JP2011115815A - 機械部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】軟質の鋼材を用いても、製品の強度を十分に確保することができ、前記変形抵抗と部品強度との両立を図れる、冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法を提供する。
【解決手段】C含有量を0.06質量%以下の極低炭素領域に下げた軟質の機械構造用鋼を冷間鍛造して機械部品を製造するに際し、前記機械部品の部分的な高強度化領域に対応する素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量を高強度化のために必要な量に予め高めた上で、この部分的な高強度化領域に対して200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与する冷間鍛造を行い、前記機械部品の部分的な高強度化領域の強度を高めるとともに、前記機械部品形状とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、機械構造用鋼を冷間鍛造して機械部品を製造する方法に関するものである。
従来より、自動車等の車両に用いられている機械部品は、一般的に、機械構造用炭素鋼材や機械構造用低合金鋼材を熱間鍛造および切削加工することによって製造されている。これらの機械部品としては、コンロッド、クランクシャフト、等速ジョイント、トランスミッションギア、大型ねじ(ネジ)、歯車、プーリー、ボルト・ナット、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、バルブリフター、コモンレール、トーションバー等が例示される。
ただ、近年では、前記機械部品の製造において、生産性の向上や地球環境の問題から、前記熱間鍛造工程から冷間鍛造工程による製造への切り替えが指向されている。すなわち、大きな熱量を必要とする熱間鍛造から冷間鍛造への切り替えで、機械部品製造工程における炭酸ガス排出量の削減をすることができる。また、冷間鍛造によって加工した成形品の寸法精度は高いので、最終の部品形状に仕上げるための切削加工工程での切削代を少なくする、あるいは切削加工工程を省略でき、生産性の向上や製造コストの低減を図ることができる。
しかしながら、熱間鍛造によって製造していたコンロッドや大型ねじなどの機械部品を、冷間鍛造に切り替えて製造する場合、熱間鍛造に比べて冷間鍛造は変形抵抗が高い。このため、球状化焼鈍、強化に寄与する合金元素の低減によって変形抵抗を低減し、変形能を向上させる必要がある。ただし、通常の冷間鍛造用鋼では、変形抵抗に応じた部品強度しか得られないため、冷間鍛造後に焼入れ焼戻し、時効処理を施し、必要とされる部品強度を得ている。
一方、冷間鍛造ままで必要とされる部品強度を得るためには、ある程度変形抵抗の高い鋼材を用いる必要があるが、そのような鋼材は加工性が劣るため、金型寿命を大きく低減させたり、冷間鍛造中の機械部品に割れが生じやすくなる懸念があった。
つまり、変形抵抗と部品強度は相反する関係にあり、従来技術で変形抵抗と部品強度を両立させるためには、熱処理など工程を追加する必要があった。このため、機械部品の最終形状(仕上げ形状)の完成までに、冷間鍛造と軟化のための熱処理を複数回繰返す必要があるので、却って、製造工程が多くなったり、処理時間が増加する。この結果、冷間鍛造による機械部品の製造が、必ずしも前記生産性の向上やコスト低減、あるいは製造工程における炭酸ガス排出量の削減に結びついてはいなかった。
これに対して、従来から、冷間鍛造用鋼の鋼成分や鋼組織を制御して、冷間鍛造性を高めた鋼が種々提案されている。例えば、代表的には、素材鋼材の、特にSとO(酸素)の含有量などを制限し、また、鋼材に存在する、特定組成あるいは粗大な介在物あるいは非金属介在物を制限したり、MnSなどの形状を制御することが提案されている。また、冷間鍛造用鋼のフェライト・パーライト組織におけるセメンタイトの量を規制することなども提案されている。
しかしながら、これら従来の冷間鍛造用鋼の冷間鍛造性向上技術は、必要とされる部品強度を得るために、通常汎用される、0.3質量%以下で0.1質量%以上のC(炭素)を含む低炭素鋼あるいは0.3〜0.7質量%のCを含む中炭素鋼を対象としている。このため、冷間鍛造性を向上し得たとしても、前記熱間鍛造並の低い変形抵抗、高い加工性を得ることはやはり困難である。
鋼の変形抵抗を低下させ、変形能を向上させるためには、C(炭素)、Si、Mnなどの添加元素を低下させればよいことが知られている。しかしながら、単純に添加元素を低減し、変形抵抗を低下させると、工具の寿命は改善できるものの、冷間鍛造後に必要な部品強度が得られないという問題が生じる。そのため、従来、鋼を所定形状に冷間鍛造した後は、所定の硬度を確保するために焼入れ焼戻し処理などの熱処理が施されていた。
しかしながら、部品加工後に熱処理を施すと、部品寸法が変化してしまうため、更に部品加工を行わなければならない。生産性向上や省エネルギーのためには、所定の硬度を確保すると同時に、冷間鍛造後の熱処理やその後の加工を省略できるような解決策が望まれている。
このような背景の下、固溶N(固溶窒素)か窒化化合物(窒化物、N化合物)かの窒素の存在状態によって、冷間鍛造性(変形抵抗および変形能)と冷間鍛造後の強度とを両立させる試みが従来からなされてきた。
特許文献1は、冷間鍛造加工中の変形抵抗の増大を抑制するために、フェライト粒内に微細な窒化化合物を析出させ、これを核としてセメンタイトなどの炭化物を析出させることについて開示している。これより、固溶Nおよび固溶炭素を窒化化合物および炭化物として固定化し、加工中の動的ひずみ時効を抑制することによって、変形抵抗の増大を抑制することを開示している。
特許文献2は、Nおよび固溶Al量を制御してNをAlNとして固定し、さらに時効処理により炭素を炭化物として析出させることによって、炭素および窒素による時効硬化を抑制することを開示している。
上記の特許文献1及び2の方法では、動的ひずみ時効を抑制し、変形抵抗の増加を抑制するために、フェライト粒内に固溶Nおよび固溶炭素を窒化化合物および炭化物として固定化している。固溶Nおよび固溶炭素を固定化するためには、Alを添加する必要がある。実施例のようにAlが0.039〜0.045%あれば、窒素量が0.015%であっても、固溶Nは殆ど存在しないものと考えられる。
特許文献3は、Cr添加による固溶軟化による鋼材の硬さの低下とAl添加による固溶Nの固定化で、冷間加工時の変形抵抗を低減する方法が開示されている。しかしながら、当該方法でもAlを添加することで固溶Nが固定化されているために、上記の特許文献1及び2と同様に固溶Nは殆ど存在しないと考えられる。
冷間加工後の冷間加工部品では、所定の硬度を確保するために硬化熱処理、例えば焼入れ焼戻しが行われることがあるが、上述したように、生産性向上および省エネルギーの観点から、焼入れ焼戻しを省略することが求められている。例えば、特許文献4では、冷間鍛造後の発熱温度から常温まで50〜70℃/hrの冷却速度で冷却することにより、冷間鍛造後の時効処理(焼入れ焼戻し)を省略できることを開示している。
しかし、前記した通り、冷間鍛造加工性と冷間鍛造後の硬さは相反する性質であり、従来、これらの双方ともが良好な冷間加工用鋼は得られていない。これに対して、特許文献5では、予め素材鋼材に、固溶Nを所定量以上含有させ、冷間加工後の硬さを上昇させ、且つ高速冷間加工により、固溶Nの弊害を抑制して良好な冷間加工性を維持し、冷間加工後の焼入れ焼戻しを省略しても、冷間加工後の鋼部品の硬さを向上させることを提案している。
具体的には、高速冷間加工用鋼として、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.005〜0.6%、Mn:0.05〜2%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、およびN:0.04%以下(0%を含まない)を含有し、残部は鉄および不可避的不純物からなり、鋼中の固溶N量が0.006%以上であることとしている。
特許第3515923号公報 特開昭60−82618号公報 特公昭57−60416号公報 特開2003−266144号公報 特開2008−163410号公報
しかし、特許文献5でも、冷間加工後の焼入れ焼戻しを省略するための必要な強度を得るための、予め素材鋼材全体の固溶N量を高くした場合には、やはり冷間鍛造性が低下する。これは、固溶N量が高い素材鋼材の全体に亙って、動的ひずみ時効の影響が顕著になるため、強度の増加代よりも変形能の劣化が顕著になり、冷間鍛造中の製品に割れが発生しやすくなるからである。
このため、冷間鍛造性向上を図るために、C含有量を0.06質量%以下の極低炭素領域に下げた軟質の鋼材を用いた場合に、前記機械部品(冷間鍛造製品)に要求される強度を十分に確保することができる製造技術は、これまで無かったのが実情である。
本発明はかかる問題に鑑みなされたものであって、前記軟質の鋼材を用いても、製品の強度を十分に確保することができ、前記変形抵抗と部品強度との両立を図れる、冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法を提供する。
この目的を達成するための本発明機械部品の製造方法の要旨は、質量%で、C:0.005〜0.06%、Si:0.005〜0.05%、Mn:0.4〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05%、Al:0.005〜0.1%、N:0.008〜0.02%を各々含み、残部は鉄および不可避不純物からなる機械構造用鋼を冷間鍛造して機械部品を製造するに際し、前記機械部品の部分的な高強度化領域に対応する、前記冷間鍛造前の前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域を予め決定し、この部分的な高強度化領域の固溶N量を前記高強度化のために必要な量に予め高めた上で、少なくともこの部分的な高強度化領域に対して200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与する冷間鍛造を行い、前記機械部品の部分的な高強度化領域の強度を高めるとともに、前記機械部品形状とすることである。
ここで、前記機械部品の部分的な高強度化領域とは、前記機械部品において他の部分よりも高強度化が必要な部分の意味である。また、前記冷間鍛造前の素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域とは、前記冷間鍛造によって前記機械部品の部分的な高強度化領域となる領域である。ただ、この部分的な高強度化領域が、冷間鍛造性を阻害しない範囲で、それ以外の(高強度化が不要な)部分を含んで、前記部分的な高強度化領域よりも面積が大きくても良い。また、一方で、前記機械部品における高強度化が保証されるなら、この部分的な高強度化領域が、必ずしも、前記機械部品における部分的な高強度化領域全てを含む必要は無く、前記部分的な高強度化領域よりも面積が小さくても良い。本発明では、これらの意味を込めて、前記冷間鍛造前の前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域を、前記機械部品の部分的な高強度化領域に対応する、と記載している。
また、前記冷間鍛造の際には、前記冷間鍛造前の素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域に対して、200℃以下の雰囲気温度での塑性ひずみ(歪)付与が必要であり、それ以外の部分に対しては、この条件を外れても良い。すなわち、前記部分的な高強度化領域に対する悪影響を与えなければ、200℃を超える雰囲気温度となってもよく、塑性ひずみが与えられない部分があっても良い。したがって、本発明では、これらの意味を込めて、この冷間鍛造の際に少なくとも前記部分的な高強度化領域に対して200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与すると記載している。
本発明では、好ましい態様として、前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量を0.008〜0.014%の範囲とするとともに、この部分的な高強度化領域に付与される冷間鍛造塑性ひずみを0.5〜5の範囲とする。また、好ましい態様として、前記部分的な高強度化領域の固溶N量を、変形抵抗(DR)、部品強度(Hv)、疲労強度(F)のいずれかに基づいたモデル式か、又は予め取得した経験値から求める。また、好ましい態様として、前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量を、この部分的な高強度化領域の熱処理によって高める。
本発明では、極低炭素で軟質な鋼材を冷間鍛造用素材に用いるに際して、前記機械部品において強度が必要な部分のみ固溶N量(固溶窒素量)を増加させ、冷間鍛造の塑性ひずみによって部分的に高強度化させる。この際、他の部分は全体として、元の固溶N量、すなわち元の軟質な冷間鍛造用鋼材のままとして、冷間鍛造性を確保する。言い換えると、この強度が必要な部分を熱処理するなどして、強度増加に必要な固溶N量に、部分的に固溶N量を増加させる。そして、この固溶N量が増加した部分領域への冷間鍛造塑性ひずみの付与によって、この部分(強度が必要な部分)の強度を前記必要強度にまで増加させる。本発明では、このような素材冷間鍛造用鋼材の固溶N量を部分的に増加させるものであり、前記特許文献5のように、素材冷間鍛造用鋼材全体の固溶N量を予め高くして、強度増加のために冷間鍛造性を犠牲にすることが無い。
極低炭素で軟質な冷間鍛造用鋼材は、通常は冷間鍛造しても、変形抵抗に応じた部品強度しか得られない。しかし、本発明者らの知見によれば、冷間鍛造時に前記固溶Nによって動的ひずみ時効を生じさせた場合、通常よりも可動転位が多く生成し、冷間鍛造時の発熱とその後の冷却によって、加工後に静的ひずみ時効が発生することが明らかになった。すなわち、鋼材の加工硬化代に、固溶Nによる静的ひずみ時効の強化代が相乗して付与されるため、通常の変形抵抗以上に、機械部品強度を高めることができる。しかも、元の固溶N量のままとした、他の部分は全体として通常の変形抵抗代しか強度が増加せず、冷間鍛造性を確保できる。
したがって、本発明によれば、C含有量が0.06質量%以下の極低炭素領域にある軟質の鋼材を冷間鍛造によって機械部品とするに際し、製品の強度を十分に確保することができ、前記変形抵抗と部品強度との両立を図ることができる。
本発明における冷間鍛造の工程を順に示したフローチャートである。 本発明による大型ねじ(機械部品)の製造工程を順に示した説明図である。
本発明の機械部品の製造方法について、以下に図面を用いて具体的に説明する。本発明では、前記した従来より熱間鍛造あるいは冷間鍛造により製造されてきた種々の機械部品に適用できるが、以下の説明では、大型ねじを代表的な例として説明する。
図1は、本発明における冷間鍛造の工程(機械部品の製造方法の手順)を順に示したフローチャートを示している。図2は、本発明による大型ねじの製造工程(機械部品の製造方法の手順)を順に示している。
以下の、この図1、2 に基づく、機械部品の製造方法の説明においては、設計段階の内容説明も含んでおり、後述するS1:製品形状決定工程〜S4:材料性状決定工程までが設計段階(加工前段階)であり、S5以降が具体的な加工段階となる。
S1:製品形状決定工程
図1及び図2に示すように、まず、大型ねじ1を製造するにあたっては、S1:製品形状決定工程のように、大型ねじ1の製品形状Aを決定する。すなわち、冷間鍛造後(強度増加後)に機械加工が施されるが、この機械加工終了後の大型ねじ1の形状、即ち、製品にしたときの大型ねじ1の製品形状Aを製作図面中から決定する。なお、この形状はユーザからの要求により決まることが多い。
S2:冷間鍛造前形状決定工程
次に、S2:冷間鍛造前形状決定工程として、前記製品形状決定工程S1で決定した製品形状Aに、冷間鍛造中の鋼材の流れを考慮することで、冷間鍛造前形状Bを決定する。例えば、冷間鍛造工程では、ねじ部とヘッド部の鋼材が移動する量(例えば、鋼材の体積から計算される)の寸法を加算することによって、前記冷間鍛造前形状Bが決定される。
より具体的には、この工程S2では、点線で示す大型ねじ1における製品輪郭線(製造後の輪郭線)に、各箇所の機械加工代(例えば、数mm)の寸法を加算して、冷間鍛造後の輪郭線(強度増加後輪郭線)を求め、冷間鍛造によって形成できる冷間鍛造前形状Bを決定する。強度増加前形状(ひずみ前形状)を決定し、この強度増加前形状(幅や高さ、体積等)から、大型ねじ1の元になる丸棒3の直径、長さ等を決定して、材料の初期形状を決める。
部分的な高強度化領域:
ここで、前記製品形状A(機械部品)の、他の部分よりも高強度化が必要な、部分的な高強度化領域に対応する、冷間鍛造前の素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域も予め決定する。機械部品が前記大型ねじ1とすると、高強度化が必要な部分は大型ねじ1の軸部およびねじ部の領域である。この大型ねじ1の軸部およびねじ部の部分的な高強度化領域に対応する冷間鍛造前の素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域とは、図2の素材機械構造用鋼形状Bにおける、S3で黒塗りされた部分である。
図2のS3で黒塗りされた部分(素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域)は、大型ねじ1の軸部およびねじ部の領域とほぼ一対一に対応している。言い換えると、冷間鍛造によって、ほぼ大型ねじ1の軸部およびねじ部の領域となるように、大きさと位置とが設定されている。ただ、前記した通り、素材機械構造用鋼におけるこの部分的な高強度化領域が、冷間鍛造性を阻害しない範囲で、それ以外の(高強度化が不要な)部分を含んでも良い。また、一方で、前記機械部品における高強度化が保証されるなら、この部分的な高強度化領域が、必ずしも、前記機械部品における部分的な高強度化領域全てを含む必要は無い。
S3:強度増加代決定工程(強度増加のための固溶N量決定工程)
本発明では、前記素材機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量の制御と、この部分的な高強度化領域に付与される冷間鍛造による塑性ひずみ(歪)の制御とによって、機械部品における部分的な高強度化領域の必要強度を得る。このうち、先ず、S3:強度増加代決定工程として、前記冷間鍛造前形状決定工程S2で決定した冷間鍛造前形状Bに、強度が必要な部分に対して冷間鍛造時に付与される塑性ひずみ量εに基づき、固溶N量を決定する。この好ましい塑性ひずみ量εについては後述する。ここで、固溶N量は、前記部分的な高強度化領域の、機械部品の高強度化領域に対応する部分のみ高めればよいが、冷間鍛造性を阻害しない範囲で、他の箇所の固溶N量を増加させても良い。
例えば、前記大型ねじ1において、前記ねじの軸部およびねじ部に強度が必要な場合、必要とされる強化代を計算することによって、このねじの軸部およびねじ部の領域(高強度化領域、高強度化が必要な部分)で必要とされる固溶N量が決定される。このS3:強度増加代決定工程では、強度が必要な部分(部分的な高強度化領域)に対して、予め意図的あるいは強制的に、かつ、この高強度化領域に対応する素材領域のみ、部分的に固溶N量を増加させて、この部分のYS(降伏強度)、TS(引張強度)を冷間鍛造によって増加させる。即ち、この高強度化領域での強度を増加させることを意図して、予め必要な固溶N量を計算している。
前記素材の部分的な高強度化領域の固溶N量の決定には、変形抵抗(DR)、部品強度(硬度Hv)、疲労強度(F)のいずれかに基づいたモデル式か、又は予め取得した経験値を用いる。ここで、前記モデル式としては、例えば下記式(1)〜(4)に示したモデル式を用いて前記固溶N量を決定する。
固溶N量=f-1(要求される降伏強度−鋼材の降伏強度) ・・・(1)
固溶N量=g-1(要求される引張強度−鋼材の引張強度) ・・・(2)
固溶N量=h-1(要求される硬度−鋼材の硬度) ・・・(3)
固溶N量=i-1(要求される疲労強度−鋼材の疲労強度) ・・・(4)
ここで、f、g:応力−固溶N量曲線、あるいは、変形抵抗−固溶N量曲線の関数、h:硬度−固溶N量曲線の関数、i:疲労強度−固溶N量曲線の関数である。
固溶Nによる強度向上メカニズム:
固溶Nによる強度向上メカニズムについて説明する。固溶Nは一般的に、侵入型固溶元素として鋼中に存在し、冷間鍛造などの塑性変形中に、動的ひずみ時効を発生させることによって、鋼材の変形抵抗を増加させ、変形能(加工性)を劣化させる問題がある。したがって、この種、冷間鍛造用鋼分野では、有害な不純物として扱われ、通常は、AlやTiなどで,窒化化合物として全量固定されることが行われてきた。
ところで、冷間鍛造用鋼におけるこのような変形能の劣化は、主に鋼中の硬質相(例えばパーライト)と軟質相(例えばフェライト)の界面で生じることが発明者の検討によって明らかとなった。そこで、極低炭素鋼として、炭素量を著しく下げて、前記硬質相を極力低減することで、変形能を向上させることができた。また、変形抵抗の増加に関しても、固溶N量の動的ひずみ時効によるフェライトの強化によって、硬質相にひずみが入りやすくなり、結果として変形抵抗が高くなっている可能性が考えられた。このため、本発明のような極低炭素鋼では、炭素量を著しく下げて、前記硬質相を極力低減している結果、変形抵抗はある固溶N量の範囲ではあまり増加しないことが明らかになった。
一方、部品強度に関しても、通常の冷間鍛造用鋼では、変形抵抗に応じた部品強度しか得られないが、冷間鍛造時に固溶Nによって動的ひずみ時効を生じさせた場合、通常よりも可動転位が多く生成し、冷間鍛造時の発熱とその後の冷却によって、加工後に静的ひずみ時効が発生することが明らかになった。すなわち、鋼材の加工硬化代に固溶Nによる静的ひずみ時効の強化代が付与されるため、変形抵抗以上に部品強度を高めることができることが明らかになった。これによって、鋼材の強度を増加させたい部分のみ固溶N量を増加させることによって、強度のそれほど要求されない箇所の変形抵抗は、そのままで、結果的に下げることができ、部品強度の保証と冷間金型寿命向上とを両立させることができる。従来の技術のように、固溶N量を制御せずに、大型ねじ1を単に冷間鍛造するだけでは、前記した通り、製品として必要な強度が得られない箇所が出てくる。
強度向上に必要な固溶N量:
ここで、前記素材の部分的な高強度化領域の強度向上に必要な固溶N量(予め調整される固溶N量)は0.008〜0.014質量%である。この範囲に前記素材の部分的な高強度化領域の固溶N量を、冷間鍛造前に予め調整することで、変形抵抗をあまり上げず、固溶N量に応じた強化代を付与することが可能となる。
一方、前記固溶N量が0.008質量%未満の場合には、固溶Nが少なすぎて、冷間鍛造によっても十分な強化代が得られない。また、固溶N量が0.014質量%を超える場合には、動的ひずみ時効の影響が顕著になるため、強度の増加代よりも変形能の劣化が顕著になり、冷間鍛造中の製品に割れが発生しやすくなる。
固溶N量の測定方法:
本発明における固溶N量の測定方法は、JIS G1228に準拠し、鋼中の全N(全窒素)含有量から、全N(全窒素)化合物を差し引くことで鋼中の固溶N量を算出する。まず、鋼中の全N含有量測定には(a)不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定して、鋼中の全N含有量を算出する。
次に、鋼中の全窒化化合物量は(b)アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いる。供試鋼素材からサンプルを切り出し、10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部:メタノール)の中で、定電流電解を行なう。そして、約0.5gのサンプルを溶解させ、不溶解残渣(窒化化合物)を、穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。この不溶解残渣を硫酸、硫酸カリウム及び純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせる。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。フェノール、次亜塩素酸ナトリウム及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、吸光光度計を用いて吸光度を測定し、鋼中の全窒化化合物量を求める。
そして、前記(a)の方法によって求められた全N量から、前記(b)の方法によって求められた全窒化化合物量を差し引いて、固溶N量を求めることができる。
固溶N量の増加手段:
前記素材の部分的な高強度化領域の、強度向上に必要な固溶N量を増加させる(固溶N量を必要量確保する)手段は、窒化化合物として全量固定されているNの制御、すなわち、窒化化合物の析出量を制御することで行う。固溶Nは、特にAl、Ti、Nb、V、B、Hf、Ta、Zrなどと窒化化合物(窒素化合物)を形成しやすい。ただ、本発明製造方法の固溶N量を必要量確保する熱処理温度範囲では、支配的には、概ねAlと窒素との結合状態によって、固溶N量が決定される。前記Ti、Nb、V、B、Hf、Ta、ZrなどのAl以外の元素の窒化化合物は、本発明製造方法の前記熱処理温度範囲では、分解しにくく、生産性良く、固溶N量を必要量確保することがAlよりも難しい。したがって、本発明では、固溶N量の必要量の確保にAlを主として用いる。
このためには、前記S2:冷間鍛造前形状決定工程によって決定された、大型ねじ1の軸部およびねじ部の領域(図2の冷間鍛造前の素材機械構造用鋼形状BにおけるS3で黒塗りされた部分)=冷間鍛造前形状Bの(前記部分的な高強度化領域に対応する)部分的な高強度化領域に対して、後述する熱処理を行って、前記冷間鍛造時に付与される塑性ひずみ量εに基づき決定された固溶N量に調整する。
冷間鍛造で付与する塑性ひずみ量:
本発明では、前記した通り、前記素材の部分的な高強度化領域の固溶N量を、前記した0.008〜0.014%の範囲に制御するとともに、この部分的な高強度化領域に付与される冷間鍛造塑性ひずみを制御して、機械部品として必要な強度を得る。冷間鍛造によって、前記した鋼材の加工硬化代に、固溶Nによる静的ひずみ時効の強化代を付与して、前記素材の部分的な高強度化領域の強度を、変形抵抗以上に高めるためには、前記素材の部分的な高強度化領域の固溶N量の範囲を前提に、冷間鍛造塑性ひずみを0.5〜5の範囲とする。
この範囲の塑性ひずみを付与することで、鋼中に適度に可動転位が導入されるため、加工後の冷却中の静的ひずみ時効によって部品強度を向上させることができる。前記素材の部分的な高強度化領域に付与する塑性ひずみ量が0.5未満の場合、十分な強化代を付与することができない。なお、強化が必要な部位の塑性変形量が、通常の冷間鍛造工程において、0.5に満たない場合には、塑性加工代を予め加算し(その部分の鋼材量を予め増やしておく)、冷間鍛造を実施しても良い。
一方、前記素材の部分的な高強度化領域に付与する塑性ひずみ量が5を超える場合には鋼材の加工限界を超え、変形能が劣化し始めるため、部品に割れが生じやすくなり、冷間鍛造による部品加工ができなくなる。
前記塑性ひずみ量が0.5は、円柱状の鋼材の両端を拘束した状態から、円柱鋼材の高さが34%減少(元の高さに対して66%の高さ)するまで圧縮した時のひずみ量に相当する。前記塑性ひずみ量5は、同じように圧縮させた時に高さが99%減少するまで圧縮した時のひずみ量に相当する。したがって本発明では塑性ひずみの単位は無次元とする。ただし、各種部品において多軸方向からひずみが付与された場合には、単純に高さが減少する加工方法とは異なるため、より少ない変形量でも、大きなひずみが付与される場合がある。
なお、前記素材の部分的な高強度化領域以外の鋼材部分に付与する塑性ひずみ量は、この部分的な高強度化領域(高強度化領域)と同じとしても良いが、変えても良く、この場合には1以上8以下の範囲から選択することが好ましい。塑性ひずみ量が8よりも大きい場合、強度が上がりすぎて鋼材の加工能が劣化し、冷間鍛造では部品加工ができなくなる。また、付与する塑性ひずみ量が1未満であると、機械部品全体で十分な部品強度が得られなくなる。
S4:材料性状決定工程:
以上を前提として、S4:材料性状決定工程として、鋼材のN含有量との関係で、前記素材の部分的な高強度化領域を必要な固溶N量とするための、前記熱処理条件(熱処理手段、加熱速度、加熱温度、保持温度・時間、冷却速度など)を選択、決定する。
固溶N量−温度曲線の求め方は、Thermo-calcによる計算、溶解度積による計算、各温度で固溶N量を調整した鋼材を前記した抽出残渣法によって実測する方法などが用いられる。
この熱処理では、前記素材の部分的な高強度化領域(高強度化領域)のみを部分的に加熱して、元の鋼材中の存在形態であるAlNを分解して、前記素材の部分的な高強度化領域の固溶N量を高める方法がある。また、元々の鋼材の固溶N量を全体的に前記必要な量だけ高めておき、強度が必要でない部分にのみ熱処理を実施して、AlNを形成させることで、強度が必要でない部分のみ、固溶N量を低減させる方法がある。
AlNの結合状態は温度に依存する。加熱温度が高いほど、AlNは分解しやすく、加熱、保持後の冷却速度をある程度以上の速度(0.5℃/s以上)とすることで、冷却中にAlNを析出させず、固溶N量を設計どおりに調整することができる。
具体的な熱処理条件としては、予め焼ならした鋼材の前記部分的な高強度化領域(高強度化領域である大型ねじ1の軸部およびねじ部に相当する領域)のみを、加熱して700〜1100℃の範囲で保持および前記冷却速度で冷却することによって、鋼中に生成しているAlNをの一部を分解させて、固溶Nを必要量確保する。これによって、鋼材の前記部分的な高強度化領域のみを前記適量に固溶N量を増加、調整することができる。
このような部分的で、急速な加熱や冷却の熱処理に適した手段として、公知の高周波加熱手段が好適である。高強度化領域のみ、あるいは、強度が必要でない部分のみを、前記したように部分的に熱処理するためには、鋼材材料に対して部分的に適用できるとともに、急速に加熱(急熱)および急速に冷却(急冷)できる熱処理手段が必要となる。熱処理手段が鋼材全体に適用されたり(及んだり)、これら加熱速度や冷却速度が遅いと、熱伝導によって、鋼材全体が熱処理されて、前記部分的な固溶N量の制御が困難になる。
以上の工程設計の基に、図1、2では、S5〜S7の工程によって、冷間鍛造を中心とする機械部品の製造を行う。
S5:冷間鍛造前形状加工工程(予備加工工程)
大型ねじ1の元になる丸棒3の初期形状(直径、長さ等)が、冷間鍛造前の形状B(冷間鍛造に適した強度増加前形状、ひずみ前形状)となるように、S5として、予備の加工を行う。この予備の加工は、熱間鍛造、又は、切削などの機械加工により行う。
S6:材料性状処理工程
次いで、S6の材料性状処理工程(前記熱処理工程)によって、前記素材の部分的な高強度化領域(強度が必要な部分)の固溶N量を、前記した条件によって、高周波加熱などによる部分的な熱処理を行って制御する。
S7:強度増加工程(冷間鍛造工程)
このS6の材料性状処理工程(前記熱処理工程)後に、前記塑性ひずみを付与しながら冷間鍛造を行って、特に、前記素材の部分的な高強度化領域の強度を増加させるとともに、機械部品(製品)形状とする。この冷間鍛造(強度増加工程)は、前記冷間鍛造前形状Bの材料に対して、前記塑性ひずみ量が付与されて、前記素材の部分的な高強度化領域を必要な高強度とするとともに、図2の製品形状Aにする。
例えば、設計段階にて説明したように、この大型ねじ1においては軸部2の強度を増加させることから、強度増加工程S6では、軸部2にひずみを入れつつ冷間鍛造を行っている。詳しくは、この強度増加工程S6では、軸部2に対応するひずみ付与前輪郭線L4が鍛造後輪郭線(強度増加後輪郭線)L2に一致するように圧縮等(部分圧下)を行い、塑性ひずみを入れ、これにより、軸部2のTS(引っ張り強度)を増加させている。
冷間鍛造を行う方法については限定されず、軸方向への圧縮(圧縮部分圧下)を行ってもよいし、押し出し成形(押し出し型鍛造)を行ってもよいし、型鍛造を行っても良い。
冷間鍛造(冷間加工)時に、前記部分的な高強度化領域に対しては、200℃以下の雰囲気温度での塑性ひずみ付与が必要であり、材料の加工前温度を100℃未満とすることが好ましい。また、冷間鍛造時の加工発熱を抑制するために、前記部分的な高強度化領域を強制的に冷却しても良い。なお、それ以外の部分に対しては、この条件を外れても良い。すなわち、前記部分的な高強度化領域に対する悪影響を与えなければ、200℃を超える雰囲気温度となってもよく、塑性ひずみが与えられない部分があっても良い。
なお、上記説明では、予備加工工程S5を経てから強度増加工程(冷間鍛造工程)S7を行っているが、図2のS2の上側から伸びる矢印でに示すように、この予備加工工程S5を行わずに、前記冷間鍛造前形状決定工程S2で決定した丸棒2に対して、直接冷間鍛造工程S7を行ってもよい。この場合は、機械加工代が付与された形状となるように冷間鍛造を行いつつ、強度の必要な部分(例えば、軸部)に塑性ひずみ量εに応じたひずみ付与を行うことになる。
鋼材の組成:
機械部品の材料(素材)である鋼材の組成について以下に説明する。素材鋼材には、冷間鍛造によって前記塑性ひずみを付与するとTSやYSが向上する特性が必要である。特に、与える塑性ひずみに比例してTSが向上する特性が必要である。また、前記部分的な高強度化領域の固溶N量を前記高強度化のために必要な量に予め調整できるだけの全N含有量が必要である。更に、機械部品用としての強度、加工性、切削性、耐食性などの諸特性を満たすことも必要である。
このための鋼材の組成は、質量%で、C:0.005〜0.06%、Si:0.005〜0.05%、Mn:0.4〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05%、Al:0.005〜0.1%、N:0.008〜0.02%を各々含み、残部は鉄および不可避不純物からなる機械構造用鋼である。ここで記載元素含有量は全て質量%である。
C:0.005〜0.06%
Cは、鋼材の組織の形成に大きな影響を及ぼす元素であり、鋼材の組織をフェライト単相組織とするために、極力低減する必要がある。また、冷間鍛造時の変形抵抗および変形能に大きな影響を及ぼす元素であり、冷間鍛造性のために、極力低減することが望ましい。過剰に含有すると、鋼材の組織中にパーライトが生成し、パーライトの加工硬化によって変形抵抗が過大となって冷間鍛造性が悪化する。したがって、C含有量は0.06質量%とする必要があり、好ましくは0.055%以下、より好ましくは0.045質量%以下とする。しかし、C含有量が極端に少なくなると、鋼材の溶製中の脱酸が困難になるため、下限は0.005%とし、好ましくは0.008%以上、より好ましくは0.013%以上である。
Si:0.005〜0.05%
Siは、溶製中の脱酸元素として有効である。Si含有量が0.005%未満であると、脱酸が不十分になって溶製中にブローホールを発生することになる。しかしながら、Si含有量が過剰になって0.05%を超えると、Siのフェライト相の固溶強化によって、変形抵抗の増大を招くと共に、変形能の低下を生じさせる。このため、割れの発生が顕著になり、冷間鍛造性が悪化する。したがって、Si含有量は好ましくは0.007%以上、より好ましくは0.012%以上であり、好ましくは0.044質量%以下、より好ましくは0.031%以下である。
Mn:0.4〜1%
Mnは溶製中の脱酸、脱硫元素として有効である。また、鋼材中のN含有量を高めた場合、冷間鍛造加工中の発熱による動的ひずみ時効によって割れが発生しやすくなるが、Mnは、MnSとして、そのときの(変形能)加工性を向上させ、割れを抑制する効果がある。この様な効果を有効に発揮させるには、0.4%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.42%以上、より好ましくは0.48%以上である。一方、Mnが過剰に含まれると変形抵抗が過大となるだけでなく、偏析による組織の不均一性が生じるので、1%以下とする必要があり、好ましくは0.92%以下、より好ましくは0.83%以下である。
P:0.05%以下(0%を含まない)
リン(P)は不可避的不純物である。これが鋼材組織のフェライトに含有されると、フェライト粒界上に偏析して、変形能を劣化させ、冷間鍛造性を低下させる。また、前記フェライトを固溶強化させて変形抵抗の増大をもたらし、冷間鍛造性を劣化させる元素でもある。よって、冷間鍛造性向上のために、P含有量は0.05%以下とする。また、好ましくは0.022%以下である。P含有量を0%にすることは、工業上困難で、経済的でもないので、0%を含まないと但し書きで規定した。
S:0.005〜0.05%
硫黄(S)もPと同様に不可避的不純物である。SはFeSとして結晶粒界上に膜状に析出し、冷間鍛造性などの加工性を劣化させる。また、熱間脆性を引き起こす作用がある。そこで、変形能を向上させる観点から、S含有量は0.05%以下、好ましくは0.019%以下とする。但しS含有量を0%にすることは、工業上困難であるし、Sは被削性を向上させる効果も有する。このため、変形能と被削性および経済的に低減できる量のバランスを考慮して、S含有量の下限は0.005%以上とする。好ましくは0.008%以上含有させる。
Al:0.005〜0.1%
Alは、強い脱酸効果を有して、鋼材の内部品質を向上させることができる。また、鋼中のNと結合して、AlNを形成し、フェライト結晶粒を整粒化する効果も有する。また、前記熱処理によって固溶N量を制御するのに重要な元素である。これらの効果を有効に発揮させるためには、0.005%以上のAlが必要であり、0.008%以上が好ましく、0.015%以上が更に好ましい。Alの含有量が0.005%未満であると、前記熱処理によって固溶N量を制御できなくなる。また、溶製時にガス欠陥が発生しやすく、冷間鍛造時に割れが発生しやすい。一方、0.1%を超えると、固溶Nとの結合力が顕著になるため、前記熱処理によって固溶N量を制御できなくなる。このため、固溶N量を低下させ、所定の部品強度が得られなくなる。したがって、Al含有量は0.1%以下とし、好ましくは0.032%以下、さらに好ましくは0.026%以下とする。
N:0.008〜0.02%
窒素(N)は、冷間鍛造後に所望の部品強度を得るために必要な固溶N量を確保するために所定量添加する必要がある。また、冷間鍛造加工後の静的ひずみ時効によって所定の強度を得るためにも重要な元素である。こうした効果を発揮させるためには、全N含有量を0.008%以上とする必要がある。しかしながら、このN含有量が過剰になって0.02%を超えると、静的ひずみ時効よりも加工中の動的ひずみ時効の影響が顕著になり、変形抵抗が増大することになる。N含有量の好ましい下限は0.010%以上、より好ましくは0.012%以上であり、好ましい上限は0.0155%、より好ましくは0.0140%以下である。
その他の元素:
本発明では、固溶Nと窒素化合物を形成しやすい元素として、例えば、Ti、Nb、V、B(硼素)、Hf、Taなどの元素を、不可避的不純物として、これらの合計の含有量で2%以下(0%を含む)含んでも良い。
また、例えば、Cr、Mo、Cu、Ni、Ca、REM、Mg、Liなどの他の元素も、不純物として溶解原料などから混入しやすい元素であるが、前記固溶Nの効果や機械部品の特性を損なわない範囲で、不可避的不純物として、各々下記する許容量だけ含んでも良い。Cr:2%以下(0%を含む)、Mo:1%以下(0%を含む)、Cu:5%以下(0%を含む)、Ni:5%以下(0%を含む)、Ca、REM:各0.2%以下(0%を含む)、Mg、Li:各0.01%以下(0%を含む)。
以上の材料を用いて、大型ねじ1を本発明に示した鍛造方法により製造することにより、従来、熱間鍛造を用いてしか大型ねじ1を製造できなかったものが、冷間鍛造を用いて製造することができるようになった。なお、本発明の製造方法は、大型ねじ1のみならず、これまで熱間鍛造によって加工されていたクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギヤ等の自動車用部品、その他の機械部品)にも適用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1に記載の化学成分組成を有する鋼(各元素の含有量は質量%)を、転炉により溶製し、連続鋳造で鋼片とした後、φ12mmの線材に圧延した。その後、この圧延線材に800℃×2時間の焼ならし熱処理を施し、圧延線材全体における固溶Nの一部をAlNに形成した。ここで、表1の「N」は窒化化合物、固溶Nを全て含めた全窒素の量を示す。
得られた前記線材(冷間鍛造前の機械構造用鋼)の前記大型ねじ1(機械部品)における高強度化が必要な大型ねじ1の軸部およびねじ部の領域に対応する、部分的な高強度化領域を予め決定し、この部分的な高強度化領域の固溶N量を前記高強度化のために必要な量に予め高めた上で前記冷間鍛造を行った。すなわち、前記S1〜S7までの工程を経て前記大型ねじ1を製造した。
この際、S6:材料性状処理工程(前記熱処理工程)によって、前記部分的な高強度化領域(強度が必要な部分)の固溶N量を、高周波加熱によって、表2に示す部分的に異なる熱処理を行って制御した。ここで、前記部分的な高強度化領域(強度が必要な部分)のみを、表2に各々示す各温度に急速、短時間に加熱(前記φ12mmのねじ径で約100℃/sec程度)することによって、素材中のAlNなどの前記窒化化合物を分解させて、この高強度化領域の固溶N量を増加させた。この際、加熱および保持の合計時間は各例とも共通して300秒程度の短時間とし、それ以外の強度が必要でない部分はできるだけ加熱されないようにした。すなわち、特に発明例においては、この高強度化領域以外の強度が必要でない部分は、加熱処理しなかった(熱処理無し)。
加熱保持後の冷却では、発明例を含めて、前記部分的な高強度化領域の冷却速度を1℃/sに制御し、前記部分的な高強度化領域に生成させた固溶Nが、冷却過程で再度析出し、冷間鍛造での強度増加に必要な量未満に減らないようにした。
素材鋼線材の前記部分的な高強度化領域と、それ以外の軸部相当部の「固溶N量」を前記分析方法で求めた。この結果を表2に示す。表2で「固溶N量」は質量%で示す。
また、冷間鍛造の際には、各例とも共通して、前記部分的な高強度化領域を含めて、それ以外の部分に対しても、200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与して、前記機械部品における高強度化が必要な部分の強度を部分的に高めることを試みるとともに、前記大型ねじ1形状とした。
冷間鍛造は、前記熱処理を施した線材に10%の減面伸線加工を施した後、パーツフォーマを用いて、M12のねじ加工を行った。その後、仕上げのねじ加工を、連続4段の冷間鍛造にて行い、図1に示す大型ねじ部品のねじ形状に仕上げた。この4段の冷間鍛造の加工速度は60個/分である。
得られた大型ねじ部品の強度の評価として、素材を前記部分的な高強度化領域とした、前記軸部およびねじ部の領域のビッカース硬さ(Hv)、それ以外の部分(首下部分)のビッカース硬さ(Hv)を、各々ビッカース硬さ試験機にて測定し、これらの部位の硬さの差(軸部およびねじ部の領域の硬さの増加)も求めた。この際、前記軸部およびねじ部の領域のビッカース硬さがは300Hv以上である部品を強度に優れると判定し、300Hv未満を強度に劣ると判定した。この結果も表2に示す。なお、前記部品のビッカース硬さは、前記ねじを軸心にて長手方向に亘って等分に2分割するように(縦方向に)切断し、この切断面における、前記軸部と首下との各長手方向位置で、かつ、これら各断面部のD/4(D:ねじ部品直径)の深さ位置での、硬さを各々測定した。ビッカース硬さの測定は、荷重:1000g、測定回数:5回の共通する条件で測定し、その平均をとった。
得られた大型ねじ部品の冷間鍛造性も評価した。すなわち、前記ねじの軸部と首下の各長手方向の中心部からφ10mm×長さ15mmの試験片を各々切り出し、これらの試験片を、ひずみ速度:10/S(加工中のひずみ速度の平均値)、加工温度:室温、圧縮率:80%の加工条件で、1600トンプレスを用いて、端部を拘束した状態で据え込み加工を行った。この加工後、観察倍率20倍での実態顕微鏡で表面を観察して、割れの有無を確認し、冷間鍛造性を評価した。この結果も表2に示す。本実施例では、前記ねじの軸部と首下のいずれの試験においても割れが観察されない場合を冷間鍛造性に優れる(○)、前記ねじの軸部と首下のいずれか一方あるいは両方の試験において、小さくても部品に割れが観察される場合を冷間鍛造性に劣る(×)と判定した。
表1、2の発明例、鋼種A4−A5、B3−B5、C、D、E、F、G、Hは、鋼材組成を満足するとともに、高強度化が必要な部分に対応する冷間鍛造前の部分的な高強度化領域を予め決定し、この高強度化領域の固溶N量を高強度化のために必要な量に予め熱処理によって部分的に高めている。そして、その上で冷間鍛造を行い、この冷間鍛造の際に少なくとも前記部分的な高強度化領域に対して200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与して、機械部品における高強度化が必要な部分のみの強度を部分的に高めている。この結果、発明例は、冷間鍛造性に優れ、かつ前記ねじ軸部の硬度が300HVを超え、部品強度に優れている。
これに対して本発明で規定する要件を満たさないものは、以下に記載するように、冷間加工性または部品強度が劣っている。
鋼種A1−A3、B1−B2は、前記部分的な高強度化領域(強度が必要な部分)の加熱温度が低すぎて、この高強度化領域のAlNなどの前記窒化化合物を分解させて、固溶N量を十分増加させることができず、この高強度化領域の固溶N量が不足している。この結果、冷間鍛造性は当然ながら良いものの、冷間鍛造によっても、前記ねじ軸部の硬度は300HV未満であり、高強度化ができておらず、強度不足である。
鋼種Iは、素材鋼線材の全N量が不足している。このため、前記部分的な高強度化領域(強度が必要な部分)の加熱温度が低すぎることと相まって、前記高強度化領域の固溶N量が不足して、冷間鍛造によっても、前記ねじ軸部の硬度は300HV未満であり、高強度化ができておらず、強度不足である。
鋼種J−1〜J−5はAlの含有量が少なすぎる。このため、発明例と同様な加熱条件、あるいは加熱温度が低すぎる条件であっても、前記熱処理によってAlと窒素との結合状態による固溶N量の制御ができない。この結果、共通して、元の素材鋼線材の固溶N量のままであり、前記高強度化領域やそれ以外の領域を含めて、素材鋼線材全体の固溶N量が多すぎて、冷間鍛造性が劣っている。
鋼種K−1は、前記した固溶N量を増す熱処理を、前記高強度化領域やそれ以外の領域を含めて、一切行っていない。このため、特に前記高強度化領域の固溶N量が不足して、冷間鍛造によっても、前記ねじ軸部の硬度は300HV未満であり、高強度化ができておらず、強度不足である。
鋼種K−2は、前記した固溶N量を増す熱処理を、前記高強度化領域やそれ以外の領域を含めて、線材全体に行っている。このため、線材全体の固溶N量が多すぎて、冷間鍛造性が劣っている。
Figure 2011115815
Figure 2011115815
本発明によれば、C含有量を0.06質量%未満の極低炭素領域に下げた軟質の鋼材を用いても、製品の強度を十分に確保することができ、前記変形抵抗と部品強度との両立を図れる、冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法を提供できる。したがって、自動車等の車両に用いられている機械部品の製造方法として、広く用いることができる。
1:大型ねじ、2:軸部、3:丸棒

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.005〜0.06%、Si:0.005〜0.05%、Mn:0.4〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05%、Al:0.005〜0.1%、N:0.008〜0.02%を各々含み、残部は鉄および不可避不純物からなる機械構造用鋼を冷間鍛造して機械部品を製造するに際し、前記機械部品の部分的な高強度化領域に対応する、前記冷間鍛造前の前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域を予め決定し、この部分的な高強度化領域の固溶N量を前記高強度化のために必要な量に予め高めた上で、少なくともこの部分的な高強度化領域に対して200℃以下の雰囲気温度で塑性ひずみを付与する冷間鍛造を行い、前記機械部品の部分的な高強度化領域の強度を高めるとともに、前記機械部品形状とすることを特徴とする機械部品の製造方法。
  2. 前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量を0.008〜0.014%の範囲とするとともに、この部分的な高強度化領域に付与される冷間鍛造塑性ひずみを0.5〜5の範囲とする請求項1に記載の機械部品の製造方法。
  3. 前記部分的な高強度化領域の固溶N量を、変形抵抗(DR)、部品強度(Hv)、疲労強度(F)のいずれかに基づいたモデル式か、又は予め取得した経験値から求める請求項1または2に記載の機械部品の製造方法。
  4. 前記機械構造用鋼における部分的な高強度化領域の固溶N量を、この部分的な高強度化領域の熱処理によって高める請求項1乃至3のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。
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