JP2010075171A - キャンディダ・ユティリスによる高効率乳酸製造法 - Google Patents

キャンディダ・ユティリスによる高効率乳酸製造法 Download PDF

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Abstract

【課題】乳酸を高い効率で製造する酵母菌株の提供。
【解決手段】乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子の発現を可能にするプロモーター配列が機能的に結合した該遺伝子の少なくとも1コピーにより形質転換されてなる、キャンディダ・ユティリスの酵母菌株。
【選択図】なし

Description

発明の背景
技術分野
本発明は、クラブトゥリー陰性酵母であるキャンディダ・ユティリス(Candida utilis)を宿主とした乳酸の製造方法に関する。
背景技術
近年、環境問題への取り組みから、生分解性プラスチックへの関心が高まっている。生分解性プラスチックは資源を自然循環でき、自然に分解していく点から環境に対する負荷が少ない。代表的な生分解性プラスチックの原料であるポリ乳酸はL−乳酸を重合して製造するが、乳酸の光学純度が高いほど安定したポリ乳酸ができる。通常、乳酸はグルコース等の糖質を基質とした微生物の代謝産物として得られる。特に乳酸菌と呼ばれる一群の細菌類は乳酸を特異的に製造することが古くから知られており、ヨーグルト等の製造に関わっている。しかし、乳酸菌は発酵過程においてL−乳酸の他にD−乳酸も数%副生するので、製造した乳酸の光学純度が低下してしまう。
有用物質の製造には酵母がしばしば用いられている。酵母は一般に細菌よりも高い細胞密度で培養することができ、かつ連続培養も可能である。また、酵母は蛋白質を培地中に分泌し、分泌された蛋白質は糖鎖による修飾を受ける。このため、酵母による蛋白質の生産は、このような修飾が生物活性に重要である場合に有利である。
酵母のうち、今日まで最も良く研究され、遺伝学的知見が蓄積しているものにはサッカロマイセス属酵母があり、この酵母は種々の物質生産の宿主として検討がなされている。また、近年、サッカロマイセス属酵母以外の酵母としてピキア属酵母、ハンセヌラ属酵母、クルイベロマイセス属酵母、キャンディダ属酵母などのいくつかの種について、それらを形質転換する手法が開発され、有用物質生産の宿主として検討されている。このうち、キャンディダ属酵母は、特に、炭素資化域が広いなど、サッカロマイセス属酵母にない特性を有している。
キャンディダ属酵母の中でも、キャンディダ・ユティリスは、キシロースをはじめとするペントースに対する優れた資化性を示す。また、サッカロマイセス酵母と異なり、好気的条件下での培養でエタノールを製造せず、それによる増殖阻害も受けないことから、高密度での連続培養による効率的な菌体製造が可能である。従って、キャンディダ・ユティリスは、かつて蛋白質源として注目され、ペントースを多く含む広葉樹の糖化液や亜硫酸パルプ廃液を糖源とした菌体の工業生産が行われていた。また、この酵母はアメリカFDA(Food and Drug Administration)により、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・フラジリス(Saccharomyces fragilis)とともに、食品添加物として安全に使用できる酵母として認められている。実際に、キャンディダ・ユティリスは、ドイツをはじめとして、アメリカや台湾、ブラジルなど世界各国で製造され、食飼料として使用されている。また、このような微生物蛋白質としての利用以外にも、キャンディダ・ユティリスは、ペントースやキシロースの発酵株、エチルアセテート、L−グルタミン、グルタチオン、インベルターゼ等の製造株として広く産業界で利用されてきた。
酵母を用いて乳酸を製造する試みとしては、乳酸製造能を持たない酵母に、外来の乳酸脱水素酵素(LDH)の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を導入し乳酸を製造する技術が開発されている。このような遺伝子操作がなされた酵母は、グルコースからピルビン酸を経て、乳酸を製造することができる。酵母の中でも最も研究が進んでいるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、ピルビン酸からアセトアルデヒドを経てエタノールを製造するアルコール発酵を行う能力が旺盛であるため、基質となるグルコースからの乳酸製造効率が低下してしまう。そこでアルコール発酵を抑制するために、サッカロマイセス・セレビシエの染色体中のピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を破壊することによって、その発現を抑制する試みがなされてきた(特許文献1:特表2001−516584号公報;特許文献2:特表2003−500062号公報)。しかしながら、サッカロマイセス・セレビシエは高グルコース下でエタノール発酵依存的生育を行う性質(クラブトゥリー陽性効果)を持つため、PDC遺伝子の破壊は乳酸製造に貢献したが、細胞増殖の抑制を同時に引き起こすという負の効果ももたらした。
一方、クラブトゥリー効果陰性酵母を用いた例としては、少なくともPDC遺伝子を破壊したクルイベロマイセス属酵母菌株を用いて乳酸を製造する試みがなされているが(特許文献1:特表2001−516584号公報;特許文献3:特表2005−528106号公報)、例えば攪拌タンク発酵槽での発酵時間が長い等の欠点があった。
また、クラブトゥリー効果陰性酵母であるキャンディダ属の組換え酵母を宿主とした乳酸の製造例として、キャンディダ・ソノレンシスを用いた報告例があるが(特許文献4:特開2007−111054号公報;特許文献5:特表2005−518197号公報)、乳酸製造効率は低率であり、製造される乳酸の濃度は低く、あるいは乳酸製造に長時間を要する。
さらに、このようなクラブトゥリー効果陰性の乳酸製造酵母を用いて、モラセスの主要構成糖であるスクロースを炭素源として含む培地において高い効率で乳酸を製造した例は報告されていない。
特表2001−516584号公報 特表2003−500062号公報 特表2005−528106号公報 特開2007−111054号公報 特表2005−518197号公報
本発明者らは、乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に備えるキャンディダ・ユティリス(Candida utilis)の酵母菌株を形質転換により作出し、それを培養することで、より効率的に乳酸を製造しうることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
従って、本発明は、クラブトゥリー効果陰性酵母であるキャンディダ・ユティリスを用いて作出した、乳酸を高い効率で製造する酵母菌株、ならびに低コストで高収率な乳酸の製造方法を提供することを目的とする。
そして、本発明による酵母菌株は、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子の発現を可能にするプロモーター配列が機能的に結合した該遺伝子の少なくとも1コピーにより形質転換されてなる、キャンディダ・ユティリスの酵母菌株である。
さらに、本発明による乳酸製造法は、本発明による酵母菌株を培養することを含んでなる。
本発明によれば、乳酸製造能を備えた新規キャンディダ・ユティリス株が提供され、この酵母菌株を適切な条件で発酵に用いることにより、L−乳酸を短時間で効率的に製造することが可能となる。本発明によれば、クラブトゥリー効果陰性酵母であるキャンディダ・ユティリスを用いた乳酸製造法において、エタノールや各種有機酸といった副産物の生成を抑えつつ、乳酸製造の効率を大幅に向上させることができる。
発明の具体的説明
本発明において使用される酵母、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)は食飼料用に生産されていることから、この酵母については安全性が高いことが知られている。
本発明による酵母菌株は、このキャンディダ・ユティリスの菌株を、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子の発現を可能にするプロモーター配列が機能的に結合した該遺伝子の少なくとも1コピーにより形質転換して得られたものである。
さらに、キャンディダ・ユティリスは、サザンハイブリダイゼーション法を用いた解析により、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を少なくとも1種類有していることが示唆された(CuPDC1遺伝子)。CuPDC1遺伝子を破壊すると、ピルビン酸がアセトアルデヒドに変換される反応が進まなくなるため、その後の代謝経路であるアルコール発酵は行われず、エタノールをほとんど製造しない。本発明において、乳酸製造酵母の宿主としてピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を破壊した酵母を用いれば、エタノールという乳酸製造にとっての余剰物質が製造されず、高効率で乳酸を製造することが可能となる。
従って、本発明の好ましい実施態様によれば、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性がないか、あるいは低下し、かつ乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に備える酵母菌株が提供される。この酵母菌株においては、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする内因性遺伝子が破壊されていることが好ましい。
さらに、前記乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のプロモーターの制御下で発現可能に備えられていることが好ましく、より好ましくは、酵母染色体上におけるピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のプロモーターの制御下で発現可能に備えられている。
本発明の特に好ましい実施態様によれば、乳酸製造酵母であって、染色体上のピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が破壊されると共に、破壊された該遺伝子のプロモーターの制御下で乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に備える酵母菌株が提供される。
これらのいずれかの実施態様の酵母菌株において、前記ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子はピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子1(CuPDC1遺伝子)であることが好ましく、前記乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドはウシ由来であることが好ましい。
また、本発明による酵母菌株によって製造される乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、およびDL−乳酸のいずれであってもよいが、好ましくはL−乳酸とされる。
以下、本発明による酵母菌株について説明すると共に、この酵母を用いた乳酸製造方法について説明する。
乳酸製造に用いる酵母
本発明による酵母菌株は、外来の乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する形質転換酵母である。乳酸の製造に用いる酵母は、クラブトゥリー陰性酵母であるキャンディダ・ユティリスである。キャンディダ・ユティリスの菌株は当技術分野において公知の様々な株、例えば、NBRC0626株、NBRC0639株、NBRC0988株、NBRC1086株等であってよいが、好ましくはNBRC0988株とされる。
ピルビン酸脱炭酸酵素
本発明による酵母菌株においては、ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)活性がないか、または低下していることが好ましい。この酵素は、アルコール発酵経路においてピルビン酸をアセトアルデヒドに変換する酵素であり、アルコール発酵を行う酵母はピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を染色体上に本来的に有している。サッカロマイセス・セレビシエにはピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が3種類(ScPDC1ScPDC5およびScPDC6)存在し、これらはいわゆるオートレギュレーション機構により機能している。また、各遺伝子のヌクレオチドレベルでの相同性も70%以上と高い。これらの遺伝子がコードするタンパク質はN末端側のTPP結合領域とC末端側のPDC活性領域から構成されている。PDCをコードする遺伝子は他の酵母でも存在しており、例えば、クルイベロマイセス・ラクティスのKlPDC1遺伝子はScPDC1遺伝子との高い相同性を有する。一方、キャンディダ・ユティリスにはピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする1種類の遺伝子(CuPDC1)が存在し、他にも同様の遺伝子が存在する可能性があるが、少なくともCuPDC1遺伝子を破壊することによりアルコール発酵はほぼ全く行われなくなる。
ここで「PDC活性がないか、または低下している」とは、PDC活性が全くないか、または野生型よりも低い活性の該酵素が生産されているか、あるいは該酵素の生産量が野生型よりも少ないことを意味する。PDC活性がないか、または低下している酵母菌株は、人工的な操作により得られたものであっても、あるいはスクリーニングによって見出されたものであってもよい。このような酵素活性の消滅または低下のための人工的操作は、RNAiを利用する方法、選択マーカーの全部または一部の配列などの他の遺伝子と入れ替える方法、無意味な配列を遺伝子内部に挿入する方法など、当技術分野において周知の方法で行うことができる。この中でも、当該酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を破壊(ノックアウト)することが好ましく、このような方法として、上記の各手法のうち、選択マーカーの全部または一部の配列などの他の遺伝子とPDCをコードする遺伝子とを入れ替える方法が挙げられる。
破壊対象のピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、元々キャンディダ・ユティリスに存在するが、うち、本発明の実施例で記載されているのはNBRC0988株に存在するCuPDC1遺伝子のアレルのうちの1つであり、そのヌクレオチド配列は配列番号63で表され、コードされるアミノ酸配列は配列番号64で表される。キャンディダ・ユティリスの他の株、例えばNBRC0626株、NBRC0639株、NBRC1086株等を用いる場合には、仮に当該配列と相違していても、同等の機能、すなわち活性を有するものが存在していればそれを破壊対象とすることができる。
本発明の好ましい実施態様によれば、破壊対象となるピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする内因性遺伝子は、配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子、より好ましくは配列番号63で表されるヌクレオチド配列を含む遺伝子とされる。
乳酸脱水素酵素
本発明による酵母菌株は、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子(LDH遺伝子)を保持している。酵母は元来乳酸製造能を持たないので、本発明による酵母菌株が有する乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子(LDH)は外来性である。LDHには、生物の種類に応じて、あるいは生体内においても各種同属体が存在し、本発明に使用するのはL−LDHであってもD−LDHであってもよいが、好ましくはL−LDHである。また、本発明において使用する乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子としては、天然由来のLDHの他、化学合成的或いは遺伝子工学的な手法により人工合成されたLDHも包含している。LDHをもつ生物としては、乳酸菌等の原核生物、カビ等の真核生物、植物や動物並びに昆虫等の高等真核生物などが挙げられる。本発明において使用するLDHとして好ましいのは高等真核生物由来であり、特にウシ由来のものが適している。ウシ由来の乳酸脱水素酵素(L−LDH)の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号38で表されるものであり、これによりコードされるアミノ酸配列は配列番号35で表される。
本発明の好ましい実施態様によれば、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドは、配列番号37で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドとされる。また、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドは、配列番号37で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドであってもよい。
ここで、アミノ酸の欠失、置換、付加、又は挿入は、上記ポリペプチドをコードする遺伝子を、当技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばMutant−K(タカラバイオ社)やMutant−G(タカラバイオ社)などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO)などを用いて変異を導入することができる。乳酸脱水素酵素の活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
さらに、宿主に導入する乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、配列番号35に記載したウシ(Bos taurus)由来の酵素のアミノ酸配列(DDBJ/EMBL/GenBank Accession number:AAI46211.1)に対応するヌクレオチド配列をキャンディダ・ユティリスのコドン使用頻度を考慮して人工的に合成したものが好ましい。このような人工的な合成は当業者であれば適切に行うことができるが、特に好ましいヌクレオチド配列は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列である。なお、その前後の配列は、制限酵素認識部位である、それぞれKpnI認識部位(配列番号36のヌクレオチド配列において1番目のgから6番目のcまでの配列)、Xba I認識部位(配列番号36のヌクレオチド配列において7番目のtから12番目のaまでの配列)、BamHI認識部位(配列番号36のヌクレオチド配列において1,015番目のgから1,020番目のcまでの配列)、およびSacI認識部位(配列番号36のヌクレオチド配列において1,021番目のgから1,025番目のcまでの配列)である。この配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のa(2つの翻訳終了コドンのうち、上流域のtga)までのヌクレオチド配列(コドン最適化配列:配列番号36)と配列番号38で表されるヌクレオチド配列(ウシ由来の野生型配列)のアライメントを図1に示す。両者の配列は999塩基中751塩基が等しく、相同性は75%であった。図1において、上側の配列は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のa(2つの翻訳終了コドンのうち、上流域のtga)までのヌクレオチド配列である。図1の下側の配列は配列番号38で表されるBos taurus由来のL−LDH−A遺伝子の塩基配列(DDBJ/EMBL/GenBank Accession number:BC146210.1より抜粋)である(翻訳産物は配列番号35となる)。このように人工的に合成された当該乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、キャンディダ・ユティリスにおけるコドン使用頻度が最適化されているため、酵母に形質転換されると特にL−乳酸を高効率で製造することができる。
本発明の好ましい実施態様によれば、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列を含む遺伝子、またはその同等物とされる。この同等物は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列を含む遺伝子と同等の機能を有することを条件に、一部のヌクレオチド残基が異なる遺伝子を意味する。このような同等物としては、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性があり、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子が挙げられる。前記同等物としてはさらに、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列もしくはその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子が挙げられる。前記同等物としてはさらに、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列において1もしくは数個のヌクレオチド残基が欠失、置換、付加、または挿入された配列を含み、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子が挙げられる。本発明の特に好ましい実施態様によれば、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列を含む遺伝子とされる。
ここで、ヌクレオチド残基の欠失、置換、付加、又は挿入は、上記配列を含む遺伝子を、当技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いればよい。例えばMutant−K(タカラバイオ社)やMutant−G(タカラバイオ社)などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO)などを用いて変異を導入することができる。乳酸脱水素酵素の活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
相同性を示す数値(%)は、塩基配列比較用プログラム:例えばGENETYX−WIN7.0.0を用いて、デフォルト(初期設定)のパラメーターにより算出されるものである。すなわち、酵母染色体上の各遺伝子が、同一ではないが同等の機能、すなわち各活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子によって相同組換え等を介して置換されていてもよい。乳酸脱水素酵素の活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
ストリンジェントな条件とは、例えば、Rapid−Hyb Buffer(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、温度条件を好ましくは40〜70℃、より好ましくは60℃として、その他は添付のプロトコールに従って行うハイブリダイゼーション条件である。その後、例えば当業者の一般的な方法を用い、2×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での5分間の洗浄、続いて1×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での10分間の洗浄、さらに0.1×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での10分間の洗浄を行うことを指す。ただしハイブリダイゼーション時の温度条件や、その後のメンブレンの洗浄に用いる溶液の塩濃度等の条件を適宜設定することにより、ある一定(70%、80%、85%、90%、95%のいずれか)以上の相同性を有する塩基配列を含むDNAをクローニングできる。そのようにして得られる遺伝子が、配列上は同一ではないが同等の機能、すなわち各活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子によって相同組換え等を介して置換されていてもよい。乳酸脱水素酵素の活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
構造遺伝子の発現のために利用するプロモーター
乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、強力なプロモーター活性を有するプロモーターの制御下で発現可能に備えられていることが好ましい。例えば、キャンディダ・ユティリスでは、キャンディダ・ユティリスのグリセロアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするGAP遺伝子のプロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼの活性を有するポリペプチドをコードするPGK遺伝子のプロモーター、原形質膜プロトンATPaseの活性を有するポリペプチドをコードするPMA遺伝子のプロモーター(以上、特開2003−144185号公報)等が例示されるが、さらに好ましくはピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子1(CuPDC1遺伝子)のプロモーターである。うち、本発明の実施例で記載されているのはキャンディダ・ユティリスNBRC0988株に存在するもの(配列番号3)である。キャンディダ・ユティリスの他の株、例えばNBRC0626株、NBRC0639株、NBRC1086株等を用いる場合には、仮に当該配列と相違していても同等の機能、すなわち活性を有するもの(他株配列)が存在していればそのまま使用することができる。当該他株配列は、当業者であれば公知の方法により確認することができる。
乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子は、酵母染色体上のCuPDC1遺伝子プロモーターの制御下で発現可能に備えられていることが好ましい。本発明による酵母菌株の宿主として用いるキャンディダ・ユティリスは少なくとも1種類のPDC遺伝子を有していると推定される(CuPDC1遺伝子)。このCuPDC1遺伝子プロモーターによって制御されるCuPDC1遺伝子が破壊されて乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が代わりに発現されることで、効果的にピルビン酸脱炭酸酵素活性の低下と乳酸脱水素酵素活性の発現とを同時に実現できる。
本発明の好ましい実施態様によれば、前記プロモーター配列は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする内因性遺伝子のプロモーター部分とされ、より好ましくは配列番号3で表されるヌクレオチド配列を含むものとされる。あるいは、このプロモーター配列は、配列番号3で表されるヌクレオチド配列を含むものと同等の機能を有することを条件に、一部のヌクレオチド残基が異なる同等物であってもよい。このような同等物としては、配列番号3で表されるヌクレオチド配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性があり、かつプロモーター活性を有するDNAが挙げられる。前記同等物としてはさらに、配列番号3で表されるヌクレオチド配列もしくはその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するDNAが挙げられる。前記同等物としてはさらに、配列番号3で表されるヌクレオチド配列において1もしくは数個のヌクレオチド残基が欠失、置換、付加、または挿入された配列を含み、かつプロモーター活性を有するDNAが挙げられる。
ここで、ヌクレオチド残基の欠失、置換、付加、又は挿入は、上記配列を、当技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばMutant−K(タカラバイオ社)やMutant−G(タカラバイオ社)などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO)などを用いて変異を導入することができる。プロモーター活性、すなわち転写活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
相同性を示す数値(%)は、塩基配列比較用プログラム:例えばGENETYX−WIN7.0.0を用いて、デフォルト(初期設定)のパラメーターにより算出されるものである。すなわち、酵母染色体上の各遺伝子が、同一ではないが同等の機能、すなわち各活性を有する遺伝子によって相同組換え等を介して置換されていてもよい。プロモーター活性、すなわち転写活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
ストリンジェントな条件とは、例えば、Rapid−Hyb Buffer(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、温度条件を好ましくは40〜70℃、より好ましくは60℃として、その他は添付のプロトコールに従って行うハイブリダイゼーション条件である。その後、例えば当業者の一般的な方法を用い、2×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での5分間の洗浄、続いて1×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での10分間の洗浄、さらに0.1×SSCと0.1%(w/v)SDSから成り立つ溶液での10分間の洗浄を行うことを指す。ただしハイブリダイゼーション時の温度条件や、その後のメンブレンの洗浄に用いる溶液の塩濃度等の条件を適宜設定することにより、ある一定(70%、80%、85%、90%、95%のいずれか)以上の相同性を有する塩基配列を含むDNAをクローニングできる。そのようにして得られる遺伝子が、配列上は同一ではないが同等の機能、すなわち各活性を有する遺伝子によって相同組換え等を介して置換されていてもよい。プロモーター活性、すなわち転写活性は、当技術分野において公知の手法により確認することができる。
酵母菌株の分子育種
本発明による酵母菌株の分子育種は、宿主酵母に対して乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能な状態で導入することによって行うことができる。その際に、宿主酵母に対してPDCをコードする遺伝子の破壊を伴っていることが好ましい。PDC破壊のためのDNA構築物は、特定の遺伝子部位に導入して遺伝子を破壊するための相同組換え用遺伝子配列を備えている。ここでいう相同組換え用遺伝子配列とは、破壊しようとするPDC遺伝子であるターゲット部位、或いはその近傍の遺伝子と相同な遺伝子配列である。例えば、2種類の相同組換え用遺伝子配列を、染色体上のターゲット遺伝子の上流側と下流側の遺伝子とのそれぞれに相同な遺伝子配列とし、これらの相同組換え用遺伝子配列の間に遺伝子を破壊するための遺伝子を備えるDNA断片を酵母染色体に相同組換えにより導入することでターゲット部位の遺伝子を破壊することができる。このような染色体上への組込みを実現するための相同組換え用遺伝子配列の選択は、当業者において周知であり、当業者であれば必要に応じて適切な相同組換え用遺伝子配列を選択して相同組換え用DNA断片を構成することができる。
本発明の好ましい実施態様によれば、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子は、選択マーカー配列の挿入による該遺伝子の欠失によって破壊される。例えば、上記の相同組換えにおいてPDC遺伝子の代わりに挿入されるヌクレオチド配列中に選択マーカー配列を組込んでおくことにより、PDC遺伝子を破壊することができる。選択マーカーは、形質転換された菌体を選択する上で有用である。選択マーカー配列の挿入は、その配列全体を導入することだけでなく、一部の配列を導入することにより、この部分配列と酵母菌に元々存在する配列とを組み合わせて選択マーカー配列を完成させることをも含む。例えば、元々存在する選択マーカー配列の一部が欠落する酵母菌株を形質転換の宿主とする場合には、その欠落した一部の配列を選択マーカー配列として導入することによって、相同組換えを伴う任意の遺伝子破壊を実施することができる。または、ハイグロマイシンやジェネティシン(以下、G418とも表記する)などの薬剤に感受性の場合、これらの薬剤に対して耐性能を付与するための遺伝子を導入することによって、相同組換えを伴う任意の遺伝子の破壊を実施することができる。よって、本発明の一つの実施態様によれば、前述のハイグロマイシンBおよびG418に感受性の酵母菌株を宿主として、当該菌株に元々は存在しない薬剤耐性能を付与する遺伝子を用いて、当該菌株のPDC遺伝子を破壊するものとする。選択マーカーの具体例としては、特開2003−144185号公報において当該菌種で利用可能であることが示されたハイグロマイシンBホスフォトランスフェラーゼ遺伝子(HPT遺伝子、ハイグロマイシンBに対する耐性能を付与する遺伝子)およびアミノグリコシドホスフォトランスフェラーゼ(APT遺伝子、G418に対する耐性能を付与する遺伝子)が挙げられる。
乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子が酵母ゲノムに組込まれる染色体上の位置は特に制限されるものではないが、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子座とすることが有利である。これにより、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子を、PDC遺伝子の全長プロモーターの制御下におくことができ、よって、高い発現効率を得ることができる。
本発明の一つの実施態様によれば、本発明による酵母菌株は、プロモーター配列および該プロモーター配列の制御下にある乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしているDNA配列を含有する発現ベクターによって形質転換されたものとされる。また、このような発現ベクターは、本発明の一つの態様をなす。
キャンディダ・ユティリスは、その倍数性が高く、胞子を形成しない。倍数性の高い株の遺伝子に変異を導入しようとする場合、1倍体の株に比べて、その変異を重度に加える必要があるが、その際に、変異を与えたい遺伝子ではない遺伝子にも変異が加えられる可能性が高まると考えられる。従って、キャンディダ・ユティリスの遺伝子に変異を導入する場合には、標的とする遺伝子のみに効率よく多重に変異を加えることができる技術を用いることが好ましい。
キャンディダ・ユティリスの形質転換法としては、特開2003−144185号公報に記載の技術が挙げられる。この文献では、利用可能なベクターとして、キャンディダ・ユティリスの染色体DNAと相同な配列と、選択マーカー遺伝子とを含んでなり、相同組換えによって異種遺伝子をキャンディダ・ユティリスの染色体DNAに組込むことができるもの、あるいは、キャンディダ・ユティリスで自律複製機能を有するDNA配列と、選択マーカー遺伝子とを含んでなり、高い頻度でキャンディダ・ユティリスを形質転換できるものが開発されている。
キャンディダ・ユティリスの形質転換系で利用可能な選択マーカー遺伝子は、キャンディダ・ユティリスで機能し得る薬剤耐性マーカー、好ましくはシクロヘキシミド耐性型L41遺伝子、ジェネティシン(G418)耐性を付与する遺伝子、またはハイグロマイシンB耐性を付与する遺伝子などがある。ジェネティシン(G418)耐性を付与する遺伝子、またはハイグロマイシンB耐性を付与する遺伝子は、野生の酵母には存在しない配列であるため、標的の遺伝子座に組込まれる確率が高いと考えられている。また、他の種の酵母では、その宿主の形質に与える影響も小さいと考えられている(Baganz Fら,13(16):1563−73.,1997)(Cordero Otero Rら,Appl Microbiol Biotechnol,46(2):143−8.,1996)。これらの特徴を有する当該遺伝子は、キャンディダ・ユティリスの育種においても有益であると考えられる。
他の形質転換系として、バクテリオファージP1由来のCre−loxP系が挙げられる。これは、2つの34bpのloxP配列間での部位特異的組換えシステムであり、この組換えはCre遺伝子がコードするCre組換え酵素によって触媒される。このシステムは、サッカロマイセス・セレビシエなどの酵母細胞においても機能することが報告されており、2つのloxP配列の間に配置された選択マーカー遺伝子は、loxP配列間の組換えによって除去されることが知られている(Guldener,U.ら,Nucleic Acids Res.,24,2519−24.,1996)。このシステムはクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)など、キャンディダ・ユティリス以外の複数の酵母種で利用されている(Steensma,H.Y.ら,Yeast,18,469−72.,2001)。
乳酸の製造方法
本発明による酵母菌株を適当な炭素源の存在下で培養することにより、培養物中に乳酸脱水素酵素の発酵産物である乳酸を製造することができる。本発明による乳酸製造法によれば、培養系から乳酸を分離する工程を実施することにより、乳酸を得ることが出来る。なお、本発明において培養物とは、培養上清の他、培養細胞あるいは菌体、細胞もしくは菌体の破砕物を包含している。
本発明による酵母菌株の培養にあたっては、酵母の種類に応じて培養方法や培養条件を選択することができる。例えば、試験管、フラスコあるいはジャーファーメンターを用いた液体培養法を挙げることができ、回分培養、半回分培養などの培養形式を採用できる。試験管やフラスコでの培養では振幅35mmの条件が好適であり、このような培養は、TAITEC社製卓上培養装置により行うことができる。
本発明による乳酸製造法において、培地の組成は、酵母が生育し、且つ乳酸を製造できる各種栄養素を含む組成であれば特に限定されない。培地に含まれる資化炭素源としては、例えば、グルコースのほかにもキシロースやスクロースでも資化できれば用いることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、炭素源としてはグルコースまたはスクロースが用いられ、より好ましくはグルコースが用いられる。
また、培地に含まれる栄養源としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、ホエーなどが用いられるが、YP(10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)に上記の資化炭素源を加えた培地、例えばYPD(20g/Lグルコース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)、YPX(20g/Lキシロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)、YPSuc10培地(100g/Lスクロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)等の培地で、さらに適宜pH調整されたものが便利である。
なお、安価で精製工程に負担がかからない培地にするには、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩などの無機態窒素や尿素の方が好ましい。また、無機物栄養源としては、例えば、リン酸カリウム、硫酸マグネシウムやFe(鉄)、Mn(マンガン)化合物なども使用される。さらに、培地には、pH調整剤が含まれていてもよい。
発酵温度は、用いる乳酸製造酵母の生育可能な範囲で選択することができる。発酵温度は、例えば、約15℃〜45℃とすることができ、より好ましくは25〜40℃、さらに好ましくは27〜40℃、最も好ましくは35℃とする。また、発酵過程における培地のpHは3〜8に保持することが好ましく、より好ましくはpH4〜7、最も好ましくはpH6であり、必要に応じて発酵産物である乳酸等の中和を行うことができる。用いる中和剤としては、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられるが、好ましくは炭酸カルシウムである。
乳酸製造に要する反応時間は特に限定されず、本発明の効果が認められる限り任意の反応時間で実施される。これらの条件の最適化は、当業者であれば容易に行うことができる。
乳酸製造にあたり、まず酵母を増殖させる場合には、前々培養、前培養を行い、その後に発酵培養による乳酸製造を行うことが好ましい。
前々培養の条件としては、30℃で1〜3日間YPD寒天培地上で生育させた菌体を、滅菌された爪楊枝で一掻きして取得する。これを15mLのチューブに加えられた3〜5mLのYPD液体培地を用い、120〜150rpmの振とう条件下で培養することが好ましい。
前培養の条件としては、培地として50mL〜100mLのYPD液体培地、YPX10液体培地(100g/Lキシロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)またはYPSuc10液体培地(100g/Lスクロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)を用い、前々培養の菌体を、OD600が約0.1になるよう新たな培地に接種したうえで120〜150rpm、30℃で通常16〜30時間培養し、OD600が10〜25を示す対数増殖期または定常期まで培養することが好ましい。
発酵培養の条件としては、培地として、グルコース、キシロースまたはスクロースを95〜115g/L(好ましくは100〜115g/L)の濃度で含み、且つ、中和剤として炭酸カルシウムを3〜5%含む培地、例えば、炭酸カルシウムを3〜5%含むYPD10培地(100g/Lグルコース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)、YPX10培地(100g/Lキシロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)またはYPSuc10培地(100g/Lスクロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)を用い、70〜150rpm、15〜45℃、10〜40mLの液量の通気条件下で培養することが好ましい。より好ましくは80〜100rpm、25〜40℃、10〜20mL、さらに好ましくは80rpm、27〜40℃、10〜15mLである。なお発酵にはバッフル付の100mL三角フラスコを用い、これに10〜40mLの培地および菌体を加えることが好ましい。特にこの段階では、初期の菌体量としてOD600を1〜30(好ましくは1〜20)に調整することが、より短時間で効率良く乳酸を製造できる点で好ましく、より好ましくはOD600を5〜25、さらに好ましくは5〜15とし、最も好ましくはOD600を約10とする。
500mL以上の培地スケールでの乳酸製造では、酵母を増殖させる場合に、液体培地で前前々培養、前々培養、前培養を行い、その後に発酵培養による乳酸製造を行うことが好ましい。当該規模での試験ではジャーファーメンターを用いることが好ましい。
前前々培養での条件としては、30℃で1〜3日間YPD寒天培地上で生育させた菌体を、滅菌された爪楊枝で一掻きして取得する。これを15mLのチューブに加えられた3〜5mLのYPD液体培地を用い、120〜150rpm、30℃で通常6〜30時間、振とう条件下で培養することが好ましい。
前前培養での条件としては、培地として50mL〜100mLのYPD液体培地を用い、前前々培養の菌体を、OD600が約0.1になるよう新たな培地に接種したうえで120〜150rpm、30℃で通常10〜30時間培養し、OD600が10〜25を示す対数増殖期または定常期まで培養することが好ましい。当該培養では坂口フラスコを用いることが好ましい。
前培養での条件としては、温度、通気量や撹拌速度などが調整できるジャーファーメンターを用いることが好ましい。培地として500mL〜2.5LのYPD液体培地を用い、前々培養液を20〜100mL添加して、OD600が約0.1になるよう新たな培地に接種したうえで、撹拌速度を300〜400rpm、温度を30℃、通気量を1.25vvmにして通常10〜30時間培養し、OD600が10〜25を示す対数増殖期または定常期まで培養することが好ましい。
発酵培養での条件としては、温度、通気量、撹拌速度、pH制御などが調整できるジャーファーメンターを用いることが好ましい。培地としてグルコースまたはスクロースを50〜220g/L、好ましくは100〜115g/Lの濃度で含み且つ中和剤として炭酸カルシウム培地を3〜5%含むYPD10培地(100g/Lグルコース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)またはYPSuc10培地(100g/Lスクロース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)、あるいはpHを水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムなどの中和剤で発酵に適したpHに保たれた状態のYPD10培地またはYPSuc10培地、撹拌速度を100〜300rpm、15〜45℃、500mL〜2.5Lの液量の条件下で培養することが好ましい。より好ましくは200〜250rpm、27〜37℃、1.5〜2Lである。特にこの段階では、初期の菌体量としてOD600を1〜30(好ましくは1〜20)に調整することが、より短時間で効率良く乳酸を製造できる点で好ましく、より好ましくはOD600を5〜15とし、最も好ましくはOD600を約10とする。
ここでいう発酵時の通気条件としては、好気条件、特に微好気の条件が好ましい。通常24〜48時間培養することで目的とする乳酸が高効率で製造される。
本発明による乳酸製造法においては、このようにして製造した乳酸成分を培地から分離・回収するが、その分離・回収方法は特に限定されない。本発明による乳酸製造法では、例えば、乳酸成分の分離濃縮手段として従来の乳酸発酵による製造プロセスで用いられる公知の方法を用いることができる。そのような公知の方法としては、例えば、1)石灰乳を加えて中和することからなる乳酸カルシウム再結晶法、2)エーテルなどの溶媒を用いる有機溶媒抽出法、3)精製乳酸をアルコールでエステル化するエステル化分離法、4)イオン交換樹脂を用いるクロマトグラフィ分離法、5)イオン交換膜を用いる電気透析法などが挙げられる。従って、本発明による乳酸の製造方法により得られる乳酸成分は、遊離型の乳酸のみならず、ナトリウム、カリウムなどの塩や、メチルエステル、エチルエステルなどのエステルの形態であってもよい。
本発明による乳酸製造法によれば、乳酸製造能を有する酵母キャンディダ・ユティリスにおける乳酸製造能を向上させることができ、その結果、短時間に高収率で乳酸を製造することができる。本発明による乳酸製造法は、使用する培地の組成にかかわらず、乳酸製造能を有する酵母における乳酸製造能を向上させることができる。従って、本発明による乳酸製造法によれば、比較的安価な合成培地等の貧栄養な培地であっても乳酸製造能の向上を達成することができ、乳酸製造のコストを低減することができる。
特に、本発明による乳酸製造法によれば、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を導入した酵母等に代表されるエタノール生産能を併せ持つ微生物を用いた場合、エタノール製造を抑止し、且つ高収率で乳酸を製造することができる。また、エタノール以外の副産物であるD−乳酸等の各種有機酸の製造も抑えることによって、培地に含まれる乳酸をより簡易に回収することができる。言い換えれば、乳酸の回収及び精製に要する工程を簡略化することができ、乳酸製造に要するコストを抑制することができる。このような副産物は公知の手法に従い分析し評価することができる。例えば、エタノールはガスクロマトグラフィー(GC)あるいは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、アセトアルデヒドなどの各種香気成分はGCにより、ピルビン酸などの各種有機酸はHPLCにより、それぞれ分析し、評価することができる。また、グルコースの定量はHPLCあるいはバイオケミストリーアナライザー(以下、BA)(ワイエスアイジャパン社)、L−乳酸はHPLCあるいはBA、D−乳酸はHPLCあるいはL−乳酸と合わせてF−キットD−乳酸/L−乳酸(J.K.インターナショナル社)を用いて、それぞれ分析し、評価することができる。各種分析に供する試料は、例えば、0.22μmのフィルターで濾過することにより、例えばカラムを詰まらせるなど、分析に悪影響を及ぼしうる夾雑物を除去することが好ましい。
なお、培養液中のピルビン酸およびクエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の各種有機酸は、HPLCによる有機酸分析(電気伝導度による検出)により測定した。また、エタノール等、その他の物質の測定法は、以下の実施例に記載した。
本明細書においては、さらに、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子が破壊されているキャンディダ・ユティリスの酵母菌株であって、乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子が導入されていない酵母菌株を培養することにより、ピルビン酸が大量に生産されることが見出されている。
従って、本発明の他の態様によれば、ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子が破壊されているキャンディダ・ユティリスの酵母菌株が提供され、さらには、該酵母菌株を培養することを含んでなる、ピルビン酸を製造する方法が提供される。ピルビン酸は反応性が高く、医薬、農薬等の合成の基質などに用いられるため、ファインケミカル分野においては重要な中間物質とされている。
キャンディダ・ユティリスの酵母菌株におけるピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子およびその破壊の詳細は、上述したとおりである。ピルビン酸の精製方法としては、有機化合物の精製方法として知られるいかなる方法を用いてもよく、例えば、特開2007−169244号公報などに記載されている蒸留による方法を用いることができる。蒸留は、例えば、1回目の蒸留として70〜80℃の減圧条件または真空条件下において、2回目の蒸留として90〜100℃の減圧条件または真空条件下において行うことができる。蒸留により得られたピルビン酸は、さらに活性炭による処理、脱水、脱酢酸等の処理を適宜行うことにより、乳酸等の製造物から分離し、回収することができる。このようにして精製されたピルビン酸は、上述の通り、ファインケミカル分野において利用することができる。
以下に本発明の具体例を記載するが、これにより本発明の技術的範囲につき何等制約を受けるものではない。
PCRによる遺伝子増幅には、特に述べない限りTaKaRa社製Ex TaqあるいはToyobo社製KOD−Plus−を使用し、方法は添付のプロトコールに従った。PCR増幅反応は94℃で1分間の熱処理を行った後、変性工程:94℃で30秒、アニーリング工程:X℃で30秒(X℃はプライマーのTm値である。ただし特記しない限り55℃とした。)、伸長工程:72℃でY秒(ただし、Y秒は予想される増幅産物の大きさから1kbp(kilo base pair)につき約60秒として計算)の3工程を30サイクル繰り返し、最後に4℃とした。PCR増幅装置はGeneAmp PCR System 9700(PE Applied Biosystems社)を使用した。酵母からのゲノムDNAの抽出には、TaKaRa社製Genとるくん、もしくは酢酸カリウム法(Methods Enzymol.,65、404,1980)を用いた。DNAの脱リン酸化反応にはTaKaRa社製Alkaline Phosphatase(E. coli C75)またはTaKaRa社製Alkaline Phosphatase(Shrimp)を使用し、ライゲーション反応にはTaKaRa社製Ligation Kit ver.2を使用し、方法は添付のプロトコールに従った。大腸菌の形質転換にはDH5α(TOYOBO社)のコンピテントセルを使用し、方法は添付のプロトコールに従った。大腸菌の形質転換体の選抜には、プラスミドに含まれる薬剤耐性マーカー遺伝子に応じて、アンピシリン100μg/mLを含むLBプレート(LB+ampプレート)またはカナマイシン50μg/mLを含むLBプレートを用い、必要に応じて20μg/mLX−gal及び0.1mMIPTGによる青白選択を行った。大腸菌からのプラスミドDNAの回収にはQIAGEN社製QIAprep Spin Miniprep Kitを使用し、方法は添付のプロトコールに従った。サッカロマイセス・セレビシエの形質転換はリチウム法(Itoら、 J.Bacteriol.,153、163,1983)により行った。キャンディダ・ユティリスの形質転換は特開2003−144185号公報に記載された方法を一部改変して行った。塩基配列の決定は以下の方法で行った。アプライドバイオシステムズ社製BigDye Terminator v3.1を用いてPCRを行い、方法は添付のプロトコールに従った。未反応BigDye Terminatorの除去にはCENTRI−SEP COLUMNS(PRINCETON SEPARATIONS)を用い、方法は添付のプロトコールに従った。塩基配列の決定には、アプライドバイオシステムズ社製3100 Genetic Analyzerを使用し、方法は添付のプロトコールに従った。なお、配列表に記載されている縮重プライマーの表記については、「W」が「A(アデニン)」と「T(チミン)」から、「R」は「A(アデニン)」と「G(グアニン)」、「Y」は「C(シトシン)」と「T(チミン)」、「M」は「A(アデニン)」と「C(シトシン)」からの混合物より、それぞれ成り立つことを示す。なお、表中の乳酸製造量等の各種数値は、平均値±標準誤差で示した。
電気パルスによるキャンディダ・ユティリス株の形質転換は特開2003−144185号公報に記載された方法を一部改変して行った。YPDプレート上のコロニーを、5mlのYPD液体培地において、30℃で約8時間振盪培養した後、200mlのYPD液体培地にOD600が0.0024になるよう植菌して30℃で振盪培養する。約16時間後、対数増殖期(OD600=2.5)にまで菌体が増殖した後、1,400×gで5分間の遠心分離により集菌する。菌体は100mlの氷冷した滅菌水で1回、続いて40mlの氷冷した滅菌水で1回洗浄した後、氷冷した1Mソルビトール40mlで1回洗浄する。菌体を10mlの1Mソルビトールに懸濁した後、滅菌ポリプロピレンチューブに移し、再度1,100×gで5分間の遠心分離により集菌する。上清を除いた後、最終菌体液量が2.5mlになるよう、氷冷した1Mソルビトールに懸濁する。
電気パルスによる形質転換実験はバイオラッド社のジーンパルサーを用いて行なう。50μlの菌液と、100ng〜10μgのDNAを含む5μlのDNA試料、および2.0mg/mlのサケ精巣由来のキャリアーDNAを5μl混合した後、0.2cmのディスポーザブルキュベットに入れ、適当な条件の電気パルスを加える。例えば、本発明の好ましい態様によれば、電気容量が25μF、抵抗値が600〜1000オーム、電圧が0.75〜5KV/cmの条件とする。パルス後、1mlの氷冷した1Mソルビトールを含むYPD培地を加え、滅菌ポリプロピレンチューブに移した後、30℃で約6〜15時間振盪培養する。培養後、選択マーカー遺伝子に応じて、菌液を適切な薬剤を含むYPD選択培地に塗布した後、プレートを28〜30℃で3〜4日保温して、形質転換体コロニーを得た。HPT遺伝子を選択マーカー遺伝子とする場合にはハイグロマイシンBを600〜800μg/mlの濃度で、APT遺伝子を選択マーカー遺伝子とする場合にはG418を200μg/mlの濃度でYPD培地に加えた。以下、それぞれの培地をHygB培地およびG418培地と表記する。また、ハイグロマイシンBに耐性であることをHygBr、ハイグロマイシンBに感受性であることをHygBs、G418に耐性であることをG418r、G418に感受性であることをG418sと表記する。
実施例1:Cre−loxPシステムを利用したキャンディダ・ユティリスの形質転換系の開発
1−1.Cre−lox系を利用した多重形質転換系に必要なプラスミドの構築
遺伝子破壊用のDNA断片を調製するためのプラスミドpCU563は次の手順で構築した。Shimadaら(Appl.Environ.Microbiol.64,2676−2680)に記載されたPGK遺伝子プロモーターとハイグロマイシン耐性遺伝子HPT遺伝子を有するプラスミドpGKHPT1を鋳型にして、IM−53(配列番号16)とIM−57(配列番号17)のプライマーセットでPCR(伸長反応1.5分)を行うことにより、順にloxP(配列番号18)、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子からなるDNA断片を増幅した。また、pGAPPT10(Kondoら,Nat.Biotechnol.15,453−457)を鋳型にして、IM−54(配列番号19)とIM−55(配列番号20)のプライマーセットでPCR(伸長反応30秒)を行うことにより、GAP遺伝子ターミネーターとloxPからなるDNA断片を増幅した。これらを混合してIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)でPCR(伸長反応2分)を行うことによって、順にloxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxPからなるDNA断片を増幅した。得られたDNA断片をpCR2.1ベクター[Invitrogen:TAクローニングキット(pCR2.1vector)]にクローン化した。こうして得られたプラスミドをpCU563と名づけた(図2)。形質転換によって本モジュールが組込まれたキャンディダ・ユティリス細胞は、例えば野生株では生育できない600〜800μg/mlの濃度でHygBを含む培地で生育可能となる。
Cre組換え酵素の発現プラスミドpCU595は以下の手順で構築した。S.cerevisiaeでCreを発現させるプラスミドpSH65(Gueldener,U.ら, Nucleic Acids Res.30 (6),E23,2002)を鋳型として、(1)IM−49(配列番号23)とIM−50(配列番号24)、(2)IM−51(配列番号25)とIM−52(配列番号26)の2種のプライマーセットでPCRを行った(共に伸長反応30秒)。それぞれの増幅DNA断片を混合した後にIM−49(配列番号23)とIM−52(配列番号26)を用いたPCRを行うことによって、Cre組換え酵素をコードする遺伝子断片を増幅した。こうしてできたCre遺伝子では、pSH65のCre遺伝子内に存在するBamHI認識配列(GGATCC)が、アミノ酸配列を変化させずに、当該酵素が認識しない配列(GCATAC)となっている。さらにこれをXbaIとBamHIで消化して得たDNA断片を、pPMAPT1(特開2003−144185号公報)のXbaI−BamHIギャップに挿入した。このプラスミドをNotIで処理して得たCre発現モジュール、すなわち順にPMA遺伝子プロモーター、Cre遺伝子、PMA遺伝子ターミネーターからなるDNA断片を、自律複製配列CuARS2を有するpCARS7(特開2003−144185号公報)をNotIで部分消化したDNAに挿入した。こうして得られたプラスミドをpCU595と名づけた(図3)。本プラスミドはAPT遺伝子を有しており、これでキャンディダ・ユティリスの形質転換を行うと、プラスミドが導入された細胞は、例えば野生株では生育できない200μg/mlの濃度でG418を含む培地で生育可能となる。
1−2.Cre−lox系を利用したCuURA3遺伝子の多重破壊
Cre−loxP系が機能するかどうかを調べるために、特開2003−144185号公報で記載されたCandida utilis URA3遺伝子(以下、CuURA3遺伝子)の多重破壊を試みた。当該遺伝子はオロチジン―5’―リン酸脱炭酸酵素をコードしており、細胞内にある機能性の当該遺伝子が全て失われた株は、ウラシル要求性となる。すなわちウラシルを含まない培地で生育できなくなると考えられる。
1コピー目と2コピー目のCuURA3遺伝子を破壊するためのDNA断片の調製を次のようにして行った。まず、次の(1)、(2)および(3)に示した2種類のPCRを実施した:(1)鋳型としてpCU563を用い、プライマーとしてIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)を用い、伸長反応時間を2分とした;(2)鋳型としてNBRC0988株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−59(配列番号54)とIM−60(配列番号55)を用い、伸長反応時間を30秒とした;(3)鋳型としてNBRC0988株ゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−61(配列番号56)とIM−62(配列番号57)を用い、伸長反応時間を30秒とした。なお、(2)および(3)ではCuURA3遺伝子の上流部分と下流部分が増幅される。さらに以下の(4)のPCRを実施した:(4)鋳型として先述の(1)、(2)および(3)で増幅された3種類のDNAの混合物を用い、プライマーとしてIM−59(配列番号54)とIM−62(配列番号57)を用い、伸長反応時間を3分とした。これにより、順にCuURA3遺伝子の上流領域、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxP、CuURA3遺伝子の下流領域からなるDNA断片を取得した。以下、このDNA断片を「CuURA3破壊1・2回目断片」と表記する。本DNA断片を用いて形質転換をすれば、CuURA3遺伝子の上流領域と下流領域で二重鎖相同組換えが起こることにより、CuURA3遺伝子のアレルを部分的に欠失させることが可能である。
DNA断片としてCuURA3破壊1・2回目断片1μgを用いて、NBRC0988株の形質転換を行った。その結果、119クローンのHygBrの形質転換体が得られた。NBRC0988株および119クローンから任意に選抜した11クローンの形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。図4に示したとおり、これらのプライマーは相同組換え領域の外側にアニーリングする。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、NBRC0988株では2.3kb、11クローン全ての形質転換体では3.2kbと2.3kbのDNA断片が増幅されていた(図5)。このことから、目的とするHygBrのCuURA3遺伝子1コピー破壊株が得られたことがわかった。また、形質転換体から陽性のクローンを選抜できる確率も高いことが明らかになった。
HygBrのCuURA3遺伝子1コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。G418を含む培地では、DNAを加えなかった陰性対照ではコロニーが形成されなかったのに対し、pCU595を加えた試料では1,000以上の形質転換体が得られた。このうちの30株について、G418培地あるいはHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。
HygBrのCuURA3遺伝子1コピー破壊株と、HygBsのCuURA3遺伝子1コピー目の破壊株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、前者の株では3.2kbと2.3kb、後者の株では2.3kbと1.1kbのDNA断片が増幅されていた。目的のとおりHPT遺伝子が除去された株が取得された。
HygBsのCuURA3遺伝子1コピーの破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。1〜3日後にシングルコロニーを複数分離し、G418培地とYPD培地に塗布した。その結果、ほとんどのクローンが、YPD培地では生育したが、G418培地では生育しなかった。
NBRC0988株、NBRC0988株由来のCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygrかつG418s株、続いてCre発現プラスミドを導入して構築されたHygsかつG418rの株、さらにCre発現プラスミドが脱落したHygsかつG418s株から抽出したDNAを鋳型、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)をプライマーとしてPCRを実施した結果を図5に示した(伸長反応3.5分)。順にレーン1、レーン2、レーン3、レーン4に相当する。
NBRC0988株、NBRC0988株由来のCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygrかつG418s株、続いてCre発現プラスミドを導入して構築されたHygsかつG418rの株、さらにCre発現プラスミドが脱落したHygsかつG418s株から抽出したDNAを鋳型とし、IM−63(配列番号58)とIM−223(配列番号60)をプラスミドとしてPCRを実施した結果を図6に示した(伸長反応2分)。順にレーン1、レーン2、レーン3、レーン4に相当する。図4に示したとおり、IM−63(配列番号58)は相同組換え領域の外側に、IM−223(配列番号60)はHPT遺伝子内部にアニーリングする。Hygrの株を鋳型としたレーン2のみで1.4kbのDNA断片が増幅されたことから、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)の結果と同様、Cre−loxPシステムがキャンディダ・ユティリスでも機能することが明らかになった。
HygBsのCuURA3遺伝子1コピーが破壊されてはいるが、G418を含む培地での生育能が異なるG418r株とG418s株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてCre遺伝子を増幅するためのプライマーセットであるIM−49(配列番号23)とIM−52(配列番号26)でPCRを行った(伸長反応1分)。その結果、G418r株では1kbのDNA断片が増幅されたが、G418s株では増幅されなかった。このことからpCU595が脱落し、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子1コピー目の破壊株が得られたことを確認した。
DNA断片としてCuURA3破壊1・2回目断片を用いて、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子1コピーの破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、3.2kb、2.3kb、1.1kbの3種類DNA断片が増幅される株が複数存在した。このことから目的とするHygBrのCuURA3遺伝子2コピーの破壊株が得られたことがわかった。
HygBrのCuURA3遺伝子2コピー破壊株の形質転換を、Cre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布したところ、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、2.3kbと1.1kbの2種類DNA断片が増幅されていた。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuURA3遺伝子2コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そしてYPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子2コピー目の破壊株を取得できた。
3コピー目と4コピー目のCuURA3遺伝子を破壊するためのDNA断片の調製を次のようにして行った。まず、次の(1)、(2)および(3)に示した3種類のPCRを実施した:(1)鋳型としてpCU563を用い、プライマーとしてIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)を用い、伸長反応時間を2分とした;(2)鋳型としてNBRC0988株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−295(配列番号61)とIM−296(配列番号62)を用い、伸長反応時間を30秒とした;(3)鋳型としてNBRC0988株ゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−61(配列番号56)とIM−62(配列番号57)を用い、伸長反応時間を30秒とした。なお、(2)および(3)ではCuURA3遺伝子の上流部分と下流部分が増幅される。さらに以下の(4)のPCRを実施した:(4)鋳型として先述の(1)、(2)および(3)で増幅された3種類のDNAの混合物を用い、プライマーとしてIM−295(配列番号61)とIM−62(配列番号57)を用い、伸長反応時間を3分とした。これにより、順にCuURA3遺伝子の上流領域、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxP、CuURA3遺伝子の下流領域からなるDNA断片を取得した。以下、このDNA断片を「CuURA3破壊3・4回目断片」と表記する。本DNA断片を用いて形質転換をすれば、CuURA3遺伝子の上流領域と下流領域で二重鎖相同組換えが起こることにより、CuURA3遺伝子のアレルを部分的に欠失させることが可能である。また、(3)で増幅されるCuURA3遺伝子の上流領域は、CuURA3破壊1・2回目断片を用いて行った1コピー目および2コピー目のCuURA3遺伝子破壊のための形質転換において欠失された領域であるので、2コピーの破壊されたアレルに組込まれる可能性を減らすことができると考えられる。
DNA断片としてCuURA3破壊3・4回目断片を用いて、3コピー目のCuURA3遺伝子の破壊のために、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子2コピー破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、3.6kb、2.3kb、1.1kbの3種類DNA断片が増幅される株があった。このことから、目的とするHygBrのCuURA3遺伝子3コピー目の破壊株が得られたことがわかった。
HygBrのCuURA3遺伝子3コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、2.3kb、1.5kb、1.1kbの3種類DNA断片が増幅されていた。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuURA3遺伝子3コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そしてYPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子3コピー目の破壊株を取得できた。
DNA断片としてCuURA3破壊3・4回目断片を用いて、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子3コピー破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、複数の形質転換体では3.6kb、1.5kb、1.1kbの3種類DNA断片が増幅されていた。このことから目的とするHygBrのCuURA3遺伝子4コピー破壊株が得られたことがわかった。また、野生株であるNBRC0988株でみられた2.3kbのDNA断片、すなわち破壊されていないアレルが増幅されたDNA断片が検出されなかったことから、この株はCuURA3遺伝子完全破壊株であると考えられた。
HygBrのCuURA3遺伝子4コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)でPCRを行った(伸長反応3.5分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、1.5kbと1.1kbの2種類のDNA断片が増幅される株が複数存在した。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuURA3遺伝子4コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そしてYPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuURA3遺伝子4コピー目の破壊株を取得できた。
NBRC0988株、およびNBRC0988株を宿主として、順にCuURA3遺伝子を破壊した株(HPT遺伝子およびAPT遺伝子を除去したHygBsかつG418s)の非選択培地であるSC培地、SC−Ura培地(ウラシルを含まない培地)および5−FOA培地における生育能を調べた。なお、これらの培地組成はMethods In Yeast Genetics 1997 Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されたものに従った。図7に示したとおり、CuURA3遺伝子4コピー、すなわち全て破壊した株だけが、NBRC0988株を含める他の4株と異なり、SC−Ura培地で生育できず、5−FOA培地で生育できた。
組換えDNA技術を用いてCuURA3遺伝子の全アレルを破壊し、ウラシル要求性株の取得に成功した。これはキャンディダ・ユティリスにおいて、細胞内に4つのアレルが存在していることが示された初めての報告である。選択マーカー遺伝子をくり返し利用しながら目的の遺伝子を効率よく破壊することが可能となったCre−loxP系を利用したキャンディダ・ユティリスの形質転換システムが、意義あるものであると考えられた。
実施例2:PDCをコードする遺伝子破壊株の構築
2−1.PDCをコードする遺伝子のクローニング
ScPDC1遺伝子やKlPDC1遺伝子で共通の配列が多いC末端側の塩基配列を増幅するプライマーIKSM−29(配列番号1)とIKSM−30(配列番号2)を作製し、NBRC0988株のゲノムを鋳型としたPCRを行った(伸長時間30秒)。増幅された約220bp(base pair)のDNA断片(以下、CuP−Fgと呼ぶ)のシークエンスを解読したところ(配列番号3)、ScPDC1遺伝子との相同性が高いことがわかった。このことから、このDNA断片はPDCをコードする遺伝子の一部であると考えられた。
このDNA断片をプローブとしてサザン解析を行った。まず、サッカロマイセス・セレビシエS288C株(NBRC1136株)から抽出したゲノムDNAをHindIIIで消化し、、キャンディダ・ユティリスNBRC0988から抽出したゲノムDNAをXbaI、HindIII、BglII、EcoRI、BamHI、PstIで消化し、これらを0.8%アガロースゲル電気泳動に供した。分離したゲノムDNAを、定法に従ってアマシャム・バイオサイエンス社製Hybond N+ナイロンメンブレンにトランスファーした。プローブの放射性標識にはTaKaRa社製Random Primer DNA Labelling Kit Ver.2を用い、方法は添付のプロトコールに従った。標識dCTPにはアマシャム・バイオサイエンス社製〔α−32P〕dCTPを1.85MBq用いた。ハイブリダイゼーションはRapid−Hyb bufferを用い、添付のプロトコールに従って行った。ただし、ハイブリダイゼーションの温度を60℃として行った。その結果を図8に示す。
サッカロマイセス・セレビシエでは3種のPDC遺伝子(ScPDC1遺伝子、ScPDC5遺伝子、ScPDC6遺伝子)由来であると考えられる3本のバンドがそれぞれ検出された(レーン1)。これに対して、キャンディダ・ユティリスNBRC0988株では、プローブ内に制限酵素認識部位があるBglII(レーン4)、およびEcoRI(レーン5)以外の試料では1本のバンドしか検出されなかった。このことからNBRC0988においてPDC活性を持つ遺伝子は1種類であることが示唆された。なお、当該プローブ内にはEcoRI認識配列は存在しないが、当該プローブがハイブリダイズする領域の近傍に、相同染色体のアレル間でEcoRI認識配列が存在する遺伝子座と存在しないへテロな領域が存在している可能性が考えられた。
コロニーハイブリダイゼーションに利用するゲノムライブラリーとして、BamHIで消化後に脱リン酸化させたpBR322(ニッポン・ジーン)に、Sau3AIで部分消化したDNAのうち5〜10kbの断片を連結するための反応を行った。この溶液でLB+Amp寒天培地に生育した50,000クローンを取得した。なお、自己閉環したクローンは5%に満たなかった。
さらに、前述のDNA断片CuP−Fgをプローブとして用いたコロニーハイブリダイゼーション法によって、プローブ配列との相同部位を含むクローンを複数取得した。そして、プライマーウォーキング法でこれらのクローンの配列を解読したところ、1種類のコンティグができあがった(配列番号63)。これをSGD(Saccharomyces Genome Database)のBLAST検索に供したところ、ScPDC1遺伝子やScPDC5遺伝子との相同性が高かったので、本遺伝子をCuPDC1遺伝子と名づけた。このDNA断片をNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLASTで相同性検索したところ、種々の酵母のピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子と高い相同性が認められた。さらにNCBIのデータベースを利用して、本配列と他生物種のPDC遺伝子との相同性検索を行うことにより、ORF(Open Reading Frame)領域の特定を試みたところ、CuPDC1遺伝子のORFは1,692nt(nucleotides)であると推察された(配列番号63)。当該遺伝子の配列は、ScPDC1遺伝子とはアミノ酸レベルでの相同性は76%であり、PDC活性を有している可能性が高いと考えられた。なお、配列番号63に記載の当該遺伝子ORF領域の上流領域の配列2,246塩基はCuPDC1遺伝子のプロモーター領域、下流領域の1,076塩基はCuPDC1遺伝子のターミネーター領域に相当すると考えられた。なお、ここで報告した配列は、コロニーハイブリダイゼーション法で取得したプラスミドpCU530に全て含まれた。
ORFの上流領域1.2kbのプロモーター領域について、転写制御に関わるシスエレメントの有無を調べた。ORFの転写開始ATGのAの直前の塩基を「−1」として、位置づけをした。その結果、−149付近にTATATAAからなるTATAボックスであると考えられる配列が存在した。サッカロマイセス・セレビシエやクルイベロマイセス・ラクティスのPDC遺伝子の転写活性化に必要であると考えられているUAS−PDC配列(GCACCATACCTT)(Butler G.ら,Curr Genet.,14(5):405−12.,1988)と相同性の高い配列が少なくとも3つ見出された(−1,084付近、−998付近、−812付近)。さらにそれらとは重複しないGcr1結合ドメインは少なくとも4つ(−1,538付近、−556付近、−518付近、−430付近)、CAAT配列は少なくとも5つ(−1,224付近、−1,116付近、−979付近、−658付近、−556付近)局在していると考えられた。
DNA断片CuP−Fgを用いて、NBRC0626株、NBRC0639株、NBRC1086株等のキャンディダ・ユティリス株から抽出したゲノムDNAをHindIIIで消化した試料についてサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、全てNBRC0988と同じ位置にバンドが検出された。また、CuPDC1遺伝子の塩基配列には、NBRC0626株、NBRC0988株、およびNBRC1086株の間に一塩基多型が見出された。
CuPDC1遺伝子の機能を解析するため、CuPDC1遺伝子をScPDC1遺伝子プロモーターで発現させることにより、サッカロマイセス・セレビシエにおけるScPDC1遺伝子とScPDC5遺伝子の二重破壊の致死性を抑圧できるかを調べた。そこでまず、酵母・全遺伝子破壊株シリーズのBY4741由来(ura3遺伝子およびhis3遺伝子変異株)のScPDC1遺伝子破壊株(Invitrogen)と、BY4742由来(ura3遺伝子およびhis3遺伝子変異株)のScPDC5遺伝子破壊株(Open BioSystems)の交雑株SGY107株を構築した。
ScPDC1遺伝子をサッカロマイセス・セレビシエで発現させるためのプラスミドpCU546は次のようにして構築した。サッカロマイセス・セレビシエで機能するセントロメリック型のプラスミドpRS316(Sikorski,Rら,Genetics.122,19―27.1989)(URA3遺伝子を有する)をClaIとBamHIで切断した。BY4741(Invitrogen)を鋳型として、IM―135(配列番号4)とIM−136(配列番号5)のプライマーセットでPCRを行った(伸長時間3分)。この増幅断片をClaIとBamHIで消化した。このDNA断片を、先に制限酵素処理したプラスミド断片と連結したプラスミドpCU546を構築した。
次に、SGY107株をpCU546で形質転換した。この株を胞子形成寒天培地(0.5g/Lグルコース、1g/L Yeast Extract、10g/L酢酸カリウム、20g/Lアガロース)にうつして25℃で3日間静置した。得られた胞子から抽出したゲノムDNAを鋳型にして、次の2種類のPCRに供した(伸長時間2分):(1)IM−19(配列番号6)とIM−331(配列番号7)のプライマーセット(この組み合わせではScPDC1遺伝子が破壊されている株のみ、約1.5kbのDNA断片が増幅される);(2)IM−20(配列番号8)とIM−334(配列番号9)のプライマーセット(この組み合わせではScPDC5遺伝子が破壊されている株のみ、約1.5kbのDNA断片が増幅される)。両方のプライマーセットでDNA断片が増幅され、かつ、pCU546を保持するSGY116株を取得した。
SGY116株と、BY4742由来のScPDC6遺伝子破壊株(Open BioSystems)の交雑株を構築した。胞子形成培地にうつして25℃で3日間静置した。得られた胞子から抽出したゲノムDNAを鋳型にして次の3種類のPCRに供した(伸長時間2分):(1)IM−19(配列番号6)とIM−331(配列番号7)のプライマーセット;(2)IM−20(配列番号8)とIM−334(配列番号9)のプライマーセット;(3)IM−339(配列番号10)とIM−340(配列番号11)のプライマーセット(この組み合わせではScPDC6遺伝子が破壊されている株から増幅されるDNA断片は、ScPDC6遺伝子が破壊されていない株で増幅されるDNA断片(約3.4kb)より大きい)。その結果、(1)および(2)のPCRでは約1.5kbのDNA断片が、(3)のPCRでは3.4kbより大きいDNA断片が増幅された。つまり、ScPDC1遺伝子、ScPDC5遺伝子、およびScPDC6遺伝子全てが破壊され、かつpCU546を保持するSGY389株を取得した。
CuPDC1遺伝子をサッカロマイセス・セレビシエで発現させるためのプラスミドpCU655は次のようにして構築した。まず、次の(1)、(2)および(3)のPCRを行った:(1)BY4741株のゲノムDNAを鋳型とし、IM−135(配列番号4)とIM−147(配列番号12)をプライマーとした(伸長反応1分);(2)BY4741株のゲノムDNAを鋳型として、IM−150(配列番号13)とIM−136(配列番号5)をプライマーとした(伸長反応1分);(3)CuPDC1遺伝子の推定ORF領域を有するpCU530を鋳型として、IM−148(配列番号14)とIM−149(配列番号15)をプライマーとした(伸長反応2分)。次に、(1)、(2)および(3)で増幅したDNA断片を鋳型として、IM−135(配列番号4)とIM−136(配列番号5)をプライマーとしてPCRを行った。この結果、順にScPDC1遺伝子、CuPDC1遺伝子の推定ORF領域、およびScPDC1遺伝子のターミネーター領域からなるDNA断片を取得した。なお、全てのPCRはKOD−Plus−を用いて行った。この断片を、サッカロマイセス・セレビシエで機能するセントロメリック型のプラスミドpRS313(Sikorski,Rら,Genetics.122,19―27.1989)(HIS3遺伝子を有する)をSmaIで切断して得られたDNA断片と連結した。得られたプラスミドをpCU655と名づけた。
ScPDC1遺伝子、ScPDC5遺伝子、およびScPDC6遺伝子の全てが破壊されているSGY389株を、pRS313またはpCU655で形質転換し、それぞれSGY393株およびSGY392株を取得した。
5−FOA培地において、BY4741株、BY4742株、BY4741株由来のScPDC1遺伝子破壊株、BY4742株由来のScPDC5遺伝子破壊株、BY4742株由来のScPDC6遺伝子破壊株は生育可能であった。つまり、これらの株はウラシル要求性の株であることを示している。次に、ScPDC1遺伝子、ScPDC5遺伝子、およびScPDC6遺伝子の全てが破壊され、かつpCU546を保持するSGY389株、およびSGY389株にpRS313を導入したSGY393株は、5−FOA培地で生育できなかった。これは、ScPDC1遺伝子を発現させているpCU546が脱落できないことを示している。つまり、5−FOA培地においては、PDC活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現させることが、生育に必須であることを示している。一方、SGY389株にpCU655を導入したSGY392株(CuPDC1遺伝子を発現する株)は、5−FOA培地で生育することが可能であった。これは、pCU655に含まれるCuPDC1遺伝子が、pCU547に含まれるScPDC1遺伝子が有するPDCの機能を保持していることを示している。従って、CuPDC1遺伝子がコードするポリペプチドはPDCであることが示唆された。
2−2.Cre−lox系を利用したCuPDC1遺伝子の多重破壊
1コピー目と2コピー目のCuPDC1遺伝子を破壊するためのDNA断片の調製を次のようにして行った。まず、次の(1)、(2)および(3)に示した3種類のPCRを実施した:(1)鋳型としてpCU563を用い、プライマーとしてIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)を用い、伸長反応時間を2分とした;(2)鋳型としてNBRC0988株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−277(配列番号27)とIM−278(配列番号28)を用い、伸長反応時間を30秒とした;(3)鋳型としてNBRC0988株ゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−279(配列番号29)とIM−280(配列番号30)を用い、伸長反応時間を30秒とした。なお、(2)および(3)ではCuPDC1遺伝子の上流部分と下流部分が増幅される。さらに、以下の(4)のPCRを実施した:(4)鋳型として先述の(1)、(2)および(3)で増幅された3種類のDNAの混合物を用い、プライマーとしてIM−277(配列番号27)とIM−280(配列番号30)を用い、伸長反応時間を3分とした。これにより、順にCuPDC1遺伝子の上流領域、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxP、CuPDC1遺伝子の下流領域からなるDNA断片を取得した。以下、このDNA断片を「CuPDC1破壊1・2回目断片」と表記する。本DNA断片を用いて形質転換をすれば、CuPDC1遺伝子の上流領域と下流領域で二重鎖相同組換えが起こることにより、CuPDC1遺伝子のアレルを部分的に欠失させることが可能である。
DNA断片としてCuPDC1破壊1・2回目断片を用いて、NBRC0988株の形質転換を行った。NBRC0988株および得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。図9に示したとおり、これらのプライマーは相同組換え領域の外側にアニーリングする。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、NBRC0988株では3.7kbのDNA断片、複数の形質転換体では3.9kbと3.7kbのDNA断片が増幅されていた。このことから、目的とするHygBrのCuPDC1遺伝子1コピー破壊株が得られたことがわかった。
HygBrのCuPDC1遺伝子1コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。G418を含む培地では、DNAを加えなかった陰性対照ではコロニーが形成されなかったのに対し、pCU595を加えた試料では1,000以上の形質転換体が得られた。このうちの任意の30株をG418培地またはHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。
HygBrのCuPDC1遺伝子1コピー破壊株と、HygBsのCuPDC1遺伝子1コピー目の破壊株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、前者の株では3.9kbと3.7kbのDNA断片、後者の株では3.7kbと1.9kbのDNA断片が増幅されていた。目的のとおりHPT遺伝子が除去された株が取得された。
HygBsのCuPDC1遺伝子1コピーの破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを複数分離し、G418培地とYPD培地に塗布した。その結果、ほとんどのクローンが、YPD培地では生育したが、G418培地では生育しなかった。
HygBsのCuPDC1遺伝子1コピーが破壊されてはいるが、G418を含む培地での生育能が異なるG418r株とG418s株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてCre遺伝子を増幅するためのプライマーセットであるIM−49(配列番号23)とIM−52(配列番号26)でPCRを行った(伸長反応1分)。その結果、G418r株では1kbのDNA断片が増幅されたが、G418s株では増幅されなかった。このことから、pCU595が脱落し、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子1コピー目の破壊株が得られた。
DNA断片としてCuPDC1破壊1・2回目断片を用いて、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子1コピーの破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、3.9kb、3.7kb、1.9kbの3種類DNA断片が増幅される株が複数存在した。このことから、目的とするHygBrのCuPDC1遺伝子2コピーの破壊株が得られたことがわかった。
HygBrのCuPDC1遺伝子2コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布したところ、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、3.7kbおよび1.9kbの2種類のDNA断片が増幅されていた。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuPDC1遺伝子2コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そして、YPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子2コピー目の破壊株を取得できた。
3コピー目と4コピー目のCuPDC1遺伝子を破壊するためのDNA断片の調製を次のようにして行った。まず、次の(1)、(2)および(3)に示した3種類のPCRを実施した:(1)鋳型としてpCU563を用い、プライマーとしてIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)を用い、伸長反応時間を2分とした;(2)鋳型としてNBRC0988株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−277(配列番号27)とIM−278(配列番号28)を用い、伸長反応時間を30秒とした;(3)鋳型としてNBRC0988株ゲノムDNAを用い、プライマーとしてIM−185(配列番号33)とIM−168(配列番号34)を用い、伸長反応時間を30秒とした。なお、(2)および(3)ではCuPDC1遺伝子の上流部分と下流部分が増幅される。さらに、以下の(4)のPCRを実施した:(4)鋳型として先述の(1)、(2)および(3)で増幅された3種類のDNAの混合物を用い、プライマーとしてIM−277(配列番号27)とIM−168(配列番号34)を用い、伸長反応時間を3分とした。これにより、順にCuPDC1遺伝子の上流領域、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxP、CuPDC1遺伝子の下流領域からなるDNA断片を取得した。以下、このDNA断片を「CuPDC1破壊3・4回目断片」と表記する。本DNA断片を用いて形質転換をすれば、CuPDC1遺伝子の上流領域と下流領域で二重鎖相同組換えが起こることにより、CuPDC1遺伝子のアレルを部分的に欠失させることが可能である。また、(3)で増幅されるCuPDC1遺伝子の下流領域は、CuPDC1破壊1・2回目断片を用いて行った1コピー目および2コピー目のCuPDC1遺伝子破壊のための形質転換において欠失された領域がほとんどであるので、2コピーの破壊されたアレルに組込まれる可能性を大きく減らすことができると考えられる。
DNA断片としてCuPDC1破壊3・4回目断片を用いて、3コピー目のCuPDC1遺伝子の破壊のために、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子2コピー破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、4.4kb、3.7kb、1.9kbの3種類DNA断片が増幅される株があった。このことから、目的とするHygBrのCuPDC1遺伝子3コピー目の破壊株が得られたことがわかった。
HygBrのCuPDC1遺伝子3コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、3.7kb、2.4kb、1.9kbの3種類DNA断片が増幅されていた。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuPDC1遺伝子3コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そして、YPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子3コピー目の破壊株を取得できた。
DNA断片としてCuPDC1破壊3・4回目断片を用いて、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子3コピー破壊株の形質転換を行った。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてIM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、複数の形質転換体では4.4kb、2.4kb、1.9kbの3種類DNA断片が増幅されていた。このことから、目的とするHygBrのCuPDC1遺伝子4コピー破壊株が得られたことがわかった。また、野生株であるNBRC0988株でみられた3.7kbのDNA断片、すなわち破壊されていないアレルが増幅されたDNA断片が検出されなかったことから、この株がCuPDC1遺伝子完全破壊株であると考えられた。
HygBrのCuPDC1遺伝子4コピー破壊株の形質転換をCre発現用プラスミドであるpCU595で行った。得られた形質転換体をG418培地およびHygB培地に塗布した結果、全てG418培地では生育可能であったが、HygB培地では生育できなかった。このHygBsかつG418rの形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、IM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)でPCRを行った(伸長反応4分)。0.8%アガロースゲル電気泳動に供したところ、2.4kbと1.9kbの2種類のDNA断片が増幅される株が複数存在した。HPT遺伝子を除去できたことがわかった。
HygBsのCuPDC1遺伝子4コピー破壊株をYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そして、YPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。pCU595が脱落した株、すなわち、HygBsかつG418sのCuPDC1遺伝子4コピー目の破壊株を取得できた。この株をCu8402g株と名づけた。
2−3. CuPDC1遺伝子破壊株の特性評価
CuPDC1遺伝子は、ピルビン酸からアセトアルデヒドへの変換を触媒するピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードすると考えられる。発酵経路においては、アセトアルデヒドは、アルコール脱水素酵素によりさらにエタノールへと代謝される。すなわち、CuPDC1遺伝子を破壊することにより、エタノールへの代謝経路がシャットダウンされ、エタノール製造能が低下することが期待される。そこで、CuPDC1遺伝子1コピー破壊株、CuPDC1遺伝子2コピー破壊株、CuPDC1遺伝子3コピー破壊株、CuPDC1遺伝子完全破壊株Cu8402g株を発酵試験に供し(全てHygBsかつG418sの株)、エタノール製造能および有機酸の分析を行った。
Cu8402g株のエタノール製造能、香気成分製造能および有機酸製造能を調べる目的で、野生株NBRC0988株およびCu8402g株を、培地として50mL〜100mLのYPD液体培地を用い、1〜3日間YPD寒天培地で生育させた菌体を、OD600が約0.1になるように新たな培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、120〜150rpm、30℃で16〜30時間培養した。そして、4℃、3,000rpm、5分間の条件で遠心分離によって集菌し、さらに上清を除した後、発酵に用いる培地(中和剤は含まない)で洗浄した。こうして得られた酵母菌体を、バッフル付きの100mL三角フラスコでYPD10(100g/Lグルコース、10g/L酵母エキス、20g/Lペプトン)培地50mLに初期OD600が0.5になるようにそれぞれ植菌し、TAITEC社製卓上培養装置を用いて30℃で48時間35mmの振幅、80rpmの振とう速度で培養した。培養液を0.22μmのフィルターで濾過し、培地中のエタノール濃度、香気成分濃度および各種有機酸濃度を測定した。結果を表1に示した。なお、各種データは、独立に3回試行した結果から算出した値である。
発酵開始から48時間後、NBRC0988株では3.96g/Lのエタノールを製造していたが、Cu8402g株ではエタノールを検出できなかった。
発酵開始から48時間後、アセトアルデヒドについてはNBRC0988株では26.2mg/Lを製造していたが、Cu8402g株では1.14mg/Lであった。
発酵開始から48時間後、酢酸についてはNBRC0988株では660.3mg/Lを製造していたが、Cu8402g株では273.1mg/Lであった。
発酵開始から48時間後、アセトアルデヒドが前躯体であるエタノールと酢酸の濃度はともに、NBRC0988株よりもCu8402g株で低かった。
発酵開始から48時間後におけるNBRC0988株のピルビン酸濃度は462.4mg/Lであったのに対し、Cu8402g株では3659.9mg/L存在していることが観察された。L−乳酸濃度はNBRC0988株およびCu8402g株の両株が、酵母を加えていない培地よりも低下していた。D−乳酸の濃度については、酵母を加えていない培地に比べ、NBRC0988株では低下していたが、Cu8402g株では上昇していた。
Cu8402g株の特徴として、CuPDC1遺伝子を破壊することにより、ピルビン酸からアセトアルデヒドへ変換する経路がシャットダウンされ、これによりピルビン酸が代謝されずに蓄積し、さらにこのことが影響して、メチルグリオキサール経路においてはピルビン酸の前駆体であるD−乳酸が蓄積しやすくなったと考えられる。
以上の結果は、CuPDC1遺伝子が、ピルビン酸からアセトアルデヒドへの変換に関わるピルビン酸脱炭酸酵素をコードしており、本遺伝子を完全に欠損することにより、細胞内における当該酵素の活性がなくなった、あるいは低下したことに起因すると考えられる。
目的産物であるL−乳酸を精製する工程において、培養上清に炭酸カルシウムを加え、L−乳酸カルシウム塩として回収する手法が広く用いられている。エタノールやTCA回路の各種有機酸濃度が野生株に比べて大きく減少していることは、この工程でL−乳酸塩以外の副産物の産生を低減化できる可能性を示していることから、乳酸製造能を評価するうえで有用な指標となる形質であると考えられる。
発酵開始から48時間後にはCuPDC1遺伝子1コピー破壊株、CuPDC1遺伝子2コピー破壊株、CuPDC1遺伝子3コピー破壊株は、キャンディダ・ユティリス野生株NBRC0988株と同じ程度エタノール製造能を有していた。
実施例3:L−LDH遺伝子を導入したキャンディダ・ユティリス株の構築
3−1.L−乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするL−LDH遺伝子のDNA配列の設計
高等真核生物であるウシ由来L−乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドを酵母キャンディダ・ユティリスで効率よく発現させるために、特開2003−259878号公報に記載され、ウシ由来の酵素のアミノ酸配列(DDBJ/EMBL/GenBank Accession number:AAI46211.1)に記載された乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子に対して、以下の項目を設計指針として、タカラバイオ社に天然に存在しない新規な遺伝子配列の設計及び合成を依頼した。
(イ)キャンディダ・ユティリスにおいて多用されているコドンを用いた。
(ロ)mRNAの不安定配列や繰り返し配列を出来る限り排除した。
(ハ)全領域にわたってGC含量の偏りに差がでないようにした。
(ニ)設計した配列中に遺伝子クローニングに不適当な制限酵素部位ができないようにした。
(ホ)L−LDH遺伝子発現用ベクターに組込むための両末端に有用な制限酵素部位を付加した(L−LDHコード領域上流:KpnI、XbaI;L−LDHコード領域下流:BamHI、SacI)。ここで、KpnI認識部位は、配列番号36のヌクレオチド配列において1番目のgから6番目のcまでの配列GGTACCを示し、Xba I認識部位は、配列番号36のヌクレオチド配列において7番目のtから12番目のaまでの配列TCTAGAを示し、BamHI認識部位は、配列番号36のヌクレオチド配列において1,015番目のgから1,020番目のcまでの配列GGATCCを示し、SacI認識部位は、配列番号36のヌクレオチド配列において1,021番目のgから1,026番目のcまでの配列GAGCTCを示す。
合成されたDNA配列を配列番号36に示す。また、このうち上記のL−乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードする13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列に対応するアミノ酸配列はウシ由来そのものであり、配列番号35として記載した(DDBJ/EMBL/GenBank Accession number:AAI46211.1)。なお、配列番号36の1,009から1,011番目のTGAと、それに引き続く1,012から1,014番目のTGAは共に翻訳の終了コドンである。このDNA断片を有するプラスミドをpCU669(別名:GA07033)と名付けた。
この配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のa(2つの翻訳終了コドンのうち、上流域のTGA)までのヌクレオチド配列(コドン最適化配列)と配列番号38で表されるヌクレオチド配列(ウシ由来の野生型配列)のアライメントを図1に示す。両者の配列は999塩基中751塩基が等しく、相同性は75%であった。図1において、上側の配列は、配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のa(2つの翻訳終了コドンのうち、上流域のTGA)までのヌクレオチド配列である。図1の下側の配列は配列番号38で表されるBos taurus由来のL−LDH−A遺伝子の塩基配列(DDBJ/EMBL/GenBank Accession number:BC146210.1より抜粋)である(翻訳産物は配列番号35となる)。
3−2.L−LDH遺伝子発現用プラスミドの作製
L−LDH遺伝子発現用プラスミドの構築を、特記しない限りは、KOD―Plus−を用いて以下のようにして実施した。
IM−345(配列番号39)とIM−346(配列番号40)でPCRを行い、CuPDC1遺伝子の下流領域を増幅した(伸長反応1分)。この増幅断片をBssHIIで消化した後、BssHIIで完全に消化したpBluescriptIISK(+)(TOYOBO社)と連結した。得られたプラスミドをpCU670(別名:pPt)と名付けた。
遺伝子破壊用のDNA断片を調製するためのプラスミドpCU563がもつPGK遺伝子プロモーターを長くしたプラスミドpCU621は、次の手順で構築した。Shimadaら(Appl.Environ.Microbiol.64,2676−2680)に記載されたPGK遺伝子プロモーターとハイグロマイシン耐性遺伝子HPT遺伝子を有するプラスミドpGKHPT1を鋳型にして、IM−283(配列番号41)とIM−57(配列番号17)のプライマーセットでPCR(伸長反応2分)を行うことにより、順にloxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子からなるDNA断片を増幅した。また、pGAPPT10(Kondoら、Nat.Biotechnol.15,453−457)を鋳型として、IM−54(配列番号19)とIM−55(配列番号20)のプライマーセットでPCR(伸長反応30秒)を行うことにより、GAP遺伝子ターミネーターとloxPからなるDNA断片を増幅した。これらを混合してIM−1(配列番号21)とIM−2(配列番号22)でPCRを行うことによって(伸長反応2.5分、酵素としてはタカラバイオ社製LA Taqを使用した)、順にloxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxPからなるDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、pCR2.1ベクターにクローン化した。こうして得られたプラスミドをpCU621(別名:pNNLHL)と名づけた。
まず、次の3種類のPCRを行った:(1)pCU621を鋳型とし、IM−349(配列番号42)とIM−350(配列番号43)をプライマーとしてPCRを行った(伸長反応2.5分);(2)pPGKPT2(特開2003−144185号公報)を鋳型とし、IM−347(配列番号44)とIM−348(配列番号45)をプライマーとしてPCR行い(伸長反応30秒)、PGK遺伝子のターミネーター領域を、BglII認識配列がなくなるように一塩基変異を入れて増幅した;(3)鋳型として(1)および(2)で増幅したDNA断片を用い、プライマーとしてIM−347(配列番号44)とIM−350(配列番号43)を用いてPCRを行った(伸長反応3分)。(3)で得られたDNA断片を、SmaIで消化したpBluescriptIISK(+)に連結した。得られたプラスミドをpCU672(別名:pPGtH)と名付けた。
pCU672(別名:pPGtH)をBamHIとClaIで消化して得られたPGK遺伝子ターミネーター、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxPからなる約3kbpのDNA断片を、BamHIとClaIで消化したpCU670に連結させて、新たなプラスミドpCU675(別名:pPGtHPt)を構築した。
まず、次の3種類のPCRを行った:(1)pCU530を鋳型とし、IM−341(配列番号46)とIM−342(配列番号47)をプライマーとしてPCRを行い(伸長反応2分)、CuPDC1遺伝子プロモーター領域を増幅した;(2)pCU669(別名:GA07033)を鋳型とし、IM−343(配列番号48)とIM−379(配列番号49)をプライマーとしてPCRを行い(伸長反応1分)、L−LDH構造遺伝子を増幅した;(3)鋳型として(1)および(2)で増幅したDNA断片を用い、プライマーとしてIM−341(配列番号46)とIM−379(配列番号49)を用いてPCRを行った(伸長反応3分)。(3)で増幅したDNA断片をNotIとBglIIで消化し、得られたDNA断片を、NotIとBamHIで切断したpCU675(別名:pPGtHPt)に連結した。得られたプラスミドpCU681(別名:pPLPGtHPt)(図10)は、pBluescriptIISK(+)のBssHII部位に、順にCuPDC1遺伝子プロモーター領域、L−LDH構造遺伝子、PGK遺伝子ターミネーター、loxP、PGK遺伝子プロモーター、HPT遺伝子、GAP遺伝子ターミネーター、loxP、CuPDC1遺伝子の下流領域からなるDNA断片が挿入されている。2つのBssHII認識配列の挿入DNA断片側には、当該認識配列の直後にBglII認識配列が備わっていることから、pCU681(別名:pPLPGtHPt)をBglIIで消化することにより、上述のCuPDC1遺伝子プロモーターからCuPDC1遺伝子の下流領域からなるDNA断片を取得することが可能である。なお、形質転換体は600μg/mLのハイグロマイシンBを含むYPD培地で選択する。
3−3.キャンディダ・ユティリス野生株NBRC0988株へのL−LDH遺伝子の導入
BglIIで消化したpCU681(pPLPGtHPt)3μgでNBRC0988株の形質転換を行った。得られた形質転換体から抽出したDNAを鋳型とし、IM−362(配列番号50)とIM−174(配列番号51)をプライマーセットとしてPCRを行った(伸長反応4分)。その内、NBRC0988株では増幅されない3.6kbのDNA断片が増幅される形質転換体Pj0202株を取得した。また、IM−163(配列番号52)とIM−164(配列番号53)をプライマーセットとしたPCRを行ったところ(伸長反応30秒)、約500bpのDNA断片が増幅された。このことからPj0202株は、破壊されていないCuPDC1遺伝子を少なくとも1コピー以上有していることが示された。
3−4.NBRC0988株およびCuPDC1遺伝子完全破壊株Cu8402g株へのL−LDH遺伝子の導入
BglIIで消化したpCU681(pPLPGtHPt)3μgでCu8402g株の形質転換を行った。得られたHygBrの形質転換体から抽出したDNAを鋳型とし、IM−362(配列番号50)とIM−174(配列番号51)をプライマーセットとして、PCRを行った(伸長反応4分)。その内、Cu8402g株では増幅されない3.6kbのDNA断片が増幅される形質転換体Pj0404株を取得した。この株はL−LDH遺伝子がCuPDC1遺伝子座に組込まれた株であり、L−LDH遺伝子の発現は本来のCuPDC1遺伝子プロモーターによって制御される。
Pj0404株は少なくとも1コピー以上のL−LDH遺伝子が導入された株である。特に、本検討で発現させたHPT遺伝子は1コピーのみの導入によってHygBrの表現型を示す形質転換体を選択できることから、Pj0404株は、1コピーのL−LDH遺伝子が組込まれた株であると考えられる。IM−281(配列番号31)とIM−282(配列番号32)をプライマーセットとしてPCRを行った結果(伸長反応4分)、2.4kbと1.9kbの少なくとも2種類のDNA断片が増幅された。この結果、L−LDH遺伝子が組込まれずに、破壊された状態のCuPDC1遺伝子座がPj0404株に存在していることが明らかになった。
Cre組換え酵素の発現プラスミドpCU595でPj0404株の形質転換を行い、HygBsかつG418rのクローンを取得した。当該クローンをYPD液体培地で1晩培養後、その一部をYPD培地に塗布した。2日後にシングルコロニーを分離し、YPD培地とG418培地に塗布した。そして、YPD培地では生育するが、G418培地では生育しないクローンを分離した。このクローンPj0707a株から抽出したDNAを鋳型として、IM−362(配列番号50)とIM−174(配列番号51)をプライマーセットとしてPCRを行った結果(伸長反応4分)、1.2kbのDNAが増幅された。Pj0707a株はHygBsかつG418sの表現型をもち、CuPDC1遺伝子が全て破壊され、かつCuPDC1遺伝子座に組込まれたCuPDC1遺伝子プロモーター誘導性のL−LDH遺伝子が導入された株である。
BglIIで消化したpCU681(pPLPGtHPt)3μgでPj0707a株の形質転換を行った。得られたHygBrの形質転換体から抽出したDNAを鋳型とし、IM−362(配列番号50)とIM−174(配列番号51)をプライマーセットとして、PCRを行った(伸長反応4分)。その結果、3.6kbと1.2kbの2種類のDNA断片が増幅される形質転換体Pj0957株を取得した。この株はL−LDH遺伝子が、Pj0457株でL−LDH遺伝子が組込まれたCuPDC1遺伝子座とは異なるアレルのCuPDC1遺伝子座に組込まれた株である。この形質転換によって導入されたL−LDH遺伝子の発現も、本来のCuPDC1遺伝子プロモーターによって制御される。
Pj0957株は少なくとも2コピー以上のL−LDH遺伝子が導入された株である。特に、本検討で発現させたHPT遺伝子は1コピーのみの導入によってHygBrの表現型を示す形質転換体を選択できることから、Pj0957株は、2コピーのL−LDH遺伝子が組込まれた株であると考えられる。
キャンディダ・ユティリスにおけるCre−loxPシステムは、遺伝子の破壊だけでなく、任意の遺伝子の導入にも利用できることが確認された。
実施例4:フラスコでの発酵試験
以下に示すとおり、NBRC0988株および新たに構築した組換え酵母菌株の乳酸製造能の評価を実施した。培地中のエタノール濃度はGCあるいはHPLCを用いて、培地中のグルコース濃度およびL−乳酸濃度はワイエスアイジャパン社製バイオケミストリーアナライザー(BA)を用いて測定した。光学異性体の判別には、J.K.インターナショナル社製のF−キットD−乳酸/L−乳酸を用い、方法は添付のプロトコールに従った。その他の各種有機酸製造量はHPLCを用いて行った。分析に供した試料には、培養液を0.22μmのフィルターで事前に濾過したものを用いた。各種データは、少なくとも3回、独立に試行した結果の平均値である。
YPD寒天培地で2〜3日間30℃で培養した酵母菌体から白金耳で1回かきとったペレット状の菌株を、15mLのチューブに入れた3mLのYPD液体培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、130rpm、30℃で20〜30時間、前々培養を行った。これをOD600が約0.1になるように、坂口フラスコに入った100mLのYPD培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、130rpm、30℃で通常15〜22時間、前培養を行った。そして4℃、3,000rpm、5分間の条件で遠心分離によって集菌し、さらに上清を除した後、発酵に用いる培地(中和剤は含まない)で洗浄した。こうして得られた菌体を、バッフル付きの100mL三角フラスコに入った100〜115g/Lのグルコースを含む液量15mLの培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、80rpmで発酵させた。前培養により得た菌体を発酵のために接種する量は、特に記述がない場合、OD600が10となるように植えた。特記しない限り、中和剤として4.5%(w/v)の濃度になるように炭酸カルシウムを培地に加えた。発酵時の温度は25℃、30℃、あるいは35℃とした。培地には上記濃度(100〜115g/L)のグルコースの他に10g/Lの酵母エキスと20g/Lのペプトンを加えており、この組成の培地を以降はYPD10培地と記載する。
全糖換算率(%)とは、培地中のL−乳酸重量を培地中の初期グルコース重量で除し、さらに100を乗じた値である。L−乳酸の光学純度(%)は、L−乳酸濃度の値を、L−乳酸濃度にD−乳酸濃度を加えた値で除し、さらに100を乗じた値である。
NBRC0988株、Cu8402g株、およびPj0202株について、発酵開始24時間後の培地中のグルコース濃度、エタノール濃度、L−乳酸濃度、D−乳酸濃度、他の有機酸濃度を調べた。発酵温度を30℃とした場合の結果を表2に記載する。
以上の結果より、NBRC0988株に比べ、CuPDC1遺伝子が完全に破壊されているCu8402g株は、L−乳酸およびエタノールをほとんど全く製造せず、ピルビン酸およびD−乳酸を多量に蓄積することがわかった。
表2の結果から、まず、野生株であるNBRC0988株はグルコースをほとんど全て消費し、エタノールを製造した。また、NBRC0988株ではL−乳酸の濃度は低下していた。Pj0202株は、破壊されていないCuPDC1遺伝子とL−LDH遺伝子の両方を有している株であり、当該菌株はエタノールとL−乳酸を両方製造した。グルコースからのL−乳酸の製造効率を向上させるためには、エタノールの製造量を低下させる、例えばCuPDC1遺伝子を全て欠損させるなどの手段が有効であると考えられた。
Pj0404株とPj0957株について、発酵開始4時間後から13時間後までの培地中のL−乳酸濃度を1時間ごとに測定した。発酵温度については、Pj0404株は30℃の1条件、Pj0957株では30℃と35℃の2条件とした。各データについて1次の近似式も求めた。この結果を図11に記載した。
単位時間あたりのL−乳酸製造速度については、Pj0404株(30℃)で3.41g/L/時間(r2乗値=0.998)、Pj0957株(30℃)で4.13g/L/時間(r2乗値=0.997)、Pj0957株(35℃)で4.80g/L/時間(r2乗値=0.998)であった。このことから、L−LDH遺伝子のコピー数がPj0404株よりも高いPj0957株の方が、速く乳酸を製造する能力を有していることがわかった。また、Pj0957株の発酵速度を高めるためには、30℃よりも35℃の方を選択することがよいと考えられた。
Pj0404株とPj0957株について、発酵開始24時間後の培地中のグルコース濃度、エタノール濃度、L−乳酸濃度、D−乳酸濃度、他種有機酸濃度を調べた。発酵温度については、Pj0404株は30℃の1条件、Pj0957株では30℃と35℃の2条件とした。この結果を表3に記載する。
発酵開始24時間後においては全ての試料で、中和剤として加えた4.5%(w/v)の炭酸カルシウムが粉末状態で残っていた。また、Pj0404株はPj0957株よりも乳酸製造量が低かった。このことからL−LDH遺伝子のコピー数が高いほど、乳酸製造が速いことがわかった。
発酵開始24時間後においては、Pj0957株を35℃で培養した方が、Pj0957株を30℃で培養するよりも乳酸製造量が高かった。このことから発酵温度は30℃よりも35℃の方がL−乳酸の製造に好ましいと考えられた。
Pj0957株について、中和剤を加えた条件および加えない条件でそれぞれ発酵を行った。発酵温度は35℃とした。表4に33時間後の培地中のグルコース濃度、エタノール濃度、L−乳酸濃度、D−乳酸濃度、他種有機酸濃度を調べた結果を記載する。
中和剤を加えない場合には、中和剤を加えた場合に比べ、乳酸製造量が少なかった。これは培地の酸度が高いことが原因であると考えられる。このことから中和剤を添加することは、効率的な乳酸製造に有効であると考えられた。
CuPDC1遺伝子を完全に破壊し、さらにL−LDH遺伝子を導入したPj0957株は、108.7g/Lのグルコースを含む培地から、全糖換算率95.10%という高効率でL−乳酸を短時間のうちに製造した。
Pj0957株について、初期ODを10とし、発酵温度を25℃として、4.5%(w/v)炭酸カルシウムを添加したYPD10培地(100g/Lグルコースを含有)中のL−乳酸濃度を、発酵開始4時間後から12時間後まで2時間ごとに測定した。その1次の近似式を求め、単位時間あたりのL−乳酸製造速度を算出したところ、3.0g/L/hであった。さらに、発酵開始33時間後のL−乳酸濃度を調べたところ、培地中のL−乳酸濃度は95g/Lであった。25℃の条件では、30℃および35℃の条件に比べてL−乳酸製造速度が劣るものの、相当量のL−乳酸が製造された。よって、Pj0957株は、25℃から35℃という幅広い温度でL−乳酸を高効率で生産できることが明らかとなった。
発酵に供する菌体量の検討を行った。発酵開始時のOD600を2、5、あるいは10としてPj0404株とPj0957株を接種し、発酵開始42.5時間後の培地中のグルコース濃度、L−乳酸濃度を調べた。糖濃度が100g/Lとした培地を使用した。液量は15mLとした。
Pj0404株についてOD2の条件では88.2g/L、OD5の条件では92.0g/L、OD10の条件では93.0g/L、Pj0957株についてOD2の条件では93.8g/L、OD5の条件では92.2g/L、OD10の条件では92.8g/Lとなった。このことから、初期ODが10よりも低い場合でも、発酵時間を長くすることにより、OD10の条件とほぼ同程度の効率でL−乳酸を製造させることが可能となることが示された。
実施例5:ジャーファーメンターを利用した発酵試験
以下に示すとおり、Pj0957株の乳酸製造能の評価を実施した。培地中のエタノール濃度はGCあるいはHPLCを用いて、培地中のグルコース濃度およびL−乳酸濃度はワイエスアイジャパン社製バイオケミストリーアナライザー(BA)を用いて測定した。光学異性体の判別には、J.K.インターナショナル社製のF−キットD−乳酸/L−乳酸を用い、方法は添付のプロトコールに従った。その他の各種有機酸製造量はHPLCを用いて行った。分析に供した試料には、培養液を0.22μmのフィルターで事前に濾過したものを用いた。
YPD寒天培地で2〜3日間30℃で培養した酵母菌体から白金耳で1回かきとったペレット状の菌株を、15mLのチューブに入れた3mLのYPD液体培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、130rpm、30℃で6〜15時間、前前々培養を行った。次に、前前培養として、培地として50mLのYPD液体培地を用い、前前々培養の菌体を、OD600が約0.1になるよう新たな培地に接種したうえで130rpm、30℃で通常12〜18時間培養し、OD600が10〜25を示す対数増殖期または定常期まで培養した。なお、この培養では坂口フラスコを用いた。発酵に供するための菌体を調製する前培養での条件としては、5L容量のジャーファーメンター(卓上型培養装置 Bioneer−C 5L(S)、丸菱バイオエンジ社製)にてYPD培地2.5Lに前々培養の菌体を全量接種し、400rpm、30℃、1vvmにて21〜27時間培養した。この際、OD600は通常10〜25を示した。そして、4℃、3,000rpm、5分間の条件で遠心分離によって集菌し、さらに上清を除した後、発酵に用いる培地(中和剤は含まない)で洗浄した。こうして得られた菌体を、100〜120g/Lのグルコースを含む液量2Lの培地に接種し、5L容量のジャーファーメンター(卓上型培養装置 Bioneer−C 5L(S)、丸菱バイオエンジ社製)にて発酵させた。なお、前培養により得た菌体を発酵のために接種する量は、OD600が10となるように植えた。本発酵試験にはPj0957株を使用した。撹拌速度は250rpm、温度は35℃、通気量は1vvmとした。中和条件としては、発酵開始時に5%(w/v)の濃度になるように炭酸カルシウムを培地に加えた場合と、2.5Nの水酸化ナトリウムで発酵中のpHが5.5となるようにフィードバック制御するようにプログラムを組んだ場合を検討した。炭酸カルシウムを用いた際の結果は1回のみの試行から得た値であり、水酸化ナトリウムを用いた際の結果は独立に2回の試行から得た値の平均である。また、水酸化ナトリウムを使用した場合、発酵液の容量が大きく変化することから、添加された水酸化ナトリウムの量から培地量を測定した。本検討においては、HPLCやBAなどの分析で得られる値は濃度であることから、その値に培地量を乗じた値、すなわち物質の総重量を求めた。
全糖換算率(%)とは、培地中のL−乳酸重量を培地中の初期グルコース重量で除し、さらに100を乗じた値である。L−乳酸の光学純度(%)は、L−乳酸濃度の値を、L−乳酸濃度にD−乳酸濃度を加えた値で除し、さらに100を乗じた値である。
中和剤として炭酸カルシウムを用いた試行において、発酵開始後24時間までに複数回のサンプリングを実施した。培地中のグルコース量とL−乳酸量の経時変化を示す図を図12に示した。
中和剤として水酸化ナトリウムを用いた試行において、発酵開始後24時間までに複数回のサンプリングを実施した。培地中のグルコース量とL−乳酸量の経時変化を示す図を図13Aに示した(n=2)。
発酵開始後24時間目の培地中のグルコース量、エタノール量、L−乳酸量、D−乳酸量、他の有機酸量、pHを調べた。その結果を表5に記載する(n=2)。なお、24時間後には、添加した炭酸カルシウムの粉末(固形物)は全く見られなかった。
炭酸カルシウムを用いた条件と水酸化ナトリウムを用いた条件では、24時間後のL−乳酸の生成量には大きな違いはなかった。
炭酸カルシウムを5%(w/v)で加えた条件では、乳酸の濃度が約80〜100g/Lまで高まると、30℃や35℃では乳酸カルシウムが析出し、さらには培地がゲル化した。菌体と乳酸塩が混合された状態でゲル化することから、当該事象によって、L−乳酸を精製する工程が煩雑になることが予想される。しかし、水酸化ナトリウムを使用する場合は、本現象を回避できると考えられることから、L−乳酸の精製方法によっては、水酸化ナトリウムを利用できることは、L−乳酸の製造工程において好ましい性質となりうる。
発酵開始後24時間目においては、炭酸カルシウムよりも水酸化ナトリウムを用いた方が、L−乳酸の光学純度が高かった。
発酵開始後24時間目においては、炭酸カルシウムよりも水酸化ナトリウムを用いた方が、副産物である酢酸量が低かった。
さらに、2回の独立した実験の結果を示す図13Aに加え、3回の独立した実験の結果を図13Bに示す。図13Bに示される実験データによれば、培養24時間後の全糖換算率は90.4±8.1%である。
実施例6:スクロースを単一糖源とした培地におけるPj0957株のL−乳酸製造能の評価
以下に示すとおり、Pj0957株の乳酸製造能の評価を実施した。培地中のL−乳酸濃度はワイエスアイジャパン社製バイオケミストリーアナライザー(BA)を用いて測定した。光学異性体の判別には、J.K.インターナショナル社製のF−キットD−乳酸/L−乳酸を用い、方法は添付のプロトコールに従った。その他の各種有機酸製造量はHPLCを用いて行った。分析に供した試料には、培養液を0.22μmのフィルターで事前に濾過したものを用いた。各種データは、少なくとも3回、独立に試行した結果の平均値である。
YPD寒天培地で2〜3日間30℃で培養した酵母菌体から白金耳で1回かきとったペレット状の菌株を、15mLのチューブに入れた3mLのYPD液体培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、130rpm、30℃で20〜30時間、前々培養を行った。これをOD600が約0.1になるように、坂口フラスコに入った100mLのYPD培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、130rpm、30℃で通常15〜22時間、前培養を行った。そして4℃、3,000rpm、5分間の条件で遠心分離によって集菌し、さらに上清を除した後、発酵に用いる培地(中和剤は含まない)で洗浄した。
こうして得られた菌体を、バッフル付きの100mL三角フラスコに入った100g/Lのスクロースを含む液量15mLの培地に接種し、TAITEC社製卓上培養装置により振幅35mm、80rpm、35℃で発酵させた。前培養により得た菌体を発酵のために接種する量は、特に記述がない場合、OD600が10となるように植えた。特記しない限り、中和剤として4.5%(w/v)の濃度になるように炭酸カルシウムを培地に加えた。発酵時の温度は30℃、あるいは35℃とした。培地には上記濃度のスクロースの他に10g/Lの酵母エキスと20g/Lのペプトンを加えており、この組成の培地を以降はYPSuc10培地と記載する。
全糖換算率(%)を、培地中のL−乳酸重量を培地中の初期スクロース重量で除し、さらに(342/360)と100を乗じた値である。L−乳酸の光学純度(%)は、L−乳酸濃度の値を、L−乳酸濃度にD−乳酸濃度を加えた値で除し、さらに100を乗じた値である。
その結果、33時間後のL−乳酸製造量について、その全糖換算率は94.8±3.5%であり、L−乳酸の光学純度は99.9%を超えていた。HPLCでエタノール濃度の定量を行ったところ、エタノール濃度は検出限界未満(0.01g/L未満)であった。
配列番号36のうち、13番目のaから1011番目のa(2つの翻訳終了コドンのうち、上流域のTGA)までのヌクレオチド配列(コドン最適化配列)と配列番号38で表される配列(ウシ由来の野生型配列)のアライメントを示す図である。 プラスミドpCU563の構造を示す図である。 プラスミドpCU595の構造を示す図である。 CuURA3遺伝子の破壊に利用したプライマーのアニーリング部位を示す図である。 IM−63(配列番号58)とIM−92(配列番号59)をプライマーとしてPCRを行った結果を示す図である。それぞれの鋳型DNAとしては、NBRC0988株(レーン1)、NBRC0988株由来のCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygrかつG418s株(レーン2)、pCU595を有するHygsかつG418rのCuURA3遺伝子が1コピー破壊された株(レーン3)、pCU595が脱落したCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygsかつG418sの株(レーン4)である。なお、MはLamdaDNAをStyIで消化したDNAである。 IM−63(配列番号58)とIM−223(配列番号60)をプライマーとしてPCRを行った結果を示す図である。それぞれの鋳型DNAとしては、NBRC0988株(レーン1)、NBRC0988株由来のCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygrかつG418s株(レーン2)、pCU595を有するHygsかつG418rのCuURA3遺伝子が1コピー破壊された株(レーン3)、pCU595が脱落したCuURA3遺伝子が1コピー破壊されたHygsかつG418sの株(レーン4)である。なお、MはLamdaDNAをStyIで消化したDNAである。 NBRC0988株、およびNBRC0988株を宿主としたCuURA3遺伝子破壊株の非選択培地、および選択培地での生育能を示す図である。 キャンディダ・ユティリスにPDC遺伝子が何種類あるかを調べるためのサザンハイブリダイゼーション法による解析結果を示す図である。レーン1はサッカロマイセス・セレビシエS288Cから抽出したゲノムDNAをHindIIIで消化した試料である。その他のレーンはキャンディダ・ユティリスNBRC0988株から抽出したゲノムDNAをXbaI(レーン2)、HindIII(レーン3)、BglII(レーン4)、EcoRI(レーン5)、BamHI(レーン6)、PstI(レーン7)で消化した試料である。プライマーIKSM−29(配列番号1)とIKSM−30(配列番号2)を作製し、NBRC0988株のゲノムを鋳型としたPCRを行うことによって増幅された約220bpのDNA断片(配列番号3)をプローブDNAとして利用した。 CuPDC1遺伝子の破壊に利用したプライマーのアニーリング部位を示す図である。 プラスミドpCU681の構造を示す図である。 Pj0404株およびPj0957株について、発酵開始4時間後から13時間後までの培地中のL−乳酸濃度の経時変化を示す図である。 中和剤として炭酸カルシウムを用いた試行において、発酵開始後24時間までに複数回のサンプリングを実施した。培地中のグルコース量とL−乳酸量の経時変化を示す図である。 中和剤として水酸化ナトリウムを用いた試行において、発酵開始後24時間までに複数回のサンプリングを実施した。培地中のグルコース量とL−乳酸量の経時変化を示す図である(n=2)。 中和剤として水酸化ナトリウムを用いた試行において、発酵開始後24時間までに複数回のサンプリングを実施した。培地中のグルコース量とL−乳酸量の経時変化を示す図である(n=3)。

Claims (10)

  1. 乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子の発現を可能にするプロモーター配列が機能的に結合した該遺伝子の少なくとも1コピーにより形質転換されてなる、キャンディダ・ユティリスの酵母菌株。
  2. ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子が破壊されている、請求項1に記載の酵母菌株。
  3. ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子が、選択マーカー配列の挿入による該遺伝子の欠失によって破壊されている、請求項1に記載の酵母菌株。
  4. プロモーター配列および該プロモーター配列の制御下にある乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしているDNA配列を含有する発現ベクターによって形質転換されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵母菌株。
  5. 乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドが、
    (a)配列番号37で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、または
    (b)配列番号37で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチド
    である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酵母菌株。
  6. 乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている遺伝子が、
    (a)配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列、または
    (b)配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列と85%以上の相同性があり、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
    (c)配列番号36のうち、13番目のaから1,011番目のaまでのヌクレオチド配列もしくはその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳酸脱水素酵素の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
    を含むものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酵母菌株。
  7. ピルビン酸脱炭酸酵素の活性を有するポリペプチドをコードしている内因性遺伝子が、配列番号64で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、または配列番号63で表されるヌクレオチド配列を含むものである、請求項2〜4のいずれか一項に記載の酵母菌株。
  8. プロモーター配列が、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする内因性遺伝子のプロモーター部分であるか、または配列番号3で表されるヌクレオチド配列を含むものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酵母菌株。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母菌株を培養することを含んでなる、乳酸を製造する方法。
  10. 酵母菌株の培養において、発酵培養初期の菌体のOD600が1〜30である、請求項9に記載の方法。
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