JPWO2005085415A1 - 新規形質転換体およびそれを用いたポリエステルの製造方法 - Google Patents

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    • C12P7/62Carboxylic acid esters
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Abstract

菌体生産性に優れ、遺伝子操作の容易な、ある特定の遺伝子のみを破壊して栄養要求性を付加した酵母及びその形質転換体の作製法を提供する。また、遺伝子発現産物、特にポリヒドロキシアルカン酸の製造方法を提供する。本発明では、相同的組換えを利用して、複数の遺伝子が破壊された酵母を作製する。また、当該遺伝子破壊酵母に、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子やアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子といった、ポリヒドロキシアルカン酸の合成に関与する酵素遺伝子を複数導入して形質転換体を得る。さらに、当該形質転換体を培養し、効率的にポリヒドロキシアルカン酸よりなる共重合ポリエステルを菌体内に蓄積させ、その培養物よりポリマーを採取する。

Description

本発明は、酵母のある特定の染色体DNAを相同的組換えの原理により破壊した遺伝子破壊株に関する。また、当該破壊株を用いた産業上有用な物質の生産に関する。
また、本発明は、共重合ポリエステルを酵素合成するために必要な遺伝子、同遺伝子を利用してポリエステルを発酵合成する微生物、及び、その微生物を用いたポリエステルの製造方法に関する。更に、同微生物の育種法にも関する。
遺伝子組換え技術の発展により、原核生物や真核生物を利用して産業上有用な物質を大量に製造することが可能となった。真核生物のうち酵母でもサッカロミセス属は、古くから酒類等発酵性食品の生産に利用されてきたほか、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)では、かつて微生物蛋白質として利用されたことがあり、酵母自体の安全性も確かめられている。
酵母は増殖が速く、一般に細菌よりも高い細胞密度で培養することができる。さらに、酵母は、細菌と比べて菌体と培養液との分離が容易であることから、生産物の抽出精製工程をより簡単にすることも可能である。こうした特性を生かして、酵母は、組換えDNAによる有用生産物の製造宿主として利用されており、その有用性が実証されている。
種々の酵母のうち、キャンディダ属酵母はサッカロミセス属と異なり、好気的条件下での培養でエタノールを生成せず、それによる増殖阻害も受けないことから、高密度での連続培養による効率的な菌体製造及び物質生産が可能である。さらに、無胞子酵母キャンディダ・マルトーサは、炭素鎖C〜C40の直鎖炭化水素やパーム油、ヤシ油等の油脂を唯一の炭素源として資化・生育できるという特性を有している。この特性は、疎水性化学物質の変換による有用物質の生産や反応の場として実用上有利であることから、種々の化合物の生産への利用が期待されている(非特許文献1参照)。また、その特性を生かしてキャンディダ・マルトーサの遺伝子組換えによる有用物質の生産への利用も期待されており、そのための遺伝子発現系の開発が精力的に行われて来た(特許文献1、2参照)。最近では、キャンディダ・マルトーサは、遺伝子組換えにより直鎖ジカルボン酸の生産(特許文献3参照)や生分解性プラスチック(特許文献4参照)に利用できることが公開されている。
このように、キャンディダ・マルトーサ用の宿主ベクター系は早くから開発され、また、突然変異誘起処理により栄養要求性が付加された変異株が多数取得されているにもかかわらず、組換え体を用いた新たな有用化学物質生産の工業化はされていない。この理由に、野生株と同等の増殖能や直鎖炭化水素鎖の資化性能を持つ適当な栄養要求性を持ったキャンディダ・マルトーサが取得されていないことが挙げられる。キャンディダ・マルトーサを突然変異処理することによって開発されたCHA1株は、ADE1遺伝子とHIS5遺伝子に変異があることが確認されているが(非特許文献2参照)、増殖能が野生株より劣る。これは目的の箇所以外の変異によるものと考えられている。
遺伝子組換えによる物質生産の宿主として酵母を用いる場合、大腸菌等を用いる場合と同様、目的遺伝子が導入されたことを確認することのできる選択マーカー(選択符号)を利用する。酵母の場合、薬剤耐性を付与する選択マーカー遺伝子としては、シクロヘキシミドやG418あるいはハイグロマイシンB等の耐性を付与する遺伝子等が用いられる。しかしながら、酵母に対して切れのよい薬剤がないため目的遺伝子の導入されていない菌も若干生育してしまう現象があること、徐々に薬剤耐性度が上昇すること等の問題が知られている。更に、酵母の菌株ごとにその薬剤耐性の程度は異なり、薬剤耐性を付与するために必要な薬剤耐性遺伝子の酵母中での発現量が異なってくる。そのため、個々の酵母に薬剤耐性を付与するためには、薬剤耐性遺伝子を発現させるためのプロモーターを適切に選択、あるいは作製しなければならない。特にキャンディダ・マルトーサにおいてはシクロヘキシミド耐性を初めから持っており(非特許文献3参照)、その他先に述べた様な各種薬剤に対する耐性の程度も知られていない。更にキャンディダ・マルトーサをはじめとして一部の酵母種は、コドンの翻訳のされ方が大腸菌やヒト等の一般的な様式とは異なることが知られている(非特許文献4参照)。即ち、薬剤耐性遺伝子を直接使用することができない可能性が高い。
そのため、適当な栄養要求性の選択マーカーが好んで使用される。栄養要求性の選択マーカーを利用するためには、栄養要求性の付加された変異株を取得する必要がある。従来、栄養要求性の付加には、ニトロソグアジニンやエチルメタンスルホン酸等の変異源を用いたランダム変異誘起処理によって変異株を取得していた。しかし、この変異導入法では目的の栄養要求株が取得できるが、変異が目的の箇所以外にも入っている可能性が否定できない。この事が、先に述べたように酵母を宿主として開発する場合の障害となり、物質生産の場としての利用が、大腸菌等と比較して遅れている原因といえる。
さらに、ランダム変異により取得された変異株のもう一つの問題点に、変異箇所の自然復帰がある。この場合、培養中に復帰株が優先的に増殖するため、組換え菌では物質生産性が低下することがある。また、復帰株は、自然界に流出した場合、生存・増殖する可能性が高く、安全規準の面から問題がある。従って、ランダム変異導入により取得した菌株を物質の生産の場として利用するのは適当でない。そこで、特定のアミノ酸やビタミン等の合成に関与する遺伝子のみが破壊された破壊株の取得が望まれており、ADE1遺伝子のみを破壊することにより栄養要求性を付加したキャンディダ・マルトーサとして、AC16株が作製された(特許文献5参照)。しかしながら、本菌株ではマーカーが1種類であることから導入できる遺伝子に限界があることが問題であった。
酵母中に遺伝子を導入する方法には、プラスミドベクターを用いる方法と染色体遺伝子に組み込む方法がある。
酵母の菌体内で自律複製の可能な遺伝子であるプラスミドベクターは、1細胞に1コピー程度存在する型(YCp型)と、多コピー存在しうる型(YRp型)がそれぞれの酵母種に対して開発されつつある。後者のプラスミドベクターを用いる方が、目的遺伝子産物の発現量を増加させるのに有利であると考えられるが、一般的にはプラスミドベクターの安定性に問題があることが多く、産業上有利に利用することができない場合が多い。このような場合、YCp型を用い、目的遺伝子を発現させるためのプロモーターを強力なものにしたり、導入する遺伝子の数(コピー数)を増加させることが検討される。酵母でもプラスミドベクターを用いて遺伝子を導入する場合には、導入遺伝子の大きさに制限を受けることが知られている。用いるプラスミドベクターの種類により異なるが、複数種の遺伝子を導入したい場合や、単一の遺伝子でも複数個導入したい場合等、あまりにも大きなサイズの遺伝子を含むベクターは、ベクター作製上の困難さ、酵母へのベクターの導入効率の低下、酵母中での目的遺伝子の欠失等の点で産業上有利とは言い難い。このような場合、染色体中に目的遺伝子を組み込むことにより解決することができる。また、染色体中に組み込んだ場合の方が、目的遺伝子が高発現する場合もある。しかしながら、選択マーカーが1種類しかない場合、1度その選択マーカーを用いてしまうと、もはやその遺伝子組換え株は選択マーカーが無く、複数回の遺伝子導入が不可能である。
これらのことから、栄養要求性マーカーを複数持つ遺伝子破壊酵母が望まれていた。
先に述べたように、キャンディダ・マルトーサの変異株として、ADE1遺伝子やヒスチジノール−ホスフェート−アミノトランスフェラーゼ(HIS5遺伝子)、オロチジン−5’−ホスフェートデカルボキシレース(URA3遺伝子)等の遺伝子変異株が多数取得されている(非特許文献1参照)。しかし、ある特定の遺伝子のみを特異的に破壊することにより複数の栄養要求性を付加したキャンディダ・マルトーサは、同酵母が部分二倍体を示すことから取得することが困難であった。このため、酵母の特性を利用し、かつ遺伝子組換えによる産業上有用な物質生産系を構築するためには、遺伝子破壊による複数の選択マーカーを有する宿主の開発が望まれていた。また、キャンディダ・マルトーサに限らず、そのような遺伝子破壊株が望まれている。
さらに、複数の選択マーカーを有するキャンディダ・マルトーサによる、直鎖炭化水素、パーム油、ヤシ油等の油脂を唯一の炭素源として資化・生育するという特性を生かした産業上有用な物質の生産が期待されている。
また、現在までに数多くの微生物において、エネルギー貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカン酸(以下、PHAと略す)などのポリエステルを菌体内に蓄積することが知られている。その代表例としては3−ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと略す)のホモポリマーであるポリ−3−ヒドロキシ酪酸(以下、P(3HB)と略す)であり、1925年にバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)で最初に発見された(非特許文献5)。P(3HB)は熱可塑性高分子であり、自然環境中で生物的に分解されることから、環境にやさしいプラスチックとして注目されてきた。しかし、P(3HB)は結晶性が高いため、硬くて脆い性質を持っていることから実用的には応用範囲が限られる。この為、この性質の改良を目的とした研究がなされてきた。
その中で、3−ヒドロキシ酪酸(3HB)と3−ヒドロキシ吉草酸(以下、3HVと略す)とからなる共重合体(以下、P(3HB−co−3HV)という)の製造方法が開示されている(特許文献6、7)。このP(3HB−co−3HV)はP(3HB)に比べると柔軟性に富むため、幅広い用途に応用できると考えられた。しかしながら、実際のところP(3HB−co−3HV)は3HVモル分率を増加させても、それに伴う物性の変化が乏しく、特にフィルムなどに使用するのに要求される程、柔軟性が向上しないため、シャンプーボトルや使い捨て剃刀の取っ手など硬質成型体の分野にしか利用されなかった。
近年、3HBと3−ヒドロキシヘキサン酸(以下、3HHと略す)との2成分共重合ポリエステル(以下、P(3HB−co−3HH)という)およびその製造方法について研究がなされた(たとえば、特許文献8、9参照)。これら特許文献のP(3HB−co−3HH)の製造方法は、土壌より単離されたアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)を用いてオレイン酸等の脂肪酸やオリーブオイル等の油脂から発酵生産するものであった。また、P(3HB−co−3HH)の性質に関する研究もなされている(非特許文献6参照)。この報告では、炭素数が12個以上の脂肪酸を唯一の炭素源としてA.caviaeを培養し、3HHが11〜19mol%のP(3HB−co−3HH)を発酵生産している。このP(3HB−co−3HH)は3HHモル分率の増加にしたがって、P(3HB)の硬くて脆い性質から次第に柔軟な性質を示すようになり、P(3HB−co−3HV)を上回る柔軟性を示すことが明らかにされた。しかしながら、上記製造方法では菌体量4g/L、ポリマー含量30%でありポリマー生産性が低いことから、実用化に向け更に高い生産性が得られる方法が探索された。
P(3HB−co−3HH)を生産するアエロモナス・キャビエ(A.caviae)より、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素(以下、PHA合成酵素と略す)遺伝子がクローニングされた(特許文献10、非特許文献7参照)。本遺伝子をラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha、旧Alcaligenes eutrophus)に導入した形質転換株を用い、炭素源として植物油脂を用いて培養した結果、菌体含量4g/L、ポリマー含量80%が達成された(非特許文献8参照)。また、大腸菌等の細菌や植物を宿主としたP(3HB−co−3HH)の製造方法も開示されているが、その生産性は記載されていない(例えば、特許文献11参照)。
上記ポリエステルP(3HB−co−3HH)は3HHモル分率を変えることで、硬質ポリマーから軟質ポリマーまで幅広い物性を持つため、テレビの筐体などのように硬さを要求されるものから糸やフィルムなどのような柔軟性を要求されるものまで、幅広い分野への応用が期待できる。しかしながら、先に述べた製造方法ではP(3HB−co−3HH)の生産性が依然として低く、P(3HB−co−3HH)の実用化に向けた生産方法としては未だ不十分といわざるを得ない。
菌体生産性の高い酵母を宿主とした生分解性ポリエステルの生産研究が幾つか報告されている。Leafらは、酵母の一種であるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)にラルストニア・ユートロファ(R.eutropha)のPHA合成酵素遺伝子を導入して形質転換体を作製し、グルコースを炭素源として培養することによってP(3HB)の蓄積を確認している(非特許文献9参照)。しかし、上記研究で生産されるポリマー含量は0.5%に留まり、そのポリマーは硬くて脆い性質を有するP(3HB)であった。
脂肪酸を炭素源として、酵母サッカロミセス・セレビシエにシュードモナス属(Psudomonas aeruginosa)由来のPHA合成酵素遺伝子を発現させ、炭素数5以上のモノマーを含む共重合ポリマーを生産する検討もなされた。この場合も生産されるポリマー含量は0.5%に留まった(非特許文献10参照)。
別の検討によれば、PHA合成酵素遺伝子と共に、アセチル−CoAを二量化して3−ヒドロキシブチリル−CoAを合成するβケトチオラーゼ、NADPH依存性還元酵素遺伝子を導入し、菌体重量当たり6.7%のポリマーの蓄積を確認している(非特許文献11)。しかしながら、これらのポリマーは硬くて脆い性質を有するP(3HB)であった。
更に、酵母ピキア・パストリス(Pichia Pastoris)のペルオキソームに、シュードモナス属(Psudomonas aeruginosa)由来のPHA合成酵素遺伝子を配向発現させ、オレイン酸を炭素源としてポリエステルを生産させる検討もなされている。この研究によれば乾燥菌体当たり1重量%のポリマーを蓄積することが示されている(非特許文献12参照)。しかしこの程度のポリマー生産性では、工業的生産のためには全く不十分である。
酵母は増殖が早く菌体生産性が高いことで知られている。その中でもキャンディダ(Candida)属に属する酵母は過去Single Cell Proteinとして注目され、ノルマルパラフィンを炭素源とした飼料用菌体生産が研究されてきた。また、近年キャンディダ(Candida)属の宿主ベクター系が開発され、遺伝子組換え技術を用いた物質生産が報告されている(非特許文献13参照)。キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)を宿主としたαアミラーゼの生産性は約12.3g/Lと高く、このように高い物質生産能力を有するキャンディダ(Candida)属は、ポリマー生産用宿主として期待される。さらに、細菌と比べて菌体と培養液との分離が容易であることから、ポリマーの抽出精製工程をより簡単にすることも可能である。
そこで、優れた物性を有するP(3HB−co−3HH)をキャンディダ(Candida)属酵母などを用いて生産する方法が開発されているが、ポリマー生産性の点で更に改良を加える必要があった(特許文献11参照)。菌体当たりのポリマー生産量を向上させる方法の一つとして、PHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させる方法が想定された。
酵母の菌体内で自律複製の可能な遺伝子であるベクターは、1細胞に1コピー程度存在する型(YCp型)と、多コピー存在しうる型(YRp型)がそれぞれの酵母種に対して開発されつつある。キャンディダ・マルトーサにおいてもM.Kawamuraらにより自律的複製に関わる配列(Autonomously replicating sequence:以下ARSと略す)およびセントロメア配列(以下CENと略す)を含む高効率形質転換の原因領域(Transformation ability:以下TRAと略す)が見出され(非特許文献14参照)、TRA全領域を有する安定性の高い低コピーベクターと、導入遺伝子高発現が期待できるCEN領域を除いた高コピー数ベクターが開発されている(非特許文献15参照)。しかしながら、キャンディダ・マルトーサなどの高コピーベクターは安定性に問題があり、産業上有利に利用することができない。従って、高コピー数ベクターを利用してPHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させることでポリマー生産性を向上させることは困難であった。
また、PHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させる方法としては、当該遺伝子を発現させるプロモーターを強力なものにする方法が考えられる。キャンディダ・マルトーサにおいて種々のプロモーターがクローニングされている。解糖系の酵素として知られているホスホグリセリン酸キナーゼ(以下PGKと略す)のプロモーターは、グルコースの存在下で強力な遺伝子発現を誘導することが知られている。更に、ガラクトース存在下において強力な遺伝子発現誘導活性を有するGALプロモーターもクローニングされている(非特許文献16参照)。しかしながら、一例としてP(3HB−co−3HH)の生産に好適な油脂・脂肪酸あるいはノルマルアルカン(n−アルカン)を炭素源とした場合に、これらのプロモーターはほとんど機能しない。更にGALプロモーターはガラクトースを炭素源としたときにのみ誘導されることから、高価なガラクトースを利用しなければならない点で工業生産には適さないといえる。
キャンディダ・マルトーサはn−アルカン酸化系の酵素をアルカンの存在下に高生産する。特に、アルカンの初発酸化を行うチトクロームP450をコードする遺伝子(以下ALKと略す)が強く誘導される(非特許文献17参照)。しかしながら、これらのプロモーターでもPGKやGALプロモーターと比較するとその活性は低い。更に、構成的に発現するアクチン合成酵素1遺伝子(以下ACT1と略す)などのプロモーターは、活性として十分な強度を有しているとは言えない。一例としてP(3HB−co−3HH)の生産に好適な油脂・脂肪酸あるいはn−アルカンを炭素源とした場合、現在の所、ALK2プロモーターの上流にARR(アルカン レスポンシブル リージョン)配列を複数個付加することによりプロモーター活性を向上させたARRプロモーター(非特許文献18参照)より強力なプロモーターは開発されておらず、従って、PHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させる方法として強力なプロモーターを利用することは現実的でない。
これとは別に、ベクターにPHA合成に関与する酵素遺伝子の発現ユニットを多数導入する方法なども考えられるが、酵母でもベクターを用いて遺伝子を導入する場合には、導入遺伝子の大きさに制限を受けることが知られており、あまりにも大きなサイズの遺伝子を含むベクターは、作製上の困難さ、酵母への導入効率、酵母中での安定性などの点で産業上現実的とは言い難い。
また、遺伝子を増幅することにより、目的酵素活性を増加させる方法が報告されている(非特許文献19参照)。これは、シクロヘキシミド感受性の酵母に対して、シクロヘキシミド耐性遺伝子と目的遺伝子を連結して導入し、シクロヘキシミド高濃度耐性株を取得することにより目的遺伝子高発現株を取得している。しかしながら、キャンディダ・マルトーサはシクロヘキシミド耐性を有していることが知られており、シクロヘキシミド耐性遺伝子を利用したこのような遺伝子増幅により、PHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させることは困難である。
そこで、上記の問題を回避して、キャンディダ・マルトーサにおいてPHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させ、生分解性ポリエステルを高生産させる方法の開発が望まれていた。
更に、一般的にポリエステルの分子量が物性や加工性に大きな影響を与えることが知られている。微生物におけるPHA生産においては、菌体当たりの酵素の分子数を過度に増すと基質律速状態となり、生産されるポリマーの分子量低下が起こることが知られている(非特許文献20、21参照)。従って、菌体内に生産されるポリエステルの分子量を制御する方法の開発が望まれていた。また生産されるポリエステルが、共重合体である場合、モノマー組成が物性や加工性に大きく影響を与えることも知られている。このため、共重合ポリエステルのモノマー組成を制御する方法の開発も望まれていた。
また、PHA高生産株の育種のためにはPHA合成に関与する酵素遺伝子の菌体内発現量を増加させる必要があり、当該遺伝子群を導入した形質転換株の生産するPHAの生産性及び物性を考慮しながら、更に同遺伝子群の導入が必要な場合がある。通常、形質転換株の取得においては、薬剤耐性や栄養要求性などのマーカーが利用されている。このため、遺伝子導入回数に応じたマーカーの種類が必要であるが、現在までに開発された複数の遺伝子マーカーを有するキャンディダ・マルトーサは、その生育速度において野性株と比較して大きく劣っており、PHA生産株としての利用が困難であった(非特許文献2参照)。また、一種類の遺伝子マーカーを有する生育速度の改善されたキャンディダ・マルトーサも開発された(特許文献5参照)。しかしながら、本株に野性株と同等の生育速度を保持させながら、更に複数の遺伝子マーカーを付与することは、同酵母が2倍体のゲノムを有していることから困難と考えられた。
特開昭62−74287公報 特開昭62−74288号公報 国際公開第99/04014号パンフレット 国際公開第01/88144号パンフレット 特開2002−209574号公報 特開昭57−150393号公報 特開昭59−220192号公報 特開平5−93049号公報 特開平7−265065号公報 特開平10−108682公報 WO00/43523号パンフレット Wolf K.編 Nonconventional Yeasts in Biotechnology.A Handbook、Springer−Verlag、Berlin(1996)p411−580) Kawai S.等、Agric.Biol.Chem.、55:59−65(1991) Takagi 等、J.Gen.Appl.Microbiol.、31:267−275(1985) Ohama T.等、Nucleic Acid Res.、21:40394045(1993) M.Lemoigne,Ann.Inst.Pasteur,39,144(1925) Y.Doi,S.Kitamura,H.Abe,Macromolecules,28,4822−4823(1995) T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol,vol.179,No.15,4821−4830(1997) T.Fukui等,Appl.Microbiol.Biotecnol.49,333(1998) Microbiology,vol.142,pp1169−1180(1996) Poirier Y.等,Appl.Microbiol.Biotecnol.67,5254−5260(2001) Breuer U.等,Macromol.Biossci.,2,pp380−386(2002) Poirier Y.等,FEMS Microbiology Lett.,vol.207,pp97−102(2002) 化学と生物,vol.38,No9,614(2000) M.Kawamura,et al.,Gene,vol.24,157,(1983) M.Ohkuma,et al.,Mol.Gen.Genet.,vol.249,447,(1995) S.M.Park,et al.,Yeast,vol.13,21(1997) M.Ohokuma,et al.,DNA and Cell Biology,vol.14,163,(1995) 木暮ら、2002年日本農芸化学大会講演要旨集、p191 K.Kondo,et al.,Nat.Biotechnol.,vol.15,pp453−457(1997) Sim S.J.等,Nature Biotechnology,vol.15,pp63−67(1997) Gerngross T.U.,Martin D.P.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.92,pp6279−6283(1995)
本発明は、上記現状に鑑み、酵母、特にキャンディダ属において、多重栄養要求性遺伝子破壊株を構築することにより、種々の遺伝子を多数導入することができ、高効率に有用物質生産を行うことができる、産業上有益な新規宿主を提供するものである。
本発明は、また、上記現状に鑑み、PHA合成に関与する遺伝子の発現カセットを酵母に複数形質転換した形質転換体、および得られた形質転換体を培養することにより、生分解性かつ優れた物性を有するP(3HB−co−3HH)等のポリエステルを製造する方法を提供するものである。また、同微生物の育種方法も提供する。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、遺伝子組換えの手法を駆使することにより、酵母のホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキサミド合成酵素(EC6.3.2.6)をコードするDNA(ADE1遺伝子)、ヒスチジノール−ホスフェート−アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.9)をコードするDNA(HIS5遺伝子)、及びオロチジン−5’−ホスフェートデカルボキシレース(EC4.1.1.23)をコードするDNA(URA3遺伝子)断片を用いた、染色体DNAとの相同的組換えの原理による、ADE1遺伝子、HIS5遺伝子及びURA3遺伝子破壊株の作製を行い、アデニン、ヒスチジン及びウラシル要求性の遺伝子破壊酵母の取得に成功した。そして、当該遺伝子破壊酵母の増殖能をキャンディダ・マルトーサのADE1遺伝子破壊株のAC16と比較し、キャンディダ・マルトーサの突然変異処理によるADE1遺伝子変異株のCHA1より増殖能が優れていることが明らかにされているAC16株と同等であることを示すことにより、本発明を完成するに至った。
本発明者等は、また、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、遺伝子組換えの手法を駆使することにより、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子(以下、phaCと略記する)とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子(EC1.1.1.36)(以下、phbBと略記する)をキャンディダ・マルトーサの遺伝子破壊株に複数導入した形質転換体を作製した。これにより、生分解性ポリエステルとして有用性のある3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと略記する)と3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと略記する)との2成分共重合ポリエステル(以下、P(3HB−co−3HH)と略記する)を効率的に生産することに成功した。
即ち、第一の本発明は、URA3DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのURA3遺伝子が破壊された酵母;HIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのHIS5遺伝子が破壊された酵母に関する。同様に本発明は、ADE1遺伝子とURA3遺伝子が共に破壊された酵母;ADE1遺伝子とHIS5遺伝子が共に破壊された酵母;URA3遺伝子とHIS5遺伝子が共に破壊された酵母;ADE1遺伝子とURA3遺伝子とHIS5遺伝子が共に破壊された酵母に関する。
また、本発明は、同種又は異種の遺伝子を含むDNA配列で形質転換された上記遺伝子破壊酵母の形質転換体に関する。
さらに、本発明は、当該遺伝子破壊株に、複数の異種遺伝子発現系を導入した形質転換体を取得することにより、産業上有用な物質の生産方法を提供する。具体的には、一例として、本発明の当該遺伝子破壊キャンディダ・マルトーサ株に、生分解性ポリエステルとして有用性のある3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと略記する)と3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと略記する)との2成分共重合ポリエステル(以下、P(3HB−co−3HH)と略記する)を合成する酵素であるポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子(以下、phaCと略記する)と、アセトアセチルCoA還元酵素遺伝子(EC1.1.1.36)(以下、phbBと略記する)を、好ましくは複数導入した当該形質転換体を用いて、P(3HB−co−3HH)を効率的に生産することに成功した。
即ち、本発明は、遺伝子破壊酵母を用いた遺伝子発現産物(特にポリエステル)の製造方法であると同時に、ポリエステル生合成に関与する遺伝子を複数導入した形質転換体を用いるポリエステルの製造方法でもあって、上記形質転換体を培養して得られる培養物から、ポリエステルを採取するポリエステルの製造方法でもある。
さらに、本発明は生産されるポリエステルの物性が制御されたポリエステルの製造方法である。また、本発明は遺伝子導入に使用する選択マーカーの効率的な回復方法にも関する。
すなわち、第二の本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子とが導入されている酵母形質転換体であって、これらの遺伝子の両方又は何れかが2コピー以上導入されていることを特徴とする酵母形質転換体である。
本発明は、また、上記酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造方法であって、上記酵母形質転換体を培養して得られる培養物から、ポリエステルを採取することを特徴とするポリエステルの製造方法である。
本発明は、また、上記酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の数を制御することによりポリエステルの分子量を制御する方法である。
本発明は、また、上記酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子の数を制御することによりポリエステルのヒドロキシアルカン酸組成を制御する方法である。
本発明は、また、選択マーカー遺伝子を持つキャンディダ・マルトーサで分子内相同組換えを行うことにより、当該選択マーカー遺伝子を除去することを特徴とする選択マーカーの回復方法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、第一の本発明の遺伝子破壊酵母としては、以下のものが挙げられる。
URA3DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのURA3遺伝子が破壊されたウラシル要求性の遺伝子破壊酵母;
HIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのHIS5遺伝子が破壊されたヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母;
ADE1DNA断片及びURA3DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子及びURA3遺伝子が破壊されたアデニン及びウラシル要求性の遺伝子破壊酵母;
ADE1DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたアデニン及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母;
URA3DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのURA3遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたウラシル及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母;
ADE1DNA断片、URA3DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子、URA3遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたアデニン、ウラシル及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母。
相同的組換えによるADE1遺伝子、URA3遺伝子、HIS5遺伝子の破壊を行う酵母には特に制限はなく、菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている酵母を使用することができる。好ましくは、直鎖炭化水素等の疎水性物質等の資化性の点で、キャンディダ属(Candida属)、クラビスポラ属(Clavispora属)、クリプトコッカス属(Cryptococcus属)、デバリオマイセス属(Debaryomyces属)、ロデロマイセス属(Lodderomyces属)、メトシュニコウィア属(Metschnikowia属)、ピキア属(Pichia属)、ロドスポリディウム属(Rhodosporidium属)、ロドトルラ属(Rhodotorula属)、スポリディオボラス属(Sporidiobolus属)、ステファノアスカス属(Stephanoascus属)、ヤロウィア属(Yarrowia属)等の酵母を使用することができる。
これら酵母の中でも、特に、染色体遺伝子配列の解析が進んでおり、宿主−ベクター系も利用できること、また、直鎖炭化水素や油脂等の資化能力が高い点で、キャンディダ属がより好ましい。
キャンディダ属の中でも、特に直鎖炭化水素や油脂等の資化能力が高い点で、albicans種、ancudensis種、atmosphaerica種、azyma種、bertae種、blankii種、butyri種、conglobata種、dendronema種、ergastensis種、fluviatilis種、friedrichii種、gropengiesseri種、haemulonii種、incommunis種、insectrum種、laureliae種、maltosa種、melibiosica種、membranifaciens種、mesenterica種、natalensis種、oregonensis種、palmioleophila種、parapsilosis種、psudointermedia種、quercitrusa種、rhagii種、rugosa種、saitoana種、sake種、schatavii種、sequanensis種、shehatae種、sorbophila種、tropicalis種、valdiviana種、viswanathii種等を用いることがさらに好ましい。
これらの種の中でも、直鎖炭化水素を炭素源としたときの増殖速度や、albicans種等と異なり安全性が高いことから、特にマルトーサ(maltosa)種が好ましい。
また、本発明のADE1、URA3、HIS5遺伝子破壊株の作製及びその利用に関して、酵母の好ましい1例として、キャンディダ・マルトーサを用いることができる。
本発明に用いるADE1遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサAC16株は、FERM BP−7366の受託番号で、平成12年11月15日付けで、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、ブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
また、後述のようにして本発明で得られた各遺伝子破壊酵母、つまり、
URA3遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサU−35株(受託番号FERM P−19435、寄託日平成15年7月18日)、
HIS5遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサCH−I株(受託番号FERM P−19434、寄託日平成15年7月18日)、
ADE1及びURA3遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサUA−354株(受託番号FERM P−19436、寄託日平成15年7月18日)、
ADE1及びHIS5遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサAH−I5株(受託番号FERM P−19433、寄託日平成15年7月18日)、
HIS5及びURA3遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサHU−591株(受託番号FERM P−19545、寄託日平成15年10月1日)、
ADE1及びHIS5及びURA3遺伝子破壊酵母であるキャンディダ・マルトーサAHU−71株(受託番号FERM BP−10205、寄託日平成15年8月15日)、
はそれぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。
ここで、相同的組換えとは、DNAの塩基配列が類似の配列又は同じ配列(相同配列)を持つ部分で起こる組換えを示す。
遺伝子破壊とは、ある遺伝子の機能が発揮できないようにするために、その遺伝子の塩基配列に変異を入れる、別のDNAを挿入する、あるいは、遺伝子のある部分を欠失させることを示す。遺伝子破壊の結果、その遺伝子がmRNAへ転写できなくなり、構造遺伝子が翻訳されない、あるいは、転写されたmRNAが不完全なため、翻訳された構造蛋白質のアミノ酸配列に変異又は欠失が生じ、本来の機能の発揮が不可能になる。
ADE1遺伝子とは、プロモーター領域を含む5’非翻訳領域、ホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキサミド合成酵素(EC6.3.2.6)をコードする領域、並びにターミネーター領域を含む3’非翻訳領域からなる遺伝子断片を示す。キャンディダ・マルトーサのADE1遺伝子の塩基配列はGenBank:D00855に公開されている。
URA3遺伝子とは、プロモーター領域を含む5’非翻訳領域、オロチジン−5’−ホスフェートデカルボキシレース(EC4.1.1.23)をコードする領域、並びにターミネーター領域を含む3’非翻訳領域からなる遺伝子断片を示す。キャンディダ・マルトーサのURA3遺伝子の塩基配列はGenBank:D12720に公開されている。
HIS5遺伝子とは、プロモーター領域を含む5’非翻訳領域、ヒスチジノール−ホスフェート−アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.9)をコードする領域、並びにターミネーター領域を含む3’非翻訳領域からなる遺伝子断片を示す。キャンディダ・マルトーサのHIS5遺伝子の塩基配列はGenBank:X17310に公開されている。
ADE1DNA断片とは、微生物細胞内で染色体上のADE1遺伝子と相同的組換えを起こすことができ、それによってADE1遺伝子を破壊できるDNAを示している。
URA3DNA断片とは、微生物細胞内で染色体上のURA3遺伝子と相同的組換えを起こすことができ、それによってURA3遺伝子を破壊できるDNAを示している。
HIS5DNA断片とは、微生物細胞内で染色体上のHIS5遺伝子と相同的組換えを起こすことができ、それによってHIS5遺伝子を破壊できるDNAを示している。
次に、本発明の形質転換体としては、上記遺伝子破壊酵母を、同種又は異種の遺伝子を含むDNA配列で形質転換したものである。
同種遺伝子とは、宿主酵母の染色体上に存在している遺伝子又はその一部のDNAを意味する。異種遺伝子とは、宿主酵母の染色体上に本来存在しない遺伝子又はその一部のDNAを意味する。
また、遺伝子発現カセットを用いることもできる。遺伝子発現カセットとは、転写プロモーターDNA配列、発現を目的とする遺伝子をコードするDNA、及び転写を終結するターミネーターを含むDNAから構成される環状プラスミド状のもので、染色体外で機能するものと、染色体DNAに組み込むタイプがある。
次に、本発明の遺伝子発現産物の製造方法としては、上記形質転換体を培養して得られる培養物から、同種又は異種の遺伝子発現産物を採取するものである。
また、当該遺伝子発現産物としては、特にポリエステルであることが好ましい。
遺伝子発現産物とは、遺伝子によって発現される物質(遺伝子発現物)が所望の蛋白質や酵素の場合、それ自体が遺伝子発現産物である。また、遺伝子発現物が各種酵素類や補酵素類であり、該酵素類が宿主酵母内で触媒活性を発現することにより生産される、遺伝子発現物とは直接異なる物質も遺伝子発現産物である。
PHAとは、ポリヒドロキシアルカノエートの略であり、3−ヒドロキシアルカン酸の共重合した、生分解性ポリエステルを示す。
phaCは、3−ヒドロキシアルカン酸の共重合した生分解性ポリエステルを合成する、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を示す。
phbBとは、アセトアセチルCoAを還元して3−ヒドロキシブチリル−CoAを合成する、アセトアセチルCoA還元酵素遺伝子を示す。
以下に、ADE1、URA3、HIS5遺伝子破壊株の作製方法、該破壊株によるポリエステルの製造方法を具体的に説明する。
(1)URA3遺伝子破壊株、URA3・ADE1遺伝子破壊株の作製方法
URA3遺伝子破壊株作製に関しては、URA3酵素が発現しない破壊株が得られればいかなる方法も用いることが可能である。遺伝子破壊の方法は種々の方法が報告されているが、ある特定の遺伝子のみ破壊できるという点で、相同的組換えによる遺伝子破壊が好ましい(Nickoloff J.A.編 Methods in Molecular Biology、47:291−302(1995)、Humana Press Inc.,Totowa、NJ))。相同的組換えの中でも、自然復帰しない破壊株が取得でき、その結果、組換え体を取り扱う上で安全性が高い菌株が得られるという点で、遺伝子置換破壊が好ましい。
使用するURA3DNA断片は、通常、遺伝子内部の部分DNAを除去し、残った両端部分を再度連結した形のDNA断片が用いられる。
除去する部分DNAは、除去によりURA3遺伝子が酵素活性を発揮できなくなる部分であり、且つ自然復帰によりURA3酵素活性が回復しない長さのDNAである。このような部分DNAの鎖長は特に限定されないが、好ましくは50塩基以上、より好ましくは100塩基以上である。また、除去されたDNAの部位にいかなる長さのDNAが挿入されていてもかまわない。
これらDNA断片は、例えば、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)や、ベクターからの制限酵素による切り出しと再連結等によって調製できる。
URA3DNA断片の両端の相同性領域長は、10塩基以上あればよく、好ましくは200塩基以上、より好ましくは300塩基以上である。
また、両端それぞれの相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
URA3遺伝子は、キャンディダ・マルトーサ染色体中に2個以上存在することが予想されていた。目的破壊遺伝子が破壊されたことを検出できる手法が存在する場合には選択マーカーは不要であるが、通常染色体中に2個以上ある遺伝子を破壊する場合等では、選択マーカーを指標として酵母染色体中の破壊対象遺伝子の相同組換えを検出する必要がある。複数の選択マーカーを用いるか、あるいは1個目の遺伝子を破壊した後、用いた選択マーカー遺伝子を除去あるいは破壊した後に、2個目以降の遺伝子を破壊する作業が必要となる。
従って、URA3DNA断片の除去した遺伝子部分に、ADE1等の選択マーカーとなり得る遺伝子を挿入する方法を用いることが出来る。挿入する選択マーカーの長さには特に制限はなく、酵母中で実質的に機能しうるプロモーター領域、構造遺伝子領域、ターミネーター領域を含んでいればよい。遺伝子マーカーが、目的酵母とは異なる生物由来でもかまわない。
更に、選択マーカー遺伝子の両端に、hisG遺伝子断片(サルモネラ菌ATP phosphoribosyl transferase遺伝子の断片、この遺伝子断片を含むプラスミドpNKY1009はATCCより入手可能(ATCC:87624))をそれぞれ挿入することで、遺伝子破壊を行った後に、分子内相同組換えにより挿入したマーカー遺伝子を除去可能にできる(Alani等 Genetics、116:541−545(1987))。このように選択マーカー遺伝子の除去に用いる遺伝子断片に特に制限はなく、選択マーカーの上・下流にいかなる遺伝子の相同断片を配置してもよい。従って、選択マーカーに含まれる配列を使用することも可能であり、本発明においては、マーカーとして用いるADE1遺伝子の5’末端部分の遺伝子断片をADE1遺伝子3’の末端に結合することで、分子内相同組換えによりマーカー遺伝子が極めて効率的に除去可能となった。マーカーの分子内相同組換えに用いる遺伝子断片に特に制限はなく、マーカー遺伝子が実質的に機能しない遺伝子断片を用いればよい。3’末端部分の遺伝子断片を用いることもできる。
本発明では、3種類のURA3破壊用DNAを用いた。
URA3破壊用DNA−1は、約220bpのURA3酵素をコードするDNA断片を除去し、5’側約350bpDNA断片と3’側約460bpのDNA断片を連結したDNAである(図1)。除去した部分はURA3酵素蛋白質の約30%にあたる。また、5’側及び3’側のDNA断片と元のURA3遺伝子との相同性は両DNAとも100%である。
URA3破壊用DNA−2は、URA3破壊用DNA−1の除去されたURA3DNA断片の代わりに、キャンディダ・マルトーサ由来ADE1遺伝子を挿入した(図1)。
URA3破壊用DNA−3は、分子内相同組換えを起こしアデニン要求性を回復させる為の配列として、ADE1遺伝子の5’末端部分約630bpを用いることとし、ADE1遺伝子の下流に接続している(図1)。
本発明に用いるDNA断片は、一般的なベクター上に構築することができる。
本発明においてはpUC−Nxを用いて行った。pUC−Nxは、pUC19(Sambrook等編、Molecular cloning:A Laboratory Manual、Second Edition 1.13、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))のEcoRIとHindIIIのサイトの間のDNAを、配列番号1に記載のDNAで置換し、制限酵素サイトを新規に構築したベクターである。
pUC119−URA3(Ohkuma M.等、Curr.Genet.、23:205−210(1993))より、PCRを用いてURA3遺伝子の5’側と3’側を別々に増幅し、pUC−Nxに順次連結し、URA3破壊用DNA−1を含むベクターを作製した。
次に、同ベクター中に、PCR法により増幅したADE1遺伝子を挿入し、このようにしてURA3破壊用DNA−2を含むベクターを作製した。
更に、このベクター中のADE1遺伝子3’末端に、PCRにより増幅したADE15’末端部分配列約630bpを挿入することにより、マーカー遺伝子除去が可能なURA3破壊用DNA−3を含むベクターが作製された。
破壊用DNAを含むベクターは適当な大腸菌、例えばJM109やDH5αに導入し、該大腸菌を培養し、それより塩化セシウム超遠心法により高純度のプラスミドを大量調製する(Sambrook等編、Molecular cloning:A Laboratory Manual、Second Edition 1.42−1.47、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))。また、アルカリ法等を用いても可能である(Brinbioim H.C.,等 Nucleic Acids Res. 7:1513−1523(1979))。市販のプラスミド精製キット等を用いても十分可能である。このベクターを直接遺伝子破壊に用いることができるが、精製したベクターよりURA3領域を含む相同性のある部分を適当な制限酵素で切り出し、それを破壊用DNAとして利用するのが望ましい。PCR法を用いて増幅することも可能である。本発明では、制限酵素SphI及びSwaIで切断し、DNA断片を精製することなく菌体内に導入することにより、相同的組換えによってURA3遺伝子を破壊することができた。
キャンディダ・マルトーサの形質転換法には、プロトプラスト法、酢酸リチウム法(Takagi M.等、J Bacteriol、167:551−5(1986))、電気パルス法(Kasuske A.等 Yeast 8:691−697(1992))が知られているが、本発明では電気パルス法を用いて行った。電気パルス発生には市販の機器が利用できる。本発明では、BTX社(San Diego、CA USA)製のELECTRO CELL MANIPULATOR 600を用いた。キュベットはBIO MEDICAL CORPORATION CO.LTD(Tokyo Japan)製のBM6200(2mm gap blue cap)を用いた。
AC16株よりコンピテント細胞を調製し、URA3破壊用DNA−2と共に電気パルス後、アデニンを含まない培地で培養し、出現するコロニーより目的のURA3遺伝子にADE1遺伝子が挿入された破壊株をスクリーニングする。
目的遺伝子破壊株のスクリーニングは、得られたコロニーから、PCR法やゲノミックサザンハイブリダイゼーション法(Sambrook等編、Molecular cloning:A Laboratory Manual、Second Edition 9.31−9.57、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))により容易に行うことができる。PCR法では、URA3遺伝子の両端をプライマーに用いると、アガロースゲル電気泳動において、野生株では正常な大きさのDNAバンドが検出されるが、破壊株では挿入遺伝子分だけ大きいバンドも検出される。本発明では、約1kbpと2kbpのDNAバンドが検出された。しかし、遺伝子破壊等の染色体DNAとの置換や組み込みの場合、遺伝子が目的以外の箇所、例えば相同性の高い未知の部分に挿入される可能性を想定すべきであり、その場合、PCR法では確認できない場合がある。この場合、ゲノミックサザンハイブリダイゼーション法や、破壊対象遺伝子の相同組換えに用いた部分より外部に存在する遺伝子配列を用いてPCR法を行うことにより、確認することが出来る。
URA3遺伝子は、キャンディダ・マルトーサ染色体に2個以上存在することが予想された。実際、URA3破壊用DNA−2を形質転換して得られた株は、ウラシル要求性を示さず、2個目のURA3遺伝子を破壊しなければ、ウラシル要求性を付与する事ができない。2個目のURA3遺伝子を破壊するためには、挿入したADE1遺伝子を破壊した後に、もう一度1個目のURA3遺伝子を破壊した手法を用いるか、あるいは、URA3破壊用DNA−1等で形質転換後、ウリジンあるいはウラシルと5−FOA(5−Fluoro−Orotic−Acid)の共存下で生育してくるコロニーを選択することで達成される。本発明においては前者の手法を用いた。即ち、URA3破壊用DNA−2を形質転換してアデニン非要求性となった株にURA3破壊用DNA−1を電気導入してもう一度1個目のURA3遺伝子を破壊し、アデニンを含む最少培地に塗布し、出現する赤色コロニーを選択することで、アデニン要求性株が取得できる。ADE1DNA断片を用いることもできる(特開2002−209574号公報)。その後、2個目のURA3遺伝子を破壊する作業を行う。
この際、スクリーニングを効率的に行うための濃縮工程を用いることが好ましい。例えば、ナイスタチン濃縮(Snow R.Nature 211:206−207(1966))と呼ばれる方法を利用することができる。本法は、酵母からランダム変異により得られる変異株を効率的に選択するために開発された方法であるが、遺伝子破壊株にも応用できる。例えば、遺伝子導入後、培養した菌体をYM培地等に植菌し培養する。菌を洗浄し、窒素源不含最少培地で培養後、窒素源含有最少培地で短時間培養する。この培養液に直接ナイスタチンを添加し、30℃で1時間、好気的に培養することにより、野生株を優先的に殺傷できる。この菌液を、アデニンを含有する適当な寒天培地プレートに塗抹し、30℃で2日間程度培養すると、赤色コロニーが得られる。
得られたアデニン要求性株は、PCR法により確認する事が出来る。URA3遺伝子の両端をプライマーに用いると、アガロースゲル電気泳動において、元株では正常な大きさのDNAバンドが検出されるが、ADE1破壊株では欠失部分だけ短いバンドも検出される。
次に、このURA3遺伝子が1個破壊され、アデニン要求性を回復した株に対して、上記の方法を繰り返すことで2個目のURA3遺伝子が破壊され、ウラシル要求性となった株を取得することができる。その後再びADE1遺伝子を破壊することで2重栄養要求性株を取得することができるが、本発明においては、2個目のURA3遺伝子の破壊には、分子内相同組換えによるマーカー遺伝子除去が可能なADE1遺伝子を含むURA3破壊用DNA−3を用いた。この破壊用遺伝子を、本株に電気導入し、ウリジンあるいはウラシルを含む選択培地にてコロニーを形成させる。得られたコロニーをウリジンやウラシルを含まない培地にレプリカする事により、ウラシル要求性株を選択する。得られた要求性株の染色体遺伝子をPCR法等により解析し、正常なURA3に相当する遺伝子が増幅せず、挿入遺伝子を含むサイズの遺伝子、及び、欠失を含むサイズの遺伝子のみを増幅する株を選択する。この段階でURA3破壊株が完成する。
次に、挿入したADE1遺伝子を除去する。この方法として、分子内相同組換えによりADE1遺伝子を自然欠失した株を、ナイスタチン濃縮法を応用することにより、簡便に作製することが可能である。本発明の好ましい態様によれば、培養した菌体をYM培地等に植菌し培養後、菌を洗浄し、窒素源不含最少培地で培養後、窒素源含有最少培地で短時間培養する。この培養液に直接ナイスタチンを添加し、30℃で1時間、好気的に培養することにより、ADE1遺伝子を含む株を優先的に殺傷できる。この菌液をアデニンを含有する適当な寒天培地プレートに塗抹し、30℃で2日間程度培養すると、赤色コロニーが得られる。
得られたアデニン要求性株は、PCR法等により確認する事が出来る。URA3遺伝子の両端をプライマーに用いると、アガロースゲル電気泳動において、元株では、ADE1遺伝子とADE1断片遺伝子の挿入された大きさのDNAバンドと欠失を持つURA3遺伝子の大きさのDNAが検出されるが、ADE1破壊株では、欠失を持つURA3遺伝子の大きさのDNAと欠失を持つURA3遺伝子の大きさのDNAにADE1遺伝子断片の大きさを加えたサイズのDNAバンドもが検出される。この段階でADE1及びURA3遺伝子破壊株が作製される。
(2)HIS5遺伝子破壊株、HIS5・ADE1遺伝子破壊株の作製方法
HIS5遺伝子破壊酵母、及び、HIS5・ADE1遺伝子破壊酵母についても、上記(1)に記載の方法を用いてAC16株より作製することが出来る。
用いるHIS5遺伝子は、pUC119−HIS5(Hikiji.等、Curr.Genet.、16:261−266(1989))より調製することが出来る。即ち、ADE1遺伝子の3’側にADE1遺伝子5’側断片を接続した遺伝子の両端に、HIS5遺伝子の5’側DNA断片と3’側のDNA断片を連結したHIS5遺伝子破壊用DNA等を用いることができる(図1)。本発明においては、HIS5遺伝子の5’側及び3’側の約500bpのDNA断片を用いたが、特に限定されるものではない。
上記遺伝子をAC16株に電気導入し、得られたアデニン非要求性株よりHIS5遺伝子が破壊された株をPCR法等により選択し、その後、ナイスタチン濃縮法により、分子内相同組換えによりアデニン要求性を回復した株を簡便に取得することができる。HIS5遺伝子が複数存在する場合には、本工程を繰り返し行うことで、アデニン、ヒスチジン2重栄養要求性株が取得できる。
(3)URA3・HIS5遺伝子破壊株、URA3・HIS5・ADE1遺伝子破壊株の作製方法
(1)で得られたURA3・ADE1破壊株を元にして、(2)に記載の方法で、URA3・HIS5遺伝子破壊株、及びURA3・HIS5・ADE1遺伝子破壊株を作製することが出来る。また、(2)で得られた株を元にして、(1)の方法を用いても作製可能である。
(4)遺伝子破壊株による異種遺伝子発現
本発明で得た遺伝子破壊株を用いて、同種遺伝子あるいは異種遺伝子を、利用可能なマーカーの数に応じて複数回導入することや、マーカーを回復させることで何度でも導入することが可能となり、目的遺伝子を従来以上に導入でき多量に発現させることができる。
酵母は、大腸菌ではできない糖鎖付加蛋白質を培地中に分泌することができるため、遺伝子破壊株を用いてこのような蛋白質の生産が可能である。また、本発明の酵母は、遺伝子マーカーが複数存在するため、数種の蛋白質を発現させることができ、複数の酵素が関与するような複雑な反応を行うことも可能であり、化学品の製造にも有用である。
導入できる同種遺伝子は特に限定されないが、例えば、産業上有用な生産物の製造例として、WO99/04014に公開されているような、キャンディダ・マルトーサに同株由来のP450酵素遺伝子を導入することによる、ジカルボン酸の製造が挙げられる。
また、異種遺伝子も特に限定はされないが、例えば、抗体遺伝子、リパーゼ遺伝子、アミラーゼ遺伝子等の導入による、当該蛋白質の製造が挙げられる。ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子や、ポリヒドロキシアルカン酸合成の基質を合成する酵素遺伝子を導入することによる、ポリエステルの製造も挙げられる。
酵母1細胞当たりの目的遺伝子の導入数は、目的遺伝子産物の性質と、用いるプロモーターの強さにより決定される。例えば、目的遺伝子産物が導入した発現カセットより翻訳される蛋白質の場合、単純蛋白質の場合は何個でもよいが、糖鎖を付加される蛋白質の場合、過剰な蛋白質の翻訳は糖鎖修飾が律速となり不均一な産物を与えることになる。従って、制限された数の発現カセットの導入が好ましい。
本発明に用いたキャンディダ・マルトーサ等の一部のキャンディダ属酵母においては、mRNAから蛋白質が翻訳される段階で、一部コドンの翻訳のされ方が他の生物と異なっていることが知られている。キャンディダ・マルトーサではロイシンコドンのCUGがセリンに翻訳されるため(Ohama T.等、Nucleic Acid Res.、21:40394045(1993))、大腸菌由来lacZ遺伝子が、活性を持つβガラクトシダーゼに翻訳されない(Sugiyama H.等、Yeast 11:43−52(1995))。このように異種遺伝子を発現させる場合には、それがキャンディダ・マルトーサ内で機能を持つ蛋白質に翻訳されるという保証はない。従って、キャンディダ・マルトーサを宿主として異種遺伝子を発現させる場合、原則としてロイシンコドンのみ変換すれば良いが、さらに効率よく発現させるため他のアミノ酸コドンをキャンディダ・マルトーサのものに合わせても良い。コドンの変換は、例えばWolf K.編 Nonconventional Yeasts in Biotechnology.の中のMauersberger S.等著、Candida maltosa p524−527を参考にして行えば良い。
本発明の好ましい実施形態では、遺伝子発現産物として生分解性ポリエステルが生産される。以下、ポリエステルの生産方法について記述する。
本発明においては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子(phaC)や、ポリエステルの合成の基質となる分子の合成に関与する酵素遺伝子等のポリエステル合成に関与する酵素遺伝子を、上記遺伝子破壊酵母に複数組み込んで形質転換体とし、当該形質転換体を培養して得られる培養物から、ポリエステルを採取する。
ポリエステル合成に関与する酵素遺伝子としては特に限定されないが、下記一般式(1)で示される3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなるポリエステルの合成に関与する酵素遺伝子が好ましく、下記式(2)で示される3−ヒドロキシ酪酸と下記式(3)で示される3−ヒドロキシヘキサン酸とを共重合してなる共重合ポリエステルP(3HB−co−3HH)の合成に関与する酵素遺伝子であることがより好ましい。
Figure 2005085415
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例えば、特開平10−108682号公報に記載されているポリエステル合成酵素遺伝子を用いることができる。
また、本ポリエステル合成酵素遺伝子と共に、ポリエステル合成の基質となる(R)−3−ヒドロキシブチリル−CoAや、(R)−3−ヒドロキシブチリヘキサノイル−CoAに関与する遺伝子を導入しても良い。
これらの遺伝子としては、例えば、β酸化経路の中間体のエノイル−CoAを(R)−3−ヒドロキシアシル−CoAに変換する(R)体特異的エノイル−CoAヒドラターゼ(Fukui T.等、FEMS Microbiology Letters、170:69−75(1999)、特開平10−108682号公報)や、アセチル−CoAを二量化して3−ヒドロキシブチリル−CoAを合成するβケトチオラーゼ、NADPH依存性リダクターゼ遺伝子(Peoples OP等、J.Biol.Chem.264:15298−15303(1989))等が挙げられる。更に、3−ケトアシル−CoA−アシルキャリアープロテイン還元酵素(Taguchi K.等、FEMS Microbiology Letters、176:183−190(1999)を用いることも有用である。
これらの遺伝子は、実質的な酵素活性を有する限り、当該遺伝子の塩基配列に欠失、置換、挿入等の変異が生じていても良いものとする。但し、異種遺伝子の場合、上記したようにキャンディダ・マルトーサ内で機能を持つ蛋白質に翻訳されるという保証はないため、アミノ酸コドンを変更することが望ましい。
より好ましくは、ポリエステル合成酵素遺伝子とアセトアセチル−CoA還元酵素遺伝子を共に用いることができる。
本発明では、アエロモナス・キャビエ由来のphaC(特開平10−108682公報、Fukui T.等、FEMS Microbiology Letters、170:69−75(1999))と、ラルストニア・ユートロファ由来のphbB(GenBank:J04987)を用いた。
アエロモナス・キャビエ由来のphaCをコードする遺伝子を、キャンディダ・マルトーサで発現するように設計し、且つアミノ酸配列上アミノ末端より149番目に存在するアスパラギンをセリンに置換するように作製したDNA(phaCac149NS)の塩基配列を配列番号2に示した。
ラルストニア・ユートロファ由来のphbBをコードする遺伝子を、キャンディダ・マルトーサで発現するように設計したDNAの塩基配列を配列番号3に示した。
ただし、これらの配列番号に示した塩基配列は、これに限定されるものではなく、当該酵素のアミノ酸配列がキャンディダ・マルトーサ内で発現される塩基配列であれば、いかなる塩基配列でも用いることができる。より好ましくは、これらポリエステル合成に関与する遺伝子のカルボキシル末端にペルオキシソーム配向シグナルとして3つのアミノ酸配列から成る「(セリン/アラニン/システイン)−(リジン/アルギニン/ヒスチジン)−ロイシン」をコードする遺伝子を付加されているものを用いることができる。ここで、例えば、(セリン/アラニン/システイン)とはセリン、アラニン又はシステインのいずれかであるということを意味する(WO03/033707)。
酵母における遺伝子発現カセットは、当該遺伝子の5’側上流に、プロモーター、5’上流域活性化配列(UAS)等のDNA配列を連結し、当該遺伝子の3’下流に、ポリA付加シグナル、ターミネーター等のDNA配列を連結して作製する。これらのDNA配列は、当該酵母で機能する配列であればどのような配列でも利用できる。
使用するプロモーター、ターミネーターは、酵母で機能するものであればどのような配列でも利用できる。プロモーターには構成的に発現を行うものや誘導的に発現を行うものがあるが、いずれのプロモーターも用いてもよい。本発明においては、上記プロモーター、ターミネーターが、キャンディダ・マルトーサで機能するものであることが好ましく、上記プロモーター、ターミネーターが、キャンディダ・マルトーサ由来であることがより好ましい。さらに好ましくは、用いる炭素源で強い活性を持つプロモーターである。
例えば、油脂等を炭素源として用いる場合には、プロモーターとしては、キャンディダ・マルトーサのALK1遺伝子(GenBank:D00481)のプロモーターALK1p(WO01/88144)、ALK2遺伝子(GenBank:X55881)のプロモーターALK2p等を用いることができる。更に、これらのプロモーターの上流にARR(アルカン レスポンシブル リージョン)配列を複数個付加することによりプロモーター活性を向上させたプロモーター(木暮ら、2002年日本農芸化学大会講演要旨集、p191)(配列番号4)を利用することもできる。また、ターミネーターとしては、キャンディダ・マルトーサのALK1遺伝子のターミネーターALK1t(WO01/88144)等を用いることができる。
なお、上記プロモーター及び/又はターミネーターの塩基配列は、キャンディダ・マルトーサで機能する配列であれば、1つ若しくは複数個の塩基が欠失、置換及び/又は、付加された塩基配列であってもよい。
上記プロモーターは、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたポリエステル合成に関与する酵素をコードする遺伝子の5’上流に、ターミネーターは、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたポリエステルの合成に関与する酵素をコードする遺伝子の3’下流に、それぞれ連結される。
プロモーター及びターミネーターと構造遺伝子を連結し、本発明の遺伝子発現カセットを構築する方法は、特に限定されるものではない。本実施例の他にも制限酵素部位を作製するためにPCR法も利用できる。例えば、WO01/88144に記載の方法が使用できる。
この発現カセットを酵母染色体に部位特異的に組み込むためには、発現カセットと選択マーカーとなる遺伝子を結合させたDNAの両端に、導入する染色体遺伝子と相同な配列を持つ遺伝子断片を結合させたDNA(導入用DNA)を用いることができる。選択マーカーとして、上記(1)に記載の分子内相同組換えにより自然欠失可能なADE1遺伝子等を利用する事も可能である。導入用DNA中の発現カセットの数には限定が無く、作製可能であればいくつでもよい。
目的遺伝子を挿入させる場所としては、遺伝子配列の解明されている場所であればいかなる部位でも利用できる。遺伝子配列が未知であっても、遺伝子配列の知られた近縁種酵母の染色体遺伝子配列を元に遺伝子配列の解析が可能であるので、実質的に、全ての遺伝子部位への挿入が可能である。遺伝子配列の解析法としては、導入対象酵母染色体DNAライブラリーより、配列の解析されているサッカロミセス・セレビシエや、キャンディダ・アルビカンスの相同遺伝子断片をプローブとしてハイブリダイゼイション法を用いて取得することができる。プローブは、PCR等を用いて作製できる。染色体DNAライブラリーは、当業者にとって公知の方法で作製できる。
一例としては、(1)に記載のURA3遺伝子破壊に用いたURA3破壊用DNA−1中に、マーカー遺伝子としてHIS5遺伝子を挿入し、URA3遺伝子断片部位との間にポリエステル合成に関与する遺伝子の発現カセットを挿入すると、ヒスチジン要求性をマーカーとして、酵母染色体上の破壊されたURA3部位に特異的に目的遺伝子を挿入させるDNAを作製することができる。遺伝子の導入法としては、(1)に記載の電気導入法等が利用できる。
本発明の菌株は、複数の選択マーカーを利用して、形質転換することにより、遺伝子発現カセットを複数導入した様々な株を作製することができる。分子内相同組換えにより自然欠失可能なADE1遺伝子等を利用すれば、選択マーカーの回復が可能であるので何カ所にも遺伝子導入が可能である。また、酵母内において自律複製可能なプラスミドも共に利用することができる。
ポリエステル合成に関与する遺伝子発現カセットで形質転換された酵母を培養することによるポリエステルの製造は、次のようにして行うことができる。
培養に用いる炭素源としては、酵母が資化できるものであればどのようなものでも良い。また、プロモーターの発現が誘導型である場合には、適時誘導物質を添加すれば良い。誘導物質が主要炭素源である場合もある。炭素源以外の栄養源としては、窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源を含む培地が使用できる。培養温度はその菌の生育可能な温度であれば良いが、20℃から40℃が好ましい。培養時間には特に制限はないが、1〜7日程度で良い。その後、得られた培養菌体又は培養物からポリエステルを回収すれば良い。
本発明の好ましい形態としては、炭素源として、油脂類、脂肪酸類、アルコール類さらにはn−アルカン等を用いることができる。油脂類としては、例えばナタネ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられる。脂肪酸類としては、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸等の飽和・不飽和脂肪酸、またこれら脂肪酸のエステルや塩等の脂肪酸誘導体等が挙げられる。これらを混合して使用することもできる。また、資化ができないか又は効率よく資化できない油脂の場合、培地中にリパーゼを添加することによって改善することもできる。さらに、リパーゼ遺伝子を形質転換することにより、油脂資化能を付与することもできる。
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
その他の有機栄養源としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB12、ビオチン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、ビタミンC等のビタミン類等が挙げられる。
また、誘導物質としては、グルコースやガラクトース等が挙げられる。
ポリエステルの菌体からの回収は多くの方法が報告されている。本発明においては、例えば、次のような方法が使用できる。培養終了後、培養液から、遠心分離器等で菌体を分離・回収し、その菌体を蒸留水及びメタノール等により洗浄した後、乾燥させる。この段階に菌体を破砕する工程を加えることもできる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてポリエステルを抽出する。このポリエステルを含んだ有機溶剤溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてポリエステルを沈殿させる。次いで、濾過や遠心分離によってその上澄み液を除去し、沈殿したポリエステルを乾燥させて、ポリエステルを回収することができる。
得られたポリエステルの分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行うことができる。
次に第二の本発明である、新規酵母形質転換体について述べる。
第二の本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子とが導入されている酵母形質転換体であって、これら遺伝子の両方又は何れかが2コピー以上導入されていることを特徴とする酵母形質転換体である。
(I)宿主
第二の本発明でいう酵母としては、複数の遺伝子を導入・形質転換できればよく、菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている酵母等を使用することができる。好ましくは、直鎖炭化水素の様な疎水性物資に耐性を有する点で、キャンディダ属(Candida属)、クラビスポラ属(Clavispora属)、クリプトコッカス属(Cryptococcus属)、デバリオマイセス属(Debaryomyces属)、ロデロマイセス属(Lodderomyces属)、ピキア属(Pichia属)、ロドトルラ属(Rhodotorula属)、スポリディオボラス属(Sporidiobolus属)、ステファノアスカス属(Stephanoascus属)、ヤロウィア属(Yarrowia属)などの酵母を使用することができる。
これら酵母の中でも、特に、染色体遺伝子配列の解析が進んでおり、宿主−ベクター系も利用できること、また、直鎖炭化水素や油脂等の資化能力が高い点で、キャンディダ属が好ましい。
キャンディダ属の中でも、特に直鎖炭化水素や油脂等の資化能力が高い点で、第一の本発明で例示した種を用いることが好ましい。
これらの種の中でも、増殖速度や感染性の点から特にマルトーサ(maltosa)種が好ましい。
本発明の酵母形質転換体の作製において、形質転換する際に、薬剤耐性や栄養要求性等の性質を有する選択マーカー遺伝子も同時に宿主に導入しておけば、形質転換後にその選択マーカー遺伝子が発現することによる薬剤耐性や栄養要求性等を利用して形質転換株のみを選択することができる。
選択マーカー遺伝子としては、シクロヘキシミドやG418、ハイグロマイシンBなどへの耐性を付与する遺伝子を用いることができる。また、栄養要求性を相補する遺伝子を選択マーカーとして用いることもできる。これらは、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用することもできる。
しかしながら、例えば、栄養要求性を相補する遺伝子を選択マーカー遺伝子として用いる場合は、その選択マーカー遺伝子と同様の作用をする、宿主が元来有する遺伝子が実質的に機能しない栄養要求性破壊株が必要である。このような栄養要求性破壊株(変異株)は、ニトロソグアジニンやエチルメタンスルホン酸などの変異源を用いたランダム変異誘起処理によって取得することができるが、変異が目的の箇所以外にも入っている可能性が高く、その結果生育速度等に影響を受ける場合があることから、本発明においては、第一の本発明で述べた、相同的組換えによる遺伝子破壊法によって作製された宿主を用いる方が好ましい。
なお、複数回形質転換を行う場合は、その回数に応じたマーカーの種類が必要である。又は、後述のように、選択マーカー遺伝子を含む遺伝子導入用DNAを宿主に導入したのち、選択マーカー遺伝子を除去することにより、選択マーカーを回復する必要がある。本発明の実施例においては、多重栄養要求性遺伝子破壊株を用いた。
ここで、遺伝子導入用DNAとは、微生物細胞内で染色体上の遺伝子と相同的組換えを起こすことができ、それによって目的遺伝子を挿入できるDNAを示す。
本発明の実施例で用いた、ADE1、HIS5及びURA3遺伝子破壊株であるキャンディダ・マルトーサAHU−71株は、第一の本発明で作製されたものであり、キャンディダ・マルトーサAC16株を使用し、後述の実施例3に記載の方法で作製した。
特に上記宿主において、複数回形質転換を行う際、栄養要求性等の遺伝子破壊を行わなくても初めから複数の選択マーカー遺伝子を利用できるものの場合は、効率的に本発明の酵母形質転換体を作製することができる。
(II)PHA合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子
PHA合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、上記一般式(1)で示される3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなるポリエステルを合成する合成酵素遺伝子が好ましく、上記式(2)で示される3−ヒドロキシ酪酸と上記式(3)で示される3−ヒドロキシヘキサン酸とを共重合してなる共重合ポリエステルP(3HB−co−3HH)の合成酵素遺伝子であることがより好ましい。
上記PHA合成酵素遺伝子として、例えば、特開平10−108682号公報に記載されているPHA合成酵素遺伝子を用いることができる。
また、第二の本発明においては、上記PHA合成酵素遺伝子と共に、アセトアセチル−CoA還元酵素遺伝子を用いる。アセトアセチル−CoA還元酵素遺伝子としては、アセトアセチル−CoAを還元し、(R)−3−ヒドロキシブチリル−CoAを合成する活性を有している酵素遺伝子であればよく、例えば、ラルストニア・ユートロファ(GenBank:AAA21973)、シュードモナスsp.61−3(GenBank:T44361)、ズーグロエア・ラミゲラ(GenBank:P23238)、アルカリジェネス・ラタスSH−69(GenBank:AAB65780)由来の酵素遺伝子などが利用できる。
更に、上記遺伝子に加えて、他のPHA合成に関与する遺伝子を用いることができる。他のPHA合成に関与する遺伝子としては、たとえば、β酸化経路の中間体のエノイル−CoAを(R)−3−ヒドロキシアシル−CoAに変換する(R)体特異的エノイル−CoAヒドラターゼ(Fukui T.等、FEMS Microbiology Letters、170:69−75(1999)、特開平10−108682号公報)や、アセチル−CoAを二量化して3−ヒドロキシブチリル−CoAを合成するβケトチオラーゼ(Peoples OP等、J.Biol.Chem.264:15298−15303(1989))、3−ケトアシル−CoA−アシルキャリアープロテイン還元酵素遺伝子(Taguchi K.等、FEMS Microbiology Letters、176:183−190(1999)などが挙げられる。特に、(R)−3−ヒドロキシヘキサノイル−CoAを合成する活性を有している酵素遺伝子が好ましい。
本発明は、PHA合成酵素遺伝子(phaC)とアセトアセチル−CoA還元酵素遺伝子(phbB)を同時に用いるものである。
本発明では、アエロモナス・キャビエ由来のphaC(特開平10−108682公報、Fukui T.等、FEMS Microbiology Letters、170:69−75(1999))とラロストニア・ユートロファ由来のphbB(GenBank:J04987)を用いることができ、上記phaCとしては、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるアエロモナス・キャビエ由来の酵素又は変異体をコードするものが好ましく、上記phbBとしては、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるラルストニア・ユートロファ由来の酵素又は変異体をコードするものが好ましい。
これらの遺伝子は、実質的な酵素活性を有する限り、当該遺伝子の塩基配列に欠失、置換、挿入等の変異が生じていても良いものとする。但し、異種遺伝子の場合、宿主酵母内で機能を持つ蛋白質に効率的に翻訳されるという保証はないため、アミノ酸コドンを最適化することが望ましい。
なお、第一の本発明で上述したように、キャンディダ・マルトーサを宿主として異種遺伝子を発現させる場合、原則としてロイシンコドン(CUG)のみ変換することが好ましく、さらに効率よく発現させるため他のアミノ酸コドンをキャンディダ・マルトーサのものに合わせても良い。
PHA合成酵素遺伝子は、アミノ酸配列を改変し、酵素活性・基質特異性・熱安定性などの性質の改良された変異体を取得・作製し利用することができる。有用な変異の方法は種々知られているが、特に分子進化工学的手法(特開2002−199890号公報)などが、迅速に所望の変異体を得られることから有用性が高い。これらの手法を利用して、過去、いくつかの合成酵素変異体が見出され、大腸菌において野生型酵素より活性が向上することが確認されている(T.Kichise等 Appl.Environ.Microbiol.68,2411−2419(2002)、AmaraA.A.等 Appl.Microbiol.Biotechnol.59,477−482(2002))。
また、コンピュータ上で酵素遺伝子の立体構造、または予想される立体構造を基に、有用なアミノ酸変異を特定することも、例えばプログラムShrike(特開2001−184831号公報)などを用いて可能である。本発明におけるphaCとしては、例えば、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素遺伝子のアミノ酸配列に、これらの手法を利用して得られる、以下の(a)〜(h)いずれかのアミノ酸置換を少なくとも一つ以上行ったPHA合成酵素変異体をコードするものを用いることができる。
(a)Asn−149をSer
(b)Asp−171をGly
(c)Phe−246をSerまたはGln
(d)Tyr−318をAla
(e)Ile−320をSer、AlaまたはVal
(f)Leu−350をVal
(g)Phe−353をThr、SerまたはHis
(h)Phe−518をIle
ここで、例えば、「Asn−149」というのは、配列番号5のアミノ酸配列において149番目のアスパラギンを意味し、(a)のアミノ酸置換は149番目のアスパラギンをセリンに変換することを意味する。
phaC、phbBとしては、第一の本発明で例示した配列番号2、3のものが挙げられるが、これらに限定されず、当該酵素遺伝子のアミノ酸配列がキャンディダ・マルトーサ内で発現される塩基配列であれば、いかなる塩基配列でも用いることができる。
phaC、phbBを細胞質基質(サイトゾル、cytosol)で発現させる場合にはこのまま用いるが、これらの遺伝子をペルオキシソームに局在させる遺伝子に改変して使用することもできる(WO03/033707)。
phaC、phbBをペルオキシソームに局在させる方法しては、第一の本発明で記載した方法を用いることができる。
また、N末端付近に存在する9つのアミノ酸配列「(アルギニン/リジン)(ロイシン/バリン/イソロイシン)(5アミノ酸)(ヒスチジン/グルタミン)(ロイシン/アラニン)」もペルオキシソーム配向シグナルとして知られている。これらの配列をコードするDNAをPHA合成に関与する遺伝子に挿入、付加することによっても、同酵素遺伝子をペルオキシソームに局在させることができる。
更に、ミトコンドリアでphaC、phbBが発現するように、これらの遺伝子をミトコンドリアに配向させる遺伝子に改変し使用することもできる。これらの遺伝子をミトコンドリアに局在させるためには、アミノ末端にミトコンドリアに局在して発現している蛋白質を結合させればよい。例えばチトクロームオキシダーゼやTCAサイクル関連酵素などが挙げられる。例えば、ミトコンドリアに局在して発現している蛋白質のアミノ末端から15残基以上、望ましくは40残基以上をコードする遺伝子を、PHA合成に関与する遺伝子の5’側上流にフレームがずれないように結合させた遺伝子を用いればよい。この時付加する融合遺伝子とPHA合成に関与する遺伝子の間にアミノ酸残基の不必要な衝突を避けるためのリンカー配列を挿入することもできる。融合遺伝子に使用する遺伝子は、本発明の形質転換に用いる宿主酵母由来のものが好ましいが、特に限定されるものではない。
これら、サイトゾル、ペルオキシソーム、ミトコンドリアに配向するように設計された遺伝子は単独で用いることもできるが、二種以上を用いることもできる。phaC、phbBとしては、ペルオキシソーム配向シグナルが付加されているものが好ましい。
(III)遺伝子発現カセット
本発明に用いるPHA合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の発現カセットは、当該遺伝子の5’側上流にプロモーター、5’上流域活性化配列(UAS)等のDNA配列を連結し、当該遺伝子の3’下流にポリA付加シグナル、ターミネーター等のDNA配列を連結して作製することができる。
本発明においては、PHA合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子に、酵母で機能するプロモーター及びターミネーターが接続されていることが好ましい。
使用するプロモーター、ターミネーターは酵母で機能するものであればどのような配列でも利用できる。プロモーターには構成的に発現を行うものや誘導的に発現を行うものがあるが、いずれのプロモーターも用いてもよい。上記プロモーターとしては、形質転換体の培養に用いる炭素源に強い活性を持つプロモーターが好ましい。例えば、油脂などを炭素源として用いる場合にはプロモーターとしては、第一の本発明で記載したもの等を用いることができる。
また、ターミネーターとしてはキャンディダ・マルトーサのALK1遺伝子のターミネーターALK1t(WO01/88144)等を用いることができる。なお、上記プロモーター及び/又はターミネーターの塩基配列は、使用宿主で機能する配列であれば、1つ若しくは複数個の塩基が欠失、置換及び/又は、付加された塩基配列であってもよい。
本発明においては、上記プロモーター、ターミネーターが、キャンディダ属で機能するものであることが好ましく、キャンディダ・マルトーサで機能するものであることがより好ましく、上記プロモーター、ターミネーターがキャンディダ・マルトーサ由来であることが更に好ましい。
本発明の好ましい形態において、上記プロモーターは、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたPHA合成酵素遺伝子、並びに、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の5’上流にそれぞれ連結され、ターミネーターは、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたPHA合成酵素遺伝子、並びに、ペルオキシソーム配向シグナルをコードするDNAが付加されたアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の3’下流に、それぞれ連結される(WO03/033707)。
プロモーターとターミネーターとをphaC、phbBに連結し、本発明の遺伝子発現カセットを構築する方法は、特に限定されるものではなく、第一の本発明と同様の方法が使用できる。
(IV)形質転換体
上記発現カセットの酵母1細胞当たりの導入数は、本発明における望ましい形態において用いたARRプロモーターを利用した場合であっても、炭化水素や脂肪酸・油脂等の炭素源下で強く遺伝子発現が誘導されるものの1コピーでは不十分であり、phaCの発現カセットの数とphbBの発現カセットの数は、何れかが2コピー以上必要であることが本発明により示された。宿主のPHA合成の基質供給量が律速とならない限り導入する発現カセットの数に制限はなく、多い方が望ましい。好ましい発現カセット数は、用いるプロモーターの種類にもよるが、プロモーターARRpを用いた場合、共に2コピー以上導入することが好ましく、共に3コピー以上導入することがより好ましい。
この発現カセットは、酵母内において自律複製可能なベクターに挿入して宿主酵母に導入することができる。また、宿主酵母染色体に挿入することもできる。両導入法は同時に用いることもできる。
ベクターを用いて宿主酵母に導入する場合は、例えば、キャンディダ・マルトーサにおいて自律増殖可能なpUTU1(M.Ohkuma,et
al J.Biol.Chem.,vol.273,3948−3953(1998))などのベクター中に発現カセットを複数挿入した発現ベクターを作製すればよい。
発現カセットを染色体に挿入する方法を用いる場合は、例えば、相同的組換えが利用できる。相同的組換えの中でも、自然復帰しない導入株が取得できるという点で、遺伝子置換法が好ましい。遺伝子置換法による発現カセットの染色体への挿入には、まず発現カセットと選択マーカーとなる遺伝子を結合させ、次いで発現カセットと選択マーカーとなる遺伝子を結合させたDNAの両端に、導入する染色体上の遺伝子と相同な配列を持つ遺伝子断片を結合させたDNA(遺伝子導入用DNA)を用いることができる。
発現カセットなどを挿入させる染色体上の部位は、宿主に回復不可能な影響を与えない限り、特に制限はない。遺伝子導入用DNAの両端に結合させた、導入する染色体上の遺伝子との相同性領域長は、好ましくは10塩基以上、より好ましくは200塩基以上、更に好ましくは300塩基以上である。また、両端それぞれの相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。即ち、遺伝子配列の解析されている部位においては、当該遺伝子をそのまま利用することができるし、遺伝子配列が未知であっても遺伝子配列の知られた近縁種酵母の染色体遺伝子配列を利用することができる。
相同性が低く相同組換えが起こりにくい場合には、染色体上の導入部位の遺伝子をクローニングして使用することができる。染色体上の導入部位の遺伝子をクローニングするためには、染色体遺伝子の全配列が解析されているサッカロミセス・セレビシエや、キャンディダ・アルビカンスの配列を元にPCR用プライマーを設計し遺伝子増幅を行えばよい。また、第一の本発明と同様に、導入対象酵母染色体DNAライブラリーを利用することもできる。
遺伝子導入用DNA中の発現カセットの数には限定が無く、作製可能であればいくつでもよい。
遺伝子導入用DNA中の選択マーカー遺伝子としては、上述のように栄養要求性を相補する遺伝子を選択マーカー遺伝子として用いることができる。また、シクロヘキシミドやG418あるいはハイグロマイシンBなどの耐性を付与する遺伝子を用いることもできる。これらの選択マーカー遺伝子は、後述の分子内相同組換えにより自然欠失可能な形態にして利用する事も可能である。この場合、選択マーカー遺伝子の回復が可能であるので、何度でも同じ選択マーカー遺伝子を用いた遺伝子導入用DNAを導入することができ、形質転換株の作製を簡便に行うことができる。
これらの発現カセットを酵母宿主に導入するための遺伝子導入用DNAは、大腸菌などにおいて自律増殖するプラスミドなどを用いて、当業者に公知の方法で作製することができる。一例としては、後述の実施例1に記載のURA3破壊用DNA−1中に選択マーカー遺伝子としてHIS5遺伝子を挿入し、URA3遺伝子断片部位との間にphaCの発現カセット及びphbBの発現カセットを挿入すると、ヒスチジン要求性をマーカーとして、酵母染色体上のURA3部位に特異的に目的遺伝子を挿入させる遺伝子導入用DNAを作製することができる。
遺伝子導入用DNAを含むプラスミドは、第一の本発明と同様な方法で調製することができる。このプラスミドを直接酵母の形質転換に用いることができるが、精製したベクターより染色体導入領域を含む相同性のある部分を適当な制限酵素で切り出し、それを遺伝子導入用DNAとして利用するのが望ましい。PCR法を用いて増幅して使用することも可能である。
酵母の形質転換法には、第一の本発明で例示した方法が挙げられ、本発明では電気パルス法が好ましい。宿主株よりコンピテント細胞を調製し、遺伝子導入用DNAと共に電気パルス後、選択マーカー遺伝子を含まない形質転換体が増殖しない培地で培養し、出現するコロニーより目的の染色体部位に遺伝子導入用DNAが挿入された株をスクリーニングする。
目的遺伝子導入株のスクリーニングも、第一の本発明と同様の方法で行うことができる。
上記の方法を用いて、phaC発現カセット及びphbB発現カセットの導入を目的発現カセット数になるまで行うことにより、本発明の形質転換体が作製できる。
本発明の実施例で用いた多重栄養要求性遺伝子破壊株を使用する代わりに、野性株や栄養要求性を1つしか持たない株を用いても本発明のPHA合成に関与する遺伝子を複数回導入した酵母形質転換体を取得することができる。例えば、選択マーカー遺伝子として薬剤耐性マーカー遺伝子を用いて遺伝子導入用DNAを導入する場合、形質転換株の選択に用いる薬剤の濃度を、遺伝子導入用DNAで形質転換するごとに上昇させればよい。また、1回の形質転換後に染色体に導入された選択マーカー遺伝子を除去すれば、再び遺伝子導入のマーカーとして使用することができ、多数の遺伝子導入用DNAを導入することができる。この方法は、例えば特開2002−209574号公報に記載の遺伝子破壊法などが利用できる。更に、選択マーカー遺伝子の両端にhisG遺伝子断片をそれぞれ挿入することで、遺伝子導入を行った後に、分子内相同組換えにより挿入したマーカー遺伝子を除去する事が出来る形に遺伝子導入用DNA作製することもできる(Alani等 Genetics、116:541−545(1987))。
本発明で得られたポリエステル生産株の1つであるCM313−X2B株(受託番号:FERM BP−08622)は、2004年2月13日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
(V)選択マーカーの回復方法
本発明の選択マーカーの回復方法は、選択マーカー遺伝子としてADE1遺伝子を持つキャンディダ・マルトーサで分子内相同組換えを行うことにより、当該ADE1遺伝子を除去することを特徴とするものである。当該ADE1遺伝子を除去することにより、更に形質転換を行う場合、ADE1遺伝子を再び選択マーカー遺伝子として用いることができる。
これまで、サッカロミセス・セレビシエなどで分子内相同組換えにより選択マーカー遺伝子を除去することは公知であったが、キャンディダ・マルトーサにおいて分子内相同組換えにより選択マーカー遺伝子を除去する方法は、知られていなかった。選択マーカー遺伝子としては、上述のように、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性を相補する遺伝子を用いることができ、例えばADE1遺伝子、URA3遺伝子、HIS5遺伝子等が挙げられるが、本発明においては、選択マーカー遺伝子の除去がカラー選択可能なADE1遺伝子を用いる。
本発明の方法においては、ADE1遺伝子に相同な遺伝子を結合させたものでも分子内相同組換えにより当該ADE1遺伝子を除去することができるが、ADE1遺伝子の上流または下流にADE1遺伝子の一部分を結合させたものの方が、作製が容易であり、余分な遺伝子を酵母染色体に残さない点で好ましい。
選択マーカー遺伝子の分子内相同組換えに用いる遺伝子断片に特に制限はなく、選択マーカー遺伝子が実質的に機能しない遺伝子断片を用いればよい。本発明の実施例においてはADE1遺伝子の5’末端部分の遺伝子断片を用いたが、3’末端部分の遺伝子断片を用いることもできる。選択マーカー遺伝子に連結させるマーカー遺伝子断片は、好ましくは10塩基以上、より好ましくは200塩基以上、更に好ましくは300塩基以上である。即ち、上記(IV)に記載の、遺伝子導入用DNA中の選択マーカー遺伝子の5’末端あるいは3’末端にマーカー遺伝子断片を挿入すればよい。本発明の方法において、ADE1遺伝子は、配列番号7で示される塩基配列からなるものが好ましい。配列番号7で示される塩基配列は、candida maltosa由来のものである。この方法は、ADE1遺伝子以外のマーカー遺伝子にも応用できる。
図4に分子内相同組換えによるマーカーの回復の模式を示す。図4において、括弧内の数字は、ADE1遺伝子のGenBankに登録されている配列の5’末端からの番号を示している。
分子内相同組換えにより、挿入した選択マーカー遺伝子が除去された株は種々の方法で濃縮・選択することができる。例えば、ナイスタチン濃縮法を利用することができる。適当な培地にて培養した菌体を最少培地等に植菌し培養する。菌を洗浄し、窒素源不含最少培地で培養後、窒素源含有最少培地で短時間培養する。この培養液に直接ナイスタチンを添加し、1時間、30℃で好気的に培養することにより、マーカー遺伝子を有する株を優先的に殺傷できる。この菌液を適当な寒天培地プレートに塗抹し、30℃で2日間程度培養する。除去する選択マーカー遺伝子がアデニン要求性を示すADE1遺伝子である場合は、ADE1遺伝子を破壊すると前駆体物質が蓄積し、酵母が赤く染まるため、アデニン含有最小培地寒天プレートを用いれば赤色コロニーとして得られる。マーカー遺伝子がURA3遺伝子の場合には、ウリジンあるいはウラシルと5−FOA(5−Fluoro−Orotic−Acid)の共存下の培地で生育してくるコロニーを選択すればよい。このような選択法がない場合は、レプリカ法を用いることができる。
(VI)ポリエステルの物性コントロール法
また、本発明のポリエステルの分子量を制御する方法は、酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の数を制御することを特徴とするものである。
また、本発明のポリエステルのヒドロキシアルカン酸組成を制御する方法は、酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子の数を制御することを特徴とするものである。
すなわち、本発明の目的産物であるポリエステルのヒドロキシアルカン酸組成と分子量は、phaCとphbBの発現量を調節することによってコントロールすることができる。それぞれ同じプロモーターを用いたphaCの発現カセット及びphbBの発現カセットを用いた場合、ヒドロキシヘキサン酸の組成を高くするためには、phbBの発現カセットの導入数に対して、phaCの発現カセットの導入数を高くすることによって行うことができる。また、分子量を増加させるためには、phaCの発現カセットの導入数に対して、phbBの発現カセットの導入数を高くすることによって行うことができる。
このような特性を持つ形質転換体は、上述の(IV)に記載の方法により作製することができる。また、発現カセットの導入数が同じ場合でも、用いるプロモーターの強さを変えることによって、ヒドロキシアルカン酸組成と分子量の制御を達成できる。
(VII)培養精製
本発明のポリエステルの製造方法は、上記酵母形質転換体を培養して得られる培養物から、ポリエステルを採取することを特徴とするものである。
PHA合成酵素遺伝子及びphbBの発現カセットで形質転換された酵母の培養は、第一の本発明で述べた、形質転換された酵母を培養方法と同様に行うことができる。
ポリエステルの菌体からの回収は、多くの方法が報告されており、例えば、第一の本発明で述べた方法を用いることができる。
得られたポリエステルの分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法などにより行うことができる。重量平均分子量の測定には、GPC法が利用できる。例えば、回収した乾燥ポリマーを、クロロホルム溶解したのち、この溶液をShodex K805L(昭和電工社製)を装着した島津製作所製GPCシステムを用いクロロホルムを移動相として分析する事が出来る。分子量標準サンプルには市販の標準ポリスチレンなどが使用できる。
本発明の遺伝子破壊によって作製された複数のマーカーを有する酵母は、遺伝子組換え用宿主として、高効率な遺伝子発現や遺伝子の発現産物の製造に用いることが期待できる。更に、遺伝子破壊によるマーカーを付加することも可能であり、より優れた宿主の開発に繋がる。また、本発明により、生分解性かつ優れた物性を有する、3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなる共重合ポリエステルを酵母において効率的に生産することが可能になった。更に、共重合ポリエステルの物性を制御することも可能となった。また、酵母において複数回の遺伝子導入を効率的に行うことが可能となった。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例にその技術範囲を限定するものではない。
なお、酵母菌の培養用に使用した試薬は、特に断らない限り和光純薬から販売されているものを用いた。
また、本発明の実施において、多くの市販のキットを用いたが、特に断らない限り添付の使用説明書に従って行った。
(培地組成)
LB培地:10g/Lトリプトン、5g/L酵母エキス、5g/L食塩。LBプレートの場合は、寒天を16g/Lになるように加える。
YPD培地:10g/L酵母エキス、20g/Lポリペプトン、20g/Lグルコース。YPDプレートの場合は、寒天を20g/Lになるように加える。アデニン含有YPD培地の場合は、アデニンを0.1g/L加える。
YM培地:3g/L酵母エキス、3g/Lマルトエキス、5g/Lバクトペプトン、10g/Lグルコース。
SD培地:6.7g/Lアミノ酸不含イーストニトロジェンベース(YNB)、20g/Lグルコース。アデニン含有培地の場合はアデニンを24mg/L添加する。ウリジン含有培地の場合はウリジンを0.1g/L添加する。ヒスチジン含有培地の場合はヒスチジンを50mg/L添加する。SDプレートの場合は寒天を20g/Lになるように加える。
M培地:0.5g/L硫酸マグネシウム、0.1g/L食塩、0.4mg/Lチアミン、0.4mg/Lピリドキシン、0.4mg/Lパントテン酸カルシウム、2mg/Lイノシトール、0.002mg/Lビオチン、0.05mg/L塩化鉄、0.07mg/L硫酸亜鉛、0.01mg/Lホウ酸、0.01mg/L硫酸銅、0.01mg/Lヨウ化カリウム、87.5mg/Lリン酸2水素カリウム、12.5mg/Lリン酸1水素2カリウム、0.1g/L塩化カルシウム、20g/Lグルコース。硫酸アンモニウム含有M培地の場合は、1g/L硫酸アンモニウムを加える。硫酸アンモニウム及びアデニン含有M培地の場合は、M培地に1g/Lの硫酸アンモニウムと24mg/Lのアデニンを加える。硫酸アンモニウム及びアデニン・ウリジン含有M培地の場合は、M培地に1g/Lの硫酸アンモニウムと24mg/Lのアデニンと0.1g/Lのウリジンを加える。硫酸アンモニウム及びアデニン・ヒスチジン含有M培地の場合は、M培地に1g/Lの硫酸アンモニウムと24mg/Lのアデニンと50mg/Lのヒスチジンを加える。硫酸アンモニウム及びアデニン・ウリジン・ヒスチジン含有M培地の場合は、M培地に1g/Lの硫酸アンモニウムと24mg/Lのアデニンと0.1g/Lのウリジンと50mg/Lのヒスチジンを加える。
M2培地(12.75g/L硫酸アンモニウム、1.56g/Lリン酸2水素カリウム、0.33g/Lリン酸1水素カリウム・3水和物、0.08g/L塩化カリウム、0.5g/L塩化ナトリウム、0.41g/L硫酸マグネシウム・7水和物、0.4g/L硝酸カルシウム・7水和物、0.01g/L塩化鉄(III)・4水和物)に、2w/v%パームオイルと塩酸に溶解したトレースエレメント(1g/mL硫酸鉄(II)・7水和物、8g/mL硫酸亜鉛(II)・7水和物、6.4g/mL硫酸マンガン(II)・4水和物、0.8g/mL硫酸銅(II)・5水和物)0.45ml/Lを添加する。炭素源として、油脂を20g/L添加する。
酵母の液体培養は、50ml試験管、500ml坂口フラスコ、2L坂口フラスコあるいはミニジャーを用いて行った。50ml試験管の場合300rpm、500ml坂口フラスコの場合100〜110rpm、2L坂口フラスコの場合90〜100rpmで振とう培養した。培養温度は、液体培養とプレート培養ともに30℃である。
(制限酵素処理)
制限酵素処理は、メーカーの推奨する反応条件、あるいはSambrook等編、Molecular cloning:A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載の方法に従って行った。
(実施例1)相補ベクター、破壊用遺伝子及びマーカー回復型破壊用遺伝子の作製
東京大学より分与されたURA3遺伝子をマーカーとして持つキャンディダ・マルトーサ用ベクターであるpUTU−1を、配列番号8及び9に記載のプライマー(del−sal−5,del−sal−3)を用いて、Stratagene社製クイックチエンジキットにより、URA3遺伝子中のSalI制限酵素サイトを破壊したベクターpUTU−delsalを作製した。このpUTU−delsalから、SalIとXhoIでURA3遺伝子を切り出し、切り出した断片を再びpUTU−1のXhoIサイトに導入したプラスミドpUTU−2を作製した。pUTA−1(WO01/88144に記載)上のADE1遺伝子を、pUTU−2のXhoIサイトにクローニングし、pUTU−2−Adeを作製した。pUTU−1のマルチクローニングサイトのSalIサイトに、pUC119にクローニングされていたHIS5遺伝子をクローニングし、pUTU1−Hisを作製した。更に、pUTU−2−AdeのマルチクローニングサイトのSalIサイトに、HIS5遺伝子をクローニングし、pUTU−2−Ade−Hisを作製した。
pUC19のマルチクローニングサイトをNotI−SphI−SalI−XhoI−NheI−SwaI−EcoRIに変更したプラスミドpUC−NxのSphI−SalIサイトに、URA3遺伝子の5’末端部分約350baseを、配列番号10及び11に記載のプライマー(ura−sph−5,ura−sal−3)を用いて、プラスミドpUTU−delsalより増幅しクローニングした。このベクターのNheI−SwaIサイトに、URA3遺伝子の3’末端部分約460baseを、配列番号12及び13に記載のプライマー(ura−nhe−5,ura−swa−3)を用いて、PCR増幅しクローニングした。このようにして、URA3破壊用DNA−1を含むプラスミドを作製した。
次に、URA3破壊用DNA−1を含むプラスミドのSalI−XhoIサイトに、pUTA−1のADE1遺伝子全長を、配列番号14及び15に記載のプライマー(ade−sal−5,ade−xho−3)を用いてPCR増幅・挿入して、URA3破壊用DNA−2を含むプラスミドを作製した。
URA3破壊用DNA−3(マーカー回復型)を含むプラスミドは、ADE1遺伝子の5’末端部分約630baseを、配列番号16及び17に記載のプライマー(ade−xho−5,ade−nhe−3)を用いてPCR増幅し、URA3破壊用DNA−2を含むプラスミドのXhoI−NheIサイトにクローニングして完成させた。
HIS5破壊用DNA(マーカー回復型)を含むプラスミドは、pUC119にクローニングされているHIS5遺伝子の5’末端部分約500baseを配列番号18及び19に記載のプライマー(his−sph−5,his−sal−3)を用いて、HIS5遺伝子の3’末端部分約560baseを配列番号20及び21に記載のプライマー(his−nhe−5,his−swa−3)を用いて、URA3破壊用DNA−3を含むプラスミドのSphI−SalIサイト、NheI−SwaIサイトを入れ替える形で、それぞれ順次クローニングする事により作製した。
(実施例2)AC16株のURA3遺伝子破壊
AC16株を10mlの大試験管でYPD培地で終夜培養した。この前培養した酵母を1ml/100ml坂口フラスコとなるようYM培地に植菌し、6時間培養後、集菌した。菌を20mlの1M Sorbitolに懸濁し、3回洗浄した。最後に菌体を1M Sorbitol 0.5mlに懸濁し、コンピテント細胞とした。このコンピテント細胞0.1mlに、実施例1のURA3破壊用DNA−2を含むプラスミドをSphIとSwaIで制限酵素処理したDNAを0.1mg加え、電気パルス法による遺伝子導入を行った。電気パルスをかけた後、キュベットに1M Sorbitolを1ml入れ、氷冷下1時間放置し、SDプレートに蒔いた。出現したコロニーより、染色体抽出キットのジェントルくん(宝酒造社製)を用いて染色体DNAを抽出した。得られた染色体DNA5μgずつを、3種類の方法ScaI、EcoT14I、ScaI+EcoT14Iで制限酵素処理して切断し、0.8%アガロースゲルで電気泳動を行った。Molecular cloning:A Laboratory Manual、Second Edition 9.31−9.57、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に従って、ゲルからハイボンドN+フィルター(アマシャム社製)に1晩トランスファーした。サザンブロット検出用プローブは、URA3遺伝子内の配列であるScaI−NdeI断片(340bp)を、GeneImageラベリング・検出キット(アマシャム社製)で酵素標識したものを用いた。ハイブリダイズ後、洗浄し、同キットの蛍光発色試薬でDNAバンドを検出した。検出バンドを野生株IAM12247のものと比較したところ、野性株では約570bpのバンドを示すScaI+EcoT14I処理したDNAが新たにADE1遺伝子のURA3遺伝子中への挿入を示す1840bpのバンドも示す株を選択した。この株は、ScaIやEcoT14I処理のバンドでも理論値を示し、URA3遺伝子の一つがADE1遺伝子により正確に破壊されたと確認された。
次に、この株より上記と同様に調製したコンピテント細胞に、URA3破壊用DNA−2を含むプラスミドを配列番号10及び13に記載のプライマーでPCR法により増幅したDNAを0.5mg加え、上記と同様に電気パルス法による遺伝子導入を行った。パルスをかけた後にYM培地100mlに植菌し、1晩培養した。菌体を回収し、M培地(硫酸アンモニウムなし)で1晩培養した。菌体回収後、M培地(硫酸アンモニウム有り)に移し、6時間晩培養後に、ナイスタチンを終濃度0.01mg/mlになるように加え、更に1時間培養した。菌体を洗浄し、菌体をアデニン入りSDプレートにスプレッドした。出現した赤色コロニーよりゲノムDNAを抽出した。ここで得られたアデニン要求性株のゲノムは、配列番号22及び23に記載のプライマーura3−5とura3−3を用いて増幅を行ったところ、元株でインタクトなURA3遺伝子の0.9kbpの増幅と共に増幅する2.3kbpのDNAが消失し、代わりに0.7kbpのDNAが増幅した。配列番号24及び25に記載のプライマーadeY110−5とadeY1670−3を用いて増幅を行ったところ、1.0kbpのDNAのみが増幅した。これらのことから、部位特異的に1つ目のURA3遺伝子破壊に用いたADE1遺伝子全領域が特異的に除去されていると判断した。このアデニン要求性株の内の一株をU−1株と命名し、以下の実験に用いた。
次に、U−1株を用いて得られたクローンを用いて、コンピテント細胞を調製した。このコンピテント細胞0.1mlに、URA3破壊用DNA−3を含むプラスミドを制限酵素SphIとSwaIで処理し精製したDNAを0.04mg加え、電気パルス法による遺伝子導入を行った。この菌体を、ウリジンを含むSDプレートにスプレッドし、30℃でインキュベートした。出現したコロニーを、SDプレートとウリジンを含むSDプレートにレプリカし、ウラシル要求性株を選択した。これより染色体DNAを回収し、配列番号22及び23に記載のプライマーura3−5とura3−3を用いてPCR増幅を行ったところ、インタクトなURA3遺伝子の0.9kbpのバンドが消失し、代わりにURA3破壊用DNA−3のサイズである2.9kbpが増幅していた。配列番号24及び25に記載のプライマーadeY110−5とadeY1670−3を用いて増幅を行ったところ、元株では増幅しないADE1遺伝子1.5kbpが増幅した。これらのことから、URA3遺伝子特異的に破壊用遺伝子3が導入され、URA3遺伝子が全て破壊され、ウラシル要求性を獲得したものと判断した。得られた株の栄養要求性は、ベクターpUTU−2で相補されることを確認した。このウラシル要求性株をキャンディダ・マルトーサU−35と命名した。
次に、キャンディダ・マルトーサU−35株をYPD培地10mlで終夜培養した。集菌後、M培地(硫酸アンモニウムなし)で1晩培養した。菌体回収後、ウリジン含有M培地(硫酸アンモニウムあり)に移し、7時間晩培養後にナイスタチンを終濃度0.01mg/mlになるように加え、更に1時間培養した。菌体を洗浄後、アデニン及びウリジン含有M培地(硫酸アンモニウムあり)で1晩培養した。菌体を回収し、M培地(硫酸アンモニウムなし)で1晩培養後、ウリジン含有M培地(硫酸アンモニウムあり)に移して7時間培養し、先ほどと同様にナイスタチン処理を行い、アデニン及びウリジンを含むSDプレートにスプレッドした。培養後、得られた赤色コロニーを、SDプレート、ウリジンを含むSDプレート、並びにアデニン及びウリジンを含むSDプレートにレプリカし、アデニンとウラシルの両栄養要求性を示すクローンであることを確認した。この株よりゲノムDNAを抽出し、配列番号22及び23に記載のプライマーura3−5とura3−3を用いてPCR増幅を行ったところ、URA3遺伝子にADE1遺伝子が導入された2.9kbpのバンドが消失し、代わりにURA3遺伝子中にADE1遺伝子断片が残ったサイズである1.2kbpが増幅していた。配列番号24及び25に記載のプライマーadeY110−5とadeY1670−3を用いて増幅を行ったところ、親株では増幅するADE1遺伝子1.5kbpが増幅したが、得られた栄養要求性株は、元々のADE1破壊遺伝子のサイズである1.0kbpのバンドのみを認めた。これらのことから、URA3遺伝子中のADE1遺伝子とADE1遺伝子断片が同一遺伝子内で相同組換えにより自然にADE1遺伝子を失ったものであり、簡便に遺伝子マーカーが回復されることが示された。このアデニン・ウラシルの2重栄養要求性株をキャンディダ・マルトーサUA−354と命名した。
(実施例3)AC16株のHIS5遺伝子破壊とマーカーの回復法
実施例2で作製したU−1株よりコンピテント細胞を調製し、HIS5破壊用DNAを含むプラスミドを制限酵素SphIとSwaIで処理し精製したDNA0.04mgを加え、電気パルス法による遺伝子導入を行った。条件は実施例2と同じである。この菌体を、ヒスチジン含有SDプレートにスプレッドし、30℃でインキュベートした。出現したコロニーよりゲノムDNAを回収した。HIS5遺伝子中の破壊用遺伝子のHIS5遺伝子と相同性のある部分のフランキング部位のプライマー、即ち破壊用遺伝子には含まれていないHIS5遺伝子のプライマーであるhis−sal2とhis−1900(配列番号26及び27)を用いてゲノムDNA増幅を行ったところ、インタクトなHIS5遺伝子のサイズである1.9kbpのバンドと共にHIS5破壊用DNAのサイズである3.4kbpが増幅する株を選択した。
この株を用い、実施例2に示した方法と同様の方法でナイスタチン濃縮を行った。アデニン含有SDプレートにスプレッドし、得られた赤色コロニーよりゲノムDNAを抽出し、プライマーhis−sal2とhis−1900(配列番号26及び27)を用いてゲノムDNA増幅を行ったところ、インタクトなHIS5遺伝子のサイズである1.9kbpのバンドのみの増幅を認め、破壊用遺伝子を含んだサイズである3.4kbpは増幅しなかった。プライマーade−xho−5とhis−swa−3(配列番号16及び21)を用いてPCR増幅を行ったところ、HIS5遺伝子にADE1遺伝子断片が結合した1.2kbpのバンドが増幅していた。このことから、得られたアデニン要求性株は、リバータントではなく、分子内相同組換えの結果得られたものであると確認された。
次に、得られたアデニン要求性株よりコンピテント細胞を調製し、HIS5破壊用DNAを含むプラスミドを制限酵素SphIとSwaIで処理し精製したDNA0.05mgを加え、電気パルス法による遺伝子導入を行った。この菌体を、ヒスチジンを含むSDプレートにスプレッドし、30℃でインキュベートした。出現コロニーを、SDプレートとヒスチジンを含むSDプレートにレプリカし、ヒスチジン要求性株を得た。得られたヒスチジン要求性株よりゲノムDNAを抽出し、プライマーhis−sal2とhis−1900(配列番号26及び27)を用いてゲノムDNA増幅を行ったところ、親株で増幅する破壊されたHIS5遺伝子のサイズである1.9kbpのバンド以外に破壊用遺伝子を含んだサイズである3.4kbpが増幅する株を選択した。この株は、プライマーhis−sal2とade−xho−3(配列番号26及び15)を用いたPCRにより、HIS5遺伝子中にADE1遺伝子が組み込まれたことを確かめた。このヒスチジン要求性株をキャンディダ・マルトーサCH−I株と命名した。
CH−I株を用い、実施例2に示した方法と同様の方法でナイスタチン濃縮を行った。アデニン及びヒスチジン含有SDプレートにスプレッドし、得られた赤色コロニーよりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAをプライマーhis−sal2とhis−1900(配列番号26及び27)を用いてゲノムDNA増幅を行ったところ、すべての株で親株の破壊されたHIS5遺伝子のサイズである1.9kbpのバンドのみの増幅を認め、破壊用遺伝子を含んだサイズである3.4kbpは増幅しなかった。ヒスチジン及びアデニン要求性を、SDプレート、ヒスチジン含有SDプレート、並びにアデニン及びヒスチジン含有SDプレートにレプリカする事で確認し、アデニン・ヒスチジンの2重栄養要求性株の完成とした。この内の1株をキャンディダ・マルトーサAH−I5株と命名した。
次に、AH−I5株よりコンピテント細胞を調製し、URA3破壊用DNA−3を含むプラスミドを制限酵素SphIとSwaIで処理し精製したDNAを0.025mg加え、電気パルス法による遺伝子導入を行った。この菌体を、ウリジンとヒスチジンを含むSDプレートにスプレッドし、30℃で2日間インキュベートした。出現コロニーを、ヒスチジンを含むSDプレートと、ウリジンとヒスチジンを含むSDプレートにレプリカし、ウラシル要求性株を選択した。これより染色体DNAを回収し、プライマーura3−5とura3−3(配列番号22及び23)を用いてPCR増幅を行ったところ、インタクトなURA3遺伝子の0.9kbpのバンドが消失し、代わりに破壊用遺伝子のサイズである2.9kbpの増幅を確認した。このヒスチジン・ウラシル2重要求性株の内の1つを、キャンディダ・マルトーサHU−591と命名した。
HU−591株を用い、実施例2に示した方法と同様の方法でナイスタチン濃縮を行った。アデニン、ヒスチジン及びウリジン含有SDプレートにスプレッドし、得られた赤色コロニーよりゲノムDNAを抽出した。プライマーura3−5とura3−3(配列番号22及び23)を用いてPCR増幅を行い、URA3遺伝子にADE1遺伝子が導入された2.9kbpのバンドが消失し、代わりにURA3遺伝子にADE1遺伝子断片が残ったサイズである1.2kbpが増幅している株を選択した。ウラシル、ヒスチジン及びアデニン要求性を、アデニン、ヒスチジン及びウリジン含有SDプレート、ヒスチジン及びウリジン含有SDプレート、アデニン及びウリジン含有SDプレート、アデニン及びヒスチジン含有SDプレート、アデニン含有SDプレート、ヒスチジン含有SDプレート、ウリジン含有SDプレート、及びSDプレートにレプリカする事で確認し、アデニン・ヒスチジン・ウラシルの3重栄養要求性株を完成した。この株をキャンディダ・マルトーサAHU−71と命名した。
マーカー回復型破壊用遺伝子を用いた場合、アデニン要求性株の出現頻度は、アデニン破壊用DNAを用いた場合と同程度であるが、目的株取得までに要する時間は約半分に短縮することができた。更に、破壊遺伝子の導入時の目的外部位への挿入を考えなくても良く、解析も容易であった。
この実施例に示されるように、分子内相同組換えを用いて簡便にマーカー遺伝子を回復することができることが示された。
(実施例4)油脂資化能の確認
最終的に完成した3重栄養要求性株であるAHU−71株を用いて、油脂を炭素源としたときの生育に問題がないことを確認するために、ジャー培養を実施した。AHU−71株にプラスミドpUTU2−Ade−Hisを形質転換し、SDプレートにコロニーを形成させた。対照としてはAC16株にプラスミドpUTA−1を形質転換したものを用いた。種母は、150mlのSD培地を用い、坂口フラスコで培養し、調製した。ジャー培養は、マルビシ社製3Lジャーファーメンターに1.8LのM2培地を仕込んで行った。温度は32℃、攪拌数は500rpmとし、通気量は1vvmとした。炭素源はパーム核オイルを、培養開始より11時間目までは1.9ml/hで、24時間目までは3.8ml/hで、それ以降は5.7ml/hでフィードした。経時的に10mlの培養液をサンプリングし、メタノールで洗浄後、乾燥させ、ドライ菌体量を測定した。図2に示すように、AHU−71株は、AC16株と同様の生育を示した。このことより、本株が油脂資化能を損なうことなく遺伝子破壊が出来ていることが確認された。
(実施例5)ポリエステルの合成に関与する酵素遺伝子発現カセットの構築
キャンディダ・マルトーサでポリエステル合成酵素を発現させるために、それぞれの5’上流にキャンディダ・マルトーサ由来プロモーターを、3’下流にターミネーターを連結した。プロモーターとしては、ALK2遺伝子(GenBank:X55881)のプロモーターの上流にARR配列を付加したプロモーターARRpを、3’下流には共にキャンディダ・マルトーサのALK1遺伝子(GenBank:D00481)のターミネーターALK1tを連結した。ARRpは、東京大学より分与された遺伝子(配列番号4)のPstIサイトにEcoRI−XhoIリンカーを結合させ、EcoT14Iサイトに配列番号28に示した合成DNAを結合させることにより、XhoI及びNdeIで切り出すことの出来る形に変換した。pUAL1(WO01/88144)をEcoRIで切断後、平滑末端化しライゲーションを行うことにより、EcoRI切断部位を除去したpUAL2を作製した。pUAL2をPuvII/PuvIで切断し、pSTV28(宝酒造社製)のSmaI/PuvIIサイトに結合させ、pSTAL1を作製した。このpSTAL1をEcoRI/NdeIで切断し、先に述べたARRpと結合させ、pSTARRを作製した。
配列番号2に記載のphaCac149NSがペルオキシソームに配向するように、カルボキシ末端にペルオキシソーム配向シグナルを付加した。付加したペルオキシソーム配向シグナルとしては、カルボキシ末端にSer−Lys−Leu(SKL)のアミノ酸を使用した。次に、pUCNTにクローニングされていたphaCac149NSを鋳型にして、配列番号29と30のプライマーを用いて遺伝子増幅し、pSTARRのNdeI、PstIサイトに結合させ、pSTARR−phaCac149NSを構築した。配列番号31から35のプライマーを使用し、塩基配列を確認した。塩基配列決定は、PERIKIN ELMER APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー310 Genetic Analyzerを用いた。
次に、化学合成したキャンディダ・マルトーサ用にコドンを変換した配列番号3に記載のラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha、H16株、ATCC17699)由来のアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子(phbB)のカルボキシ末端に、ペルオキシソーム配向シグナルを配列番号36及び37に記載のプライマーで増幅することにより付加し、次に、上記のpSTARRのNdeI、PstIサイトに結合させ、pSTARR−phbBを構築した。塩基配列は、上記と同様の方法で確認した。
キャンディダ・マルトーサ用ベクターであるpUTA−1のSalIサイトに、pSTARR−phaCac149NSよりSalIとXhoIで切り出した合成酵素発現カセットを2個導入し、pARR−149NSx2を作製した。
更に、このベクターのSalIサイトに、pSTARR−phbBよりSalIとXhoIで切り出したphbB発現カセットを1個導入し、pARR−149NSx2−phbBを作製した。
キャンディダ・マルトーサの染色体上の破壊されたHIS5遺伝子部分に、異種遺伝子を導入するための導入用DNAを、実施例1に記載のHIS5破壊用DNAを用いて作製した。HIS5破壊用DNAをSalIとXhoIで切断し、ADE1遺伝子を除去し、代わりにpUTU−delsalからSalIとXhoIで切断したURA3遺伝子を導入したプラスミドを作製した。このベクターのSalIサイトに、上記のpSTARR−phaCac149NSよりSalIとXhoIで発現カセットを切り出し、結合させた。次に、このプラスミドのXhoIサイトに、pSTARR−phaCac149NSよりSalIとXhoIで発現カセットを切り出し結合させ、導入用DNA−1を含むプラスミドを作製した。
さらにpSTARR−phbBよりSalIとXhoIで切り出したphbB発現カセットを、導入用DNA−1を含むプラスミドのXhoIサイトに結合させ、導入用DNA−2を含むプラスミドを作製した。
キャンディダ・マルトーサの染色体上の破壊されたURA3遺伝子部分に、異種遺伝子を導入するための導入用DNAを、実施例1に記載のURA3破壊用DNA−1を含むプラスミドを用いて作製した。URA3破壊用DNA−1を含むプラスミドのSalI−XhoIサイトに、配列番号38及び39に記載のプライマーでPCR増幅したHIS5遺伝子を導入したプラスミドを作製した。このプラスミドのSalIサイトに、上記のpSTARR−phaCac149NSよりSalIとXhoIで発現カセットを切り出し、結合させた。次に、このベクターのXhoIサイトに、pSTARR−phbBよりSalIとXhoIで発現カセットを切り出し、結合させ、導入用DNA−3含むプラスミドを作製した。このSalIサイトに、phaC発現カセットの代わりに、phbBの発現カセットを結合させた導入用DNA−4を含むプラスミドも作製した。
作製した、遺伝子導入用DNA−1〜4の略図を図3に示した。図3において、括弧内の数字は、それぞれ用いた遺伝子断片のGenBankに登録されている遺伝子の5’末端からの番号を示している。ADE1遺伝子:D00855、URA3遺伝子:D12720、HIS5遺伝子:X17310である。太枠部位は、染色体DNAとの相同部位を示している。
(実施例6)組換え株の構築
実施例3において作製したキャンディダ・マルトーサAHU−71株を用い、実施例2に記載の方法で電気導入用コンピテント細胞を調製した。このコンピテント細胞に、制限酵素NotIとSwaIで処理した0.05mgの導入用DNA−1及び2を電気導入し、アデニン及びヒスチジン含有SDプレートにスプレッドした。出現したコロニーより染色体DNAを調製し、配列番号26及び27で示されるプライマーを用いてPCRを行った。破壊されたHIS5遺伝子に相当する1.9kbpの遺伝子の他に、導入用DNA−1及び2に相当する大きさの遺伝子が増幅するコロニーをHIS5遺伝子部位に導入された株として選択した。更に、種々のプライマーを用いたPCRにより、これら導入した遺伝子に欠失がないことなどを確認した。
次に、これらの株より、同様に電気導入用コンピテント細胞を調製した。このコンピテント細胞に、制限酵素NotIとSwaIで処理した0.05mgの導入用DNA−3及び4を電気導入し、アデニン含有SDプレートにスプレッドした。出現したコロニーより染色体DNAを調製し、配列番号22及び23で示されるプライマーを用いてPCRを行った。破壊されたURA3遺伝子に相当する0.7kbp及び1.2kbpの遺伝子の内、どちらかの遺伝子の増幅を認めず、代わりに導入用DNA−3及び4に相当する大きさの遺伝子が増幅するコロニーをURA3遺伝子部位に導入された株として選択した。更に、種々のプライマーを用いたPCRにより、これら導入した遺伝子に欠失がないこと等を確認した。
キャンディダ・マルトーサAC16株に、実施例5で作製したpARR−149NSx2−phbBを形質転換し、phaCac149NS発現カセットが2コピー、phbB発現カセットが1コピー挿入された株をA株とした。キャンディダ・マルトーサAHU−71株に、導入用DNA−1と4を用いて作製した、染色体上にphaCac149NS発現カセットが2コピー、phbB発現カセットが2コピー挿入された株をB株とした。キャンディダ・マルトーサAHU−71株に、導入用DNA−1と3を用いて作製した、染色体上にphaCac149NS発現カセットが3コピー、phbB発現カセットが1コピー挿入された株をC株とした。キャンディダ・マルトーサAHU−71株に、導入用DNA−2と3を用いて、染色体上にphaCac149NS発現カセットが3コピー、phbB発現カセットが2コピー挿入された株をD株とした。C株にpARR−149NSx2−phbBを形質転換し、phaCac149NS発現カセットが5コピー、phbB発現カセットが2コピー導入されたE株を作製した。D株にpARR−149NSx2−phbBを形質転換し、phaCac149NS発現カセットが5コピー、phbB発現カセットが3コピー導入された株されたF株を作製した。導入用DNA−2と4を用いて作製した染色体上にphaCac149NS発現カセットが2コピー、phbB発現カセットが3コピー挿入された株にpARR−149NSx2−phbBを形質転換し、phaCac149NS発現カセットが4コピー、phbB発現カセットが4コピー導入された株されたG株を作製した。このG株をCM313−X2Bと命名し国際寄託(FERM BP−08622)した。同様にコントロールとして、キャンディダ・マルトーサAC16株にpUTA−1を形質転換した株(control−1)、pARR−149NSx2を形質転換した株(control−2)も作製した。作製した株の概要を表1に示した。
Figure 2005085415
(実施例7)組換え株を使用したポリマー生産
ポリマー生産に必要な遺伝子を導入したキャンディダ・マルトーサ組換え株を次のように培養した。培地はSD培地を前培養に、炭素源としてパーム核油を含むM2培地を生産培地として使用した。各組換え株のグリセロールストック500μlを、50mlの前培地が入った500ml坂口フラスコに接種して、20時間培養し、300mLの生産培地を入れた2L坂口フラスコに10v/v%接種した。これを培養温度30℃、振盪速度90rpm、2日間培養という条件で培養した。培養液から、遠心分離によって菌体を回収し、80mlの蒸留水に懸濁して超高圧ホモジナイザー(APV社製、Rannie2000、15000Psiで15分間)で破砕した後、遠心分離を行い、得られた沈殿物をメタノールで洗浄した後、凍結乾燥した。得られた乾燥菌体を粉砕し、1gを秤量した。これに、クロロホルムを100ml添加し、一晩攪拌して抽出した。濾過して菌体を除去し、ろ液をエバポレーターで10mlにまで濃縮し、濃縮液に約50mlのヘキサンを添加して、ポリマーを析出させ乾燥させた。得られたポリマーは、NMR分析(JEOL、JNM−EX400)にて組成分析を行った。重量平均分子量の測定は、回収した乾燥ポリマー10mgを、クロロホルム5mlに溶解したのち、この溶液をShodex K805L(300x8mm、2本連結)(昭和電工社製)を装着した島津製作所製GPCシステムを用いクロロホルムを移動相として分析した。分子量標準サンプルには市販の標準ポリスチレンを用いた。結果を表2に示した。
Figure 2005085415
上記結果より、本発明の新規遺伝子破壊酵母、新規変異株を用いることにより、極めて効率的にPHAを生産できることが明らかとなった。また、ポリエステル生合成に関与する遺伝子のいずれかを2コピー以上導入することが、ポリエステルの効率的な生産に極めて重要であること、発現カセットの導入数により分子量や組成が制御可能であることが明らかとなった。
本発明の遺伝子破壊によって作製された複数のマーカーを有する酵母は、遺伝子組換え用宿主として、高効率な遺伝子発現や遺伝子の発現産物の製造に用いることが期待できる。また、本発明により、生分解性かつ優れた物性を有する3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなる共重合ポリエステルを、酵母において効率的に生産することが可能になった。さらに、遺伝子破壊によるマーカーを付加することも可能であり、より優れた宿主の開発に繋がる。
本発明により、生分解性かつ優れた物性を有する上記一般式(1)で示される3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなる共重合ポリエステルを、酵母において効率的に生産することが可能になった。また、酵母において複数回の遺伝子導入を効率的に行うことが可能となった。
実施例において作製した破壊用DNAの簡単な模式図である。 新規遺伝子破壊酵母の増殖性を比較した図である。 実施例4において作製し、用いた遺伝子導入用DNA−1〜4の模式図である。 分子内相同組換えの模式図である。

Claims (36)

  1. URA3DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのURA3遺伝子が破壊されたウラシル要求性の遺伝子破壊酵母。
  2. HIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのHIS5遺伝子が破壊されたヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母。
  3. ADE1DNA断片及びURA3DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子及びURA3遺伝子が破壊されたアデニン及びウラシル要求性の遺伝子破壊酵母。
  4. ADE1DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたアデニン及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母。
  5. URA3DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのURA3遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたウラシル及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母。
  6. ADE1DNA断片、URA3DNA断片及びHIS5DNA断片との相同的組換えにより、染色体DNAのADE1遺伝子、URA3遺伝子及びHIS5遺伝子が破壊されたアデニン、ウラシル及びヒスチジン要求性の遺伝子破壊酵母。
  7. 酵母が、キャンディダ属、クラビスポラ属、クリプトコッカス属、デバリオマイセス属、ロデロマイセス属、メトシュニコウィア属、ピキア属、ロドスポリディウム属、ロドトルラ属、スポリディオボラス属、ステファノアスカス属、又はヤロウィア属のいずれかである請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子破壊酵母。
  8. 酵母がキャンディダ属である請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子破壊酵母。
  9. 酵母が、キャンディダ属のalbicans種、ancudensis種、atmosphaerica種、azyma種、bertae種、blankii種、butyri種、conglobata種、dendronema種、ergastensis種、fluviatilis種、friedrichii種、gropengiesseri種、haemulonii種、incommunis種、insectrum種、laureliae種、maltosa種、melibiosica種、membranifaciens種、mesenterica種、natalensis種、oregonensis種、palmioleophila種、parapsilosis種、psudointermedia種、quercitrusa種、rhagii種、rugosa種、saitoana種、sake種、schatavii種、sequanensis種、shehatae種、sorbophila種、tropicalis種、valdiviana種、又はviswanathii種のいずれかである請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子破壊酵母。
  10. 酵母がキャンディダ・マルトーサ(maltosa)である請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子破壊酵母。
  11. キャンディダ・マルトーサU−35(FERM P−19435)である請求項1記載のURA3遺伝子破壊酵母。
  12. キャンディダ・マルトーサCH−I(FERM P−19434)である請求項2記載のHIS5遺伝子破壊酵母。
  13. キャンディダ・マルトーサUA−354(FERM P−19436)である請求項3記載のADE1遺伝子及びURA3遺伝子破壊酵母。
  14. キャンディダ・マルトーサAH−I5(FERM P−19433)である請求項4記載のADE1遺伝子及びHIS5遺伝子破壊酵母。
  15. キャンディダ・マルトーサHU−591(FERM P−19545)である請求項5記載のURA3遺伝子及びHIS5遺伝子破壊酵母。
  16. キャンディダ・マルトーサAHU−71(FERM BP−10205)である請求項6記載のADE1遺伝子及びURA3遺伝子及びHIS5遺伝子破壊酵母。
  17. 同種又は異種の遺伝子を含むDNA配列で形質転換された請求項1〜16のいずれか1項に記載の遺伝子破壊酵母の形質転換体。
  18. 請求項17に記載の形質転換体を培養して得られる培養物から、同種又は異種の遺伝子発現産物を採取することを特徴とする、遺伝子発現産物の製造方法。
  19. 遺伝子発現産物がポリエステルであることを特徴とする、請求項18記載の遺伝子発現産物の製造方法。
  20. ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子とが導入されている酵母形質転換体であって、これら遺伝子の両方又は何れかが2コピー以上導入されていることを特徴とする酵母形質転換体。
  21. ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子に、ペルオキシソーム配向シグナルが付加されている請求項20に記載の酵母形質転換体。
  22. ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子に、酵母で機能するプロモーター及びターミネーターが接続されている請求項20又は21記載の酵母形質転換体。
  23. 酵母が、キャンディダ属である請求項20から22のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
  24. 酵母がキャンディダ属のalbicans種、ancudensis種、atmosphaerica種、azyma種、bertae種、blankii種、butyri種、conglobata種、dendronema種、ergastensis種、fluviatilis種、friedrichii種、gropengiesseri種、haemulonii種、incommunis種、insectrum種、laureliae種、maltosa種、melibiosica種、membranifaciens種、mesenterica種、natalensis種、oregonensis種、palmioleophila種、parapsilosis種、psudointermedia種、quercitrusa種、rhagii種、rugosa種、saitoana種、sake種、schatavii種、sequanensis種、shehatae種、sorbophila種、tropicalis種、valdiviana種又はviswanathii種のいずれかである請求項20から22のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
  25. 酵母が、キャンディダ・マルトーサである請求項20から22のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
  26. ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子が、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるアエロモナス・キャビエ由来の酵素又は変異体をコードするものである請求項20から25のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
  27. アエロモナス・キャビエ由来のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子が、以下の(a)〜(h)いずれかのアミノ酸置換を少なくとも一つ以上行ったポリヒドロキシアルカン酸合成酵素変異体をコードするものである請求項26に記載の酵母形質転換体。
    (a)Asn−149をSer
    (b)Asp−171をGly
    (c)Phe−246をSerまたはGln
    (d)Tyr−318をAla
    (e)Ile−320をSer、AlaまたはVal
    (f)Leu−350をVal
    (g)Phe−353をThr、SerまたはHis
    (h)Phe−518をIle
  28. アセトアセチルCoA還元酵素遺伝子が、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるラルストニア・ユートロファ由来の酵素又は変異体をコードするものである請求項20〜27のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
  29. ポリヒドロキシアルカン酸が、下記一般式(1)で示される3−ヒドロキシアルカン酸を共重合してなる共重合体である請求項20〜28記載のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
    Figure 2005085415
    (式中、Rは、炭素数1〜13のアルキル基を表す。)
  30. ポリヒドロキシアルカン酸が、下記一般式(2)で示される3−ヒドロキシ酪酸と下記一般式(3)で示される3−ヒドロキシヘキサン酸とを共重合してなる共重合ポリエステルである請求項20〜28記載のいずれか1項に記載の酵母形質転換体。
    Figure 2005085415
    Figure 2005085415
  31. 請求項20〜30のいずれか1項に記載の酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造方法であって、前記酵母形質転換体を培養して得られる培養物から、ポリエステルを採取することを特徴とするポリエステルの製造方法。
  32. 請求項20から30のいずれか1項に記載の酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子の数を制御することによりポリエステルの分子量を制御する方法。
  33. 請求項20から30のいずれか1項に記載の酵母形質転換体を用いるポリエステルの製造において、酵母形質転換体のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子の数を制御することによりポリエステルのヒドロキシアルカン酸組成を制御する方法。
  34. 選択マーカー遺伝子としてADE1遺伝子を持つキャンディダ・マルトーサで分子内相同組換えを行うことにより、当該ADE1遺伝子を除去することを特徴とする選択マーカーの回復方法。
  35. ADE1遺伝子の上流または下流にADE1遺伝子の一部が連結されている請求項34記載の選択マーカーの回復方法。
  36. ADE1遺伝子が、配列番号7で示される塩基配列からなるものである請求項34又は35記載の選択マーカーの回復方法。
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