本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本願発明者らが種々検討を行うことによって得た知見について説明する。
m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて発光素子を形成する場合、通常、活性層は、井戸層と障壁層とを含む多層膜から構成される。この場合、光閉じ込めを有効に行うことや、活性層に発生する歪みを緩和することなどを目的として、InaGa1-aN(0<a≦1)の井戸層と、InbGa1-bN(0≦b<1:a>b)の障壁層とが一般的に用いられる。
しかしながら、上記のような活性層構造を用いた窒化物半導体発光素子について、PL発光パターン(光励起によって発光させたときの面内光分布)を観測したところ、活性層のIn組成比の増加に伴い、窒化物半導体発光素子のPL発光パターン中に図50に示すようなダークラインが発生する場合があることを本願発明者らは突き止めた。また、上記したダークラインは、PL発光パターン中だけでなく、図51に示すように、EL発光パターン(電流注入にて発光させたときの面内光分布)中でも観測される。
このようなダークラインの発生は、発光素子を駆動させた際の発光強度(発光効率)の低下や、レーザ素子をAPC(Auto Power Control)駆動した際の、駆動電流増加を引き起こすため好ましくない。また、この活性層のIn組成を増加させた際に発生するダークラインは、m面のc軸方向(〈0001〉方向)に平行に発生する。なお、In濃度などが高くなると、a軸方向(〈11−20〉方向)にもダークラインが発生する場合があり、網目状のダークラインとなることもある。ダークラインは基板などのGaNと活性層のInGaN層との格子定数や、熱膨張係数の違いから発生するミスフィット転位などの欠陥によって発生すると推測される。これまで一般的に用いられてきたc面(0001)などでは、Inの増加に伴いこのようなダークラインの発生は起こらなかった。このため、このようなダークラインの発生は、無極性面、特にm面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子特有の現象であると考えられる。
また、本願発明者らの検討によって、障壁層にInGaN層を用いた場合、ダークラインの発生が顕著になることが分かった。この場合、障壁層に含まれるIn組成比bが大きくなるにしたがい、ダークラインの発生が顕著となることも分かった。さらに、障壁層にGaN層を用いた場合においても、井戸層のIn組成比aが大きくなり発光波長が490nm程度を越えるようなIn濃度になると、ダークラインが発生することも分かった。
このように、m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子では、c面を用いた窒化物半導体発光素子とは異なり、自発分極やピエゾ分極に起因する発光効率の低下は抑制されるものの、ダークラインの発生に起因して、発光効率の低下を引き起こすという問題があることを見出した。このようなダークラインの発生は、m面を用いた窒化物半導体発光素子において、発光波長の長波長化を図る際の妨げとなるため、非常に問題となる。特に、半導体レーザ素子においては、発光効率の低下はゲイン(利得)の低下を引き起こすため、問題が大きい。
そこで、上記知見をもとに、本願発明者らが鋭意検討した結果、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)から構成することにより、ダークラインの発生を抑制することが可能となることを初めて見出した。すなわち、Alを含む窒化物半導体から障壁層を形成することによって、図52に示すように、ほぼ完全にダークラインの発生を抑制できることが分かった。障壁層を構成する窒化物半導体層としては、最も好ましいのが、AlGaN層およびAlInGaN層であり、次に好ましいのがAlInNである。また、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)であれば、いずれであっても、上記効果は得られる。さらに、活性層の障壁層に、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を用いる場合、活性層の井戸層はInGaNから構成されているのが好ましい。障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いる場合、m面などの無極性面であればダークラインの発生抑制効果が得られる。
また、障壁層をAlInGaNから構成した場合、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、障壁層上に形成された井戸層に取り込まれるIn量が増加することが分かった。このため、障壁層をAlInGaNから構成することによって、成長条件の範囲を広くとることできるので好ましい。また、AlGaNにInを添加したAlInGaNは、より低温で成長させた場合でも、良好な結晶性を有する膜を形成し易い。そのため、600℃〜800℃程度の比較的低い成長温度で形成される場合が多い障壁層を、AlInGaNから構成することにより、上記のような比較的低温で障壁層を形成した場合でも、結晶性の良好な障壁層を得ることができるので好ましい。また、障壁層をAlInGaNとすることで、井戸層に対して障壁層が与える歪を低減することができるため、好ましい。井戸層にかかる歪が小さい方が、発光素子が駆動中に劣化する速度が遅くなるためより好ましい。
なお、上記した図50は、PL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図51のPL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のPL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
また、上記した図51は、EL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図50のEL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のEL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
さらに、上記した図52は、障壁層をAlInGaNから構成した発光ダイオード素子のPL発光パターンの顕微鏡写真である。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.25Ga0.75Nから構成されており、障壁層がAl0.01In0.03Ga0.96Nから構成されている。また、窒化物半導体基板として、m面a軸オフ基板(a軸方向のオフ角度:1.7度、c軸方向のオフ角度:+0.1度)を用いている。
また、上述したように、本願発明者らは、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、窒化物半導体基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制することが可能であることを見出した。
ここで、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板は、平坦性および結晶性の良好な、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を成膜するのに非常に適した無極性基板であることが、本願発明者らの検討によって明らかとなった。そして、このような特徴を有する上記基板を用いて、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)で形成することにより、上記したダークラインの発生抑制効果に加えて、障壁層の平坦性および結晶性を向上させる効果も得られ、発光効率を大幅に向上させることが可能となることも見出した。
なお、上記知見より、基板上に積層される層構造の中に、できるだけGaN層を含まないようにすることで、表面モフォロジーをさらに良好にすることが可能である。このとき、基板表面(成長主面)に接する半導体層を、Alを含まないGaN層に代えて、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層)にすることで、表面モフォロジーが顕著に向上する。このような現象は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた場合の特徴的な現象である。なお、発光素子を形成する場合には、光閉じ込めなどを行うために、光ガイド層としてGaN層を用いることも可能である。また、コンタクト層などにGaN層を用いることも可能である。
また、基板上に積層される層構造の中にGaN層が含まれる場合でも、GaN層(基板と活性層との間に形成されるGaN層)のトータル層厚が比較的小さい場合には、表面モフォロジーの悪化が抑制される。ここで、上記トータル層厚とは、GaN層が1層の場合は、そのGaN層の層厚を意味し、GaN層が複数層の場合には、複数のGaN層の層厚を累積した(合計した)層厚を意味する。本願発明者らの検討によれば、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚は、0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。0.3μm以下であればさらに好ましい。
このように、GaN層のトータル層厚を0.7μm以下とする上記条件を満足するように、窒化物半導体層を形成することで、表面モフォロジーが改善され、層表面を平坦化することが可能となる。そして、その平坦化した層の表面上に、活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)を形成することによって、In組成の面内分布を抑制し、発光効率を改善することが可能となる。
なお、発光効率を改善するという観点からは、基板とInを含む窒化物半導体層である井戸層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。また、井戸層が複数層形成されている場合には、最も基板側の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできるし、他の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできる。
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態において、「窒化物半導体」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる半導体を意味する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体ウェハの一部を模式的に示した断面図である。図2は、窒化物半導体の結晶構造を説明するための模式図である。図3は、基板のオフ角度を説明するための模式図である。図4〜図10は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体ウェハを説明するための図である。まず、図1〜図10を参照して、窒化物半導体レーザ素子(窒化物半導体素子)を含む、本発明の第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50について説明する。なお、第1実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、窒化物半導体レーザ素子に適用した例について説明する。
第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50を構成する窒化物半導体は、図2に示すように、六方晶系の結晶構造を有している。この結晶構造において、六角柱とみなせる六方晶のc軸[0001]を法線とする面(六角柱の上面)をc面(0001)と呼び、六角柱の側壁面の各々をm面{1−100}と呼ぶ。窒化物半導体では、c軸方向に対称面が存在しないため、分極方向がc軸方向に沿っている。このため、c面は、+c軸側と−c軸側とで異なる性質を示す。すなわち、+c面((0001)面)と−c面((000−1)面)とは等価な面ではなく、化学的な性質も異なる。一方、m面は、c面に対して直角な結晶面であるため、m面の法線は、分極方向に対して直交している。このため、m面は、極性のない無極性面である。なお、上述のように、六角柱の側壁面の各々がm面となるため、m面は、6種類の面方位((1−100)、(10−10)、(01−10)、(−1100)、(−1010)、(0−110))で示されるが、これらの面方位は、結晶幾何学的に等価な面方位であるため、これらを総称して{1−100}と示す。
また、第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50は、図1に示すように、窒化物半導体基板としてのn型GaN基板10を備えている。このn型GaN基板10の成長主面10aは、m面に対してオフ角度を有する面からなる。具体的には、窒化物半導体ウェハ50のn型GaN基板10は、m面に対して、a軸方向([11−20]方向)にオフ角度を有している。なお、上記n型GaN基板10は、a軸方向のオフ角度に加えて、c軸方向([0001]方向)にもオフ角度を有していてもよい。
ここで、図3を参照して、n型GaN基板10のオフ角度についてより詳細に説明する。まず、m面に対して、a軸[11−20]方向およびc軸[0001]方向の2つの結晶軸方向を定義する。これらa軸およびc軸は、互いに垂直な関係となっているとともに、m軸に対しても互いに垂直な関係となっている。また、n型GaN基板10の結晶軸ベクトルが基板表面(成長主面10a)の法線ベクトルと一致する場合(全ての方向に対してオフ角度が0度になった場合)に、a軸方向、c軸方向、m軸方向と平行となる方向をそれぞれX方向、Y方向、Z方向とする。次に、Y方向の法線を持つ第1面、および、X方向の法線を持つ第2面を考える。そして、結晶軸ベクトルを第1面および第2面に投影したときに現れる結晶軸ベクトルを、それぞれ、第1投影ベクトルおよび第2投影ベクトルとする。このときの第1投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θaがa軸方向のオフ角度であり、第2投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θcがc軸方向のオフ角度である。なお、a軸方向のオフ角度は、+方向と−方向とで、結晶的にみて同じ表面状態になるため、+方向と−方向とで同じ特性を有する。このため、絶対値で記載することができる。一方、c軸方向は、+方向と−方向とで、Ga極性面が強くなる場合と、N極性面が強くなる場合とがあり、方向により特性が異なるため、+方向と−方向とを区別して記載する。
このように、第1実施形態によるn型GaN基板10は、その成長主面10aが、m面{1−100}に対して傾斜した面となっている。
また、上記n型GaN基板10は、m面に対するa軸方向のオフ角度の絶対値が、0.1度より大きい角度に調整されている。ただし、a軸方向のオフ角度が大きくなるに従い、活性層(井戸層などのInGaN層)に取り込まれるInの量が減少する傾向があるため、原料効率などの点から、a軸方向のオフ角度の絶対値は、10度以下であるのが好ましい。なお、a軸方向のオフ角度が10度以上の角度であっても、成膜は可能である。また、c軸方向にもオフ角度を有している場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度に調整されているのが好ましい。c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整されているのが好ましい。
また、上記の場合において、a軸方向のオフ角度は、1度より大きく、かつ、10度以下の角度に調整されているのが好ましい。a軸方向のオフ角度が、このような範囲となるように調整されていれば、駆動電圧の低減効果が大きくなることに加えて、表面モフォロジーの改善効果も得られるためより好ましい。
また、第1実施形態では、図1および図4に示すように、上記n型GaN基板10が、成長主面10aから厚み方向に掘り込まれることによって形成された複数の凹部2を有している。これらの凹部2は、平面的に見て、それぞれ、a軸[11−20]方向と交差する方向に延びるように形成されている。具体的には、この第1実施形態では、複数の凹部2が、それぞれ、c軸[0001]方向と平行方向に延びるように形成されているとともに、c軸[0001]方向と直交するa軸[11−20]方向に約150μm〜約1200μm(たとえば、約400μm)の周期R(図4参照)で等間隔に配列されている。すなわち、上記複数の凹部2は、n型GaN基板10の成長主面10aにストライプ状に形成されている。また、上記n型GaN基板10において、凹部2が形成されている領域(掘り込まれている領域)が掘り込み領域3となっている。一方、成長主面10aにおける凹部2が形成されていない領域(掘り込まれていない領域)が非掘り込み領域4となっている。
また、上記複数の凹部2は、図5に示すように、それぞれ、底面部2aと一対の側面部2bとを含んで構成されている。一対の側面部2bは、その傾斜角γ(図5参照)が90度より大きい所定の角度となるように設定されている。このため、凹部2の側面部2bは、傾斜面となっている。これにより、開口幅が上方に向かって徐々に大きくなるように、凹部2が形成されている。さらに、上記凹部2は、[11−20]方向に約5μmの開口幅g(開口端の幅)を有しているとともに、n型GaN基板10の厚み方向に約5μmの深さfを有している。
また、第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50は、図1に示すように、上記n型GaN基板10の成長主面10a上に、n型窒化物半導体層20a、活性層23およびp型窒化物半導体層20bを含む窒化物半導体層20が形成された構造を有している。上記n型窒化物半導体層20aは、n型クラッド層およびn型ガイド層を含んで構成されており、上記p型窒化物半導体層20bは、キャリアブロック層、p型クラッド層、p型ガイド層およびp型コンタクト層を含んで構成されている。そして、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などのエピタキシャル成長法によって、n型GaN基板10の成長主面10a上に、n型窒化物半導体層20a、活性層23およびp型窒化物半導体層20bの順に、窒化物半導体各層が積層されている。具体的には、図6に示すように、n型GaN基板10の成長主面10a上に、n型Al0.06Ga0.94Nからなるn型クラッド層21(層厚:約2.2μm)、n型In0.02Ga0.98Nからなるn型ガイド層22(層厚:約0.2μm)、活性層23、p型Al0.15Ga0.85Nからなるキャリアブロック層24(層厚:約20nm)、p型In0.02Ga0.98Nからなるp型ガイド層25(層厚:約0.1μm)、p型Al0.05Ga0.95Nからなるp型クラッド層26(層厚:約0.5μm)およびp型GaNからなるp型コンタクト層27(層厚:約0.1μm)が順次形成されている。なお、n型GaN基板10およびn型窒化物半導体層20aには、n型不純物として、たとえば、Siがドープされており、p型窒化物半導体層20bには、p型不純物として、たとえば、Mgがドープされている。
ここで、上記窒化物半導体層20に含まれる、AlとGaとNとを含有する層において、Alが多量に含有されていると、n型GaN基板10などとの間の格子定数差が大きくなるため、クラックが発生し易くなる。特に、n型クラッド層21は、光閉じ込めを良好に行うためにAlの組成比が高く設定されていることから、n型GaN基板10との間の格子定数差がより大きくなっており、また、その層厚も約2.2μmと大きいため、このn型クラッド層21でクラックが非常に発生し易い。
一方、第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50では、n型GaN基板10の成長主面10aに凹部2(掘り込み領域3)が形成されていることにより、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20の表面(窒化物半導体層20を構成する各層の表面)に窪み35が形成された状態となっている。そして、この窪み35によって、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和されている。なお、第1実施形態では、n型GaN基板10の成長主面10aが、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面から構成されているため、凹部2内が窒化物半導体層20で埋め込まれにくくなっている。
また、第1実施形態では、上記凹部2(掘り込み領域3)によって、活性層23に生じる歪みも緩和されている。
さらに、第1実施形態では、図1および図7に示すように、上記n型GaN基板10の成長主面10a上に窒化物半導体層20が形成されることによって、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域5が形成されている。この層厚傾斜領域5は、図7〜図10に示すように、凹部2(掘り込み領域3)の片側(たとえば、右側)の近傍領域に、凹部2(掘り込み領域3)と平行方向に延びる略帯状に形成されている。そして、この層厚傾斜領域5によっても、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和されている。
したがって、第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50では、窒化物半導体層20の表面に形成される窪み35と、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に形成される層厚傾斜領域5とによる二つの歪み緩和効果によって、非常に高いクラック抑制効果を有している。加えて、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を用いることによって、成長主面10a上に形成される窒化物半導体層20の結晶性が良好となっている。このため、窒化物半導体層20にクラックが発生しにくくなっている。これにより、クラックが非常に発生し易いn型クラッド層21においても、クラックの発生が抑制されている。むろん、n型クラッド層21以外の他の窒化物半導体各層においても、クラックの発生が抑制されている。
また、上記層厚傾斜領域5は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとし、かつ、上記凹部2(掘り込み領域3)を形成したn型GaN基板10を用いた場合に、凹部2(掘り込み領域3)の片側(たとえば、右側)の領域(凹部2の近傍領域)に形成される。この理由は、n型GaN基板10の成長主面10aが、m面に対してa軸方向にオフ角度を持つことで、原料原子の流れる方向がa軸に沿った方向に変化するとともに、この原料原子の流れが凹部2(掘り込み領域3)によって分断されることにより、非掘り込み領域4における凹部2(掘り込み領域3)の片側の近傍領域において、原料原子の供給が少なくなるためであるとも考えられる。また、層厚傾斜領域5は、a軸方向のオフ角度が正(+)か負(−)かによって、凹部2(掘り込み領域3)の一方側(たとえば、右側)にできるか、凹部2(掘り込み領域3)の他方側(たとえば、左側)にできるかが決まる。これは、a軸方向のオフ角度が正(+)か負(−)かによって、原料原子の流れる向きが変わるためであると考えられる。a軸方向のオフ角度は、結晶学的に見て、正(+)であっても負(−)であっても同じであるため、絶対値で議論してもかまわない。なお、c面を成長主面とするGaN基板を用いた場合には、上記と同様の凹部(掘り込み領域)が形成されていたとしても、上記のような層厚傾斜領域は形成されない。また、m面を成長主面とするGaN基板であっても、a軸方向にオフ角度を有さない場合には、上記と同様の凹部(掘り込み領域)が形成されていたとしても、上記のような層厚傾斜領域は形成されない。ただし、後述するように、凹部2(掘り込み領域3)に成長抑制膜を形成することによって、層厚傾斜領域を形成することは可能である。
また、窒化物半導体層20の層厚傾斜領域5は、図7に示すように、凹部2(掘り込み領域3)に最も近い部分が、最も層厚が小さく、凹部2(掘り込み領域3)から離れるにしたがい、徐々に(傾斜的に)層厚が大きくなっている。なお、層厚傾斜領域5における凹部2(掘り込み領域3)に近い部分では、n型窒化物半導体層20a(図1参照)、p型窒化物半導体層20b(図1参照)にかかわらず、層厚が小さくなっている。また、層厚傾斜領域5における最も層厚が小さい部分の厚みt11は、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20における層厚傾斜領域5以外の領域(後述する発光部形成領域6)の厚みt12の1/2〜2/3程度となっている。ただし、窒化物半導体層20の成長条件により、上記層厚からずれることもある。あくまで上記の値は、おおよその目安である。
また、層厚傾斜領域5の幅w([11−20]方向の幅)および層厚傾斜領域5の層厚傾斜角度θ(n型GaN基板10の成長主面10aと層厚傾斜領域5の表面とのなす角度)は、a軸方向のオフ角度によって制御される。具体的には、a軸方向のオフ角度が大きくなるにしたがい、層厚傾斜領域5の幅wが小さくなり、層厚傾斜角度θが大きくなる。このため、第1実施形態では、a軸方向のオフ角度を調整することによって、層厚傾斜領域5の幅wが所定の長さとなるように設定されているとともに、層厚傾斜角度θが所定の角度となるように設定されている。なお、a軸方向のオフ角度が小さすぎると、層厚傾斜領域5の幅wが大きくなり過ぎる。一方、層厚傾斜角度θが大きい程、層厚傾斜領域5での層厚変動が大きくなる。このため、窒化物半導体層20の応力を緩和するには、層厚傾斜角度θが大きい方が好ましい。したがって、層厚傾斜領域5の形成条件を考慮すると、a軸方向のオフ角度の絶対値は、0.5度以上であるのが好ましい。また、凹部2の周期R(図4参照)が、たとえば400μmの場合には、a軸方向のオフ角度を調整することによって、層厚傾斜領域5の幅wが、1μm以上150μm以下に設定されていればより好ましい。層厚傾斜領域5の幅wを1μm以上とすることにより、層厚傾斜領域5の幅wが1μmより小さくなることに起因して、クラックの抑制効果が薄れるという不都合が生じるのを抑制することが可能となる。
上記した層厚傾斜領域5は、層厚が変化している領域であるため、この領域に発光部(後述するリッジ部)を形成すると特性のバラツキを抑制するのが困難となる。このため、層厚傾斜領域5は、発光部(リッジ部)の形成領域としては適さないといえる。
一方、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20は、層厚傾斜領域5に比べて層厚変動が非常に小さい、発光部(リッジ部)の形成に適した発光部形成領域6を有している。すなわち、n型GaN基板10の成長主面10a上に形成された窒化物半導体層20は、非掘り込み領域4上に、発光部(リッジ部)の形成に適さない層厚傾斜領域5と、非常に均一な層厚を有し、発光部(リッジ部)の形成に適した発光部形成領域6とを含んで構成されている。なお、層厚傾斜領域5では、発光部形成領域6に比べて、輝点状発光の抑制効果が弱くなる。
また、第1実施形態では、窒化物半導体層20における発光部形成領域6は、非常に良好な表面モフォロジーを有している。なお、上記発光部形成領域6は、全体的に層厚変動は非常に小さいが、c軸[0001]方向の層厚変動とa軸[11−20]方向の層厚変動とを比較すると、c軸[0001]方向の層厚変動の方が、a軸[11−20]方向の層厚変動に比べてより小さい。
また、図1に示すように、窒化物半導体層20における発光部形成領域6の所定領域には、電流通路部となる凸状のリッジ部28が形成されている。このリッジ部28は、図10に示すように、平面的に見て、層厚変動のより小さい、c軸[0001]方向に延びるように形成されているとともに、a軸[11−20]方向に約150μm〜約1200μm(たとえば、約400μm)の周期で配列されている。これにより、複数のリッジ部28がストライプ状に形成されている。そして、このリッジ部28の形成によって、窒化物半導体層20に、発光部となる光導波領域29(図1および図10参照)がストライプ状に形成されている。なお、図1に示すように、上記リッジ部28は、凹部2から所定の距離以上(たとえば、5μm以上)隔てた、発光部形成領域6に形成されている。また、窒化物半導体層20の上面上であるとともにリッジ部28の両脇には、電流狭窄を行うための絶縁層30が形成されている。
また、窒化物半導体層20上には、光導波領域29に電流を供給するためのp側電極31が形成されている。一方、n型GaN基板10の裏面上には、n側電極32が形成されている。
また、図10に示すように、上記窒化物半導体ウェハ50には、窒化物半導体レーザ素子に個片化するための分割予定線P1およびP2が設定されている。分割予定線P1は、平面的に見て、a軸[11−20]方向に延びるように設定されており、分割予定線P2は、平面的に見て、c軸[0001]方向に延びるように設定されている。また、分割予定線P2は、分割後の窒化物半導体レーザ素子に、1つの凹部2と層厚傾斜領域5の少なくとも一部とを含むように設定されている。
このように構成された第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50は、分割予定線P1およびP2で分割されることによって、個々の窒化物半導体レーザ素子に個片化される。
図11は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の平面図であり、図12は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子を模式的に示した断面図である。図13は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の一部を示した断面図であり、図14は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の活性層の構造を説明するための断面図である。次に、図11〜図14を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100について説明する。なお、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、上記した第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50から得ることができるため、以下の説明では、上記窒化物半導体ウェハ50から得られる窒化物半導体レーザ素子100を例にして説明する。
第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図11に示すように、レーザ光が出射される光出射面40aと、光出射面40aと対向する光反射面40bとを含む一対の共振器面40を有している。また、上記窒化物半導体レーザ素子100は、共振器面40と直交する方向(c軸[0001]方向)に、約300μm〜約1800μm(たとえば、約600μm)の長さL(チップ長L(共振器長L))を有しているとともに、共振器面40に沿った方向(a軸[11−20]方向)に、約150μm〜約1200μm(たとえば、約400μm)の幅W(チップ幅W)を有している。
また、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図12に示すように、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を備えており、このn型GaN基板10の成長主面10a上に、n型窒化物半導体層20a、活性層23およびp型窒化物半導体層20bを含む窒化物半導体層20が積層されることによって形成されている。
ここで、第1実施形態では、n型GaN基板10の成長主面10aと接する半導体層が、Alを含む窒化物半導体から構成されている。具体的には、窒化物半導体レーザ素子100は、図13に示すように、n型GaN基板10の成長主面10a上に、この成長主面10aと接するように、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなるn型クラッド層21が形成されている。なお、GaN基板10の成長主面10aと接する半導体層は、AlGaN層以外に、たとえば、AlInGaN層、AlInN層などであってもよい。また、AlGaN層やAlInGaN層などのAlを含む窒化物半導体層以外に、InGaN層およびInN層であってもよい。
また、n型クラッド層21上には、約0.2μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nからなるn型ガイド層22が形成されている。n型ガイド層22上には、活性層23が形成されている。なお、n型ガイド層22に代えて、ノンドープガイド層が形成されていてもよい。
上記活性層23は、図14に示すように、井戸層23aと障壁層23bとが交互に積層された量子井戸構造を有している。また、第1実施形態では、上記活性層23は、その障壁層23bがAlとInとを含む窒化物半導体であるAlInGaNから構成されている。具体的には、上記活性層23は、InGaN(Inx1Ga1-x1N)からなる2つの井戸層23aと、AlInGaNからなる3つの障壁層23bとが交互に積層された量子井戸(DQW;Double Quantum Well)構造を有している。より具体的には、活性層23は、n型ガイド層22側から、第1障壁層231b、第1井戸層231a、第2障壁層232b、第2井戸層232aおよび第3障壁層233bが順次積層されることによって形成されている。なお、2つの井戸層23a(第1井戸層231a、第2井戸層232a)は、それぞれ、約3nm〜約4nmの厚みに形成されている。また、第1障壁層231bは、約30nmの厚みに形成されており、第2障壁層232bは、約16nmの厚みに形成されており、第3障壁層233bは、約60nmの厚みに形成されている。すなわち、3つの障壁層23bは、それぞれ、異なる厚みに形成されている。
上記第1障壁層231bは、8nm以上50nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上40nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第1障壁層231bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、n型ガイド層22の成長後に成膜される第1障壁層231bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第1障壁層231bを、50nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。また、上記第2障壁層232bは、8nm以上30nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上20nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第2障壁層232bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、高いIn組成比を有する第1井戸層231aの成長後に成膜される第2障壁層232bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第2障壁層232bを、30nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。さらに、上記第3障壁層233bは、8nm以上100nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上80nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第3障壁層233bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、高いIn組成比を有する第2井戸層232aの成長後であって、キャリアブロック層24の成長前に成膜される第3障壁層233bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第3障壁層233bを、100nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。
なお、第1実施形態では、井戸層の層数は2層であるが、井戸層の層数が2層より多くなった場合(たとえば、3層または4層となった場合)、第1障壁層とは、基板に最も近い井戸層の下層側(基板側)に形成される初めの障壁層と定義することができる。また、第2障壁層とは、井戸層間に挟まれた障壁層と定義することができる。さらに、第3障壁層とは、基板から最も離れた井戸層(最終井戸層)上に形成される障壁層と定義することができる。第1障壁層、第2障壁層および第3障壁層を、このように定義することで、井戸層が2層以上形成されている場合でも、上記した障壁層の好ましい層厚条件を適用することが可能となる。そして、このような条件を満たしていれば、上記のような効果が得られるため、好ましい。
また、第1実施形態では、井戸層23a(活性層23)のIn組成比x1は、0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)に構成されている。また、上記障壁層23bは、AlsIntGauN(s+t+u=1)から構成されている。そして、この障壁層23bのAl組成比sは、たとえば、0<s≦0.08とされており、そのIn組成比tは、たとえば、0<t≦0.10とされている。障壁層23bのAl組成比sを0.08以下とすることで、光閉じ込めが効率よく行われるため、より好ましい。また、上記障壁層23bをAlInGaNから構成することにより、m面特有のダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。さらに、上記障壁層23bをAlInGaNから構成することにより、障壁層をGaNやInGaNから構成する場合に比べて、発光効率を向上させることが可能となる。特に、井戸層23aのIn組成比x1が0.15以上0.45以下の条件において、発光効率の改善傾向が高い。
ここで、通常、井戸層としては、In組成比が大きな領域(x1≧0.15)では、3nm程度の厚みに設定されることが多い。これは、In組成比が大きくなったときに、格子不整合からくるミスフィット転位などの発生を抑えるためである。しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有するGaN基板上に、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaNなど)からなる障壁層を形成した場合、井戸層の厚みを4.0nm以上に設定することも可能である。この理由としては、ダークラインの発生抑制効果や活性層を保護する効果などが得られるためであると考えられる。さらに、上記n型GaN基板10を用いることによって、層表面の平坦性が向上し、面内においてIn組成が非常に均一になる。このため、井戸層の厚みが大きい場合でも、In組成の高い局所領域が形成され難くなる。そのため、これによっても、井戸層の厚膜化が可能になると考えられる。
また、井戸層の厚みが、8nmより大きくなるとミスフィット転位が多数発生する場合がある。このため、井戸層の厚みは、8nm以下であるのが好ましい。さらには、2.5nm程度〜4.0nm程度の範囲に設定されているのが好ましい。
また、同様の理由により、井戸層の厚みを1.5nm程度〜4.0nm程度の範囲に設定した場合、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaNなど)から障壁層を構成することで、井戸層の層数を増やすことができる。たとえば、窒化物半導体レーザ素子において、従来の活性層構造を採用した場合、3層以上の井戸層を形成することによって、発光効率が大幅に劣化する。その一方、Alを含む窒化物半導体から障壁層を構成することによって、井戸層を5層形成した場合でも、発光効率の劣化が抑制される。また、発光ダイオード素子(LED)では、Alを含む窒化物半導体から障壁層を構成することによって、井戸層を8層形成した場合でも、発光効率の劣化が抑制される。発光ダイオード素子は、半導体レーザ素子に比べて、p型半導体層の層厚が薄いことや、p型半導体層の成膜時に活性層に与える熱ダメージが小さいことなどの理由により、半導体レーザ素子よりも活性層(井戸層)の多層化が容易である。
なお、活性層の井戸層は、量子井戸を意図して作製されるものであり、結果として、層厚が数nm以下の範囲で揺らいでいる場合や、局所的に、ドット化している場合も含む。
活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaN層、AlGaN層、AlInN層など)から構成する場合、上記のように、井戸層はInGaNから構成されているのが好ましい。
上記活性層23上には、図13に示すように、Alを含むp型半導体層としてのキャリアブロック層24が形成されている。このキャリアブロック層24は、p型AlyGa1-yNから構成されているとともに、40nm以下(たとえば、約12nm)の厚みを有している。また、キャリアブロック層24は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように構成されている。また、キャリアブロック層24上には、凸部と、凸部以外の平坦部とを有するp型In0.02Ga0.98Nからなるp型ガイド層25が形成されている。p型ガイド層25の凸部上には、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.05Ga0.95Nからなるp型クラッド層26が形成されている。p型クラッド層26上には、約0.1μmの厚みを有するp型GaNからなるp型コンタクト層27が形成されている。そして、p型コンタクト層27とp型クラッド層26とp型ガイド層25の凸部とによって、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するストライプ状(細長状)のリッジ部28が構成されている。このリッジ部28は、図11に示すように、平面的に見て、c軸[0001]方向に延びるように形成されている。
また、図14に示すように、キャリアブロック層24と井戸層23a(最もキャリアブロック層24側の井戸層23a(232a))との間の距離hは、キャリアの井戸層23aへの注入効率を向上させるために、約60nmに設定されている。キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hは、80nm以下に設定されているのが好ましく、30nm以下に設定されていればより好ましい。第1実施形態では、上記距離hは、第3障壁層233bの厚みと同じになっている。
なお、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hを200nm以上とすれば、キャリアブロック層24から活性層23までキャリアが拡散していくときに電流が広がるため、輝点状発光が若干抑制される。その一方、m面に対してオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記n型GaN基板10を用いれば、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hを、200nm以上としなくても、輝点状発光を効果的に抑制することができる。たとえば、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hを、120nmよりも短くした場合でも、輝点状発光を効果的に抑制することができる。キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hは、短い方がキャリアの井戸層23aへの注入効率が向上するため好ましい。このため、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の距離hを、120nmより短くすることにより、キャリアの井戸層23aへの注入効率を向上させることができる。
ここで、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100では、図12に示すように、n型GaN基板10の所定領域に上記した凹部2(掘り込み領域3)が形成されている。この凹部2は、平面的に見て、リッジ部28(光導波領域29(図13参照))と平行方向(c軸[0001]方向)に延びるように形成されている。また、上記凹部2は、窒化物半導体レーザ素子100の一方の側面側に配されている。そして、この凹部2から所定の距離以上(たとえば、5μm以上)隔てた、非掘り込み領域4上の領域に、上記リッジ部28が形成されている。
また、第1実施形態では、上述したように、n型GaN基板10の成長主面10aに凹部2(掘り込み領域3)が形成されていることにより、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20の表面(窒化物半導体層20を構成する各層の表面)に窪み35が形成された状態となっている。そして、この窪み35によって、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和されている。
また、第1実施形態では、上記n型GaN基板10の成長主面10a上に窒化物半導体層20が形成されることによって、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に、層厚傾斜領域5および発光部形成領域6が形成されている。上記層厚傾斜領域5は、凹部2(掘り込み領域3)に対して、一方側(A1側)に形成されており、上記発光部形成領域6は、凹部2(掘り込み領域3)に対して、層厚傾斜領域5と反対側の他方側(A2側)に形成されている。そして、この層厚傾斜領域5によっても、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和されている。
このように、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、窒化物半導体層20の表面に形成される窪み35と、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に形成される層厚傾斜領域5とによる二つの歪み緩和効果によって、非常に高いクラック抑制効果を有している。
さらに、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を用いることによって、成長主面10a上に形成された窒化物半導体層20の結晶性が良好となっている。また、上記n型GaN基板10を用いることによって、窒化物半導体層20における発光部形成領域6の表面モフォロジーが非常に良好となっている。このため、窒化物半導体層20にクラックが発生しにくくなっている。
したがって、n型GaN基板10との格子定数差などが大きくなる、Al組成の高いAlGaN層を成長主面10a上に形成した場合でも、クラックの発生が抑制される。このため、n型GaN基板10の成長主面10a上に形成された窒化物半導体層20において、クラックの発生が抑制されている。
なお、上記リッジ部28は、結晶性および表面モフォロジーが良好な発光部形成領域6の所定領域に形成されている。
また、図12および図13に示すように、リッジ部28の両脇には、電流狭窄を行うための絶縁層30が形成されている。具体的には、p型ガイド層25上、p型クラッド層26の側面上およびp型コンタクト層27の側面上に、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層30が形成されている。
絶縁層30およびp型コンタクト層27の上面上には、p型コンタクト層27の一部を覆うように、p側電極31が形成されている。このp側電極31は、p型コンタクト層27を覆っている部分において、p型コンタクト層27と直接接触している。また、p側電極31は、絶縁層30(p型コンタクト層27)側から約15nmの厚みを有するPd層(図示せず)、約15nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなる。
また、n型GaN基板10の裏面上には、n型GaN基板10の裏面側から順に、約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)、約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)、約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるn側電極32が形成されている。
また、窒化物半導体レーザ素子100における光出射面40a(図11参照)には、たとえば、反射率5%〜80%の出射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。一方、光反射面40b(図11参照)には、たとえば、反射率95%の反射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。なお、出射側コーティング膜の反射率は、発振出力により所望の値に調整されている。また、出射側コーティング膜は、たとえば、半導体の出射端面から順に、アルミニウムの酸窒化物膜または窒化物膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚30nm/Al2O3(膜厚:215nm)で構成されており、反射側コーティング膜は、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜から構成されている。上記以外の材料として、たとえば、SiN、ZrO2、Ta2O5、MgF2などの誘電体膜を用いてもよい。
光出射面側の膜構成として、AlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚12nm/シリコンの窒化物膜であるSiN(膜厚:100nm)を用いてもよい。上記のように、m面の窒化物半導体基板の劈開端面(第1実施形態ではc面)、もしくは気相エッチング、液相エッチングによりエッチングされたエッチング端面に、アルミニウムの酸窒化物膜または窒化物膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)を形成することで、半導体、出射側コーティング膜の界面での非発光再結合の割合を大幅に低減でき、COD(Catastrophic Optical Damage)レベルを格段に向上させることができる。さらにアルミニウムの酸窒化物膜または窒化物膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)は、窒化物半導体と同じ六方晶の結晶であると、より好ましい。さらには、窒化物半導体と結晶軸が揃った状態で結晶化していると、非発光再結合の割合がさらに低減し、CODレベルがさらに向上するため、より好ましい。また、光出射面側の反射率を大きくするために、上記コーティング膜の上にシリコンの酸化物膜、アルミニウムの酸化物膜、チタニウムの酸化物膜、タンタルの酸化物膜、ジルコニウムの酸化物膜、シリコン窒化物膜、などを積層した積層膜を形成してもよい。
第1実施形態では、上記のように、AlとInとを含む窒化物半導体であるAlInGaNから障壁層23bを構成することによって、ほぼ完全にダークラインの発生を抑制することができる。これにより、ダークラインの発生に起因する発光効率の低下を抑制することができる。また、ダークラインの発生を抑制することによって、発光効率の劣化を抑制することができる。これにより、素子特性および信頼性を向上させることができる。なお、ダークラインの発生を抑制することによって、均一発光の発光パターンを得ることができるので、ゲインを高めることができる。
また、障壁層23bにAlInGaN層を用いることによって、ダークラインの発生抑制効果に加えて、光閉じ込めの向上効果を得ることもできる。また、AlInGaNからなる障壁層23b上に井戸層23aを形成することによって、井戸層23aに取り込まれるInの効率を非常に良好にすることもできる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができる。これにより、Inの取り込み効率を向上させることができる。その結果、より有効に長波長化を図ることができる。また、原料ガス(たとえば、TMIn)の消費量を削減することができるため、コスト的にもメリットがある。
さらに、第1実施形態では、障壁層23bをAlInGaNから構成することによって、障壁層23bをGaNやInGaNから構成した場合に比べて、界面の急峻性を向上させることができるので、X線回折測定によるサテライトピークを明瞭化することができる。これは、障壁層23bがAlとInとを含むことで、Inの凝集や拡散が抑制されたり、活性層23の熱ダメージが抑制されたりしたためであると考えられる。
また、第1実施形態では、n型GaN基板10に凹部2(掘り込み領域3)を形成することによって、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20(窒化物半導体層20を構成する各層)の表面に窪み35を形成することができる。このため、n型GaN基板10と窒化物半導体層20との間の格子定数差や熱膨張係数差などが大きくなり、窒化物半導体層20に歪みが生じた場合でも、窒化物半導体層20(非掘り込み領域4上に形成される窒化物半導体層20)の歪みを、掘り込み領域3上の窒化物半導体層20の表面に形成された上記窪み部分で緩和することができる。これにより、窒化物半導体層20にクラックが発生するのを効果的に抑制することができる。したがって、上記のように構成することにより、クラックの発生が抑制された、信頼性および素子特性の高い窒化物半導体レーザ素子100を得ることができる。
また、第1実施形態では、n型GaN基板10に凹部2(掘り込み領域3)を形成することによって、活性層23の障壁層23bを、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaN)から構成することにより生じる活性層23の歪みを有効に緩和することができる。これにより、より効果的にダークラインの発生を抑制することができる。また、n型GaN基板10に凹部2(掘り込み領域3)を形成することによって、活性層23に生じる歪みを緩和することができる。このため、ダークラインの発生および拡大を抑制することもできる。これにより、輝度および信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を得ることができる。
さらに、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板10の成長主面10aとすることによって、EL発光パターンの輝点状化、面内の波長ムラを抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、EL発光パターンを改善することができる。これにより、窒化物半導体レーザ素子の発光効率をより向上させることができる。また、発光効率を向上させることによって、輝度の高い窒化物半導体レーザ素子100を得ることができる。なお、上記のような輝点状発光の抑制効果が得られる理由として、GaN基板10の成長主面10aがm面に対してa軸方向のオフ角度を持つことで、成長主面10a上に活性層23(井戸層23a)を成長させる際に、In原子のマイグレーションの方向が変化し、In組成比の高い(In供給量が多い)条件でもInの凝集が抑制されたためであると考えられる。また、活性層23上に形成されるp型半導体層の成長モードも変化するため、p型不純物であるMgの活性化率も向上し、p型半導体層が低抵抗化することも理由の一つと考えられる。なお、p型半導体層が低抵抗化することにより、電流を均一に注入し易くなるので、これによりEL発光パターンが均一化する。
また、第1実施形態では、EL発光パターンの輝点状化を抑制することによって、EL発光パターンを均一化することができるので、駆動電圧を低減することもできる。なお、EL発光パターンの輝点状化を抑制することによって、発光効率を向上させることができ、これによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることができる。すなわち、上記のように構成することによって、素子特定の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を容易に得ることができる。
また、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、n型GaN基板10の成長主面10aとすることによって、この成長主面10a上に形成される窒化物半導体層20の結晶性を良好にすることができる。このため、窒化物半導体層20にクラックを発生しにくくすることができる。また、上記のように構成することによって、窒化物半導体層20の表面モフォロジーを良好にすることができるので、均一な厚みを有する窒化物半導体層20を得ることができる。このため、窒化物半導体層20の厚みが不均一になることに起因して、窒化物半導体層20に、局所的に厚みの大きい領域ができるという不都合が生じるのを抑制することができる。このような厚みの大きい領域ではクラックが発生し易いため、窒化物半導体層20に、局所的に厚みの大きい領域ができるのを抑制することによって、よりクラックを発生しにくくすることができる。
また、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとすることによって、AlとInとを含む窒化物半導体から構成された上記障壁層23bの平坦性を向上させることができる。このため、平坦性の高い障壁層23b上に井戸層23aを形成することによって、井戸層23aにおけるIn組成の面内分布が不均一になるのを抑制することができる。加えて、活性層23(井戸層23a)の結晶性を向上させることもできる。これにより、発光効率をさらに向上させることができる。
なお、井戸層23aの下側(n型GaN基板10側)に形成される障壁層23bを、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlsIntGauN)から構成するとともに、そのAl組成比sを0<s≦0.08、In組成比tを0<t≦0.10とすることで、ダークラインの発生抑制効果や活性層23を保護する効果に加え、障壁層23bの平坦性向上の効果を得ることもできる。これにより、井戸層23aの発光効率をより有効に向上させることができる。
また、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度が設けられたn型GaN基板10を用いることによって、凹部2(掘り込み領域3)内を窒化物半導体層20で埋まりにくくすることができる。これにより、容易に、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20の表面に窪みが形成された状態にすることができる。その結果、容易に、クラックの発生を抑制することができる。
このように、第1実施形態では、発光効率を大幅に向上させることができるので、素子特性および信頼性を向上させることができる。これにより、素子特性の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子を得ることができる。また、クラックの発生を効果的に抑制することができるので、1枚のウェハから得られる良品の数を増やすことができる。これにより、歩留まりを向上させることができる。また、クラックの発生を抑制することによって、素子の信頼性を高めることができるとともに、素子特性を向上させることができる。さらに、ダークラインの発生を抑制することによっても、素子特性のバラツキを低減することができるので、規格の範囲内の特性を有する素子の数を増加させることができる。このため、これによっても、歩留まりを向上させることができる。
また、第1実施形態では、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域5を形成することによって、窒化物半導体層20で生じた歪みを、この層厚傾斜領域5でも緩和することができる。このため、窒化物半導体層20の表面に形成される窪み35と、非掘り込み領域3上の窒化物半導体層20に形成される層厚傾斜領域5とによる二つの歪み緩和効果によって、非常に高いクラック抑制効果を得ることができる。これにより、光閉じ込めを良好に行うためにAlの組成比が高いn型クラッド層21を形成した場合でも、クラックをほとんど発生させることなく容易に形成することができる。また、上記層厚傾斜領域5によって、活性層23の歪みを有効に緩和することができるので、ダークラインが発生するのをより効果的に抑制することができる。なお、上記のような高いクラック抑制効果が得られる理由としては、層厚傾斜領域は、そもそも層厚が薄いため、層厚傾斜領域自体、内包する歪みが少ないこと、および、層厚が徐々に(傾斜的に)変化しているために歪みが段階的に緩和されることにより、より高い歪み緩和効果が得られるためであると考えられる。
また、第1実施形態では、上記のように構成することによって、窒化物半導体層20における発光部形成領域6の表面モフォロジーを非常に良好にすることができるので、素子特性のバラツキを低減することができる。このため、規格の範囲内の特性を有する素子の数を増加させることができるので、これによっても、歩留まりを向上させることができる。また、表面モフォロジーを向上させることによって、素子特性および信頼性を向上させることもできる。
また、第1実施形態では、凹部2(掘り込み領域3)を、平面的に見て、c軸[0001]方向と平行方向に延びるように形成することによって、上記層厚傾斜領域5を容易に形成することができるので、容易に、高い歪み緩和効果を得ることができる。
また、第1実施形態では、n型GaN基板10におけるa軸方向のオフ角度の絶対値を0.1度より大きくすることによって、ダークラインの発生を抑制しながら、EL発光パターンの輝点状化および面内の波長ムラを容易に抑制することができる。
なお、n型GaN基板10の成長主面10aがm面に対してc軸方向にもオフ角度を有する場合には、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることによって、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、c軸方向のオフ角度が大きくなり過ぎることに起因して、輝点状発光の抑制効果が低減されるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、容易に、発光効率を向上させることができる。また、この場合、c軸方向のオフ角度を±0.1度より大きい角度とすることによって、c軸方向のオフ角度が±0.1度より小さくなることに起因して、成長主面10a上に成長された窒化物半導体層20の厚みがバラツクという不都合が生じるのを抑制することができる。
また、n型GaN基板10におけるa軸方向のオフ角度の絶対値を0.5度以上とすれば、a軸方向のオフ角度の絶対値が0.5度より小さくなることに起因して、層厚傾斜領域5が大きくなりすぎるという不都合が生じるのを抑制することができるとともに、層厚傾斜領域5によるクラック抑制効果(歪み緩和効果)が低減するという不都合が生じるのを効果的に抑制することができる。
また、第1実施形態では、窒化物半導体レーザ素子100の活性層23を、DQW構造に構成することによって、駆動電圧を容易に低減することができる。このため、これによっても、素子特性および信頼性を向上させることができる。なお、活性層23をDQW構造に構成した場合でも、EL発光パターンの輝点状発光およびダークラインの発生を抑制することができる。
また、第1実施形態では、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層24のAl組成比yを0.08以上0.35以下に構成することによって、キャリア(電子)に対して十分に高いエネルギー障壁を形成することができるので、活性層23に注入されたキャリアがp型半導体層へ流入するのをより効果的に防ぐことができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。また、キャリアブロック層24のAl組成比yを0.35以下とすることによって、Al組成比yが大きくなり過ぎることに起因するキャリアブロック層24の高抵抗化を抑制することができる。なお、井戸層23aのIn組成比x1が大きな領域(x1≧0.15)では、活性層23上に形成されるキャリアブロック層24のAl組成比yが0.08以上になると、キャリアブロック層24を良好に成長させることが非常に難しくなる。それは、井戸層23aのIn濃度が増大するにしたがい、活性層23の表面の平坦性が悪化し、Al組成比yの高い層を結晶性よく成膜するのが困難になるためである。しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を用いれば、活性層23(井戸層23a)のIn組成比x1が0.15以上0.45以下の場合でも、その活性層23上に、Al組成比yが0.08以上0.35以下であるキャリアブロック層24を結晶性よく形成することができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制して、EL発光パターンを均一化することができる。
なお、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の障壁層23b(たとえば第1実施形態では第3障壁層233b)はAlとInとを含む窒化物半導体から構成されていればより好ましい。キャリアブロック層24は、障壁層23bより大きなAl組成比で形成されるため、キャリアブロック層24からの応力が井戸層23aにかかる。このため、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の障壁層23bを、Inを含むように構成することで、応力を緩和することができる。また、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の障壁層23bは、AlInGaNを一部に含むように構成することもできる。さらに、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の障壁層23bは、AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/AlGaN、AlInGaN/InGaNの2層構造、AlInGaN/AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/InGaN/AlInGaN、AlGaN/InGaN/AlGaNなどの多層構造としてもよい。また、キャリアブロック層24と井戸層23aとの間の障壁層23bは、上記応力緩和の観点から、InGaNであってもよい。このように障壁層23bを形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することができる。
ここで、障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体から構成することによって得られるダークライン発生抑制効果と、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けた面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いることで得られる輝点状発光抑制効果とは、まったく異なる効果である。すなわち、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いる場合、m面などの無極性面であれば効果がある。一方、InGaNからなる障壁層を用いた場合でも、オフ角度をa軸方向に設けることで、発光パターンの輝点状化を抑制することが可能となる。
しかしながら、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板上にAlとInとを含む窒化物半導体層を成膜すると結晶性などが向上するという効果が得られるため、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いた場合、障壁層の結晶性が向上する。このように、両方を組み合わせれば、相乗効果が得られるため、より好ましい。もちろん、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いれば、ダークラインの発生を抑制することができることに加えて、輝点状発光の抑制も可能となる。
また、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いる場合に、掘り込み領域を形成したm面基板などの無極性基板を用いることによって、活性層にかかる歪みを有効に緩和することができる。これにより、ダークラインの発生やダークラインの拡大を効果的に抑制することができる。
また、a軸方向にオフ角度を有するm面基板に掘り込み領域を形成することにより、層厚傾斜領域を形成することができるので、この層厚傾斜領域により、より効果的にクラックの発生を抑制することができる。もちろん、EL発光パターンの輝点状発光抑制効果も得られる。
さらに、a軸方向にオフ角度を有するm面基板に掘り込み領域を形成し、この基板を用いて発光素子を形成する際に、活性層の障壁層をAlとInとを含む窒化物半導体から構成することによって、ダークラインの発生抑制効果、輝点状発光の抑制効果およびクラックの発生抑制効果を得ることができる。このため、ダークラインが発生したり、ダークラインが拡大したりするのをさらに効果的に抑制することができるためより好ましい。
図15〜図32は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。次に、図1、図7〜図10および図14〜図32を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の製造方法について説明する。
まず、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を準備する。このn型GaN基板10は、たとえば、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶から切り出した基板を種基板とし、この種基板上にGaN結晶を成長させることによって作製される。具体的には、図15に示すように、下地基板300上にSiO2からなる保護膜(図示せず)を部分的に形成した後、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などのエピタキシャル成長法を用いて、下地基板300上に保護膜の上からGaNバルク結晶を成長させる。これにより、保護膜が形成されていない部分から成長が開始し、保護膜上部でGaN結晶の横方向の成長が生じる。そして、横方向に成長したGaN結晶同士が保護膜上で接合して成長を続け、下地基板300上にGaN結晶層400aが形成される。このGaN結晶層400aは、下地基板300を除去した後にも自立して取り扱いが可能なように、十分に厚く形成する。次に、形成されたGaN結晶層400aから、たとえば、エッチングなどによって、下地基板300を除去する。これにより、図16に示すように、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶400が得られる。なお、下地基板300としては、たとえば、GaAs基板、サファイア基板、ZnO基板、SiC基板、GaN基板などを用いることが可能である。また、GaNバルク結晶400の厚みSは、たとえば、約3mmとすることができる。
次に、得られたGaNバルク結晶400の両主面である(0001)面および(000−1)面を、研削および研磨加工することにより、両主面の平均粗さRaを5nmとする。この平均粗さRaは、JIS B 0601に規定する算術平均粗さRaであり、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定することができる。
次に、GaNバルク結晶400を、[1−100]方向と垂直な複数の面でスライスすることにより、m面{1−100}を主面とする複数のGaN結晶基板410を厚みT(たとえば、1mm)(幅S:3mm)で切り出す。そして、切り出したGaN結晶基板410の研削および研磨加工が施されていない4面を研削および研磨加工することにより、これら4面の平均粗さRaを5nmとする。その後、図17および図18に示すように、複数のGaN結晶基板410において、その主面が互いに平行となるようにするとともに、それらGaN結晶基板410の[0001]方向が同一となるようして、互いに隣接させて配置する。
続いて、図19に示すように、互いに隣接させて配置した複数のGaN結晶基板410を種基板として、これらGaN結晶基板410のm面{1−100}上に、HVPE法などのエピタキシャル成長法を用いて、GaN結晶を成長させる。これにより、m面を成長主面とするn型GaN基板1が得られる。次に、得られたn型GaN基板1の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を独立して制御し、m面に対するa軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を所望のオフ角度とする。このオフ角度は、X線回折法により測定することができる。これにより、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面とするn型GaN基板10が得られる。
なお、上記n型GaN基板10の作製において、オフ角度が大きい基板を作製する場合には、GaNバルク結晶400から複数のGaN結晶基板410を切り出す際に、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有するように、[1−100]方向に対して所定の切り出し角度で切り出してもよい。このようにすれば、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となるため、その主面上に形成されるn型GaN基板1(10)の主面(成長主面)もm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となる。
また、GaNバルク結晶400(図16参照)から切り出したGaN結晶基板410の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、このGaN結晶基板410を、n型GaN基板10として用いることもできる。この場合、GaN結晶基板410の幅Sは、3mm以上とすることもできる。
ここで、第1実施形態では、上記n型GaN基板10におけるa軸方向のオフ角度を、0.1度より大きい角度となるように調整する。なお、c軸方向にもオフ角度を設ける場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度となるように調整するのが好ましい。また、c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整するのが好ましい。
次に、図20に示すように、得られたn型GaN基板10の上面(成長主面10a)全面に、スパッタ法などを用いて、約1μmの厚みを有するSiO2層420を形成する。次に、図21に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、SiO2層420上に、レジストパターンとしての開口部430aを有するレジスト層430を形成する。そして、図22に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング技術を用いて、レジスト層430をマスクとしてSiO2層420をエッチングすることにより、SiO2層420の所定領域を選択的に除去する。その後、レジスト剥離液や有機溶剤(たとえば、アセトン、エタノールなど)を用いてレジスト層430を除去する。なお、レジスト層430を除去せずに、そのまま、次の工程を行ってもよい。
続いて、図23に示すように、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)法、または、RIE法などを用いて、SiO2層420をマスクとして、n型GaN基板10をエッチングすることにより、n型GaN基板10の所定領域を選択的に除去する。このとき、n型GaN基板10のエッチング深さfが、約5μmとなるように、エッチング条件を調節する。これにより、n型GaN基板10に上記した凹部2(掘り込み領域3)がc軸方向と平行方向に延びるように形成される。なお、凹部2の側面部2bは、エッチング条件等を調節することにより、その傾斜角γが90度より大きい所定の角度となるように形成する。
その後、図24に示すように、HF(フッ化水素)などのエッチャントを用いて、SiO2層420(図23参照)を除去する。
次に、図25に示すように、上記のように加工されたn型GaN基板10(加工基板)の成長主面10a上に、MOCVD法などのエピタキシャル成長法を用いて、窒化物半導体各層21〜27を成長させる。具体的には、n型GaN基板10の成長主面10a上に、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなるn型クラッド層21、約0.2μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nからなるn型ガイド層22、および活性層23を順次成長させる。なお、活性層23を成長させる際には、図14に示したように、InGaN(Inx1Ga1-x1N)からなる2つの井戸層23aと、AlInGaN(AlsIntGauN(s+t+u=1))からなる3つの障壁層23bとを交互に成長させる。具体的には、n型ガイド層22上に、下層から上層に向かって、約30nmの厚みを有する第1障壁層231b、約3nm〜約4nmの厚みを有する第1井戸層231a、約16nmの厚みを有する第2障壁層232b、約3nm〜約4nmの厚みを有する第2井戸層232aおよび約60nmの厚みを有する第3障壁層233bを順次成長させる。これにより、n型ガイド層22上に、2つの井戸層23aと3つの障壁層23bとからなるDQW構造を有する活性層23が形成される。このとき、井戸層23aは、そのIn組成比x1が0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)となるように構成する。一方、障壁層23bは、そのAl組成比sが、たとえば、0<s≦0.08、そのIn組成比tが、たとえば、0<t≦0.10となるように構成する。
次に、図25に示すように、活性層23上に、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層24、約0.05μmの厚みを有するp型In0.02Ga0.98Nからなるp型ガイド層25、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.06Ga0.94Nからなるp型クラッド層26および約0.1μmの厚みを有するp型GaNからなるp型コンタクト層27を順次成長させる。この際、キャリアブロック層24は、その厚みが40nm以下(たとえば、約12nm)となるように形成するのが好ましい。また、キャリアブロック層24は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように構成する。なお、n型窒化物半導体層20a(n型クラッド層21およびn型ガイド層22)には、n型不純物として、たとえば、Siをドープし、p型窒化物半導体層20b(キャリアブロック層24、p型ガイド層25、p型クラッド層26およびp型コンタクト層27)には、p型不純物として、たとえば、Mgをドープする。
また、第1実施形態では、n型窒化物半導体層20aは、900℃以上であって、1300℃より低い成長温度(たとえば、1075℃)で形成する。また、活性層23の井戸層23aは、600℃以上770℃以下の成長温度(たとえば、700℃)で形成する。井戸層23aに接する障壁層23bは、井戸層23aと同じ成長温度(たとえば、700℃)で形成してもよい。Alを含む窒化物半導体層である障壁層23bは、井戸層23aより高い温度で形成することもできる。障壁層23bの成長温度としては、600℃以上900℃以下が好ましい。さらに、p型窒化物半導体層20bは、700℃以上であって、900℃より低い成長温度(たとえば、880℃)で形成する。なお、n型窒化物半導体層20aの成長温度は、900℃以上1300未満が好ましく、1000℃以上1300未満であればより好ましい。また、活性層23の井戸層23aの成長温度は、600℃以上830℃以下が好ましく、井戸層23aのIn組成比x1が0.15以上の場合には、600℃以上770℃以下が好ましい。630℃以上740℃以下であればより好ましい。また、活性層23の障壁層23bの成長温度は、井戸層23aと同じ温度か、井戸層23aより高い温度が好ましい。さらに、p型窒化物半導体層20bの成長温度は、700℃以上900℃未満が好ましく、700℃以上880℃以下であればより好ましい。もちろん、900℃以上の温度でp型窒化物半導体層20bを形成してもp型伝導が得られるため、p型窒化物半導体層20bを900℃以上の温度で形成してもよい。
なお、これらの窒化物半導体の成長原料としては、たとえば、Gaの原料としてトリメチルガリウム((CH3)3Ga:TMGa)を、Alの原料としてトリメチルアルミニウム((CH3)3Al:TMAl)を、Inの原料としてトリメチルインジウム((CH3)3In:TMIn)を、Nの原料としてNH3を用いることができる。また、キャリアガスとしては、たとえば、H2を用いることができる。ドーパントについては、n型ドーパント(n型不純物)としては、たとえば、モノシラン(SiH4)を用いることができ、p型ドーパント(p型不純物)としては、たとえば、シクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いることができる。
ここで、第1実施形態では、図1に示したように、n型GaN基板10の成長主面10aが、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面から構成されているため、凹部2内が窒化物半導体層20で埋め込まれにくくなっている。このため、n型GaN基板10上に窒化物半導体層20を形成した際に、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20の表面(窒化物半導体層20を構成する各層の表面)に容易に窪み35が形成された状態となる。そして、この窪み35によって、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和される。
また、第1実施形態では、図7および図8に示したように、上記n型GaN基板10の成長主面10a上に窒化物半導体層20が形成されることによって、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域5が形成される。この層厚傾斜領域5は、図9に示したように、凹部2(掘り込み領域3)の片側(たとえば、右側)の近傍領域に、凹部2(掘り込み領域3)と平行方向に延びる略帯状に形成される。そして、この層厚傾斜領域5によっても、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層20の歪みが緩和される。
このように、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法では、窒化物半導体層20の表面に形成される窪み35と、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に形成される層厚傾斜領域5とによる二つの歪み緩和効果によって、非常に高いクラック抑制効果が得られる。
さらに、第1実施形態では、n型GaN基板10の成長主面10aを、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面から構成することによって、成長主面10a上に形成された窒化物半導体層20の結晶性が良好となる。また、上記n型GaN基板10を用いることによって、窒化物半導体層20における発光部形成領域6の表面モフォロジーが非常に良好となる。このため、窒化物半導体層20にクラックが発生しにくくなる。
したがって、n型GaN基板10との格子定数差などが大きくなる、Al組成の高いAlGaN層を成長主面10a上に形成した場合でも、クラックの発生が抑制される。このため、n型GaN基板10の成長主面10a上に、クラックの発生が抑制された窒化物半導体層20が形成される。
また、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20には、層厚傾斜領域5に比べて層厚変動が非常に小さい、発光部(リッジ部28)の形成に適した発光部形成領域6が形成される。この発光部形成領域6は、その表面モフォロジーが非常に良好であり、層厚変動が非常に小さい。
続いて、図26に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、発光部形成領域6(図7および図8参照)におけるp型コンタクト層27上に、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するとともに、c軸[0001]方向に延びるストライプ状(細長状)のレジスト440を形成する。そして、図27に示すように、SiCl4、Cl2などの塩素系ガスや、ArガスなどによるRIE法を用いて、レジスト440をマスクとしてp型ガイド層25の途中の深さまでエッチングを行う。これにより、p型ガイド層25の凸部とp型クラッド層26とp型コンタクト層27とによって構成されるとともに、c軸[0001]方向に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部28(図10および図27参照)が形成される。
次に、図28に示すように、リッジ部28上にレジスト440を残した状態で、スパッタ法などにより、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層30を形成し、リッジ部28を埋め込む。そして、リフトオフによりレジスト440を除去することによって、リッジ部28の上部のp型コンタクト層27を露出させる。これにより、リッジ部28の両脇に、図29に示すような絶縁層30が形成される。
次に、図30に示すように、真空蒸着法などを用いて、基板側(絶縁層30側)から、約15μmの厚みを有するPd層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、絶縁層30(p型コンタクト層27)上に、多層構造からなるp側電極31を形成する。
次に、基板を分割し易くするために、n型GaN基板10の裏面を研削または研磨することにより、n型GaN基板10を100μm程度の厚みまで薄くする。その後、図1に示したように、n型GaN基板10の裏面上に、真空蒸着法などを用いて、n型GaN基板10の裏面側から約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)、約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)、約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側電極32を形成する。なお、n側電極32の形成前に、n側の電気特性の調整などの目的でドライエッチングやウェットエッチングを行ってもよい。
このようにして上記した第1実施形態による窒化物半導体ウェハ50が形成される。
その後、図31に示すように、スクライブ/ブレーク法やレーザスクライブ、またはドライエッチングなどの手法を用いて、ウェハ(基板)をバー状に分割する。これにより、その端面を共振器面40とするバー状の素子が得られる。次に、蒸着法やスパッタ法などの手法を用いて、バー状の素子の端面(共振器面40)にコーティングを施す。具体的には、光出射面となる片側の端面に、たとえば、アルミニウムの酸窒化物膜などからなる出射側コーティング膜(図示せず)を形成する。また、光反射面となるその反対側の端面に、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜からなる反射側コーティング膜(図示せず)を形成する。
最後に、c軸[0001]方向に沿った分割予定線P2に沿ってバー状の素子を分割することにより、図32に示すように、個々の窒化物半導体レーザ素子に個片化する。このようにして、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100が製造される。なお、分割予定性P2は、上記のように、凹部2に対して層厚傾斜領域5側に設定してもよいし、凹部2に対して層厚傾斜領域5とは反対側に設定してもよい。
上記の製造方法により得られた第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図33に示すように、サブマウント151を介してステム152上にマウントされ、ワイヤ153によってリードピンと電気的に接続される。そして、キャップ154がステム152上に溶接されることにより、キャンパッケージ型の半導体レーザ装置(半導体装置)150に組み立てられる。
第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法では、上記のように、n型GaN基板10に予め凹部2(掘り込み領域3)を形成しておくことによって、n型GaN基板10上に形成される窒化物半導体層20の歪みを緩和することができる。このため、窒化物半導体層20にクラックが発生するのを効果的に抑制することができるので、1枚のウェハから得られる良品の数を増加させることができる。これにより、歩留まりを向上させることができる。
また、第1実施形態の製造方法では、凹部2(掘り込み領域3)が形成された上記n型GaN基板10上に窒化物半導体層20を形成する際に、AlとInとを含む窒化物半導体であるAlInGaNから障壁層23bを構成することによって、ダークラインの発生を抑制することができる。これにより、発光効率が向上された、輝度の高い窒化物半導体レーザ素子100を製造することができる。
また、第1実施形態の製造方法では、n型GaN基板10に凹部2(掘り込み領域3)を形成することによって、AlとInとを含む窒化物半導体から障壁層23bを構成することにより生じる活性層23の歪みを有効に緩和することができる。これにより、より効果的にダークラインの発生を抑制することができる。
また、窒化物半導体ウェハ50を分割する際に、凹部2(掘り込み領域3)上に形成された窪み35全体が個々の素子に含まれるように、窒化物半導体ウェハ50を分割することによって、素子に含まれる窪み部分で、活性層23の歪みをより緩和することもできる。これにより、ダークラインの発生および拡大を効果的に抑制することもができる。
さらに、第1実施形態の製造方法では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとする上記n型GaN基板10を用いることによって、輝点状発光の抑制効果も得ることができる。加えて、上記障壁層23bの結晶性を良好にすることができるとともに、その表面モフォロジーも良好にすることができる。これにより、発光効率をより向上させることができる。
なお、第1実施形態の製造方法では、凹部2(掘り込み領域3)を、平面的に見て、c軸方向と平行方向に延びるように形成することによって、窒化物半導体層20における凹部2(掘り込み領域3)の近傍部分(掘り込み領域3の隣)に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域5を容易に形成することができる。そして、この層厚傾斜領域5によっても、窒化物半導体層20の歪みを緩和することができるので、非常に高いクラック抑制効果を得ることができる。
また、第1実施形態の製造方法では、n型窒化物半導体層20aを、900℃以上の高温で形成することによって、n型窒化物半導体層20aの層表面を平坦化することができる。このため、平坦化されたn型窒化物半導体層20a上に活性層23およびp型窒化物半導体層20bを形成することにより、活性層23およびp型窒化物半導体層20bにおける結晶性の低下を抑制することができる。そのため、これによっても、高品質な結晶を形成することができる。また、n型窒化物半導体層20aを、1300℃より低い成長温度で形成することによって、1300℃以上の成長温度で形成されることに起因して、昇温時にn型GaN基板10の表面が再蒸発し、表面荒れが引き起こされるという不都合が生じるのを抑制することができる。したがって、このように構成することにより、素子特性の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を容易に製造することができる。
また、第1実施形態の製造方法では、活性層23の井戸層23aを、600℃以上の成長温度で形成することによって、600℃より低い成長温度で形成することに起因して、原子の拡散長が短くなり結晶性が悪化するという不都合が生じるのを抑制することができる。また、活性層23の井戸層23aを、770℃以下の成長温度で形成することによって、770℃より高い成長温度(たとえば、830℃以上)で活性層23の井戸層23aが形成されることに起因して、熱ダメージによって活性層23が黒色化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。なお、井戸層23aに接する障壁層23bの成長温度は、井戸層23aと同じ温度か、井戸層23aより高い温度が好ましい。
また、第1実施形態の製造方法では、p型窒化物半導体層20bを、700℃以上の成長温度で形成することによって、p型窒化物半導体層20bの成長温度が低すぎることに起因して、p型窒化物半導体層20bが高抵抗化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、p型窒化物半導体層20bを、1100℃より低い成長温度で形成することによって、活性層23の熱ダメージを低減することができる。
なお、c面を成長主面とするn型GaN基板を用いた場合、p型窒化物半導体層20bを900℃より低い成長温度で形成すると、p型窒化物半導体層20bが非常に高抵抗となってしまい、デバイス(窒化物半導体素子)としての使用が難しくなる。その一方、m面に対してa軸方向のオフ角度が設けられた面を成長主面10aとする上記n型GaN基板10を用いることによって、900℃より低い成長温度であっても、p型不純物としてMgをドープすることにより、p型伝導を得ることができる。特に、活性層23の井戸層23aのIn組成比x1が、0.15以上0.45以下の場合には、Inの偏析などにより、面内でIn組成のバラツキが生じやすくなる。このため、p型窒化物半導体層20bの成長温度は低い方が好ましい。また、活性層23の井戸層23aの成長温度とp型窒化物半導体層20bの成長温度との差は、450℃未満が活性層23の熱ダメージ回避の意味で好ましく、300℃以下であればより好ましい。ただし、In組成比x1が0.15より小さい場合には、Inの偏析などの問題も少ないため、p型窒化物半導体層20bの成長温度として、900℃以上でも問題はない。
また、活性層23の障壁層23bを、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaN)から構成することで、p型窒化物半導体層20bを形成する際に発生する熱ダメージに対して活性層23(井戸層23a)が強くなる。このため、p型窒化物半導体層20bを1000℃以上の高い成長温度で形成することができる。これにより、p型窒化物半導体層20bを高温で形成することによって、p型窒化物半導体層20bで発生する欠陥などを抑制して、p型窒化物半導体層20bの結晶性を高めることができる。すなわち、p型窒化物半導体層20bの成長温度の自由度を格段に向上させることが可能となる。その結果、デバイスに必要なスペックなどを考慮して、最も適切な成長温度で半導体層を成膜することができる。
次に、上記実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。
この実験では、まず、確認用試料1として、上記第1実施形態と同様のn型GaN基板上に、第1実施形態と同様の窒化物半導体各層を成膜した試料を作製し、ダークライン抑制効果の確認を行った。なお、確認用試料1に用いたn型GaN基板のオフ角度は、a軸方向のオフ角度が1.7度、c軸方向のオフ角度が+0.5度であった。
また、確認用試料1では、活性層の障壁層は、Al0.01In0.03Ga0.96NのAl組成1%で形成した。障壁層のAl組成は、AES(Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光法)で測定した。また、比較用試料1として、m面GaN基板を用いて、その基板上に、第1実施形態と同様の窒化物半導体各層を成膜した試料を作製した。ただし、比較用試料1では、GaN基板として、m面ジャスト基板を用いており、障壁層をIn0.02Ga0.98Nで形成している。すなわち、比較用試料1は、障壁層を、AlInGaNに代えて、InGaNから構成した点、および、n型GaN基板にm面ジャスト基板を用いた点が確認用試料1と異なる。
そして、作製した確認用試料1および比較用試料1を用いて、PL(photo−luminescence)発光パターンの観察を行った。具体的には、波長405nmの光を試料に照射して、活性層のみの選択励起を行い、活性層の発光パターンを観察した。
上記した図50は、障壁層をInGaNから構成した比較用試料1のPL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、上記した図52は、障壁層をAlInGaNから構成した第1実施形態による確認用試料1のPL発光パターンの顕微鏡写真である。
図50に示すように、障壁層をInGaNから構成した比較用試料1では、c軸方向(〈0001〉方向)にダークラインが多数発生していた。これに対し、障壁層をAlInGaNから構成した確認用試料1では、図52より、ダークラインが全く発生していないことが分かる。なお、ダークラインは、電流注入によるEL発光パターン中でも、その発生を確認することができるが、上記のように、活性層を選択励起したPL発光パターンでも明瞭に観察することができる。これは、ダークラインが活性層に発生しているためであると考えられる。
次に、確認用試料2として、上記第1実施形態と同様のn型GaN基板上に、第1実施形態と同様の窒化物半導体各層を成膜した試料を作製し、クラック抑制効果の確認を行った。なお、確認用試料2に用いたn型GaN基板のオフ角度は、a軸方向のオフ角度が+2.2度、c軸方向のオフ角度が−0.18度であった。また、凹部(掘り込み領域)の周期は、400μmとした。
また、比較用試料2として、a軸方向にオフ角度を有さないn型GaN基板(ほぼm面ジャスト基板)上に、第1実施形態と同様の窒化物半導体各層を成膜した試料を作製し、確認用試料2と同様、観察に供した。比較用試料2に用いたn型GaN基板の具体的なオフ角度は、a軸方向のオフ角度が0度、c軸方向のオフ角度が+0.05度であった。比較用試料2のその他の構成は、確認用試料2と同じ構成とした。また、確認用試料2および比較用試料2における窒化物半導体各層の成膜は、MOCVD装置にて同時に行った。
図34は、確認用試料2の窒化物半導体層表面を観察した顕微鏡写真であり、図35は、比較用試料2の窒化物半導体層表面を観察した顕微鏡写真である。
図34および図35に示すように、a軸方向にオフ角度を有するn型GaN基板を用いた確認用試料2では、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域5が形成されているのが観察された。また、このような層厚傾斜領域5は、凹部2(掘り込み領域3)の片側(たとえば、右側)の近傍領域に、凹部2(掘り込み領域3)と平行方向に延びる略帯状に形成されることが確認された。さらに、確認用試料2では、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層における層厚傾斜領域5以外の領域(発光部形成領域6)において、非常に良好な表面モフォロジーが明瞭に観察された。これより、a軸方向にオフ角度を有する基板を用いることによって、表面モフォロジーを改善することが可能であることが確認された。
また、比較用試料2では、窒化物半導体層の成膜後に、10〜20本/cm2程度のクラックの発生が観察されたが、確認用試料2では、成膜後のクラックの発生は観察されなかった。ちなみに、掘り込み領域を形成しないGaN基板を用いて、同様の窒化物半導体各層の成膜を行ったところ、70〜90本/cm2程度のクラックの発生が観察された。すなわち、窒化物半導体基板に掘り込み領域を形成することによって、クラックの発生抑制効果が得られ、さらに、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板に掘り込み領域を形成することによって、窒化物半導体層に層厚傾斜領域が形成され、これによって、より高いクラックの発生抑制効果が得られることが確認された。
以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするn型GaN基板に、凹部(掘り込み領域)を形成することによって、非常に高いクラック抑制効果が得られることが確認された。
なお、上記確認用試料2および上記比較用試料2を用いてLED素子を作製し、各LED素子を駆動電流100mAで駆動させたところ、いずれのLED素子でも、200時間の駆動後もEL発光パターンにダークラインの発生が見られなかった。これは、基板に掘り込み領域を形成したことで、活性層の歪みが有効に緩和されているためであると考えられる。
また、確認用試料2を用いて作製したLED素子では、閾値電流の値が55mAと非常に低い結果が得られた。これは、輝点状発光の抑制と、ダークラインの発生抑制および基板に掘り込み領域を形成したことによる活性層の歪み緩和効果によるものと考えられる。
また、比較用試料2を用いて作製したLED素子でも、障壁層にInGaN層を用いた構造より明らかに効果があり好ましい。確認用試料2の構成であればさらに好ましい。
次に、層厚傾斜領域に及ぼすa軸方向のオフ角度の影響を確認するために、a軸方向のオフ角度の異なる4種類のn型GaN基板を用いて、上記第1実施形態と同様の窒化物半導体各層を成膜した後、窒化物半導体層に形成される層厚傾斜領域の幅を調べた。上記4種類のn型GaN基板のa軸方向のオフ角度は、+0.5度、+1.0度、+2.0度、+3.0度である。また、4種類のn型GaN基板のc軸方向のオフ角度は、それぞれ、−0.2度程度である。なお、凹部(掘り込み領域)は、上記第1実施形態と同じになるように、幅5μm、深さ5μmとした。また、凹部(掘り込み領域)の周期は、400μmとした。さらに、基板上に成膜される窒化物半導体各層は、上記第1実施形態と同様とした。
その結果、a軸方向のオフ角度が大きくなるにしたがい、層厚傾斜領域の幅が狭くなる傾向が認められた。具体的には、a軸方向のオフ角度が+0.5度の場合には、層厚傾斜領域の幅は188.4μmであり、a軸方向のオフ角度が+1.0度の場合には、層厚傾斜領域の幅は92.2μmであった。また、a軸方向のオフ角度が+2.0度の場合には、層厚傾斜領域の幅は46.5μmであり、a軸方向のオフ角度が+3.0度の場合には、層厚傾斜領域の幅は32.7μmであった。
また、a軸方向のオフ角度が大きくなるにしたがい、層厚傾斜領域の傾斜(層厚傾斜角度)もきつくなる傾向が認められた。
なお、a軸方向のオフ角度が+0.5度の場合には、非掘り込み領域上に形成された窒化物半導体層の半分程度を層厚傾斜領域が占める結果となった。このため、a軸方向のオフ角度が0.5度より小さい場合には、非掘り込み領域上に形成された窒化物半導体層の半分以上を層厚傾斜領域が占めてしまう。ここで、デバイスの動作する領域(発光デバイスであれば発光領域)は、表面モフォロジーの良好な発光部形成領域に形成するのが好ましい。このため、デバイスの動作する領域(発光部(リッジ部))を作製できる領域(発光部形成領域)を確保する意味で、a軸方向のオフ角度は、0.5度以上であるのが好ましい。
次に、確認用素子として、図36に示すような発光ダイオード素子110を作製し、EL発光パターンの観察を行った。なお、EL発光パターンの観察に発光ダイオード素子を用いたのは、窒化物半導体レーザ素子では、リッジ部の形成によって電流注入される領域が狭められているため、EL発光パターンの観察が困難になるからである。
この確認用素子(発光ダイオード素子110)は、上記第1実施形態と同様のn型GaN基板10上に、同様の窒化物半導体層(半導体各層)を形成することによって作製した。窒化物半導体層の形成は、上記第1実施形態と同様の方法を用いて行った。具体的には、図36に示すように、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を用いて、その成長主面10a上に、n型クラッド層21、n型ガイド層22、活性層23、キャリアブロック層24、p型ガイド層25、p型クラッド層26およびp型コンタクト層27を順次形成した。次に、p型コンタクト層27上に、p側電極131を形成した。このp側電極131は、EL発光パターンを確認するために透明電極とした。また、n型GaN基板10の裏面上には、n側電極32を形成した。確認用素子におけるn型GaN基板10のオフ角度は、a軸方向のオフ角が+2.2度、c軸方向のオフ角度が−0.18度であった。また、確認用素子における井戸層のIn組成比は、0.29であり、障壁層のAl組成比は、2%であった。すなわち、この確認用素子では、井戸層をIn0.29Ga0.71Nから構成し、障壁層をAl0.02In0.03Ga0.95Nから構成した。なお、上記確認用素子は、発光部形成領域が発光領域となるように形成している。このようにして作製した確認用素子(発光ダイオード素子110)に電流注入を行うことによって、確認用素子(発光ダイオード素子110)を発光させ、面内光分布を観察した。図37に、確認用素子において観察されたEL発光パターンの顕微鏡写真を示す。
また、m面を成長主面とするGaN基板(ほぼm面ジャスト基板:a軸方向のオフ角度が0度、c軸方向のオフ角度が+0.05度)を用いた発光ダイオード素子を比較用素子として作製した。この比較用素子は、上記確認用素子と同一方法で作製した。Inガス流量は、確認用素子と同一としたが、比較用素子における井戸層のIn組成比は、0.2であった。比較用素子のその他の構成は、上記確認用素子と同様である。そのため、比較用素子の障壁層は、確認用素子と同じAl0.02In0.03Ga0.95N層となっている。そして、確認用素子と同様に、面内光分布の観察を行った。比較用素子は、GaN基板にm面ジャスト基板を用いている点、および井戸層のIn組成比が0.2である点を除き、確認用素子(発光ダイオード素子110)と同様の構成とした。
図38は、比較用素子において観察されたEL発光パターンの顕微鏡写真である。図38に示すように、比較用素子では、EL発光パターンが輝点状化しているのに対し、図37に示すように、確認用素子では、EL発光パターンの輝点状化が抑制され、均一発光のEL発光パターンとなっているのがわかる。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10を用いることによって、EL発光パターンの輝点状化が抑制されることが確認された。また、確認用素子および比較用素子の発光効率を測定したところ、確認用素子の発光効率は、比較用素子の発光効率に対して1.5倍に増加していることが確認された。なお、確認用素子の発光波長は、530nmであり、比較用素子の発光波長は、490nmであった。このことより、オフ角度を制御した確認用素子では、m面ジャスト基板を用いた比較用素子に比べて、Inの取り込みに関しても効率がよいことが確認された。以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることにより、緑色の波長領域において、輝点状発光の抑制効果が得られ、発光効率が増加することが確認された。
また、確認用素子および比較用素子のいずれも、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いているため、ダークラインの発生は見られなかった。また、確認用素子では、a軸方向にオフ角度を有するm面窒化物半導体基板を用いているため、輝点状発光が抑制されて、発光パターンが均一となっていた。このため、確認用素子では、輝点状発光の抑制、さらにダークラインの発生の抑制とより好ましい状態であった。なお、確認用素子では、層厚傾斜領域が形成されたこともあり、クラックの発生は認められなかった。
続いて、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度が異なる複数のn型GaN基板を用いて、図36に示した発光ダイオード素子110と同様の素子を複数作製し、EL発光パターンの観察等の実験を行った。
その結果、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることで、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が得られることが明らかとなった。また、a軸方向のオフ角度が0.1度以下の範囲では、輝点状発光の抑制効果が小さく、a軸方向のオフ角度が0.1度より大きくなると、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が顕著に現れることが判明した。これにより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制可能であることが確認された。また、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることにより、EL発光パターンの輝点状化がより効果的に抑制されることが確認された。
実施例1による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が+0.5度、c軸方向のオフ角度が−0.15度であるn型GaN基板を用いて、上記第1実施形態と同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例1では、障壁層を、Al0.02In0.03Ga0.95Nから構成し、井戸層をIn0.25Ga0.75Nから構成した。また、上記基板には、c軸方向と平行方向に掘り込み領域を形成した。実施例1のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。なお、比較例1として、障壁層をIn0.02Ga0.98Nから構成した窒化物半導体レーザ素子を作製した。比較例1による窒化物半導体レーザ素子では、掘り込み領域は形成しておらず、その他の構成は実施例1と同様である。
比較例1では、窒化物半導体層に多数のクラックが発生しており、大きく歩留まりを落とした。このため、クラックの発生しなかったわずかな素子を選別し、EL発光パターンの観察を行ったところ、1mm幅の間に100本程度の多数のダークラインが発生していた。これに対し、実施例1では、クラックの発生はほとんど認められず、歩留まりの低下はほとんどなかった。また、実施例1のEL発光パターンを観察したところ、ダークラインは全く発生していなかった。
また、実施例1および比較例1について、閾値電流を測定したところ、比較例1による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が130mA程度であったのに対し、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が65mAであり、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では、比較例1に比べて、閾値電流が非常に小さくなることが確認された。これは、ダークラインの発生が抑制されて、面内で均一に発光することでゲインが大きくなったためとも考えられる。
さらに、実施例1と同様の基板を用いて、同様の窒化物半導体層を形成し、電流狭窄構造を形成しないでLED素子を作製した。そして、作製したLED素子を駆動電流100mAで駆動させたところ、200時間の駆動後もEL発光パターンにダークラインの発生が見られなかった。これは、基板に掘り込み領域を形成したことで、活性層の歪みが有効に緩和されているためであると考えられる。
なお、比較例1では、70〜90本/cm2程度のクラックが発生していた。これに対し、実施例1では、クラックの発生は認められず、クラックの発生が大幅に低減していた。
実施例2による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が4度、c軸方向のオフ角度が+1度であるn型GaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例2では、障壁層を、AlsIntGauN(s=0.01,t=0.03,u=0.96)から構成した。実施例2の障壁層以外の構成は、上記第1実施形態(実施例1)と同様である。この実施例2においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。
さらに、上記実施例2の構成において、AlsIntGauN(s+t+u=1)からなる障壁層のAl組成比sを、0<s≦0.08の範囲、In組成比tを、0<t≦0.10の範囲とした場合でも、ほぼ同じ効果が得られた。
なお、障壁層をAlsIntGauN(s+t+u=1)から構成する場合は、In組成よりAl組成が小さいほうが好ましい。長波長領域の発光波長を実現するために、活性層を900℃以下、通常700℃〜800℃程度の低温で成膜しなければならないため、Inを入れることで、低温成長において結晶性が向上するのではと考えている。また、障壁層を、Inを含むAlInGaN層にすることで、屈折率をAlGaN層に比べ大きくすることができるので、光閉じ込めを効率的に行うことができる。
実施例3による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が−1.1度であるGaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例3では、第1障壁層をAlsIntGauN(s=0.01,t=0,u=0.98)から構成し、第2障壁層および第3障壁層を、AlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した。すなわち、実施例3では、第1障壁層をAlGaNから構成し、第2および第3障壁層を、第1障壁層とは異なるAlInGaNからそれぞれ構成した。実施例3の障壁層以外の構成は、上記第1実施形態(実施例1)と同様である。また、実施例3においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例3のように、第1障壁層と第2および第3障壁層との組成が異なっていてもよいし、全ての障壁層のAl組成が異なっていてもよい。
また、上記実施例3の構成において、AlsIntGauNからなる障壁層のAl組成比sを、0<s≦0.08の範囲、In組成比tを、0<t≦0.10の範囲とした場合でも、ほぼ同じ効果が得られた。
なお、障壁層にAlsIntGauN(s+t+u=1)を用いる場合には、In組成よりAl組成が大きい方が好ましい。このように構成することにより、Alを含むことによる、ダークラインの発生抑制効果を高めることができる。
実施例4による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が+2度であるn型GaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。すなわち、実施例4では、障壁層をAlInGaNから構成した。ただし、実施例1では、3つの障壁層(第1障壁層、第2障壁層および第3障壁層)のAl組成比およびIn組成比を同じに構成しているのに対し、この実施例4では、異なるAl組成比およびIn組成比とした。具体的には、第1障壁層のAl組成比を2%、In組成比を5%、第2および第3障壁層のAl組成比を0.08%、In組成比を4%とした。この実施例4においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例4のように、第1障壁層のAl組成比が、他の障壁層のAl組成比より高い場合においても、同様の効果が得られた。
(第2実施形態)
この第2実施形態では、m面を成長主面とするGaN基板を用いて窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子が形成されている。また、GaN基板の成長主面には、上記第1実施形態と同様の凹部(掘り込み領域)が形成されている。さらに、活性層の障壁層は、AlとInとを含む窒化物半導体であるAlInGaNから構成されている。第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、上記のように、障壁層をAlInGaNから構成することによって、ダークラインの発生を抑制することができる。また、障壁層をGaNやInGaNから構成した場合に比べて、界面の急峻性を向上させることができるので、X線回折測定によるサテライトピークを明瞭化することができる。
また、第2実施形態では、ダークラインの発生を抑制することによって、発光効率の低下を抑制することができるので、素子特性および信頼性を向上させることができる。なお、ダークラインの発生を抑制することによって、均一発光の発光パターンを得ることができるので、ゲインを高めることもできる。
さらに、第2実施形態では、上記第1実施形態と同様、GaN基板に凹部(掘り込み領域)を形成することによって、非常に高いクラック抑制効果を得ることができるので、窒化物半導体層にクラックが発生するのを効果的に抑制することができる。
なお、m面を成長主面とするGaN基板を用いた場合には、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いた場合に比べて、層表面の平坦性は劣るものの、発光効率を十分に向上させることができる。このため、十分に使用可能な発光効率を得ることができる。また、障壁層にAlInGaNを用いることによって、井戸層に取り込まれるInの効率を非常に良好にすることができる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができる。これにより、取り込み効率を向上させることができるので、有効に長波長化を図ることができる。
(第3実施形態)
図39は、本発明の第3実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子を説明するための断面図である。図39は、第3実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子に用いられる基板の一部の断面を示している。次に、図1、図7および図39を参照して、本発明の第3実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子について説明する。なお、第3実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、窒化物半導体レーザ素子に適用した例について説明する。
この第3実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子では、上記した第1実施形態の構成に加えて、窒化物半導体の結晶成長を抑制する成長抑制膜をさらに備えている。具体的には、第3実施形態では、図39に示すように、n型GaN基板10の掘り込み領域3(凹部2の内側の領域)に、窒化物膜であるAlN膜からなる成長抑制膜160がさらに形成されている。この成長抑制膜160は、凹部2の底面部2aおよび側面部2bを覆うように形成されている。また、上記成長抑制膜160は、凹部2(掘り込み領域3)内を埋め込まない厚みとなっている。
さらに、上記成長抑制膜160は、側面部2bに形成された部分の厚みt2が底面部2aに形成された部分の厚みt1よりも小さくなるように形成されている。具体的には、上記成長抑制膜160は、凹部2の底面部2aに形成された部分の厚みt1が約100nmに形成されているとともに、凹部2の側面部2bに形成された部分の厚みt2が約80nmに形成されている。このような構成により、成長抑制膜160の剥がれなどの不良を効果的に抑制することが可能となる。
なお、成長抑制膜160の厚みt1は、凹部2の深さfの半分以下であるのが好ましい。また、成長抑制膜160の厚みt2は、凹部2の開口幅gの半分以下であるのが好ましい。このように構成されていれば、凹部2内が成長抑制膜で埋め込まれてしまうのを抑制することが可能となる。
また、第3実施形態では、上記成長抑制膜160は、凹部2に沿って延びるように(c軸[0001]方向に延びるように)形成されている。
第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第3実施形態では、上記のように、n型GaN基板10の掘り込み領域3(凹部2の内側の領域)に、窒化物半導体の結晶成長を抑制する成長抑制膜160を形成することによって、窒化物半導体層20(図1および図7参照)の成膜時に、凹部2(掘り込み領域3)内が窒化物半導体層20(窒化物半導体層20を構成する半導体層)で埋まってしまうのを確実に抑制することができる。このため、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20(窒化物半導体層20を構成する各層)の表面に窪みが形成された状態により容易にすることができる。これにより、n型GaN基板10と窒化物半導体層20との間の格子定数差や熱膨張係数差などが大きくなり、窒化物半導体層20に歪みが生じた場合でも、非掘り込み領域4上に形成される窒化物半導体層20の歪みを、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20の表面に形成された上記窪み部分で緩和することができる。
特に、窒化物半導体の層(たとえば、n型クラッド層)をより厚く成膜する必要がある場合には、凹部2(掘り込み領域3)が埋め込まれ易くなるため、このような場合には、上記のような成長抑制膜160を凹部2(掘り込み領域3)内に形成しておくことは非常に有効である。凹部2(掘り込み領域3)内が完全に埋まりきってしまうと(窪みが形成されないと)、歪みを緩和することが困難となり、クラックの抑制効果が低減するためである。
また、第3実施形態では、成長抑制膜160を、凹部2(掘り込み領域3)内を埋め込まない厚みに形成することによって、容易に、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層20(窒化物半導体層20を構成する各層)の表面に窪みが形成された状態にすることができる。
また、第3実施形態では、成長抑制膜160を、アルミニウムの窒化物膜であるAlN膜から構成することによって、より高いクラック抑制効果を得ることができる。また、AlNは、窒化物半導体と同様の結晶構造をとることができるため、成長抑制膜160と成長抑制膜160がないところとで、結晶構造を連続的にすることができる。このため、AlNは成長抑制膜の材料として好適であるといえる。
また、a軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするn型GaN基板10に凹部2(掘り込み領域3)を形成し、その凹部2(掘り込み領域3)に成長抑制膜160を形成した場合、層厚傾斜領域5(図7参照)の幅を狭くすることができる。この場合、発光部形成領域6(図7参照)を広くすることができるため、1枚の窒化物半導体ウェハから取れるチップ数を多くとりたい場合などに好ましい。
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
図40および図41は、本発明の第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。次に、図20〜図23、図40および図41を参照して、本発明の第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法について説明する。なお、第3実施形態における成長抑制膜160の形成工程以外の工程は、上記第1実施形態と同様であるため、以下、成長抑制膜160の形成工程についてのみ説明する。
まず、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするn型GaN基板を準備し、図20〜図23に示した第1実施形態と同様の方法により、n型GaN基板に凹部2を形成する。
次に、図40に示すように、ECR(Electron Cyclotron Resonance)装置を用いたスパッタ法により、成長抑制膜としてのAlN膜160aを約100nmの厚みで全面に形成する。このとき、スパッタ条件などを調節することにより、凹部2の側面部2bに形成されるAlN膜160aの厚みが約80nmとなるようにAlN膜160aを形成する。
そして、図41に示すように、HF(フッ化水素)などのエッチャントを用いて、SiO2層420(図40参照)を除去する。これにより、リフトオフによって、凹部2の側面部2bおよび底面部2aにAlN膜からなる上記成長抑制膜160が形成される。
図42は、第3実施形態の第1変形例による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子を説明するための断面図である。図24および図42を参照して、第3実施形態の第1変形例では、成長抑制膜の形状が異なる場合について説明する。
この第3実施形態の第1変形例では、図42に示すように、AlN膜からなる成長抑制膜161が凹部2内における成長主面10aより低い領域(位置)に形成されている。この成長抑制膜160は、凹部2の側面部2bの一部と底面部2aとに、断面略コの字状(略凹状)に形成されている。
また、上記成長抑制膜161は、凹部2の開口幅gよりも小さい所定の幅D1を有しており、上記第3実施形態と同様、凹部2に沿って延びるように(c軸[0001]方向に延びるように)形成されている。
また、第3実施形態の第1変形例では、成長主面10a(非掘り込み領域4の表面)から成長抑制膜161までの距離t3が、たとえば、約1.5μmとなるように設定されている。なお、この距離t3が小さくなり過ぎると、成長抑制膜161の形成が困難になるため、上記距離t3は、0.5μm以上に設定されているのが好ましい。
第3実施形態の第1変形例のその他の構成は、上記第3実施形態と同様である。また、第3実施形態の第1変形例の効果は、上記第3実施形態と同様である。
なお、上記した成長抑制膜161は、たとえば、以下のようにして形成することができる。
まず、上記第1実施形態と同様の方法を用いて、基板に凹部(掘り込み領域)を形成することにより、図24に示したような、凹部2(掘り込み領域)が形成されたn型GaN基板10を準備する。次に、このn型GaN基板10の成長主面10aの全面にレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィ技術を用いて、凹部2の開口幅g(図42参照)より狭い範囲のレジストを選択的に除去する。これにより、レジストパターンとしての開口部が、凹部2の側面部2bの一部および凹部2の底面部2aを露出させるように形成される。
続いて、ECRスパッタ装置を用いたスパッタ法により、成長抑制膜としてのAlN膜を全面に形成した後、レジスト剥離液や有機溶剤(たとえば、アセトン、エタノールなど)を用いてレジストを除去する。これにより、リフトオフによって、図42に示したような成長抑制膜161が形成される。
図43は、第3実施形態の第2変形例による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子を説明するための断面図である。図43を参照して、第3実施形態の第2変形例では、成長抑制膜の形状が異なる他の例について説明する。
この第3実施形態の第2変形例では、図43に示すように、AlN膜からなる成長抑制膜162が、凹部2(掘り込み領域3)内のみならず、非掘り込み領域4の一部にも形成されている。
また、上記成長抑制膜162は、凹部2の開口幅gよりも大きい所定の幅D2を有しており、上記第3実施形態と同様、凹部2に沿って延びるように(c軸[0001]方向に延びるように)形成されている。
第3実施形態の第2変形例のその他の構成は、上記第3実施形態と同様である。また、第3実施形態の第2変形例の効果は、上記第3実施形態と同様である。
なお、上記した成長抑制膜162は、たとえば、上記第1変形例の製造方法において、レジストパターンを変更することにより、形成することができる。具体的には、フォトリソグラフィ技術を用いて、凹部2の開口幅gより広い範囲のレジストを選択的に除去することにより、凹部2(掘り込み領域3)と非掘り込み領域4の一部とを露出させるように、レジストパターンとしての開口部を形成する。その後、上記第1変形例と同様の方法を用いることにより、図43に示したような成長抑制膜162が形成される。
(第4実施形態)
この第4実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子では、上記第1〜第3実施形態とは異なり、窒化物半導体基板上に、一度、窒化物半導体の層を成長させた後に、凹部(掘り込み領域)が形成されている。そして、凹部(掘り込み領域)が形成された窒化物半導体基板上に、さらに、窒化物半導体層が形成(再成長)されている。なお、凹部(掘り込み領域)を形成する前の基板(窒化物半導体層が成膜された基板)を、ここでは「テンプレート基板」と呼ぶこととする。
第4実施形態の具体的な構成は、上記第1実施形態と同様のn型GaN基板上に、約0.5μmの厚みを有するn型Al0.02Ga0.98Nからなる第1AlGaN層が形成されている。この第1AlGaN層は、凹部(掘り込み領域)が形成される前に成膜されている。そして、n型GaN基板上に第1AlGaN層が成膜されることによって、テンプレート基板が形成されている。
このテンプレート基板の所定領域には、上記第1実施形態と同様の凹部(掘り込み領域)が形成されている。また、凹部(掘り込み領域)が形成されたテンプレート基板上には、窒化物半導体各層が積層されている。そして、テンプレート基板上に、上記第1および第2実施形態と同様の素子構造が形成されている。なお、テンプレート基板上には、第2実施形態と同様の成長抑制膜が形成されていてもよい。
ここで、層厚傾斜領域の幅は、上述したように、a軸方向のオフ角度によって決まるが、a軸方向のオフ角度以外に、窒化物半導体層の層厚によっても、層厚傾斜領域の幅が変化することが分かった。具体的には、基板上に積層された窒化物半導体層の全層厚が大きくなればなる程、層厚傾斜領域の幅が広くなる傾向がある。より具体的には、層厚が大きくなるに従い、凹部(掘り込み領域)に接する側から、層厚傾斜領域の幅が徐々に広がっていく。そのため、厚膜の窒化物半導体層を形成する場合には、層厚傾斜領域の幅が広がるため、発光部形成領域が狭くなり好ましくない場合がある。
その一方、第4実施形態では、上記のように構成することによって、層厚傾斜領域の幅が広がるのを抑制することができる。すなわち、層厚傾斜領域は、凹部(掘り込み領域)を形成した後に成膜した窒化物半導体層から形成されるため、凹部(掘り込み領域)を形成する前に、窒化物半導体層を成膜しておくことによって、凹部(掘り込み領域)を形成した後に成膜する窒化物半導体各層の全層厚を小さくすることができる。これにより、層厚傾斜領域の幅を狭くすることができる。
また、第4実施形態では、第1AlGaN層を形成した後、凹部(掘り込み領域)を形成することによって、より高いAl組成を有する窒化物半導体層を成膜する場合でも、より効果的に歪みを緩和することができる。このため、より高いクラック抑制効果を得ることができる。
なお、第4実施形態のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
図44〜図46は、本発明の第4実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。なお、図46は、凹部(掘り込み領域)が形成されていない部分の断面を示している。次に、図44〜図46を参照して、本発明の第4実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法について説明する。
まず、図44に示すように、MOCVD法により、第1実施形態と同様のn型GaN基板10を用いて、その成長主面10a上に、n型Al0.02Ga0.98Nからなる第1AlGaN層21aを、クラックが発生しない程度の厚み(たとえば、約0.5μm)で成長させる。これにより、テンプレート基板が形成される。この段階では、n型GaN基板10に凹部(掘り込み領域)が形成されていないため、第1AlGaN層21aには、層厚傾斜領域は形成されない。
次に、MOCVD装置からテンプレート基板を一度取り出す。そして、図45に示すように、上記第1実施形態と同様の方法を用いて、テンプレート基板に凹部(掘り込み領域)2を形成する。このとき、n型GaN基板10との格子不整合などに起因して生じた第1AlGaN層21aの歪みが、凹部2の形成によって緩和される。なお、凹部2を形成した後に、テンプレート基板上に成長抑制膜を形成してもよい。
その後、凹部2が形成されたn型GaN基板10(テンプレート基板)を、もう一度、MOCVD装置に導入し、図46に示すように、第1AlGaN層21a上に、約1.7μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる第2AlGaN層21bを成長させる。これにより、第1AlGaN層21aと第2AlGaN層21bとによって、約2.2μm(=0.5μm+1.7μm)の厚みを有するn型クラッド層121が形成される。
ここで、第4実施形態では、厚みの大きい第2AlGaN層21bを、第1AlGaN層21a上に成長させることによって、n型GaN基板10上に直接成長させる場合に比べて、格子不整合などに起因する歪みの発生が抑制される。これにより、さらに高いAl組成の窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層)を、これまでよりさらに厚く形成することが可能となる。
続いて、n型クラッド層121(第2AlGaN層21b)上に、MOCVD法を用いて、上記第1実施形態と同様の窒化物半導体各層22〜27を成長させる。このとき、凹部2を形成した後に成長させた窒化物半導体層から(第2AlGaN層21bから)層厚傾斜領域が形成される。このため、凹部2を形成する前に、窒化物半導体層(ここでは、第1AlGaN層21a)を形成しておくことによって、凹部2を形成した後に成長させる窒化物半導体各層の全層厚を小さくすることが可能となる。これにより、層厚傾斜領域の幅が狭く形成される。
その後、上記第1実施形態と同様の工程を経て、第4実施形態による窒化物半導体レーザ素子が製造される。
なお、テンプレート基板の最表面の層がAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)であった場合、MOCVD装置に再度導入した後、再成長を行うために1100℃程度まで昇温すると、Al以外のGaやInなどの原子が蒸発し、表面にAlリッチな高抵抗層が形成されることがある。このため、再成長させる窒化物半導体層は、700℃〜950℃の範囲の成長温度で成膜するのが好ましい。この成長温度範囲であれば、Alリッチの高抵抗層が形成されることなく、再成長させることができる。
さらに、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた場合、上記のような700℃〜950℃の範囲の低温成長においても、非常に結晶性がよく、表面の平坦性も高い膜が得られることが分かった。このため、このような観点からも、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて再成長を行うことは好ましい。また、Alリッチの高抵抗層の発生を抑制するためには、再成長を開始する温度が700℃〜950℃の範囲であればよく、成長が開始した時点で、最適な温度まで昇温しながら成長させてもよい。
また、このAlリッチの高抵抗層の形成抑制に関して、再成長を行う前の窒化物半導体層の表面をGaN層にすることで、このような現象を抑制することが可能である。そのため、高抵抗層の形成を抑制するという観点からは、テンプレート基板の最表面の層をGaN層とするのが好ましい。
なお、凹部(掘り込み領域)を形成する前に成膜する窒化物半導体層は、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる半導体層であればよい。また、10%以下であれば、酸素を含んでいてもよい。たとえば、上記窒化物半導体層として、AlONなどの酸窒化物膜であってもよい。
また、たとえば、基板に凹部(掘り込み領域)を形成する前に、MOCVD装置を用いて、n型GaN層、n型Al0.062Ga0.938Nからなる第1クラッド層を順次形成することによってテンプレート基板を形成してもよい。形成したテンプレート基板は、MOCVD装置から一度取り出し、凹部(掘り込み領域)を形成した後に、再度、MOCVD装置に導入して、窒化物半導体各層を再成長させることができる。この場合も、上記と同様、層厚傾斜領域の幅が広がるのを抑制することができる。
(第5実施形態)
図47は、本発明の第5実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子を説明するための断面図である。次に、図47を参照して、この第5実施形態では、実質的にオフ角度が設けられていない基板を用いて、層厚傾斜領域を形成する場合について説明する。なお、第5実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、窒化物半導体レーザ素子に適用した例について説明する。
この第5実施形態による窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子は、図47に示すように、m面を成長主面とするn型GaN基板510を用いて、窒化物半導体ウェハおよび窒化物半導体レーザ素子が形成されている。ただし、このn型GaN基板510には、上記第1、第3および第4実施形態とは異なり、実質的にオフ角度が設けられていない。なお、n型GaN基板510は、本発明の「窒化物半導体基板」の一例である。
また、第5実施形態では、n型GaN基板510の上面上に、窒化物半導体の結晶成長を抑制する成長抑制膜162が形成されている。具体的には、AlN膜からなる成長抑制膜162が、凹部2(掘り込み領域3)内のみならず、非掘り込み領域4の一部にも形成されている。すなわち、この第5実施形態では、上記第2実施形態の第2変形例と同様の成長抑制膜162が、n型GaN基板510上に形成されている。そして、この成長抑制膜162によって、窒化物半導体層20の成長抑制膜162上の部分に、層厚傾斜領域505が形成されている。
なお、第5実施形態では、成長抑制膜162が、凹部2(掘り込み領域3)に対して両側の非掘り込み領域4にかかるように形成されている。このため、層厚傾斜領域505は、凹部2(掘り込み領域3)の両側にそれぞれ形成されている。この層厚傾斜領域505は、上記第1および第2実施形態における層厚傾斜領域と同様、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少している。そのため、この場合も、高いクラック抑制効果が得られる。
第5実施形態のその他の構成は、上記第1〜第3実施形態と同様である。なお、上記第4実施形態の構成を第5実施形態に適用することもできる。
第5実施形態では、上記のように、成長抑制膜162をn型GaN基板510上に形成することによって、a軸方向にオフ角度を有さないm面窒化物半導体基板を用いた場合でも、窒化物半導体層20の一部に層厚傾斜領域505を形成することができる。これにより、上記第1実施形態と同様、高いクラック抑制効果を得ることができる。
なお、上記成長抑制膜として酸化物膜を形成した場合、酸化物膜上には、ほとんどエピタキシャル成長しないため、綺麗な層厚傾斜領域が形成され難い。このため、この場合の成長抑制膜としては、アルミニウムの窒化物膜、または、アルミニウムの酸窒化物膜が好ましい。このような材料を用いて成長抑制膜を形成することにより、成長抑制膜上でもエピタキシャル成長をさせることが可能となり、綺麗な層厚傾斜領域を容易に形成することができる。
第5実施形態のその他の効果は、上記第1〜第3実施形態と同様である。
(第6実施形態)
図48は、本発明の第6実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図6および図48を参照して、本発明の第6実施形態による発光ダイオード素子(LED;Light Emitting Diode)について説明する。なお、第6実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、発光ダイオード素子に適用した例について説明する。
この第6実施形態では、上記第1および第2実施形態と同様のn型GaN基板10上に、同様の窒化物半導体各層が形成されることによって発光ダイオード素子が構成されている。ただし、第6実施形態では、上記第1および第2実施形態とは異なり、n型ガイド層22(図6参照)およびp型ガイド層25(図6参照)が形成されない構成となっている。
具体的には、図48に示すように、n型GaN基板10の成長主面10a上に、n型クラッド層21、活性層23、キャリアブロック層24、p型クラッド層26およびp型コンタクト層27が順次形成されている。p型コンタクト層27上には、ITO(Indium Tin Oxide)などの酸化物系透明導電膜からなるp側電極131が形成されている。また、n型GaN基板10の裏面上には、n側電極32が形成されている。
また、第6実施形態では、活性層23の障壁層は、上記第1〜第4実施形態と同様、AlとInとを含む窒化物半導体であるAlInGaNから構成されている。
第6実施形態では、上記のように、障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体から構成することによって、ダークラインの発生を抑制することができる。これにより、発光効率を向上させることができる。
なお、発光ダイオード素子の場合、光閉じ込めに必要なAlGaNクラッド層が必要ないため、クラック発生の可能性は低くなる。しかしながら、障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体から構成した場合には、ダークラインの発生を抑制することができるので、好ましい。また、基板に掘り込み領域を形成した場合には、障壁層にAlとInとを含む窒化物半導体層を用いることによって生じた活性層の歪みを緩和できるため、ダークラインが発生する、または拡大することを有効に抑えることができる。
また、第6実施形態では、上記のように構成することによって、層表面の平坦性および結晶性を向上させることができるので、これによっても、発光効率を向上させることができる。
なお、第6実施形態では、障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体から構成することによって、井戸層の層数を増やした場合でも、発光効率の低下を抑制することができる。このため、井戸層の層数を増やすことによって、容易に発光効率を向上させることができる。
また、障壁層をAlInGaNから構成した場合には、上述したように、井戸層に取り込まれるInの効率を非常に良好にすることができる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができるので、取り込み効率を向上させることができる。これにより、より有効に長波長化を図ることができる。また、この場合には、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、より容易に、井戸層の多層化を図ることができる。
さらに、障壁層をAlInGaNから構成することによって、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、結晶歪を小さくすることができる。すなわち、InGaNからなる井戸層とAlInGaNからなる障壁層とを交互に積層することによって、InGaNからなる井戸層とAlGaNからなる障壁層とを交互に積層した場合に比べて、格子定数差から生じる結晶歪みを小さくすることができる。一般的に、発光ダイオード素子では、活性層を、2層以上の比較的井戸層の層数が多い量子井戸構造に構成する場合がある。このため、結晶歪の観点から考えた場合、障壁層をAlGaNから構成するよりも、障壁層をAlInGaNから構成する方が、利点がある。
第6実施形態のその他の効果は、上記した第1および第2実施形態の構成を発光ダイオード素子に適用した場合の効果と同様である。
この実施例5では、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が+0.5度であるn型GaN基板を用いて、LEDを作製した。この実施例5では、基板の成長主面上に、n型Al0.01Ga0.99N層を約1μmの層厚で成膜した後、Al0.01In0.01Ga0.98N(層厚:約15nm)/In0.25Ga0.75N(層厚:約3nm)の4QW活性層を成膜した。次に、4QW活性層上に、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層を約20nmの層厚で成膜した。そして、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層上に、約0.2μmの層厚でp型GaNコンタクト層を成膜した。その後、p型GaNコンタクト層上に、酸化物系透明導電膜であるITOをEB(Electron Beam)蒸着機により約50nmの層厚で成膜することにより、ITOからなるp側電極を形成した。このように構成された実施例5においても、ダークラインの発生抑制効果、発光効率の改善効果および輝点状発光の抑制効果が得られた。
なお、上記酸化物系透明導電膜として、酸化インジウム系のITO透明導電膜以外に、In2O3−ZnO系透明導電膜、酸化亜鉛が主原料のZnO系透明導電膜、酸化スズ系のSnO2系透明導電膜などを用いてもよい。これらの透明導電膜を用いることで、光取り出し効率を格段に向上させることができる。また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する基板を用いることで、表面モフォロジーの改善したp型層上に形成することができるので、低いコンタクト抵抗を得ることが出来、また、輝点状発光が抑制されて均一発光、均一注入できることで、発光効率の向上が可能となり、上記基板上に形成した窒化物半導体層のコンタクト電極に用いることは、非常にメリットが大きく好ましい。電極アニール温度が低温で可能な、ITO電極は、活性層に熱ダメージを与えにくいという観点で特に好ましい。実施例5では、アニール処理を600℃で行っている。
酸化物系透明導電膜は、EB蒸着装置や、スパッタ装置などにより、非晶質(アモルファス)状態でp型コンタクト層27上に形成し、その後、400℃〜700℃程度の熱アニールによって結晶化させることで膜の抵抗を低下させることにより、さらなる低電圧化を行うことがより好ましい。このとき、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いることにより、非常に平坦性の高いコンタクト層を形成できるため、酸化物系透明導電膜とp型コンタクト層27との間のコンタクト抵抗を下げることができるため、より好ましい。
この実施例6では、実施例5と同様の基板を用いて、実施例5とほぼ同じ構造のLEDを作製した。ただし、実施例6では、AlsIntGauN(s=0.01,t=0.03,u=0.96)障壁層を用いている。この場合も上記と同様の効果が得られた。また、障壁層がAlを含み、更にInを含むことで、低温での成長が可能となるため、好ましい。
この実施例7では、実施例5と同様の基板を用いて、上記第6実施形態と同様のLEDを作製した。ただし、実施例7では、障壁層をAlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成している。実施例7のLEDは、520nmの発光波長で発光し、その発光パターンにはダークラインは観察されなかった。
また、障壁層をAlsIntGauNから構成した場合、Al組成比sが0<s≦0.08の範囲、In組成比tが0<t≦0.10の範囲で、ほぼ同様の効果が得られた。
さらに、井戸層の層数を、2層から8層まで1層ずつ増やした複数の素子を作製し、その発光効率を測定したところ、障壁層がGaNやInGaNから構成されている素子では、井戸層の層数が増加するのにともない、発光効率が大幅に低減した。これに対し、障壁層がAlを含む窒化物半導体(たとえば、AlInGaN)から構成されている素子では、発光効率の低減は見られなかった。また、井戸層の層数が3層以上では、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、障壁層をAlInGaNから構成することで、発光効率が約1.2倍向上した。
(第7実施形態)
図49は、本発明の第7実施形態による発光ダイオード素子を模式的に示した断面図である。次に、図49を参照して、第7実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、発光ダイオード素子に適用した例について説明する。なお、第7実施形態では、本発明の窒化物半導体素子を、発光ダイオード素子に適用した例について説明する。
この第7実施形態による発光ダイオード素子は、上記第1実施形態と同様のn型GaN基板10上に、同様の窒化物半導体層20が積層されることによって形成されている。具体的には、上記発光ダイオード素子は、図49に示すように、n型GaN基板10の成長主面10a上に、n型窒化物半導体層20a、活性層23およびp型窒化物半導体層20bを含む窒化物半導体層20が形成された構造を有している。上記n型窒化物半導体層20aは、n型クラッド層から構成されており、上記p型窒化物半導体層20bは、キャリアブロック層、p型クラッド層およびp型コンタクト層を含んで構成されている。ただし、レーザ素子のように、光閉じ込めを行う必要がないため、n型クラッド層、p型クラッド層のAlGaN層のAl組成はレーザ素子のように高い必要はなく、0%〜2%程度で形成される。
また、第7実施形態による発光ダイオード素子では、n型GaN基板10の所定領域に第1実施形態と同様の凹部2(掘り込み領域3)が形成されている。さらに、第7実施形態では、上記n型GaN基板10の成長主面10a上に窒化物半導体層20が形成されることによって、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層20に、層厚傾斜領域5および発光部形成領域6が形成されている。
ここで、上記層厚傾斜領域5は、発光部形成領域6に比べて輝点状発光の抑制効果は弱いものの、EL発光は生じる。また、層厚傾斜領域5は、発光部形成領域6に比べて、短波長で発光する。このため、第7実施形態による発光ダイオード素子では、発光部形成領域6上および層厚傾斜領域5上の両方に、透明電極からなるp側電極131aおよび131bがそれぞれ形成されている。また、p側電極131aおよび131bは、発光部形成領域6の発光と、層厚傾斜領域5の発光とを独立して制御することができるように、互いに分離して形成されている。
また、n型GaN基板10の裏面上には、共通電極としてのn側電極32が形成されている。
なお、第7実施形態の窒化物半導体ウェハは、上記した第7実施形態による発光ダイオード素子を複数含んで構成されている。
第7実施形態では、上記のように、層厚傾斜領域5および発光部形成領域6の両方に発光領域を形成することによって、一つの素子で、二つ以上の発光ピークをもつ、新たな発光素子(発光ダイオード素子)を得ることができる。
また、第7実施形態では、発光部形成領域6の発光と、層厚傾斜領域5の発光とを独立して制御可能に構成することによって、非常に広い範囲の発光波長で発光させることが可能な、新たな発光素子(発光ダイオード素子)を得ることができる。
第7実施形態のその他の効果は、上記した第1実施形態の構成を発光ダイオード素子に適用した場合の効果と同様である。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第7実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子および発光ダイオード素子などの発光素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体発光素子以外の半導体素子に本発明を適用してもよい。たとえば、電子デバイスなどの窒化物半導体を用いたデバイス(たとえば、パワートランジスタやIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)など)全般に本発明を適用してもよい。この場合、非掘り込み領域上における層厚傾斜領域以外の領域(発光部形成領域に相当する領域)にデバイスを形成すればよい。このように構成することにより、優れた特性を有する電子デバイスを得ることができる。
なお、上記第1〜第5実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、たとえば、発光ダイオード素子に本発明を適用することもできる。
また、上記第1〜第7実施形態では、n型GaN基板の成長主面と接する半導体層を、Alを含む窒化物半導体層(AlGaN層)とした例を示したが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板の成長主面と接する半導体層は、たとえば、GaN層であってもよい。なお、基板の成長主面がm面に対してa軸方向にオフ角度を有する場合には、成長主面と接するGaN層は、その厚みが小さく形成されているのが好ましい。このように、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板上に、成長主面と接するようにGaN層を形成した場合、GaN層の厚みを比較的小さくすることによって、表面モフォロジーが悪化するのを抑制することができる。この場合のGaN層の厚みは、0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。また、GaN層の厚みが0.3μm以下であれば、さらに好ましい。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板上に、GaN層を形成する場合には、基板表面からInを含む窒化物半導体層である井戸層(井戸層が複数形成されている場合には、好ましくは、最も基板側の井戸層)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。また、GaN層のトータル層厚が0.3μm以下であれば、さらに好ましい。なお、この場合においても、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層)が基板の成長主面と接するように形成されているのが好ましい。活性層を形成する時点で表面モフォロジーが悪化していると、井戸層に含まれるInが悪化した表面モフォロジーの影響を受けて、面内で組成分布が大きくなるためである。組成の面内分布が起こると、Inの取り込みが大きい部分は、メタリック化したり、結晶性が著しく低下したりして、発光強度の低下を引き起こす。このためにも、上記条件が好ましい。
また、基板上に積層される層構造に、GaN層を含まず、これらの層構造を、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどのGaNとは異なる組成の半導体層で構成することでも、特性の優れた発光素子または電子デバイスの形成が可能となる。
また、上記第1〜第7実施形態では、障壁層をAlInGaNから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、AlInGaN以外の、たとえば、AlInNなどから障壁層を構成してもよい。なお、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN)から構成することによっても、上記と同様の効果を得ることができる。
また、上記第1〜第7実施形態では、障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体層単から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、障壁層は、AlとInとを含む窒化物半導体からなる層を少なくとも1層含む多層構造(たとえば、InGaNとAlInGaNとの超格子構造)であってもよい。その場合、井戸層と隣接する層がAlとInとを含む窒化物半導体から構成されているのが好ましい。また、多層構造の場合、井戸層に隣接する、AlとInとを含む窒化物半導体により構成される層は、1.0nm以上の厚みに形成されているのが好ましく、3.0nm以上の厚みに形成されていればより好ましい。このような構成は、ダークラインの発生抑制効果や、活性層の熱耐性を向上させるなどの効果、平坦性を向上させる効果をより機能させるために有効である。
また、上記第1〜第7実施形態では、3層の障壁層の全てをAlInGaN層とした例を示したが、本発明はこれに限らず、3層の障壁層の一部の層を、AlInGaN層としてもよい。複数の障壁層のうち、井戸層と接する少なくとも1層がAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成されていれば、発光効率向上の効果は得られる。なお、活性層の井戸層の層数が異なると障壁層の層数も異なるが、この場合でも、少なくとも1層の障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体層から構成することで、上記効果が得られる。上記第1実施形態を例にすると、たとえば、井戸層を形成する前の下地の平坦性を向上させるためには、井戸層を形成する前の下地層である第1障壁層と第2障壁層とをAlとInとを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、AlInGaN層は、InGaN層の蒸発防止層としての役割(活性層を保護する役割)も果たすため、蒸発防止の観点(活性層保護の観点)から、井戸層上に形成される第2障壁層と第3障壁層とをAlとInとを含む窒化物半導体層とすることもできる。さらに、第2障壁層を、第1井戸層と接する側と、第2井戸層と接する側との2層構造として、第2障壁層の第1井戸層と接する側を下部第2障壁層、第2障壁層の第2井戸層と接する側と上部第2障壁層としてもよい。下地の平坦性を向上させるためには、上部第2障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。一方、蒸発防止の観点から、下部第2障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、全ての障壁層を、AlとInとを含む窒化物半導体層としてもよい。
また、上記第1〜第7実施形態において、基板に形成される凹部の開口幅および凹部の深さは、適宜変更することができる。なお、凹部の開口幅は、1μm以上50μm以下であるのが好ましい。凹部の開口幅を1μmより小さくした場合には、クラックの抑制効果などが得られにくくなる。一方、凹部の開口幅を50μmより大きくした場合には、ウェハ面内に占める凹部(掘り込み領域)の比率が大きくなり過ぎてしまう。凹部(掘り込み領域)上にリッジ部を形成することは好ましくないため、この場合には、1枚のウェハからの素子の取れ数が減少する。また、凹部の深さは、0.1μm以上15μm以下であるのが好ましい。凹部の深さを0.1μmより小さくした場合には、凹部がすぐに埋まってしまう。一方、凹部の深さを15μmより大きくした場合には、凹部を形成するための時間が長く掛かってしまう。
さらに、上記第1〜第7実施形態において、凹部の断面形状は、適宜変更することができる。たとえば、図53に示すように、断面形状が矩形状になるように、凹部を形成してもよい。この場合、凹部502のように、開口幅gが深さfより大きくなるように形成してもよいし、凹部512のように、開口幅gと深さfとが略等しくなるように形成してもよい。また、凹部522や凹部532のように、開口幅gより深さfの方が大きくなるように形成してもよい。また、図54に示すように、側面部が傾斜面となるように凹部を形成してもよい。この場合、凹部542のように、断面形状がV字状(逆三角形状)となるように形成してもよい。さらに、凹部552および凹部562のように、断面形状が台形形状となるように形成してもよい。この場合、凹部552のように、開口幅gと深さfとが略等しくなるように形成してもよいし、凹部562のように、開口幅gが深さfより大きくなるように形成してもよい。すなわち、基板に形成する凹部(掘り込み領域)は、凹凸の段差を生じさせるものであればよい。なお、凹部の開口幅と凹部の深さとの関係については、開口幅が深さより大きく形成されているのが好ましい。開口幅が深さ以下の大きさに形成されていた場合、成長抑制膜を形成する際に、凹部の底面部に成膜される膜厚が薄くなることがある。その一方、開口幅を深さより大きく形成することにより、安定した膜厚で成長抑制膜を成膜することができる。
また、上記第1〜第7実施形態では、一定の開口幅を有する凹部を直線状に形成することによって、基板に掘り込み領域を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記以外の形状に凹部を形成することによって基板に掘り込み領域を形成してもよい。たとえば、図55に示すように、ジグザグ状の凹部580や、波状の凹部583を形成することによって、基板に掘り込み領域3を形成してもよいし、開口幅が変動している凹部581および582を形成することによって、基板に掘り込み領域3を形成してもよい。このような掘り込み領域を形成した場合でも、本発明の効果を得ることができる。
また、上記第1〜第7実施形態において、基板上に結晶成長される窒化物半導体各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、たとえば、GaN基板とn型クラッド層との間に、GaNからなるバッファ層などの層を形成してもよい。さらに、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、窒化物半導体素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
また、上記第1〜第7実施形態では、窒化物半導体基板としてのGaN基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、GaN基板以外の窒化物半導体基板を用いてもよい。なお、窒化物半導体基板としては、GaN、AlN、InN、BN、TlNなどの窒化物半導体、または、これらの混晶からなる基板を用いることができる。また、窒化物半導体の基板上または窒化物半導体以外の基板上に、掘り込み領域および非掘り込み領域を有する窒化物半導体の層が形成された基板を用いることもできる。たとえば、GaN基板、サファイア基板またはSiC基板などの下地基板上に窒化物半導体の下地層を形成し、この下地層に凹部を形成することによって得られた基板を用いることもできる。なお、本発明の「窒化物半導体基板」とは、このような基板(テンプレート基板を含む)をも含む概念である。
また、上記第1〜第7実施形態では、複数の凹部を等間隔に形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、隣り合う凹部の間隔が異なる間隔となるように、複数の凹部を形成してもよい。また、1つの基板に、断面形状が異なる凹部を形成するようにしてもよい。
また、上記第1〜第7実施形態では、凹部の周期を約400μmに設定した例を示したが、凹部の周期は、窒化物半導体レーザ素子のチップ幅(素子幅)によって決めることができ、チップ幅(素子幅)を、たとえば、約200μmとする場合には、凹部の周期は、約200μmとすることができる。なお、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)は、1mm以下が好ましく、400μm以下であればより好ましい。このように構成すれば、ウェハ(基板)の一部に異常箇所があって、それが原因となり層厚変動が生じたとしても、凹部上の半導体素子層表面の窪みによって横方向の成長が分断され、異常箇所に起因する層厚変動の拡散が抑制される。また、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)が5μm以下となると、リッジ部の形成が困難になるため、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)は、5μmより大きくするのが好ましい。
また、上記第1〜第7実施形態では、凹部(掘り込み領域)を、平面的に見て、c軸方向と平行方向に延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記凹部(掘り込み領域)は、成長主面の面内において、c軸方向と所定の角度で交差する方向に延びるように形成してもよい。すなわち、基板の凹部(掘り込み領域)は、a軸方向と交差する方向に延びるように形成されていればよい。具体的には、たとえば、c軸方向と±15度以内の角度で交差する方向に延びるように、上記凹部(掘り込み領域)を形成してもよい。また、ストライプ状以外に、たとえば、格子状に凹部(掘り込み領域)を形成してもよい。このように凹部(掘り込み領域)を形成した場合でも、基板の成長主面がa軸方向にオフ角度を有していれば、窒化物半導体層に層厚傾斜領域を容易に形成することができる。なお、上記凹部(掘り込み領域)は、a軸方向と平行方向に延びるストライプ状に形成することもできる。この場合、窒化物半導体層に層厚傾斜領域が形成されなくなるが、層厚傾斜領域がなくても十分に歪みを緩和することができる。あくまで基板に掘り込み領域を形成することで、窒化物半導体層の歪みを緩和でき、層厚傾斜領域はあった方がより好ましいが、なくても、十分にクラックの発生抑制効果および活性層の歪み緩和効果を得ることができる。
また、上記第1〜第7実施形態において、窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード素子)の製造工程で用いるエッチング方法は、気相エッチングであってもよいし、液相エッチングであってもよい。
また、上記第1〜第7実施形態では、窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード素子)に1つの凹部(窪み)を含むように、窒化物半導体ウェハを分割した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード素子)に凹部(窪み)を含まないように、窒化物半導体ウェハを分割してもよい。また、窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード素子)に複数の凹部(窪み)を含むように、窒化物半導体ウェハを分割してもよいし、窒化物半導体レーザ素子に凹部(窪み)の一部を含むように、窒化物半導体ウェハを分割してもよい。より好ましいのは、凹部(窪み)を含むように分割されることにより、凹部(窪み)の全体が素子中に残っているか、凹部(窪み)の一部が素子中に残っている場合である。このように構成した場合でも、素子特性の優れた窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード素子)を歩留まりよく得ることができる。
また、上記第1〜第7実施形態では、層厚傾斜領域の少なくとも一部を含むように、窒化物半導体ウェハを分割した例を示したが、本発明はこれに限らず、層厚傾斜領域を含まないように、窒化物半導体ウェハを分割してもよい。
また、上記第1〜第7実施形態では、活性層の量子井戸構造を、DQW構造に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、DQW構造以外の量子井戸構造に活性層を構成してもよい。たとえば、活性層の量子井戸構造を、SQW(Single Quantum Well)構造に構成してもよい。具体的には、たとえば、図56に示すように、n型ガイド層22(第6および第7実施形態では、n型クラッド層)上に、InGaNからなる1つの井戸層43aと、Al0.005In0.02Ga0.975Nからなる2つの障壁層43bとが交互に積層されたSQW構造を有する活性層43を形成することができる。なお、井戸層43aの厚みは、約3nm〜約4nm、障壁層43bの厚みは、約70nmに構成することができる。また、上記活性層は、SQW構造以外に、MQW構造に構成してもよい。活性層をSQW構造またはMQW構造にした場合でも、ダークラインの発生抑制効果および輝点状発光の抑制効果を得ることができる。また、井戸層が3層以上の多重量子井戸構造の場合には、光閉じ込めを有効に行うことができるため、ゲインを高めることができる。さらに、LEDなどで用いられる、井戸層の層数が比較的多いMQW構造では、障壁層をAlとInとを含む窒化物半導体から構成することで、井戸層との格子歪みを低減できるため、より好ましい。なお、活性層(井戸層、障壁層)の組成、厚み等は適宜変更することができる。
また、活性層を多重量子井戸構造に構成した場合には、第1量子井戸、第2量子井戸・・・それぞれの層厚や組成が全く同一のものである必要はなく、それぞれが異なっていてもよい。その場合、それぞれの量子井戸からの発光波長が異なるが、第1量子井戸と第2量子井戸との関係において、基板に最も近い第1量子井戸の発光波長が最も短く、第2量子井戸の発光波長は、第1量子井戸の発光波長よりも長くなるように構成されているのが好ましい。
また、上記第1〜第7実施形態では、井戸層のIn組成比を、0.2〜0.28に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、井戸層のIn組成比は、0.15以上0.45以下の範囲内で適宜変更することができる。また、井戸層のIn組成比は、0.15より小さい値にしてもよい。また、井戸層には、5%以内であればAlが含まれていてもよい。また、キャリアブロック層には、7%以内程度であればInが含まれていても良い。Inを含むことで、低温にて結晶性の良い膜を形成しやすくなるため好ましく、さらに、Alを含む、または、AlとInとを含む窒化物半導体層で形成された障壁層を含んで構成される活性層への歪を軽減することができるため、好ましい。
また、上記第1〜第7実施形態において、AlsIntGauNから構成される障壁層のAl組成比sは、0<s≦0.08の範囲内で適宜変更することができる。また、障壁層のIn組成比tは、井戸層のIn組成比より小さい範囲内で適宜変更することができる。
また、上記第1〜第7実施形態では、キャリアブロック層と井戸層との間の距離を第3障壁層の厚みと同じにしたが、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)との間に組成の異なる複数の窒化物半導体層を形成してもよい。また、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)の間の一部にMgなどのp型不純物をドーピングし、p型化することも好ましい。なお、上記第1〜第7実施形態では、ノンドープとしている。
また、上記第1〜第7実施形態では、キャリアブロック層を40nm以下の厚みに形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、キャリアブロック層の厚みは40nmより大きくてもよい。また、キャリアブロック層に、3%程度のInが含まれていても、本発明の効果は得られる。また、キャリアブロック層のAl組成比は、駆動電圧低減の目的から、p型クラッド層のAl組成比より高いことが好ましい。
また、上記第1〜第7実施形態では、活性層に注入されたキャリア(電子)がp型半導体層へ流入するのをブロックする層としてキャリアブロック層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体レーザ素子であれば、Al含むクラッド層を上記キャリアをブロックする層として用いることもできる。この場合、クラッド層のAl組成比は、0.08以上であるのが好ましい。
また、上記第1〜第7実施形態では、n型不純物としてSiを用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、n型不純物として、Si以外に、たとえば、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgまたはBeを用いてもよい。なお、n型不純物としては、Si、OおよびClが特に好ましい。
なお、上記第1〜第7実施形態において、エピタキシャル成長法としては、MOCVD法以外に、たとえば、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法や、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
また、上記第1〜第7実施形態において、結晶軸方向([1−100]方向、[11−20]方向および[0001]方向)は、結晶学的に等価な方向であればよい。
また、上記第1、第3、第4、第6および第7実施形態では、a軸方向のオフ角度を0.1度より大きい角度に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、a軸方向のオフ角度は、0.1度以下の角度であってもよい。ただし、輝点状発光の抑制効果や表面モフォロジーなどを考慮すると、a軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度であることが好ましい。
なお、上記第1、第3、第4、第6および第7実施形態において、基板の成長主面は、a軸方向にオフ角度を有していれば、c軸方向にオフ角度を有していなくてもよい。
また、上記第1〜第3および第5〜第7実施形態において、凹部(掘り込み領域)の形成は、上記第4実施形態のように、基板上に一度、GaN、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどの窒化物半導体の層を成長させた後に行ってもよい。すなわち、一度成長を行い、次に凹部(掘り込み領域)を形成した場合であっても、本明細書の内容を適用することができる。
また、上記第1〜第5実施形態では、絶縁層をSiO2から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2以外の絶縁性材料から絶縁層を構成してもよい。たとえば、SiN、Al2O3やZrO2などから絶縁層を構成してもよい。
また、上記第2および第5実施形態では、m面を成長主面とするGaN基板(ジャスト基板)を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、たとえば、m面に対してc軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いてもよい。また、m面に対してa軸方向およびc軸方向のそれぞれにオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いてもよい。すなわち、無極性面を成長主面とする窒化物半導体基板であれば、いずれの基板を用いてもよい。
また、上記第3実施形態では、AlNからなる成長抑制膜を掘り込み領域に形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体の結晶成長を抑制することが可能な材料であれば、AlN以外の材料からなる成長抑制膜を掘り込み領域に形成してもよい。なお、成長抑制膜としては、アルミニウム(Al)の窒化物膜、アルミニウム(Al)の酸窒化物膜、アルミニウム(Al)とガリウム(Ga)の窒化物膜が好ましい。このような材料は、クラックの抑制効果、表面モフォロジーの改善効果、および窒化物半導体層の組成変動の抑制効果の全てにおいて高い効果を得ることができる。また、このような材料は、窒化物半導体と同様の結晶構造をとることができるため、成長抑制膜と成長抑制膜のないところとで、結晶構造が連続的になる。このため、成長抑制膜の材料として好適である。成長抑制膜の材料として次に好ましい材料は、シリコン(Si)の酸化物、窒化物および酸窒化物、アルミニウム(Al)の酸化物、チタン(Ti)の酸化物、ジルコニア(Zr)の酸化物、イットリア(Y)の酸化物、ニオビウム(Nb)の酸化物、ハフニウム(Hf)の酸化物、タンタル(Ta)の酸化物、および上記材料の酸窒化物、もしくは窒化物である。その次に好ましい材料は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの高融点金属である。なお、窒化物半導体の成長抑制効果としては、酸化物膜がもっとも強く、酸窒化物膜、窒化物膜の順に弱くなる。このため、酸化物膜からなる成長抑制膜を凹部内に形成するのがより好ましい。
また、上記第3および第5実施形態では、ECRスパッタ装置を用いたスパッタ法で成長抑制膜を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記以外の方法で成長抑制膜を形成することもできる。たとえば、マグネトロンスパッタ装置を用いたスパッタ法や、EB(Electron Beem)蒸着法、プラズマCVD法などを用いて、成長抑制膜を形成することもできる。
なお、成長抑制膜は、凹部(掘り込み領域)上の窒化物半導体層の表面に窪みを形成することが可能な形状であれば、上記第3実施形態で示した形状以外の形状に形成されていてもよい。
また、上記第5実施形態では、成長抑制膜を、凹部(掘り込み領域)に対して両側の非掘り込み領域にかかるように形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、成長抑制膜は、凹部(掘り込み領域)の片側の非掘り込み領域にのみかかるように形成してもよい。この場合、層厚傾斜領域も、凹部(掘り込み領域)の片側にのみ形成されることになるが、このような場合でも、上記と同様、高いクラック抑制効果を得ることができる。
また、上記第7実施形態では、層厚傾斜領域および発光部形成領域の両方を発光領域とした発光ダイオード素子について示したが、本発明はこれに限らず、層厚傾斜領域および発光部形成領域のいずれか一方のみを発光領域とした発光ダイオード素子としてもよい。なお、発光部形成領域のみを発光領域とした場合には、発光ダイオード素子に層厚傾斜領域を含まないように、窒化物半導体ウェハを分割することもできる。