。
本発明においてSDH遺伝子の発現量を減少させた形質転換体を用いてコハク酸を生産させる場合には、主な炭素源としてグリセロールを用いる。グリセロールは、天然物由来の油脂を原料とするバイオマスエネルギーのひとつであるバイオディーゼル燃料の製造において副産物として生成し、その有効利用法の開発が求められている。本発明で用いるグリセロールはそのようにして生成したものであってもよい。発酵時のグリセロール濃度は特に限定されないが、通常1〜30%で用いられる。グリセロールを他の炭素源とともに用いることもできる。
培養によって製造されたコハク酸は培地中に溶解した状態又は塩として析出した状態で得られる。コハク酸の精製は公知の方法で行うことができ、精製されたコハク酸は各種工業製品の原料とすることができる。
コハク酸デヒドロゲナーゼは4つのサブユニットからなる。それらは出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae においては、SDH1、SDH2、SDH3、及びSDH4の各遺伝子にコードされたタンパク質である。
それらのうちSDH1は触媒サブユニットをコードしている。この触媒サブユニットに着目し、遺伝子工学的手法による発現制御を行い、代謝経路を改変することを目的として、アラゲカワラタケの染色体上に存在する相同遺伝子(以下sdh1とする)の配列決定を行った。
(1)ThSDH−1F(フォワード) 5’― CAGCGWGCBTTCGGTGG ―3’
(2)ThSDH−2F(フォワード) 5’― CTCCACACHYTBTACGG ―3’
(3)ThSDH−3F(フォワード) 5’― ARTTYGTBCARTTCCAYCC ―3’
(4)ThSDH−4R(リバース) 5’― ATCGACRCCRGCRAARAT ―3’
(5)ThSDH−5R(リバース) 5’― CGGTTVGCACCRTGGAC ―3’
アラゲカワラタケの平板寒天培養から直径5mmの寒天片をコルクボーラーで打ち抜き、グルコース・ペプトン培地(3%グルコース、1%ポリペプトン、0.15%リン酸二水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、2ppmチアミン塩酸塩、リン酸でpH5.0に調整)100mlに植菌し、28℃で3日間回転振盪培養(130rpm)を行った。菌体を濾過により集菌後、500mlの滅菌水で菌体を洗浄し、液体窒素で凍結した。
凍結した菌体2.5gを乳鉢で粉砕した後、抽出緩衝液(2%Triton X―100、1%SDS、100mM塩化ナトリウム、10mMトリス−塩酸(pH8.0)、1mM EDTA(pH8.0))10mlに懸濁した。フェノール・クロロホルム抽出を二度行い、水層に氷冷したエタノール8mlを加えた。4℃で遠心し、上清を除去し、沈殿に70%エタノール8mlを加えた。遠心した後、上清を除去し、55℃で5分間保温し、エタノールを除去した。沈殿をRNAase A 10μg/mlを含むTE緩衝液0.5mlに溶解し、ゲノムDNA溶液とした。
まず制限酵素サイトを調べるために、上記DNA断片をプローブとして、アラゲカワラタケ野生型株のゲノムDNAに対してサザン解析を行った。サザン解析にはAlkPhos Direct Labelling and Detection System(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いた。ゲノムDNAは数種の制限酵素で消化した。使用した制限酵素は、BamHI、BglII、DraI、EcoRI、EcoRV、HindIII、NotI、PstI、SalI、ScaI、SmaI、SphI、XbaI、XhoIである。
サザン解析の結果、ゲノムDNAをPstIで消化したときに約5kbのバンドが、SalIで消化したときに約3kbのバンドが、それぞれ検出された。またXhoIで約6.5kbのバンドが、EcoRVで約8kbのバンドがそれぞれ検出された。その他の制限酵素ではバンドのサイズが10kb以上であるか、又はシグナルが弱く検出不能だった。
(6)ThSDH−8F 5’― CGATGTCACCAAGGAGCC ―3’
(7)ThSDH−10R 5’― ACGCTCGTGGAGGATCTC ―3’
PCR反応の結果、予想されたサイズ、すなわちPstIを使用した場合には約5kbの、SalIを使用した場合には約3kbのDNA断片がそれぞれ増幅された。
またXhoIを使用してインバースPCRを行い、sdh1遺伝子のプロモーター領域を含むと考えられる約6.5kbのDNA断片を得た。
増幅されたDNA断片を電気泳動した後、アガロースゲルから切り出し、精製し、配列解読に用いた。DNAの精製には QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いた。各制限酵素サイト、sdh1コード領域、及び配列が決定された領域の位置関係を図1に示す。また決定された配列のうち、最長部分の配列を配列番号1に示す。
アラゲカワラタケ菌体内でsdh1遺伝子のコード領域のアンチセンス鎖を大量に発現させることで、元々のsdh1遺伝子の発現量を減少させることができると予想された。そこで図2に示すように、形質転換に用いるアンチセンス鎖発現用DNA断片を、以下のように Double-joint PCR 法(Yu. J. H. et al., Fungal Genet Biol. 2004 Nov;41(11):973-81)により作製した。
アンチセンス鎖発現用のプロモーターには、アラゲカワラタケ由来GPD(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のプロモーターを、ゲノムDNAよりPCRにより増幅して用いた。PCRには以下のプライマー(8)(9)を用いた。
(8)GPD−F1 5’― GAATTCAGAGGCGAGAGCGGACG ―3’
(9)GPD−R1 5’― TGTGTGGTGGATGGGGATGAGAGG ―3’
PCR反応後、反応液を電気泳動し、アガロースゲルから増幅した0.92kbのDNA断片を切り出し、精製した。
sdh1遺伝子のコード領域のアンチセンス鎖は、ゲノムDNAよりPCRにより増幅して用いた。PCRには以下のプライマー(10)(11)を用いた。
(10)sdh1−AS1−F1 5’― TCATCCCCATCCACCACACAGGGGATACCACCCACTGCATAC ―3’
(11)sdh1−AS1−R1 5’― AAAACGCGCGACCGCGTCTACGGTGTGCCCTTCTCAAGAACC ―3’
なお、sdh1−AS1−F1の5’末端側20残基は、GPD遺伝子プロモーターの3’末端の配列である。またsdh1−AS1−R1の5’末端側20残基は、sdh1遺伝子ターミネーターの5’末端の配列である。
PCR反応後、反応液を電気泳動し、アガロースゲルから増幅した0.87kbのDNA断片を切り出し、精製した。
ターミネーターには、sdh1遺伝子のターミネーターを、ゲノムDNAよりPCRにより増幅して用いた。PCRには以下のプライマー(12)(13)を用いた。
(12)sdh1(t)−F1 5’― TAGACGCGGTCGCGCGTTTTGTC ―3’
(13)sdh1(t)−R2 5’― CTGAGTCCTCGAAGAAGTGAGCCG ―3’
PCR反応後、反応液を電気泳動し、アガロースゲルから増幅した0.95kbのDNA断片を切り出し、精製した。
またアラゲカワラタケ形質転換におけるマーカー遺伝子として、プラスミドpUCR1(特許第3379133号)上のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OCT)遺伝子をPCRにより増幅した。PCRには以下のプライマー(14)(15)を用いた。
(14)OCT−F1 5’― GAATTCTGAAGCTCTCCGGCAGCCG ―3’
(15)OCT−R1 5’― GACGTCATGCGCGGCACGTGGCC ―3’
PCR反応後、反応液を電気泳動し、アガロースゲルから増幅した2.5kbのDNA断片を切り出し、精製した。
まず上記のDNA断片のうち、GPDプロモーター、sdh1遺伝子アンチセンス鎖、sdh1ターミネーターを、1対3対1の割合で混合し、プライマーを加えずにPCR反応を行った。反応条件は(94℃ 2分)x1サイクル、(98℃ 10秒、55℃ 2分、68℃ 5分)x10サイクル、(68℃ 10分)x1サイクルとした。
次に上記PCR反応液を一部とり、プライマーとしてGPD−F1及びsdh1(t)−R2を加え、PCR反応を行った。反応条件は(94℃ 2分)x1サイクル、(98℃ 10秒、68℃ 3分)x30サイクルとした。
PCR反応液を電気泳動し、アガロースゲルから増幅した2.74kbのDNA断片を切り出し、精製した。このDNA断片と上記OCT遺伝子(2.5kb)とをアラゲカワラタケの形質転換に用いた。
(1)一核菌糸体培養
300ml容三角フラスコに、カザミノ酸1%を加えたMYG培地(2%グルコース、0.15%リン酸水素二アンモニウム、0.05%リン酸二水素カリウム、0.1%リン酸水素二カリウム、0.05%硫酸マグネシウム七水和物、0.12ppmチアミン塩酸塩、0.67% Yeast nitrogen base without amino acid、リン酸でpHを5.6に調整)100mlを分注して滅菌した。アラゲカワラタケ(アルギニン要求性株)の平板寒天培地から直径5mmの寒天片を打ち抜き、無菌容器内ですりつぶし、上記培地に加えた。120rpmで振盪しながら28℃で3日間培養した。
(2)プロトプラストの調製
上記液体培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径30μm)で濾集し、浸透圧調節溶液(0.5M硫酸マグネシウム七水和物、50mMマレイン酸緩衝液(pH5.6))で洗浄した。
洗浄した湿菌体100mgに対して1mlの割合で細胞壁分解酵素液を加え、穏やかに振盪しながら28℃で3時間インキュベートしてプロトプラストを遊離させた。細胞壁分解酵素液は、セルラーゼ“オノズカ”RS(ヤクルト薬品工業株式会社製)5mg及びヤタラーゼ(タカラバイオ株式会社製)10mgを上記浸透圧調節溶液1mlに溶解して調製した。
(3)プロトプラストの精製
上記酵素反応液からナイロンメッシュ(孔径30μm)で菌糸断片を除いた後、プロトプラストの回収率を高めるため、ナイロンメッシュ上に残存する菌糸断片とプロトプラストを上記浸透圧調節溶液で1回洗浄した。得られたプロトプラスト懸濁液を遠心分離(1,000×g、5分間)し、上清を除去した。沈殿物に、1Mスクロースを含む20mM MOPS緩衝液(pH6.3)を加えて懸濁し、遠心分離し、上清を除去した。この沈殿物の洗浄操作を再度繰り返した。沈殿物を、1Mソルビトールを含む20mM MES緩衝液(pH6.4)に40mM塩化カルシウムを加えた溶液500μlに懸濁し、プロトプラスト懸濁液とした。この懸濁液を4℃で保存した。プロトプラスト濃度は血球計算盤を用いて、直接検鏡により求めた。全ての遠心操作はスウィングローターで1,000Xg、5分間、室温で行った。
(4)形質転換
約107個/mlのプロトプラスト懸濁液100μlに対して、試験例2で調製したアンチセンス鎖発現用断片(2.74kb)2μgとOCT遺伝子(2.5kb)0.2μgとを添加し、30分間氷冷した。次に、プロトプラスト・DNA混合液に対して等量のPEG溶液(50%PEG3,400を含む20mM MOPS緩衝液(pH6.4))を加え、さらに30分間氷冷した。混合液の3分の1を、0.5Mスクロースを含む選抜用寒天培地(0.05%ロイシン、及び1.5%寒天を含むMYG培地)のプレートの中央に移し、溶解し50℃に保温しておいた0.5Mスクロースを含む選抜用軟寒天培地(0.05%ロイシン、及び0.7%寒天を含むMYG培地)5mlを加えて均一になるよう混合した。軟寒天培地が固化した後、プレートを28℃で数日間インキュベートした。生育してきた形質転換体を選抜用寒天培地に移し、コロニーを形成させた。
またアンチセンス鎖を発現する形質転換体に対する対照株として使用するアルギニン非要求性菌株は、DNAとしてOCT遺伝子(2.5kb)2μgのみを形質転換に使用することで作製した。
なおDNAを全く加えない対照実験では、菌の生育は認められなかった。
試験例3で得られた形質転換体について、以下に記載するコロニーPCR法により、sdh1遺伝子アンチセンス鎖発現用DNA断片が保持されていることを確認した。
(1)形質転換体の培養とゲノムDNAの抽出
0.05%ロイシンを含むMYG培地200μlを滅菌した1.5ml容チューブに分注し、試験例3で得られた形質転換体のコロニーの一部を植菌し、28℃で5日間インキュベートした。
菌体を細胞溶解溶液(0.8M塩化カリウム、10mMクエン酸緩衝液(pH6.2)、10mg/mlヤタラーゼ、5mg/mlセルラーゼ“オノズカ”R−10)50μlに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。そこに希釈液(10mMトリス−塩酸(pH8.0)、10mM塩化ナトリウム、1mM EDTA(pH8.0))150μlを加え、95℃で3分間加熱し、氷上で5分間急冷した後、遠心分離(15,000rpm、1分間)し、上清を新しい容器に移し、DNA抽出液とした。
(2)PCR
上記DNA抽出液2.5μlを使用して、50μlの反応スケールでPCRを行った。PCRにはTaKaRa Ex Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用い、プライマーには以下のオリゴDNA(16)〜(19)を用いた。
5’末端側の確認
(16)GPD−F2 5’― AGAGGCGAGAGCGGACGAGGTCGGCCGGAG ―3’
(17)ThSDH−9F 5’― GTATGCAGTGGGTGGTATC ―3’
3’末端側の確認
(18)ThSDH−12R 5’― CGACACATTCGCCATCTTGC ―3’
(19)sdh1(t)−R1 5’― AGATTGGTAACTTACGATTACATACAGG ―3’
反応液のうち2μlを電気泳動した。その結果、図3に示すように5’末端側の0.9kbの断片の増幅は実験に供した6菌株全てにおいて検出され、3’末端側の0.7kbの断片の増幅は4菌株において検出された。野生型株について行った対照実験では5’末端、3’末端のいずれの断片の増幅も検出されなかった。
以上の結果から、試験例3で得られた形質転換体には、sdh1遺伝子アンチセンス鎖発現用DNA断片が保持されていることが確認された。
試験例3で得られた形質転換体におけるsdh1遺伝子の発現量を、以下のように定量RT−PCR法により定量した。
(1)トータルRNAの抽出
試験管に、0.05%ロイシンを加えたMYG培地3mlを分注した。形質転換体のコロニーを形成させた平板寒天培地から直径5mmの寒天片を打ち抜き、無菌容器内ですりつぶし、上記培地に加えた。菌株は、アンチセンス鎖発現株として、AS1−12、13、28、29、35、37、対照株として、arg1−1、2、3を使用した。200rpmで振盪しながら28℃で3日間培養した。
菌体を1.5ml容チューブに移し、直ちに液体窒素で凍結した後、一晩凍結乾燥した。乾燥した菌体を楊枝で粉砕し、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を使用してトータルRNAを抽出した。RNA10μgをDNase(RT Grade) for Heat stop(ニッポンジーン社製)で処理し、残存するDNAを除去した。
(2)定量RT−PCR
上記RNA試料について、One Step SYBR PrimeScript RT−PCR Kit II(タカラバイオ株式会社製)を使用して反応を行い、DNA Engine Opticon(Bio−Rad社製)により検出した。リファレンス遺伝子としてはアラゲカワラタケのGPD遺伝子を用いた。プライマーには以下のオリゴDNA(20)〜(23)を用いた。
sdh1遺伝子の検出
(20)ThSDH−13F 5’― CTTCCCACTGCAAAGATCC ―3’
(21)ThSDH−34R 5’― CTGGTCGTACGTCTTGTAG ―3’
GPD遺伝子の検出
(22)ThGPD1−1F 5’― TGTTCAAGTACGACTCCGTC ―3’
(23)ThGPD1−2R 5’― GGTGGACTCGACGATGTAG ―3’
なおsdh1遺伝子を検出するためのプライマーセットで増幅される領域は、形質転換に使用したアンチセンス鎖として発現される領域とは重複しない。
sdh1遺伝子の相対発現量は△△Ct法によって計算した。
表1に示したように、6株のアンチセンス鎖発現株のうち、AS1−29株ではsdh1遺伝子の発現量が対照株の12%程度にまで減少していることが確認された。
アンチセンス鎖発現株AS1−29及び対照株arg1−1について、以下のように液体培養によりコハク酸生産試験を行った。
300ml容三角フラスコにGlyP培地(3%グリセロール、1%ペプトン、0.15%リン酸二水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウム七水和物、2ppmチアミン塩酸塩、リン酸でpH5.0に調整)50mlを分注し、コロニーを形成させた平板寒天培地から直径5mmの寒天片を打ち抜き、無菌容器内ですりつぶし、上記培地に加えた。130rpmで振盪しながら28℃で培養し、経時的に培養上清をサンプリングした。サンプルは、菌体を遠心分離(15,000rpm、5分間)した後、フィルター濾過(孔径0.20μm)し、コハク酸の定量に供した。
コハク酸の定量にはF−キット コハク酸(R−バイオファーム社製)を使用した。
表2に示したように、コハク酸生産量は、対照株arg1−1では最大で38mg/Lだったのに対し、アンチセンス鎖発現株AS1−29は最大で231mg/Lだった。
GP培地((3%グルコース、1%ペプトン、0.15%リン酸二水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウム七水和物、2ppmチアミン塩酸塩、リン酸でpH5.0に調整)を使用して、実施例1と同様にしてコハク酸生産試験を行った。
その結果、表2に示したように、アンチセンス鎖発現株、対照株のいずれも顕著なコハク酸生産はみられなかった。
Claims (5)
- コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を減少させるためのDNA配列を組み込んだ形質転換された糸状菌を用いてグリセロールからコハク酸を製造する方法。
- コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を減少させる方法が、コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子から転写されるmRNAの全部又は一部に対して相補的な配列を有するRNAを発現するDNA配列を菌体内に担持させる方法である、請求項1に記載のコハク酸を製造する方法。
- 該DNA配列が宿主である糸状菌と同一の種由来のもののみからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコハク酸を製造する方法。
- 糸状菌が白色腐朽菌であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸を製造する方法。
- 糸状菌がトラメテス(Trametes)属の白色腐朽菌であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸を製造する方法。
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