JP4265075B2 - 耐型かじり性に優れた熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス加工による成形品に用いる熱延鋼板に関して、とくにプレス成形時にプレス金型と熱延鋼板との間で発生する型かじり(型焼付き)を防止しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
プレスによる成形加工において、金型と被加工材との摺動部に発生する表面損傷のうち、特に金型への被加工材の凝着・焼付きの現象は「型かじり」と呼ばれている。この型かじりは、成形時の非定常な塑性変形と、摺動による被加工材表層の塑性変形が複合された状況下で生じる現象であり、そのメカニズムは十分には解明されてはいない。
現在のところ、型かじりに及ぼす影響要因として、(1) 被加工材の表面粗さ、塑性変形能、(2) 金型の表面粗さ、材質、表面処理方法、(3) 被加工材料と金型との間の潤滑、面圧等が考えられている。
【0003】
さて、プレス成形に供される被加工材としては、冷延鋼板および熱延鋼板が代表的であるが、このうち冷延鋼板を用いるプレス成形では、鋼板そのものの成形性がよいので、r値を高めて、プレス加工における成形荷重を小さくし、面圧を下げることで型かじりを解消することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、板厚が1.4 mmを超えるような、板厚が比較的厚いものについては、生産コストの面で有利な熱延鋼板が用いられる場合が多いが、熱延鋼板はそもそもr値が低いために、冷延鋼板で用いる手法を適用することはできない。そのため、熱延鋼板のプレス成形では型かじりの発生率が高いという問題があった。
そこで、本発明の目的は、熱延鋼板を被加工材とするプレス加工において、r値に依存しない手法で、プレス加工時に型かじりを発生しない熱延鋼板を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
型かじりを抑制するには、プレス時における被加工材表面での油の封じ込め効果によって、摺動面の潤滑状態を良好に保つことが有効である。
発明者らは、このような状態は、鋼中固溶Nによるストレッチャーストレインを積極的に利用して、プレス時の被加工材の表面粗度を大きくすることで達成できることを知見した。本発明は、上記知見を基盤として完成したものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0006】
(1)質量%で、C:0.08%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.60%以下、Al:0.060%以下、N:0.003 〜0.012 %、かつ固溶状態のN:0.003 〜0.012 %を含有し、残部は鉄および不可避的不純物の鋼組成からなり、フェライト単相の鋼組織を有し、しかも3%の歪を加えたあとの表面粗度がRaで2.0 μm以上であることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板。
【0007】
(2)質量%で、C:0.08%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.60%以下、Al:0.060%以下、N:0.003 〜0.012 %、かつ固溶状態のN:0.003 〜0.012 %を含み、さらに下記 (1)式を満たす範囲でTiおよびNbのうちの1種または2種を含有し、残部は鉄および不可避的不純物の鋼組成からなり、フェライト単相の鋼組織を有し、しかも3%の歪を加えたあとの表面粗度がRaで2.0 μm以上であることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板。
記
N(質量%)≧0.003 +Ti(質量%)/3.4 +Nb(質量%)/6.6 …… (1)
【0008】
(3)質量%で、C:0.08%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.60%以下、Al:0.060%以下、N:0.003 〜0.012 %を含有し、残部は鉄および不可避的不純物からなる鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度をAr3変態点以上として熱間圧延し、熱間圧延終了後に15℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以下の巻取温度で巻き取ることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【0009】
(4)質量%で、C:0.08%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.60%以下、Al:0.060%以下、 N:0.003 〜0.012 %を含み、さらに下記 (1)式を満たす範囲でTiおよびNbのうちの1種または2種を含有し、残部は鉄および不可避的不純物からなる鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度をAr3変態点以上として熱間圧延し、熱間圧延終了後に15℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以下の巻取温度で巻き取ることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板の製造方法。
記
N(質量%)≧0.003 +Ti(質量%)/3.4 +Nb(質量%)/6.6 …… (1)
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の主な特徴は、所定のNを含有した鋼を熱間圧延した後、急速冷却することによって、熱延鋼板中に固溶Nを0.003 質量%(以下、単に%)以上残留させるところにある。こうして多量の固溶Nを積極的に残留させた被加工材が、プレス加工で歪みを受けたときに、被加工材の表面粗度が大きくなり、油溜まりに好適な状態を作りだすために型かじり性が向上するのである。
このような現象があらわれるメカニズムは必ずしも明らかではないが、多量の固溶Nによってコットレル雰囲気が強い部分(転位固着力が強い部分)が不均一に形成され、フェライト粒毎に塑性変形の開始が相違して、このことが結果的に表面粗度を大きくしたと考えられる。
【0011】
次に、本発明にかかる耐型かじり性に優れる熱延鋼板の各成分組成の限定理由について説明する。以下、各成分の含有量 (%) は質量%を意味する。
C:0.08%以下
Cは、強度とくに成形後の強度を確保するために必要な元素であるが、0.08%を超えると、組織中に硬質第2相が出現して、可動転位が増し、ストレッチャーストレイン(降伏点伸び)が生じなくなる。よって、Cの含有量は0.08%以下とする。なお、好ましいCの含有範囲は0.01〜0.08%である。
【0012】
Si:0.05%以下
Siは、所望の強度を確保するために添加するが、0.05%を超える添加は、プレス成形後の表面品質を劣化させる。したがって、Siの添加量は、0.05%以下とする。
【0013】
Mn:0.60%以下
Mnは、強度の確保に寄与する元素であるが、0.60%を超えて含有すると第2相(パーライト)が出現して、可動転位が増し、ストレッチャーストレインが生じなくなるので、上限を0.60%とする。
【0014】
Al:0.060 %以下
Alは、脱酸および組織の粒径制御に効果的な元素であるが、NをAlNとして固定する元素でもある。Alの含有量が0.060 %を超えると、N固定して、ストレッチャーストレインが生じなくなるので、上限を0.060 %とする。
【0015】
N:0.003 〜0.012 %、固溶状態のN:0.003 〜0.012 %
Nは、ストレッチャーストレインを利用した表面粗度の増大を担う重要な成分である。表面粗度をRaで2.0 μm以上にするためには、固溶状態のNを0.003%以上、したがってN(全N)としても0.003 %以上は存在させることが必要である。しかし、0.012 %を超え量を固溶させることは困難であるので、固溶状態のNは0.012 %以下とする。また、固溶状態で存在するもの以外のNは成形性に悪影響を及ぼすので、N(全N)量も0.012 %以下とする。
【0016】
TiおよびNb
TiおよびNbは、強度調整のために添加可能であるが、Nを固定して窒化物として析出させる作用を有する元素でもある。そこで、必要な固溶Nを確保するためのTiおよび/またはNbの添加は、N(質量%)≧0.003 +Ti(質量%)/3.4 +Nb(質量%)/6.6 を満たす範囲で行う必要がある。
【0017】
上記の成分組成に調整した鋼スラブは、例えば連続鋳造によって製造することができ、得られた鋼スラブは、常法により加熱して熱間圧延に供する。
熱間圧延においては、仕上げ圧延の終了温度がAr3変態点未満になると、フェライト域での圧延になって粒径が粗大化してプレス成形時に割れが発生しやすくなるので、圧延仕上温度をAr3変態点以上とする。熱間圧延終了後は、冷却途上でのAlNの析出を避けるために、15℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。そして、巻取り温度が550℃を超えてもAlNの析出が促進されるので、巻取温度は550℃以下として巻き取ることが必要である。
【0018】
【実施例】
表1に示す成分組成の鋼スラブに、表2に示す条件で熱間圧延して板厚2.0 mm、板幅900 mmとし、次いで酸洗した。また、酸洗ラインの出側で塗油を行った。
こうして得られた塗油済み熱延鋼板からJIS5号引張試験片を採取して、伸び率3%の歪みを与えて徐荷し、徐荷後の試験片について、表面粗度Raを測定するとともに、以下に示す方法で摺動試験を行った。
【0019】
摺動試験条件
・試験片表面状態:脱脂せず塗油のまま
・工具:工具材質はSKD11、工具形状は図1参照
・面圧(線圧):100N/mm
・摺動速度:20mm/s
・摩擦係数:引き抜き荷重/(押しつけ荷重×2)
摺動試験を各5回繰り返して行い、型かじり(型焼きつき)がまったく発生しない場合を「良好」、型かじりが1回でも発生した場合を「不良」として評価した。これらの結果を、表2に併せて示す。
【0020】
表2に示すように、鋼組成および製造条件を適正化して製造したフェライト単相組織の発明例は、固溶状態のNが0.003 〜0.012 %の範囲で含有され、3%歪を与えたあとの表面粗度Raが2.0 μm以上となり、型かじりが皆無であった。これに対し、これらの条件が発明範囲から外れた比較例では型かじりが発生した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、プレス成形時における金型との摺動性に優れ、プレス成形時に型かじりを発生することのない熱延鋼板を提供できる。すなわち、板厚が1.4 mmを超える熱延鋼板が用いられる部材を成形するにあたっても、型かじり発生を防止することが可能となり、プレス成形の際の歩留り向上に寄与できる。
従って、本発明によれば、プレス生産性を低下させることなしに深絞り成形品の加工を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動試験に用いた工具形状を示す模式図である。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.08%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.60%以下、
Al:0.060 %以下、
N:0.003 〜0.012 %、かつ固溶状態のN:0.003 〜0.012 %
を含有し、残部は鉄および不可避的不純物の鋼組成からなり、フェライト単相の鋼組織を有し、しかも3%の歪を加えたあとの表面粗度がRaで2.0 μm以上であることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板。 - 質量%で、
C:0.08%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.60%以下、
Al:0.060 %以下、
N:0.003 〜0.012 %、かつ固溶状態のN:0.003 〜0.012 %
を含み、さらに下記 (1)式を満たす範囲でTiおよびNbのうちの1種または2種を含有し、残部は鉄および不可避的不純物の鋼組成からなり、フェライト単相の鋼組織を有し、しかも3%の歪を加えたあとの表面粗度がRaで2.0 μm以上であることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板。
記
N(質量%)≧0.003 +Ti(質量%)/3.4 +Nb(質量%)/6.6 …… (1) - 質量%で、
C:0.08%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.60%以下、
Al:0.060 %以下、
N:0.003 〜0.012 %を含有し、残部は鉄および不可避的不純物からなる鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度をAr3変態点以上として熱間圧延し、熱間圧延終了後に15℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以下の巻取温度で巻き取ることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C:0.08%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.60%以下、
Al:0.060 %以下、
N:0.003 〜0.012 %を含み、さらに下記 (1)式を満たす範囲でTiおよびNbのうちの1種または2種を含有し、残部は鉄および不可避的不純物からなる鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度をAr3変態点以上として熱間圧延し、熱間圧延終了後に15℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以下の巻取温度で巻き取ることを特徴とする耐型かじり性に優れた熱延鋼板の製造方法。
記
N(質量%)≧0.003 +Ti(質量%)/3.4 +Nb(質量%)/6.6 …… (1)
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