本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置は、燃費優先モードとG抜けショック対策優先モードとを切り替えて回生制動力及び摩擦制動力を制御するブレーキ制御部を備える。一実施例においては、燃費優先モード及びG抜けショック対策優先モードはともに、回生制動力を優先的に使用し要求制動力への不足分を摩擦制動力で補填する回生協調制御を前提としている。
G抜けショック対策優先モードにおいては、ブレーキ制御部は、燃費優先モードにおける回生制動力最大値に対し余力を残すように回生制動力と摩擦制動力との配分を調整する。G抜けショック対策優先モードにおいてブレーキ制御部は、回生制動力の発生を継続しつつ燃費優先モードに比べて回生制動力を制限する。回生制動力の減少分は摩擦制動力で補填される。ブレーキ制御部は例えば、変速が行われる可能性が高いと判定した場合に、変速時の回生制動力変動が許容範囲内となるよう回生制動力を制限する。一方、燃費優先モードは回生制動力の利用を最大化する制御モードである。燃費優先モードにおいては例えば、回生エネルギの吸収能力(例えばバッテリの充電状態)に応じて許容される回生制動力最大値が設定される。ブレーキ制御部は、この回生制動力最大値よりも小さい値に設定された上限値のもとでG抜けショック対策優先モードにおいて回生制動力を制御する。
ブレーキ制御部は通常は燃費優先モードで要求制動力を発生させ、変速に伴う回生制動力低下が生じ得ると判定した場合に一時的にG抜けショック対策優先モードに移行する。ブレーキ制御部は例えば、変速が行われる可能性が高いと想定される場合において減速度変化に対する運転者の感度が高い走行状態のときに、G抜けショック対策優先モードで制動力を制御する。ブレーキ制御部は例えば、シフトダウン操作が予測される状況でありかつ運転者の制動操作量がしきい値より小さいと判定した場合に、G抜けショック対策優先モードに移行する。ブレーキ制御部は例えば、所定の勾配を超える下り坂または上り坂が前方にあると判定したとき、または当該下り坂または上り坂を走行しているときに、変速が行われる可能性が高いと判定してもよい。下り坂または上り坂に代えて、所定の曲率半径に満たないカーブとしてもよい。
ここで、回生制動力は、車輪を駆動させるための電動機を、走行中の車輪の回転トルクを入力とする発電機として動作させることにより車輪に付与される制動力である。一実施例においては、変速機構を含む動力伝達経路を介して車輪と電動機とが接続されている。変速機構は、複数の変速比が段階的に設定されている有段変速機であってもよいし、あるいは設定範囲で任意の変速比を得られる無段変速機であってもよい。回生制動により車両の運動エネルギーは電気エネルギーに変換され、電気エネルギーは、電動機からインバータ等を含む電力変換装置を介して蓄電池に蓄積される。蓄積された電気エネルギーは以降の車輪の駆動等に用いられ、車両の燃費向上に寄与することとなる。摩擦制動力は、車輪とともに回転する回転部材に対して摩擦部材を押圧することにより車輪に付与される制動力である。摩擦部材は液圧源からの供給される作動液圧によって回転部材に押し付けられる。
ブレーキ制御部は、回生協調制御の実行中に常態としては燃費優先モードで回生制動力を最大限活用する一方、必要に応じて一時的にG抜けショック対策優先モードに切り替える。これにより、燃費への影響を抑えつつ変速時のG抜けも抑えることができる。また、変速時の回生制動力変動が軽減または防止されるため、回生制動力変動を補償するための摩擦制動力制御も緩和される。摩擦制動力を増減させるための液圧制御の頻度が低減され、液圧制御機構の耐用期間を長くとることができる。
一実施形態においては、モータのトルクが変速機を介して車輪に伝えられる車両の制御装置が提供される。この制御装置は、モータを回生させて回生制動力を得る回生制動手段と、摩擦部材を加圧することにより摩擦制動力を得る摩擦制動手段と、シフトチェンジが行われる可能性が高い状況か否かを判定する判定手段と、を備える。制御装置はさらに、当該可能性が高い状況と判定された場合に回生制動力の余力を確保するように回生制動力及び摩擦制動力の配分を調整する制動力配分調整手段を備える。このようにシフトチェンジが行われる可能性が高い場合に予め余力を確保するよう回生制動力を低減することにより、シフトチェンジによるG抜けを抑えることができる。
この場合に、車両制御装置はモータの回生制動力の上限値を設定して回生制動力を決定してもよい。制御装置は、シフトチェンジが行われる可能性が高い状況と判定された場合には、当該可能性が高い状況と判定されなかった場合よりも回生制動力の上限値を低下させることにより回生制動力を低減させるようにしてもよい。回生制動力がある程度小さい場合には回生制動力の変速時の瞬間的低下が発生しなくなる。このため、シフトチェンジが行われる可能性が高い状況において回生制動力の上限値を低下させることにより、シフトチェンジによる回生制動力の変動を軽減または防止することができる。
また、一実施形態においては、ブレーキ制御部は、運転者のブレーキ操作に基づいて要求制動力を演算し、この要求制動力に基づいて要求回生制動力を演算する。ブレーキ制御部は、要求回生制動力をハイブリッド制御部に送信する。ハイブリッド制御部は、受信した要求回生制動力に従って回生制動力生成部を制御して回生制動力を発生させ、実際に発生した回生制動力実効値をブレーキ制御部に送信する。ブレーキ制御部は要求制動力と回生制動力実効値とに基づいて要求摩擦制動力を演算し、この要求摩擦制動力に従って摩擦制動力生成部を制御する。
ハイブリッド制御部は、回生制動力の低下を予告する回生低下予告信号を回生制動力生成部の状態に基づいてブレーキ制御部に送信する。ハイブリッド制御部は例えば蓄電池の充電状態が満充電に近づいた場合(例えばSOCが所定のレベルを超えたとき)に回生低下予告信号を出力する。ブレーキ制御部は、回生低下予告信号を受信したときに要求回生制動力を制限してもよい。
ブレーキ制御部はさらに、回生低下予告信号を受信していないときに回生制動力の低下が生じる可能性を判別してもよい。ブレーキ制御部は例えば、変速が行われる可能性が高いと判定される場合や、異なるブレーキ制御モードまたは車両制御モードへの変更が行われる可能性が高いと判定される場合に、回生制動力の低下が生じる可能性が高いと判定してもよい。ブレーキ制御部は、回生制動力の低下が生じる可能性が高いと判定した場合には回生制動力と摩擦制動力との配分を第1の配分に調整し、回生制動力の低下が生じる可能性が低いと判定した場合には回生制動力と摩擦制動力との配分を第2の配分に調整してもよい。第1の配分は第2の配分に比べて回生制動力を制限するよう設定されている。
例えば、ブレーキ制御部は、回生低下予告信号を受信していないときに回生制動力の低下が予測される状況であるか否かを判定し、低下が予測される場合にG抜けショック対策優先モードで制動力を制御してもよい。一方、ブレーキ制御部は、回生制動力の低下が予測されない場合に燃費優先モードで制動力を制御してもよい。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置が適用された車両を示す概略構成図である。同図に示される車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されており、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、車両1の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7とを備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU13により制御される。エンジンECU13は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU13は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR,9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。バッテリ12としては、例えばニッケル水素蓄電池などの蓄電池を用いることができる。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。なお、上述のハイブリッドECU7やエンジンECU13、モータECU14は、何れもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって左右の前輪9FR,9FLに制動力を付与する回生ブレーキユニット10として機能する。
車両1はこのような回生ブレーキユニット10に加えて、図2に示されるように、動力液圧源30等からの作動液の供給により制動力を発生させる液圧ブレーキユニット20を備える。本実施形態の車両制動装置は、回生ブレーキユニット10と液圧ブレーキユニット20とを協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両1を制動可能なものである。本実施形態における車両1は、ブレーキ回生協調制御を実行することにより回生制動力と液圧制動力とを併用して所望の制動力を発生させることができる。
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7及びナビゲーションシステム80と通信可能に構成されている。ナビゲーションシステム80は車両の運転状況に関する情報をブレーキECU70に与える。例えば現在または前方の走行路が下り坂、上り坂、またはカーブであることを示す情報をブレーキECU70に与える。また、ブレーキECU70は、車速センサ82が出力する車速信号を受信可能に構成されている。
図2は、本実施形態に係る液圧ブレーキユニット20を示す系統図である。液圧ブレーキユニット20は、図2に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、液圧ブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU7などと通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成された液圧ブレーキユニット20を備える本実施形態に係るブレーキ制御装置は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。図3は、回生協調制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。制動要求を受けて、ブレーキECU70は処理を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。ブレーキECU70は、例えばブレーキペダル24の操作が解除されるまで所定の制御周期で反復して実行する。ブレーキECU70は、回生協調制御の許可条件が成立していることを前提として、図3に示される処理を実行する。
制動要求を受けてブレーキECU70は目標減速度すなわち要求制動力を演算する(S10)。ブレーキECU70は例えば、マスタシリンダ圧及びストロークの測定値に基づいて目標減速度を演算する。ここでブレーキECU70は、所望の制動力配分に従って目標減速度を各輪に分配して各輪の目標制動力を演算し、以降の処理ではその目標制動力に基づいて回生制動力及び液圧制動力を制御してもよい。
ブレーキECU70は、目標減速度に基づいて要求回生制動力を演算する(S12)。ブレーキECU70は例えば、発生可能な最大回生制動力よりも目標減速度が小さい場合には目標減速度を要求回生制動力とし、目標減速度が最大回生制動力以上である場合には最大回生制動力を要求回生制動力とする。また、ブレーキECU70は、目標減速度をそのまま要求回生制動力とするのではなく、目標減速度を補正して要求回生制動力を演算してもよい。目標減速度に対して要求回生制動力を高めに補正してもよいし、逆に低く補正してもよい。例えば回生低下予告信号を受信している場合には、ブレーキECU70は要求回生制動力を制限するよう補正してもよい。ブレーキECU70は、演算された要求回生制動力をハイブリッドECU7に送信する(S14)。ブレーキECU70及びハイブリッドECU7は車載ネットワークに接続されている。ブレーキECU70は、その車載ネットワークへ要求回生制動力を送信する。
ハイブリッドECU7は、車載ネットワークから要求回生制動力を受信する。ハイブリッドECU7は、受信した要求回生制動力を回生制動力目標値として回生ブレーキユニット10を制御する。その結果として実際に発生した回生制動力の実効値をハイブリッドECU7は車載ネットワークを通じてブレーキECU70へと送信する。また、ハイブリッドECU7はバッテリ12の充電状態に基づいて回生低下予告信号をブレーキECU70に送信してもよい。
ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から回生制動力実効値を受信する(S16)。ブレーキECU70は、目標減速度から回生制動力実効値を減じることにより液圧ブレーキユニット20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する(S18)。ブレーキECU70は、要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、要求液圧制動力または目標液圧を補正してもよい。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように液圧アクチュエータ40を制御する(S20)。ブレーキECU70は例えば、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、液圧ブレーキユニット20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
なお、上述のブレーキ回生協調制御においては、回生制動力を優先的に発生させ、要求制動力に対する回生制動力の不足を摩擦制動力で補填している。本発明はこのような回生優先モードには限られない。例えば、制御部は、回生制動力を補助的に使用する回生補助モードにより制動力を制御してもよいし、予め設定された回生目標値及び摩擦目標値の配分に目標減速度を分配し、回生制動力及び摩擦制動力を発生する回生併用モードで制動力を制御してもよい。
図4は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御モードの切替処理を説明するためのフローチャートである。本実施形態においてはブレーキECU70は、G抜けショック対策優先条件が成立した場合に、燃費優先モードからG抜けショック対策優先モードに切り替える。ブレーキECU70は、燃費優先モードにおいては図3に示される回生協調制御を実行する。G抜けショック対策優先モードにおいては燃費優先モードに比べて要求回生制動力に制限を設定したうえで、図3に示される回生協調制御を実行する。ブレーキECU70は、G抜けショック対策優先条件が成立しなくなったときに、G抜けショック対策優先モードから燃費優先モードに復帰する。
図4に示されるように、ブレーキECU70は、シフト操作が行われる可能性が高い運転状況にあるか否かを判定する(S30)。具体的には、DレンジからBレンジへのシフトダウン操作が行われる可能性が高い運転状況にあるか否かを判定する。Dレンジとは通常走行において推奨されるシフト位置であり、Bレンジとはドライバが通常走行よりも強いエンジンブレーキ(回生ブレーキも含む)を必要とするときに選択するためのシフト位置である。
ブレーキECU70は例えば、前方の走行路に下り坂、上り坂、またはカーブがあるか否かをナビゲーションシステム80からの情報に基づいて判定する。ナビゲーションシステム80からの情報とともに、またはこれに代えて角度センサ(図示せず)の出力に基づいて判定してもよい。いかなる走行路である場合にシフト操作が行われる可能性が高いと言えるかについては、適宜経験的または実験的に定めることができる。
シフト操作が行われる可能性が高い運転状況にあると判定された場合には(S30のY)、ブレーキECU70は、運転者のG抜け感度が高いブレーキ操作状態であるか否かを判定する(S32)。低速走行中においてブレーキ操作量が小さいときは、減速度変動に対する運転者の感度が高いことがわかっている。このため、所定車速以下でありかつブレーキ操作量が所定量以下であるか否かをブレーキECU70は判定する。車速は車速センサ82の測定値から判定し、ブレーキ操作量はストロークセンサ25またはレギュレータ圧センサ71の測定値から判定する。ここで、車速及びブレーキ操作量のしきい値については、運転者のG抜けの感じやすさに応じて適宜経験的または実験的に定めることができる。
シフト操作が行われる可能性が高い運転状況ではないと判定された場合(S30のN)、または運転者のG抜け感度が高いブレーキ操作状態ではないと判定された場合には(S32のN)、ブレーキECU70は、通常の回生協調制御を実行する(S38)。
一方、シフト操作が行われる可能性が高い運転状況にありかつ運転者のG抜け感度が高いブレーキ操作状態であると判定された場合には(S32のY)、ブレーキECU70は、要求回生制動力に上限値を設定する(S34)。ブレーキECU70は例えば、通常の回生協調制御において定められている要求回生制動力の最大値よりも低い値に設定された上限値に変更する。この低減された上限値は例えば、要求回生制動力の最大値から、シフト操作時に想定される回生制動力減少量を差し引いた値に設定する。この場合、低減された上限値は一定値に設定される。
なお、上限値は一定値に設定しなくてもよく、例えば要求回生制動力の所定割合に設定してもよい。この場合、低減された上限値は通常の要求回生制動力に連動する。また、要求回生制動力の値に制限を課すのではなく、要求回生制動力の時間変化率に上限を設定してもよい。
ブレーキECU70は、低減された回生制動力上限値のもとで回生協調制御を実行する(S36)。つまり、ブレーキECU70は、要求制動力に基づき演算された要求回生制動力が回生制動力上限値を超える場合には、当該上限値に要求回生制動力を制限してハイブリッドECU7に送信する。ハイブリッドECU7は受信した要求回生制動力に従って回生制動力を発生させる。
なお、G抜けショック対策優先モードに切り替えるためのG抜けショック対策優先条件は更新されてもよい。ブレーキECU70は、運転者の実際のシフト操作頻度に基づいてG抜けショック対策優先条件を調整してもよい。ブレーキECU70は例えば、走行中のシフト操作時の走行状態及び運転状況を運転履歴として記憶し、運転履歴に基づいて条件を調整する。例えば、ブレーキECU70は、シフトチェンジの頻度が基準よりも低いか否かを判定し、頻度が低いと判定した場合には条件をより厳格にするようにしてもよい。ブレーキECU70は、シフトチェンジの頻度が基準よりも低い場合には、走行路の勾配しきい値を大きくしたり、車速またはブレーキ操作量のしきい値を小さく調整してもよい。このようにすれば、シフトチェンジの頻度が低い場合にはG抜けショック対策優先モードの適用を限定し、燃費優先モードの適用範囲を広げることができるので、燃費向上の観点から好ましい。
図5は、本実施形態に係る燃費優先モードにおける制動力配分の時間変化の一例を示す図である。図5は、総制動力及び回生制動力を示す。上述のように要求制動力から回生制動力を引いた残りが液圧制動力となる。よって、回生制動力と液圧制動力の合計が総制動力となる。図5において縦軸は制動力を示し、横軸は制動要求からの経過時間を示す。図5にはブレーキペダル24の踏込当初における制動力立ち上がりが示されている。要求制動力の時間変化の一例として、制動要求から点A(時刻ta)、点B(時刻tb)、点C(時刻tc)と直線的に増加し、点C(時刻tc)以降は一定となる例を示している。
図5に示されるように、制動当初の点A(時刻ta)までは回生制動力目標値は要求制動力に一致して増加する。点A(時刻ta)以降は、ブレーキECU70は回生制動力目標値の勾配を制限している。これは例えば、バッテリ12の充電が満充電状態に近くなって回生低下予告信号をブレーキECU70が受信したためである。要求制動力に回生制動力目標値が満たなくなると、ブレーキECU70は液圧ブレーキユニット20を制御して液圧制動力により不足分を補填する。
図5に示す例においては点B(時刻tb)に、運転者がDレンジからBレンジにシフトチェンジをしている。このため、回生制動力が瞬間的に減少し、シフトチェンジ完了後に元のレベルに回復している。一般に液圧ブレーキユニット20の制御応答性は回生制動力に比べて小さく設定されている。よって、シフトチェンジによる回生制動力の変動を液圧制動力で完全に補償することは難しい。したがって、図5に示されるように、回生制動力の低下と同時に総制動力も一瞬低下する。これが運転者にG抜けとして感知される。
図6は、本実施形態に係るG抜けショック対策優先モードにおける制動力配分の時間変化の一例を示す図である。図6においても図5と同様に縦軸は制動力を示し、横軸は制動要求からの経過時間を示す。比較のため、図5と同様の要求制動力の履歴を示す。すなわち、制動要求から直線的に増加し、以降は一定となる例を示している。破線で示すのは、図5における回生制動力である。
図6に示されるG抜けショック対策優先モードにおいては、図5に示される燃費優先モードよりも回生制動力の増加勾配が低減されている。G抜けショック対策優先モードにおける回生制動力の増加を燃費優先モードに比べて遅らせている。このように回生制動力を小さく保たれている場合には、シフト操作が行われたとしても回生制動力の変動を防止することができる。図6に示される例においてはシフト操作時の回生制動力が防止されるよう回生制動力を制限しているが、燃費性能を重視する場合には、より緩やかな制限を課すようにしてもよい。すなわち、G抜けショック対策を重視する場合には回生制動力の制限を強化すればよいし、燃費性能を重視する場合には制限を緩和すればよい。
図6においては、点D(時刻td)にG抜けショック対策優先条件が不成立となり、燃費優先モードに復帰している。点D(時刻td)から点E(時刻te)にかけて回生制動力を漸増させ液圧制動力を漸減させるよう配分を調整することにより、燃費優先モードにおける回生制動力及び液圧制動力の配分に復帰している。このように、ある程度時間をかけて燃費優先モードに復帰することは、良好なブレーキフィーリングのために好ましい。回生制動力の増加勾配は、液圧制動力の応答性に基づいて定められる。なお、燃費性能を重視する場合には、G抜けショック対策優先条件の不成立とともに回生制動力を急速に回復させてもよい。
なお、図5及び図6の例は、制動初期のブレーキペダル踏み増し中にシフト操作がなされた場合を示しているが、制動後期においてペダル操作量が比較的大きく踏み込まれているときにおいても同様である。ブレーキECU70は、G抜けショック対策優先条件が成立した場合に回生制動力を制限し液圧制動力を増加させる。このとき回生制動力がG抜けショック対策優先モードにおける上限を既に超えている場合には、回生制動力を当該上限へと漸減させるとともに液圧制動力を漸増させる。
本実施形態によれば、運転者のシフト操作が予測されかつG抜けを感知しやすい特定の運転状態に限定して回生制動力を通常よりも制限している。このため、燃費への影響を最小化しつつ、シフトチェンジ時のG抜けを軽減または防止することができる。また、シフトチェンジ時の回生制動力変動の抑制に対応して、回生制動力変動を補償するための液圧制動力の変動も抑制される。このため、液圧制御のための増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67などの開閉頻度が低減され、液圧ブレーキユニット20の耐用期間を長くとることができるようになる。