JP5286217B2 - 熱間加工性、冷間加工性、および冷間加工後の硬さに優れた機械構造用鋼 - Google Patents

熱間加工性、冷間加工性、および冷間加工後の硬さに優れた機械構造用鋼 Download PDF

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Description

本発明は、ボルト・ナットなどの部品を製造するために有用な機械構造用鋼に関するものであり、特に熱間加工性(熱間圧延、熱間鍛造、熱間圧造、熱間転造、熱間引き抜き、熱間押し出しなど)および冷間加工性(冷間鍛造、冷間圧造、冷間転造、冷間引き抜き、冷間押し出しなど)に優れた機械構造用鋼に関するものである。
近年、地球環境保護の観点から、自動車等の各種機械構造部品には燃費を向上させるため、軽量化、高強度化が要望されている。
自動車等の各種機械構造部品は、熱間加工(熱間圧延、熱間鍛造など)により製造された棒鋼または線材を冷間加工して部品形状に成形することで製造されている。前記冷間加工(例えば、200℃以下の雰囲気における加工)は、生産性が高く、寸法精度が良く、さらに鋼材の歩留まりが良好であるという点で有利である。
このような背景の下、各種機械構造部品に用いられる鋼には、良好な冷間加工性、すなわち冷間加工が可能な程度に変形抵抗が小さく、かつ冷間加工後には所定以上の強度(硬度)が確保できることが望まれている。
一方、機械構造部品によっては非常に複雑な形状のものがあり、鍛造を数回繰り返すことによって部品を成形するものもある。その際、全ての工程を、例えば冷間鍛造によって実施すると、加工途中で加工硬化によって変形抵抗が増加することにより変形能の劣化を招く場合があり、冷間鍛造工程の間に焼戻しすることや、工程の初期で熱間あるいは温間鍛造してから仕上げで冷間鍛造するということが行われる。
すなわち、機械構造部品を製造するために用いられる鋼は、まず棒鋼または線材にするために熱間加工(熱間圧延、熱間鍛造など)される他、棒鋼または線材を部品形状に成形する際、冷間加工前に熱間加工(熱間鍛造など)が行われる場合もあり、上記した冷間加工性および冷間加工後の強度(硬度)に加えて、熱間加工性も要求される。
冷間加工性と冷間加工後の強度を両立させた技術として、例えば特許文献1、2が挙げられる。特許文献1には平均粒径が500nm以下でセメンタイトフリーのフェライト組織を有する冷間加工性に優れた高強度鋼線または棒鋼が開示されている。より詳細には、C量を所定量以下にした鋼に350〜800℃の範囲内で温間加工を施した後、塑性ひずみεが0.05以上となるように冷間加工を施すことによって平均結晶粒径が500nm以下のフェライト主相組織とし、冷間加工時の変形能と冷間加工後の強度を両立させている。特許文献2には、常温時効の進行を抑制すると共に、冷間鍛造後の歪時効硬化により部品強度を向上させることができる冷間鍛造用線材・棒鋼が開示されている。具体的には、フェライト粒径をできるだけ大きくし、固溶C、Nが常温で転位に固着するまでの距離を稼ぐことによって常温時効を抑制している。これら特許文献1、2は、冷間加工に着目したものであり、熱間加工性については考慮されておらず必ずしも十分な熱間加工性を有しているとは言えない。さらに特許文献1では、強加工による動的再結晶によって組織を微細化しているため、熱間加工温度域まで温度を上昇させると再結晶が容易に生じ、所定の強度を達成できないものと考えられる。
また、特許文献3には結晶粒度特性に優れた肌焼ボロン鋼が開示されており、特許文献4ではその製造方法が開示されている。特許文献3、4では、Tiを添加することによってfree−Nを固定し、かつ、Ti炭化物、Tiを含有する複合炭化物、Ti窒化物を微細に析出させることによって浸炭時のオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制している。これら特許文献3、4は、固溶NがTiに固定されているため、冷間加工しただけでは加工硬化に応じた強度の向上しか期待できず、所定の強度を確保するためには、別途浸炭処理などの強化処理を施す必要があるものと思われる。
特開2005−320630号公報 特開平10−306345号公報 特開平10−81938号公報 特開平10−130720号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱間加工性に優れるとともに、良好な冷間加工性と冷間加工後の硬さを確保できる機械構造用鋼を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る、熱間加工性、冷間加工性、および冷間加工後の硬さに優れた機械構造用鋼とは、質量%で、C:0.0005〜0.025%、Si:0.005〜0.03%、Mn:0.4〜1.0%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05%、Al:0.01〜0.05%、Ti:0.007〜0.03%、N:0.009〜0.013%をそれぞれ含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、固溶状態としてのNの含有量が0.004〜0.0075%であり、かつ、TiとNの含有量が下記(1)式の関係を満足することを特徴とするものである。
0.60≦[Ti]/[N]≦3.00 ・・・(1)
[式(1)中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。]
本発明に係る機械構造用鋼は、必要に応じて更に、(a)Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、(b)B:0.005%以下(0%を含まない)、(c)Cu:5%以下(0%を含まない)および/またはNi:5%以下(0%を含まない)、(d)Ca:0.02%以下(0%を含まない)、REM:0.02%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、およびLi:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも一種、を含有していてもよい。
本発明に係る機械構造用鋼によれば、C量を所定以下に制御し、且つ、NとともにTiを添加してN量、Ti量、Ti量とN量の比、及び固溶N量を制御しているため、熱間加工性と、冷間加工性、および冷間加工後の硬さを向上させることができる。
図1は本発明の実施例で用いた引張試験片の形状を示した概略図である。
本発明者らは、冷間加工中は良好な変形能を有し、冷間加工後は所定の硬度、強度を有する機械構造用鋼および冷間加工部品を提供すべく、特願2008−248478で既に提案している。前記出願で提案した鋼材は、加工温度が200℃以下である冷間加工において、優れた冷間加工性と冷間加工後の部品強度を達成している。
本発明者らは、冷間加工される機械構造用鋼について、さらに熱間加工性の観点から検討を重ねた。その結果、以下のことが明らかとなった。通常、機械構造用鋼は熱間あるいは温間加工域まで温度を上昇させると、結晶粒の粗大化が生じやすくなる。ここで、冷間加工前に単に熱間あるいは温間加工域まで温度を上昇させるだけで(つまり加工はしない)、その後冷間加工する場合には、前記した結晶粒の粗大化はその後の加工性等に悪影響を及ぼさないことが確認できている。しかし、冷間加工前に熱間あるいは温間加工域(主にA1点以上)で加工を行うと、オーステナイト粒界上にフィルム状のフェライトが析出すること、及び固溶NがAlと結合してAlNを形成しオーステナイト粒界に偏析することによって粒界強度が著しく低下し、熱間加工時に割れが発生しやすくなることが判明した。
そこで本発明では、良好な熱間加工性を達成するために(i)C量を所定量以下として熱間加工中のフェライトの析出を抑制している点、および(ii)NとともにTiを添加することによって、TiNを析出させて粒界強度を高めるとともに、Tiで固溶Nを所定量固定することによって固溶N量が過剰とならないようにし、熱間加工中のAlNの生成を抑制している点に大きな特徴を有している。
また冷間加工性は、前記(i)でC量を所定量以下にすることによって達成できる。すなわち、C量を抑制することにより冷間加工中の変形抵抗を抑制でき、良好な冷間加工性が得られる。さらに冷間加工後の部品硬さは、(iii)上記したTiによる固溶Nの固定で、固溶Nを全て固定してしまうのではなく固溶N量を一定以上残すこと、によって達成できる。
上記(i)〜(iii)について、以下に詳述する。
(i)について
本発明ではC量を0.0005〜0.025%とする。C量が0.025%を超えると、オーステナイトからフェライト変態が生じる温度幅が拡大し、オーステナイト粒界上にフィルム状のフェライトが析出し、熱間加工性を劣化させる。また、鋼中にパーライトが生成し、冷間加工時にパーライトの加工硬化によって変形抵抗が過大となる恐れがある。さらにC量を0.025%以下とすることによって、冷間加工中の変形抵抗を抑制でき、良好な冷間加工性も達成できる。一方、Cが少なすぎると鋼材の溶製中の脱酸が困難となる。C量の下限は好ましくは0.0008%であり、より好ましくは0.0010%である。またC量の上限は好ましくは0.023%であり、より好ましくは0.020%である。
(ii)について
NとともにTiを添加しTiNを析出させることによって、オーステナイト粒を整粒化し粒界強度を向上させることができる。また、固溶NをTiによって所定量固定させることで、固溶N量が過剰になることを抑制する。固溶N量が過剰になると、熱間加工中にAlと結合し、AlNがオーステナイト粒界に偏析して粒界強度を低下させてしまうためである。このように、TiNの析出によってオーステナイト粒界強度を向上させるとともに、AlNのオーステナイト粒界への偏析を抑制することにより、熱間加工中の割れを抑制することができる。
(iii)について
固溶Nを所定量以上確保することによって、動的歪み時効による転位を増殖させ、その後固溶Nで転位を固着することによって静的歪み時効を発生させ、冷間加工後の部品硬さを確保することができる。
上記(ii)、(iii)の効果を有効に発揮するためのN量、固溶N量、Ti量、Ti量とN量の比([Ti]/[N])は、以下の通りである。
N:0.009〜0.013%、固溶N:0.004〜0.0075%
NはTiNとなって析出することによって、熱間加工時の結晶粒整粒化による熱間加工性の向上に有効な元素である。また、固溶Nは冷間加工後に所定の部品硬さを確保するために必要である。従って、熱間加工性および冷間加工後の部品硬さを両方満足させるためには、N量、固溶N量を厳密に制御する必要がある。
冷間加工後の十分な部品硬さを得るため、固溶N量は0.004%以上とする。固溶N量は好ましくは0.0042%以上であり、より好ましくは0.0045%以上である。一方、固溶N量が0.0075%を超えると熱間加工時にAlNが析出しやすくなり、熱間加工性が劣化する。固溶N量は好ましくは0.0072%以下であり、より好ましくは0.0070%以下である。
Nが0.009%未満であると、十分な冷間加工後の部品硬さを得るための固溶N量を確保することができない。そこでN量は0.009%以上と定め、好ましくは0.0095%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。一方、Nが0.013%を超えると固溶N量も過剰となり、上述したように熱間加工性が劣化する。そこでN量は0.013%以下と定め、好ましくは0.0125%以下であり、より好ましくは0.012%以下である。
Ti:0.007〜0.03%
Tiは鋼中の固溶Nと結合して、Ti窒化物(TiN)を形成する元素である。TiNはオーステナイト粒の成長を抑制し整粒化することによって、粒界強度を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Ti量を0.007%以上と定めた。Ti量は好ましくは0.009%以上であり、より好ましくは0.012%以上である。一方、Ti量が過剰になるとTiNが過剰に析出することによって、固溶N量が確保できないこととなり、冷間加工後の部品硬さの低下を招く。そこでTi量を0.03%以下と定めた。Ti量は好ましくは0.025%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。
0.60≦[Ti]/[N]≦3.00・・・(1)
[式(1)中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。]
上述したように、TiはTiNとして析出することによって結晶粒を整粒化し、熱間加工性を向上させる作用を有し、Nは冷間加工後の部品硬さに向上に寄与する。[Ti]/[N]が0.60未満であると、Ti量が不足するためTiNによる結晶粒の整粒効果が十分発揮されないとともに、固溶N量が過剰になることによって熱間加工中のAlNが生成してしまうため、熱間加工性が劣化する。一方、[Ti]/[N]が3.00を超えると固溶Nが不足し、固溶Nによる冷間加工後の部品硬さ向上効果が十分に発揮されない。そこで0.60≦[Ti]/[N]≦3.00と定めた。[Ti]/[N]の好ましい下限は0.7であり、より好ましくは0.8である。また[Ti]/[N]の好ましい上限は2.8であり、より好ましくは2.6である。
本発明では、上記したC、Ti、Nの他、Si、Mn、P、S、Alを含有する。各元素の含有量を定めた理由は以下の通りである。
Si:0.005〜0.03%
Siは鋼の溶製時に脱酸元素として有効に作用し、Si量が不足すると、脱酸の効果が発揮されず、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。また、Siはセメンタイトの成長を抑制する働きがある。そこでSi量を0.005%以上と定めた。Si量は好ましくは0.007%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。一方、Siはフェライト相を固溶強化させるため、Si量が過剰になると変形抵抗が増大し、変形能の低下を招く。従ってSi量を0.03%以下と定めた。Si量は好ましくは0.027%以下であり、より好ましくは0.025%以下である。
Mn:0.4〜1.0%
Mnは鋼の溶製時に脱酸、脱硫元素として有効に作用し、また熱間加工時に加工性の劣化を抑制する効果を有する。更に、Sと結合することで鋼材の変形能を向上させることにも有効であり、割れの発生を抑制することができる。このような効果を有効に発揮させるため、Mn量を0.4%以上と定めた。Mn量は好ましくは0.42%以上であり、より好ましくは0.45%以上である。一方、Mn量が1.0%を超えると固溶強化による変形抵抗が顕著に増大するため、却って変形能を低下させる。そこでMn量を1.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは、0.98%以下であり、より好ましくは0.95%以下である。
P:0.05%以下(0%を含まない)
Pは不純物として不可避的に存在する元素であるが、Pはフェライト粒界に偏析することによって、変形能を劣化させる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、Pは変形能の観点から極力抑制することが望ましく、0.05%以下と定めた。P量の下限は特に制限されないが、極端な低減は製鋼コストの増大を招くだけであり、また製造上0%とすることは困難である。P量は好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
S:0.005〜0.05%
Sは不純物として不可避的に存在する元素であるが、Feと結合するとFeSとして粒界上に膜状に析出するため、変形能を劣化させる。従って、Mnを添加してSの全量をMnSとして析出させる必要がある。但し、MnSの析出量が過剰になると、変形能が劣化するため、S量を0.05%以下と定めた。S量は好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。一方、Sは被削性を向上させる作用を有する。そこでS量を0.005%以上と定めた。S量は好ましくは0.007%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。
Al:0.01〜0.05%
Alは鋼の溶製時に脱酸元素として有効に作用し、Al量が不足すると溶製時の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じやすくなる。また、Alは熱間加工時に固溶Nと結合してAlNとして析出することで、フェライト粒の整粒化にも有効である。そこで、Al量を0.01%以上と定めた。Al量は好ましくは0.013%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。一方、Al量が過剰になると、熱間加工中に固溶Nと結合しやすくなって過剰のAlNを形成することとなり、固溶Nを減少させて冷間加工後の部品硬さを確保できなくなる他、AlNは過剰に生成すると熱間加工時にオーステナイト粒界に偏析しやすくなって熱間加工性を劣化させる。そこでAl量を0.05%以下と定めた。Al量は好ましくは0.045%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
本発明の機械構造用鋼に用いる基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原材料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が鋼中に含まれることは当然に許容される。さらに本発明では、必要に応じて以下の任意元素を含有していても良い。
Cr:2%以下(0%を含まない)
Mo:1%以下(0%を含まない)
Cr、Moは共に、冷間加工時の変形能と冷間加工後の硬さを向上させる効果を有する。このような効果を有効に発揮させるため、Cr量は0.1%以上とすることが好ましく(より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上)、Mo量は0.04%以上とすることが好ましい(より好ましくは0.08%以上、さらに好ましくは0.12%以上)。一方、Cr量、Mo量が過剰になると、変形抵抗が増大し、却って変形能が劣化する。そこでCr量は2%以下が好ましく(より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下)、Mo量は1%以下が好ましい(より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下)。Cr、Moは単独で添加しても良いし、併用しても良い。
B:0.005%以下(0%を含まない)
Bは、フェライト粒界に集まる傾向があり、Pのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下を抑制し、冷間加工時の変形能の向上に有効な元素である。このような効果を発揮させるため、B量は0.0002%以上添加することが好ましく、より好ましくは0.0004%以上、さらに好ましくは0.0006%以上である。一方、BはNとの親和力が強いため、B量が過剰になるとBNを形成し固溶N量が低減すると共に、フェライト粒界に偏析したBNが粒界強度を低下させ、熱間および冷間加工性が低下する。そこでB量は0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.0035%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
Cu:5%以下(0%を含まない)
Ni:5%以下(0%を含まない)
Cu、Niはいずれも鋼材をひずみ時効させ、冷間加工後の部品硬さを向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Cu量、Ni量はいずれも0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、Cu、Ni量が過剰になると効果が飽和し、また冷間加工時の割れも促進される。従って、Cu量、Ni量はいずれも5%以下とすることが好ましく、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。Cu、Niは単独で添加しても良いし、併用しても良い。
Ca:0.02%以下(0%を含まない)
REM:0.02%以下(0%を含まない)
Mg:0.01%以下(0%を含まない)
Li:0.01%以下(0%を含まない)
Ca、REM、Mg、LiはMnS等の硫化物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めるとともに、被削性向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮するため、CaおよびREMはいずれも0.0005%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.001%以上(特に0.0015%以上)である。Mg、Liはいずれも0.0001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0003%以上(特に0.0005%以上)である。一方、これらの元素は過剰に添加しても効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。したがって、Ca、REMはいずれも0.02%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01%以下(特に0.008%以下)である。Mg、Liはいずれも0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.005%以下(特に0.003%以下)である。Ca、REM、Mg、Liは単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。
本発明に係る機械構造用鋼の製造条件は特に限定されず、通常行われる条件で溶製、および鋳造すれば良い。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1、2に示す化学成分組成を満たす供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解し、上面φ245mm×下面φ210mm×長さ480mmのインゴットに鋳造した。前記インゴットを1200℃に加熱し、155mm角のビレットに熱間鍛造した後、冷却した。その後、鋼種1A〜2Pについては製造方法[1]により、鋼種2Q〜2Zについては製造方法[2]によって、φ80mmの棒鋼を得た。
製造方法[1]:前記ビレットの端部を切断し、ダミービレット(155mm角×9〜10m)に溶接した後、1200℃に加熱し、φ80mmの棒鋼に熱間圧延し、冷却した。
製造方法[2]:前記ビレットを1200℃に加熱し、φ80mmの棒鋼に熱間鍛造し、冷却した。
Figure 0005286217
Figure 0005286217
熱間加工性、冷間加工性、および冷間加工後の硬さは、以下に示す手順に従って評価した。
熱間加工性の評価
上記の製造方法[1]または[2]により得られたφ80mmの棒鋼のD/4(D:棒鋼の直径)位置から、試験片の長手方向が棒鋼の長手方向となるように図1に示す形状の引張試験片を採取した。熱間加工再現試験装置(富士電波工業(株)製)で、アルゴン雰囲気下、1300℃まで試験片を加熱した後、900℃まで冷却し、900℃において0.01mm/sの速度で引張試験を行った。試験片が破断するまで引張試験を行い、下記(2)式で表される断面減少率で熱間加工性を評価した。
(断面減少率)={(標点間部の断面積)−(破断部の断面積)}/(標点間部の断面積) ・・・(2)
冷間加工性、および冷間加工後の部品硬さの評価
上記の製造方法[1]または[2]により得られたφ80mmの棒鋼のD/4(D:棒鋼の直径)位置から、φ10mm×長さ15mmの試験片を切り出した。1600トンプレスを使用し、加工温度:20℃、ひずみ速度:10/s、圧縮率80%の冷間鍛造条件で、端面を拘束した状態で該試験片を圧縮加工した。その際の変形抵抗を測定するとともに、割れの有無を確認した。
また、前記圧縮加工後の試験片を圧縮方向と平行に中心位置で切断後、樹脂に埋め込み、切断面を研磨後、切断面におけるD/4位置でビッカース硬さ試験を行った。それぞれのD/4位置で、いずれも3点ずつビッカース硬さを測定し、計6点の平均値を、部品硬さとした。
結果を表3、4に示す。
Figure 0005286217
Figure 0005286217
ここで、表3、4における「固溶N量」は、JIS G1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物を差し引くことで算出した値である。
(a)前記全N量は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いて決定した値である。供試鋼素材から切り出したサンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定することで、全N量を決定した。
(b)前記全N化合物量は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いて決定した値である。10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には、10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウムを溶かしたメタノール溶液)中で、供試鋼素材から切り出したサンプルを電極にして定電流電解を行った。約0.5gのサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を、穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過した。不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウム、及び純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせた。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させた。フェノール、次亜塩素酸ナトリウム、及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定することで、全N化合物量を決定した。
表3、4において、鋼の化学成分組成、[Ti]/[N]の値、固溶N量が全て本発明の要件を満たす1A〜1Z、および2Q〜2Zは、熱間加工性、冷間加工時の変形抵抗、および冷間加工後の部品硬さがいずれも良好であった。
一方、2AはC量が少なかったため、脱酸不足によりガス欠陥が発生し、欠陥が起点となって冷間加工時に割れが発生した。
2Bは、C量が多かったため、オーステナイト粒界上にフィルム状のフェライトが過剰に析出し、またパーライトが増加するためフェライト−パーライト界面で冷間加工時に割れが発生することとなり、加工性が不十分であった。
2C、2E、2IはそれぞれSi量、Mn量、Al量が少なかったため脱酸不足によりガス欠陥が発生し、欠陥が起点となって冷間加工時に割れが発生した。
2D、2FはそれぞれSi量、Mn量が多く、Si、Mnによる固溶強化で変形能が劣化し、冷間加工時に割れが発生した。
2GはP量が多かったため、Pによる固溶強化で変形能が劣化するとともに、Pの粒界偏析により冷間加工時に割れが発生した。
2HはS量が多かったため、MnSが増加して割れの起点が増加し、冷間加工時に割れが発生した。
2Jは、Al量が過剰であったため、固溶N量が減少し、冷間加工後の部品硬さが不十分であった。
2KはTi量が少なく[Ti]/[N]の値が小さかったため、また、2NはN量が多かったため、さらに2Oは[Ti]/[N]の値が小さかったため、いずれも固溶N量が過剰となり、熱間加工性が不十分であった。
また、2LはTi量が多く[Ti]/[N]の値が大きかったため、また、2MはN量が少なく[Ti]/[N]の値が大きかったため、さらに2Pは[Ti]/[N]の値が大きかったため固溶N量が確保できず、冷間加工後の部品硬さが不十分であった。
本発明の機械構造用鋼は、ボルト・ナット、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、バルブリフター、コモンレール等の冷間加工される機械部品に用いることにより、高強度化、軽量化を達成することができる。また、歯車、プーリー、クランクシャフト、等速ジョイント、コンロッド、トランスミッションギヤ等、従来、熱間加工と切削加工によって製造されていた部品に用いることにより、熱間加工と冷間加工によって製造することが可能となり、部品製造工程におけるCO2の排出量を削減することができる。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.0005〜0.025%、
    Si:0.005〜0.03%、
    Mn:0.4〜1.0%、
    P :0.05%以下(0%を含まない)、
    S :0.005〜0.05%、
    Al:0.01〜0.05%、
    Ti:0.007〜0.03%、
    N :0.009〜0.013%をそれぞれ含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、固溶状態としてのNの含有量が0.004〜0.0075%であり、かつ、
    TiとNの含有量が下記(1)式の関係を満足することを特徴とする熱間加工性、冷間加工性、および冷間加工後の硬さに優れた機械構造用鋼。
    0.60≦[Ti]/[N]≦3.00 ・・・(1)
    [式(1)中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。]
  2. 更に、
    Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. 更に、
    B:0.005%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
  4. 更に、
    Cu:5%以下(0%を含まない)および/またはNi:5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  5. 更に、
    Ca:0.02%以下(0%を含まない)、REM:0.02%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、およびLi:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
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