JP2011083877A - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)下部層はTi化合物層、(b)上部層は、α型Al2O3相、κ型Al2O3相およびTi化合物相の混合組織層からなり、(c)上部層において、α型Al2O3相含有割合(=α型Al2O3相/(α型Al2O3相+κ型Al2O3相))は0.6〜0.9、また、Ti化合物相は、TiO2、Ti3S4を少なくとも含み、(d)上部層におけるTi含有割合(=Ti/(Ti+Al+O+S))は0.3〜3at%、S含有割合(=S/(Ti+Al+O+S))は0.1〜2at%、さらに、Ti3S4は、Tc(100)>2を満足する配向性を有する。
【選択図】 なし
Description
(a)下部層が、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層からなる1〜8μmの層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、85%以上のκ型Al2O3相と残部がα型Al2O3相からなるAl2O3層、あるいは、さらにTiを含有させたTi含有Al2O3層(従来Ti含有Al2O3層という)、
からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具(従来被覆工具という)が知られており、この従来被覆工具は、耐摩耗性に優れることが知られている。
例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2%、CO2:6%、TiCl4:0.2%、CO:1.9%、H2:90%、
ガス流速: 2m/s、
反応雰囲気温度:1010℃、
反応雰囲気圧力:50Torr、
の条件で蒸着形成することができるが、この成膜法により得た従来Ti含有Al2O3層を硬質被覆層として蒸着形成した被覆工具は、高速断続切削条件で用いた場合には、チッピングの発生等により寿命が短いものであった。
一方、前記非特許文献1には、従来α型Ti含有Al2O3層の成膜条件についての具体的な開示はないが、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2〜5%、CO2:4〜10%、TiCl4:0.23%以下、HCl:2〜5%、H2S:0.10〜0.30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1005℃、
反応雰囲気圧力:60Torr、
という条件で従来α型Ti含有Al2O3層を成膜したところ、層中に存在するTiO2相、Ti3S4相によって、α型Al2O3粒子とTi化合物との粒界強度が低下し、そのため、従来α型Ti含有Al2O3層を硬質被覆層とする被覆工具を高速断続切削条件で用いた場合には、従来Ti含有Al2O3層の場合と同様、チッピングの発生等により寿命が短いものであった。
第一段階として、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.1〜1%、CO2:1〜2%、TiCl4:0.1〜1%、HCl:1〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:980〜1020℃、
反応雰囲気圧力:40〜60Torr、
という条件で成膜した後、
第二段階として、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2〜5%、CO2:8〜12%、TiCl4:0.3〜0.9%、HCl:2〜5%、H2S:0.40〜0.80%、H2:残り、
反応雰囲気温度:900〜960℃、
反応雰囲気圧力:40〜60Torr、
という条件でTi含有Al2O3層を成膜した場合には、耐チッピング性に優れたTi含有Al2O3層を成膜し得ることを知見した。
即ち、上記成膜条件でTi含有Al2O3層を成膜した場合には、α型Al2O3相とκ型Al2O3相とTi化合物相との混合組織からなるTi含有Al2O3層(以下、改質Ti含有Al2O3層という)が形成され、さらに、該Ti化合物相には、チタン酸化物(以下、TiO2で示す)相およびチタン硫化物(以下、Ti3S4で示す)相が含まれていた。
そして、上記改質Ti含有Al2O3層を硬質被覆層として被覆形成した被覆工具を、鋼や鋳鉄の高速断続切削加工に供したところ、改質Ti含有Al2O3層中に含有されるTiO2相およびTi3S4相は、粒界強度の低下を招くことなく、むしろ、硬質被覆層の強度を高め、かつ、潤滑性を高めるため、チッピングの発生を抑制するとともに、長期の使用に亘って優れた切削性能を発揮することを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、チタンの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するチタン化合物層からなり、
(b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有し、α型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相、κ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相およびチタン酸化物とチタン硫化物を少なくとも含むチタン化合物相との混合組織層からなり、
(c)上記上部層において、κ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相との合量に占めるα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相の含有割合は60〜90%であり、
(d)上記上部層における、チタンとアルミニウムと酸素と硫黄の合計量に占めるチタンの含有割合は0.3〜3原子%、また、硫黄の含有割合は0.1〜2原子%であり、さらに、チタン硫化物はTc(100)>2を満足する配向性を備えている、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、自身の具備するすぐれた靭性及び耐摩耗性によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と改質Ti含有Al2O3層からなる上部層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上にも寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生下の高速断続切削条件では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上部層を構成する改質Ti含有Al2O3層は、既に述べたように、
通常の化学蒸着装置を用い、
第一段階として、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.1〜1%、CO2:1〜2%、TiCl4:0.1〜1%、HCl:1〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:980〜1020℃、
反応雰囲気圧力:40〜60Torr、
という条件で成膜した後、
第二段階として、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2〜5%、CO2:8〜12%、TiCl4:0.3〜0.9%、HCl:2〜5%、H2S:0.40〜0.80%、H2:残り、
反応雰囲気温度:900〜960℃、
反応雰囲気圧力:40〜60Torr、
という条件で蒸着することによって成膜することができる。
得られた改質Ti含有Al2O3層は、α型Al2O3相とκ型Al2O3相とTi化合物相との混合組織から構成され、さらに、該Ti化合物相には、少なくともTiO2およびTi3S4が含有されている。
α型Al2O3相の含有割合は、上記2段階の蒸着によって影響される。第一段階では、AlCl3とTiCl4を0.1〜1%と少量添加することで、所望のα,κ型Al2O3核を形成し、その後、第二段階のTiCl4添加量と蒸着温度の制御によって所望のα型Al2O3相の含有割合を得る。
第二段階でのTiCl4添加量が0.9%を超えるとα型Al2O3相の含有割合が60%未満になり高温強度が低下する。一方、第二段階でのTiCl4添加量が0.3%未満になるとα型Al2O3相の含有割合が90%以上となり、κ型Al2O3相の特性である熱遮蔽効果が低下するため、κ型Al2O3相との合量に占めるα型Al2O3相の含有割合を60〜90%と定めた。
そして、TiはTiO2相として存在し、α型Al2O3相とκ型Al2O3相が共存する本発明の改質Ti含有Al2O3層においては、Al2O3粒子とTi3S4粒子間の粒界強度を向上させる作用があり、上部層の強度向上に寄与する。
ただ、Tiの含有割合(原子%)を、Ti/(Ti+Al+O+S)×100で表した場合、Tiの含有割合が0.3at%未満ではAl2O3粒子とTi3S4粒子間の粒界強度向上がみられず、一方、Tiの含有割合が3at%を超えた場合にはα型Al2O3相の含有割合が60%未満になるため、Tiの含有割合は0.3〜3at%と定めた。
SはTi3S4相として存在し、本発明の改質Ti含有Al2O3層においては、付着強度を向上させるとともに、切削加工時に被削材との濡れ性を改善する作用があり、その結果、上部層の強度向上および潤滑性向上に寄与する。
特に、前記本発明の成膜条件で改質Ti含有Al2O3層を成膜した場合には、上記Ti3S4相は、Tc(100)>2を満足する配向性を備えるようになり、この点からも上部層の強度はより一段と向上する。
ただ、Sの含有割合(原子%)を、S/(Ti+Al+O+S)×100で表した場合、Sの含有割合が0.1at%未満では、切削時に被削材との濡れ性を十分に発揮できず、一方、Sの含有割合が2at%を超えた場合には、Al2O3粒子とTi3S4粒子間の粒界強度が低下するため、Sの含有割合を0.1〜2at%と定めた。
また、Ti3S4相についてのTc(100)>2は、
一般式:
Tc(hkl)=I(hkl)/I0(hkl)
×[1/NΣ{I(hkl)/I0(hkl)}]−1
にしたがい、Ti3S4相が(100)面に配向している配向係数が2を超えることを示すが、Tc(100)>2としたのは、Tc(100)が2未満では切削時にチッピングが起こるが、Tc(100)>2では切削時におけるチッピングが起こらなかったためという理由による。
まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表7に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
ついで、表4に示される条件にて、表8に示される目標層厚の改質Ti含有Al2O3層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜10をそれぞれ製造した。
なお、従来被覆工具1〜5および参考被覆工具6〜10の工具基体種別、下部層種別及び下部層厚は、それぞれ、本発明被覆工具1〜10のそれと同じである。
また、オージェ分光分析により、上部層に含有されるTi含有量及びS含有量を求めた。
さらに、上部層に存在するTi3S4については、そのTc(100)を次の式、
Tc(100)=I(100)/I0(100)
×[1/NΣ{I(hkl)/I0(hkl)}]−1
ここで、
I(hkl):(hkl)面の測定したX線回折強度、
I0(hkl):JCPDSパウダーの(hkl)面のX線回折データの強度、
N:計算に使用した結晶面であり、使用した(hkl)結晶面数、
使用した(hkl)面:(100),(004),(102),(103),(006),(105),(110),(203),(204)
により求めた。
上記で求めたそれぞれの値を表8、表9に示す。
その値を表8、表9に示す。
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 300 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Aという)でのクロムモリブデン合金鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・S35Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 300 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.13 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min.)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 350 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min.)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表10に示した。
これに対して、硬質被覆層の上部層にTiO2、Ti3S4を含むTi化合物相が形成されておらず、しかも、α型Al2O3相含有割合の小さい従来被覆工具1〜5、あるいは、硬質被覆層の上部層にκ型Al2O3相が存在しない参考被覆工具6〜10においては、チッピング発生あるいは耐摩耗性の劣化等によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、チタンの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するチタン化合物層からなり、
(b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有し、α型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相、κ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相およびチタン酸化物とチタン硫化物を少なくとも含むチタン化合物相との混合組織層からなり、
(c)上記上部層において、κ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相との合量に占めるα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム相の含有割合は60〜90%であり、
(d)上記上部層における、チタンとアルミニウムと酸素と硫黄の合計量に占めるチタンの含有割合は0.3〜3原子%、また、硫黄の含有割合は0.1〜2原子%であり、さらに、チタン硫化物はTc(100)>2を満足する配向性を備えている、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
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