JP2011108996A - 電気−機械変換膜の作製方法、電気−機械変換膜を備えた電気−機械変換素子、該素子を有する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置 - Google Patents
電気−機械変換膜の作製方法、電気−機械変換膜を備えた電気−機械変換素子、該素子を有する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】(1):第1の電極上の電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に、予め表面改質液をインクジェット法により塗布して表面改質領域を形成する工程、(2):第1の電極上の非表面改質領域とされた電気−機械変換膜が設けられる部位に、圧電体前駆体を含むゾルゲル液をインクジェット法により塗布する工程、(3):前記塗布したゾルゲル液塗膜を加熱処理する工程によりパターン化した電気−機械変換膜を形成して電気−機械変換素子を構成する。厚膜とする場合には(2)〜(3)の工程を繰返す。これを液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に適用する。
【選択図】図3
Description
特許文献1の図に示されている液体吐出ヘッド(圧電アクチュエータ)は、インク滴を吐出するノズル(11)と、このノズルが連通する圧力室(21)、圧力室内のインクを加圧する圧電体薄膜素子(40)、インク流路の壁面を形成する振動板(30)、圧電体薄膜(43)を挟んで対向する下部電極(42)と、バッファ層(41)上に配置された上部電極(44)からなるエネルギー発生手段を備えており、エネルギー発生手段で発生したエネルギーで圧力室(21)内のインクを加圧することによってノズル板(10)に開けられたノズル(11)からインク滴を吐出させる構成となっている。圧力室(21)は、圧力室基板(Si基板)(20)に設けられ、側壁(22)と振動板(30)に囲まれている。
特許文献1では、基板上に、下部電極、圧電体薄膜、上部電極が順次設けられ、上部電極上にレジストをスピンコートしてマスクを形成した後、下部電極と圧電体薄膜をエッチングにより所定のパターンに形成している。また、Si基板上にイットリア安定化ジルコニア、CeO2またはZrO2からなる振動板が設けられ、下部電極としてルテニウム酸ストロンチウムが用いられて圧電アクチュエータが構成されている。
[水熱合成法]:
Ti金属上にPZTが選択成長することを利用して、予めTi電極をパターニングしておき、その部位のみにPZT膜を成長させる。この方法により十分な耐電圧を有するPZT膜を得るには、膜厚が5μm以上の比較的厚い膜であることが好ましく、これ以下の膜厚では電界印加により容易に絶縁破壊してしまうため、所望とする任意の薄膜の電気−機械変換膜が形成できないという問題がある。また、Si基板上に個別圧電素子を形成する場合、水熱合成が強アルカリ性の水溶液下で合成されるため、加工プロセスにおいてSi基板の保護が必須となる制約がある。
[真空蒸着法]:
有機ELの製造にシャドウマスクが用いられ、発光層のパターニングが成されているが、その際、基板(Si基板)温度を500〜600℃にした状態でPZT成膜の形成が実行される。PZT(複合酸化物)の圧電性出現のためには複合酸化物が結晶化している必要があり、その結晶化膜を得るのに前記基板温度を高温とすることが必須となる。一般的なシャドウマスクはステンレス製であり、Si基板とステンレス材の熱膨張差から、十分なマスキングができないという問題があるほか、使い捨てシャドウマスクは実用に適さず、製造プロセスへの適用の実現性が低い。
特に、[MO−CVD法]や[スパッタリング法]では堆積膜の回り込み現象が大きく、さらに不向きである。
[AD(エアロゾルデポジション)法]:
予め、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成し、レジストの無い部位にPZTを成膜する方法が知られている。AD(エアロゾルデポジション)法は前述の水熱合成法と同様に厚膜に有利であり、5μm以下の薄膜には不向きである。また、レジスト膜上にもPZT膜が堆積するので、研磨処理により一部の堆積膜を除去した後、リフトオフ工程を行う必要がある。大面積の均一研磨工程も煩雑であり、さらにレジスト膜は耐熱性が無いため、室温でAD成膜を実行し、ポストアニール処理を経て圧電性を示す膜に変換する必要がある。
[ゾルゲル方式]:
金属アルコキシシラン等の有機金属化合物を、電極を含む基板上に塗布した後、フォトリソ・エッチング等の手法により、所望とするパターンの個別の圧電体層(金属複合酸化物からなる電気−機械変換膜)を形成するものである。フォトリソ・エッチング手法によって微細パターンが形成できるが、製造プロセスの工程数が多くなるため、コストが嵩む難点がある。
ゾルゲル法によって金属複合酸化物の薄膜(電気−機械変換膜)を形成するには、例えば、非特許文献1に記載されているような技術が応用できる。
また、ゾルゲル法を用いて基板上に複合酸化物の厚膜を形成し、空間光変調素子やインクジェットプリンタヘッドのアクチュエータやセンサに応用することが提案されており、金属有機化合物を含む溶液を用いるゾルゲル法において粒界の存在に基づくクラックやボイドのない薄膜を形成し得る薄膜形成装置および薄膜形成方法を提供することが記載されている(特許文献2参照)。
[インクジェット方式]:
インクジェット方式では、下部電極(例えば、白金電極)上に、PZT前駆体溶液を用いてインクジェットヘッドから高解像度で液滴を吐出、塗布し、個別PZT膜を形成することが可能である。しかし、白金電極表面上に塗布される液体は微量であるため、乾燥し易く、また塗布領域における端部でも、微小液体から蒸発する溶媒の蒸気濃度が低いために乾燥が速い。このように白金電極表面上に塗布されるPZT前駆体の塗布領域における乾燥速度の差は、圧電体層(電気−機械変換膜)の膜厚ムラを生じる要因となり、電気−機械変換素子の電気特性に不具合を生じる原因となる。
例えば、特許文献3には、絶縁膜材料を含有するゾルゲル液をインクジエットにより基板上に吐出し、ゾルゲルが付着した基板を焼成して、基板上に絶縁膜を形成する方法(特に、電子放出素子回路基板に用いる絶縁層の製造方法)が提案されている。
これにより、下部電極を含む基板と、インクジェットヘッドから吐出されたゾルゲル液との接触角を90度以下(60度程度)に抑えられるとしている。しかし、特許文献3にはゾルゲル液を吐出する領域(吐出領域)/ゾルゲル液を吐出しない領域(非吐出領域)の区分が特にない。仮に吐出領域/非吐出領域の区分が含まれたとしても、吐出前に基板表面を洗浄化する時点で既に下部電極表面上の接触角は小さくなっており、下部電極を含む基板とインクジェットヘッドから吐出されるゾルゲル液との接触角も大きいとは言えないことから、表面改質された領域とされていない領域との接触角の差(コントラスト)はほとんどない。接触角の差がないことから、吐出されたゾルゲル液のレベリング(均一な広がり)が進行し、ゾルゲル液を所望の形状にコントロールすることは困難となり、パターンを形成することができない。また、シランカップリング剤は本質的に金属表面を撥水化させる作用があるため、下部電極を含む基板と吐出されたゾルゲル液との接触角が90度より大きくなると、吐出されるゾルゲル液がレベリングする前に乾燥・硬化して、平滑性のないPZT膜が形成される。そのため、焼成・結晶化時においてPZT膜にクラックが発生しやすくなり、電気−機械変換素子の所望とする電気特性が得られなくなる。
[ディッピング方式]
個別圧電素子の下部電極となる金属(例えば、金、白金等)が成膜された基板を、チオール類を含有する溶液内やシランカップリング剤を含有する溶液内に含浸させることで、下部電極表面上に高密度、高配向な自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:SAM)を構築し、下部電極表面上を疎水化処理した後、個別PZT膜を形成する。しかし、SAM膜形成によって下部電極表面上の全面が疎水化されるため、表面処理後にフォトリソグラフィーやウェットエッチング、プラズマエッチング等により、PZT膜を形成する箇所の下部電極表面上を部分的に親水化する必要があり、工程が煩雑化する。さらに、疎水化処理のために含浸液を大量に要するため、これも併せてコスト高要因となる。
例えば、特許文献4には、上部電極/強誘電体薄膜/下部電極から形成される強誘電体キャパシタを含む強誘電体デバイスに関して、二種類以上の原料溶液を別々のインクジエットヘッドにより基板のある一平面内、膜厚方向において均一に混合されたものとなるようにして強誘電体膜を形成する方法が提案されている。これにより、スピンコート法における問題が解消されるとしている。
あるいは、特許文献5に、SAM(Self−Assembled Monolayers)分子の末端を化学修飾したアルカンチオールを反応基体全面に形成した後、紫外線照射により部分的にSAMを除去し、露出された金属板に生物分子や細胞アレイを形成する技術が提案されている。
[マイクロコンタクトプリント(mCP)方式]:
非特許文献2に、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーによって作製されたマスター(型)の形状パターンから、ゴム状プラスチック(ポリジメチルシロキサン:PDMS)へ転写してスタンプを作製する技術が紹介されている。例えば、Au膜上にアルカンチオールを用いて自己組織化単分子膜(SAM)を形成することができる。
この現象を用いたマイクロコンタクトプリント法によりSAMパターンを転写して、その後のエッチングなどのプロセスに利用する。作製されたスタンプの表面上にSAM膜を形成する分子(チオール、アミノシラン等)を塗布し、このスタンプを基板上に設けた下部電極表面上に押し付けることにより、前記形状パターンに従って下部電極表面上にSAM膜が形成される。この手法により、工程の繰り返し性等における生産性は向上するが、SAM膜の形成(表面改質処理)以前の段取り、すなわち硬版(ガラス等)上でのマスター作製およびスタンパの作製・複製等、別途の準備工程が増えてコスト増となる。また、型温、アライメント、平行度等を含む、マスター−スタンプ間あるいはスタンプ−下部電極間を含む基板間でのコンタクト/離型条件を細かく制御する必要があり、工程が煩雑化するという難点がある。
その他の方法として、例えば、印刷法のような低コストかつ材料効率の高い方法で、簡便に製造できる、微細な導電性パターンおよび高移動度の半導体層を有する積層構造体(TFT等に好適である)が提案されている(特許文献6参照)。
特許文献6には、濡れ性変化層(臨界表面張力の大きな高表面エネルギー部と臨界表面張力の小さな低表面エネルギー部)の高表面エネルギー部位に微細な導電性パターンを、低表面エネルギー部位に半導体層をそれぞれ印刷法により形成してなる積層構造体が記載されている。低表面エネルギー部の臨界表面張力(40mN以下)と、高表面エネルギー部の臨界表面張力との差は10mN以上である。
上記のように電気−機械変換素子薄膜等の作製方法に関して種々の方法が提案されているが、いずれも簡便、且つ環境負荷(使用材料の削減等)を軽減した方法により、高密度に個別圧電素子を配列し、安定したインク吐出特性を得る手法としては十分でなく、さらなる改善が求められている。
電気−機械変換素子の製造方法においては、第1の電極上に所望の電気−機械変換膜パターンを、簡素化および使用材料の削減が図れる製造プロセスにより形成することを実現し、製造プロセスとして、電気−機械変換膜パターンを設ける領域以外の第1の電極表面をインクジェット方式(以降、「インクジェット法」と呼称することがある。)によって改質(例えば、疎水処理)した後、表面改質されない第1の電極上にインクジェット法により電気−機械変換膜の前駆体溶液(ゾルゲル液)を塗布して所望の電気−機械変換膜パターンを形成する方式を適用することを課題とする。
(1)前記第1の電極上の電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に、予め表面改質液をインクジェット法により塗布して表面改質を行い表面改質領域を形成する工程と、
(2)前記第1の電極上の非表面改質領域とされた電気−機械変換膜が設けられる部位に、圧電体前駆体を含むゾルゲル液をインクジェット法により塗布する工程と、
(3)前記電気−機械変換膜が設けられる部位に塗布したゾルゲル液塗膜を熱処理する工程と、
を含み、パターン化した電気−機械変換膜を形成することを特徴とする電気−機械変換膜の作製方法により解決される。
本発明の電気−機械変換素子を用いて液体吐出ヘッド、および該液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置を構成すれば、吐出安定性に優れているため、インクジェット式記録装置用として好適に用いられる。インクジェット式記録装置としては、限定されないが、例えば、インクジェットプリンタ、MFPを使用するデジタル印刷装置、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFP等が挙げられる。
(1)前記第1の電極上の電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に、予め表面改質液をインクジェット法により塗布して表面改質を行い表面改質領域を形成する工程と、
(2)前記第1の電極上の非表面改質領域とされた電気−機械変換膜が設けられる部位に、圧電体前駆体を含むゾルゲル液をインクジェット法により塗布する工程と、
(3)前記電気−機械変換膜が設けられる部位に塗布したゾルゲル液塗膜を熱処理する工程と、
を含み、パターン化した電気−機械変換膜を形成することを特徴とするものである。
後述のように、上記熱処理には、乾燥、熱分解、結晶化等が含まれ、結晶化処理は(2)から(3)のプロセス1回毎に行ってもよいし、(2)から(3)の工程を繰返す場合には、複数回後(例えば、3回程度)に一括して行ってもよい。
また、前記個別圧電素子の構成として、基板上に、第1の電極、圧電体からなる電気−機械変換膜、第2の電極が順次設けられたものが好適である。
なお、本発明における個別圧電素子として、基板(または下地膜)上に、第1の電極/圧電体からなる電気−機械変換膜/第2の電極が順次設けられた構成を基本構成とすることから、第1の電極は基板(または下地膜)上に形成される。ここで、基板を振動板と言うことがある。
表面改質領域の表面と、非表面改質領域の表面におけるゾルゲル液に対する接触角の値に大きな差が生じて、第1の電極上の非表面改質領域に塗布されるゾルゲル液が均一に広がり(容易にレベリングし)、かつ電気−機械変換膜パターンの稜線が明瞭になり、第1の電極上の表面改質領域までゾルゲル液がはみ出しにくくなることにより、膜厚ムラがなく均一で、かつ所望の形状のパターン化された電気−機械変換膜が形成され、電気特性(圧電特性)の良好な電気−機械変換膜素子が作製される。
つまり、第1の電極上の表面改質工程およびゾルゲル液塗布工程まで、一貫してインクジェット法により実施することで、電気機械変換素子作製プロセスの簡素化が図れる。さらには第2の電極形成をインクジェット法で行えば一層の簡便化が図れる。また、インクジェット法の採用により、疎水処理液の吐出が電気−機械変換膜パターン外に限定されることで、塗布する疎水処理液の使用量を従来プロセスよりも減らすことができると共に、ゾルゲル液も形成される電気−機械変換膜パターン上のみとなるため、ゾルゲル液の使用量も削減できコストを抑制することができるほか、環境負荷の軽減にも繋がる。
さらに、第1の電極表面上の表面改質およびゾルゲル液塗布による電気−機械変換膜パターンの形成が、同じインクジェット装置により実施することができるため、電気−機械変換素子膜の作製プロセスを簡素化することができる。
このような電気−機械変換素子は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置あるいは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置の液滴吐出ヘッド、該液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置として有用である。
インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さく、かつ高速印字が可能であり、さらにはインクの自由度があり、安価な普通紙を使用できるなど多くの利点があるために、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置、あるいは画像形成装置として広く使用展開されている。
図2に本発明に係る電気−機械変換素子を有する液体吐出ヘッドの構成例を示す。すなわち、インクジェット記録装置において使用する液滴吐出装置は、インク滴を吐出するノズル2と、このノズルが連通する圧力室3(液室、吐出室、加圧液室、インク流路等とも称される。)と、圧力室内のインクを吐出するための圧力発生手段で構成されている。本発明における圧力発生手段は電気−機械変換素子7で構成されている。すなわち、圧力発生手段として、吐出室の壁面を形成している基板(または下地)1から構成される振動板に変形変位を与えてインク滴を吐出させるピエゾ型の圧電素子が用いられる。
前記ピエゾ型の圧電素子にはd33方向の変形を利用した縦振動型、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型、さらには剪断変形を利用したシェアモード型等があるが、最近では半導体プロセスやMEMSの進歩により、Si基板に直接液室およびピエゾ素子を作り込んだ薄膜アクチュエータが考案されている。
図2に示す本発明の電気−機械変換素子7はd31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型に属する。なお、基板(または下地)(1)上に、第1の電極5が設けられる。その際、振動板を構成する基板(または下地)(1)上に密着性向上のための処理層等を介してもよい。なお、図2の各符号において、4は電気−機械変換膜、6は第2の電極、8はノズル板、9は圧力室基板を示す。
図2に示すように電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、振動板が変形変位して、圧力室3内のインクをインク滴として吐出させる。そのため、下地としては所定の強度を有したものであることが好ましい。基板または下地の構成材料としては、Si、SiO2、Si3N4を、例えば、CVD法により作製したものが挙げられる。具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウムおよびそれらの化合物等であり、これらをスパッタ法もしくは、Sol−gel法(ゾルゲルプロセス)を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては、1.0〜2.0μm程度が好ましい。この範囲より薄いと図2に示すような圧力室の加工が難しくなり、この範囲より大きいと下地が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
また、白金を使用する場合には下地(特にSiO2)との密着性が悪いため、密着性向上のための処理層(例えば、Ti、TiO2、Ta、Ta2O5、Ta3N5等)を先に積層することが好ましい。なお、第1の電極にパターニング化が必要とされる場合には、フォトリソエッチング法等により所望のパターンを得ることができる。
PZTは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合であり、化学式で示すと、Pb(Zr0.53,Ti0.47)O3で表され、一般に、PZT(53/47)と示される。
PZT以外の複合酸化物としては、チタン酸バリウムなどが挙げられる。この場合には、バリウムアルコキシド化合物と、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これら材料としては、一般式CDO3(C=Pb、Ba、Sr、D=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする)で記述される複合酸化物が該当する。その具体例としては、(Pb1-xBax)(Zr、Ti)O3、(Pb1-xSrx)(Zr、Ti)O3などが挙げられ、これらはCサイトのPbを一部BaやSrで置換したものである。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
すなわち、第1の電極上に圧電体からなる電気−機械変換膜を設けるに先だって、第1の電極上の電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に、予め表面改質液をインクジェット法により塗布して表面改質を行い表面改質領域を形成する工程、
前記第1の電極上の非表面改質領域とされた電気−機械変換膜が設けられる部位に、圧電体前駆体を含むゾルゲル液をインクジェット法により塗布する工程、
塗布したゾルゲル液塗膜を加熱処理(乾燥・熱分解・結晶化)して圧電体とする工程、
を必要により繰り返す例を説明する。以下、電気−機械変換膜としてPZTを用い、第1の電極としてPtを用いる場合を例として説明する。
疎水処理液塗布後、所定の時間、Pt電極表面上を部分的に表面改質液(疎水処理液:撥水処理液)に浸すことでSAM処理が行われる。このときSAM膜表面上はアルキル基が配置しているので、疎水性になる。すなわち、アルカンチオール溶液により、特定金属上に自己配列する現象を利用して、疎水膜を形成する。
疎水処理液成分として使用するアルカンチオール類と、ゾルゲル液との接触角の関係を下記表1に示す。特に、炭素数が6個以上であるアルカンチオールを含む疎水処理液でSAM処理をすると、前記接触角の値が90度以上となる。
以上の工程により、Pt電極(第1の電極)表面上のSAM処理した部分が疎水性になると同時に、インクジェット法により疎水処理液が塗布されなかった部分はPt(白金)表面のままであるため、親水性表面として維持される。
その際、基板(1)上に成膜された第1の電極(Pt)における、表面改質領域(SAM膜形成)と、非表面改質領域(Pt)との表面エネルギの差、すなわち前記各表面におけるゾルゲル液に対する接触角の値に大きな差を生じる(コントラストを有する)。
表面改質領域/非表面改質領域それぞれにおける接触角の差は、塗布環境や使用するアルカンチオールの組成、アルカンチオール溶液の濃度、および疎水処理液による白金表面の浸漬時間にもよるが30度以上である。より好ましくは、表面改質領域/非表面改質領域のそれぞれにおける接触角差を60度以上とすることで、ゾルゲル液を白金電極上の疎水処理領域へ侵食されにくし得るのに十分なコントラストが得られる。これにより、PZT前駆体液(ゾルゲル液)の塗布領域は親水性の領域のみとなり、ゾルゲル液が塗布領域内においてレベリングが容易となって所定形状で高密度のパターン化した電気−機械変換膜が確実に形成される。なお、PZT前駆体液(ゾルゲル液)はインクジェットヘッドで塗布可能なように粘度、表面張力を調整する。
インクジェット法を用いた場合、1層あたりの形成膜厚に制約があるため、所望とする膜厚を得るには何層か重ね打ちする必要がある。そのため、図3中のB’〜D’に示すように、前記同様のプロセスを繰り返す。B’〜D’のプロセスを繰り返す場合には、結晶化処理を3層程度の重ね打ちの後にまとめて行うことができる。1層ごとに結晶化処理を行っても構わない。
なお、2回目以降の工程は1回目と同様に行うが、以下の理由から簡便化できる。
SAM膜は酸化物薄膜上には形成されないため、2回目以降の工程ではPZT膜(4)の形成されていない第1の電極(Pt)上のみにSAM膜が形成される。したがって、電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に自動的にSAM膜が形成される(図3中B’)。
このため、2回目以降のインクジェット法による疎水処理液の塗布は、1回目と同等のアライメント精度で実施すればよく、仮に表面改質液(撥水処理液)が1回目の工程で形成したPZT膜上に塗布されても当該箇所にはSAM膜が形成されない。
すなわち、アライメント精度を容易に維持したまま、電気−機械変換膜形成部位(パターン)以外の領域に部分的疎水化処理(SAM膜形成)を行った後、非表面改質領域(Pt)にインクジェット法によりPZT前駆体液の塗り分け塗工を行い、熱処理を施してPZT膜とするプロセスを所望の膜厚になるまで繰り返す。この方法によるパターン化で、圧電体〔PZT膜:セラミックス〕膜厚が5μmの厚さ程度まで形成できる。
電気−機械変換膜上に配置される第2の電極を形成する材料としては前記第1の電極と同様の材料を用いることができ、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜、またAg合金、Cu、Al、Auと、導電性酸化物の積層体を第2の電極とすることもできる。第2の電極の膜厚としては、100〜150nm程度が好ましい。
その他、第2の電極の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾル−ゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング法等により所望のパターンを得ることが必要である。
絶縁保護膜の材料としては、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等の無機膜、または、ポリイミド、パリレン膜等の有機膜が好ましい。絶縁保護膜の膜厚は、電気−機械変換膜の膜厚と同等程度が好ましい。膜厚が電気−機械変換膜の膜厚と同等以下であると絶縁保護膜としての機能が十分果たせなくなり、同等以上であると所望の膜厚とするためのプロセス時間が長くなるため好ましくない。絶縁保護膜の作製方法としては、CVD、スパッタ法、あるいはスピンコート法を用いて作製することができる。
本発明の電気−機械変換素子における該電気−機械変換膜の作製方法について添付図面を参照して説明する。
図3のフロー図に示すプロセスに準拠して、インクジェット方式(インクジェット法)により本発明に係るパターニングされた電気−機械変換膜を作製した。
図3Aに示す基板(1)上に第1の電極(5)が表面に形成されている。
図3Bに示すように、基板(1)上に設けた第1の電極(5)〔白金(Pt)電極〕表面の一部、すなわち後工程で圧電体前駆体を含むゾルゲル液(略「ゾルゲル液」)がインクジェット法により塗布されない領域(電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域)にSAM膜を形成した。SAM膜の形成は、疎水処理液であるアルカンチオール溶液をインクジェット法により第1の電極(5)に塗布した後、10分間白金電極上の一部が疎水処理液で覆われる(浸される)状態にし、分子の自己配列(自己組織化)を利用して行った。ここで、アルカンチオールにはn−ドデカンチオール[CH3(CH2)11−SH]を用い、溶媒には無水エタノールを使用して、溶液濃度を0.1mol/lに調整した。
PZT前駆体溶液として、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学量論組成に対して鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでゾルゲル溶液を合成した。このゾルゲル溶液のPZT濃度は0.1mol/lに調整した。
インクジェット法により吐出されたゾルゲル溶液は、前記接触角のコントラスト(表面改質領域と、非表面改質領域との接触角差:85度)により、吐出箇所の白金電極表面上の非表面改質部分、すなわち親水性領域内のみで均一にレベリングされ、疎水性領域とされた白金電極上のSAM膜で覆われた部分にはみ出すことなくゾルゲル液塗膜が形成された。
上記一度の成膜で得られる膜厚は100〜150nm程度が好ましく、ゾルゲル溶液濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される。
上記ゾルゲル液塗膜を120℃処理(第1の加熱:溶媒乾燥)の後、有機物の熱分解を行いPZT膜を形成した(図3D参照)。なお、このPZT膜の結晶化処理はしていないが乾燥処理、熱分解処理によりSAM膜は消失する。
この状態で1度目に形成したPZT膜上に位置合わせを行って、再度インクジェット塗布装置によりゾルゲル溶液を塗布した状態が図3C’である。さらに1回目と同じように加熱プロセスを実施し、図3D’に示すように重ね塗りされたPZT膜が得られた。このときの膜厚は260nmであった。
上記膜厚が400nmとされたPZT膜上に、前記B’〜D’の3回繰り返しを「1セット」とするプロセスを3セット追加実施して膜厚1.6μmに達する電気−機械変換膜(圧電体)を形成したが、膜にクラックなどの不良は生じなかった。
なお、上記各プロセスで、SAM膜処理→ゾルゲル溶液の選択塗布→120℃乾燥→500℃熱分解を行い、各1ッセットの最終プロセス毎に結晶化処理を施した。
上記プロセスで作製された電気−機械変換膜パターン上に、第1の電極に対向する第2の電極を、電極形成溶液(銀を含む)を用いてインクジェット法により設け、電気−機械変換素子とした。
作製した電気−機械変換素子につき、電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。その結果、電気−機械変換膜(圧電体)の比誘電率は1110、誘電損失は0.02、残留分極は19.3μC/cm2、抗電界は36.5kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持つことが分かった。この素子のP−Eヒステリシス曲線を図7に示す。
なお、電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は120pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。これは液体吐出ヘッドとして十分設計でき得る特性値であった。
前記膜厚が1.6μmとされたPZT膜上に第2の電極(上部電極)を配置せずに、さらなる厚膜化を試みた。すなわち、前記B’〜D’の3回繰り返しを「1セット」とするプロセスを都合10回繰り返し、3回までの熱分解アニールの度に結晶化処理を行ったところ、4umのパターン化PZT膜がクラックなどの欠陥を伴わずに得られた。
実施例3で得た構成の電気-機械変換素子を備えた液体吐出ヘッドを作製し(図8に示す構成とした)、インクの吐出評価を行った。図8はインクの吐出評価のために用いた液体吐出ヘッドを示す概略図である(図2の構成を基本としてこれを複数個配置した構成)。
図8における各符号、3は圧力室、2はノズル、8はノズル板、9は圧力室基板(Si基板)、1は基板(または振動板)、5は第1の電極(白金族電極)、10は密着層(あるいは酸化物電極)、4は電気−機械変換膜、6は第2の電極、7は電気−機械変換素子を示す。図8中の電気−機械変換素子は本発明により簡便な製造工程で形成され、且つ、バルクセラミックスと同等の性能を有するものであり、素子形成後の圧力室形成(裏面からのエッチング除去)、ノズル孔を有するノズル板の接合等により液体吐出ヘッドが構成される。なお、図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は略した。
作製した電気−機械変換素子を備えた液体吐出ヘッドを、図4、5に示すようなインクジェット記録装置に搭載し、液体吐出ヘッドの各ノズル孔からのインク吐出安定性、ノズル孔からの吐出ばらつきを評価した結果、いずれも問題なく良好な吐出特性が得られた。
本発明の電気−機械変換素子を用いた液体吐出ヘッド、および該液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置は、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上するため、インクジェット式記録装置(例えば、インクジェットプリンタ、MFPを使用するデジタル印刷装置、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFP等)用として有用である。また、インクジェット技術を利用する三次元造型技術などへの応用も可能である。
10 ノズル板
11 ノズル
20 圧力室基板(Si基板)
21 圧力室
22 側壁
30 振動板
40 圧電体薄膜素子
41 バッファ層
42 下部電極
43 圧電体薄膜
44 上部電極
(図2の符号)
1 基板(または下地)
2 ノズル
3 圧力室
4 電気−機械変換膜
5 第1の電極
6 第2の電極
7 電気−機械変換素子
8 ノズル板
9 圧力室基板
(図3の符号)
1 基板
2 SAM膜(自己組織化単分子膜)
3 ゾルゲル溶液(PZT前駆体液塗膜)
4 熱分解後PZT膜
5 第1の電極
(図4、図5の符号)
81 記録装置本体(装置本体)
82 印字機構部
83 用紙
84 給紙カセット
85 手差しトレイ
86 排紙トレイ
91 主ガイドロッド
92 従ガイドロッド
93 キャリッジ
94 記録ヘッド
95 インクカートリッジ
97 主走査モータ
98 駆動プーリ
99 従動プーリ
100 タイミングベルト
101 給紙ローラ
102 フリクションパッド
103 ガイド部材
104 搬送ローラ
105 搬送コロ
106 先端コロ
107 副走査モータ
109 印写受け部材
111 搬送コロ
112 拍車
113 排紙ローラ
114 拍車
115、116 ガイド部材
117 回復装置
(図6の符号)
1 基板
4 PZT膜(電気−機械変換膜)
5 第1の電極表面
6 第2の電極
(図8の符号)
1 基板(または振動板)
2 ノズル
3 圧力室
4 電気−機械変換膜
5 第1の電極(白金族電極)
6 第2の電極
7 電気−機械変換素子
8 ノズル板
9 圧力室基板(Si基板)
10 密着層(あるいは酸化物電極)
Claims (12)
- 少なくとも第1の電極上に圧電体からなる電気−機械変換膜が設けられた個別圧電素子を複数有する電気−機械変換素子における該電気−機械変換膜の作製方法であって、
(1)前記第1の電極上の電気−機械変換膜が設けられる部位以外の領域に、予め表面改質液をインクジェット法により塗布して表面改質を行い表面改質領域を形成する工程と、
(2)前記第1の電極上の非表面改質領域とされた電気−機械変換膜が設けられる部位に、圧電体前駆体を含むゾルゲル液をインクジェット法により塗布する工程と、
(3)前記電気−機械変換膜が設けられる部位に塗布したゾルゲル液塗膜を熱処理する工程と、
を含み、パターン化した電気−機械変換膜を形成することを特徴とする電気−機械変換膜の作製方法。 - 前記(2)から(3)の工程を繰返し行ってパターン化した電気−機械変換膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記個別圧電素子が、基板上に、第1の電極、圧電体からなる電気−機械変換膜、第2の電極が順次設けられた構成を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記表面改質領域にインクジェット方式により塗布される表面改質液が、疎水処理液であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記疎水処理液の成分としてチオール化合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記チオール化合物が、炭素数6個以上のアルカンチオールであることを特徴とする請求項5に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記表面改質領域と、非表面改質領域との各表面において、ゾルゲル液に対する接触角の値に差を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記表面改質領域と、非表面改質領域との各表面におけるゾルゲル液に対する接触角の値の差が、30度以上であることを特徴とする請求項7に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 前記電気−機械変換膜上に設けられる第2の電極が、インクジェット法により形成されることを特徴とする請求項3に記載の電気−機械変換膜の作製方法。
- 請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法により作製される電気−機械変換膜を備えた個別圧電素子を複数有することを特徴とする電気−機械変換素子。
- 請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法により作製される電気−機械変換膜を備えた個別圧電素子を複数有する電気−機械変換素子を用いたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
- 請求項11に記載の液体吐出ヘッドを配備したことを特徴とする液体吐出装置。
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